(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】重ね溶接継手構造及びサスペンションメンバー
(51)【国際特許分類】
B23K 9/02 20060101AFI20241205BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20241205BHJP
B60G 7/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K9/02 D
B23K9/23 F
B60G7/00
(21)【出願番号】P 2021041223
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】市川 智祥
(72)【発明者】
【氏名】惣田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】源島 文彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 茉利子
(72)【発明者】
【氏名】有森 誠二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 康二郎
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-140903(JP,A)
【文献】特開2002-086272(JP,A)
【文献】特開昭62-179869(JP,A)
【文献】特開2019-150840(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0326672(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/02
B23K 9/23
B60G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備えた重ね溶接継手構造であって、
一方のアルミニウム合金母材の合わせ面に、他方のアルミニウム合金母材の合わせ面に向かって突出して当接し、前記すみ肉溶接部の延在方向に沿って連続又は断続した凸部を有し、
前記一方のアルミニウム合金母材と前記他方のアルミニウム合金母材と前記すみ肉溶接部とで形成され、前記すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有
し、
前記一方のアルミニウム合金母材が、アルミニウム合金鋳物であることを特徴とする重ね溶接継手構造。
【請求項2】
前記一方のアルミニウム合金母材の合わせ面に、前記他方のアルミニウム合金母材の合わせ面に向かって突出して当接し、前記すみ肉溶接部の延在方向に沿って連続した凸部を有する場合に、前記一方のアルミニウム合金母材の合わせ面と前記他方のアルミニウム合金母材の合わせ面との距離が、0.3mm以上2.5mm以下であり、
前記一方のアルミニウム合金母材の合わせ面に、前記他方のアルミニウム合金母材の合わせ面に向かって突出して当接し、前記すみ肉溶接部の延在方向に沿って断続した凸部を有する場合に、前記一方のアルミニウム合金母材の合わせ面と前記他方のアルミニウム合金母材の合わせ面との距離が、0.1mm以上2.5mm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の重ね溶接継手構造。
【請求項3】
凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とで形成された筒状部を備えたサスペンションメンバーであって、
前記筒状部の少なくとも一部が、請求項1
又は2に記載の重ね溶接継手構造で形成された閉断面構造を有する
ことを特徴とするサスペンションメンバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね溶接継手構造及びサスペンションメンバーに係り、更に詳細には、アルミニウム合金母材同士の重ね溶接継手構造、及びこの重ね溶接継手構造を適用した自動車用サスペンションメンバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム板を母材として用いて溶接継手とするにあたり、その溶接部となるべき合わせ面同士の隙間寸法のばらつきをある程度許容しつつも、ブローホールの発生を抑制して溶接強度の向上と安定化を可能とした継手構造が提案されている(特許文献1参照。)。この継手構造は、アルミニウム系母材の一部を重ね合わせた上でミグ溶接法によりすみ肉溶接を施した重ね継手構造である。この重ね継手構造においては、互いに重ね合わされることになるいずれか一方の合わせ面に、すみ肉となるべき領域に向かって開口する凹溝が予め溶接方向に沿って断続的に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような重ね継手構造のアルミニウム系母材の合わせ面には、溶接方向に沿って凹溝が形成されていない部分があった。そのため、その部分における溶融金属中のガスを十分に逃がすことができず、特許文献1に記載のような重ね継手構造においては、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥が発生してしまうという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止し得る重ね継手構造及びサスペンションメンバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備え、所定の凸部を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有する重ね溶接継手構造とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の重ね溶接継手構造は、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備えた重ね溶接継手構造である。この重ね溶接継手構造は、一方のアルミニウム合金母材の合わせ面に、他方のアルミニウム合金母材の合わせ面に向かって突出して当接し、すみ肉溶接部の延在方向に沿って連続又は断続した凸部を有する。この重ね溶接継手構造は、一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有し、前記一方のアルミニウム合金母材が、アルミニウム合金鋳物である。
【0008】
さらに、本発明のサスペンションメンバーは、凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とで形成された筒状部を備えたサスペンションメンバーである。この筒状部の少なくとも一部が、上記本発明の重ね溶接継手構造で形成された閉断面構造を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備え、所定の凸部を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有する重ね溶接継手構造としたため、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止し得る重ね溶接継手構造及びサスペンションメンバーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1-1の実施形態に係るサスペンションメンバーを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すサスペンションメンバーにおけるII線で囲んだ部分の斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける第2-2の実施形態に係る重ね溶接継手構造の斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける第3-2の実施形態に係る重ね溶接継手構造の斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の第4-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける第4-2の実施形態に係る重ね溶接継手構造の斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の第5-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける第5-2の実施形態に係る重ね溶接継手構造の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の若干の実施形態に係るサスペンションメンバー及び重ね溶接継手構造について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1-1の実施形態に係るサスペンションメンバーを示す斜視図である。
図1に示すように、第1-1の実施形態のサスペンションメンバー100は、凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材10(以下「第1アルミニウム合金母材10」ということがある。)と、他方のアルミニウム合金母材20(以下「第2アルミニウム合金母材20」ということがある。)とで形成された筒状部110を備える。筒状部110の少なくとも一部は、後述する所定の重ね溶接継手構造1で形成された閉断面構造111を有する。第1又は第2アルミニウム合金母材10、20としては、例えば、自動車の構造部材に適用可能なアルミニウム合金を適宜用いることが好ましい。
図1中の符号30は、すみ肉溶接部を示す。すみ肉溶接部30は、例えば、アーク溶接により形成することが好ましく、ミグ溶接により形成することが好ましい。図示例では、他方のアルミニウム合金母材20も凹型断面形状を有しているが、本発明におけるサスペンションメンバーの構造はこれに限定されず、他方のアルミニウム合金母材が平板形状であってもよい。また、図示例では、サスペンションメンバー100は井桁構造を有しているが、本発明におけるサスペンションメンバーの構造はこれに限定されない。
【0013】
ここで、所定の重ね溶接継手構造1を詳細に説明する。
図2は、
図1に示すサスペンションメンバーにおけるII線で囲んだ部分の斜視図である。
図2に示すように、第1-1の実施形態のサスペンションメンバー100における第1-2の実施形態の重ね溶接継手構造1は、アルミニウム合金母材同士、すなわち第1アルミニウム合金母材10及び第2アルミニウム合金母材20と、これらを接合するすみ肉溶接部30とを備える。
【0014】
本実施形態の重ね溶接継手構造1は、第1アルミニウム合金母材10の合わせ面10A(以下「第1合わせ面10A」ということがある。)の一端に、第2アルミニウム合金母材20の合わせ面20A(以下「第2合わせ面20A」ということがある。)に向かって突出して当接し、すみ肉溶接部30の延在方向に沿って連続した凸部11(以下「第1凸部11」ということがある。)を有する。
【0015】
本実施形態の重ね溶接継手構造1は、第1アルミニウム合金母材10と第2アルミニウム合金母材20とすみ肉溶接部30とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部30の延在方向に連通した隙間1Aを有する。
【0016】
本実施形態の重ね溶接継手構造は、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備え、所定の凸部を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有する。そのため、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間の一端と他端の2カ所を通じて、溶接の際に溶融金属から発生する水素ガスなどのガスを外部に逃がすことができ、溶融金属中のガス量を低減できる。その結果、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止できる。
【0017】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1アルミニウム合金母材10の第1合わせ面10Aと第2アルミニウム合金母材20の第2合わせ面20Aとの距離が、0.3mm以上2.5mm以下であることが好ましい。連続した第1凸部の高さを0.3mm以上とすることによって、第1合わせ面10Aと第2合わせ面20Aとの距離が第1凸部の高さと同じ0.3mm以上となって、溶融金属から発生するガスを隙間の一端と他端の2カ所を通じて外部に十分に逃がすことができ、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を更に抑制ないし防止できる。さらに、連続した第1凸部の高さを2.5mm以下とすることによって、第1合わせ面10Aと第2合わせ面20Aとの距離が第1凸部の高さと同じ2.5mm以下となって、溶融金属が隙間に流れ込むことによる溶接品質低下の発生を抑制ないし防止できる。
【0018】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1アルミニウム合金母材が、アルミニウム合金鋳物であることが好ましい。第1アルミニウム合金母材をアルミニウム合金鋳物とすることによって、第1アルミニウム合金母材の鋳造による成形時に工程数を増やすことなく、第1合わせ面に第1凸部を容易に設けることができる。また、同様の理由により、本発明においては、第2アルミニウム合金母材が、アルミニウム合金鋳物であってもよい。
【0019】
本実施形態のサスペンションメンバーは、凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とで形成された筒状部を備え、筒状部の少なくとも一部が本実施形態の重ね溶接継手構造で形成された閉断面構造を有する。そのため、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、重ね溶接継手構造のすみ肉溶接によって形成される線溶接による閉断面構造を有する筒状部の剛性を、ボルトによって形成される点締結による閉断面構造を有する筒状部の剛性よりも高くすることができる。その結果、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、剛性確保のためのリブ等を形成することが不要となり、剛性等価で母材を薄肉化することができ、これを適用した自動車を軽量化することができる。
【0020】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける第2-2の実施形態に係る重ね溶接継手構造の斜視図である。具体的には、第2-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける
図1に示すII線と同じ位置で囲んだ部分の斜視図である。なお、第1の実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0021】
図3に示すように、本実施形態の重ね溶接継手構造2は、第1アルミニウム合金母材10及び第2アルミニウム合金母材20と、これらを接合するすみ肉溶接部30とを備える。
【0022】
本実施形態の重ね溶接継手構造2は、第1アルミニウム合金母材10の第1合わせ面10Aの中間に、第2アルミニウム合金母材20の第2合わせ面20Aに向かって突出して当接し、すみ肉溶接部30の延在方向に沿って連続した第1凸部11を有する。
【0023】
本実施形態の重ね溶接継手構造2は、第1アルミニウム合金母材10と第2アルミニウム合金母材20とすみ肉溶接部30とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部30の延在方向に連通した隙間2Aを有する。
【0024】
本実施形態の重ね溶接継手構造は、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備え、所定の凸部を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有する。そのため、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間の一端と他端の2カ所を通じて、溶接の際に溶融金属から発生する水素ガスなどのガスを外部に逃がすことができ、溶融金属中のガス量を低減できる。その結果、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止できる。
【0025】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1凸部11が第1合わせ面10Aの中間に設けられているので、第1凸部11が第1合わせ面10Aの一端に設けられている第1の実施形態の重ね溶接継手構造と比較して、溶接の際の入熱によって変形し難い。そのため、本実施形態の重ね溶接継手構造は、溶接の際の入熱によって第1凸部とすみ肉溶接部とが離れてしまい、母材の変形によって隙間寸法が大きく変わってしまう場合に適用することが好ましい。
【0026】
本実施形態の重ね溶接継手構造においても、第1の実施形態の重ね溶接継手構造の好適形態や材種を適宜採用することができる。
【0027】
本実施形態のサスペンションメンバーは、凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とで形成された筒状部を備え、筒状部の少なくとも一部が本実施形態の重ね溶接継手構造で形成された閉断面構造を有する。そのため、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、重ね溶接継手構造のすみ肉溶接によって形成される線溶接による閉断面構造を有する筒状部の剛性を、ボルトによって形成される点締結による閉断面構造を有する筒状部の剛性よりも高くすることができる。その結果、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、剛性確保のためのリブ等を形成することが不要となり、剛性等価で母材を薄肉化することができ、これを適用した自動車を軽量化することができる。
【0028】
(第3の実施形態)
図4は、本発明の第3-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける第3-2の実施形態に係る重ね溶接継手構造の斜視図である。具体的には、第3-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける
図1に示すII線と同じ位置で囲んだ部分の斜視図である。なお、第1又は第2の実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0029】
図4に示すように、本実施形態の重ね溶接継手構造3は、第1アルミニウム合金母材10及び第2アルミニウム合金母材20と、これらを接合するすみ肉溶接部30とを備える。
【0030】
本実施形態の重ね溶接継手構造3は、第1アルミニウム合金母材10の第1合わせ面10Aの一端に、第2アルミニウム合金母材20の第2合わせ面20Aに向かって突出して当接し、すみ肉溶接部30の延在方向に沿って断続した第1凸部11を有する。図示例の断続した第1凸部11は、第1アルミニウム合金母材の鋳造による成形時に工程数を増やすことなく、第1合わせ面11に設けることができる。また、断続した第1凸部11は、第1アルミニウム合金母材の鋳造による成形時に連続した第1凸部11を形成し、別途機械加工をすることにより設けることもできる。
【0031】
本実施形態の重ね溶接継手構造3は、第1アルミニウム合金母材10と第2アルミニウム合金母材20とすみ肉溶接部30とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部30の延在方向に連通した隙間3Aを有する。
【0032】
本実施形態の重ね溶接継手構造は、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備え、所定の凸部を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有する。そのため、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間の一端と他端の2カ所を通じて、溶接の際に溶融金属から発生する水素ガスなどのガスを外部に逃がすことができ、溶融金属中のガス量を低減できる。その結果、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止できる。また、軽量化の観点からは、本実施形態の重ね溶接継手構造は、第1の実施形態の重ね溶接継手構造よりも好ましい。
【0033】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1凸部11がすみ肉溶接部30の延在方向に沿って断続した状態で複数設けられているので、第1凸部11がすみ肉溶接部30の延在方向に沿って連続した状態で設けられている第1の実施形態の重ね溶接継手構造と比較して、溶融金属から発生するガスを隣り合う第1凸部11同士の間を通じて、外部に更に逃がすことができ、溶融金属中のガス量を更に低減できる。その結果、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を更に抑制ないし防止できる。
【0034】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1アルミニウム合金母材10の第1合わせ面10Aと第2アルミニウム合金母材20の第2合わせ面20Aとの距離が、0.1mm以上2.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上2.5mm以下であることがより好ましい。断続した第1凸部の高さを0.1mm以上とすることによって、第1合わせ面10Aと第2合わせ面20Aとの距離が第1凸部の高さと同じ0.1mm以上となって、溶融金属から発生するガスを隙間の一端と他端の2カ所及び隣り合う第1凸部同士の間を通じて外部に十分に逃がすことができ、破壊の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を更に抑制ないし防止できる。断続した第1凸部の高さを2.5mm以下とすることによって、第1合わせ面10Aと第2合わせ面20Aとの距離が第1凸部の高さと同じ2.5mm以下となって、溶融金属が隙間に流れ込むことによる溶接品質低下の発生を抑制ないし防止できる。
【0035】
本実施形態の重ね溶接継手構造においても、第1の実施形態の重ね溶接継手構造の好適形態や材種を適宜採用することができる。
【0036】
本実施形態のサスペンションメンバーは、凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とで形成された筒状部を備え、筒状部の少なくとも一部が本実施形態の重ね溶接継手構造で形成された閉断面構造を有する。そのため、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、重ね溶接継手構造のすみ肉溶接によって形成される線溶接による閉断面構造を有する筒状部の剛性を、ボルトによって形成される点締結による閉断面構造を有する筒状部の剛性よりも高くすることができる。その結果、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、剛性確保のためのリブ等を形成することが不要となり、剛性等価で母材を薄肉化することができ、これを適用した自動車を軽量化することができる。
【0037】
(第4の実施形態)
図5は、本発明の第4-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける第4-2の実施形態に係る重ね溶接継手構造の斜視図である。具体的には、第4-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける
図1に示すII線と同じ位置で囲んだ部分の斜視図である。なお、第1~第3の実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
図5に示すように、本実施形態の重ね溶接継手構造4は、第1アルミニウム合金母材10及び第2アルミニウム合金母材20と、これらを接合するすみ肉溶接部30とを備える。
【0039】
本実施形態の重ね溶接継手構造4は、第1アルミニウム合金母材10の第1合わせ面10Aの中間に、第2アルミニウム合金母材20の第2合わせ面20Aに向かって突出して当接し、すみ肉溶接部30の延在方向に沿って断続した第1凸部11を有する。図示例の断続した第1凸部11は、第1アルミニウム合金母材の鋳造による成形時に工程数を増やすことなく、第1合わせ面11に設けることができる。また、断続した第1凸部11は、第1アルミニウム合金母材の鋳造による成形時に連続した第1凸部11を形成し、別途機械加工をすることにより設けることもできる。
【0040】
本実施形態の重ね溶接継手構造4は、第1アルミニウム合金母材10と第2アルミニウム合金母材20とすみ肉溶接部30とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部30の延在方向に連通した隙間4Aを有する。
【0041】
本実施形態の重ね溶接継手構造は、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備え、所定の凸部を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有する。そのため、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間の一端と他端の2カ所を通じて、溶接の際に溶融金属から発生する水素ガスなどのガスを外部に逃がすことができ、溶融金属中のガス量を低減できる。その結果、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止できる。また、軽量化の観点からは、本実施形態の重ね溶接継手構造は、第2の実施形態の重ね溶接継手構造よりも好ましい。
【0042】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1凸部11が第1合わせ面10Aの中間に設けられているので、第1凸部11が第1合わせ面10Aの一端に設けられている第1の実施形態の重ね溶接継手構造と比較して、溶接の際の入熱によって変形し難い。そのため、本実施形態の重ね溶接継手構造は、溶接の際の入熱によって第1凸部とすみ肉溶接部とが離れてしまい、母材の変形によって隙間寸法が大きく変わってしまう場合に適用することが好ましい。
【0043】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1凸部11がすみ肉溶接部30の延在方向に沿って断続した状態で複数設けられているので、第1凸部11がすみ肉溶接部30の延在方向に沿って連続した状態で設けられている第1の実施形態の重ね溶接継手構造と比較して、溶融金属から発生するガスを隣り合う第1凸部11同士の間を通じて、外部に更に逃がすことができ、溶融金属中のガス量を更に低減できる。その結果、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を更に抑制ないし防止できる。
【0044】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1アルミニウム合金母材10の第1合わせ面10Aと第2アルミニウム合金母材20の第2合わせ面20Aとの距離が、0.1mm以上2.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上2.5mm以下であることがより好ましい。断続した第1凸部の高さを0.1mm以上とすることによって、第1合わせ面10Aと第2合わせ面20Aとの距離が第1凸部の高さと同じ0.1mm以上となって、溶融金属から発生するガスを隙間の一端と他端の2カ所及び隣り合う第1凸部同士の間を通じて外部に十分に逃がすことができ、破壊の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を更に抑制ないし防止できる。断続した第1凸部の高さを2.5mm以下とすることによって、第1合わせ面10Aと第2合わせ面20Aとの距離が第1凸部の高さと同じ2.5mm以下となって、溶融金属が隙間に流れ込むことによる溶接品質低下の発生を抑制ないし防止できる。
【0045】
本実施形態の重ね溶接継手構造においても、第1の実施形態の重ね溶接継手構造の好適形態や材種を適宜採用することができる。
【0046】
本実施形態のサスペンションメンバーは、凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とで形成された筒状部を備え、筒状部の少なくとも一部が本実施形態の重ね溶接継手構造で形成された閉断面構造を有する。そのため、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、重ね溶接継手構造のすみ肉溶接によって形成される線溶接による閉断面構造を有する筒状部の剛性を、ボルトによって形成される点締結による閉断面構造を有する筒状部の剛性よりも高くすることができる。その結果、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、剛性確保のためのリブ等を形成することが不要となり、剛性等価で母材を薄肉化することができ、これを適用した自動車を軽量化することができる。
【0047】
(第5の実施形態)
図6は、本発明の第5-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける第5-2の実施形態に係る重ね溶接継手構造の斜視図である。具体的には、第5-1の実施形態に係るサスペンションメンバーにおける
図1に示すII線と同じ位置で囲んだ部分の斜視図である。なお、第1~第4の実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
図6に示すように、本実施形態の重ね溶接継手構造5は、第1アルミニウム合金母材10及び第2アルミニウム合金母材20と、これらを接合するすみ肉溶接部30とを備える。
【0049】
本実施形態の重ね溶接継手構造5は、第2アルミニウム合金母材20の第2合わせ面20Aの中間に、第1アルミニウム合金母材10の第1合わせ面10Aに向かって突出して当接し、すみ肉溶接部30の延在方向に沿って連続した凸部21(以下「第2凸部21」ということがある。)を有する。
【0050】
本実施形態の重ね溶接継手構造5は、第1アルミニウム合金母材10と第2アルミニウム合金母材20とすみ肉溶接部30とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部30の延在方向に連通した隙間5Aを有する。
【0051】
本実施形態の重ね溶接継手構造は、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備え、所定の凸部を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有する。そのため、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間の一端と他端の2カ所を通じて、溶接の際に溶融金属から発生する水素ガスなどのガスを外部に逃がすことができ、溶融金属中のガス量を低減できる。その結果、本実施形態の重ね溶接継手構造においては、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止できる。
【0052】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第2凸部11が第2合わせ面20Aの中間に設けられているので、第2凸部が第2合わせ面の一端に設けられている場合と比較して、溶接の際の入熱によって変形し難い。そのため、本実施形態の重ね溶接継手構造は、溶接の際の入熱によって第2凸部とすみ肉溶接部とが離れてしまい、母材の変形によって隙間寸法が大きく変わってしまう場合に適用することが好ましい。
【0053】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第1アルミニウム合金母材10の第1合わせ面10Aと第2アルミニウム合金母材20の第2合わせ面20Aとの距離が、0.3mm以上2.5mm以下であることが好ましい。連続した第2凸部の高さを0.3mm以上とすることによって、第1合わせ面10Aと第2合わせ面20Aとの距離が第2凸部の高さと同じ0.3mm以上となって、溶融金属から発生するガスを隙間の一端と他端の2カ所を通じて外部に十分に逃がすことができ、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を更に抑制ないし防止できる。さらに、連続した第2凸部の高さを2.5mm以下とすることによって、第1合わせ面10Aと第2合わせ面20Aとの距離が第2凸部の高さと同じ2.5mm以下となって、溶融金属が隙間に流れ込むことによる溶接品質低下の発生を抑制ないし防止できる。
【0054】
本実施形態の重ね溶接継手構造においては、第2アルミニウム合金母材が、アルミニウム合金鋳物であることが好ましい。第2アルミニウム合金母材をアルミニウム合金鋳物とすることによって、第2アルミニウム合金母材の鋳造による成形時に工程数を増やすことなく、第2合わせ面に第2凸部を容易に設けることができる。
【0055】
本実施形態の重ね溶接継手構造においても、第1~4の実施形態の重ね溶接継手構造の各種形態や材種を適宜採用することができる。
【0056】
本実施形態のサスペンションメンバーは、凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とで形成された筒状部を備え、筒状部の少なくとも一部が本実施形態の重ね溶接継手構造で形成された閉断面構造を有する。そのため、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、重ね溶接継手構造のすみ肉溶接によって形成される線溶接による閉断面構造を有する筒状部の剛性を、ボルトによって形成される点締結による閉断面構造を有する筒状部の剛性よりも高くすることができる。その結果、本実施形態のサスペンションメンバーにおいては、剛性確保のためのリブ等を形成することが不要となり、剛性等価で母材を薄肉化することができ、これを適用した自動車を軽量化することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0058】
(実施例1-1~実施例1-28)
アルミニウム合金の鋳造によって、連続した凸部(全体長さ:100mm、高さ:3mm)を有するアルミニウム合金鋳物材からなる板状のアルミニウム合金母材(厚さ:3mm以上)を得た。なお、
図3に示すように、連続した凸部を板状のアルミニウム合金母材の端から合わせ面の中間側へ8mmずらした位置に形成した。得られた板状のアルミニウム合金母材の連続した凸部の高さを機械加工により0.1~2.8mmに0.1mmずつ調整して、各例で用いるアルミニウム合金鋳物材からなる板状の第1アルミニウム合金母材を準備した。各例で用いるアルミニウム合金展伸材からなる板状の第2アルミニウム合金母材(厚さ:3mm)を準備した。各例で用いる第1アルミニウム合金母材及び第2アルミニウム合金母材をミグ溶接によるすみ肉溶接によって接合して、各例の重ね溶接継手構造を得た。
【0059】
(実施例2-1~実施例2-28)
アルミニウム合金の鋳造によって、連続した凸部(全体長さ:100mm、高さ:3mm)を有するアルミニウム合金鋳物材からなる板状のアルミニウム合金母材(厚さ:3mm以上)を得た。なお、
図3に示すように、連続した凸部を板状のアルミニウム合金母材の端から合わせ面の中間側へ8mmずらした位置に形成した。得られた板状のアルミニウム合金母材の連続した凸部を機械加工により
図5に示すように断続した凸部にすると共に、その高さを機械加工により0.1~2.8mmに0.1mmずつ調整して、各例で用いるアルミニウム合金鋳物材からなる板状の第1アルミニウム合金母材を準備した。各例で用いるアルミニウム合金展伸材からなる板状の第2アルミニウム合金母材(厚さ:3mm)を準備した。各例で用いる第1アルミニウム合金母材及び第2アルミニウム合金母材をミグ溶接によるすみ肉溶接によって接合して、各例の重ね溶接継手構造を得た。
【0060】
(比較例1)
アルミニウム合金の鋳造によって、連続した凸部(全体長さ:100mm、高さ:3mm)を有するアルミニウム合金鋳物材からなる板状のアルミニウム合金母材(厚さ:3mm以上)を得た。なお、
図3に示すように、連続した凸部を板状のアルミニウム合金母材の端から合わせ面の中間側へ8mmずらした位置に形成した。得られた板状のアルミニウム合金母材の連続した凸部の高さを機械加工により0mmに調整して、本例で用いるアルミニウム合金鋳物材からなる板状の第1アルミニウム合金母材を準備した。本例で用いるアルミニウム合金展伸材からなる板状の第2アルミニウム合金母材(厚さ:3mm)を準備した。本例で用いる第1アルミニウム合金母材及び第2アルミニウム合金母材をミグ溶接によるすみ肉溶接によって接合して、本例の重ね溶接継手構造を得た。上記各例の仕様の一部を表1に示す。
【0061】
【0062】
<ワームホールの観察>
X線透過試験によって各例の重ね溶接継手構造におけるワームホールの発生状態を観察した。具体的には、X線透過試験において、X線CT(PHILIPS社製MCN101)を用い、電圧48KV、電流15mA、照射時間1分間、ワークまでの距離1200mm、照度2.0として計測を行った。得られた結果を表1に併記する。なお、表1中の「合わせ面間距離」は、一方のアルミニウム合金母材の合わせ面と他方のアルミニウム合金母材の合わせ面との距離を意味する。また、表1中の「ワームホール発生状態」における「有り」は最大長さが14mm以上であるワームホール(線状欠陥)が比較的多く観察された場合を示す。さらに、表1中の「ワームホール発生状態」における「比較例1より少ない」は最大長さが14mm以上であるワームホール(線状欠陥)が観察された場合を示す。また、表1中の「ワームホール発生状態」における「無し」は最大長さが14mm未満であるワームホール(線状欠陥)のみが観察された場合を示す。
【0063】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1-1~実施例1-28及び実施例2-1~実施例2-28は、本発明外の比較例1よりも、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止できることが分かる。これは、重ね溶接継手構造が、アルミニウム合金母材同士を接合するすみ肉溶接部を備え、所定の凸部を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とすみ肉溶接部とで囲まれて形成され、すみ肉溶接部の延在方向に連通した隙間を有するためと考えられる。
【0064】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1-3~実施例1-28は、実施例1-1~実施例1-2よりも、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止できることが分かる。これは、所定の凸部が連続した凸部である場合に、第1アルミニウム合金母材の第1合わせ面と第2アルミニウム合金母材の第2合わせ面との距離が、0.3mm以上2.5mm以下であるためと考えられる。更に、所定の凸部が断続した凸部である場合に、第1アルミニウム合金母材の第1合わせ面と第2アルミニウム合金母材の第2合わせ面との距離が、0.1mm以上2.5mm以下であっても、機械的特性低下の要因となるワームホールのようなガス欠陥の発生を抑制ないし防止できることが分かる。
【0065】
なお、本発明の範囲に属する実施例1-1~実施例1-25及び実施例2-1~実施例2-25は、実施例1-26~実施例1-28及び実施例2-26~実施例2-28よりも、溶融金属の隙間への流入が殆ど見られず、溶接品質の低下が抑制ないし防止できていた。
【0066】
本発明の範囲に属する実施例1-1~実施例1-28及び実施例2-1~実施例2-28は、アルミニウム合金の鋳造において、凸部を容易に形成できた。
【0067】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0068】
上述の実施形態においては、第1アルミニウム合金母材が凹型断面形状を有する場合を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、第2アルミニウム合金母材が凹型断面形状を有していてもよく、第1及び第2アルミニウム合金母材の双方が凹型断面形状を有していてもよい。
【0069】
上述の実施形態においては、重ね溶接継手構造の適用対象として自動車用サスペンションメンバーを例示したが、これに限定されるものではない。凹型断面形状を有する一方のアルミニウム合金母材と他方のアルミニウム合金母材とで形成された筒状部を備え、筒状部の少なくとも一部が、本発明の重ね溶接継手構造で形成された閉断面構造を有すれば、例えば、各種の自動車用の構造部材に適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1,2,3,4,5:重ね溶接継手構造
1A,2A,3A,4A,5A:隙間
10:第1アルミニウム合金母材(一方のアルミニウム合金母材)
10A:第1合わせ面(合わせ面)
11:第1凸部(凸部)
20:第2アルミニウム合金母材(他方のアルミニウム合金母材)
20A:第2合わせ面(合わせ面)
21:第2凸部(凸部)
30:すみ肉溶接部
100:サスペンションメンバー
110:筒状部
111:閉断面構造