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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】塗布具
(51)【国際特許分類】
   B43K 8/03 20060101AFI20241205BHJP
   A45D 34/04 20060101ALI20241205BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20241205BHJP
   B05C 17/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B43K8/03 100
A45D34/04 525Z
B43K8/02 130
B05C17/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023151991
(22)【出願日】2023-09-20
【審査請求日】2023-09-20
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511275681
【氏名又は名称】株式会社3S
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】堀 英二
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/073703(WO,A1)
【文献】特開2007-111885(JP,A)
【文献】特許第6155408(JP,B1)
【文献】特開平11-078352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 8/03
A45D 34/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、
前記本体内に設けられ、液体が貯留される貯留室と、
前記本体内に設けられ、前記貯留室内から流出する液体を保持可能にするリザーバ室と、
前記貯留室とリザーバ室とを区画し、貫通孔が形成された隔壁と、
前記本体の端部に設けられ、前記貯留室に貯留された液体の塗布を可能とする塗布体と、
前記隔壁の貫通孔に隙間を介して挿通され、貯留室に貯留された液体を前記塗布体側に移送する中継部材と、
前記リザーバ室内に前記中継部材に沿って複数個配設される吸蔵体と、
を備え、
前記複数個配設される吸蔵体は、前記中継部材に沿った押圧力が付与されて、前記隔壁に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体と、この隔壁側吸蔵体よりも気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体とを有し、
前記隔壁側吸蔵体の軸方向長さは、前記塗布体側吸蔵体の軸方向長さよりも短く、
前記中継部材、及び/又は、前記本体には、前記中継部材に沿った押圧力が付与された状態で、前記隔壁側吸蔵体の軸方向長さを、前記塗布体側吸蔵体の軸方向長さよりも短くする押圧構造が設けられ、
前記押圧構造は、前記中継部材の表面に設けられ、前記隔壁側吸蔵体と係合する段部を有することを特徴とする塗布具。
【請求項2】
本体と、
前記本体内に設けられ、液体が貯留される貯留室と、
前記本体内に設けられ、前記貯留室内から流出する液体を保持可能にするリザーバ室と、
前記貯留室とリザーバ室とを区画し、貫通孔が形成された隔壁と、
前記本体の端部に設けられ、前記貯留室に貯留された液体の塗布を可能とする塗布体と、
前記隔壁の貫通孔に隙間を介して挿通され、貯留室に貯留された液体を前記塗布体側に移送する中継部材と、
前記リザーバ室内に前記中継部材に沿って複数個配設される吸蔵体と、
を備え、
複数個の前記吸蔵体は、前記中継部材に沿った押圧力が付与されて、前記隔壁に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体と、この隔壁側吸蔵体よりも気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体とを有し、
前記隔壁側吸蔵体の軸方向長さは、前記塗布体側吸蔵体の軸方向長さよりも短く、
前記中継部材、及び/又は、前記本体には、前記中継部材に沿った押圧力が付与された状態で、前記隔壁側吸蔵体の軸方向長さを、前記塗布体側吸蔵体の軸方向長さよりも短くする押圧構造が設けられ、
前記押圧構造は、前記本体の内面に設けられ、前記隔壁側吸蔵体と係合するリブを有することを特徴とする塗布具。
【請求項3】
前記隔壁側吸蔵体と前記塗布体側吸蔵体は、軸方向に当接した状態になっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布具。
【請求項4】
前記隔壁側吸蔵体と前記塗布体側吸蔵体は、形状及び気孔率が同一仕様で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布具。
【請求項5】
前記隔壁側吸蔵体と前記塗布体側吸蔵体は、ウレタンで構成されていることを特徴とする請求項4に記載の塗布具。
【請求項6】
前記隔壁側吸蔵体と前記隔壁との間に、前記隔壁側吸蔵体よりも軸方向長さが薄肉で硬度が高く、気孔率が低い薄板材を介在したことを特徴とする請求項5に記載の塗布具。
【請求項7】
前記中継部材は、同軸上で離間した隔壁側中継部材と塗布体側中継部材とを備え、
前記隔壁側中継部材と塗布体側中継部材の離間位置は、前記隔壁側吸蔵体の範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布具。
【請求項8】
前記塗布体側中継部材には、外周面の表面端部に段部を形成することで小径部が形成されており、
前記小径部は、前記塗布体側吸蔵体から軸方向に突出して、前記隔壁側吸蔵体の内部に位置していることを特徴とする請求項7に記載の塗布具。
【請求項9】
本体と、
前記本体内に設けられ、液体が貯留される貯留室と、
前記本体内に設けられ、前記貯留室内から流出する液体を保持可能にするリザーバ室と、
前記貯留室とリザーバ室とを区画し、貫通孔が形成された隔壁と、
前記本体の端部に設けられ、前記貯留室に貯留された液体の塗布を可能とする塗布体と、
前記隔壁の貫通孔に隙間を介して挿通され、貯留室に貯留された液体を前記塗布体側に移送する中継部材と、
前記リザーバ室内に前記中継部材に沿って複数個配設される吸蔵体と、
を備えた塗布具の製造方法であって、
前記隔壁に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体と、この隔壁側吸蔵体に対して気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体が並設されるように、前記複数個配設される吸蔵体の少なくとも一方に対して、前記中継部材に沿って軸方向から押圧力を付与する押圧工程を備え、
前記押圧工程は、前記隔壁を前記塗布体側に変位させ、前記隔壁側吸蔵体の軸方向長さが、前記塗布体側吸蔵体の軸方向長さよりも短くなるように、前記隔壁側吸蔵体、及び/又は、前記塗布体側吸蔵体を押圧することを特徴とする塗布具の製造方法。
【請求項10】
前記押圧工程は、前記隔壁側吸蔵体と前記塗布体側吸蔵体が軸方向で当接するように、前記隔壁側吸蔵体を軸方向に押圧することを特徴とする請求項9に記載の塗布具の製造方法。
【請求項11】
前記中継部材は、同軸上で離間した状態となる前記塗布体側吸蔵体に配設される塗布体側中継部材と、前記隔壁側吸蔵体に配設される隔壁側中継部材とを備え、
前記押圧工程は、前記隔壁側吸蔵体を前記隔壁側に押圧することを特徴とする請求項9又は10に記載の塗布具の製造方法。
【請求項12】
前記押圧工程は、前記塗布体側吸蔵体及び隔壁側吸蔵体の少なくとも一方を軸方向に押圧することを特徴とする請求項11に記載の塗布具の製造方法。
【請求項13】
前記中継部材、及び/又は、前記本体には、前記押圧工程時に、前記隔壁側吸蔵体の軸方向長さを、前記塗布体側吸蔵体の軸方向長さよりも短くする押圧構造が設けられていることを特徴とする請求項9又は10に記載の塗布具の製造方法。
【請求項14】
前記隔壁側吸蔵体と前記塗布体側吸蔵体には、形状及び気孔率が同一仕様のものが用いられていることを特徴とする請求項9又は10に記載の塗布具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サインペンやマーキングペンなどの筆記具、アイライナーなどの化粧用具、スタンプ、薬剤塗布容器などに適用され、インク、化粧水、香水、薬剤などの各種の液体を貯留し、塗布できるようにした塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクや化粧水などの液体を中綿などの吸蔵体に吸収させた状態で貯留するのではなく、そのままの状態で貯留し、適宜塗布できるようにした直液式の塗布具(筆記具)が知られている。例えば、図9に示すように、塗布具1の本体1Aに、リザーバ室3と貯留室5とを区画する隔壁10を設け、この隔壁10に中継部材12を挿通させる貫通孔10aを形成したものが知られている。前記貫通孔10aの内壁と中継部材12との間には、毛細管力によって液体が保持されるように所定の隙間が形成されており、この部分で気液交換が成されるように構成されている。そして、前記隔壁10と中継部材12の先端に設けられた塗布体13との間のリザーバ室3には、中継部材12を囲繞するように、軸方向に沿って複数の吸蔵体20A,20Bが並設されている。
【0003】
前記リザーバ室3内に設置される吸蔵体20A,20Bは、液体を吸蔵するように、繊維を絡ませた多孔質材で構成されており、隔壁10側に気孔率が低い(毛細管力が強い)吸蔵体20Aを配設し、先端部側に気孔率が高い(毛細管力が低い)吸蔵体20Bを配設している。このような構成では、温度が高くなった際に、貯留室5から漏れ出した液体を隔壁10側で吸蔵することができ、塗布体13で液体リッチ状態(液だれ)を効果的に抑制することが可能となる。
【0004】
なお、気孔率が低い吸蔵体20Aを、隔壁10に当接するように配設することで、リザーバ室3側に漏れ出した液体を吸蔵すると共に、温度が下がった際には、吸蔵されている液体を貯留室5側にリターンさせ易くすることができる。すなわち、隔壁10と気孔率が低い吸蔵体20Aとの間に隙間が生じていると、その隙間内に液体が貯留されてしまい、液体を中継部材12から貯留室5側にリターンさせ難くなる。
【0005】
上記した吸蔵体20A,20Bは、繊維を多数絡めた多孔質の素材で構成されているため、気孔率を適正に管理することが難しい。すなわち、配設される吸蔵体の気孔率が安定しないことから、製品(塗布具)としてのバラツキが大きくなってしまう。そこで、特許文献1には、図10に示すように、隔壁10側の吸蔵体20Aの気孔率を低くするように、本体1Aの内径よりも小径のホルダ10Aを隔壁10に一体形成した構成が開示されている。前記ホルダ10Aには、1つの吸蔵体20が配設され、端部側をホルダ10A内に圧入することで、隔壁側の吸蔵体20Aの気孔率が低くなるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6736144号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献1に開示されている塗布具(図10)は、ホルダ内に嵌合した吸蔵体が径方向内側に向けて圧縮されるため、隔壁側の吸蔵体20Aの気孔率を低くすることができ、図9に示す構成と比較すると、気孔率を容易に低下させることが可能となる。しかし、ホルダ10A内に吸蔵体20を嵌入する場合、吸蔵体を径方向に均等に圧縮して組み込む操作が難しい。また、組み込む吸蔵体の気孔率は、製品毎或いはロット毎に安定しておらず、隔壁と共に一体形成されたホルダ10Aの内径は一定値に設定されているため、隔壁に当接する吸蔵体の気孔率を柔軟に調整することができない。
【0008】
本発明は、貯留室とリザーバ室との間に隔壁が設置され、リザーバ室内に軸方向に沿って複数の吸蔵体を設置した塗布具において、各吸蔵体の気孔率の管理が容易で、製品毎にバラツキがなく、各吸蔵体を容易に組み込める塗布具、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る塗布具は、本体と、前記本体内に設けられ、液体が貯留される貯留室と、前記本体内に設けられ、前記貯留室内から流出する液体を保持可能にするリザーバ室と、前記貯留室とリザーバ室とを区画し、貫通孔が形成された隔壁と、前記本体の端部に設けられ、前記貯留室に貯留された液体の塗布を可能とする塗布体と、前記隔壁の貫通孔に隙間を介して挿通され、貯留室に収容された液体を前記塗布体側に移送する中継部材と、前記リザーバ室内に前記中継部材に沿って複数個配設される吸蔵体と、を備え、前記複数個の吸蔵体は、前記中継部材に沿った押圧力が付与されて、前記隔壁に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体と、この隔壁側吸蔵体よりも気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体とを有することを特徴とする。
【0010】
上記した構成の塗布具は、液体が貯留される貯留室と、貯留室から流出した液体を保持可能にするリザーバ室とが隔壁で区画されており、貯留室に収容された液体は、隔壁の貫通孔に挿通される中継部材を介して塗布体側へ移送される。前記リザーバ室には、前記中継部材に沿って液体を吸蔵する複数個の吸蔵体が配設されており、前記隔壁には、前記中継部材に沿った押圧力が付与されることで、隔壁に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体が配設されている。
【0011】
上記した構成において、温度が高まる等、貯留室側から液体が前記貫通孔を介してリザーバ室側に流出すると、その液体は気孔率が低い(毛細管力が強い)隔壁側吸蔵体に吸蔵され、塗布体で液体リッチ状態(液だれ)を効果的に抑制することが可能となる。この場合、隔壁側吸蔵体に対して、塗布体側に気孔率が高い(毛細管力が弱い)塗布体側吸蔵体が配設されているため、隔壁側吸蔵体から液体が流れても塗布体側吸蔵体で保持することができ、液だれを更に効果的に抑制することが可能となる。
【0012】
また、気孔率が低い隔壁側吸蔵体は、隔壁に当接するように配設されているので、吸蔵されている液体を貯留室側にリターンさせ易くすることができる。すなわち、隔壁と気孔率が低い吸蔵体との間に隙間がないため、液体を中継部材から貯留室側にリターンさせ易くなる。
【0013】
さらに、前記気孔率が低い隔壁側吸蔵体は、中継部材に沿った押圧力が付与されることで、前記隔壁に当接して気孔率が低くなるように設定されるので、吸蔵体の組み込み操作及び気孔率の管理が容易になり、製品毎にバラツキのない塗布具が得られる。すなわち、隔壁側吸蔵体として、塗布体側吸蔵体の仕様と異なるものを使用したり、1つの吸蔵体をホルダ内に嵌入して径方向に圧縮し、これにより気孔率を低くする構成でないことから、製品毎のバラツキが無くなる。また、軸方向の押圧力を調整することで、気孔率を調整する等、適正な管理が可能となる。
【0014】
また、上記した目的を達成するために、本発明に係る塗布具の製造方法は、本体と、前記本体内に設けられ、液体が貯留される貯留室と、前記本体内に設けられ、前記貯留室内から流出する液体を保持可能にするリザーバ室と、前記貯留室とリザーバ室とを区画し、貫通孔が形成された隔壁と、前記本体の端部に設けられ、前記貯留室に貯留された液体の塗布を可能とする塗布体と、前記隔壁の貫通孔に隙間を介して挿通され、貯留室に収容された液体を前記塗布体側に移送する中継部材と、前記リザーバ室内に前記中継部材に沿って複数個配設される吸蔵体と、を備えた塗布具に関し、前記隔壁に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体と、この隔壁側吸蔵体に対して気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体が並設されるように、前記複数個の吸蔵体の少なくとも一方に対して、前記中継部材に沿って軸方向から押圧力を付与する押圧工程を備えたことを特徴とする。
【0015】
上記した製造方法では、リザーバ室内に複数個の吸蔵体を設置した後、その吸蔵体の少なくとも一方を軸方向に押圧する工程を加えるだけで、上記した構成の塗布具を容易に製造することが可能となる。すなわち、リザーバ室内に配設される吸蔵体に対し、軸方向に押圧力を付与するだけで気孔率を調整することができるので、吸蔵体をホルダに嵌合させる等の組み込み操作が不要となり、気孔率の管理が容易な塗布具を容易に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、貯留室とリザーバ室との間に隔壁が設置され、リザーバ室内に軸方向に沿って複数の吸蔵体を設置した塗布具において、各吸蔵体の気孔率の管理が容易で、製品毎にバラツキがなく、各吸蔵体を容易に組み込める塗布具、及び、その製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る塗布具の第1の実施の形態を示す縦断面図であり、(a)~(c)は、その製造方法を説明する図。
図2】本発明に係る塗布具の第2の実施の形態を示す縦断面図であり、(a)~(c)は、その製造方法を説明する図。
図3】本発明に係る塗布具の第3の実施の形態を示す縦断面図であり、(a)~(c)は、その製造方法を説明する図。
図4】本発明に係る塗布具の第4の実施の形態を示す縦断面図であり、(a)~(c)は、その製造方法を説明する図。
図5】本発明に係る塗布具の第5の実施の形態を示す縦断面図であり、(a)~(c)は、その製造方法を説明する図。
図6】本発明に係る塗布具の第6の実施の形態を示す縦断面図であり、(a)~(c)は、その製造方法を説明する図。
図7】本発明に係る塗布具の第7の実施の形態を示す縦断面図であり、(a)~(c)は、その製造方法を説明する図。
図8】本発明に係る塗布具の第8の実施の形態を示す縦断面図であり、(a)~(c)は、その製造方法を説明する図。
図9】従来の塗布具の一例を示す図。
図10】従来の塗布具の別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る塗布具の実施形態について説明する。
なお、以下の実施形態において、図9及び図10で示した従来の塗布具と同一の構成要素については、同一の参照番号が付されている。
【0019】
図1は、塗布具の第1の実施形態を示す縦断面図である。
本実施の形態の塗布具1は、空洞部を有する円筒状の軸筒(本体)1Aを備えている。前記本体1A内には、インク、化粧液、薬剤などの液体が収容される貯留室5と、貯留室5から流出する液体を保持可能にするリザーバ室3とを備えており、貯留室5とリザーバ室3は、隔壁10によって区画されている。前記隔壁10には、その中央部分に貫通孔10aが形成されており、ここに中継部材12が挿通されている。
【0020】
前記貫通孔10aの内壁と中継部材12との間には、毛細管力によって液体が保持されるように所定の隙間が形成されており、この部分で気液交換が成されるように構成されている。また、前記中継部材12の先端部には、本体1Aの先端から軸方向に突出する塗布体(例えば、刷毛部材)13が設けられており、塗布体13は、本体1Aの先端部分に小径化して一体形成されるホルダ1a内に保持されている。前記塗布体13と中継部材12は、接触する関係となっており、塗布体13は、前記貯留室5から中継部材12を介して搬送される液体を、紙、人体などの対象物に塗布する機能を有する。なお、前記塗布体13と中継部材12は、一体構造であっても良いし、別体の塗布体13を中継部材12に接続する構成であっても良い。
【0021】
前記隔壁10と中継部材12の先端に設けられた塗布体13との間のリザーバ室3内には、中継部材12の外面を囲繞するように、吸蔵体が軸方向に沿って複数個設置されている。この場合、前記隔壁10に当接する吸蔵体を隔壁側吸蔵体20A、それよりも塗布体側に配設される吸蔵体を塗布体側吸蔵体20Bと称する。これらの吸蔵体の内、隔壁側吸蔵体20Aは、前記貯留室5から流出する液体を吸蔵する機能を備えている。
【0022】
前記リザーバ室3内に設置される吸蔵体の設置個数は2つ以上あれば良く、本実施形態では、2つの吸蔵体が配設されている。なお、3つ以上の吸蔵体が配設される構成であれば、前記隔壁10に当接する隔壁側吸蔵体20Aに対し、塗布体側に配設される塗布体側吸蔵体20Bが軸方向に2つ以上、並設された状態となる。また、本実施形態では、隔壁側吸蔵体20Aと塗布体側吸蔵体20Bは軸方向に当て付いた状態にあるが、軸方向に離間する関係であっても良い。
【0023】
前記本体1Aの先端側には、塗布体13を保護するキャップ(図示せず)が前記ホルダ1aに対して着脱可能に圧入される。また、前記本体1Aの後端側には、キャップ状の尾栓15が装着されている。
【0024】
前記本体1Aについては、断面円形であっても良いし、非円形状(多角形状など)であっても良い。また、前記尾栓15については、本体1Aに対して圧入、固定されたものであっても良いし、着脱自在に構成されたものであっても良く、この部分から本体1A内に液体を充填して封止する機能を備えている。なお、先端側から液体を充填するのであれば、尾栓15については配設しない構成であっても良い。
【0025】
前記ホルダ1aには、外気と連通する大気連通孔1bが軸方向に延出するように形成されており、この大気連通孔1bは、ホルダ1aの内側を介してリザーバ室3と連通している。前記ホルダ1aは、本体1Aと別部材で構成し、これに塗布体13を保持して本体1Aに一体化する構成であっても良い。
【0026】
前記隔壁10の中心部に形成された貫通孔10aには、細長状で断面円形状の中継部材12が挿通されている。本実施形態の中継部材12は、貫通孔10aの内面と、その外面との間で隙間を有するように挿通されており、先端側は、前記塗布体13に接続され、後端側は、貯留室5内に突出している。
【0027】
前記隙間は、毛細管力によって液体を保持できる程度に形成されており、液体が収容される貯留室5との間で気液交換部を構成している。すなわち、この隙間に保持されている液体は、塗布体13側で液体が消費されると中継部材12に移動し、隙間内の液体が消費されると、空気が流入して貯留室5に入り、再び隙間内に液体が満たされる状態となる。このため、隙間は、塗布体側で液体を消費すると、その消費分の空気を貯留室5内に流入させる機能(気液交換機能)を備えている。
【0028】
前記中継部材12の外面と貫通孔10aの内面との間に形成される隙間は、貯留室5に貯留される液体の粘度によって適宜調整され、液体が流出しない程度に設定されていれば良い。また、隙間の形成方法については、中継部材12に対して2箇所以上当接して気液交換できる構成、例えば、貫通孔10aの断面を多角形状や楕円形状(断面非円形状)にして断面円形の中継部材を挿通させることで形成しても良く、このような構成では、中継部材12を容易に位置決めすることが可能になる。或いは、中継部材12を円形の貫通孔に挿通させ、中継部材12の外面に軸方向に沿って1本以上のスリットを形成しても良いし、貫通孔の縁部に、径方向に延びるように1本以上のスリットを形成したり、中継部材12の外面に当て付くように貫通孔の内面に1個以上の突起を形成したものであっても良い。
【0029】
前記気液交換部については、隔壁10のいずれかの部分に形成されたものであっても良い。例えば、中継部材12を隔壁10に対して隙間なく嵌入させ、それ以外の部分に、空気が貯留室5側へ移動可能となるように貫通孔を形成しても良いし、隔壁10の外周縁に本体1Aの内面との間で隙間を形成しても良い。すなわち、リザーバ室3から貯留室5側に空気が入り込み、その膨張した分だけ液体が中継部材12を通じて塗布体側に移送できれば、気液交換部の構成については適宜変形することが可能である。
【0030】
前記中継部材12は、軸方向に平行な多数の繊維を収束して圧縮することで多孔質の棒状の部材として形成されており、液体は、その外面に沿って、及び、内部の毛細管力によって塗布体13側に移送される。この場合、中継部材12は、毛細管力によって貯留室5内に貯留された液体を塗布体に向けて感度良く移送する構造であれば良く、その気孔率については、貯留室内に収容される液体の粘度によって適宜、選択される。例えば、粘度が低い液体であれば、気孔率が低いものを用い、粘度が高い液体であれば、気孔率が高いものを用いることが好ましい。
【0031】
なお、中継部材12は、貯留室内に収容される液体を塗布体13に移送する機能を果たすものであれば、繊維質のものに限定されることはない。例えば、プラスチックのような成型品で、軸方向に沿って液体を毛細管力によって保持できるような構造であっても良い。
【0032】
前記隔壁側吸蔵体20A及び塗布体側吸蔵体20Bは、液体を吸蔵可能な材料で形成されており、例えば、繊維材料等、多孔質の材料(綿等)によって構成することが可能である。この場合、繊維材料で吸蔵体20A,20Bを形成すると、構成繊維の絡み具合等によって気孔率のバラツキが大きいため、製品毎に気孔率が比較的安定しているウレタンで形成することが好ましい。このようなウレタンは、吸水性及び伸縮性があるため、後述するように、軸方向に圧縮すると、気孔率を低くすることが容易に行えるようになる(本実施形態の吸蔵体は、ウレタンで構成される)。
【0033】
各吸蔵体20A,20Bは、本体1Aの断面形状に対応した形状を備えており、本体1Aの形状が円筒形であれば、その内径以下の外径を有する円柱形状で構成することが好ましい。すなわち、本体1Aの内径よりも、吸蔵体20A,20Bの外径が小さいと、後述する押圧工程がし易くなり、隔壁に当て付くと、軸方向に圧縮力が作用した状態で径方向に広がって本体1Aの内面と接触することも可能となり、配設位置の安定化が図れるようになる。また、リザーバ室3に、吸蔵体20A,20Bを配設しておくことにより、中継部材12に多量の液体が流れた場合であっても、その液体を保持して、塗布体13が液体リッチ状態になることを防止できると共に、そこで吸収した液体を、中継部材12にリターンさせること(塗布による再利用)も可能となる。
【0034】
前記吸蔵体20A,20Bは、気孔率が異なるように構成されている。この場合、隔壁側吸蔵体20Aの気孔率が低く、塗布体側吸蔵体20Bの気孔率が高くなるようにすることで、貯留室5から流出する液体を隔壁側吸蔵体20Aで保持すると共に、貯留室側にリターンさせることができる。すなわち、温度が高くなるなどの要因によって、貯留室から液体が流出しても、確実に毛細管力の強い隔壁側吸蔵体20Aで保持して塗布体側での液体リッチを防止することができる。また、温度が低下した場合、そこで保持されている液体は、貯留室5(中継部材12)にリターンされる。更には、隔壁側吸蔵体20Aで保持した液体が飽和した場合、毛細管力の弱い塗布体側吸蔵体20Bで保持できることから、液体の貯留量を増やすことも可能となる。
【0035】
ところで、前記吸蔵体20A,20Bを量産するに際しては、繊維の絡み具合などの要因によって気孔率を一定に管理することは困難である。通常、上記した塗布具の組立前の各吸蔵体(生産時の吸蔵体)の気孔率は、中継部材12の気孔率よりも高くなる(中継部材12の毛細管力≧各吸蔵体20A,20Bの毛細管力)ように設定されるが、設計上の気孔率に対して±15%程度の誤差が生じている。このように、吸蔵体の気孔率に誤差が大きいと、(中継部材12の毛細管力≧気液交換部内の毛細管力≧隔壁側吸蔵体20Aの毛細管力>塗布体側吸蔵体20Bの毛細管力)の関係にならないことがあり、最終製品にバラツキが生じてしまう。このため、製品によっては、塗布体13が液体リッチ状態になるもの、または、塗布体側に液体の供給が十分でなくなるものが生じてしまい、品質にバラツキが生じ易い。
【0036】
本実施形態では、塗布具1を製造するに際して、以下の構成を採用することで、複数個の吸蔵体20A,20Bの気孔率を管理し、製品毎にバラツキが生じ難く、各吸蔵体を容易に組み込めるようにしている。
【0037】
まず、図1(a)に示すように、本体1A内に、隔壁10、隔壁側吸蔵体20A、塗布体側吸蔵体20B、及び、中継部材12を組み込む。この状態において、隔壁側吸蔵体20Aを隔壁10に当て付けておいても良いし、離間させておいても良い。この場合、隔壁側吸蔵体20A、及び、塗布体側吸蔵体20Bは、形状及び気孔率が同一のものを用いることで、部品点数の削減、組み込み性の容易化が図れる。また、異なるタイプの塗布具に対しても、同じ仕様の吸蔵体を利用することが可能となり、低コスト化及び組み立て性の容易化が図れる。なお、本実施形態では、隔壁側吸蔵体20A、及び、塗布体側吸蔵体20Bは、同一仕様のウレタンが用いられており、この状態では、各吸蔵体20A,20Bには、径方向及び軸方向に圧縮力が作用していない状態となっている。
【0038】
次に、各吸蔵体20A,20Bに対し、中継部材12に沿って軸方向から押圧力を付与し(押圧工程)、前記隔壁10に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体20Aと、この隔壁側吸蔵体20Bに対して気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体20Bが並設されるようにする。
【0039】
本実施形態の押圧工程では、図1(b)に示すように、中継部材12の塗布体側を隔壁側に向けて軸方向(D1方向)に押圧する。この場合、押圧は、治具によって中継部材12を直接押圧しても良いし、塗布体13を押圧することで中継部材12を押圧しても良い。或いは、ホルダ1a部分を本体に対して着脱式にし、ホルダ1aを外して塗布体側吸蔵体20Bを直接D1方向に押圧しても良い。
【0040】
この軸方向(D1方向)の押圧によって、2つの吸蔵体の内、隔壁側の吸蔵体は、隔壁10に押し付けられて軸方向に圧縮される。すなわち、隔壁10に当接した状態で気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体20Aと、それよりも気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体20Bとが隣接して配設された状態となる。このように、中継部材12に沿った押圧力を付与することで、隔壁10に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体20Aと、この隔壁側吸蔵体20Aよりも気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体20Bとを有する塗布具1が得られる。
【0041】
上記した軸方向(D1方向)への押圧によって、隔壁側吸蔵体20Aの軸方向長さL1は、塗布体側吸蔵体20Bの軸方向長さL2よりも短くなる。例えば、押圧前の2つの吸蔵体の当初の軸方向長さが、それぞれ6mmであると仮定し、上記の押圧工程によって押圧力を付与することで、隔壁側吸蔵体20Aの軸方向長さL1が4mm程度、それよりも気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体20Bの軸方向長さL2が6mm程度とすることが可能である(このような軸方向長さL1,L2は、押圧力を変えることで適宜、調整することが可能である)。
【0042】
なお、中継部材12、及び/又は、本体1Aには、中継部材12に沿った押圧力が付与された状態で、隔壁側吸蔵体20Aの軸方向長さL1が、塗布体側吸蔵体20Bの軸方向長さL2よりも短くなるように、押圧構造を設けておくことが好ましい。この場合、隔壁側吸蔵体20Aの気孔率が塗布体側吸蔵体20Bの気孔率より低くなれば、各吸蔵体の構成及び材料は限定されることはなく、隔壁側吸蔵体20Aの軸方向長さL1は、塗布体側吸蔵体20Bの軸方向長さL2よりも長くても良い。
【0043】
本実施形態の押圧構造は、中継部材12の表面に設けられ、隔壁側吸蔵体20Aに係合する段部30で構成されている。前記段部30は、隔壁側吸蔵体20Aの中央領域と接触するように小径されている。すなわち、塗布体側吸蔵体20Bに嵌合する部分の外径が大きく、隔壁側吸蔵体20Aに嵌合する部分の外径が小さく形成されている。このような段部については、例えば、中継部材12の表面を加工(センタレス加工など)することで形成することが可能である。
【0044】
前記押圧構造(段部30)によれば、中継部材12の塗布体側を隔壁側に向けてD1方向に押圧すると、中継部材12が隔壁10側に変位し、前記段部30を介して隔壁側吸蔵体20Aを隔壁10に強く当接させる(軸方向に圧縮する)ことができ、隔壁側吸蔵体20Aの気孔率を、塗布体側吸蔵体20Bの気孔率よりも低くすることが容易に行えるようになる。なお、押圧構造については、塗布体側吸蔵体20Bを隔壁側に変位させる構成であっても良いし、本実施形態のように、中継部材12と共に塗布体側吸蔵体20Bを隔壁側に変位させても良い。
【0045】
また、本実施形態では、上記したD1方向の押圧工程の後、図1(c)に示すように、隔壁10を治具等によって、軸方向(D2方向)に押圧して隔壁10を塗布体側に変位させるようにしている。上記したように、中継部材12をD1方向に押圧すると、隔壁側吸蔵体20Aが隔壁10に当接して移動が規制され、隔壁側吸蔵体20Aの隔壁側が潰れ、軸方向で見ると、隔壁側の部分の気孔率が低くなった状態になる。この状態で、隔壁10を、D2方向に押圧して隔壁10を塗布体側に変位させると、隔壁側吸蔵体20Aの塗布体側は、前記段部30及び塗布体側吸蔵体20Bに当接され、全体が軸方向に均等に圧縮された状態となり、気孔率を安定化させることができる。
【0046】
上記した隔壁10のD2方向の押圧によって、隔壁側吸蔵体20Aの軸方向長さL1は、図1(b)で示した長さよりも短くなる(4mmから3mm程度に圧縮される)。
本実施形態では、図1(c)に示すように、塗布体側吸蔵体20Bと本体1Aの底部1cとの間に隙間が設けられているが、塗布体側吸蔵体20Bが必要以上に圧縮されなければ、塗布体側吸蔵体20Bは底部1cに当接していても良い。また、上記したD1方向、及び、D2方向の押圧工程は、隔壁側吸蔵体20Aの気孔率を、塗布体側吸蔵体20Bの気孔率よりも低く設定できれば、何れか一方向のみを行なっても良いし、D2方向の押圧の後、D1方向の押圧を行なっても良い。
【0047】
上記した塗布具1によれば、温度が高まる等、貯留室5側から液体が隔壁の貫通孔10aを介してリザーバ室3側に流出すると、その液体は気孔率が低い(毛細管力が強い)隔壁側吸蔵体20Aに吸蔵され、塗布体13で液体リッチ状態(液だれ)を効果的に抑制することが可能となる。この場合、隔壁側吸蔵体20Aに保持された液体が飽和しても、塗布体側吸蔵体20Bで保持することができ、液だれを更に効果的に抑制することが可能となる。また、気孔率が低い隔壁側吸蔵体20Aは、隔壁10に当て付くように配設されているので、吸蔵されている液体を貯留室5側にリターンさせ易くすることができる。
【0048】
さらに、中継部材12に沿った方向(D1方向、及び/又は、D2方向)に押圧力を付与して、隔壁側吸蔵体20Aを隔壁10に当接させて(軸方向に圧縮させて)気孔率が低くなるように設定するので、吸蔵体の組み込み作業及び気孔率の管理が容易になり、製品毎にバラツキのない塗布具が得られる。また、塗布具の種類、大きさ、用途に応じて、押圧力を適切に調整するだけで良く、吸蔵体に同一仕様のものを用いても、気孔率の調整が容易に行えるので、製造が容易でコストも低減することが可能となる。
【0049】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
なお、以下に説明する実施形態では、第1の実施形態と同様な部分については同一の参照符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0050】
図2(a)~(c)は、塗布具の第2の実施形態を示す図である。
図1(a)~(c)に示す実施形態では、押圧構造を、中継部材12の外周面に形成された段部30によって構成したが、本実施形態では、中継部材12の外周面を表面処理することで、表面の摩擦係数の相違によって構成している。
【0051】
具体的には、中継部材12の表面と隔壁側吸蔵体20Aとの間の摩擦係数を、中継部材12の表面と塗布体側吸蔵体20Bとの間の摩擦係数よりも大きくなる粗面化処理31を施すことで構成している。この粗面化処理31は、例えば、中継部材12の隔壁側吸蔵体20A側の表面を粗研磨して、その部分の繊維を露出させて凹凸状にする、摩擦係数が高い材料をコーティングする等で構成することが可能である。
【0052】
このような粗面化処理31を施すことで、中継部材12を軸方向に押圧すると、塗布体側吸蔵体20Bよりも隔壁側吸蔵体20Aの移動抵抗が大きいので、中継部材12と共に隔壁側吸蔵体20Aが一体的に移動し、上記した実施形態と同様な作用効果の塗布具が得られる。また、中継部材12の表面に摩擦係数が高い材料をコーティングする構成では、中継部材12の表面に段部を形成するよりも加工コストを安くすることができる。
【0053】
図3(a)~(c)は、塗布具の第3の実施形態を示す図である。
図1(a)~(c)に示す実施形態では、押圧構造を、中継部材12の外周面に段部を形成することで構成したが、本実施形態では、中継部材12の塗布体側の外周面に外皮32を設け、この外皮32の端縁を隔壁側吸蔵体20Aに当接するようにしている。外皮32については、塗布体側吸蔵体20B部分の肉厚を厚くする構造であれば良く、ゴム、樹脂等の管状の部材を中継部材12に圧入することで構成することが可能である。
【0054】
このような外皮32を形成することで、上記した実施形態と同様な作用効果の塗布具が得られる。また、塗布体側吸蔵体20Bに保持された液体は、中継部材12にリターンすることがなく、そのまま保持した状態にすることができるので、塗布体13での液だれを効果的に防止することができる。また、常温では、液体が中継部材12から塗布体側吸蔵体20Bに移動できないので、塗布感度が良好になると共に、吸蔵体全体の飽和を無くす、或いは、遅らせることができ、塗布体での液だれを効果的に防止することができる。
【0055】
図4(a)~(c)は、塗布具の第4の実施形態を示す図である。
本実施形態の押圧構造は、前記本体1Aの内面に設けられ、隔壁側吸蔵体20Aと係合するリブ33によって構成されている。
前記リブ33は、本体1Aの内面に、軸方向に沿うように一体形成されたものであり、周方向に一定間隔、例えば、90°間隔で4箇所形成されている。
【0056】
図4(a)に示すように、リブ33の端縁は、隔壁側吸蔵体20Aに当接しており、この状態で中継部材12を矢印D1方向に押圧すると、隔壁側吸蔵体20A及び塗布体側吸蔵体20Bは、中継部材12との間の摩擦力によって変位し、隔壁側吸蔵体20Aが隔壁10に当接する。このとき、リブ33の端縁と隔壁側吸蔵体20Aとの間には、図4(b)に示すように、隙間が生じている。
【0057】
そして、図4(c)で示すように、引き続き隔壁10を矢印D2方向に押圧して塗布体側に変位させることで、隔壁側吸蔵体20Aは、リブ33の端縁に当接して軸方向に均等に圧縮されるようになる(塗布体側吸蔵体20Bよりも気孔率が低くなる)。
このように、押圧構造については、本体1A側に設置することも可能であり、上記した実施形態と同様な作用効果を得ることが可能となる。
【0058】
なお、リブ33の形成個数は適宜変形することが可能である。また、リブについては、周方向に所定間隔をおいて径方向に突出する構造以外にも、径方向に突出した環状のフランジ構造によって構成することも可能である。
【0059】
図5(a)~(c)は、塗布具の第5の実施形態を示す図である。
本実施形態における隔壁側吸蔵体20A´と塗布体側吸蔵体20B´は、仕様が異なる構成にしており、上記した実施形態度同様、軸方向に押圧力を付与することで、隔壁側吸蔵体20A´の気孔率が低くなるように構成している。
【0060】
具体的には、隔壁側吸蔵体20A´を、塗布体側吸蔵体20B´に対して、密度が低い、又は、硬度が低い材料で構成しており、D1方向、D2方向の押圧力を作用させた際、隔壁側吸蔵体20A´の方が圧縮され易くなるようにしている(軸方向長さL1<軸方向長さL2)。この場合、D1方向、D2方向の押圧量、押圧順、押圧方向(いずれか一方でも良い)については、隔壁側吸蔵体20A´の気孔率が塗布体側吸蔵体20B´の気孔率よりも低くなるように設定されれば良い。また、このような構成では、上記した押圧構造を用いても良い。
このような構成であっても、上記した実施形態と同様な作用効果を得ることが可能となる。
【0061】
図6(a)~(c)は、塗布具の第6の実施形態を示す図である。
本実施形態では、軸方向であるD1方向、D2方向の少なくとも一方で押し込み操作をした際、移動抵抗を大きくして吸蔵体を大きく圧縮するように構成している。すなわち、隔壁側吸蔵体20Aの移動抵抗が、塗布体側吸蔵体20Bの移動抵抗よりも大きくなるように構成している。
【0062】
具体的には、塗布体側吸蔵体20Bに、中継部材12が遊度を持って挿通するように軸方向に延出する貫通孔35を形成し、隔壁側吸蔵体20Aに中継部材12を隙間なく嵌合させている。例えば、中継部材12の外径をφ2.5mm、貫通孔35の内径をφ2.6mm、隔壁側吸蔵体20Aの貫通孔の内径をφ2.5mmにされる。或いは、隔壁側吸蔵体20Aの移動抵抗が、塗布体側吸蔵体20Bの移動抵抗よりも大きくなる構成、例えば、中継部材12の外径をφ2.5mm、貫通孔35の内径をφ2.5mm、隔壁側吸蔵体20Aの貫通孔の内径をφ2.45mmにする等で構成することも可能である。
【0063】
このような構成によれば、図6(b)(c)に示すように、中継部材12をD1方向に押し込んだり、隔壁10をD2方向に押し込んで塗布体側に変位させることで、隔壁側吸蔵体20Aの気孔率を、塗布体側吸蔵体20Bの気孔率よりも低くすることができる。
【0064】
図7(a)~(c)は、塗布具の第7の実施形態を示す図である。
本実施形態では、前記隔壁側吸蔵体20Aと隔壁10との間に、隔壁側吸蔵体20Aよりも軸方向長さが薄肉(L1>T)で、硬度が高く、気孔率が低い薄板材40を介在している。すなわち、隔壁側吸蔵体20Aは、D1方向に押圧力を作用させると薄板材40を介して隔壁10に押圧されて圧縮作用を受け、D2方向に押圧力を作用させると、隔壁10が塗布体側に変位して、薄板材40を介して圧縮作用を受ける。このため、上記した実施形態と同様、軸方向への押圧作用によって、隔壁側吸蔵体20Aの気孔率<塗布体側吸蔵体20Bの気孔率の関係となっており、また、薄板材40の気孔率<隔壁側吸蔵体20Aの気孔率となっている。なお、薄板材40と隔壁側吸蔵体20Aの気孔率の関係については、薄板材40の気孔率>隔壁側吸蔵体20Aであっても良く、薄板材40及び隔壁側吸蔵体20Aの気孔率は、共に塗布体側吸蔵体20Bの気孔率よりも低ければ良い。
【0065】
このような構成では、貯留室5から流出した液体は、まずは気孔率が低く隔壁10の気液交換部に当接した薄板材40に流れ、この部分で飽和すると、隔壁側吸蔵体20Aに流れるため、塗布体での液だれをより効果的に抑止することができる。
前記薄板材40としては、例えば、フェルト材を用いることができ、フェルト材は、中継部材12から流れる液体を、中継部材12と直交する方向(径方向)に広がって保持するように作用する。したがって、特に、アルコール系のような粘性の低い液体については、効果的に薄板材40に保持することが可能となり、隔壁側吸蔵体20Aでの飽和を抑制して塗布体側での液だれをより防止することが可能となる。
【0066】
図8(a)~(c)は、塗布具の第8の実施形態を示す図である。
本実施形態の中継部材は、同軸上で離間した隔壁側中継部材12Aと塗布体側中継部材12Bとを備えた構成となっている。
【0067】
具体的には、本体1Aに対して、塗布体側吸蔵体20Bと塗布体側中継部材12Bを一体化して組み込んでおき(図8(a))、その状態で、本体1Aに対して、隔壁10、隔壁側吸蔵体20A、隔壁側中継部材12Aを一体化して組み込む(図8(b))。前記塗布体側中継部材12Bの端部12B´は、塗布体側吸蔵体20Bから隔壁側に突出しており、前記隔壁側中継部材12Aの端部12A´は、隔壁10から貯留室内に突出している。この場合、隔壁側中継部材12Aの端部12A´は、保持状態を安定化するように、隔壁10と一体化され、空気通路45aを有するホルダ45によって保持されている。また、隔壁側吸蔵体20Aの中心部分には、前記塗布体側中継部材12Bの端部12B´が嵌入される貫通孔25が形成されている。
【0068】
このような構成において、塗布体側中継部材12Bを矢印D1方向に押圧し、引き続いて、隔壁10を矢印D2方向に押圧すると、隔壁側中継部材12Aと塗布体側中継部材12Bは、同一軸上に位置させることができる(図8(c))。このとき、隔壁側中継部材12Aと塗布体側中継部材12Bの離間位置(間隙S)は、隔壁側吸蔵体20Aの範囲内にある。
【0069】
このような構成によれば、中継部材が軸方向に分断された状態になるため、塗布体側での液だれが生じ難い構成となる。特に、アルコール系のような粘性の低い液体については、中継部材に間隙Sがあることで、塗布体側への移送が制限されることとなり、塗布体が液体リッチ状態になることが効果的に抑制される。
【0070】
また、上記した構成では、図1に示した第1の実施形態と同様、塗布体側中継部材12Bの外周面の表面端部に段部30を形成しておくことが好ましい。すなわち、段部30を形成することで、塗布体側中継部材12Bの端部12B´が小径部を構成している。この小径部(端部12B´)は、塗布体側吸蔵体20Bから軸方向に突出して、隔壁側吸蔵体20Aの内部に位置している。
【0071】
このような段部30を形成することで、隔壁側吸蔵体20Aを軸方向両側から確実に押圧して、隔壁側吸蔵体20Aの気孔率を均一に低下させることが可能となる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、種々、変形することが可能である。
本発明は、リザーバ室内に配設される複数の吸蔵体に関し、軸方向に押圧力を作用させて、隔壁側吸蔵体20Aを隔壁10に当接させ、かつ、その毛細管力が、塗布体側吸蔵体20Bよりも小さくなるように、押圧力を調整することに特徴を有する。このため、それ以外の構造については、特に限定されることはない。
【0073】
例えば、気液交換部、隔壁、塗布体等の構成については、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。また、隔壁側吸蔵体20Aの気孔率については、中継部材12、隔壁10の移動量、移動速度、各吸蔵体に対する軸方向の摩擦力を変えることで調整することが可能である。
【0074】
また、上述した各実施形態については、ある実施形態の構成要素を別の実施形態の構成要素に置換したり、組み合わせて実施しても良い。さらに、上記した実施形態は、アイライナーのような化粧品、筆記具等、様々な塗布具に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 塗布具
1A 本体
3 リザーバ室
5 貯留室
10 隔壁
12 中継部材
13 塗布体
20A 隔壁側吸蔵体
20B 塗布体側吸蔵体
【要約】
【課題】リザーバ室内に軸方向に沿って複数の吸蔵体を設置した塗布具において、各吸蔵体の気孔率の管理が容易で、製品毎にバラツキがなく、各吸蔵体を容易に組み込める塗布具を提供する。
【解決手段】塗布具1は、本体1A内に設けられ、液体が貯留される貯留室5と、貯留室5内から流出する液体を保持可能にするリザーバ室3と、貯留室とリザーバ室とを区画する隔壁10と、貯留室5に貯留された液体の塗布を可能とする塗布体13と、隔壁10の貫通孔に隙間を介して挿通され、貯留室5に収容された液体を塗布体13側に移送する中継部材12と、リザーバ室3内に中継部材12に沿って複数個配設される吸蔵体とを備える。複数個の吸蔵体は、中継部材12に沿った押圧力が付与されて、隔壁10に当接して気孔率が低くなった隔壁側吸蔵体20Aと、この隔壁側吸蔵体20Aよりも気孔率が高くなった塗布体側吸蔵体20Bとを有する。
【選択図】 図1
図1
図2
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図10