(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】オキシフッ化イットリウムの焼結体及び該オキシフッ化イットリウムの焼結体を用いた半導体製造装置用部材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/553 20060101AFI20241205BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20241205BHJP
C04B 35/505 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C04B35/553
H01L21/302 101H
H01L21/302 101G
C04B35/505
(21)【出願番号】P 2021043824
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康隆
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-098143(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159713(WO,A1)
【文献】特開2018-131362(JP,A)
【文献】国際公開第2020/179296(WO,A1)
【文献】特開2022-083511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/50-35/505
C04B 35/553
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y
5O
4F
7とYF
3を主成分とするオキシフッ化イットリウムの焼結体であって、
0.02~0.3重量%のカーボンを含有し、
Lab表色系においてL値が20~55であることを特徴とするオキシフッ化イットリウムの焼結体。
【請求項2】
前記カーボンは、不定形カーボンであることを特徴とする請求項1に記載のオキシフッ化イットリウムの焼結体。
【請求項3】
気孔率が4%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオキシフッ化イットリウムの焼結体。
【請求項4】
前記YF
3の含有割合は5~40重量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のオキシフッ化イットリウムの焼結体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のオキシフッ化イットリウムの焼結体を用いたことを特徴とする半導体製造装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシフッ化イットリウムの焼結体及び該オキシフッ化イットリウムの焼結体を用いた半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造における各工程、特に、ドライエッチング、プラズマエッチング及びクリーニングの工程ではフッ素系腐食性ガスや塩素系腐食性ガス及びこれらを用いたプラズマが使用される。
【0003】
これらの腐食性ガスやプラズマを使用すると、半導体製造装置の構成部材が腐食されたり、上記構成部材の表面からはく離した微細粒子(パーティクル)が半導体の表面に付着し、製品不良の原因となりやすい。そのため、半導体製造装置の構成部材には、ハロゲン系プラズマに対して耐食性の高いセラミックスがバルク材料として使用される必要がある。
【0004】
このようなバルク材料として、特許文献1には、少なくとも希土類元素とフッ素を含む化合物の相を有する焼結体であって、L*a*b色度表示において、L値が70以上である焼結体が記載されている。
このような焼結体では、フッ素や酸素の脱離欠損がないことによって、L*値が70以上となり、ハロゲン系プラズマに対する耐食性が高くなることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、バルク材料として使用されるセラミックが斜方晶のYF3を含む場合、YF3の構造の制御により対プラズマ性が高くなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2020/179296号公報
【文献】特開2018―82154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、半導体製造装置において用いられる部材のL値が高くなると、表面で光を反射しやすくなり、輻射伝熱による加熱、放熱に時間がかかるようになる。
本発明では、前記課題を鑑み、ハロゲンや酸素などのプラズマに対する耐食性を確保できる組成を維持しながら輻射加熱、放熱しやすいオキシフッ化イットリウムの焼結体、及び、これを用いた半導体製造装置用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3を主成分とするオキシフッ化イットリウムの焼結体であって、0.02~0.3重量%のカーボンを含有し、Lab表色系においてL値が20~55であることを特徴とする。
【0009】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体によれば、0.02~0.3重量%のカーボンを含有し、Lab表色系においてL値が20~55である。上記カーボンは、オキシフッ化イットリウムとの炭化物ができにくく、焼結体中で、炭素単体で存在することができるので、本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体が、0.02~0.3重量%のカーボンを含有することにより、焼結体のL値を下げることに寄与する。
【0010】
また、L値が20~55であるので、光の吸収、放射が行いやすく、半導体製造装置用部品として使用したときに速やかに加熱、冷却でき、半導体製造のリードタイムを短縮し、製造コストを低減することができる。
また本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、主成分がY5O4F7とYF3からなるため、ハロゲン系プラズマに対する耐性を強くすることができる。
【0011】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体では、前記カーボンが、不定形カーボンであることが好ましい。
不定形カーボンとは、黒鉛粒子のような結晶構造をとっていないものをいい、本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体のカーボンが、不定形カーボンであると、偏在しにくく、本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体の粒界に薄く広く広がり、少量のカーボンでL値を効率よく低下させることができる。
【0012】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、気孔率が4%以下であることが好ましい。
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体の気孔率が4%以下であると、オキシフッ化イットリウムの表面で光の乱反射が抑制され、焼結体内部の色が観察されやすくなる。また、気孔率が4%以下であると空気中で加熱しても焼結体内部に酸素が侵入しにくく、カーボンが酸化されにくいため、Lab表示系においてL値を20~55となるよう維持することができる。
【0013】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体では、YF3の含有割合が5~40重量%であることが好ましい。
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体において、YF3の含有割合が上記範囲にあると、ハロゲンや酸素のプラズマのいずれに対しても高い耐食性を備え、オキシフッ化イットリウムの焼結体の劣化を防止することができる。
【0014】
本発明の半導体製造装置用部材は、上記のオキシフッ化イットリウムの焼結体を用いたことを特徴とする。
本発明の半導体製造装置用部材によれば、L値が20~55であるので、半導体製造装置内で速やかに加熱、冷却することができ、半導体製造のリードタイムを短縮し、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体によれば、0.02~0.3重量%のカーボンを含有し、L値が20~55であるので、輻射伝熱による光の吸収、放射が行いやすく、半導体製造装置用部品として使用したときに速やかに加熱、冷却でき、半導体製造のリードタイムを短縮し、製造コストを低減することができる。
また本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、主成分がY5O4F7とYF3からなるため、ハロゲンや酸素のプラズマに対する耐性を強くすることができる。
【0016】
また、本発明の半導体製造装置用部材によれば、0.02~0.3重量%のカーボンを含有し、L値が20~55であるので、半導体製造装置用部材が用いられた半導体製造装置内で、半導体となる部品を速やかに加熱、冷却することができ、半導体製造のリードタイムを短縮し、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1及び比較例に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体を粉砕した粉末のX線回折による分析結果を示すチャートである。
【
図2】実施例1~3及び比較例に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体の表面状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7とYF3を主成分とするオキシフッ化イットリウムの焼結体であって、0.02~0.3重量%のカーボンを含有し、Lab表色系においてL値が20~55であることを特徴とする。
【0019】
Lab表色系とは、CIE(国際照明委員会)が定めた色を定量的に記述するための一連の規定および定義からなる体系であり、ルミナンス座標(L:明るさ)と二つのクロミナンス座標(a:赤-緑の軸、b:青-黄色の軸)でカラーを表すものである。L値(明るさの値)は、0~100で規定されており、数値が多くなる程、明るくなる。本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体では、L値(明るさの値)が20~55である。
【0020】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体によれば、含有するカーボンとの反応によってオキシフッ化イットリウムとの炭化物ができにくく、オキシフッ化イットリウムの焼結体中で、炭素単体で存在でき、0.02~0.3重量%と少量のカーボンであっても本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体のL値を下げることに寄与することができる。
【0021】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体によれば、L値が、55以下であるので光の吸収、放射が行いやすく、半導体製造装置用部品として使用したときに速やかに加熱、冷却でき、半導体製造のリードタイムを短縮し、製造コストを低減することができる。
また、L値が20以上であるので、カーボンの添加量が多すぎず、カーボンが表面に露出しにくく、経時的な酸化が抑制され、L値の変動を防止できる。
なお、L値は、色彩色差計を用いることにより測定することができる。
【0022】
さらに、本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、主成分がY5O4F7とYF3からなるため、ハロゲンや酸素のプラズマに対する耐性を強くすることができる。
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、Y5O4F7、YF3及びカーボンのほかに、Y2O3、Y 7O 6F 9等の成分を耐食性に影響を与えない限りにおいて含んでいてもよい。Y5O4F7、YF3及びカーボン以外の成分の含有割合は、15重量%以下であることが望ましく、5重量%以下であることがさらに望ましく、1重量%以下であることがさらに望ましい。
【0023】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体では、上記カーボンが、不定形カーボンであることが好ましい。
【0024】
得られるオキシフッ化イットリウムの焼結体において、含まれるカーボンが不定形カーボンであるとは、黒鉛粒子のような結晶構造をとっていないもの、すなわち六方晶が一定の大きさをもち、X線回折でピークが検出される構造のものではなく、X線回折では検出されないものをいう。このような不定形カーボンは、焼結体を粒子径1mm以下となるよう粉砕し、材料中炭素・硫黄分析装置を用い酸素気流中燃焼法による赤外線吸収法の定量分析で検出することができる。
また、不定形カーボンは、粒界に薄く広がって偏在しにくいので、本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体の粒界に薄く広く広がり、少量のカーボンでL値を効率よく低下させることができる。
【0025】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、気孔率が4%以下であることが好ましい。
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体において、気孔率が4%以下であると、オキシフッ化イットリウムの表面で光の乱反射が抑制され、焼結体内部の色が観察されやすくなる。また、気孔率が4%以下であると空気中で加熱しても焼結体内部に酸素が侵入しにくく、カーボンが酸化されにくいため、Lab表示系においてL値を20~55となるよう維持することができる。
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体の気孔率は、以下のように求めることができる。
Y5O4F7の真密度とYF3の真密度をそれぞれ体積比と乗じて合算し焼結体の真密度を算出したのち、気孔率=1-(かさ密度/真密度)として求めることができる。なお、Y5O4F7の真密度は5.14g/cm3、YF3の真密度は5.07g/cm3である。
【0026】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、YF3の含有割合が5~40重量%であることが好ましい。
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体において、YF3の含有割合が上記範囲にあると、ハロゲンや酸素のプラズマのいずれに対しても高い耐食性を備え、オキシフッ化イットリウムの焼結体の劣化を防止することができる。さらにYF3の含有割合は、10~20重量%であることが望ましい。
【0027】
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体中のYF3の含有割合は、EPMAで定量分析を行うことにより求めることができる。すなわち、Y5O4F7とYF3の2相を含む焼結体をEPMAを用いて分析し、酸素の含有量分析から、YF3の含有割合を求めることができる。なお、分析に先立ってX線回折によってオキシフッ化イットリウムの焼結体に含まれる結晶相を確認し、Y5O4F7とYF3の2相であることを確認しておく。
【0028】
(オキシフッ化イットリウムの焼結体の製造方法)
本発明のオキシフッ化イットリウムの焼結体は、次のような製造方法により製造することができる。
【0029】
《原材料》
焼結後、Y5O4F7とYF3が主成分となるように原料成分を調合する。原料として、Y5O4F7とYF3と組み合わせて用いてもよいし、YOFとYF3とを組み合わせてもよく、Y5O4F7とYOFとYF3とを組み合わせてよい。上記のような原料を組み合わせることにより、Y5O4F7とYF3を主成分とするオキシフッ化イットリウムの焼結体を得ることができる。
【0030】
Y5O4F7とYF3とを組み合わせる際には、Y5O4F7とYF3とのモル比は、Y5O4F7:YF3=10:2~30が好ましい。YOFとYF3とを組み合わせる際には、YOFとYF3とのモル比は、YOFとYF3=10:5~40が好ましい。
【0031】
また、原料粒子を顆粒化したり、成形性を高めるため有機バインダを使用することが好ましい。有機バインダは、炭素化させて焼結体中に封じ込めることで、焼結体の色を黒くすることができる。
使用する有機バインダとしては、熱を加え炭素化するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリアクリルニトリル(PAN)、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、フラン樹脂等が挙げられ、これらを二種以上併用してもよい。これらのバインダは樹脂であるので、溶媒に溶かし原料粒子の表面に薄くコーティングすることができる。また、薄くコーティングされたバインダを炭素化することにより、粒子の界面に不定形カーボンの薄い炭素層を形成することができ、オキシフッ化イットリウムの焼結体の色を効率よく黒くすることができる。
【0032】
原材料には、上記したY5O4F7、YOF、YF3などのフッ化物、上記した有機バインダのほか、分散媒液、潤滑剤、成形助剤等の添加物を適宜加えてもよい。
上記潤滑剤は特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン系化合物等が挙げられる。
分散媒液としては特に限定されず、例えば、水、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール等が挙げられる。成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等が挙げられる。
【0033】
《原料調製工程》
使用する原材料の偏析や、取扱性を改善するため、原料調製工程で原材料を顆粒化してもよい。Y5O4F7、YOF、YF3などのフッ化物、原料粒子の成形性を確保、顆粒化のための有機バインダのほか、水、有機溶媒等の分散媒液、潤滑剤を混合することにより、分散媒液中に原料粒子等を分散させ、造粒することにより顆粒化する。造粒方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライ、転動造粒など利用することができる。
この場合、原材料100重量部に対し、有機バインダ1~10重量部、分散媒液5~50重量部が好ましい。
【0034】
造粒粒子の大きさは、例えば、10~200μmが好ましい。
なお、造粒による原料調製は必須ではないが、分散媒液でバインダを溶かすことにより、原材料の粒子に有機バインダを薄くコーティングすることができることから、原料調製工程で造粒することが好ましい。
【0035】
《成形工程》
成形工程では、原料調製された原料を含む組成物をプレス成形することが好ましい。プレス成形の方法は、特に限定されるものではないが、型押し成形、CIP成形などを適用することができる。このときの成形圧は、例えば、50~500MPaが好ましい。型押し成形の場合には、金型の形状が転写され、高い形状精度の成形体が得られる一方、異方性となりやすい。CIP成形では、等方性の素材が得られやすい一方、ゴムバックに充填して成形されるので、形状精度は余りよくない。焼結後は加工困難となるので、CIP成形の場合、必要に応じて成型後に外形加工してもよい。また、低い圧力で型押し成形し形状を整えてから、CIP成形で高い圧力を加えることよって成型してもよい。寸法精度が高く、高密度の成形体を得ることができる。
【0036】
《脱脂工程》
得られた成形体の有機バインダを除去するため、脱脂工程を行う。焼結後にバインダが大量に残留すると、Y5O4F7、YF3などのセラミック粒子の結合性が悪くなるので、結合性を確保しつつ焼結体の色を黒くするよう、有機バインダの不要部分を除去する。
脱脂の条件は、例えば、空気中で500~700℃、0.5~5時間処理する。
【0037】
なお、成形体の成形密度によって、脱脂時の酸素の侵入のしやすさが変わる。成形密度が高い場合、成型後の気孔が少なく、バインダを酸化させる酸素が内部に侵入しにくく、バインダが残留しやすくなる。一方、成形密度が低い場合、成型後の気孔が多く、脱脂時に内部に酸素が侵入しやすくなる。このため、成形密度を調整することにより、残留するカーボンの量を調整することができる。成形密度は特に限定されないが、成形圧、原材料の粒度分布、バインダの量、バインダの粘度などを適宜調整し、所定の成形密度を得ることができる。
【0038】
《焼成(焼結)工程》
得られた脱脂体を加熱焼成することにより、粒子同士を結合させ、内部の気孔を排除し、焼結させる。焼結の温度、雰囲気は特に限定されないが、雰囲気は例えば、アルゴンなどの不活性雰囲気が好ましく、焼結温度は800~1100℃が好ましい。
また焼結時の圧力は常圧でもよいし、成形体を加圧しながら焼結させる熱間等方圧加圧法(HIP)や成形体を機械的圧力とパルス通電加熱により焼結させる放電プラズマ焼結法(SPS)等を採用してもよい。HIP、SPS等で加圧する場合、例えば、その圧力は10~200MPaが好ましい。
【0039】
本発明の半導体製造装置用部材は、上記のオキシフッ化イットリウムの焼結体を用いたことを特徴とする。
本発明の半導体製造装置用部材によれば、上記のオキシフッ化イットリウムの焼結体を用いており、L値が20~55であるので、半導体製造装置内で速やかに加熱、冷却することができ、半導体製造のリードタイムを短縮し、コストを低減することができる。
【0040】
また、本発明の半導体製造装置用部材によれば、半導体製造装置用部材として、オキシフッ化イットリウムの焼結体を用いており、主成分がY5O4F7とYF3からなるため、ハロゲンや酸素のプラズマに対して、腐食されにくく、優れた耐性を有し、長期に渡って使用することができる。
【0041】
具体的な本発明の半導体製造装置用部材は、特に限定されるものではないが、例えば、ウェハ等の半導体用部材の載置台、静電チャック、ガス供給部、冷却材供給部、搬送アーム、チャンバ内壁材、上部電極、シャワープレート、フォーカスリング、エッジプレート等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
Y5O4F770重量部、YF330重量部、有機バインダとしてアクリル樹脂2.6重量部、分散媒液として16重量部のアルコール系溶媒を用いて混合した後、スプレードライヤーを用いて70℃で乾燥、造粒して、顆粒状の原料組成物を調製した。得られた顆粒状の造粒粒子は、粒子径80μm以上をカットし粒度調整した。なお、アルコール系溶媒は、エタノール86重量%、イソプロピルアルコール14重量%であり、スプレードライでは、完全に乾固させることなく、湿気をもった造粒粒子であった。スプレードライの温度よりも沸点の温度が高いイソプロピルアルコールが残留しているものと考えられる。
【0044】
次に、この造粒粒子をφ25mmの型に充填し、6MPaで一軸成形し全体の形状を整えた後、さらにゴムバックに詰め200MPaでCIP成形した。
【0045】
上記成形体を大気中、600℃で2時間、脱脂処理を行った後、アルゴン雰囲気中、950℃で2時間焼成し、オキシフッ化イットリウムの焼結体を得た。
得られたオキシフッ化イットリウムの焼結体は、φ19mm、厚さ3mmの板状であった。
【0046】
(実施例2)
脱脂温度を550℃、焼成温度を950℃とした以外は、実施例1と同様にしてオキシフッ化イットリウムの焼結体を製造した。
【0047】
(実施例3)
焼成温度を1000℃とした以外は、実施例1と同様にしてオキシフッ化イットリウムの焼結体を製造した。
【0048】
(比較例)
得られた顆粒状の原料組成物を乾燥し完全乾固させ、脱脂温度を500℃、焼成温度を1000℃とした以外は、実施例1と同様にして、オキシフッ化イットリウムの焼結体を製造した。
【0049】
[L値の測定]
得られた実施例1~3及び比較例に係るサンプルをコニカミノルタ製の色彩色差計(CR-200)を用い、L値を測定した。その結果を表1に示す。
図2は、実施例1~3及び比較例のオキシフッ化イットリウムの焼結体の表面状態を示す写真である。実施例1~3に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体は、表面が黒くなっているのに対し、比較例に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体は、実施例1~3よりも低温で脱脂したのも関わらず白に近い灰色であることが分かる。
【0050】
[カーボン含有割合の測定]
得られた実施例1~3及び比較例に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体のサンプルを一部分割し、酸素気流中燃焼―赤外線吸収法による定量分析によりオキシフッ化イットリウムの焼結体のカーボン含有割合を測定した。なお、装置は、堀場製作所製の材料中炭素・硫黄分析装置 EMIA-Stepを用い、酸素気流中の燃焼は1350℃、2minで行った。結果を表1に示す。
【0051】
[YF3の含有割合の測定]
EPMAを行い、実施例1~3及び比較例に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体のサンプルの酸素の含有割合の測定を行った。
上記の含有割合分析より、予め作成した検量線に基づき、YF3の含有割合を算出した。その結果を表1に示す。
【0052】
なお、
図1は、実施例1及び比較例に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体のX線回折の結果を示すチャートであり、検出されるピークがYF
3とY
5O
4F
7のみであり、いずれも主成分がYF
3とY
5O
4F
7であることが確認された。なお、カーボンのピークは確認されなかったため、含有するカーボンは不定形カーボンであると考えられる。
【0053】
[気孔率の測定]
YF3、Y5O4F7の含有割合、真密度及びかさ密度に基づき、上述の方法により実施例1~3及び比較例に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体の気孔率を求めた。結果を表1に示す。
【0054】
[曲げ強度]
実施例1、実施例2の焼結体について、三点曲げ試験を行った。結果を表1に示す。
【表1】
【0055】
上記表1より明らかなように、実施例1~3に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体は、カーボン含有割合が0.02~3重量%であり、L値が20~55と黒色を呈し、気孔率が0.8~1.7%と低く、YF3の含有割合が14~15重量%であることが判明した。上記オキシフッ化イットリウムの焼結体は、気孔率が充分に低いため、構造材料として十分に使用可能な曲げ強度をもち機械的特性に優れていることが推定される。
【0056】
一方、比較例1に係るオキシフッ化イットリウムの焼結体は、カーボン含有割合が0.01重量%未満で、L値が55.7と灰白色であり、気孔率が3.2%、YF3の含有割合が25重量%であった。気孔率は、実施例1~3の焼結体と比べて高かった。