(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】マイクロプレート
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C12M3/00 A
(21)【出願番号】P 2020180625
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000158208
【氏名又は名称】AGCテクノグラス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三輪 達明
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3214876(JP,U)
【文献】登録実用新案第3215918(JP,U)
【文献】国際公開第2019/121984(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0345440(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルを有するマイクロプレートであって、
前記ウェルの底面に複数の微細ウェルが形成されており、
平面視で前記微細ウェルの開口の平均直径をD(μm)とし、前記ウェルの底面における
ウェル側壁から幅が1.5×D(μm)の環状の領域を周縁領域としたとき、
前記周縁領域の面積に対する、前記周縁領域内に存在する欠けのない前記微細ウェルの開口面積の合計の割合が30%以上である、マイクロプレート。
【請求項2】
前記周縁領域内に存在する前記微細ウェルの総数に対する、前記周縁領域において欠けがない前記微細ウェルの数の割合が20%以上である、請求項1に記載のマイクロプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
生命現象を解明する基礎研究、創薬研究等においては、培養細胞が広く利用されている。特に3次元培養で得られる細胞が凝集した3次元細胞塊(スフェロイド)は、生体内と同様に立体的な構造を有しているため、2次元培養で得た細胞に比べて試験精度が向上することが期待されている。3次元培養に用いる培養容器としては、例えば、マイクロプレートの各ウェルの底面や、ディッシュの底面等に孔径100~1,000μmの微細ウェル(マイクロウェル)が多数形成された微細加工容器が知られている(特許文献1~3)。微細加工容器に細胞を播くと、各微細ウェルの中で細胞が会合し、細胞塊を形成する。
【0003】
細胞の品質を均一にするには細胞塊のサイズを均一にする必要がある。通常、培養容器の底面には微細ウェルが規則的なパターンで均等に配置される(例えば特許文献1、2)。例えば、正四角形を隙間なく並べたときの各頂点に微細ウェルを均等に配置するパターンや、正六角形を隙間なく並べたときの各頂点と中央に微細ウェルを均等に配置するパターンが採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/047735号
【文献】登録実用新案第3139350号公報
【文献】特許第6379529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、発明者等が検討したところ、マイクロプレートでは、各ウェルにおいて従来のような微細ウェルを規則的なパターンで均等に配置しても、各ウェルで得られる細胞塊のサイズが不均一になる傾向があることが分かった。
【0006】
本発明は、各ウェルで均一なサイズの細胞塊を形成できるマイクロプレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]複数のウェルを有するマイクロプレートであって、
前記ウェルの底面に複数の微細ウェルが形成されており、
平面視で前記微細ウェルの開口の平均直径をD(μm)とし、前記ウェルの底面におけるウェル側壁から幅が1.5×D(μm)の環状の領域を周縁領域としたとき、
前記周縁領域の面積に対する、前記周縁領域内に存在する欠けのない前記微細ウェルの開口面積の合計の割合が30%以上である、マイクロプレート。
[2]前記周縁領域内に存在する前記微細ウェルの総数に対する、前記周縁領域において欠けがない前記微細ウェルの数の割合が20%以上である、[1]のマイクロプレート。
[3]前記ウェルの底面に形成される前記微細ウェルの総数をnとしたとき、前記ウェルの培養領域の面積に対する、前記微細ウェルの開口面積の合計の面積比が、0.6632×n-0.95~0.6632×n-1である、[1]又は[2]のマイクロプレート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各ウェルで均一なサイズの細胞塊を形成できるマイクロプレートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態のマイクロプレートの平面図である。
【
図2】
図1のマイクロプレートのA-A断面図である。
【
図3】各ウェルの底面に形成された微細ウェルのパターンの一例を示した平面図である。
【
図4】
図1のマイクロプレートの各ウェルの底面に形成された微細ウェルを示した断面図である。
【
図5】ウェル底面に形成される微細ウェルの総数nを横軸、面積比Sを縦軸として、0.6632×n
-0.95と0.6632×n
-1の曲線をそれぞれ示したグラフである。
【
図6】各ウェルの底面に形成された微細ウェルのパターンの他の例を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における用語の意味及び定義は以下である。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
「微細ウェルの開口端」とは、微細ウェルの周囲の最上部を全周にわたって結んだ境界線である。微細ウェルの周囲に平坦面がある場合、その平坦面と微細ウェルの落ち込みとの境界線が微細ウェルの開口端である。
「微細ウェルの開口形状」とは、微細ウェルの開口端の平面視形状である。
「微細ウェルの開口の直径」とは、微細ウェルの開口端の平面視での形の直径であり、開口端の平面視形状が正円でない場合はその平面視形状に対する外接円の直径とする。
「微細ウェルの開口面積」とは、微細ウェルの開口端の平面視での形の面積である。
「微細ウェルの深さ」は、微細ウェルの周囲の最上部に対して上方から接点が最も多くなるように接する面を基準面としたときの、微細ウェルの最深部と基準面との距離である。
「ウェルの底面における周縁領域の面積」とは、ウェル底面における周縁領域の平面視での形の面積である。
「周縁領域内に存在する微細ウェル」とは、平面視で、微細ウェル全体が周縁領域内に存在している微細ウェルである。ウェルの底面において、一部が周縁領域内に存在し、残部が周縁領域よりも内側の領域に存在する微細ウェルは、「周縁領域内に存在する微細ウェル」には含まれない。
「ウェルの培養領域の面積」とは、ウェル底面のウェル側壁で囲まれた領域の平面視での形の面積である。
【0011】
以下、本発明のマイクロプレートの実施形態の一例を示し、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0012】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のマイクロプレート1は、平面視形状が矩形のプレート本体10を備えている。プレート本体10の上面10a側には、開口形状が円形のウェル12が複数形成されている。
【0013】
マイクロプレート1におけるウェル12の配置パターンは、特に限定されず、例えば、マトリックス状、千鳥状を例示できる。ウェル12の平面視の開口形状は、円形には限定されず、例えば、矩形であってもよい。
マイクロプレート1が有するウェル12の数は、特に限定されず、例えば、6~384個が挙げられる。
【0014】
ウェル12の開口の平均直径は、3.2~15.9mmが好ましく、6.0~7.0mmがより好ましい。ウェル12の開口の平均直径が前記範囲の下限値以上であれば、微細ウェルを配置できない領域が小さくなり、多くの微細ウェルを効率良く配置できる。ウェル12の開口の平均直径が前記範囲の上限値以下であれば、正六角形を隙間なく並べたときの各頂点と中央に微細ウェルを均等に配置する等、微細ウェルを規則的に配置する場合との違いが大きくなるため、本発明の効果が得られやすい。
なお、ウェル12の開口形状が正円でない場合、ウェル12の開口の直径は、ウェル12の開口形状の外接円の直径とする。
【0015】
ウェル12の平均深さは、6.0~12.0mmが好ましく、5.7~10.8mmがより好ましい。ウェル12の平均深さが前記範囲の下限値以上であれば、溶液を加える、吸引する等の操作性に優れる。ウェル12の平均深さが前記範囲の上限値以下であれば、十分な量の溶液を加えられる。
【0016】
図3及び
図4に示すように、各ウェル12の底面14には、サイズが均一な複数の微細ウェル20が形成されている。微細ウェル20の開口形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形、多角形を例示できる。
【0017】
各ウェル12において、ウェル12の深さ方向の上方から見た平面視で微細ウェル20の開口の平均直径をD(μm)とし、ウェル12の底面14におけるウェル側壁16から幅が1.5×D(μm)の円環状の領域を周縁領域Bとする。ただし、微細ウェル20の開口の平均直径Dは、ウェル12内の周縁領域Bの内側の領域Cの任意の10個の微細ウェル20の直径を測定して平均した値である。微細ウェルの開口の直径の測定は、平面観察像によって実施できる。
【0018】
マイクロプレート1の各ウェル12では、周縁領域Bの面積に対する、周縁領域B内に存在する欠けのない微細ウェル20の開口面積の合計の割合Qが20%以上である。ただし、「欠けがない微細ウェル」とは、平面視で微細ウェルの開口形状にウェル側壁との接触による部分的な欠落がなく、型崩れがない微細ウェルである。割合Qが前記下限値以上であれば、開口形状に型崩れのない均一なサイズの微細ウェル20が周縁領域Bに十分に配置される。そのため、ウェル12の底面14のウェル側壁16近傍を有効活用し、均一なサイズの細胞塊を効率良く形成できる。
この例では、
図3に示すように、周縁領域Bに沿って30個の微細ウェル20が隙間なく配列されている。
【0019】
割合Qは、30%以上が好ましく、36%以上がより好ましく、44%以上がさらに好ましい。割合Qが前記範囲の下限値以上であれば、ウェル12の底面14のウェル側壁16近傍をさらに有効活用し、均一なサイズの細胞塊をさらに効率良く形成でき、かつ細胞塊のサイズを均一にすることができる。
【0020】
微細ウェル20の開口の平均直径Dは、100~2000μmが好ましく、200~1400μmがより好ましく、400~800μmがさらに好ましい。微細ウェル20の開口の平均直径Dが前記範囲の下限値以上であれば、細胞塊のサイズが小さくなり過ぎることを抑制しやすい。微細ウェル20の開口の平均直径Dが前記範囲の上限値以下であれば、微細ウェルと微細ウェルの隙間を小さくできる。その結果、形成される細胞塊の数が多くなる。
【0021】
微細ウェル20の開口面積は、7850~3140000μm2が好ましく、31400~1538600μm2がより好ましく、125600~502400μm2がさらに好ましい。微細ウェル20の開口面積が前記範囲の下限値以上であれば、細胞塊のサイズが小さくなり過ぎることを抑制しやすい。微細ウェル20の開口面積が前記範囲の上限値以下であれば、微細ウェルと微細ウェルの隙間を小さくできる。その結果、形成される細胞塊の数が多くなる。
【0022】
微細ウェル20の平均深さH(
図4)は、50~1000μmが好ましく、100~800μmがより好ましく、200~600μmがさらに好ましい。微細ウェル20の平均深さHが前記範囲の下限値以上であれば、細胞塊が微細ウェルの中から飛び出し難く、安定して保持される。微細ウェル20の平均深さHが前記範囲の上限値以下であれば、培地を添加した時に微細ウェルに泡が発生し難く、発生したとしても除き易い。なお、微細ウェルの平均深さHは、任意の10個の微細ウェルについて、微細ウェルの深さ(基準面kと微細ウェルの最深部との距離)を測定して平均した値である。微細ウェルの深さの測定は、3次元測定器による測定や、シリコンゴム等で微細ウェルの型取りしたものの高さを測定することによって実施できる。
【0023】
周縁領域B内に存在する微細ウェル20の総数に対する、周縁領域Bにおいて欠けがない微細ウェル20の数の割合Pは、20%以上が好ましい。割合Pが前記下限値以上であれば、開口形状に型崩れのない均一なサイズの微細ウェル20が周縁領域Bにさらに効率良く配置されるため、ウェル12の底面14のウェル側壁16近傍をさらに有効活用できる。
割合Pは、23~100%が好ましく、25~100%がより好ましい。
【0024】
ウェル12の底面14における周縁領域Bよりも内側の領域Cにおける微細ウェル20の配置は、特に限定されず、例えば、できるだけ多くの微細ウェル20を配置できるように適宜設定すればよい。領域Cの微細ウェルの配置では、隙間なく並べた正四角形の各頂点や、隙間なく並べた正六角形の各頂点と中央などの規則的なパターンを採用すると、領域Cの周縁領域Bとの境界近傍に微細ウェル20を配置できない程度の大きさの平坦面が多く残る。平坦面が多いと、平坦面に残存した細胞によってサイズが不均一な細胞塊が形成されやすくなる。そのため、領域Cでは規則的なパターンとはせず、不規則でもできるだけ平坦面が残らないように各微細ウェルを配置するのが良い。
【0025】
例えば、
図3に示すように、領域Cの中央部分(ウェル12の底面14の中央部分)においては、平面視で領域Cの中心に微細ウェル20を配置し、その周囲に6つの微細ウェル20を正六角形の各頂点に位置するように配置する。領域Cの中央部分ではこの配置が最密充填の点で好ましい。領域Cにおける中央部分よりも外側部分は、このような規則的なパターンを崩し、できるだけ平坦面が残らない範囲で各微細ウェルを密に配置する。なお、ウェル12の底面14における領域Cの微細ウェルの配置は、このような配置には限定されない。
【0026】
円、四角形、三角形等の内部への円の配置に関しては、円を最密に充填する円パッキング問題のための最適な円の配置や各種アルゴリズムが知られている(例えば、インターネット<URL:http://hydra.nat.uni-magdeburg.de/packing/cci/>で開示されているThe best known packings of equal circles in a circle等)。微細ウェル20の数や開口面積を決定する際には、このようなアルゴリズムを利用してもよい。微細ウェルの開口形状が正円でない場合も、その開口形状に対する外接円を考えてこのようなアルゴリズムを利用してもよい。
【0027】
ウェル12の底面14に形成される微細ウェル20の総数をnとすると、ウェル12の培養領域の面積に対する微細ウェル20の開口面積の合計の面積比Sは、0.6632×n-0.95~0.6632×n-1が好ましい。前記面積比Sが前記範囲内であれば、ウェル12の底面14の全体を有効活用してサイズが均一な細胞塊を効率良く形成できる。
【0028】
前記面積比Sは、ウェル12の底面14に形成する微細ウェル20の総数と、各微細ウェル20の開口面積を調節することで調節できる。
図5は、横軸をウェル12の底面14に形成される微細ウェル20の総数n、縦軸を面積比Sとして、0.6632×n
-0.95と0.6632×n
-1の曲線をそれぞれ示したグラフである。このグラフ中の0.6632×n
-0.95の曲線と0.6632×n
-1の曲線との間の領域内で、微細ウェル20の総数nと微細ウェル20の開口面積を調節することが好ましい。
【0029】
プレート本体10の材質としては、合成樹脂を例示できる。
合成樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂を例示できる。なかでも、透明性高く、薬剤吸着性が低いという点から、ポリスチレン樹脂が好ましい。プレート本体10を構成する合成樹脂は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0030】
マイクロプレート1の製造方法は、特に限定されない。プレート本体10は、例えば、射出成形法によって成形できる。
微細ウェル20を形成する方法としては、例えば、レーザ照射を例示できる。ウェル12の底面14にレーザ光が照射されると、底面14を構成する合成樹脂が溶解及び気化して、非常に滑らかな表面を持つ微細ウェル20が形成される。微細ウェル20の開口周辺には、溶解した合成樹脂が盛り上がって土手部が形成されてもよい。
【0031】
底面に微細ウェルが形成されたウェルの製造方法としては、特に限定されず、ウェルの底面にレーザ照射して微細ウェルを形成する方法、微細ウェルを形成した基材をウェル底面に取り付ける方法、下端に開口を有する筒部の底に、微細ウェルを形成した基材を取り付けてウェル底面を形成する方法を例示できる。
【0032】
レーザ光源としては、特に限定されず、CO2レーザを例示できる。微細ウェル20の配置及びサイズは、レーザ光の照射位置や出力等の照射条件を調節することによって調節できる。
レーザ出力は、例えば、1~100Wとできる。レーザ照射速度は、例えば、500~10000mm/分とできる。レーザ出力及びレーザ照射速度を変えずにレーザ照射を行うことで、各微細ウェル20のサイズを均一にできる。
【0033】
微細ウェル20の表面には、細胞の接着を抑制する低接着コート膜や、細胞を接着させる易接着コート膜を形成してもよい。易接着コート膜としては、例えば、コラーゲンやゼラチンが使用される。低接着コート膜が形成されることで、微細ウェル20から細胞塊を取り出しやすくなる。低接着コート膜は、例えば、細胞接着抑制剤を塗布することによって形成できる。細胞接着抑制剤としては、リン脂質ポリマー(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等)、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、フッ素含有化合物、ポリエチレングリコールを例示できる。細胞接着抑制剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、プレート本体10をシリコーン樹脂等の細胞接着抑制効果のある樹脂で成形すれば、低接着コート膜を形成しなくても微細ウェルの表面に細胞が接着することを抑制できる。
【0034】
以下、マイクロプレート1の作用効果について説明する。
従来のマイクロプレートでは、各ウェルにおいて、微細ウェルが規則的なパターンで均等に配置されていた。しかし、このように規則的なパターンで微細ウェルを配置すると、ウェルの底面におけるウェル側壁近傍では、微細ウェルがウェル側壁に接触して部分的に欠落し、型崩れしたサイズの小さい微細ウェルが生じる。これにより、ウェル側壁近傍の微細ウェルで形成される細胞塊のサイズが小さくなるため、ウェルから得られる細胞塊のサイズが不均一になる。また、ウェル側壁近傍の微細ウェルの型崩れを抑制するためにウェル側壁近傍に微細ウェルを形成しないと、ウェルの底面の周縁領域に広い平坦面が形成される。広い平坦面があると、その平坦面上でサイズが不均一な細胞塊が多く形成される。
【0035】
これに対して、マイクロプレート1では、ウェル12において、割合Qが特定の値以上となるように周縁領域Bの微細ウェル20の配置を制御する。これにより、ウェル12の底面14全体の微細ウェル20の配置は不均等になるものの、開口形状に型崩れのない均一なサイズの微細ウェル20が周縁領域Bに十分に配置される。すなわち、ウェル12の底面14に微細ウェル20を規則的なパターンで均等に配置するよりも、周縁領域Bに微細ウェル20を十分に配置することを優先する。これにより、ウェル12の底面14のウェル側壁16近傍に型崩れしたサイズが小さい微細ウェル20が生じにくく、かつ広い平坦面の形成も抑制できる。そのため、ウェル12の底面14のウェル側壁16近傍を有効活用して、均一なサイズの細胞塊を効率良く形成できる。
【0036】
なお、本発明のマイクロプレートは、前記したマイクロプレート1には限定されない。例えば、マイクロプレート1では周縁領域Bに沿って微細ウェル20が隙間なく配置されていたが、割合Qの条件を満たす範囲であれば、
図6に示すように、周縁領域Bに配置される微細ウェル20同士の間には隙間が形成されていてもよい。
【0037】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[実施例1]
ポリスチレン樹脂を用い、射出成形によって開口の直径が6.45mm、深さが6.00mmのウェルを有するプレート本体を成形した。次いで、照射スポットの形状が直径120μmの円形であるレーザ照射装置を用いてCO
2レーザを照射し、
図3に例示した配置パターンでウェルの底面に118個の微細ウェルを形成し、マイクロプレートを作製した。微細ウェルの平均直径Dは446μm、平均開口面積は157000μm
2、割合Qは36.3%、割合Pは25.4%であった。
【0039】
[実施例2]
ウェルの底面に
図6に例示した配置パターンで122個の微細ウェルを形成した。ガラス基板に穴あけ加工をした後、底が空いているウェルプレートと貼り付けて作製した。微細ウェルの平均直径Dは490μm、平均開口面積は188947μm
2、割合Qは45.1%、割合Pは25.4%であった。
【0040】
[比較例1]
ウェルの底面におけるウェル側壁から幅約400μmの領域を平坦面として残し、その内側の領域に、規則的なパターンで均等にウェル側壁まで88個の微細ウェルを形成した以外は、実施例1と同様にしてマイクロプレートを作製した。微細ウェルの平均直径Dは440μm、平均開口面積は152000μm2、割合Qは19.3%、割合Pは15.9%であった。
【0041】
[比較例2]
ウェルの底面に、隙間なく並べた正六角形の各頂点と中央に微細ウェルが配置されるように、隙間なく並べた正六角形の各頂点と中央に微細ウェルが配置されるように規則的なパターンで均等に94個の微細ウェルを形成した。94個の微細ウェルとは別に、ウェル側壁と重なって欠けている微細ウェルの数は23個であった。微細ウェルの平均直径Dは530μm、開口面積は221000μm2、割合Qは29.3%、割合Pは19.1%であった。
【0042】
[培養試験1]
実施例1、比較例1で得たマイクロプレートを用い、各ウェルに緑色蛍光蛋白(GFP)標識A549細胞を1ウェルあたりの細胞数が5000個となるように播種し、37℃、5%炭酸ガス、飽和水蒸気雰囲気下の条件で4日間培養した。その後、蛍光顕微鏡IX73(オリンパス社製)を用いてGFPチャンネルの蛍光イメージを取得し、画像解析ソフトImageJ(ImageJ)によって細胞塊のサイズ(面積)の均一性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
○:細胞塊のサイズの変動係数が20%以下。
△:細胞塊のサイズの変動係数が20%超、50%以下。
×:細胞塊のサイズの変動係数が50%超、もしくは細胞塊のサイズの最大値を平均値で割った値が4以上。
【0043】
[培養試験2]
比較例2で得たマイクロプレートを用い、各ウェルにHepG2細胞を1ウェルあたりの細胞数が50000個となるように播種し、37℃、5%炭酸ガス、飽和水蒸気雰囲気下の条件で2日間培養した。その後、細胞塊を生死細胞染色液Live/Dead Cell Staining Kit II(PromoCell社製)を用いて細胞を蛍光染色した後、蛍光顕微鏡IX73(オリンパス社製)を用いて蛍光イメージを取得し、画像解析ソフトImageJ(ImageJ)によって細胞塊のサイズ(面積)の均一性を培養試験1と同じ基準で評価した。結果を表1に示す。
【0044】
【符号の説明】
【0045】
1…マイクロプレート、10…プレート本体、12…ウェル、14…底面、16…ウェル側壁、20…微細ウェル、B…周縁領域。