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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】セレン化合物含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/16 20160101AFI20241205BHJP
   A61K 33/04 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A23L33/16
A61K33/04
A61K35/60
A61P9/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022186063
(22)【出願日】2022-11-21
(65)【公開番号】P2024074718
(43)【公開日】2024-05-31
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】319002016
【氏名又は名称】株式会社エル・エスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100157428
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 聞平
(72)【発明者】
【氏名】松本 聡
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/066676(WO,A1)
【文献】特開2011-121914(JP,A)
【文献】特開2006-089440(JP,A)
【文献】動脈硬化,2001年,Vol.28, No.11,pp.183-193
【文献】山下 倫明 ほか,水産物由来のセレン:セレノネインの栄養生理機能,Biomedical Research on Trace Elements,2013年,Vol.24, No.4,pp.176-184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/16
A61K 33/04
A61K 35/60
A61P 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレノネインを有効成分として含有する、血管内皮細胞への酸化LDLの吸着についてLDLの酸化が抑制されない場合でも生じる抑制のための組成物。
【請求項2】
前記セレノネインは、魚肉又は魚の血液由来の組成物として含有されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
当該組成物が食品組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
当該組成物が医薬組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン化合物を有効成分として含有する組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、体内で合成できない必須微量元素であり、魚介類、藻類、肉類、卵黄など特定の食品に含まれている。セレンは、酵素や抗酸化作用として重要な働きをする。そのため、老化予防などに繋がると言われ注目されている。また、セレンを含む化合物(以下、「セレン化合物」と言う。)として、特許文献1に記載のセレノネインが知られている。セレノネインは、強い抗酸化能を有し、ヒトに対し生体抗酸化作用を示す。
【0003】
特許文献1には、セレノネインを有効成分として含有する組成物について、大腸がん細胞の増殖抑制、大腸がんの形成抑制、非アルコール性肝炎の予防、アルツハイマー型認知症の予防、NFκ-B活性化を伴う炎症の抑制、膜結合型ムチン遺伝子MUC1活性化による角膜上皮細胞保護、セレノプロテインP遺伝子の発現抑制、耐糖能異常改善、CYP7B1遺伝子の発現誘導のための組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/066676号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1にはセレン化合物について様々な用途が記載されてはいるものの、セレン化合物の有用性は十分に解明されているとは言い難い。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セレン化合物を有効成分として含有する組成物について、新規な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、セレン化合物について細胞試験及び臨床試験を行った結果、セレン化合物は、(i)LDL(低密度リポ蛋白)の酸化を抑制する機能、(ii)血管内皮細胞への酸化LDLの吸着を抑制する機能、(iii)マクロファージへの酸化LDLの吸着を抑制する機能、及び、(iv)LOX-1(レクチン様酸化LDL受容体)の発現を抑制する機能、(v)VLDL(超低密度リポタンパク質)レベルを低下させる機能があることを見出した。
【0008】
ここで、アテローム動脈硬化は、種々のストレスにより血管内皮が損傷して、血中LDLが血管内皮の内膜へ浸潤することで開始される。LDLは血管内皮細胞の作用によって酸化LDLに変化し、酸化LDLは内膜のマクロファージにLOX-1を介して吸着(受容)し、LOX-1の発現を促進させる。その結果、マクロファージへの酸化LDLの吸着が加速度的に促進され、マクロファージは泡沫細胞へと変化する。これが内膜に凝集するとプラークが形成され、動脈硬化を悪化させる。そのため、上述の機能(i)~(iv)によれば、LDLから酸化LDLへ変化、LOX-1の受容、LOX-1の発現誘導、LOX-1の受容促進という悪循環により生じるマクロファージの泡沫細胞化の抑制にセレン化合物を用いることができると考えられ、さらにアテローム動脈硬化の予防又は治療にセレン化合物を用いることができると考えられる。
【0009】
これらの知見に基づく本発明は、セレン化合物を有効成分として含有する、血管内皮細胞への酸化LDLの吸着抑制、マクロファージへの酸化LDLの吸着抑制、LOX-1発現抑制、VLDLレベルの低下、マクロファージの泡沫細胞化の抑制、又は、アテローム動脈硬化の予防若しくは治療のための組成物である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、セレン化合物は、魚肉由来の組成物として含有されている。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、セレン化合物は、セレノネインである。
【0012】
第4の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、食品組成物である。
【0013】
第5の発明は、第1乃至第3の何れか1つの発明において、医薬組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る組成物には、セレン化合物が有効成分として含有されているため、当該組成物は、LDLの酸化抑制、血管内皮細胞への酸化LDLの吸着抑制、マクロファージへの酸化LDLの吸着抑制、LOX-1発現抑制、VLDLレベルの低下、マクロファージの泡沫細胞化の抑制、又は、アテローム動脈硬化の予防若しくは治療の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、抗酸化作用検証試験の結果を示す図表である。
図2図2は、血管内皮細胞(HUVEC)を用いた酸化LDL吸着抑制試験の結果を示す図表である。
図3図3は、ヒト単球系細胞(THP-1)を用いた酸化LDL吸着抑制試験の結果を示す図表である。
図4図4は、酸化LDL誘導LOX-1発現抑制試験の結果を示す図表である。
図5図5は、臨床試験における、中性脂肪の推移を、0週時からの変化量で表すグラフである。
図6図6は、臨床試験における、RLP-Cの推移を、0週時からの変化量で表すグラフである。
図7図7は、臨床試験における、リポ蛋白分画精密測定VLDLの推移を、0週時からの変化量で表すグラフである。
図8図8は、臨床試験における、リポ蛋白分画VLDL定量の推移を、0週時からの変化量で表すグラフである。
図9図9は、臨床試験における、8-OHdG濃度の推移を、0週時からの変化量で表すグラフである。
図10図10は、臨床試験における、空腹時血糖値の推移を、0週時からの変化量で表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0017】
[組成物について]
本実施形態は、セレン化合物(有機セレン化合物)を有効成分として含有する、LDLの酸化抑制、血管内皮細胞への酸化LDLの吸着抑制、マクロファージへの酸化LDLの吸着抑制、LOX-1発現抑制、VLDLレベルの低下、マクロファージの泡沫細胞化の抑制、又は、アテローム動脈硬化の予防若しくは治療のための組成物(以下、「本組成物」と言う場合がある。)である。本組成物は、例えば経口的に摂取させることで、LDLの酸化抑制、血管内皮細胞への酸化LDLの吸着抑制、マクロファージへの酸化LDLの吸着抑制、LOX-1発現抑制、VLDLレベルの低下、又は、マクロファージの泡沫細胞化の抑制を必要とする者(例えば、アテローム動脈硬化の虞がある者又はアテローム動脈硬化の患者)に対し、LDLの酸化抑制、血管内皮細胞への酸化LDLの吸着抑制、マクロファージへの酸化LDLの吸着抑制、LOX-1発現抑制、VLDLレベルの低下、マクロファージの泡沫細胞化の抑制、又は、アテローム動脈硬化の予防若しくは治療の方法に用いることができる。また、本組成物は、酸化LDLの増加、血管内皮細胞への酸化LDLの吸着、マクロファージへの酸化LDLの吸着、LOX-1発現、VLDLレベルの増加、又はマクロファージの泡沫細胞化による生じる他の疾患の予防又は治療の方法にも用いることができる。
【0018】
本組成物に含有されるセレン化合物は、化学式(2)に表されるセレノネイン単量体、化学式(3)に表されるその互変異性体、化学式(4)に表されるセレノネイン酸化二量体、及び、化学式(1)に表されるセレノネイン化学修飾物が挙げられる。
【0019】
【化1】
【0020】
化学式(1)で表される化合物は、置換基Rが、水素、エルゴチオネイン、グルタチオン、システイン、アセチルシステイン、ホモシステイン、メチル水銀、生体内で生成されると推定されるチオール化合物と結合した有機セレン化合物であり、有機セレン化合物がセレノール基を介して結合した金属や高分子材料も含まれる。
【0021】
【化2】
【0022】
化学式(2)で表されセレン化合物は、3-(2-ヒドロセレノ-1H-イミダゾール-5-イル)-2-(トリメチルアンモニオ)プロパノエートである。
【0023】
【化3】
【0024】
化学式(3)で表されセレン化合物は、3-(2-セレノキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イミダゾール-4-イル)-2-(トリメチルアンモニオ)プロパノエートである。
【0025】
【化4】
【0026】
化学式(4)で表されるセレン化合物は、酸化型二量体(3,3’-(2,2’-ジセランジイルビス(1H-イミダゾール-5,2-ジイル))ビス(2-(トリメチルアンモニオ)プロパノエート))のイミダゾール環にセレノール基とトリメチルアンモニウム基が結合した分子構造を持つ化合物を基本単位として、この化合物がセレノール基を介してジセレニドを形成した二量体も含まれる。
【0027】
本組成物では、セレノネインが、魚肉(血合肉など)又は魚の血液由来の組成物として含有されている。本組成物の材料として魚肉又は血液を用いる魚類としては、マグロ類、カジキ類、カツオ類、サバ類、ブリ類、アジ類、イワシ類、タイ類などが挙げられる。なお、セレノネインは、魚類以外の生物(例えばハクジラ類を含む海洋性哺乳類、微生物)由来であってもよい。
【0028】
魚類としてサバ類を選択する場合、本組成物は、アミノ酸及びセレン化合物を含有するセレン化合物含有組成物であって、アミノ酸の組成が例えばサバ類由来のアミノ酸組成である。サバ類としては、スズキ目・サバ科のサバ属、グルクマ属、ニジョウサバ属などを用いることができ、サバ属としては、マサバ、ゴマサバ、タイセイヨウサバを用いることができる。
【0029】
本組成物の材料としては、魚肉を用いる場合、未加工の生の魚若しくは生の魚を切断したり捌いたりして得られた魚肉片、又は、生の魚若しくは魚肉片を粉砕して得られた魚肉砕片などを用いることができる。本組成物の材料には、魚の頭部、骨、内臓が含まれてよいが、セレン化合物が豊富であるという観点から、魚肉の可食部及び内臓を含むことが好ましく、内臓を含むことがより好ましい
【0030】
本組成物は、例えば、セレン化合物を含む魚肉(本組成物の材料)が有する蛋白質分解酵素を失活させてセレン化合物を含む魚肉由来組成物を得る工程1と、工程1で得られた魚肉由来組成物に所定の酵素を加えて酵素反応に供した後に、加えた酵素を失活させて、セレン化合物を含むセレン化合物含有組成物を得る工程2とを行うことで得られる。本組成物の製造方法についての詳細は後述する。
【0031】
本組成物は、食品組成物(飲料を含む。)とした場合に、セレノネインなどのセレン化合物に加えて、飲食品用として一般に用いられる他の成分(ビタミンやミネラルなどの栄養成分、食品素材、又は、食品添加物など)を含有させてもよい。他の成分としては、溶剤としてエタノールや水、甘味料、香料、調味料、着色料、保存料、増量剤、増粘剤、増粘安定剤、酸化防止剤、苦味料、酸味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤及び可塑剤などを用いることができる。
【0032】
本組成物は、固形、半固形又は液体などの食品とすることができ、例えば、菓子(クッキー、ゼリーなど)、パン類、魚肉加工品、畜肉加工品、麺類、スープ類、ソース類、惣菜等、飲料(乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、野菜飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、栄養飲料など)として提供することができる。また、本組成物は、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組み合わせ食品又は高齢者用食品などとして提供することができる。また、本組成物は、医薬品又は医薬部外品として提供することができる。
【0033】
本組成物は、固体状、液体状、粉末状、顆粒状、ペースト状、ムース状、ゲル状、ゼリー状、又は、タブレット状などの形態(剤形)にすることができる。また、本組成物は、袋、容器又はカプセル等に包まれた形態にすることもできる。
【0034】
本組成物において、例えば、セレン化合物の含有量は1μgSe/g以上で、総セレン含有量は5μg/g以上である。本組成物は、成人1人1日当たりの摂取量として、セレン化合物の摂取量が1~10μgSe、総セレンの摂取量が5~100μgとなるように用いることができる。この場合に、1日当たりの摂取量を達成するための1日当たりの摂取回数は、1回にしてもよいし、複数回にしてもよい。
【0035】
[本組成物の製造方法について]
本組成物の製造方法(以下、「本製造方法」と言う場合がある。)について説明する。
【0036】
本製造方法は、上述したように、魚肉が有する蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)を失活させてセレン化合物を含む魚肉由来組成物を得る工程1と、工程1で得られた魚肉由来組成物に所定の酵素を加えて酵素反応に供した後に、加えた酵素を失活させて、セレン化合物を含むセレン化合物含有組成物を得る工程2とを行うものである。工程1を行うことによって、工程2において、余計な蛋白質の分解反応や腐敗を抑えて効率よくセレン化合物を抽出することができる。
【0037】
具体的に、工程1では、上述の蛋白質分解酵素を失活させる前に、材料となる魚肉に対し必要に応じて水(水道水、井戸水、蒸留水、イオン交換水等)を加えて、ミキサーによって粉砕を行い、魚肉砕片又は魚肉砕片と水の混合スラリーを作成する。そして、混合スラリーに対し加熱処理を行うことによって、上述の蛋白質分解酵素を失活させる。加熱処理後は、魚肉を構成する固形分と水分の混合物又はスラリーが得られる。そのうち混合物又はスラリーを固液分離させた液相部分を、工程2に用いる魚肉由来組成物とすることができる。なお、上述の蛋白質分解酵素を失活させる方法としては、加熱以外に、加圧又はpH変化等を用いることもできる。
【0038】
工程2では、上述の所定の酵素として、枯草菌(バチルス・サブティリス)などの細菌由来の蛋白質分解酵素(酵素1)と、麹菌(アスペルギルス・オリゼー)などの微生物由来の蛋白質分解酵素(酵素2)の両方を用いることができる。工程2では、工程1で得られた魚肉由来組成物に、酵素1及び酵素2を順次加えて、魚肉由来組成物を酵素反応に供する。なお、酵素1及び酵素2を加える順番は、酵素1、酵素2の順番であってもよいし、酵素2、酵素1の順番であってもよいが、前者の順番の方が魚肉由来組成物からセレン化合物を効率よく抽出することが可能である。また、魚肉由来組成物を酵素反応に供した後に、加熱、加圧、pH変化等の方法によって、酵素1及び2を失活させる。
【0039】
工程2の終了後は、セレン化合物含有組成物を構成する固形分と水分の混合物又はスラリーが得られる。これらの混合物又はスラリーを固液分離させた液相部分を本組成物として用いてもよいし、この液相部分を濃縮させたものを本組成物として用いてもよいし、液相部分(又は液相部分の濃縮物)を乾燥(例えばスプレードライ)させた粉末を本組成物として用いてもよい。本実施形態では、工程2において、酵素1と酵素2によって酵素反応を2段階で行うことで、セレン化合物の含有量の高い組成物が得られる。
【実施例
【0040】
以下、本組成物の実施例について説明を行う。なお、本発明は、その主旨を超えない限り、本実施例に限定されるものではない。また、特に記載しない限り、本実施例に記載の単位や測定方法はJIS規格による。
【0041】
本実施例における各試験(細胞試験、臨床試験)では、本組成物(被験物質、被験食品)として、出願人が製造販売を行う「サバペプチド(商品名)」を用いた。本組成物の規格は、総セレンが5.0μg/g以上(試験方法:誘導結合プラズマ質量分析法)、セレノネインが1.0μgSe/g以上(試験方法:液体クロマトグラフィー 誘導結合プラズマ質量分析法)、水分量が8.0wt%以下(試験方法:カールフィッシャー法)、タンパク質が85.0~95.0wt%(試験方法:セミミクロケルダール法)、脂質が0.5wt%以下(試験方法:ソックスレー抽出法)、灰分6~12wt%(試験方法:直接灰分法)である。
【0042】
[1.抗酸化作用検証試験]
被験物質による抗酸化作用を検証するために、抗酸化作用検証試験を行った。被験物質には、増殖培地を溶媒として本組成物が100mg/mLになるように調整し濾過滅菌したストック溶液を用いた。
【0043】
血管内皮細胞(HUVEC(CELL APPLICATIONS, INC. 、商品番号CA20005n))を0.2×10cells/wellとなるように24ウェルプレートに播種した。そして、COインキュベーター内で培養し、細胞がコンフルエントになったことを確認した後、ウェルから培養上清を除去し、培地450μLに対し、LDL(2.175mg/ml)46μL、1mMの硫酸銅(CuSO)2.5μL、DMSO(ジメチルスルホキシド)2.5μL、及び、被験物質2.5μLを添加した(LDL終濃度0.2mg/mL、銅イオン終濃度5μM)。その後、COインキュベーター内で培養し、0時間、2時間、4時間、8時間後に培養上清を回収し、酸化LDLの濃度を測定した。この濃度測定には、Cell Biolabs, Inc.社製のOxi Select Human Oxidized LDL ELISA kit(MDA-LDL Quantitation(マロンジアルデヒド酸化型 低密度リボタンパク室(MDA-oxLDL)検出試薬)を使用した。
【0044】
なお、本試験は、添加した被験物質については濃度が異なる2ケース(0.8mg/mL、0.16mg/mL)、被験物質を添加しないControl群については2ケース(硫酸銅添加なし、硫酸銅添加あり)行った。図1に、各ケースについて酸化LDLの濃度の測定結果を示す。
【0045】
図1に示す測定結果によれば、硫酸銅存在下でLDLの酸化が顕著に認められ、被験物質(本組成物)を添加したケースで、LDLの酸化が抑制された。被験物質の濃度が大きいほどLDLの酸化は大きく抑制された。
【0046】
[2.酸化LDL吸着抑制試験]
血管内皮細胞とマクロファージの各々について、被験物質による酸化LDLの吸着抑制効果を検証するために、酸化LDL吸着抑制試験を行った。被験物質には、細胞用培地を溶媒として本組成物が100mg/mLになるように添加・攪拌し、その後、濾過滅菌をしたストック溶液を用いた。本試験は、Control群に加え、被験物質の濃度が異なる3ケース(0.1mg/mL、1mg/mL、10mg/mL)と、陽性対象物質の種類が異なる2ケース(0.5mMのMetformin hydrochloride(abcam,商品番号ab146725)、1μMのChelerythrine chloride(フナコシ,商品番号AG-CR1-0071-M001))について行った。
【0047】
<血管内皮細胞についての試験>
血管内皮細胞(HUVEC(PromoCell、商品番号D10013))を1×10cells/wellとなるように、ゼラチンコートした96ウェルプレートに播種した。そして、24時間の培養後に、被験物質又は陽性対象物質を含む培地に置換し、さらに24時間の培養を行った。その後、無血清培地で細胞を洗浄した後に、20μg/mLのDil-OxLDL(サーモフィッシャー、商品番号L34358)及び5μg/mLの核染色用色素(Hoechst33342(DOJINDO、商品番号346-07951))を含む染色溶液(蛍光標識された酸化LDLの溶液)に置換し、30分間反応させた。その後、PBSで細胞を洗浄後に、定量的解析のために、蛍光プレートリーダー(サーモフィッシャー社製、Varioskan LUX)により、細胞の蛍光強度及び細胞数を測定し定量化を行った。
【0048】
蛍光強度の定量化では、蛍光プレートリーダーにて、各細胞の蛍光強度(励起波長554nm/蛍光波長571nm)を測定し、各細胞の細胞数を測定した。そして、細胞当たりの吸着Dil-OxLDL値として、Dil-OxLDL/Hoechstを算出し、さらにControl群(Dil-OxLDL未処理)の値から、相対蛍光強度値を算出した。図2に、被験物質、陽性対象物質及びControl群について測定結果(相対蛍光強度値)を示す。図2の横軸において、「0.1」は被験物質0.1mg/mLのケース、「1」は被験物質1mg/mLのケース、「10」は被験物質10mg/mLのケースを表す。この点は図3及び図4でも同じである。
【0049】
図2に示す測定結果によれば、全ての被験物質において、Control群よりも相対蛍光強度値が低くなっており、被験物質による細胞への酸化LDLの吸着抑制効果を確認できた。本組成物では、1mg/mL及び10mg/mLの場合に、Control群に対して有意差を確認できた(p<0.05)。本組成物には、細胞への酸化LDLの吸着抑制効果があることが確認された。
【0050】
<マクロファージについての試験>
ヒト単球系細胞(THP-1(理研バイオリソースセンター、商品番号RCB1189))を1×10cells/wellとなるように、96ウェルプレートに播種し、播種と同時に0.5μg/mLのPMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)を添加し、COインキュベーター(5%CO、37℃)内で、4日間の培養を行った。そして、マクロファージ細胞(接着細胞)に分化したことを確認した後、被験物質又は陽性対象物質を含む培地に置換し、24時間の培養を行った。その後、無血清培地で細胞を洗浄した後に、20μg/mLのDil-OxLDL(サーモフィッシャー、商品番号L34358)及び5μg/mLの核染色用色素(Hoechst33342(DOJINDO、商品番号346-07951)を含む染色溶液(蛍光標識された酸化LDLの溶液)に置換し、30分間反応させた。その後、PBSで細胞を洗浄後に、定量的解析のために、蛍光プレートリーダー(サーモフィッシャー社製、Varioskan LUX)により、細胞の蛍光強度及び細胞数を測定し定量化を行った。蛍光強度の定量化の方法は、血管内皮細胞の試験と同じである。図3に、被験物質、陽性対象物質及びControl群について測定結果(相対蛍光強度値)を示す。
【0051】
図3に示す測定結果によれば、全ての被験物質において、Control群よりも相対蛍光強度値が低くなっており、被験物質によるマクロファージへの酸化LDLの吸着抑制効果を確認できた。本組成物では、10mg/mLの場合に、Control群に対して有意差を確認できた(p<0.05)。本組成物には、マクロファージへの酸化LDLの吸着抑制効果があることが確認された。
【0052】
[3.LOX-1発現抑制試験]
LOX-1発現抑制を検証するために、LOX-1発現抑制試験を行った。本試験には、酸化LDL吸着抑制試験と同じ被験物質及び陽性対象物質を用いた。本試験は、Control群に加え、被験物質の濃度が異なる3ケース(0.1mg/mL、1mg/mL、10mg/mL)と、陽性対象物質の種類が異なる2ケース(0.5mMのMetformin hydrochloride(abcam,商品番号ab146725)、1μMのChelerythrine chloride(フナコシ,商品番号AG-CR1-0071-M001))について行った。
【0053】
具体的に、ヒト単球系細胞(THP-1(理研バイオリソースセンター、商品番号RCB1189))を1×10cells/wellとなるように96ウェルプレートに播種し、播種と同時に0.5μg/mLのPMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)を添加し、COインキュベーター(5%CO、37℃)内で、4日間の培養を行った。そして、マクロファージ細胞(接着細胞)に分化したことを確認した後、被験物質又は陽性対象物質を含む培地に置換し、24時間の培養を行った。その後、50μg/mLのOxLDL(サーモフィッシャー、商品番号L34358)を含む培地に置換し、24時間反応させた後に、細胞からトータルRNAを回収した。そして、トータルRNAをcDNA化し、リアルタイムPCR法(illumina製のRealtime PCR ECOを使用)にてLOX-1遺伝子発現量を測定した。図4に、LOX-1遺伝子発現量の測定結果を示す。
【0054】
図4に示す測定結果によれば、全ての被験物質において、Control群よりもLOX-1の発現が少なくなっており、被験物質によるLOX-1遺伝子発現の抑制効果を確認できた。本組成物では、10mg/mLの場合に、Control群に対して有意差を確認できた(p<0.05)。これにより、本組成物には、LOX-1の発現抑制効果があることが確認された。
【0055】
[4.臨床試験]
セレン化合物含有食品(本組成物)のコレステロール低下作用および動脈硬化に対する影響に関する臨床試験を行った。
【0056】
-試験方法-
臨床試験の方法としては、2つの試験食品摂取群としてセレン化合物含有食品摂取群(被験食品群)、プラセボ食品摂取群(対照食品群)を用いたランダム化並行群間二重盲検比較試験を採用した。
【0057】
-被験者-
試験の対象者について、特定保健用食品の「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」では、「コレステロール関係」の対象被験者として定められているLDLコレステロール値が境界域者を対象とすることが望ましいとされており、また未成年者や妊産婦については除外する必要がある。そのため、これらを考慮して、以下の適格基準と除外基準を設けた。なお、適格基準(1)~(6)は、臨床試験の目的を考慮し設定している。適格基準(7)~(11)及び除外基準(1)~(4)は被験者の倫理的配慮のため設定した。
【0058】
<適格基準>
(1)LDLコレステロール値が境界域者及び軽症域者境界域:LDLコレステロール120~139mg/dL
(2)年齢:30歳以上70歳未満であること
(3) 性別:問わない(ただし、男女比に偏りがないよう、各群でなるべく同数となるように設定する)
(4)喫煙習慣のない者
(5)セレン化合物を多量に含む食事(サバなどの魚類)を摂る習慣がない者
(6)サプリメント・健康食品(セレン化合物を含有するものを含む)を常用していない者
(7)生活習慣病(高血圧、糖尿病など)やリウマチ、肝障害、腎障害、その他慢性疾患に罹患していない者
(8)悪性腫瘍,心不全,心筋梗塞の治療の既往歴がない者
(9)セレン化合物を多量に含む魚類、医薬品および紅麹を多量に含む食品、医薬品にアレルギー既往のない者
(10)治療を目的とした通院、投薬をしていない者
(11)臨床試験の内容を十分に理解し、文書による同意を受けている者
【0059】
<除外基準>
(1)妊娠しているもしくは授乳中の女性あるいは試験期間中に妊娠意思のある者
(2)他の治験あるいは臨床試験に参加中の者および3ヶ月以内に他の治験あるいは臨床試験に参加した者
(3)担当医師及び医療機関スタッフの指示に従えない者
(4)その他、試験実施担当者により何らかの問題があると判断された者
【0060】
本試験では、31名について適格性の評価を行い、19名が除外され、上記の適格基準に合致し、除外基準に抵触しない者12名を被験者に組み入れた。そして、被験者12名を、被験食品群の被験者6名と対照食品群の被験者6名とに分けた。なお、被験者の割付方法については、置換ブロック法により被験者を無作為に割り付けた。また、プロトコル逸脱例についてはみられなかった。試験期間中の被験者に対する問診では体調に問題はなく、有害事象は発生しておらず、全てプロトコル通りに試験が実施され、食品摂取率についても全症例で80%以上であり、試験実施中の脱落例は認められなかった。被験者の背景データについて、BMI、収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍数、体温の何れの項目についても、被験食品群と対照食品群の間での有意差は認められなかった。
【0061】
-試験食品、試験食品の摂取方法-
試験食品について、被験食品群に対しては、本組成物(総セレンが5.0μg/g以上、セレノネインが1.0μgSe/g以上)1000mg配合した食品(錠剤4粒あたり)とし、対照食品群に対しては、本組成物0mg配合した食品(錠剤形状:4粒あたり)とした。試験食品は常温保存とし、初回検査日に12週間分を各被験者に渡した。そして、試験期間の最終日に余った試験食品を被験者から回収した。なお、試験食品は盲検化され、食品に割り付けられた識別番号を元に被験者に渡した。盲検化の対象は、試験に関係する者(被験者、介入実施者、評価者など)全員であり、解析対象被験者が固定されるまで、割付表は開封しないこととした。
【0062】
各被験者に対し、(i)摂取期間中、朝食或いは夕食の直後(30分以内)に粒を水とともに摂取すること、(ii)食事内容については特に指定していないが、摂取期間中は暴飲暴食を控えること、(iii)朝食直後に摂取を忘れた場合には夕食直後に、夕食後に飲み忘れた場合には寝るまでに摂取すること、を指導した。但し、被験食品の性質上、食事と併せて摂取することが望ましいため、原則として朝食、或いは夕食の直後(30分以内)に摂取してもらうよう被験者に指導した。
【0063】
-検査スケジュール-
各被験者は、表1に記載のスケジュールで医療機関(試験実施機関)に来院して、検査項目に記載の検査・問診・測定を行った。このスケジュールについて、摂取0週の来院日を起算日としてカウントし、摂取6週時(6w:最初の検査日から42日±6日以内)、摂取12週時(12w:最初の検査日から84日±6日以内)にそれぞれに検査等を行った。なお、摂取6週時では42日±6日以内、摂取12週時では84日±6日以内に来院して検討等を行った場合には、試験結果への影響が少ないと考え、プロトコル遵守例として取り扱うこととした
【0064】
【表1】
【0065】
血液検査(一般項目)では、血液学的検査の測定項目として、白血球数、赤血球数、ヘマトクリット、MCV、MCH、MCHC、血小板数を選定し、血液生化学検査の測定項目として、AST、ALT、γ-GTP、ALP、LDH、総ビリルビン、アルブミン、総タンパク、血糖値、HbA1c、尿素窒素、クレアチニン、GFR、尿酸、ナトリウム、カリウム、カルシウム、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪(TG)を選定した。なお、スクリーニング時の血液検査(一般項目)では、スクリーニング検査としてLDLコレステロールの測定を行い、摂取12週時の血液検査(一般項目)では、血中セレノネインの濃度測定を行った。
【0066】
血液検査(有効性に関する項目)では、測定項目として、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、non-HDLコレステロール、中性脂肪(TG)、レムナント様リポ蛋白コレステロール(RLP-C)、アポリポ蛋白B、リポ蛋白分画精密測定(VLDL、IDL、LDL、HDL)、LOX-indexを選定した。血液検査(一般項目)と重複する測定項目については、1回の検査で1つの測定結果とした。
【0067】
尿検査では、測定項目として、尿タンパク、尿糖、ウロビリノーゲン、ビリルビン、ケトン体、比重、pH、8-OHdGを選定した。
【0068】
-検査内容-
コレステロール値を正確に測るため、被験者は前日の暴飲暴食を控え、検査当日の起床後、朝食を摂取し(被験者が空腹状態でないことを確認)、問診、身体測定、血圧測定、血液検査を行った。
【0069】
初回検査では、担当医師が問診を行い、被験者が対象者の採択基準(スクリーニング時のLDLコレステロールを含む)に合致していることを確認し、血液検査・尿検査(1回目採血・採尿)を行った。被験者に識別番号AもしくはBの試験食品を配布し、採血翌日より試験食品を朝食時もしくは夕食直後に計4粒摂取するよう指示した(摂取回数は朝食直後もしくは夕食直後の1回のみでも、朝食直後および夕食直後の2回に分けて摂取する形でも問題ないこととした)。また、生活日誌(0週~6週目まで)を被験者に渡し、1週間毎に被験食品の摂取状況、食事量などを記載するよう指示した。記載した生活日誌は2回目検査日に持参するよう指示した。
【0070】
初回検査日より42日後(初回検査日から6週間後)に2回目の検査を実施した。検査当日、担当医師は問診を行い、血液検査(2回目採血)を行った。生活日誌(0週~6週目まで)を回収し、新たな生活日誌(7週~12週目まで)を渡した。1週間毎に被験食品の摂取状況、食事量などを記載し、3回目検査日に持参するよう指示した。
【0071】
2回目検査日より42日後(初回検査日から12週間後)に3回目の検査を実施した。検査当日、担当医師は問診を行い、血液検査(3回目採血)を行った。なお、被験者より、試験食品を回収し、生活日誌(7週~12週目まで)についても回収した。回収した試験食品について、生活日誌との整合性に問題ないことを確認した。
【0072】
-統計解析手法-
各データにおける実測値、変化量および変化率を解析データとして使用することとした。統計手法としては、群間比較ではStudent’s t-testにて評価した。摂取前値との比較による群内比較では対応のあるt検定を行った。有意水準は両側5%とした。統計解析ソフトとしては、SPSS Statistics 28.0.1(日本アイ・ビー・エム株式会社)を用いた。
【0073】
-解析結果-
図5図10に、被験食品群で肯定的な結果が得られた検査項目(中性脂肪(図5)、RLP-C(図6)、リポ蛋白分画精密測定VLDL(図7)、リポ蛋白分画VLDL定量(図8)、8-OHdG濃度(図9)、空腹時血糖(図10))のグラフを示す。本試験では、図7-8に示す結果である超低密度リポタンパク質(VLDL)について対照食品群との有意差が6週時に認められ、図6に示す結果であるRLP-Cで有意傾向が6週時に認められた。また、図9に示す結果である8-OHdGでは有意差は認められなかったものの、12週間を通じて被験食品群で低下傾向が見られた。なお、図示は省略するが、6週時には、LH比とアポリポ蛋白Bについても有意差が認められた。本試験では、本組成物にVLDLのレベル(濃度)を低下させる効果があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、セレン化合物を有効成分として含有する組成物等に適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10