(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】炭素材、電極、リチウム二次電池、炭素材の製造方法及び電極活物質の選定方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20241205BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241205BHJP
C01B 32/21 20170101ALI20241205BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 D
C01B32/21
(21)【出願番号】P 2020214970
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀亮
(72)【発明者】
【氏名】松原 伸典
(72)【発明者】
【氏名】小山 裕
(72)【発明者】
【氏名】成冨 拓也
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-097935(JP,A)
【文献】特開2014-011064(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146900(WO,A1)
【文献】特開2003-346796(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179802(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
C01B 32/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質に用いられる炭素材であって、
黒鉛粒子を含み、
液体窒素温度でのKr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m
2/g以下であり、前記Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV
0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV
0.2とすると、V
0.1/Vmが1.5以下であり、V
0.2/Vmが2.5以上である、
炭素材。
【請求項2】
前記黒鉛粒子は、非晶質炭素で被覆されている、
請求項1に記載の炭素材。
【請求項3】
前記黒鉛粒子は、天然黒鉛粒子である、
請求項1又は2に記載の炭素材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素材を含む、電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極と、
リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた、リチウム二次電池。
【請求項6】
電極活物質に用いられる炭素材の製造方法であって、
原料黒鉛粒子と被覆原料とを含む混合原料を得る調合工程と、
前記混合原料を、不活性雰囲気で200℃以上350℃以下に含まれる第1温度で熱処理し、その後不活性雰囲気で900℃以上1200℃以下に含まれる第2温度で熱処理して前記炭素材を得る熱処理工程と、
を含み、
前記炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m
2/g以下であり、前記Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV
0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV
0.2とすると、V
0.1/Vmが1.5以下であり、V
0.2/Vmが2.5以上である前記炭素材が得られる条件で前記調合工程及び前記熱処理工程を行う、
炭素材の製造方法。
【請求項7】
前記調合工程では、前記被覆原料としてピッチ・タール類を用い、前記熱処理工程では、前記第1温度に至るまでの昇温を酸素含有雰囲気で行うか、
前記調合工程では、前記被覆原料としてフェノール樹脂を用い、前記熱処理工程では、前記第1温度に至るまでの昇温を不活性雰囲気で行う、
請求項6に記載の炭素材の製造方法。
【請求項8】
前記調合工程では、前記原料黒鉛粒子に対して1質量%超過15質量%以下の割合で前記被覆原料を調合する、
請求項6又は7に記載の炭素材の製造方法。
【請求項9】
黒鉛粒子を含む炭素材から電極活物質を選定する選定方法であって、
前記炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線を取得し、前記Kr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m
2/g以下であり、前記Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV
0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV
0.2とすると、V
0.1/Vmが1.5以下であり、V
0.2/Vmが2.5以上である前記炭素材を電極活物質として選定する、
電極活物質の選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素材、電極、リチウム二次電池、炭素材の製造方法及び電極活物質の選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の黒鉛負極に関する技術として、黒鉛粒子表面を非晶質炭素で被覆することで、高速充電特性、入出力特性、高温保存特性などを高めることなどが提案されている(例えば特許文献1,2参照)。また、黒鉛粒子の円形度を制御することで、不可逆容量を低減すること(例えば特許文献3参照)、非晶質炭素被覆黒鉛に特定量の窒素及び硫黄を含有させることで充放電負荷特性を高めること(例えば特許文献4参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-19048号公報
【文献】特開2017-10651号公報
【文献】特開2019-175852号公報
【文献】特開2016-213204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車載用途のリチウム二次電池では、燃費向上のための高入出力特性、短時間で充電するための急速充電特性、及び、経年による電池特性低下を防ぐための高保存耐久性が求められる。しかしながら、上述の特許文献1~4などでは、入出力特性、急速充電特性、保存耐久性などが向上することはあるが、本質的な解決には至らず、まだ十分ではなかった。一般に、黒鉛負極において、黒鉛の被覆などによってリチウムの挿入脱離反応に寄与する黒鉛表面を減らすと、保存時に黒鉛表面で電解液の還元分解膜が生成及び蓄積することが抑制され、保存耐久性が高くなる傾向がある。一方で、黒鉛の被覆などによってリチウムの挿入脱離反応に寄与する黒鉛表面を減らすと、反応抵抗が増大し、入出力特性や急速充電特性が低くなる傾向がある。このため、反応抵抗の低減と保存耐久性の向上を両立させることは困難であった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、反応抵抗をより低く保存耐久性をより高くできる、炭素材、電極及びリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、電極活物質として、液体窒素温度でのKr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m2/g以下であり、Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV0.2とすると、V0.1/Vmが1.5以下であり、V0.2/Vmが2.5以上である炭素材を用いたリチウム二次電池では、反応抵抗がより低く保存耐久性がより高いことを見出し、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の炭素材は、
電極活物質に用いられる炭素材であって、
黒鉛粒子を含み、
液体窒素温度でのKr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m2/g以下であり、前記Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV0.2とすると、V0.1/Vmが1.5以下であり、V0.2/Vmが2.5以上である、
ものである。
【0008】
本開示の電極は、
上述の炭素材を含むものである。
【0009】
本開示のリチウム二次電池は、
上述の電極と、
リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0010】
本開示の炭素材の製造方法は、
電極活物質に用いられる炭素材の製造方法であって、
原料黒鉛粒子と被覆原料とを含む混合原料を得る調合工程と、
前記混合原料を、不活性雰囲気で200℃以上350℃以下に含まれる第1温度で熱処理し、その後不活性雰囲気で900℃以上1200℃以下に含まれる第2温度で熱処理して前記炭素材を得る熱処理工程と、
を含み、
前記炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m2/g以下であり、前記Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV0.2とすると、V0.1/Vmが1.5以下であり、V0.2/Vmが2.5以上である前記炭素材が得られる条件で前記調合工程及び前記熱処理工程を行う、
ものである。
【0011】
本開示の電極活物質の選定方法は、
黒鉛粒子を含む炭素材から電極活物質を選定する選定方法であって、
前記炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線を取得し、前記Kr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m2/g以下であり、前記Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV0.2とすると、V0.1/Vmが1.5以下であり、V0.2/Vmが2.5以上である前記炭素材を電極活物質として選定する、
ものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示の炭素材、電極、リチウム二次電池、炭素材の製造方法及び電極活物質の選定方法では、反応抵抗をより低く保存耐久性をより高くできる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、BET比表面積が7.0m2/g以下では、固液界面量が少なく、保存時における電解液の還元分解被膜の生成や蓄積が抑制されるため、保存耐久性がより高くなると推察される。また、V0.1/Vmが1.5以下では、電解液の還元分解被膜が蓄積されるような広い黒鉛表面が少なく、保存時における電解液の還元分解被膜の蓄積が抑制されるため、保存耐久性がより高くなると推察される。また、V0.2/Vmが2.5以上では、リチウムの挿入脱離反応に寄与する黒鉛表面に至るリチウムの移動経路(細孔など)が多く存在するため、反応抵抗がより低くなると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線の一例を示す説明図。
【
図2】本開示のリチウム二次電池20の一例を示す模式図。
【
図4】実験例1,6,8の液体窒素温度でのKr吸着等温線。
【
図5】実験例1~14の反応抵抗Rct相対値と保存容量維持率のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[炭素材]
本開示の炭素材は、電極活物質に用いられる炭素材であって、黒鉛粒子を含む。炭素材に含まれる黒鉛粒子としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などが挙げられる。また、この黒鉛粒子は、機械的な形状制御を施されたものとしてもよく、例えば、黒鉛粒子の角をとったり、球形となるように丸めたり、粉砕されたものであってもよい。このような形状制御により、選択的配向を抑制し、リチウムイオンの挿入、脱離の阻害を抑制することができると考えられる。黒鉛粒子は、天然黒鉛(形状制御を施していても施していなくてもよい)であることが好ましい。天然黒鉛は、一般的に、黒鉛化の処理が必要な人造黒鉛よりも安価だからである。また、天然黒鉛は人造黒鉛よりも保存耐久性が低い場合が多く、本開示により保存耐久性を高める意義が高いからである。黒鉛粒子は、鱗片状天然黒鉛及び球形化天然黒鉛のうちの1以上としてもよい。
【0015】
この炭素材において、黒鉛粒子は、非晶質炭素で被覆されていることが好ましい。この非晶質炭素被覆は、黒鉛粒子の表面全体を均一に覆っているものであることが好ましい。このようにすれば、よりばらつきの少ない材料とすることができ、電極容量をより適切に制御できると考えられる。この非晶質炭素被覆の厚さは特に限定されないが、例えば、10nm以上200nm以下の範囲であることが好ましく、20nm以上150nm以下の範囲であることがより好ましい。この範囲では、リチウムイオンの挿入、脱離が行いやすく、また比表面積を適切な値に制御することができる。非晶質炭素は、その原料や製法が特に限定されるものではないが、例えば、石炭系又は石油系のピッチ・タール類(ピッチ、タール、タールピッチ、重質油(例えばアスファルト)など)を炭化したものとしてもよい。また、熱硬化性樹脂(レゾール型フェノール樹脂やフラン樹脂など)、熱可塑性樹脂(ノボラック型フェノール樹脂やポリアクリロニトリル(PAN)樹脂など)、などの樹脂類を炭化したものとしてもよい。この非晶質炭素被覆は、非晶質炭素のほかに非晶質炭素の原料の残留物を含んでいてもよい。また、この非晶質炭素被覆は、結晶性の部分を含んでいてもよい。この炭素材は、黒鉛粒子が80重量%以上であるものとしてもよく、90重量%以上であるものとしてもよいし、95重量%以上であるものとしてもよい。
【0016】
この炭素材は、液体窒素温度(-196℃)でのKr(クリプトン)吸着等温線から求めたBET比表面積(BETの式から求めた比表面積)が7.0m2/g以下であり、このKr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm[cm3/g]、圧力0.1kPaでの吸着量をV0.1[cm3/g]、圧力0.2kPaでの吸着量をV0.2[cm3/g]とすると、V0.1/Vmが1.5以下であり、V0.2/Vmが2.5以上である。なお、BET比表面積S[m2/g]と単分子層吸着量Vm[cm3/g]との間には、S=4.35×Vmの関係がある。BET比表面積が7.0m2/g以下では、固液界面量が少なく、保存時における電解液の還元分解被膜の生成や蓄積が抑制されるため、保存耐久性がより高くなると考えられる。また、V0.1/Vmが1.5以下では、詳しくは後述するが、黒鉛表面が非晶質炭素でもれなく被覆されていることなどにより、電解液の還元分解被膜が蓄積されるような広い黒鉛表面が少なく、保存時における電解液の還元分解被膜の蓄積が抑制されるため、保存耐久性がより高くなると考えられる。また、V0.2/Vmが2.5以上では、詳しくは後述するが、黒鉛表面の非晶質炭素の被覆に細孔が形成されていることなどにより、リチウムの挿入脱離反応に寄与する黒鉛表面に至るリチウムの移動経路が多く存在するため、反応抵抗がより低くなると考えられる。
【0017】
図1に、本開示の炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線の一例を実線で示す。また、
図1には、炭素材に含まれる黒鉛粒子の液体窒素温度でのKr吸着等温線の一例を破線で示し、本開示外の炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線の一例を一点鎖線で示す。なお、
図1では、横軸は相対圧ではなく圧力P[kPa]とし、縦軸は吸着量V[cm
3/g]について単分子層吸着量Vm[cm
3/g]を1として規格化した値、つまりV/Vmとした。
図1において、本開示の炭素材の一例では、V
0.1/Vmが1.5以下であり、V
0.2/Vmが2.5以上である。一方、黒鉛粒子の一例では、V
0.1/Vmが1.5を超え、本開示外の炭素材の一例では、V
0.2/Vmが2.5未満である。
【0018】
図1において、黒鉛粒子の一例では、圧力を0.05kPaから0.1kPaまで増加させる間にV/Vmの急激な増加が見られ、ステップ状になっている。堀川らの「グラファイト表面への気体吸着」(Acc. Mater. Surf. Res., 3, 51-62 (2018))によれば、黒鉛表面へのKr吸着挙動は、黒鉛表面にKrが層形成をしながらステップ状に吸着量が増加し、IUPAC分類におけるVI型の吸着等温線を示すとされている。これは、黒鉛表面に存在するベーサル面が、規則正しくsp2炭素が配列した六角網面から成り、そのベーサル面でKrが凝集層を形成しながら吸着するためとされている。このことから、圧力0.05kPa以上0.1kPa以下の範囲内でのV/Vmの急激な増加は、黒鉛表面へのKrの2層目の規則的な吸着を示唆していると考えられる。黒鉛表面へのKrの2層目の吸着が規則的でない場合には、本開示の炭素材の一例及び本開示外の炭素材の一例のように、圧力0.05kPa以上0.1kPa以下の範囲内でV/Vmが滑らかに増加し、V
0.1/Vmが1.5以下となると考えられる。本開示の炭素材の一例及び本開示外の炭素材の一例では、規則配列した黒鉛結晶構造表面に非晶質炭素成分が重畳されることで、Krの規則的な吸着層形成が困難になるため、圧力0.05kPa以上0.1kPa以下の範囲内でのV/Vmの急激な増加が生じないと考えられる。以上より、V
0.1/Vmが1.5以下のであることは、黒鉛粒子表面が非晶質炭素層等でもれなく被覆され、黒鉛表面が広く露出した部分がほとんどないないことを示唆していると考えられる。
【0019】
図1において、圧力が0.1kPaを超えると、さらなるKr吸着量の増加がみられる。本開示外の炭素材の一例ではその増加が小さいのに対して、本開示の炭素材の一例ではKr吸着量が増加が大きい。このことから、V
02/Vmが2.5以上であることは、炭素材表面(例えば黒鉛粒子表面に形成された非晶質炭素等の被覆)に細孔が存在することを示唆していると考えられる。つまり、細孔内でのKrの凝集によってKr吸着量が増大し、V
02/Vmが2.5以上になると考えられる。
【0020】
この炭素材において、BET比表面積は、例えば、3.0m2/g以上としてもよく、3.5m2/g以上としてもよく、4.0m2/g以上としてもよい。また、BET比表面積は、6.9m2/g以下としてもよい。V0.1/Vmの値は、例えば、1.0超過としてもよく、1.2以上としてもよく、1.3以上としてもよい。V0.2/Vmの値は、例えば、4.0以下としてもよく、3.8以下としてもよく、3.5以下としてもよい。この炭素材は、上述のKr吸着等温線から求めた圧力0.15kPaでの吸着量をV0.15[cm3/g]とすると、V0.15/Vmが1.6以上2.4以下であるものとしてもよく、1.7以上2.3以下であるものとしてもよく、1.8以上2.2以下であるものとしてもよい。また、この炭素材では、Kr吸着等温線の圧力0.05kPa以上0.1kPa以下の範囲において、圧力が0.005kPaだけ増加したときに、吸着量Vを単分子層吸着量Vmで除した値V/Vmの増分Xが0.2を超えるような急激な増加が見られないことが好ましい。増分Xが0.2を超えるような急激な増加は、黒鉛表面へのKrの2層目の規則的な吸着を示唆し、電解液の還元分解被膜が蓄積できる黒鉛表面が多いことを示していると考えられる。こうした急激な増加が見られないものでは、電解液の還元分解膜の蓄積できる黒鉛表面が少ないため、還元分解膜の蓄積が少なく、保存耐久性が高いと考えられる。また、この炭素材では、Kr吸着等温線において、圧力が0.1kPaから0.2kPaまで増加したときに、値V/Vmの増分Yが1.0超過3.0以下であることが好ましく、1.2以上2.8以下であることがより好ましく、1.5以上2.5以下であることがさらに好ましい。増分Yがこうした範囲を満たすものでは、黒鉛表面の非晶質炭素の被覆に細孔が好適に形成されていることなどにより、リチウムの挿入脱離反応に寄与する黒鉛表面が好適な状態で露出しており、反応抵抗がより低く保存耐久性がより高いと考えられる。
【0021】
この炭素材は、レーザー回折法で測定したメディアン径D50が1μm以上100μm以下であるものとしてもよく、3μm以上30μm以下であるものとしてもよく、5μm以上25μm以下であるものとしてもよい。また、この炭素材は、真比重が1.5~2.3であるものとしてもよく、2.0~2.3であるものとしてもよい。
【0022】
[炭素材の製造方法]
本開示の炭素材の製造方法は、電極活物質に用いられる炭素材の製造方法であって、調合工程と、熱処理工程と、を含む。 調合工程及び熱処理工程は、炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m2/g以下であり、Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV0.2とすると、V0.1/Vmが1.5以下であり、V0.2/Vmが2.5以上である炭素材が得られる条件で行う。炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線に関連する事項(BET比表面積、V0.1/Vm、V0.2/Vm、V0.15/Vm、増分X、増分Yの好適範囲等)は、上述の炭素材で説明したものを適宜採用できる。こうした炭素材料が得られる条件は、原料黒鉛粒子や被覆原料の材質や形状・寸法に応じて経験的に定めることができる。この炭素材の製造方法は、上述の炭素材を製造する製造方法としてもよい。
【0023】
(調合工程)
この工程では、原料黒鉛粒子と被覆原料とを含む混合原料を得る。原料黒鉛粒子としては、上述の炭素材に含まれる黒鉛粒子と同様、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などが挙げられる。また、この原料黒鉛粒子は、機械的な形状制御を施されたものとしてもよい。原料黒鉛粒子は、天然黒鉛(形状制御を施していても施していなくてもよい)であることが好ましい。原料黒鉛粒子は、鱗片状天然黒鉛及び球形化天然黒鉛のうちの1以上としてもよい。原料黒鉛粒子は、レーザ回折法で測定したメディアン径D50が、1μm以上100μm以下のものとしてもよく、3μm以上30μm以下のものとしてもよく、5μm以上25μm以下のものとしてもよい。また、原料黒鉛粒子は、真比重が1.5~2.3であるものとしてもよく、2.0~2.3であるものとしてもよい。
【0024】
被覆原料としては、例えば、石炭系又は石油系のピッチ・タール類(ピッチ、タール、タールピッチ、重質油(例えばアスファルト)など)が挙げられる。ピッチ・タール類としては、コールタールピッチを好適に用いることができる。また、被覆原料としては、例えば、熱硬化性樹脂(レゾール型フェノール樹脂やフラン樹脂など)や、熱可塑性樹脂(ノボラック型フェノール樹脂やポリアクリロニトリル(PAN)樹脂など)などの、樹脂類が挙げられる。樹脂類としてはフェノール樹脂を好適に用いることができる。
【0025】
この工程では、原料黒鉛粒子に対して1質量%超過15質量%以下の割合で被覆原料を調合することが好ましい。被覆原料としてコールタールピッチなどのピッチ・タール類を用いる場合には、原料黒鉛粒子に対して1質量%超過10質量%未満や2質量%以上7質量%以下の割合で被覆原料を調合することが好ましい。被覆原料としてピッチ・タール類を用いる場合のうち、原料黒鉛粒子として球形化黒鉛のように比表面積(BET比表面積ではなく、単位重量あたりの外表面の面積、以下同じ)が比較的小さいものを用いる場合には、原料黒鉛粒子に対して1質量%超過5質量%未満や2質量%以上3質量%以下の割合で被覆原料を調合することが好ましい。また、被覆原料としてピッチ・タール類を用い、原料黒鉛粒子として鱗状黒鉛や鱗片状黒鉛のように比表面積が比較的大きいものを用いる場合には、原料黒鉛粒子に対して2質量%超過10質量%未満や3質量%以上7質量%以下の割合で被覆原料を調合することが好ましい。被覆原料としてフェノール樹脂などの樹脂類を用いる場合には、原料黒鉛粒子に対して5質量%以上15質量%以下や8質量%以上12質量%以下の割合で被覆原料を調合することが好ましい。これらの条件で原料黒鉛粒子と被覆原料とを調合すると、BET比表面積、V0.1/Vm及びV0.2/Vmが上述の範囲内である炭素材が得られやすい。なお、エネルギー密度を高める観点で原料黒鉛粒子として比表面積のより小さいもの(例えば粒径の大きい球形化黒鉛粒子など)を用いることがあるが、その場合には、原料黒鉛粒子に対する被覆原料の割合をより少なくする(例えば0.1質量%以上1質量%以下にする)のが好適な場合もある。
【0026】
この工程では、ミキサーやポットミル、乳鉢などを用いて原料黒鉛粒子と被覆原料とを混合してもよく、その際には被覆原料を溶媒に溶解させて用いてもよい。溶媒は、被覆原料を溶解させられるものであれば、水系溶媒でも非水系溶媒(有機溶媒や中質油等)でもよい。被覆原料としてフェノール樹脂を用いる場合には水に溶解させて用いることが好ましい。溶媒を用いた場合には、熱処理工程の前に溶媒を蒸発等で除去することが好ましい。
【0027】
(熱処理工程)
この工程では、混合原料を、不活性雰囲気で200℃以上350℃以下に含まれる第1温度で熱処理し(以下では第1熱処理とも称する)、その後不活性雰囲気で900℃以上1200℃以下に含まれる第2温度で熱処理して(以下では第2熱処理とも称する)、炭素材を得る。この工程では、第1熱処理によって原料黒鉛粒子表面に被覆原料が好適な状態で(例えば均一に)被覆され、第2熱処理によって被覆原料が好適な状態で炭化して非晶質炭素になることで、黒鉛粒子が非晶質炭素で被覆された炭素材が得られる。第1熱処理及び第2熱処理を行う不活性雰囲気としては、例えば、希ガス雰囲気、窒素雰囲気などが挙げられ、このうちAr雰囲気が好ましい。第1熱処理及び第2熱処理の時間は、例えば10分以上5時間以下や30分以上2時間以下としてもよく、各々個別に設定すればよい。なお、第1温度で熱処理するとは、熱処理装置の設定を第1温度一定の設定にする程度でよく、第1温度を厳密に一定に保つことまでは要さない。例えば、第1温度±10℃以内や、第1温度±5℃以内、第1温度±2.5℃以内などの範囲で変動してもよい。また、第2温度で熱処理するとは、熱処理装置の設定を第2温度一定の設定にする程度でよく、第2温度を厳密に一定に保つことまでは要さない。例えば、第2温度±20℃以内や、第2温度±10℃以内、第2温度±5℃以内などの範囲で変動してもよい。
【0028】
この工程では、混合原料を、第1温度まで昇温させる昇温処理(以下では第1昇温とも称する)を行うことが好ましい。第1昇温時の昇温速度は、1℃/min以上50℃/min以下としてもよいし、3℃/min以上30℃/min以下としてもよいし、5℃/min以上15℃/min以下としてもよい。第1昇温は、被覆原料としてピッチ・タール類のような酸素含有量の比較的少ないものを用いる場合には、酸素含有雰囲気で行うことが好ましい。これにより、被覆原料に酸素が導入され、この酸素が第2熱処理での被覆原料の炭化において「つなぎ」の役割をして、炭化収率が向上すると考えられるからである。第1昇温を行う酸素含有雰囲気の酸素濃度は、例えば1%以上50%以下としてもよく、10%以上30%以下としてもよく、15%以上25%以下としてもよい。第1昇温を行う酸素含有雰囲気は、空気雰囲気とすることが好ましい。第1昇温を酸素含有雰囲気で行う場合、第1温度に到達したら、熱処理装置内を真空引きしてから不活性ガスを導入して第1熱処理を行ってもよい。第1昇温は、被覆原料としてフェノール樹脂のような酸素含有量の比較的多いものを用いる場合には、不活性雰囲気で行うことが好ましく、第1熱処理を行う不活性雰囲気と同じ雰囲気で行うことが好ましい。被覆原料の酸素含有量が比較的多い場合には、酸素を導入しなくても炭化収率がよいため、不活性雰囲気で第1昇温を行った方が、熱処理装置から酸素を除去する操作が不要で、効率よく熱処理できるからである。第1昇温を行う不活性雰囲気としては、例えば、希ガス雰囲気、窒素雰囲気などが挙げられ、このうちAr雰囲気が好ましい。また、この工程では、第1熱処理に引き続いて、第1熱処理後の混合原料を第2温度まで昇温させる昇温処理(以下では第2昇温とも称する)を行うことが好ましい。第2昇温時の昇温速度は、1℃/min以上50℃/min以下としてもよいし、3℃/min以上30℃/min以下としてもよいし、5℃/min以上15℃/min以下としてもよい。第2昇温は、不活性雰囲気で行うことが好ましい。第2昇温を行う不活性雰囲気としては、例えば、希ガス雰囲気、窒素雰囲気などが挙げられ、このうちAr雰囲気が好ましい。第2熱処理後の降温処理は特に限定されず、放冷としてもよい。これらの条件で第1熱処理、第2熱処理、第1昇温、第2昇温などを行うと、BET比表面積、V0.1/Vm及びV0.2/Vmが上述の範囲内である炭素材が得られやすい。
【0029】
(電極活物質の選定方法)
本開示の電極活物質の選定方法は、黒鉛粒子を含む炭素材から電極活物質を選定する選定方法である。炭素材は、黒鉛粒子が非晶質炭素で被覆されているものとしてもよい。この選定方法では、炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線を取得し、Kr吸着等温線から求めたBET比表面積が7.0m2/g以下であり、Kr吸着等温線から求めた単分子層吸着量をVm、圧力0.1kPaでの吸着量をV0.1、圧力0.2kPaでの吸着量をV0.2とすると、V0.1/Vmが1.5以下であり、V0.2/Vmが2.5以上である炭素材を電極活物質として選定する。BET比表面積、V0.1/Vm及びV0.2/Vmが上述の範囲内である炭素材をリチウム二次電池の電極活物質に用いると、反応抵抗をより低く保存耐久性をより高くできるため、電極活物質の選定方法として好ましい。炭素材の液体窒素温度でのKr吸着等温線に関連する事項(BET比表面積、V0.1/Vm、V0.2/Vm、V0.15/Vm、増分X、増分Yの好適範囲等)は、上述の炭素材で説明したものを適宜採用できる。
【0030】
(電極)
本開示の電極は、上述の炭素材を含む。この電極では、上述の炭素材が電極活物質に用いられる。この電極に含まれる炭素材は、例えば、上述の炭素材の製造方法で得られたものとしてもよいし、上述の電極活物質の選定方法で選定したものとしてもよい。この電極は、例えば、炭素材の電極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、炭素材の電極活物質と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものとしてもよい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。電極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。この電極は、例えばリチウム二次電池の正極や負極に用いることができ、リチウムイオン二次電池の負極に用いることが好ましい。
【0031】
(リチウム二次電池)
本開示のリチウム二次電池は、上述の電極と、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。このリチウム二次電池は、上述の電極を負極とするリチウムイオン二次電池としてもよい。即ち、このリチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵、放出する正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵、放出する上述した炭素材を負極活物質として有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えているものとしてもよい。
【0032】
このリチウム二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV2O3などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素(例えばAlやMgなど)を含んでもよい趣旨である。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。正極に用いられる結着材、溶剤、塗布方法などは、それぞれ上述の電極で例示したものを用いることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、上述の電極で例示したものと同様のものを用いることができる。
【0033】
このリチウム二次電池の負極としては、上述の電極を用いることができる。この負極では、上述の炭素材が負極活物質に用いられる。
【0034】
このリチウム二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、比誘電率が比較的高く、電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。
【0035】
支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0036】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0037】
このリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0038】
このリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図2は、本開示のリチウム二次電池20の一例を示す模式図である。このリチウム二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。このリチウム二次電池20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。この負極23は、上述した炭素材を負極活物質として含んでいる。
【0039】
以上詳述した炭素材、電極、リチウム二次電池、炭素材の製造方法及び電極活物質の選定方法では、反応抵抗をより低く保存耐久性をより高くできる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、BET比表面積が7.0m2/g以下では、固液界面量が少なく、電解液の還元分解被膜の蓄積が抑制されるため、保存耐久性がより高くなると推察される。また、V0.1/Vmが1.5以下では、電解液の還元分解被膜が蓄積できる黒鉛表面が少なく、電解液の還元分解被膜の蓄積が抑制されるため、保存耐久性がより高くなると推察される。また、V0.2/Vmが2.5以上では、リチウムの挿入脱離反応に寄与する黒鉛表面に至るリチウムの移動経路(細孔など)が多く存在するため、反応抵抗がより低くなると推察される。
【0040】
なお、本開示の炭素材、電極、リチウム二次電池、炭素材の製造方法及び電極活物質の選定方法は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0041】
以下には、本開示の炭素材、電極及びリチウム二次電池を具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例1~5が実施例に該当し、実験例6~14が比較例に該当する。
【0042】
[実験例1]
1.炭素材の作製
球形化天然黒鉛(原料黒鉛粒子、日本黒鉛工業製、CGB-10、レーザー回折法で測定したメディアン径D50=9.8μm))10gとコールタールピッチ(被覆原料、JFEケミカル製)を原料黒鉛粒子に対して2質量%となるようにミキサーで混合した(0.2g)。その後、アルミナ坩堝に混合粉末を入れて、10℃/minの昇温速度で室温から300℃(第1温度)まで昇温し(第1昇温)、300℃で1時間保持し(第1熱処理)、10℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温し(第2昇温)、1000℃(第2温度)で1時間保持し(第2熱処理)、その後、室温まで放冷して、黒鉛粒子表面に非晶質炭素層を被覆した。第1昇温は空気雰囲気(airフロー)で行い、300℃に到達後airを停止して熱処理装置内を真空引きしてからAr導入に切り替え、それ以降はAr雰囲気(Arフロー)で熱処理を行った。
図3に、実験例1の熱処理の温度プロファイルを示す。
【0043】
2.Kr吸着測定
得られた炭素材をガス吸着管に入れた後、150℃にて真空乾燥を実施した。その後、ガス吸着装置(日本ベル製、BELSORP-MAX)を用いて液体窒素温度(-196℃)で冷却をしながKrガス吸着測定を実施した。得られた吸着等温線より、BETの関係式よりBET比表面積(m2/g)を算出した。また、BET比表面積を算出する際に得られる単分子吸着量Vm(cm3/g)を用いて、吸着等温線の縦軸V(クリプトン吸着量、cm3/g)を除したV/Vmを算出した。
【0044】
3.電極(負極)の作製
上記炭素材とカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとを98:1:1の質量比で水溶媒とともに混合して得られたスラリーを銅箔上に塗布した。真空乾燥をしたのち、ロールプレス機で圧延処理を施すことにより電極シートを作製した。
【0045】
4.リチウム二次電池の作製
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2と導電材としてのカーボンブラック(デンカ製、HS-100)と結着材としてのPVDF(クレハ製、#7300)とを90:6:4の質量比で混合してAl箔に塗工することで、上記負極と組み合わせる正極を作製した。セパレータを介して正極と負極を対向させた後、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒にLiPF6を1Mとなるように加えた電解液を注入することで、ラミネートセルを作製した。
【0046】
5.リチウム二次電池の評価
数サイクルのコンディショニング充放電を行ったのち、-10℃、3.7V(SOC50%)にて交流インピーダンス測定(振幅電圧5mV、周波数範囲100k~0.01Hz)を行った。インピーダンススペクトルでは2つの円弧成分が得られ、高周波数側は集電などの電子抵抗成分、低周波数側が負極および正極の反応抵抗に帰属される。得られたインピーダンススペクトルを等価回路フィッティングすることにより低周波数側円弧の抵抗を算出し、これを反応抵抗Rctとした。また、ラミネートセルを4.1V(SOC100%)に調整した後、60℃にて30日間の保存試験を行い、保存試験前の放電容量に対する放電試験後の放電容量の割合を示す放電容量維持率を評価した。放電容量は、1mA(1/10C相当)で2.5Vまで定電流放電を行ったときの容量とした。
【0047】
[実験例2]
第1熱処理の温度を250℃に変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0048】
[実験例3]
第2熱処理の温度を1100℃に変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0049】
[実験例4]
原料黒鉛粒子を、鱗片状天然黒鉛(伊藤黒鉛工業製、CNP15、レーザー回折法で測定したメディアン径D50=14.25μm)に変更し、原料黒鉛粒子に対する被覆原料の割合を5質量%に変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0050】
[実験例5]
被覆原料をフェノール樹脂に変更し、原料黒鉛粒子に対する被覆原料の割合を10質量%に変更し、熱処理を全てAr雰囲気(Arフロー)で行った以外は、実験例1と同様とした。実験例5では、具体的には、フェノール樹脂水溶液(旭有機材製、KD802、レゾール型、不揮発分72%)を水で薄めた希薄溶液を用い、フェノール樹脂の不揮発成分が原料黒鉛粒子に対して10質量%となるように混合し、蒸発乾固した後、Ar雰囲気で実験例1と同じ温度プロファイルで熱処理を実施して、炭素材を得た。
【0051】
[実験例6]
原料黒鉛粒子をそのまま炭素材として用いた以外は、実験例1と同様とした。
【0052】
[実験例7]
被覆原料を加えず原料黒鉛粒子のみ熱処理した以外は、実験例1と同様とした。
【0053】
[実験例8]
原料黒鉛粒子に対する被覆原料の割合を5質量%に変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0054】
[実験例9]
原料黒鉛粒子に対する被覆原料の割合を10質量%に変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0055】
[実験例10]
原料黒鉛粒子に対する被覆原料の割合を1質量%に変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0056】
[実験例11]
第1熱処理を省略し、熱処理開始時からAr雰囲気(Arフロー)とした以外は、実験例1と同様とした。
【0057】
[実験例12]
原料黒鉛粒子を鱗片状天然黒鉛(伊藤黒鉛工業製、CNP7、レーザー回折法で測定したメディアン径D50=6.38μm)に変更し、原料黒鉛粒子をそのまま炭素材として用いた以外は、実験例1と同様とした。
【0058】
[実験例13]
原料黒鉛粒子を鱗片状天然黒鉛(伊藤黒鉛工業製、CNP7)に変更し、原料黒鉛粒子に対する被覆原料の割合を10質量%に変更した以外は、実験例1と同様とした。
【0059】
[実験例14]
原料黒鉛粒子を鱗片状天然黒鉛(伊藤黒鉛工業製、CNP15)に変更し、原料黒鉛粒子をそのまま炭素材として用いた以外は、実験例1と同様とした。
【0060】
[結果と考察]
図4に、実験例1,6,8の液体窒素温度でのKr吸着等温線を示す。なお、
図4では、横軸は相対圧ではなく圧力P[kPa]とし、縦軸は吸着量V[cm
3/g]について単分子層吸着量Vm[cm
3/g]を1として規格化した値、つまりV/Vmとした。実験例1~14について、炭素材のBET比表面積、V
0.1/Vm値、V
0.2/Vm値および反応抵抗Rct相対値(実験例6の反応抵抗Rctを100として規格化した値)と保存容量維持率を表1に示す。また、
図5に、実験例1~14の反応抵抗Rct相対値と保存容量維持率のグラフを示す。BET比表面積7.0m
2/g以下、V
0.1/Vmの値が1.5以下、V
0.2/Vmの値が2.5以上の全てを満たす炭素材を用いた実験例1~5では、Rctの相対値が90以下と低く、保存容量維持率が90%以上と高かった。このことから、BET比表面積7.0m
2/g以下、V
0.1/Vmの値が1.5以下、V
0.2/Vmの値が2.5以上の全てを満たす炭素材を負極として用いたリチウム二次電池では、反応抵抗の低減および高い保存容量維持率の両立が可能であることがわかった。
【0061】
V0.1/Vmが1.5超過の実験例6,7,10,12,14では、いずれも保存容量維持率が低かった。V0.1/Vmが1.5超過の炭素材では、黒鉛表面に非晶質炭素層が均一に形成されておらず、黒鉛表面の露出が多いため、保存時に黒鉛表面で電解液の還元分解膜が生成及び蓄積しやすく、保存容量維持率が低いと推察された。これに対して、V0.1/Vmが1.5以上の本開示の炭素材では、黒鉛表面に非晶質炭素が均一に形成されており、黒鉛表面の露出が少ないため、保存時に黒鉛表面で電解液の還元分解膜が生成及び蓄積しにくく、保存容量維持率が高いと推察された。
【0062】
V0.2/Vmが2.5未満の実験例8,9,13では、いずれも反応抵抗が大きかった。V0.2/Vmが2.5未満の炭素材では、炭素材表面の細孔等が少なく、リチウムの挿入脱離反応に寄与する黒鉛表面に至るリチウムの移動経路が少ないため、反応抵抗が高いと推察された。これに対して、V0.2/Vmが2.5以上の本開示炭素材では、炭素材の表面に適度な細孔が形成されており、リチウムの挿入脱離反応に寄与する黒鉛表面に至るリチウムの移動経路が多いため、反応抵抗が低いと推察された。
【0063】
BET比表面積が7.0m2/g超過の実験例6,7,10~12,14では、いずれも保存容量維持率が低かった。BET比表面積が7.0m2/g超過の炭素材では、固液界面量が多いため、電解液の還元膜が多く蓄積され、容量が低下したと推察された。これに対して、BET比表面積が7.0m2/g以下の本開示の炭素材では、固液界面量が少なく、電解液の還元分解膜が蓄積されにくいため、保存容量維持率が高いと推察された。
【0064】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示は、二次電池に関する技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
20 リチウム二次電池、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。