(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車内コミュニケーション支援システム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20241205BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H04R3/00 320
B60R11/02 M
(21)【出願番号】P 2021116442
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】田地 良輔
(72)【発明者】
【氏名】田口 仁幸
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/141489(WO,A1)
【文献】特開2008-153743(JP,A)
【文献】特開2020-122835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00- 3/14
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に並んだ座席である第1席と第2席と、前記第1座席と前記第2の座席と前後方向に並んだ座席である第3の座席とを有する自動車に搭載される、車内コミュニケーション支援システムであって、
前記第1座席の近くに配置されたマイクである第1マイクと、
前記第2座席の近くに配置されたマイクである第2マイクと、
前記第3座席に向けて音を出力するスピーカと、
前記第1マイクの出力と前記第2マイクの出力を用いて前記スピーカに出力する前記第1座席のユーザの発話音声と前記第2座席のユーザの発話音声を生成する信号処理部とを有し、
前記信号処理部は、
前記第1席のユーザの発話位置を音源位置とする音声を第1席音声として、
前記第2マイクで収音した第1席音声を、前記第2マイクよりも前記第1席に近い位置にある仮想のマイクである第1席仮想マイクで収音した第1席音声に変換し出力する第1フィルタを備え、
前記第1マイクの出力と前記第1フィルタの出力を用いて、前記第1マイクと前記第1席仮想マイクからなる、前記第1席のユーザの発話位置への指向性を前記第1マイクよりも高めた仮想のマイクロホンアレイの出力を、前記スピーカに出力する前記第1座席のユーザの発話音声として生成することを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【請求項2】
左右に並んだ座席である第1席と第2席と、前記第1座席と前記第2の座席と前後方向に並んだ座席である第3の座席とを有する自動車に搭載される、車内コミュニケーション支援システムであって、
前記第1座席の近くに配置されたマイクである第1マイクと、
前記第2座席の近くに配置されたマイクである第2マイクと、
前記第3座席に向けて音を出力するスピーカと、
前記第1マイクの出力と前記第2マイクの出力を用いて前記スピーカに出力する前記第1座席のユーザの発話音声と前記第2座席のユーザの発話音声を生成する信号処理部とを有し、
前記信号処理部は、
前記第1席のユーザの発話位置を音源位置とする音声を第1席音声として、
前記第2マイクで収音した第1席音声を、前記第2マイクよりも前記第1席に近い位置にある仮想のマイクである第1席仮想マイクで収音した第1席音声に変換し出力する第1フィルタと、
前記第1フィルタの出力から第1席音声の成分を抽出し出力する第2フィルタと、
前記第1マイクの出力を遅延し出力する遅延部と、
前記遅延部の出力から第1席音声の成分を抽出し出力する第3フィルタと
前記第2フィルタの出力と前記第3フィルタの出力を加算して前記スピーカに出力する前記第1座席のユーザの発話音声を生成する加算部とを有し、
前記遅延部は、前記第2フィルタが出力する第1席音声の成分と、前記第3フィルタが出力する第1席音声の成分との遅延時間が揃うように、前記第1マイクの出力を遅延することを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の車内コミュニケーション支援システムであって、
前記第1フィルタの伝達関数は、事前に、
前記第1座席のユーザの発話位置から所定のチューニング用音を出力しながら、前記第1席仮想マイクの位置に配置したマイクである第3マイクで収音し、第2マイクの出力を入力とする第1の適応フィルタの出力と、所定時間遅延させた前記第3マイクの出力との差分をエラーとして、当該第1の適応フィルタの適応動作を行わせ、収束した前記第1の適応フィルタの伝達関数を前記第1フィルタの伝達関数とする
ことにより設定されていることを特徴とする車内コミュニケーション支援システムのチューニング方法。
【請求項4】
請求項2記載の車内コミュニケーション支援システムであって、
前記第2フィルタの伝達関数と前記第3フィルタの伝達関数は、事前に、
前記第1座席のユーザの発話位置から所定のチューニング用音を出力しながら、前記第1フィルタの出力を入力とする第2の適応フィルタの出力と、所定時間遅延させた前記第1マイクの出力との差分をエラーとして、当該第2の適応フィルタの適応動作を行わせ、収束した前記第2の適応フィルタの伝達関数を前記第2フィルタの伝達関数とし、前記所定時間遅延させた前記第1マイクの出力を入力とする第3の適応フィルタの出力と、前記第1フィルタの出力との差分をエラーとして、当該第3の適応フィルタの適応動作を行わせ、収束した前記第3の適応フィルタの伝達関数を前記第3フィルタの伝達関数とする
ことにより設定されていることを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の車内コミュニケーション支援システムであって、
前記第1マイクは、前記第1座席の左右方向の中央から前記第2座席と反対方向に所定距離離れた位置に配置されており、
前記第1席仮想マイクの位置は、前記第1座席の左右方向の中央から前記第2座席の方向に前記所定距離離れた位置であることを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の車内コミュニケーション支援システムであって、
オーディオコンテンツの音を前記第3席に向けて出力するオーディオ装置を備えていることを特徴とする車内コミュニケーション支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内の発話によるコミュニケーションを支援する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車内の発話によるコミュニケーションを支援する技術としては、自動車の第1の座席に着座したユーザの発話音声をマイクで収音し、第2の座席のユーザが明瞭に聞き取れるようにゲインを調整した発話音声を、オーディオ装置が出力する音楽などの出力音と合成してスピーカから出力する技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
また、複数のマイクの出力を、目的音の位相が一致するように遅延時間を調整して合成することにより、複数のマイクを高指向性のマイクとして機能させて、目的音のSN比を向上するマイクロホンアレイの技術も知られている(たとえば、特許文献2)。
【0004】
また、フィルタを用いて、第1の位置に配置したマイクで収音した目的音を、第2の位置にマイクが配置されていた場合に収音される目的音に変換する技術も知られている(たとえば、特許文献3)。
【0005】
ここで、この技術では、事前に、第2の位置に実際にマイクを配置し、第1の位置に配置したマイクの出力と第2の位置に配置したマイクの出力との差が最小となる伝達関数を、適応フィルタを用いて求めて上記のフィルタの伝達関数として設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-51392号公報
【文献】特開平11-234790号公報
【文献】特開2001-142469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した車内の発話によるコミュニケーションを支援する技術によれば、スピーカから出力されたオーディオ装置の出力音が収音され、マイクの出力に混入すると、第1の座席のユーザの発話音声のSN比が低下し、第2の座席のユーザが発話音声を聞き取りづらくなる。また、マイクに回りこんだオーディオ装置の出力音の遅延音がスピーカから出力されるため、残響が多くなり車内全体が飽和したような聴感となってしまう。
【0008】
このような問題は、高指向性のマイクを用いて、第1の座席のユーザの発話音声をSN比良く収音することにより軽減できる。
しかし、高指向性のマイクは、一般的に比較的大型で特異な形状を備えていることより、意匠上の制限や自動車への組み込み上の問題が生じる。一方、マイクロホンアレイを用いて高指向性のマイクを実現することは、マイクの数が増えることによるコスト増や、処理負荷の増大が生じ効率的ではない。
そこで、本発明は、ユーザの発話音声をマイクで収音し他のユーザに向けてスピーカから出力する車内コミュニケーション支援システムにおいて、比較的効率的な構成で、スピーカから出力する発話音声のSN比を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題達成のために、本発明は、左右に並んだ座席である第1席と第2席と、前記第1座席と前記第2の座席と前後方向に並んだ座席である第3の座席とを有する自動車に搭載される、車内コミュニケーション支援システムに、前記第1座席の近くに配置されたマイクである第1マイクと、前記第2座席の近くに配置されたマイクである第2マイクと、前記第3座席に向けて音を出力するスピーカと、前記第1マイクの出力と前記第2マイクの出力を用いて前記スピーカに出力する前記第1座席のユーザの発話音声と前記第2座席のユーザの発話音声を生成する信号処理部とを設けたものである。ここで、前記信号処理部は、前記第1席のユーザの発話位置を音源位置とする音声を第1席音声として、前記第2マイクで収音した第1席音声を、前記第2マイクよりも前記第1席に近い位置にある仮想のマイクである第1席仮想マイクで収音した第1席音声に変換し出力する第1フィルタを備え、前記第1マイクの出力と前記第1フィルタの出力を用いて、前記第1マイクと前記第1席仮想マイクからなる、前記第1席のユーザの発話位置への指向性を前記第1マイクよりも高めた仮想のマイクロホンアレイの出力を、前記スピーカに出力する前記第1座席のユーザの発話音声として生成する。
【0010】
また、前記課題達成のために、本発明は、左右に並んだ座席である第1席と第2席と、前記第1座席と前記第2の座席と前後方向に並んだ座席である第3の座席とを有する自動車に搭載される、車内コミュニケーション支援システムに、前記第1座席の近くに配置されたマイクである第1マイクと、前記第2座席の近くに配置されたマイクである第2マイクと、前記第3座席に向けて音を出力するスピーカと、前記第1マイクの出力と前記第2マイクの出力を用いて前記スピーカに出力する前記第1座席のユーザの発話音声と前記第2座席のユーザの発話音声を生成する信号処理部とを備えている。ここで、前記信号処理部は、前記第1席のユーザの発話位置を音源位置とする音声を第1席音声として、前記第2マイクで収音した第1席音声を、前記第2マイクよりも前記第1席に近い位置にある仮想のマイクである第1席仮想マイクで収音した第1席音声に変換し出力する第1フィルタと、前記第1フィルタの出力から第1席音声の成分を抽出し出力する第2フィルタと、前記第1マイクの出力を遅延し出力する遅延部と、前記遅延部の出力から第1席音声の成分を抽出し出力する第3フィルタと前記第2フィルタの出力と前記第3フィルタの出力を加算して前記スピーカに出力する前記第1座席のユーザの発話音声を生成する加算部とを備えており、前記遅延部は、前記第2フィルタが出力する第1席音声の成分と、前記第3フィルタが出力する第1席音声の成分との遅延時間が揃うように、前記第1マイクの出力を遅延する。
【0011】
ここで、前記第1フィルタの伝達関数は、たとえば、事前に、前記第1座席のユーザの発話位置から所定のチューニング用音を出力しながら、前記第1席仮想マイクの位置に配置したマイクである第3マイクで収音し、第2マイクの出力を入力とする第1の適応フィルタの出力と、所定時間遅延させた前記第3マイクの出力との差分をエラーとして、当該第1の適応フィルタの適応動作を行わせ、収束した前記第1の適応フィルタの伝達関数を前記第1フィルタの伝達関数とすることにより設定してよい。
【0012】
また、前記第2フィルタの伝達関数と前記第3フィルタの伝達関数は、たとえば、事前に、前記第1座席のユーザの発話位置から所定のチューニング用音を出力しながら、前記第1フィルタの出力を入力とする第2の適応フィルタの出力と、所定時間遅延させた前記第1マイクの出力との差分をエラーとして、当該第2の適応フィルタの適応動作を行わせ、収束した前記第2の適応フィルタの伝達関数を前記第2フィルタの伝達関数とし、前記所定時間遅延させた前記第1マイクの出力を入力とする第3の適応フィルタの出力と、前記第1フィルタの出力との差分をエラーとして、当該第3の適応フィルタの適応動作を行わせ、収束した前記第3の適応フィルタの伝達関数を前記第3フィルタの伝達関数とすることにより設定してよい。
【0013】
また、以上の車内コミュニケーション支援システムは、前記第1マイクを、前記第1座席の左右方向の中央から前記第2座席と反対方向に所定距離離れた位置に配置し、前記第1席仮想マイクの位置は、前記第1座席の左右方向の中央から前記第2座席の方向に前記所定距離離れた位置としてもよい。
【0014】
また、以上の車内コミュニケーション支援システムは、オーディオコンテンツの音を前記第3席に向けて出力するオーディオ装置を備えていてもよい。
このような車内コミュニケーション支援システムによれば、第1席用のマイクを追加することなく、第2席用に設けられている第2マイクを利用する効率的な構成で、第1席のユーザの発話位置方向への指向性を高め、スピーカから出力する第1席のユーザの発話音声のSN比を向上することができる。また、信号処理部の各フィルタの伝達関数は固定であるので、処理負荷の増大も抑制される。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、ユーザの発話音声をマイクで収音し他のユーザに向けてスピーカから出力する車内コミュニケーション支援システムにおいて、比較的効率的な構成で、スピーカから出力する発話音声のSN比を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る車内コミュニケーション支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る車内コミュニケーション支援システムのスピーカとマイクの配置を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る信号処理部の構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る第1段階のチューニングの構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る学習用マイクと学習用スピーカの配置を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る第2段階のチューニングの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る車内コミュニケーション支援システムの構成を示す。
車内コミュニケーション支援システムは、自動車に搭載されるシステムであり、図示するように、右前席マイクPR、左前席マイクPL、信号処理部1、オーディオ装置2、合成処理部3、制御部4、スピーカSPを備えている。
【0018】
図2a1、a2に示すように、右前席マイクPRは自動車の右前席のフットレストの右側に、右前席に着座したユーザの発話音声を収音するように配置され、左前席マイクPLは自動車の左前席のフットレストの左側に、左前席に着座したユーザの発話音声を収音するように配置される。
【0019】
また、スピーカSPは、後席に着座したユーザに向けて音を放射するように後席近くに配置されている。
信号処理部1は、右前席マイクPRの出力と左前席マイクPLの出力より、右前席のユーザの発話音声を右前席マイクPRより高SN比で表す右前席発話音声信号SRと、左前席のユーザの発話音声を左前席マイクPLより高SN比で表す左前席発話音声信号SLとを生成し、合成処理部3に出力する。
【0020】
合成処理部3は、右前席発話音声信号SRと、右前席発話音声信号SRと、オーディオ装置2が出力する音楽などを表す出力音信号SAとを、それぞれ、制御部4からの制御に従って合成しスピーカSPから出力する。
【0021】
制御部4は、右前席発話音声信号SRと左前席発話音声信号SLとから、右前席のユーザの発話の有無と左前席のユーザの発話の有無とを監視する。
そして、制御部4は、右前席のユーザが発話中は、合成処理部3を、右前席発話音声信号SRを所定のゲインで出力音信号SAに合成してスピーカSPに出力するよう制御し、右前席のユーザが発話していないときには、合成処理部3を、右前席発話音声信号SRをミュートして出力音信号SAに合成しないように制御する。また、制御部4は、左前席のユーザが発話中は、合成処理部3を、左前席発話音声信号SLを所定のゲインで出力音信号SAに合成してスピーカSPに出力するよう制御し、左前席のユーザが発話していないときには、合成処理部3を、左前席発話音声信号SLをミュートとして出力音信号SAに合成しないように制御する。
【0022】
ここで、制御部4は、右前席のユーザもしくは左前席のユーザが発話しているときには、合成処理部3に出力音信号SAのゲインを小さくさせる制御を行っても良い。
次に、
図3に信号処理部1の構成を示す。
図示するように、信号処理部1は、右前席マイクPRの出力と左前席マイクPLの出力より右前席発話音声信号SRを生成する右席処理部11と、左前席マイクPLの出力と右前席マイクPRの出力より左前席発話音声信号SLを生成する左席処理部12を備えている。
【0023】
右前席のユーザの発話位置で発生した音声を右前席音声として、右席処理部11は、左前席マイクPLの出力中の右前席音声を、
図2bに示すように右前席のフットレストの左側に位置する仮想のマイクである右席仮想マイクPVRで収音した右前席音声に変換するフィルタHR111、右前席マイクPRの出力を遅延して出力し、当該出力中の右前席音声の遅延時間をフィルタHR111の出力中の右前席音声の遅延時間と一致させる遅延部Z
-TR112、フィルタHR111の出力中の右前席音声を抽出するフィルタWRA113、遅延部Z
-TR112の出力中の右前席音声を抽出するフィルタWRB114、フィルタWRA113とフィルタWRB114の出力を加算し右前席発話音声信号SRとして出力する右加算器115を備えている。
【0024】
ここで、右加算器115の加算により、右前席マイクPRの出力中の右前席音声と、右前席マイクPRと異なる位置にある右席仮想マイクPVRで収音した右前席音声とが加算され、その他の音声成分が相殺されるので、右前席マイクPRと右席仮想マイクPVRを用いた、右前席のユーザの発話位置方向への指向性を高めた仮想のマイクロホンアレイが形成され、仮想のマイクロホンアレイが出力する、右前席マイクPRの出力よりも右前席音声のSN比が向上した右前席発話音声信号SRがスピーカから出力される。
【0025】
同様に、左前席のユーザの発話位置で発生した音声を左前席音声として、左席処理部12は、右前席マイクPRの出力中の左前席音声を、
図2bに示すように左前席のフットレストの右側に位置する仮想のマイクである左席仮想マイクPVLで収音した左前席音声に変換するフィルタHL121、左前席マイクPLの出力を遅延して出力し、当該出力中の左前席音声の遅延時間をフィルタHL121の出力中の左前席音声の遅延時間と一致させる遅延部Z
-TL122、フィルタHL121の出力中の左前席音声を抽出するフィルタWLA123、遅延部Z
-TL122の出力中の左前席音声を抽出するフィルタWLB124、フィルタWLA123とフィルタWLB124の出力を加算し左前席発話音声信号SLとして出力する左加算器125を備えている。
【0026】
ここで、左加算器125の加算により、左前席マイクPLの出力中の左前席音声と、左前席マイクPLと異なる位置にある左席仮想マイクPVLで収音した左前席音声とが加算され、その他の音声成分が相殺されるので、左前席マイクPLと左席仮想マイクPVLを用いた、左前席のユーザの発話位置方向への指向性を高めた仮想のマイクロホンアレイが形成され、仮想のマイクロホンアレイが出力する、左前席マイクPLの出力よりも左前席音声のSN比が向上した左前席発話音声信号SLがスピーカから出力される。
【0027】
ここで、右席処理部11の、フィルタHR111、フィルタWRA113、フィルタWRB114の伝達関数(フィルタ係数)の設定は、予め、フィルタHR111の伝達関数を算定する第1段階のチューニングと、フィルタWRA113とフィルタWRB114の伝達関数を算定する第2段階のチューニングを行うと共に、算定された各伝達関数をフィルタHR111、フィルタWRA113、フィルタWRB114に設定することにより行う。
【0028】
第1段階のチューニングは、
図4に示す構成によって行う。
図示するように、この構成は、右前席スピーカTSPR、右前席学習用マイクTPR、左前席マイクPL、第1遅延部Z
-TA41、第1加算器42、第1適応フィルタ43を備えている。また、第1適応フィルタ43は、第1可変フィルタ431と、NLMSなどの適応アルゴリズムにより第1可変フィルタ431の伝達関数(フィルタ係数)を更新する第1適応アルゴリズム実行部432を備えている。
【0029】
ここで、
図5a1、a2に示すように、右前席スピーカTSPRは、右前席のユーザの発話位置に配置したスピーカであり、右前席学習用マイクTPRは、右前席のフットレストの左側、すなわち、右席仮想マイクPVRの位置に配置したマイクである。
【0030】
さて、第1段階のチューニングは、右前席スピーカTSPRから所定のチューニング用音声を出力しながら行う。
左前席マイクPLで収音した音声は、第1適応フィルタ43の第1可変フィルタ431を通って第1加算器42に出力される。第1遅延部Z-TA41は、右前席学習用マイクTPRで収音した音声を遅延して出力し、当該出力中のチューニング用音声の遅延時間を、左前席マイクPLの出力中のチューニング用音声の遅延時間と一致させる。
【0031】
第1加算器42は、第1遅延部Z-TA41の出力から、第1可変フィルタ431の出力を減算してエラーe1として、第1適応フィルタ43の第1適応アルゴリズム実行部432に出力する。
【0032】
第1適応アルゴリズム実行部432は、NLMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーe1が最小となるように第1可変フィルタ431の伝達関数を更新する。
そして、以上の動作により第1可変フィルタ431の伝達関数が収束するのを待つ。第1可変フィルタ431の伝達関数が収束したならば、その伝達関数は、左前席マイクPLで収音した右前席のユーザの発話位置を音源位置とする音声を、右前席学習用マイクTPRで収音した右前席のユーザの発話位置を音源位置とする音声と可及的に相関が強い(可及的に近似する)音声に変換するもの、すなわち、左前席マイクPLの出力中の右前席のユーザの発話位置を音源位置とする音声を、右席仮想マイクPVLで収音した右前席のユーザの発話位置を音源位置とする音声に可及的に変換するものとなっているので、収束した可変フィルタの伝達関数をフィルタHR111の伝達関数とする。
【0033】
次に、第2段階のチューニングは、
図6に示す構成によって行う。
図示するように、この構成は、右前席スピーカTSPR、左前席マイクPL、右前席マイクPR、第2段階のチューニングで求めた伝達関数を設定したフィルタHR111、第2遅延部Z
-TB61、第2適応フィルタ62、第3適応フィルタ63、第2加算器64、第3加算器65を備えている。
【0034】
また、第2適応フィルタ62は、第2可変フィルタ621と、LMSなどの適応アルゴリズムにより第2可変フィルタ621の伝達関数(フィルタ係数)を更新する第2適応アルゴリズム実行部622を備え、第3適応フィルタ63は、第3可変フィルタ631と、LMSなどの適応アルゴリズムにより第3可変フィルタ631の伝達関数(フィルタ係数)を更新する第3適応アルゴリズム実行部632を備えている。
【0035】
第2段階のチューニングは、右前席スピーカTSPRから所定のチューニング用音声を出力しながら行う。
左前席マイクPLで収音した音声は、フィルタHR111、第2適応フィルタ62の第2可変フィルタ621を通って第2加算器64に出力される。第2遅延部Z-TB61は、右前席マイクPRで収音した音声を遅延して出力し、当該出力中のチューニング用音声の遅延時間を、左前席マイクPLの出力中のチューニング用音声の遅延時間と一致させる。そして、第2遅延部Z-TB61の出力は、第3適応フィルタ63の第3可変フィルタ631を通って第3加算器65に出力される。
【0036】
第2加算器64は、第1遅延部Z-TBの出力から、第2可変フィルタ621の出力を減算してエラーe2として、第2適応フィルタ62の第2適応アルゴリズム実行部622に出力する。
【0037】
第2適応アルゴリズム実行部622は、LMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーe2が最小となるように第2可変フィルタ621の伝達関数を更新する。
第3加算器65は、フィルタHR111の出力から、第3可変フィルタ631の出力を減算してエラーe3として、第3適応フィルタ63の第3適応アルゴリズム実行部632に出力する。
【0038】
第3適応アルゴリズム実行部632は、LMSなどの適応アルゴリズムを実行し、エラーe3が最小となるように第3可変フィルタ631の伝達関数を更新する。
そして、以上の動作による第2可変フィルタ621の伝達関数と第3可変フィルタ631の伝達関数の収束を待ち、収束した第2可変フィルタ621の伝達関数をフィルタWRA113の伝達関数とし、収束した第3可変フィルタ631の伝達関数をフィルタWRB114の伝達関数とする。
【0039】
ここで、第2可変フィルタ621の伝達関数と第3可変フィルタ631の伝達関数が収束した状態で、第2可変フィルタ621の伝達関数は、右席仮想マイクPVLで収音した音声から、右前席マイクPRで収音した音声と最も相関する成分を抽出するものとなっており、第3可変フィルタ631の伝達関数は、右前席マイクPRで収音した音声から、右席仮想マイクPVLで収音した音声と最も相関する成分を抽出するものとなっており、最も相関する成分は、右前席のユーザの発話位置を音源位置とするチューニング用音声の成分であるので、第2可変フィルタ621の伝達関数は、右席仮想マイクPVLで収音した音声から右前席のユーザの発話位置を音源位置とする音声を抽出する伝達関数となっており、第3可変フィルタ631の伝達関数は、右右前席マイクPRで収音した音声から右前席のユーザの発話位置を音源位置とする音声を抽出する伝達関数となっている。
【0040】
次に、右左席処理部のフィルタHL121、フィルタWLA123、フィルタWLB124の伝達関数(フィルタ係数)の設定も、同様に、予め、フィルタHL121の伝達関数を算定する第1段階のチューニングと、フィルタWLA123とフィルタWLB124の伝達関数を算定する第2段階のチューニングを行うと共に、算定された各伝達関数をフィルタHL121、フィルタWLA123、フィルタWLB124に設定することにより行う。
【0041】
左席処理部12の各フィルタの伝達関数を算定する第1段階のチューニングと第2段階のチューニングの内容は、上述した右席処理部11の各フィルタの伝達関数を算定する第1段階のチューニングと第2段階のチューニングの説明中の「左」と「右」を置換し、「R」と「L」を置換したものとなる。したがって、
図5b1、b2に示すように、左席処理部12のフィルタHL121、フィルタWLA123、フィルタWLB124の伝達関数の算定において用いる左前席スピーカTSPLは、左前席のユーザの発話位置に配置したスピーカとなり、左前席学習用マイクTPLは、左前席のフットレストの右側、すなわち、左席仮想マイクPVLの位置に配置したマイクとなる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上のように、本実施形態によれば、各席用のマイクを追加することなく、当該席のマイクに加え他席用に設けられているマイクを利用する効率的な構成で、当該席のユーザの発話位置方向への指向性を高め、スピーカから出力するユーザの発話音声のSN比を向上することができる。また、信号処理部1の各フィルタの伝達関数は固定であるので、処理負荷の増大も抑制される。
【0043】
なお、以上の車内コミュニケーション支援システムに、右前席マイクPRや左前席マイクPLで収音された、スピーカに出力した発話音声の成分をキャンセルするエコーキャンセラ等の適応フィルタを用いた他の信号処理部を設けてもよい。このようにしても、信号処理部1の各フィルタの伝達関数を固定としているので、他の信号処理部の動作が適応フィルタと干渉してしまうことはない。
【符号の説明】
【0044】
1…信号処理部、2…オーディオ装置、3…合成処理部、4…制御部、11…右席処理部、12…左席処理部、41…第1遅延部Z-TA、42…第1加算器、43…第1適応フィルタ、61…第2遅延部Z-TB、62…第2適応フィルタ、63…第3適応フィルタ、64…第2加算器、65…第3加算器、111…フィルタHR、112…遅延部Z-TR、113…フィルタWRA、114…フィルタWRB、115…右加算器、121…フィルタHL、122…遅延部Z-TL、123…フィルタWLA、124…フィルタWLB、125…左加算器、431…第1可変フィルタ、432…第1適応アルゴリズム実行部、621…第2可変フィルタ、622…第2適応アルゴリズム実行部、631…第3可変フィルタ、632…第3適応アルゴリズム実行部、PR…右前席マイク、PL…左前席マイク、SP…スピーカ、TPR…右前席学習用マイク、TPL…左前席学習用マイク、TSPL…左前席スピーカ。