(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】CCL28走化性経路を遮断することによる胃がんの治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20241205BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241205BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241205BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241205BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20241205BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20241205BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALN20241205BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20241205BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20241205BHJP
G01N 33/574 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P35/00
C12Q1/02
G01N33/15 Z
C07K16/18
C12N15/113 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
G01N33/574 A
(21)【出願番号】P 2022540810
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 CN2020113566
(87)【国際公開番号】W WO2021135350
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】201911408316.3
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】524283970
【氏名又は名称】チャンジェン セラピューティクス (シャンハイ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高▲維▼▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼斌
(72)【発明者】
【氏名】冀露
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-516324(JP,A)
【文献】FACCIABENE, Andrea et al.,Nature,2011年,Vol. 475,No. 7355,p.226-230,DOI:10.1038/nature10169
【文献】ZHOU, Ying et al.,Fudan University Journal of Medical Sciences,2013年,Vol. 40, No. 3,pp. 314-318,DOI: 10.3969/j.issn.1672 8467.2013.03.012
【文献】Buchanan, T. F. et al.,FASEB Journal,2017年,Vol. 31, No. 1, Supplement 1,Abstract No. 809.4,EMBASE [online], CAS [retrieved on 2024.03.25], Retrieved from: STN, Accession No. 0052615236
【文献】ZHANG et al.,High Throughput Screening and Identification of Growth Factors and Chemokines Derived by Gastric Cancer Associated Fibroblast,China Doctoral Dissertations Full-text Database Medicine and Health Collection,2010年
【文献】BAE et al.,Abstract 1435: Functional expression of chemokine receptor, CCR10,in patients with gastric cancer,Cancer Research,2010年,Vol. 70, No. 8_Supplement,p.1435-1435,DOI: 10.1158/1538-7445.AM10-1435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃がんを治療するための医薬組成物の調製のための、CCL28阻害剤の使用であって、
前記胃がんは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路およびケモカインCCL28関連分子の発現が同時に異常にアップレギュレートされる胃がんであり、前記ケモカインCCL28関連分子は、CCL28の遺伝子、CCL28のタンパク質、またはそれらの組み合わせであ
り、
前記CCL28阻害剤は、CCL28を標的とする抗体であることを特徴とする、使用。
【請求項2】
前記胃がんの病理学的症状は、
(1)胃組織におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路関連発現のアップレギュレーション、
(2)胃組織におけるケモカインCCL28発現のアップレギュレーション、
(3)胃腫瘍、
(4)胃壁細胞の喪失、および
(5)胃組織制御性T細胞の増加
からなる群から選択される一つまたは複数の病理学的症状を有することを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記胃がんは、insitu胃がん、腸型胃がん、およびびまん性胃がんを含むことを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路関連発現は、転写因子TCF1およびTCF4の発現レベル、β-カテニンの含有量、β-カテニン核異所性レベル、β-カテニン/TCF4複合体の転写活性、GSK3βリン酸化レベルまたはそれらの組み合わせを含むことを特徴とする、
請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前記ケモカインCCL28関連分子は、CCL28のmRNA、CCL28のタンパク質、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記胃がんは、CCL28の遺伝子またはCCL28のタンパクの検出試薬によって検出されることができることを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記試薬は、前記ケモカインCCL28関連分子の特異的プライマー、特異性抗体、プローブおよび/またはチップを含み、
前記チップは、核酸チップ、タンパク質チップ、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、
請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記胃がんは、キットによって検出されることができ、
前記キットには容器が含まれ、前記容器には、CCL28タンパク質またはmRNAを検出するための検出試薬、およびラベルまたは説明書が含まれ、前記ラベルまたは説明書には、前記キットは胃がんの検出に使用されることが記載されることを特徴とする、
請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記検出試薬は、特異的プライマー、特異性抗体、プローブおよび/またはチップを含み、前記チップは、核酸チップ、タンパク質チップ、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、
請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記ラベルまたは説明書に記載される内容が、
傍がん性組織におけるCCL28タンパク質のmRNA発現量に対する被験対象におけるCCL28タンパク質のmRNA発現量の比率A1/A0が≧2である場合、当該A1/A0比が高いほど、前記被験対象の胃がんの悪性の程度が高いことを示すことである、
請求項8に記載の使用。
【請求項11】
胃がんを治療するための候補化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)試験群において、試験化合物を細胞の培養系に添加し、試験群の前記細胞におけるCCL28関連分子の発現量および/または活性を観察し、対照群において、試験化合物を同じ細胞の培養系に添加せず、対照群の前記細胞におけるCCL28関連分子の発現量および/または活性を観察する段階を含み、
ここで、試験群の細胞におけるCCL28関連分子の発現量および/または活性が対照群よりも低い場合、当該試験化合物がCCL28関連分子の発現および/または活性に対して阻害効果を有する胃がん治療の候補化合物であることを表し、
前記胃がんは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路およびケモカインCCL28関連分子の発現が同時に異常にアップレギュレートされる胃がんであり、前記ケモカインCCL28関連分子は、CCL28の遺伝子、CCL28のタンパク質、またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、
胃がんを治療するための候補化合物をスクリーニングする方法。
【請求項12】
治療を必要とする対象に安全かつ有効量のCCL28阻害剤を投与する段階を含む胃がんを阻害または治療する方法
における使用
のための、CCL28阻害剤
を含む医薬組成物であって、
前記胃がんは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路およびケモカインCCL28関連分子の発現が同時に異常にアップレギュレートされる胃がんであり、
前記ケモカインCCL28関連分子は、CCL28の遺伝子、CCL28のタンパク質、またはそれらの組み合わせであ
り、
前記CCL28阻害剤は、CCL28を標的とする抗体であることを特徴とする、
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、生物医学の分野に関し、具体的には、本発明は、CCL28走化性経路を遮断することによる胃がんの治療方法に関する。
【0002】
[背景技術]
急速に発展する免疫療法は、無数の癌患者に希望をもたらした。胃がんの分子特徴は、胃がんのEBV関連サブタイプがPD-L1発現の上昇を示したことを表し、抗PD免疫治療がこれらの患者に有効である可能性があることを示唆する。しかしながら、黒色腫および肺がんに比較して、胃がんの免疫微小環境および分子メカニズムの複雑さのために、胃がんにおけるこれらの免疫療法の発展は、多くの実際的な困難に直面している。腫瘍の免疫回避メカニズムも、また腫瘍の免疫治療の主要な障害である。制御性T細胞(Treg)は、腫瘍の免疫回避に関与する重要な免疫阻害型細胞のクラスである。その増加は、抗腫瘍のエフェクター免疫細胞の機能および数の減少を引き起こす同時に、腫瘍の免疫治療または他の療法の有効性の弱体化さらには喪失につながることもできる。長期に胃がんを罹患している患者および他の免疫治療を受けている患者にとっては、自己免疫不全およびそれに由来する疾患が致死になる重要な原因である。
【0003】
従って、副作用を低減しながら難治性胃がんに対する効果的な治療スキームが当技術分野で緊急に必要とされる。
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
【0004】
本発明の目的は、副作用を低減しながら難治性胃がんに対する効果的な治療スキームを提供することである。
[課題を解決するための手段]
【0005】
本発明の第1の態様は、CCL28遺伝子またはCCL28タンパク質またはその検出試薬の用途を提供し、胃がんを検出するための試薬またはキットの調製に使用され、前記胃がんは、Wnt/β-カテニン(catenin)シグナル伝達経路およびケモカインCCL28関連分子の発現が同時に異常にアップレギュレートされる胃がんである。
【0006】
別の好ましい例において、前記胃がんの病理学的症状は、
(1)胃組織におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路関連発現のアップレギュレーション、
(2)胃組織におけるケモカインCCL28関連発現のアップレギュレーション、
(3)胃腫瘍、
(4)胃壁細胞の喪失、および
(5)胃組織制御性T(Treg)細胞の増加からなる群から選択される一つまたは複数の病理学的症状を有する。
【0007】
別の好ましい例において、前記胃がんの病理学的症状は、体の免疫応答の低下をさらに含む。
別の好ましい例において、前記胃がんは、insitu胃がん、腸型胃がんおよびびまん性胃がんを含む。
【0008】
別の好ましい例において、前記胃がんは、ヘリコバクターピロリ陰性の胃がんを含む。
別の好ましい例において、前記胃組織は、胃がん腫瘍組織、胃の傍がん性組織、またはその組み合わせを含む。
【0009】
別の好ましい例において、前記Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路関連発現は、転写因子TCF1の発現レベル、転写因子TCF4の発現レベル、β-カテニンの含有量、β-カテニン核異所性レベル、β-カテニン/TCF4複合体の転写活性、GSK3βリン酸化レベルまたはその組み合わせからなる群から選択される。
【0010】
別の好ましい例において、前記ケモカインCCL28関連分子は、CCL28遺伝子(ゲノムのヌクレオチド配列、cDNA配列、および/またはmRNAを含む)、CCL28受容体の遺伝子(ゲノムのヌクレオチド配列、cDNA配列、および/またはmRNAを含む)、CCL28タンパク質、CCL28受容体タンパク質、またはその組み合わせを含む。
【0011】
別の好ましい例において、前記CCL28の受容体は、CCR3、および/またはCCR10を含む。
別の好ましい例において、前記キットは、CCL28関連分子のタンパク質またはmRNAに対して定量的に検出するための試薬および対応するラベルまたは説明書を含む。
【0012】
別の好ましい例において、前記試薬は、CCL28関連分子の特異的プライマー、特異性抗体、プローブおよび/またはチップを含む。
別の好ましい例において、上記の試薬は、核酸チップおよびタンパク質チップ等の検出用チップを含む。
【0013】
別の好ましい例において、前記核酸チップは、基片および基片上にスポットされた癌関連遺伝子の特異的オリゴヌクレオチドプローブを含み、前記癌関連遺伝子の特異的オリゴヌクレオチドプローブは、CCL28関連遺伝子またはmRNAに特異的に結合するプローブを含む。
【0014】
別の好ましい例において、前記タンパク質チップは、基片および基片上にスポットされた癌関連タンパク質の特異性抗体を含み、前記癌関連タンパク質の特異性抗体は、抗CCL28関連タンパク質の特異性抗体を含む。
【0015】
別の好ましい例において、前記CCL28関連タンパク質は、融合タンパク質および非融合タンパク質を含む。
別の好ましい例において、前記試薬またはキットには、標準品としてのCCL28遺伝子(または核酸分子)またはCCL28タンパク質が含まれる。
【0016】
別の好ましい例において、前記CCL28遺伝子(または核酸分子)またはCCL28タンパク質は、野生型および/または突然変異型を含む。
別の好ましい例において、前記試薬またはキットには、CCL28遺伝子またはCCL28タンパク質を検出するための検出試薬が含まれる。
【0017】
本発明の第2の態様は、胃がんを検出するためのキットを提供し、前記キットには、容器が含まれ、前記容器には、CCL28関連タンパク質またはmRNAを検出するための検出試薬、およびラベルまたは説明書が含まれ、前記ラベルまたは説明書には、前記キットが胃がんの検出に使用されることが記載される。
【0018】
別の好ましい例において、前記胃がんは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路およびケモカインCCL28関連分子の発現が同時に異常にアップレギュレートされる胃がんである。
【0019】
別の好ましい例において、前記ラベルまたは説明書に記載される内容は、以下からなる群から選択され、
a)傍がん性組織におけるCCL28関連タンパク質のmRNA発現量A0に対する被験対象のCCL28関連タンパク質のmRNA発現量A1の比率(A1/A0)が≧2である場合、当該被験対象が胃がんに罹患する確率が普通人群よりも高いことを示し、
b)傍がん性組織におけるCCL28関連タンパク質のmRNA発現量に対する被験対象におけるCCL28関連タンパク質のmRNA発現量の比率A1/A0が≧2である場合、当該A1/A0比が高いほど、前記被験対象の胃がんの悪性の程度がより高いことを示し、および
c)傍がん性組織におけるCCL28関連タンパク質のmRNA発現量に対する被験対象におけるCCL28関連タンパク質のmRNA発現量の比率A1/A0が≧2である場合、当該A1/A0比が高いほど、前記被験対象の胃がんの予後がより悪く、転移率がより高いことを示す。
【0020】
別の好ましい例において、前記検出試薬は、特異的プライマー、特異性抗体、プローブおよび/またはチップを含む。
別の好ましい例において、前記キットは、exvivoでのヒト腫瘍組織サンプルまたは血液サンプルを検出するために使用される。
【0021】
別の好ましい例において、前記腫瘍組織サンプルは、胃がんサンプルである。
本発明の第3の態様は、CCL28阻害剤の用途を提供し、癌細胞の成長または増殖を阻害するための医薬組成物を調製するために、または胃がんを治療するための医薬組成物を調製するために、前記胃がんは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路およびケモカインCCL28関連分子の発現が同時に異常にアップレギュレートされる胃がんである。
【0022】
別の好ましい例において、前記阻害剤は、CCL28および/またはその受容体タンパク質を標的とする抗体または小分子阻害剤、CCL28および/またはその受容体遺伝子を標的とする標的核酸分子または遺伝子エディター、またはその組み合わせからなる群から選択される。
【0023】
別の好ましい例において、前記CCL28の受容体は、CCR3、および/またはCCR10を含む。
別の好ましい例において、前記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、抗体コンジュゲート、小分子抗体、抗体融合タンパク質、およびその組み合わせからなる群から選択される。
【0024】
別の好ましい例において、前記小分子抗体は、単鎖抗体ScFv、Fab抗体、Fvフラグメント、およびその組み合わせからなる群から選択される。
別の好ましい例において、前記ScFv抗体は、治療用細胞で発現(過剰発現を含む)される分泌型単鎖抗体を含む。
【0025】
別の好ましい例において、前記治療用細胞は、間葉系幹細胞、CAR-T細胞を含む。
別の好ましい例において、前記ベクターは、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、アデノウイルス等の哺乳動物細胞ウイルス、逆転写ウイルス、または他のベクターを含む。
【0026】
別の好ましい例において、前記阻害剤は、植物抽出物阻害剤、小分子化合物阻害剤、核酸阻害剤、ペプチド阻害剤、多糖類阻害剤、ウイルスベクター阻害剤、リポソームベクター阻害剤、またはナノ粒子ベクター阻害剤からなる群から選択される。
【0027】
別の好ましい例において、前記医薬組成物は、他のWnt/β-カテニンシグナル伝達経路阻害剤をさらに含む。
別の好ましい例において、前記医薬組成物は、腫瘍組織における異常なWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の活性化を相乗的に阻害することができる。
【0028】
別の好ましい例において、前記医薬組成物は、腫瘍組織への制御性T(Treg)細胞の浸潤を阻害し、同時に末梢免疫の活性を増強することができる。
本発明の第4の態様は、癌細胞の成長または増殖を阻害するためのインビトロでの非治療的方法を提供し、CCL28阻害剤の存在下で、癌細胞を培養することにより、癌細胞の成長または増殖を阻害する段階を含む。
【0029】
別の好ましい例において、前記方法は、癌細胞の培養系にCCL28関連分子阻害剤を添加することにより、癌細胞の成長または増殖を阻害する段階を含む。
別の好ましい例において、前記癌細胞は、胃がん細胞である。
【0030】
別の好ましい例において、前記胃がん細胞は、AGS細胞株、SC7901細胞株、AZ-521細胞株、原発性胃がん細胞、またはその組み合わせから選択される。
本発明の第5の態様は、癌を治療するための候補化合物をスクリーニングする方法を提供し、
(a)試験群において、試験化合物を細胞の培養系に添加し、試験群の前記細胞におけるCCL28関連分子の発現量および/または活性を観察し、対照群において、試験化合物を同じ細胞の培養系に添加せず、対照群の前記細胞におけるCCL28関連分子の発現量および/または活性を観察する段階を含み、
ここで、試験群の細胞におけるCCL28関連分子の発現量および/または活性が対照群よりも低い場合、これは、当該試験化合物がCCL28関連分子の発現および/または活性に対して阻害効果を有する癌治療の候補化合物であることを表す。
【0031】
別の好ましい例において、前記細胞は、癌細胞または正常細胞を含む。
別の好ましい例において、前記細胞は、胃がん細胞または胃細胞である。
別の好ましい例において、前記方法は、
(b)段階(a)で得られた候補化合物に対して、癌細胞の成長または増殖に対する阻害効果をさらに試験する段階をさらに含む。
【0032】
別の好ましい例において、前記段階(b)は、試験群において、癌細胞の培養系に試験化合物を添加し、癌細胞の数および/または成長状況を観察し、対照群において、癌細胞の培養系に試験化合物を添加せず、癌細胞の数および/または成長状況を観察する段階をさらに含み、ここで、試験群の癌細胞の数または成長速度が対照群よりも少ない場合、それは、当該試験化合物が癌細胞の成長または増殖に対して阻害効果を有する癌を治療するための候補化合物であることを表す。
【0033】
本発明の第6の態様は、胃がんを阻害または治療するための方法を提供し、治療を必要とする対象(哺乳動物)に安全かつ有効量のCCL28関連分子阻害剤を投与する段階を含み、前記胃がんは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路およびケモカインCCL28関連分子の発現が同時に異常にアップレギュレートされる胃がんである。
[発明の効果]
【0034】
本発明の範囲内で、本発明の上記の各技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に説明される各技術的特徴との間を、互いに組み合わせることにより、新しいまたは好ましい技術的解決策を構成することができることに理解されたい。スペースに限りがあるため、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】β-カテニンシグナル伝達経路が胃がんにおいてCCL28発現を誘導することを示す。
図Aは、β-カテニンを過剰発現する胃がん細胞株SGC7901ケモカインqPCR検出を示す。
図Bは、胃がん細胞株SGC7901およびAGSにおけるβ-カテニンを過剰発現またはノックダウンするβ-カテニンおよびCCL28タンパク質レベルの検出を示す。
図CおよびDは、胃がん患者の組織チップにおけるβ-カテニンおよびCCL28免疫組織化学的検出、陽性率相関分析の結果を示す。
【
図2】CCL28がβ-カテニンシグナル伝達経路の直接的な転写調節標的遺伝子であることを示す。
図Aは、CCL28遺伝子プロモーターのβ-カテニン/TCF転写因子複合体の結合部位の模式図を示す。
図Bは、クロマチン免疫沈降実験により、β-カテニンがCCL28遺伝子プロモーターの予測部位1および3に結合することが証明されることを示す。
図Cは、β-カテニンの過剰発現がCCL28プロモーター活性をアップレギュレートし、結合部位1および3のコア配列突然変異(CCL28.mut)がβ-カテニンの調節効果を失ったことを示す。
図Dは、β-カテニンの過剰発現がWnt経路レポーター遺伝子TOPflashおよびCCL28プロモーター活性をアップレギュレートしたことを示す。Wnt阻害剤iCRT14による処理は、二つのレポーター遺伝子の活性を低下させる。
図Eは、対照shRNA配列shScrと比較して、RNA干渉を使用し、Wnt経路転写因子TCF/LEFファミリーメンバーであるTCF1(shTCF1)およびTCF4(shTCF4)を標的とするshRNAがその発現をノックダウンした後に、CCL28プロモーター活性が低下するが、LEF1発現のノックダウン(shLEF1)がCCL28プロモーター活性に影響を与えないことを示す。
図Fは、転写因子TCF1およびTCF4の過剰発現がCCL28プロモーター活性をアップレギュレートし、LEF1の過剰発現がCCL28プロモーター活性に影響を与えないことを示す。これは、転写因子TCFおよびTCF4がβ-カテニンと協力してCCL28の発現を調節することを示す。
【
図3】Wnt経路阻害剤iCRT14がマウス胃がんにおけるCCL28の発現低下させることを示す。H.felis/MNU誘導マウスinsitu胃がんモデルにおいて、Wnt経路阻害剤iCRT14で処理されたマウス胃部CCL28タンパク質の発現は、ウエスタンブロット法(A)およびELISA(B)検出によって有意に減少したことが分かる。図において、ビヒクル(vehicle)は、薬物溶媒(媒体)を表す。
【
図4】CCL28の発現が胃がんの発展に相関していることを示す。
図Aは、Oncomineデータベース分析により、腸型(Intestinal Type)およびびまん型(Diffuse Type)胃がんにおけるCCL28mRNAの発現がすべて正常組織よりも高いことを示す。
図Bは、胃がん患者組織の免疫組織化学的分析により、悪化の程度がより高いグレードIIおよびIIIの胃がんにおいて、CCL28のタンパク質発現レベルがグレードIよりも高いことを示す。*P<0.05、***P<0.001。
【
図5】β-カテニンシグナル伝達経路によって活性化された胃がん細胞がCCL28発現を誘導して、制御性T細胞の遊走を実現することを示す。
図Aは、β-カテニン(Vector)の同時過剰発現およびCCL28(shScr)のノックダウンの条件下でのSGC7901細胞株におけるβ-カテニンおよびCCL28のウエスタンブロット分析を示す。
図Bは、制御性T細胞(Tregs)、CD4
+T細胞、およびCD8
+T細胞のフローチャートを示す。
図CおよびDは、制御性T細胞(Tregs)、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞における比率および絶対数の統計結果を示す。*P<0.05、**P<0.01。
【
図6】CCL28抗体治療がH.felis/MNUによって誘導されたマウスのinsitu胃がんの進行を阻害することを示す。
図Aは、CCL28抗体の治療模式図を示す。
図Bは、CCL28抗体で治療された胃の解剖学的マップおよび腫瘍面積の統計を示す。*P<0.05。
図Cは、CCL28抗体治療HE染色、アルシアンブルー染色およびH+K+ATPase免疫組織化学的染色を示す。
図Dは、胃体(Corpus)および胃幽門洞(Antrum)部位の病理統計結果を示す。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図7】CCL28抗体治療が免疫微小環境の阻害性を緩和することを示す。
図Aは、制御性T細胞(Tregs)のフロー分析チャートおよび統計チャートを示す。
図Bは、IFNγ+CD4
+T細胞のフロー分析チャートおよび統計チャートを示す。
図Cは、IFNγ+CD8
+T細胞のフロー分析チャートおよび統計チャートを示す。*P<0.05、***P<0.001。
【
図8】CCL28抗体の遮断が黒色腫および乳がんの移植腫瘍モデルにおいて有意な治療効果を有さないことを示す。
図Aは、黒色腫B16の皮下移植腫瘍の成長曲線を示す。
図Bは、乳がん4T1の皮下移植腫瘍の成長曲線を示す。
図Cは、黒色腫B16の担癌マウスの生存率を示す。
図Dは、乳がん4T1の担癌マウスの生存率を示す。
【
図9】様々なヒト組織におけるCCL28タンパク質の発現レベルを示す。The Human Protein Atlasデータベースでは、CCL28タンパク質が脳、胃腸管、および膵臓でより高く発現していることが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明者らは、広範囲にわたる詳細な研究の後、Wnt/β-カテニンが胃がん細胞におけるCCL28の発現をアップレギュレートし、それによって腫瘍内の制御性T細胞を増加させることを初めて予期せずに発見した。CCL28走化性経路を遮断する方法を使用すると、腫瘍内の制御性T細胞の浸潤を非常に効果的に減少させ、かつ腫瘍の発展を阻害することができる。さらなる研究により、このような治療効果は、胃がんモデルにのみ適用され、黒色腫および乳がんなどの他の固形腫瘍には有意な効果がないことが分かる。
これに基づいて、本発明者らは、本発明を完成させた。
【0037】
用語の説明
特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0038】
本明細書に使用されるように、具体的に記載された値に関連して使用される場合、「約」という用語は、当該値が記載された値から1%以下しか変化しない可能性があることを指す。例えば、本明細書に使用されるように、「約100」という表現は、99から101までの間のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4等)を含む。
【0039】
本明細書に使用されるように、「含有」または「包括(含む)」という用語は、開放式、半閉鎖式および閉鎖式であり得る。言い換えれば、前記用語も、「基本的にからなる」、または「からなる」を含む。
【0040】
ケモカインおよびCCL28
ケモカインは、細胞の遊走を調節するサイトカインのクラスであり、腫瘍の微小免疫環境の構成及び腫瘍の発生と発展において重要な役割を果たす。
【0041】
C-Cモチーフケモカインリガンド28(C-C motif chemokine ligand 28、CCL28)は、5p12に位置し、8個のエクソンをコードする。CCL28は、その受容体CCR3またはCCR10を発現する細胞の遊走を仲介するケモカインである。CCL28は、消化管、肺、乳房等の組織の上皮細胞で発現する(
図9に示される)。
【0042】
本発明は、Wnt/β-カテニン-CCL28経路が胃がん病理学的過程において発現をアップレギュレートされ、胃がんモデルにおいてもCCL28抗体遮断の治療効果を初めて正式に確認された。
【0043】
本発明において、ケモカインCCL28関連分子の発現の異常なアップレギュレーションとは、特定の組織(例えば、胃がん組織)におけるCCL28関連分子のmRNA発現量C1と正常組織(例えば、傍がん性組織)におけるCCL28関連分子のmRNA発現量C0との比(C1/C0)が、≧1.2、好ましくは、≧1.5、より好ましくは、≧2.0または≧2.5であることを指す。
【0044】
Wnt/β-カテニン経路
細胞において、細胞質におけるβ-カテニンレベルは、APC、Axinおよびグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)からなる多タンパク質破壊複合体によって厳密に制御される。多タンパク質破壊複合体は、β-カテニンをリン酸化し、そのユビキチン化およびプロテアソームによって仲介された分解をさらに誘導することができる。Wnts経路刺激は、破壊複合体の活性を阻害し、細胞質β-カテニンの安定性を破壊し、細胞質β-カテニンを細胞核に移行させてLEF/TCFファミリーと一緒に転写を活性化し、このようなβ-カテニン転写標的の活性化プログラムは、特定のWnt刺激に対する細胞応答性の重要な側面であるカテニン応答性転写効果(catenin responsive transcription、CRT)である。
【0045】
ほとんど(全部ではない場合)のWntに関連する発がん効果は、CRTの誤調節によって引き起こされるため、β-カテニン-TCF/LEF複合体を標的とすることは理想的な治療標的になる。Wnt/β-カテニン経路は、結腸直腸がん、胃がん等の種類の癌で最も一般的な発がん遺伝子経路の一つであり、癌の発生および発展に重要な役割を果たし、癌治療においても注目される標的の一つである。標準的なWntシグナル伝達経路において、CTNNB1およびAPCは、一般に有意に突然変異した遺伝子である。胃がんを例にとると、約70%の胃がん患者は、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の突然変異を伴う。遺伝子の突然変異に加えて、多くのWntシグナル伝達経路の構成要素の変化は、正の調節因子のアップレギュレーションまたは負の調節因子のダウンレギュレーションによって実現され、最終的に典型的なWnt経路の活性化につながることができる。研究によると、ヘリコバクターピロリ感染は、胃上皮細胞におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の活性化につながることができる。まとめると、これらの発見は、癌の発病におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の重要な役割を示唆する。
【0046】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の異常は、ほとんどの種類の癌に見られ、腫瘍の発生および発展において非常に重要な癌遺伝子経路である。様々な腫瘍サンプルの分析を通じて、β-カテニンの発現の増加は、腫瘍へのリンパ球の浸潤と負の相関があり、Wnt/β-カテニンが免疫治療に耐性を有するようになった腫瘍の免疫回避にも寄与することを示唆する。
【0047】
本発明は、胃がんの病理学的過程において、β-カテニンおよび転写因子TCF/LEF複合体がCCL28プロモーター領域と結合することにより、胃がんにおけるCCL28の発現をアップレギュレートすることを初めて証明し、胃がんの病理学的過程におけるこのようなWnt/β-カテニン-CCL28経路の発現は、独自にアップレギュレートされる。本発明の一実施例において、同じ処理方法および用量を使用すると、CCL28抗体は、胃がんの進行を有意に緩和できるが、黒色腫および乳がんなどの他の固形腫瘍には類似な効果がない。
【0048】
本発明において、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路関連分子の発現の異常なアップレギュレーションとは、特定の組織(例えば、胃がん組織)におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路関連分子のmRNA発現量B1と正常組織(傍がん性組織)におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路関連分子のmRNA発現量B0との(B1/B0)が≧1.2、好ましくは、≧1.5、より好ましくは、≧2.0または≧2.5であることを指す。
【0049】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路阻害剤iCRT14
本明細書において、使用されるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路阻害剤は、iCRT14である。iCRT14は、カテニン応答性転写阻害剤である。
【0050】
最初の研究において(An RNAi-based chemical genetic screen identifies three small-molecule inhibitors of the Wnt/wingless signaling pathway.Gonsalves et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2011、108:595)、実験の予備スクリーニングにより、dTF12-ルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の統計学的に有意な阻害効果を有する34個の分子が特定され(総ヒット率は、約0.3%である)、これらの化合物は、CRT阻害剤(iCRT)と呼ばれる。
【0051】
iCRT14は、チアゾリジンジオンクラスに属するβ-カテニン応答性転写阻害剤であり、Wnt/β-カテニン経路阻害剤である。経験的分子式(ヒル表記法)は、C21H17N3O2Sである。これは、カテニンβ-カテニンおよび転写因子TCF/LEF複合体の効果的な阻害剤である。これは、β-カテニン-TCF/LEF相互作用を用量依存的な方式で破壊し、結腸腫瘍細胞株でG0/G1停止を引き起こすことにより、結腸癌細胞での細胞増殖および腫瘍成長の減少の持続的減衰を引き起こす。
【0052】
本発明は、胃がんにおいて、調節因子TCF1およびTCF4がLEF1でなくβ-カテニンと協力して、CCL28遺伝子の転写を調節することを初めて発見した。
【0053】
S33Y.β-カテニン
本発明において、胃がん細胞にS33Y.β-カテニンプラスミドを移して、β-カテニンのリン酸化を阻害することにより、β-カテニンを過剰発現する目的を達成する。
【0054】
前記S33Y.β-カテニンのDNAプラスミドとは、β-カテニンのアミノ酸配列の33位にあるセリン(S33)がチロシン(Y)に突然変異するフラグメントを有するDNAプラスミドを指す。S33は、GSK3βのリン酸化部位であり、この部位がリン酸化された後にβ-カテニンは、分解経路に入る。S33をチロシン(Y)に突然変異させた後の突然変異体S33Y.β-カテニンは、リン酸化および分解経路を開始、細胞内でより効率的に濃縮される。この突然変異も、胃腸管腫瘍の一部の患者のサンプルで検出される。本発明は、腫瘍細胞におけるWnt/β-カテニン経路の異常な活性化の効果を研究するために使用される。
【0055】
H.felis/MNU誘導胃がんモデル
ヘリコバクターピロリは、慢性胃炎の主な病因の一つと考えられる。従って、ヘリコバクターピロリを用いて胃がんマウスモデルを構築することは、ヒト胃がんの発生および発展を研究することで非常に重要である。C57BL/6マウスは、様々なヘリコバクターピロリ株による胃のコロニー形成に対して有意に耐性がある。従って、H.felis(ヘリコバクターピロリの近縁種を使用して)胃がんマウスモデルを構築することは非常に重要である。このような株は、ネコの胃から分離され、マウスの胃の中でコロニーを容易に形成する。それは、マウスに重度の胃炎および萎縮を引き起こすことができる。felisによって感染されたマウスは、胃のSPEM、異型性および浸潤性腫瘍を示し、観察期間が比較的に長い。当該モデルでは、胃体の大湾に沿った扁平円柱状接合部(SCJ)で広範囲な形成異常病変が観察され、大きなポリープ状胃幽門洞腫瘍が発生される。
【0056】
ヘリコバクターによって感染されたマウスモデルの研究により、研究者らは、性別、食餌および重複感染等、胃がんにおける他の補助因子の影響を確認した。ヘリコバクターピロリ感染前のN-メチル-N-ニトロソ尿素(MNU)の使用は、より重篤な前がん病変を誘発し、かつ胃がんの発病率を増加させる。マウスモデルの胃がんの発生の誘導におけるMNUの役割は、非常に重要であり、週2回の胃内投与(0.5mgのMNU)により、ほとんどのBalb/cマウスが前胃扁平上皮がんで死亡する。MNUを使用する前の外科的切除は、線胃の高分化型腺がんの発生を促進するのに役立ち、40週間使用した後の発生率は、100%である。従って、胃腺体は、MNUの発がん性硬化に非常に敏感である。240ppmのMNUを飲料水に溶解し、5週間連続(隔週)投与し、6個の系統のマウス実験での結果から、当該方法は胃がんを誘発できることを示す。従って、本スキームは、H.felis感染およびMNU投与の組み合わせを使用して、マウス胃がんモデルを構築する。
【0057】
免疫回避
免疫回避は、癌の新しい盗聴として認識される。腫瘍の免疫微小環境を理解することは、新しい治療標的を発見し、免疫治療の反応を予測するために重要である。正常な免疫システムは、腫瘍の発生および発展を阻害する。癌が進行するにつれて、腫瘍は、多くの免疫回避メカニズムを発達させて、腫瘍成長を促進する。
【0058】
マウスモデルおよび腫瘍患者サンプルkらのデータは、骨髄サプレッサー細胞(MDSCs)およびM2マクロファージが胃がんの免疫阻害に関与することを表す。制御性T(Treg)細胞は、様々な種類の癌の腫瘍進行を加速するプロセスに関与することが分かっている免疫阻害型細胞のクラスである。制御性T細胞(Treg)は、腫瘍の免疫回避に関与する重要な免疫阻害型細胞のクラスである。その増加は、抗腫瘍エフェクター免疫細胞の機能および数の減少につながる可能性があり、同時に腫瘍免疫治療または他の療法の有効性の弱体化さらには喪失につながる可能性がある。
【0059】
本発明の好ましい実施例において、CCL28抗体の使用は、制御性T細胞アポトーシスに影響を与えず、標的された制御性T細胞の腫瘍への移動を効果的に阻害することができる。同時に、血液中のTreg細胞における比率を低下させず、胃がん腫瘍組織および脾臓中のTreg細胞のみを標的することで、全体的な免疫応答を改善されることもできる。
【0060】
本発明の技術スキームは、次のような利点を有する。
1.本発明は、CCL28を阻害することにより、異常に上昇したWnt/β-カテニンシグナル伝達経路-CCL28を同時に伴う胃がんを治療する。本発明によって提供されるCCL28抗体による治療は、腫瘍面積を有意に減少させ、異形成および腸型形質転換を有意に変化させ、明らかに正常な細胞喪失の減少を軽減することができる。
【0061】
2.本発明は、β-カテニン/CCL28が胃がんの発生および悪化と正の相関を有し、従って胃がんの診断、スクリーニングおよび予後判断のための検出方法を提供され、集団の胃がんの発病率をスクリーニングし、胃がんの転移を正確に検出することができる。
【0062】
3.本発明は、β-カテニン/CCL28を阻害し、その効果は、胃がん腫瘍組織および脾臓中の的Treg細胞のみを標的とし、全体的な免疫応答を改善することができる。
4.悪性胃がんを治療するための本発明のCCL28走化性経路を遮断する方法は、制御性T細胞のアポトーシスに影響を与えず、制御性T細胞の腫瘍への遊走プロセスを標的とし、制御性T細胞を標的とする免疫療法のためのより新規かつ効果的な手段を提供することができる。
【0063】
5.本発明は、CCL28を阻害することにより、腫瘍細胞におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を阻害するための治療的アイデアを提供する。
6.本発明は、異常に上昇したWnt/β-カテニンシグナル伝達経路-CCL28を同時に伴う胃がんが、他の腫瘍、さらには固形腫瘍と顕著に異なる疾患表現型であることを発見し、主にCCL28走化性経路の遮断芽悪性胃がんの発展を効果的に阻害できることを反映するが、他の腫瘍モデルへの影響は明らかでなく、特に黒色腫細胞B16および乳がん細胞4T1モデルに効果がない。
【0064】
以下、本発明は、具体的実施例と併せてさらに説明される。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。以下の実施例において、具体的条件を示さない実験方法は、通常、例えば、Sambrookら、分子クローニング:実験マニュアル(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989)に記載される条件等の従来の条件、またはメーカーによって提案された条件に従う。特に明記しない限り、パーセンテージおよび部数は、重量に従って計算される。
【0065】
一般的な実験方法
1.細胞培養
ヒト胃がん細胞株AGSおよびSC7901は、10%血清(Gbico)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン二重抗体(Life Technologies)を含むRPMI1640(Life Technologies)培地で培養される。
【0066】
2.RNA精製および定量PCR
細胞株およびマウス胃組織からのトータルRNAをRNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して抽出し、その後PrimeScript RT Reagent Kit(Takara)を使用して逆転写してcDNAを合成する。QPCRは、SYBR Green PCR Master Mix kit(Takara)およびABI 7900HT Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を使用して実施する。定量計算は、ΔΔCt法を使用する。
【0067】
3.ウエスタンブロッティング
胃がん細胞株およびマウス胃組織からのタンパク質を、プロテアーゼ阻害剤(Roche)を添加したRIPA溶解液(Thermo Scientific)で溶解し、タンパク質濃度は、BCA Protein Assay Reagent(Thermo Scientific)で検出される。β-カテニン(Abcam)、CCL28(R&D Systems)、activeβ-カテニン(Merck)、GAPDH(Abcam)およびβ-tubulin(Abcam)等のタンパク質が検出される。
【0068】
4.蛍光クロマターゼレポーター遺伝子活性検出
Wnt/β-カテニンレポータープラスミドM50Super8XTOPFlash(Addgeneプラスミド#12456)および突然変異体対照M51Super8XFOPFlash(Addgeneプラスミド#12457)は、Randall Moonからの贈り物である。ヒトCCL28遺伝子のプロモーター(2.8kb、転写開始部位に対して-2576/+205である)をホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子構築体pGL4にクローニングする。Hieff Mut TMマルチサイト特異的変異誘発キット(Yeasen、Shanghai)を使用してCCL28プロモーター上の潜在的なTCF/LEF結合部位の突然変異を導入して、突然変異CCL28プロモーターレポーター構築体(pGL4-CCL28.mut)を生成する。jetPRIMEトランスフェクション試薬(Polybus Transfection)を使用してプラスミドをトランスフェクトする。Renillaルシフェラーゼ遺伝子を含むpRL-CMVレポーター遺伝子とのコトランスフェクションによってトランスフェクション効率を標準化する。Dual-Gloルシフェラーゼ測定システム(Promega)を使用して、ホタルおよびRenillaルシフェラーゼ活性を測定する。
【0069】
5.クロマチン免疫沈降ChIP
SGC7901細胞を1%のホルムアルデヒド溶液で15分間固定し、その後0.125Mグリシン溶液を加えて反応を停止させる。PBSで反応液を洗浄し、次にFarnham溶解液を加えて細胞を収集する。遠心分離により細胞ペレットを収集し、細胞をRIPA溶解液に再懸濁し、超音波処理装置を使用して細胞内のDNAを断片化する。DNAフラグメントを、事前に結合された抗体およびDynabeads(ThermoFisherから購入される)複合体とともに、4度回転で一晩インキュベートする。抗体は、抗β-カテニンおよび対照IgG(Abcam)である。磁石を使用してDNA-タンパク質-抗体-Dynabeads複合体を沈降させ、最後に緩衝液を使用してDNAフラグメントを溶出する。CCL28プロモーター上の三つの異なるβ-カテニン潜在的結合部位に対して、プライマーを設計して、定量PCRを行うことにより、サンプル中の三つの部位のDNAフラグメントの含有量を検査する。相対的濃縮は、潜在的なDNA結合部位での対照IgGに対するβ-カテニンの相対的結合として計算される。
【0070】
6.ヒト末梢血単核細胞の分離および遊走実験
Ficoll-Paque Plus(GE Healthcareから購入される)を使用した勾配遠心分離によって新鮮な末梢血を分離し、その後PBSで単一細胞に再懸濁し、かつ血球計算盤でカウントする。
【0071】
SGC7901胃がん細胞株培養液上清を8μmのpore transwell chambers(Corningから購入される)の下層にプレーティングし、チャンバーに1%血清を含むPBSに再懸濁した200万個の末梢血単核細胞をプレーティングする。37℃のインキュベーターに6時間置いて、下層に遊走したPBMCを収集し、かつフローサイトメトリーによって制御性T細胞、CD4+およびCD8+T細胞を検出し、CD3[SK7](eBioscienceから購入される)、CD4[RPA-T4](eBioscienceから購入される)、CD8a[OKT8](eBioscienceから購入される)、CD25[BC96](BioLegendから購入される)およびFOXP3[206D](BioLegendから購入される)等の抗体が使用される。
【0072】
7.insitu胃がんマウスモデルおよび治療スキーム
Helicobacter felis(H.felis)およびN-メチル(Methyl)-N-ニトロソ尿素(nitrosourea)(MNU)によって誘導された胃がんマウスモデルを構築するために、8週齢の野生型マウスにH.felis株(ATCC 49179)を週に3回強制経口投与し、一周三次,その後240ppmのMNUを含む飲料水を隔週合計12週間投与する。
【0073】
抗体治療スキーム:50mg/kgのCCL28モノクローナル抗体(R&D Systemsから購入される)を腹腔内注射し、対照群は、この抗体のアイソタイプ対照IgG抗体を使用し、具体的な時間は、
図4Aを参照する。
【0074】
8.フロー分析
末梢血、脾臓および胃組織中の免疫細胞を検出するために、脾臓および胃を組織ホモジナイザーgentleMACS Octo dissociator(Miltenyi Biotecから購入される)を使用して細胞を分離する。胃組織を1mg/mlのコラゲナーゼIV(Thermo Fisherから購入される)および50μg/ml(20U/ml)のDNA酵素I(stock:5mg/ml)(Sigma-Aldrichから購入される)で分解し、組織中の赤血球は、赤血球溶解液(eBioscienceから購入される)を使用して除去する。フロー検出に使用される抗体は、BioLegendまたはeBioscience会社から購入される。細胞内抗原の検出については、細胞活性化剤(BioLegendから購入される)を使用して6時間刺激する必要がある。細胞間抗原染色は、Cyto-FastTM Fix/Perm Buffer Set(BioLegendから購入される)を使用する。核タンパク質は、Foxp3/Transcription Factor Staining Buffer Set(BD Biosciencesから購入される)で処理される。フローデータは、FACS Aria II cytometer(BD Biosciencesから購入される)およびFlowJoソフトウェアによって処理される。
【0075】
9.免疫組織化学
胃がん患者の組織パラフィン切片は、Alenabio会社から購入される。マウスの胃組織をパラフィンに包埋し、かつ5μmの組織切片に切断し、脱パラフィンし、抗原を修復し、密閉した後にβ-カテニン(Abcamから購入される)、H+K+ATPaseβ(ATP4B)(Abcamから購入される)、FOXP3(Abcamから購入される)、CCL28(R&D Systemsから購入される)一次抗体等の抗体で四番置き、翌日に二次抗体でインキュベートし、DAB Peroxidase Substrate Kit(Gene Techから購入され、上海)を使用して発色させ、最後に核をヘマトキシリンで染色しかつ再水和してマウントする。β-カテニンおよびCCL28の定量化は、ImageJソフトウェアを使用して統計的に分析される。
【0076】
10.B16黒色腫および4T1乳がん皮下移植腫瘍モデル
対数成長期のB16または4T1細胞を取り、PBSで細胞濃度を3×106個/mLに調整する。6週齢のWT雌マウスを取り、眼科用ハサミでマウスの右後肢の外側のマウス毛を切り取り、75%アルコールで滅菌し、各マウスに0.1mLの細胞懸濁液を皮下注射する。その後直径5mmの腫瘍が観察される場合、開始点として記録し、ノギスで腫瘍のサイズを測定および計算する。
【0077】
11.統計分析
データは、平均値±SDで表される。グループ間の統計学的有意性は、両側の対応のないスチューデント(Student)t検定(GraphPad Prism)によって計算される。P<0.05は、統計学的に有意であると見なされる。
【0078】
実施例1.胃がんにおいてβ-カテニンシグナル伝達経路によるCCL28発現の誘導
本実施例において、胃がん細胞株におけるケモカイン発現に対するWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の影響を検出する。方法は、次のとおりである。1)胃がん細胞SGC7901でβ-カテニンを過剰発現し、プラスミドベクターを使用して、GSK3βリン酸化部位の突然変異を伴う突然変異型β-カテニン(即ち、S33Y、β-カテニン)を発現させることにより、β-カテニンの持続的な活性化を実現し、その後qPCRによってケモカイン発現の変化を検出し、2)ヒト胃がん細胞株AGSおよびSGC7901において、それぞれβ-カテニンをノックダウンまたは過剰発現させることによって、WBを使用してタンパク質レベルでのCCL28の発現レベルの変化を検出し、3)臨床胃がん組織サンプルにおいて免疫組織化学的染色後、β-カテニンおよびCCL28陽性率の統計学的分析は、β-カテニンとCCL28との相関関係を検証する。
【0079】
結果:
qPCR結果は、対照プラスミドと比較して、β-カテニンを過剰発現した後、最も明らかな変化を示したケモカインがCCL28であることを示す(
図1A)。
【0080】
SGC7901およびAGSヒト胃がん細胞株(中国科学院の細胞バンクに由来する)において、野生型(WT)または分解耐性突然変異体S33Y.β-カテニンの過剰発現も、CCL28タンパク質レベルを増加させる(
図1B)。対照的に、このような両方の細胞株でβ-カテニンのノックダウンは、CCL28タンパク質レベルの低下を引き起こす(
図1B)。
【0081】
実施例2.ヒト胃がん細胞におけるβ-カテニンシグナル伝達経路の直接標的遺伝子であるCCL28
本実施例において、バイオインフォマティクスと組み合わせて、CCL28とβ-カテニンシグナル伝達経路との構造的相関を分析し、次に細胞モデルで二つの間の関係を検証する。方法は、次のとおりである。バイオインフォマティクスを使用して、CCL28のプロモーター領域で3個のβ-カテニン/TCF転写複合体の潜在的結合部位を見つけ、クロマチン免疫沈降を使用してβ-カテニンが潜在的結合部位で濃縮されるかどうかを分析し、CCL28プロモーターおよび潜在的結合部位配列で突然変異したCCL28プロモーター配列をルシフェラーゼレポーターベクターにクローニングすることによって、CCL28プロモーターの転写活性を検査する。β-カテニン/TCFを使用して、TCF/LEF転写因子ファミリーメンバーのshRNAノックダウンまたはTCF/LEFメンバーの過剰発現後に、CCL28プロモーターの転写活性が検出される。
【0082】
結果:
バイオインフォマティクス分析により、CCL28遺伝子のプロモーター領域に三つの潜在的なβ-カテニン/TCF転写複合体の結合領域(
図2A)あることが分かる。
【0083】
ヒト胃がん細胞SGC7901において、クロマチン免疫沈降分析により、β-カテニンがプロモーター部位1および3に結合することが分かる(
図2B)。
二つの結合部位配列に対して突然変異した後、β-カテニンがCCL28プロモーター活性に対するアップレギュレーション効果は、消失し(
図2C)、これは、β-カテニンがCCL28プロモーターで部位に結合することによりCCL28遺伝子の転写を直接調節することを示す。
【0084】
Wntシグナル伝達経路阻害剤iCRT14を使用して、β-カテニンがCCL28プロモーター活性に対するアップレギュレーション効果を同様に減少する(
図2D)。Wntシグナル伝達経路阻害剤iCRT14処理は、細胞内のβ-カテニンとTCFとの結合およびプロモーターDNAへのβ-カテニン/TCF転写複合体の結合をブロックすることにより、Wntシグナル伝達経路を阻害し、CCL28は、Wntシグナル伝達経路の標的遺伝子として、その転写活性も阻害される。shRNAノックダウンまたは遺伝子過剰発現後にCCL28プロモーター活性を検出することにより、転写因子TCF1およびTCF4がβ-カテニンと協力してCCL28遺伝子の転写を調節するが、LEF1を調節しないことが分かる。
【0085】
実施例3.マウスinsitu胃がんにおけるCCL28の発現を阻害するWntシグナル伝達経路阻害剤iCRT14
本実施例において、ヘリコバクターH.felis感染および発がん剤MNUを使用してinnsituマウス胃がんを誘導し、Wntシグナル伝達経路阻害剤iCRT14を腹腔内注射によって、胃におけるCCL28タンパク質の発現レベルを検出する。
【0086】
結果は、
図3に示されたとおりである。タンパク質ウエスタンブロット法(
図3A)およびELISA(
図3B)分析は、すべて、iCRT14が胃でのCCL28タンパク質の発現を有意に減少させることを示し、これは、インビボでのCCL28発現もβ-カテニン経路によって調節されることを示す。
【0087】
実施例4.CCL28と胃がんとの発展程度の相関
本実施例において、免疫組織化学的分析によってCCL28とβ-カテニン発現レベルとの相関関係をさらに分析する。結果は、異なる程度の胃がんサンプルにおいて、β-カテニンの発現レベルとCCL28の発現レベルとの間には、有意な正の相関関係を有することを示す(
図1Cおよび1D)。
【0088】
Oncomineデータベースに基づいて、CCL28と胃がんの発展程度との関係をさらに分析する。結果は、CCL28のmRNAレベルが正常組織よりも腸型およびびまん型胃がんの両方で高いことを示す(
図4A)。胃がん患者の組織サンプルの免疫組織化学的染色は、CCL28タンパク質レベルが悪性等のグレードのより高い腫瘍においてもより高いことを示す(
図4B)。
【0089】
まとめると、これらの結果は、CCL28が胃がん細胞におけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の標的遺伝子であることを示し、これは、CCL28が胃がんにおける潜在的な病原性因子であることを示す。さらに、CCL28の陽性率は、胃がんの発展または悪性等のグレードの増加とともにより高い。
【0090】
実施例5.CCL28発現を誘導して制御性T細胞の遊走を調節するβ-カテニンシグナル伝達経路によって活性化された胃がん細胞
本実施例において、インビトロ遊走実験によって、Wnt/β-カテニンによって活性化された腫瘍細胞がCCL28を介してヒトTreg細胞を動員できるかどうかを検出する。方法は、次のとおりである。胃がん細胞株SGC7901でβ-カテニンを過剰発現するか、またはβ-カテニンを過剰発現する同時にshRNAを使用してCCL28をノックダウンする胃がん細胞株を構築し、細胞培養液上清を収集し、transwellの下層にプレーティングし、上層のチャンバーに1×106個の末梢血単核細胞をプレーティングし、37℃のインキュベーターで4時間培養した後、下層に遊走した細胞を収集し、フローサイトメトリーでその免疫細胞の比率および数を分析する。
【0091】
結果:
SGC7901細胞でshRNAによってS33Y.β-カテニン誘導CCL28をノックダウンする(
図5A)。
【0092】
遊走実験において、下層に遊走した末梢血単核細胞をフローサイトメトリーでその中の免疫細胞の変化を分析する(
図5B)。
胃がん細胞株SGC7901がβ-カテニンを過剰発現する条件下で、CD4
+T細胞における制御性T細胞の比率および絶対数の両方が有意に増加したが、β-カテニンのノックダウンは、減少する(
図5CおよびD)。これらの結果は、β-カテニンによって活性化された胃腫瘍細胞がインビトロでCCL28を介してTreg細胞を動員することを示唆する。
【0093】
フローサイトメトリー結果は、総CD4
+またはCD8
+T細胞の動員の任意の差異が示されず(
図3CおよびD)、これは、Tregに対するβ-カテニン/CCL28の独特な効果を示唆する。
【0094】
実施例6.H.felis/MNUによって誘導される胃がんの進行を阻害するCCL28抗体治療
本実施例において、H.felis/MNU胃がんモデル動物を使用し、MNU処理開始後29週目に(図面では28週間の終わり、および29週間の始まりを示す)、モデルマウスにCCL28モノクローナル抗体を週1回投与してCCL28活性を遮断し、実験スキームは、
図6Aに示されたとおりである。
【0095】
結果:抗体処理の8週間後、CCL28抗体治療群のマウスモデルの胃の腫瘍面積は、有意に減少される(
図6B)。組織学的分析は、CCL28抗体療法による異形成および腸型形質転換の顕著な変化を示す(
図6C)。H+K+ATPaseの免疫組織化学的分析では、CCL28抗体を使用して治療された後、胃幽門洞部位において壁細胞の喪失の現象が有意に緩和される(
図6D)。これは、CCL28の阻害が胃がんの進行を効果的に軽減できることを示唆する。
【0096】
実施例7.CCL28抗体治療緩和免疫微小環境的阻害性
本実施例において、実施例6におけるCCL28抗体で治療されたモデル動物については、36週目の終わりに、マウス胃腫瘍サンプルに対してFACS分析を実施する。
結果は、
図7に示されたとおりである。FACS分析は、CCL28抗体で処理されたマウスの胃における制御性T(Treg)細胞の有意な現象が確認される(
図7A)。興味深いことに、抗CCL28治療は、脾臓のTreg細胞の比率も減少させるが、血液中のTreg細胞の比率を減少せず、これは、ケモカインCCL28に依存するTreg動員メカニズムが脾臓および胃に存在することを示す。効果的な免疫療法には末梢免疫の活性化および協調が必要であるため、胃に対する直接的な効果に加えて、脾臓におけるCCL28抗体治療の作用も、全体的な免疫応答を高める可能性がある。まとめると、これらのデータは、抗CCL28療法が、Tregの動員を阻害することにより、H.felis/MNUによって誘導される胃がんの進行を効果的に阻害することを示唆する。
【0097】
注意すべきは、IFNγ+のCD4
+/CD8
+T細胞を検出することにより(
図7BおよびC)、これらのエフェクターT細胞が脾臓または末梢血である程度向上されるが、胃に明らかな変化がない結果を示し、これは、CCL28抗体治療が末梢免疫の活性を向上させることができるが、固形腫瘍に対するエフェクターT細胞の浸潤にはほとんど影響を与えないことを示す。
【0098】
実施例8.黒色腫および乳がんに対して明らかな治療効果がないCCL28抗体
本実施例において、他の癌に対するCCL28抗体治療の治療効果が検証される。方法は、次のとおりである。マウス黒色腫細胞B16および乳がん細胞4T1を使用して、皮下移植腫瘍を構築する、対数成長期の細胞を取り、トリプシン処理した後にPBSで再懸濁する。6~8週齢のC57BL/6マウスに麻酔をかけ、シェーバーでマウスの前肢の脇の下を処理し、75%のアルコールで露出した皮膚を消毒する。細胞密度を調整した細胞懸濁液をマウスの前肢の脇の下には接種し、腫瘍の成長状況を毎日観察および記録する。ここで、B16細胞は、5×105個/匹であり、4T1細胞は、1×106個/匹である。B16移植腫瘍マウスおよび4T1移植腫瘍マウスは、細胞接種後3~7日目にCCL28抗体で処理され、処理方法および用量は、実施例6と同じである。
【0099】
結果は、CCL28抗体または対照IgG抗体を使用して治療した後、CCL28抗体がマウス移植腫瘍の成長(
図8AおよびB)および生存率(
図8CおよびD)において明らかな治療有効性を示さなかったことを示す。
【0100】
まとめおよび議論
本発明者らは、胃がん細胞において、癌における一般的な発がん遺伝子経路の一つであるWnt/β-カテニンとCCL28の発現との相乗効果を発見し、このような効果により、腫瘍内の制御性T細胞が増加される。後続の多数の創造的研究を通じて、本発明者らは、胃がんにおいて、CCL28のモノクローナル遮断抗体を使用することにより、腫瘍における制御性T細胞の浸潤を効果的に減少させ、かつ腫瘍の発展を阻害できることを予期せずに発見した。これらの創造的な研究結果は、Wnt/β-カテニンが細胞増殖および生存を直接調節する以外の免疫調節メカニズムを有し、新しい免疫治療標的CCL28を提供することを示唆する。
【0101】
さらに意外なことには、本発明は、比較実験を通じて、Wnt/β-カテニンとCCL28との結合効果が、特殊な病理学的状況、即ち胃がんにおいて独特に存在し、他の腫瘍、さらには黒色腫細胞B16および乳がん細胞4T1モデル等の他の固形腫瘍にも存在しないことを証明する。
【0102】
一方、最近の研究は、制御性T細胞のアポトーシスは、より高い免疫阻害性につながる可能性があり、制御性T細胞のアポトーシスを直接標的とする免疫治療方法は、最適な治療効果を達成末うことができないことを示唆する。しかし、本発明は、CCL28走化性経路を遮断するための方法を構築し、制御性T細胞のアポトーシスに影響を与えずに、制御性T細胞の腫瘍への遊走プロセスを標的とし、制御性T細胞を標的とする免疫療法のために新規で効果的な手段を提供することができる。そして、長期的に罹患している胃がんおよび免疫治療を受けている患者にとっては、自己免疫力の低下およびそれに由来する疾患は、致死に至る重要な原因である。従って、本発明によって提供される方法は、胃がんの転移を効果的に阻害することができるだけでなく、患者の自己免疫力を低下させず、さらに全体的な免疫を向上させることもできる。
【0103】
これに加えて、本発明は、大量の臨床データを通じて、CCL28およびその受容体レベルト胃がんの発生および重症度との相関関係を初めて確認し、それにより胃がんの発生、転移および予後を正確に把握できる検出システムを開発することができる。
【0104】
まとめると、CCL28遮断療法は、癌治療における臨床応用の大きな可能性を秘めており、他の免疫療法の有効性を向上させる可能性がある。
本発明で言及されたすべての文書は、あたかも各文書が個別に参照として引用されたかのように、本出願における参照として引用される。さらに、本発明の上記教示内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態もまた添付の本出願の特許請求の範囲によって定義される範囲内にあることを理解されたい。