(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】タービン翼および回転機械
(51)【国際特許分類】
F01D 5/16 20060101AFI20241205BHJP
F01D 5/26 20060101ALI20241205BHJP
F01D 25/06 20060101ALI20241205BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20241205BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20241205BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20241205BHJP
F01D 9/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F01D5/16
F01D5/26
F01D25/06
F01D25/00 L
F02C7/00 C
F01D5/28
F01D9/02 101
(21)【出願番号】P 2021023584
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富井 正幸
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0361801(US,A1)
【文献】特開2001-263001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 1/00-11/24
F01D 13/00-15/12
F01D 23/00-25/36
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼部と、
前記翼部に設けられる中空部と、
前記中空部に充填される低融点金属と、
を備
え、
前記中空部は、前記翼部の外面から同じ長さだけ内側に入った位置に設けられ、
前記翼部の先端と前記中空部における先端との長さ、前記翼部の負圧面と前記中空部の長さ、前記翼部の正圧面と前記中空部との長さ、前記翼部の前縁と前記中空部との長さ、前記翼部の後縁と前記中空部との長さが同じである、
タービン翼。
【請求項2】
前記低融点金属は、融点が固有振動数に対する温度領域に位置する、
請求項1に記載のタービン翼。
【請求項3】
前記低融点金属は、融点が固有振動数に対する温度より低い、
請求項2に記載のタービン翼。
【請求項4】
前記翼部は、基端がプラットフォームの表面に一体に設けられ、前記中空部は、前記プラットフォームの表面から翼高さ方向に所定距離離間して設けられる、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のタービン翼。
【請求項5】
前記中空部は、翼高さ方向に分割された複数の分割中空部を有し、前記複数の分割中空部に異なる融点を有する前記低融点金属が充填される、
請求項1から
請求項4のいずれか一項に記載のタービン翼。
【請求項6】
前記中空部は、前記翼部の外側に位置する外周部と前記翼部の中心側に位置する中心部との間に設けられる、
請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載のタービン翼。
【請求項7】
前記中心部は、基端側が前記外周部に接続される、
請求項6に記載のタービン翼。
【請求項8】
請求項1から
請求項7のいずれか一項に記載のタービン翼を備える回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスタービンや蒸気タービンなどに用いられるタービン翼、タービン翼を備える回転機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機エンジンとして使用されるガスタービンは、圧縮機と、燃焼器と、タービンとにより構成される。圧縮機は、空気取入口から取り込まれた空気を圧縮して高温・高圧の圧縮空気を生成し、燃焼器は、圧縮空気に対して燃料を供給して燃焼することで高温・高圧の燃焼ガスを生成し、タービンは、燃焼ガスにより駆動する。
【0003】
例えば、タービンの動翼は、回転軸の外周部に周方向に所定間隔を空けて複数配置され、回転軸と共に駆動回転する。動翼は、個数や回転数などで決まる周期的な流体力の作用を受け、励振力となって振動する。動翼の設計は、固有振動数と励振周波数が一致しないような工夫をなす必要がある。
【0004】
このような技術として、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ガスタービンの起動時、動翼の回転数が上昇すると、励振ハーモニックと振動モードの共振により振動が大きくなることある。この現象を回避するためには、動翼の固有振動数を離調させたり、動翼の強度を向上させたりする必要がある。ところが、動翼の振動は、ガスタービンの通常の運転範囲で発生するものだけではなく、起動時に発生するものもある。そのため、ガスタービンの起動時に発生する振動を抑制するために動翼の設計を変更することは、通常の運転範囲における性能に影響を与えるものであり、性能の低下を招くおそれがある。
【0007】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、回転機械の起動時における振動の発生を抑制可能とするタービン翼および回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本開示のタービン翼は、翼部と、前記翼部に設けられる中空部と、前記中空部に充填される低融点金属と、を備える。
【0009】
また、本開示の回転機械は、前記タービン翼を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示のタービン翼および回転機械によれば、回転機械の起動時における振動の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態の航空用エンジンを表す概略構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のタービン翼を表す一部断面概略図である。
【
図3】
図3は、タービン翼の水平断面を表す
図2のIII-III断面図である。
【
図4】
図4は、起動時におけるタービン翼を表す一部断面概略図である。
【
図5】
図5は、運転時におけるタービン翼を表す一部断面概略図である。
【
図6】
図6は、タービン翼の回転数に対する振動数および温度を表すグラフである。
【
図7】
図7は、第2実施形態のタービン翼を表す一部断面概略図である。
【
図8】
図8は、起動時におけるタービン翼を表す一部断面概略図である。
【
図9】
図9は、タービン翼の回転数に対する振動数および温度を表すグラフである。
【
図10】
図10は、第3実施形態のタービン翼を表す一部断面概略図である。
【
図12】
図12は、タービン翼の回転数に対する振動数および温度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0013】
[第1実施形態]
<航空用エンジン>
図1は、第1実施形態の航空用エンジンを表す概略構成図である。
【0014】
第1実施形態において、
図1に示すように、航空用エンジン(回転機械)10は、ガスタービンである。航空用エンジン10は、ファンケーシング11と、本体ケーシング12とを有する。ファンケーシング11は、内部にファン13が収容され、本体ケーシング12は、内部に圧縮機14と燃焼器15とタービン16が収容される。
【0015】
ファン13は、回転軸21の外周部に複数のファンブレード22が装着されて構成される。圧縮機14は、低圧コンプレッサ23と、高圧コンプレッサ24とを有する。燃焼器15は、圧縮機14より圧縮空気の長方向の下流側に配置され、周方向に複数配置される。タービン16は、燃焼器15より燃焼ガスの流れ方向の下流側に配置され、高圧タービン25と低圧タービン26とを有する。ファン13の回転軸21と低圧コンプレッサ23とが連結され、低圧コンプレッサ23と低圧タービン26とが第1ロータ軸27により連結される。高圧コンプレッサ24と高圧タービン25とが第1ロータ軸27の外周側に位置する円筒形状をなす第2ロータ軸28により連結される。
【0016】
そのため、圧縮機14は、空気取入口から取り込まれた空気が低圧コンプレッサ23と高圧コンプレッサ24における複数の静翼と動翼を通過することで圧縮され、高温・高圧の圧縮空気を生成する。燃焼器15は、圧縮空気に対して所定の燃料を供給することで燃焼し、高温・高圧の燃焼ガスを生成する。タービン16は、燃焼器15により生成された燃焼ガスが高圧タービン25および低圧タービン26における複数の静翼と動翼を通過することで駆動回転する。この場合、低圧タービン26の回転力が第1ロータ軸27により低圧コンプレッサ23に伝達されて駆動する。高圧タービン25の回転力が第2ロータ軸28により高圧コンプレッサ24に伝達されて駆動する。その結果、ファン13を駆動することができると共に、タービン16から排出される排気ガスにより推力を得ることができる。
【0017】
<タービン翼の構成>
以下、本発明のタービン翼を航空用エンジン10の高圧タービン25または低圧タービン26の動翼に適用して説明する。
図2は、第1実施形態のタービン翼を表す一部断面概略図、
図3は、タービン翼の水平断面を表す
図2のIII-III断面図である。
【0018】
図2および
図3に示すように、タービン翼30は、動翼であって、上述した第1ロータ軸27や第2ロータ軸28などの回転軸に周方向に所定間隔を空けて配置される。タービン翼30は、翼部31と、プラットフォーム32と、翼根部33とを備える。
【0019】
翼部31は、翼高さ方向Dhに沿って長い形状をなし、先端31aが基端31bに対して前後方向Daの長さと幅が小さくなる先細形状をなす。ここで、翼高さ方向Dhとは、タービン翼30が装着される回転軸の径方向であり、前後方向Daとは、回転軸の軸方向である。また、前後方向Daの前方は、燃焼ガスの流れ方向の上流側であり、前後方向Daの後方は、燃焼ガスの流れ方向の下流側である。
【0020】
翼部31は、凸面状をなす背側となる負圧面31cと、凹面状をなす腹側となる正圧面31dと、前縁31eと、後縁31fとを有する。翼部31は、前後方向Daにおける中間部から前縁31e側および後縁31f側に向けて幅が狭くなる翼形断面形状をなす。前縁31eは、翼型中心線であるキャンバーラインの延びる方向で最も前方側(上流側)の端部であり、後縁31fは、キャンバーラインの延びる方向で最も後方側(下流側)の端部である。負圧面31cは、翼部31の周方向Drの一方側に設けられ、正圧面31dは、翼部31の周方向Drの一方側に設けられる。ここで、周方向Drとは、タービン翼30の回転方向である。翼部31は、負圧面31cと正圧面31dとが前縁31eと後縁31fを介して接続されることで連続する翼型断面形状をなす。
【0021】
プラットフォーム32は、表面32aがガスパス面であり、表面32aに翼部31の基端31bが一体に接続される。ここで、ガスパス面とは、燃焼ガスが流れる通路に面し、燃焼ガスが接触する面である。翼根部33は、前後方向Daから見た形状が、所謂、クリスマスツリー形状であり、プラットフォーム32の裏面32bに一体に接続される。翼根部33は、回転軸の外周部に固定される。
【0022】
タービン翼30は、回転軸の周方向Drに所定間隔を空けて複数装着される。そのため、タービン翼30は、回転軸と共に回転する。また、タービン翼20は、前方または前後、または、前後の両方に静翼(図示略)が配置される。
【0023】
また、タービン翼30は、中空部41と、低融点金属42とを備える。
【0024】
中空部41は、翼部31に設けられる。低融点金属42は、中空部41に充填される。低融点金属42とは、低融点を有する合金である。低融点金属42は、一般的に、鉛やすずの融点である230℃程度より低い融点を有する合金である。低融点金属42は、アルカリ金属系とそれ以外のものがある。アルカリ金属系は、密閉された状態で主に熱媒体として利用されるものであり、例えば、ナトリウムカリウム合金(NaK)がある。アルカリ金属系以外では、例えば、亜鉛、インジウム、ガリウム、スズ、ビスマス、鉛などを主成分とする合金である。その他、はんだ、ウッドメタル、ローズ合金、ガリンスタンなどがある。
【0025】
翼部31の中空部41に充填される低融点金属42は、融点がタービン翼30の固有振動数(共振周波数)に対する温度領域に位置することが好ましい。特に、低融点金属42は、融点がタービン翼30の固有振動数に対する温度より低いことが好ましい。
【0026】
翼部31は、基端31bがプラットフォーム32の表面32aに一体に設けられる。中空部41は、プラットフォーム32の表面32aから翼部31の先端31a側に向けて翼高さ方向Dhに所定距離Dh1だけ離間して設けられる。
【0027】
中空部41は、翼部31の外面から同じ長さだけ内側に入った位置に設けられる。すなわち、翼部31の先端31aと中空部41における先端との長さDh2、翼部31の負圧面31cと中空部41における凸面との長さDr1、翼部31の正圧面31dと中空部41における凹面との長さDr2、翼部31の前縁31eと中空部41における前縁との長さDa1、翼部31の後縁31fと中空部41における後縁との長さDa2とする。このとき、長さDh2=長さDr1=長さDr2=長さDa1=長さDa2となることが好ましい。但し、翼部31と中空部41の形状に応じて若干の裕度を確保する。
【0028】
<タービン翼の作用>
図4は、起動時におけるタービン翼を表す一部断面概略図、
図5は、運転時におけるタービン翼を表す一部断面概略図、
図6は、タービン翼の回転数に対する振動数および温度を表すグラフである。
【0029】
図2および
図6に示すように、航空用エンジン10(
図1参照)が起動する前、タービン翼30は、常温であることから、翼部31の中空部41に充填された低融点金属42は、固相の状態である。このとき、タービン翼30は、固有振動数f1で共振する1つの振動モードを有する。タービン翼30の固有振動数f1は、タービン翼30の形状や周囲に配置される静翼などの部材との位置関係によって定まる。また、低融点金属42の融点は、温度T1である。この融点の温度T1は、航空用エンジン10が起動し、タービン翼30の温度が上昇したとき、タービン翼30の回転数Nが固有振動数f1に到達したときのタービン翼30の温度の近傍である。
【0030】
この場合、例えば、タービン翼30の固有振動数f1が使用回転数の90%にて共振する場合、このときの温度が250℃~300℃で融解する温度T1を有する低融点金属42として、ピューター合金(錫、アンチモンの合金、融点 約250℃)を適用することが好ましい。但し、航空用エンジン10の形態や性能などによりタービン翼30の固有振動数fに対する温度が相違することから、タービン翼30の形態に応じて最適な低融点金属42を選定すればよい。
【0031】
航空用エンジン10が起動すると、回転軸に装着されたタービン翼30の回転数Nが上昇する。すると、タービン翼30の温度Tが上昇する。タービン翼30の回転数N1で固有振動数f1に到達すると、タービン翼30の温度Tが低融点金属42の融点の温度T1に到達する。すると、
図4および
図6に示すように、中空部41に充填された低融点金属42は、外面が翼部31から熱を受けて溶融を開始し、液相の状態になる。すなわち、中空部41の低融点金属42は、中心部が固相金属42Aであるが、外面側が液相金属42Bとなる。
【0032】
そして、低融点金属42が固相の状態から液相の状態になるため、タービン翼30の剛性が低下することで固有振動数f1が低下する。そして、タービン翼30の回転数N2にて、
図5および
図6に示すように、中空部41に充填された低融点金属42が完全に溶融して液相の状態になり、固有振動数f2まで低下する。このとき、中空部41の低融点金属42は、全てが液相金属42Bとなる。その後、タービン翼30の回転数が上昇すると、航空用エンジン10の運転範囲Aに移行する。運転範囲Aは、タービン翼30の回転数N2~N3の範囲である。
【0033】
低融点金属42が外面側から溶融してから全てが溶融して液相の状態になるとき、タービン翼30の固有振動数f1が固有振動数f2に低下する。すなわち、タービン翼30は、中空部41の低融点金属42の外面側が溶融すると、翼部31と固相金属42Aとの間に液相金属42Bが存在する状態となる。タービン翼30は、この状態で、翼部31と固相金属42Aの一部または全部とが分離されていることから剛性が低下し、固有振動数fが低下して離調される。そのため、タービン翼30の固有振動数f1,f2と励振ハーモニックHとが一致する領域が狭くなり、タービン翼30の振動が抑制される。
【0034】
また、翼部31の中空部41に充填された低融点金属42は、翼部31からの熱により溶融し始めるとき、ガスパスに面する先端31a、負圧面31c、正圧面31d、前縁31e、後縁31fから熱を多く受け取る。すると、低融点金属42は、熱を多く受け取る先端31a、負圧面31c、正圧面31d、前縁31e、後縁31fに対向する位置が初めに溶融して液相金属42Bとなり、固相金属42Aが翼部31の基端31b側に接続された状態になる。そのため、タービン翼30は、翼部31に対して低融点金属42の固相金属42Aが相対変位し、スクイーズ効果により減衰が付与される。
【0035】
つまり、低融点金属42は、タービン翼30の振動により固相金属42Aが外面側の液相金属42Bの範囲内で変位する。すると、液相金属42Bの流動や圧縮により翼部31に対して抵抗力が発生する。そのため、この抵抗力によりタービン翼30の振動が減衰される。また、固相金属42Aが液相金属42Bの範囲内で変位するとき、固相金属42Aの変位が大きいと、固相金属42Aが液相金属42Bを押しのけて翼部31に衝突する。そのため、この衝突ダンパ効果によりタービン翼30の振動が減衰される。
【0036】
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態のタービン翼を表す一部断面概略図、
図8は、起動時におけるタービン翼を表す一部断面概略図、
図9は、タービン翼の回転数に対する振動数および温度を表すグラフである。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0037】
第2実施形態において、
図7に示すように、タービン翼50は、動翼であって、翼部51と、プラットフォーム52と、翼根部53とを備える。翼部51とプラットフォーム52と翼根部53の基本的な構成は、第1実施形態の翼部31とプラットフォーム32と翼根部33とほぼ同様である。
【0038】
また、タービン翼50は、中空部61と、低融点金属64とを備える。
【0039】
中空部61は、翼部51に設けられる。低融点金属64は、中空部61に充填される。中空部61は、翼高さ方向Dhに分割された複数(本実施形態では、2個)の分割中空部62,63を有する。なお、分割数は、3個以上であってもよい。低融点金属64は、分割中空部62,63に充填される分割低融点金属65,66を有する。2個の分割低融点金属65,66は、異なる種類の低融点金属である。すなわち、分割低融点金属65,66は、融点が相違する。例えば、分割低融点金属65は、分割低融点金属66より融点が低い。
【0040】
図7および
図9に示すように、航空用エンジン10(
図1参照)が起動する前、タービン翼50は、常温であることから、翼部51の中空部61に充填された低融点金属64は、固相の状態である。このとき、タービン翼50は、固有振動数f1,f2で共振する2つの振動モードを有する。また、低融点金属64を構成する分割低融点金属65,66のそれぞれ融点は、温度T1.T2である。この融点の温度T1,T2は、航空用エンジン10が起動し、タービン翼50の温度が上昇したとき、タービン翼50の回転数Nが固有振動数f1,f2に到達したときのタービン翼50の温度の近傍である。
【0041】
航空用エンジン10が起動すると、回転軸に装着されたタービン翼50の回転数Nが上昇し、タービン翼50の温度Tが上昇する。タービン翼50の回転数N1で固有振動数f1に到達すると、タービン翼50の温度Tが分割低融点金属65の融点の温度T1に到達する。すると、
図8および
図9に示すように、分割中空部62に充填された分割低融点金属65は、外面側が翼部51から熱を受けて溶融を開始し、液相の状態になる。すなわち、分割中空部62の分割低融点金属65は、中心部が固相金属65Aであるが、外面側が液相金属65Bとなる。
【0042】
そして、分割低融点金属65が固相の状態から液相の状態になるため、タービン翼50の剛性が低下することで固有振動数f1が低下する。そして、タービン翼50の回転数N2にて、分割中空部62に充填された分割低融点金属65が完全に溶融し、液相の状態になり、固有振動数f2まで低下する。このとき、分割中空部62の分割低融点金属65は、全てが液相金属65Bとなる。
【0043】
また、タービン翼50の回転数N3で固有振動数f2に到達すると、タービン翼50の温度Tが分割低融点金属66の融点の温度T2に到達する。すると、分割中空部63に充填された分割低融点金属66は、外面側が翼部51から熱を受けて溶融を開始し、液相の状態になる。すなわち、分割中空部63の分割低融点金属66は、中心部が固相金属66Aであるが、外面が液相金属66Bとなる。
【0044】
そして、分割低融点金属66が固相の状態から液相の状態になるため、タービン翼50の剛性が低下することで固有振動数f2が低下する。そして、タービン翼50の回転数N4にて、分割中空部63に充填された分割低融点金属66が完全に溶融し、液相の状態になり、固有振動数f3まで低下する。このとき、分割中空部63の分割低融点金属66は、全てが液相金属66Bとなる。
【0045】
分割低融点金属65,66が外面側からそれぞれ溶融してから全てが溶融して液相の状態になるとき、タービン翼50の固有振動数f1が固有振動数f2に低下し、さらに、固有振動数f3に低下する。すなわち、タービン翼50は、分割中空部62,63の分割低融点金属65,66の外面側が溶融すると、翼部51と固相金属65A,66Aとの間に液相金属65B,66Bが存在する状態となる。タービン翼50は、この状態で、翼部51と固相金属65A,66Aの一部または全部とが分離されていることから剛性が低下し、固有振動数fが低下して離調される。そのため、タービン翼50の固有振動数f1,f2,f3と励振ハーモニックH1,H2とが一致する領域が狭くなり、タービン翼50の振動が抑制される。
【0046】
また、翼部51の分割中空部62,63にそれぞれ充填された分割低融点金属65,66は、翼部51からの熱により溶融し始めるとき、ガスパスに面する部分から熱を多く受け取る。すると、分割低融点金属65,66は、熱を多く受け取る部分に対向する位置が初めに溶融して液相金属65B,66Bとなり、固相金属42Aが熱を多く受け取らない部分に接続された状態になる。そのため、タービン翼50は、翼部51に対して分割低融点金属65,66の固相金属65A,66Aが相対変位し、スクイーズ効果および衝突ダンパ効果により減衰が付与され、タービン翼30の振動が減衰される。
【0047】
[第3実施形態]
図10は、第3実施形態のタービン翼を表す一部断面概略図、
図11は、タービン翼の水平断面を表す
図10のXI-XI断面図、
図12は、タービン翼の回転数に対する振動数および温度を表すグラフである。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0048】
第3実施形態において、
図10に示すように、タービン翼70は、動翼であって、翼部71と、プラットフォーム72と、翼根部73とを備える。翼部71とプラットフォーム72と翼根部73の基本的な構成は、第1実施形態の翼部31とプラットフォーム32と翼根部33とほぼ同様である。
【0049】
また、タービン翼70は、中空部81と、低融点金属82とを備える。
【0050】
中空部81は、翼部71に設けられる。低融点金属82は、中空部81に充填される。翼部71は、外側に位置する外周部71Aと、中心側に位置する中心部71Bとを有する。中空部81は、外周部71Aと中心部71Bとの間に設けられる。外周部71Aは、翼部71の先端71a、基端71b,負圧面71c、正圧面71d、前縁71e、後縁71fに沿った枠形状をなす。中心部71Bは、外周部71Aの内側に配置され、翼部71を縮小した形状をなす。中心部71Bは、プラットフォーム72側の基端部が外周部71Aの基端71b側に接続される。
【0051】
中空部81は、翼部71の基端71b側の一部を除く外周部71Aと中心部71Bとの間に配置される。そのため、低融点金属82は、翼部71の基端71b側の一部を除く部分に形成された中空部81に充填される。なお、中空部81は、一部が翼部71の基端71b側にも設けられている。すなわち、中心部71Bは、基端71b側に形成された中空部81により外周部71Aとの接続面積が小さくなっている。但し、中空部81を先端71a、負圧面71c、正圧面71d、前縁71e、後縁71f側だけに設け、基端71b側に設けなくてもよい。
【0052】
図10および
図11に示すように、航空用エンジン10(
図1参照)が起動する前、タービン翼70は、常温であることから、翼部71の中空部81に充填された低融点金属82は、固相の状態である。このとき、タービン翼70は、固有振動数f1,f2で共振する2個の振動モードを有する。また、低融点金属82の融点は、温度T1である。この融点の温度T1は、航空用エンジン10が起動し、タービン翼70の温度が上昇したとき、タービン翼70の回転数Nが固有振動数f1,f2に到達したときのタービン翼70の温度の近傍である。
【0053】
航空用エンジン10が起動すると、回転軸に装着されたタービン翼70の回転数Nが上昇し、タービン翼70の温度Tが上昇する。タービン翼70の回転数N1で固有振動数f1に到達すると、タービン翼70の温度Tが低融点金属82の融点の温度T1に到達する。すると、中空部81に充填された低融点金属82は、翼部71から熱を受けて溶融を開始し、液相の状態になる。
【0054】
そして、低融点金属82が固相の状態から液相の状態になるため、タービン翼70の剛性が低下することで固有振動数f1が低下する。そして、タービン翼70の回転数N2にて、中空部81に充填された低融点金属82が完全に溶融し、液相の状態になり、固有振動数f2まで低下する。このとき、中空部81の低融点金属82は、全てが液相金属となる。その後、タービン翼70の回転数が上昇すると、航空用エンジン10の運転範囲Aに移行する。運転範囲Aは、タービン翼30の回転数N3~N4の範囲である。
【0055】
低融点金属82が溶融して液相の状態になるとき、タービン翼70の固有振動数f1が固有振動数f2に低下する。すなわち、タービン翼70は、中空部81の低融点金属82が溶融すると、翼部71の外周部71Aと中心部71Bとの間に液相状態の低融点金属82が存在する状態となる。タービン翼70は、この状態で、外周部71Aと中心部71Bとの一部が分離されていることから剛性が低下し、固有振動数fが低下して離調される。そのため、タービン翼70の固有振動数f1と励振ハーモニックH1とが一致する領域が狭くなり、タービン翼70の振動が抑制される。
【0056】
また、翼部71の中空部81に充填された低融点金属82は、翼部71の基端71b側の一部を除く外周部71Aと中心部71Bとの間に配置される。そのため、低融点金属82が溶融して液相金属になると、タービン翼70は、外周部71Aに対して中心部71Bが相対変位し、スクイーズ効果および衝突ダンパ効果により減衰が付与され、タービン翼30の振動が減衰される。さらに、航空用エンジン10の運転範囲Aであっても、スクイーズ効果および衝突ダンパ効果が発揮されることから、タービン翼70の固有振動数f2と励振ハーモニックH2とが一致しても、タービン翼70の振動が抑制される。
【0057】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係るタービン翼は、翼部31,51,71と、翼部31,51,71に設けられる中空部41,61,81と、中空部41,61,81に充填される低融点金属42,64,82とを備える。
【0058】
第1の態様に係るタービン翼によれば、航空用エンジン10が起動してタービン翼30,50,70の温度が上昇すると、翼部31,51,71内の低融点金属42,64,82が溶融して固相の状態から液相の状態になる。すると、タービン翼30,50,70は、剛性が低下することで固有振動数が低下して離調される。そのため、タービン翼30,50,70の振動の発生を抑制することができる。
【0059】
また、翼部31,51,71の温度が上昇すると、低融点金属42,64,82は、翼部31から熱を受け取って外面側から溶融する。このとき、固相金属42A,65A,66Aおよび中心部71Bは、液相金属42B,65B,66Bおよび液相の低融点金属82の範囲内で変位する。すると、スクイーズ効果や衝突ダンパ効果によりタービン翼30,50,70の振動を減衰することができる。
【0060】
第2の態様に係るタービン翼は、低融点金属42,64,82は、融点が固有振動数に対する温度領域に位置する。これにより、低融点金属42,64,82を適正温度で溶融させることで、タービン翼30,50,70の固有振動数を適切に離調させることができる。
【0061】
第3の態様に係るタービン翼は、低融点金属42,64,82は、融点が固有振動数に対する温度より低い。これにより、低融点金属42,64,82を適正温度で溶融させることで、タービン翼30,50,70の振動が固有振動数に到達する前に適切に離調させることができる。
【0062】
第4の態様に係るタービン翼は、翼部31,51,71は、基端31b,51b,71bがプラットフォーム32,52,72の表面に一体に設けられ、中空部41,61,81は、プラットフォーム32,52,72の表面32a,52a,72aから翼高さ方向Dhに所定距離離間して設けられる。これにより、翼部31,51,71の温度が上昇するとき、低融点金属42,64,82は、外面側から溶融する一方、プラットフォーム32,52,72側の溶融開始時期が遅れることとなり、スクイーズ効果や衝突ダンパ効果によりタービン翼30,50,70の振動を適切に減衰することができる。
【0063】
第5の態様に係るタービン翼は、中空部41,61,81は、翼部31,51,71の外面から同じ長さだけ内側に入った位置に設けられる。これにより、中空部41,61,81に充填された低融点金属42,64,82を外面側からほぼ同時に溶融させることができ、スクイーズ効果や衝突ダンパ効果によりタービン翼30,50,70の振動を適切に減衰することができる。
【0064】
第6の態様に係るタービン翼は、中空部61は、翼高さ方向Dhに分割された複数の分割中空部62,63を有し、複数の分割中空部62,63に異なる融点を有する分割低融点金属65,66が充填される。これにより、タービン翼50の固有振動数が複数種類ある場合であっても、タービン翼50の振動を適切に減衰することができる。
【0065】
第7の態様に係るタービン翼は、中空部81は、翼部71の外側に位置する外周部71Aと翼部71の中心側に位置する中心部71Bとの間に設けられる。これにより、航空用エンジン10が起動した後の通常運転領域であっても、スクイーズ効果や衝突ダンパ効果によりタービン翼70の振動を適切に減衰することができる。
【0066】
第8の態様に係るタービン翼は、中心部71Bは、基端側が外周部71Aに接続される。これにより、スクイーズ効果や衝突ダンパ効果を効果的に作用させることができる。
【0067】
第9の態様に係る回転機械は、航空用エンジン10であって、タービン翼30,50,70を備える。これにより、タービン翼30,50,70の振動の発生を抑制することができ、その結果、航空用エンジン10の性能の低下を抑制することができる。
【0068】
なお、上述した実施形態では、翼部に設けられる中空部に低融点金属を充填したタービン翼を構成したが、タービン翼の製造方法としては、鋳造や三次元積層などを適用すればよい。
【0069】
また、上述した実施形態では、本発明のタービン翼を航空機用ガスタービンの動翼に適用したが、静翼に適用してもよい。また、航空機用ガスタービンに限定されるものではなく、発電用ガスタービンや蒸気タービンなどの動翼や静翼に適用してもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 航空用エンジン(回転機械)
14 圧縮機
15 燃焼器
16 タービン
30,50,70 タービン翼
31,51,71 翼部
32,52,72 プラットフォーム
33,53,73 翼根部
41,61,81 中空部
42,64,82 低融点金属
42A,65A,66A 固相金属
42B,65B,66B 液相金属
62,63 分割中空部
65,66 分割低融点金属