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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】炭素繊維複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/16 20060101AFI20241205BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20241205BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20241205BHJP
   B29C 70/34 20060101ALI20241205BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20241205BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20241205BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
B29B11/16
B32B27/04
B29C70/06
B29C70/34
B29K101:12
B29K105:08
B29L9:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021004967
(22)【出願日】2021-01-15
(65)【公開番号】P2022109573
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】野口 大輝
(72)【発明者】
【氏名】矢野 禎典
(72)【発明者】
【氏名】田草川 英昇
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206014(JP,A)
【文献】国際公開第2018/203552(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098470(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B32B 27/04
B29C 70/06
B29C 70/34
B29K 101/12
B29K 105/08
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を含む繊維基材に、熱可塑性樹脂を含む第1樹脂を含侵して成膜させてなるコア部と、前記コア部の表面を覆う、第2樹脂を含む被覆部とを有し、前記コア部と前記被覆部とは、互いに溶着されてなる炭素繊維複合体の製造方法であって、
前記繊維基材に前記第1樹脂を含侵させた後、前記第1樹脂を成膜して前記コア部を得る含浸・成膜工程と、
前記コア部の表面に前記被覆部を仮止めする仮止め工程と、
前記被覆部と前記コア部とを溶着させて炭素繊維複合体を得る溶着工程と、を有することを特徴とする炭素繊維複合体の製造方法。
【請求項2】
前記被覆部は、前記第2樹脂からなる第1領域と、前記第2樹脂とは組成の異なる第3樹脂からなる第2領域と、を有することを特徴とする、請求項1に記載の炭素繊維複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合体、炭素繊維複合積層体、炭素繊維複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)は、強化材に炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックである。CFRPは軽量で高強度なため、自動車や航空機等の構成材料など、幅広い分野で用いられている。繊維強化複合材料の製造に用いる中間材料としては、例えば、強化繊維基材にマトリクス樹脂を含浸させたプリプレグがある。
【0003】
マトリックス樹脂としては従来、熱硬化性樹脂が主に用いられているが、プリプレグの製造後に目的の形状に成形させる際に、加工性が乏しかったり、耐候性の付加に難がある等により、適用用途が限定されるという課題があった。
【0004】
このため、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)の研究が盛んになっている。マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いることで、プリプレグの加工性や耐候性を向上させることができる(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、一般的に炭素繊維は所定方向に配列したシート状の織物材が用いられるが、熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂に比べて溶融粘度が高く、炭素繊維および繊維同士の隙間への含浸性が低いという課題があった。
【0006】
こうしたマトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた際の炭素繊維への含浸性を改善するために、例えば、ポリウレタンエマルジョン(水系エマルジョン状の熱可塑性ポリウレタン)をマトリックス樹脂として用いたCFRTPが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0007】
より具体的には、ポリウレタンエマルジョンをマトリックス樹脂として用いたCFRTPの一例として、炭素繊維一方向スティッチ織物材に、ポリウレタンエマルジョンをローラーで脱泡しながら浸漬を行い、乾燥した後、これを複数枚重ねてホットプレスすることにより、CFRTPの成形体を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-172798号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】日本大学生産工学部第52回学術講演会講演概要(2019-12-7)1-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に開示されたようなCFRTPは、使用する樹脂エマルジョンによって、その性状が特徴づけられるため、成形対象物に応じて専用の樹脂エマルジョンを開発する必要があり、性能設計、外観設計の自由度が低いという課題があった。こうした課題に対して、樹脂エマルジョンに架橋剤を使用することも考えられるが、コストアップや作業性の観点から、別途の溶剤の使用を避けたいといった要請もある。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いて、性能と外観を容易に設計することが可能な炭素繊維複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の炭素繊維複合体の製造方法は、炭素繊維を含む繊維基材に、熱可塑性樹脂を含む第1樹脂を含侵して成膜させてなるコア部と、前記コア部の表面を覆う、第2樹脂を含む被覆部とを有し、前記コア部と前記被覆部とは、互いに溶着されてなる炭素繊維複合体の製造方法であって、前記繊維基材に前記第1樹脂を含侵させた後、前記第1樹脂を成膜して前記コア部を得る含浸・成膜工程と、前記コア部の表面に前記被覆部を仮止めする仮止め工程と、前記被覆部と前記コア部とを溶着させて炭素繊維複合体を得る溶着工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明では、前記被覆部は、前記第2樹脂からなる第1領域と、前記第2樹脂とは組成の異なる第3樹脂からなる第2領域と、を有していてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いて、性能と外観を容易に設計することが可能な炭素繊維複合体、炭素繊維複合積層体、炭素繊維複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態の炭素繊維複合体を示す要部拡大断面図である。
図2】本発明の第2実施形態の炭素繊維複合体を示す要部拡大断面図である。
図3】本発明の第3実施形態の炭素繊維複合体を示す要部拡大断面図である。
図4】本発明の第1実施形態の炭素繊維複合積層体を示す要部拡大断面図である。
図5】本発明の第2実施形態の炭素繊維複合積層体を示す要部拡大断面図である。
図6】本発明の第3実施形態の炭素繊維複合積層体を示す要部拡大断面図である。
図7】本発明の第1実施形態の炭素繊維複合体の製造方法を段階的に示した要部拡大断面図である。
図8】本発明の第1実施形態の炭素繊維複合積層体の製造方法を段階的に示した要部拡大断面図である。
図9】本発明の第2実施形態の炭素繊維複合積層体の製造方法を段階的に示した要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の炭素繊維複合体、炭素繊維複合積層体、炭素繊維複合体の製造方法、炭素繊維複合積層体の製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
(炭素繊維複合体:第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の炭素繊維複合体を示す要部拡大断面図である。
炭素繊維複合体1は、炭素繊維を含む繊維基材11に、熱可塑性樹脂を含むマトリクス樹脂(第1樹脂)を含侵して成膜させた第1樹脂層12を含むコア部13を有する。
【0022】
繊維基材11としては、炭素繊維単体であってもよく、炭素繊維と他の繊維、例えば、アラミド繊維、ナイロン(登録商標)繊維、高強度ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維をボロン繊維とを混合したものであってもよい。
【0023】
炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維を例示できる。炭素繊維の形態は、特に限定されず、織布、不織布、連続繊維を一方向に引き揃えたシート状の形態、連続繊維を一定の長さに切り揃えた短繊維からなる炭素繊維などを例示できる。
【0024】
こうした第1樹脂層12は、繊維基材11が不意にほどけるのを防止するとともに、更なる樹脂との結合を促す。すなわち、複数のコア部13同士の積層を可能にし、また、その表面に他の機能層、例えば第2実施形態に示す被覆部の積層を可能にする。
第1樹脂層12は、少なくとも繊維基材11の繊維間の隙間を埋めるように形成されていればよく、更に繊維基材11の表面を覆うように形成されていてもよい。
【0025】
第1樹脂層12を構成するマトリクス樹脂としては、少なくとも熱可塑性樹脂を含んでいればよく、熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等)、ポリカーボネイト樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリロニトリル-スチレン混合樹脂を例示できる。
例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂はハンドリングやコストの面から好ましく、これらの粉体または液状体(エマルジョンなどを含む)を使用できる。
本実施形態では、マトリクス樹脂として繊維基材11に対して含浸性に優れたポリ塩化ビニル樹脂を用いた。
【0026】
第1樹脂層12を構成するマトリクス樹脂は、1種であっても、2種以上を混合したものであってもよい。
なお、マトリクス樹脂には、用途に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等の添加剤を配合してもよい。
【0027】
(炭素繊維複合体:第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態の炭素繊維複合体を示す要部拡大断面図である。
なお、第1実施形態と同様の構成には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
炭素繊維複合体10は、炭素繊維を含む繊維基材11に、熱可塑性樹脂を含むマトリクス樹脂(第1樹脂)を含侵して成膜させた第1樹脂層12を含むコア部13と、このコア部13の表面のうち、少なくとも一部を覆う第2樹脂を含む被覆部14とを有する。
【0028】
被覆部14は、コア部13に対して溶着され、コア部13を覆うように形成されている。本実施形態では、被覆部14は、シート状のコア部13の一面および他面をそれぞれ覆うように形成されている。
【0029】
被覆部14を構成する第2樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れも用いることができる。本実施形態では、被覆部14を構成する第2樹脂として、ポリ塩化ビニル樹脂を用いた。
【0030】
第2樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合には、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂を例示できる。
【0031】
第2樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合には、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等)、ポリカーボネイト樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂を例示できる。ポリアミド(ナイロン6(登録商標)、ナイロン66(登録商標)等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネイト、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブチレン-スチレン共重合体、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステル、アクリロニトリル-スチレン共重合体を例示できる。
【0032】
被覆部14を構成する第2樹脂は、第1樹脂層12を構成するマトリクス樹脂と同一の樹脂を用いることもできる。マトリクス樹脂(第1樹脂)と第2樹脂とを同一の樹脂とすれば、溶着時におけるコア部13と被覆部14との相溶性が高まり、コア部と被覆部14とが確実に溶着される。
【0033】
また、被覆部14を構成する第2樹脂をコア部13の一面および他面で互いに異なるものを用いることもできる。例えば、コア部13の一面の被覆部14を構成する第2樹脂として、柔軟性の高い樹脂を用い、また、コア部13の他面の被覆部14を構成する第2樹脂として、硬度の高い樹脂を用いることもできる。被覆部14の材料を適宜選択することにより、炭素繊維複合体10の強度、耐候性を高めるといった、機能を付加することができる。
【0034】
これにより、炭素繊維複合体10を任意の材料に貼り付けて用いる場合に、炭素繊維複合体10の一面及び他面を使い分けることで、例えば、角や凹凸のある部材に対しては柔軟性の高い第2樹脂で形成した被覆部14を有する面を適用すれば、貼り付け対象物の表面形状に追従して強固に張り付けることができる。
【0035】
これと同時に、貼り付け面の反対面は、例えば、硬度の高い第2樹脂で形成した被覆部14が露呈するので、外面強度が高められる。このように、互いに異なる複数の表面特性をもつ炭素繊維複合体10を形成することが可能である。
【0036】
コア部13に被覆部14を溶着するといった構成にすることで、被覆部14のコア部13への相溶性を備える面を利用して、任意の色味や意匠を持つシートを張り付けることで。デザイン性や視覚機能性を高めた炭素繊維複合体10を形成することもできる。
【0037】
なお、被覆部14を構成する第2樹脂には、必要に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等の添加剤を配合してもよい。
添加材によっては、被覆部14の樹脂の色味、光沢、柔軟性、対候性、導電性、強度、耐摩耗性などを高めることができる。
【0038】
本実施形態の炭素繊維複合体10によれば、熱可塑性樹脂を含むマトリクス樹脂(第1樹脂)を含侵して成膜させた第1樹脂層12を含むコア部13の表面を、第2樹脂を含む被覆部14で覆う(加飾する)ことで、コア部13の性状に限定されず、任意の性能と外観とを有する炭素繊維複合体10を容易に設計することができる。
【0039】
(炭素繊維複合体:第3実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態の炭素繊維複合体を示す要部拡大断面図である。
なお、第1実施形態の炭素繊維複合体と同一の構成部分には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
【0040】
この実施形態の炭素繊維複合体20は、コア部13の一面側に、第2樹脂からなる第1領域21と、この第1領域21に接し、第2樹脂とは組成の異なる第3樹脂からなる第2領域22と、を有する被覆部24Aが形成されている。また、コア部13の他面側に、第4樹脂からなる被覆部24Bが形成されている。
【0041】
本実施形態では、被覆部24Aの第1領域21を構成する第2樹脂として、シート状のポリ塩化ビニル樹脂を用いた。また、被覆部24Aの第2領域22を構成する第3樹脂として、シート状のアクリルゴムを用いた。更に、被覆部24Bを構成する第4樹脂として、硬質PVCシートを用いた。
【0042】
このように、熱可塑性樹脂を含むマトリクス樹脂(第1樹脂)を含侵して成膜させた第1樹脂層12を含むコア部13に、複数種の樹脂(第2樹脂、第3樹脂、第4樹脂)を区画して形成してなる被覆部24A,24Bを形成することによって、それぞれの領域をパッチとして使用可能にすることができる。これにより、パッチ単位の任意の組み合わせで所定の方向へのグリップや引き裂け防止といった機能を付加した炭素繊維複合体20を実現することができる。
【0043】
例えば、被覆部24Aとして低摩擦な第2樹脂を用い、被覆部24Bとして高摩擦な第2樹脂を用いて、平面視で複数の円形に形成すれば、滑り止め機能を有し、かつ、外観が水玉模様といった高い意匠性を有する炭素繊維複合体20を形成することもできる。
【0044】
また、例えば、被覆部24Aとして抗菌性の第2樹脂を用い、被覆部24Bとして文字等を象った第2樹脂を用いれば、抗菌機能を有し、かつ、メッセージを伝達可能な炭素繊維複合体20を形成することもできる。
【0045】
(炭素繊維複合積層体:第1実施形態)
図4は、本発明の第1実施形態の炭素繊維複合積層体を示す要部拡大断面図である。
なお、第1実施形態の炭素繊維複合体と同一の構成部分には同一の番号を付し、重複する説明を省略する。
【0046】
本実施形態の炭素繊維複合積層体30は、第1実施形態の炭素繊維複合体10を複数、積層したものからなる。具体的には、複数(本実施形態では3つ)の炭素繊維複合体10を積み重ねて、それぞれの炭素繊維複合体10の被覆部14どうしを互いに溶着して一体化した構成となっている。
【0047】
このような構成の炭素繊維複合積層体30によれば、任意の数の炭素繊維複合体10を積層して、互いに被覆部14どうしを溶着させるだけで、目的の成形物に必要な厚みをもった炭素繊維複合積層体30を容易に形成することができる。
【0048】
(炭素繊維複合積層体:第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態の炭素繊維複合積層体を示す要部拡大断面図である。
本実施形態の炭素繊維複合積層体40は、第1実施形態の炭素繊維複合体10を複数、積層したものからなる。具体的には、複数(本実施形態では2つ)の炭素繊維複合体40A,40Bを積み重ねて、それぞれの炭素繊維複合体40A,40Bの被覆部44A,44Bどうしを互いに溶着して一体化した構成となっている。
【0049】
ここで用いている炭素繊維複合体40Aの被覆部44Aは、第2樹脂として、例えばシート状のポリ塩化ビニル樹脂から構成されている。また、炭素繊維複合体40Bの被覆部44Bは、第2樹脂として、例えばシート状のアクリルゴムから構成されている。
【0050】
このように、互いに構成する樹脂の組成が異なる第2樹脂を用いた被覆部44A,44Bを有する炭素繊維複合体40A,40Bを溶着して一体化した炭素繊維複合積層体40によれば、炭素繊維複合積層体40の一面側と他面側とで互いに異なる性状をもつようにすることができる。また、任意の組成の第2樹脂を組み合わせた被覆部44A,44Bを有する炭素繊維複合体40A,40Bを溶着して一体化した炭素繊維複合積層体40にすることで、適用する成形物に必要な物理的特性、化学的特性に容易に対応することができる。
【0051】
(炭素繊維複合積層体:第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態の炭素繊維複合積層体を示す要部拡大断面図である。
本実施形態の炭素繊維複合積層体50は、第1実施形態の炭素繊維複合体10を構成するコア部13を複数(本実施形態では3つ)積層し、このコア部積層物51の表面に第2樹脂からなる被覆部54を溶着して一体化した構成となっている。
【0052】
このように、複数のコア部13を互いに溶着したコア部積層物51の表面に、第2樹脂からなる被覆部54を溶着して一体化した炭素繊維複合積層体50によれば、コア部13の積層数を任意に選択することで、適用する成形物に必要な物理的強度を備えた炭素繊維複合積層体50を容易に実現することができる。
【0053】
なお、重ねるコア部13どうしの繊維基材11のそれぞれの繊維方向が互いに異なるように溶着することで、炭素繊維複合積層体50の強度を容易に高めることができる。
【0054】
(炭素繊維複合体の製造方法、炭素繊維複合積層体の製造方法:第1実施形態)
図7は、本発明の第1実施形態の炭素繊維複合体の製造方法を段階的に示した要部拡大断面図である。図8は、本発明の第1実施形態の炭素繊維複合積層体の製造方法を段階的に示した要部拡大断面図である。
【0055】
第1実施形態の炭素繊維複合体および第1実施形態の炭素繊維複合積層体を製造する際には、まず、図7(a)に示すように、熱可塑性樹脂を含む第1樹脂の含浸液Qに繊維基材11を含侵させた後、図7(b)に示すように、第1樹脂を成膜して第1樹脂層12を有するコア部13を形成する(含浸・成膜工程)。
【0056】
本実施形態では、繊維基材11としてクロス織の炭素繊維シートを、含浸液としてポリ塩化ビニル樹脂(第1樹脂)の水系エマルジョン液に浸し、炭素繊維シートの繊維間まで十分に含浸液を浸透させた後、この炭素繊維シートをローラ等で圧縮して、余剰の含浸液を取り除いた。
その後、この炭素繊維シートを空冷によって乾燥させて含浸液の水分を取り除き、第1樹脂(ポリ塩化ビニル樹脂)を成膜して第1樹脂層12を有するコア部13を得る。
【0057】
なお、含浸液に浸漬した後の第1樹脂の成膜方法は、上述したような空冷乾燥以外にも、例えば、加熱によって含浸液の水分を蒸発させたり、加圧や減圧によって含浸液の水分を取り除くことで第1樹脂層12を形成することができる。
【0058】
次に、図7(c)に示すように含浸・成膜工程を経て得られたコア部13の表面に被覆部14を仮止めする(仮止め工程)。
本実施形態では、繊維基材11に第1樹脂層12を形成したコア部13の一面側および他面側に、それぞれ第2樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂フィルムを仮止めした。仮止めには、シアノアクリレート系接着剤(瞬間接着剤)を用いた。
【0059】
なお、仮止め工程においてコア部13の表面に仮止めする第2樹脂は、フィルム状の樹脂成形物に限定されるものではなく、厚板状の樹脂成形物であってもよい。また、パウダー状の樹脂体(樹脂粉末)を、表面に接着剤を塗布したコア部13に散布したり、液状樹脂をコア部13の表面に塗布することによって、コア部13の表面に第2樹脂を仮止めするといった形態であってもよい。
【0060】
次に、図7(d)に示すように、コア部13の表面に仮止めした被覆部14と、コア部13とを溶着させて炭素繊維複合体10を形成する(溶着工程)。
本実施形態では、コア部13の表面に仮止めされた被覆部14の外部から、例えば、熱間プレス装置を用いて、第2樹脂の軟化温度以上に加熱しつつ加圧することにより、被覆部14を構成する第2樹脂が、第1樹脂層12を構成する第1樹脂と溶着する。これにより、コア部13の表面に被覆部14が強固に固着され一体化した、本実施形態の炭素繊維複合体10を得ることができる。
【0061】
なお、溶着工程においてコア部13と被覆部14とを溶着する手段としては、熱間プレス装置に限定されるものではない。例えば、仮止めした被覆部14を構成する第2樹脂が樹脂粉末や液状樹脂である場合には、ヒータ装置等によって第2樹脂を固化させて第1樹脂層12を構成する第1樹脂と溶着するようにしてもよい。
【0062】
次に、図8(a)に示すように、炭素繊維複合積層体30を製造する際には、上述した手順で形成した炭素繊維複合体10を必要な数(本実施形態では3つ)だけ積み重ねる。そして、図8(b)に示すように、積み重ねた炭素繊維複合体10の被覆部14どうしを溶着させて炭素繊維複合積層体30を得る(積層溶着工程)。
【0063】
本実施形態では、3つの炭素繊維複合体10を積み重ねて、熱間プレス装置によって加熱及び加圧することにより、3つの炭素繊維複合体10を溶着して一体化し、炭素繊維複合積層体30を形成した。
【0064】
以上のように、本実施形態の炭素繊維複合体の製造方法、炭素繊維複合積層体の製造方法によれば、熱可塑性樹脂を含むマトリクス樹脂(第1樹脂)を含侵して成膜させた第1樹脂層12を含むコア部13の表面に、第2樹脂を含む被覆部14で覆う(加飾する)だけで、コア部13の性状に限定されず、任意の性能と外観とを有する炭素繊維複合体10や、これを積層した炭素繊維複合積層体30を容易に製造することができる。得られた炭素繊維複合体10や炭素繊維複合積層体30は、パッチ単位で利用可能な応用性に富んだ繊維強化複合材料として用いることができる。
【0065】
(炭素繊維複合積層体の製造方法:第2実施形態)
図9は、本発明の第2実施形態の炭素繊維複合積層体の製造方法を段階的に示した要部拡大断面図である。
【0066】
本実施形態によって炭素繊維複合積層体を製造する際には、まず、図9(a)に示すように、複数(本実施形態では3つ)の繊維基材11を積層させて繊維積層体11Aを得る(積層工程)。
次に、図9(b)に示すように、この繊維積層体11Aを第1樹脂を含む水系エマルジョン液(含浸液Q)に浸漬して、繊維積層体11Aに含浸液を含侵させる(積層体含浸工程)。次に、図9(c)に示すように、含浸液Qを含侵させた繊維積層体11Aを乾燥させて第1樹脂を成膜し、コア部積層物(コア部)51を得る。
【0067】
次に、図9(d)に示すように、コア部積層物(コア部)51の表面に第2樹脂からなる被覆部54を仮止めする(仮止め工程)。
そして、図9(e)に示すように、被覆部54とコア部積層物(コア部)51とを、例えば熱間プレスによって溶着させて炭素繊維複合積層体50を得る(溶着工程)。
【0068】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例
【0069】
(実施例1)
上述した第1実施形態の炭素繊維複合体の製造方法によって、図1に示す炭素繊維複合体を実際に作成した。炭素繊維シート(繊維基材)にポリ塩化ビニル樹脂(第1樹脂)を含侵させて成膜してコア部を形成し、このコア部に硬質ポリ塩化ビニル樹脂シート(第2樹脂:被覆部)をPVC用接着剤で仮止めし、その後、熱間プレス装置によって一体化させたものである。
【0070】
そして、製造した実施例1の炭素繊維複合体の断面を観察した。実施例1の炭素繊維複合体によれば、コア部自体がポリ塩化ビニル樹脂で含浸されてコア部と被覆部とが密着し、一体化している炭素繊維複合体であることが確認できた。
【0071】
(実施例2)
コア部を覆う第2樹脂として、コア部の一面側をアクリルゴムシート、他面側を硬質ポリ塩化ビニル樹脂シートを用いて、それぞれ被覆部を形成し、実施例2の炭素繊維複合体を得た。仮止め工程にはシアノアクリレート系接着剤を用い、溶着工程では熱間プレス装置を用いた。
【0072】
こうして得られた実施例2の炭素繊維複合体の断面をデジタルマイクロスコープによって観察した結果、コア部の一面側にアクリルゴムシートが、他面側に硬質ポリ塩化ビニル樹脂シートがしっかりと密着し、一体化している炭素繊維複合体であることが確認できた。
【0073】
このような実施例2の炭素繊維複合体は、一面側が柔らかく、他面側が硬いため、パッチ単位で表面の物理的性能がコントロールされた炭素繊維複合体が得られることが確認でき、適用対象に応じた複数の性能をもつ炭素繊維複合体を実現できる。
【0074】
(実施例3)
上述した図4に示す第2実施形態の炭素繊維複合体を実際に作成した。
コア部の一面側には、被覆部としてシート状のポリ塩化ビニル樹脂と、シート状のアクリルゴムの2つを溶着させ、また、コア部の他面側には、硬質PVCシートを溶着させた。
【0075】
こうして得られた実施例3の炭素繊維複合体によれば、コア部の一面側に2種類の第2樹脂からなる被覆部を形成した炭素繊維複合体であっても、ポリ塩化ビニル樹脂とアクリルゴムとの境界部か隙間なく密着し一体化していることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
10…炭素繊維複合体
11…繊維基材
12…第1樹脂層
13…コア部
14…被覆部
30…炭素繊維複合積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9