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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】化学除染方法および化学除染装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20241205BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20241205BHJP
   G21C 19/02 20060101ALI20241205BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G21F9/28 525A
G21D1/00 Y
G21C19/02 090
G21F9/12 512A
G21F9/12 512F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021144097
(22)【出願日】2021-09-03
(65)【公開番号】P2023037387
(43)【公開日】2023-03-15
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】石田 一成
(72)【発明者】
【氏名】大平 高史
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 慎太郎
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-332877(JP,A)
【文献】特開2000-227499(JP,A)
【文献】特開2009-162687(JP,A)
【文献】特開2019-191075(JP,A)
【文献】特表2019-529879(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0338696(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21D 1/00
G21C 19/02
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントの構成部材を除染対象物とし、除染剤によって化学除染する方法において、
前記除染対象物に化学除染装置を接続する工程と、
前記化学除染装置から前記除染対象物に前記除染剤を供給して前記除染対象物を化学除染する工程と、
還元除染廃液に過酸化水素水を供給して前記除染剤を分解する工程と、を有し、
前記除染剤を分解する工程は、前記還元除染廃液に過酸化水素水を混合し、イオン交換樹脂に供給する工程を有し、
前記還元除染廃液に含まれる鉄イオンが所定の濃度を下回った場合、前記還元除染廃液の前記イオン交換樹脂への供給を停止することを特徴とする化学除染方法。
【請求項2】
前記除染対象物を化学除染する工程、前記除染対象物に前記除染剤を供給したのち、前記イオン交換樹脂塔に供給し、循環させる工程を有し、
循環する前記還元除染廃液に含まれる鉄イオンが前記所定の濃度を下回った場合、前記還元除染廃液の前記イオン交換樹脂への供給を停止することを特徴とする請求項1に記載の化学除染方法。
【請求項3】
前記還元除染廃液中の鉄イオン濃度の時間変化を記憶し、その時間変化から目標とする鉄イオン濃度に到達する時間を評価し、前記イオン交換樹脂塔への供給と供給停止を制御することを特徴とする請求項1に記載の化学除染方法。
【請求項4】
前記所定の濃度が10ppmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の化学除染方法。
【請求項5】
原子力発電プラントの構成部材を除染対象物とし、除染剤によって化学除染する装置において、
前記除染対象物と除染分解装置とを接続し、還元除染廃液が循環する第1の配管と、
前記第1の配管と並列に接続され、前記第1の配管と前記除染剤を分解する前記除染分解装置とを接続し、前記還元除染廃液が循環する第2の配管と、
前記第1の配管と並列に接続され、前記第1の配管とイオン交換樹脂塔とを接続し、前記還元除染廃液が循環する第3の配管とを備え、
前記還元除染廃液に含まれる鉄イオン濃度が所定の濃度を下回った場合、前記還元除染廃液の前記第1の配管から前記第3の配管への供給を停止することを特徴とする化学除染装置。
【請求項6】
前記還元除染廃液中の鉄イオン濃度の時間変化を記憶し、その時間変化から目標とする鉄イオン濃度に到達する時間を評価し、前記イオン交換樹脂塔への供給と供給停止を制御する演算装置を更に有することを特徴とする請求項5に記載の化学除染装置。
【請求項7】
前記所定の濃度が10ppmであることを特徴とする請求項5または6に記載の化学除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学除染方法及び化学除染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラント(以下「BWRプラント」という。)は、原子炉圧力容器(以下「RPV」という。)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。RPV内では炉水(冷却水)が再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給され、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPVからタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水系配管を通して給水として原子炉に供給される。給水は、RPV内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
【0003】
放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の炉水と接する表面で発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼、ニッケル基合金等が使用される。また、低合金鋼製のRPVは、内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接炉水と接触することを防いでいる。さらに、原子炉浄化系のろ過脱塩装置は、炉水の一部を浄化し、炉水に僅かに含まれる金属不純物を積極的に除去する。
【0004】
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在が避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物に含まれる金属元素は、燃料棒内の核燃料物質から放出される中性子の照射により原子核反応を起こし、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54等の放射性核種になる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。このように除去されなかった放射性物質がある場合、炉水とともに再循環系配管等を循環している間に、構成部材の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
【0005】
そこで、運転を経験した原子力プラントの構造部材、例えば、配管の表面に形成された、コバルト60及びコバルト58等の放射性核種を含む酸化皮膜を、化学薬品を用いた溶解により除去する化学除染法が行われている。主に化学除染では、除染剤として還元剤を用い、金属酸化物の被膜を除去する還元除染と、除染剤として酸化剤を用い、金属酸化物中のクロムを6価クロムとし酸化溶解する酸化除染が実施される。
【0006】
この化学除染法に関する技術として、例えば特許文献1(特開2000-105295号公報)には、少なくとも2種類以上の成分(シュウ酸、ヒドラジン)を含有する還元除染剤を用いて還元除染する工程と、該工程の後に還元除染剤の中の少なくとも2種類以上の化学物質を分解する分解装置を用いて還元除染剤の分解を行う工程を含むことを特徴とする化学除染方法が開示されている。還元除染剤の分解を行う分解装置は、除染中にカチオン樹脂塔を用いて除染剤中の放射性核種を浄化する際に、浄化装置入口側でカチオン樹脂塔に捕捉される上記成分(ヒドラジン)を選択的に分解する。これによって、カチオン樹脂塔の負荷を低減し、除染剤中の成分の偏り(pHの偏り)を防止することで、除染効果の低下を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-105295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
化学除染では、除染液中に過酸化水素が存在する状態でイオン交換樹脂に通水するとイオン交換樹脂の劣化原因となる。過酸化水素の発生源は2つ考えられる。1つ目は、(1)線量の高い炉内除染で水の放射線分解により発生するものである。2つめは、(2)還元剤の分解を目的としてイオン交換樹脂塔通水後の還元除染液に注入する過酸化水素が、触媒塔の後段にリークしたものである。上述した特許文献1では、イオン交換樹脂の下流に触媒塔を設置しているため、上記2つの発生源による過酸化水素がカチオン樹脂塔に供給される可能性がある。
【0009】
イオン交換樹脂の劣化により、金属イオンを交換する樹脂の能力が低下する。また、劣化に伴い発生するポリスチレンスルホン酸が、除染廃液の浄化に用いるアニオン樹脂に吸着することで、除染廃液を浄化する性能が低下する。結果としてそれぞれの樹脂の使用量の増加を招くこととなり、除染コストの増加につながる。
【0010】
このように、イオン交換樹脂の劣化はさまざまな課題を増やすことになるため、イオン交換樹脂に通水する還元除染液中に含まれる過酸化水素濃度は可能な限り低下させることが望まれている。
【0011】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、イオン交換樹脂の劣化を抑制し、低コストかつ短時間で除染を行うことが可能な化学除染方法および化学除染装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するための本発明の化学除染方法の一態様は、原子力発電プラントの構成部材を除染対象物とし、除染剤によって化学除染する方法において、除染対象物に化学除染装置を接続する工程と、化学除染装置から除染対象物に除染剤を供給して除染対象物を化学除染する工程と、還元除染廃液に過酸化水素水を供給して除染剤を分解する工程と、を有し、除染剤を分解する工程は、還元除染廃液に過酸化水素水を混合し、イオン交換樹脂に供給する工程を有し、還元除染廃液に含まれる鉄イオンが所定の濃度を下回った場合、還元除染廃液のイオン交換樹脂への供給を停止することを特徴とする。
【0013】
また、上記した目的を達成するための本発明の化学除染装置の一態様は、原子力発電プラントの構成部材を除染対象物とし、除染剤によって化学除染する装置において、除染対象物と除染分解装置とを接続し、還元除染廃液が循環する第1の配管と、第1の配管と並列に接続され、第1の配管と除染剤を分解する除染分解装置とを接続し、還元除染廃液が循環する第2の配管と、第1の配管と並列に接続され、第1の配管とイオン交換樹脂塔とを接続し、還元除染廃液が循環する第3の配管とを備え、還元除染廃液に含まれる鉄イオン濃度が所定の濃度を下回った場合、還元除染廃液の第1の配管から前記第3の配管への供給を停止することを特徴とする。
【0014】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属イオン交換樹脂の劣化を抑制し、低コストかつ短時間で除染を行うことが可能な化学除染方法および化学除染装置を提供することができる。
【0016】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の化学除染装置を備えた沸騰水型原子力発電プラントの模式図
図2図1の化学除染装置の詳細を示す図
図3】実施例1の化学除染方法を示すフローチャート
図4図3の還元除染剤分解浄化工程(S6)の分解工程の詳細を示すフローチャート
図5】過酸化水素濃度の経時変化のFe濃度依存性を示すグラフ
図6】ヒドラジン濃度の経時変化のFe濃度依存性を示すグラフ
図7】還元除染工程において炉内で発生する過酸化水素の影響を回避する還元除染工程を示すフローチャート
図8】還元除染剤分解工程におけるシュウ酸濃度と鉄イオン濃度の時間変化を示す図
図9】還元除染剤分解工程における鉄イオン濃度の推移を予測する演算装置とその予測に基づいて開閉を制御する弁の関係を示した化学除染装置
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。検討の中で、発明者らは還元除染剤分解中における還元除染廃液中に過酸化水素が共存した場合の過酸化水素の濃度変化に注目した。還元除染溶液中には還元除染終了時において除染剤として添加したシュウ酸が2000ppm、pH調整剤として添加したヒドラジンが500ppm程度存在する。また、金属酸化皮膜の溶解によって生成した鉄イオンやニッケルイオン、クロムイオンが存在する。これらの各化学種濃度は除染剤の分解に伴って徐々に低下してくるのであるが、これらの濃度をパラメータとして過酸化水素を添加して、その濃度の経時変化を調べる試験を実施した。
【0019】
試験では、シュウ酸濃度を0ppmから2000ppm、ヒドラジン(N)濃度を2ppmから56ppmに調整した水溶液に、還元除染液中の金属イオンの中で最も濃度の高い鉄(Fe)イオンを0ppmから60ppm加えて、90℃に加熱し、そこに過酸化水素を約10ppm程度加えて、過酸化水素添加から経時的に溶液をサンプリングし、過酸化水素濃度、ヒドラジン濃度を測定した。各サンプルの鉄イオン濃度、ヒドラジン濃度およびシュウ酸濃度を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
図5は過酸化水素濃度の経時変化のFe濃度依存性を示すグラフであり、図6はヒドラジン濃度の経時変化のFe濃度依存性を示すグラフである。鉄イオンを含まないサンプルは、過酸化水素はほとんど分解していないが、鉄イオンを5ppm、ヒドラジンを2ppm、シュウ酸を100ppm含むサンプルでは120分経過後に過酸化水素濃度は初期の1/3まで減少した。この条件から鉄濃度をさらに9ppmまで増加したサンプルでは、過酸化水素は150分で消失した。さらに鉄イオン濃度を13ppm、14ppmと増加させると過酸化水素の消失時間は短くなり、60分後には検出できなくなった。一方、ヒドラジンはほとんど濃度低下することなく残留した。
【0022】
このことから、過酸化水素の分解には還元剤であるヒドラジンではなく、鉄イオンの存在が関与していることがわった。鉄イオンが13ppm以上あると12ppm程度の過酸化水素は60分程度で消失するのに対して、5ppm程度まで低下すると12ppmの過酸化水素は60分後でも約1/2程度までしか減少しなかった。このため、還元除染剤の分解工程でシュウ酸の分解と鉄イオンの浄化が同時に進む状況下において、鉄イオン濃度が13ppmを下回り5ppmに近づくと、触媒塔からリークした過酸化水素があると、鉄イオンによる分解が抑制されて、分解中の還元除染溶液に残留して、イオン交換樹脂に到達する可能性が出てくる。
【0023】
そこで、鉄イオン濃度が例えば13ppmを下回った時点で鉄イオンによる過酸化水素の分解が期待できなくなると考えて、イオン交換樹脂への過酸化水素の到達を阻止する目的でイオン交換樹脂塔をアウトサービスしてバイパスラインに切り替える運用を行うことで、イオン交換樹脂の過酸化水素による劣化を防止できる。
【0024】
上記説明では、還元除染剤の分解工程でシュウ酸の分解と還元除染液中の鉄イオンの浄化が同時に進み、過酸化水素の分解に有効な鉄イオン濃度について、試験結果からは13ppm以上であることを説明したが、過酸化水素の分解に有効な鉄イオン濃度を下回る可能性は還元除染工程でも発生する可能性がある。還元除染工程では構造材に形成された鉄を主成分とする金属酸化皮膜を溶解するため、当初は十分な鉄イオン濃度が達成されている。しかし、溶解した放射性核種を除去する目的でイオン交換樹脂に通水していることから、金属酸化皮膜の溶解が進んで鉄イオンの供給が減少してくると、イオン交換樹脂での除去量が上回り、除染液中の鉄イオン濃度が低下してくる。このため、過酸化水素の分解に有効な鉄イオン濃度を下回る可能性がある。
【0025】
還元除染工程では還元除染液に過酸化水素を供給することはないが、廃炉除染では高線量部位に除染液を通水する可能性があり、その際、水の放射線分解で過酸化水素が発生する可能性があるので、過酸化水素の分解に有効な鉄イオン濃度を下回る場合にはイオン交換樹脂への過酸化水素の到達を阻止する目的でイオン交換樹脂塔をアウトサービスしてバイパスラインに切り替える運用を行うことで、イオン交換樹脂の過酸化水素による劣化を防止できる。
【0026】
以上の検討結果を反映した、イオン交換樹脂の劣化を抑制可能な化学除染方法の好ましい実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0027】
[化学除染装置]
まず始めに、本発明の好適な一実施例である化学除染装置を、図1および図2を用いて説明する。本実施例の化学除染装置は、沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)に適用される。
【0028】
図1は実施例1の化学除染装置を備えた沸騰水型原子力発電プラント模式図である。図1に示すように、沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)1は、原子炉2、タービン9、復水器10、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉2は、蒸気発生装置であり、炉心4を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)3を有し、RPV3内で炉心4を取り囲む炉心シュラウド(図示せず)の外面とRPV3の内面との間に形成される環状のダウンカマ内に複数のジェットポンプ5を設置している。炉心4には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。
【0029】
再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管6および再循環系配管6に設置された再循環ポンプ7を有する。給水系は、復水器10とRPV3を連絡する給水配管11に、復水ポンプ12、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)13、低圧給水加熱器14、給水ポンプ15および高圧給水加熱器16を、復水器10からRPV3に向って、この順に設置して構成されている。原子炉2は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器18内に設置される。
【0030】
RPV3内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ7で昇圧され、再循環系配管6を通ってジェットポンプ5内に噴射される。ダウンカマ内でジェットポンプ5のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ5内に吸引され、ジェットポンプ5内に噴射された前述の冷却水と共に炉心4に供給される。炉心4に供給された炉水は、燃料集合体内の燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、その一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV3から主蒸気配管8を通ってタービン9に導かれ、タービン9を回転させる。タービン9に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。
【0031】
タービン9から排出された蒸気は、復水器10で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管11を通りRPV3内に供給される。給水配管11を流れる給水は、復水ポンプ12で昇圧され、復水浄化装置13で不純物が除去され、給水ポンプ15でさらに昇圧される。この給水は、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16で抽気配管17によりタービン9から抽気された抽気蒸気によって加熱されてRPV3内に導かれる。高圧給水加熱器16および低圧給水加熱器14に接続されドレン水回収配管73が、復水器10に接続される。
【0032】
本実施例の化学除染方法では、図1に示すように、RPV下部と上部に仮設の循環配管19(配管及びホース)を取り付け、化学除染装置20と接続する。RPV下部の接続候補は、具体的にはCRDハウジング78及びICMハウジング79、RPVボトムドレンライン80がある。それぞれ単独で用いても、併用しても良いが、循環流量を多くする観点から併用して使用することがより好ましい。RPV上部の接続候補は、具体的には蒸気出口ノズル81及び給水系ノズル82、炉心スプレイノズル(図示せず)等がある。RPV3を除染液で完全に満たす場合は、RPV上部の滞留部分をより少なくできる蒸気出口ノズル81が好適である。図1では、RPV下部の接続をCRDハウジング78及びICMハウジング79、RPVボトムドレンライン80とし、RPV上部の接続は蒸気出口ノズル81とした。
【0033】
図2図1の化学除染装置の詳細を示す図である。化学除染装置20の詳細な構成を、図2を用いて説明する。化学除染装置20は、除染剤を循環させる循環配管(第1の配管)19、循環ポンプ21、冷却器22、混床樹脂塔23、イオン(本実施例では、カチオン)交換樹脂塔24、フィルタ25、加熱器26、還元除染分解装置27、多目的タンク28、過酸化水素注入装置29、酸化除染剤注入装置30およびpH調整剤供給装置31を備える。
【0034】
開閉弁32、循環ポンプ21、弁33及び40、69、加熱器26、弁43、弁72、開閉弁50が、上流よりこの順に循環配管19に設けられている。弁33をバイパスして一端が循環配管19に、他端が配管61に接続される配管60には、冷却器22および弁34が設置される。両端が除染剤を循環させる循環配管(第3の配管)62に接続されてイオン交換樹脂塔24、弁38、弁39をバイパスする配管61に、混床樹脂塔23および弁36、37が設置される。両端が循環配管19に接続されて弁40をバイパスする配管62に、イオン交換樹脂塔24および弁38、39が設置される。イオン交換樹脂塔24は陽イオン交換樹脂を充填しており、混床樹脂塔23は陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を充填している。弁69をバイパスする配管63が循環配管19に接続され、弁41、フィルタ25、弁42が配管63に設置される。循環配管19に加熱器26が接続される。
【0035】
弁44よりも下流に位置する還元除染分解装置27が設置され、除染剤を循環させる配管65(第2の配管)が、弁43をバイパスして循環配管19に接続される。還元除染分解装置27は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。弁72をバイパスするように設置された配管48が多目的タンク28に接続される。加熱器45が多目的タンク28内に配置される。
【0036】
RPV3の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染液)を多目的タンク28内に供給するためのホッパ(図示せず)が設けられる。多目的タンク28から循環配管19に多目的タンク28内のシュウ酸を注入するための配管49が弁72から弁50までの間の循環配管19に接続される。配管49には、シュウ酸供給ポンプ74及び弁73が設置される。
【0037】
酸化除染剤注入装置30は、薬液タンク54、供給ポンプ55および注入配管67を有する。薬液タンク54は、供給ポンプ55および弁56が設けられた注入配管67によって循環配管19に接続される。酸化除染剤である過マンガン酸の水溶液が、薬液タンク54内に充填される。
【0038】
pH調整剤供給装置31は、薬液タンク57、供給ポンプ58及び注入配管68を有する。薬液タンク57は、供給ポンプ58および弁59が設けられた注入配管68によって循環配管19に接続される。還元剤であるヒドラジンの水溶液が、薬液タンク57内に充填される。注入配管67,68が、弁72から開閉弁50の間で循環配管19に接続される。
【0039】
過酸化水素注入装置29は、薬液タンク51、供給ポンプ52および供給配管66を有する。薬液タンク51は、供給ポンプ52および弁53が設けられた供給配管66によって配管65に接続される。酸化剤である過酸化水素が薬液タンク51内に充填される。この過酸化水素は、還元除染分解装置27内における、シュウ酸及びpH調整剤(例えば、ヒドラジン)の分解時に使用する化学物質として用いられる。弁46、pH計70、弁47を有する配管64がポンプ21をバイパスして循環配管19に取り付けられる。
【0040】
[化学除染方法]
図3は実施例1の化学除染方法を示すフローチャートであり、図4図3の還元除染剤の分解浄化工程(S6)の詳細を示すフローチャートである。本実施例の化学除染方法を、図3および図4に示す手順に基づいて以下に説明する。本実施例の化学除染方法では、化学除染装置20が用いられ、図3に示されるステップS1~S9の各工程が実施される。
【0041】
まず始めに、除染対象物に化学除染装置20を接続する(ステップS1)。例えば、RPV下部は、CRDハウジング78及びICMハウジング79の下部を切断し、接続治具を取り付け、循環配管19を接続する。RPV上部は、複数ある蒸気出口ノズル81の内、1本を切断し、接続治具を取り付け、循環配管19を接続する。切断した1本以外の蒸気出口ノズルは閉止治具を取り付け、除染液が流れないように閉止する。このとき、除染液がRPV外に流れないように、炉心スプレイノズル(図示せず)等は閉止治具を取り付け、閉止する。循環配管19の両端がRPV3につながる配管に接続され、RPV3を含む閉ループが形成される。
【0042】
なお、本実施例では、化学除染装置20をCRDハウジング78及びICMハウジング79、蒸気出口ノズル81に接続しているが、上記以外のRPV3に連絡される配管を用いて接続しても良い。また、本実施例では、RPV3を除染対象としているが、残留熱除去系、原子炉隔離時冷却系及び炉心スプレイ系、給水系、原子炉冷却水再循環系のいずれかの配管に化学除染装置20を接続し、本実施例の原子力プラントの化学除染方法を適用してもよい。
【0043】
以下に説明するステップS2~S8の各工程は、化学除染装置20により、RPV3に対して実施される。
【0044】
化学除染に使用する水を昇温する(ステップS2)。まず、化学除染装置20及びRPV3内の水張りを行う。この水張りは、例えば原子炉補機冷却水系(RCW)を用いて行う。開閉弁32、弁33、40、69、43、72および開閉弁50をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ21を駆動する。これにより、RPV3及び化学除染装置20内の水が加熱器26により90℃に加熱され、循環配管19及びRPV3によって形成される閉ループ内を循環する。
【0045】
次に酸化除染を行う(ステップS3)。上述した水の温度が90℃になったとき、弁56を開く。供給ポンプ55を起動することで注入配管67を通して薬液タンク54内の過マンガン酸水溶液が循環配管19内を流れる水に注入され、循環配管19及びRPV3内で酸化除染液(過マンガン酸水溶液)が生成される。このときの酸化除染液の過マンガン酸濃度は、例えば200ppmである。所定の過マンガン酸濃度に到達後、供給ポンプ55を停止し、過マンガン酸の注入を停止する。注入停止後、弁56を閉じる。前記酸化除染液を循環配管19及びRPV3によって形成される閉ループ内で循環させ、酸化除染を実施する。RPV3の酸化除染時間が所定の時間に達したとき、酸化除染を終了する。
【0046】
続いて、酸化除染液に含まれる過マンガン酸を分解する(ステップS4)。所定量のシュウ酸が多目的タンク28内に導かれる。このシュウ酸が多目的タンク28内で水に溶解し、シュウ酸水溶液が多目的タンク28内で生成される。このシュウ酸水溶液は、弁73を開いて供給ポンプ74の駆動によって多目的タンク28から配管49を通って循環配管19に排出される。所定量のシュウ酸水溶液を酸化除染液に注入後、供給ポンプ74を停止し、シュウ酸水溶液の注入を停止する。シュウ酸水溶液注入停止後、弁73を閉にする。酸化除染液が紫色から無色透明になったことを確認し、酸化剤の分解工程を終了する。
【0047】
次に、RPV3に還元除染液を供給し、還元除染を行う(ステップS5)。還元除染の準備として、弁35、38、39を開けて、弁40を閉じることで、分解した酸化除染液をイオン交換樹脂塔24に通水する。ステップS4と同様に、多目的タンク28内でシュウ酸水溶液(還元除染液)を作製し、弁73を開いて供給ポンプ74の駆動によって多目的タンク28から配管49を通って循環配管19に注入する。所定量のシュウ酸水溶液を、循環配管19を流れる水に注入後、供給ポンプ74を停止し、シュウ酸水溶液の注入を停止する。シュウ酸水溶液注入停止後、弁73を閉にする。
【0048】
pH調整のため、pH調整剤供給装置31の薬液タンク57内のヒドラジン水溶液が、弁59を開いて供給ポンプ58を駆動することにより、注入配管68を通して循環配管19内のシュウ酸水溶液に注入される。pH計70で計測されたシュウ酸水溶液のpH値に基づいて供給ポンプ58(または弁59の開度)を制御して循環配管19内へのヒドラジン水溶液の注入量を調節して、シュウ酸水溶液のpHを2.5に調節する。pHが2.5で90℃のシュウ酸とヒドラジンの混合水溶液(還元除染液)が循環配管19及びRPV3によって形成される閉ループ内を循環し、還元除染が実施される。その水溶液中のシュウ酸が、RPV3の内側を構成する部材の表面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜を溶解する。
【0049】
RPV3の還元除染箇所の線量率が設定線量率まで低下したとき、または、RPV3の還元除染時間が所定の時間に達したとき、還元除染を終了する。なお、還元除染箇所の線量率が設定線量率まで低下したことは、RPV3の還元除染箇所からの放射線を検出する放射線検出器の出力信号に基づいて求められた線量率により確認することができる。
【0050】
還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する(ステップS6)。この工程の詳細を図4に示す。シュウ酸及びヒドラジンの分解は、以下のようにして行われる。イオン交換樹脂塔24はインサービス状態を維持する(ステップSS601)。弁44を開いて弁43を調整開として開度を一部減少させる。ヒドラジンを含むシュウ酸水溶液は、弁44を通って配管65により還元除染分解装置27に供給される(ステップS602)。このとき、弁53を開いて供給ポンプ52を駆動することにより、薬液タンク51内の過酸化水素が、供給配管66及び配管65を通して還元除染分解装置27に供給される(ステップS603)。還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、還元除染分解装置27内で、活性炭触媒及び供給された過酸化水素の作用により分解される。還元除染分解装置27内でのシュウ酸及びヒドラジンの分解反応は、式(1)及び式(2)で表される。
【0051】
(COOH)+H→2CO+2HO…式(1)
+2H→N+4HO…式(2)
シュウ酸及びヒドラジンの分解装置27内での分解は、シュウ酸水溶液を循環配管19及びRPV3を含む閉ループ内を循環させながら行われる。供給した過酸化水素がシュウ酸及びヒドラジンの分解のために還元除染分解装置27で完全に消費されて還元除染分解装置27から流出しないように、薬液タンク51から還元除染分解装置27への過酸化水素の供給量を、供給ポンプ52の回転速度を制御して調節する。
【0052】
還元除染剤分解装置27から排出される還元除染廃液の過酸化水素濃度を分析して1ppm以下であれば分解を継続し、過酸化水素が1ppm以上含まれる場合は(ステップS604)直ちにイオン交換樹脂塔をバイパスし、イオン交換樹脂塔への除染液の供給を停止する(ステップS605)。その後、過酸化水素の供給ポンプ52の回転速度を下げる(ステップS606)。過酸化水素の注入速度の低下は還元除染剤分解装置27から排出される還元除染廃液の過酸化水素濃度が1ppm以下になるまで継続する(ステップS607)。過酸化水素濃度が1ppm以下になったところでイオン交換樹脂塔24に通水を再開する(ステップS608)。続いて還元除染剤分解装置27から排出される還元除染廃液の鉄イオン濃度が分析され、その濃度に基づいて次の工程が判断される(ステップS609)。鉄イオン濃度が例えば10ppmを下回る場合はイオン交換樹脂塔24をバイパスし、イオン交換樹脂塔への除染液の供給を停止する(ステップS610)。鉄イオン濃度が10ppmを超える場合、イオン交換樹脂塔24はインサービスの状態を維持する(ステップS611)。
【0053】
この濃度基準は図5の実験結果に基づいて決定され、例えば鉄イオン濃度の基準を10ppmとしたのは、鉄イオン濃度9ppmの結果から、過酸化水素濃度が初期濃度の約1/2までかかる時間が60分程度必要であり、化学除染装置の除染液の一巡時間が20分から60分程度であることから、鉄イオン濃度9ppmでは還元除染剤分解装置27の下流側で検出された過酸化水素が鉄イオンの作用では分解しきれずにイオン交換樹脂塔24へ到達すると考え、10ppmを下回った段階でイオン交換樹脂塔24をバイパスすればよいと考えたことによる。
【0054】
続いて、シュウ酸濃度の分析を行い、還元除染剤分解工程の終了判断基準と比較し、例えばシュウ酸濃度10ppm以下がその基準とすると、10ppm以下で還元除染剤分解工程を終了し(ステップS612)、10ppm以上の場合はイオン交換樹脂塔24への通水を維持して還元除染剤の分解を継続するためステップS601へ戻り、シュウ酸濃度が10ppm以下になるまで継続する。
【0055】
シュウ酸濃度が所定値以下になったとき、供給ポンプ52を停止し、弁53を閉にし、過酸化水素の注入を停止する。例えば、シュウ酸水溶液中のシュウ酸濃度が10ppm以下になったときに過酸化水素の注入を停止する。過酸化水素の注入の停止とともに、還元除染剤であるシュウ酸及びヒドラジンの分解は終了する。
【0056】
化学除染の終了を判定する(ステップS7)。還元除染の所定時間に達しても、除染箇所の表面線量率が目標値まで低減していなかった場合、ステップS3からステップS6までの工程が繰り返される。例えば、目標値は除染係数(DF)が10となる表面線量率であり、繰り返し回数は、2~3回である。2~3回繰り返し除染を行った結果、除染箇所の表面線量率が設定線量率まで低減していなかった場合でも、表面線量率がバックグランドレベルまで低減していれば、次のステップS8に進む。
【0057】
RPV3及び循環配管19内に残留する水溶液を浄化し、排水する(ステップS8)。弁34、35を開け、弁33、38、39を閉じることで、冷却器に循環配管19を流れる水を通水し、循環配管19を流れる水を60℃以下まで冷却する。弁36、37を開け、弁40を閉じることで、循環配管19を流れる60℃以下の水を混床樹脂塔に通水する。循環配管19を流れる水の水質が排水基準を満たし、シュウ酸濃度が所定値以下となったとき、循環配管19を流れる水の浄化を終了する。浄化終了後、循環配管19を流れる水を排水する。
【0058】
化学除染装置20を原子炉本体の配管系から除去する(ステップS9)。ステップS1~S8の各工程が実施された後、化学除染装置20をRPV3から取り外す。以上により、化学除染の各工程が終了する。
【0059】
以上、説明したように、本発明によれば、イオン交換樹脂の劣化を抑制し、これによりTOC成分の除去などの追加の作業やイオン交換樹脂などの消耗品を追加で準備する必要がなくなることで、低コストかつ短時間で除染を行うことが可能な化学除染方法および化学除染装置を提供できることが示された。
【実施例2】
【0060】
本実施例では、実施例1の化学除染装置を用い、その実施方法について、鉄イオン濃度によるイオン交換樹脂塔24のバイパス運用を還元除染工程S5においても適用するところで実施例1と異なり、他の各工程は実施例1と同等である。ステップS4の酸化除染剤分解までは実施例1と同様に進める。酸化除染剤分解終了後、還元除染工程ステップS5を開始する。その詳細について、図7を用いて説明する。
【0061】
図7は還元除染工程において炉内で発生する過酸化水素の影響を回避する還元除染工程を示すフローチャートである。還元除染の準備として、弁35、38、39を開けて、弁40を閉じることで、分解した酸化除染液をイオン交換樹脂塔24に通水する(ステップS501)。ステップS4と同様に、多目的タンク28内でシュウ酸水溶液(還元除染液)を作製し、弁73を開いて供給ポンプ74の駆動によって多目的タンク28から配管49を通って循環配管19に注入する(ステップS502)。所定量のシュウ酸水溶液を、循環配管19を流れる水に注入後、供給ポンプ74を停止し、シュウ酸水溶液の注入を停止する。シュウ酸水溶液注入停止後、弁73を閉にする。
【0062】
pH調整のため、pH調整剤供給装置31の薬液タンク57内のヒドラジン水溶液が、弁59を開いて供給ポンプ58を駆動することにより、注入配管68を通して循環配管19内のシュウ酸水溶液に注入される(ステップS503)。pH計70で計測されたシュウ酸水溶液のpH値に基づいて供給ポンプ58(または弁59の開度)を制御して循環配管19内へのヒドラジン水溶液の注入量を調節して、シュウ酸水溶液のpHを2.5に調節する。pHが2.5で90℃のシュウ酸とヒドラジンの混合水溶液(還元除染液)が循環配管19及びRPV3によって形成される閉ループ内を循環し、還元除染が実施される。その水溶液中のシュウ酸が、RPV3の内側を構成する部材の表面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜を溶解する。
【0063】
酸化皮膜の溶解に伴って、シュウ酸水溶液の金属イオン(放射性核種濃度およびFe濃度)が上昇する。このシュウ酸水溶液に含まれる金属イオンは、イオン交換樹脂塔24内の陽イオン交換樹脂によってプロトンとイオン交換される。イオン交換樹脂塔24から排出されたシュウ酸水溶液は、循環配管19からRPV3に再び供給され、RPV3の還元除染に用いられる。RPV3では還元除染液は再び酸化皮膜を溶解するので鉄イオン濃度は上昇するが、酸化皮膜の溶解が進んで酸化皮膜量が減少してくると、還元除染溶液中の鉄イオン濃度が低下してくる。
【0064】
一方、RPV3内の高線量部位では水の放射線分解によって過酸化水素が生成されている。還元除染液中では通常は酸化皮膜の溶解によって鉄イオンが供給されてくるため鉄イオンの作用によって過酸化水素は分解されて還元除染液中からは消失する。しかし、イオン交換樹脂塔24に通水している場合は鉄イオン濃度が低下してくる可能性があり、鉄イオン濃度が図5で示すように5ppmを下回ると過酸化水素濃度が1/2に低下するのに60分以上必要になり、過酸化水素が分解できずにイオン交換樹脂塔24に到達する可能性が出てくる。そこで、例えば鉄イオン濃度が10ppmを下回ったところでカチオン樹脂塔24をアウトサービスとする工程を入れた。その具体的な方法を次に示す。
【0065】
酸化皮膜を溶解した還元除染液をサンプリングして鉄イオン濃度を測定し、その値に基づいてイオン交換樹脂塔24の運用を判断する。鉄イオン濃度が例えば10ppmを上回っている場合は実施例1の還元除染剤分解工程でのステップS609での判断と同様にイオン交換樹脂塔24はインサービスのまま還元除染工程を継続する。一方、10ppmを下回った場合も実施例1の還元除染剤分解工程でのステップS609での判断と同様にイオン交換樹脂塔24はアウトサービスとするため、弁40を開いて、弁35、38、39を閉じる(ステップS505)。イオン交換樹脂塔24のアウトサービスは還元除染液の鉄イオン濃度が10ppmを越えるまで継続される(ステップS506)。鉄イオン濃度が10ppmを越えたところで、イオン交換樹脂塔24を再びインサービスするため、弁35、38、39を開いて弁40を閉じる(ステップS507)。また、イオン交換樹脂24をアウトサービスしている間に還元除染終了の判断基準である線量率の低下を確認した場合、或いは還元除染開始からの経過時間が所定の時間を経過した場合は還元除染工程を終了する(ステップS508)。イオン交換樹脂塔24を再びインサービスした後、還元除染終了の判断基準である線量率の低下を確認するまで、或いは還元除染開始からの経過時間が所定の時間を経過するまで還元除染工程を継続し、これらの基準を達成した時、還元除染工程を終了する(ステップS509)。
【0066】
還元除染工程S5を終えた後は実施例1と同様に還元除染剤分解工程S6を実施することで還元除染剤分解工程での還元除染剤分解装置27からの過酸化水素のリークによるイオン交換樹脂塔24への過酸化水素の流入を阻止できる。還元除染剤分解工程S6以降の工程を実施例1と同様に行うことで、還元除染工程中及び還元除染剤分解工程中でのイオン交換樹脂塔24への過酸化水素の流入を阻止できるので、イオン交換樹脂の劣化による、追加の作業やイオン交換樹脂などの消耗品を追加で準備する必要がなくなることで、低コストかつ短時間で除染を行うことが可能な化学除染方法および化学除染装置を提供できることが示された。
【実施例3】
【0067】
本発明の別の実施例3について、図7~9を用いて説明する。図7は還元除染工程において炉内で発生する過酸化水素の影響を回避する還元除染工程を示すフローチャートであり、図8は還元除染剤分解工程におけるシュウ酸濃度と鉄イオン濃度の時間変化を示す図であり、図9は還元除染剤分解工程における鉄イオン濃度の推移を予測する演算装置とその予測に基づいて開閉を制御する弁の関係を示した化学除染装置である。実施例3では実施例1で用いた図2の装置を用いる。ただし、図7で示すように、図2のイオン交換樹脂塔24を運用するに当たり使用する弁35、38、39、40に、それぞれ弁開閉信号ケーブル105、104、103、106が接続されそれぞれの信号ケーブの他端は演算制御装置102に接続されている。演算制御装置102には還元除染剤分解工程でサンプリングされて分析された還元除染剤分解液の鉄イオン濃度が入力装置101を介して入力される仕組みを有している。これらの装置を用いて行う還元除染剤の分解方法を説明する。
【0068】
還元除染剤の分解が始まると、還元除染剤分解装置27ではほぼ一定の分解率でシュウ酸の分解が継続する。例えば、還元除染液の保有水量を400m、その内40mを1時間で還元除染剤分解装置27へ通水するとして、シュウ酸の分解率を80%と仮定すると、シュウ酸濃度は図8で示すような時間変化をたどることになる。シュウ酸濃度が低下することで鉄イオンを溶解している還元除染廃液とイオン交換樹脂塔24内のイオン交換樹脂とのイオン交換反応において、還元除染廃液側からイオン交換樹脂側へ鉄イオンが交換され易くなり、還元除染廃液中の鉄イオン濃度が低下する。その割合を例えば分解したシュウ酸が溶解していた鉄イオンの10%がイオン交換樹脂で除去されるとすると、初期の鉄イオン濃度を例えば150ppmとした場合の鉄イオン濃度の時間変化は図8で示すような時間経過をたどることになる。図9の装置は、この鉄イオン濃度の時間変化に基づいて、ある時点の鉄イオン濃度の分析値から将来の鉄イオン濃度を予測し、その予測に基づいてカチオン樹脂塔24のバイパス運用を演算制御装置102から信号ケーブルを介してイオン交換樹脂24の運用に関連する弁の開閉を指示できる装置構成となっている。
【0069】
還元除染剤の分解工程に入ると、シュウ酸及びヒドラジンの分解は、以下のようにして行われる。イオン交換樹脂塔24はインサービス状態を維持する。弁44を開いて弁43を調整開として開度を一部減少させる。ヒドラジンを含むシュウ酸水溶液は、弁44を通って配管65により還元除染分解装置27に供給される。このとき、弁53を開いて供給ポンプ52を駆動することにより、薬液タンク51内の過酸化水素が、供給配管66及び配管65を通して還元除染分解装置27に供給される。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、還元除染分解装置27内で、活性炭触媒及び供給された過酸化水素の作用により分解される。
【0070】
シュウ酸及びヒドラジンの分解装置27内での分解は、シュウ酸水溶液を循環配管19及びRPV3を含む閉ループ内を循環させながら行われる。供給した過酸化水素がシュウ酸及びヒドラジンの分解のために還元除染分解装置27で完全に消費されて還元除染分解装置27から流出しないように、薬液タンク51から還元除染分解装置27への過酸化水素の供給量を、供給ポンプ52の回転速度を制御して調節する。
【0071】
還元除染剤分解装置27から排出される還元除染廃液の過酸化水素濃度を分析して1ppm以下であれば分解を継続し、過酸化水素が1ppm以上含まれる場合は(ステップS604)直ちにイオン交換樹脂塔をバイパスする(ステップS605)。その後、過酸化水素の供給ポンプ52の回転速度を下げる(ステップS606)。過酸化水素の注入速度の低下は還元除染剤分解装置27から排出される還元除染廃液の過酸化水素濃度が1ppm以下になるまで継続する。過酸化水素濃度が1ppm以下になったところでイオン交換樹脂塔24に通水を再開する。続いて還元除染剤分解装置27から排出される還元除染廃液の鉄イオン濃度が分析され、その濃度に基づいて次の工程が判断される。
【0072】
鉄イオン濃度が例えば10ppmを下回る場合はイオン交換樹脂塔24をバイパスする。鉄イオン濃度が10ppmを超える場合は、イオン交換樹脂塔24はインサービスの状態を維持する。同時に鉄イオン濃度の分析値入力装置101を介して演算制御装置102の記憶装置に入力される。
【0073】
続いて、還元除染剤の分解が継続され、一定時間ごとに還元除染廃液がサンプリングされて鉄イオン濃度が分析される。例えば1回目のサンプリングから1時間後に再びサンプリングを行い鉄イオン濃度を分析する。この時、鉄イオン濃度が10ppmを下回る場合はイオン交換樹脂塔24をバイパスすることになるが、10ppmを超える場合は、イオン交換樹脂塔24はインサービスの状態を維持され、同時に鉄イオン濃度の分析値入力装置101を介して演算制御装置102の記憶装置に入力される。前回の鉄イオン濃度と今回の鉄イオン濃度の分析値から図8で示した縦軸がlogのグラフで直線的に低下する傾向を用いて鉄イオン濃度が10ppmを下回る時間を演算制御装置で予測する。予測時間が次のサンプリングのタイミングよりも早い場合はその時間にイオン交換樹脂塔24をアウトサービスするように演算制御装置から信号ケーブル105、104、103、106を介して弁35、38、39に閉信号を、弁40に開信号を送信する。サンプリングのタイミングの方が速い場合はサンプリングを行い、再び鉄イオン濃度の分析値を演算制御装置102に入力する。この新たな鉄イオン濃度と前回の鉄イオン濃度から、同様に鉄イオン濃度が10ppmを下回る時間を演算制御装置で予測する。
【0074】
これを繰り返し、この繰り返しを鉄イオン濃度が10ppmを下回る予測時間が次のサンプリング時間よりも前になるまで継続する。鉄イオン濃度が10ppmを下回る予測時間が次のサンプリング時間よりも前になった場合は、予測時間にイオン交換樹脂塔24をアウトサービスするように演算制御装置から信号ケーブル105、104、103、106を介して弁35、38、39に閉信号を、弁40に開信号を送信する。このような運用により過酸化水素の分解に必要な鉄イオン濃度が確保されるので、還元除染剤分解工程での還元除染剤分解装置27からの過酸化水素のリークによるイオン交換樹脂塔24への過酸化水素の流入を阻止できる。
【0075】
また、鉄イオン濃度が10ppmを下回る分析値を得る前にイオン交換樹脂塔24をアウトサービスできるので、サンプリングと鉄イオン濃度の分析結果が出るまでの間に生じる鉄イオン濃度が10ppmを下回る期間におけるイオン交換樹脂塔24のインサービス期間を排除してイオン交換樹脂が還元除染剤分解装置27をリークした過酸化水素に晒される期間を排除することができる。
【0076】
還元除染剤分解工程S6以降の工程を実施例1と同様に行うことで、還元除染剤分解工程中でのイオン交換樹脂塔24への過酸化水素の流入を阻止できるので、イオン交換樹脂の劣化による、追加の作業やイオン交換樹脂などの消耗品を追加で準備する必要がなくなることで、低コストかつ短時間で除染を行うことが可能な化学除染方法および化学除染装置を提供できることが示された。
【0077】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するためにRPVの化学除染を例として説明したものであり、RPV以外の再循環系や炉水浄化系、残留熱除去系等にも適用可能である。
【0078】
また、本発明は、上述したHOP法、HOP(II)法以外の他の化学除染法でも適用可能である。他の化学除染法として、CORD法(CORD-UV、CORD-D等も含む)が挙げられる。本発明は有機酸とイオン交換樹脂を使用する化学除染に適用することができる。
【0079】
化学除染法によっては、図2に図示されていない機器を必要とする場合や、図2に図示されている機器の一部を省略できる場合があり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、機器構成の追加、省略、置き換え、変更等を行うことができる。
【符号の説明】
【0080】
1…沸騰水型原子力発電プラント、3…原子炉圧力容器、4…炉心、6…再循環系配管、9…タービン、11…給水配管、19…循環配管、20…化学除染装置、21…循環ポンプ、22…冷却器、23…混床樹脂塔、24…イオン交換樹脂塔、26…加熱器、27…還元除染分解装置、28…多目的タンク、29…過酸化水素注入装置、30…酸化除染剤注入装置、31…pH調整剤供給装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9