(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】蓄電デバイス及び電極
(51)【国際特許分類】
H01G 11/06 20130101AFI20241205BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20241205BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20241205BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241205BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20241205BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20241205BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241205BHJP
【FI】
H01G11/06
H01G11/30
H01G11/62
H01M4/36 C
H01M4/60
H01M10/0525
H01M10/0568
(21)【出願番号】P 2019148089
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-03-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木田 梨歩
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】須原 宏光
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-021810(JP,A)
【文献】特開2017-017299(JP,A)
【文献】特開2016-162957(JP,A)
【文献】国際公開第2014/080870(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00-11/86
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を負極活物質として含み、表面を硬X線光電子分光で測定したときに、窒素の1s軌道の光電子スペクトルが396eV以上403eV以下の範囲、フッ素の1s軌道の光電子スペクトルが683eV以上687eV以下及び687eV以上690eV以下の範囲、及び硫黄の1s軌道の光電子スペクトルが2475eV以上2480eV以下の範囲に存在する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、
前記負極は、式(1)~(3)のうち1以上で表される構造を有する前記層状構造体を前記負極活物質として含む、蓄電デバイス。
【化1】
【請求項2】
前記負極は、表面を硬X線光電子分光で測定した原子数の割合が、窒素では0.5at
%以上2at%以下の範囲、フッ素が2at%以上4at%以下の範囲、及び硫黄が1.5at%以上3.5at%以下の範囲にある、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記負極は、リンの光電子スペクトルが存在しない、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記負極は、前記負極活物質の表面に膜状態又は吸着した状態で窒素、フッ素及び硫黄を含む厚さが10nm以下の化合物層が形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記イオン伝導媒体は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを1.0mol/L以上2mol/L以下の範囲で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記正極は、比表面積が1000m
2/g以上の活性炭を正極活物質として含む、請求
項1~
5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
蓄電デバイスに用いられる電極であって、
芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を電極活物質として含み、表面を硬X線光電子分光で測定したときに、窒素の1s軌道の光電子スペクトルが396eV以上403eV以下の範囲、フッ素の1s軌道の光電子スペクトルが683eV以上687eV以下及び687eV以上690eV以下の範囲、及び硫黄の1s軌道の光電子スペクトルが2475eV以上2480eV以下の範囲に存在し、
前記電極は、式(1)~(3)のうち1以上で表される構造を有する前記層状構造体を前記電極活物質として含む、電極。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、蓄電デバイス及び電極を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を含む負極活物質を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この層状構造体は、芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを含む溶液を噴霧乾燥する噴霧乾燥法で製造される。噴霧乾燥法では、従来とは異なる性状(形状など)の層状構造体を得ることができる。また、リチウムイオンキャパシタとしては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)及びLiBF4を所定範囲で含む電解液と、ポリアセン系半導体物質(PAS)を正極活物質とする正極と、フェノール樹脂原料から成る難黒鉛化炭素を負極活物質とするものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このリチウムイオンキャパシタでは、高温高電圧環境を経た後の特性変化を小さくすることができるとしている。また、リチウムイオン電池用電解液としては、LiFSI及び水を所定比率で含有するものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この電解液では、従来よりもイオン抵抗をより低下することができる。また、電解液として、炭素数3~6のカーボネートと、ビニレンカーボネートと、六フッ化リン酸リチウムと、0.25mol/Lのリチウムビス(オキサラトボレート)とを含むものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。この電解液を、リチウムコバルト複合酸化物の正極活物質を有する正極と、黒鉛の負極活物質を有する負極とに用いると、40℃の高温フロート試験において、サイクル寿命を向上することができるとしている。
【0003】
更に、黒鉛を活物質とする作用極と、リチウム金属の対極と、作用極と対極との間に介在しエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを含む非水系溶媒に1MのLiPF6を支持塩とし4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加剤として含む電解液を用いたハーフセルが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このハーフセルでは、室温で30回の充放電サイクルを行ったあと、リチウムイオン脱離状態において55℃で保存し、室温に戻して10回の充放電サイクルを行う評価において、FECを5質量%加えると高温保存時の容量維持率が向上することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-166060号公報
【文献】特開2017-216310号公報
【文献】特開2017-212153号公報
【文献】特開2008-159588号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Electrochem.Soc.162,(2015),A1683-A1692
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、例えば、高温で保存したあとの充放電特性の低下を抑制することは、まだ十分検討されていなかった。また、特許文献2~4や非特許文献1の蓄電デバイスでは、充放電に関する特性を向上することができるとしているが、負極活物質として層状構造体を用いることは検討されていなかった。有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層状構造体では、一般的な負極活物質である黒鉛の電位(Li基準電位で0.1V)などに比して高い電位(Li基準電位で0.7V~0.8V)を有しており、一般的な電解液の添加剤や支持塩などをそのまま適用しても効果を示さないなど、一般的な物質をそのまま利用することができないことがあった。そして、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を電極活物質とする電極に対して、適用する添加剤、支持塩および非水系溶媒の組み合わせは数多あり、高温保存性などの特性を高めることは容易ではなかった。このように、層状構造体を負極活物質に用いた蓄電デバイス及び電極の高温保存後の充放電特性をより高めることが求められていた。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、層状構造体を電極活物質に用いたものの高温保存後の充放電特性をより高めることができる蓄電デバイス及び電極を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を電極活物質とし、その表面に所定の特性を有する化合物層を形成すると、高温保存後などの充放電特性をより高めることができることを見いだし、本開示の発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本開示の蓄電デバイスは、
正極と、
芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を負極活物質として含み、表面を硬X線光電子分光で測定したときに、窒素の1s軌道の光電子スペクトルが396eV以上403eV以下の範囲、フッ素の1s軌道の光電子スペクトルが683eV以上687eV以下及び687eV以上690eV以下の範囲、及び硫黄の1s軌道の光電子スペクトルが2475eV以上2480eV以下の範囲に存在する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0010】
本開示の電極は、
蓄電デバイスに用いられる電極であって、
芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を電極活物質として含み、表面を硬X線光電子分光で測定したときに、窒素の1s軌道の光電子スペクトルが396eV以上403eV以下の範囲、フッ素の1s軌道の光電子スペクトルが683eV以上687eV以下及び687eV以上690eV以下の範囲、及び硫黄の1s軌道の光電子スペクトルが2475eV以上2480eV以下の範囲に存在するものである。
【発明の効果】
【0011】
本明細書で開示する蓄電デバイス及び電極では、層状構造体を電極活物質に用いたものにおいて、高温保存後の充放電特性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、芳香族ジカルボン酸アニオンを含む層状構造体である電極活物質の表面に窒素やフッ素、硫黄を含む化合物層が被膜として形成されると、初期リチウム吸蔵時に界面を安定化させ、更なるイオン伝導媒体の分解が抑制されるため、例えば、室温などでの充放電サイクル特性や、60℃などの高温保存後における充放電特性が向上するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】実施例1~3、比較例1の高温保存時間に対する容量維持率の関係図。
【
図4】実施例1~3、比較例1の充放電サイクル数と容量維持率の関係図。
【
図5】実施例1~3、比較例1のLiの硬X線光電子分光スペクトル。
【
図6】実施例1~3、比較例1のCの硬X線光電子分光スペクトル。
【
図7】実施例1~3、比較例1のFの硬X線光電子分光スペクトル。
【
図8】実施例1~3、比較例1のOの硬X線光電子分光スペクトル。
【
図9】実施例1~3のN及びSの硬X線光電子分光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極と負極との間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備える。この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムイオン電池などとしてもよい。
【0014】
正極は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、例えば、正極活物質として炭素材料を含むものとしてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着・脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入・脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0015】
あるいは、正極は、一般的なリチウムイオン電池に用いられる正極としてもよい。この場合、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)やLi(1-x)NiaCobMncO4(a+b+c=2)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、正極活物質は、リン酸鉄リチウムなどとしてもよい。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。
【0016】
正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維などの炭素材料、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。正極は、正極合材全体のうち導電材を5質量%以上25質量%以下の範囲で含むことが好ましく、10質量%以上としてもよいし、15質量%以上としてもよい。5質量%以上であれば、電極に十分な導電性を持たせることができ、充放電特性の劣化を抑制できる。また、25質量%以下であれば、活物質や結着材が少なくなり過ぎないため、活物質や結着材の機能を十分に発揮できる。
【0017】
結着材は、水溶性ポリマーを含むものとしてもよい。水溶性ポリマーは、カルボキシメチルセルロース(CMC)を少なくとも含み、ポリビニルアルコール(PVA)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)のうちいずれか1以上を含むものとしてもよい。また、結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエン-モノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等としてもよい。正極は、正極合材全体のうち結着材を5質量%以上25質量%以下の範囲で含むことが好ましく、20質量%以下としてもよいし、15質量%以下としてもよい。5質量%以上であれば、電極に十分な結着性を持たせることができ、充放電特性の劣化を抑制できる。また、25質量%以下であれば、活物質や導電材が少なくなり過ぎないため、活物質や導電材の機能を十分に発揮できる。
【0018】
溶剤としては、水を用いてもよいし、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いてもよい。水溶性ポリマーを用いる場合は、溶剤として水を用いることが好適である。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。このうち、集電体は、アルミニウム金属とすることがより好ましい。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0019】
負極は、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を負極活物質として含んでいる。この負極活物質は、キャリアである金属イオンを吸蔵放出するものである。キャリアイオンは、アルカリ金属イオンであることが好ましく、LiイオンやNaイオン、Kイオンなどのうち1以上が挙げられ、このうちLiイオンがより好ましい。この負極活物質は、芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を含む。
【0020】
この層状構造体は、1又は2以上の芳香環構造が接続した有機骨格層を有するものとしてもよい。この層状構造体は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。この層状構造体は、式(1)~(3)のうち1以上で表される構造を有するものとしてもよい。但し、この式(1)~(3)において、aは1以上5以下の整数であり、bは0以上3以下の整数であり、これらの芳香族化合物は、この構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。より具体的には、この層状構造体は、式(4)、(5)に示す芳香族化合物としてもよい。なお、式(1)~(5)において、Aはアルカリ金属である。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する次式(6)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(6)において、Rは1又は2以上の芳香環構造を有し、複数あるRのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、Aはアルカリ金属である。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
この層状構造体において、有機骨格層は、2以上の芳香環構造を有する場合、例えば、ビフェニルなど2以上の芳香環が結合した芳香族多環化合物としてもよいし、ナフタレンやアントラセン、ピレンなど2以上の芳香環が縮合した縮合多環化合物としてもよい。この芳香環は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。また、芳香環は、2以上5以下とするのが好ましい。芳香環が2以上では層状構造を形成しやすく、芳香環が5以下ではエネルギー密度をより高めることができる。この有機骨格層は、芳香環に1又は2以上のカルボキシアニオンが結合した構造を有するものとしてもよい。有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが芳香環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば芳香環構造がビフェニルであれば、4,4’位が挙げられ、ナフタレンであれば2,6位が挙げられる。
【0025】
アルカリ金属元素層は、例えば
図1に示すように、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成している。
図1は、4、4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを具体例とする、層状構造体の構造の一例を示す説明図である。アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。なお、蓄電デバイスのキャリアであり、充放電により層状構造体に吸蔵・放出される金属イオンは、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。このように構成された層状構造体は、
図1に示すように、構造においては、有機骨格層とこの有機骨格層の間に存在するLi層(アルカリ金属元素層)とにより形成されている。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e
-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。この層状構造体は、例えば、2、6-ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩、4、4’-ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩のうち1以上が好ましく、4、4’-ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩がより好ましい。
【0026】
この層状構造体は、芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを含む溶液を噴霧乾燥する噴霧乾燥法により作製されるものとしてもよい。噴霧乾燥は、スプレードライヤーにより行うものとしてもよい。噴霧乾燥条件は、例えば、装置の規模や作製する電極活物質の量によって適宜調整すればよい。噴霧乾燥する調製溶液は、芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が0.1mol/L以上、より好ましくは、0.2mol/L以上であることが好ましい。また、調製溶液は、芳香族ジカルボン酸アニオンのモル数A(mol)に対するアルカリ金属カチオンのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.2以上であることが好ましい。このように、アルカリ金属カチオンを過剰とすることにより、蓄電デバイス用電極の抵抗をより低減することができ、好ましい。このモル比B/Aは、2.5以上であるものとしてもよい。また、このモル比B/Aは、3.0以下であるものとしてもよい。乾燥温度は、例えば、100℃以上250℃以下の範囲とすることが好ましい。100℃以上では、溶媒を十分に除去することができ、250℃以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。乾燥温度は、120℃以上や150℃以上がより好ましく、220℃以下がより好ましい。また、供給液量は、作製する規模にもよるが、例えば、0.1L/h以上2L/h以下の範囲としてもよい。また、調製溶液を噴霧するノズルサイズは、作製する規模にもよるが、例えば、直径0.5mm以上5mm以下の範囲としてもよい。
【0027】
この層状構造体は、作製時には、層状構造体の剥片の集合を内包して形成される中空球状構造を有するものとしてもよい。噴霧乾燥法での作製によって、層状構造体は、このような構造となりうる。この中空粒子は、0.1μm以上10μm以下の範囲で得られる。中空球状構造や剥片状構造における剥片の厚みは、例えば1nm以上100nm以下であり、好ましくは、1nm以上20nm以下である。また、剥片構造の平板部の最大長さは、5μm以下であり、2μm以下としてもよい。負極は、この中空球状構造を解砕し剥片状の層状構造体を用いるため、所定の結晶面で配向する。この負極は、電極をX線回折測定したときに、(111)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(111)が2.0以上を示すものとしてもよい。この強度比は、2.5以上を示すことがより好ましく、3.0以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、5.0以下であるものとしてもよい。また、負極は、電極をX線回折測定したときに、X線回折測定での(011)のピーク強度に対する(300)のピーク強度比P(300)/P(011)が2.0以上を示すものとしてもよい。この強度比は、2.5以上を示すことがより好ましく、3.0以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、5.0以下であるものとしてもよい。また、負極は、電極をX線回折測定したときに、X線回折測定での(111)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(111)が6.0以上を示すものとしてもよい。この強度比は、6.5以上を示すことがより好ましく、6.6以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、10.0以下であるものとしてもよい。また、この負極は、電極をX線回折測定したときに、(011)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(011)が5.0以上を示すものとしてもよい。この強度比は、6.0以上を示すことがより好ましく、6.5以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、10.0以下であるものとしてもよい。また、この負極は、電極をX線回折測定したときに、(300)のピーク強度に対する(100)のピーク強度比P(100)/P(300)が1.5以上を示すものとしてもよい。この強度比は、1.8以上を示すことがより好ましく、2.0以上を示すことが更に好ましい。また、この強度比は、5.0以下であるものとしてもよい。このように、噴霧乾燥法で作製した層状構造体を含む負極は、電極内部に存在する活物質の小さな剥片が特異的な配向をしており、n00面に相当するピーク強度が大きくなる傾向を示す。このピーク強度比を満たす負極は、特に4、4’-ビフェニルジカルボン酸アルカリ金属塩を含むものとしてもよい。
【0028】
この負極は、表面を硬X線光電子分光で測定した窒素の1s軌道の光電子スペクトルが396eV以上403eV以下の範囲に存在する。表面を硬X線光電子分光で測定したフッ素の1s軌道の光電子スペクトルが683eV以上687eV以下及び687eV以上690eV以下の範囲に存在する。更に、この負極は、表面を硬X線光電子分光で測定した硫黄の1s軌道の光電子スペクトルが2475eV以上2480eV以下の範囲に存在する。即ち、この負極は、負極活物質の表面に膜状態又は吸着した状態で窒素、フッ素及び硫黄を含む化合物層(被膜)が形成されているものとしてもよい。このように、窒素やフッ素、硫黄などを含む被膜が層状構造体の電極活物質上に形成されると、活物質の初期リチウム吸蔵時に界面を安定化させ、更なる電解液の分解を抑制し、高温保存特性や充放電サイクル特性が向上する。この化合物層は、例えば、厚さが10nm以下であるものとしてもよく、5nm以下としてもよい。また、この化合物層は、厚さが2nm以上であるものとしてもよい。層状構造体の表面にこのような化合物層が形成されると、充放電サイクルでの容量維持率などを含む充放電サイクル特性をより向上することができる。なお、硬X線光電子分光での測定では、表面から20nmまでの深さを検出可能である。
【0029】
また、この負極は、表面を硬X線光電子分光で測定したリチウムの光電子スペクトルが54eV以上59eV以下の範囲に存在するものとしてもよい。更に、この負極は、表面を硬X線光電子分光で測定した炭素の1s軌道の光電子スペクトルが286eV以上288eV以下の範囲に存在するものとしてもよい。そして、この負極は、表面を硬X線光電子分光で測定したリンの光電子スペクトルが存在しないものとしてもよい。このような予備的な特徴を有するものとしても、高温保存特性や充放電サイクル特性が向上することができる。
【0030】
この負極において、表面を硬X線光電子分光で測定した原子数の割合(元素組成比)は、リチウムが20at%以上30at%以下の範囲であるものとしてもよい。また、この元素組成比は、窒素が0.5at%以上2at%以下の範囲であるものとしてもよい。更に、この元素組成比は、フッ素が2at%以上4at%以下の範囲であるものとしてもよい。更にまた、この元素組成比は、硫黄が1.5at%以上3.5at%以下の範囲であるものとしてもよい。そして、この元素組成比は、リンが0.5at%以下の範囲にあるものとしてもよい。この元素組成比において、例えば、窒素が0.8at%以上であることがより好ましく、1.0at%以上としてもよい。また、窒素が1.8at%以下であることがより好ましく、1.66at%以下としてもよい。更に、この元素組成比において、フッ素が2.1at%以上であることがより好ましく、2.2at%以上であるものとしてもよい。また、フッ素が3.8at%以下であることが好ましく、3.0at%以下であるものとしてもよい。更にまた、この元素組成比において、硫黄が1.6at%以上であることがより好ましく、1.7at%以上としてもよい。また、硫黄が3.2at%以下であることがより好ましく、3.0at%以下としてもよい。窒素やフッ素、硫黄がこのような範囲で化合物層に含まれると、高温保存特性や充放電サイクル特性を向上することができる。また、この元素組成比において、リンが0.2at%以下であることがより好ましく、0.1at%以下であることが更に好ましい。なお、この被膜の元素組成比は、Li、C、O、N、F及びSを主成分とする。
【0031】
負極は、電極活物質としての上述した層状構造体と、結着材と、導電材とを含む負極合材が集電体に形成されているものとしてもよい。負極に用いる導電材、結着材、溶剤、集電体は、例えば、正極で例示したものなどを適宜用いることができる。この負極は、負極活物質をより多く含むことが好ましく、負極合材全体のうち負極活物質が65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上としてもよい。また、負極活物質は、85質量%以下や75質量%以下の範囲としてもよい。負極活物質を85質量%以下の範囲で含むものでは、導電材や結着材の量が少なくなり過ぎないため、導電材や結着材の機能を十分に発揮できる。
【0032】
イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩は、例えば、キャリアをリチウムイオンとした場合、リチウムのイミド塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)であるものとする。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。この濃度は、1.0mol/L以上であることがより好ましく、1.1mol/L以上であることが更に好ましく、1.5mol/L以上であるものとしてもよい。また、この濃度は、3.0mol/L以下であることがより好ましく、2mol/L以下であるものとしてもよい。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。
【0033】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0034】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図2は、蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この蓄電デバイス20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。また、この負極23は、上述した芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を負極活物質として有する。
【0035】
以上詳述した蓄電デバイスでは、層状構造体を負極活物質に用いたものにおいて、高温保存後の充放電特性をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層状構造体では、一般的な負極活物質である黒鉛に比して充放電の電位が高いため、黒鉛と同様の被膜は形成されなかった。一方、特定の添加剤などを非水系電解液へ添加すると、黒鉛に比して高い電位でも電解液に含まれる成分が分解され、化合物層が形成されうる。しかしながら、その化合物層によっても高温保存後の充放電特性を向上することは困難であった。そして、様々な検討の結果、芳香族ジカルボン酸アニオンを含む層状構造体である電極活物質の表面に窒素やフッ素、硫黄を含む化合物層が被膜として形成されると、例えば、60℃などの高温保存後における充放電特性が向上することが明らかとなったのである。この理由は、例えば、電極活物質の初回リチウム吸蔵時に、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの分解によって、電極表面に被膜が形成して界面が安定化されるため、更なる電解液等の副反応が抑制されるものと推察される。
【0036】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、蓄電デバイスとして説明したが、特にこれに限定されず、蓄電デバイス用の電極としてもよい。この電極は、芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を電極活物質として含み、表面を硬X線光電子分光で測定したときに、窒素の1s軌道の光電子スペクトルが396eV以上403eV以下の範囲、フッ素の1s軌道の光電子スペクトルが683eV以上687eV以下及び687eV以上690eV以下の範囲、及び硫黄の1s軌道の光電子スペクトルが2475eV以上2480eV以下の範囲に存在するものとしてもよい。この電極を蓄電デバイスに用いれば、上述した蓄電デバイスと同様の効果を奏することができる。
【0038】
上述した実施形態では、層上構造体を噴霧乾燥法によって作製するものとして説明したが、特にこれに限定されず、例えば、溶液混合法で合成するものとしてもよい。溶液混合法では、芳香族ジカルボン酸と、水酸化アルカリとを溶媒中で加熱撹拌することによって層状構造体を得ることができる。このような層状構造体の表面に上述した化合物層が形成されているものとすればよい。
【実施例】
【0039】
以下には、本開示の蓄電デバイスを具体的に作製した例について説明する。層状構造体を合成し、電極及びイオン伝導媒体を作製し、蓄電デバイスを評価した例を実施例として説明する。
【0040】
(負極活物質:4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成)
噴霧乾燥法により層状構造体を作製した。4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムの合成には、出発原料として4,4’-ビフェニルジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。0.44mol/Lとなるように水に水酸化リチウムを加え撹拌し、水溶液を調製した。そして、4,4’-ビフェニルジカルボン酸のモル数A(mol)に対する水酸化リチウムのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.2となるように、すなわち、4,4’-ビフェニルジカルボン酸が0.20mol/Lとなるように水溶液を調製した。調製した水溶液を用いてスプレードライヤー(Mini Spray Dryer B-290、日本ビュッヒ製)を用いて噴霧乾燥させ、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを析出させた。用いたスプレードライヤーのノズル直径は1.4mm、溶液の噴霧量は0.4L/時間、乾燥温度は150℃で行い、4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを合成した。得られた層状構造体について、走査型電子顕微鏡(日本FEI社製Quanta200FEG)を用い、1000~50000倍の条件で観察したところ、粒径が10μm以下の中空粒子であった。また、内部が露出している粒子を拡大視すると、この負極活物質は、数nmの厚さの層状構造体の剥片の集合を内包して形成される中空球状構造を有していた。また、この負極活物質は、層状構造体の剥片が中心から不規則に外周側へ向かう構造(剥片が外周側から不規則に中心へ向かう構造と同義)を有していた。この中空球状の構造体を解砕した剥片状の層状構造体を用いて電極を作製した。
【0041】
(負極:4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウム電極の作製)
上記手法で作製した4,4’-ビフェニルジカルボン酸ジリチウムを73質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500)を18質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(ダイセル、CMC-1120)を2.7質量%、ポリエチレンオキシド(PEO,分子量200万)を3.6質量%、スチレンブタジエン共重合体(JSR、TRD2001)を2.7質量%、の割合で混合し、分散媒として水を適量添加、分散してスラリーとした。このスラリーを10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの負極活物質が2.5mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の長方形の電極を準備した。
【0042】
(正極の作製)
正極活物質として活性炭(キャタラー、EXC-11G)を90.0質量%、粒子状炭素導電材としてデンカブラック(デンカ)を4.0質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(ダイセル、CMC-2200)を1.0質量%、スチレンブタジエン共重合体(JSR、TRD102A)を5.0質量%、の割合で混合し、分散媒として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリーを10μm厚のアルミニウム箔集電体に、単位体積あたりの正極活物質が4.0mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空乾燥して塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の長方形の電極を準備した。
【0043】
(イオン伝導媒体の調製)
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、支持電解質のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を1.1mol/Lになるように添加してイオン伝導媒体を調製した。
【0044】
(負極の調整:プレドープ)
上述した負極を作用極とし、リチウム金属箔を対極として、両電極の間にイオン伝導媒体を含浸させたセパレータを挟んで二極式セルを作製した。この二極式セルを用いて、20℃の温度環境下、電圧範囲0.5~1.5V(vs.Li/Li+)、電流値0.5mA(C/10相当)で充放電を行うことにより、負極の容量確認を行い、負極にSOC75%に相当するリチウムを吸蔵させた。
【0045】
[実施例1の蓄電デバイス]
上述した正極と、プレドープした負極との間に、上記イオン伝導媒体を含侵させたセパレータを挟んで非対称型のキャパシタを作製し、これを実施例1とした。
【0046】
[実施例2,3の蓄電デバイス]
イオン伝導媒体のLiFSIの濃度を1.5mol/Lとした以外は、実施例1と同様に作製したものを実施例2の蓄電デバイスとした。また、イオン伝導媒体のLiFSIの濃度を2.0mol/Lとした以外は、実施例1と同様に作製したものを実施例3の蓄電デバイスとした。
【0047】
[比較例1の蓄電デバイス]
イオン伝導媒体に支持塩としてLiPF6を1.1mol/Lとした以外は、実施例1と同様に作製したものを比較例1の蓄電デバイスとした。
【0048】
(蓄電デバイスの評価)
上記作製したキャパシタを用いて、充放電サイクル試験を行った。作製したキャパシタを用い、20℃の温度環境下、電圧範囲1.5~3.1V(vs.Li/Li+)、電流値1.5mA(1C相当)の充放電を、5サイクル繰り返すコンディショニング処理を行った。
【0049】
(高温保存試験)
作製したキャパシタに対し、高温保存試験を行った。試験環境温度を60℃に設定し、作製したキャパシタを電流値1.5mA(1C相当)、Li基準電位で3.1Vまで充電したのち、電流を流さない状態で試験温度環境(60℃)で放置した。所定の高温保存時間を経過すると、試験環境温度を20℃に設定し、Li基準電位での電圧範囲を1.5V~3.1Vとし、電流値1.5mA(1C相当)で定電流充放電試験を実施した。得られた放電曲線から、高温保存後の容量、容量維持率、抵抗を算出した。なお、高温保存試験における容量維持率(%)は、初期容量Q0(mAh/g)と、高温保存後の容量Qp(mAh/g)とを用い、Qp/Q0×100の式から算出した。また、抵抗は充電開始1秒後の電圧変化を電流値で除算して求めた。高温保存後の容量を求める高温保存時間は、50h、100h、200h、300h、400hとした。
【0050】
(充放電サイクル試験)
作製したキャパシタを用いて、20℃の温度環境下、電圧範囲1.5~3.1V(vs.Li/Li+)、電流値10mA(10C相当)の充放電を、1000サイクル繰り返し、初回の放電容量Q1と1000サイクル後の放電容量Q1000を算出した。そして、Q1000×100/Q1の式で表される容量維持率を算出した。
【0051】
(負極の解析)
上記コンディショニング処理を行った負極に対して硬X線光電子分光スペクトル分析を行い、負極活物質上に形成された被膜成分を検出した。負極は、コンディショニング処理後に蓄電デバイスを分解して取り出し、この負極に対して、ジメチルカーボネートで洗浄し、無水アセトニトリルで洗浄、乾燥させる処理を3回繰り返した。分析条件は、光源をSPring-8 BL16XU(サンビーム)とし、測定法をHAXPESとし、入射X線エネルギーを7.947keV、Take Off angleを85°、X線照射面積を52×380μmとした。測定で得られたLiの1s軌道、Cの1s軌道、Nの1s軌道、Oの1s軌道、Fの1s軌道、Pの1s軌道、及びSの1s軌道の各ピークが現れた結合エネルギー(eV)の範囲を、表1にまとめて示す。
【0052】
【0053】
(結果と考察)
図3は、実施例1~3、比較例1の高温保存時間に対する容量維持率の関係図である。
図4は、実施例1~3、比較例1の20℃充放電サイクル数と容量維持率の関係図である。
図5は、実施例1~3、比較例1の負極におけるLiの1s軌道の硬X線光電子分光スペクトルである。
図6は、実施例1~3、比較例1の負極におけるCの1s軌道の硬X線光電子分光スペクトルである。
図7は、実施例1~3、比較例1の負極におけるFの1s軌道の硬X線光電子分光スペクトルである。
図8は、実施例1~3、比較例1の負極におけるOの1s軌道の硬X線光電子分光スペクトルである。
図9は、実施例1~3の負極におけるN及びSの1s軌道の硬X線光電子分光スペクトルである。また、表2に、電解液の組成、硬X線光電子分光での元素組成比(at%)、60℃高温保存後の容量維持率、20℃での1000サイクルの容量維持率(%)をまとめて示した。
【0054】
図3、4に示すように、比較例1に比して、実施例1~3では、高温保存特性およびサイクル特性が向上した。また、
図5~9および表1~2に示すように、高温保存特性およびサイクル特性と負極上の被膜組成の関係は、以下のように推察された。各元素の光電子スペクトルにおいて、表1の実施例1~3に示す結合エネルギーの範囲内にピークが存在するとき、高温保存特性とサイクル特性が向上するものと推察された。具体的には、比較例1では、NやSのピークは見られないが、実施例1~3では、窒素の1s軌道の光電子スペクトルが396eV以上403eV以下の範囲、及び硫黄の1s軌道の光電子スペクトルが2475eV以上2480eV以下の範囲に存在する、負極に被膜が形成されていることがわかった。また、実施例1~3では、Cの1s軌道の光電子スペクトルが286eV以上288eV以下の範囲に存在し、Fの1s軌道の光電子スペクトルが683eV以上687eV以下の範囲に存在する被膜が負極上に形成されていることがわかった。また、特に実施例3で顕著であるが、
図7Aに示すように、F-SO
2の光電子スペクトルが687eV以上689eV以下の範囲に存在した。更に、実施例1~3では、Pの光電子スペクトルは得られなかった。即ち、実施例1~3では、LiFSIを支持塩として含むことによって、初期の充放電において添加剤や電解液の成分が分解し、NやF、Sなどを含む被膜が負極活物質上に形成されることがわかった。そして、このような被膜が形成されると、負極活物質の初期リチウム吸蔵時に界面を安定化させ、更なる電解液の分解を抑制し、高温保存特性や充放電サイクル特性が向上するものと推察された。
【0055】
また、表2に示すように、被膜中の原子数の割合が、窒素では0.5at%以上2at%以下の範囲、フッ素が2at%以上4at%以下の範囲、及び硫黄が1.5at%以上3.5at%以下の範囲にあるときに、高温保存特性や充放電サイクル特性の向上が得られることがわかった。また、負極活物質上に形成された、N、F及びSなどを含む化合物層は、その厚さが10nmであった。この厚さでは、表面の化合物層がLiの吸蔵放出の際の抵抗にはなりにくいものと推察された。
【0056】
【0057】
本開示は、上記の実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示は、電池産業の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
20 蓄電デバイス、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。