(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/08 20060101AFI20241205BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16H48/08
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2021204049
(22)【出願日】2021-12-16
【審査請求日】2024-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】須藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 暁史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-030181(JP,A)
【文献】特開2013-014302(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/08
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のステータと、
前記ステータと径方向にて対向する円筒状のロータと、
前記ステータと前記ロータとを格納するステータハウジングと、
を有するモータと、
前記モータの回転軸上に配置され、前記モータの駆動力が伝達される傘歯車と、
前記傘歯車と噛み合うリングギヤと、
前記傘歯車
及び前記リングギヤを介して前記モータの駆動力を伝達する分配機構と、
前記分配機構を格納し、前記リングギヤの駆動力を前記分配機構に伝達するデフケースと、
を備え、
前記分配機構は、前記ロータの径方向内周側であって、前記分配機構の少なくとも一部
が前記ステータハウジングの外周下面と
径方向で重なる位置に配置されている
駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動装置において、
前記モータは、前記ロータを支持し、前記ステータハウジングに軸受を介して回転支持される円筒状のロータシャフ
トを有し、
前記モータの駆動力は、前記ロータシャフトに接続される接続部を介して
前記傘歯車に伝達さ
れ、
前記ロータシャフトの内径は、前記傘歯車の外径よりも大きく、
前記ロータシャフトと前記傘歯車との少なくとも一部は、径方向に重なる位置に配置されている
駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の駆動装置であって、
前記リングギヤと前記分配機構とは、前記モータの回転軸を挟んで配置されている
駆動装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の駆動装置であって、
前記リングギヤは、前記デフケースに直接締結されている
駆動装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の駆動装置であって、
前記ロータは、前記ステータよりも内周側に配置されている
駆動装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の駆動装置であって、
前記ステータハウジングの軸方向両側における前記ロータよりも径方向内周側には、軸方向に凹んだ一対の凹部が形成されている
駆動装置。
【請求項7】
請求項6に記載の駆動装置であって、
インバータを備え、
前記一対の凹部のうちの一方には、前記分配機構が配置され、
前記一対の凹部のうちの他方には、前記インバータが配置されている
駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素及び自動運転社会へ向けて自動車の電動化が進んでいる。電動化する自動車の駆動装置としてモータとインバータと減速機とを一体にしたeAxleの開発が加速している。eAxleでは、回転速度を上げて減速機でトルクを増大する。これにより、モータの小型化と出力向上とが可能である。このため、eAxleの開発では、モータの超高速化が進められている。
【0003】
これまでの一般的なアプローチであるモータの超高速化によるeAxleの高出力化は、モータと軸受とギヤとの回転速度の制限から限界が見えて来ている。そして、従来のeAxleでは、ドライブシャフトの位置と車両地上高とに制限があり、モータの大径化が図れない。
【0004】
そこで、特許文献1に開示されるように、大径化したモータを車載するために、モータを平置きする技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、モータの駆動力を伝達するディファレンシャル装置(分配機構)の直上にモータが平置きされている。このため、駆動装置の高さが高くなり、駆動装置の重心が高くなり、駆動装置の設置位置が制限されるという課題があった。
【0007】
本発明は、設置位置の自由度を高めることが可能な駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による駆動装置は、円筒状のステータと、前記ステータと径方向にて対向する円筒状のロータと、前記ステータと前記ロータとを格納するステータハウジングと、を有するモータと、前記モータの回転軸上に配置され、前記モータの駆動力が伝達される傘歯車と、前記傘歯車と噛み合うリングギヤと、前記傘歯車及び前記リングギヤを介して前記モータの駆動力を伝達する分配機構と、前記分配機構を格納し、前記リングギヤの駆動力を前記分配機構に伝達するデフケースと、を備え、前記分配機構は、前記ロータの径方向内周側であって、前記分配機構の少なくとも一部が前記ステータハウジングの外周下面と径方向で重なる位置に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、駆動装置の設置位置の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る駆動装置を搭載した車両を示す構成図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る駆動装置を示す部品分解斜視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るモータを分解した駆動装置を示す部品分解斜視図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る駆動装置を示す縦断面にて半分にした斜視図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る駆動装置を示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る駆動装置を斜め下から見て示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る駆動装置の一部を
図6のP部を拡大して示す斜視図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る駆動装置を示す縦断面にて半分にした斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態が説明されている。ただし、本発明は、下記の実施形態に限定解釈されるものではなく、公知の他の構成要素を組み合わせて本発明の技術思想を実現してもよい。なお、各図において同一要素については同一の符号が記載され、重複する説明が省略される。また、各図においてU方向が上方向であり、D方向が下方向であり、F方向が正面方向であり、B方向が背面方向であり、R方向が右方向であり、L方向が左方向である。
【0012】
<第1実施形態>
<車両100の全体構成>
図1は、第1実施形態に係る駆動装置1を搭載した車両100を示す構成図である。
【0013】
車両100は、中央に配置された駆動装置1と、駆動装置1を搭載した車台101と、駆動装置1を車台101に固定する支持部材102と、車両100の正面方向Fに配置された前輪である車輪103と、車両100の背面方向Bに配置された後輪である車輪104と、駆動装置1に電力を供給するバッテリ105と、を備える。
【0014】
駆動装置1は、車両100の正面方向Fの車輪103の間のエンジンルームに格納されている。駆動装置1は、ドライブシャフト106を介して車輪103に接続されている。
【0015】
ドライブシャフト106は、デフサイドギヤとホイールとを連結する。ドライブシャフト106は、右方向R及び左方向Lに伸びている。サスペンションが可動のため、ドライブシャフト106とホイールとの間に等速ジョイントを2つ設けている。ここでは、ドライブシャフト106は、駆動装置1から1つ目の等速ジョイントまでの部分と定義する。
【0016】
なお、駆動装置1は、車両100の背面方向Bの車輪104の間に格納して車輪104を駆動してもよいし、2つ搭載して車輪103の間と車輪104の間とにそれぞれ配置して4輪駆動としてもよい。
【0017】
<駆動装置1>
図2は、第1実施形態に係る駆動装置1を示す部品分解斜視図である。
図3は、第1実施形態に係るモータ2を分解した駆動装置1を示す部品分解斜視図である。
図4は、第1実施形態に係る駆動装置1を示す縦断面にて半分にした斜視図である。
図5は、第1実施形態に係る駆動装置1を示す縦断面図である。
【0018】
駆動装置1は、モータ2と、インバータ3と、傘歯車4と、リングギヤ5と、分配機構6と、デフケース7と、デフ筐体8と、を備える。
【0019】
<モータ2>
モータ2は、ロータコア26aを有するロータ24と、ステータコアおよびステータコアに装着されるコイルを有するステータ23と、ロータ24の内周側に固定されロータ24とともに回転するロータシャフト26bと、ロータシャフト26bと後述する傘歯車4の歯車軸41とを接続する接続部22と、これらの部材を格納するステータハウジング25と、を有する。
【0020】
<インバータ3>
インバータ3は、バッテリ105から供給される直流の電力を交流の電力へと変換してモータ2に供給する。
【0021】
<傘歯車4>
傘歯車4は、モータ2の回転軸(回転中心軸O)上に配置され、ロータシャフト26bに接続される接続部22を介してモータ2の駆動力が伝達される。詳しくは、傘歯車4は、歯車軸41の軸方向下端部に設けられ、ロータ24の回転駆動力が伝達される。
【0022】
傘歯車4は、ロータ24に対して接続部22及びロータシャフト26bを介して繋がっている。傘歯車4は、リングギヤ5に対して小さいサイズであり、減速ギヤも兼ねている。
【0023】
なお、傘歯車4には、リングギヤ5に対して同歯数であり、歯先が回転中心に対して45°の減速比1:1のマイタ傘歯車を使用してもよい。しかし、マイタ傘歯車を使用すると、傘歯車4とリングギヤ5との合計質量が大きくなる。このため、傘歯車4は、適切なサイズの傘歯車4とリングギヤ5との組合せで用いられる。
【0024】
傘歯車4には、歯先の形状で分類して、曲がり歯傘歯車(スパイラルベベルギヤ)と、すぐ歯傘歯車(ストレートベベルギヤ)と、がある。
【0025】
曲がり歯傘歯車は、歯先が曲線を描き、製作が難しいが噛み合い率がより上昇するために振動と騒音との発生が抑えられる。ただし、曲がり歯傘歯車は、軸方向にスラスト荷重が生じるため、使用時に注意が必要である。
【0026】
すぐ歯傘歯車は、スラスト荷重が小さく、スラスト荷重の方向も常に遠ざかる方向に限定される。このため、すぐ歯傘歯車では、軸受構造を簡素化できる利点がある。
【0027】
第1実施形態では、傘歯車4に曲がり歯傘歯車を用いている。しかし、傘歯車4の歯先形状が限定されるものではない。
【0028】
<歯車軸41>
歯車軸41は、上方向U及び下方向Dに向かう縦方向である軸方向に伸びている。歯車軸41は、円柱部材である。歯車軸41の下方向Dの下端部には、傘歯車4が固定されている。
【0029】
<リングギヤ5>
リングギヤ5は、回転中心をモータ2の径方向に向けて配置されている。リングギヤ5は、デフケース7に固定され、傘歯車4と噛み合う。
【0030】
リングギヤ5は、回転中心を歯車軸41側である左方向L、すなわちモータ2の内径方向に向けて配置されている。リングギヤ5は、左方向Lを向いて所定のテーパ角度でギヤ歯を有するギヤ歯面部51と、ギヤ歯面部51のドライブシャフト106の方向を向いた内周面部52と、を有する。内周面部52は、デフケース7に連結されている。
【0031】
<分配機構6>
分配機構6は、傘歯車4及びリングギヤ5を介してモータ2の駆動力をドライブシャフト106に伝達する。分配機構6とリングギヤ5とは、モータ2の回転軸(回転中心軸O)を中心として対向配置されている。
【0032】
分配機構6は、モータ2から1つの軸で伝達されるトルクを、ドライブシャフト106の2つの駆動軸に均等に配分する機構である。車両100のコーナーリング中の車輪103は、内輪と外輪とで旋回半径に差ができる。このため、外輪が内輪よりも移動距離が長くなり、回転速度も大きくなる。分配機構6は、左右の車輪103に回転速度差を与えながら(差動ともいう)、同じトルクがどちらの車輪103にも伝達されるようにする。
【0033】
一般的なベベルギヤ式分配機構は、ファイナルドライブギヤ(傘歯車4)と、リングギヤ5(ファイナルドリブンギヤ)と、デフケース7と、デフサイドギヤと、デフピニオンと、デフピニオンシャフトと、から構成されている。モータ2の動力発生源からの駆動力は、ファイナルドライブギヤを用いてデフケース7と一体化されたリングギヤ5に伝達され、デフケース7ごとデフピニオンとデフピニオンシャフトとが回転し、ドライブシャフト106に連結されたデフサイドギヤを回すことでドライブシャフト106に伝わる。
【0034】
デフピニオンは、デフケース7とともに公転する以外に、自転することができる。デフピニオンは、直進状態で左右の駆動輪が路面から受ける抵抗が等しい場合には、デフケース7とともにデフピニオンが公転することにより、デフサイドギヤに駆動力を伝達する。この時には、デフピニオンは、自転しない。
【0035】
デフピニオンは、左右の車輪103が路面から受ける抵抗に差が出てくると、公転しながら自転もする。デフピニオンの自転により、左右のデフサイドギヤに回転速度差が生じるため、左右の車輪103の回転速度差が吸収される。
【0036】
<デフケース7>
デフケース7は、分配機構6を格納し、リングギヤ5の駆動力を分配機構6に伝達する。分配機構6とリングギヤ5とは、モータ2の回転軸(回転中心軸O)を挟んで配置されている。デフケース7は、分配機構6と2つのドライブシャフト106とを囲った筒状部材である。
【0037】
デフケース7は、大筒部71と、小筒部72と、を有する。大筒部71は、筒状部材であり、分配機構6を覆っている。小筒部72は、大筒部71よりも小径な筒状部材であり、リングギヤ5の歯の無い内周面部52と大筒部71とを連結している。これにより、傘歯車4は、リングギヤ5と大筒部71と小筒部72とで囲まれる空間に配置されている。
【0038】
<デフ筐体8>
デフ筐体8は、上方向Uであるモータ軸方向上側が開口し、デフケース7を覆う。デフ筐体8の開口は、ステータハウジング25に覆われている。
【0039】
<モータ2の詳細>
<接続部22>
接続部22は、ロータ24の軸方向中央にて、歯車軸41とロータ24とを接続する。接続部22は、円盤状であり、その中心には孔部が形成されている。接続部22は、内径端部にて孔部に通された歯車軸41と繋がっている。
【0040】
接続部22は、ロータシャフト26bとともに金属や炭素繊維複合樹脂等の変形し難い材料(ヤング率が大きい材料)で製作する。接続部22は、円盤形状にすることによって径方向の剛性を高めて径方向変形を防ぐためのリブの機能を有するとともに回転伝達の機能も有する。
【0041】
<ステータ23>
ステータ23は、正面方向F、背面方向B、右方向R及び左方向Lを含む横方向である径方向に軸方向よりも長い円筒状である。
【0042】
ステータ23は、電磁鋼板を積層して製作する。ステータ23は、大径円筒形状になるため、分割コアにした方が材料の歩留りはよい。しかし、ステータ23は、大トルクに耐えるための支持構造の検討が難しい。一体型コアでは、単独で考えると材料の歩留りが悪いが、ステータコア内周部の円盤残部からロータ24や他製品のコアを打抜くことで歩留り向上が図れる。ステータ23は、円筒に繋がっていた方が剛性も高いので構造設計が分割コアに比べると容易である。ステータ23は、集中巻でも分割巻でもよいが、大径であり分割巻だとコイル長が長くなるので集中巻の方が有利である。
【0043】
<ロータ24>
ロータ24は、ステータ23と径方向にて対向する円筒状の部材である。ロータ24は、ステータ23よりも内周側に配置されている。つまり、ロータ24は、ステータ23の内径側に配置され、ステータ23に対向する円筒状の部材である。
【0044】
ロータ24は、円筒状のロータコア26aと、ロータコア26aの周方向に配列された複数の磁極部と、を有する。ロータ24は、ステータ23と同様に電磁鋼板を積層して製作する。ロータ24は、大径円筒形状になるため、分割コアにした方が材料の歩留りはよい。しかし、ロータ24は、大トルクに耐えるための支持構造の検討が難しい。ロータ24は、ステータ23の内周側に配置されるインナーロータのものであるが、アウターロータでもよい。また、ロータ24は、誘導モータでも永久磁石モータでもよく、ロータ24のタイプが限定されない。ここでのロータ24は、永久磁石同期モータである。
【0045】
<ステータハウジング25>
ステータハウジング25は、ステータ23とロータ24とを格納する。詳しくは、ステータハウジング25は、歯車軸41とステータ23とロータ24と接続部22とを格納するとともに歯車軸41の軸方向下端部を下方向Dに突出させている。ステータハウジング25は、縦断面H形状である。
【0046】
ステータハウジング25は、上半体25aと、下半体25bと、から構成されている。上半体25aは、ステータ23及びロータ24を保持する上方向Uに開口した箱体状の下半体25bに覆い被さる蓋状の部材である。下半体25bは、ステータ23及びロータ24を保持するために、軸方向上端部をステータ23及びロータ24の軸方向上端部よりも高く形成されている。
【0047】
ステータハウジング25の外周下面25cは、モータ2の回転軸(回転中心軸O)に直交する方向から見たときに、分配機構6の少なくとも一部と重なる位置に配置されている。ステータハウジング25の外周下面25cとは、ステータハウジング25において最も下側(ドライブシャフト106側)に位置する面のことを指す。
【0048】
ステータハウジング25は、ステータ23、ロータ24及び軸受等を支持し、車台101と取合う筐体である。ステータハウジング25の下面には、上方に窪む第1凹部27aが形成される。この第1凹部27aにデフケース7を格納することにより、駆動装置1全体の背高が低減される。ステータハウジング25の上面には、下方に窪む第2凹部27bが形成される。この第2凹部27bにインバータ3等の電気部品が格納される。円筒状のステータ23がコア単体では径方向に変形してしまうので、ステータハウジング25には、ステータ23の変形を抑える剛性が必要である。
【0049】
ステータハウジング25は、軽量化のためにアルミニウムやマグネシウム合金等の軽金属を使用するのが望ましい。ステータハウジング25にリブ等の補強材を設けて剛性を高める構造では、比強度(単位重量当たりの強度)が高いアルミニウム等と相性がよい。
【0050】
ステータハウジング25は、空冷でもよいが、高出力密度化のため、ステータハウジング25の内部に液状冷媒の流路を備える。ステータハウジング25は、鉱物油やATF等の液状冷媒でモータ2を冷却し、モータ2冷却後の液状冷媒を分配機構6にも流して各種ギヤを冷却する構成である。
【0051】
<ロータコア26a>
ロータコア26aは、正面方向F、背面方向B、右方向R及び左方向Lを含む横方向である径方向に軸方向よりも長い円筒状である。ロータコア26aは、電磁鋼板を積層して製作する。ロータコア26aは、上下に延びる中心軸に直交する方向に広がる磁性体のコアプレートが、軸方向に複数積層されている。
【0052】
<ロータシャフト26b>
ロータシャフト26bは、ロータ24を支持し、ステータハウジング25に軸受30を介して回転支持される。ロータシャフト26bは、円筒状の部材である。ロータシャフト26bは、軸方向に伸びている。ロータシャフト26bは、ロータコア26aを内周側から保持している。ロータシャフト26bの軸方向中央には、接続部22が接続されている。
【0053】
ロータシャフト26bの内径は、傘歯車4の外径よりも大きい。ロータシャフト26bと傘歯車4との少なくとも一部は、横方向である径方向に重なる位置に配置されている。
【0054】
ロータシャフト26bは、ロータ24の回転支持用の軸受30を備える回転体と定義する。図示する例では、軸受30は、ロータコア26aの上側と下側に設けられているが、ロータコア26aの上側と下側の一方にのみ設けることとしてもよい。ロータシャフト26bは、接続部22を介して上述した傘歯車4の歯車軸41に接続される。ロータシャフト26bの材質は、シャフトに用いられることが多い炭素鋼又はSUS等の他、サイズによってはアルミニウム等の軽金属でもよい。
【0055】
ロータ24は、大径円筒形状であるため、径方向の変形を防ぐために径方向に伸びるリブが必要である。ロータシャフト26bは、回転伝達の機能と径方向変形を防ぐためのリブの機能とを有する。ロータ24は、ロータコア26aとロータシャフト26bとを連結したり、ロータコア26aの径方向の変形抑止のためにもロータコア26aをアルミニウム等で製作したロータシャフト26bに取り付けたりするのがよい。
【0056】
<第1凹部27a及び第2凹部27b>
ステータハウジング25の軸方向両側におけるロータ24よりも径方向内周側には、軸方向に凹んだ一対の第1凹部27a及び第2凹部27bが形成されている。
【0057】
一対の第1凹部27a及び第2凹部27bのうちの一方の第1凹部27aは、ステータハウジング25の軸方向下側にて、H形状の断面を呈するロータシャフト26b及び接続部22に合わせてステータハウジング25の下面を上方向Uに凹ませて形成されている。第1凹部27aには、分配機構6が配置されている。詳しくは、第1凹部27aには、傘歯車4とリングギヤ5の一部と分配機構6の一部とデフケース7の一部とが格納されている。
【0058】
一対の第1凹部27a及び第2凹部27bのうちの他方の第2凹部27bは、ステータハウジング25の軸方向上側にて、H形状の断面を呈するロータシャフト26b及び接続部22に合わせてステータハウジング25の上面を下方向Dに凹ませて形成されている。第2凹部27bには、インバータ3が配置されている。詳しくは、第2凹部27bには、インバータ3が第2凹部27b内に完全に格納されている。第2凹部27bの軸方向深さの途中には、歯車軸41の軸方向上端部が突出している。
【0059】
<レゾルバ28>
レゾルバ28は、歯車軸41の軸方向上端部の周りにて、回転角度を検出する。レゾルバ28は、ステータとロータから構成されている。レゾルバ28のステータは、ハウジング25に固定されている。レゾルバ28のロータは、歯車軸41に固定されている。
【0060】
<リブ29>
図6は、第1実施形態に係る駆動装置1を斜め下から見て示す斜視図である。
図7は、第1実施形態に係る駆動装置1の一部を
図6のP部を拡大して示す斜視図である。
【0061】
リブ29は、第1凹部27a及び第2凹部27bに設けられる。リブ29は、モータ2の回転軸(回転中心軸O)を中心に径方向に伸びて放射状に複数設けられている。径方向に伸びたリブ29の途中には、円筒状のリブ29も設けられている。
【0062】
リブ29は、リブ高が高いほど剛性が上がる。このため、リブ29は、なるべく深く掘り込まれた第1凹部27a及び第2凹部27b内に高いリブ高で形成されることが強度の観点でも重要である。リブ29は、表面から放熱するため、多数設けられている。
【0063】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態によれば、分配機構6の一部をモータ2内に埋め込むことができる。これにより、駆動装置1の高さ、重心を低くすることができるので、駆動装置1の設置位置の自由度を高めることができる。第1実施形態によれば、車室空間を拡大することができ、駆動装置1を車両100の前輪だけでなく後輪にも搭載できる。
【0064】
<第2実施形態>
第2実施形態では、上記実施形態と同様の説明が同じ符号を付して省略される。
図8は、第2実施形態に係る駆動装置1を示す縦断面にて半分にした斜視図である。
【0065】
リングギヤ5は、デフケース7に直接締結されている。このため、リングギヤ5と分配機構6とは、モータ2の回転軸(回転中心軸O)に対して片側に径方向に並んで配置されている。
【0066】
リングギヤ5は、回転中心をモータ2の回転軸(回転中心軸O)側である右方向Rの内径方向に向けて配置されている。リングギヤ5は、右方向Rを向いて所定のテーパ角度でギヤ歯を有するギヤ歯面部51と、ギヤ歯面部51に対して左方向L側に設けられた径方向背面部53と、を有する。径方向背面部53は、リングギヤ5の歯が無く、大筒部71に連結されている。
【0067】
デフケース7の大筒部71は、リングギヤ5の歯の無い径方向背面部53に連結されるとともに分配機構6を覆っている。
【0068】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態によれば、従来のデフケース7をそのまま使用することができる。また、駆動装置1の部品点数を低減することができる。
【0069】
<効果>
(A)駆動装置1は、モータ2を備える。モータ2は、円筒状のステータ23を有する。モータ2は、ステータ23と径方向にて対向する円筒状のロータ24を有する。モータ2は、ステータ23とロータ24とを格納するステータハウジング25を有する。駆動装置1は、モータ2の回転軸(回転中心軸O)上に配置され、モータ2の駆動力が伝達される傘歯車4を備える。駆動装置1は、傘歯車4を介してモータ2の駆動力を伝達する分配機構6を備える。分配機構6の少なくとも一部は、ステータハウジング25の外周下面25cと重なる位置に配置されている。
【0070】
この構成では、分配機構6をモータ2の回転軸(回転中心軸O)からずらして配置することにより、分配機構6の一部をモータ2内に埋め込むことができる。これにより、駆動装置1の高さ、重心を低くすることができるので、駆動装置1の設置位置の自由度を高めることができる。上記実施形態によれば、車室空間を拡大することができ、駆動装置1を車両100の前輪だけでなく後輪にも搭載できる。
【0071】
(B)駆動装置1は、モータ2を備える。モータ2は、円筒状のステータ23を有する。モータ2は、ステータ23と径方向にて対向する円筒状のロータ24を有する。モータ2は、ステータ23とロータ24とを格納するステータハウジング25を有する。モータ2は、ロータ24を支持し、ステータハウジング25に軸受30を介して回転支持される円筒状のロータシャフト26bを有する。駆動装置1は、モータ2の回転軸(回転中心軸O)上に配置され、ロータシャフト26bに接続される接続部22を介してモータ2の駆動力が伝達される傘歯車4を備える。駆動装置1は、傘歯車4を介してモータ2の駆動力を伝達する分配機構6を備える。ロータシャフト26bの内径は、傘歯車4の外径よりも大きい。ロータシャフト26bと傘歯車4との少なくとも一部は、径方向に重なる位置に配置されている。
【0072】
モータ2の磁気回路を大径化すると、内周部に空間を設け易い。しかし、特許文献1に記載の技術では、円柱状のロータシャフトの軸方向両端部の2つの軸受と傘歯車とロータの側板が軸方向に直列に並ぶため、モータの軸長の短縮が困難である。これに対して、本実施形態の構成では、ロータシャフト26bが、傘歯車4よりも大きい内径を有する円筒状とされ、傘歯車4がロータシャフト26bと径方向に重なる位置に配置される。したがって、分配機構6の一部をモータ2内に埋め込むことができる。これにより、駆動装置1の高さ、重心を低くすることができるので、駆動装置1の設置位置の自由度を高めることができる。本実施形態によれば、車室空間を拡大することができ、駆動装置1を車両100の前輪だけでなく後輪にも搭載できる。
【0073】
(C)駆動装置1は、傘歯車4と噛み合うリングギヤ5を備える。駆動装置1は、分配機構6を格納し、リングギヤ5の駆動力を分配機構6に伝達するデフケース7を備える。リングギヤ5と分配機構6とは、モータ2の回転軸(回転中心軸O)を挟んで配置されている。
【0074】
この構成では、モータ2の回転軸(回転中心軸O)と分配機構6との間にリングギヤ5が配置される場合に比べて、分配機構6をモータ2の回転軸(回転中心軸O)に近づけて配置できる。その結果、分配機構6に接続される左右のドライブシャフト106の長さを近似する長さにすることができる。
【0075】
(D)駆動装置1は、傘歯車4と噛み合うリングギヤ5を備える。駆動装置1は、分配機構6を格納し、リングギヤ5の駆動力を分配機構6に伝達するデフケース7を備える。リングギヤ5は、デフケース7に直接締結されている。
【0076】
この構成では、従来のデフケース7をそのまま使用することができる。また、駆動装置1の部品点数を低減することができる。
【0077】
(E)ロータ24は、ステータ23よりも内周側に配置されている。
【0078】
ロータ24がステータ23よりも外周側に配置されるアウターロータ型のモータでは、ステータの軸方向の一方側に、ロータと傘歯車とを接続する接続部を配置する必要がある。これに対して、本実施形態に係るモータ2は、ロータ24がステータ23よりも内周側に配置されるインナーロータ型のモータであり、ロータ24と傘歯車4とを接続する接続部22をロータ24の内周側に配置することができる。これにより、モータ2の軸長を短くすることができる。なお、一般的に、インナーロータ型のモータに比べて、アウターロータ型のモータの方がトルクを出しやすいが、インナーロータ型のモータであってもステータを扁平形状に形成することにより、アウターロータ型のモータとほぼ変わらない出力密度を得ることができる。
【0079】
(F)ステータハウジング25の軸方向両側におけるロータ24よりも径方向内周側には、軸方向に凹んだ一対の第1凹部27a及び第2凹部27bが形成されている。
【0080】
モータが大径薄型化されると、剛性確保のためにリブが必要になる。ステータハウジングに凹部を設けることなく、ステータハウジングの外側にリブを設ける場合、モータの軸長が長くなる。これに対して、本実施形態に係る駆動装置1では、ステータハウジング25の軸方向両側に一対の第1凹部27a及び第2凹部27bが形成されている。このため、一対の第1凹部27a及び第2凹部27b内にリブ29を設けることにより、モータ2の軸長が長くなることを防止しつつ、モータ2の剛性を向上することができる。
【0081】
(G)駆動装置1は、インバータ3を備える。一対の第1凹部27a及び第2凹部27bのうちの一方の第1凹部27aには、分配機構6が配置されている。一対の第1凹部27a及び第2凹部27bのうちの他方の第2凹部27bには、インバータ3が配置されている。
【0082】
この構成では、駆動装置1の高さの増大を招くことなくモータ2とインバータ3との一体化が可能である。また、モータ2とインバータ3とを接続する3相線(U・V・W)の配線長を短くすることができる。さらに、ステータハウジング25をインバータ3の筐体として構成することにより、部品点数が削減され、駆動装置1全体の軽量化が可能である。
【0083】
(H)駆動装置1は、モータ2を備える。モータ2は、縦方向である軸方向に伸びる歯車軸41を有する。モータ2は、横方向である径方向に軸方向よりも長い円筒状のステータ23を有する。モータ2は、ステータ23の内径側に配置され、ステータ23に対向する円筒状のロータ24を有する。モータ2は、ロータ24の軸方向中央にて、歯車軸41とロータ24とを接続する円盤状の接続部22を有する。モータ2は、歯車軸41とステータ23とロータ24と接続部22とを格納するとともに歯車軸41の軸方向下端部を突出させたステータハウジング25を有する。駆動装置1は、歯車軸41の軸方向下端部に設けられ、ロータ24の駆動力が伝達される傘歯車4を備える。駆動装置1は、傘歯車4と噛み合うリングギヤ5を備える。駆動装置1は、傘歯車4及びリングギヤ5を介してモータ2の駆動力を伝達する分配機構6を備える。駆動装置1は、分配機構6を格納し、リングギヤ5の駆動力を分配機構6に伝達するデフケース7を備える。ステータハウジング25の軸方向下側には、ステータハウジング25内のロータ24及び接続部22に合わせてステータハウジング25の軸方向下側を上方向Uに凹ませた第1凹部27aが形成されている。第1凹部27aには、傘歯車4とリングギヤ5の一部と分配機構6の一部とデフケース7の一部とが格納されている。
【0084】
この構成では、ステータハウジング25の下面に形成された第1凹部27a内に傘歯車4とリングギヤ5の一部と分配機構6の一部とデフケース7の一部が格納されて埋め込むことができる。これにより、駆動装置1の高さ、重心を低くすることができるので、駆動装置1の設置位置の自由度を高めることができる。本実施形態によれば、車室空間を拡大することができ、駆動装置1を車両100の前輪だけでなく後輪にも搭載できる。
【0085】
(I)リングギヤ5と分配機構6とは、モータ2の回転軸(回転中心軸O)を中心として対向配置されている。リングギヤ5は、回転中心を径方向に向けて配置されている。デフケース7は、分配機構6を覆う大筒部71と、大筒部71よりも小径であってリングギヤ5の歯の無い内周面部52と大筒部71とを連結する小筒部72と、を有する。
【0086】
この構成では、リングギヤ5とデフケース7とがモータ2の回転軸(回転中心軸O)を挟んで配置されることにより、デフケース7が車両100のセンターにより近づけて配置でき、分配機構6から伸びる左右のドライブシャフト106が近似する長さに設けられる。また、デフケース7がリングギヤ5の歯の無い内周面部52と大筒部71とを連結する小筒部72を有するので、デフケース7を上方向Uと下方向Dとに向かう軸方向に大型化せずに歯車軸41の軸方向下端部に設けられた傘歯車4を跨げる。
【0087】
(J)傘歯車4は、リングギヤ5と大筒部71と小筒部72とで囲まれる空間に配置されている。
【0088】
この構成では、傘歯車4がステータハウジング25から突出しても、リングギヤ5と大筒部71と小筒部72とで囲まれる第1凹部27a内の空間に配置される。これにより、傘歯車4がモータ2内に埋め込める。また、傘歯車4と小筒部72とが軸方向に並んでも、駆動装置1の全体が軸方向に高くならない。
【0089】
(K)リングギヤ5と分配機構6とは、モータ2の回転軸(回転中心軸O)に対して片側に径方向に並んで配置されている。リングギヤ5は、回転中心を径方向に向けて配置されている。デフケース7は、リングギヤ5の歯の無い径方向背面部53と連結されるとともに分配機構6を覆う大筒部71を有する。
【0090】
この構成では、リングギヤ5がデフケース7に直接締結されることにより、従来のデフケース7をそのまま使用することができる。また、駆動装置1の部品点数を低減することができる。
【0091】
(L)駆動装置1は、軸方向上側が開口し、デフケース7を覆うデフ筐体8を備える。デフ筐体8の開口は、ステータハウジング25に覆われている。
【0092】
この構成では、ステータハウジング25がデフ筐体8を兼ねる。このため、部品点数が削減され、駆動装置1の全体が軽量化できる。
【0093】
(M)ステータハウジング25の軸方向上側には、ステータハウジング25内のロータ24及び接続部22に合わせてステータハウジング25の軸方向上側を下方向Dに凹ませた第2凹部27bが形成されている。第2凹部27bには、インバータ3が格納されている。
【0094】
この構成では、高さの増大を招くことなくモータ2とインバータ3とが一体化できる。また、モータ2とインバータ3とを接続する3相線(U・V・W)の配線長が短くできる。そして、ステータハウジング25がインバータ3の筐体を兼ねる。このため、部品点数が削減され、駆動装置1の全体が軽量化できる。
【0095】
(N)歯車軸41の軸方向上端部は、第2凹部27bの軸方向深さの途中まで突出している。駆動装置1は、ステータとロータから構成され、ステータがハウジング25に固定され、ロータが歯車軸41に固定されたレゾルバ28を有する。
【0096】
この構成では、レゾルバ28が歯車軸41の軸方向上端部の周りにて、回転角度を検出できる。
【0097】
(O)レゾルバ28は、歯車軸41の軸方向上端部の周りにて、回転角度を検出する。
【0098】
この構成では、レゾルバ28の配線がインバータ3への3相線(U・V・W)の配線と同じ第2凹部27bに収納され、配線の這いまわしが単純化できる。そして、モータ2関連の電気系統がモータ2の上側の第2凹部27bにまとめられる。
【0099】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0100】
1…駆動装置、2…モータ、3…インバータ、4…傘歯車、5…リングギヤ、6…分配機構、7…デフケース、8…デフ筐体、22…接続部、23…ステータ、24…ロータ、25…ステータハウジング、25a…上半体、25b…下半体、26a…ロータコア、26b…ロータシャフト、27a…第1凹部、27b…第2凹部、28…レゾルバ、29…リブ、41…歯車軸、51…ギヤ歯面部、52…内周面部、53…径方向背面部、71…大筒部、72…小筒部、100…車両、101…車台、102…支持部材、103…車輪、104…車輪、105…バッテリ、106…ドライブシャフト。