(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】軸封装置およびこれを備える遠心ポンプ
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20241205BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20241205BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20241205BHJP
F16J 15/28 20060101ALI20241205BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
F16J15/3204 201
F16J15/18 C
F16J15/28
F04D29/08 A
(21)【出願番号】P 2020093516
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】505328085
【氏名又は名称】古河産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】種市 準
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-227793(JP,A)
【文献】特開2000-266116(JP,A)
【文献】特開2016-126833(JP,A)
【文献】実開平01-136772(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16J 15/18
F16J 15/28
F16J 15/3204
F04D 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の周囲を軸封する軸封部を有する機器に用いられて前記機器の一の軸封部でのシール部位が互いに相違する複数のシール部を有する軸封装置であって、
前記機器側のケーシング背面に固定される固定ベースと、
前記固定ベースの背面から軸方向にスライド移動可能に嵌合されて前記機器の一の軸封部と対向配置されるとともに自身内部に前記複数のシール部が固定される支持ベースと、
前記シール部位での摺接部の押圧力とバランスした位置にて前記シール部位での摺接部の軸方向の位置を自身軸方向での
押圧力により保持する円筒コイルバ
ネ、前記固定ベースの後端面に自身基端部が固定されるとともに前記支持ベースの挿通穴に挿通される押圧力調整ボルト、該押圧力調整ボルトに外嵌する前記円筒コイルバネが自身内部に挿通されて前記押圧力調整ボルトの軸方向にスライド移動可能に前記支持ベースの背面に押圧保持される中空円筒状のスライドカバー、前記押圧力調整ボルトの後端側の雄ねじに締めこまれて前記支持ベースの背面に対する前記スライドカバーの軸方向の位置を調整可能な押圧力調整ナットを有する押圧力付与機構
と、を備え、
前記複数のシール部は、前記シール部位での摺接部の前記軸方向での摩耗前における対向距離が互いに異なっており、
前記スライドカバーは、前記スライドカバーを前記支持ベースに接触させることにより前記円筒コイルバネに過度な力が加わる状態を規制し、
前記押圧力付与機構は、前記機器の稼働に伴う前記シール部位の経時的摩耗状態の変化に応じて
、前記シール部位でのシール機能を発揮している状態を、
前記円筒コイルバネの押圧力により、いずれか一のシール部から他のシール部に移行させ
、さらに、前記シール部位の経時的摩耗状態に応じて変化する前記固定ベースと前記支持ベースとの前記軸方向での隙間に応じて前記押圧力調整ナットの締め込み量を変化させることで、前記円筒コイルバネによる押圧力の付与状態を調整可能であることを特徴とする軸封装置。
【請求項2】
前記スライドカバーは、前記押圧力調整ナットが軸方向前方に締め込まれて前記スライドカバーの前側端面が前記支持ベースの背面に当接したときに、前記円筒コイルバネを最大押圧力付与状態に規制するように構成されている請求項1に記載の軸封装置。
【請求項3】
前記押圧力付与機構は、前記複数のシール部の、前記シール部位でのシール機能を発揮している状態が、少なくとも一つのシール部において常に発揮されているように、いずれか一のシール部から他のシール部に移行させる請求項1
または2に記載の軸封装置。
【請求項4】
前記複数のシール部は、前記回転軸と一体で回転する回転体と、前記回転軸を囲繞するように固定された非回転体と、を備え、
前記回転体および前記非回転体相互は、軸方向で対向して設けられたそれぞれの摺接部の組によって前記シール部位が構成されており、
前記回転体および前記非回転体のいずれか一方の摺接部が摩耗側摺接部として設けられ、いずれか他方の摺接部が非摩耗側摺接部として設けられている請求項1に記載の軸封装置。
【請求項5】
前記複数のシール部は、前記回転体の摺接部が非摩耗側摺接部として設けられ、前記非回転体の摺接部が摩耗側摺接部として設けられ、
前記非回転体は、前記回転体の摺接部に軸方向で対向する非摩耗側摺接部として、径方向に互いに離隔して前記回転軸と同軸に配置された円環状をなす複数のシール本体を有して構成されている請求項4に記載の軸封装置。
【請求項6】
前記複数のシール本体と前記回転体との相互の摺接部の前記軸方向での摩耗前における対向距離を異ならせることにより、前記シール部位でのシール機能を発揮している状態が、いずれか一のシール部から他のシール部に移行するように構成されている請求項5に記載の軸封装置。
【請求項7】
前記回転体の摺接部は、前記回転軸の軸線と直交する一または複数の平面から構成されている請求項4~6のいずれか一項に記載の軸封装置。
【請求項8】
前記回転体の摺接部は、自身軸線が前記回転軸と同軸に形成された一または複数の円錐面から構成されている請求項4~6のいずれか一項に記載の軸封装置。
【請求項9】
ポンプの回転軸の周囲を軸封する軸封装置として、請求項1~8のいずれか一項に記載の軸封装置を備えることを特徴とする遠心ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸封装置およびこれを備える遠心ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプの軸封装置としてメカニカルシールが使用されている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1記載の技術では、回転軸の外周を囲繞するハウジング内の空間に、静止環が固定されるとともに、静止環に対して軸方向に対向するように回転環が取り付けられ、静止環と回転環とは、互いの対向面同士が摺接している。
回転軸の外周にはコイルスプリングが取り付けられ、コイルスプリングが回転環を静止環の方向に押圧付勢している。かかる構成のポンプの軸封装置では、静止環と回転環との間の摺接面によって、ポンプの被送流体がケーシング外に漏れ出すことを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1記載の技術では、ポンプの被送流体がスラリである場合には、軸封装置のハウジング内に浸入したスラリ中の成分がコイルスプリングに固着して作動不良が発生するという問題がある。
特に、高濃度の固形物を液体中に含むスラリを移送するポンプは、軸封装置のシール部が、スラリとの接触によって摩耗・腐食するため部品交換の頻度が高い。そのため、この種の遠心ポンプでは、軸封装置の分解・組立作業の時間短縮がメンテナンス性に大きく影響する。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、メンテナンス頻度を低減し得る軸封装置およびこれを備える遠心ポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る軸封装置は、回転軸の周囲を軸封する軸封部を有する機器に用いられる軸封装置であって、前記機器の一の軸封部でのシール部位が互いに相違する複数のシール部を有し、前記複数のシール部は、前記機器の稼働に伴う前記シール部位の経時的摩耗状態の変化に応じて、前記シール部位でのシール機能を発揮している状態が、いずれか一のシール部から他のシール部に移行するように構成されていることを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る遠心ポンプは、ポンプの回転軸の周囲を軸封する軸封装置として、本発明の一態様に係る軸封装置を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様に係る軸封装置によれば、機器の一の軸封部でのシール部位が互いに相違する複数のシール部を有し、複数のシール部は、機器の稼働に伴うシール部位の経時的摩耗状態の変化に応じて、いずれか一のシール部がシール部位に対するシール機能を発揮している状態から、シール部位に対するシール機能を発揮している状態が他のシール部に移行する。
これにより、本発明の一態様に係る軸封装置によれば、スラリとの接触によっていずれか一のシール部が摩耗・腐食した場合には、機器の稼働に伴うシール部位の経時的摩耗状態の変化に応じ、シール機能を発揮している状態を他のシール部に移行させることができる。そのため、軸封装置の分解・組立作業のメンテナンス頻度を低減できる。
【発明の効果】
【0007】
上述のように、本発明によれば、軸封装置のメンテナンス頻度を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一態様に係る遠心ポンプの一実施形態の説明図であり、同図では、軸線に沿った断面を示している。
【
図2】本発明の一態様に係る軸封装置の第一実施形態の要部拡大図である。
【
図3】本発明の一態様に係る軸封装置の第二実施形態の説明図である。
【
図4】本発明の一態様に係る軸封装置の第三実施形態の説明図である。
【
図5】本発明の一態様に係る軸封装置の第四実施形態の説明図である。
【
図6】従来の軸封装置を備える遠心ポンプの一実施例の説明図であり、同図では、軸線に沿った断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0010】
本実施形態の遠心ポンプは、
図1に示すように、前面が吸込側1inとされたケーシング1と、ケーシング1内の空間に片持ち支持されたインペラ3と、インペラ3を回転させるシャフト2と、シャフト2を水平に且つ回転自在に支持するハウジング4と、を備える。
ケーシング1は、シャフト2と直交する面に沿って略中央で二分割可能に構成され、上部中央が吐出側1outとされている。本実施形態のケーシング1は、その内周面の接液部を覆うように、耐摩耗に優れたゴム製のライナ5が装着される。
シャフト2は、ハウジング4の後端から後方に突設され、この突設部が不図示のモータの出力軸に駆動力を伝達可能に連結される。インペラ3は、自身の前面に複数枚の羽根3aが設けられるとともに、背面に複数枚の裏羽根3bが設けられている。
【0011】
ケーシング1には、その背面側に軸封装置50が設けられている。本実施形態の軸封装置50は、ケーシング1の背面の前側画成空間50aにエキスペラ7が配置されている。
更に、本実施形態の軸封装置50は、このエキスペラ7の背面側に、シャフト2に装着されたスリーブ6の外周部分を囲繞するように支持ベース51が設けられることで、この支持ベース51の内部に、後側画成空間50bが設けられている。
【0012】
本実施形態の後側画成空間50bには、径方向外側に設けられた一次シール部10と、一次シール部10の径方向内側に設けられた二次シール部20と、二次シール部20の径方向内側に設けられた三次シール部30と、が設けられている。
詳しくは、
図2に要部を拡大図示するように、本実施形態の軸封装置50は、ケーシング1の背面に固定される固定ベース53と、固定ベース53に軸方向で対向して配置される、支持ベース51およびシールベース52と、摺接盤55と、を備える。
【0013】
支持ベース51の内面には、シールベース52が固定されている。シールベース52には、各シール部10、20、30それぞれに、エラストマ等を材料とする円環状のシール本体10t、20t、30tが摩耗側摺接部として配設されている。
各シール本体10t、20t、30tは、シャフト2と同軸に配置され、軸方向前側に張り出すリップ先端が、対向する円盤状の摺接盤55の背面に摺接している。本実施形態の例では、摺接盤55の摺接部は、非摩耗側摺接部として機能する。
【0014】
より詳しくは、支持ベース51の後端とスリーブ6との間は、端部シール35によりシールされている。本実施形態の端部シール35は、各シール部10、20、30よりも後方の位置に装着され、その基端部が支持ベース51に固定されるとともに、先端のリップ部がスリーブ6の外周面に摺接するように配置される。
【0015】
摺接盤55は、シャフト2のスリーブ6と固定スリーブ56との間に挟持されてシャフト2と一体回転するように固定される。シールベース52は、支持ベース51の内側に配置され摺接盤55と対向する位置に固定され、各シール部10、20、30を所定位置に支持する。
各シール部10、20、30は、先端にリップ部が設けられたシール本体10t、20t、30tと、各シール本体10t、20t、30tをシールベース52に固定する固定板10k、20k、30kと、を有する。なお、各シール部10、20、30は、配置位置が異なる以外、摺動部自体の基本構成は同様なので、以下、共通する構成については併記するかたちで同時に説明する。
【0016】
一次シール部10は、シール本体10t先端のリップ部と摺接盤55との軸方向での摩耗前における対向距離が最も近い位置に配置される。二次シール部20は、シール本体20t先端のリップ部と摺接盤55との軸方向での摩耗前における対向距離が一次シール部10に次いで近い位置に配置される。三次シール部30は、シール本体30t先端のリップ部と摺接盤55との軸方向での摩耗前における対向距離が最も遠い位置に配置される。
支持ベース51の外周端近傍には、押圧力付与機構60が設けられている。押圧力付与機構60は、中空円筒状のスライドカバー61と、スライドカバー61の内部に同軸に収容される円筒コイルバネ62と、押圧力調整ボルト63と、押圧力調整ナット64と、を備える。
【0017】
押圧力調整ボルト63は、支持ベース51の挿通穴にスライド移動可能に挿入される。さらに、押圧力調整ボルト63は、自身先端の雄ねじが、固定ベース53の後端面に形成された雌ねじに螺合されることで固定される。
スライドカバー61は、内部に円筒コイルバネ62を収容した状態で押圧力調整ボルト63の後端から挿入される。さらに、押圧力調整ナット64が押圧力調整ボルト63の後端側雄ねじに締めこまれることで軸方向の位置が保持される。
【0018】
押圧力調整ナット64の締め込み量を加減することにより、支持ベース51への軸方向に向けた押圧力が調整可能になっている。同図に示す例では、押圧力調整ボルト63の軸線の上側に示す状態が、押圧力調整ナット64を最も前方まで締めこんだ最大押圧力付与状態を示し、押圧力調整ボルト63の軸線の下側に示す状態が、押圧力調整ナット64を最も後方の位置で締めこんだ最小押圧力付与状態を示している。
【0019】
そして、同図の例では、シャフト2の中心線よりも上側に示す状態は、一次シール部10のシール本体10tと摺接盤55との軸方向での弾圧付勢力が押圧力付与機構60による押圧力とバランスした位置にてシール部位S1がシール機能を発揮している状態を示している。
また、同図の例では、シャフト2の中心線よりも下側に示す状態は、一次シール部10および二次シール部20では、既に各シール本体10t、20tのリップ部が磨滅しており、シール機能を発揮している状態が失われているまたはシール機能をほとんど発揮していない状態であるものの、三次シール部30によって、そのシール本体30tと摺接盤55との軸方向での弾圧付勢力が押圧力付与機構60による押圧力とバランスした位置にてシール部位S3がシール機能を発揮している状態を示している。
【0020】
これにより、本実施形態の例では、各シール部10、20、30は、ゴム弾性を利用したリップ構造による摩耗側摺接部により、シール部位S1、S2、S3に押圧力を加えるシール機構を構成している。
そして、押圧力付与機構60による押圧力とバランスした位置にて、各シール部10、20、30は、機器の一の軸封部に対し、対向する摺接盤55によるシール部位S1、S2、S3でのシール機能を、機器の稼働に伴うシール部位の経時的摩耗状態の変化に応じて、径方向の外側から内側に向けて順に発揮可能になっている。
【0021】
次に、本実施形態の遠心ポンプの動作および作用効果について説明する。
本実施形態の遠心ポンプは、インペラ3を回転させることにより被送流体を昇圧して、ケーシング1の吸込側1inから吐出側1outに被送流体が移送される。
このとき、シャフト2が回転すると、インペラ3と共に、スリーブ6と固定スリーブ56との間に挟持された摺接盤55が一体で回転する。そして、本実施形態の遠心ポンプの軸封装置50は、エキスペラ7の機能に加え、三段のシール部10、20、30により被送流体が軸封装置50から外部へ漏れるのを防止する。
【0022】
特に、各シール部10、20、30のシール本体10t、20t、30tは、遠心ポンプの稼働に伴う経時的摩耗状態の変化に応じて、いずれか一のシール部がシール部位に対するシール機能を発揮している状態から、シール部位に対するシール機能を発揮している状態が他のシール部に移行する。
【0023】
つまり、本実施形態の例では、経時的摩耗状態の変化に応じて各シール部10、20の軸方向への移動により、三段のシール部10、20、30のうち、まず、最も外側に位置するシール部10がそのシール部位S1に対するシール機能を発揮している状態から、遠心ポンプの稼働に伴う経時的摩耗状態の変化に応じて、シール機能を発揮している状態が一段内側のシール部20に移行する。
このとき、複数のシール部10、20、30は、シール部位でのシール機能を発揮している状態が、少なくとも一つのシール部において常に発揮されているように、シール部10から他のシール部20に移行する。
【0024】
次いで、同様にして、シール部20がそのシール部位S2に対するシール機能を発揮している状態から、遠心ポンプの稼働に伴う経時的摩耗状態の変化に応じて、シール機能を発揮している状態が更に一段内側のシール部30に移行する。
このとき、複数のシール部10、20、30は、シール部位でのシール機能を発揮している状態が、少なくとも一つのシール部において常に発揮されているように、シール部20から他のシール部30に移行する。
【0025】
このように、本実施形態の遠心ポンプの軸封装置50は、スラリとの接触によって、複数のシール部10、20、30のいずれか一のシール部が摩耗・腐食した場合に、遠心ポンプの稼働に伴う経時的摩耗状態の変化に応じ、シール部位に対するシール機能を発揮している状態が他のシール部に移行する。そのため、軸封装置50の分解・組立作業のメンテナンス頻度を低減できる。
ここで、従来の遠心ポンプにおいて、例えばスラリーポンプでは、
図6に示す遠心ポンプのように、ケーシング101の背面側の軸封装置130として、ケーシング背面の画成空間131にエキスペラ107が配置され、エキスペラ107の背面側にスタフィングボックス132を有するものがある。
【0026】
スタフィングボックス132は、シャフト102に装着されたスリーブ106の外周部分を囲繞するように形成され、その内面には、エラストマ等を材料とする複数のシール111を有するシール部110が配設される。シール部110の内周側に張り出すシール111のリップ先端はスリーブ106の外周面に摺接している。
エキスペラ107は、シャフト102の回転によって回転し、インペラ103の背面側圧力を低減して、被送流体がスタフィングボックス132のシール部110を通って外部へ漏れるのを防止できる。
【0027】
しかし、同図に示す遠心ポンプにおいては、軸封装置130が、軸方向に直列に配置された「エキスペラ+軸方向多段シール」により構成される。そのため、このような軸方向多段シールであると、複数のシールの摺接が同時に行なわれる。
特に、軸方向に直列に配置された複数のシール部位の経時的摩耗状態の変化がほぼ同時に進行するので、軸封装置130として必要なシール機能を発揮している状態が一時に失われるおそれがあり、複数のシール全体のメンテナンスを一時に要する。また、軸封装置130が軸方向に大型化し、関連機器のレイアウトによっては軸方向の設置スペースを確保することが難しいという問題もある。
【0028】
これに対し、本実施形態の軸封装置50によれば、上述したように、径方向に離隔して設けた三段のシール部10、20、30は、シール部位S1、S2、S3が径方向に離隔配置されるとともに軸方向での摩耗前における対向距離を異ならせることで、機器の一の軸封部での経時的な多段シールが可能である。そのため、例えば、シングル型のシール装置ではシールが困難なスラリ液であっても高い信頼性をもってシール可能としつつ、長期に亘ってメンテナンス頻度を低減できる。
【0029】
また、軸封装置50のメンテナンス頻度を低減できることに加え、軸封装置50を構成する経時的な可動部を観察することにより、分解することなく、シール部の遷移状態を知ることができる。
そのため、シール機能を発揮している状態がいずれのシール部にあるかが簡単に判る上、軸封装置の分解・組立作業の時期の見極めやメンテナンス予定を容易に設定することが可能になる。なお、「経時的な可動部」としては、例えば固定ベース53の後端と支持ベース51前端との対向隙間を例示できる。
さらに、本実施形態の軸封装置によれば、径方向に離隔して設けた三段のシール部10、20、30が軸方向のタンデム配置ではなく、シール部位S1、S2、S3が径方向に配置されるので軸方向に省スペース化を図ることができるという効果もある。
【0030】
以上説明したように、本実施形態の軸封装置によれば、時差式の多段シール構造を採用したので、高い信頼性をもってシール可能としつつも軸封装置のメンテナンス頻度を低減できる。
なお、本発明に係る軸封装置およびこれを備えるポンプは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
【0031】
例えば、上記実施形態では、本発明に係る軸封装置が、遠心ポンプの軸封部に装備された例を示したが、これに限らず、本発明に係る軸封装置は、回転軸の周囲を軸封する軸封部を有する機器において、当該機器の一の軸封部に装備することができる。
また、上記第一実施形態では、摩耗側摺接部として、各シール部10、20、30に、可撓性を有するエラストマ製のシール本体10t、20t、30tを設けた例を示したが、これに限定されない。
【0032】
例えば、
図3に第二実施形態を示すように、各シール部10、20、30の摩耗側摺接部として、耐摩性の高い金属またはセラミックス製のシール本体10s、20s、30sを設けることができる。
なお、第二実施形態では、回転体である摺接盤55の摺接部は、自身軸線がシャフト2と同軸に形成された一の円錐面から構成されている。このような構成であっても、上記第一実施形態同様な作用効果を奏することができる。
【0033】
ここで、第二実施形態の場合、各シール部10、20、30と端部シール35との間にクエンチング室80を設けており、クエンチング室80は、支持ベース51に形成された注水路70から、クエンチング(洗浄注水も合わせることがある)を行えるように構成されている。第二実施形態の構成であれば、各シール部10、20、30と端部シール35との間にクエンチング室80を設け、クエンチング室80は注水路70からクエンチングを行えるので、スラリ液用の軸封装置として優れた構成といえる。
【0034】
また、上記第一実施形態では、回転体である摺接盤55の摺接部は、シャフト2の軸線と直交する一の平面から構成されている円盤である例を示し、さらに、第二実施形態では、回転体である摺接盤55の摺接部は、自身軸線がシャフト2と同軸に形成された一の円錐面から構成されている例を示したが、これに限定されるものではない。
【0035】
つまり、回転体の摺接部は、複数の平面や、複数の円錐面から構成することができる。例えば、
図4に第三実施形態を示すように、回転体である摺接盤55の摺接部は、各シール部10、20について、自身軸線がシャフト2と同軸に形成されて径方向に離隔した複数の円錐面から構成されている。このような構成であれば、各シール部10、20の軸方向の移動量を多く取れるため、機器の稼働に伴うシール部位の経時的摩耗状態の変化に応じた摩耗量の設定が行い易い。
【0036】
なお、第三実施形態においても、各シール部10、20と端部シール35との間にクエンチング室80を設け、クエンチング室80は、シールベース52に形成された注水路70から、クエンチングを行えるように構成されているので、各シール部10、20と端部シール35との間からクエンチングを行える。
また、複数のシール部が、シール部位でのシール機能を発揮している状態が、少なくとも一つのシール部において常に発揮されているように、いずれか一のシール部から他のシール部に移行するように設定し易いという利点がある。
【0037】
また、上記第一ないし第三実施形態では、回転体の側に非摩耗摺接部を設け、非回転体の側に摩耗摺接部が設けられている例を示したが、これに限定されず、回転体の側に摩耗摺接部を設け、非回転体の側に非摩耗摺接部を設けることもできる。また、これらの関係を適宜組み合わせることができる。例えば、回転体および非回転体のいずれか一方に摩耗側摺接部が設けられ、いずれか他方に非摩耗側摺接部が設けられた構成とすることができる。例えば、
図5に第四実施形態を示すように、回転体(摺接盤55)および非回転体(シールベース52)のいずれか一方に摩耗側摺接部が設けられ、いずれか他方に非摩耗側摺接部が設けられた構成とすることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ケーシング
1in 吸込側
1out 吐出側
2 シャフト(回転軸)
3 インペラ
3a 羽根
3b 裏羽根
4 ハウジング
5 ライナ
6 スリーブ
7 エキスペラ
10 一次シール部
20 二次シール部
30 三次シール部
50 軸封装置(軸封部)
70 注水路
80 中間室
101 ケーシング
102 シャフト
103 インペラ
106 スリーブ
107 エキスペラ
110 シール部
111 シール
130 軸封装置
131 画成空間
132 スタフィングボックス