(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】複合粒子材料
(51)【国際特許分類】
C09C 1/40 20060101AFI20241205BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20241205BHJP
C08L 75/02 20060101ALI20241205BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20241205BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C09C1/40
C09C3/10
C08L75/02
C08K3/01
C08L75/04
(21)【出願番号】P 2020161147
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小椋 孝介
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-189505(JP,A)
【文献】特開2015-117260(JP,A)
【文献】特開2002-254456(JP,A)
【文献】特開2013-037206(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110591158(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 75/04
C08L 75/02
C08K 3/01
C09C 1/00-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め熱伝導性粒子
に、樹脂材料
が被覆された複合粒子材料であって、以下の(a)、(b)の条件を充足する
と共に、樹脂材料が、熱伝導性粒子に対し、5~50質量%含み、かつ、複合粒子材料の平均粒子径(Mv)が0.3~100μmであることを特徴とする複合粒子材料。
(a)熱伝導性粒子が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種。
(b)樹脂材料が、ウレタン、ウレア、ウレアウレタンから選ばれる少なくとも1種。
【請求項2】
前記複合粒子の被覆形態が、熱伝導性粒子の表面積の合計で50%以上被覆されていることを特徴とする請求項1記載の複合粒子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた複合粒子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムは、放熱性が高く、耐摩耗性、化学的安定性もありながら汎用性の高い材料のため、各種放熱材料、製品へのコーティング、電子部品、半導体製造装置用の放熱機能を有する部品等としての各用途があり、また、多くの採用例がある。また、これらの材料を用いた熱伝導性複合材料の開発も行われている。
しかしながら、例えば、塗料やコーティング材料、インク等に含まれる場合、保存安定性、つまり、沈降した粒子の分散性が悪くなりやすいという課題があるのが現状であった。
【0003】
一方、樹脂粒子材料と無機物粒子とからなる有機無機複合材料などとしては、例えば、
1)樹脂粒子材料と、前記樹脂粒子材料より粒径が小さく前記樹脂粒子材料の表面に融着する無機物粒子材料とを有する複合粒子材料であって、以下の(a)、(b)、(c)の条件を満たす複合粒子材料。(a)真球度が0.8以上、(b)体積平均粒径が0.1-100μm、(c)前記無機物粒子材料は無機酸化物から形成され表面に融着により生成したOH基を有する(例えば、特許文献1参照)、
2)50℃以上の融点および20μm以下の中心粒径を有する芳香族アミンまたは脂肪族アミンである固形アミンの表面が、2μm以下の中心粒径を有するポリ塩化ビニル、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、カーボン、アルミナ、タルク、酸化亜鉛およびシリカからなる群から選択される少なくとも1種の微粉体で被覆された微紛体コーティングアミンであって、示差走査熱量計により測定される第2吸収ピークにおける熱量が220J/g以下である、微紛体コーティングアミン(例えば、特許文献2参照)、
3)重合性ビニル系モノマーの重合体であるビニル系ポリマーと、無機酸化物及び無機窒化物の少なくとも一方からなる無機粒子とを含む有機無機複合粒子であって、前記無機粒子の熱伝導率が、10W/(m・K)以上であり、前記無機粒子は、重合性官能基を持たない酸性リン酸エステルと、重合性官能基を持つカルボン酸、重合性官能基を持つ酸性リン酸エステル、及び重合性官能基を持つラクトンからなる群より選択される少なくとも1種の重合性化合物とで表面処理されており、前記ビニル系ポリマーには、前記の少なくとも1種の重合性化合物が結合しており、前記無機粒子が有機無機複合粒子表層に1層以上偏在することを特徴とする有機無機複合粒子、放熱シート用又は放熱グリス用の熱伝導性フィラー(例えば、特許文献3参照)、
などが知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~3は、それぞれ樹脂粒子材料等に無機物粒子材料や無機粒子などを被覆、融着等を施した複合材料であり、特許文献1では、スラリーを構成したときに低い粘度と低誘電特性、高密着性を発揮させるものであり、特許文献2では、一液型加熱硬化性組成物の硬化剤成分として用いることで良好な破断強度を得るものであり、特許文献3では、熱伝導性樹脂組成物に柔軟性、軽量性を付与できるものであり、これらは本発明とは目的、技術思想(構成及び作用効果)などが相違するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2018/212279号(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】国際公開2017/077722号(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2018-172574号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、ワニスなどとの相性が良好であり、塗料などのコーティング材料や、インク材料等に用いても沈降することなく、分散性に優れ、保存安定性に優れる熱伝導性を有する複合粒子材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、熱伝導性粒子と、樹脂材料とを有する複合粒子材料であって、特定の熱伝導性粒子と、特定の樹脂材料とから構成することにより、上記目的の複合粒子材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明の複合粒子材料は、熱伝導性粒子と、樹脂材料とを有する複合粒子材料であって、以下の(a)、(b)の条件を充足することを特徴とする複合粒子材料。
(a)熱伝導性粒子が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種。
(b)樹脂材料が、ウレタン、ウレア、ウレアウレタンから選ばれる少なくとも1種。
上記樹脂材料(b)が、熱伝導性粒子(a)に対し、5質量%以上を含んでなることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワニスなどとの相性が良好であり、塗料などのコーティング材料や、インク材料等に用いても沈降することなく、分散性に優れ、保存安定性に優れる熱伝導性を有する複合粒子材料が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)~(c)は本発明の複合粒子材料の各実施形態を示す概略図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述するそれぞれの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0012】
本発明の複合粒子材料は、熱伝導性粒子と、樹脂材料とを有する複合粒子材料であって、以下の(a)、(b)の条件を充足することを特徴とするものである。
(a)熱伝導性粒子が、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種。
(b)樹脂材料が、ウレタン、ウレア、ウレアウレタンから選ばれる少なくとも1種。
【0013】
本発明に用いる(a)成分の熱伝導性粒子は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種(各単独、または、併用)であり、熱伝導率が15W/(m・K)以上のものが好ましく、更に好ましくは、20W/(m・K)以上のものが望ましい。
前記熱伝導粒子の熱伝導率が15W/(m・K)未満である場合、複合粒子材料の熱伝導率が低くなる。
なお、本発明において、熱伝導率は、熱伝導率計(熱伝導率測定装置TCi Max-K、Rigaku製)を用いて測定した値である。
【0014】
用いる熱伝導性粒子の伝導率が15W/(m・K)以上ものであれば、特に限定されず、各種の酸化アルミニウム、窒化アルミニウムを使用できる。これら熱伝導性粒子は、球状であっても不定形状であってもよく、また、これらは、単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。
酸化アルミニウムは、耐水性や熱安定性が高いため、熱伝導性の複合粒子材料を安定して作製できる点、また、安価であるために複合粒子材料を低コストで実現できる点で、有利である。また、窒化アルミニウム粒子である場合、粒子の熱伝導率が高いために少量の粒子の添加で複合粒子材料の熱伝導率を比較的高くすることができる点で、有利である。
用いる酸化アルミニウム(アルミナ)は、熱伝導率が15~40W/(m・K)が挙げられ、窒化アルミニウム粒子は、熱伝導率が150~170W/(m・K)のものが挙げられる。
【0015】
これらの熱伝導性粒子の平均粒子径は、複合粒子材料の用途による変動するものであるが、本発明の効果を更に良好とする点、複合粒子材料の収率を向上させる点から、好ましく、熱伝導性粒子の平均粒子径が0.1~70μmの範囲内であることが望ましく、更に好ましくは、3~50μmの範囲内であることがより望ましい。
熱伝導性粒子の平均粒子径を0.1μm以上とすることにより、更に、製造時において熱伝導粒子と複合化されていない樹脂材料副生成物の生成を抑制することができ、とすることができ、70μm以下とすることにより、更に、樹脂粒子と複合化されてない熱伝導粒子副生成物の生成を抑制することができる。
なお、本明細書において、無機粒子の「平均粒子径」は、レーザー回折式粒度分布計にて測定した体積基準の粒度分布における積算分率が50%となる平均粒径(Mv)を意味するものとする。
【0016】
これらの熱伝導性粒子の含有量は、複合粒子材料中(全量中)に50~90質量%含まれることが好ましい。複合粒子材料中に含まれる熱伝導性粒子の量が50質量%未満であると、複合粒子中の樹脂材料成分が熱伝導性を阻害して十分な熱伝導性を付与できないことがある。一方、90質量%超過であると、分散性が不十分となり、保存安定性が損なわれることがある。
【0017】
本発明に用いる(b)成分の樹脂材料は、ウレタン、ウレア、ウレアウレタンから選ばれる少なくとも1種(各単独、または、2種以上の混合)である。
これらのウレタン、ウレア、ウレアウレタンの樹脂材料は、複合粒子材料の作製のしやすさの点、品質の点、分散性に優れる複合粒子材料とする点から、特異的に選択されるものであり、他の樹脂材料、例えば、メラミン成分などでは、本発明の効果を得ることができないものでる。
十分な分散性を得るために、好ましくは、上記樹脂材料(b)が、熱伝導性粒子(a)に対し、5質量%以上、更に好ましくは、10~50質量%とすることが望ましい。
この樹脂材料(b)が、5質量%未満であると、熱伝導性粒子が樹脂材料に十分に被覆されず、分散性が低下してしまうこととなり、一方、50質量%以上であると、熱伝導性粒子に対し、樹脂材料が多すぎるため、複合粒子材料以外の副生成物が多くなってしまう
ことが挙げられる。
【0018】
本発明の複合粒子材料は、上記(a)成分の熱伝導性粒子に上記(b)成分の樹脂材料が被覆される複合粒子の形態であり、被覆形態は、熱伝導性粒子の表面積の合計で50%以上被覆されているものが挙げられ、完全に被覆(全表面積100%被覆)されていなくとも、少なくとも、合計で全表面積の50%以上の被覆であれば本発明の効果を奏することができ、更に好ましくは、合計で全表面積の70%~100%である。
図1(a)~(c)は、本発明の複合粒子材料の各実施形態を示す概略図であり、(a)は熱伝導性粒子10の略球状の表面に樹脂材料20が全表面積中60%被覆している形態(熱伝導性粒子40%が露出している形態)の複合粒子材料Aであり、(b)は、熱伝導性粒子10の略球状の表面に樹脂材料20、20…が合計で全表面積中70%被覆している形態(熱伝導性粒子30%(合計)が露出している形態)の複合粒子材料Bであり、(c)は熱伝導性粒子10の略球状の表面に樹脂材料20が完全に被覆(全表面積中100%被覆)されている形態の複合粒子材料Cである。
【0019】
本発明において、得られる複合粒子材料は、球状であっても、楕円球状、不定形状であってもよいが、好ましくは、塗料などのコーティング材料に用いた場合により密な充填状態となりより高い熱伝導性となる点から、球状であるものが望ましい。
なお、本発明(後述する実施例を含む)において、上記複合粒子材料の形状、樹脂材料の被覆形態、被覆表面積の算出は、SEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)観察等により得ることができ、表面積の算出は解析ソフトを用いることにより、容易に算出することができる。このSEM観察等は、日立ハイテクノロジーズ社製、S-4700を用いた。
【0020】
得られる複合粒子材料の平均粒子径(Mv)は、複合粒子材料の用途による変動するものであるが、本発明の効果を更に良好とする点、高い熱伝導性の高い複合粒子材料とする点から、好ましくは、平均粒子径が0.3~100μmの範囲内であることが望ましく、更に好ましくは、5~70μmの範囲内であることがより望ましい。
この複合粒子材料の平均粒子径を0.3μm以上とすることにより、更に、熱伝導性の高い複合粒子材料とすることができ、100μm以下とすることにより、更に、分散性に優れ、保存安定性の良好な複合粒子材料とすることができる。
【0021】
本発明の複合粒子材料は、上述の如く、(a)成分の熱伝導性粒子に(b)成分の樹脂材料が合計で少なくとも全表面積中で50%以上被覆しているものであれば、その製造法は、特に限定されないが、好ましくは、少なくとも上記(a)成分の熱伝導性粒子に、上記(b)成分の樹脂材料の被覆形成物質(壁材)から構成される殻体が被覆されている状体とすることにより、または、この殻体(シェル層)に熱伝導性粒子を内包等することにより製造することができる。
更に好ましくは、上記(a)成分の熱伝導性粒子と20℃における比重が1未満の水難溶性の媒体とを用いて上記(b)成分の樹脂材料からなる殻体(シェル層)に内包したものが望ましく、例えば、少なくとも上記(a)成分の熱伝導性粒子と20℃における比重が1未満の水難溶性の媒体とを含むものを、上記所定の平均粒径となるように、マイクロカプセル化、具体的には、上記(b)成分の樹脂材料の被覆形成物質(壁材)から構成される殻体(シェル層)に内包等することにより製造することができる。
この製造法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができる。
【0022】
用いることができる20℃における比重が1未満である水難溶性の媒体としては、この物性を満たすものであれば、特に限定されないが、20℃における比重が1未満である有機溶媒などの媒体が挙げられる。本発明において、「水難溶性」とは、水100mlに対する溶解度が0.1mg以下のものをいう。
用いることができる20℃における比重が1未満の水難溶性の媒体としては、例えば、オルトセカンダリーブチルフェノール等のアルキル-フェノール類、ドデシルベンゼン等のアルキルアリール類、オレイン酸オクチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル、オレイン酸イソプロピル等の飽和若しくは不飽和カルボン酸アルキルエステルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アジピン酸ジオクチル等のカルボン酸ジアルキルエステルなどの脂肪族ジカルボン酸ジエステル、トリブチルフォスフェート等のトリアルキルフォスフェートなどのリン酸トリエステル類、安息香酸ブチル等の安息香酸アルキルエステル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸ジアルキルエステルなどの芳香族カルボン酸エステル、ジイソブチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。
これらの有機溶媒からなる媒体は、単独でも、2種類以上を適宜の割合に混合して用いてもよい。
【0023】
更に好ましくは、熱伝導性粒子の更に分散性を向上させる点から、上記物性の媒体としては、下記式(I)で表される脂肪族カルボン酸エステルであり、より好ましくは、1価アルコールエステルが望ましい。
R1COOR2 ………(I)
〔上記式(I)中、R1は炭素数4~21の直鎖又は分岐のアルキル基、アルケニル基、二重結合を2つ以上有するアルキル基であり、R2は炭素数1~21の直鎖又は分岐のアルキル基、アルケニル基、二重結合を2つ以上有するアルキル基である。〕
上記式(I)で表される脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、アラキン酸(炭素数20)などの脂肪酸と、例えば、メチルアルコール(炭素数1)、イソプロピルアルコール(炭素数3)、イソブチルアルコール(炭素数4)、ミリスチルアルコール(炭素数14)、セチルアルコール(炭素数16)、ステアリルアルコール(炭素数18)、エイコサニルアルコール(炭素数20)などのアルコールから得られる、ラウリン酸メチル(比重:0.87)、ミリスチン酸ミリスチル(比重:0.84)、ミリスチン酸オクチルドデシル(比重:0.86)、パルミチン酸2-エチルヘキシル(比重:0.86)、ステアリン酸ステリアル(比重:0.83)、ステアリン酸ブチル(比重:0.86)、パルミチン酸イソプロピル(比重:0.85)、ミリスチン酸イソプロピル(比重:0.85)、ステアリン酸メチル(比重:0.84)、オレイン酸イソブチル(比重:0.86)などを挙げることができる。これらの媒体(1価アルコールエステル)は、比重が0.8から1未満で、水100mlに対する溶解度が0.05mg以下のものである。
【0024】
上記物性の媒体としては、上記式(I)で表される脂肪族カルボン酸エステルを用いると、複合粒子材料の粒度分布(Mv/Mn)が狭くなる傾向となり分散性が向上する。
Mv/Mnは、粒度分布の指標として用いられ、Mvは体積平均粒径であり、Mnは個数平均粒径である。本発明(後述する実施例を含む)においては、複合粒子材料の粒度分布(Mv/Mn)の値が1に近づくほど熱伝導性粒子の単分散性が高いことを示し、測定装置として粒子径分布解析装置HRA9320-X100(日機装株式会社製)を用いて体積平均粒径(Mv)および個数平均粒径(Mn)を測定し、体積平均粒径(Mv)/個数平均粒径(Mn)から算出される。
【0025】
上記(b)成分の樹脂材料の被覆形成物質(壁材)となるウレタン(ポリウレタン樹脂)、ウレア(ポリウレア樹脂)、ウレアウレタン(ポリウレア樹脂/ポリウレタン樹脂)は、イソシアネート成分とアミン成分またはアルコール成分などと反応して形成されるものである。
【0026】
用いることができるイソシアネート成分としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4-ジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートカプロン酸、テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネート、テトラメチル-p-キシリレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート、イソシアネートアルキル2,6-ジイソシアネートカプロネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどが挙げられる。
また、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4-ビフェニル-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート等のジイソシアネート、4,4’,4’’-トリフェニルメタントリイソシ
アネート、トルエン-2,4,6-トリイソシアネート等のトリイソシアネート、4,4’-ジメチルジフェニルメタン-2,2’,5,5’-テトライソシアネート等のテトライソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、2,4-トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物等のイソシアネートプレポリマー等が挙げられる。これらのイソシアネート成分は単独で用いてもよく、混合して用いても良い。
【0027】
用いることができるアミン成分としては、具体的には、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタンミン、イミノビスプロピルアミン、ジアミノエチルエーテル、1,4-ジアミノブタン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2-ヒドロキシトリメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジアミノプロピルアミン、ジアミノプロパン、2-メチルペンタメチレンジアミン、キシレンジアミン等の脂肪族系アミン、m-フェニレンジアミン、トリアミノベンゼン、3,5-トリレンジアミン、ジアミノジフェニルアミン、ジアミノナフタレン、t-ブチルトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジアミノフェノール等が挙げられる。中でもフェニレンジアミン、ジアミノフェノール、トリアミノベンゼンなどの芳香族系アミンが好ましい。
【0028】
用いることができるアルコール成分としては、具体的には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどの水酸基を2つ以上有するポリオール等が挙げられる。これらのアルコール成分は単独で用いてもよく、混合して用いても良い。またアルコール成分とアミン成分とを混合して用いても良い。
【0029】
これらの(b)成分の樹脂材料の被覆形成物質(壁材)から構成されるウレタン、ウレア、もしくはウレアウレタンによる殻体(シェル層)の形成としては、例えば、1)ウレタン、ウレア及びウレタンウレアのうち少なくとも1つのモノマー成分と、上記(a)成分の熱伝導性粒子成分を分散させた上記特性の水難溶性の媒体中にて界面重合で殻体(シェル層)を形成したり、あるいは、2)イソシアネート成分とを含む油状成分(油性相)を、水系溶媒(水性相)中に分散させて乳化液を調整する乳化工程と、乳化液にアミン成分及びアルコール成分のうち少なくとも1つを添加して界面重合を行う界面重合工程とを含む製造方法により形成することができる。
【0030】
上記2)の製造方法において、乳化液の調整に際しては、低沸点の溶剤が用いることができる。低沸点の溶剤としては、沸点が100℃以下のものが使用でき、例えば、n-ペンタン、メチレンクロライド、エチレンクロライド、二硫化炭素、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、クロロホルム、メチルアルコール、エチルアルコール、テトラヒドロフラン、n-ヘキサン、四塩化炭素、メチルエチルケトン、ベンゼン、エチルエーテル、石油エーテル等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
一方、上記油性相を乳化させるために使用する水性相には、予め保護コロイドを含有させてもよい。保護コロイドとしては、水溶性高分子が使用でき、公知のアニオン性高分子、ノニオン性高分子、両性高分子の中から適宜選択することができるが、ポリビニルアルコール、ゼラチンおよびセルロース系高分子化合物を含ませるのが特に好ましい。
また、水性相には、界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤の中から、上記保護コロイドと作用して沈殿や凝集を起こさないものを適宜選択して使用することができる。好ましい界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、スルホコハク酸ジオ
クチルナトリウム塩、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)等を挙げることができる。
上記のようにして作製された油性相を水性相に加え、機械力を用いて乳化した後、必要に応じて系の温度を上昇させることにより油性液滴界面で界面重合を起こし、粒子化することができる。また、同時あるいは界面重合反応終了後、脱溶媒を行うことができる。カプセル粒子は、界面重合反応および脱溶媒を行った後、粒子を水性相から分離、洗浄した後、乾燥することなどにより得られる。
【0031】
本発明において、上記20℃における比重が1未満の水難溶性の媒体の含有量は、分散性、比重、粒子径を任意にコントロールとする点、複合粒子材料中の熱伝導性粒子の含有量を調整する点などから変動するものであるが、複合粒子材料中(全量)に対して、3~10質量%とすることが好ましい。
また、本発明の複合粒子材料は、複合粒子材料の用途(放熱電子部品材料用、筆記具用インク、塗料、等)などにより、用途ごとに、上述の所定の体積平均粒径になるように調整することができる。
更に複合粒子材料の表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂材料被膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0032】
本発明における熱伝導性を有する複合粒子材料は、一般的な熱伝導性を有する複合粒子材料とはやや構成が異なる。すなわち、一般的な熱伝導性を有する複合粒子材料はコア/シェルが異なる組成であるため、両者に明確な界面が存在する。一方、本発明の熱伝導性を有する複合粒子材料は、シェルを構成する成分が、中心に向かうにしたがって、その密度が低くなる構成となり、これにより、内包される熱伝導性粒子が殻体の外側に向かって配向しやすくなる。なお、本発明(後述する実施例も含む)において、上記殻体(シェル)を構成する成分が、中心に向かうにしたがって、その密度が低くなる構成の確認は、複合粒子材料の断面形状を電子顕微鏡等で観察することにより確認されるが、この方法に限定されるものではない。
また、20℃における比重が1未満の水難溶性の媒体としては、上記式(I)で表される脂肪族カルボン酸エステルを用いると、複合粒子材料の粒度分布(Mv/Mn)が狭くなる傾向となり保存時においてより均一な状態が維持されやすくなるため、保存安定性が向上する。
この粒度分布(Mv/Mn)は、好ましくは1~10、更に好ましくは1~8となるものが望ましい。Mv/Mnが10を超えると、粒子同士の空隙部分が少なくなることで塗料などのコーティング材料に用いた場合に疎な充填状態となり、熱伝導性が低下することとなる。
【0033】
このように構成される本発明の複合粒子材料にあっては、上記特性の熱伝導性粒子表面に上記特性の樹脂材料が形成される構成となるので、熱伝導性粒子とワニスなどとの間における界面張力が低下することとなり、ワニスなどとの相性が良好であり、塗料などのコーティング材料や、インク材料等に用いても沈降することなく、分散性に優れ、保存安定性に優れる熱伝導性を有する複合粒子材料が提供されることとなる。
本発明の複合粒子材料において、20℃における比重が1未満の水難溶性の媒体として脂肪酸カルボン酸エステルを用いた複合粒子材料であれば、粒度分布(Mv/Mn)が狭くなる傾向となって保存時においてより均一な状態が維持されやすくなるため、保存安定性が向上する。
【0034】
本発明の複合粒子材料は、保存安定性に優れた熱伝導性を有する複合粒子材料となるので、各種放熱材料、放熱用製品へのコーティング、電子部品・半導体製造装置用の放熱機能を有する部品等として好適に利用することができるものとなる。
【実施例】
【0035】
次に、製造例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。なお、下記製造例の「部」は「質量部」を意味する。
【0036】
下記製造例1~5により熱伝導性を有する複合粒子材料を製造した。
〔製造例1:粒子1〕
油相溶液として、ミリスチン酸ミリスチル(比重:0.84)9.6部を60℃に加温しながら、酸化アルミニウム〔平均粒子径5μm、熱伝導率が31W/(m・K)〕18.0部を加えて十分に分散させた。次いで、イソシアネートプレポリマー(タケネートD-101E、NV=75%、三井化学社製)7.2部を加え、更にエチレングリコールモノベンジルエーテル2部を加えた。水相溶液としては、蒸留水600部に対して、ポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社製)15部を溶解し、これに前記油相溶液を投入し、ホモジナイザーで乳化混合して重合を完了した。得られた分散体を遠心処理することで複合粒子材料を得た。粒度分布(Mv/Mn)は、2.5であり、体積平均粒径(Mv)は25.3μmであった。
【0037】
〔製造例2:粒子2〕
油相溶液として、ステアリン酸ステアリル(比重:0.83)9.6部を80℃に加温しながら、酸化アルミニウム〔平均粒子径5μm、熱伝導率が31W/(m・K)〕18.0部を加えて十分に分散させた。次いで、イソシアネートプレポリマー(タケネートD-110N、NV=75%、三井化学社製)3.6部を加え、更にエチレングリコールモノベンジルエーテル2部を加えた。水相溶液としては、蒸留水600部に対して、ポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ社製)15部を溶解し、これに前記油相溶液を投入し、更に、ヘキサメチレンジアミン6部を添加後、ホモジナイザーで乳化混合して重合を完了した。得られた分散体を遠心処理することで複合粒子材料を得た。粒度分布(Mv/Mn)は、3.2であり、体積平均粒径(Mv)は30.7μmであった。
【0038】
〔製造例3:粒子3〕
上記製造例1において、酸化アルミニウムを窒素アルミニウム〔平均粒子径1.2μm、熱伝導率が150W/(m・K)〕に、ミリスチン酸ミリスチルをラウリン酸メチル(比重:0.87)に代えた以外は、上記実施例1の処方にて複合粒子材料を得た。粒度分布(Mv/Mn)は、2.3であり、体積平均粒径(Mv)は25.5μmであった。
【0039】
〔製造例4:粒子4〕
上記製造例2において、酸化アルミニウムを窒素アルミニウム〔平均粒子径1.2μm、熱伝導率が150W/(m・K)〕に、ステアリン酸ステアリルをパルミチン酸2-エチルヘキシル(比重:0.86)に代えた以外は、上記実施例2の処方にて複合粒子材料を得た。粒度分布(Mv/Mn)は、2.4であり、体積平均粒径(Mv)は24.7μmであった。
【0040】
〔製造例5:粒子5〕
油相溶液として、ミリスチン酸ミリスチル(比重:0.84)9.6部を60℃に加温しながら、酸化アルミニウム〔平均粒子径5μm、熱伝導率が31W/(m・K)〕18.0部を加えて十分に分散させた後、95℃、pH4に調整したメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重樹脂(GANTREZAN-179:GAF CHEMICALS社)水溶液400部に投入し、過熱攪拌して油滴状に分散させ、次いでカプセル膜剤として、50%メチロールメラミン水溶液20部を徐々に投入し、ホモジナイザーで乳化混合して重合を完了した。得られた分散体を遠心処理することで複合粒子材料を得た。粒度分布(Mv/Mn)は、2.8であり、体積平均粒径(Mv)は32.7μmであった。
【0041】
〔実施例1~4及び比較例1~3〕
上記製造例1~5で得た各複合粒子材料を用いて、下記表1の配合組成(複合粒子材料+各種ワニス)により、常法でコーティング組成物を調製した。
上記製造例1~5で得た各複合粒子材料の体積平均粒径(Mv)、体積平均粒径(Mv)、
図1(a)~(c)に準拠する表面状態について、下記表1中に記載した。
得られた各コーティング組成物について、下記各評価方法等により、粘度値(25℃、mPa・s)、保存安定性について評価した。
【0042】
(粘度の測定方法)
得られた各コーティング組成物(各分散体)について、下記方法により、粘度測定と、保存安定性ついて、25℃における剪断速度3.8/sでの粘度を測定した。粘度は低いほど良好である。
【0043】
(保存安定性の評価方法)
次に、50℃の恒温機に上記で得られたものを1週間保存して経時促進させた後、経時後の分散体の粘度を、前記「粘度測定」と同じ方法で測定し、50℃で1週間保存した前後の粘度の変化率を計算し、以下の基準により3段階で評価した。
尚、沈降物の確認は目視により行うものとする。
A:粘度変化率が±10%以内で、さらに沈降物を生じなかった場合。
B:粘度変化率が±10%を超え、さらに沈降物を生じていた場合。
C:粘度変化率が±20%を超え、さらに沈降物を生じていた場合。
【0044】
【0045】
上記表1を考察すると、本発明範囲となる実施例1~4は、本発明の範囲外等となる比較例1~3に較べ、経時後であっても分散性が良好であり、保存安定性に優れる熱伝導性を有する複合粒子材料が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
保存安定性に優れた熱伝導性を有する複合粒子材料となるので、各種放熱材料、放熱用製品へのコーティング、電子部品・半導体製造装置用の放熱機能を有する部品等として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
A 複合粒子材料
B 複合粒子材料
C 複合粒子材料
10 熱伝導性粒子
20 樹脂材料