(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】吸湿を抑制したオリゴ糖粉末
(51)【国際特許分類】
A23L 29/30 20160101AFI20241205BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20241205BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241205BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241205BHJP
A21D 13/80 20170101ALN20241205BHJP
【FI】
A23L29/30
A23L33/125
A23L5/00 N
A23L2/52
A23L2/00 F
A21D13/80
(21)【出願番号】P 2023527629
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2022022069
(87)【国際公開番号】W WO2022259909
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2021096400
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313014608
【氏名又は名称】ウェルネオシュガー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】郡上 彰
(72)【発明者】
【氏名】近藤 修啓
(72)【発明者】
【氏名】平林 克樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基雄
(72)【発明者】
【氏名】和藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隆一
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-178685(JP,A)
【文献】特開2012-016320(JP,A)
【文献】国際公開第2018/212118(WO,A1)
【文献】特開2009-240270(JP,A)
【文献】国際公開第2008/136331(WO,A1)
【文献】特開2018-201398(JP,A)
【文献】特開平10-179041(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216707(WO,A1)
【文献】渡邊光(林原),最新技術情報 水溶性食物繊維の新たな選択肢,イソマルトデキストリン,月刊フードケミカル A Technical Journal on Food Chemistry & Chemicals,株式会社食品化学新聞社 川添 辰幸,2016年01月,第32巻,第1号,第6-10頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/30
A23L 33/125
A23L 5/00
A23L 2/52
A21D 13/80
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5重量%以上のイソマルトデキストリン及び残余をオリゴ糖として調整され乾燥された
固化や潮解を伴う水分吸湿を抑制した調整オリゴ糖粉末。
【請求項2】
オリゴ糖がフラクトオリゴ糖、又はガラクトオリゴ糖である
請求項1記載のオリゴ糖粉末。
【請求項3】
フラクトオリゴ糖が、
ケストース、ニストース、若しくはフラクトシルニストースのいずれかであるか、又はこれら2つ以上を含む混合物であることを特徴とする
請求項2記載のオリゴ糖粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のオリゴ糖粉末を配合して製造される飲食品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項記載のオリゴ糖粉末からなるサプリメント。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項記載のオリゴ糖粉末を含むサプリメント。
【請求項7】
固化や潮解を伴う水分吸湿を抑制した調整オリゴ糖粉末製造方法であって、
オリゴ糖、及びイソマルトデキストリンをそれぞれBrix70以上75以下の溶液として調整する工程と、
調整されたオリゴ糖溶液
に対し、イソマルトデキストリン溶液を
少なくとも5重量%以上の割合で混合する工程と、
前記混合された溶液を乾燥する乾燥工程を含むオリゴ糖粉末製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程は、噴霧乾燥、真空乾燥、又は凍結乾燥である
請求項7記載のオリゴ糖粉末製造方法。
【請求項9】
前記オリゴ糖が、
フラクトオリゴ糖、又はガラクトオリゴ糖である
請求項7又は8記載のオリゴ糖粉末製造方法。
【請求項10】
前記フラクトオリゴ糖が、
ケストース、ニストース、若しくはフラクトシルニストースのいずれかであるか、又はこれら2つ以上を含む混合物である
請求項9記載のオリゴ糖粉末製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿性が低く、保存安定性が良好なオリゴ糖粉末に関する。特にオリゴ糖とイソマルトデキストリンを混合したオリゴ糖粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴ糖は、単糖が2~10個程度結合した糖質で、具体的にはフラクトオリゴ糖、ケストース、ガラクトオリゴ糖、乳糖果糖オリゴ糖(ラクチュロース)、ラフィノース、ラクトスクロース、セロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ヒトミルクオリゴ糖等があげられる。例えば、フラクトオリゴ糖は、グルコースとフルクトースが結合した二糖類であるショ糖のフルクトースに1つ以上のフルクトースが結合したオリゴ糖を指す。フラクトオリゴ糖は、ショ糖に1つフルクトースが結合したケストース、2つ結合したニストース、3つ結合したフラクトフラノシルニストース等の総称である。また、これらオリゴ糖が混合された状態のものを指す。ガラクトオリゴ糖は、ガラクトースが直線状、あるいは分岐して重合したオリゴ糖であって、末端がグルコースであることを除いて、ガラクトースで構成されているオリゴ糖である。
【0003】
フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖等は、ヒト消化管では消化、吸収されないことから、低カロリーであり、摂取後もほとんど血糖値の上昇が見られない。また、消化吸収されないことから、大腸まで到達し、腸内のビフィズス菌をはじめとするいわゆる善玉菌の選択的な栄養源となりプレバイオティクスとして機能する。そのため、フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖を摂取することによって、腸内細菌叢のバランスが改善されることによる整腸作用、ミネラル吸収促進作用があることが知られている。また、齲歯の原因となるストレプトコッカス ミュータンス等の細菌の栄養源とはなりにくく、不溶性グルカンを生成しないことから、難齲歯性の糖であると言われている。また、コレステロールなどの脂質の代謝改善作用、免疫調節作用等、多くの生理的機能があることが知られている。
【0004】
健康志向が高まっていることから、上述のように好ましい生理機能を備えたオリゴ糖への関心や需要が高まっている。オリゴ糖は、飲料、パン、デザート、菓子などの加工食品に含有されているだけでなく、近年ではオリゴ糖をサプリメントとして摂取することも行われている。
【0005】
オリゴ糖は、液体や粉末の状態で販売されている。液体のオリゴ糖は、水分が含まれていること、他の糖類が含まれていることから、一定量のオリゴ糖を健康目的で摂取する場合には、好ましい形態とは言えない。また、日常的に液状製品を使用する場合は開封後冷蔵庫で保管されることも多く、冷蔵温度から常温への移行により製品ボトル内で結露が発生し、局所的なBrix値低下を招き、糖濃度が低下し微生物が繁殖するリスクが生じる。そのため、粉末状のオリゴ糖がより好ましいと考えられている。また、食品素材として用いる場合にも、粉末状の方が種々の食品に加えやすいため使用上の利用価値が高い。しかし、粉末状のオリゴ糖は、一般的に吸湿しやすく、保存安定性に問題がある。
【0006】
そこで、利用価値の高い粉末状のオリゴ糖の吸湿性を解決するために、オリゴ糖の高純度結晶化を行う方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載の方法は、吸湿性を抑制することが可能であるが、工業的に高純度結晶化を行うためには、分離分画工程、結晶化工程など多段階の煩雑な工程が必要であり、結晶化されたオリゴ糖は高価なものとなるという問題があった。また、糖毎に分離工程、結晶化工程を検討する必要があり、汎用性に欠けているという問題もある。また、ショ糖とオリゴ糖を混合し、結晶化する方法も開示されている(特許文献2)。特許文献2に記載の方法は、吸湿性は抑制されるもののショ糖と混合されていることから、オリゴ糖の特性である低カロリー、難齲歯性等の機能が損なわれるという問題がある。また、オリゴ糖とアカシア食物繊維を30:70~56:44の比率で混合して製造することにより吸湿性が抑制されたオリゴ糖製剤を製造することが開示されている(特許文献3)。特許文献3に記載の方法は、吸湿性を抑制することは可能であるが、精製度の低いアカシア食物繊維は、茶色に着色していることから、製品化されたオリゴ糖製剤にも着色が見られ、食品素材として用いる場合に利用が限定されるという問題があった。また、アカシア繊維は水溶性ではあるものの分子量が約10万と非常に大きいため溶けにくく、その溶解液は粘性が高くなってしまうこともあり食品素材として使用するうえでは問題となっていた。また、特許文献3には、アカシア繊維の他にも比較例として分子量の小さい難消化性デキストリンやポリデキストリンが記載されているが、いずれも分子量が小さいことから溶解性は改善されるものの吸湿抑制には寄与せずオリゴ糖粉末の保存状態は改善されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平06-165700号公報
【文献】特開平03-259100号公報
【文献】国際公開第2016/052721号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、吸湿性が抑制され、保存安定性に優れたオリゴ糖含有粉末を得ることを目的とする。さらに、吸湿を抑制しながらオリゴ糖の生理的機能を損なうことなく、その生理機能を維持、あるいは増強したオリゴ糖粉末、及びオリゴ糖粉末製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のオリゴ糖粉末、これを含有する飲食品及びオリゴ糖粉末の製造方法に関する。
(1)オリゴ糖とイソマルトデキストリンを含んで調整され乾燥されたオリゴ糖粉末。
(2)5重量%以上のイソマルトデキストリン及び残余がオリゴ糖であることを特徴とする(1)記載のオリゴ糖粉末。
(3)オリゴ糖がフラクトオリゴ糖、又はガラクトオリゴ糖である(1)又は(2)いずれか1つ記載のオリゴ糖粉末。
(4)フラクトオリゴ糖が、ケストース、ニストース、若しくはフラクトシルニストースのいずれかであるか、又はこれら2つ以上を含む混合物であることを特徴とする(3)記載のオリゴ糖粉末。
(5)(1)~(4)いずれか1つ記載のオリゴ糖粉末を配合して製造される飲食品。
(6)(1)~(4)いずれか1つ記載のオリゴ糖粉末からなるサプリメント。
(7)(1)~(4)いずれか1つ記載のオリゴ糖粉末を含むサプリメント。
(8)オリゴ糖、及びイソマルトデキストリンをそれぞれBrix70以上75以下の溶液として調整する工程と、調整されたオリゴ糖溶液、及びイソマルトデキストリン溶液を所定の割合で混合する工程と、前記混合された溶液を乾燥する乾燥工程を含むオリゴ糖粉末製造方法。
(9)イソマルトデキストリンをオリゴ糖に対し少なくとも5重量%以上の割合で混合することを特徴とする(8)記載のオリゴ糖粉末製造方法。
(10)前記乾燥工程は、噴霧乾燥、真空乾燥、又は凍結乾燥である(8)、又は(9)記載のオリゴ糖粉末製造方法。
(11)前記オリゴ糖が、フラクトオリゴ糖、又はガラクトオリゴ糖である(8)~(10)いずれか1つ記載のオリゴ糖粉末製造方法。
(12)前記フラクトオリゴ糖が、ケストース、ニストース、若しくはフラクトシルニストースのいずれかであるか、又はこれら2つ以上を含む混合物である(11)記載のオリゴ糖粉末製造方法。
【発明の効果】
【0010】
イソマルトデキストリンとオリゴ糖を混合して粉末とすることにより、オリゴ糖の生理的機能はそのままに吸湿性を抑制したオリゴ糖粉末を提供することができる。さらに、イソマルトデキストリンの吸湿抑制効果が高く、添加する割合が少なくても十分な効果が得られることから、少量の摂取でオリゴ糖の生理的な効果を得ることができる。そのため、賞味期限に合わせてイソマルトデキストリンの添加料を調整し、所望の吸湿抑制効果を備えた商品設計が可能となる。また、イソマルトデキストリンの生理的機能も得られることになり、機能性食品としてより好ましい素材となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】配合比を変えてイソマルトデキストリンを添加して調整されたフラクトオリゴ糖粉末を温度24℃、湿度50%の条件下で静置し、時間経過による重量増加率を示す図。
【
図2】種々のオリゴ糖に1:1の配合比でイソマルトデキストリンを添加して調整されたオリゴ糖粉末を温度24℃、湿度50%の条件下で静置し、時間経過による重量増加率を示す図。
【
図3】フラクトオリゴ糖(FOS)に90:10、又は85:15の配合比でイソマルトデキストリンを添加して調整されたオリゴ糖粉末を温度24℃、湿度50%の条件下で静置し、時間経過による重量増加率を示す図。
【
図4】イソマルトデキストリン添加量と小凝集塊形成までの時間を示す図。
【
図5】フラクトオリゴ糖(FOS)に90:10、又は85:15の配合比でイソマルトデキストリンを添加して調整されたオリゴ糖粉末の薬匙への付着量で吸湿を試験した結果を示す図。(A)は、1日1分間の開放、(B)は、1日5分間の開放により試験した結果を示す。
【
図6】オリゴ糖粉末の添加による酪酸産生菌、ビフィズス菌の増殖に対する効果を示す図。酪酸産生菌、ビフィズス菌の培地中にケストース(GF2)、イソマルトデキストリン(IMD)、又はケストースとイソマルトデキストリンを併用して(Mix)添加し、嫌気的条件で培養した。各細菌の増殖は48時間後の濁度で示す。
【
図7】オリゴ糖粉末の機能性食品としての効果の解析結果を示す図。酪酸産生菌、ビフィズス菌の培地中にケストース、イソマルトデキストリン、又はケストースとイソマルトデキストリンを併用して添加し、嫌気的条件で培養後、培地上清中の短鎖脂肪酸量を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、オリゴ糖の高純度結晶化を行うことなく、吸湿を抑制し、保存安定性が向上した糖製品の提供を目的とし、添加物の検討を行った。その結果、イソマルトデキストリンを一定量添加することによって、オリゴ糖単体と比較して吸湿が抑制された製品となることを見出し、本発明を完成させた。乾燥させた糖粉末は、オリゴ糖単体からなる糖粉末と比較して、吸湿性が抑制されるだけではなく、色味、食味についても、オリゴ糖単体と比較して遜色ないものであった。
【0013】
本発明において、オリゴ糖とは、単糖が2~10個程度結合した糖質で、具体的にはフラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳糖果糖オリゴ糖(ラクチュロース)、ラフィノース、ラクトスクロース、セロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ヒトミルクオリゴ糖が例示される。しかし、単糖が2~10個程度結合した糖であれば、いかなる糖も「オリゴ糖」に含まれる。本発明のオリゴ糖粉末の製造に用いられる糖としては、フラクトオリゴ糖、具体的には、ケストース、ニストース、フラクトシルニストース、及びこれらの混合物やガラクトオリゴ糖を主成分とするオリゴ糖が好適なものとして挙げられる。また、本明細書で「オリゴ糖粉末」という場合には、オリゴ糖のみからなる粉末に加え、オリゴ糖にイソマルトデキストリンを配合し製造したオリゴ糖とイソマルトデキストリンを含むオリゴ糖含有粉末も含むものとする。また、本明細書では、精製しきれずに残存している不純物を含むものを使用している場合があるが、そのような場合でも主成分のオリゴ糖名で記載している。
【0014】
また、吸湿とは、固化や潮解を伴う水分吸湿を指す。オリゴ糖のような吸湿性の高い糖の場合、吸湿によって、粉末同士が小さな塊、いわゆるダマ(凝集塊)を形成し、表面が固結し、潮解に至る。糖の吸湿性は、菓子などに加えた場合に、乾燥を防ぐという利点もあるものの、高吸湿性の糖は保存安定性が悪く、扱いづらいという面がある。本発明において、「吸湿を抑制した糖」とは、パッケージを開封後、想定される使用期間内においては、空気中の水分を吸湿しても固結や潮解に至らず、軽く振動させることにより扱いやすい粉末状で存在する糖を指す。
【0015】
ここで、「想定される使用期間」とは、開封後、使い切るまでの時間を指す。オリゴ糖は未開封であっても徐々に分解して果糖となることから、通常1~2年の品質保持期限(賞味期限)が設定されている。これは、オリゴ糖が果糖に分解されることにより、食品として摂取した場合の安全性には問題はないが、機能性食品としての効果が低下するからである。さらに、開封後空気に曝されることにより、オリゴ糖の果糖への分解は加速され、機能性食品としての効果も低下すると考えられることから、開封後2~3ヶ月以内に使い切ることが好ましいとされている。
【0016】
具体的には、サプリメントのように消費者が1日1回摂取する商品形態を考えると、通常30日から60日分のパッケージとして販売されており、30日から60日の使用期間が想定されている。したがって、30日から60日の間、毎日の使用により室内の湿気に曝されたとしても吸湿せず保存できることが必要とされる。また、消費者が日々の食品に砂糖に代えて、あるいは砂糖の一部を代替して使用する場合も、開封から2~3ヶ月間で使い切ることが推奨される。食品加工会社で加工食品の材料として使用される場合には、パッケージ自体は大きくなるものの、通常、多量に使用することから、使い切るまでの時間はより短く、開封から30日以内に使用されることが想定される。これら使用形態を考えると、開封後30日安定に保存することができればよく、好ましくは60日、より好ましくは90日の保存安定性があれば十分であると考えられる。
【0017】
以下の実施例で示すように、オリゴ糖にイソマルトデキストリンを一定量添加し、乾燥させることにより、吸湿性が抑制された糖粉末を得ることができる。イソマルトデキストリンは、コーンスターチなどのデンプンにα-グルコシルトランスフェラーゼ及びα-アミラーゼを用いて製造された水溶性食物繊維の一種であり、グルコースが分岐状に結合された構造をしている。粉末は白色であり、易水溶性であり、水溶液は無色透明で低粘度であり、においもなく、また、加熱しても分解されず高安定性であることから食品素材として使用する場合にも使いやすい素材である。また、砂糖の1/20程度の甘さがあるものの、オリゴ糖に添加して用いる場合には、無色、無臭であることからオリゴ糖の風味を損なうことなく使用することができる。イソマルトデキストリンとしては、例えば、株式会社林原のファイバリクサ(登録商標)などを使用することができる。
【0018】
さらに、イソマルトデキストリンは、水溶性食物繊維であることから、大腸に到達し、種々の生理機能を発揮することが知られている。水溶性食物繊維は、腸内細菌叢を整え、良好な状態に保つことが報告されている。水溶性食物繊維は、プレバイオティクスとして機能することから、消化管機能調節、腸疾患の発症抑制、ミネラル吸収促進、有害物質毒性軽減などの作用があることが知られている。また、血糖調節作用、脂質代謝改善作用、免疫調節などの機能があることも報告されている。具体的には、便通改善、下痢軽減などの腸内細菌叢の改善による作用だけではなく、免疫調節機能の改善、血糖上昇抑制、脂質代謝改善、血中中性脂肪上昇抑制、満腹感持続などの様々な作用があり、イソマルトデキストリンについても、同様の生理機能が示されている。本発明のオリゴ糖粉末は、オリゴ糖としての機能だけではなく、添加されているイソマルトデキストリンの機能との相乗効果が期待できることから、機能的食品としてより優れた効果を期待することができる。
【0019】
ここで、機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、個別の認可を必要とする特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、規格基準型自己認証制である栄養機能食品、企業の責任において表示する機能性表示食品を含む保健機能食品をいう。さらに、機能性食品とは、機能性表示食品や機能性の表示をしないまでも一般食品の中で、機能を考慮した栄養補助食品や健康補助食品等を含む。機能を考慮した一般食品とは、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント、ダイエット食品等の美容食品を含む、いわゆる健康食品全般を包含している。あるいはコーデックス(CODEX)規格に基づく、健康強調表示や栄養強調表示により表示を受けるべき食品を包含している。本発明のオリゴ糖粉末は、そのまま機能性食品として摂取することも可能であるが、他の食品に含有させる場合には、一食分、あるいは1日摂取分にオリゴ糖の生理的機能が得られる量を含有させることが望ましい。
【0020】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
フラクトオリゴ糖とイソマルトデキストリンとの混合物を用いて、オリゴ糖粉末を製造し、出来上がったオリゴ糖含有粉末の吸湿性の検討を行った。フラクトオリゴ糖であるケストース溶液は、ショ糖溶液をフラクトフラノシダーゼを添加して得られた反応液をクロマト分離装置にて分離し、ケストースを高含有する画分のみを取得し、濃縮して製造した。得られたケストース溶液をBrix70~75に調整した溶液と、同じくBrix70~75に調整したイソマルトデキストリン(商品名:ファイバリクサ、株式会社林原)溶液を混合した混合溶液を調整した。フラクトオリゴ糖とイソマルトデキストリンの質量比を1:0(コントロール)、3:1、1:1の3種の配合割合のオリゴ糖溶液を調整し、乾燥させ、オリゴ糖粉末を製造した。
【0021】
乾燥方法は、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等、食品製造分野で使用される通常の乾燥方法を使用することができる。また、乾燥条件は特に限定されることなく、各乾燥方法に適した条件を用いればよい。ここでは、連続真空乾燥装置を用いて、濃度70%固形分の原料液を、加熱温度70℃の条件で乾燥させ、オリゴ糖粉末を製造した。得られた各粉末を正確に秤量し、温度24℃、湿度50%環境下に静置し、吸湿を経時的な重量変化として計測し、重量増加率として求めた。結果を
図1に示す。
【0022】
ケストース単体でオリゴ糖粉末とした場合には(配合比1:0)、30分後には、表面に変化が表れるものの、タッピングすれば崩れる程度であり、固結はしていなかった。しかし、60分経過後から2~3mm程度の小凝集塊が生じ(図中▽で示す)、90分以降は全体的に固結していた(図中矢印で示す)。固結が観察された90分時の重量の増加は3.64%であった。240分後には、吸湿により6.34%重量の増加が見られた。これに対し、イソマルトデキストリンを25重量%添加したオリゴ糖粉末(配合比3:1)では、60分経過後から2~3mm程度の小凝集塊が生じるものの(図中▼で示す)、240分後もその状態が維持され、全体が固結することはなかった。240分後の重量増加率は4.61%であった。すなわち、イソマルトデキストリンを25重量%添加した場合には、ケストース単体で固結が認められた3.64%以上の重量増加が認められた時点でも、固結しないことを示している。さらに、イソマルトデキストリンを50重量%添加したオリゴ糖粉末(配合比1:1)では、210分後まで全く形状に変化が認められず、サラサラした状態を維持していた。240分後に表面が少し固まるような変化が認められたが、タッピングすればすぐに崩れる状態であり、240分後でもサラサラな状態が維持されていた。240分後の重量増加率は2.19%であった。以上の結果からイソマルトデキストリンを25重量%以上添加すれば、240分後でもタッピングし軽く振動を与えるだけで、扱いやすい粉末状の性状となる。
【0023】
実際には、オリゴ糖粉末を実施例1の実験条件のように空気中に放置して保管することはなく、密閉容器で保管するものと考えられる。密閉容器での保管を前提とすれば、25重量%のイソマルトデキストリンを添加すれば、1年以上は吸湿により固結することはないと推認される。上述のように、開封後3ヶ月安定して保存することができるのであれば、使用形態を考えれば十分な保存期間を保証していると言うことができる。
【0024】
[実施例2]
次に、種々のオリゴ糖でもイソマルトデキストリンが同様の効果を有するか検討を行った。具体的には、フラクトオリゴ糖(和光純薬)、ケストース(物産フードサイエンス株式会社)、又はガラクトオリゴ糖(日新製糖株式会社)にイソマルトデキストリン(商品名:ファイバリクサ、株式会社林原)を全重量の50重量%加え、実施例1と同様にしてオリゴ糖粉末を調整した。なお、ここで使用したフラクトオリゴ糖は、ケストース 36.6%、ニストース 49%、フラクトシニルニストース 6.8%、その他の糖(単糖、2糖等)7.6%が含まれているフラクトオリゴ糖を主成分とする混合品である。得られた各粉末、及び各オリゴ糖単体を正確に秤量し、温度24℃、湿度50%環境下で静置し、吸湿を経時的な重量変化として計測し、重量増加率として求めた。結果を
図2に示す。
【0025】
フラクトオリゴ糖単独(
図2中、FOS)では、30分後には全体に固結状態になり(図中白抜き矢印で示す)、390分以降は潮解した。これに対し、フラクトオリゴ糖にイソマルトデキストリンを50重量%添加したオリゴ糖粉末(
図2中、FOS:IMD=1:1)は、30分後から少し固まり始めるものの、240分まではタッピングすれば崩れる状態であった。その後、2~3mm程度の小凝集塊の発生が認められるものの、観察期間中(420分)固結することはなかった。フラクトオリゴ糖単体では420分後に、6.69%の重量増加が認められたのに対し、イソマルトデキストリンを添加したフラクトオリゴ糖粉末では、4.23%の重量増加であった。
【0026】
フラクトオリゴ糖単体では、30分後に1.95%の重量増加が認められ、上述のように固結していた。しかし、イソマルトデキストリンを50重量%添加した場合には、4.23%の重量増加が認められた420分後においても、固結せず小凝集塊が認められるにすぎなかった。吸湿による重量増加率と、オリゴ糖粉末の状態は必ずしも一致せず、イソマルトデキストリンを添加すると吸湿を抑制するだけではなく、吸湿による状態変化を抑制することが明らかとなった。吸湿抑制だけではなく、吸湿による状態変化の抑制は他のオリゴ糖との混合物においても認められた。
【0027】
ケストース単体(
図2中、Kes)では、30分後から少し固まり始め、60分後には2~3mm程度の小凝集塊の発生が認められ、90分以降は全体的に固結(図中黒い矢印で示す)するようになった。これに対し、ケストースにイソマルトデキストリンを50重量%添加したオリゴ糖粉末(
図2中、Kes:IMD=1:1)は、210分後まではサラサラした粉末状態を維持していた。実験開始240分後から、少し固まり始めるもの、非常に軽度でありタッピングすれば崩れる状態を観察期間中維持していた。ケストース単体では420分後に、7.71%の重量増加が認められたのに対し、イソマルトデキストリンを添加したケストース粉末では、3.17%の重量増加であった。ケストース単体では、120分経過後からフラクトオリゴ糖単体に比べて、高い重量増加が認められるようになるが、固結状態に留まるだけで、フラクトオリゴ糖のように潮解することはなかった。
【0028】
ガラクトオリゴ糖単体(
図2中、GOS)では、30分後から少し固まり始め、300分以降は2~3mmの小凝集塊が生じるようになったが、観察期間中固結することはなかった。ガラクトオリゴ糖にイソマルトデキストリンを50重量%添加したオリゴ糖粉末(
図2中、GOS:IMD=1:1)は、観察期間中サラサラな状態を維持していた。ガラクトオリゴ糖単体では420分後に、4.74%の重量増加が認められたのに対し、イソマルトデキストリンを添加したガラクトオリゴ糖粉末では、2.06%の重量増加であった。
【0029】
以上の結果から、オリゴ糖の種類を問わず、イソマルトデキストリンを添加することによって、オリゴ糖の吸湿性が抑制されることが示された。また、イソマルトデキストリンを50重量%添加して、オリゴ糖粉末を調整することにより、オリゴ糖の種類によって吸湿性は異なるものの、いずれのオリゴ糖であっても420分間固結することなく維持された。特に、ガラクトオリゴ糖は、420分経過後も実験前の状態を維持していた。
【0030】
[実施例3]
フラクトオリゴ糖を用いて、イソマルトデキストリンの効果についてさらに検討を行った。実施例2の結果から、解析に用いたオリゴ糖の中では、フラクトオリゴ糖が潮解しやすく、湿度によって最も影響を受けやすいオリゴ糖であることが明らかとなった。したがって、吸湿性の高いフラクトオリゴ糖を用いて検討されたイソマルトデキストリンの配合割合の下限は、他のオリゴ糖に対しても適用することができる。実施例1と同様にして、フラクトオリゴ糖とイソマルトデキストリンの質量比90:10、85:15のサンプルを調整し、温度25℃、湿度50%環境下に静置し同様に試験を行った。結果を
図3に示す。図において矢印で示したのは、サンプルが固結した時点である。イソマルトデキストリンを配合しなかったもの(FOS:IMD=100:0)は、30分後には固結していたが、10%配合したものでは(FOS:IMD=90:10)、90分後に2~3mm程度の小凝集塊は形成するものの、210分まで固結しなかった。さらに、イソマルトデキストリンを15%配合したもの(FOS:IMD=85:15)では、240分の間に固結は生じなかった。
【0031】
試験開始240分後の重量変化は、イソマルトデキストリン配合なし(FOS:IMD=100:0)では3.85%であるのに対し、10%配合では6.97%、15%配合では5.89%、50%配合(FOS:IMD=50:50)では、2.93%であった。試験開始後30分で固結したイソマルトデキストリン配合なしのものの方が、10%配合、15%配合に比べて試験開始30分後から240分後まで一貫して重量変化は小さかった。しかしながら、イソマルトデキストリンを配合したものは、吸湿による重量変化が大きいにも関わらず、10%配合したものであっても、210分まで固結せず、形質は長時間にわたって維持されていた。上述のように、密閉容器で保存して使用する形態を考えれば、210分まで固結せずに保存できることは半年以上固結せずに保存可能であると考えられる。
【0032】
上記測定結果における2~3mmの小凝集塊ができるまでの時間と、イソマルトデキストリンの配合割合との関係を
図4に示す。イソマルトデキストリンの配合割合が高くなるに従い、ほぼ直線的に小凝集塊形成までの時間が伸びることが示された。この結果から、5%以上イソマルトデキストリンを配合すれば、60分までは小凝集塊を形成しないと推定される。さらに、他の実験結果から小凝集塊ができても固結するまでには60分以上時間を要すると考えられることから、120分程度まで固結しないものと推定される。120分まで固結せずに保存できることは3ヶ月以上固結せずに保存可能であると考えられる。したがって、5重量%イソマルトデキストリンを含むオリゴ糖粉末であれば、想定される使用期間中安定な形状で保存することができる。
【0033】
上述のように実際には、オリゴ糖を空気中に放置して保管することはなく、密閉容器に保管して保存する。したがって、360分後に粉末状態であれば1日に1分程度密閉状態が解除されるとしても1年は固結せず粉末状態を維持すると推定され、サプリメント等として毎日摂取する態様を考えても、あるいは調理等に使用するとしても、その使用期間において十分安定した粉末状態を維持できるものと考えられる。
【0034】
上記結果から、イソマルトデキストリンを5重量%以上添加したオリゴ糖であれば、少なくとも3ヶ月程度の保存期間中、固結することなく保存することができる。上述のように、オリゴ糖は、開封から2~3ヶ月間で使い切ることが推奨されていることから、3ヶ月程度固結せずに保存できることは、十分な保存期間を保証しているということができる。さらに、10重量%イソマルトデキストリンをフラクトオリゴ糖に添加した場合には、210分は固結しないことから(実施例3)7ヶ月程度固結することなく保存することができる。フラクトオリゴ糖は、重量増加率はケストースと比較して低いものの、390分以降は潮解することから、湿度によって一番影響を受けるオリゴ糖である。フラクトオリゴ糖が吸湿により「想定される使用期間」固結しない条件でイソマルトデキストリンを混合すれば、他のオリゴ糖も十分安定に保存することができる。したがって、推奨される使用期間である2ヶ月は、固結せずに保存できると推定されることから、オリゴ糖に5重量%イソマルトデキストリンを添加することが好ましい。さらに、6ヶ月程度固結することなく保存することができることから、10重量%以上イソマルトデキストリンを添加することがより好ましい。
【0035】
[実施例4]
次に、吸湿による材質の変化を評価した。オリゴ糖が吸湿すると、オリゴ糖同士が吸着して固結するだけではなく、他の物質にも付着しやすくなる。そこで、薬匙への付着量を材質の変化として評価を行った。実施例3と同様に、10%、15%イソマルトデキストリンを配合したフラクトオリゴ糖を用い、計測は以下のようにして行った。スタンドタイプのアルミパウチの風袋を測定し、サンプルを40~50g程入れる。底を広げて自立させるようにさせ、温度24度、湿度50%恒温恒湿槽へ入れる。1日1回、蓋を開け恒温恒湿槽の中で1分間放置し、その間20秒間隔で中を薬匙でかき混ぜる。または5分間放置し、2分経過時、4分経過時に中を薬匙でかき混ぜる。重量の測定、薬匙への付着度、袋への付着度、全体的な固化具合を評価した。重量測定、目視チェック後はチャックを密閉し、恒温槽の中で保管した。1分間開放のサンプルは通算で11日間の試験後、5分間開放のサンプルは通算で6日間の試験後に、薬匙に付着する粉末の量を測定した。方法は風袋を測定しておいた薬匙でアルミパウチの中をかき混ぜ、1匙分取った後、薬匙ですくい取った分を自重落下させ、薬匙に付着して残っている分を重量測定する。薬匙に付着する重量は条件ごとに10回ずつ計測し、結果をMann-WhiteneyのU検定で統計処理を行い有意差検定を実施した。結果を
図5に示す。
【0036】
1日1分間開放し、11日間経過後に計測を行った場合(
図5(A))、1日5分間開放し、6日間経過後に計測を行った場合(
図5(B))、いずれにおいても、イソマルトデキストリン配合なし(FOS:IMD=100:0)に比べて、10%配合(FOS:IMD=90:10)、15%配合(FOS:IMD=85:15)の試料は、いずれも薬匙に対する付着量が有意に少なかった。また、目視によるチェックにおいてもイソマルトデキストリン配合なしでは、1日目から1cm未満の小凝集塊が観察され、薬匙への付着が認められた。さらに、1日1分間開放では3日目から、5分間開放では3日目から、1cm以上の大きな凝集塊ができるようになり、薬匙への付着も目立つようになった。一方、イソマルトデキストリン10%配合のサンプルでは、1日1分間開放でも5分間開放でも3日目から1cm未満の小さな凝集塊が観察されたものの、観察期間中1cm以上の大きな凝集塊が観察されることはなかった。また、15%イソマルトデキストリン配合のサンプルでは、1日1分間開放では5日目から1cm未満の小さな凝集塊が観察されたが、5分間開放では観察期間中凝集塊が形成されることはなかった。この結果は、イソマルトデキストリンが、吸湿による材質の変化も抑制することを示している。
【0037】
[実施例5]
次にオリゴ糖粉末の機能について検討した。上記実施例で使用したケストースをはじめとするオリゴ糖は、プレバイオティクス効果があることが知られている。また、吸湿を抑制させるために添加したイソマルトデキストリンもプレバイオティクス効果があることが知られている。両素材を合わせたオリゴ糖粉末が単独摂取の場合と比べて、腸内細菌叢改善により高い効果を有することが期待される。
【0038】
ヒトの腸内細菌のうち、有用な菌として分類される酪酸産生菌やビフィズス菌に対して、in vitro資化性試験を実施した。用いた細菌は、酪酸産生菌Anaerotruncus colihominis、Agathobacter rectalis、Roseburia inulinivorans、ビフィズス菌Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium infantisの5種である。用いた培地組成を以下に示す。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【表5】
Hemin solutionは上記組成で混合、溶解の後、蒸留水で100mLにメスアップする。
【0044】
【0045】
【0046】
表1の組成の培地を用意し、糖資源として、ケストース、若しくはイソマルトデキストリンを単独、あるいはケストースに50%イソマルトデキストリンを添加して製造したオリゴ糖粉末を同じ含有量になるように培地に添加して糖資源とした。具体的には、単独の場合は、各6.0g、併用の場合は、ケストース3.0g、イソマルトデキストリン3.0gを培地に添加した。培地中の糖質濃度はいずれも0.6%となる。上記の酪酸産生菌、あるいはビフィズス菌を植菌し、37℃、48時間、嫌気条件下(CO2:H2:N2=10:10:80)で培養を行い、細菌の増殖を濁度(660nm)、あるいは培地上清中の短鎖脂肪酸量を測定し評価した。
【0047】
上述のように、オリゴ糖や水溶性食物繊維は、微生物の増殖促進に効果があることが知られている。ケストース単独(GF2)、イソマルトデキストリン単独(IMD)、両者を混合(Mix)して糖資源として加えた場合の酪酸産生菌、ビフィズス菌の増殖促進効果を解析した。
図6は、培養開始48時間後の濁度から、培養開始時の濁度を差し引いて表示している。Anaerotruncus colihominis、及びAgathobacter rectalisは、ケストースとイソマルトデキストリンを混合して添加した場合に、単独で添加するよりも高い増殖促進効果が認められた。Roseburia inulinivoransは、混合して添加した場合には、ケストース単独と同程度、Bifidobacterium bifidumは、イソマルトデキストリンと同程度の増殖効果が認められた。Bifidobacterium infantisに関しては、ケストース単独添加の場合に、より強い増殖促進効果が認められた。
【0048】
短鎖脂肪酸は、オリゴ糖や食物繊維など難消化性炭水化物を腸内細菌が分解することにより産生されることから、短鎖脂肪酸量は細菌の増殖を反映している。プレバイオティクス効果の重要な因子である短鎖脂肪酸は、乳酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、吉草酸、ピルビン酸の濃度を合計したものとして測定し、培養開始から48時間後の短鎖脂肪酸量から、培養開始時(0時間)の短鎖脂肪酸量を差し引いて表示している。結果を
図7に示す。
【0049】
いずれの菌においても、糖資源としては同濃度添加しているにも関わらず、ケストース単独(GF2)、イソマルトデキストリン単独(IMD)と比較して、両者を混合(Mix)して糖資源として加えた場合に、総短鎖脂肪酸量がより増加することが認められた。
図7に示すように、細菌の増殖効果については、オリゴ糖とイソマルトデキストリンを混合して添加することにより相乗的な効果が認められなかったRoseburia inulinivorans、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium infantisについても、総短鎖脂肪酸の増加については、混合することにより、相乗的な効果が認められた。短鎖脂肪酸のうち、乳酸、酢酸は大腸内のpHを弱酸性に保ち、いわゆる悪玉菌の増殖を抑制すると言われている。また、酢酸、酪酸には宿主のエネルギー代謝を亢進させる働きや、免疫作用を調整する作用もあると言われている。
図7に示すのは短鎖脂肪酸の総量であり、各細菌によって増加している脂肪酸は異なるものと考えられるから、その機能も菌種によって異なるものと考えられる。しかし、短鎖脂肪酸の生産はプレバイオティクス効果の最も重要な因子であると考えられており、ケストース、イソマルトデキストリン両者を混合して添加することにより腸内細菌叢改善により良い効果が得られるものと考えられる。
【0050】
上記実施例で示してきたように、オリゴ糖にイソマルトデキストリンを添加することによって、吸湿性が抑制され粉末状態を維持できるオリゴ糖粉末を調整することができる。さらに、イソマルトデキストリンを添加したオリゴ糖は、オリゴ糖の生理機能に加えて、イソマルトデキストリンの生理機能が加わることから、機能性食品としてもより高い効果が得られることが期待される。オリゴ糖とイソマルトデキストリンを1:1で配合した場合に、上述のような生理機能が認められるが、イソマルトデキストリンの添加量については、吸湿抑制効果が認められる5重量%以上を適宜添加し、イソマルトデキストリンとオリゴ糖の両者の効果が得られるように配合を調整すればよい。例えば、イソマルトデキストリンの最大無作用量は0.8g/kgであることから、体重60kg平均とすると1日48gの摂取が可能となる。一方、フラクトオリゴ糖は、1日当たり1gの摂取によっておなかの調子を整えるという効果が得られることが知られている。したがって、2重量%のフラクトオリゴ糖に、イソマルトデキストリンを98重量%添加したオリゴ糖粉末は、イソマルトデキストリンの最大の効果を得られるとともに、フラクトオリゴ糖の効果も得ることができる。
【0051】
上記で示したオリゴ糖粉末は、サプリメントとしてそのまま摂取してもよいし、他の機能性食品と配合したサプリメント錠剤やカプセルとして摂取することもできる。また、以下に示すレシピのように、砂糖(ショ糖)の一部又は全部を代替させることにより、低カロリーであり、且つ1日に必要な機能性食品を摂取することができる。
【0052】
[実施例6]
本発明のオリゴ糖は、既存の食品に添加して摂取することができるのは勿論であるが、オリゴ糖を材料に加えて以下のような加工品を作ることができる。オリゴ糖の種類にもよるが、1日1g程度の摂取から効果があると言われている。どのような食品であっても砂糖(ショ糖)の代わりに調理に加えて使用することができるが、以下の配合で作成することにより、1日に必要とされるオリゴ糖を摂取することができる。
【0053】
レシピ(1)
クッキー(スノーボール 20個分)
(材料)
(作り方)
1.アーモンドプードルと小麦粉を篩にかける。
2.ボウルにバターを入れて常温で柔らかくし、オリゴ糖粉末を加え混ぜる。
3.1を加えて切るように合わせ、1つにまとまったらラップにくるんで冷蔵庫に30分置く
4.2cmのボール状に丸めて、クッキングシートを敷いたオーブンプレートに並べる。
5.160℃のオーブンで、15~20分焼き上げる。
6.粗熱を取ってからボウルに入れ、仕上げにオリゴ糖粉末を絡める。
【0054】
上記レシピで作成した場合約20個分のクッキーが出来上がる。イソマルトデキストリンを10%配合したオリゴ糖粉末を使用し作製したクッキーを1日当たり5個程食べると想定すると、約4.5g相当のオリゴ糖粉末を摂取する事ができ1日に必要な機能性食品を無理なく摂取できる。
【0055】
レシピ(2)
マドレーヌ(10個分)
(材料)
1.バターを溶かしておく。
2.卵をハンドミキサーで7分立てにし、グラニュ糖を加えもったりするまで泡立てる。
3.レモン汁、レモンの皮を加えて混ぜ、篩にかけた薄力粉を入れ、ゴムベラでさっくり混ぜ、1を加えて手早く混ぜる。
4.3を型に分け入れ、アーモンドスライスをのせ、角皿に並べる。
5.170℃に予熱したオーブンで25分焼成する。
【0056】
上記レシピで作成した場合、約10個のマドレーヌを作ることができる。1日1個を目安として食べた場合、オリゴ糖粉末を5g摂取することが可能となり1日当たりの推奨量を無理なく摂取できる。
【0057】
レシピ(3)
青汁やカフェオレのような水または牛乳に溶かして作る粉末飲料
市販の粉末から調整する青汁やカフェオレ、あるいはスムージーなどの飲料に甘みを加えたい場合、オリゴ糖粉末を小さじ2から大さじ1程度を加え、好みの甘みに調整し、撹拌して溶解すればよい。
【0058】
上記のように、本発明のオリゴ糖粉末は、吸湿性が抑制されていることから、保存安定性が良く、安定した性状のまま使用することができる。さらに、溶解性に優れていることから、加工品の製造にも適している。すなわち、サプリメントとしてそのまま摂取しても、実施例6で示したように、粉末の状態で混合して加工品としたり、飲料に混ぜて摂取してもよい。