(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】密封装置及びこれを備えた軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20241205BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20241205BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20241205BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/3256
F16C33/78 D
F16C19/18
(21)【出願番号】P 2021504074
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008633
(87)【国際公開番号】W WO2020179727
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2019039350
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 健太郎
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105786(JP,A)
【文献】特開2018-080756(JP,A)
【文献】特開2008-298106(JP,A)
【文献】特開2005-291485(JP,A)
【文献】特開2018-054095(JP,A)
【文献】特開2017-125617(JP,A)
【文献】特開昭47-012664(JP,A)
【文献】特開2017-187118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材と、該固定側部材に対して相対回転可能に支持される回転側部材との2部材間
に設けられる軸受空間を密封する環状の密封装置であって、
前記固定側部材に取り付けられる芯体と、前記回転側部材に取り付けられるスリンガとを備え、
前記芯体と前記スリンガとは、互いに組み合わせた状態で前記2部材間に装着され、
前記芯体は、前記固定側部材に嵌合される円筒部と、前記芯体に固着されるとともに前記スリンガに摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体とを有し、
前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合される円筒部と、前記スリンガの前記円筒部の軸方向の外側端部から径方向の外側に延びる円板部とを有しており、
前記シールリップのうち、前記組み合わせた状態で前記スリンガの円板部の外側面側から見えない位置にある
最も径方向内側で且つ前記軸受空間に最も近い位置に配された前記シールリップには、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部が設けられ、
前記芯体の前記円筒部の軸方向の外側端部側には、前記連通部の周方向における位置を認識可能なように指標部が設けられて
おり、
前記指標部は、形状的に識別可能に構成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
固定側部材と、該固定側部材に対して相対回転可能に支持される回転側部材との2部材間
に設けられる軸受空間を密封する環状の密封装置であって、
前記固定側部材に取り付けられる芯体と、前記回転側部材に取り付けられるスリンガとを備え、
前記芯体と前記スリンガとは、互いに組み合わせた状態で前記2部材間に装着され、
前記芯体は、前記固定側部材に嵌合される円筒部と、前記芯体に固着されるとともに前記スリンガに摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体とを有し、
前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合される円筒部と、前記スリンガの前記円筒部の軸方向の外側端部から径方向の外側に延びる円板部とを有しており、
前記シールリップのうち、前記組み合わせた状態で前記スリンガの円板部の外側面側から見えない位置にある
最も径方向内側で且つ前記軸受空間に最も近い位置に配された前記シールリップには、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部が設けられ、
前記芯体の前記円筒部の軸方向の外側端部側には、前記連通部の周方向における位置を認識可能なように指標部が設けられて
おり、
前記指標部は、視覚的に識別可能に塗装されて構成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の密封装置において、
前記指標部は、軸方向又は径方向に突出する凸状に形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の密封装置において、
前記指標部は、前記シール体に設けられるとともに、前記固定側部材に係合するように形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
固定側部材と、該固定側部材に対して相対回転可能に支持される回転側部材との間を密封する環状の密封装置であって、
前記固定側部材に取付けられる芯体と、
該芯体に固着されるとともに、前記回転側部材に摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体と、
前記シールリップのうちの少なくとも一つに設けられるとともに、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部と、
前記連通部の周方向における位置を認識可能なように設けられた指標部と、を備え、
前記回転側部材に取り付けられるスリンガをさらに備え、
前記指標部は、前記スリンガに固着された磁気エンコーダに設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
固定側部材と、該固定側部材に対して相対回転可能に支持される回転側部材との間を密封する環状の密封装置であって、
前記固定側部材に取付けられる芯体と、
該芯体に固着されるとともに、前記回転側部材に摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体と、
前記シールリップのうちの少なくとも一つに設けられるとともに、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部と、
前記連通部の周方向における位置を認識可能なように設けられた指標部と、を備え、
前記回転側部材に取り付けられるスリンガをさらに備え、
前記指標部は、前記スリンガに設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の密封装置において、
前記指標部は、前記連通部と周方向において同じ位置になるように設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の密封装置において、
前記指標部は、前記連通部が形成されている位置に対して、周方向に45°より大きく90°未満のずれた位置に設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項9】
相対的に同軸回転する固定側部材及び回転側部材と、これら2部材間に装着される密封装置と、を備えた軸受装置において、
前記密封装置は、前記固定側部材に取り付けられる芯体と、前記回転側部材に取り付けられるスリンガとを備え、
前記芯体と前記スリンガとは、互いに組み合わせた状態で前記2部材間に装着され、
前記芯体は、前記固定側部材に嵌合される円筒部と、前記芯体に固着されるとともに前記スリンガに摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体とを有し、
前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合される円筒部と、前記スリンガの前記円筒部の軸方向の外側端部から径方向の外側に延びる円板部とを有しており、
前記シールリップのうち、前記組み合わせた状態で前記スリンガの円板部の外側面側から見えない位置にある
最も径方向内側で且つ前記2部材間に設けられる軸受空間に最も近い位置に配された前記シールリップには、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部が設けられ、
前記芯体の前記円筒部の軸方向の外側端部側には、前記連通部の周方向における位置を認識可能なように指標部が設けられており、
前記指標部は、形状的に識別可能に構成されており、
前記固定側部材には、前記密封装置が、前記2部材間に装着された状態で、前記連通部の周方向における位置を認識可能な軸受側指標部が設けられていることを特徴とする軸受装置。
【請求項10】
相対的に同軸回転する固定側部材及び回転側部材と、これら2部材間に装着される密封装置と、を備えた軸受装置において、
前記密封装置は、前記固定側部材に取り付けられる芯体と、前記回転側部材に取り付けられるスリンガとを備え、
前記芯体と前記スリンガとは、互いに組み合わせた状態で前記2部材間に装着され、
前記芯体は、前記固定側部材に嵌合される円筒部と、前記芯体に固着されるとともに前記スリンガに摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体とを有し、
前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合される円筒部と、前記スリンガの前記円筒部の軸方向の外側端部から径方向の外側に延びる円板部とを有しており、
前記シールリップのうち、前記組み合わせた状態で前記スリンガの円板部の外側面側から見えない位置にある
最も径方向内側で且つ前記2部材間に設けられる軸受空間に最も近い位置に配された前記シールリップには、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部が設けられ、
前記芯体の前記円筒部の軸方向の外側端部側には、前記連通部の周方向における位置を認識可能なように指標部が設けられており、
前記指標部は、視覚的に識別可能に塗装されて構成されており、
前記固定側部材には、前記密封装置が、前記2部材間に装着された状態で、前記連通部の周方向における位置を認識可能な軸受側指標部が設けられていることを特徴とする軸受装置。
【請求項11】
請求項9
又は10に記載の軸受装置において、
前記固定側部材は、外輪であり、
前記軸受側指標部は、前記外輪の外周に設けられていることを特徴とする軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側部材と、固定側部材に対して回転する回転側部材との間を密封する密封装置及びこれを備えた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車輪支持部の軸受装置としては、相対回転可能に支持された外輪と内輪とで構成されたものが知られており、外輪と内輪との軸方向の端部には、軸受空間への泥水、塵埃等の浸入を防止するため、様々な構成のシールリップを備えた密封装置が装着される。この密封装置は、外輪もしくは内輪が回転すると、シールリップと回転側部材との摩擦エネルギーによって軸受空間内の温度が上昇する。すると、軸受空間内の圧力が上昇して、シールリップと回転側部材との摺接界面から軸受空間内の空気が漏れ出すことがある。その後、車輪が減速或いは停止すると、軸受空間内の温度が低下し、これに伴い、軸受空間内が負圧状態になる。その結果、シールリップが接触する部材に貼り付いて吸着された状態となり、回転トルク上昇の一因になることが問題とされている。そこで下記特許文献1、2には、シールリップが部材に接触した状態で通気する通気部を備えたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】DE102015220367公報
【文献】特開2017-187118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1や上記特許文献2に開示されているような貫通孔、切欠き、突起等で構成された通気部は、密封装置が装着された状態で、例えば泥水等に晒され易い固定側部材の外方空間に近い位置に配置された場合には、通気部を経由し、泥水等が浸入してしまうおそれがある。したがって、特許文献1及び特許文献2の密封装置では、回転トルクの上昇抑制を目的として通気部を設けたことにより、密封性能等の所望するその他の性能が発揮できない場合がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、連通部を設けたうえで、密封性能等、所望するその他性能を発揮し得る密封装置及びこれを備えた軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る密封装置は、固定側部材と、該固定側部材に対して相対回転可能に支持される回転側部材との2部材間に設けられる軸受空間を密封する環状の密封装置であって、前記固定側部材に取り付けられる芯体と、前記回転側部材に取り付けられるスリンガとを備え、前記芯体と前記スリンガとは、互いに組み合わせた状態で前記2部材間に装着され、前記芯体は、前記固定側部材に嵌合される円筒部と、前記芯体に固着されるとともに前記スリンガに摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体とを有し、前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合される円筒部と、前記スリンガの前記円筒部の軸方向の外側端部から径方向の外側に延びる円板部とを有しており、前記シールリップのうち、前記組み合わせた状態で前記スリンガの円板部の外側面側から見えない位置にある最も径方向内側で且つ前記軸受空間に最も近い位置に配された前記シールリップには、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部が設けられ、前記芯体の前記円筒部の軸方向の外側端部側には、前記連通部の周方向における位置を認識可能なように指標部が設けられており、前記指標部は、形状的に識別可能に構成されていることを特徴とする。
また、本発明に係る密封装置は、固定側部材と、該固定側部材に対して相対回転可能に支持される回転側部材との2部材間に設けられる軸受空間を密封する環状の密封装置であって、前記固定側部材に取り付けられる芯体と、前記回転側部材に取り付けられるスリンガとを備え、前記芯体と前記スリンガとは、互いに組み合わせた状態で前記2部材間に装着され、前記芯体は、前記固定側部材に嵌合される円筒部と、前記芯体に固着されるとともに前記スリンガに摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体とを有し、前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合される円筒部と、前記スリンガの前記円筒部の軸方向の外側端部から径方向の外側に延びる円板部とを有しており、前記シールリップのうち、前記組み合わせた状態で前記スリンガの円板部の外側面側から見えない位置にある最も径方向内側で且つ前記軸受空間に最も近い位置に配された前記シールリップには、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部が設けられ、前記芯体の前記円筒部の軸方向の外側端部側には、前記連通部の周方向における位置を認識可能なように指標部が設けられており、前記指標部は、視覚的に識別可能に塗装されて構成されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る軸受装置は、相対的に同軸回転する固定側部材及び回転側部材と、これら2部材間に装着される密封装置と、を備えた軸受装置において、前記密封装置は、前記固定側部材に取り付けられる芯体と、前記回転側部材に取り付けられるスリンガとを備え、前記芯体と前記スリンガとは、互いに組み合わせた状態で前記2部材間に装着され、前記芯体は、前記固定側部材に嵌合される円筒部と、前記芯体に固着されるとともに前記スリンガに摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体とを有し、前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合される円筒部と、前記スリンガの前記円筒部の軸方向の外側端部から径方向の外側に延びる円板部とを有しており、前記シールリップのうち、前記組み合わせた状態で前記スリンガの円板部の外側面側から見えない位置にある最も径方向内側で且つ前記2部材間に設けられる軸受空間に最も近い位置に配された前記シールリップには、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部が設けられ、前記芯体の前記円筒部の軸方向の外側端部側には、前記連通部の周方向における位置を認識可能なように指標部が設けられており、前記指標部は、形状的に識別可能に構成されており、前記固定側部材には、前記密封装置が、前記2部材間に装着された状態で、前記連通部の周方向における位置を認識可能な軸受側指標部が設けられていることを特徴とする。
また、本発明に係る軸受装置は、相対的に同軸回転する固定側部材及び回転側部材と、これら2部材間に装着される密封装置と、を備えた軸受装置において、前記密封装置は、前記固定側部材に取り付けられる芯体と、前記回転側部材に取り付けられるスリンガとを備え、前記芯体と前記スリンガとは、互いに組み合わせた状態で前記2部材間に装着され、前記芯体は、前記固定側部材に嵌合される円筒部と、前記芯体に固着されるとともに前記スリンガに摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体とを有し、前記スリンガは、前記回転側部材に嵌合される円筒部と、前記スリンガの前記円筒部の軸方向の外側端部から径方向の外側に延びる円板部とを有しており、前記シールリップのうち、前記組み合わせた状態で前記スリンガの円板部の外側面側から見えない位置にある最も径方向内側で且つ前記2部材間に設けられる軸受空間に最も近い位置に配された前記シールリップには、当該シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部が設けられ、前記芯体の前記円筒部の軸方向の外側端部側には、前記連通部の周方向における位置を認識可能なように指標部が設けられており、前記指標部は、視覚的に識別可能に塗装されて構成されており、前記固定側部材には、前記密封装置が、前記2部材間に装着された状態で、前記連通部の周方向における位置を認識可能な軸受側指標部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る密封装置によれば、上述の構成としたことで、連通部を設けたうえで、密封性能等、所望するその他性能を発揮し得るように固定側部材と回転側部材との間に密封装置を装着することができる。
【0009】
また本発明に係る軸受装置によれば、上述の構成としたことで、密封装置に連通部を設けたうえで、密封性能等、所望するその他性能を効果的に発揮し得るように固定側部材と回転側部材との間に密封装置を装着することができる。また、固定側部材を機械装置に固定する際に、密封装置が固定側部材と回転側部材との間に装着されていることで密封装置に設けられた指標部を確認できなくとも、固定側部材に設けられた軸受側指標部を目安に指標部の位置を推定することができる。したがって、軸受側指標部を確認することで、機械装置に対して、周方向における所望の位置に密封装置の連通部を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る密封装置が適用される軸受装置の一例を示す模式的概略縦断面図である。
【
図2】(a)及び(b)は本発明の第1実施形態に係る密封装置の一例を示す模式的概略断面図である。(a)は
図1のX1部の拡大図であり
図3(b)の矢印Aで示す位置の断面図、(b)は
図1のX2部の拡大図であり
図3(b)の矢印Bで示す位置の断面図である。
【
図3】(a)は同密封装置を
図2(a)に示すZ1方向から見た模式的概略平面図である。(b)は同密封装置を
図2(a)に示すZ2方向から見た模式的概略側面図である。
【
図4】(a)及び(b)は同密封装置の変形例を示す図である。(a)は
図5(a)の矢印Cで示す位置の断面図に相当し、(b)は
図5(a)の矢印Dで示す位置の断面図に相当する図である。
【
図5】(a)は、同密封装置を
図4(a)に示すZ2方向から見た模式的概略側面図であり、(b)及び(c)はその変形例を示す図である。
【
図6】(a)及び(b)は本発明の第2実施形態に係る密封装置の一例を示す模式的概略断面図である。(a)は
図1のX1部の拡大図に相当する図であり、(b)は
図1のX2部の拡大図に相当する図である。
【
図7】(a)及び(b)は本発明の第3実施形態に係る密封装置の一例を示す模式的概略断面図である。(a)は
図1のY1部の拡大図であり、(b)は
図1のY2部の拡大図である。
【
図8】(a)は
図4(a)に示す密封装置のさらなる変形例を示す部分拡大図であり、(b)は、
図8(a)のE方向から見た模式的概略側面図である。
【
図9】(a)は、本発明の他の実施形態に係る軸受装置の一例を示す模式的概略縦断面図、(b)は同軸受装置の
図3(b)に相当する図に外輪と軸受側指標部を加えた説明図である。
【
図10】(a)及び(b)は、それぞれ同軸受装置の異なる変形例を示す模式的概略縦断面図である。
【0011】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図には、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本発明に係る密封装置10,11は、固定側部材2と、固定側部材2に対して相対回転可能に支持される回転側部材5との間を密封する環状の密封装置10,11である。密封装置10,11は、固定側部材2に取付けられる芯体16と、芯体16に固着されるとともに、回転側部材5に摺接又は近接する複数のシールリップを有するシール体17,19と、を備えている。また、密封装置10、11は、複数のシールリップの少なくとも一つに設けられるとともに、シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成された連通部20と、連通部20の周方向における位置を認識可能なように設けられた指標部13と、を備えている。以下、詳しく説明する。
【0012】
<第1実施形態>
第1実施形態について、まず
図1~
図3を参照しながら説明する。
図1には、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受装置1を示す。この軸受装置1は、大略的に、上述の固定側部材に相当する外輪2と、上述の回転側部材に相当する内輪5と、外輪2と内輪5との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで構成され、内輪部材4はハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる。ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント8を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7はナット9によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの脱落が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸回りに回転可能とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、環状の軸受空間Sが形成される。軸受空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向の外方に延出するよう形成されたハブフランジ32とを有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取り付けられ固定される。
以下において、軸方向Lに沿って車輪に向く側(
図1において左側)を車輪側、車体に向く側(
図1において右側)を車体側という。
【0013】
図2(a)及び
図2(b)に示す第1実施形態に係る密封装置10は、車体側の外輪2と内輪部材4との間の端部(
図1・X部)に装着される密封装置10Aである。
図2(a)は、
図1のX1部の拡大図であるとともに、
図3(b)に示す密封装置10Aの矢印Aで示す位置の断面図である。また
図2(b)は、
図1のX2部の拡大図であるとともに、
図3(b)に示す密封装置10Aの矢印Bで示す位置の断面図である。
【0014】
密封装置10Aは、片側の断面が略L字形状の芯体16と、ゴム等の弾性材からなるとともに、芯体16に対して加硫接着されることで一体成型されたシール体17と、内輪部材4の外周面4bに外嵌されるスリンガ14とを備える。そして、芯体16、シール体17及びスリンガ14が組み合わさってシール機能を発揮するよう構成された例について説明する。
芯体16は、SPCC等の鋼板をプレス加工して形成される。芯体16は、固定側部材である外輪2の車体側内径面2bに嵌合される円筒部160と、芯体16の円筒部160における軸方向の内側端部160aから径方向の内側に延出する円板部161とを有している。
【0015】
シール体17は、シール基部170と、シール基部170から延出された複数のシールリップ171,172,173とを有している。シールリップ171は、最も径方向D’(
図1・参照)の外側に位置し外方空間に近い位置に配されたシールリップである。シールリップ173は最も径方向D’の内側に位置し軸受空間Sに近い位置に配されたシールリップである。そしてシールリップ172は、シールリップ171とシールリップ173との間に位置するシールリップである。これらのうちシールリップ171,172は、軸方向Lの外側に向けてそれぞれが同じような角度で次第に拡径し延出して形成され、スリンガ14の円板部141の軸方向の内側面141cに摺接するアキシャルリップ(サイドリップ)である。シールリップ173は、径方向の内側に且つ軸受空間Sに向けて延出して形成され、後記するスリンガ14の円筒部140の外周面140bに摺接するラジアルリップである。シールリップ173には、スリンガ14の円筒部140の外周面140bと摺接する先端173aに部分的に切欠き形状とされた連通部20が形成されている。具体的には、第1実施形態では、複数のシールリップ171,172,173のうち、泥水等に晒され難い径方向の最も内側に位置するシールリップ173に連通部20が形成されている。また第1実施形態における連通部20は、シールリップ173の周方向に部分的に複数形成されている(
図3(b)参照)。そして連通部20によって、シールリップ172とシールリップ173で区画された空間100と、この空間100と隣接する空間とである軸受空間Sとが連通するように形成されている。
図2(a)及び
図2(b)において、シールリップ171,172,173の2点鎖線は、変形前の原形状を示している。
【0016】
シール基部170は、芯体16における円板部161の軸方向の内側面161aの一部から径方向の内側端部161bを回り込み、円板部161の軸方向の外側面161cの全面を覆うように配されている。またシール基部170は、芯体16の円筒部160の内周面160bを全面に亘って覆い、円筒部160の軸方向の外側端部160cを回り込んで円筒部160の外径面160dに至り、芯体16に固着一体とされている。芯体16には、その円筒部160の外径面160dに至る部分に径方向の外側に隆起する環状突部174が形成されている。この環状突部174は、芯体16が外輪2に内嵌された際、外輪2の車体側内径面2bと円筒部160の外径面160dとの間に圧縮状態で介在するように形成されている。
図2(a)及び
図2(b)において環状突部174の2点鎖線は圧縮前の原形状を示している。
【0017】
シール基部170には、円筒部160の軸方向の外側端部160cに回り込む部分に、
図2(a)に示すように凸状に形成された指標部13が設けられている。本実施形態における指標部13は、外輪2の車体側の外側面2dよりも、軸方向Lの外側に突出して形成されている。また指標部13は、磁気エンコーダ15の本体部150の軸方向Lの外側面150aよりも軸方向Lの外側に突出して凸状に形成されている。また指標部13は、シールリップ173に形成された連通部20の位置を認識可能に設けられている。本実施形態における指標部13は、軸方向Lからの正面視で矩形状に形成されるとともに、
図3(a)に示すように周方向の一部分に他の部位より突出して形状的に識別可能に構成されている。
図2の例では、
図2(a)に示すように指標部13がひとつ設けられ、連通部20と周方向において同じ位置になるように設けられている。一方、
図2(b)に示す密封装置10Aのシールリップ173の部位には、連通部20が形成されていない。よって、円筒部160の軸方向Lの外側端部160cにシール基部170が回り込む部位には、凸状の部位がなく、他の部位と同様に外輪2の車体側の外側面2dや磁気エンコーダ15の本体部150の軸方向の外側面150aと略面一に形成されている。
【0018】
シールリップ171,172,173が摺接するスリンガ14は、内輪部材4に取り付けられ、回転側部材の一部を構成する。スリンガ14は、内輪部材4の外周面4bに外嵌される円筒部140と、円筒部140の軸方向の外側端部140aから径方向の外側に延びる円板部141とを有している。円板部141の軸方向の外側面141aには、フェライト等の磁性粉末がゴム材により結合されている磁気エンコーダ15が加硫接着されている。磁気エンコーダ15は、ゴムよりも硬く、スリンガ14を構成する鋼板よりも弾性を有する。磁気エンコーダ15は、円板部141の軸方向の外側面141aを覆う本体部150と、円板部141の径方向の外側端部141bを覆う端部覆い部151とを有している。本体部150は、本体部150の周方向に多数のN極及びS極が着磁されている。そして、
図1において点線で示す磁気センサ12と磁気エンコーダ15とにより、自動車の車輪の回転検出を行っている。
【0019】
以上の構成によれば、密封装置10Aを外輪2と内輪5との間に装着する際、凸状の指標部13を目安にすることで、シールリップ173に設けられた連通部20の周方向における位置を認識することができる。したがって、指標部13の形成位置から連通部20の位置を認識しながら連通部20を所望の位置に配置した状態で、密封装置10Aを外輪2と内輪5との間に装着することができる。言い換えると、密封装置10Aを外輪2と内輪5との間に取付ける際、連通部20の形成位置を気にせずに、指標部13の形成位置を目安にすることで、効率よく装着作業を行うことができる。またこのように指標部13は、装着位置の位置決め手段を兼ねた構成となっているので、所望の位置からずれた状態で、誤って取り付けられることを回避できる。そして、以上の構成によれば、スリンガ14に摺接するシールリップ172,173によって仕切られる空間100と、空間100と隣接する軸受空間Sとは、連通部20を通じて流体(空気)が流通できるようになる。したがって、シールリップ172,173によって仕切られる空間100の内圧が変動して、摺接するシールリップ172,173がスリンガ14に貼りついてしまうことを抑制できる。また、連通部20の周方向における位置を指標部13によって容易に認識できるので、連通部20が形成されている位置を泥水等が浸入しにくい位置に配置して装着するなどの対処ができ、密封性の向上を図ることができる。よって、連通部20を設けたうえで、密封性能の他、回転トルクの低減等、所望する性能が発揮し得るように密封装置10Aを装着することができる。
【0020】
次に指標部13と連通部20の形成位置の関係についてさらに説明する。
指標部13は、
図2(a)に示すように連通部20の形成位置に応じて設けられている。
図3(a)は、指標部13の形成状態を説明するための図であり、(b)は、連通部20の形成位置を説明するための図である。
図3(b)では、紙面上側を外輪2への装着時における天地方向の天頂側の「天」とし、下側を外輪2への装着時における天底側の「地」としている。密封装置10Aは、天地方向の天頂側(上位置)に連通部20が形成されており、その連通部20と周方向において同じ位置に指標部13が設けられている。すなわち、指標部13もこの例では連通部20と同様に天頂側に形成されているので、密封装置10Aを外輪2に組み付けた際に天頂側に位置するように装着すれば、連通部20を所望する位置に配した状態で組み付けることができる。また
図3(a)等に示すように指標部13が形状的に識別可能に構成されているので、連通部20の位置を塗装によって示す場合に比べて、密封装置10Aが取付けられるまでの流通過程で指標部13が消失したり、汚れによって指標部13が識別不能になったりするのを回避できる。特に、第1実施形態の指標部13は、軸方向Lに突出する凸状に形成されているので、指標部13が凹状になっているものと比べて、指標部13が認識し易くなっている。そして、指標部13は、複数設けられた連通部20のうちのひとつと周方向において同じ位置になるように設けられているので、指標部13の位置から、連通部20の位置が推定し易くなる。
【0021】
<第1実施形態の変形例>
次に第1実施形態に係る密封装置10Aの変形例である密封装置10A’について、
図4、
図5を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
この変形例は、指標部13の構成が異なる。また指標部13と連通部20の形成位置の関係が第1実施形態と異なる。具体的には、ここに示す指標部13は、指標部13がスリンガ14に固着されている磁気エンコーダ15に設けられている。またその指標部13は第1実施形態のように軸方向Lに向けて突出するのではなく、径方向D’に他の部位よりも突出する凸状に形成されている。以上の構成によっても、指標部13が凹状になっているものと比べて、指標部13が認識し易くなっている。
【0022】
また、この変形例における密封装置10A’は、
図4(a)に示すように指標部13が天頂側に形成され、その位置は、連通部20が形成されている位置(
図5(a)参照)に対して、周方向に45°より大きい約50°程度ずれた位置に設けられている。
以上の構成によれば、指標部13を天地方向の天頂側に配置することで、密封装置10A’を組み付ける際に指標部13の位置を認識し易い。また以上の構成として、連通部20を天地方向の中央位置よりも天頂側に0°~45°ずれた位置に配置できれば、上下どちらかの方向から泥水等が浸入してきた場合であっても、泥水等が連通部20に達することを抑制できる。
【0023】
続いて連通部20の形成位置の変形例について、
図5(a)~(c)を参照しながらさらに説明する。
第1実施形態ではシールリップ173に形成された連通部20が天頂側に形成された例を説明したが、これに限定されず、連通部20はシールリップ173の周方向に複数形成されていてもよい。
図5(a)に示すように天頂位置から左右周方向にそれぞれ約50°程度ずれた位置に設けてもよい。また
図5(b)のように天頂位置及び天底位置以外の位置に複数設けてもよい。さらに
図5(c)に示すように天地方向の中央位置にそれぞれ設けてもよい。いずれの場合も、連通部20によって、シールリップ173が摺接するスリンガ14への貼り付きを抑制し、トルクの上昇を抑制することができる。
【0024】
<第2実施形態>
次に第2実施形態に係る密封装置10Bについて、
図6を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。
第2実施形態に示す密封装置10Bは、芯体16の円筒部160が外輪2の車体側の外径面2eに嵌合され、円板部161が円筒部160の軸方向Lの外側端部160fから径方向の内側に延出して形成されている点で、第1実施形態とは異なる。またシール体17が円筒部160の外径面160d及び円板部161の外側面161cに配されている点でも、第1実施形態とは異なる。さらにスリンガ14は片側の断面が略U字形状に形成され、外輪2の外径面2eに被さるように配された第2円筒部142を備えている点でも異なる。そして連通部20が切欠き形状でなく、貫通孔とされている点も異なり、連通部20が形成されたシールリップ171がスリンガ14に摺接していない点も異なる。以下、さらに説明する。
【0025】
芯体16は、片側の断面形状が略L字形状に形成されている。芯体16は、外輪2の外径面2eに外嵌される円筒部160と、円筒部160の軸方向Lの外側端部160fから径方向D’の内側に延びて形成された円板部161とを有している。円板部161には、その径方向の内側端部161bの内側面161a側の端部に、切欠き161dが形成されている。
【0026】
シール体17は、外径面160d及び外側面161c等に固着されるシール基部170と、複数のシールリップ171,172,173と、起立部175とを備えている。シール基部170は、円板部161の切欠き161dに回り込んで固着され、円板部161の外側面161cの全面を覆い、円筒部160の外径面160dと内側端部160eに至る面を覆うように設けられる。起立部175は、シール基部170の外輪2の外径面2eの一部を覆う部分から径方向D’の外側に突出して形成される。起立部175は、スリンガ14における第2円筒部142の軸方向Lの内側端部142aに対して離間するように設けられ、スリンガ14の第2円筒部142の軸方向Lの内側端部142aとの間にラビリンス部Rが形成されている。起立部175は、その端部175aが、スリンガ14の第2円筒部142の外周面142bと略同じ高さになるように突出して形成されており、泥水等の浸入阻止効果を奏する。
【0027】
シールリップ171,172は、シール基部170から軸方向Lの外側に延出して形成されている。シールリップ173は、シール基部170から径方向の内側に延出し、先端は軸受空間S側に向けて形成されている。シールリップ171は、複数あるシールリップのうち、最も径方向D’の外側に位置する。シールリップ171は、シール基部170から軸方向にストレートに延出して形成された延出部171aと、延出部171aの軸方向Lの外側端部171bから径方向D’の外側に略90°に屈曲して形成された屈曲部171cとを有している。よって、シールリップ171の先端171dを含む屈曲部171cは、スリンガ14の円板部141に摺接しておらず、円板部141の内側面141cと屈曲部171cとの間にラビリンスが形成されている。またシールリップ171の延出部171aと屈曲部171cとシール基部170とにより、凹状に区画された空間120が構成される。またシールリップ171の天頂側に配される延出部171aの中間位置には、貫通孔とされた連通部20が設けられている。連通部20は、凹状に区画された空間120と空間120と隣接する空間110とが連通するように形成されている。これにより、外部からラビリンス部Rを通じて浸入してきた泥水等は、シール基部170に沿って密封装置10B内に浸入するが、凹状に区画された空間120で滞留する。そして、空間120に滞留した泥水等は、延出部171a及び屈曲部171cを伝って下方に流下した後、スリンガ14の第2円筒部142を伝って下方のラビリンス部Rから外部に排出させることができる。また空間120に滞留した泥水等の一部は、連通部20が排水孔のような機能を発揮し、連通部20を通じて隣接する空間110側へ流下する。そしてシールリップ172、円板部141、第2円筒部142を伝って下方のラビリンス部Rから外部に排出させることができる。指標部13は、この連通部20と周方向において反対位置になるように設けられているため、指標部13は天底側に設けられている。そしてここに示す指標部13は、径方向に凹状に窪んだ切欠き形状に形成されている。
【0028】
シールリップ172は、シールリップ171とシールリップ173との間に位置し、軸方向の外側に向けて次第に拡径し延出して形成され、スリンガ14の円板部141の軸方向の内側面141cに摺接する。
【0029】
以上の構成によれば、密封装置10Bを外輪2と内輪5との間に装着する際、凹状の指標部13を目安にすることで、シールリップ171に設けられた連通部20の周方向における位置を認識することができる。したがって、指標部13の形成位置から連通部20の位置を認識しながら連通部20を所望の位置に配置した状態で、密封装置10Bを外輪2と内輪5との間に装着することができる。そして、シールリップ171によって区画された空間120と、空間120と隣接する空間110とは、連通部20を通じて流体(空気や泥水等)が流通でき、上述の排出効果を奏する。また、連通部20の周方向における位置を指標部13によって容易に認識できるので、連通部20が形成されている位置を天頂位置に配置して装着する対処ができる。よって、連通部20を備えた密封装置10Bを、密封性能等、所望する性能が発揮し得るように装着することができる。
なお、シールリップ173の構成は第1実施形態と共通であるので、説明は省略する。
【0030】
<第3実施形態>
次に第3実施形態に係る密封装置11について、
図7を参照しながら説明する。
図7(a)及び
図7(b)に示す第3実施形態に係る密封装置11は、上記第1実施形態及び第2実施形態の密封装置10(10A,10A’,10B)の車体側の密封装置でなく、車輪側の密封装置である点で異なる。よって、密封装置11は、スリンガ14を備えておらず、シールリップ191,192,193は、直接回転側部材を構成するハブフランジ32に摺接する点で、上記第1実施形態及び第2実施形態の密封装置10(10A,10A’,10B)とは異なる。また指標部13が径方向に突出する凸状で、その凸状が、固定側部材を構成する外輪2の車輪側内径面2cに形成された凹部2fに係合するように形成されている点で異なる。さらに詳述する。
【0031】
密封装置11は、外輪2の車輪側内径面2cに内嵌される芯体18と、芯体18に固着されるシール基部190と、回転側部材5であるハブフランジ32に摺接する複数のシールリップ191,192,193を有したシール体19とを備えている。
【0032】
芯体18は、SPCC等の鋼板をプレス加工して形成されている。芯体18には、外輪2の車輪側内径面2cに内嵌される円筒部180と、円筒部180の軸方向の内側端部180aから軸方向Lの内側に下がり傾斜する傾斜部181とが形成されている。また芯体18には、傾斜部181の軸方向Lの内側端部181aから径方向の内側に延びる円板部182が形成されている。シール体19のシール基部190は、円板部182の軸方向Lの外側面182aの一部に固着されている。さらに、シール体19のシール基部190は、径方向D’の内側端部182bを回り込み、軸方向の内側面182cの全面を覆い、傾斜部181の外径面181bの前面を覆うように芯体18に固着一体とされている。
【0033】
シール体19に形成されたシールリップ191は、最も径方向の外側に位置し外方空間に近い位置に配されたシールリップである。シールリップ193は最も径方向の内側に位置し軸受空間Sに近い位置に配されたシールリップである。そしてシールリップ192は、シールリップ191とシールリップ193との間に位置するシールリップである。これらのうちシールリップ191,192は、軸方向Lの外側に向けてそれぞれが同じような角度で次第に拡径し延出して形成され立上基部31に摺接するアキシャルリップ(サイドリップ)である。シールリップ193は、径方向の内側に且つ軸受空間Sに向けて延出して形成され、ハブ輪本体30の外周面30aに摺接するラジアルリップである。シールリップ192の先端192aに部分的に切欠き形状とされた連通部20が形成されている。具体的には、第3実施形態では、複数のシールリップ191,192,193のうち、泥水等に晒され難い中程に位置するシールリップ193に連通部20が形成されている。そして連通部20は、シールリップ192とシールリップ193とによって仕切られる空間200と、この空間200と隣接する空間210とが連通するように形成されている。
図7において、シールリップ191,192,193の2点鎖線は、変形前の原形状を示している。
【0034】
芯体18の傾斜部181の外径面181bと、外輪2の車輪側内径面2cとの間に位置するシール体19のシール基部190から径方向の外側に突出する凸状の指標部13が設けられている。この指標部13は、固定側部材である外輪2の凹部2fと係合するように形成されている。またこの指標部13は連通部20と周方向において同じ位置になるように設けられ、この例では天地方向の天頂側の「天」の位置に指標部13が形成されている。
【0035】
以上によれば、密封装置11を外輪2に取付ける際、外輪2に形成された凹部2fに凸状の指標部13を係合するように取付ければ、自ずと密封装置11の周方向における取付位置が位置決めされる。したがって、密封装置11を外輪2に取付ける際に、連通部20の形成位置を気にせずに、指標部13の形成位置を目安にすることで、効率よく装着作業を行うことができる。またこのように装着位置の位置決め手段を兼ねた構成となっているので、所望の位置からずれた状態で、誤って取り付けられることを回避できる。
【0036】
以上の実施形態に係る密封装置10(10A~10C),11の構成は図例に限定されるものではない。また芯体16,18、シール体17,19、スリンガ14、磁気エンコーダ15、指標部13、連通部20、シールリップ171,172,173,191,192,193の構成や形状、個数等は、上記各実施形態に限定されることはない。例えば
図4に示す形態では、指標部13がスリンガ14に固着されている磁気エンコーダ15に設けられていたが、
図8(a)に示すような磁気エンコーダ15を備えていない密封装置10A’’の場合は、スリンガ14に指標部13を設けてもよい。この場合、スリンガ14の円板部141の外側端部141bに凹部を形成し、この凹部を指標部13として用いてもよい(
図8(b)参照)。また、例えば連通部20は図例のものは切欠き形状と、貫通孔の例を示したが、これに限定されない。シールリップによって区画された空間と該空間と隣接する空間とが連通するように形成される構成であればよい。よって、回転側部材に摺接するシールリップに部分的に突起部を設けてもよい。また連通部20として、第1実施形態及び第3実施形態では、切欠き形状の例が示されていたが、貫通孔に置換してもよい。連通部20の形成位置も、所望の性能を発揮し得る位置であれば、シールリップのどこに形成してもよい。例えば貫通孔とされる連通部20であれば、一本のシールリップに複数形成してもよい。第3実施形態において、指標部13が外輪2の凹部2fと係合する例を示したが、この例は、第1実施形態の密封装置10に適用してもよい。指標部13の構成も、例えば凸状の形状は半球状でもよいし、側面視において三角形状でもよい。また、指標部13は、凹部により構成してもよいし、その凹部に固定側部材に形成された凸部が係合する構成にしてもよい。さらに上記実施形態では、指標部13が、形状的に識別可能に構成されている例を説明したが、塗装により識別可能に構成した例を除外するものではなく、塗装により識別可能なマーク等を付してもよい。また指標部13は視覚的には識別不能だが、電子機器により識別可能にした例を除外するものではなく、例えば、画像カメラ等で認識可能な指標マーク(例えば、紫外線照射時に発行する蛍光塗料等)を指標部としてもよい。この場合、ロボット等の自動機械が、電子装置により認識された位置に基づいて連通部20の周方向の位置を認識し、密封装置を固定側部材と回転側部材との間に装着すればよい。また指標部13の位置は、外側に露出する位置であればどの位置に設けてもよく、上記実施形態に限定されない。そしてまた
図6に示す起立部175は、スリンガ14の外周面142bと略同一の高さに限定されず、外周面142bよりも突出した高さとしてもよい。
【0037】
<軸受装置の他の実施形態>
次に、上述の密封装置10(10A~10C),11を備えた軸受装置1の他の実施形態である軸受装置1Aについて
図9を参照しながら説明する。なお、上述の密封装置10,11の各実施形態に用いられた軸受装置1と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は省略する。また、
図9及び
図10において紙面上側を自動車の車体への装着時における天地方向の天頂側の「天」とし、下側を車体への装着時における天底側の「地」としている。
本実施形態の軸受装置1Aは、相対的に同軸回転する固定側部材(外輪2)及び回転側部材(内輪5)と、これらに装着される上述のような密封装置10,11と、を備えている。固定側部材(外輪2)には、密封装置10,11が固定側部材(外輪2)と回転側部材(内輪5)との間に装着された状態で、連通部20の周方向における位置を認識可能な軸受側指標部40が設けられている。以下、詳しく説明する。
【0038】
図9に示す軸受装置1Aは、上述した密封装置10,11の各実施形態における軸受装置1と比べて外輪2の構成が異なっている。外輪2には、天地方向の天頂側(上側)の軸方向Lにおける中間部付近に軸受側指標部40が設けられている。軸受側指標部40は、外輪2の外径面(外周)2eから径方向D’の外側に突出する凸状に形成されている。
【0039】
図9(b)は、軸受側指標部40の形成位置を説明するために、
図3(b)に相当する図に外輪2と軸受側指標部40を加えた図である。
図9(a)、(b)に示すように、密封装置10は、連通部20が外輪2の軸受側指標部40と周方向において同じ位置になるように外輪2と内輪5との間に装着される。なお、
図9(b)では車体側の密封装置10における連通部20が示されているが、車輪側の密封装置11における連通部20も同様にして軸受側指標部40と周方向において同じ位置になるように外輪2と内輪5との間に装着される。
【0040】
本実施形態の軸受装置1Aは、周方向において軸受側指標部40が設けられている位置に密封装置10,11の連通部20が位置している。そのため、外輪2が車体に固定される際に密封装置10に設けられた指標部13が確認できなくとも、外輪2に設けられた軸受側指標部40を目安に指標部13の位置が推定され易くなっている。したがって、軸受側指標部40の形成位置から連通部20の位置を認識しながら連通部20を所望の位置に配置した状態で、軸受装置1Aを車体に装着することができる。言い換えると、軸受装置1Aを車体に取り付ける際、連通部20の形成位置を気にせずに、軸受側指標部40の形成位置を目安にすることで、効率よく装着作業を行うことができる。また、本実施形態では、軸受側指標部40は外輪2の外径面2eに設けられているので、軸受装置1Aが車体に固定される際に、軸受側指標部40が確認し易くなっている。したがって、連通部20の周方向における位置を軸受側指標部40によって容易に認識できるので、連通部20が形成されている位置を泥水等が浸入しにくい位置に配置して装着するなどの対処ができ、密封性の向上を図ることができる。よって、密封装置10に連通部20を設けたうえで、密封性能の他、回転トルクの低減等、所望する性能が発揮し得るように密封装置10を備えた軸受装置1Aを自動車の車体に装着することができる。
【0041】
<軸受装置1Aの変形例>
次に軸受装置1Aの変形例である軸受装置1A’について、
図10(a)を参照して説明する。
図10(a)の軸受装置1A’は、
図9の軸受装置1Aとは軸受側指標部40の構成が異なる例である。ここに示す軸受側指標部40は外輪2の天地方向の天頂側(上側)の車体側の外側面2dに設けられている。またその軸受側指標部40は、
図9の軸受側指標部40のように径方向D’に向けて突出するのではなく、外輪2の外側面2dから外輪2の他の部位よりも軸方向Lの外側に突出する凸状に形成されている。以上の構成によっても、軸受側指標部40が凹状に形成されているものと比べて、軸受側指標部40が確認し易くなっている。
【0042】
続いて軸受装置1Aのさらなる変形例である軸受装置1A’’について、
図10(b)を参照して説明する。軸受装置1A’’では、外輪2は軸方向Lにおける中間部付近に、外径面2eの全周に亘って径方向D’の外側に突出する取付フランジ2gが設けられている。取付フランジ2gには、軸受装置1A’’を車体に取り付ける際にボルトが挿通されるボルト挿通孔2hが周方向において等間隔に設けられている。そして、取付フランジ2gには、天地方向の天頂側(上側)の軸方向Lにおける中間部付近に軸受側指標部40が設けられている。軸受側指標部40は、取付フランジ2gの外径面よりも、径方向D’の外側に突出する凸状に形成されている。軸受側指標部40は、外輪2、そして取付フランジ2gの他の部位よりも径方向D’の外側に突出しているため、確認し易くなっている。
このように、軸受装置1Aの変形例である軸受装置1A’,1A’’も、軸受装置1Aと同様の効果を有する。
【0043】
以上の実施形態に係る軸受装置1A(1A’,1A’’)の構成は図例に限定されるものではない。また、連通部20の周方向における位置が認識可能であれば、連通部20は軸受側指標部40と周方向における同じ位置に設けられることに限定されることはない。また図例では、軸受側指標部40は凸状に形成されているものを示しているが、これに限定されることはない。例えば、軸受側指標部40は、切欠き形状や凹状に形成されているものでもよい。また、軸受側指標部40の突出具合は図例に限定されることはない。さらに軸受側指標部40は形状的に識別可能に構成されているものに限定されることはなく、視覚的に識別可能な塗装やマーク等であってもよい。また軸受側指標部40は視覚的には識別不能だが、電子機器により識別可能にした例を除外するものではなく、例えば、画像カメラ等で認識可能な指標マーク(例えば、紫外線照射時に発行する蛍光塗料等)を軸受側指標部40としてもよい。この場合、ロボット等の自動機械が、電子装置により認識された位置に基づいて連通部20の周方向の位置を認識し、軸受装置1Aを機械装置に装着すればよい。また軸受側指標部40の位置は、外側に露出する位置であればどの位置に設けてもよく、上記実施形態に限定されない。軸受装置1,1A,1A’,1A’’は、自動車の車体に限らず、軸受装置1,1A,1A’,1A’’が用いられている種々の機械装置に取り付けて用いてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1,1A,1A’,1A’’ 軸受装置
2 外輪(固定側部材)
5 内輪(回転側部材)
10(10A~10C),11 密封装置
13 指標部
15 磁気エンコーダ
16,18 芯体
17,19 シール体
171,172,173 シールリップ
191,192,193 シールリップ
20 連通部
40 軸受側指標部