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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20241205BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20241205BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20241205BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/26
F16C33/34
F16C33/58
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019085130
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180663
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 順司
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 繁夫
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 祐樹
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】平城 俊雅
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-316821(JP,A)
【文献】特表2001-515998(JP,A)
【文献】特開2006-77852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軌道面と、第2の軌道面と、これら両軌道面の間に転動可能に配置された複数の転動体と、を備える転がり軸受であって、
前記転動体は、ころであり、
前記ころの外周面にある転動面に、多数の凹部が形成され、
前記転動面に対する前記凹部の開口の面積率は、%以上30%以下であり、
前記凹部の開口の円相当径は、1μm以上27μm以下であり、
前記凹部における前記転動面の法線方向の最大谷深さは、3μm以上10μm以下であり、
前記凹部を除いた前記転動面の算術平均うねりである表面うねりは、0.2μm以下である、転がり軸受。
【請求項2】
前記転動体は、針状ころ、円筒ころ、及び棒状ころのいずれかである、請求項1に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トランスミッション内の遊星歯車機構に用いられる遊星歯車は、針状ころ軸受を介してキャリアの支持軸に回転自在に支持されている。このような針状ころ軸受は、前記支持軸側から潤滑油を強制給油することによって潤滑されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-083861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、省資源、省エネにより軸受への強制給油量が低減されるとともに、高速回転化により潤滑油が遠心力で飛散することで、軸受内部の潤滑油量が減少する傾向にある。軸受内部の潤滑油量が減少すると、油膜切れが発生し、軸受の昇温や焼付きが問題となる。
【0005】
そこで、本発明は、昇温を抑えることができ、かつ耐焼付き性を向上させることができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、転動体の転動面、及び転動体が転動する軌道面のいずれかの面に多数の凹部を形成し、その凹部の開口の面積率、円相当径及び深さと、凹部を除いた前記面の表面うねりを適切な範囲に設定することで、前記凹部に潤滑油が溜まり易くなり、前記面における油膜厚さを厚くできることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、第1の軌道面と、第2の軌道面と、これら両軌道面の間に転動可能に配置された複数の転動体と、を備える転がり軸受であって、前記第1の軌道面、前記第2の軌道面、及び複数の前記転動体の転動面のうち、少なくとも1つの面に、多数の凹部が形成され、前記面に対する前記凹部の開口の面積率は、5%以上37%以下であり、前記凹部の開口の円相当径は、1μm以上27μm以下であり、前記凹部における前記面の法線方向の深さは、3μm以上10μm以下であり、前記凹部を除いた前記面の表面うねりは、0.2μm以下である、転がり軸受である。
【0008】
本発明の転がり軸受によれば、第1の軌道面、第2の軌道面、及び転動体の転動面の少なくとも1つの面に形成された多数の凹部に潤滑油が溜まり易くなり、前記面における油膜厚さを厚くすることができる。これにより、前記面において油膜切れが発生するのを抑制できるため、転がり軸受の昇温を抑えることができ、かつ耐焼付き性を向上させることができる。
【0009】
(2)前記転動体は、ころであるのが好ましい。この場合、ころを転動体とした転がり軸受の昇温を抑えることができ、かつ耐焼付き性を向上させることができる。
【0010】
(3)前記転動体は、針状ころ、円筒ころ、及び棒状ころのいずれかであるが好ましい。この場合、針状ころ、円筒ころ、及び棒状ころのいずれかを転動体とした転がり軸受の昇温を抑えることができ、かつ耐焼付き性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の転がり軸受によれば、昇温を抑えることができ、かつ耐焼付き性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受を備えた遊星歯車機構を示す一部断面図である。
図2図1のA-A矢視断面図である。
図3】転がり軸受を示す拡大断面図である。
図4】評価試験の結果を示すグラフであり、縦軸を油膜厚さの変化量とし、横軸を凹部の面積率としたグラフである。
図5】評価試験の結果を示すグラフであり、縦軸を油膜厚さの変化量とし、横軸を凹部の円相当径としたグラフである。
図6】評価試験の結果を示すグラフであり、縦軸を油膜厚さの変化量とし、横軸を凹部の深さとしたグラフである。
図7】評価試験の結果を示すグラフであり、縦軸を油膜厚さの変化量とし、横軸を凹部を除く表面の表面うねりとしたグラフである。
図8】評価試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る転がり軸受を備えた遊星歯車機構を示す一部断面図である。図2図1のA-A矢視断面図である。図1及び図2において、遊星歯車機構50は、例えば、自動車のトランスミッションに用いられる。遊星歯車機構50は、太陽歯車51と、内歯車(リングギヤ)52と、複数の遊星歯車53と、キャリア54とを備えている。
【0014】
太陽歯車51は、回転軸61の外周に嵌合されており、回転軸61と一体に回転可能である。内歯車52は、太陽歯車51の径方向外方において太陽歯車51と同心上に配置されている。太陽歯車51の外周には、その周方向に複数(本実施形態では3個)の遊星歯車53が噛み合っている。また、各遊星歯車53は、内歯車52の内周に噛み合っている。
【0015】
キャリア54は、各遊星歯車53を転がり軸受10を介して回転自在に支持する複数のシャフト55と、各シャフト55の両端部を支持する一対のキャリア本体56とを有している。これにより、各遊星歯車53は、自身を支持しているシャフト55の軸線回りに自転しながら、太陽歯車51の外周を公転する。
【0016】
図3は、転がり軸受を示す拡大断面図である。転がり軸受10は、針状ころ軸受であり、第1の軌道面11と、第2の軌道面12と、複数の針状ころ(転動体)13と、保持器15とを備えている。第1の軌道面11は、シャフト55の外周面の軸方向中央部に形成されている。第2の軌道面12は、遊星歯車53の内周面に形成されている。
【0017】
図2及び図3において、針状ころ13は、第1の軌道面11と第2の軌道面12との間に転動可能に配置されている。針状ころ13の外周面は、両軌道面11,12を転動する転動面14とされている。保持器15は、環状に形成されており、複数の針状ころ13を周方向に沿って所定間隔毎に保持している。保持器15は、その外周面が遊星歯車53の内周面に摺接することによって回転案内される。
【0018】
シャフト55内には、転がり軸受10の内部に潤滑油を強制給油するための油路57が形成されている。油路57は、シャフト55の軸方向一端側(図3では右端側)から軸方向他端側に向かって延び、シャフト55の軸方向中央部から径方向外側に延びて外周面で開口している。なお、各キャリア本体56と遊星歯車53との間には、ワッシャ58が介在している。
【0019】
各針状ころ13の転動面14には、潤滑油を溜める微小な凹部20が多数形成されている。これらの微小な凹部20は、例えば、転動面14にブラスト加工を施して微小な凹凸部を形成した後に、バレル加工を施して前記凹凸部の凸部を削ることによって形成されている。凹部20の形状は、潤滑油を溜め易くするために、以下のように設定されている。
【0020】
転動面14に対する凹部20の開口の面積率(以下、単に凹部20の面積率Aという)は、5%以上37%以下(好ましくは8%以上30%以下)に設定されている。凹部20の面積率Aは、転動面14について観察を行ったときの1視野において、凹部20の開口の面積を測定し、観察視野の面積に対する割合(%)を算出することによって得ることができる。1視野あたりの観察面積は、例えば0.4mmである。
【0021】
凹部20の開口の円相当径(以下、単に凹部20の円相当径Bという)は、1μm以上27μm以下(好ましくは8μm以上27μm以下)に設定されている。凹部20の円相当径Bは、転動面14を撮像した画像を処理することにより、転動面14での凹部20の開口の面積Sを測定し、面積Sを用いた次の式により算出することができる。
B=2×(S/π)^(1/2)
【0022】
凹部20の開口から底までの、転動面14の法線方向の深さ(以下、単に凹部20の深さCという)は、3μm以上10μm以下(好ましくは3μm以上9.6μm以下)に設定されている。なお、凹部20の深さCの値は、2001年のJISB0601に規定された最大谷深さPvの値を示している。
凹部20を除いた転動面14の表面うねり(以下、単に表面うねりDという)は、0.2μm以下(好ましくは0.16μm以下)に設定されている。表面うねりDの値は、2001年のJISB0601に規定された算術平均うねりWaの値を示している。
【0023】
次に、本発明の転がり軸受により得られる効果を検証するために、本発明者らが行った評価試験について説明する。評価試験では、3つのサンプル(軸受鋼球)を1組として9組使用し、各組のサンプルには、その表面の一部に多数の凹部を加工した。その加工方法は、基本的には上記のようにブラスト加工後にバレル加工を施す方法を用いた。
【0024】
そして、各組の3つのサンプルを微量潤滑条件(サンプル表面に低粘度油を5μL塗布)で互いに異なる回転速度(0.1m/s,1.0m/s,2.0m/s)で回転させた後、各サンプルについて、相手材と接触する中央部における油膜厚さの変化を測定するとともに、加工面における凹部の面積率,円相当径,深さ、及び表面うねりを測定した。
【0025】
油膜厚さの変化は、公知の3波長光干渉法(例えば、特開2017-207316号公報参照)を用いて、凹部を加工した加工面の油膜厚さと、凹部を加工していない未加工面の油膜厚さをほぼ同時に測定し、これらの油膜厚さ同士の差を算出した。前記油膜厚さ同士の差は、前記加工面の油膜厚さから前記未加工面の油膜厚さを減算した値であり、以下、この値を油膜厚さの変化量という。油膜厚さの変化量は、その値が大きいほど、前記加工面の油膜厚さが厚いことを示している。
【0026】
図4は、前記評価試験の結果を示すグラフであり、縦軸を油膜厚さの変化量とし、横軸を凹部の面積率としたグラフである。図4に示すように、凹部の面積率が5%以上37%以下の範囲内であるときに、油膜厚さの変化量が概ね大きい値となっており、凹部を加工した加工面の油膜厚さが厚くなっている。従って、凹部の面積率を5%以上37%以下の範囲内に設定することで、凹部に潤滑油が溜まり易くなり、前記油膜厚さを厚くできることが分かる。
【0027】
図5は、前記評価試験の結果を示すグラフであり、縦軸を油膜厚さの変化量とし、横軸を凹部の円相当径としたグラフである。図5に示すように、凹部の円相当径が1μm以上27μm以下の範囲内であるときに、油膜厚さの変化量が概ね大きい値となっており、凹部を加工した加工面の油膜厚さが厚くなっている。従って、凹部の円相当径を1μm以上27μm以下の範囲内に設定することで、凹部に潤滑油が溜まり易くなり、前記油膜厚さを厚くできることが分かる。
【0028】
図6は、前記評価試験の結果を示すグラフであり、縦軸を油膜厚さの変化量とし、横軸を凹部の深さとしたグラフである。図6に示すように、凹部の深さが3μm以上10μm以下の範囲内であるときに、油膜厚さの変化量が概ね大きい値となっており、凹部を加工した加工面の油膜厚さが厚くなっている。従って、凹部の深さを3μm以上10μm以下の範囲内に設定することで、凹部に潤滑油が溜まり易くなり、前記油膜厚さを厚くできることが分かる。
【0029】
図7は、前記評価試験の結果を示すグラフであり、縦軸を油膜厚さの変化量とし、横軸を凹部を除く表面の表面うねりとしたグラフである。図7に示すように、凹部を除く表面の表面うねりが0.2μm以下の範囲内であるときに、油膜厚さの変化量が概ね大きい値となっており、凹部を加工した加工面の油膜厚さが厚くなっている。このため、凹部を除く表面の表面うねりを0.2μm以下の範囲内に設定することで、凹部に潤滑油が溜まり易くなり、前記油膜厚さを厚くできることが分かる。
【0030】
図8は、前記評価試験の結果を示す表である。図8に示すように、A~Jの9組のうち、Gのサンプル(G-1,G-2,G-3)のみにおいて、油膜厚さの変化量が全てプラスの値を示しており、凹部を加工した加工面の油膜厚さが厚くなっている。そして、Gの各サンプルにおける、凹部の面積率は5%以上37%以下の値(15%)であり、凹部の円相当径は1μm以上27μm以下の値(15.31μm)である。また、凹部の深さは3μm以上10μm以下の値(4.788μm)であり、凹部を除く表面の表面うねりは0.2μm以下の値(0.148μm)である。従って、凹部の面積率、凹部の円相当径、凹部の深さ、及び凹部を除く表面の表面うねりを、それぞれ前記範囲内に設定することで、凹部に潤滑油が溜まり易くなり、凹部を加工した加工面の油膜厚さを厚くできることが分かる。
【0031】
以上、本実施形態の転がり軸受10によれば、針状ころ13の転動面14に形成された多数の凹部20に潤滑油が溜まり易くなり、転動面14における油膜厚さを厚くすることができる。これにより、転動面14において油膜切れが発生するのを抑制できるため、転がり軸受10の昇温を抑えることができ、かつ耐焼付き性を向上させることができる。
【0032】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の転がり軸受は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、前記実施形態では、全ての針状ころ13の転動面14に凹部20を形成しているが、少なくとも1つの針状ころ13の転動面14に凹部20を形成すればよい。また、前記凹部20は、第1の軌道面11、第2の軌道面12、及び針状ころ13の転動面14のうち、少なくとも1つの面に形成されていればよい。
【0033】
また、本発明の転がり軸受は、針状ころ軸受以外に、自動調心ころ軸受、又は円筒ころ軸受等の他のころ軸受であってもよいし、転がり軸受の転動体は、針状ころ以外に、円筒ころ、又は棒状ころ等の他のころであってもよい。また、転がり軸受は、転動体をころとしたころ軸受以外に、転動体を玉とした玉軸受であってもよい。また、本発明の転がり軸受は、トランスミッションの遊星歯車機構に適用する場合について説明したが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0034】
10 転がり軸受 11 第1の軌道面 12 第2の軌道面
13 針状ころ(ころ,転動体) 14 転動面 20 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8