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特許7598693球状ゼオライト二次粒子を含むゼオライト粉末とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】球状ゼオライト二次粒子を含むゼオライト粉末とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/46 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C01B39/46
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021008495
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022112633
(43)【公開日】2022-08-03
【審査請求日】2023-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】山口 陽子
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 俊二
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108404970(CN,A)
【文献】特表2010-529939(JP,A)
【文献】特開2021-001107(JP,A)
【文献】特開2018-135261(JP,A)
【文献】国際公開第2014/003120(WO,A1)
【文献】特開2008-013401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20 - 39/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の二次粒子を含むゼオライト粉末であって、
前記二次粒子がチャバザイト型ゼオライトの一次粒子および層状ケイ酸塩を含み、
前記ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズが1μm以下の範囲であり、
該球状二次粒子を含むゼオライト粉末の平均粒子径が5μm以上~30μm以下であって、単位容積あたりのゼオライト含有量が0.2g/cm 以上であることを特徴とするゼオライト粉末。
【請求項2】
該ゼオライト粉末のTAP密度が0.22g/cm 以上である請求項1に記載するゼオライト粉末。
【請求項3】
ゼオライト粉末の製造方法であって、平均結晶サイズが1μm以下のチャバザイト型ゼオライトの一次粒子と層状ケイ酸塩を含む混合スラリーを調製する工程、前記混合スラリーを噴霧乾燥して前記ゼオライト一次粒子と前記層状ケイ酸塩を含む球状の二次粒子を調製する工程を有し、さらに該球状二次粒子を焼きしめる焼成工程を有し又は有さず、これらの工程によって平均粒子径が5μm以上~30μm以下であって、単位容積あたりのゼオライト含有量が0.2g/cm 以上であるゼオライト粉末を製造することを特徴とするゼオライト粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状のチャバザイト型ゼオライト二次粒子を含むゼオライト粉末とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チャバザイトは、酸素8員環からなる三次元細孔構造(チャバザイト骨格)を有する代表的なゼオライトである。チャバザイト骨格を有するゼオライトをチャバザイト型ゼオライトと云う。ゼオライトは、国際ゼオライト学会によって、構造コードに基づいて分類されており、チャバザイト型ゼオライトはCHAの構造コードによって分類されている。
【0003】
チャバザイト型ゼオライトは種々の用途で幅広く使用されている。例えば、特許文献1には、チャバザイト型ゼオライトが、ガスの分離、自動車の排気ガス中に含まれる窒素酸化物の選択的還元、低級アルコールなどの酸素含有炭化水素の液体燃料への転換、ジメチルアミンの製造のための触媒や分離膜などに使用できることが開示されている。
【0004】
チャバザイト型ゼオライトは、数マイクロメートル程度の結晶サイズの粒子で構成された粉体として合成される。このチャバザイト型ゼオライトの結晶サイズは、用途によって異なり、例えば、特許文献2には、吸着材量に含まれるゼオライトとしてチャバザイト型ゼオライトが好ましく、このゼオライト材料の平均結晶サイズは2~40μmがよいとの開示がある。また、特許文献3には、チャバザイト型ゼオライトを含む触媒、及びその平均結晶サイズが0.3~10μmであることが好ましいとの開示がある。
【0005】
一般的に、吸着剤や触媒などの活性種の表面を利用する用途では、粉粒体の平均結晶サイズが小さくなると表面積が増加し、吸着性能や触媒活性が向上しやすいことが知られている。特に、ナノ粒子のような非常に小さな結晶サイズでは、これらの性能が高くなる。一方、結晶サイズが小さいと、その嵩密度が低くなりやすく、嵩密度の低い粉粒体は単位容積当たりの質量が少なく、輸送コストが高くなりやすいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6709644号
【文献】特表2018-505772号公報
【文献】特表2020-527453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の前記課題を解決したチャバサイト型ゼオライト粉末を提供するものであり、チャバサイト型ゼオライトの一次粒子と共に層状ケイ酸塩を含むスラリーを原料に用いて球状のゼオライト二次粒子を形成して、単位容積あたりのゼオライト含有量を高めたゼオライト粉末を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、具体的には以下の構成によって前記課題を解決したゼオライト粉末とその製造方法に関する。
〔1〕球状の二次粒子を含むゼオライト粉末であって、前記二次粒子がチャバザイト型ゼオライトの一次粒子および層状ケイ酸塩を含み、前記ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズが1μm以下の範囲であり、該球状二次粒子を含むゼオライト粉末の平均粒子径が5μm以上~30μm以下であって、単位容積あたりのゼオライト含有量が0.2g/cm 以上であることを特徴とするゼオライト粉末。
〔2〕該ゼオライト粉末のTAP密度が0.22g/cm 以上である上記[1]に記載するゼオライト粉末。
〔3〕ゼオライト粉末の製造方法であって、平均結晶サイズが1μm以下のチャバザイト型ゼオライトの一次粒子と層状ケイ酸塩を含む混合スラリーを調製する工程、前記混合スラリーを噴霧乾燥して前記ゼオライト一次粒子と前記層状ケイ酸塩を含む球状の二次粒子を調製する工程を有し、さらに該球状二次粒子を焼きしめる焼成工程を有し又は有さず、これらの工程によって平均粒子径が5μm以上~30μm以下であって、単位容積あたりのゼオライト含有量が0.2g/cm 以上であるゼオライト粉末を製造することを特徴とするゼオライト粉末の製造方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明のゼオライト粉末は、球状の二次粒子を含むゼオライト粉末であって、前記二次粒子がチャバザイト型ゼオライトの一次粒子および層状ケイ酸塩を含み、前記ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズが1μm以下の範囲であり、該球状二次粒子を含むゼオライト粉末の平均粒子径が5μm以上~30μm以下であって、単位容積あたりのゼオライト含有量が0.2g/cm 以上であることを特徴とするゼオライト粉末である。
【0010】
〔ゼオライト粉末〕
本発明のゼオライト粉末に含まれるチャバザイト型ゼオライトは、Si、Al、Oを基本骨格元素とするチャバザイト構造(CHA)を有しており、このチャバザイト構造は、X線回析の測定パターンが、(100)、(200)、(20-1)、(21-1)、(211)、(3-1-1)、(310)、(3-1-2)のミラー指数に帰属されるピークを全て有していることによって確認することができる。
【0011】
ゼオライト粉末について、一次粒子が凝集した不定形な二次粒子を含む粉末は、二次粒子の間隙が大きくなりやすいので、単位容積当たりのゼオライト含有量(ゼオライト粉末の嵩密度)が低くなりやすい。そこで、本発明はゼオライト粉末の二次粒子を球状にすることによって単位容積当たりのゼオライト含有量を高めた。
【0012】
本発明のゼオライト粉末に含まれる二次粒子は、チャバザイト型ゼオライトの一次粒子と層状ケイ酸塩を混合して成形することによって、球状の二次粒子にした。層状ケイ酸塩とチャバザイト型ゼオライトの一次粒子が混合して含まれることによって、両者が相互に作用し凝集して球状の二次粒子が形成される。チャバザイト型ゼオライトのみで球状の二次粒子を形成することは、比較例1に示すように困難である。
【0013】
該球状二次粒子に含まれるチャバザイト型ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズは1μm以下の範囲であって、0.01μm以上~1μm以下の範囲が好ましく、0.1μm以上~0.5μm以下の範囲がより好ましい。該チャバザイト型ゼオライトの平均結晶サイズが2μm以上では層状ケイ酸塩が共存しても二次粒子が球状になり難い。
【0014】
チャバザイト型ゼオライト一次粒子が球状の二次粒子に成形されていないゼオライト粉末は単位容積当たりのゼオライト含有量が少なくなりやすいが、本発明のゼオライト粉末は、チャバザイト型ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズが前記範囲でも、ゼオライト含有量が高く顕著な効果を得ることができる。
【0015】
チャバザイト型ゼオライトは、SiとAlのモル比(SiO/Alモル比)によって物理的な性状が変化する。前記二次粒子に含まれるチャバザイト型ゼオライトのSiO/Alモル比は、15未満が好ましく、3以上~10以下がより好ましい。該SiO/Alモル比がこの範囲にあるチャバザイト型ゼオライトを用いると、層状ケイ酸塩との相性が良く、球状の二次粒子を形成しやすい。
【0016】
本発明のゼオライト粉末に含まれる層状ケイ酸塩は、SiとOからなるシート(ケイ素四面体シート)が、AlとOからなるシート(アルミニウム八面体シート)を挟み込んだ構造の層を一単位とし、これらの層が複数段に積み重なった構造を有している。ケイ素四面体シートのSiの一部がAlに置き換わり、またはAl八面体シートのAlの一部がMgなどと置き換わることによってシートが負電荷を持つ。これがゼオライトの一次粒子に作用して二次粒子の球状凝集体を形成すると考えられる。
【0017】
本発明のゼオライト粉末に含まれる層状ケイ酸塩は、スメクタイトが好ましく、特にサポナイトが好ましい。このような層状ケイ酸塩は、Si、O、Alを基本骨格とするチャバザイト型ゼオライトと相性が良く、相互に作用することによって二次粒子の形状が球状に維持されやすい。層状ケイ酸塩の中でも、サポナイトは、ケイ素四面体シートのSiの一部がAlに置換された構造を有しており、Si、O、Alを基本骨格元素とするチャバザイト型ゼオライトとの相性が特に良い。
【0018】
本発明のゼオライト粉末に含まれる層状ケイ酸塩の含有量は、1質量%以上~30質量%以下の範囲が好ましく、2質量%以上~20質量%未満の範囲がより好ましい。層状ケイ酸塩の含有量がこの範囲にあれば球状の二次粒子が形成されやすいので、ゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量をより高めることができる。
【0019】
本発明のゼオライト粉末は前記球状二次粒子を含む。本発明のゼオライト粉末の主体はこの球状二次粒子であるが、これ以外の形状の粒子を含んでいてもよい。例えば、球状にならなかった不定形のチャバザイト型ゼオライトの二次粒子を含んでいてもよい。
なお、この球状二次粒子の割合が少ないと単位容積当たりのゼオライト含有量が多くなり難くなるので、本発明のゼオライト粉末に含まれる球状二次粒子の割合は、実施例1~6に示すように、単位容積当たりのゼオライト含有量が0.2g/cm以上になる量が好ましい。
【0020】
本発明のゼオライト粉末の平均粒子径は、例えば、5μm以上~100μm以下の範囲であり、10μm以上~50μm以下の範囲がより好ましく、15μm以上~30μm以下の範囲がさらに好ましい。本発明のゼオライト粉末の平均粒子径がこの範囲であれば、その単位容積当たりのゼオライト含有量をより高めやすい。また、球状の二次粒子を含むゼオライト粉末は、流動性の点でも優れる。なお、このゼオライト粉末の平均粒子径は主体の球状二次粒子および該粉末に含まれる他の形状の粒子を含む平均粒子径である。
【0021】
本発明のゼオライト粉末のTAP密度は、0.22g/cm以上であることが好ましく、0.23g/cm以上がより好ましい。TAP密度が高いと、単位容積当たりのゼオライト粉末質量が多くなり、従って、単位容積当たりのチャバザイト型ゼオライト量も多くなる。TAP密度は高いほど好ましいが、その上限は1g/cm以下でよく、0.5g/cm以下でもよい。
【0022】
〔ゼオライト粉末の製造方法〕
以下、前記ゼオライト粉末の製造方法を具体的に説明する。
本発明の製造方法は、平均結晶サイズが1μm以下のチャバザイト型ゼオライトの一次粒子と層状ケイ酸塩を含む混合スラリーを調製する工程、該混合スラリーを噴霧乾燥して平均粒子径が5μm以上~100μm以下のゼオライト粉末を調製する工程を有することを特徴とするゼオライト粉末の製造方法である。
【0023】
<混合スラリー調製工程>
本発明の製造方法は、平均結晶サイズが1μm以下のチャバザイト型ゼオライトの一次粒子と、層状ケイ酸塩を含む混合スラリーを調製する工程を有する。平均結晶サイズが1μm以下のチャバザイト型ゼオライトは、例えば、S. Mintova: "Verified syntheses of zeolitic materials",2016,P.175に記載された方法によって調製することができる。
チャバザイト型ゼオライトの一次粒子の製造は前記以外の方法であってもよく、例えば、特表2012-5-5744号公報に記載された方法で得られた平均結晶サイズが1μm超のチャバザイト型ゼオライトを粉砕等の処理で微細化する方法でもよい。
【0024】
混合スラリーに用いるチャバザイト型ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズは1μm以下であり、0.01μm以上~1μm以下の範囲が好ましく、0.1μm以上~0.5μm以下の範囲がより好ましい。該ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズがこの範囲であると、層状ケイ酸塩との接点が増加するので、最終的に得られるゼオライト粉末に含まれる二次粒子の形状が球状に維持されやすくなる。一方、後述の比較例2に示すように、ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズが2μm以上では二次粒子が球状になり難い。また、混合スラリーに含まれるゼオライト一次粒子は、予め平均結晶サイズが1μm以下のものを用いてもよく、混合スラリー調製後にスラリーを磨り潰してゼオライト一次粒子を1μm以下の平均結晶サイズにしてもよい。
【0025】
混合スラリーは、チャバザイト型ゼオライト一次粒子と共に、層状ケイ酸塩を含む。この層状ケイ酸塩として、スメクタイトが好ましく、特にサポナイトが好ましい。このような層状ケイ酸塩は、Si、O、Alを基本骨格とするチャバザイト型ゼオライトと相性が良く、相互に作用することで、二次粒子の形状が球状に維持されやすい。層状ケイ酸塩の中でも、サポナイトは、ケイ素四面体シートのSiの一部がAlに置換された構造を有しており、Si、O、Alを基本骨格元素とするチャバザイト型ゼオライトとの相性が特に良い。
【0026】
混合スラリーに含まれる層状ケイ酸塩の量は、チャバザイト型ゼオライトと層状ケイ酸塩との質量の合計に対して、1質量%以上30質量%以下の範囲が好ましく2質量%以上~20質量%以下の範囲がより好ましい。層状ケイ酸塩の添加量がこの範囲にある原料スラリーを用いて得られたゼオライト粉末は、その単位容積当たりのゼオライト含有量がより多くなる。
【0027】
混合スラリーは、チャバザイト型ゼオライトと層状ケイ酸塩を溶媒中で混合して得られる。ここで用いる溶媒は、後述の噴霧乾燥に適した溶媒であれば、従来公知のものを用いることができる。例えば、水、有機溶媒等を用いることができる。混合スラリーの調製工程では、チャバザイト型ゼオライトと層状ケイ酸塩を混合した後、分散処理を行うことが好ましい。この分散処理によって層状ケイ酸塩とチャバザイト型ゼオライトとが溶媒中で分散されて均一に混合される。例えば、超音波分散器、湿式粉砕機、ホモジナイザー等を用いて分散処理することができる。
【0028】
混合スラリー調製工程のpHは、5~10の範囲が好ましく、8~10の範囲がより好ましい。pHがこの範囲にある原料スラリーを用いることによって最終的に得られるゼオライト粉末の収量が高くなる。pHの調整方法は酸や塩基を加えるなど従来の方法を用いることができる。
【0029】
混合スラリーに含まれる固形分濃度は5~40質量%の範囲が好ましく、10~30質量%の範囲がより好ましい。固形分濃度がこの範囲にある混合スラリーを用いることによって最終的に得られるゼオライト粉末に含まれる二次粒子の形状がより球状になりやすくなり、その収量も増加する。
【0030】
混合スラリーの粘度は、3.0mPa・s以上~2500mPa・s以下の範囲が好ましく、5.0mPa・s以上~2000mPa・s以下の範囲がより好ましい。粘度がこの範囲にある混合スラリーを用いることで、最終的に得られるゼオライト粉末に含まれる二次粒子の形状がより球状になりやすくなり、その収量も増加する。
【0031】
混合スラリーはチャバザイト型ゼオライトおよび層状ケイ酸塩以外の成分を含んでいてもよい。例えば、粘度調整剤、分散剤、イオン交換成分等を含んでいてもよい。
【0032】
<ゼオライト粉末調製工程>
本発明の製造方法は、前記混合スラリーを噴霧乾燥して平均粒子径が5μm以上~30μm以下の範囲にあるゼオライト粉末を調製する工程を含む。
【0033】
この工程では、混合スラリーを噴霧乾燥する。例えば、スプレードライヤー、フリーズドライヤー等を用いて噴霧乾燥することができる。混合スラリーを噴霧乾燥することによって、混合スラリーに含まれるチャバザイト型ゼオライトと層状ケイ酸塩とが球状の二次粒子に造粒される。この噴霧乾燥によって平均粒子径が5μm以上~30μm以下のゼオライト粉末を製造する。このゼオライト粉末の粒子径は噴霧ノズルのノズル径や噴霧圧力などを調整して制御することができる。

【0034】
この工程では、噴霧方法として、ノズル式、ディスク式のどちらの方法を用いてもよい。ノズル式は、比較的小さい二次粒子を調製することができ、ディスク式は比較的大きな二次粒子を調製することができる。
【0035】
必要に応じて、噴霧乾燥後にゼオライト粉末を焼成してもよい。焼成を行うことで、ゼオライト粉末に含まれる二次粒子が焼きしまり、その形状が球状に維持されやすくなる。焼成温度は400℃~700℃の範囲が好ましい。この範囲でゼオライト粉末を焼成することで、二次粒子が焼きしまりやすくなる。
【0036】
必要に応じて、この工程で得られたゼオライト粉末に含まれるチャバザイト型ゼオライトをアルカリ金属と遷移金属等でイオン交換してもよい。なお、効率よくアルカリ金属と遷移金属等とをイオン交換するためには、一旦、硫酸アンモニウム等を含む水溶液にゼオライト粉末を浸漬してゼオライトのアルカリ金属をアンモニウムイオンでイオン交換した後に、アンモニウムイオンでイオン交換されたチャバザイト型ゼオライトを遷移金属等の水溶液に浸漬して、水溶液の遷移金属等とゼオライトのアンモニウムイオンをイオン交換するとよい。
【発明の効果】
【0037】
本発明のゼオライト粉末は、ゼオライト粉末が平均結晶サイズの小さいチャバザイト型ゼオライト一次粒子で構成された二次粒子を含み、かつ該二次粒子が球状であるので、単位容積あたりのゼオライト含有量が多い粉体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施例1のゼオライト粉末の電子顕微鏡写真である。
図2】比較例1のゼオライト粉末の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、本発明はこれらの実施例に限定されない。チャバザイト型ゼオライトの一次粒子を以下のように調製し、実施例1~6、比較例1,2で該チャバザイト型ゼオライト一次粒子を用いた。
【0040】
[チャバザイト型ゼオライトの調製(平均結晶サイズ0.4μm)]
原料スラリー調製工程
純水8460gとFAU型ゼオライト(SiO/Alモル比=8.8)1040gとを混合した。次いで、「VERIFIED SYNTHESES OF ZEOLITIC MATERIALS」H.Robson編、K.P.Lillerud XRD図:2001年発行、第2版、第123頁~第125頁に記載されたチャバザイト(Chabazite)の合成方法に従って得られたチャバザイト型ゼオライト(SiO/Alモル比=4.5、NaO/Alモル比=0.02、KO/Alモル比=0.98)112.0gを種結晶として添加し、原料スラリーを得た。この時、原料スラリーのSiとAlのモル比はSiO/Al換算(以下、「SAR」とも云う)で8.3であった。また、原料スラリーに含まれる種結晶の含有量は、前記原料スラリーに含まれる種結晶とFAU型ゼオライトの質量の和に対して、9.7質量%であった。
【0041】
原料スラリー粉砕工程
前記工程で調製した原料スラリーを、循環式のビーズミル(アシザワファインテック社製:LMZ015)を用いて、ビーズミルの容器および原料スラリーの容器をチラーで冷却しながら湿式粉砕した。このとき、原料スラリーに含まれるFAU型ゼオライトのX線回折パターンに現れる3本のピーク〔(111)、(331)および(533)のミラー指数に帰属されるピーク〕の合計強度(H)に対して、FAU型ゼオライトの合計強度(H)が半分以下(0.5H≧H)になるまで原料スラリーを湿式粉砕して、粉砕スラリーを得た。
なお、原料スラリーに含まれるFAU型ゼオライトのX線回折パターンは、原料スラリーから溶媒を除去して得られた粉末を、以下の条件で測定して得た。
<X線回折測定条件>
装置 :株式会社リガク製MiniFlex
操作軸 :2θ/θ
線源 :CuKα
測定方法 :連続式
電圧 :40kV
電流 :15mA
開始角度 :2θ=5°
終了角度 :2θ=50°
サンプリング幅:0.020°
スキャン速度 :10.000°/min
【0042】
この湿式粉砕の条件は、ジルコニアビーズ0.5mm、周速10m/s、ビーズ充填量は体積換算で容器容積の85%であった。
【0043】
調合スラリー調製工程
前記工程で得られた粉砕スラリーに水酸化カリウム(KOH濃度:95.5質量%)279.0gを添加して、調合スラリーを調製した。
【0044】
水熱処理工程(チャバザイト型ゼオライトの調製)
この調合スラリーをオートクレーブに入れ、150℃、48時間水熱処理した。その後、水熱処理後の調合スラリーを取出し、ろ過、洗浄、乾燥してチャバザイト型ゼオライトを得た。得られた粉末は、チャバザイト型ゼオライトの結晶構造を有しており、平均結晶サイズが0.4μmであり、SiO/Alモル比が7.5であった。結晶構造の特定方法、平均結晶サイズの測定方法およびSiO/Alモル比の測定方法は以下のとおりである。
【0045】
<結晶構造の特定:X線回折>
得られた粉末を乳鉢で粉砕し、試料板にセットした。これを以下の条件でX線回折測定し、得られたXRDパターンからチャバザイト構造の有無を確認した。
装置 :株式会社リガク製MiniFlex
操作軸 :2θ/θ
線源 :CuKα
測定方法 :連続式
電圧 :40kV
電流 :15mA
開始角度 :2θ=5°
終了角度 :2θ=50°
サンプリング幅:0.020°
スキャン速度 :10.000[°/min]
<判断基準>
上記測定により得られるX線回折パターンが、(100)、(200)、(20-1)、(21-1)、(211)、(3-1-1)、(310)、(3-1-2)のミラー指数に帰属されるピークをすべて有している場合、チャバザイト構造(CHA)を有していると判断した。なお、各ピークのピーク位置は、それぞれ2θ=±0.2°程度の誤差を含みうる。
【0046】
<平均結晶サイズ>
得られた粉末を試料板に分散させた後、走査型電子顕微鏡で一次粒子を観察した。なお、観察する倍率は、一次粒子のサイズが確認できる倍率であれば、必ずしも下記の条件でなくともよい。得られた画像から、平均結晶サイズを測定した。
<電子顕微鏡観察条件>
測定装置 日本電子社製JEOL JSM-7600
加速電圧 1.0kV
倍率 20,000倍
<平均結晶サイズの算出方法>
電子顕微鏡の画像から10個の一次粒子をランダムに抽出し、その一次粒子の長径の平均値を平均結晶サイズとした。
【0047】
<SiO/Alモル比の測定方法>
得られた粉末を次の条件で測定した。各成分の含有量は、酸化物換算で質量%として算出した。また、各成分の含有量をモル比に換算して、SiO/Alモル比を算出した。
<SiO、Alの含有量測定>
測定方法:ICP発光分析
装置 :株式会社VARIAN製ICP730-ES
試料溶解:酸溶解
【0048】
[チャバザイト型ゼオライトの調製-2(平均結晶サイズ2μm)]
SiO/Alモル比=5.2のFAU型ゼオライトに、NaO/Alモル比=0.3、KO/Alモル比=1.6、HO/Alモル比=151.0となるように添加し、調合スラリーを得た。この調合スラリーをオートクレーブに入れ95℃、48時間水熱処理した。その後、水熱処理後の調合スラリーを取出し、ろ過、洗浄、乾燥してチャバザイト型ゼオライトを得た。
得られた粉末は、チャバザイト型ゼオライトの結晶構造を有しており、平均結晶サイズが2μmであり、SiO/Alモル比が5.0であった。
【0049】
〔実施例1〕
イオン交換水1946.0gに、平均結晶サイズが0.4μmのチャバザイト型ゼオライト200.0gと、層状ケイ酸塩としてスメクタイト(クニピア工業株式会社品:スメクトン―SA、サポナイト)16.2gを添加して混合スラリーにした。該混合スラリーをホモジナイザー(株式会社喜商社製)に二回通過させて分散処理を行った。この混合スラリーは、pHが8.34であり、固形分濃度が10質量%であり、粘度が5.4mPa・sであり、層状ケイ酸塩の添加量は、チャバザイト型ゼオライトと層状ケイ酸塩との質量の合計に対して、7.5質量%であった。pHの測定方法、粘度の測定方法は次のとおりである。
この混合スラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥した。このスプレードライヤーの運転条件は、入口温度220℃、出口温度130℃、原料スラリー供給速度0.23kg/hであり、噴霧方式はアトマイザ方式であった。
噴霧乾燥して得たゼオライト粉末は、球状の二次粒子を含み、平均粒子径が23.7μmであり、TAP密度が0.238g/cmであった。また、このゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量は0.220g/cmであった。二次粒子の形状、平均粒子径およびTAP密度の測定方法は以下のとおりである。また、二次粒子の形状を確認した電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0050】
<pHの測定方法>
混合スラリーを撹拌しながら25℃でpHを測定した。装置はpHメータ(株式会社堀場製作所製D-52)を使用した。ゼロ校正は中性リン酸塩標準液、シュウ酸塩標準液、ホウ酸塩標準液の3点校正である。
【0051】
<粘度の測定方法>
混合スラリーの粘度を装置(TVB-10:東機産業株式会社製品)によって測定した。
【0052】
<二次粒子の形状>
製造したゼオライト粉末を試料板に分散させた後、走査型電子顕微鏡で二次粒子を観察した。観察する倍率は、二次粒子のサイズが確認できる倍率であれば、必ずしも下記の条件でなくともよい。得られた画像に球状の二次粒子が含まれているかを目視で観察した。
<電子顕微鏡観察条件>
測定装置として日本電子社製(EOL JSM-7600F)を用い、加速電圧1.0kV、倍率5,000倍で観察した。
【0053】
<平均粒子径の算出方法>
製造したゼオライト粉末をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で平均粒子径(体積平均)を測定した。測定装置は一般の装置(HORIBA LA950V2)を用い、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、屈折率1.465とした。
【0054】
<TAP密度>
製造したゼオライト粉末を100mlのメスシリンダーに100mlの目盛りになるまで入れ、その後、約1cmの高さから10回上下した。メスシリンダーに入れた重量をT(g)、10回上下した際の目盛をP(cm)とし、TAP密度[g/cm]=T/Pで求めた。
また、この値を用いて、単位容積当たりのゼオライト含有量を以下の式をから算出した。
単位容積当たりのゼオライト含有量[g/cm]=TAP密度[g/cm]×(100-層状ケイ酸塩の含有量[%])/100
【0055】
〔実施例2〕
層状ケイ酸塩(スメクタイト)の添加量を15.0質量%としたこと以外は実施例1と同様の方法でゼオライト粉末を得た。このゼオライト粉末は、球状の二次粒子を含み、平均粒子径は28.0μmであり、TAP密度は0.289g/cmであった。このゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量は0.246g/cmであった。
【0056】
〔実施例3〕
混合スラリーをホモジナイザーに通過させる分散処理の回数を10回としたこと以外は実施例1と同様の方法でゼオライト粉末を得た。このゼオライト粉末は、球状の二次粒子を含み、平均粒子径は21.7μmであり、TAP密度は0.258g/cmであった。このゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量は0.238g/cmであった。
【0057】
〔実施例4〕
層状ケイ酸塩の添加量を3.0質量%としたこと以外は実施例1と同様の方法でゼオライト粉末を得た。このゼオライト粉末は、球状の二次粒子を含み、平均粒子径は13.7μmであり、TAP密度は0.235g/cmであった。このゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量は0.228g/cmであった。
【0058】
〔実施例5〕
混合スラリーの固形分濃度を20質量%としたこと以外は実施例1と同様の方法でゼオライト粉末を得た。このゼオライト粉末は、球状の二次粒子を含み、平均粒子径は16.6μmであり、TAP密度は0.240g/cmであった。このゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量は0.233g/cmであった。
【0059】
〔実施例6〕
層状ケイ酸塩(スメクタイト)の添加量を1.0質量%としたこと以外は実施例1と同様の方法でゼオライト粉末を得た。このゼオライト粉末は、球状の二次粒子を含み、平均粒子径は12.8μmであり、TAP密度は0.211g/cmであった。このゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量は0.209g/cmであった。
【0060】
〔比較例1〕
層状ケイ酸塩(スメクタイト)を添加しない以外は実施例1と同様の方法でゼオライト粉末を得た。このゼオライト粉末は、不定形の二次粒子を含み、平均粒子径は6.4μmであり、TAP密度は0.168g/cmであった。このゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量は0.168g/cmであった。
【0061】
〔比較例2〕
平均結晶サイズが2μmのチャバザイト型ゼオライトを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でゼオライト粉末を得た。このゼオライト粉末は、不定形の二次粒子を含み、平均粒子径は7.8μmであり、TAP密度は0.212g/cmであった。このゼオライト粉末の単位容積当たりのゼオライト含有量は0.196g/cmであった。
【0062】
実施例1~6、比較例1,2の製造条件および製造したゼオライト粉末の性状を表1に示す。表1に示すように、層状ケイ酸塩(スメクタイト)を含む実施例1~6のゼオライト粉末は、層状ケイ酸塩を含まない比較例1と比べて、単位容積当たりのゼオライト含有量が多くなる。また、層状ケイ酸塩を含む実施例1のゼオライト粉末には球状の二次粒子が含まれているが(図1参照)、層状ケイ酸塩を含まない比較例1のゼオライト粉末の二次粒子は不定形であった(図2参照)。
ゼオライト一次粒子の平均結晶サイズ(0.4μm)が小さいチャバザイト型ゼオライトを含む実施例1~6のゼオライト粉末は単位容積当たりのゼオライト含有量が多い(0.209~0.246g/cm)。一方、該一次粒子の平均結晶サイズ(2μm)が大きいチャバザイト型ゼオライトを含む比較例2のゼオライト粉末は、層状ケイ酸塩を含んでいても球状の二次粒子が得られず、単位容積当たりのゼオライト含有量もが低い(0.196g/cm)。
【0063】
【表1】

図1
図2