(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】進路制御システムおよび進路制御装置
(51)【国際特許分類】
B61L 27/16 20220101AFI20241205BHJP
B61L 23/16 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B61L27/16
B61L23/16 E
(21)【出願番号】P 2020171871
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 竜樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 光教
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優
(72)【発明者】
【氏名】興津 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 寛之
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-020485(JP,A)
【文献】特開2009-083628(JP,A)
【文献】特開2008-247063(JP,A)
【文献】特開2010-036722(JP,A)
【文献】特開2006-256545(JP,A)
【文献】特開昭62-080153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 27/00
B61L 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車上に搭載され、前記列車の位置情報および計測速度情報を常時送信可能な車上装置と、
前記車上装置から送信された前記位置情報および前記計測速度情報に基づいて、前記列車を対象とする信号機の制御の開始位置である制御点を可変とする進路制御装置とを備え
、
前記進路制御装置は、
前記列車のダイヤ情報に基づいて競合点の交差順序を決定する交差順序作成処理部と、
前記列車の在線状況に基づいて前記交差順序を変更する交差順序自動変更処理部と、
前記交差順序の見直しが行われた時に、在線列車情報および前記ダイヤ情報に基づいて、自動変更パターン情報を作成する自動変更パターン情報作成処理部とを備え、
前記交差順序自動変更処理部は、前記列車の現在の在線状況と前記自動変更パターン情報との照合を行い、一致する情報がある場合は前記交差順序を見直す進路制御システム。
【請求項2】
前記車上装置と常時通信する地上設備をさらに備え、
前記進路制御装置は、前記位置情報および前記計測速度情報を前記地上設備から取得する請求項1に記載の進路制御システム。
【請求項3】
前記交差順序自動変更処理部は、交差順序1位以外の前記競合点があるかどうか判断し、前記車上装置から送信された前記位置情報および前記計測速度情報に基づいて、前記交差順序を見直す請求項
1に記載の進路制御システム。
【請求項4】
前記自動変更パターン情報は、在線位置、進路No、競合点No、競合点位置、本線入換ダイヤ種別、平・土・休ダイヤ種別および列車種別を含む請求項
1に記載の進路制御システム。
【請求項5】
列車の位置情報および計測速度情報を常時取得する位置・速度情報取得部と、
前記位置情報および前記計測速度情報に基づいて、前記列車の運行時の信号機の制御の開始位置である制御点を可変とする制御点可変部と
、
前記可変とされた前記制御点を通過した前記列車の進路上に交差順序1位以外の競合点が少なくとも1つある場合、前記交差順序1位の列車よりも自列車の方が前記競合点の通過時刻が早い時に前記自列車を交差順序1位に変更する交差順序変更処理部を備え
、
自列車が交差順序1位に変更された時の前記自列車および相手の前記列車の過去の在線状況に関するパターン情報を保持し、
前記交差順序変更処理部は、前記自列車および相手の前記列車の現在の在線状況が前記パターン情報にそれぞれ一致している時に前記自列車を交差順序1位に変更する進路制御装置。
【請求項6】
前記制御点可変部は、前記列車の速度と比例関係を満たすように、前記列車の在線位置から前記制御点までの距離を設定する請求項
5に記載の進路制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の進路を自動制御可能な進路制御システムおよび進路制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
信号機あるいは分岐器などの設備を制御するための連動装置および自動進路制御装置が設置され、自動進路制御装置が連動装置を介して制御するような駅を連動駅と呼ぶ。自動進路制御装置は在線列車の検知を行い、信号機へ制御指示を出すことでコンピュータによる自動進路制御を実現している。
【0003】
自動進路制御装置は、自駅に進入してきた列車が信号機の制御の開始位置(以下、制御点と呼ぶ)に到達したことを検知し、システムが予め持っている定数分だけ時間が経過した場合に制御を開始する。この時、列車が交差する箇所(以下、競合点と呼ぶ)を通過する順序(以下、交差順序と呼ぶ)をダイヤ情報から作成し、その交差順序を守って信号機を制御することで、ダイヤ通りの列車運行を実現している。また、輸送障害発生時には交差順序がダイヤ通りとならないため、列車運行に支障を来さないように交差順序を自動で変更する機能を有している。
【0004】
列車の在線位置を検出する手法として固定閉塞方式および移動閉塞方式がある。固定閉塞方式は、レールを細かく区切った区間を閉塞区間とし、1閉塞区間には1列車までしか進入できないようにすることで安全性を担保している。
【0005】
固定閉塞方式では、数十キロ~数百キロにも及ぶレールを、細かい路線では数百メートル単位で区切るため、点検等の保守コストが膨大となる。また、各地上設備の接続には物理的なケーブルが必要なため、断線等になった場合、全列車を緊急停止するなどの措置が必要である。
【0006】
移動閉塞方式では、各列車に搭載された車上装置と、地上に設置された地上装置との間で常時無線通信を行い、在線位置や速度などの情報を通信することで、列車の速度に応じた長さの閉塞区間を、列車在線位置を基準に設定する。車上装置と通信する地上装置の保守・点検作業は必要となるが、膨大な数の軌道回路を保守・点検する作業が不要となるため、固定閉塞方式よりも点検等の保守コストを削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年の列車間隔の高密度化により、ある列車が進路構成することで、他の列車の進路を支障することがあった。この場合、進路を支障されている列車は、進路を支障している列車が通過するまで待つしかなく、列車停止による旅客の満足度の低下や消費電力の増加等を招いていた。
【0009】
また、旅客サービスの向上に伴い、複数線区を単一の列車が跨って運行する運用が増加している。このような列車の運行により、今までは乗換えが必要であったようなルートも、乗り換えの必要がなくなり、旅客へのサービスとして大きく寄与している。
【0010】
しかし、複数線区を跨る列車の線区で遅延が発生し、当該列車がダイヤ情報上の順序1位であった場合、他の線区の交差順序2位の列車が在線していると、1位の列車が通過するのを待たなくてはいけない。その結果、列車の遅延が他の線区に拡大する。これに対応するために、交差順序1位の列車が大きく遅延していると判断した場合に、列車の交差順序を変更することが考えられる。
【0011】
しかし、固定閉塞方式では列車の正確な在線位置が分からない。このため、システムで保有している定数分だけ列車の進入を待つことで、列車が大きく遅延しているかどうか判断するしかなく、列車の遅延の拡大を防ぐことはできなかった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、自列車の運行の支障が他列車の運行に支障を来すのを抑制することが可能な進路制御システムおよび進路制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、第1の観点に係る進路制御システムは、列車上に搭載され、前記列車の位置情報および速度情報を送信可能な車上装置と、前記車上装置から送信された前記位置情報および前記速度情報に基づいて、前記列車の運行時の信号機の制御の開始位置である制御点を可変とする進路制御装置とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自列車の運行の支障が他列車の運行に支障を来すのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る進路制御システムが適用される列車運行システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1の自動進路制御装置の概略構成を示すブロック図、
図2(b)は、
図2(a)の自動進路制御装置で制御される駅構内の進路構成の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1の自動進路制御装置で制御される列車の場内進路の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る列車の速度と制御点との関係の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る自動進路制御装置の交差順序作成処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る自動進路制御装置の交差順序自動変更処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る自動進路制御装置の移動閉塞方式における交差順序自動変更方法を示す図である。
【
図8】
図8(a)は、第2実施形態に係る自動進路制御装置の概略構成を示すブロック図、
図8(b)は、
図8(a)の自動進路制御装置で制御される駅構内の進路構成の一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、
図8(a)の自動進路制御装置で用いられる自動変更パターン情報の内容を示す図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係る自動進路制御装置の自動変更パターン情報作成処理を示すフローチャートである。
【
図11】
図11(a)は、第2実施形態に係る自動進路制御装置の交差順序自動変更方法を示すブロック図、
図11(b)は、
図11(a)の自動進路制御装置で制御される駅構内の進路構成の一例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る自動進路制御装置の交差順序自動変更方法を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、
図8(a)の自動進路制御装置で制御される列車の場内進路の一例を示す模式図である。
【
図14】
図14(a)は、
図13の列車B1303の在線状況と照合される交差順序変更可能な自動変更パターン情報の具体例を示す図、
図14(b)は、
図13の列車A1304の在線状況と照合される交差順序変更可能な自動変更パターン情報の具体例を示す図である。
【
図15】
図15(a)は、
図13の列車B1303の在線状況と照合される交差順序変更不可能な自動変更パターン情報の具体例を示す図、
図15(b)は、
図13の列車A1304の在線状況と照合される交差順序変更不可能な自動変更パターン情報の具体例を示す図である。
【
図16】
図16は、第1実施形態および第2実施形態に係る自動進路制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る進路制御システムが適用される列車運行システムの概略構成を示すブロック図である。
図1において、列車運行システムには、移動閉塞情報受信用地上設備2および線路4が設けられている。線路4上には、列車5が在線される。線路4の周辺には、信号機8および転轍機9が設けられている。進路制御システムには、自動進路制御装置1および移動閉塞用車上装置6が設けられている。自動進路制御装置1は連動装置7を介して信号機8および転轍機9に接続されている。移動閉塞用車上装置6は列車5に搭載されている。自動進路制御装置1と移動閉塞情報受信用地上設備2は、ネットワーク3を介して接続されている。
【0018】
ネットワーク3は、インターネットやデジタル専用線などのWAN(Wide Area Network)であってもよいし、イーサネット(登録商標)やWiFiなどのLAN(Local Area Network)であってもよいし、WANとLANが混在していてもよい。ネットワーク3は、有線であってもよいし、無線であってもよいし、有線と無線が混在していてもよい。
【0019】
連動装置7は、駅構内の信号機8および転轍機9を協調して動作させることにより列車運行時の保安機能を実現する。移動閉塞用車上装置6は、列車5の位置情報および速度情報を計測し、移動閉塞情報受信用地上設備2に送信する。移動閉塞情報受信用地上設備2は、無線にて移動閉塞用車上装置6と常時通信することができる。そして、移動閉塞情報受信用地上設備2は、移動閉塞用車上装置6から受信した列車5の位置情報および速度情報をネットワーク3を介して自動進路制御装置1に送信することができる。
【0020】
自動進路制御装置1は、列車5の位置情報および速度情報に基づいて制御点を可変とする。制御点は、ある信号機8の信号に従って運行する列車5がある時に、その列車5を対象とする信号機8の制御の開始位置である。これにより、列車5の在線位置や速度に応じて信号機8を制御するタイミングを決定することができ、制御点が予めシステムの定数で固定されている場合に比べて、列車5の進路予約時間を短くすることができる。このため、支障されている列車は支障している列車が通過するまでの待ち時間を短くすることができ、列車運行の効率性を向上させることができる。
【0021】
また、自動進路制御装置1は列車5の在線状況に基づいて、競合点を通過する列車5の交差順序を変更することができる。これにより、ある線区を走行している列車5の遅延時間に基づいて交差順序を変更するかどうかを判断することができる。このため、複数線区を単一の列車が跨って運行する場合においても、ある線区の遅延が他線区の遅延に拡大するのを防止することが可能となり、より安全・安定な旅客の輸送を実現することが可能となる。
【0022】
以下、
図1の自動進路制御装置1について、駅構内の模式図を参照しながらより詳細に説明する。
【0023】
図2(a)は、
図1の自動進路制御装置の概略構成を示すブロック図、
図2(b)は、
図2(a)の自動進路制御装置で制御される駅構内の進路構成の一例を示す模式図である。
図2(a)において、自動進路制御装置1Aには、在線列車情報11、ダイヤ情報12および駅別定数13が保持されている。また、自動進路制御装置1Aには、順序判断部14、位置・速度情報取得部17、制御点可変部18および進路制御部20が設けられている。順序判断部14には、交差順序作成処理部15および交差順序自動変更処理部16が設けられている。
【0024】
在線列車情報11には、SA駅内に在線する列車の情報を設定することができる。ダイヤ情報12には、各駅の番線ごとに列車の到着時刻および出発時刻を設定することができる。駅別定数13には、駅構内での列車の運行に関するシステム定数を設定することができる。システム定数は、例えば、列車が制御点を通過してから信号機を青に切り替えるまでの経過時間や、駅の進入口から競合点までの距離である。
【0025】
位置・速度情報取得部17は、列車の位置情報および速度情報を取得する。制御点可変部18は、列車の位置情報および速度情報に基づいて制御点を可変とする。順序判断部14は、列車の競合点の交差順序を判断する。交差順序作成処理部15は、列車のダイヤ情報12に基づいて競合点の交差順序を決定する。交差順序自動変更処理部16は、列車の在線状況に基づいて交差順序を変更する。進路制御部20は、列車が制御点に到達したことを検知した時に、交差順序に従って信号機及び転轍機を制御する。
【0026】
一方、
図2(b)において、例えば、SA駅には1番線L1と2番線L2があるものとする。1番線L1には線路R1が接続され、2番線L2には線路R2が接続されている。線路R1は下り線、線路R2は上り線とする。線路R1、R2間には列車が相互に乗り入れ可能なように切換線路R3が設けられている。線路R1には信号機P1、P2、P3、P6が設けられ、線路R2には信号機P4、P5が設けられている。SA駅に進入し、進出する列車は、これらの信号機P1~P6の表示に従って運行する。
【0027】
制御点S1、S2まで列車が到達すると、自動進路制御装置1Aが各条件を判断し、信号機P1~P6へ制御指示を出力する。また、自動進路制御装置1Aは、ダイヤ通りの列車運行を実現するため、競合点K1の交差順序を決定する。ここで、順序判断部14は、在線列車情報11およびダイヤ情報12に基づいて交差順序を管理し、進路制御部20がSA駅の各所を制御する信号を提供する。この時、交差順序作成処理部15は、在線列車情報11およびダイヤ情報12に基づいて競合点K1の交差順序を作成する。交差順序自動変更処理部16は在線列車情報11に基づいて、SA駅内の在線列車の状態を取得し、交差順序を6位まで決定し、交差順序の自動変更の要または不要を判断する。進路制御部20は、順序判断部14で決定した列車の交差順序に基づいて、信号機P1~P6を自動制御し、列車の運行制御を行う。
【0028】
図3は、
図1の自動進路制御装置で制御される列車の場内進路の一例を示す模式図である。
図3において、列車T1、T2がSA駅に進入してきたものとする。列車T1は線路R1に在線しており、2番線L2に到着後、折り返し運転を行い、線路R2を走行して、SA駅を進出するものとする。列車T2は2番線L2に到着後、線路R2を走行し、SA駅を進出するものとする。この時、自動進路制御装置1は、移動閉塞情報受信用地上設備2から列車T1、T2の速度情報および在線位置情報を受信する。そして、自動進路制御装置1は、列車T1、T2の速度情報および在線位置情報に基づいて、制御点S1、S2を任意の位置に決定する。
【0029】
ここで、
図2(a)の制御点可変部18は、各列車T1、T2の速度V1、V2に基づいて、各列車T1、T2
の制御点S1、S2
から信号機P1,P2までの距離L1、L2を設定することができる。また、交差順序自動変更処理部16は、可変とされた各制御点S1、S2を通過した各列車T1、T2の競合点の通過時刻に基づいて、各列車T1、T2の交差順序を制御することができる。
【0030】
図4は、第1実施形態に係る列車の速度と制御点との関係の一例を示す図である。
図4において、列車
の制御点
から信号機までの距離は、列車の速度と比例関係を満たすように設定することができる。これにより、列車の速度と比例した距離に制御点を配置することができ、列車ごとに柔軟な信号機を制御することが可能となる。
【0031】
図5は、第1実施形態に係る自動進路制御装置の交差順序作成処理を示すフローチャートである。
図5の501において、
図2(a)の交差順序作成処理部15は、駅の競合点数分だけ処理をループし、それぞれの交差順序を6位まで作成する。駅の競合点数分だけループしてない場合、502において、対象の競合点が場内進路上の競合点か、出発進路上の競合点か判断を行う。
【0032】
場内進路上の競合点である場合、503でダイヤ情報12の到着時刻を参照し、504で到着時刻が早い順に6位までの登録を行う。出発進路上の場合は、505でダイヤ情報12の出発時刻を参照し、506で出発時刻が早い順に6位までの登録を行う。以上のようにして、SA駅内の全競合点における交差順序の作成を行う。
そして駅の競合点数分だけループした場合、処理を終了する。
【0033】
なお、上述した実施形態では、交差順序を6位まで登録した場合について示したが、交差順序はN(Nは2以上の整数)位まで登録するようにしてもよい。
【0034】
図6は、第1実施形態に係る自動進路制御装置の交差順序自動変更処理を示すフローチャートである。
図6の601において、
図2(a)の交差順序自動変更処理部16は、制御点を通過し、信号機が制御対象となる列車の進路上に、交差順序1位以外の競合点があるかどうか判断する。
【0035】
交差順序が全て1位である場合は、交差順序自動変更の必要がないため、交差順序自動変更処理を終了する。交差順序が1位以外の競合点が少なくとも1つある場合は、602にて移動閉塞情報受信用地上設備2から列車情報を取得する。この列車情報は、列車の位置情報および速度情報を含むことができる。
【0036】
次に、603において、列車の在線位置から競合点までの距離および列車の速度に基づいて、自列車と交差順序1位列車が対象の競合点を通過するまでの時間を計算する。
【0037】
次に、604において、自列車の方が競合点を通過する時間が早いか判断する。早い場合には、605で自列車を交差順序1位とする自動変更を行う。同じまたは遅い場合には、606で交差順序1位列車が一定時間経過後に競合点を通過したか判断する。交差順序1位列車が一定時間経過後に競合点を通過してない場合、自列車を交差順序1位とする自動変更を行う。
【0038】
以上の処理により、交差順序1位列車が遅延している場合は、自列車の交差順序を1位に変更することができる。このため、自列車は、遅延している交差順序1位列車の列車を待つことなく、列車運行が可能となる。また、自列車の交差順序を1位に変更することにより、交差順序1位列車が遅延している場合においても、自列車は一定の時間停車する必要がなくなる。このため、複数線区を単一の列車が跨って運行する場合においても、自線区の列車の遅延が他の線区に拡大するのを抑制することができる。
【0039】
図7は、第1実施形態に係る自動進路制御装置の移動閉塞方式における交差順序自動変更方法を示す図である。
【0040】
図7において、例えば、SB駅には1番線L1と2番線L2があるものとする。1番線L1には線路R4が接続され、2番線L2には線路R5が接続されている。線路R4は下り線、線路R5は上り線とする。線路R4、R5には、列車A、Bが交差する競合点K1が設けられている。
【0041】
そして、SB駅のある日の10:00から10:30までの列車運行ダイヤと交差順序に基づいて、列車A、Bが運行されるものとする。この時、列車Aが10:00前に線路R4からSB駅に進入し、1番線L1に停車後、下り方向に進出するものとする。
【0042】
次に、列車Bが線路R5からSB駅に進入し、2番線L2に停車後、上り方向に進出するものとする。この時、競合点K1の交差順序KJ1は1位:列車A、2位:列車Bの順となる。
【0043】
ここで、列車Aが輸送障害により遅延しているものとする。その結果、交差順序2位の列車Bが列車Aよりも先にSB駅に進入するが、列車Bは交差順序1位ではないため信号機を制御することができない。
【0044】
この時、
図1の自動進路制御装置1は、移動閉塞情報受信用地上設備2から列車A及び列車Bの在線位置および速度情報を取得することができる。
【0045】
v1、v2はそれぞれ列車A、Bの速度、r1、r2はSB駅の進入口から各列車A、Bの在線位置までの距離を表す。また、s1、s2はSB駅の進入口から競合点K1までの距離を表す。距離s1、s2は、システム内に定数として定義される。
【0046】
この時、
図2の交差順序自動変更処理部16は、各列車A、Bの速度v1、v2および距離s1、s2、r1、r2に基づいて、各列車A、列車Bが競合点K1に到達する時刻t1、t2を算出する。時刻t1、t2は以下の式で与えることができる。
t1=(s1-r1)/v1
t2=(s2-r2)/v2
【0047】
交差順序自動変更処理部16は、時刻t1、t2の比較結果に基づいて、交差順序KJ1の自動変更判断を行う。交差順序自動変更処理部16は、t1>t2ならば交差順序KJ1の自動変更を行う。
【0048】
以上の処理により、t1>t2ならば、交差順序KJ1は1位:列車B、2位:列車Aに変更される。このため、列車Bは、遅延している列車Aを待つことなく競合点K1を通過することができ、列車Bの運行が可能となる。また、列車Aが遅延している場合、システム定数により列車Bは一定の時間停車する必要があったが、列車Bの交差順序を1位に変更することで、列車Bは停車する必要もなくなる。このため、複数線区を列車Bが跨って運行する場合においても、列車Aの遅延が他の線区に拡大するのを抑制することができる。
【0049】
以上、列車の位置情報および速度情報に基づいて制御点S1、S2を可変とし、列車の在線状況に基づいて競合点の交差順序を変更する方法について説明した。
この方法は、列車が番線を出発するような状況には対応できない。列車が番線に到着してから出発に用いる信号機を制御し、実際に出発するまでは列車速度が0となるからである。この場合、競合点に到達するまでの時間は計算上無限大となる。
以下、列車速度が0になるような状況においても、競合点の交差順序を変更可能な方法について説明する。
【0050】
(第2実施形態)
図8(a)は、第2実施形態に係る自動進路制御装置の概略構成を示すブロック図、
図8(b)は、
図8(a)の自動進路制御装置で制御される駅構内の進路構成の一例を示す模式図である。
図8(a)において、自動進路制御装置1Bには、
図2(a)の自動進路制御装置1Aに自動変更パターン情報作成処理部30が追加されている。また、自動進路制御装置1Bは、自動変更パターン情報31を保持する。
【0051】
交差順序作成処理部15は列車の交差順序を作成し、交差順序自動変更処理部16は列車の遅延等の状況によって交差順序の自動変更を行う。交差順序自動変更処理部16は、交差順序の自動変更時に自動変更パターン情報作成処理部30を起動する。自動変更パターン情報作成処理部30は、在線列車情報11およびダイヤ情報12から、交差順序の自動変更時の各列車の在線状況に関するパターン情報を抽出し、自動変更パターン情報31としてデータベースに格納する。
【0052】
図9は、
図8(a)の自動進路制御装置で用いられる自動変更パターン情報の内容を示す図である。
図9において、自動変更パターン情報には、在線列車情報40およびダイヤ情報50が設定される。在線列車情報40は在線列車情報11から抽出することができる。ダイヤ情報50はダイヤ情報12から抽出することができる。
【0053】
在線列車情報40には、在線位置41、進路No42、競合点No43および競合点位置44が設定される。在線位置41は、交差順序自動変更時の列車在線位置を示す。進路No42は、自動変更を行った進路を一意に示す番号である。競合点No43は、自動変更を行った競合点を一意に示す番号である。競合点位置44は、対象の競合点が場内進路・出発・入区・出区進路のいずれであるかを示す。
【0054】
ダイヤ情報50には、本線・入換ダイヤ種別51、平・土・休ダイヤ種別52および列車種別53が設定される。本線・入換ダイヤ種別51は、自動変更を実施した列車が本線列車か入換列車かを示す。平・土・休ダイヤ種別52は、自動変更を実施した列車のダイヤが平日・土曜・休日ダイヤのいずれであるかを示す。列車種別53は、特急・急行・普通・回送など列車それぞれに定義されている種別を示す。
【0055】
図10は、第2実施形態に係る自動進路制御装置の自動変更パターン情報作成処理を示すフローチャートである。
図10の1001において、
図8(a)の自動変更パターン情報作成処理部30は、交差順序の自動変更が行われたかどうかを判断する。自動変更が行われていない場合は、自動変更パターン情報作成処理を終了する。
【0056】
自動変更が行われた場合、1002において、自動変更パターン情報作成処理部30は、在線列車情報11およびダイヤ情報12から、自動変更を行った列車の在線状況に関する情報を取得する。
【0057】
次に、1003において、自動変更パターン情報作成処理部30は、取得した在線状況に関する情報と既に登録されている自動変更パターン情報と照合を行い、自動変更を行った列車の在線状況に関する情報と同一の自動変更パターン情報が既に登録されているかどうか判断する。この時、
図9の各情報が全て同じ場合に、自動変更を行った列車の在線状況に関する情報と、既に登録されている自動変更パターン情報が同一であるとみなすことができる。同一の情報が既に登録されている場合には、その情報の登録を行わず、自動変更パターン情報作成処理を終了する。同一の情報が登録されていない場合には、1004において、自動変更パターン情報作成処理部30は、自動変更パターン情報の登録を行う。
【0058】
図11(a)は、第2実施形態に係る自動進路制御装置の交差順序自動変更方法を示すブロック図、
図11(b)は、
図11(a)の自動進路制御装置で制御される駅構内の進路構成の一例を示す模式図である。
図11(a)において、交差順序自動変更処理部16は、例えば、列車が番線を出発するような状況において、自動変更パターン情報31から列車の情報を取得し、交差順序の自動変更可否の判断を行う。
【0059】
図12は、第2実施形態に係る自動進路制御装置の交差順序自動変更方法を示すフローチャートである。
図12の1201において、
図11(a)の交差順序自動変更処理部16は、駅の番線に到着し、信号機を制御しようとしている列車の進路上に交差順序1位以外の競合点があるかどうか判断する。
【0060】
交差順序が全て1位である場合は、交差順序自動変更の必要がないため、交差順序自動変更処理を終了する。交差順序が1位以外の競合点が少なくとも1つある場合は、交差順序自動変更処理部16は、1202にて自動変更パターン情報31を取得する。
【0061】
次に、交差順序自動変更処理部16は、1203において、駅の番線に到着し、信号機を制御しようとしている列車の在線状況に関する情報と、既に登録されている自動変更パターン情報31を照合し、これらの情報が同一かどうか判断する。
【0062】
これらの情報が異なる場合、交差順序自動変更処理部16は、1204にて
図6の自動変更処理を実施する。これらの情報が同一である場合は、自動変更可能と判断し、1205にて自列車を交差順序1位に変更する。
【0063】
図13は、
図8(a)の自動進路制御装置で制御される列車の場内進路の一例を示す模式図である。
図13において、SB駅には、信号機P1が設けられているものとする。そして、列車B1303は、平日に2番線L2に到着後、信号機P1を制御しようとしているものとする。この時、競合点K1において交差順序KJ1の1位が列車A1304であり、列車A1304が遅れているため、信号機P1を制御できない状況にあるものとする。列車A1304の列車種別は普通、列車B1303の列車種別は急行であるものとする。
【0064】
図14(a)は、
図13の列車B1303の在線状況と照合される交差順序変更可能な自動変更パターン情報の具体例を示す図、
図14(b)は、
図13の列車A1304の在線状況と照合される交差順序変更可能な自動変更パターン情報の具体例を示す図である。
図11(a)において、自動進路制御装置1Bには、
図14(a)および
図14(b)の自動変更パターン情報1301、1302が登録されているものとする。
【0065】
自動変更パターン情報1301において、
図9、在線位置41として駅中間、進路No42としてR5、競合点No43としてK1、競合点位置44として場内、本線・入換ダイヤ種別51として本線、平・土・休ダイヤ種別52として平日、列車種別53として急行という情報が登録されている。自動変更パターン情報1302において、在線位置41として駅中間、進路No42としてR4、競合点No43としてK1、競合点位置44として場内、本線・入換ダイヤ種別51として本線、平・土・休ダイヤ種別52として平日、列車種別53として普通という情報が登録されている。
【0066】
そして、交差順序自動変更処理部16は、列車B1303の在線状況に関する情報を自動変更パターン情報1301と照合し、列車A1304の在線状況に関する情報を自動変更パターン情報1302と照合する。この時、列車B1303の在線状況に関する情報は自動変更パターン情報1301と一致し、列車A1304の在線状況に関する情報は自動変更パターン情報1302と一致する。このため、交差順序自動変更処理部16は交差順序KJ1を自動変更し、列車B1303の交差順序を1位に設定する。これにより、列車B1303が停車し、列車速度が0である場合においても、列車B1303の交差順序を2位から1位に自動変更することができ、信号機P1が制御可能となる。
【0067】
図15(a)は、
図13の列車B1303の在線状況と照合される交差順序変更不可能な自動変更パターン情報の具体例を示す図、
図15(b)は、
図13の列車A1304の在線状況と照合される交差順序変更不可能な自動変更パターン情報の具体例を示す図である。
図11(a)において、自動進路制御装置1Bには、
図14(a)および
図14(b)の自動変更パターン情報1301、1302に変えて
図15(a)および
図15(b)の自動変更パターン情報1401、1402が登録されているものとする。
【0068】
自動変更パターン情報1401において、
図9、在線位置41として駅中間、進路No42としてR5、競合点No43としてK1、競合点位置44として場内、本線・入換ダイヤ種別51として本線、平・土・休ダイヤ種別52として平日、列車種別53として普通という情報が登録されている。自動変更パターン情報1402において、在線位置41として駅中間、進路No42としてR4、競合点No43としてK1、競合点位置44として場内、本線・入換ダイヤ種別51として本線、平・土・休ダイヤ種別52として平日、列車種別53として普通という情報が登録されている。
【0069】
そして、交差順序自動変更処理部16は、列車B1303の在線状況に関する情報を自動変更パターン情報1401と照合し、列車A1304の在線状況に関する情報を自動変更パターン情報1402と照合する。ここで、列車A1304の列車種別は普通、列車B1303の列車種別は急行である。このため、列車A1304の在線状況に関する情報は自動変更パターン情報1402と一致するが、列車B1303の在線状況に関する情報は自動変更パターン情報1401と一致しない。このため、交差順序自動変更処理部16は交差順序KJ1を自動変更せず、
図6の交差順序自動変更処理に移行する。
【0070】
以上のようにして、自動変更パターン情報を蓄積・学習することにより、移動閉塞方式での列車の速度情報を用いた自動変更対応が不可能である場合においても、システム定数だけ時間経過を待つ必要がなくなり、列車の運行を効率化することができる。
【0071】
図16は、第1実施形態および第2実施形態に係る自動進路制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図16において、自動進路制御装置1Aには、プロセッサ201、通信制御デバイス202、通信インターフェース203、主記憶デバイス204および外部記憶デバイス205が設けられている。プロセッサ201、通信制御デバイス202、通信インターフェース203、主記憶デバイス204および外部記憶デバイス205は、内部バス206を介して相互に接続されている。
【0072】
また、自動進路制御装置1Aのヒューマンインターフェースとして、入力デバイス207および出力デバイス208が設けられている。入力デバイス207および出力デバイス208は、内部バス206に接続されている。
【0073】
プロセッサ201は、自動進路制御装置1A全体の動作制御を司るハードウェアである。主記憶デバイス204は、例えば、半導体メモリから構成され、各種プログラムや制御データを一時的に保持する。主記憶デバイス204には、位置・速度情報取得部17、制御点可変部18、交差順序作成処理部15、交差順序自動変更処理部16、進路制御部20および自動変更パターン情報作成処理部30を実現するためのプログラムを保持することができる。
【0074】
外部記憶デバイス205は、大容量の記憶容量を有する記憶デバイスであり、例えば、ハードディスク装置やSSD(Solid State Drive)である。外部記憶デバイス205は、各種プログラムの実行ファイルの他、在線列車情報11、ダイヤ情報12、駅別定数13および自動変更パターン情報31を保持することができる。主記憶デバイス204および外部記憶デバイス205は、プロセッサ201からアクセス可能である。
【0075】
通信制御デバイス202は、移動閉塞情報受信用地上設備2との通信を制御する機能を有するハードウェアである。通信制御デバイス202は、通信インターフェース203を介してネットワーク400に接続される。入力デバイス207は、システム管理者が各種操作入力を行うためのキーボードやマウスなどを含むことができる。出力デバイス208は各種情報を表示するための液晶ディスプレイなどを含むことができる。
【符号の説明】
【0076】
1…自動進路制御装置、2…移動閉塞情報受信用地上設備、3…ネットワーク、4…線路、5…列車、6…移動閉塞用車上装置、7…連動装置、8…信号機、9…転轍機、11…在線列車情報、12…ダイヤ情報、13…駅別定数、14…順序判断部、15…交差順序作成処理部、16…交差順序自動変更処理部、17…位置・速度情報取得部、18…制御点可変部、20…進路制御部、30…自動変更パターン情報作成処理部、31…自動変更パターン情報。