(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】注入率予測システム、水処理システム、および注入率予測方法
(51)【国際特許分類】
B01D 21/30 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B01D21/30 A
(21)【出願番号】P 2021213366
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】権 大維
(72)【発明者】
【氏名】布 光昭
(72)【発明者】
【氏名】岡田 公一
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-173793(JP,A)
【文献】特開平07-160661(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107552(WO,A1)
【文献】特開2002-259504(JP,A)
【文献】特開2002-126721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00-21/34
C02F 1/52- 1/56
C02F 1/70- 1/78
C02F 1/00
E03B 1/00-11/16
G06N 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水施設に流入する原水へ注入する凝集剤の注入率を予測する予測部と、
前記原水に凝集剤が注入された処理水において形成される凝集フロックの形成状態
の良否を判定する判定部とを含み、
前記予測部は、
前記原水の属性を示す属性データを説明変数とし、前記注入率を目的変数として学習された学習型予測モデルを用いた学習型予測処理と、
前記属性データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする非学習型予測モデルを用いた非学習型予測処理と、を実行可能であり、
前記予測部が前記学習型予測処理にて予測し
、かつ、前記凝集フロックの形成状態が不良と前記判定部によって判定された場合、前記予測部は、当該判定後に前記浄水施設に流入する原水の属性データを説明変数とする前記非学習型予測処理による予測に切り替える、
注入率予測システム。
【請求項2】
前記非学習型予測モデルは、前記属性データおよび前記注入率を変数として含
む代数式で表される、請求項1に記載の注入率予測システム。
【請求項3】
前記学習型予測モデルを構築するための教師データ群に教師データを追加する追加部と、
教師データが追加された前記教師データ群を用いて前記学習型予測モデルを再構築する構築部とをさらに含む、
請求項1または2に記載の注入率予測システム。
【請求項4】
前記予測部が前記非学習型予測処理にて予測し
、かつ、前記凝集フロックの形成状態が良好と前記判定部によって判定された場合、
前記追加部は、当該予測時の説明変数および目的変数の組を教師データとして教師データ群に追加し、
前記構築部は、当該教師データが追加された前記教師データ群を用いて前記学習型予測モデルを再構築する、
請求項3に記載の注入率予測システム。
【請求項5】
前記予測部は、
前記非学習型予測処理にて予測した前記注入率と、当該予測時の説明変数である前記属性データを説明変数として、前記再構築された前記学習型予測モデルを用いた前記学習型予測処理にて予測した前記注入率との差が所定値以上である場合、前記非学習型予測処理による予測を続行し、
前記差が前記所定値未満である場合、前記学習型予測処理による予測に切り替える、
請求項4に記載の注入率予測システム。
【請求項6】
前記予測部が前記非学習型予測処理にて予測し
、かつ、前記凝集フロックの形成状態が不良と前記判定部によって判定された場合、
前記追加部は、当該予測時の説明変数である前記属性データと、当該属性データに対するジャーテストにより求められた前記注入率との組を教師データとして前記教師データ群に追加し、
前記構築部は、当該教師データが追加された前記教師データ群を用いて前記学習型予測モデルを再構築し、
前記予測部は、当該再構築された前記学習型予測モデルを用いた前記学習型予測処理による予測に切り替える、
請求項3から5の何れか1項に記載の注入率予測システム。
【請求項7】
前記予測部が前記学習型予測処理にて予測し
、かつ、前記凝集フロックの形成状態が良好と前記判定部によって判定された場合、
前記追加部は、当該予測時の説明変数および目的変数の組を教師データとして前記教師データ群に追加し、
前記構築部は、当該教師データが追加された前記教師データ群を用いて前記学習型予測モデルを再構築し、
前記予測部は、当該再構築された前記学習型予測モデルを用いた前記学習型予測処理を続行する、
請求項3から6の何れか1項に記載の注入率予測システム。
【請求項8】
前記予測部が前記非学習型予測処理にて予測し
、かつ、前記凝集フロックの形成状態が不良と前記判定部によって判定された場合、所定の通知を出力する出力部をさらに含む、請求項1から7の何れか1項に記載の注入率予測システム。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の注入率予測システムと、
前記注入率予測システムが予測した前記注入率に従って前記原水への前記凝集剤の注入を制御する制御装置と、を含む水処理システム。
【請求項10】
1または複数の情報処理装置により実行される注入率予測方法であって、
浄水施設に流入する原水へ注入する凝集剤の注入率を予測する予測ステップと、
前記原水に凝集剤が注入された処理水において形成される凝集フロックの形成状態
の良否を判定する判定ステップとを含み、
前記予測ステップでは、
前記原水の属性を示す属性データを説明変数とし、前記注入率を目的変数として学習された学習型予測モデルを用いた学習型予測処理と、
前記属性データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする非学習型予測モデルを用いた非学習型予測処理と、を実行可能であり、
前記学習型予測処理にて予測し
、かつ、前記凝集フロックの形成状態が不良と前記判定ステップによって判定された場合、前記予測ステップにて、当該判定後に前記浄水施設に流入する原水の属性データを説明変数とする前記非学習型予測処理による予測に切り替える、
注入率予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水施設で用いられる凝集剤の注入率を予測するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、浄水場の水処理システムにおいて過去長期間に取得されたセンシングデータおよび薬品注入データを説明変数とし、次の時点の薬品注入データを目的変数とする予測モデルを構築するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるような学習型の予測モデルを用いた予測のみによって薬品注入を制御する場合、環境変化等に起因して生じ得る凝集不良を迅速に解消できないことがある。
【0005】
本発明の一態様は、簡便な構成により、浄水施設で用いられる凝集剤の注入率を迅速に是正し得る注入率予測システム等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る注入率予測システムは、浄水施設に流入する原水へ注入する凝集剤の注入率を予測する予測部と、前記原水に凝集剤が注入された処理水において形成される凝集フロックの形成状態に基づいて前記注入率の適否を判定する判定部とを含み、前記予測部は、前記原水の属性を示す属性データを説明変数とし、前記注入率を目的変数として学習された学習型予測モデルを用いた学習型予測処理と、前記属性データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする非学習型予測モデルを用いた非学習型予測処理と、を実行可能であり、前記予測部が前記学習型予測処理にて予測した前記注入率が不適と前記判定部によって判定された場合、前記予測部は、当該判定後に前記浄水施設に流入する原水の属性データを説明変数とする前記非学習型予測処理による予測に切り替える。
【0007】
ここで、原水の属性データの典型例は、原水濁度を含む、原水の水質であるが、他の例として、原水の流量、浄水施設の上流に設けられたダムにおける放流の有無、原水の水源が複数存在する場合における当該複数の水源からの水の混合比、などが挙げられる。
【0008】
前記の構成によれば、学習型予測処理で予測した注入率に従って凝集剤を注入しているときに凝集不良が生じた場合、学習型予測処理による予測から非学習型予測処理による予測に切り替えるという簡便な構成により、前記注入率を迅速に是正して凝集不良を許容できる程度に抑えることができる可能性が高まるため、許容できない凝集不良が持続する状況を回避し得る。
【0009】
なお、環境変化等に伴う属性データの変動に起因して学習型予測モデルの予測精度が低下する状況下においても、非学習型予測モデルの予測精度は許容範囲から外れないことが好ましい。非学習型予測モデルの好適例は、学習型予測モデルが運用される以前から浄水施設にて運用されている予測モデルである。
【0010】
本態様に係る注入率予測システムでは、前記非学習型予測モデルは、前記属性データおよび前記注入率を変数として含む所定の代数式で表されてもよい。前記の構成によれば、非学習型予測処理において、所定の代数式に基づいて前記注入率を予測することができる。代数式の好適例は、学習型予測モデルが運用される以前から浄水施設にて運用されている式である。代数式は、属性データと前記注入率との対応関係が示された早見表に相当するものであってもよい。
【0011】
本態様に係る注入率予測システムでは、前記学習型予測モデルを構築するための教師データ群に教師データを追加する追加部と、教師データが追加された前記教師データ群を用いて前記学習型予測モデルを再構築する構築部とをさらに含んでもよい。前記の構成によれば、学習型予測モデルを再構築することができる。良質の教師データを教師データ群に追加すれば、再構築後の学習型予測モデルの予測精度を高めることができる。
【0012】
本態様に係る注入率予測システムでは、前記予測部が前記非学習型予測処理にて予測した前記注入率が適切と前記判定部によって判定された場合、前記追加部は、当該予測時の説明変数および目的変数の組を教師データとして教師データ群に追加し、前記構築部は、当該教師データが追加された前記教師データ群を用いて前記学習型予測モデルを再構築してもよい。
【0013】
前記の構成によれば、非学習型予測処理を実行中に良好な凝集フロックが形成されたときの属性データと前記注入率との組を教師データとして追加した教師データ群を用いて、学習型予測モデルを再構築することができる。つまり、非学習型予測処理で得られた良好結果を用いて学習型予測モデルの予測精度を高めることができる。
【0014】
本態様に係る注入率予測システムでは、前記予測部は、前記非学習型予測処理にて予測した前記注入率と、当該予測時の説明変数である前記属性データを説明変数として、前記再構築された前記学習型予測モデルを用いた前記学習型予測処理にて予測した前記注入率との差が所定値以上である場合、前記非学習型予測処理による予測を続行し、前記差が前記所定値未満である場合、前記学習型予測処理による予測に切り替えてもよい。
【0015】
前記の構成によれば、学習型予測処理にて予測した注入率と非学習型予測処理にて予測した注入率との差が所定値以上である場合、非学習型予測処理による予測を続行する。換言すれば、学習型予測モデルの予測精度が、非学習型予測モデルの予測精度を基準としたときの合格点に至らない場合、非学習型予測処理による予測を続行する。
【0016】
一方、学習型予測処理にて予測した注入率と非学習型予測処理にて予測した注入率との差が所定値未満である場合、学習型予測処理による予測に切り替える。換言すれば、学習型予測モデルの予測精度が、非学習型予測モデルの予測精度を基準としたときの合格点に至った場合、学習型予測処理による予測に切り替える。したがって、非学習型予測処理による予測から学習型予測処理による予測への切り替え前後において、非学習型予測モデルの予測精度を基準とした良好な予測精度を確保することができる。
【0017】
本態様に係る注入率予測システムでは、前記予測部が前記非学習型予測処理にて予測した前記注入率が不適と前記判定部によって判定された場合、前記追加部は、当該予測時の説明変数である前記属性データと、当該属性データに対するジャーテストにより求められた前記注入率との組を教師データとして前記教師データ群に追加し、前記構築部は、当該教師データが追加された前記教師データ群を用いて前記学習型予測モデルを再構築し、前記予測部は、当該再構築された前記学習型予測モデルを用いた前記学習型予測処理による予測に切り替えてもよい。
【0018】
前記の構成によれば、非学習型予測処理にて予測した注入率に従って凝集剤を注入してもなお凝集不良が生じる場合、ジャーテストの結果を用いて学習型予測モデルを再構築したうえで、学習型予測処理による予測に切り替えることができる。つまり、ジャーテストで得られた良好結果を用いて予測精度が高められた学習型予測処理を実行できるため、前記注入率を精度よく予測できる。
【0019】
本態様に係る注入率予測システムでは、前記予測部が前記学習型予測処理にて予測した前記注入率が適切と前記判定部によって判定された場合、前記追加部は、当該予測時の説明変数および目的変数の組を教師データとして前記教師データ群に追加し、前記構築部は、当該教師データが追加された前記教師データ群を用いて前記学習型予測モデルを再構築し、前記予測部は、当該再構築された前記学習型予測モデルを用いた前記学習型予測処理を続行してもよい。
【0020】
前記の構成によれば、学習型予測処理を実行中に良好な凝集フロックが形成されたときの前記属性データと前記注入率との組を教師データとして追加した教師データ群を用いて、学習型予測モデルを再構築することができる。つまり、学習型予測処理で得られた良好結果を用いて学習型予測モデルの予測精度を高めることができる。
【0021】
本態様に係る注入率予測システムでは、前記予測部が前記非学習型予測処理にて予測した前記注入率が不適と前記判定部によって判定された場合、所定の通知を出力する出力部をさらに含んでもよい。
【0022】
前記の構成によれば、非学習型予測処理にて予測した注入率に従って凝集剤を注入してもなお凝集不良が生じる場合、浄水施設の運転管理者等に対して通知することができる。これにより、運転管理者等に対して、例えば、前記注入率を是正するためのジャーテストを行う契機を与えることができる。
【0023】
本発明の別の態様に係る水処理システムは、上記構成の注入率予測システムと、前記注入率予測システムが予測した前記注入率に従って前記原水への前記凝集剤の注入を制御する制御装置と、を含む。
【0024】
前記の構成によれば、前記注入率予測システムが予測した注入率に従って原水へ凝集剤を注入することができる。よって、凝集不良が生じても凝集不良が持続しないように注入制御された処理水を生成することができる。
【0025】
本発明のさらに別の態様に係る注入率予測方法は、1または複数の情報処理装置により実行される注入率予測方法であって、浄水施設に流入する原水へ注入する凝集剤の注入率を予測する予測ステップと、前記原水に凝集剤が注入された処理水において形成される凝集フロックの形成状態に基づいて前記注入率の適否を判定する判定ステップとを含み、前記予測ステップでは、前記原水の属性を示す属性データを説明変数とし、前記注入率を目的変数として学習された学習型予測モデルを用いた学習型予測処理と、前記属性データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする非学習型予測モデルを用いた非学習型予測処理と、を実行可能であり、前記学習型予測処理にて予測した前記注入率が不適と前記判定ステップによって判定された場合、前記予測ステップにて、当該判定後に前記浄水施設に流入する原水の属性データを説明変数とする前記非学習型予測処理による予測に切り替える。
【0026】
上記の方法によれば、上述の注入率予測システムと同様の効果を奏することができる。
【0027】
本発明の各態様に係る注入率予測システムおよび水処理システムは、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記注入率予測システムおよび水処理システムが備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記注入率予測システムおよび水処理システムをコンピュータにて実現させる注入率予測システムおよび水処理システムの制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、簡便な構成により、浄水施設で用いられる凝集剤の注入率を迅速に是正し得るという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。
【
図2】上記水処理システムにおける注入率予測システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】上記構成の水処理システムにおける注入率予測処理のうちの学習型予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】上記注入率予測処理のうちの非学習型予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の別の実施形態に係る水処理システムにおける注入率予測処理のうちの非学習型予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】上記注入率予測処理のうちのジャーテストに関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各実施形態に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、適宜その説明を省略する。
【0031】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
【0032】
(水処理システム)
図1は、本実施形態に係る水処理システムの概要を示す図である。本実施形態の水処理システム1は、例えば河川等から浄水施設に流入する原水に含まれる懸濁物質等の固形物を、凝集剤によって凝集させ、重力沈降によって原水から分離する凝集沈殿プロセスを実現するものである。
【0033】
図1に示すように、水処理システム1は、上記凝集沈殿プロセスを実現する設備として、着水井101、急速混和池102、フロック形成池103、および沈澱池104を備える。
【0034】
着水井101は、導水管によって送られてくる原水による水面の動揺を抑制し、着水井101以降の設備に送られる原水の水理的な安定性を確保するための槽である。
【0035】
着水井101には水質計111が設けられている。水質計111は、着水井101に着水した原水の水質を測定する。当該水質は、少なくとも濁度であり、他の例として、色度、水温、導電率、pH(水素イオン濃度指数)、アルカリ度(酸消費量)、紫外線吸光度等が挙げられる。水質計111によって測定された水質を示すデータは、注入率予測システム2に入力される。
【0036】
着水井101と急速混和池102との間の導水管には流量計112が設けられている。流量計112は、着水井101から急速混和池102に送られる処理水の流量を測定する。流量計112によって測定された流量のデータは、凝集剤注入装置113に入力される。
【0037】
急速混和池102は、着水井101から送られてきた原水に凝集剤を注入して、急速撹拌するための混和池である。ここで、凝集剤とは、原水に含まれる物質を凝集させるための薬剤である。凝集剤は、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC:PolyAluminumChloride)や硫酸アルミニウム(硫酸バンド)等の薬剤であり、凝集剤注入装置113によって急速混和池102に注入される。
【0038】
また、急速混和池102には、上記急速撹拌を行うための急速撹拌機114が設けられえている。急速撹拌機114は、例えば、フラッシュミキサである。急速撹拌機114は、一定の撹拌速度で動作するものであってもよいし、モータの制御によって撹拌速度を調節できるものであってもよい。急速混和池102では、凝集剤の注入と、急速撹拌機114の撹拌とによって微小な凝集フロックが形成される。このような微小なフロックを含む処理水は後段のフロック形成池103に送られ、フロック形成池103以降の設備においてフロックのさらなる集塊化が促進される。
【0039】
フロック形成池103は、処理水中においてより大きな凝集フロックを形成するための貯水槽である。フロック形成池103には、緩速撹拌機115が設けられている。緩速撹拌機115による処理水の撹拌によってフロックのさらなる集塊化が促進される。緩速撹拌機115は、例えばフロキュレータである。フロック形成池103の処理水は、所定時間の撹拌の後に後段の沈澱池104に送られる。
【0040】
また、フロック形成池103にはカメラ116が設けられている。カメラ116は、フロック形成池103にて形成された凝集フロックを撮影する。当該凝集フロックの撮影画像から当該フロックの径、面積、体積などを推定し、上記凝集フロックの形成状態を確認することができる。上記撮影画像のデータは、注入率予測システム2に入力される。
【0041】
なお、カメラ116は、凝集フロックの形成状態を確認して良否判定ができるのであれば、できる限り上流側に設置することが望ましい。これにより凝集剤の注入率の予測と凝集の良否の判定との間の時間遅れが短縮され、凝集不良による沈澱水の水質への悪影響を短時間に抑えることができる。また、カメラ116の代わりに、ゼータ電位、流動電流値など、凝集状態の良否を判定できる指標値を計測可能な装置を設けてもよい。
【0042】
沈澱池104は、フロック形成池103からの流入水に含まれる集塊化した凝集フロックを沈降分離するための池である。上記流入水が沈澱池104に所定時間(例えば1~3時間程度)滞留することにより、フロック形成池103において形成された粒径の大きな凝集フロックが重力により沈降する。これにより、凝集フロックが処理水から分離され、その上澄み液が沈澱水として濾過池(不図示)に送られる。なお、沈澱池104の後段には、上記濾過池に送られる処理水に対してオゾン処理や生物活性炭処理等の付加的な処理を施す設備が備えられてもよい。また、沈澱池104に沈澱した凝集フロックは汚泥として引き抜かれ、図示しない汚泥処理設備に送られる。
【0043】
上記濾過池は、沈澱池104から流入する沈澱水を濾過する濾過設備を備えた池である。上記濾過池では、沈澱水に残留する微小な固形物が濾過によって分離される。濾過された沈澱水は塩素剤によって消毒された後、水道水として需要者に供給される。
【0044】
(注入率予測システム)
図1に示すように、水処理システム1は、注入率予測システム2を備える。注入率予測システム2は、原水へ注入する凝集剤の注入率を、原水の属性に応じて予測するものである。ここで、上記注入率は、原水に注入する凝集剤の、原水に対する割合である。上記注入率は、従来、ジャーテストの結果、過去の知見、所定の計算式などを用いて決定されている。
【0045】
注入率予測システム2は、予測した注入率を凝集剤注入装置113に出力する。凝集剤注入装置113は、流量計112からの流量のデータと、注入率予測システム2からの注入率とに基づいて、凝集剤の注入量を決定して急速混和池102に注入する。なお、注入率予測システム2は、ハードウェアおよびソフトウェアの構成群を備えた1台の情報処理装置によって構成されてもよいし、複数台の情報処理装置によって構成されてもよい。
【0046】
図2は、注入率予測システム2の要部構成の一例を示すブロック図である。注入率予測システム2は、予測装置11、予測モデル構築装置12、入力装置13、出力装置14(出力部)、および記憶装置15を含んでいる。
【0047】
入力装置13は、ユーザの入力を受け付け、当該入力に基づく入力信号を、予測モデル構築装置12および予測装置11へ出力する。また、入力装置13は、外部の装置(例えば、水質計111、カメラ116など)から出力された情報を入力信号として受信し、受信した入力信号を、予測モデル構築装置12および予測装置11へ出力する。
【0048】
出力装置14は、予測装置11が生成した情報を出力する。出力装置14による出力方法は特に限定されない。出力装置14は、例えば、当該情報を画像として表示する表示装置であってもよいし、当該情報を音声として出力する音声出力装置であってもよい。また、出力装置14は、当該情報を電気信号として、凝集剤注入装置113へ出力する。
【0049】
記憶装置15は、注入率予測システム2にて使用されるプログラムおよびデータを保持する。記憶装置15は、教師データ記憶部32および予測モデル記憶部31を含む。教師データ記憶部32および予測モデル記憶部31が保持(記憶)するデータについては後述する。
【0050】
(予測装置)
予測装置11は、記憶装置15の予測モデル記憶部31に記憶された予測モデルを用いて、現原水に対して注入される凝集剤の注入率を予測する。予測装置11は、ハードウェアおよびソフトウェアの構成群を備えた1台の情報処理装置によって構成されてもよいし、複数台の情報処理装置によって構成されてもよい。本実施形態では、説明の簡略化のために、予測装置11は1台の情報処理装置によって構成されるものとして説明する。
【0051】
予測装置11は、制御部20を備えている。制御部20は、予測装置11の各部を統括して制御する。制御部20は、一例として、プロセッサおよびメモリにより実現される。この例において、プロセッサは、ストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部20に含まれている各部が構成される。
【0052】
予測モデル記憶部31は、原水の属性を示す属性データを説明変数とし、注入率を目的変数として学習された学習型予測モデルと、上記属性データを説明変数とし、上記注入率を目的変数とする非学習型予測モデルと、を記憶する。
【0053】
上記属性データの典型例は、原水の濁度である原水濁度を含む、原水の水質であるが、他の例として、原水の流量、浄水施設の上流に設けられたダムにおける放流の有無、原水の水源が複数存在する場合における当該複数の水源からの水の混合比、などが挙げられる。
【0054】
学習型予測モデルとは、教師データ群を機械学習することにより構築される予測モデルである。非学習型予測モデルとは、学習を伴わずに構築される予測モデルである。
【0055】
非学習型予測モデルの好適例は、学習型予測モデルが運用される以前から浄水施設にて運用されている予測モデルである。当該予測モデルは、具体的には、上記原水の属性データおよび上記注入率を変数として含む所定の代数式である。なお、代数式は、有理式および無理式を含む。当該予測モデルを利用することにより、非学習型予測処理において、所定の代数式に基づいて注入率を予測することができる。なお、上記代数式は、上記属性データと注入率との対応関係が示された早見表に相当するものであってもよい。
【0056】
制御部20は注入率予測部21(予測部)および適否判定部22(判定部)を含む。
【0057】
注入率予測部21は、予測モデル記憶部31から読み出した予測モデルを用いて、原水に対して注入される凝集剤の注入率を予測する。注入率予測部21は、当該予測モデルに原水の属性データを入力することにより、注入率を取得する。そして、注入率予測部21は、取得した注入率を出力装置14に出力させる。出力装置14が上述した制御信号出力装置である場合、当該注入率に基づいて凝集剤注入装置113が原水へ凝集剤を注入することができる。また、注入率予測部21は、上記属性データと上記注入率とを予測モデル構築装置12に送出する。
【0058】
適否判定部22は、フロック形成池103において形成される凝集フロックの形成状態に基づいて上記注入率の適否を判定する。なお、適否判定部22は、カメラ116が撮影した凝集フロックの撮影画像に対し画像解析等を行うことにより上記形成状態を特定してもよいし、運転管理者等が上記撮影画像を参照することにより特定した上記形成状態を、入力装置13を介して取得してもよい。
【0059】
上記凝集フロックの形成状態が良好である場合、適否判定部22は、上記注入率が適切であると判定する。上記良好である場合の例としては、原水の属性データに対して、凝集フロックの量、サイズなどが適度である場合、上記凝集フロックが球形に近くかつ稠密である場合、などが挙げられる。
【0060】
一方、上記凝集フロックの形成状態が不良である場合、適否判定部22は、上記注入率が不適であると判定する。上記不良である場合の例としては、原水の属性データに対して、凝集フロックの量、サイズなどが過剰または不足である場合、上記凝集フロックが不定形でありかつ間隙を多く含む場合、などが挙げられる。
【0061】
なお、凝集フロックの形成状態の良否は、粒子の径、面積、体積、外周長など、或いは、これらを組み合わせて算出する値など、上記撮影画像に対する直接計測および/または画像解析手法を用いて得られる数値のいずれかを用いて判定すればよい。適否判定部22は、適否の判定結果を注入率予測部21および予測モデル構築装置12に送出する。
【0062】
本実施形態では、注入率予測部21は、上記学習型予測モデルを用いた学習型予測処理と、上記非学習型予測モデルを用いた非学習型予測処理とを実行可能である。注入率予測部21は、通常、上記学習型予測処理を実行しており、上記注入率が不適であるとの判定結果を適否判定部22から受け取った場合、上記学習型予測処理に代えて、上記非学習型予測処理を実行する。
【0063】
上記学習型予測処理により適切に予測された注入率は、これまでの経験上、最適に近い注入率である。しかしながら、何等かの要因によって上記注入率が適正値から外れてしまう可能性がある。このような場合、従来から採用されている上記非学習型予測処理を利用することにより、最適な注入率は得られなくても、給水停止に至るような許容できない水質悪化は避けられると考えられる。
【0064】
従って、上記の構成によると、学習型予測処理で予測した注入率に従って凝集剤を注入しているときに凝集不良(凝集不足または凝集過剰)が生じた場合、学習型予測処理による予測から非学習型予測処理による予測に切り替えるという簡便な構成により、上記注入率を迅速に是正して凝集不良を許容できる程度に抑えることができる可能性が高まるため、許容できない凝集不良が持続する状況を回避し得る。
【0065】
なお、環境変化等に伴う属性データの変動に起因して学習型予測モデルの予測精度が低下する状況下においても、非学習型予測モデルの予測精度は許容範囲から外れないことが好ましい。
【0066】
(予測モデル構築装置)
予測モデル構築装置12は、原水に対して注入される凝集剤の注入率を予測するための学習型予測モデルを構築する。予測モデル構築装置12は、制御部40を備えている。制御部40は、予測モデル構築装置12の各部を統括して制御する。なお、制御部40は、制御部20と同様のハードウェア構成であるので、その説明を省略する。
【0067】
制御部40は構築部41および追加部42を含む。また、記憶装置15の教師データ記憶部32は、教師データの集合である教師データ群を記憶する。上記教師データは、原水の属性データと、当該原水に注入した凝集剤の注入率とが対応付けられたデータである。また、記憶装置15の予測モデル記憶部31は、上記教師データ群を用いて構築された学習型予測モデルを記憶する。
【0068】
構築部41は、教師データ記憶部32から読み出した、教師データ群を用いて機械学習を行い、学習モデルとしての学習型予測モデルを構築する。この教師データにおいて、原水の属性データが説明変数であり、注入率が目的変数である。当該学習型予測モデルに、原水の属性データを説明変数として入力すると、予測モデルにおいて当該属性データに対応する注入率が出力される。
【0069】
構築部41は、例えば、ランダムフォレスト(RF:Random Forest)、勾配ブースティング(GBR:Gradient Boosted tree Regression)またはニューラルネットワーク(NN:Neural Network)により得られる回帰モデルを上記学習型予測モデルとして生成する。構築部41は、構築した学習型予測モデルを予測モデル記憶部31に記憶する。
【0070】
追加部42は、教師データ記憶部32に記憶された教師データ群に教師データを追加する。これにより、教師データが追加された教師データ群を用いて、構築部41が学習型予測モデルを再構築することができる。良質の教師データを教師データ群に追加すれば、再構築後の学習型予測モデルの予測精度を高めることができる。
【0071】
(学習型予測モデルの再構築)
さらに、追加部42は、注入率予測部21から、上記属性データと、上記注入率と、を取得する一方、適否判定部22から適否の判定結果を取得する。追加部42は、適切との判定結果を取得した場合、追加部42は、上記属性データおよび上記注入率の組をそれぞれ説明変数および目的変数の組とする教師データを教師データ記憶部32の教師データ群に追加する。追加された教師データ群を用いて、構築部41が学習型予測モデルを再構築し、再構築した旨を注入率予測部21に通知する。
【0072】
一方、注入率予測部21は、上記非学習型予測処理の実行中に上記再構築した旨の通知を予測モデル構築装置12の構築部41から取得した場合、上記非学習型予測処理にて説明変数として利用した原水の属性データを説明変数とし、再構築された学習型予測モデルを用いて、学習型予測処理を実行する。次に、注入率予測部21は、実行した学習型予測処理にて上記属性データから予測した注入率と、上記非学習型予測処理にて上記属性データから予測した注入率との差を算出する。そして、注入率予測部21は、算出した差が所定値以上である場合、上記非学習型予測処理による予測を続行する一方、上記差が前記所定値未満である場合、上記学習型予測処理による予測に切り替える。
【0073】
(注入率予測処理)
図3および
図4は、上記構成の水処理システム1における注入率予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、
図3に示す学習型予測処理が実行される。すなわち、注入率予測部21は、原水の属性データを取得し(ステップS11、以下「ステップ」の記載を省略する。)、取得した属性データと、予測モデル記憶部31に記憶された学習型予測モデルとを用いて、凝集剤の注入率を予測する(S12、予測ステップ)。
【0074】
次に、適否判定部22は、凝集フロックの撮影画像に基づき当該凝集フロックの形成状態を特定し、特定した形成状態に基づき上記注入率が適切であるか否かを判定する(S13、判定ステップ)。上記注入率が適切であると判定された場合、追加部42は、ステップS12の予測時における上記属性データおよび上記注入率の組を教師データとして教師データ記憶部32の教師データ群に追加する(S14)。次に、追加された教師データ群を用いて、構築部41が学習型予測モデルを再構築する(S15)。その後、ステップS11に戻って、上記学習型予測処理を繰り返す。
【0075】
これにより、学習型予測処理を実行中に良好な凝集フロックが形成されたときの上記属性データと上記注入率との組を教師データとして追加した教師データ群を用いて、学習型予測モデルを再構築することができる。つまり、学習型予測処理で得られた良好結果を用いて学習型予測モデルの予測精度を高めることができる。
【0076】
一方、ステップS13にて上記注入率が不適であると判定された場合、
図3に示す学習型予測処理に代えて、
図4に示す非学習型予測処理が実行される。すなわち、注入率予測部21は、原水の属性データを取得し(S21)、取得した属性データと、予測モデル記憶部31に記憶された非学習型予測モデルとを用いて、凝集剤の注入率を予測する(S22)。
【0077】
次に、追加部42は、上記属性データおよび上記注入率の組を教師データとして教師データ記憶部32の教師データ群に追加する(S23)。次に、追加された教師データ群を用いて、構築部41が学習型予測モデルを再構築する(S24)。
【0078】
これにより、非学習型予測処理を実行中に良好な凝集フロックが形成されたときの属性データと注入率との組を教師データとして追加した教師データ群を用いて、学習型予測モデルを再構築することができる。つまり、非学習型予測処理で得られた良好結果を用いて学習型予測モデルの予測精度を高めることができる。
【0079】
次に、注入率予測部21は、ステップS21にて利用された原水の属性データと、ステップS24にて再構築された学習型予測モデルとを用いて、学習型予測処理を実行し、上記注入率を予測する(S25)。次に、注入率予測部21は、ステップS25の予測時に予測した注入率と、ステップS22の予測時に予測した注入率との差を算出し(S26)、算出した差が所定値以上であるか否かを判断する(S27)。上記差が所定値以上である場合、注入率予測部21は、ステップS21に戻って、上記非学習型予測処理が繰り返される。一方、上記差が所定値以上である場合、ステップS11に戻って、
図4に示す非学習型予測処理から
図3に示す学習型予測処理に切り替わる。
【0080】
これにより、学習型予測処理にて予測した注入率と、非学習型予測処理にて予測した注入率と、の差が所定値以上である場合、非学習型予測処理による予測を続行する。換言すれば、学習型予測モデルの予測精度が、非学習型予測モデルの予測精度を基準としたときの合格点に至らない場合、非学習型予測処理による予測を続行する。
【0081】
一方、上記の差が所定値未満である場合、学習型予測処理による予測に切り替える。換言すれば、学習型予測モデルの予測精度が、非学習型予測モデルの予測精度を基準としたときの合格点に至った場合、学習型予測処理による予測に切り替える。したがって、非学習型予測処理による予測から学習型予測処理による予測への切り替え前後において、非学習型予測モデルの予測精度を基準とした良好な予測精度を確保することができる。
【0082】
以上より、本実施形態の水処理システム1は、注入率予測システム2が予測した注入率に従って原水へ凝集剤を注入することができる。よって、凝集不良が生じても凝集不良が持続しないように注入制御された処理水を生成することができる。
【0083】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、
図5および
図6を参照して説明する。
【0084】
本実施形態の水処理システム1は、
図1~
図4に示す水処理システム1にジャーテストに関する動作が追加されている点が異なり、その他は同様である。
【0085】
ここで、ジャーテストとは、小分けした原水に対して異なる注入率で凝集剤を注入して撹拌し、それぞれの凝集状態を所定の評価項目で評価し、それらの評価結果に基づいて適正な注入率を特定するものである。上記評価項目としては、例えばフロックの状態や、上澄み液の濁度が挙げられる。
【0086】
本実施形態では、注入率予測部21が上記非学習型予測処理にて予測した上記注入率が不適であると適否判定部22が判定した場合、適否判定部22は、出力装置14を介して所定の通知を出力する。当該所定の通知は、上記注入率が不適である旨の通知であってもよいし、凝集不良が発生している旨の通知であってもよいし、ジャーテストを促す通知であってもよい。上記の構成によれば、上記非学習型予測処理にて予測した注入率に従って凝集剤を注入してもなお凝集不良が生じる場合、浄水施設の運転管理者等に対して通知することができる。これにより、運転管理者等に対して、例えば、注入率を是正するためのジャーテストを行う契機を与えることができる。
【0087】
また、上述のジャーテストが行われた場合、追加部42は、当該ジャーテストにて利用された原水の属性データと、当該ジャーテストにて特定された適正な注入率とを、入力装置13を介して取得する。次に、追加部42は、上記属性データと上記注入率との組を教師データとして上記教師データ群に追加する。追加された教師データ群を用いて、構築部41が学習型予測モデルを再構築し、再構築した旨を注入率予測部21に通知する。一方、注入率予測部21は、当該再構築された学習型予測モデルを用いた学習型予測処理による予測に切り替える。
【0088】
図5および
図6は、上記構成の水処理システム1における注入率予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。まず、学習型予測処理が実行される。当該学習型予測処理は、
図3に示す学習型予測処理(S11~S15)と同様であるので、その説明を省略する。
【0089】
ステップS13にて上記注入率が不適であると判定された場合、
図3に示す学習型予測処理に代えて、
図5に示す非学習型予測処理が実行される。
図5に示す非学習型予測処理は、
図4に示す非学習型予測処理に比べて、ステップS22とステップS23との間にステップS28が追加されている点が異なり、その他の処理は同様である。
【0090】
ステップS28において、適否判定部22は、ステップS13と同様に、注入率予測部21が予測した注入率が適切であるか否かを判定する。上記注入率が適切であると判定された場合、ステップS23に進む。
【0091】
一方、ステップS28にて上記注入率が不適であると判定された場合、
図5に示す非学習型予測処理に代えて、
図6に示すジャーテストに関する処理が実行される。すなわち、適否判定部22は、出力装置14を介して所定の通知を出力する(S31)。当該所定の通知を参照して、運転管理者等がジャーテストを実行する(S32)。
【0092】
次に、追加部42は、上記ジャーテストにて利用された原水の属性データと、当該ジャーテストにて特定された適正な凝集剤の注入率とを、入力装置13を介して取得する(S33)。次に、追加部42は、取得した上記属性データおよび上記注入率の組を教師データとして教師データ記憶部32の教師データ群に追加し(S34)、追加された教師データ群を用いて、構築部41が学習型予測モデルを再構築する(S35)。その後、ステップS11に戻って、
図6に示すジャーテストに関する処理から
図3に示す学習型予測処理に切り替わる。
【0093】
これにより、非学習型予測処理にて予測した注入率に従って凝集剤を注入してもなお凝集不良が生じる場合、ジャーテストの結果を用いて学習型予測モデルを再構築したうえで、学習型予測処理による予測に切り替えることができる。つまり、ジャーテストで得られた良好結果を用いて予測精度が高められた学習型予測処理を実行できるため、上記注入率を精度よく予測できる。
【0094】
なお、
図4のステップS13にて凝集剤の注入率が不適であると判定された場合、
図4に示す学習型予測処理に代えて、
図6に示すジャーテストに関する処理を実行してもよい。この場合、
図5に示す非学習型予測処理を省略することができる。
【0095】
〔付記事項〕
なお、上記実施形態では、注入率予測システム2は、複数の装置12~16によって構成されているが、1つの装置によって構成されてもよい。また、上記実施形態では、凝集剤の注入率を推定しているが、推定対象はこれに限定されるものではない。消毒用の次亜塩素酸ナトリウムなど、浄水施設で利用される任意の薬剤の注入率を推定する場合にも、本発明を適用することができる。
【0096】
〔ソフトウェアによる実現例〕
予測装置11および予測モデル構築装置12(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部20、40に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0097】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0098】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0099】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0100】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0101】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1 水処理システム
2 注入率予測システム
11 予測装置
12 予測モデル構築装置
13 入力装置
14 出力装置(出力部)
15 記憶装置
20、40 制御部
21 注入率予測部(予測部)
22 適否判定部(判定部)
31 予測モデル記憶部
32 教師データ記憶部
41 構築部
42 追加部
101 着水井
102 急速混和池
103 フロック形成池
104 沈澱池
111 水質計
112 流量計
113 凝集剤注入装置
114 急速撹拌機
115 緩速撹拌機
116 カメラ