(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】フラジェリン由来のTLR5アゴニストを有効成分として含む抗がん剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20241205BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241205BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241205BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241205BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P35/00
A61K39/395 T
A61K45/00
C12N15/31 ZNA
(21)【出願番号】P 2022534645
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 KR2021005734
(87)【国際公開番号】W WO2021246666
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2020-0067728
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510058863
【氏名又は名称】ザ カトリック ユニバーシティ オブ コリア インダストリー-アカデミック コーオペレイション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ソック
(72)【発明者】
【氏名】イム、ゴニル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ナ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヨン ウ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ユン ジン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジュン ソク
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0275128(US,A1)
【文献】特表2017-523180(JP,A)
【文献】特表2019-508444(JP,A)
【文献】PLOS ONE,2014年,Vol.9, No.1:e85587,p.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラジェリン由来のTLR5アゴニストの治療学的有効量を含む、免疫チェックポイント抑制剤の抗腫瘍効果を高めるための医薬用組成物であって、
前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、配列番号2に開示されたアミノ酸配列
のみを含
み、該免疫チェックポイント抑制剤は、抗PD-1抗体である、組成物。
【請求項2】
前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、フラジェリンのD0ドメイン及びD1ドメインを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、D1ドメインの内部に配列番号1に開示されたアミノ酸配列のリンカーペプチドを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、腫瘍微小環境を調節することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、脾臓とリンパ節でM1(F4/80+CD206-)分極を増加させ、M2(F4/80+CD206+)分極を減少させることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、がん細胞の成長阻害活性を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗PD-1抗体は、アベルマブ(avelumab)、トリメリムマブ(Tremelimumab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumav)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)、ランブロリズマブ
(Lamvrolizumab)、AMP-224、MEDI4376及びCT-011からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、請求項
1に記載の組成物。
【請求項8】
薬剤学的に許容される担体を含むことを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項
8の組成物を含む、薬学的製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラジェリン由来のTLR5アゴニストを有効成分として含む抗がん剤組成物に関する。
【0002】
本発明を支援した国家研究開発事業に対して、課題固有番号は1465029638、課題番号はHI14C3417020019、部処名は保健福祉部、課題管理機関名は韓国保健産業振興院、研究事業名は先導型特性化研究事業(R&D)、研究課題名は低分子遊離基除去材基盤免疫及び非免疫組織損傷治療のための新薬開発、研究期間は2019-08-01~2019-11-30である。
【0003】
また、本発明を支援した国家研究開発事業に対して、課題固有番号は1345331440、課題番号は2020R1I1A1A01067669、部処名は教育部、課題管理機関名は韓国研究財団、研究事業名は理工学学術研究基盤構築(R&D)、研究課題名は再発性/不応性リンパ腫でトール様受容体リガンドを活用した自家造血幹細胞移植の免疫再構成加速化及び残存腫瘍の除去率向上に関する研究、研究期間は2020-06-01~2023-05-31である。
【背景技術】
【0004】
TLR5(Toll-like receptor 5)は、人間においてTLR5遺伝子によって暗号化されたタンパク質であって(PNAS.95(2):588-93)、TLR(toll-like receptor)ファミリの一員である。TLR5は、侵入する運動性細菌のフラジェリン(flagellin)を認識できると知られている(Seminars in Immunopathology.29(3):275-88)。TLR5は、炎症性腸疾患を含む多様な疾患の開始に関与すると知られている(Journal of Physiology and Pharmacology.60 Suppl 4:71-5)。
【0005】
フラジェリン(Flagellin)は、運動する細胞小器官である、バクテリア鞭毛のフィラメントを構成する主な構造タンパク質である。数万のフラジェリン分子が螺旋状に重合されて長い鞭状のフラジェラフィラメントを形成する。フラジェリンは、D0ドメイン(domain)、D1ドメイン、D2ドメイン、D3ドメインを含み、そのうち、D0ドメインとD1ドメインフィラメントの組み立てに必要である。フラジェリンのD0及びD1ドメインは、多様なバクテリア種にわたって構造及び配列が高度に保存されており、宿主にバクテリア感染を知らせる、鞭毛を有するバクテリアの共通分子パターンとして機能する。フラジェリンは、TLR5により認識され、NF-κBシグナル伝達メカニズムを活性化させることで、先天性免疫刺激、細胞保護及び放射線抵抗性を誘導することが知られている。
【0006】
一方、がんは現代人の死亡原因で最も多くの比重を占めている疾患の1つであって、様々な原因によって発生した遺伝子の突然変異により正常細胞が変化して発生した疾病であり、正常な細胞の分化、増殖、成長形態などに従わない腫瘍のうち悪性であることを指称する。がんとは、「制御されていない細胞成長」として特徴付けられ、このような異常な細胞成長によって腫瘍(tumor)と呼ばれる細胞塊が形成され、周囲の組織に浸透し、ひどい場合は身体の他の器官に転移することもある。がんは、手術、放射線及び薬物療法などで治療を行っても、多くの場合は根本的な治癒にはならず、患者に苦痛を与え、最終的には死に至らせる難治性慢性疾患である。
【0007】
がんに対する薬物治療、すなわち抗がん剤は、一般に細胞毒性を有している化合物であって、がん細胞を攻撃して死滅させる方式でがんを治療するが、がん細胞だけでなく正常細胞にも損傷を与えるため高い副作用を有する。したがって、副作用を減少させるために標的抗がん剤が開発された。しかし、このような標的抗がん剤の場合は、副作用は低められたが、高い確率で耐性が生じるという限界点を有していた。よって、最近は体内の免疫体系を用いて毒性及び耐性による問題を減少させる免疫抗がん剤に対する関心が急増している趨勢である。このような免疫抗がん剤の一例として、がん細胞表面のPD-L1に結合し、T細胞のPD-1との結合を抑制してT細胞を活性化させ、がん細胞を攻撃させる免疫チェックポイント抑制剤(Immune checkpoint blockade)が開発された。
【0008】
最近、PD-1(programmed death-1)、CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte antigen-)などを標的とする免疫チェックポイント抑制剤の開発により腫瘍患者の治療反応率が著しく改善し、実際、抗PD-1の投与は、黒色腫と非小細胞肺がんでは40~45%の腫瘍反応率、尿路上皮細胞がんでは13~24%の腫瘍反応率、再発性/不応性ホジキンリンパ腫では87%の反応率と17%の完全寛解を示す成果を示した。但し、まだ該当薬が適用されるがん腫と患者は制限的であり、一次反応が現れても急速に再発する問題があるのが実情である。
【0009】
これによって、本発明者らは、フラジェリン由来のTLR5(Toll-like receptor 5)の新規なペプチドアゴニスト(agonist)を開発し、前記TLR5アゴニストの単独又は併用的療法により、抗がん剤組成物としての可能性を実験的に確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、フラジェリン由来のTLR5アゴニスト及び薬学的に許容される担体を含む抗がん剤組成物を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的及び技術的特徴は、以下の発明の説明、請求の範囲、及び図面によってより具体的に提示される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一具現例によると、フラジェリン由来のTLR5アゴニストの治療学的有効量を含む抗がん剤組成物に関する。
【0013】
本発明において、前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、フラジェリンのD0ドメイン及びD1ドメインを含むものであってもよい。
【0014】
本発明において、前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、D1ドメインの内部に配列番号1に開示されたアミノ酸配列のリンカーペプチドを含むものであってもよい。
【0015】
本発明において、前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、配列番号2に開示されたアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0016】
本発明において、前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、腫瘍微小環境を調節するものであってもよい。
【0017】
本発明において、前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストは、脾臓とリンパ節でM1(F4/80+CD206-)分極を増加させ、M2(F4/80+CD206+)分極を減少させるものであってもよい。
【0018】
本発明において、前記組成物は、がん細胞の成長阻害活性を有するものであってもよい。
【0019】
本発明において、フラジェリン由来のTLR5アゴニストの治療学的有効量を含む抗がん剤組成物は、免疫チェックポイント抑制剤をさらに含むものであってもよい。
【0020】
本発明において、前記免疫チェックポイント抑制剤は、抗PD-1抗体であってもよい。
【0021】
本発明において、前記抗PD-1抗体は、アベルマブ(avelumab)、トリメリムマブ(Tremelimumab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumav)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)、ランブロリズマブ(Lamvrolizumab)、AMP-224、MEDI4376及びCT-011からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0022】
本発明において、フラジェリン由来のTLR5アゴニストの治療学的有効量を含む抗がん剤組成物は、薬剤学的に許容される担体を含んでもよい。
【0023】
本発明の他の具現例によると、本発明によるフラジェリン由来のTLR5アゴニストの治療学的有効量を含む抗がん剤組成物を含む薬学的製剤に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、フラジェリン由来のTLR5アゴニストを有効成分として含む抗がん剤組成物に関する。本発明のフラジェリン由来のTLR5アゴニストは、単独又は免疫チェックポイント抑制剤と共に、抗がん又は抗がん補助の効果を奏することができるため、がん細胞の成長阻害活性成分として開発できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、MC-38細胞株が移植されたC57BL/6(H-2kb)大腸がんマウス動物モデルに、配列番号2のアミノ酸配列のポリペプチドである、本発明によるTLR5アゴニスト(以下、配列番号2のTLR5アゴニストを「KMRC011」ともいう)及び抗PD-1抗体を投与することによる実験全般を示す模式図である。
【
図2】
図2は、大腸がんマウスモデルにおいて、本発明によるTLR5アゴニスト及び抗PD-1抗体の単独又は併用投与による腫瘍移植日後における投与物質毎の腫瘍サイズを示した実験結果グラフである。
【
図3】
図3は、大腸がんマウスモデルにおいて、本発明によるTLR5アゴニスト及び抗PD-1抗体の単独又は併用投与による抗がん抑制効果を示す実験結果の写真である。
【
図4】
図4は、大腸がんマウスモデルにおいて、本発明によるTLR5アゴニスト及び抗PD-1抗体の単独又は併用投与による脾臓とリンパ節細胞におけるフローサイトメトリー(flow cytometry)の免疫プロファイリングを分析した結果である。
【
図5】
図5は、大腸がんマウスモデルにおいて、本発明によるTLR5アゴニスト及び抗PD-1抗体の単独又は併用投与による脾臓とリンパ節細胞におけるM1分極及びM2分極の変化を示した図である。
【
図6】
図6は、B細胞リンパ腫マウスモデルにおいて、配列番号2のアミノ酸配列のポリペプチドである、本発明によるTLR5アゴニスト及び抗PD-1抗体投与による実験全般を示す模式図である。
【
図7】
図7は、それぞれ異なるA20-Luc-GFP細胞数の生物学的発光を測定し、細胞数による生物学的発光の程度を確認した結果を示した図である。
【
図8】
図8は、B細胞リンパ腫マウスモデルにおいて、本発明によるTLR5アゴニスト及び抗PD-1抗体の単独又は併用投与による腫瘍移植日後における投与物質毎の腫瘍サイズを示した実験結果グラフである。
【
図9】
図9は、B細胞リンパ腫マウスモデルにおいて、本発明によるTLR5アゴニスト及び抗PD-1抗体の単独又は併用投与による腫瘍移植日後における投与物質毎の腫瘍サイズを示した実験結果グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は種々の他の形態に変形でき、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるのではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で通常の知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0027】
上記のような目的を達成するために、本発明は、フラジェリン由来のTLR5アゴニスト(agonist)の治療学的有効量を含む抗がん剤組成物を提供する。
【0028】
本発明で使用される用語「フラジェリン由来のTLR5アゴニスト」は、バクテリアのフラジェリンタンパク質から来由するか、又はこれを変形させたものであり、TLR5(Toll-like receptor 5)によるシグナル伝達を活性化させる活性を有するタンパク質又はポリペプチドをすべて含む意味である。
【0029】
本発明で使用される用語「フラジェリン(flagellin)」は、バクテリア鞭毛のフィラメントを構成する主なタンパク質を指す。フラジェリンは、D0ドメイン(domain)、D1ドメイン、D2ドメイン、D3ドメインを含んでなる。フラジェリンは、TLR5により認識され、NF-κBシグナル伝達メカニズムを活性化させることで、先天性免疫刺激、細胞保護及び放射線抵抗性を誘導することが知られている。
【0030】
本発明の一具現例によると、前記「フラジェリン由来のTLR5アゴニスト」ペプチド物質として、フラジェリンのD0ドメイン及びフラジェリンのD1ドメインを含んでもよい。
【0031】
本発明の他の具現例によると、前記「フラジェリン由来のTLR5アゴニスト」は、フラジェリンのD0ドメイン、フラジェリンのD1ドメイン、及びリンカーペプチドを含んでもよい。
【0032】
本発明の他の具現例によると、前記リンカーペプチドは、D1ドメインの内部に含まれてもよい。
【0033】
本発明の他の具現例によると、前記リンカーペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0034】
本発明の他の具現例によると、前記「フラジェリン由来のTLR5アゴニスト」は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0035】
本発明の他の具現例によると、前記「フラジェリン由来のTLR5アゴニスト」は、腫瘍微小環境を調節することによりがん細胞の成長阻害活性を示すことができる。具体的に、前記「腫瘍微小環境を制御すること」は、脾臓とリンパ節でM1(F4/80+CD206-)分極を増加させ、M2(F4/80+CD206+)分極を減少させることを意味する。
【0036】
本発明で使用される用語「がん」は、通常制御されていない細胞成長を特徴とする、哺乳動物における生理学的疾患であり、すべての新生細胞の成長及び増殖(悪性であっても良性であっても)、及びすべての前がん性及びがん性細胞及び組織を意味する。
【0037】
前記がんは、黒色腫、皮膚がん、肺がん、肝がん、胃がん、膵腸がん、骨がん、頭部又は頸部がん、子宮がん、卵巣がん、乳がん、卵管がん腫、子宮体がん腫、子宮頸がん腫、膣がん腫、陰門がん腫、ホジキン病、食道がん、小腸がん、大腸がん、結腸がん、直腸がん、肛門周囲がん、内分泌腺がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、前立腺がん、慢性又は急性白血病、リンパ球リンパ腫、膀胱がん、腎臓又は尿管がん、腎細胞がん腫、腎臓骨盤がん腫、中枢神経系腫瘍、一次中枢神経系リンパ腫、脊髓腫瘍、脳幹神経膠腫及び脳下垂体腺腫からなる群より選択されてもよいが、これらに制限されるのではない。本発明の一具現例によると、本発明のフラジェリン由来のTLR5アゴニストは、大腸がんに予防又は治療効果を奏する。前記大腸がんは、大腸に生じたがん細胞からなる悪性腫瘍を意味する。
【0038】
本発明の一具現例によると、本発明のフラジェリン由来のTLR5アゴニストは、B細胞リンパ腫に対して予防又は治療の効果を奏する。前記B細胞リンパ腫は、低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小型リンパ球性(SL)NHL、中悪性度/濾胞性NHL、中悪性度広汎性NHL、高悪性度免疫芽球性NHL、高悪性度リンパ芽球性NHL、高悪性度小型非分裂細胞NHL、bulky病変NHL及びウォルデンストローム(Waldenstrom)マクログロブリン血症からなる群より選択されてもよいが、これらに制限されるのではない。
【0039】
一方、本発明の組成物は、フラジェリン由来のTLR5アゴニストの治療学的有効量を含む組成物に、免疫チェックポイント抑制剤をさらに含む抗がん剤組成物の形態で提供されてもよい。
【0040】
生体の免疫システムは、T細胞の過剰増殖による過剰免疫反応を抑制するための免疫チェックポイント体系を有しており、免疫チェックポイントは、T細胞の過活性化及び/又は過剰増殖による過剰免疫反応を抑制する機能を行うが、がん細胞は、前記免疫チェックポイントを悪用してT細胞が自身を攻撃できないようにすることにより、免疫システムによる攻撃を回避することでがんを誘発する。
【0041】
前記免疫チェックポイント抑制剤は、免疫チェックポイント(immune checkpoint)に関与するタンパク質である免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)を標的とする抗体を含むことでがんなどの疾患を治療することができる。免疫チェックポイント抑制剤は、抗体、融合タンパク質、アプタマー、又はそれらの免疫チェックポイントタンパク質の結合断片であってもよい。
【0042】
前記免疫チェックポイント抑制剤は、抗免疫チェックポイントタンパク質抗体又はその抗原結合断片であってもよい。好ましくは、免疫チェックポイント抑制剤は、抗CTLA4抗体、その誘導体又はその抗原結合断片;抗PD-1抗体、その誘導体又はその抗原結合断片;抗LAG-3抗体、その誘導体又はその抗原結合断片;抗OX40抗体、その誘導体又はその抗原結合断片;抗TIM3抗体、その誘導体又はその抗原結合断片;及び抗PD-1抗体、その誘導体又はその抗原結合断片のうちから選択されてもよい。さらに好ましくは、アベルマブ(avelumab)、トリメリムマブ(Tremelimumab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumav)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)、ランブロリズマブ(Lamvrolizumab)、AMP-224、MEDI4376及びCT-011からなる群より選択される1種以上であってもよいが、これらに制限されるのではない。
【0043】
本発明の組成物は、フラジェリン由来のTLR5アゴニストの治療学的有効量及び薬学的に許容される担体を含む抗がん剤組成物の形態で提供されてもよい。
【0044】
本発明において用語「治療学的有効量」は、有効成分である「フラジェリン由来のTLR5アゴニスト」を対象患者に投与してがん腫に対する抗がん効果を起こすのに適した量を意味し、具体的に前記「治療学的有効量」は、治療する疾患又は状態のいずれか一方以上の症状をある程度緩和させる、投与される薬剤又は化合物の十分な量を意味する。
【0045】
前記フラジェリン由来のTLR5アゴニストの治療学的有効量、及び薬学的に許容される担体を含む抗がん剤組成物の好ましい投与量は、適切に調節されてもよい。前記組成物は、好ましくは1日当たりの投与量を基準として50~150ug/kgであってもよい。
【0046】
本発明の組成物は、有効成分である「フラジェリン由来のTLR5アゴニスト」に加えて、薬学的に許容される担体を含んでもよく、このような担体は、製剤時に通常用いられるものとして、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メントール及びミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるのではない。
【0047】
本発明の組成物は、上記成分に加えて、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでもよい。適切な薬学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences (19th ed.,1995)に詳しく記載されている。
【0048】
本発明の組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって多様に処方され得る。
【0049】
本発明の組成物は、経口又は非経口で投与することができ、非経口で投与される場合、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、経皮投与などで投与することができ、本発明の組成物に含まれる有効成分の濃度は、治療目的、患者の状態、必要期間などを考慮して決定でき、特定の範囲の濃度に限定されない。
【0050】
本発明の組成物は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することにより、単位用量形態に製造されるか又は多用量容器内に入れて製造することができる。この場合、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、エキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含んでもよい。
【0051】
本発明の他の目的を達成するため、本発明は、フラジェリン由来のTLR5アゴニスト(agonist)の治療学的有効量、及び薬学的に許容される担体を含む、抗がん剤組成物を含む薬学的製剤を提供する。
【0052】
上記目的を達成するために、本発明の組成物は、そのもので又は薬剤学的分野で通常許容される担体と共に配合することで、薬剤学的分野における通常の製剤に剤形化できる。好ましくは、前記通常の製剤は、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤などの経口投与用製剤、注射用製剤又は懸濁液などの多様な製剤であってもよく、経口投与時に薬剤が胃酸により分解することを防止するために、制酸剤を併用するか、又は錠剤等の経口投与用固形製剤を腸溶皮で被覆した製剤に剤形化して投与してもよい。
【実施例】
【0053】
[実験方法]
(1.大腸がんマウスモデル)
(1)腫瘍マウスモデルの確立及び腫瘍サイズの分析
大腸がん細胞株であるMC-38を韓国細胞株バンク(韓国、ソウル)から購入し、1%抗生剤(10U/mLペニシリン及び10g/mLストレプトマイシン;Gibco)、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS;Gibco)を含有するDMEM培地(Gibco、Carlsbad、CA、USA)でMC-38細胞を成長させた。
【0054】
成長したMC-38細胞株(1×106)を滅菌生理食塩水に再懸濁し、200μl用量でC57BL6マウスの皮下に移植して腫瘍マウスモデルを導入した。本願発明であるTLR5アゴニストの抗がん効果を比較するため、抗PD-1を陽性対照群として、生理食塩水を陰性対照群として用いた。また、抗PD-1及びTLR5アゴニストを同時に併用投与し、併用投与による効果も確認した。形成された腫瘍のサイズは、移植後11日目から2~3日間隔で測定し、wide2×length×0.5の式によって計算した。移植後10日目及び26日目にマウスを安楽死させて脾臓、リンパ節を採取した。
【0055】
(2)組織単細胞の分離
マウスから採取した脾臓及びリンパ節組織を2つの不透明スライドガラスの粗面の間に置き、スライドガラスを互いに揉んで組織を単細胞単位に分離した後、分離した脾臓細胞をアンモニウム-クロリド-ポタシウム溶解溶液(ACK Lysing Buffer;Gibco)で処理して赤血球を溶解した。その後、脾臓及びリンパ節細胞を1%抗生剤(10U/mLペニシリン及び10g/mLストレプトマイシン;Gibco)、5%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS;Gibco)を含有するRPMI 1640培地に再懸濁した。
【0056】
(3)フローサイトメトリー
マウスの脾臓細胞又はリンパ節細胞をフローサイトメーターにより評価した。マクロファージのM1又はM2分極を調べるために、MC-38細胞株を移植したマウスの脾臓及びリンパ節細胞を染色緩衝液で洗浄して染色緩衝液で再懸濁した後、抗マウスCD206 PE(BioLegend、San Diego、CA、USA)と、抗マウスF4/80 Alexa Fluor 700(BioLegend、San Diego、CA、USA)とで4℃で30分間免疫染色した。染色の後、脾臓及びリンパ節細胞を染色緩衝液で洗浄し、染色緩衝液で再懸濁した。その後、FlowJoソフトウェア(TreeStar、Ashland、OR、USA)を用いてFACS_LSR Fortessa (BD Pharmingen、San Diego、CA、USA)でフローサイトメトリー分析を用いて評価した。
【0057】
(2.B細胞リンパ腫マウスモデル)
(1)腫瘍細胞株
B細胞リンパ腫細胞株であるA20-Luc-GFPは、Imanis Life Sciences(アメリカ、ニューヨーク)から購入した。A20-Luc-GFPは、A20細胞株にLV-eGFP-P2A-Neo形質転換遺伝子を導入したもので、ルシフェラーゼ(luciferase)と緑色蛍光タンパク質を発現する。ルシフェラーゼは、生物発光有機体の細胞で発見される化学物質であるルシフェリンをATPの触媒効果で酸化しながら光を生成する酵素である。
前記A20-Luc-GFP細胞株を1%抗生剤(10U/mLペニシリン及び10g/mLストレプトマイシン;Gibco)、10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS;Gibco)を含有するRPMI培地(Gibco、Carlsbad、CA、USA)で増殖させた。
【0058】
(2)腫瘍マウスモデルの確立及び腫瘍サイズの分析
増殖したA20-Luc-GFP細胞株(1×106)を滅菌生理食塩水で再懸濁し、200μl用量でBALB/Cマウスの皮下に移植して腫瘍マウスモデルを導入した。本願発明であるTLR5アゴニストの抗がん効果を比較するために抗PD-1を陽性対照群として、生理食塩水を陰性対照群として用いた。また、抗PD-1及びTLR5アゴニストを同時に併用投与し、併用投与による効果も確認した。移植の後、9日目から3日間隔で総3回、腹腔内に上記薬物を投与した。形成された腫瘍のサイズは、移植後12日目から3~4日間隔で測定した。
【0059】
(3)生物学的発光の分析
RPMI培地に懸濁させたA20-Luc-GFP細胞株を96ウェルプレートに200μl用量で1×102細胞数から1×105細胞数まで分注し、ルシフェリンを150ug/mlの濃度で注入した後、生物学的発光を測定することによって、細胞数による生物学的発光程度を確認した。腫瘍移植マウスにルシフェリンを150mg/kg腹腔内注射し、ルシフェラーゼを発現する腫瘍の生物学的発光を測定することによって、生体内における腫瘍成長の程度を確認した。生物学的発光は、生体内蛍光分光分析機(IVIS Lumina XRMS)で測定した。
【0060】
本発明のTLR5アゴニストによる単独又は併用投与による抗がん効果を観察するため、腫瘍マウスモデルを誘導した後、投与物質毎の腫瘍の成長を比較した。
【0061】
[実験結果]
(1.大腸がんマウスモデル)
(1)腫瘍マウスモデルにおけるTLR5アゴニストによる抗がん効果の検証
本発明のTLR5アゴニストによる単独又は併用投与による抗がん効果を観察するために、腫瘍マウスモデルを誘導した後、投与物質毎の腫瘍の成長を比較した。
【0062】
先ず、MC-38細胞株が移植されたマウスの腹腔内に、移植後6日目から3日間隔で総3回ずつ生理食塩水200μl/kg(対照群:●)、TLR5アゴニスト100μg/kg(■)、抗PD-1 200μg/mice(▲)を各単独で投与し、抗PD-1及びTLR5アゴニスト(▼)を併用投与して抗がん効果を観察し、上記の結果を
図2に示した。
【0063】
図2に示したように、本願発明のTLR5アゴニストは、腫瘍の成長速度を遅延させた。このような抗がん効果は、陽性対照群である抗PD-1より腫瘍の生長が著しく抑制されたことが確認された。また、上記の実験結果より、本発明のTLR5アゴニスト及び抗PD-1の併用投与は、各物質の単独投与に比べて抗腫瘍に上昇したシナジー効果があることが分かる。
【0064】
一方、MC-38細胞株が腹腔内に移植されたマウスをモニタリングし、その結果を
図3に示した。マウスにおけるがんのサイズは、陰性又は陽性対照群と比較した場合、本願発明のTLR5アゴニストの投与により小さくなったことが観察された。このような結果は、本発明のTLR5アゴニスト(「KMRC011」)が免疫チェックポイント抑制剤として用いられて効果的な抗がん剤として使用可能であるだけでなく、従来の免疫チェックポイント抑制剤と併用投与されることで、腫瘍の治療にシナジー効果を有する抗がん補助剤として使用可能であることを意味する。
【0065】
(2)TLR5アゴニストによる腫瘍微小環境調節の確認
本発明のTLR5アゴニストが免疫チェックポイント抑制剤として腫瘍微小環境変化を誘導するか否かを確認するため、腫瘍マウスモデルにおける投与物質毎のマウスの脾臓とリンパ節細胞の免疫プロファイリングをフローサイトメトリーで評価した。このために、本発明者らは、マウスの脾臓とリンパ節細胞からM1及びM2マクロファージの分化条件を確立した。一般に、M1マクロファージは、腫瘍攻撃性を有し、抗がん効果があると知られており、M2マクロファージは、がんに優しい腫瘍支持性マクロファージとして腫瘍を成長させると知られている。したがって、前記M1/M2マクロファージの分極度変化を通じて、本発明のTLR5アゴニストが腫瘍細胞株の腫瘍微小環境を調節して抗がん効果を有するか否かを確認した。
【0066】
腫瘍動物モデルに、生理食塩水、TLR5アゴニスト及び抗PD-1を各単独で投与、抗PD-1及びTLR5アゴニストを併用して投与した後、マウスの脾臓とリンパ節細胞からM1及びM2マクロファージをフローサイトメーターで観察して分極度(polarization)を確認し、その結果を
図4及び
図5に示した。TLR5アゴニストを処理した脾臓とリンパ節細胞の場合、M1マクロファージ(F4/80+ CD206-)の分極度は増加させる一方、M2マクロファージ(F4/80+ CD206+)の分極度は減少させることが確認された。このように、TLR5アゴニストは、免疫チェックポイント抑制剤の反応を高めるために、免疫細胞サブタイプであるM1及びM2マクロファージの分布を調節できることが確認される。
【0067】
したがって、本発明のTLR5アゴニスト(「KMRC011」)は、単独又は従来の免疫チェックポイント抑制剤と併用して腫瘍微小環境を変化させることで、抗腫瘍効果を最適に発揮できる環境を作り出せることが分かる。
【0068】
(2.B細胞リンパ腫マウスモデル)
(1)A20-Luc-GFP細胞株の生物学的発光の検証
A20-Luc-GFP細胞株を1×10
2細胞数から1×10
5細胞数までそれぞれ異なる細胞数の生物学的発光を測定し、細胞数による生物学的発光程度を確認してその結果を
図7に示した。細胞数の増加によって生物学的発光程度も比例して増加することが確認された。このような結果は、A20-Luc-GFP細胞株を用いて腫瘍マウスモデルを導入したときに形成された腫瘍の生物学的発光を測定する場合、生体内における腫瘍の成長程度を確認できることを意味する。
【0069】
(2)腫瘍マウスモデルにおけるTLR5アゴニストによる抗がん効果の検証
本発明のTLR5アゴニスト(「KMRC011」)の単独又は併用投与による抗がん効果を観察するために、腫瘍マウスモデルを誘導した後、投与物質毎の腫瘍の成長を比較した。
マウスの皮下にA20-Luc-GFP細胞株を移植した後9日目から3日間隔で総3回ずつ生理食塩水200μl/mice、TLR5アゴニスト100μg/kg、抗PD-1 200μg/miceを各単独で投与し、抗TLR5アゴニスト及び抗PD-1を併用投与した。生物学的発光を測定して抗がん効果を観察し、上記の結果を
図6に示した。
図8ないし9に示したように、本願発明のTLR5アゴニストは、腫瘍の成長速度を遅延させた。また、上記の実験結果より、本発明のTLR5アゴニスト及び抗PD-1の併用投与は、各物質の単独投与に比べて抗腫瘍に上昇したシナジー効果があることが分かる。
【0070】
A20-Luc-GFP細胞株が移植されたマウスに形成された腫瘍のサイズをBLIで測定し、その結果を
図9に示した。マウスにおけるがんのサイズは、陰性対照群(●)、TLR5アゴニスト投与群(■)、抗PD-1投与群(▲)と比較したとき、本発明のTLR5アゴニスト及び抗PD-1の併用投与(▼)によって小さくなったことが観察された。このような結果は、本発明のTLR5アゴニスト(「KMRC011」)が単独で抗腫瘍効果を有するだけでなく、従来の免疫チェックポイント抑制剤と併用投与すると、腫瘍の治療にシナジー効果を有する抗がん補助剤として使用可能であることを明らかにした。
【0071】
以上、本発明の内容の特定部分を詳しく説明したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的技術はただ好ましい実施様態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されるのではないことは明白であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれらの等価物によって定義されると言える。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、フラジェリン由来のTLR5アゴニストを有効成分として含む抗がん剤組成物に関し、本発明のフラジェリン由来のTLR5アゴニストは、単独又は免疫チェックポイント抑制剤と共に抗がん又は抗がん補助の効果を奏する。
【配列表】