(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】高濃度鉄系凝集剤とその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 21/01 20060101AFI20241205BHJP
C01G 49/14 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B01D21/01 102
C01G49/14
(21)【出願番号】P 2019179191
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-06-23
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000227250
【氏名又は名称】日鉄鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桂 洋介
(72)【発明者】
【氏名】伴 正寛
(72)【発明者】
【氏名】戸嶋 達郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 正貴
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】金 公彦
【審判官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-8837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/01
C01G 49/14
C02F 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の条件を満たす硫酸第一鉄と硫酸を含む原料液を、触媒として、硝酸又は亜硝酸塩を密閉容器中に加えた後、密閉容器中で高温高圧条件下で反応させることからなり、
全鉄と硫酸イオンのモル比(SO
4
2-/T-Fe)が1.2以上
、
硫酸イオンの重量濃度を[SO
4
2-]としたときに、[SO
4
2-]が35重量%以下
、
原料中の全鉄濃度が13.5~16重量%、
前記高温高圧の反応条件が、温度100℃以上、圧力0.3MPa以上であるポリ硫酸第二鉄溶液を含有する鉄系凝集剤の製造方法。
【請求項2】
硫酸イオンの重量濃度を[SO
4
2-
]としたときに、[SO
4
2-
]が28重量%以上である請求項1に記載の鉄系凝集剤の製造方法。
【請求項3】
全鉄濃度が13
.5~16重量%の高濃度ポリ硫酸第二鉄溶液であり、
全鉄と硫酸イオンのモル比(SO
4
2-/T-Fe)が1.2以上
硫酸イオンの重量濃度を[SO
4
2-]としたときに、[SO
4
2-]が35重量%以下である鉄系凝集剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理に使用される高濃度の鉄系凝集剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件特許出願人は、独自に開発した鉄系無機高分子凝集剤「ポリテツ」(登録商標)を中心に排水処理薬剤の販売を行っており、これに関するいくつかの特許を有する。
これらの特許のうち、特許文献1には、鉄系原料である硫酸第一鉄(FeSO4)溶液に対して触媒として亜硝酸ナトリウム及び酸化剤を添加して、常温常圧で約10時間程度の時間をかけて酸化反応を進行させ、ポリ硫酸第二鉄(〔Fe2(OH)n(SO4)3-n/2〕m但し0<n≦2、mは自然数)溶液を得る方法が記載されている。
しかし、この方法は反応に長時間を要するので、何らかの方法により反応時間の短縮化が求められていた。
【0003】
また、特許文献2に記載された鉄系無機凝集剤の製造方法は、鉄系原料としてマグネタイト(Fe3O4)を使用し、硫酸イオンと鉄イオンのモル比を調整した後に、密閉容器中で120~180℃の温度で反応させる方法である。この方法は高温高圧下で反応を進めることにより反応時間の短縮化を目指す製造方法であるが、それでも0.8~1.5時間の反応時間が必要であった。
【0004】
特許文献3には、鉄系原料である三酸化二鉄(Fe2O3)を過剰の硫酸に溶解して硫酸第二鉄(Fe2(SO4)3)を生成し、これを含水三酸化二鉄で部分中和する鉄系凝集剤の製造方法が開示されている。
しかし、この方法は、三酸化二鉄を硫酸に溶解させる工程と生成した硫酸第二鉄を部分中和する工程の2工程からなるので、製造工程が複雑になり効率よくポリ硫酸第二鉄溶液を生成することができないという難点がある。実施例では100℃に加熱した状態で3時間程度保持し、反応を進行させることが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭51-17516号公報
【文献】特許第3379204号公報
【文献】特許第2741137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、従来技術においては、様々な種類の鉄化合物を鉄系原料として選択し、様々な反応形態で反応させてポリ硫酸第二鉄溶液を製造することが試みられているが、遊離硫酸や反応残渣の発生が多い等の問題のほか、実用に耐えるポリ硫酸第二鉄溶液を製造するための製造時間が長くなるという問題が残されていた。
また、詳細は後記するが、鉄系凝集剤においては、全鉄濃度が高いほど凝集剤としての特性が高いとされている。そして、本件特許出願人は、鉄系無機高分子凝集剤「ポリテツ」(商標登録)を製造・販売しており、その全鉄濃度は、概ね11.0~12.5%(「通常品」と称する)である。鉄系無機高分子凝集剤は、その全鉄濃度が高濃度であれば、高い凝集能力と脱水性を有することから、近年では、全鉄濃度が12.5以上のものを「高濃度品」として製造・販売されてきている。
しかしながら、全鉄濃度の高い凝集剤を製造することとしても、上記の製造時間が長くなるとの問題とも関係して、せいぜい全鉄濃度が12.7%程度(13%未満)が限度であり、13.0%以上のポリ硫酸第二鉄溶液を市販品として製造することはできなかった。
【0007】
なお、本発明における濃度は、モル濃度であることを明記する場合以外は全て重量%を意味するものであり、[T-Fe]は全鉄の重量濃度、[SO4
2-]は硫酸イオンの重量濃度を表すものとする。
ここで全鉄濃度とは、原料中に溶解している鉄ばかりでなく、溶解することなく固体(粉体等)として原料液中に存在する鉄を含めた濃度であることを意味する。原料液中に存在する鉄系粉末であっても、ポリ硫酸第二鉄溶液の製造反応に寄与するので、原料液中に溶解していない鉄系成分も鉄の濃度に含めることが合理的である。
しかし、本発明で製造したポリ硫酸第二鉄溶液でも、全鉄濃度で濃度表示をするが、鉄はすべて溶解していることは当然のことである。
【0008】
本発明は、これらの課題を解決すべくなされたもので、従来品と比較して、全鉄濃度が高いポリ硫酸第二鉄溶液を短時間で製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの課題を解決するため、本発明は、次の技術的手段から構成されるものである。
(1)次の条件を満たす硫酸第一鉄と硫酸を含む原料液を密閉容器中において高温高圧条件下で反応させることからなるポリ硫酸第二鉄溶液を含有する鉄系凝集剤の製造方法。
全鉄と硫酸イオンのモル比(SO4
2-/T-Fe)が1.2以上
硫酸イオンの重量濃度を[SO4
2-] としたときに、[SO4
2-]が35重量%以下
(2)触媒として、硝酸又は亜硝酸塩を密閉容器中にさらに加えることを特徴とする(1)の鉄系凝集剤の製造方法。
(3)高温高圧の反応条件が、温度100℃以上、圧力0.3MPa以上であることを特徴とする(1)又は(2)の鉄系凝集剤の製造方法。
(4)全鉄濃度が13~16重量%の高濃度ポリ硫酸第二鉄溶液である鉄系凝集剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超高濃度鉄系凝集剤は、本発明の出願人が市販している高濃度の鉄系凝集剤に比較しても高濃度である点に特徴があり、高い凝集能力と脱水性を有している。また、通常品に比較して含有水分が少ないことから、製品輸送コストを低減することができる。
また、本発明の鉄系凝集剤の製造方法によれば、従来の方法では10時間以上の時間を要していた製造時間を大幅に短縮することができ、鉄系凝集剤の効率的な製造を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】高温高圧反応でポリ硫酸第二鉄の製造が可能な領域
【
図2】殿物が発生したサンプルのろ過後の濃度シフト
【
図3】殿物が発生しなかったサンプルの濃縮後の濃度シフト
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、本発明に係る鉄系凝集剤の製造方法の技術的特徴について説明する前に、まず、無機系凝集剤について説明する。
一般に、下水汚泥処理においては、汚泥中の懸濁粒子やコロイド状粒子を凝集剤で凝集させて脱水処理して固液分離することが行われている。下水汚泥中の懸濁粒子やコロイド状粒子は、その表面が通常は負に帯電しており、表面電荷による反発力と水和により安定状態にある。凝集剤はこれらの粒子表面に吸着して表面電荷を中和し、粒子間の反発力を弱めることにより凝集させる作用を持つ薬剤である。
【0013】
鉄系凝集剤は代表的な無機系凝集剤で、正に帯電した鉄イオンが懸濁粒子やコロイド状粒子等の懸濁物質の表面の負の電荷を中和して凝集作用を行っている。このため、鉄系凝集剤は鉄イオンが存在すれば必ず凝集作用を有するが、鉄イオン濃度が高ければ懸濁物質の凝集能力が高まるため、凝集剤の添加量は少なくてすむことになる。
また、凝集剤中の鉄イオンが安定的に存在するためには、ある程度の量の負イオンが存在しなければならない。鉄系凝集剤の場合には、通常は硫酸イオンがこの役割を担っている。負イオンが鉄イオン量と適切なモル比の関係にあれば鉄系凝集剤は安定するが、負イオン量が過剰な場合や不足する場合には不安定になり、結晶等として析出してしまう。
【0014】
また、このような鉄系凝集剤を用いて下水汚泥の処理を行った場合、鉄イオンは懸濁粒子やコロイド状粒子表面に吸着されて固形分として分離回収されるが、硫酸イオンは被処理水中に残留してしまう。
このため、被処理水は強度の酸性となるので、これを河川に放流するためには多量の中和剤で中和する必要があり、これが下水汚泥処理のコストを上げる要因の一つであるといわれている。すなわち、鉄系凝集剤に求められる特徴として、凝集剤中に含まれる全鉄濃度([T-Fe])が高く、硫酸イオン濃度([SO4
2-])が低いことが求められていた。
【0015】
硫酸第一鉄を原料とするポリ硫酸第二鉄溶液の製造においては、次の化学反応が進行していると考えられている。
m[2FeSO4+(1-n/2)H2SO4+1/2O2+(n-1)H2O]
→ 〔Fe2(OH)n(SO4)3-n/2 〕m
但し0<n≦2、mは自然数
本発明は、上記したポリ硫酸第二鉄溶液からなる鉄系凝集剤について、[T-Fe]が高い溶液を短時間で形成する方法及びこれにより製造された鉄系凝集剤を提供するものである。
【0016】
本発明においては、固体原料として硫酸第一鉄(FeSO4)を用い、高温高圧条件下で酸化反応を行なうにあたり、投入する原料液の全鉄濃度と硫酸イオン濃度との関係を特定の範囲のものに設定するものである。本発明は、全鉄と硫酸イオンのモル比(SO4
2-/T-Fe)が特定値以上で、硫酸イオン濃度[SO4
2-] が特定値以下のものとすることにより、従来技術からは予測のできない短時間で反応を終了することができ、さらに、製造されたポリ硫酸第二鉄溶液は従来技術では製造できない超高濃度の全鉄濃度([T-Fe])のものを製造できる、という格別に顕著な効果を達成するものである。
【0017】
すなわち、本発明においては、次の条件を満たす硫酸第一鉄と硫酸を含む原料液を高温高圧条件下で反応させることを特徴とする。
全鉄と硫酸イオンのモル比(SO4
2-/T-Fe)が1.2以上
硫酸イオンの重量濃度を[SO4
2-] としたときに、[SO4
2-]が35重量%以下
硫酸第一鉄の全鉄濃度と硫酸イオン濃度とがこのような関係にあるとき、殿物を発生させることなく、短時間で超高濃度のポリ硫酸第二鉄溶液を得ることができることは、本発明者らにより見出された新たな知見である。
【0018】
(高温高圧反応)
特許文献1に記載された方法は、本発明者らが実施している従来の製造方法である。この方法では、反応は常温常圧下で固相、液相、気相の三相が相互に関係しあって反応が進行するものと考えられる。なぜなら、反応を進行している間、NOx由来の黄褐色気体の発生やNOx臭が感得されたからである。
しかし、本発明の方法では、反応終了後にオートクレーブを開放してもNOx臭が感得されなかった。このため、本発明の高温高圧反応では、固体原料であるFeSO4・7H2Oが硫酸液中に溶解して酸化反応が進行するという固相と液相の関係した反応が進行していると推測される。
そうすると、高温条件下の反応であることにより固体原料であるFeSO4・7H2Oの溶解が進行しやすくなるし、高圧条件下の反応であることにより酸素分圧が上昇して液相中の溶存酸素量が増大し、これにより溶存酸素が亜硫酸イオンNO2-やFe2+の酸化に直接寄与し、鉄イオンの酸化反応が飛躍的に促進すると考えられる。
【0019】
(反応温度と圧力)
容器内の温度は100~150℃の範囲に調整することが必要である。
反応温度が100℃に満たないと硫酸第一鉄の酸化反応が十分に進行しない。また、150℃を超えると黄色の殿物が残存することが確認されており、この殿物はX線分析によりFe(OH)SO4であることが判明している。
具体的な実験データは省略するが、本発明者らは反応圧力が高いほど反応は効果的に進行することを確認している。このことは、上記した高温高圧反応の反応機構を考慮すれば当然のことといえる。
したがって、本発明の反応圧力は、製造コスト等を考慮して現実的な条件を設定すればよく、反応圧力0.3MPa以上であればよい。
【0020】
(触媒)
前記したポリ硫酸第二鉄溶液の生成反応を促進するために、触媒を使用することが好ましい。反応を促進するために好ましい触媒としては、硝酸、亜硝酸塩が挙げられ、亜硝酸塩としては亜硝酸のナトリウム塩、カリウム塩等がある。反応を促進する機能やコストの面からは、硝酸が好ましい。
[実験1]
【0021】
本発明の発明者らは、高温高圧の反応条件として、反応温度を110℃、反応圧力を0.30MPa、反応時間を10分と設定して、硫酸第一鉄及び硫酸を含む原料液を種々の濃度となるように調整した。これに触媒として硝酸を添加して高温高圧反応をおこなった。そして、反応時間経過後に殿物が発生するか否かを検討した。
[実験2]
【0022】
また、高温高圧の反応条件として、反応温度を120℃、反応圧力を10.00MPa、反応時間を10分と設定して、硫酸第一鉄及び硫酸を含む原料液を種々の濃度となるように調整した。これに触媒として硝酸を添加して高温高圧反応をおこなった。そして、反応時間経過後に殿物が発生するか否かを検討した。
【0023】
殿物が発生するか否かの実験結果を、表1及び表2にまとめた。
実験1の反応温度110℃、反応圧力0.30MPaの条件で行った場合と、実験2の120℃、10.00MPaで行った場合とで、殿物の発生に関して全く同じ結果であることが判明した。すなわち、表1と表2の結果は、実験1と実験2に共通するものである。
表1で示す全鉄濃度[T-Fe]と全硫酸濃度[SO4
2-]の場合には、殿物が形成されずにポリ硫酸第二鉄溶液が形成されたもので、本発明の実施例である。また、表2で示す場合には殿物の発生が確認されたもので、本発明の比較例である。
【0024】
【表1】
【表2】
(特定領域)
これらの結果をまとめたものを
図1に示す。図中○印で占められた領域は、殿物が形成されずにポリ硫酸第二鉄溶液が形成された領域である。これは、本発明で規定する領域で、以下では「特定領域」という。この特定領域に含まれる白○印が示す[T-Fe]、[SO
4
2-] が本発明の実施例の原料組成である。この組成物を高温高圧条件下で反応させることにより、ポリ硫酸第二鉄の赤褐色の溶液を得ることができた。
一方、特定領域の外側にある▲印が示す原料組成を用いて、高温高圧下で反応を行なわせたものが本発明の比較例にあたる。これらの組成物を用いた場合には、いずれも殿物の発生が確認されており、全鉄と硫酸イオンのモル比(SO
4
2-/T-Fe)が1.2より低い領域のサンプルでは、殿物はハイドロニウムジャロサイトであることが確認されている。
【0025】
本発明者らは、この特定領域を次の2つの式から特定することとした。
まず、この領域の上限は、硫酸イオンの重量濃度[SO4
2-]が35重量%以下と設定することができる。
次に、この領域の下限は、右肩上がりの斜めの直線で規定できる。この斜めの直線は、全鉄と硫酸イオンのモル比(SO4
2-/T-Fe)が1.2以上となる関係を示す直線を、縦軸と横軸が硫酸イオンの重量濃度と全鉄の重量濃度である図に換算して書き込んだものである。
本発明で特定する上記の[T-Fe]と[SO4
2-]の原料組成に関する特定領域は、高温高圧条件下でポリ硫酸第二鉄溶液の生成を安定的に行うことができる領域を示している。
【0026】
この特定領域の技術的意味は、次の追加実験1及び2からも確認することができる。
(追加実験1)
図1中で[T-Fe]と[SO
4
2-] の濃度が、それぞれ、14%と28%のサンプル(以下、(14.0:28.0)と標記する) 及び、(15.0:30.0)のサンプルは殿物が発生している。このサンプルについて濾過を行い殿物を除去した後の溶液の濃度を測定したところ、その溶液の組成は、それぞれ(12.8:27.2)、(14.5:29.8)となる。
これは、本発明で規定する領域内の数値である。すなわち、殿物が発生したサンプルであっても、その溶液の部分は本発明で規定する全鉄濃度と全硫酸イオン濃度の特定領域内に含まれる組成であることが解った。
図2にその内容を示す。
【0027】
(追加実験2)
(15.0:32.0)(15.0:34.0)のサンプルは、
図1によれば、いずれも殿物の発生していないサンプルである。これらのサンプルを、(i)乾燥機内で50℃、(ii)実験室内で約20℃、(iii)インキュベータ内で10℃の3つの環境下に保持して1ヵ月後の変化を観察した。その結果、(i)乾燥機内で50℃に保持した(15.0:34.0)のサンプルのみに殿物が観察されるに至った。
【0028】
この原因は次の点にあると考えられる。
乾燥機内で50℃に一ヶ月間保持されたサンプル(15.0:32.0)(15.0:34.0)について
、[T-Fe]と[SO42-] を再度測定したところ、それぞれの測定値は、(16.0:34.0
)(16.0:36.0)であった。
図3にその内容を示す。
乾燥機内で保持されたサンプルは水分が蒸発して濃縮されたが、濃縮があっても本発明
で規定する領域内の[T-Fe]と[SO42-] の濃度関係を有するサンプルでは殿物は検
出されない。しかし、濃縮により両者の濃度関係が上記領域から逸脱してしまったサンプ
ルでは、濃縮の結果殿物が発生
するのである。
このため、(i)の条件下の(15.0:34.0)のサンプルのみに殿物が発生するのである。
【0029】
(反応時間)
特許文献1に記載された従来技術による製造方法は、硫酸第一鉄を常温常圧で酸化する方法で、触媒や酸化剤等を工夫しても、せいぜい全鉄濃度([T-Fe])が12.5%程度の溶液が得られるにすぎず、反応時間は16時間以上にも達する方法であった。
本発明では、高温高圧法を採用することにより、反応時間の大幅な短縮に成功した。
図1に示す実施例では、全鉄濃度が12.5%の高濃度溶液から全鉄濃度が16%にもなる超高濃度溶液まで、全てのサンプルにおいて30分以内で反応を終了している。反応時間は全鉄濃度に依存することは当然のことで、全鉄濃度が12.5%のものは7.5分で反応が終了し、全鉄濃度が16%のものでも30分以内に反応は終了している。なお、反応の終了は、サンプル溶液中の二価鉄濃度を測定することにより判断した。
このような短時間で反応を行なわせることができることは、従来技術では予想のできない著しく顕著な効果である。
【0030】
(超高濃度溶液)
ポリ硫酸第二鉄溶液が超高濃度であるが故の効果を確認するために、次の試料A及び試料Bについて凝集試験を行なった。試料Aは従来技術において16時間以上の時間をかけて製造したものと同じ全鉄濃度を有するサンプルである。一方、試料Bは本発明において製造した全鉄濃度が超高濃度のサンプルである。
【表3】
【0031】
模擬液としてアクリル絵具の色水を被処理液体とし、添加する試料A及び試料Bの全鉄量が同じくなるように試料Bの添加量を減らし、すなわち、鉄イオンによる凝集能力を同じくして、両者の凝集能力を比較した。
凝集試験の条件を表4に示す。
【表4】
【0032】
試料Bは超高濃度であるため、試料Aと同等の凝集能力とする場合には、その添加量を試料Aに比較して32%も減らすことができる。また、試料Bの場合、表1に示されるように[SO4
2-] が低いため、凝集処理後の被処理液のPH低下を抑制することができ、このため、中和のために添加する苛性ソーダの添加量を、試料Aを使用する場合に比較して47%減少することができた。
【0033】
また、フロック形成後の様子を観察すると、超高濃度である試料Bの方がフロックの形成能力が高く、フロックの沈降速度も速かった。このように、試料Bは試料Aと鉄量を同じにしているにもかかわらず、試料Bの方が凝集能力が高い。
その理由として考えられるのは、試料Bの方がよりポリマー化しており、フロックの架橋吸着に有利であることである。このことは、試料Bの超高濃度サンプルの方が試料Aよりも液体の粘度が高いことからも裏付けられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
下水等の廃水処理において利用する凝集剤に関し、凝集性能の高い凝集剤を短時間で製造できるので、排水処理の分野において広く利用することができる。