(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】溶接ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/127 20060101AFI20241205BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20241205BHJP
B25J 9/22 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K9/127 509B
B23K9/12 331K
B23K9/127 501A
B25J9/22 Z
(21)【出願番号】P 2021155098
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2024-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎一郎
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-74817(JP,A)
【文献】特開2021-109292(JP,A)
【文献】特開2018-202514(JP,A)
【文献】特開平10-11129(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125812(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
B25J 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象を含む画像を取得する画像取得部と、
前記画像に表示された溶接位置を認識する溶接位置認識部と、
少なくとも溶接ロボットのアームの可動域に基づいて、当該溶接ロボットのトーチが前記溶接位置に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定するロボット設置位置決定部と、を備える、
溶接ロボットシステム。
【請求項2】
前記溶接位置認識部によって認識された溶接位置のうち、ユーザが所望する溶接位置を選択する溶接位置選択部を、さらに備え、
前記ロボット設置位置決定は、前記溶接ロボットのトーチが前記溶接位置選択部によって選択された溶接位置に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定する、
請求項1に記載の溶接ロボットシステム。
【請求項3】
前記ロボット設置位置決定部は、前記溶接ロボットの溶接姿勢が維持された状態で、前記溶接位置に沿って移動可能なように、前記溶接ロボットの設置位置を決定する、
請求項1又は2に記載の溶接ロボットシステム。
【請求項4】
前記溶接ロボットのトーチの先端が前記溶接位置に対して所望の角度を有し、
前記所望の角度は、前記溶接位置における溶接箇所に応じて設定される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の溶接ロボットシステム。
【請求項5】
前記溶接ロボットのトーチの先端が前記溶接位置に対して所望の狙い位置に配置され、
前記所望の狙い位置は、前記溶接位置における溶接箇所に応じて設定される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の溶接ロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業界において、多くのロボットが普及している。当該ロボットは、例えば、電子部品及び機械部品の組み立て、溶接及び搬送等に用いられ、工場の生産ラインの効率化及び自動化が図られている。このようなロボットは、所望の動作をさせるためのプログラムを作成して、所謂教示データとして予め記憶させておく必要がある。当該教示データは、操作者がティーチングペンダントを用いて実際のロボットを操作することによって動作を記憶させて生成されたり、実際のロボットを動作させずに、シミュレータを用いたオフラインティーチングによって生成されたりする。
【0003】
操作者がティーチングペンダントを用いて実際にロボットを動作させながら教示データを作成するには、操作者のスキルへの依存度が大きく、長時間を要する場合がある。
【0004】
また、シミュレータを用いたオフラインティーチングによって教示データを作成する場合には、実際の環境との相違により、オフラインティーチングによって生成された教示データに基づいて実際にロボットを動作させると、ズレが生じてしまう場合がある。
【0005】
特許文献1では、溶接ロボットの動作教示に関する技術が開示されている。具体的には、特許文献1に開示されている溶接ロボット動作教示システムは、溶接箇所の画像を撮影する撮影部がマニピュレータに取り付けられており、当該撮影された画像に基づいて溶接箇所位置情報を生成する。そして、溶接箇所位置情報とマニピュレータ位置姿勢情報とに基づいて、溶接箇所の溶接に必要なマニピュレータの位置及び姿勢の軌跡を生成する。
【0006】
これにより、当該溶接ロボット動作教示システムは、実際の溶接時における動作と同じ動作を動作教示時に溶接ロボットに行わせる必要がなく、溶接ロボットの動作教示を容易に行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される溶接ロボット動作教示システムでは、撮影された画像に基づいて生成された溶接箇所位置情報と、マニピュレータ情報取得部によって取得されたマニピュレータ位置姿勢情報とに基づいて、溶接箇所の溶接に必要なマニピュレータの位置及び姿勢の軌跡である教示データを生成しているものの、そもそもマニピュレータをどのように設置するか等については考慮されていない。
【0009】
例えば、溶接位置及び範囲等に応じて、溶接ロボットをどのように設置するかについて、教示データの生成効率及び溶接の仕上がり品質等に影響する場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、溶接ロボットを適切な位置に設置可能な溶接ロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る溶接ロボットシステムは、溶接対象を含む画像を取得する画像取得部と、画像に表示された溶接位置を認識する溶接位置認識部と、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域に基づいて、当該溶接ロボットのトーチが溶接位置に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定するロボット設置位置決定部と、を備える。
【0012】
この態様によれば、溶接位置認識部は、画像取得部によって取得された画像に基づいて溶接位置を認識し、ロボット設置位置決定部は、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域に基づいて、当該溶接ロボットのトーチが溶接位置に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定する。すなわち、溶接ロボットを適切な設置位置に設置させることができ、その結果、溶接の仕上がり品質を安定させることができる。
【0013】
上記態様において、溶接位置認識部によって認識された溶接位置のうち、ユーザが所望する溶接位置を選択する溶接位置選択部を、さらに備え、ロボット設置位置決定は、溶接ロボットのトーチが溶接位置選択部によって選択された溶接位置に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定してもよい。
【0014】
この態様によれば、溶接位置選択部は、溶接位置認識部によって認識された溶接位置のうち、ユーザが所望する溶接位置を選択し、ロボット設置位置決定は、溶接ロボットのトーチが溶接位置選択部によって選択された溶接位置に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定する。すなわち、ユーザが所望する溶接位置を対象として、溶接ロボットを適切な設置位置に設置させることができる。ユーザが所望する溶接位置を対象として不要な溶接位置を対象外とすることによって、溶接ロボットの設置可能範囲を広げ、レイアウトの自由度を増すことができる。
【0015】
上記態様において、ロボット設置位置決定部は、溶接ロボットの溶接姿勢が維持された状態で、溶接位置に沿って移動可能なように、溶接ロボットの設置位置を決定してもよい。
【0016】
この態様によれば、ロボット設置位置決定部は、溶接ロボットの溶接姿勢が維持された状態で、溶接位置に沿って移動可能なように、溶接ロボットの設置位置を決定するため、当該設置位置に設置された溶接ロボットは、適切にアーク溶接を行うことができ、溶接の仕上がり品質をより安定させることができる。
【0017】
上記態様において、溶接ロボットのトーチの先端が溶接位置に対して所望の角度を有し、所望の角度は、溶接位置における溶接箇所に応じて設定されてもよい。
【0018】
この態様によれば、溶接ロボットのトーチの先端が溶接位置に対して所望の角度を有し、所望の角度は、溶接位置における溶接箇所に応じて設定されるため、溶接箇所に応じて、より適切にアーク溶接を行うことができ、溶接の仕上がり品質を向上させることができる。
【0019】
上記態様において、溶接ロボットのトーチの先端が溶接位置に対して所望の狙い位置に配置され、所望の狙い位置は、溶接位置における溶接箇所に応じて設定されてもよい。
【0020】
この態様によれば、溶接ロボットのトーチの先端が溶接位置に対して所望の狙い位置に配置され、所望の狙い位置は、溶接位置における溶接箇所に応じて設定されるため、溶接箇所に応じて、より適切にアーク溶接を行うことができ、溶接の仕上がり品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、溶接ロボットを適切な位置に設置可能な溶接ロボットシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る溶接ロボットシステム100の各機能を示す機能ブロック図である。
【
図2】溶接対象を含む画像と、当該画像に表示された溶接位置L1~L3及び3次元座標系とを示す図である。
【
図3】2つの平板の交線(接続箇所)である溶接線L1に沿って、トーチ11の姿勢が維持されながら移動する様子を示す図である。
【
図4】溶接ロボット10の設置位置に応じて、溶接位置(溶接線L1)におけるトーチ11の姿勢を示す図である。
【
図5】溶接線に対して溶接を行う溶接ロボットの設置位置が決定される様子を示す図である。
【
図6】溶接ロボットシステム100が実行する、溶接ロボットの設置位置決定方法M100の手順を示すフローチャートである。
【
図7】溶接線L1~L6に対して溶接を行う溶接ロボットの設置位置が2箇所決定される様子を示す図である。
【
図8】溶接ロボットシステム100が実行する、溶接ロボットの設置位置が2箇所決定される溶接ロボットの設置位置決定方法M200の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、あくまで、本発明を実施するための具体的な一例を挙げるものであって、本発明を限定的に解釈させるものではない。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する場合がある。
【0024】
<第1実施形態>
[溶接ロボットシステムの構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係る溶接ロボットシステム100の各機能を示す機能ブロック図である。
図1に示されるように、溶接ロボットシステム100は、画像取得部110と、溶接位置認識部120と、ロボット情報取得部130と、ロボット設置位置決定部140と、ロボット設置位置情報出力部150とを備える。なお、溶接ロボットシステム100は、例えば、溶接ロボットの動作を制御するロボットコントローラ、操作者が操作するタブレット等の端末機器、又はこれらを含む機器の組み合わせによって実現される。
【0025】
画像取得部110は、溶接対象を含む画像を取得する。具体的には、画像取得部110は、実環境において、溶接ロボットによって溶接される溶接対象が含まれるように撮像可能なカメラ等である。
【0026】
例えば、画像は、実環境において、操作者がカメラを用いて溶接対象を含むように撮像したり、溶接対象の周辺に設置されているカメラを用いて溶接対象を含むように撮像されたりしても構わないし、予め溶接対象を含むように撮像されて保存されている画像であっても構わない。なお、カメラは、溶接ロボットの動作を制御するロボットコントローラに搭載されていても構わないし、ロボットコントローラと連携するタブレット等に搭載されていても構わない。
【0027】
さらに、実環境においてカメラで撮像される範囲に、AR(Augmented Reality)マーカが含まれているとよい。撮像された画像において、当該ARマーカに基づくXYZ軸で示される3次元座標系を用いて、実環境における位置情報と整合させることができる。
【0028】
図2は、溶接対象を含む画像と、当該画像に表示された溶接位置L1~L3及び3次元座標系とを示す図である。
図2(a)は、溶接対象が含まれるように撮像された画像であり、
図2(b)は、当該画像において溶接位置(溶接箇所)となる溶接線L1~L3が表示されている。さらに、
図2(b)では、上述したARマーカによって、当該ARマーカの位置を原点OとするXYZ軸で示される3次元座標系が形成されている。
【0029】
ここで、溶接線L1~L3は、例えば、画像処理によって、画像における2つの平板の交線(接続箇所)が溶接位置として判定され、当該画像において溶接線として表示されている。また、上述したカメラは、レーザを照射して対象物までの距離を計測する距離計測センサを含み、当該距離計測センサによって取得した点群データに基づいて、2つの平板の交線(接続箇所)が溶接位置として判定され、当該画像において溶接線として表示されるようにしても構わない。
【0030】
なお、画像取得部110によって取得された画像について、画像処理又は点群データに基づいて溶接位置を判定する処理は、当該溶接ロボットシステム100によって実行されても構わないし、別システムによって実行されても構わない。別システムによって実行された場合、溶接ロボットシステム100は、溶接位置が表示された画像を取得すればよい。また、これらに限定されるものではなく、画像において、溶接位置を表示できれば、その他の手段を用いても構わない。
【0031】
溶接位置認識部120は、画像取得部110によって取得された画像に表示された溶接位置を認識する。具体的には、溶接位置認識部120は、画像に表示された溶接線L1~L3を認識し、さらに、当該溶接線L1~L3について、原点OとするXYZ軸で示される3次元座標系での位置情報として認識しても構わない。
【0032】
また、溶接位置認識部120は、画像に表示された溶接線L1~L3を認識するようにしているが、画像取得部110によって取得された画像について、上述した画像処理又は点群データに基づいて溶接位置を判定する機能を含んでいても構わない。
【0033】
ロボット情報取得部130は、当該溶接に用いられる溶接ロボットのロボット情報を取得する。具体的には、ロボット情報には、溶接ロボットの識別情報、種別、性能、アーム情報、軸情報、関節情報、可動域(アーム、軸、トーチ、関節の伸縮範囲、回転範囲、屈曲範囲等)及びトーチ情報(トーチ長、トーチ角度等)等の当該溶接ロボットに関する種々の情報が含まれてもよい。なお、トーチ角度は、溶接トーチの形状がカーブ形状を有していれば、そのカーブの程度を示す角度情報を含んでもよいし、溶接トーチの形状が真っ直ぐであれば、当該真っ直ぐであることを示す情報等を含んでもよい。ロボット情報取得部130は、当該ロボット情報を、例えば、予め記録されているメモリから取得しても構わないし、当該溶接ロボットから取得しても構わない。
【0034】
ロボット設置位置決定部140は、ロボット情報取得部130によって取得されたロボット情報のうち、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域に基づいて、当該溶接ロボットのトーチの先端(溶接ワイヤ)が溶接位置に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定する。
【0035】
具体的には、溶接ロボットは、アームを稼働させてトーチの先端を
図2(b)に示された溶接線L1~L3に沿って移動させながらアーク溶接を行う。この際、溶接ロボットのアームを伸縮させたり、関節を回転させたりし、溶接ロボットのトーチの先端が少なくとも溶接線L1~L3に届くように、当該溶接ロボットを設置する必要がある。
【0036】
ここで、溶接ロボットに応じて、溶接ロボットのアームの可動域が異なることから、トーチの先端が届く範囲も異なり、ロボット設置位置決定部140は、溶接ロボットのアームの可動域に関する情報を含むロボット情報に基づいて、当該溶接ロボットのトーチの先端が溶接線L1~L3に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定する。
【0037】
また、例えば、溶接ロボットは、溶接線L1~L3に沿ってトーチを移動させながらアーク溶接を行うが、この際、トーチの先端を溶接線L1~L3に対して所望の角度で接触させるようにしたり、所望の狙い位置に配置させるようにしたりすることによって、溶接ロボット10の適切な溶接姿勢を維持させるとよい。
【0038】
図3は、2つの平板の交線(接続箇所)である溶接線L1に沿って、トーチ11の姿勢が維持されながら移動する様子を示す図である。
図3に示されるように、トーチ11の先端は溶接線L1に対して45度で接触し、当該トーチ11の姿勢が維持された状態で、当該溶接線L1に沿って移動している。ここでは、2つの平板によって形成される接続箇所の角度は90度であるため、トーチ11の先端は、当該接続箇所である溶接線L1に対して、その中角である45度で接触するようにしている。
【0039】
このように、
図2(b)で示された溶接線L1~L3も同様に、トーチ11の先端を溶接線L1~L3に対して適切な角度(ここでは、45度)で接触させて、トーチ11の姿勢を維持した状態で溶接線L1~L3に沿って移動させながらアーク溶接すれば、溶接の仕上がり品質を向上させ、安定させることができる。
【0040】
なお、ここでは、トーチ11の先端を溶接線L1~L3に対して45度で接触させているが、これに限定されるものではなく、溶接の仕上がり品質を確保できるのであれば、例えば、30度であっても構わないし、その他の角度であっても構わない。さらに、
図3では、トーチ11は、溶接線L1に溶接を行う前進方向/後退方向に対して直交する姿勢を維持しているが、これに限定されるものではなく、例えば、前進方向又は後退方向に傾く姿勢(数度程度)を取る場合も考えられる。
【0041】
また、トーチ11の先端をどのような状態で溶接位置に接触させるかについては、例えば、溶接位置、方向、溶接対象の種類、形状、トーチの種類、及びワイヤの種類に応じて設定すればよく、さらには、溶接線や溶接箇所に応じて、溶接位置に対するトーチの先端の角度を設定しても構わない。
【0042】
このように、ロボット設置位置決定部140は、溶接ロボットのアームの可動域に関する情報を含むロボット情報に基づいて、当該溶接ロボットのトーチ11の先端が溶接線L1~L3に適切な角度で接触できるように、当該溶接ロボットの設置位置を決定すればよい。
【0043】
図3では、トーチ11の先端を溶接線L1に対して所望の角度で接触させる様子を説明したが、トーチ11の先端を溶接線に対して所望の狙い位置に配置させることによって溶接ロボット10の適切な溶接姿勢を維持させる場合もある。すなわち、ロボット設置位置決定部140は、溶接線L1~L3のうち、トーチの先端を所望の狙い位置に配置させることができるように当該溶接ロボットの設置位置を決定すればよい。ここで、所望の狙い位置とは、トーチの先端を溶接線に対して、例えば、上板狙いや下板狙い等が含まれる。具体的には、2つの平板の交線(接続箇所)に対して、上側又は下側に2mmの位置を狙って溶接を行う等である。
【0044】
さらに、溶接ロボット10の適切な溶接姿勢として、ワイヤの突き出し長等も考慮されても構わない。例えば、溶接線に沿ってトーチを移動させながらアーク溶接を行なおうとする際に、ロボット設置位置決定部140は、溶接線L1~L3のうち、トーチの先端から突出させるワイヤの突き出し長について、所望の突き出し長を維持できるように当該溶接ロボットの設置位置を決定すればよい。
【0045】
なお、所望の狙い位置及び所望の突き出し長は、例えば、溶接位置、方向、溶接対象の種類、形状、トーチの種類、及びワイヤの種類に応じて設定すればよく、さらには、溶接線や溶接箇所に応じて設定しても構わない。
【0046】
図4は、溶接ロボット10の設置位置に応じて、溶接位置(溶接線L1)におけるトーチ11の姿勢を示す図である。
図4(a)では、溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1に適切な角度で接触させている。換言すれば、溶接ロボット10は、溶接ロボット10のアームの可動域に関する情報を含むロボット情報に基づいて、溶接線L1に対して適切な距離を有するエリアA1に設置されている。
【0047】
図4(b)では、溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1に接触させることができているものの、溶接ロボット10は溶接線L1に対して近距離であるエリアA2に設置されているため、トーチ11の先端は適切な角度で溶接線L1に接触させることができない場合がある。
【0048】
図4(c)では、溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1に接触させることができているものの、溶接ロボット10は溶接線L1に対して遠距離であるエリアA3に設置されているため、トーチ11の先端は適切な角度で溶接線L1に接触させることができない場合がある。
【0049】
このように、
図4(a)~(c)のうち、
図4(a)に示されたエリアA1に溶接ロボット10を設置すれば、溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1に適切な角度で接触させることができる。換言すれば、ロボット設置位置決定部140は、トーチ11の先端を溶接線L1に適切な角度で接触させることができる
図4(a)に示されたエリアA1を溶接ロボット10の設置位置として決定する。
【0050】
さらに、ロボット設置位置決定部140は、エリアA1について、原点OとするXYZ軸で示される3次元座標系での位置情報として認識しても構わない。また、このとき、エリアA1に溶接ロボット10を設置することにより、当該溶接ロボット10のアームの関節を調整することによってトーチ11の先端を溶接線L1~L3に適切な角度で接触させて、当該溶接線L1~L3に沿って移動させながらアーク溶接を行う一連の処理手順を含む教示データを生成しても構わない。
【0051】
ロボット設置位置情報出力部150は、ロボット設置位置決定部140によって決定された溶接ロボットの設置位置を出力する。
【0052】
図5は、溶接線に対して溶接を行う溶接ロボットの設置位置が決定される様子を示す図である。
図5に示されるように、ロボット設置位置情報出力部150は、溶接ロボット10の設置位置として、画像取得部110によって取得された画像にエリアA1を重畳して、例えば、タブレット等の表示画面に表示している。これにより、操作者は、実環境において、溶接ロボット10をどこに設置すればよいかを把握することができる。
【0053】
[溶接ロボットの設置位置決定方法]
次に、溶接ロボットシステム100が実行する、溶接ロボットの設置位置を決定する方法について、具体的に詳しく説明する。
【0054】
図6は、溶接ロボットシステム100が実行する、溶接ロボットの設置位置決定方法M100の手順を示すフローチャートである。
図6に示されるように、溶接ロボットの設置位置決定方法M100は、ステップS110~S150を含み、各ステップは、溶接ロボットシステム100に含まれるプロセッサによって実行される。
【0055】
ステップS110では、溶接ロボットシステム100は、溶接対象を含む画像を取得する(画像取得ステップ)。具体例としては、溶接ロボットシステム100における画像取得部110は、実環境において、ロボットコントローラ又はタブレットに搭載されるカメラを用いて、溶接対象が含まれるように撮像された画像を取得する。
【0056】
ステップS120では、溶接ロボットシステム100は、ステップS110で取得された画像に表示された溶接位置を認識する(溶接位置認識ステップ)。具体例としては、溶接ロボットシステム100における溶接位置認識部120は、画像処理又は点群データに基づいて溶接位置が判定され、当該溶接位置が表示された画像から溶接位置を認識する。
【0057】
ステップS130では、溶接ロボットシステム100は、溶接に用いられる溶接ロボットのロボット情報を取得する(ロボット情報取得ステップ)。具体例としては、溶接ロボットシステム100におけるロボット情報取得部130は、溶接ロボットの識別情報、種別、性能、アーム情報、軸情報、関節情報、可動域(アーム、軸、トーチ、関節の伸縮範囲、回転範囲、屈曲範囲等)及びトーチ情報等の当該溶接ロボットに関する種々の情報を含むロボット情報を、例えば、予め記録されているメモリから取得したり、当該溶接ロボットから取得したりする。
【0058】
ステップS140では、溶接ロボットシステム100は、ステップS130で取得されたロボット情報のうち、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域に基づいて、当該溶接ロボットの設置位置を決定する(ロボット設置位置決定ステップ)。具体例としては、溶接ロボットシステム100におけるロボット設置位置決定部140は、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域に基づいて、当該溶接ロボットのトーチの先端が溶接位置に適切な角度で接触しつつ、トーチの姿勢を維持した状態で、溶接位置に沿って移動できるように、当該溶接ロボットの設置位置を決定する。
【0059】
ステップS150では、溶接ロボットシステム100は、ステップS140で決定された溶接ロボットの設置位置を出力する。具体例としては、溶接ロボットシステム100における溶接可能位置情報出力部150は、ステップS110で取得された画像に、ステップS140で決定された溶接ロボットの設置位置を重畳して、タブレット等の表示画面に表示する。
【0060】
以上のように、本発明の第1実施形態に係る溶接ロボットシステム100及び溶接ロボットの設置位置決定方法M100によれば、溶接位置認識部120は、画像取得部110によって取得された画像に基づいて溶接線L1~L3を認識し、ロボット設置位置決定部140は、少なくとも溶接ロボット10のアームの可動域に基づいて、当該溶接ロボット10のトーチ11の先端が溶接線L1~L3に対して所望の角度で接触して、当該トーチの姿勢を維持された状態で、溶接線L1~L3に沿って移動できるように、当該溶接ロボット10の設置位置を決定する。すなわち、溶接ロボット10の設置位置を適切に決定することができ、その結果、溶接の仕上がり品質を安定させることができる。
【0061】
また、実際の溶接ロボット10を動作させずに、溶接ロボット10の設置位置を決定し、さらには、教示データを自動的に作成することができる。このとき、シミュレータを用いたオフラインティーチングとは異なり、実環境において撮像された画像に基づいて溶接位置等を認識するため、実環境における位置情報と整合させることができるため、より適切な教示データを生成することができる。その結果、溶接の仕上がり品質を向上させ、安定させることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、溶接位置認識部120は、画像取得部110によって取得された画像に基づいて溶接線L1~L3を認識し、ロボット設置位置決定部140は、当該溶接線L1~L3全てを溶接対象として、溶接ロボット10の設置位置を決定していたが、これに限定されるものではなく、当該溶接線L1~L3のうち一部を溶接対象としても構わない。
【0063】
例えば、溶接位置認識部120によって認識された溶接線L1~L3のうち、ユーザが所望する溶接位置を選択する溶接位置選択部をさらに備えても構わない。具体的には、溶接位置選択部は、画面等に表示された溶接線L1~L3について、ユーザに対して、当該ユーザが所望する溶接線を選択させ、又は当該ユーザが所望する溶接線を含む範囲を選択させることによってユーザが所望する溶接位置を受け付ける。
【0064】
このように、溶接位置選択部は、溶接位置認識部120によって認識された溶接位置のうち、ユーザが所望する溶接位置を選択し、この場合、ロボット設置位置決定部140は、溶接ロボット10のトーチが当該溶接位置選択部によって選択された溶接位置に届くように、当該溶接ロボットの設置位置を決定する。すなわち、ユーザが所望する溶接位置を対象として、溶接ロボット10を適切な設置位置に設置させることができる。ユーザが所望する溶接位置を対象として不要な溶接位置を対象外とすることによって、溶接ロボット10を設置する際の条件を緩めることになる。その結果、溶接ロボット10の設置可能範囲を広げ、レイアウトの自由度を増すことができる。
【0065】
なお、本実施形態では、溶接位置認識部120は、画像に表示された溶接線L1~L3を溶接位置として認識していたが、溶接位置は、2つの平板の交線で形成される溶接線に限定されるものではない。例えば、棒形状の部材と平板との接続箇所、及びその他種々の形状を有する部材の接続箇所等が溶接位置として表示されても構わない。
【0066】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態では、溶接ロボットの設置位置が複数決定される場合について説明する。本実施形態では、主に、本発明の第1実施形態と異なる構成について詳しく説明し、第1実施形態と共通の事柄についての記述を省略又は簡略化する場合がある。
【0067】
図7は、溶接線L1~L6に対して溶接を行う溶接ロボットの設置位置が2箇所決定される様子を示す図である。
図7に示されるように、溶接ロボット10の設置位置として、画像取得部110によって取得された画像にエリアA1及びA2が重畳されて、例えば、タブレット等の表示画面に表示されている。これにより、操作者は、実環境において、溶接ロボット10をどこに設置すればよいかを把握することができる(ここでは、エリアA1及びA2に溶接ロボット10を設置すればよい)。
【0068】
より詳細には、本発明の第1実施形態で説明したように、ロボット設置位置決定部140は、
図7に示された溶接線L1~L6に沿って適切に溶接することができるように、溶接ロボット10の設置位置を決定しようとするが、溶接線L1~L6すべてを、1箇所から適切に溶接できる当該溶接ロボットを設置位置はない場合ある。例えば、溶接線L1~L6の範囲が大きく、そもそも、どの位置に設置されたとしても、トーチの先端を溶接線L1~L6すべてに届くようにはできなかったり、仮に届いたとしても、適切な角度で溶接線に接触させることができなかったりする場合がある。
【0069】
この場合、ロボット設置位置決定部140は、例えば、溶接線L1~L3に対する適切な溶接ロボットの設置位置をエリアA1と決定し、溶接線L4~L6に対する適切な溶接ロボットの設置位置をエリアA2と決定すればよい。
【0070】
図8は、溶接ロボットシステム100が実行する、溶接ロボットの設置位置が2箇所決定される溶接ロボットの設置位置決定方法M200の手順を示すフローチャートである。
図8に示されるように、溶接ロボットの設置位置決定方法M200は、ステップS110~S150、S210及びS220を含み、各ステップは、溶接ロボットシステム100に含まれるプロセッサによって実行される。
【0071】
溶接ロボットの設置位置決定方法M200は、
図6を用いて説明した溶接ロボットの設置位置決定方法M100に比べて、ステップS210及びS220が追加されている点で異なる。
【0072】
ステップS210では、溶接ロボットシステム100は、ステップS130で取得されたロボット情報のうち、少なくとも溶接ロボットのアームの可動域に基づいて、ステップS120で認識した溶接位置すべての溶接を、一箇所に設置する溶接ロボットで完了可能かを判定する(一箇所完了可能判定ステップ)。
【0073】
一箇所に設置する溶接ロボットで完了可能であると判定された場合(ステップS210のYes)、ステップS140の処理に進み、一箇所に設置する溶接ロボットで完了可能でないと判定された場合(ステップS210のNo)、ステップS220の処理に進む。
【0074】
ステップS140では、
図6を用いて説明したように、溶接ロボットシステム100におけるロボット設置位置決定部140は、一箇所の溶接ロボットの設置位置を決定する。
【0075】
ステップS220では、
図7に示されるように、溶接ロボットシステム100におけるロボット設置位置決定部140は、溶接線L1~L3に対する適切な溶接ロボットの設置位置をエリアA1と決定し、溶接線L4~L6に対する適切な溶接ロボットの設置位置をエリアA2と決定すればよい。
【0076】
ステップS150では、溶接ロボットシステム100は、ステップS140又はS220で決定された溶接ロボットの設置位置を出力する。具体例としては、溶接ロボットシステム100は、ステップS110で取得された画像に、ステップS140又はS220で決定された溶接ロボットの設置位置を重畳して、タブレット等の表示画面に表示する。
【0077】
なお、溶接ロボットの設置位置が複数表示されていれば、例えば、エリアA1に溶接ロボットを設置して溶接線L1~L3のアーク溶接が完了した後、当該溶接ロボットをエリアA2に設置して溶接線L4~L6のアーク溶接が完了させても構わないし、エリアA1とA2とで別の溶接ロボットを設置しても構わない。別の溶接ロボットを設置する場合には、同時に溶接を実行することができる。
【0078】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0079】
10…溶接ロボット、11…トーチ、100…溶接ロボットシステム、110…画像取得部、120…溶接位置認識部、130…ロボット情報取得部、140…ロボット設置位置決定部、150…ロボット設置位置情報出力部、O…原点、A1~A3…溶接ロボットの設置エリア、L1~L6…溶接位置(溶接線)、M100,M200…溶接ロボットの設置位置決定方法、S110~S150,S210,S220…溶接ロボットの設置位置決定方法M100及びM200の各ステップ