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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】通信システム及び把持システム
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/40 20060101AFI20241205BHJP
   B25J 15/08 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H04L12/40 D
B25J15/08 T
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021197477
(22)【出願日】2021-12-06
(65)【公開番号】P2023083661
(43)【公開日】2023-06-16
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 俊
【審査官】吉田 歩
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-181754(JP,A)
【文献】特開2006-013599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/40
B25J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々がバスを介して接続され、優先順位を示すフレームIDを含むフレームを前記バスに送信する複数のノードを含み、前記ノードの2つ以上が同時に前記フレームを送信した場合には、同時に送信を開始した前記ノードのうち、最も高い優先順位を有する前記フレームを送信する前記ノード以外が前記フレームの送信を停止することで通信調停が行われる通信システムであって、
前記フレームIDは、送信元の前記ノードの種別を示す種別IDと、送信元の前記ノードによって変更可能な変更IDと、送信元の前記ノードに固有の固定IDと、を含み、
前記種別にはマスタ及びスレーブが含まれ、
前記種別IDが前記マスタであるときには、前記種別IDが前記スレーブであるときよりも、前記フレームの優先順位が高く設定され、
前記マスタの前記ノードは前記バスに、前記スレーブの前記ノードに対して、前記変更IDの変更を指示する指示信号を送信可能に構成され、
前記スレーブの前記ノードは前記指示信号を受信すると、前記指示信号に従って前記フレームに含める前記変更IDを変更するように構成され
前記マスタの前記ノードは、前記指示信号を、前記スレーブの前記ノードから送信される前記フレームの優先順位を平滑化するように送信する通信システム。
【請求項2】
前記マスタの前記ノードは、前記指示信号を、優先順位を順番に入れ替えて所定時間ごとに送信することにより、前記フレームの優先順位を平滑化するように送信する請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記フレームには、前記種別ID、前記変更ID、前記固定IDが記載の順に設けられている請求項1又は請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記マスタの前記ノードは、使用状況の変更に応じて、前記指示信号を送信する請求項1~請求項3のいずれか1つの項に記載の通信システム。
【請求項5】
各々がバスを介して接続され、優先順位を示すフレームIDを含むフレームを前記バスに送信する複数のノードを含み、前記ノードの2つ以上が同時に前記フレームを送信した場合には、同時に送信を開始した前記ノードのうち、最も高い優先順位を有する前記フレームを送信する前記ノード以外が前記フレームの送信を停止することで通信調停が行われる通信システムであって、
前記フレームIDは、送信元の前記ノードの種別を示す種別IDと、送信元の前記ノードによって変更可能な変更IDと、送信元の前記ノードに固有の固定IDと、を含み、
前記種別にはマスタ及びスレーブが含まれ、
前記種別IDが前記マスタであるときには、前記種別IDが前記スレーブであるときよりも、前記フレームの優先順位が高く設定され、
前記マスタの前記ノードは前記バスに、前記スレーブの前記ノードに対して、前記変更IDの変更を指示する指示信号を送信可能に構成され、
前記スレーブの前記ノードは前記指示信号を受信すると、前記指示信号に従って前記フレームに含める前記変更IDを変更するように構成され
前記マスタの前記ノードは、使用状況の変更に応じて、前記指示信号を送信する通信システム。
【請求項6】
前記フレームには、前記種別ID、前記変更ID、前記固定IDが記載の順に設けられている請求項5に記載の通信システム。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1つの項に記載の通信システムと、物体を把持可能なロボットハンドとを備えた把持システムであって、
前記スレーブの前記ノードはそれぞれ、前記ロボットハンドの表面へ接触に係る情報を取得するセンサに接続され、
前記ロボットハンドの把持対象が決定され、前記ロボットハンドの使用状況が変更されるときに、前記マスタの前記ノードは、前記把持対象に基づいて、接触すると予測される前記表面に係る情報を取得する前記センサからの前記フレームを優先するべく、前記指示信号を送信する把持システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バスを介して接続された複数のノードを備えた通信システムと、前記通信システム及びロボットハンドを備えた把持システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
センサや処理装置によってそれぞれが構成される複数のノードがバスを介して接続された通信システムが広く用いられている。特許文献1には、マスタ装置から複数のスレーブ装置の1つへ制御データを同期的に送信するストリーミングデータネットワークが開示されている。また、特許文献2には、データストレージサーバと、サービスプロバイダサーバと、5.0mW未満のパワーレベルで作動するように構成されたトランシーバを含むゲートウェイとを含むシステムが開示されている。
【0003】
このような複数のノードが接続された通信システムでは、複数のノードが同時にバスに送信データを送信しようとした場合に備えて、ノードに優先順位をつけ、送信データの衝突を防止する通信調停(アービトレーション)が行われることがある。
【0004】
例えば、自動車に搭載される通信システムのプロトコルであるCANプロトコルでは、通信調停を行うため、フレーム(送信データの一単位)の先頭部分に、そのフレームの優先順位を示すID(識別子)が含められている。このIDは、後続部分に設定されるデータの内容や送信元のノードを識別するための識別子であって、フレームごとに設定される。
【0005】
CANプロトコルでは、複数のノードが同時にデータ送信を開始した場合、優先順位の低いIDのフレームは調停負けとなる。調停負けしたフレームの送信元のノードは送信を停止する。これにより、同時に送信を開始したノードのうち、優先順位が最も高いフレームの送信元であるノードが送信権を取得し、データ送信を継続して行うことになる。よって、送信データの衝突が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2009-515379号公報
【文献】特表2020-536441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CANプロトコルでは、フレームの優先度は、ノードごとに定められている。そのため、通信ネットワークの環境の変化に応じて、送信データが優先されるべきノードを変更することができないという問題があった。
【0008】
以上の背景に鑑み、本発明は、フレームの優先順位に基づいて通信調停が行うことができ、且つ、送信データが優先されるべきノードが変更可能な通信システムと、前記通信システム及びロボットハンドを備えた把持システムとを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、各々がバス(15)を介して接続され、識別子であるフレームIDを含むフレームを前記バスに送信する複数のノード(17、19、21、23)を含み、前記フレームには前記フレームIDに基づいて優先順位が設定され、前記ノードの2つ以上が同時に前記フレームを送信した場合には、同時に送信を開始した前記ノードのうち、最も高い優先順位を有する前記フレームを送信する前記ノード以外が前記フレームの送信を停止することで通信調停が行われる通信システム(1)であって、前記フレームIDは、送信元の前記ノードの種別を示す種別IDと、送信元の前記ノードによって変更可能な変更IDと、送信元の前記ノードに固有の固定IDと、を含み、前記種別にはマスタ(23)及びスレーブ(17、19、21)が含まれ、前記種別IDが前記マスタであるときには、前記種別IDが前記スレーブであるときよりも、前記フレームの優先順位が高く設定され、前記マスタの前記ノードは前記バスに、前記スレーブの前記ノードに対して、前記変更IDの変更を指示する指示信号を送信可能に構成され、前記スレーブの前記ノードは前記指示信号を受信すると、前記指示信号に従って前記フレームに含める前記変更IDを変更するように構成されている。
【0010】
この態様によれば、マスタに対応するノードが指示信号を送信すると、スレーブに対応するノードはフレームの送信を停止する。そのため、スレーブに対応するノードは指示信号を取得することができる。スレーブに対応するノードが指示信号を取得すると、その指示信号に従ってフレームに含める変更IDを変更する。これにより、スレーブに対応するノードから送信されるフレームのフレームIDが変更されるため、優先順位の変更が可能となる。
【0011】
上記の態様において、好ましくは、前記フレームには、前記種別ID、前記変更ID、前記固定IDが記載の順に設けられているとよい。
【0012】
この態様によれば、マスタに対応するノードからフレームが送信されると、スレーブに対応するノードはまず、種別IDを受信する。そのため、マスタに対応するノードからフレームが送信されたときに、スレーブに対応するノードからのフレームの送信を停止することができる。また、スレーブに対応するノードは、変更ID、固定IDの順に受信するため、変更IDを変更することによって、固定IDに依らず優先順位を変更することができる。
【0013】
上記の態様において、好ましくは、前記マスタの前記ノードは、前記指示信号を、所定時間ごとに送信することにより、前記スレーブの前記ノードから送信される前記フレームの優先順位を平滑化する。
【0014】
この態様によれば、簡易な方法により、データを取得するノードの偏りを抑えることができる。
【0015】
上記の態様において、好ましくは、前記マスタの前記ノードは、使用状況の変更に応じて、前記指示信号を送信する。
【0016】
この態様によれば、使用状況に適したデータを優先して取得することができる。
【0017】
上記の態様の通信システムと、物体を把持可能なロボットハンドとを備えた把持システムであって、前記スレーブの前記ノードはそれぞれ、前記ロボットハンドの表面へ接触に係る情報を取得するセンサに接続され、前記ロボットハンドの把持対象が決定され、前記ロボットハンドの前記使用状況が変更されるときに、前記マスタの前記ノードは、前記把持対象に基づいて、接触すると予測される前記表面に係る情報を取得する前記センサからの前記フレームを優先するべく、前記指示信号を送信する。
【0018】
この態様によれば、把持したときに接触すると予測される部分の情報を取得するセンサから優先して検出結果を取得することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の態様によれば、フレームの優先順位に基づいて通信調停が行うことができ、且つ、送信データが優先されるべきノードが変更可能な通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る通信システムが設けられるロボットハンドの斜視図
図2】本発明に係る通信システムの構成を示す構成図
図3】フレームの構成を説明するための説明図
図4】指示信号の構成を説明するための説明図
図5】マスタ側処理のフローチャート
図6】球体把持モードで駆動しているときのロボットハンドの斜視図
図7】円板把持モードで駆動しているときのロボットハンドの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の本実施形態に係る通信システム及び把持システムについて、図面を参照しながら説明する。
【0022】
通信システム1は、図1に示すように、ロボットハンド3に設けられる。ロボットハンド3は、人の腕に対応する部分を構成する腕部5と、人の掌に対応する部分を構成する掌部7と、人の指に対応する部分を構成する複数の指部9とを備えている。指部9はそれぞれ、基端において掌部7に回動可能に接続された第1リンク9Aと、第1リンク9Aの遊端に基端において回動可能に接続された第2リンク9Bと、第2リンク9Bの遊端に基端において回動可能に接続された第3リンク9Cとを備えている。第1リンク9Aはロボットハンド3において人の指の基節に対応する部分を構成する。第2リンク9Bはロボットハンド3において人の指の中節に対応する部分を構成する。第3リンク9Cはロボットハンド3において人の末節に対応する部分を構成する。
【0023】
ロボットハンド3には、指部9をそれぞれ屈曲・伸展させるべく駆動する複数の駆動装置11と、駆動装置11の駆動をそれぞれ制御する制御装置13とが設けられている。
【0024】
通信システム1は図2に示すように、バス15に接続された複数のノード17、19、21、23を含む。本実施形態では、通信システム1は、図2に示すように、4つのノード17、19、21、23を含んでいるが、本発明はノードの数には限定されない。
【0025】
通信システム1は、ノード17、19、21として、ロボットハンド3に設けられた各種センサからの情報を取得するスレーブノード17、19、21と、スレーブノード17、19、21から取得した情報を制御装置13に伝えるマスタノード23とを含む。本実施形態では、4つのノード17、19、21、23のうち、1つのノードがマスタノード23であり、他の3つのノードがスレーブノード17、19、21として機能する。
【0026】
ノードはそれぞれ電子制御装置(Electronic Control Unit。以下、ECU)であって、マイクロコンピュータによって構成されている。スレーブノード17、19、21は、基節表皮センサECU17A、中節表皮センサECU19A、及び指先表皮センサECU21Aによってそれぞれ構成され、マスタノード23はハンドセンサECU23Aによって構成されている(図1を参照)。
【0027】
以下、必要に応じて、基節表皮センサECU17Aによって構成されるスレーブノード17、19、21を基節表皮センサノード17、中節表皮センサECU19Aによって構成されるスレーブノード17、19、21を中節表皮センサノード19、指先表皮センサECU21Aによって構成されるスレーブノード17、19、21を指先表皮センサノード21とそれぞれ記載する。
【0028】
図1に示すように、基節表皮センサECU17Aは、指部9の基節に対応する部分の表面に設けられたセンサ(以下、基節表皮センサ17B)に接続されている。基節表皮センサ17Bは第1リンク9Aに設けられ、指部9の基節に対応する部分への接触や、指部9の基節に対応する部分に加わる圧力等のデータを取得する。基節表皮センサECU17Aは、基節表皮センサ17Bによって取得されたデータをバス15に送信することができる。
【0029】
中節表皮センサECU19Aは、指部9の中節に対応する部分の表面に設けられたセンサ(以下、中節表皮センサ19B)に接続されている。中節表皮センサ19Bは第2リンク9Bに設けられ、指部9の中節に対応する部分への接触や、指部9の中節に対応する部分に加わる圧力等のデータを取得する。中節表皮センサECU19Aは、中節表皮センサ19Bによって取得されたデータをバス15に送信することができる。
【0030】
指先表皮センサECU21Aは、指部9の末節に対応する部分の表面に設けられたセンサ(以下、指先表皮センサ21B)に接続されている。指先表皮センサ21Bは第3リンク9Cに設けられ、指部9の末節に対応する部分への接触や、指部9の末節に対応する部分に加わる圧力等のデータを取得する。指先表皮センサECU21Aは、指先表皮センサ21Bによって取得されたデータをバス15に送信することができる。
【0031】
ハンドセンサECU23Aは掌部7に設けられ、基節表皮センサECU17A、中節表皮センサECU19A、指先表皮センサECU21Aに、配線であるバス15を介して接続されている。ハンドセンサECU23Aはまた、バス15を構成する配線とは異なる配線を介して、制御装置13に接続されている。
【0032】
駆動装置11はそれぞれが腕部5に設けられた1以上のモータによって構成されている。駆動装置11の駆動力は動力伝達機構27を介して、対応する指部9の第1リンク9A、第2リンク9B及び第3リンク9Cに伝えられる。駆動装置11は駆動力を発生させて、掌部7に対して第1リンク9Aを回転させることができる。また、駆動装置11は駆動力を発生させて、第1リンク9Aに対して第2リンク9Bを回転させることができる。また、駆動装置11は駆動力を発生させて、第2リンク9Bに対して第3リンク9Cを回転させることができる。これにより、駆動装置11は、指部9を屈曲・伸展(屈伸)させることができる。
【0033】
駆動装置11は、第1リンク9A、第2リンク9B及び第3リンク9Cの駆動量を積算することによって、各リンクの回転角度を取得する。但し、この態様には限定されず、掌部7及び第1リンク9Aの間、第1リンク9A及び第2リンク9Bの間、第2リンク9B及び第3リンク9Cの間等にそれぞれ互いに接続されたリンクの回転角度を検出する回転角センサ(不図示)が設けられ、駆動装置11は回転角センサの検出結果を取得してもよい。動力伝達機構27は、ワイヤやプーリ等によって構成されてもよく、指部9を屈伸運動させるように駆動装置11の駆動力を伝達しうる構成であれば、いかなる構成であってもよい。
【0034】
制御装置13はコンピュータによって構成され、ハンドセンサECU23A、及び、駆動装置11に接続されている。制御装置13は腕部5に設けられていてもよく、また、ロボットの胴体部分や頭部に設けられていてもよい。制御装置13はロボットハンド3の駆動モードを設定し、駆動装置11を制御して、駆動モードに適合するように、指部9を屈曲・伸展させる。駆動モードには、例えば、球体状のボールを把持する球体把持モードや、円板状のディスクを把持する円板把持モードが含まれる。
【0035】
制御装置13は、駆動装置11を制御して、駆動モードに適合するように、指部9を屈曲・伸展させると同時に、ハンドセンサECU23Aに駆動モードに係る情報を含む信号(以下、駆動モード信号)を出力する。ハンドセンサECU23Aは基節表皮センサECU17A、中節表皮センサECU19A、及び、指先表皮センサECU21Aに優先順位を設定すべく信号を送り、基節表皮センサECU17A、中節表皮センサECU19A、及び、指先表皮センサECU21Aから送信された信号を取得して、制御装置13に出力することができる。
【0036】
制御装置13は、ハンドセンサECU23Aから取得した基節表皮センサECU17A、中節表皮センサECU19A、及び、指先表皮センサECU21Aによる検出結果に基づいて、ロボットハンド3によって物体を把持するべく、駆動装置11を制御する。このように、通信システム1、ロボットハンド3、制御装置13、及び、駆動装置11は、物体を把持可能な把持システム29を構成する。
【0037】
ハンドセンサECU23Aによって構成されるマスタノード23と、基節表皮センサECU17A、中節表皮センサECU19A、及び、指先表皮センサECU21Aによってそれぞれ構成されるスレーブノード17、19、21とはそれぞれ、優先順位を設定する信号や、対応するセンサ17B、19B、21Bによる検出結果を示す信号をバス15に送信する。マスタノード23及びスレーブノード17、19、21から送信される信号の送信が同じタイミングで行われた場合には、優先順位の高いものが優先して送信される通信調停が行われる。
【0038】
このような通信調停を行うための構成について、図3図5を参照して説明する。
【0039】
ノード17、19、21、23はそれぞれ、送信データをフレームと呼ばれるまとまりにして送信する。
【0040】
フレームは、ヘッダ領域と、ヘッダ領域に後続するデータ領域とを備えている。ヘッダ領域には、フレームの識別子(ID)であるフレームIDが含まれる。フレームIDは規定のデータ長を有し、データがハイレベルとローレベルとによって表現されたバイナリデータである。本実施形態では、フレームIDのデータ長は、CAN通信で用いられる標準フォーマットのビット長、すなわち11bitに設定されている。しかし、フォームIDのデータ長はこの態様には限定されず、例えば、CAN通信で用いられる拡張フォーマットのビット長、すなわち29bitに設定されていてもよい。ハイレベルを論理1、ローレベルを論理0とすると、フレームIDは0と1とが並ぶ配列によって表現でき、いわば0と1とによって表現される二進数と見做すこともできる。ノード17、19、21、23は、フレームの先頭に位置するビットから順番にデータをバス15に送信する。
【0041】
バス15は、複数のノード17、19、21、23からハイレベルの信号とローレベルの信号とが同時に出力されたときに、信号レベルがローレベルとなるように構成されている。そのため、複数のノード17、19、21、23から同時にバス15にフレームが送信されたときには、フレームIDが小さい(詳細には、フレームIDに対応する二進数が小さい)フレームが優先されることになる。よって、フレームIDはフレームの優先順位を表す。
【0042】
ノード17、19、21、23はそれぞれバス15の信号レベルを監視している。ノード17、19、21、23はフレームをバス15に送信するとき、自らがバス15に送信したフレームの信号レベルとバス15の信号レベルとが一致しないと判定したときには、フレームの送信を停止する。ノード17、19、21、23はそれぞれ、バス15に信号が送信されていない状態である(以下、空き状態。バスアイドルともいう。)ことを確認し、空き状態であるときにバス15に信号を送信する。
【0043】
よって、複数のノード17、19、21、23が同時にフレームの送信を開始したときには、最も優先順位が高いフレームIDを含むフレームの送信を開始したノード17、19、21、23のみが、送信を継続することになる。これにより、フレーム衝突時に、フレームIDの最も小さなフレームの送信が優先される。すなわち、フレームにはフレームIDに基づいて優先順位が設定され、優先順位の低いフレームの送信が停止される、いわゆる通信調停が実現される。
【0044】
図3には、フレームIDの例が示されている。フレームIDは、種別ID、変更ID、及び、固定IDを含む。
【0045】
種別IDは、送信元のノード17、19、21、23の種別を示すデータであり、規定のデータ長(本実施形態では、1bit)を有するバイナリデータである。種別IDは、ヘッダ領域の先頭の部分であって、フレームIDの先頭の部分に記録されている。送信元のノードがマスタノード23であるときには種別IDは0に、送信元のノードがスレーブノード17、19、21であるときには種別IDは1に設定されている。
【0046】
変更IDは、駆動モードに応じて設定される優先順位を示すデータであり、規定のデータ長(本実施形態では、4bit)を有するバイナリデータである。変更IDは、ヘッダ領域内であって、種別IDの後の部分に記録されている。
【0047】
送信元のノード17、19、21、23がマスタノード23であるときには変更IDは「0000」に固定されている。本実施形態では、変更IDは、スレーブノード17、19、21の中で優先順位を2進数に変換したバイナリデータである。例えば、スレーブノード17、19、21の中で優先順位が1番目であるときには、変更IDは「0000」に設定されている。
【0048】
スレーブノード17、19、21が送信するフレームの変更IDは固定されておらず、変更可能に構成されている。具体的には、マスタノード23によって、スレーブノード17、19、21に対して変更IDの変更を指示する指示信号がバス15に送信され、スレーブノード17、19、21がその指示信号を受信すると、スレーブノード17、19、21は指示信号に従ってフレームに含める変更IDを変更する。これにより、スレーブノード17、19、21がその指示信号を受信して以降、スレーブノード17、19、21が送信するフレームには、指示信号に従って変更された変更IDが含められるようになり、スレーブノード17、19、21が送信するフレームの優先順位が変更される。
【0049】
本実施形態では、通信システム1が駆動開始し、マスタノード23から指示信号を受信するまでの間において、スレーブノード17、19、21はそれぞれ、変更IDを「0000」に設定する。
【0050】
固定IDは、送信元のノード17、19、21、23に固有の識別子(ID)を示すデータであり、規定のデータ長(本実施形態では、4bit)を有するバイナリデータである。固定IDは、ヘッダ領域内であって、変更IDの後の部分に記録されている。
【0051】
マスタノード23及びスレーブノード17、19、21が送信するフレームの固定IDは送信元のノードに固有であるため、ノード17、19、21、23ごとに違う固定IDが付与され、変更されることがない。送信元のノード17、19、21、23がマスタノード23であるときには固定IDは「0000」に固定されている。本実施形態では、基節表皮センサECU17Aの固定ID、中節表皮センサECU19Aの固定ID、及び、指先表皮センサECU21Aの固定IDはそれぞれ、記載の順に小さくなる(すなわち、記載の順に優先順位が高くなる)ように設定されている。本実施形態では、基節表皮センサECU17Aの固定IDは「0010」に、中節表皮センサECU19Aの固定IDは「0001」に、指先表皮センサECU21Aの固定IDは「0000」にそれぞれ設定されている。
【0052】
次に、指示信号の構成と、指示信号を受信したときのスレーブノード17、19、21の動作について説明する。図4には、指示信号の構成が示されている。指示信号は、1つのパケットによって構成されている。指示信号は、ヘッダ部(不図示)と、データ部とを含む。ヘッダ部には、指示信号が変更IDの変更を指示する信号であることを示すデータが含まれている。データ部には、8バイトのデータ、すなわち、64ビットのデータが含まれている。
【0053】
指示信号を受信したスレーブノード17、19、21はそれぞれ、データ部を4ビットごとに区切り、固定IDに対応するセットを抽出する。具体的には、指示信号を受信したスレーブノード17、19、21は、自らの固定IDを十進数に変換した数値を4倍して1を加えた開始番号を算出し、データ部の開始番号から始まる4ビット分のデータのセットを抽出する。例えば、中節表皮センサノード19は、固定IDが「0001」であるため、開始番号を4×1+1=5と算出し、先頭から5ビット目から始まる4ビット分のデータのセットを抽出する。その後、スレーブノード17、19、21は抽出したデータのセットを変更IDに設定する。これにより、変更IDが指示信号に含まれるデータに変更されることになる。
【0054】
通信システム1が駆動すると、マスタノード23は、通信システム1が駆動している間、マスタ側処理を繰り返し、継続して行う。以下、マスタ側処理の詳細を説明する。
【0055】
図5にはマスタ側処理のフローチャートが示されている。マスタノード23は、マスタ側処理の最初のステップST1において、まず、制御装置13からの駆動モード信号を取得する。その後、マスタノード23は、駆動モード信号に基づいて、スレーブノード17、19、21から送信されるフレームのそれぞれに、駆動モードに適合する優先順位の設定を行うべく、指示信号を送信する。
【0056】
駆動モードが例えば、球体把持モードであるときには、マスタノード23は、指先表皮センサノード21、中節表皮センサノード19、及び、基節表皮センサノード17のそれぞれから送信されるフレームの優先順位が平滑化されるように、所定時間ごと(例えば、1秒ごと)に指示信号を設定する。マスタノード23は例えば、指先表皮センサノード21、中節表皮センサノード19、及び、基節表皮センサノード17のそれぞれから送信されるフレームの優先順位を、ステップST1を実行するごとに、順番に入れ替えるように設定するとよい。すなわち、マスタノード23は、ステップST1を実行するごとに、ST1実行前の指先表皮センサノード21から送信されるフレームの変更IDを基節表皮センサノード17の変更IDに、ST1実行前の中節表皮センサノード19から送信されるフレームの変更IDを指先表皮センサノード21の変更IDに、ST1実行前の基節表皮センサノード17から送信されるフレームの変更IDを中節表皮センサノード19の変更IDにそれぞれ設定するように構成されていてもよい。
【0057】
駆動モードが例えば、円板把持モードであるときには、マスタノード23は、指先表皮センサノード21から送信されるフレームの優先順位が、中節表皮センサノード19から送信されるフレームの優先順位よりも、且つ、中節表皮センサノード19から送信されるフレームの優先順位が基節表皮センサノード17から送信されるフレームの優先順位よりも高くなるように設定する。本実施形態では、マスタノード23は、データ部のデータが先頭から順に000000010010・・・となっている指示信号をバス15に送信する。
【0058】
送信が完了すると、マスタノード23は、ステップST2を実行する。バス15を監視し、スレーブノード17、19、21からデータが送信されるまで待機する。データの送信が開始されたことを検出すると、マスタノード23はステップST3を実行する。
【0059】
マスタノード23はステップST3において、バス15からデータの取得を開始する。データの取得が完了すると、マスタノード23はステップST4を実行する。
【0060】
マスタノード23はステップST4において、ステップST3において取得したデータが、優先順位の高いフレームを送信するように設定されたスレーブノード17、19、21から送信されたデータかどうかを判定する。優先順位の高いフレームを送信するように設定されたスレーブノード17、19、21から送信されたデータであるときには、マスタノード23はマスタ側処理を終え、そうでない場合には、ステップST2を実行する。
【0061】
通信システム1が駆動すると、スレーブノード17、19、21は、対応するセンサからデータを取得し、取得が完了すると、バス15に、センサによって取得したデータをデータ領域に含むフレームをバス15に送信する。
【0062】
但し、スレーブノード17、19、21は、バス15の信号レベルを取得することによって、常時、マスタノード23から指示信号が送信されていないかを監視する。指示信号が送信されているときには、スレーブノード17、19、21は指示信号を取得して、取得した指示信号に基づいて変更IDを変更する。
【0063】
次に、通信システム1の動作及び効果について説明する。
【0064】
通信システム1が起動し、マスタノード23が駆動モード信号を取得するまでの間は、バス15には指示信号が送信されないため、本実施形態では、スレーブノード17、19、21はそれぞれ、変更IDを「0000」に設定する。これにより、スレーブノード17、19、21のうち、固定IDの最も小さいノード、すなわち、指先表皮センサノード21から送信されるフレームが優先される。このように、変更IDが同一であっても、固定IDが異なるため、フレームの通信調停が適切に行われる。
【0065】
マスタノード23が駆動モード信号を取得する(ステップST1)と、マスタノード23はバス15に指示信号を送信する。これにより、スレーブノード17、19、21から送信されるフレームの変更IDが変更され、スレーブノード17、19、21から送信されるフレームのそれぞれに、駆動モードに合致するように優先順位付けされる。
【0066】
駆動モードが球体把持モードであるときには、図6に示すように、指部9の基節、中節、及び指先に対応する部分全てがボール(球体)に接触することが期待される。よって、マスタノード23が基節表皮センサ17B、中節表皮センサ19B、及び指先表皮センサ21Bの全てのデータを同程度の頻度で取得し、制御装置13に出力することが望ましい。
【0067】
駆動モードが球体把持モードであるときには、マスタノード23は、優先順位の高いスレーブノード17、19、21から送信されるデータを取得するごとに指示信号を送信し、変更IDを順番に入れ替える。これにより、スレーブノード17、19、21から送信されるフレームの優先度を全てのスレーブノード17、19、21に渡って平滑化することができるため、全てのスレーブノード17、19、21から対応するセンサのデータを同程度の頻度で取得することができる。
【0068】
駆動モードが円板把持モードであるときには、図7に示すように、指部9の指先に対応する部分がディスク(円板。図7の二点鎖線参照)に接触することが期待される。よって、マスタノード23が指先表皮センサ21Bからデータ取得を優先して行い、制御装置13に出力することが望ましい。
【0069】
本発明では、駆動モードが円板把持モードであるときには、マスタノード23が送信する指示信号によって、基節表皮センサノード17から送信されるフレームの優先順位、中節表皮センサノード19から送信されるフレームの優先順位、及び、指先表皮センサノード21から送信されるフレームの優先順位が、記載の順に高くなるように設定される。これにより、基節表皮センサノード17から送信されるフレームが優先してマスタノード23に取得されるため、指先表皮センサ21Bからデータ取得を優先して行うことができる。
【0070】
駆動モードが変更され、マスタノード23が指示信号を送信しているときには、マスタノード23が送信するフレームの先頭が0であるため、スレーブノード17、19、21から送信されるフレームは通信調停に負け、スレーブノード17、19、21はフレームの送信を停止する。そのため、他のスレーブノード17、19、21は、マスタノード23からの指示信号を的確に取得することができる。
【0071】
スレーブノード17、19、21が指示信号を取得すると、その指示信号に応じて、スレーブノード17、19、21は変更IDを変更してフレームを送信する。フレームIDにおいて、変更IDは、種別IDの後であり、且つ、固定IDの前に設けられているため、スレーブノード17、19、21内で、それぞれから送信されるフレームの優先順位を変更することができる。よって、マスタノード23の優先順位を変更することなく、センサによって取得された信号を送信するスレーブノード17、19、21の優先順位を選択的に変更することができるため、駆動モードに適したセンサによるデータ取得が可能となる。
【0072】
このように、使用状況の変更により、把持対象(円板、球体)が決定されて、駆動モードが設定されたときに、マスタノード23は、把持対象に基づいて、接触すると予測される表面に係る情報を取得するセンサからのフレームを優先するべく、指示信号を送信する。これにより、接触すると予測されるセンサによるフレームが優先されるため、使用状況に適したデータを優先して取得することができ。これにより、把持対象のより安定した把持が可能となると期待できる。
【0073】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。上記実施形態では、ハンドセンサECU23A(マスタノード23)と、制御装置13とは別体のマイクロコンピュータによって構成されていたが、この態様には限定されない。ハンドセンサECU23Aと制御装置13とは一体のコンピュータによって構成されていてもよく、ハンドセンサECU23Aは制御装置13によって構成されていてもよい。
【0074】
上記実施形態では、マスタノード23はステップST1において、駆動モード信号を取得し、指示信号を送信した後に、ステップST2を実行するように構成されていたが、この態様には限定されない。マスタノード23はステップST1において、駆動モード信号が取得できないまま、所定時間が経過したときには、指示信号を送信することなく、ステップST2を実行するように構成されていてもよい。このとき、マスタノード23は、指先表皮センサノード21を、優先順位の高いノードとして記憶しているとよい。これにより、通信システム1が起動し、マスタノード23が駆動モード信号を取得することなく、所定時間が経過した後には、マスタノード23はスレーブノード17、19、21からのデータ取得が可能となる。但し、このとき、固定IDの最も小さい指先表皮センサノード21からのフレームが優先されるため、マスタノード23は指先表皮センサノード21の信号を優先して取得する。
【0075】
上記実施形態では、通信システム1が駆動開始し、マスタノード23から指示信号を受信するまでの間において、スレーブノード17、19、21はそれぞれ、変更IDを「0000」に設定するように構成されていたが、この態様には限定されない。例えば、通信システム1が駆動開始し、マスタノード23から指示信号を受信するまでの間において、スレーブノード17、19、21はそれぞれ、変更IDを予め定められた設定値に設定してもよい。設定値を調節することによって、通信システム1が駆動開始し、マスタノード23から指示信号を受信するまでの間における、スレーブノード17、19、21から送信されるフレームの優先順位を定めることができる。
【0076】
その他、指示信号の末尾には、指示信号の終了を示すフラグ(例えば、11111111等)が設けられていてもよい。
【0077】
この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度、素材等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 :通信システム
15 :バス
17 :スレーブノード(基節表皮センサノード)
19 :スレーブノード(中節表皮センサノード)
21 :スレーブノード(指先表皮センサノード)
23 :マスタノード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7