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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】航空機用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 2/00 20160101AFI20241205BHJP
   F21V 5/04 20060101ALI20241205BHJP
   F21V 5/08 20060101ALI20241205BHJP
   B64D 47/04 20060101ALI20241205BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20241205BHJP
   F21W 107/30 20180101ALN20241205BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20241205BHJP
【FI】
F21S2/00 330
F21S2/00 600
F21V5/04 200
F21V5/04 400
F21V5/08
F21V5/04 350
B64D47/04
G02B3/00 A
G02B3/00
F21W107:30
F21Y115:10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021033357
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022134308
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【弁理士】
【氏名又は名称】簾内 里子
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕人
(72)【発明者】
【氏名】清水 賢一
【審査官】野木 新治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/010271(WO,A1)
【文献】特開2014-013744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00
F21V 5/04
F21V 5/08
B64D 47/04
G02B 3/00
F21W 107/30
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源としての、少なくとも1以上の発光素子と、
前記発光素子から出射された光を所望の領域に向けて照射するインナーレンズと、
を備え、
前記インナーレンズは、単一の前記発光素子の光を異なる方向へ分割するレンズを含み、
前記レンズは、複数のレンズ面が一部領域で重なった複曲面レンズであり、異なる曲率を有する前記レンズ面同士が交わる交線は、前記レンズの厚み方向からみて、それぞれの前記交線の共通の端点となる中心から放射状に伸びる軌跡を有している、
ことを特徴とする航空機用灯具。
【請求項2】
前記レンズに対応して配置される前記発光素子は、前記レンズの厚み面方向からみて、少なくとも一部が複数の前記レンズ面のいずれにも係るように配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の航空機用灯具。
【請求項3】
前記レンズから出射する光は、各前記レンズ面から、異なる方向に出射する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の航空機用灯具。
【請求項4】
前記発光素子は、少なくとも2以上であり、
第1の前記発光素子から出射して、前記レンズに分割された一部の光束が照射する第1照射領域は、第2の前記発光素子から出射した光束が照射する第2照射領域と、少なくとも一部の領域が重複する、
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の航空機用灯具。
【請求項5】
少なくとも1の前記発光素子の発光面は、一方向に長い形状を有する、
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の航空機用灯具。
【請求項6】
前記発光素子は、少なくとも2以上であり、
少なくとも1の前記発光素子は、他の前記発光素子とは、該取付け方向を異ならしめて配置される、
ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の航空機用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、航空機の機体等に取付けられて使用される航空機用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用灯具には、外部照明として、使用用途に応じて様々な種類の灯具が存在する(特許文献1など)。例えば、航空機同士の衝突を防止する衝突防止灯、機体の飛行姿勢や飛行方向を示す航空灯、離着時に滑走路を照射する着陸灯、高度飛行時に機体の着氷を確認するための検氷灯などが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2020/153400号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような航空機用灯具は、航空機の機体が大きい分、被照射領域が広範囲となることや複数領域におよぶ場合がある。航空機用灯具においては、被照射領域が適切な照度で照射されることが望まれる。
【0005】
本発明は、これに鑑みてなされたものであり、被照射領域を適切な照度で照射可能な航空機用灯具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本開示の構成による航空機用灯具は、光源としての少なくとも1以上の発光素子と、前記発光素子から出射された光を所望の領域に向けて照射するインナーレンズとを備え、前記インナーレンズは、単一の前記発光素子の光を異なる方向へ分割するレンズを含むように構成した。
【0007】
この態様により、1の発光素子により複数の離間した複数の領域を照射できるものとした。また、分割する光束の量を調整することで、所望の光度の領域を形成できる。遠方を高光度で照射し、近方を低光度で照射するなど、柔軟に配光調整を行うことができ、適切な照度で被照射領域を照射できる。
【0008】
また、ある態様では、前記レンズは、複数のレンズ面が一部領域で重なった複曲面レンズとした。レンズをこのような形態とすることで、1の発光素子から複数の領域を作り出すことや、所望の配光を形成することが可能である。
【0009】
また、ある態様では、前記発光素子は、少なくとも2以上であり、第1の前記発光素子から出射して、前記レンズに分割された一部の光束が照射する第1照射領域は、第2の前記発光素子から出射した光束が照射する第2照射領域と、少なくとも一部が重複するように構成した。複数の発光素子の照射領域を重複させることで、光度を上げることができ、遠方な被照射領域も適切な照度で照射される。
【0010】
また、ある態様では、少なくとも1の前記発光素子の発光面は、一方向に長い形状を有するように構成した。照射領域を一方向に長く形成でき、被照射領域が一方向に長い場合にも適切な照度で照射できる。
【0011】
また、ある態様では、前記発光素子は、少なくとも2以上であり、1の前記発光素子は、他の前記発光素子とは、該取付け方向を異ならしめて配置されるように構成した。照射領域は発光素子の形態にも依存するため、このように取付け角度を異ならしめることで、より自由度の高い形態で照射領域を形成できる。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明から明らかなように、被照射領域を適切な照度で照射可能な航空機用灯具を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る航空機用灯具を搭載した航空機の概略斜視図である。
図2】同航空機用灯具の斜視図である。
図3】同航空機用灯具の分解斜視図である。
図4】ランプユニットの概略断面図である。
図5】光源用基板およびインナーレンズの分解斜視図である。
図6】光源用基板およびインナーレンズの平面図である。
図7】複曲面レンズ部の説明図である。図7(A)が複曲面レンズ部の平面図、図7(B)が、光源用基板20がインナーレンズ10と共に固定された状態での概略断面図である。
図8】航空機用灯具による航空機の被照射領域を示す。
図9】航空機用灯具による光度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の構成に係る好ましい実施形態を、図面に従って説明する。図1は、実施形態に係る航空機用灯具1を備えた航空機APの概略斜視図である。
【0015】
航空機APは、胴体BDの左右の側面前方に、一対の航空機用灯具1を備える。航空機用灯具1は、付着した氷を検査するための照明(検氷灯)であり、左右の主翼WGおよびエンジンEGの着氷状態の検査のために照射を行う。以下、航空機APの左側の航空機用灯具1に着目し、同構成をもつ右側の航空機用灯具1の説明を省略する。
【0016】
図2は、航空機用灯具1の外観斜視図であり、図3は、航空機用灯具1の分解斜視図である。
【0017】
図2および図3に示すように、航空機用灯具1は、おおむね厚い円盤状の外形を有し、筐体としてランプボディ2とアウターレンズ4を備える。以下の灯具の説明においては、ランプボディ2とアウターレンズ4の結合方向を上下方向とし、アウターレンズ4を上方、ランプボディ2を下方として、前後左右上下の方向を示すものとする。なお、これらの方向の説明は便宜上のものであり、発明の実施に関しては、これらの方向に限定されるものではない。
【0018】
ランプボディ2は、アルミニウム等の平板金属部材をプレス加工して製造されており、上面が開口し、該開口部の周縁部にはフランジ部が設けられた、円形容器状に形成されている。ランプボディ2の開口部に、透光性を有する樹脂部材で構成されたアウターレンズ4が取付けられ、内部に灯室Sが画成される。アウターレンズ4の取付けには、中央に孔が形成された円盤状のカバー5が用いられる。カバー5が外側からアウターレンズ4を挟んでランプボディ2に締結されることで、アウターレンズ4はランプボディ2に固定される。画成された灯室S内には、ランプユニットLUが収容されている。
【0019】
航空機APの胴体BDには、航空機用灯具1の取付位置に、図示しない配置凹部が形成されている。この配置凹部の周縁部にフランジ部2aが掛けられて航空機用灯具1が配置され、フランジ部2aで胴体BDにネジ止めされることで、航空機用灯具1は航空機APに取付けられる。
【0020】
(ランプユニット)
ランプユニットLUについて詳しく説明する。 図4は、ランプユニットLUの概要断面図である。
【0021】
ランプユニットLUは、インナーレンズ10、光源用基板20、制御用基板40、および、これらが取付けされる保持部材30を含んで構成される。
【0022】
保持部材30は、例えばアルミニウムなどの金属部材などにより構成され、全体が一体的に形成されて成る。保持部材30の上部は、光源用基板20およびインナーレンズ10を固定するための台座部31となっており、両者が載置される上面は、底面に対して所定角度で傾斜した傾斜面32となっている。また、保持部材30下部は、制御用基板40の保持部であり、保持部材30の底面には、制御用基板40を収容して保持するための凹部39が形成されている。保持部材30の底面四隅には取付部33が形成されており、保持部材30は、取付部33でランプボディ2の内部底面にネジ固定される。
【0023】
光源用基板20の表面には、光源である複数の発光素子が搭載されている。
【0024】
インナーレンズ10は、ガラスやポリカーボネイト樹脂などの透明部材によって構成され、光源用基板20とおおむね同外形の板形状に形成される。
【0025】
インナーレンズ10の底面の四隅には、取付脚部19が設けられており、その中央には厚み方向に挿通孔18が形成されている。また、光源用基板20の四隅にも挿通孔18に対応して貫通孔29が設けられている。図示しないネジなどの固定部材が、インナーレンズ10の挿通孔18、光源用基板20の貫通孔29と順に挿通して、傾斜面32に締結されることにより、光源用基板20とインナーレンズ10とが、積層状態で一体的に傾斜面32に組付けされる。
【0026】
光源用基板20は、金属製の保持部材30の傾斜面32に取付けられており、発光素子の発光による発熱は保持部材30へと伝熱される。伝熱効率を高めるために、光源用基板20と傾斜面32の間に伝熱シートを介装させてもよい。
【0027】
制御用基板40には、光源用基板20に装着された発光素子の点灯を制御するための電子部品60が搭載されている。制御用基板40の表面に電子部品60が装着されて、保持部材30の底面から凹部39に向かって取付けられる。制御用基板40は、上方に向かって凹む凹部39に、上面を凹部39側へ向けて取付けられるため、電子部品60は凹部39の内側に向けて配置される。
【0028】
凹部39と制御用基板40の隙間を埋めるように、伝熱部材50が配置されており、電子部品60の発熱は、伝熱部材50を介して保持部材30へと伝熱される。伝熱部材50には、粘土状充填剤の伝熱グリスが用いられている。
【0029】
伝熱部材50が制御用基板40と保持部材30の間に介装されることにより、制御用基板40は、保持部材30と熱的に接続される。金属部材で構成される保持部材30は、金属製のランプボディ2の内側底面に直接取付けされることから、光源用基板20および制御用基板40の発熱は、さらにランプボディ2に伝熱される。ランプボディ2の熱は、取付けられた航空機APの胴体BDへと、またさらに伝熱される。ランプユニットLUの発熱は、保持部材30および伝熱部材50を介して、体積の大きなランプボディ2および胴体BDにより放熱される構成となっている。
【0030】
上記構成により、航空機用灯具1の灯室Sは密閉された状態を維持したまま、制御用基板40および光源用基板20の発熱を外部に伝えることができる。安全性が確保され、灯具としての信頼性も確保される。
【0031】
(インナーレンズ10および光源用基板20)
次に、インナーレンズ10および光源用基板20について、詳しく説明する。図5は、インナーレンズ10および光源用基板20の分解斜視図である。図6は、インナーレンズ10および光源用基板20の平面図である。図6(A)がインナーレンズ10の平面図、図6(B)が光源用基板20の平面図、図6(C)が、光源用基板20とインナーレンズ10とが積層された状態の平面図である。
【0032】
矩形状の光源用基板20の表面には、発光素子として6つのLED21a~21fが搭載されている。以下、LED21a~21fをまとめて指す場合には、LED21と称する。
【0033】
LED21は、いずれも一方向に長く構成された矩形状となっており、全てLEDの表面(発光面)の法線方向に光出射軸が向けられている。各LED21は、白色LEDとして構成されている。この白色LEDは、ベースに実装された青光あるいは紫外線光を発光するLEDチップ上に、黄色光を発行する蛍光体を含有するカバーを積層した構成となっている。
【0034】
図6(A)に示すように、LED21b,21cが光源用基板20表面の中央やや後方に、LED21d,21eが光源用基板20表面の中央やや前方に、それぞれ左右に離間して配置される。LED21bとLED21d、およびLED21cとLED21eが、それぞれ前後方向を合わせて配置される。また、LED21aは光源用基板20表面の右方中央に、LED21fは光源用基板20表面の左方中央に、それぞれ配置される。
【0035】
5つのLED21a~21eは、発光面の長手方向を、光源用基板20の長手方向とは一致させず、各光源光軸周りに所定角度回転されている。光源光軸は、インナーレンズ10へ向かう光の射出方向である。LED21fのみ、発光面の長手方向を、光源用基板20の長手方向に一致させて配置される。
【0036】
インナーレンズ10は、取付板部11と、取付板部11の表面に凸状に形成されるレンズ部13a~13eおよび複曲面レンズ部14、取付板部11の裏面の四隅に設けられた取付脚部19から主として構成され、各部は一体的に形成されている。
【0037】
インナーレンズ10は、光源用基板20と対向する裏面が光入射面、表面が光出射面として構成され、LED21a~21fから出射した光を入射して、所定の方向へ光を照射する。レンズ部13a~13eおよび複曲面レンズ部14は、取付板部11の厚み方向における一方の面から突出され、突出方向における表面が突出方向において凸状の曲面に形成されている。
【0038】
インナーレンズ10と光源用基板20とが積層状態に重ねられた状態で、レンズ部13a~13eの中央部がLED21a~21eと、LED21fの中央部が複曲面レンズ部14と、それぞれが対応するように形成されている。
【0039】
インナーレンズ10は、入射面は、概ね平面状の形状を有する。一方、出射面は、光の出射方向に向かって凸となる形状を有している。各レンズ部はいずれも出射面側に突出している。レンズ部13a~13eおよび複曲面レンズ部14は、それぞれ凸レンズであり、インナーレンズ10は、これら複数のレンズが一体化した構成となっている。本実施形態ではレンズ部13a~13eおよび複曲面レンズ部14は、それぞれ離間しているが、縁部同士が一部重複数する構成であってもよい。
【0040】
レンズ部13a~13eの出射面は、球面あるいは非球面レンズであり、いずれも略同一の形状を有する。レンズ部13a~13eは、LED21a~21eから出射された光を、ほぼ平行に、あるいはこれよりも幾分大きな角度範囲で発散する光束として、それぞれが同じ方向に向けて照射するように構成されている。LED21a~21eから出射された光は合成されて、第4照射領域IA4を明るく照射する。各レンズ部から出射した光の照射領域については後述する。
【0041】
図7を用いて、複曲面レンズ部14について説明する。図7(A)は複曲面レンズ部14の平面図、図7(B)は複曲面レンズ部14の概略断面図である。図7(B)は光源用基板20がインナーレンズ10と共に固定された状態としている。
【0042】
複曲面レンズ部14は、出射面が異なる曲率を有する三つの曲面が連結されて形成された自由曲面レンズとなっており、概ね三つの凸レンズの一部の領域が互いに重なり合って一体化した外見となっている。
【0043】
複曲面レンズ部14は、出射面側の三つの曲面それぞれから構成される領域として、第1領域14a,第2領域14b,第3領域14cとに区切られる。
【0044】
第1領域14aと第2領域14bとは、異なる曲率を有する曲面同士が交わる交線CL1により区切られている。第2領域14bと第3領域14cとは、異なる曲率を有する曲面同士が交わる交線CL2により区切られている。第3領域14cと第1領域14aとは、異なる曲率を有する曲面同士が交わる交線CL3によって区切られている。
【0045】
交線CL1,CL2,CL3は、平面視して、それぞれの共通の端点となる中心Cから放射状に伸びる軌跡を有している。このような交線CL1,CL2,CL3により、第1領域14a,第2領域14b,第3領域14cは、いずれも平面視して概ね略扇型の形状を有する領域となる。
【0046】
複曲面レンズ部14に対応して配置されるLED21fは、平面視して複曲面レンズ部14の中央部に、少なくとも一部が第1領域14a,第2領域14b,第3領域14cの、いずれにも係るように配置される。
【0047】
第1領域14a,第2領域14b,第3領域14cは、光出射の向きをそれぞれ異なる方向を向けている。このため、LED21fから出射した光(光束)の一部は、第1領域14aに入射し、出射した光は第1照射領域IA1に向けて出射する。また、LED21fから出射した光の一部は、第2領域14bに入射し、第1照射領域IA1とは異なる第2照射領域IA2に向けて出射する。さらに、LED21fから出射した光の一部が第3領域14cに入射し、第1照射領域IA1とも第2照射領域IA2とも異なる第3照射領域IA3に向けて出射する。
【0048】
複曲面レンズ部14の各領域に入射した光は、出射面の曲面に応じて、それぞれ別の所定の方向に出射して、それぞれ別の領域を主として照射する。LED21fから出射される光束が、複曲面レンズ部14を透過する際に、異なる三つの方向へと分割され、それぞれ異なる領域に向けて出射される。
【0049】
(作用効果)
上記構成の航空機用灯具1の作用効果を、図を用いて説明する。図8は、航空機用灯具1による航空機APの被照射領域の説明図である。図9は、航空機用灯具1の光度分布図である。各図は、航空機用灯具1が航空機APに搭載された際の照射状態であり、ランプユニットLUからLED21の光軸方向を見たときの主翼WGおよびエンジンEGの配置状態を重ねて示した。即ち、図9は、実際の搭載状態における配光を示す。図9(A)は、LED21a~21eのみ点灯した場合の光度分布図である。図8(B)は、LED21fのみ点灯した場合の光度分布図である。図9(C)は、LED21a~21f全てが点灯した場合の光度分布図である。
【0050】
図1に示すように、航空機用灯具1は、主翼WGよりも幾分前方かつ上側の位置において胴体BDに取付けられている。光源用基板20およびインナーレンズ10は、傾斜面32に取付けられた状態で、LED21の出射面が、航空機APに対して幾分下方で、かつ後方に向けられた状態となるように、保持部材30の向きや配置位置、さらに傾斜面32の傾斜角度は設定されている。
【0051】
操作者による操作あるいは自動制御によりLED21が点灯されると、航空機用灯具1により、主翼WGおよびエンジンEGに対する照明が行われる。
【0052】
図8に示すように、航空機用灯具1が照射すべき、航空機APの被照射領域は、主として、氷の付着しやすい箇所である、主翼WGの先端部(ポイントP1)を起点とした主翼WGの前端部と、エンジンEGの主翼WGとのつけ根部(ポイントP2)と、エンジンEGの前面下端部(ポイントP3)を中心としてたエンジンEGの前端部とを含んで構成される。このため、航空機用灯具1に照射されるべき領域は、左右方向に幅広く、かつ上下方向にも前後方向にも広範囲な三次元的な領域であり、主領域は3か所に離間した構成となっている。
【0053】
また、航空機APが飛行の際には、主翼WGがしなることがあり、主翼WGの前端部はしなりに合わせて、通常状態での先端位置よりも、上方に移動する。通常状態での主翼WG先端部をポイントP1、しなった主翼WG´の先端部をポイントP1´として、両者を図8および図9に示した。
【0054】
図9(A)に示すように、LED21a~21eの照射領域である第4照射領域IA4は、その中心が主翼WGに先端であるポイントP1およびポイントP1´のおおよそ中間位置に向けられている。第4照射領域IA4は、一方向に長く形成されており、その長手方向が、主翼WGの延伸方向に沿うように構成されている。
【0055】
第4照射領域IA4は、主翼WGがしなりのない通常状態と、主翼WGがしなりのある状態との、どちらの状態であっても、その前端部が被照射領域となるように、設定されている。第4照射領域は、主翼WGの状態変化にかかわらず、その前端部が照射される形態となっている。
【0056】
主翼WGの前縁部は、特に着氷しやすい領域であるが、主翼WGの基端部から先端部まで、即ち近傍のポイントP2から遠方のポイントP1までの広範囲にわたり、なおかつ主翼WGの形状に沿った一方向に長い領域となっている。加えて、主翼WGの先端部であるポイントP1は、航空機用灯具1が装着される胴体BDからは非常に遠方であるため、高光度な照射が必要となっている。従来の航空機用灯具は、リフレクターなどの光学部材などを用いていて配光を形成していたため、このような被照射領域が適切に照射される配光を作り出すことが難しかった。
【0057】
本実施形態においては、レンズを介したLED出射光による照射領域の外形が、おおむねLEDの光出射面の形状に依存することを利用して、一方向に長いLED21を用いて、一方向に長い第4照射領域IA4を構成し、なおかつ主翼WGの前端部の伸びる方向に合わせて、第4照射領域IA4の長手方向が合致するように、LED21a~21eの長手方向を回転させて配置した。
【0058】
また、着氷状態を確認するためには、被照射領域が近方であれば比較的低光度な光での照射でも十分な照度で照射されるが、遠方であるほど被照射領域の照度が低くなるため、高光度の光での照射を必要とする。このため、最遠方となる主翼WGの先端部(ポイントP1およびポイントP1´)に向けて第4照射領域IA4の中心を設定することにより、LED21a~21eの5つの白色LEDの光が合成された、高光度な光でポイントP1およびポイントP1´が照射され、かつ、近方に向かうほどに低光度の光で照射される構成とした。これにより、遠方領域での十分な照度が確保され、なおかつ近方領域であっても十分な照度も確保され、近方領域から遠方領域まで伸びる広範囲な被照射領域が、適切な照度で照射されるものとした。
【0059】
次に、図9(B)を用いてLED21fの照射領域について説明する。図7に示したように、複曲面レンズ部14を構成する3つの領域である第1領域14a,第2領域14b,第3領域14cは、それぞれ照射方向が相違するため、それぞれの領域から出射した光の照射領域も相違する。LED21fから出射した光は複曲面レンズ部14にて、異なる3方向に分割され、それぞれ第1照射領域IA1,第2照射領域IA2,第3照射領域IA3へと向かう。
【0060】
複曲面レンズ部14の第1領域14aから出射した光による照射領域である第1照射領域IA1は、第4照射領域IA4と同様に、おおむねポイントP1およびポイントP1´の中間位置にその中心が向いている。第1照射領域IA1は、ポイントP1およびポイントP1´にかかるように、上下方向に伸びた形態となっている。しなることで移動する主翼WGの先端部の移動方向に合わせて、第1照射領域IA1が移動方向である上下方向に長く構成されることで、主翼WGのしなりの変化によらずにその先端部が照射されるものとした。
【0061】
第1照射領域IA1と第4照射領域IA4は、一部でその領域が重複するため、6つのLED21が全て点灯した際には両者は合成される(図9(C)参照)。このため、主翼WGの前端部は、通常状態においても、飛行中のしなった状態でも、適切な照度で照射される。
【0062】
複曲面レンズ部14の第2領域14bから出射した光の照射領域である第2照射領域IA2は、その中心がポイントP2に向けられている。このため、LED21fの出射光の一部がエンジンEGのつけ根部を照射する。
【0063】
複曲面レンズ部14の第3領域14cから出射した光の照射領域である第3照射領域IA3は、その中心がポイントP3に向けられている。このため、LED21fの出射光の一部がエンジンEGの前端部を照射する。
【0064】
LED21fの光束が3つに分割されるため、各光の光度は比較的低いものとなる。しかし、ポイントP2およびポイントP3は、航空機用灯具1の設置位置に比較的近い。このため、低い光度で照射を行っても、十分に照明として機能する。着氷しやすい重要な被照射領域であるエンジンEGのつけ根部およびエンジンEGの前端部は、着氷状態を確認するのに十分な照度で照射される。
【0065】
複数の領域からなる複曲面を用いて、発光素子の光束を異なる方向に分割することで、複数の領域を単一の発光素子で照射することを可能とした。また、LED21fに係る複曲面レンズ部14の各領域の面積比により、分割後の光束の比が調整される。これにより、複数の照射領域ごとの光度調整も可能となっている。例えば、遠方の被照射領域を照射する場合には光度が高くなるように、LEDに係る面積比を大きくし、近方の被照射領域を照射する場合には比較的低い光度となるように、LEDに係る面積を小さくすることで、遠方の被照射領域と近方の被照射領域を含む、被照射領域の全てが、適切な照度で照射されることも可能である。
【0066】
加えて、被照射領域が遠方である場合には、LEDの数を増やして同一の被照射領域を照射することで、必要な照度を確保することもできる。またLEDの形状および取付け角度を調整することにより、一方向に長い被照射領域であっても、適切に照射することができる。
【0067】
従来、被照射領域が離間した複数の領域を含む場合には、領域の数だけ発光素子および配光を形成する光学部材が必要であったため、発光素子の数も光学部材の数も増加し、部品数が増加するという問題があった。航空機用灯具1は複数のLED21を搭載した光源用基板20および平板状のインナーレンズ10を用いて配光を形成しており、全体が小型で省スペースとなっている。本開示の構成により、遠方および近方の両方を含む複数領域を有する被照射領域や、広域な被照射領域であっても、適切な照度で照射できる、小型かつ軽量な航空機用灯具を提供できる。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について述べたが、上記の実施形態は本発明の一例であり、これらを当業者の知識に基づいて組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1 :航空機用灯具
10 :インナーレンズ
13a~13e :レンズ部
14 :複曲面レンズ部
20 :光源用基板
21 :LED
30 :保持部材
40 :制御用基板
50 :伝熱部材
AP :航空機
IA1~IA4 :照射領域
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