(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/00 20060101AFI20241205BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E02F9/00 D
E02F9/20 C
(21)【出願番号】P 2021060212
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 隼斗
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-133398(JP,A)
【文献】特開2002-138517(JP,A)
【文献】特開2013-036382(JP,A)
【文献】特開2004-239122(JP,A)
【文献】特開2017-110495(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0229720(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/00 - 9/28
F02M 35/00 - 35/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンに空気を供給する吸気管と、
内部に設けたフィルタによって、前記吸気管内を通過する空気に含まれる塵埃を捕集するエアクリーナと、
前記エアクリーナを通過した単位時間当たりの空気量を検知する空気量センサと、
前記エアクリーナを通過した空気の空気圧を検知する空気圧センサと、
情報を報知する報知装置とを備える作業機械において、
前記空気量センサで検知された空気量が所定の範囲に含まれるときに前記空気圧センサで検知された空気圧を過去圧力値として記憶するメモリを有するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記空気量センサで検知された空気量が前記所定の範囲に含まれるときに前記空気圧センサで検知される最新の空気圧
である現在圧力値を前記過去圧力値から減じて差分圧力値を算出すると共に、前記差分圧力値の算出後に前記現在圧力値を前記過去圧力値として前記メモリに記憶させ、
算出された前記差分圧力値が予め定められた閾値圧力値以上であった場合には、前記エアクリーナが清掃されたものとして清掃回数を加算し、
前記清掃回数が予め定められた閾値回数以上となったときに、前記フィルタの交換の必要性を前記報知装置を通じて報知することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記差分圧力値が前記閾値圧力値以上の場合において、
前記現在圧力値が予め定められた下限圧力値より大きい場合に、前記清掃回数に1を加算し、
前記現在圧力値を前記過去圧力値として前記メモリに記憶させ、前記清掃回数が前記閾値回数以上の場合に、前記フィルタの交換の必要性を前記報知装置を通じて報知し、
前記現在圧力値が前記下限圧力値以下の場合に、前記清掃回数に0を設定し、
前記現在圧力値を前記過去圧力値として前記メモリに記憶させ、前記フィルタが交換されたことを前記報知装置を通じて報知することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械において、
前記メモリは、直近に前記清掃回数を
加算した更新時刻を記憶し、
前記コントローラは、
前記清掃回数を加算したときの現在時刻から
前記メモリに記憶された直近に前記清掃回数を加算したときの前記更新時刻を減じた清掃間隔が予め定められた閾値間隔未満の場合に、前記フィルタの清掃頻度が高いことを前記報知装置を通じて報知することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項3に記載の作業機械において、
前記コントローラは、
前記清掃回数を加算するときに、前記清掃間隔が前記閾値間隔未満で且つ前記過去圧力値が予め定められた上限圧力値未満の場合に、前記フィルタの清掃頻度が高いことを前記報知装置を通じて報知することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
前記報知装置は、モニタであり、
前記コントローラは、前記モニタに対する表示によって報知を行うことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアクリーナを搭載した作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、塵埃の多い環境で使用される作業機械には、エンジンに空気を供給する吸気管にエアクリーナが設置されて、塵埃を取り除いた後の空気がエンジンに供給される。但し、エアクリーナは、時間の経過と共に目詰まりして性能が劣化するので、定期的に清掃する必要がある。
【0003】
そこで、特許文献1には、エアクリーナを通過する空気の空気量及び空気圧をセンサで検知し、検知した空気量及び空気圧の組み合わせに基づいて目詰まりの度合いを判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エアクリーナの清掃とは、高圧空気によってエレメント(フィルタ)に付着した塵埃を吹き飛ばすのが一般的である。そして、エアクリーナの性能は、高圧空気が吹き付けられることによっても徐々に劣化する。しかしながら、特許文献1には、清掃に起因するエアクリーナの性能劣化については何ら言及されていない。
【0006】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、エアクリーナのフィルタの交換時期を、適切なタイミングで報知可能な作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジンと、前記エンジンに空気を供給する吸気管と、内部に設けたフィルタによって、前記吸気管内を通過する空気に含まれる塵埃を捕集するエアクリーナと、前記エアクリーナを通過した単位時間当たりの空気量を検知する空気量センサと、前記エアクリーナを通過した空気の空気圧を検知する空気圧センサと、情報を報知する報知装置とを備える作業機械において、前記空気量センサで検知された空気量が所定の範囲に含まれるときに前記空気圧センサで検知された空気圧を過去圧力値として記憶するメモリを有するコントローラを備え、前記コントローラは、前記空気量センサで検知された空気量が前記所定の範囲に含まれるときに前記空気圧センサで検知される最新の空気圧である現在圧力値を前記過去圧力値から減じて差分圧力値を算出すると共に、前記差分圧力値の算出後に前記現在圧力値を前記過去圧力値として前記メモリに記憶させ、算出された前記差分圧力値が予め定められた閾値圧力値以上であった場合には、前記エアクリーナが清掃されたものとして清掃回数を加算し、前記清掃回数が予め定められた閾値回数以上となったときに、前記フィルタの交換の必要性を前記報知装置を通じて報知することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エアクリーナのフィルタの交換時期を、適切なタイミングで報知することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図7】空気圧センサによって検知される圧力値の時間変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る油圧ショベル1(作業機械)の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、作業機械の具体例は油圧ショベル1に限定されず、ホイールローダ、クレーン、ダンプトラック等でもよい。また、本明細書中の前後左右は、特に断らない限り、油圧ショベル1に搭乗して操作するオペレータの視点を基準としている。
【0011】
図1は、油圧ショベル1の側面図である。
図1に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2により支持された上部旋回体3とを備える。下部走行体2及び上部旋回体3は、車体の一例である。
【0012】
下部走行体2は、無限軌道帯である左右一対のクローラ8を備える。そして、走行モータ(図示省略)の駆動により、左右一対のクローラ8が独立して回転する。その結果、油圧ショベル1が走行する。但し、下部走行体2は、クローラ8に代えて、装輪式であってもよい。
【0013】
上部旋回体3は、旋回モータ(図示省略)によって旋回可能に下部走行体2に支持されている。上部旋回体3は、ベースとなる旋回フレーム5と、旋回フレーム5の前方中央に上下方向に回動可能に取り付けられたフロント作業機4(作業装置)と、旋回フレーム5の前方左側に配置されたキャブ(運転席)7と、旋回フレーム5の後部に配置されたカウンタウェイト6と、エンジン建屋9とを主に備える。
【0014】
フロント作業機4は、上部旋回体3に起伏可能に支持されたブーム4aと、ブーム4aの先端に回動可能に支持されたアーム4bと、アーム4bの先端に回動可能に支持されたバケット4cと、ブーム4aを駆動させるブームシリンダ4dと、アーム4bを駆動させるアームシリンダ4eと、バケット4cを駆動させるバケットシリンダ4fとを含む。カウンタウェイト6は、フロント作業機4との重量バランスを取るためのもので、上面視円弧形状を成す重量物である。
【0015】
キャブ7には、油圧ショベル1を操作するオペレータが搭乗する内部空間が形成されている。そして、キャブ7の内部空間には、オペレータが着席するシートと、シートに着席したオペレータにより操作される操作装置と、シートに着席したオペレータに対して情報を表示するモニタ25(
図3参照)とが配置されている。
【0016】
操作装置は、油圧ショベル1を動作させるためのオペレータの操作を受け付ける。オペレータによって操作装置が操作されることによって、下部走行体2が走行し、上部旋回体3が旋回し、フロント作業機4が動作する。なお、操作装置の具体例としては、レバー、ステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、スイッチ等が挙げられる。
【0017】
モニタ25は、コントローラ20(
図3参照)の制御に従って、オペレータに対して情報(文字、映像)を表示する。モニタ25は、キャブ7のオペレータに情報を報知する報知装置の一例である。但し、報知装置の具体例はモニタ25に限定されず、スピーカ、LEDランプ等でもよい。
【0018】
エンジン建屋9は、キャブ7とカウンタウェイト6との間において、上部旋回体3に支持されている。エンジン建屋9は、エンジン10の他、油圧ショベル1を動作させるための構成部品(例えば、ラジエータ、ファン、作動油タンク、油圧ポンプ等)を収容する内部空間を有する。
【0019】
エンジン10は、空気及び燃料を混合して燃焼させることによって、油圧ショベル1を駆動させるための駆動力を発生させる。エンジン10には、吸気管11を通じて油圧ショベル1の外部から空気が供給される。また、吸気管11には、吸気管11を通過する空気から塵埃を除去するエアクリーナ12が取り付けられている。
【0020】
図2は、エアクリーナ12の分解斜視図である。エアクリーナ12は、空気が通過する過程において、当該空気に含まれる塵埃を捕集する。すなわち、油圧ショベル1の外部から吸気管11に流入した塵埃を含む空気は、エアクリーナ12で塵埃が除去されてエンジン10に供給される。
図2に示すように、エアクリーナ12は、例えば、筐体13と、エレメント14(フィルタ)と、キャップ15とで構成される。
【0021】
筐体13は、吸気管11の途中に取り付けられた円筒体である。エレメント14は、筐体13の内部空間に収容される。エレメント14は、筐体13を通過する空気に含まれる塵埃を捕集する。キャップ15は、筐体13に着脱されることによって、筐体13の開口を開閉する。すなわち、エレメント14は、キャップ15を取り外すことによって、筐体13に対して着脱可能となっている。
【0022】
エアクリーナ12は、キャップ15に設けられた流入口(図示省略)と、筐体13に設けられた流出口16とによって、吸気管11に接続されている。そして、流入口を通じて吸気管11から流入した空気は、エレメント14で塵埃が除去され、流出口16を通じて吸気管11に流出する。すなわち、エアクリーナ12は、筐体13の内部空間に設けたエレメント14によって、吸気管11を通過する空気に含まれる塵埃を捕集する。エアクリーナ12の構成は既に周知なので、詳細な説明は省略する。
【0023】
図3は、油圧ショベル1のハードウェア構成図である。
図3に示すように、油圧ショベル1は、コントローラ20を備える。コントローラ20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)21と、メモリ22と含む。コントローラ20は、メモリ22に格納されたプログラムコードをCPU21が読み出して実行することによって、油圧ショベル1の全体動作を制御する。
【0024】
但し、コントローラ20の具体的な構成はこれに限定されず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0025】
また、コントローラ20には、空気量センサ23と、空気圧センサ24と、モニタ25とが接続されている。空気量センサ23及び空気圧センサ24は、吸気管11に設置されている。より詳細には、空気量センサ23及び空気圧センサ24は、エアクリーナ12より空気の流通方向の下流側(すなわち、エンジン10側)において、吸気管11に設置されている。モニタ25は、キャブ7の内部空間に設置されている。
【0026】
空気量センサ23は、エアクリーナ12を通過した単位時間当たりの空気の量(以下、「空気量」を表記する。)を検知し、検知した空気量を示す空気量信号をコントローラ20に出力する。空気圧センサ24は、エアクリーナ12を通過した空気の圧力(以下、「空気圧」と表記する。)を検知し、検知した空気圧を示す空気圧信号をコントローラ20に出力する。
【0027】
メモリ22は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、MVRAM(Non-Volatile RAM)、またはこれらの組み合わせで構成される。メモリ22は、例えば、CPU21によって実行されるプログラムの他、過去圧力値PPと、取得時刻TGと、清掃回数Nと、更新時刻TUとを記憶している。
【0028】
過去圧力値PPは、空気圧センサ24によって過去に検知された空気圧の圧力値である。取得時刻TGと、メモリ22に記憶された過去圧力値PPの取得時刻である。清掃回数Nは、筐体13に収容されたエレメント14が清掃されたと判定した回数である。清掃回数Nの初期値は0である。更新時刻TUは、メモリ22に記憶された清掃回数Nを直近に更新した時刻である。時刻は、例えば、コントローラ20が備えるシステムクロックから取得される。
【0029】
図4は、コントローラ20の機能ブロック図である。
図4に示すように、コントローラ20は、圧力値取得部31と、判定部32と、報知処理部33と、データ更新部34とで構成される。
図4に示す各機能ブロックは、メモリ22に記憶されたプログラムをCPU21が実行することによって実現される。但し、機能ブロックの役割分担は、
図4の例に限定されない。
【0030】
圧力値取得部31は、空気圧センサ24で検知された空気圧を、現在圧力値PCとして取得する。より詳細には、圧力値取得部31は、空気量センサ23で検知された空気量が特定範囲(=所定の範囲)に含まれるタイミングで、空気圧センサ24で検知される最新の空気圧を、現在圧力値PCとして取得する。
【0031】
エンジン10に単位時間当たりに供給される空気の量は、例えば、エンジン10の回転数に応じて増減する。より詳細には、エンジン10に単位時間当たりに供給される空気の量は、エンジン10の回転数が高くなるほど多くなり、エンジン10の回転数が低くなるほど少なくなる。そして、「特定範囲」とは、無負荷(例えば、油圧ショベル1が停車している状態)で且つアイドル状態(例えば、アクセルが踏み込まれていない状態)のエンジン10が必要とする空気の量の範囲を指す。
【0032】
判定部32は、メモリ22に記憶された各種データと、圧力値取得部31によって取得された圧力値とを用いて、種々の判定を行う。本実施形態に係る判定部32は、例えば、清掃判定部35と、交換判定部36と、劣化判定部37と、間隔判定部38と、目詰判定部39とを含む。
【0033】
清掃判定部35は、エレメント14が清掃されたか否かを判定する。エレメント14の使用を継続すると、エレメント14が徐々に塵埃を捕集(すなわち、エレメント14が徐々に目詰まり)して、空気圧センサ24で検知される圧力値が徐々に上昇する。一方、エレメント14を清掃すると、エレメント14が捕集した塵埃が除去(すなわち、目詰まりが解消)されて、その後に空気圧センサ24で検知される圧力値が清掃前と比較して低下する。
【0034】
そこで、清掃判定部35は、過去圧力値PPから現在圧力値PCを減じて得られる差分圧力値(PP-PC)と、予め定められた閾値圧力値Pthとを比較する。そして、清掃判定部35は、差分圧力値(PP-PC)が閾値圧力値Pth以上の場合に、エレメント14が清掃された可能性があると判定する。清掃判定部35は、差分圧力値(PP-PC)が閾値圧力値Pth未満の場合に、エレメント14が清掃されていないと判定する。
【0035】
閾値圧力値Pthは、エレメント14を清掃したことによって生じる空気圧の変化に対応する値である。閾値圧力値Pthは、エレメント14の清掃前及び清掃後の目詰まりの変化の度合を予め検証して設定される値である。閾値圧力値Pthは、例えば、空気圧のばらつきや清掃の具合のばらつきを考慮して、誤判定しないように余裕を持った値に設定される。
【0036】
交換判定部36は、エレメント14が清掃されたか、またはエレメント14が交換されたかを判定する。エレメント14を清掃すれば、その後に空気圧センサ24で検知され圧力値が低下するものの、新品のエレメント14の状態に戻ることはない。そこで、交換判定部36は、現在圧力値PCと予め定められた下限圧力値PLとを比較する。そして、交換判定部36は、現在圧力値PCが下限圧力値PLより大きい場合に、エレメント14が清掃されたと判定する。一方、交換判定部36は、現在圧力値PCが下限圧力値PL以下の場合に、エレメント14が交換されたと判定する。
【0037】
下限圧力値PLは、新品のエレメント14がエアクリーナ12に取り付けられた場合において、圧力値取得部31によって取得される予め定められた圧力値である。より詳細には、下限圧力値PLは、新品のエレメント14を特定範囲の空気量が通過する場合において、空気圧センサ24で検知される空気圧である。
【0038】
なお、「エレメント14の清掃」とは、エアクリーナ12から取り外した使用済みのエレメント14を清掃(高圧空気による塵埃の除去)し、清掃後のエレメント14を再びエアクリーナ12に取り付ける作業を指す。一方、「エレメント14の交換」とは、エアクリーナ12から使用済みのエレメント14を取り外し、新品のエレメント14をエアクリーナ12に取り付ける作業を指す。
【0039】
劣化判定部37は、清掃に起因するエレメント14の性能劣化を判定する。エレメント14の性能は、清掃を繰り返すことによって徐々に劣化する。そこで、劣化判定部37は、清掃回数Nと予め定められた閾値回数Nthとを比較する。そして、劣化判定部37は、清掃回数Nが閾値回数Nth以上の場合に、交換が必要な程度(以下、「限界性能」と表記する。)にまでエレメント14の性能が劣化したと判定する。一方、劣化判定部37は、清掃回数Nが閾値回数Nth未満の場合に、エレメント14の継続使用が可能だと判定する。
【0040】
閾値回数Nthは、新品のエレメント14が限界性能にまで劣化するのに必要な清掃回数(例えば、4回)に設定される。閾値回数Nthは、例えば、エレメント14の取扱説明書に記載された清掃方法で清掃した場合に、エレメント14が限界性能まで劣化するのに必要な清掃回数に設定される。
【0041】
間隔判定部38は、適正な頻度でエレメント14が清掃されているか否かを判定する。より詳細には、間隔判定部38は、現在時刻TCから更新時刻TUを減じた清掃間隔(TC-TU)と、予め定められた閾値間隔Tthとを比較する。そして、間隔判定部38は、清掃間隔が閾値間隔Tth未満の場合に、エレメント14の清掃頻度が高い可能性があると判定する。一方、間隔判定部38は、清掃間隔が閾値間隔Tth以上の場合に、エレメント14の清掃頻度が適正だと判定する。
【0042】
閾値間隔Tthは、エレメント14の適正な清掃間隔を示す。閾値間隔Tthは、例えば、エレメント14の取扱説明書に記載された清掃間隔(例えば、250時間)より短い時間に設定される。また、閾値間隔Tthは、油圧ショベル1の使用環境(例えば、塵埃が多いか否か等)によって適宜設定されてもよい。
【0043】
目詰判定部39は、清掃が必要な程度までエレメント14が目詰まりしていたか否かを判定する。塵埃の少ない環境で油圧ショベル1が使用される場合、取扱説明書に記載された頻度でエレメント14を清掃すれば十分である。一方、塵埃の多い環境で油圧ショベル1が使用される場合、取扱説明書に記載された頻度より高い頻度で清掃しなければ、目詰まりが酷くなってエンジン10への空気の供給が滞る。
【0044】
そこで、目詰判定部39は、過去圧力値PPと予め定められた上限圧力値PUとを比較する。そして、目詰判定部39は、過去圧力値PPが上限圧力値PU以上の場合に、清掃が必要な程度までエレメント14が目詰まりしていたと判定する。一方、目詰判定部39は、過去圧力値PPが上限圧力値PU未満の場合に、エレメント14の清掃が必要でなかったと判定する。
【0045】
上限圧力値PUは、清掃が必要な程度にまでエレメント14の目詰まりが進んだ場合において、圧力値取得部31によって取得される予め定められた圧力値である。より詳細には、上限圧力値PUは、目詰まりが進んだエレメント14を特定範囲の空気量が通過する場合において、空気圧センサ24で検知される空気圧である。すなわち、上限圧力値PUは、下限圧力値PLより大きい値に設定される。
【0046】
報知処理部33は、判定部32による判定結果に基づいて、報知装置を通じて種々の情報を報知する。報知処理部33は、例えば、モニタ25に情報(文字、映像)を表示させる。但し、報知の方法は、前述の例に限定されず、スピーカからガイド音声を出力してもよいし、LEDを明滅させてもよい。データ更新部34は、判定部32による判定結果に基づいて、メモリ22に記憶された各種データ(過去圧力値PP、取得時刻TG、清掃回数N、更新時刻TU)を更新する。
【0047】
次に、
図5~
図7を参照して、コントローラ20の動作を説明する。
図5は、報知制御処理のフローチャートである。
図6は、清掃間隔判定処理のフローチャートである。
図7は、空気圧センサ24によって検知される圧力値Pの時間変化の例を示す図である。
【0048】
コントローラ20は、例えば、エンジン10が始動される度に、報知制御処理を実行する。また、報知制御処理の開始時点において、メモリ22には、直近のステップS14、S16、S20で更新された過去圧力値P
P、取得時刻T
G、清掃回数N、更新時刻T
Uが記憶されているものとする。以下、
図7に示すように、時刻T
0~T
9の各時刻に報知制御処理が実行され、時刻T
0、T
8にエレメント14が交換されたものとして説明する。
【0049】
まず、圧力値取得部31は、エンジン10の回転が安定して、エアクリーナ12を通過した空気量が特定範囲に含まれるようになるまで(S11:No)、ステップS12の実行を待機する。また、報知処理部33は、エンジン10の回転が安定するまで(S11:No)、「油圧ショベル1を動作させないでください」などのメッセージを、モニタ25に表示させてもよい。
【0050】
次に、圧力値取得部31は、空気量センサ23で検知された空気量が特定範囲に含まれたタイミングで(S11:Yes)、空気圧センサ24で検知された空気圧を、現在圧力値PCとして取得する(S12)。
【0051】
次に、清掃判定部35は、メモリ22に記憶された過去圧力値PPから直前のステップS12で取得された現在圧力値PCを減じて、差分圧力値(PP-PC)を算出する。そして、清掃判定部35は、差分圧力値(PP-PC)が閾値圧力値Pth以上か否かを判定する(S13)。
【0052】
そして、清掃判定部35は、差分圧力値(P
P-P
C)が閾値圧力値P
th未満の場合に(S13:No)、エレメント14が清掃されていないと判定する。例えば
図7において、過去圧力値P
P=P
0、取得時刻T
G=T
0、現在圧力値P
C=P
1、現在時刻T
C=T
1のタイミングでは、エレメント14が清掃されていないと判定される。
【0053】
この場合、データ更新部34は、直前のステップS12で取得した現在圧力値PCでメモリ22に記憶された過去圧力値PPを上書きし、直前のステップS12の実行時刻(=現在時刻TC)でメモリ22に記憶された取得時刻TGを上書きする(S14)。すなわち、過去圧力値PPは、空気量センサ23で検知された空気量が特定範囲に含まれるときに、空気圧センサ24で検知される空気圧である。
【0054】
一方、清掃判定部35は、差分圧力値(PP-PC)が閾値圧力値Pth以上の場合に(S13:Yes)、エレメント14が清掃された可能性があると判定する。この場合、交換判定部36は、直前のステップS12で取得した現在圧力値PCが下限圧力値PLより大きいか否かを判定する(S15)。
【0055】
そして、交換判定部36は、現在圧力値P
Cが下限圧力値P
Lより大きい場合に(S15:Yes)、エレメント14が清掃されたと判定する。例えば
図7において、過去圧力値P
P=P
1、取得時刻T
G=T
1、現在圧力値P
C=P
2、現在時刻T
C=T
2のタイミングでは、エレメント14が清掃されたと判定される。
【0056】
この場合、データ更新部34は、メモリ22に記憶された清掃回数Nに1を加算すると共に、直前のステップS12の実行時刻(=現在時刻TC)でメモリ22に記憶された更新時刻TUを上書きする(S16)。すなわち、清掃回数Nは、少なくとも過去圧力値PPから現在圧力値PCを減じた差分圧力値(PP-PC)が予め定められた閾値圧力値Pth以上となる回数に基づいて算出される値である。次に、コントローラ20は、後述する清掃間隔判定処理を実行する(S17)。
【0057】
次に、劣化判定部37は、直前のステップS16で更新(加算)された清掃回数Nが閾値回数N
th以上か否かを判定する(S18)。そして、劣化判定部37は、清掃回数Nが閾値回数N
th以上の場合に(S18:Yes)、エレメント14が限界性能まで劣化したと判定する。例えば
図7において、過去圧力値P
P=P
7、取得時刻T
G=T
7、現在圧力値P
C=P
8、現在時刻T
C=T
8のタイミングでは、エレメント14が限界性能まで劣化したと判定される。
【0058】
過去圧力値P
Pは、例えば、直近にエンジン10を停止したタイミングにおける、空気圧センサ24により検知された最新の圧力値である。
図7におけるエンジン10を停止したタイミングが時刻T
7の場合には、圧力値P
7もしくはその値に近い圧力値P
7よりわずかに低い値が過去圧力値P
Pとして用いられる。
【0059】
この場合、報知処理部33は、エレメント14の交換の必要性を、モニタ25を通じてオペレータに報知する(S19)。報知処理部33は、例えばステップS19において、「エレメント14を交換してください」等のメッセージをモニタ25に表示する。次に、データ更新部34は、前述したステップS14の処理を実行する。
【0060】
一方、劣化判定部37は、清掃回数Nが閾値回数Nth未満の場合に(S18:No)、エレメント14が限界性能まで劣化していないと判定する。この場合、報知処理部33は、ステップS19の処理を実行しない。一方、データ更新部34は、前述したステップS14の処理を実行する。
【0061】
また、交換判定部36は、現在圧力値P
Cが下限圧力値P
L以下の場合に(S15:No)、エレメント14が交換されたと判定する。例えば
図7において、過去圧力値P
P=P
8、取得時刻T
G=T
8、現在圧力値P
C=P
0、現在時刻T
C=T
9のタイミングでは、エレメント14が交換されたと判定される。
【0062】
この場合、データ更新部34は、メモリ22に記憶された清掃回数Nに0を設定(初期化)すると共に、直前のステップS12の実行時刻(=現在時刻TC)でメモリ22に記憶された更新時刻TUを上書きする(S20)。次に、報知処理部33は、エレメント14が交換されたことを、モニタ25を通じてオペレータに報知する(S21)。報知処理部33は、例えばステップS21において、「エレメント14が交換されました」等のメッセージをモニタ25に表示する。次に、データ更新部34は、前述したステップS14の処理を実行する。
【0063】
また、
図6に示す清掃間隔判定処理において、間隔判定部38は、現在時刻T
Cから更新時刻T
Uを減じた清掃間隔(T
C-T
U)を算出する。次に、間隔判定部38は、清掃間隔(T
C-T
U)が閾値間隔T
th未満か否かを判定する。そして、間隔判定部38は、清掃間隔(T
C-T
U)が閾値間隔T
th未満の場合に(S31:Yes)、エレメント14の清掃頻度が高い可能性があると判定する。
【0064】
この場合、目詰判定部39は、メモリ22に記憶された過去圧力値PPが上限圧力値PU以上か否かを判定する(S32)。そして、目詰判定部39は、過去圧力値PPが上限圧力値PU以上の場合に(S32:Yes)、エレメント14の清掃が必要でなかったと判定する。
【0065】
この場合、報知処理部33は、エレメント14の清掃間隔が短いことを、モニタ25を通じて報知する(S33)。報知処理部33は、例えばステップS33において、「エレメントの劣化を抑制するために、清掃頻度を落してください」等のメッセージをモニタ25に表示する。そして、コントローラ20は、
図5のステップS18以降の処理を実行する。
【0066】
一方、間隔判定部38は、清掃間隔(T
C-T
U)が閾値間隔T
th以上の場合に(S31:No)、エレメント14の清掃頻度が適正だと判定する。また、目詰判定部39は、過去圧力値P
Pが上限圧力値P
U以上の場合に(S32:No)、清掃が必要な程度までエレメント14が目詰まりしていたと判定する。この場合、報知処理部33は、ステップS33の処理を実行しない。そして、コントローラ20は、
図5のステップS18以降の処理を実行する。
【0067】
上記の実施形態によれば、過去圧力値PPと現在圧力値PCとの差に基づいてエレメント14が清掃されたか否かを判定し、清掃回数Nが閾値回数Nthに達したタイミングでエレメント14の交換の必要性が報知される。これにより、エアクリーナ12のエレメント14の交換時期を、適切なタイミングで報知することができる。
【0068】
また、上記の実施形態によれば、差分圧力値(PP-PC)が閾値圧力値Pth以上の場合において、現在圧力値PCと下限圧力値PLとの大小関係によって、エレメント14が清掃されたか交換されたかを判定する。これにより、エレメント14が清掃されたかをさらに適切に判定することができる。
【0069】
また、上記の実施形態によれば、差分圧力値(PP-PC)が閾値圧力値Pth以上の場合において、清掃間隔(TC-TU)と閾値間隔Tthとの大小関係によって、エレメント14の清掃頻度を判定する。これにより、清掃頻度が高いとエレメント14の劣化が進むことを、オペレータに注意喚起することができる。
【0070】
さらに、上記の実施形態によれば、清掃間隔(TC-TU)が閾値間隔Tth未満で且つ過去圧力値PPが上限圧力値PU未満の場合に、エレメント14の清掃頻度が高いことが報知される。換言すれば、塵埃の多い環境で油圧ショベル1が使用される場合に、エレメント14を高頻度で清掃したとしても、オペレータへの注意喚起が省略される。これにより、適切な頻度でオペレータにエレメント14を清掃させることができる。
【0071】
なお、
図7の時刻T
1に圧力値P
1を検知した直後に、エンジン10を停止させてエレメント14を清掃した場合、時刻T
2で実行されるステップS13では、過去圧力値P
1と現在圧力値P
2との差は大きくなる。一方、
図7の時刻T
3に圧力値P
3を検知した後、時刻T
3’までエンジン10の駆動を継続すると、エアクリーナ12を通過する空気の空気圧は圧力値P
3より高い圧力値P
3’まで上昇するものの、メモリ22に記憶された過去圧力値P
Pは圧力値P
3のままである。この場合、時刻T
4で実行されるステップS13では、過去圧力値P
3と現在圧力値P
4との差は、時刻T
2のときより小さくなる。
【0072】
そのため、時刻T2、T4の直前に同じようにエレメント14が清掃されているにも拘わらず、時刻T4に実行されるステップS13では、時刻T2に実行されるステップS13と比較して、エレメント14が清掃されていないと判定されやすくなる。そこで、清掃判定部35は、報知制御処理の実行間隔に応じて閾値圧力値Pthを可変にしてもよい。
【0073】
より詳細には、清掃判定部35は、現在時刻TCからメモリ22に記憶された取得時刻TGを減じた取得間隔が長いほど、閾値圧力値Pthを小さくすればよい。一方、清掃判定部35は、取得間隔が短いほど、閾値圧力値Pthを大きくすればよい。これにより、報知制御処理の実行タイミング(実行間隔)に拘わらず、エレメント14が清掃されたか否かをさらに適切に判定することができる。
【0074】
上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 フロント作業機
4a ブーム
4b アーム
4c バケット
4d ブームシリンダ
4e アームシリンダ
4f バケットシリンダ
5 旋回フレーム
6 カウンタウェイト
7 キャブ
8 クローラ
9 エンジン建屋
10 エンジン
11 吸気管
12 エアクリーナ
13 筐体
14 エレメント
15 キャップ
16 流出口
20 コントローラ
21 CPU
22 メモリ
23 空気量センサ
24 空気圧センサ
25 モニタ
31 圧力値取得部
32 判定部
33 報知処理部
34 データ更新部
35 清掃判定部
36 交換判定部
37 劣化判定部
38 間隔判定部
39 目詰判定部