(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】立ちこぎ移動装置
(51)【国際特許分類】
B62K 17/00 20060101AFI20241205BHJP
B62M 1/32 20130101ALI20241205BHJP
【FI】
B62K17/00
B62M1/32
(21)【出願番号】P 2021059330
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 英一
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-018919(JP,A)
【文献】実開昭52-118076(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2005/0023793(US,A1)
【文献】独国実用新案第202008008319(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 17/00
B62M 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に延長する接続軸により接続され、左右対称に構成された一対の立ちこぎ具を備え、使用者が立ちこぎすることで移動する立ちこぎ移動装置であって、
前記左右の立ちこぎ具は、それぞれ、床もしくは地面に接地して転動する車輪と、前記使用者を支持して揺動する揺動部材と、前記揺動部材の回転を前記車輪に伝達する回転伝達機構とを備え、
前記揺動部材は、
前記車輪の回転軸よりも下方の位置において、使用者による足の蹴り上げ動作及び踏み込み動作に応じて回転可能なペダルを有し、
前記回転伝達機構が、
前記蹴り上げ動作又は踏み込み動作による前記ペダルの一方向の回転のみを前記車輪に伝達し、
前記接続軸は、両端部にて、前記左右の揺動部材を、それぞれ独立に回転可能に接続することを特徴とする立ちこぎ移動装置。
【請求項2】
前記
ペダルの前後端に補助輪が取付けられていることを特徴とする請求項1に記載の立ちこぎ移動装置。
【請求項3】
前記揺動部材と前記車輪とが動力伝達機構を介して接続されていることを特徴とする請求項1に記載の立ちこぎ移動装置。
【請求項4】
前記動力伝達機構は、前記
ペダルの回転方向と前記車輪の回転方向が逆向きになるように、前記ペダルの回転を前記車輪に伝達することを特徴とする請求項3に記載の立ちこぎ移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人を乗せて移動する装置に関するもので、特に、人が立ちこぎ操作をすることで走行する立ちこぎ移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自転車などの人が操作して走行する移動装置としては、自転車や車椅子などがあ
る。しかし、自転車や車椅子は、大きくかつ重いだけでなく、自転車は高齢者が扱うにはハードルが高いといった問題点がある。一方、車椅子は座って操作するため、移動速度が遅いだけでなく、介助が必要ない高齢者であれば一般には利用しないものである。
一方、人を乗せて移動するコンパクトな装置として、2輪をモーターにより個別に駆動するとともに、搭乗者が直立の状態で左右の足首で操作した左右のステップペダルの傾斜方向および傾斜角度を検出して、各車輪のモータを駆動制御して、装置を前進・後退・旋回させることのできる自立型二輪走行装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の二輪走行装置は電動式のため、以下のような問題点が考えられる。
まず、鉛蓄電池やモータ等が必要なため、重量が増す。
次に、センサーや制御装置などが必要なため、構造が複雑となる。
最後に、それらの電装品を多数搭載することで、装置が高価になる、などである。
また、特許文献1の二輪走行装置は、搭乗者がステップペダルの操作ペダルを踏むだけで操作できる上、自身がバランスをとることで直立した状態を保つ必要がないので、運動に伴う身体効果は期待できず、フィットネス用途で使用する装置とはいえなかった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、構成が簡単で、フィットネスや短距離での移動を手軽に行うことのできる手動式の立ちこぎ移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、左右方向に延長する接続軸により接続され、左右対称に構成された一対の立ちこぎ具を備え、使用者が立ちこぎすることで移動する立ちこぎ移動装置であって、前記左右の立ちこぎ具は、それぞれ、床もしくは地面に接地して転動する車輪と、前記使用者を支持して揺動する揺動部材と、前記揺動部材の回転を前記車輪に伝達する回転伝達機構とを備え、前記揺動部材は、
前記車輪の回転軸よりも下方の位置において、使用者による足の蹴り上げ動作及び踏み込み動作に応じて回転可能なペダルを有し、前記回転伝達機構が、
前記蹴り上げ動作又は踏み込み動作による前記ペダルの一方向の回転のみを前記車輪に伝達し、前記接続軸は、両端部にて、前記左右の揺動部材を、それぞれ独立に回転可能に接続することを特徴とする。
このような構成を採ることにより、フィットネスや短距離での移動を手軽に行うことができる手動式の立ちこぎ移動装置を得ることができる。
また、左右の立ちこぎ具は互いに独立に回転できるので、左右の車輪の回転数を変えることで、二輪の進行方向を変更することができる。
また、後述する
図12に示すように、
ペダルの前後端に補助輪を取付けることで、前後いずれか一方の補助輪が接地するため、走行安全性を向上させることができる。
また、前記揺動部材と前記車輪とを動力伝達機構を介して接続してもよい。
また、前記動力伝達機構を、前記
ペダルの回転方向と前記車輪の回転方向が逆向きになるように、前記
ペダルの回転を前記車輪に伝達する動力伝達機構を用いれば、
ペダルを車輪の回転方向とを逆向きに回転させて前進させる構成の装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態1に係る立ちこぎ移動装置を示す図である。
【
図2】ラチェット機構を備えた回転伝達機構の一例を示す図である。
【
図3】本実施形態1に係る立ちこぎ移動装置の動作を説明するための図である。
【
図4】立ちこぎが可能となる仕組みを説明するための図である。
【
図5】揺動部材と車輪とが動力伝達機構を介して接続された構成の立ちこぎ移動装置を示す図である。
【
図6】立ちこぎ移動装置の進行方向を変更する仕組みを説明するための図である。
【
図7】本実施の形態2に係る立ちこぎ移動装置を示す図である。
【
図8】回転方向変換機構の一例(平歯車装置)を示す図である。
【
図9】本実施形態2に係る立ちこぎ移動装置の動作を説明するための図である。
【
図10】実施の形態1の立ちこぎ移動装置と実施の形態2の立ちこぎ移動装置との違いを説明するための図である。
【
図11】本実施の形態3に係る立ちこぎ移動装置を示す図である。
【
図12】本実施形態3に係る立ちこぎ移動装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施の形態1.
図1(a)~(d)は、本実施の形態1に係る立ちこぎ移動装置(以下、装置10という)を示す図で、(a)図は基本構成図(側面図)、(b)図、(c)図は、それぞれ、装置10の一構成例を示す正面図と側面図、(d)図は揺動部材12の他の形態を示す図である。なお、図を見やすくするため、側面図((a)図と(c)図)では、後述する接続軸14と揺動部材12の接続部12dとを省略した。
装置10は、左右一対の互いに独立した立ちこぎ具10L,10Rと、左右の立ちこぎ具10L,10Rを接続する接続軸14とから構成される。
接続軸14は、左右方向に延長する円柱状の部材(シャフト)で、本例では、左右の立ちこぎ具10L,10Rを、それぞれ、車輪11と、揺動部材12と、回転伝達機構13とを備えた構成とするとともに、左右の立ちこぎ具10L,10Rを、接続軸14の中心を通り前後方向に延長する鉛直面に対して左右対称に構成した。
以下、左右の立ちこぎ具10L,10Rを区別する場合には、車輪11や揺動部材12等の構成要素を、車輪11L(または、11R)、揺動部材12L(または、12R)とするなど、番号の後にL,Rを付け、区別しない場合にはL,Rを省略する。
車輪11は、走行路面(ここでは、地面1)に接地して転動する走行手段で、(a)図の白抜きの矢印に示す方向が、車輪11の正転時における装置10の進行方向である前側(Fr)で、矢印に示す方向と反対方向が後側(Rr)である。また、左右方向は、(b)図において、図示しない使用者が、右足を立ちこぎ具10Rの揺動部材12のペダル12b上に載せ、左足を立ちこぎ具10Lの揺動部材12のペダル12b上に載せたときに使用者から見たときの方向である。なお、符号L,R,Up,Dwは、それぞれ、左側、右側、上側、下側を表す。
揺動部材12は、揺動部材本体12aと、ペダル12bと、揺動軸取付部12cと、接続部12dと、揺動軸12jとを備える。
揺動部材本体12aは、平面視が三角形の板状の部材で、底辺12nにはペダル12bが取付けられ、底辺12nに対向する頂点側には揺動軸取付部12cが設けられている。揺動軸取付部12cは、揺動軸12jを取付けるための平面視矩形の板状の部材で、接続部12dは、ペダル12bの揺動部材本体12a側とは反対側の端部から上方に延長するして、上端側にて接続軸14に回転自在に取付けられる板状の部材である。
また、揺動軸12jは、揺動軸取付部12cのほぼ中心に取付けられた左右方向に延長する円柱状の部材で、一端が揺動軸取付部12cに固定され、他端が回転伝達機構13に連結されている。また、本例の装置10は、揺動軸12jの中心は車輪11の車軸11jの中心Oと一致しているので、ペダル12bの前方の端部121と後方の端部122とは、揺動部材12が揺動すると、車軸11jの中心Oを中心とした円R1に沿って回転する。
なお、揺動部材12としては、(d)図に示すような、自転車のペダルのような構成であってもよい。具体的には、ペダル12bを、左右方向(紙面に垂直な方向)に延長するべダル軸12zに回転自在に取付ければよい。これにより、揺動部材本体12aと揺動軸取付部12cとが、揺動軸12jをクランク軸としたクランクとして機能する。したがって、使用者は、自転車をこぐ感覚で揺動部材12を操作することができる。また、揺動部材本体12aの形状としては、同図に示すような、揺動軸取付部12cを下方に延長した、平面視矩形の板状の部材としてもよい。
回転伝達機構13は、揺動部材12の回転を車輪11の車軸11jに伝達して車輪11を回転させるもので、詳細については後述する。
接続軸14は、上記のように、左右方向に延長して、左右の揺動部材12を接続する円柱状の部材で、両端側にて、それぞれ、左右の揺動部材12の接続部12dに接続されている。すなわち、左右の揺動部材12は、接続軸14により、車輪11の中心と同軸上で接続される。
このとき、接続軸14と左右の接続部12dのうちの少なくとも一方の接続部12dを軸受けで接続することで、左右の揺動部材12を互いに独立に回転させることができる。また、軸受けをしまり締めにすれば、接続軸14が抜けることはないが、抜け止めを設けて接続軸14が抜けないようにしてもよい。
【0009】
本例では、回転伝達機構13として、揺動部材12の一方向の回転のみを前記車輪11に伝達するラチェット機構を備えた回転伝達機構を用いた。
ラチェット機構は、自転車の後輪などに用いられている回転伝達機構で、
図2(a),(b)に示すように、入力部材13aと、ハブ13bと、爪13cとを備えている。
ここで、本例における回転方向とその名称を以下の通り定義する。
(a)図の実線の矢印で示す、反時計回りの方向を正方向、その回転を正転または正回転とする。対して、同図の破線の矢印で示す、時計回りの方向を逆方向、その回転を逆転または逆回転とする。
爪13cは、入力部材13aに設けられた溝部13kに取付けられて、入力部材13aの正転時には、ハブ13bの内周側に形成された切込み13dと噛み合うことで、入力部材13aの回転をハブ13bに伝達する。なお、入力部材13aが逆回転している場合には、爪13cと切込み13dとは噛み合わないので、入力部材13aの回転はハブ13bに伝達されない。
したがって、(b)図に示すように、揺動軸12jを入力部材13aに取付け、車軸11jをハブ13bに取付け、揺動部材12を反時計回り(順方向)に回転させた場合には、爪13cと切込み13dとが噛み合うので、ペダル12bの回転は、車軸11jに伝達されて車輪11は正転し、装置10は前進する。
また、使用者が揺動部材12を止めて車輪11だけが回転している(装置10が前進している)場合には、爪13cがハブ13bによって押込まれて引っ込むのでので、ハブ13bは空転し、車輪11だけ回転する。
一方、使用者が揺動部材12を逆回転させた場合には、爪13cと切込み13dとは噛み合わないので、揺動部材12は空転する。すなわち、装置10が静止している場合には、揺動部材12を逆回転させても車輪11は回転ぜず、装置10が前進している場合には、ハブ13bは空転し、車輪11だけ回転する。
【0010】
次に、装置10の操作方法及び動作について説明する。なお、左右のた立ちこぎ具10L,10Rは左右対称の構造であり、操作方法及び動作は互いに同様となるため、
図1(a)に示した基本構成図(側面図)を用いて説明する。
図3(a)は、装置10が停止している状態で、かつ、使用者が乗っていないか、もしくは、乗っていても静止している状態(以下、状態1Aという)を示す図である。
状態1Aでは、装置10は車輪11で支持されており、揺動部材12は重力により静止した状態なので、ペダル12bは水平面内にある。また、状態1Aでは、揺動部材12に回転力が作用していないので、回転伝達機構13も回転を伝達せず、車輪11は静止した状態にある。
図3(b)は、装置10が走行の準備に入った状態(以下、状態1Bという)を示す図で、使用者が揺動部材12のペダル12bに足を載せ、揺動部材12を前方に蹴り上げた状態を示している。揺動部材12を前方に蹴り上げるには、使用者が踵でペダル12bの後方の端部122の周辺を踏み込めばよい。これにより、揺動部材12は揺動軸12jの軸周りに逆方向(時計回り)に回転する。
上述したように、使用者が揺動部材12を逆回転させた場合には、回転伝達機構13は揺動部材12の回転力を伝達しないので、揺動部材12は空転する。すなわち、車輪11は回転しないので、装置10は静止したままである。なお、同図では、揺動部材12を90度回転させているが、走行準備には、60度程度で回転させれば十分である。
図3(c)は、装置10が走行を開始した状態(以下、状態1Cという)。
この状態1Cは、状態1Bにて、使用者が爪先を下げてペダル12bの前方の端部121の周辺を踏み込むことで、揺動部材12を揺動軸12jの軸周りに順方向(反時計回り)に回転させる。
揺動部材12が順方向に回転すると、回転伝達機構13は揺動部材12の回転を車軸11jに伝達する。したがって、車輪11は正転し、装置10は、同図の白抜きの矢印に示すように、前方に進む。この状態1Cでは、揺動部材12は、状態1Aの位置である最下部を越えて揺動軸12jの後方まで回転させた方が、回転力の伝達時間が長くなるため、装置10をより前進させることができる。
後述する進行方向の変更方法は、この原理に基づく。
【0011】
図3(d)は、装置10が走行を継続している状態(以下、状態1Dという)。
この場合には、使用者が踵でペダル12bの後方の端部122の周辺を踏み込むことで、揺動部材12を、揺動軸12jの軸周りに逆方向に回転させる。上述したように、使用者が揺動部材12を逆回転させた場合には、回転伝達機構13は揺動部材12の回転力を伝達しないので、揺動部材12は空転するが、車輪11は状態1Cで得た回転をし続けているので、装置10は走行を継続する。したがって、車輪11は正転し、装置10は、同図の白抜きの矢印(破線)に示すように、前方に移動を続ける。
揺動部材12を更に逆回転させて、状態1Aの位置である最下部を越えて揺動軸12jの前方まで回転させれば、上記の状態1Bに戻る。
以上のとおり、状態1B、状態1C,状態1Dを繰り返すことで、装置10は走行し続けることが可能となる。
【0012】
次に、立ちこぎが可能となる仕組みについて、
図4(a),(b)を用いて説明する。
(a)図は、使用者2が、不安定な状態で揺動部材12に乗って装置10を操作している図である。
ここで、揺動部材12が揺動軸12jの中心Oを中心として回転した軌跡をLとし、軌跡Lを鉛直方向へ投射した領域をRとすると、使用者2が自らバランスをとることを前提としたうえで、その重心Gが領域R内にある限り、揺動部材12は自ずと安定した状態まで戻ろうと回転する。すなわち、使用者2が自らの重心Gを移動させることで位置エネルギーを獲得し、揺動部材12と回転伝達機構13とを介することで、重心Gに働く重力Fを運動エネルギーに変換する。その結果、車輪11は回転し装置10が前進する。
なお、安定した状態とは、(b)図に示すように、重心Gが車軸11jの中心でもある揺動軸12jの中心Oを通過する状態である。
このように考えると、揺動部材12の回転中心である揺動軸12jと車輪11の回転中心である車軸11jとは必ずしも同軸にある必要はなく、揺動軸12jと車軸11jとの間にオフセットがある状態であってもよいことになる。
例えば、
図5(a)に示すように、揺動部材12と回転伝達機構13とをベルト機構15などの動力伝達機構で連結した構成の立ちこぎ移動装置10Bを用いれば、揺動軸12jと車軸11jとの間にオフセットがあっても、揺動部材12の回転を回転伝達機構13に伝達することができる。
具体的には、
図5(b)に示すように、ベルト機構15を、回転伝達機構13の入力部材13aに接続される連結軸15aと、連結軸15aに同軸に取付けられた出力プーリー15bと、揺動軸12jに同軸に取付けられた入力プーリー15cと、入力プーリー15cと出力プーリー15bとの間に掛けられるベルト部材15dとから構成すれば、揺動部材12の回転を容易に回転伝達機構13に伝達することができる。このとき、出力プーリー15bの外径を入力プーリー15cの外径よりも大きくすれば、揺動軸12jからの伝達トルクを増幅できるので、揺動部材12の操作力を小さく(軽く)することができる。
但し、揺動部材12の軌跡L’は、基本的には車輪11の内側にある必要がある。もし、何も講ぜずに、軌跡L’が車輪11の外側にあると、揺動部材12が地面1に接触してしまい、図示しない使用者が装置10ごと転倒する可能性がある。
【0013】
次に、立ちこぎ移動装置10の進行方向を変更する仕組みについて、
図6を参照して説明する。
なお、本例では、同図の太い一点鎖線で示す中心線Mに対し、左右の立ちこぎ具10L,10Rは左右対称の構造を持つことを前提としている。
二輪の進行方向を変更するには、同図に示すように、左右の車輪11L,11Rの回速度V1,V2に差を生じるように、左右のペダル12bL,12bRを蹴り降ろす速度を異ならせればよい。
例えば、
図6に示すように、右側の立ちこぎ具10Rの車輪11Rを、左側の立ちこぎ具10Lの車輪11Lよりも早く回転させると、車輪11Rの進む距離S1と車輪11Lの進む距離S2間には、車輪11Rと車輪11Lの回転速度(回転数)に比例した距離の差が生じる。
これにより、装置10は、車輪を速く回転させた方(ここでは、右側の立ちこぎ具10R)が外側を走るように進行方向を変更する。
【0014】
実施の形態2.
図7(a)~(c)は、本実施の形態2に係る立ちこぎ移動装置(以下、装置20という)を示す図で、(a)図は基本構成図、(b)図、(c)図は、それぞれ、装置20の一構成例を示す正面図と側面図である。
装置20は、揺動部材12に取付けられて、揺動部材12の回転を、揺動部材12の回転方向とは逆向きにしたうえで回転伝達機構13に伝達する回転方向変換機構26を備えている。それ以外の構成要素は、実施の形態1の装置10と同じである。
また、実施の形態1と同符号の構成要素は、実施の形態1と同構成であるので、その説明を省略する。
本例では、回転方向変換機構26を、一対の歯車を備えた平歯車装置から構成した。
図8は、平歯車装置の一構成例を示す図で、26aは入力側歯車、26bは出力側歯車、26cは入力軸、26dは出力軸、26nはケースである。
平歯車装置では、入力側歯車26aの回転軸である入力軸26cと出力側歯車26bの回転軸である出力軸26dとは互いに平行で、かつ、2つの歯車26a,26bの歯すじは、ともに、それぞれの回転軸26c,26dに平行であるので、出力側歯車26bは、入力側歯車26aとは逆方向に回転する。
したがって、入力軸26cを揺動部材12の揺動軸12jとし、出力軸26dと回転伝達機構13の入力部材13aとを接続すれば、揺動部材12の回転を、揺動部材12の回転方向とは逆方向の回転に変換して車輪11に伝達することができる。
このとき、出力側歯車26bの外径を入力側歯車26aの外径よりも大きくすれば、揺動軸12jからの伝達トルクを増幅できるので、揺動部材12の操作力を小さく(軽く)することができる。
ところで、装置20では、
図7(a)に示すように、揺動部材12の回転中心(揺動軸12jの中心)O’と車輪11の回転中心(車軸11jの中心)Oとは上下方向にずれているので、ペダル12bの前方の端部121と後方の端部122とは、揺動部材12が揺動したときの軌跡である円R2の中心O’も、車軸11jの中心Oよりも下方にずれた位置になる。また、それに伴って、接続軸14の位置も下方(左右の揺動軸12jを結んだ位置)になる。
なお、回転方向変換機構26としては、上記の平歯車装置に限るものではなく、複数の歯車を組み合わせたり、複数のプーリーとベルトとを組み合わせたりして、入力軸(揺動軸12j)の回転方向と出力軸(車軸11j)の回転方向を異なるようにした周知の回転方向変換機構を用いてもよい。
【0015】
次に、装置20の操作方法及び動作について説明する。
図9(a)は、装置20が停止している状態で、かつ、使用者が乗っていないか、もしくは、乗っていても静止している状態(以下、状態2Aという)を示す図である。状態2Aでは、装置20は車輪11で支持されており、揺動部材12は重力により静止した状態なので、ペダル12bは水平面内にある。また、状態2Aでは、揺動部材12に回転力が作用していないので、回転伝達機構13も回転を伝達せず、車輪11は静止した状態にある。
図9(b)は、装置20が走行の準備に入った状態(以下、状態2Bという)を示す図で、使用者が揺動部材12のペダル12bに足を載せ、揺動部材12を後方に蹴り上げた状態である。揺動部材12を後方に蹴り上げるには、使用者が爪先でペダル12bの前方の端部121の周辺を踏み込めばよい。これにより、揺動部材12は順方向(反時計回り)に回転するので、入力側歯車26aも順方向に回転する。
入力側歯車26aが順方向に回転すると出力側歯車26bは逆方向に回転する。上述したように、出力側歯車26bの出力となる出力軸26dは回転伝達機構13の入力部材13aと接続されているので、出力側歯車26bが逆回転した場合には、回転伝達機構13は出力側歯車26bの回転力を車軸11jに伝達しない。すなわち、揺動部材12が順方向に回転した場合には、回転伝達機構13に接続された出力側歯車26bは空転する。したがって、揺動部材12が回転しても車輪11は回転しないので、装置10は静止したままである。なお、同図では、揺動部材12を90度回転させているが、走行準備には、60度程度で回転させれば十分である。
【0016】
図9(c)は、装置20が走行を開始した状態(以下、状態2Cという)を示す図で、状態2Cは、状態2Bにて、使用者が踵を降ろしてペダル12bの後方の端部122周辺を踏み込むことで、揺動部材12を揺動軸12jの軸周りに逆方向(時計回り)に回転させた状態である。
揺動部材12が逆方向に回転すると出力側歯車26bは正転するので、回転伝達機構13は出力側歯車26bの回転力を車軸11jに伝達する。その結果、車輪11は正転し、装置10は、同図の白抜きの矢印に示すように、前方に進む。この状態2Cでも、揺動部材12は、状態Aの位置である最下部を越えて揺動軸12jの後方まで回転させた方が、回転力の伝達時間が長くなるため、装置10をより前進させることができる。
図9(d)は、装置10が走行を継続している状態(以下、状態2Dという)。
この場合には、使用者が爪先を下げてペダル12bの前方の端部121周辺を踏み込むことで、揺動部材12を、揺動軸12jの軸周りに順方向に回転(正転)させる。上述したように、使用者が揺動部材12を順方向に回転させた場合は、出力側歯車26bは逆回転する。したがって、回転伝達機構13は揺動部材12の回転力を伝達しないので、揺動部材12は空転するが、車輪11は状態2Cで得た回転をし続けているので、装置10は走行を継続する。したがって、車輪11は正転し、装置10は、同図の白抜きの矢印(破線)に示すように、前方に移動を続ける。
揺動部材12を更に正転させて、状態2Aの位置である最下部を越えて揺動軸12jの後方まで回転させせれば、上記の状態2Bに戻る。
以上のとおり、状態2B、状態2C,状態2Dを繰り返すことで、装置10は走行し続けることが可能となる。
【0017】
ここで、実施の形態1の装置10と実施の形態2の装置20との違いを確認する。
図10(a)に示すように、装置10では、車輪11に回転力を伝達できる場合の揺動部材12の回転方向と走行時の車輪11の回転方向とが同じである。これに対して、装置20では、
図10(b)に示すように、車輪11に回転力を伝達できる場合の揺動部材12の回転方向と走行時の車輪11の回転方向とが逆になる。したがって、回転力を発生させるために揺動部材12に加える荷重の方向は、装置10では前方から後方となり、装置20では後方から前方となる。
荷重方向の違いは、本装置を使用する際に必要な下肢の筋肉に影響すると考えられるため、使用者の身体能力の向上や、本装置をフィットネスを目的として使用する場合には、装置10と装置20の使い分けに注意が必要である。
具体的には、装置10は自転車のペダル操作と同様に下腿三頭筋への負荷が、装置20は立ち上がりやスクワットと同様に前脛骨筋への負荷が考えられる。
【0018】
実施の形態3.
図11(a)~(c)は、本実施の形態3に係る立ちこぎ移動装置(以下、装置30という)を示す図で、(a)図は基本構成図、(b)図、(c)図は、それぞれ、装置30の一構成例を示す正面図と側面図である。
装置30の揺動部材32は、揺動部材本体32aと、大型ペダル32bと、揺動軸取付部32cと、揺動軸32jと、前後の補助輪32F,32Rとを備える。なお、揺動部材本体32a、揺動軸取付部32c、及び、揺動軸32jは実施の形態1と同じである。また、揺動部材本体32aの底辺を底辺32nとする。
大型ペダル32bは、ペダル12bを、揺動部材本体32aの底辺32nよりも前方及び後方に延長したペダル12bよりも長い平板状の部材で、大型ペダル32bの前方の端部321と後方の端部322とは、それぞれ、車輪11よりも前方と後方とに位置しており、前方の端部321には前補助輪32Fが、後方の端部32Rには後補助輪32Rが取付けられている。
揺動部材32の回転時には、前補助輪32Fの中心と後補助輪32Rの中心は、揺動軸32jの中心でもある車軸11jの中心Oを中心とした、車輪11と同心円で、車輪11の径よりも大きな径を有する円R3に沿って回転するので、車輪11の回転時に前後いずれか一方の補助輪が接地することになる。
なお、前後の補助輪32F,32Rは、必須の要素ではないので省略してもよい。補助輪32F,32Rがない場合には、大型ペダル32bの前方の端部321か後方の端部322のいずれかが車輪11の回転時に接地することになる。
【0019】
次に、装置30の操作方法及び動作について説明する。
図12(a)は、装置30が停止している状態で、かつ、使用者が乗っていないか、もしくは、乗っていても静止している状態(以下、状態3Aという)を示す図である。状態3Aでは、装置30は車輪11で支持されており、揺動部材32は重力により静止した状態なので、大型ペダル32bは水平面内にある。また、状態3Aでは、揺動部材32に回転力が作用していないので、回転伝達機構13も回転を伝達せず、車輪11は静止した状態にある。
図12(b)は、装置30が走行の準備に入った状態(以下、状態3Bという)を示す図で、使用者が揺動部材32の大型ペダル32bに足を載せ、揺動部材32を前方に蹴り上げた状態を示している。揺動部材32を前方に蹴り上げるには、使用者が踵で大型ペダル32bの後方の端部322周辺を踏み込めばよい。これにより、揺動部材32は揺動軸32jの軸周りに逆方向(時計回り)に回転する。
使用者が揺動部材32を逆回転させた場合には、回転伝達機構13は揺動部材32の回転力を伝達しないので、揺動部材32は空転する。すなわち、車輪11は回転しないので、装置10は静止したままである。
また、後補助輪32Rが地面1に接触することで、揺動部材32の回転は停止される。すなわち、装置30では、後補助輪32Rにより、揺動部材32の逆方向への回転量の最大値が制限される。
【0020】
図12(c)は、装置30が走行を開始した状態(以下、状態3Cという)を示す図で、この状態3Cは、状態3Bにて、使用者が爪先を下げてペダル32bの前方の端部321周辺を踏み込むことで、揺動部材32を揺動軸32jの軸周りに順方向(反時計回り)に回転させる。
揺動部材32が順方向に回転すると、回転伝達機構13は揺動部材32の回転を車軸11jに伝達する。したがって、車輪11は正転し、装置30は、同図の白抜きの矢印に示すように、前方に進む。
また、前補助輪32Fが地面1に接触することで、揺動部材32の回転は停止される。すなわち、装置30では、前補助輪32Fにより、揺動部材32の順方向への揺動高さの最大値が制限される。なお、前補助輪32Fは、装置30が前進するのに伴って回転するので、前補助輪32Fと地面1との接触による進行の妨げは回避される。
図12(d)は、装置30が走行を継続している状態(以下、状態3Dという)。
この場合には、使用者が踵で大型ペダル32bの後方の端部322周辺を踏み込むことで、揺動部材32を、揺動軸32jの軸周りに逆方向に回転させる。上述したように、使用者が揺動部材32を逆回転させた場合には、回転伝達機構13は揺動部材32の回転力を伝達しないので、揺動部材32は空転するが、車輪11は状態3Cで得た回転をし続けているので、装置30は、同図の白抜きの矢印(破線)に示すように、前方に移動を続ける。
このとき、後補助輪32Rが地面1に接触するので、揺動部材32の回転は停止されるが、後補助輪32Rは、装置30が前進するのに伴って回転するので、後補助輪32Rと地面1との接触による進行の妨げは回避される。なお、この場合も、状態3Bと同様に、後補助輪32Rにより、揺動部材32の順方向への揺動高さの最大値は制限される。
このように、揺動部材12に替えて、揺動部材32を用いれば、揺動部材32の回転角(幅)や移動量が制限されるので、装置や使用者の挙動が穏やかになる。
また、補助輪を追加することで、操作時のバランスがとり易くなる。つまり、実施の形態1の装置10よりも実施の形態3の装置30の方が、使用中の転倒のリスクを下げて、走行安全性を向上させることができる。したがって、使用者が高齢者など身体能力に不安がある場合には、装置30の使用が推奨される。
【符号の説明】
【0021】
1 地面、2 使用者、
10 立ちこぎ移動装置、10L,10R 立ちこぎ具、
11 車輪、11j 車軸、12 揺動部材、12a 揺動部材本体、12b ペダル、12c 揺動軸取付部、12j 揺動軸、12d 接続部、12n 底辺、
13 回転伝達機構、13a 入力部材、13b ハブ、13c 爪、13d 切込み、13k 溝部、14 接続軸、14k 軸受け。