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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】環境発電用リチウムイオンキャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/24 20130101AFI20241205BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20241205BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20241205BHJP
【FI】
H01G11/24
H01G11/36
H01G11/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023562407
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2022042765
(87)【国際公開番号】W WO2023090402
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2021186745
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521322812
【氏名又は名称】株式会社マテリアルイノベーションつくば
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尹 航
(72)【発明者】
【氏名】張 坤
(72)【発明者】
【氏名】松本 悠
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 之規
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-506628(JP,A)
【文献】特開2014-207453(JP,A)
【文献】特開2019-021770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/24
H01G 11/36
H01G 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン及びアニオンを可逆的に吸蔵放出する正極活物質を含む正極と、
リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出する負極活物質を含む負極と、
リチウム塩と非プロトン性有機溶媒とを含み、前記正極及び前記負極に接触する電解液と
を有し、
前記負極には予めリチウムイオンが吸蔵されており、
前記負極に含まれる負極活物質の質量は、前記正極に含まれる正極活物質の質量の2倍以上である環境発電用リチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
前記正極活物質は、グラフェンとカーボンナノチューブとの複合体である請求項1に記載の環境発電用リチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
前記正極活物質は、メディアン径(D50)が5μm以下である請求項1又は2に記載の環境発電用リチウムイオンキャパシタ。
【請求項4】
前記負極への前記リチウムイオンの供給源として金属リチウムが配置されている請求項1~3のいずれか1項に記載の環境発電用リチウムイオンキャパシタ。
【請求項5】
金属箔ラミネートフィルムによって構成された外装体に収容されている請求項1~4のいずれか1項に記載の環境発電用リチウムイオンキャパシタ。
【請求項6】
コイン形の外装体に収容されている請求項1~4のいずれか1項に記載の環境発電用リチウムイオンキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境発電の蓄電デバイスとして用いられる環境発電用リチウムイオンキャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
環境発電は、光、熱、振動及び風などの身近にある微小なエネルギーを電力に変換する発電技術であり、エネルギーハーベスティングとも言われている。これらの環境発電は、得られる電力量が少なく、発電量も変動しやすいことから、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスと組み合わせることで実用化が図られている。
【0003】
一方、従来の環境発電用蓄電デバイスには充電効率や劣化などの問題があり、近年、リチウムイオンキャパシタの適用が検討されている。リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池の負極と電気二重層キャパシタの正極を組み合わせた構造を有し、正極と負極の原理が異なるハイブリッドキャパシタである(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1には、正極活物質がリチウムイオンおよびアニオンを可逆的に担持可能な活物質であり、負極活物質がリチウムイオンを可逆的に担持可能な活物質であり、負極活物質の単位質量あたり静電容量が正極活物質の単位質量あたりの静電容量の3倍以上を有し、かつ正極活物質質量が負極活物質の質量よりも大きく、負極には予めリチウムイオンが担持されている有機電解質キャパシタが記載されている。
【0005】
また、特許文献2に記載のリチウムイオンキャパシタは、高容量化及び長寿命化を目的とし、正極と負極を短絡させた後の正極の電位が2.0V以下になるように負極及び/又は正極に対してリチウムイオンを予めドーピングすると共に、正極単位質量あたりの静電容量C(F/g)、正極活物質質量W(g)、負極単位質量あたりの静電容量C(F/g)、負極活物質質量W(g)としたとき、(C×W)/(C×W)の値を5以上にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2003/003395号
【文献】特開2007-158273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように環境発電は発電量が微小であるため、組み合わせて使用される蓄電デバイスには、微小電流を効率よく充電することが求められる。また、静電容量が大きいと充電に長時間を要するため、蓄電デバイスの容量は小さい方が好ましく、漏れ電流、即ち自己放電を十分に小さく抑えることが必要となる。更に、環境発電用蓄電デバイスは、発電量の変動に伴い充放電が頻繁に切り替わるため、充放電の頻度に係わらず半永久的に容量が維持されることも求められる。
【0008】
しかしながら、前述した従来のリチウムイオンキャパシタは、環境発電用蓄電デバイスとしては、時間経過に伴う自己放電を抑える電荷保持力が十分ではなく、その他の要求も満足することができない。
【0009】
そこで、本発明は、自己放電が少なく、充放電を繰り返しても静電容量が低下しにくい環境発電用リチウムイオンキャパシタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る環境発電用リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン及びアニオンを可逆的に吸蔵放出する正極活物質を含む正極と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出する負極活物質を含む負極と、リチウム塩と非プロトン性有機溶媒とを含み、前記正極及び前記負極に接触する電解液とを有し、前記負極には予めリチウムイオンが吸蔵されており、前記負極に含まれる負極活物質の質量は、前記正極に含まれる正極活物質の質量の2倍以上である。
前記正極活物質には、例えばグラフェンとカーボンナノチューブとの複合体を用いることができる。
前記正極活物質は、例えばメディアン径(D50)が5μm以下である。
一方、前記負極へのリチウムイオンの供給源として金属リチウムが配置されていてもよい。
本発明の環境発電用リチウムイオンキャパシタは、金属箔ラミネートフィルムによって構成された外装体に収容されていてもよく、又は、コイン形の外装体に収容されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自己放電を抑え、高い頻度の充放電によっても静電容量が低下しにくく、半永久的な寿命を持つ環境発電用リチウムイオンキャパシタを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態のリチウムイオンキャパシタの構成例を示す模式図である。
図2】リチウムイオンキャパシタの充放電の原理を示す概念図である。
図3】リチウムイオンキャパシタの等価回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は本発明の実施形態に係るリチウムイオンキャパシタの構成例を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1は、正極活物質21を含む正極2と、負極活物質31を含む負極3と、リチウム塩と非プロトン性有機溶媒とを含む電解液4とを備え、負極3にはリチウムイオン33がプレドープされている。そして、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1では、負極3に含まれる負極活物質31の質量が正極2に含まれる正極活物質21の質量の2倍以上である。
【0015】
[正極2]
正極2は、例えばアルミニウムやステンレスなどの金属材料からなる正極集電体22の表面に、正極活物質21を含むスラリーを塗布した後、乾燥することによって形成することができる。ここで、正極集電体22の形態は、特に限定するものではなく、前述した金属材料からなる箔やシートなどを用いることができるが、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網及び発泡体などのように貫通孔を有するものが好適である。
【0016】
一方、正極活物質21は、リチウムイオン及びアニオンを可逆的に吸蔵放出できるものであればよく、例えば活性炭、導電性高分子及びポリアセン系物質などの従来から使用されている材料を用いることができる。また、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1では、正極活物質21として、グラフェンとカーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nano-Tube)との複合体を用いてもよい。例えば特開2015-20920号公報や国際公開第2015/129820号に記載されている表面に結晶成長させたCo(OH)の板状結晶を有するグラフェン/CNT複合体を正極活物質21に用いると、電子やイオンを効率よくレドックス反応に関与させることができ、リチウムイオンキャパシタ1のサイクル寿命を延ばすことができる。
【0017】
一般的なリチウムイオンキャパシタ1では、容量を高めるために負極活物質31よりも正極活物質21の質量を大きくしているが、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1は、環境発電用であり、静電容量は小さい方が好ましいことから、負極活物質31よりも正極活物質21の質量を小さくしている。
【0018】
具体的には、負極3に含まれる負極活物質31の質量を正極2に含まれる正極活物質21の質量の2倍以上、即ち、正極活物質の質量を、負極活物質31の質量の1/2以下にしている。これにより、環境発電用途に適した微小容量で、充電速度が速いリチウムイオンキャパシタが得られる。なお、正極活物質21の質量は、負極活物質31の質量の1/3以下であることが好ましく、より好ましくは1/5以下であり、更に好ましくは1/10以下である。
【0019】
また、正極活物質31は、メディアン径(D50)が5μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以下である。このような粒子径が細かい材料を用いることにより、厚さ10μm以下の薄い電極(正極2)を形成することができる。
【0020】
[負極3]
負極3は、例えば銅、アルミニウム、ステンレス及びニッケルなどの金属材料からなる負極集電体32の表面に、負極活物質31を含むスラリーを塗布した後、乾燥することによって形成することができる。負極集電体32の形態も、特に限定されるものではなく、例えば前述した金属材料からなる箔やシートなどを用いることができるが、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網及び発泡体などのように貫通孔を有するものが好適である。
【0021】
負極活物質31は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出できる材料であればよく、例えば、グラファイト、種々の炭素材料、ポリアセン系物質、錫酸化物及びケイ素酸化物などを用いることができる。そして、前述したように、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1においては、負極3に含まれる負極活物質31の質量が、正極2に含まれる正極活物質21の質量の2倍以上であり、3倍以上であることが好ましく、より好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上である。
【0022】
また、負極活物質31の粒子径は、特に限定されるものではないが、正極活物質21よりも質量を大きくするために粒子径が比較的大きいものを用いることが好ましい。負極活物質31にメディアン径が大きい材料を用いることにより、界面における副反応の発生を抑えることができる。
【0023】
本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1では、負極3に、化学的方法又は電気化学的方法により、予めチウムイオン33が吸蔵担持(プレドープ)されている。負極3にリチウムイオン33をプレドープする方法としては、例えばex situ電気化学法(EEC法)やin situ電気化学法(IEC法)などが挙げられる。
【0024】
一方、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1は、セルとして大きな静電容量は必要なく、また、正極活物質21よりも負極活物質31の質量を大きくするために、正極2と対向する負極3の数は1枚か2枚となることから、負極3に金属リチウムを貼り付けるリチウム貼付法が好適である。
【0025】
リチウム貼付法により負極3にリチウムイオン33をプレドープする場合は、例えば箔状の金属リチウムを負極3又は負極3と電気的に接続している位置に貼り付ければよい。このように、負極3へのリチウムイオン33の供給源として金属リチウムを配置することにより、リチウムイオン33を簡便にプレドープすることができる。このとき、負極集電体32をエキスパンドメタルなどにより形成し、貫通孔を有する構成とすることが好ましい。これにより、負極集電体32の貫通孔を通してリチウムイオン33が負極活物質31内に移動することが可能となる。
【0026】
また、リチウム貼付法に用いられる箔状の金属リチウムの厚さは、プレドープ工程においてリチウムが析出しない範囲であればよく、例えば負極活物質31の厚さの1/2未満とすることが好ましい。更に、リチウム貼付法では、リチウム箔に代えてリチウム粉末を用いることもできるが、製造工程での取り扱い易さの点から箔の方が好適である。
【0027】
[電解液4]
電解液4は、リチウム塩と非プロトン性有機溶媒とを含み、正極2及び負極3に接触する。電解液4を構成する非プロトン性有機溶媒には、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン及びスルホランなどを用いることができ、これらは単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。また、電解液4を構成する電解質には、リチウムイオンを生成するものであればよく、例えばLiI、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPFなどのリチウム塩を用いることができる。
【0028】
[外装体]
本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1は、金属箔ラミネートフィルムによって構成された外装体に収容されていてもよく、また、コイン形の外装体に収容されていてもよい。例えば、外装体をアルミニウムラミネートフィルムで構成することにより、リチウムイオンキャパシタ1全体を、薄型化及び軽量化することができる。一方、コイン形の外装体は、リチウム貼付法によりプレドープするリチウムイオンキャパシタへの適用に実績があり、低コストで、量産性及び品質安定性に優れたリチウムイオンキャパシタが実現できる。
【0029】
[動作]
次に、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1の動作について説明する。図2はリチウムイオンキャパシタの充放電の原理を示す概念図である。図2に示すように、本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1は、初期状態(Neutral)では、プレドープされたリチウムイオン33が負極活物質31に担持されており、負極活物質31の電位は約3Vになっている。このときのセル電位は、負極電位である約3Vである。
【0030】
このリチウムイオンキャパシタ1では、初期状態(Neutral)から充電すると、アニオン(-)が正極活物質21に吸着して正極2はプラスに帯電し、カチオン(+)であるリチウムイオンが負極活物質31に吸着して、セル電圧が例えば4Vに上昇する。一方、初期状態(Neutral)から放電すると、正極活物質21にカチオン(+)が吸着し、負極活物質31中のリチウムイオンが減少して、セル電圧は例えば2Vに低下する。
【0031】
本実施形態のリチウムイオンキャパシタ1において、正極2は、電気化学的反応を伴わずに物理的にリチウムイオンを吸着することによって電荷を保持するキャパシタ的な振舞いをしている。そして、正極2で生じる現象は活物質表面へのイオンの吸着/離脱であるため、保持できる電荷の量、即ち充電できる容量は活物質の表面積によって決まる。
【0032】
一方、負極3は、充放電により電気化学的反応を伴ってリチウムイオンを活物質に担持する電池的な振舞いをしており、充電時には電解液中のリチウムイオンが、電気化学的反応を伴って活物質の中に担持され、放電時には逆にリチウムイオンが活物質から電解液中に放出される。そして、充放電に伴って負極3で発生する現象は、リチウムイオンと活物質との電気化学的反応であり、充電できる容量は負極活物質の体積又は質量によって決まる。
【0033】
図3はリチウムイオンキャパシタの等価回路を示す図である。図3に示すように、リチウムイオンキャパシタ全体の静電容量Ccellは、正極2の静電容量Cと負極の静電容量Cの直列接続として、下記数式1で表される。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、正極2の静電容量Cと負極3の静電容量Cは、それぞれ単位質量あたりの静電容量c及び静電容量cと、正極活物質21の質量W及び負極活物質31の質量Wから、下記数式2,3により表される。
【0036】
【数2】
【0037】
【数3】
【0038】
そして、上記数式2,3の静電容量の比をKとすると、下記数式4で表される。
【0039】
【数4】
【0040】
次に、寿命を表すパラメータとして容量保持率rを導入する。容量保持率rは、下記数式5に示すように、初期静電容量Ccellと、2000時間経過後のセルの静電容量C’cellの比として定義することができる。
【0041】
【数5】
【0042】
更に、正極2の容量保持率rと、負極3の容量保持率rを導入する。その場合、例えば上記数式5と同様の定義とすることができるが、リチウムイオンキャパシタの場合、負極3は電池と同様の振る舞いをし、正極2はキャパシタと同様の振る舞いをするので、正極2の容量保持率はr=1として無視することができる。
【0043】
そこで、初期静電容量Ccellと、一定時間経過後の静電容量C’cellは、それぞれ下記数式6,7のように表すことができる。
【0044】
【数6】
【0045】
【数7】
【0046】
上記数式6,7から容量保持率rを求めると、下記数式8で表される。
【0047】
【数8】
【0048】
ここで、環境発電と組み合わせて使用される蓄電デバイスに求められる寿命を、容量保持率r>0.98と仮定するすると、静電容量比Kに求められる数値は以下のようになる。
負極の容量保持率r=0.5としたとき K>48
負極の容量保持率r=0.1としたとき K>440
【0049】
このように、本実施形態のリチウムイオンキャパシタは、特許文献2に記載の従来のリチウムイオンキャパシタにおいて、長寿命化のために採用された「5≦(C×W)/(C×W)≦22.8」とは、数値範囲が全く異なるものである。即ち、本実施形態のリチウムイオンキャパシタのように、環境発電と組み合わせて使用する蓄電デバイスは、従来のリチウムイオンキャパシタとは異なる発想で検討する必要がある。
【0050】
実用的には、正極2の単位質量あたりの静電容量が70~150F/gであるのに対して、負極3は4000F/gであることから、発明者らは本発明の課題を解決するため、負極活物質31の質量を正極活物質21の質量の2倍以上にすることとした。これは、特許文献1及び特許文献2に記載の従来のリチウムイオンキャパシタとは、技術的思想が逆である。
【0051】
以上詳述したように、本実施形態のリチウムイオンキャパシタは、負極にリチウムイオンをプレドープすると共に、負極に含まれる負極活物質の質量を正極に含まれる正極活物質の質量の2倍以上としているため、自己放電が抑えられ、高い頻度の充放電によっても静電容量が低下しにくく、半永久的な寿命を実現することができる。
【実施例
【0052】
以下、本発明の実施例及び比較例により、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法及び条件で、No.1~13のリチウムイオンキャパシタを製造し、その性能を評価した。
【0053】
<実施例1>
(1)正極の作製
活性炭粉末87質量部、アセチレンブラック粉体5質量部、アクリル系バインダー4質量部、カルボキシメチルセルロース4質量部、水210質量部の組成で配合し、充分混合することによりスラリーを調製した。ここで使用した活性炭粉末は、比表面積が2168m/gであり、メディアン径(D50)は1.4μmであった。
【0054】
正極集電体には厚さ31μmのアルミニウム貫通箔を用い、この正極集電体の片面に、調製したスラリーをロールコーターにて塗布して正極活物質層を成形した後、真空乾燥した。正極集電体の片面に形成された正極活物質層の厚さは12μmであり、正極集電体の厚さを加えた正極全体の厚さは43μmであった。このとき、正極活物質の質量は0.41gであった。
【0055】
(2)負極の作製
炭素質電極材(ハードカーボン)粉末88質量部、アセチレンブラック粉体5質量部、スチレンブタジエンゴム系バインダー3質量部、カルボキシメチルセルロース4質量部、水210質量部の組成で配合し、充分混合することによりスラリーを調製した。ここで使用した炭素質電極材(ハードカーボン)は、比表面積が30m/g未満であり、メディアン径(D50)は1.5±0.5μmであった。
【0056】
負極集電体には厚さ21μmの銅箔を用い、この負極集電体の片面に、調製したスラリーをロールコーターにて塗布して負極活物質層を成形した後、真空乾燥した。負極集電体の片面に形成された負極活物質層の厚さは101μmであり、負極集電体の厚さを加えた負極全体の厚さは122μmであった。このとき、負極活物質の質量は8.76gであり、正極活物質との質量比は21.4であった。
【0057】
(3)正極活物質の単位質量あたりの静電容量の測定
次に、評価用ラミネートセルを製作し、その静電容量を測定した。具体的には、前述した方法で作製した正極から、3.0cm×3.0cmの大きさの評価用電極を2枚切り出し、この2枚の評価用電極それぞれに端子を超音波融着した後、厚さ25μmのセルロース製セパレータを挟むようにして積層した。
【0058】
セパレータを介して積層した2枚の評価用電極を、ポリプロピレンとアルミニウムとナイロンとを積層したラミネートフィルムからなる外装体に収納した後、外装体内に電解液を注入した。注入した電解液は、エチレンカーボネート(EC:Ethylene Carbonate)とジエチルカーボネート(DEC:Diethyl Carbonate)を体積比で1:1の割合で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lとなるように溶解したものである。電解液を注入した後、電極端子の端部を引き出した状態で外装体をヒートシールすることにより封止し、評価用ラミネートセルとした。
【0059】
組み立てた評価用ラミネートセルの静電容量を、室温において0~2.7Vの電位範囲で測定した。単位質量あたりの静電容量C(F/g)は、下記数式9を用いて算出した。なお、下記数式9におけるI(A)は定電流、m(g)は2つの評価用電極の活物質の合計質量であり、dV/dt(V/s)は放電開始時の電圧Vmaxと1/2Vmaxとの間の放電曲線を直線フィッティングして得られる傾きである。
【0060】
【数9】
【0061】
その結果、算出された正極活物質の単位質量あたりの静電容量は、76F/gであった。
【0062】
(4)負極活物質の単位質量あたりの静電容量の測定
正極と同様に負極についても、評価用ラミネートセルを製作し、静電容量を測定した。具体的には、前述した方法で作製した正極から、3.0cm×3.0cmの大きさの評価用電極を2枚切り出し、この2枚の評価用電極に、対極として3.0cm×3.0cmの大きさで厚さが100μmの金属リチウム箔と、厚さ50μmのポリプロピレン(PP)製の微多孔膜をセパレータとして積層して、半電池を作製した。その際、参照極には金属リチウム箔を用いた。
【0063】
電解液には、エチレンカーボネート(EC:Ethylene Carbonate)とジエチルカーボネート(DEC:Diethyl Carbonate)を体積比で1:1の割合で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lとなるように溶解したものを用いた。充電電流密度を50mA/gとし、負極活物質の質量に対して500mAh/g分でリチウムイオンを充電し、その後50mA/gで3Vまで放電を行った。放電開始から1分後の負極の電位に対して電位が0.2V変化するのに要する放電時間から、負極活物質の単位質量あたりの静電容量を求めた。その結果、算出された負極の単位質量あたりの静電容量は、4000F/gであった。
【0064】
(5)リチウムイオンキャパシタセルの作製
次に、前述した方法で製作した正極と負極を、それぞれ3.0cm×3.0cmの大きさにカットし、セパレータを介して積層した。そして、120℃で12時間乾燥した後、最上部と最下部にセパレータを配置し、4辺をテープで留めた。さらに、厚さ21μmのリチウム金属箔を厚さ21μmのラス(メッシュ状銅板)に圧着したものを、正極と対向するように電極積層ユニットの最外部に1枚配置し、電極積層ユニットを得た。
【0065】
この電極積層ユニットにおいて、正極集電体の端子溶接部にアルミニウム製正極端子を超音波溶接し、負極集電体とリチウム金属箔を圧着した銅ラスの端子溶接部にニッケル製負極端子を超音波溶接した。電極端子の端部を外装ラミネートフィルム外に引き出した状態で、外装ラミネートフィルムの端子側の1辺と他の2辺を熱融着した後、電解液を真空含浸させた。使用した電解液は、エチレンカーボネート(EC: Ethylene Carbonate)とジエチルカーボネート(DEC:Diethyl Carbonate)を体積比1:1で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が1mol/Lになるよう溶解された電解液である。最後に残り1辺を減圧下にて熱融着し、真空封止して、本実施例のリチウムイオンキャパシタセルとした。
【0066】
(6)リチウムイオンキャパシタセルの特性評価
先ず、前述した方法で作製したNo.1のリチウムイオンキャパシタセル(以下単に「セル」と呼ぶ)を14日間放置した。その後、セル電圧を測定したところ2.7Vであったため、リチウムイオンが予備充電された(プレドープが完了した)と判断した。次に、1mAの定電流でセル電圧が3.8Vになるまで充電し、1mAの定電流でセル電圧が2.2Vになるまで放電させた。この3.8V-2.8Vのサイクルを行うことによって、初期静電容量を評価した。
【0067】
その後、漏れ電流評価のため、雰囲気温度25℃でセル電圧3.5Vを印加して50時間測定した。これらのデータを元にしたシミュレーションにより、2000時間経過後の静電容量及び静電容量保持率を求めた。その結果、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は10.0μA、初期静電容量は241mF、2000時間経過後の静電容量は239mFで、容量保持率は99.2%であった。
【0068】
<実施例2>
サイズを4.2mm×3.2mmに小型化した以外は、実施例1と同様の方法及び条件でNo.2のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。正極活物質の質量は0.008g、負極活物質の質量は0.172gであり、これらの質量比は実施例1と同じ21.4であった。このリチウムイオンキャパシタセルでは、単位質量あたりの静電容量も、当然ながら実施例1と同じである。
【0069】
得られたNo.2のリチウムイオンキャパシタセルを、実施例1と同じ方法で評価した。ただし、充放電電流は、1mAの定電流を0.1mAに変更した。その結果、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は0.2μA、初期静電容量は3.70mF、2000時間経過後の静電容量は3.67mFで、容量保持率は99.2%であった。
【0070】
<実施例3>
正極活物質の厚さを4μmに薄くし、集電体を含めた正極全体の厚さを35μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法及び条件でNo.3のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。正極活物質の質量は0.14g、負極活物質の質量は8.76gであり、これらの質量比は実施例1と同じ62.6であった。なお、単位質量あたりの静電容量は材料の性質にのみ依存し、電極の厚さを変えても同じ値であるから、単位質量あたりの静電容量は、実施例1と同じである。
【0071】
得られたNo.3のリチウムイオンキャパシタセルを、実施例1と同じ方法及び条件で評価した結果、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は8.0μA、初期静電容量は79.0mF、2000時間経過後の静電容量は78.5mFで、容量保持率は99.4%であった。
【0072】
前述したように、セル全体の静電容量は、正極の容量と負極の容量を直列接続した容量である。No.3のリチウムイオンキャパシタセルでは、負極活物質の質量が正極の62.6倍と大きく、負極容量が大きいため、直列容量は正極容量に大きく依存する。正極活物質の厚さをNo.1のリチウムイオンキャパシタセルの1/3に薄くしたため、正極容量も1/3になり、セル全体の静電容量も概ね1/3になった。これは、大容量化には逆行するが、環境発電のような微小な電荷の充放電を求められる系への適用には好適であった。
【0073】
<実施例4>
サイズを4.2mm×3.2mmに小型化した以外は、実施例3と同様の方法及び条件でNo.4のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。このリチウムイオンキャパシタセルでは、単位質量あたりの静電容量も当然ながらNo.3のセルと同じであり、正極活物質と負極活物質の質量比もNo.3のセルと同じ62.6であった。
【0074】
得られたNo.4のリチウムイオンキャパシタセルを、実施例2と同じ方法及び条件、即ち充放電電流を0.1mAにして評価した。その結果、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は0.1μA、初期静電容量は1.10mF、2000時間経過後の静電容量は1.09mFで、容量保持率は99.1%であった。
【0075】
<実施例5>
正極活物質を活性炭粉末に代えてカーボンナノチューブとグラフェンの複合体にした以外は、実施例1と同様の方法及び条件で正極を作製した。正極活物質の単位質量あたりの静電容量は150mF/gであった。また、片面の正極活物質層の厚さは8μm、正極集電体を加えた正極全体の厚さは39μmとし、正極活物質の質量は0.27gであった。
【0076】
負極は、実施例1と同様の方法で作製した。片面の負極活物質層厚さは101μm、負極集電体の厚さを加えた負極全体の厚さは122μmであり、負極活物質の質量は8.76gで、正極活物質と負極活物質の質量比は32.4であった。なお、負極活物質の単位質量あたりの静電容量は、実施例1~4と同様に4000F/gであった。
【0077】
前述した正極及び負極を用いて実施例1と同様の方法及び条件でNo.5のリチウムイオンキャパシタセルを作製し、実施例1と同様の方法及び条件で評価したところ、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は11.0μA、初期静電容量は321mF、2000時間経過後の静電容量は316mFで、容量保持率は98.4%であった。
【0078】
このNo.5のリチウムイオンキャパシタセルは、正極活物質にカーボンナノチューブとグラフェンの複合体を用いたため、正極活物質の単位質量あたりの静電容量がNo.1のセルの1.97倍となった。また、正極活物質の厚さを12μmから8μmに薄膜化しても、セル全体の静電容量は241mFから320mFに1.33倍に増加した。これにより、正極活物質にカーボンナノチューブとグラフェンの複合体を用いることで、要求仕様の静電容量をもつリチウムイオンキャパシタセルをより小型化できることがわかった。
【0079】
<実施例6>
実施例5と同様の方法及び条件で、正極及び負極を作製した。正極活物質の質量は0.005g、負極活物質の質量は0.172gであり、質量比は実施例5と同じ32.4であった。なお、各電極活物質の単位質量あたりの静電容量は、当然ながら実施例5と同じである。
【0080】
前述した正極及び負極を用い、サイズを4.2mm×3.2mmに小型化した以外は、実施例5と同様の方法及び条件でNo.6のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。このリチウムイオンキャパシタセルの特性を、実施例2と同じ方法及び条件、即ち充放電電流を0.1mAにして評価した。その結果、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は0.3μA、初期静電容量は4.80mF、2000時間経過後の静電容量は4.72mFで、容量保持率は98.3%であった。
【0081】
これにより、正極活物質にカーボンナノチューブとグラフェンの複合体を用いてもセルの小型化に支障はなく、要求仕様の静電容量をもつリチウムイオンキャパシタセルをより小型化するときに、正極活物質の薄膜化に加えて、小面積化を併用することができることがわかった。
【0082】
<実施例7>
負極活物質の厚さを26μm、負極集電体を加えた負極全体の厚さを47μmとした以外は、実施例1と同様の方法及び条件で、正極及び負極を作製した。負極活物質の質量は2.23gで、正極活物質との質量比は5.4であった。なお、各電極活物質の単位質量あたりの静電容量は、実施例1~4の電極と同じである。
【0083】
前述した正極及び負極を用い、貼り付ける金属リチウム箔の厚さを5μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で、No.7のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。その結果、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は9.8μA、初期静電容量は240mF、2000時間経過後の静電容量は236mFで、容量保持率は98.3%であった。
【0084】
<実施例8>
負極活物質の厚さを167μmとし、負極集電体を加えた負極全体の厚さを188μmにした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、正極及び負極を作製した。負極活物質の質量は14.5gで、正極活物質との質量比は35.4であった。なお、各電極活物質の単位質量あたりの静電容量は、実施例1~4の電極と同じである。
【0085】
前述した正極及び負極を用い、貼り付ける金属リチウム箔の厚さを32μmに変更した以外は、実施例1及び実施例7と同様の方法及び条件で、No.8のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。その結果、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は9.0μA、初期静電容量は241mF、2000時間経過後の静電容量は239mFで、容量保持率は99.2%であった。
【0086】
<実施例9>
正極活物質の厚さを12μmとし、正極集電体を加えた正極全体の厚さを55μmにした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、正極及び負極を作製した。正極活物質の質量は0.82g、負極活物質の質量は2.23gで、正極活物質と負極活物質の質量比は2.7であった。なお、各電極活物質の単位質量あたりの静電容量は、実施例1~4の電極と同じである。
【0087】
前述した正極及び負極を用い、貼り付ける金属リチウム箔の厚さを5μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で、No.9のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。このリチウムイオンキャパシタセルは、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は9.6μA、初期静電容量は475mF、2000時間経過後の静電容量は470mFで、容量保持率は98.9%であった。
【0088】
<実施例10>
実施例1と同様の方法及び条件で正極を作製した。負極は、炭素質電極材(ハードカーボン)粉末に代えて黒鉛を用いて作製した。負極に用いた黒鉛のメディアン径(D50)は4.3μmであり、負極活物質の厚さは152μm、負極集電体の厚さを加えた負極全体の厚さは173μmであった。また、負極活物質の質量は15.1gであり、正極活物質との質量比は36.8であった。
【0089】
実施例1と同様の方法で、負極活物質の単位質量あたりの静電容量を測定したところ、15263F/gであった。なお、正極活物質の単位質量あたりの静電容量は、実施例1~4と同じく76F/gである。
【0090】
前述した正極及び負極を用い、No.10のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。その際、貼り付ける金属リチウム箔の厚さを27μmに変更し、厚さ21μmの銅ラス(メッシュ状銅板)に圧着したものを正極と対向するように電極積層ユニットの最外部に1枚配置した電極積層ユニットを作製した。このNo.10のリチウムイオンキャパシタセルを、実施例1と同様の方法で評価したところ、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は8.8μA、初期静電容量は243mF、2000時間経過後の静電容量は242mFで、容量保持率は99.6%であった。
【0091】
<実施例11>
実施例1と同様の方法及び条件で正極を作製した。正極活物質の質量は0.081g、負極活物質の質量は2.23gで、正極活物質と負極活物質の質量比は実施例1と同様に21.4であった。なお、各電極活物質の単位質量あたりの静電容量は、実施例1の電極と同じである。
【0092】
前述した正極及び負極を用い、外装体をラミネートフィルムに代えてコイン型として、No.11のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。外装体には、C2032コイン型セルを用いた。具体的には、正極及び負極をそれぞれ直径15mmの円形にカットし、セパレータを挟んで積層し、更に厚さ21μm、直径15mmの円形の金属リチウムを正極に積層してセル内に配置し、電解液を真空含浸させた後で封止してコイン型キャパシタセルを得た。
【0093】
その際、電解液には、エチレンカーボネート(EC:Ethylene Carbonate)とジエチルカーボネート(DEC:Diethyl Carbonate)を体積比1:1で混合した溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が1mol/Lとなるよう添加して溶解したものを用いた。
【0094】
前述した方法で組み立てたコイン型キャパシタセル(No.11のリチウムイオンキャパシタセル)の特性を、実施例1と同様の方法で評価したところ、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は3.0μA、初期静電容量は34.0mF、2000時間経過後の静電容量は33.7mFで、容量保持率は99.1%であった。
【0095】
<比較例1>
正極活物質に比表面積が1600m/g、メディアン径(D50)が5μmのYP-50活性炭粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法及び条件で正極及び負極を作製した。その際、片面の正極活物質の厚さを82μmとし、正極集電体の厚さを加えた正極全体の厚さを113μmとした。
【0096】
正極活物質の質量は4.9g、負極活物質の質量は8.76gであり、正極活物質と負極活物質の質量比は1.8であった。また、実施例1と同様の方法で、正極活物質の単位質量あたりの静電容量を測定したところ、100F/gであった。なお、負極活物質の単位質量あたりの静電容量は、実施例1~4と同じく4000F/gである。
【0097】
前述した正極及び負極を用い、No.12のリチウムイオンキャパシタセルを作製し、実施例1と同様の方法でその特性を評価した。その結果、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は25μA、初期静電容量は3604mF、2000時間経過後の静電容量は3273mFで、容量保持率は90.8%であった。
【0098】
<比較例2>
実施例7と同様の方法及び条件で正極及び負極を作製した。実施例7と同様に、正極活物質の質量は0.41g、負極活物質の質量は2.23gで、正極活物質と負極活物質の質量比は5.4であった。なお、各電極活物質の単位質量あたりの静電容量は、実施例1~4の電極と同じである。
【0099】
前述した正極及び負極を用い、No.13のリチウムイオンキャパシタセルを作製した。その際、貼り付ける金属リチウム箔の厚さを15μmに変更し、厚さ21μmの銅ラス(メッシュ状銅板)に圧着したものを正極と対向するように電極積層ユニットの最外部に1枚配置した電極積層ユニットを作製した。このNo.13のリチウムイオンキャパシタセルを、実施例1と同様の方法で評価したところ、セル電圧3.5Vにおける漏れ電流は16μA、初期静電容量は240mF、2000時間経過後の静電容量は208mFで、容量保持率は86.7%であった。
【0100】
以上の結果を下記表1にまとめて示す。なお、下記表1における「BF」は活性炭を、「CNT/G」はカーボンナノチューブとグラフェンの複合体を、「LF」はラミネートフィルムを示す。
【0101】
【表1】
【0102】
上記表1に示す実施例1(No.1)及び実施例2(No.2)と、実施例3(No.3)及び実施例4(No.4)との比較から、負極の厚さを変えずに正極活物質の厚さのみ12μmから4μm(集電体を含めた正極全体の厚さでは43μmから35μm)に薄くすることにより、リチウムイオンキャパシタセルの静電容量は約1/3になるが、漏れ電流はより小さく抑えられることが確認された。
【0103】
実施例1(No.1)及び実施例2(No.2)と、実施例5(No.5)及び実施例6(No.6)との比較から、電極の大きさを30mm×30mmから4.2mm×3.2mmに小型化しても、静電容量保持率と漏れ電流には影響しないことが確認された。また、正極活物質を活性炭粉末からカーボンナノチューブとグラフェンの複合体に変更した影響については、正極活物質の単位質量あたりの静電容量が76F/gから150F/gに増加し、リチウムイオンキャパシタセルの静電容量もそれぞれ大幅に増加した。
【0104】
一方、保持率の劣化は99.2%から98.2~98.3%へと、限定的であった。また、漏れ電流の劣化も同様に、実施例1(No.1)の10.0μA及び実施例2(No.2)の0.2μAから、実施例5(No.5)の11.0μA及び実施例6(No.6)の0.3μAと、限定的であった。
【0105】
実施例7(No.7)及び実施例8(No.8)は、実施例1(No.1)と比較して負極の厚みを変化させたものであり、実施例7(No.7)はより薄く、実施例8(No.8)はより厚くしている。これらのリチウムイオンキャパシタはいずれも保持率が98%以上、漏れ電流が10μA以下であり、良好な特性を示した。ただし、比較例2(No.13)から、金属リチウム箔の厚さは、負極にプレドープされたときに析出することがないように適切に調整する必要があることが確認された。
【0106】
実施例9(No.9)は、実施例7(No.7)と比較して正極の厚さを変えた例であり、実施例7(No.7)と較べると、正極が厚く、且つ、負極が薄くなっているため、負極活物質の正極活物質に対する質量比は2.7と小さくなっている。実施例9(No.9)は、正極活物質の質量を大きくしたことで静電容量は大きくなるが、前述したように保持率と漏れ電流の特性は良好な範囲であった。
【0107】
実施例10(No.10)は、負極活物質を黒鉛に変更したものであり、負極活物質の静電容量は著しく増加したが、リチウムイオンキャパシタセルの静電容量の増加はわずかで、容量保持率の向上と漏れ電流の低下に寄与することが確認された。実施例11(No.11)から、本発明の構成は外装体の種類によらず、コイン型のキャパシタセルに適用しても、良好な特性を示すことが確認された。
【0108】
一方、負極活物質の正極活物質に対する質量比を1.8にした比較例1(No.12)は、容量保持率が著しく低下し、漏れ電流も大きくなり、環境発電と組み合わせて使用する蓄電デバイスには相応しくないものであった。また、比較例1(No.12)は、正極活物質としてメディアン径(D50)が5μmのものを用いたため、リチウムイオンキャパシタセルの静電容量は10倍以上に増加したが、容量保持率は著しく劣化した。
【0109】
また、プレドープのためのリチウム金属箔の厚さを15μmに変更した比較例2(No.13)は、静電容量の保持率が86.7%、漏れ電流が16.0μAに劣化した。このリチウムイオンキャパシタセルでは、リチウムが析出するなどの問題が生じ、負極にリチウムイオンが適切にプレドープされなかったと考えられる。この結果から、金属リチウムの厚さは、負極の厚さに応じて適切に薄くするように調整する必要があると考えられる。
【0110】
以上の結果から、本発明によれば、自己放電が少なく、充放電を繰り返しても静電容量が低下しにくい環境発電用リチウムイオンキャパシタを実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0111】
1 リチウムイオンキャパシタ
2 正極
3 負極
4 電解液
21 正極活物質
22 正極集電体
31 負極活物質
32 負極集電体
33 リチウムイオン
図1
図2
図3