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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】保存性向上方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20241205BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/14 200
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/20
A61K49/00
A61K31/728
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021502199
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007115
(87)【国際公開番号】W WO2020171212
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2019030416
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195524
【氏名又は名称】生化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】山口 巌
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/134621(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107456612(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104689381(CN,A)
【文献】特開2001-192336(JP,A)
【文献】国際公開第2017/118774(WO,A1)
【文献】SANSONE S., et al.,Endoscopic Submucosal Dissection of a Large Neoplastic Lesion at the Ileorectal Anastomosis in a Fam,Dig. Endosc.,2017年,Vol.29, No.3,pp.390-391,DOI: 10.1111/den.12834
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00-31/18
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 49/00-49/22
A61K 31/33-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の保存性向上方法であって、前記粘膜下注入材に、色素を添加することを含み、
前記色素がインジゴカルミンであり、
前記色素の添加量が0.004%(w/v)以下である、方法。
【請求項2】
前記色素の添加量が0.001%(w/v)以下である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の保存性向上方法であって、前記粘膜下注入材に、色素を添加することを含み、
前記色素がメチレンブルー、コンゴーレッド、エバンスブルーおよびトルイジンブルーからなる群から選択される少なくとも1種である、方法。
【請求項4】
前記色素の添加量が0.0001%(w/v)以上0.1%(w/v)未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記色素の添加量が0.001%(w/v)以上0.005%(w/v)以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の有効期間短縮を抑制する方法であって、前記粘膜下注入材に、色素を添加することを含み、
前記色素がインジゴカルミンであり、
前記色素の添加量が0.004%(w/v)以下である、方法。
【請求項7】
前記色素の添加量が0.001%(w/v)以下である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の有効期間短縮を抑制する方法であって、前記粘膜下注入材に、色素を添加することを含み、
前記色素がメチレンブルー、コンゴーレッド、エバンスブルーおよびトルイジンブルーからなる群から選択される少なくとも1種である、方法。
【請求項9】
前記色素の添加量が0.0001%(w/v)以上0.1%(w/v)未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記色素の添加量が0.001%(w/v)以上0.005%(w/v)以下である、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明にかかる技術は、ヒアルロン酸含有組成物の保存性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡的粘膜切除術(以下、単にEMRともいう)は、消化管等における粘膜病変を、開腹手術をせずに内視鏡を用いた操作によって切除する方法であり、粘膜病変部位をスネア等により内視鏡下で切り取ることにより行われる。この作業の効率化、操作性及び安全性の向上等を目的として、病変粘膜の下層に高分子ポリマーの溶液を注入して病変粘膜部を膨隆・挙上させる方法が知られている。高分子ポリマーとしてヒアルロン酸を含む粘性溶液は、粘膜下注入材としてEMRや内視鏡的粘膜下層剥離術(以下、単にESDともいう)に用いられている。
【0003】
EMR、ESD等における病変粘膜の視認性を向上させるため、注入する高分子ポリマーの溶液に色素を添加して着色する方法が試みられている。例えば、特開2001-192336号公報には、ヒアルロン酸等の多糖を含むEMR等に使用可能な医療用組成物に係る発明が記載されている。特開2001-192336号公報には、ヒアルロン酸ナトリウム、インジゴカルミンおよびエピネフリンが注射容器に封入された注射剤、およびこれを用いたEMRに係る発明が記載されている。国際公開第2018/134621号には、ヒアルロン酸の1以上の塩、生理食塩水およびインジゴカルミンを含み、エピネフリン等の血管収縮性効果を呈する物質を含まない、粘膜下注入材の形態のポリープ除去を補助するための組成物が記載されている。ムコアップ(登録商標)添付文書には、EMRおよびESDに使用可能な粘膜下注入材が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保存期間中の品質低下が抑制されたヒアルロン酸含有組成物を提供することは、医療への貢献という観点において重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ヒアルロン酸含有組成物に色素を添加することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の一側面は、ヒアルロン酸含有組成物の保存性向上方法であって、前記組成物に色素を添加することを含む、方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、保存期間中の品質保持性に優れたヒアルロン酸含有組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、少量の色素の添加がヒアルロン酸含有組成物の保存期間中の品質保持性を向上(例えば、粘度の低下抑制)するという驚くべき発見に、少なくとも部分的に基づく。
本発明の一側面は、ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材に色素を添加することを含む、粘膜下注入材の保存性向上方法に関する。
本発明の別の側面は、ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材に色素を添加することを含む、粘膜下注入材の有効期間(shelf life)の短縮を抑制する方法に関する。
本発明の別の側面は、ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材に色素を添加することを含む、粘膜下注入材の粘度増強方法に関する。
本発明の別の側面は、ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材に色素を添加することを含む、粘膜下注入材の不溶性微粒子生成抑制方法に関する。
本発明の別の側面は、ヒアルロン酸と、色素とを含み、保存性が向上した粘膜下注入材に関する。
本発明の別の側面は、色素の使用であって、ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の保存性向上における使用に関する。
本発明の別の側面は、色素の使用であって、ヒアルロン酸を含み、保存性が向上した粘膜下注入材の製造における使用に関する。
【0008】
本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明が以下の実施の形態のみに限定されるものではない。
【0009】
本発明の一実施形態は、ヒアルロン酸と、色素とを含み、保存性が向上した組成物に関する。組成物では、ヒアルロン酸を含み、色素を含まない対照に比べて、保存性が向上している。一実施形態では、例えば、ヒアルロン酸を含む組成物に色素が添加されて構成された粘膜下注入材が提供され、以下これを例に説明する。
【0010】
本明細書において、「ヒアルロン酸」はヒアルロン酸および医学的に許容されるその塩を含む意味として解釈される。好ましい一実施形態では、ヒアルロン酸として、ヒアルロン酸ナトリウムが採用される。ヒアルロン酸の由来は特に限定されず、例えば鶏冠、臍帯、ヒアルロン酸を産生する微生物等から分離、精製されたものを用いることができる。
【0011】
本明細書において「医学的に許容される塩」としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩等)、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、またはジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基との塩等が例示できるが、これらに限定されない。
【0012】
ヒアルロン酸の重量平均分子量は特に限定されない。例えば、ヒアルロン酸の重量平均分子量は、50万から120万であってもよい。ヒアルロン酸の重量平均分子量は、第十三改正日本薬局方:一般試験法・粘度測定法に従って極限粘度を測定し、Laurentらの式(Biochim. Biophys. Acta, 42, 476(1960))によって算出できる。
【0013】
粘膜下注入材におけるヒアルロン酸の含有量は、例えば0.01%(w/v)以上5%(w/v)以下である。好ましい一実施形態では、粘膜下注入材におけるヒアルロン酸の含有量は、0.1%(w/v)以上0.5%(w/v)以下である。より好ましい一実施形態では、粘膜下注入材におけるヒアルロン酸の含有量は、約0.4%(w/v)である。粘膜下注入材は溶媒、例えば水を含んでいてよい。
【0014】
本発明に使用される色素は、医学的に許容される染料(着色剤)であれば特に制限されない。色素としては、例えば、インジゴカルミン、メチレンブルー、ブリリアントブルー、トリパンブルー、エバンスブルー、トルイジンブルー、フェノールレッド、コンゴーレッド等が例示できる。好ましい一実施形態では、色素として、多環式化合物が含有されているものが採用される。多環式化合物には、多環式炭化水素化合物や多環式複素環化合物が含まれる。また、多環式化合物は縮合多環式化合物であってもよい。多環式炭化水素化合物が含有されている色素としては、例えばナフタレン系色素等が挙げられる。多環式複素環化合物が含有されている色素としては、例えばフェノチアジン系色素、インドール系色素等が挙げられる。より好ましい一実施形態では、色素として、インジゴカルミン、メチレンブルー、コンゴーレッド、エバンスブルーおよびトルイジンブルーからなる群から選択される少なくとも1種が採用される。さらに好ましい一実施形態では、色素として、インジゴカルミンおよびメチレンブルーからなる群から選択される少なくとも1種が採用される。
【0015】
色素の添加量は、本発明の目的が達成される限りにおいて、特に制限されない。例えば、色素の添加量は、粘膜下注入材全体に対して、0.1%(w/v)未満、0.05%(w/v)以下、0.02%(w/v)以下、0.008%(w/v)以下、0.007%(w/v)以下、0.006%(w/v)以下、0.005%(w/v)以下、0.004%(w/v)以下、0.003%(w/v)以下、0.002%(w/v)以下、0.001%(w/v)以下、または0.001%(w/v)未満であり得る。色素の添加量は、粘膜下注入材全体に対して、例えば0.0001%(w/v)以上、または0.0002%(w/v)以上であり得る。粘性と視認性とのバランスの観点から、好ましい一実施形態では、粘膜下注入材における色素の添加量は、0.008%(w/v)以下0.0001%(w/v)以上である。より好ましい一実施形態では、粘膜下注入材における色素の添加量は、0.0001%(w/v)以上0.005%(w/v)以下である。さらに好ましい一実施形態では、粘膜下注入材における色素の添加量は、0.0001%(w/v)以上0.002%(w/v)以下である。
【0016】
一実施形態では、色素は、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材(対照。以下同じ)と比較して、粘膜下注入材の保存性が向上する量で添加される。
一実施形態では、色素は、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材と比較して、粘膜下注入材の有効期間の短縮を抑制する量で添加される。
一実施形態では、色素は、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材と比較して、粘膜下注入材の粘度が増強する量で添加される。
一実施形態では、色素は、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材と比較して、粘膜下注入材の不溶性微粒子生成が抑制される量で添加される。
【0017】
粘膜下注入材の粘度は、病変粘膜部の膨隆・挙上の観点から重要である。一実施形態では、色素は、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材と比較して、40℃で保存した場合の前記粘膜下注入材の粘度低下が抑制される量で添加される。保存期間は、例えば7日間、14日間、または30日間であり得る。保存条件の詳細は、実施例の記載が参酌される。
【0018】
一実施形態では、色素は、前記粘膜下注入材を40℃で30日間保存した場合の粘度低下率が5.0%以下となる量で添加される。好ましい一実施形態では、色素は、前記粘膜下注入材を40℃で30日間保存した場合の粘度低下率が3.0%以下となる量で添加される。より好ましい一実施形態では、色素は、前記粘膜下注入材を40℃で30日間保存した場合の粘度低下率が2.5%以下となる量で添加される。さらに好ましい一実施形態では、色素は、前記粘膜下注入材を40℃で30日間保存した場合の粘度低下率が2.0%以下となる量で添加される。なお、本明細書において「粘度低下率」は、実施例に記載の方法により測定される。
【0019】
一実施形態では、前記粘膜下注入材は、40℃で30日間保存した場合の吸光度残存率が85%以上となる。好ましい一実施形態では、前記粘膜下注入材は、40℃で30日間保存した場合の吸光度残存率が95%以上となる。より好ましい一実施形態では、前記粘膜下注入材は、40℃で30日間保存した場合の吸光度残存率が99%以上となる。なお、本明細書において「吸光度残存率」は、実施例に記載の方法により測定される。
【0020】
粘膜下注入材中の不溶性微粒子の数は、注入時の操作性に影響し得る。一実施形態では、色素は、光安定性試験前後での直径10μm以上の不溶性微粒子数の増加率が6.0倍以下、5.5倍以下、5.0倍以下、4.5倍以下、4.0倍以下、3.5倍以下、3.0倍以下、2.5倍以下、2.0倍以下、1.5倍以下、または1.0倍以下となる量で添加される。一実施形態では、色素は、光安定性試験前後での直径25μm以上の不溶性微粒子数の増加率が13.0倍以下、12.0倍以下、11.0倍以下、10.0倍以下、9.0倍以下、8.0倍以下、7.0倍以下、6.0倍以下、5.0倍以下、4.0倍以下、3.0倍以下、2.0倍以下、または1.0倍以下となる量で添加される。なお、不溶性微粒子数の増加率は、曝光前の不溶性微粒子数を基準として、光安定性試験後の不溶性微粒子数を倍率で表した値である。光安定性試験は、前記粘膜下注入材を透明ガラスバイアルに封入し、総照度120万lux・hr(2000lux×25日)、総近紫外放射エネルギー317W・h/m、25℃の条件下で曝光することで行われる。一実施形態では、前記粘膜下注入材は、5℃にて25日間遮光保存した場合の当該粘膜下注入材20mL中に存在する直径25μm以上の不溶性微粒子の数は、30個以下である。好ましい一実施形態では、前記粘膜下注入材は、5℃にて25日間遮光保存した場合の当該粘膜下注入材20mL中に存在する直径25μm以上の不溶性微粒子の数は、20個以下である。より好ましい一実施形態では、前記粘膜下注入材は、5℃にて25日間遮光保存した場合の当該粘膜下注入材20mL中に存在する直径25μm以上の不溶性微粒子の数は、15個以下である。不溶性微粒子の数は、第17改正日本薬局方に記載の注射剤の不溶性微粒子試験法に準じて測定される。
【0021】
例えば色素としてインジゴカルミンを用いる場合、粘膜下注入材における添加量は、例えば0.004%(w/v)以下、0.003%(w/v)以下、0.002%(w/v)以下、または0.001%(w/v)以下であり得る。粘膜下注入材におけるインジゴカルミンの添加量は、例えば0.0001%(w/v)以上、または0.0002%(w/v)以上であり得る。粘性と視認性とのバランスの観点から、好ましい一実施形態では、粘膜下注入材におけるインジゴカルミンの添加量は、0.0001%(w/v)以上0.004%(w/v)以下である。より好ましい一実施形態では、粘膜下注入材におけるインジゴカルミンの添加量は、0.0002%(w/v)以上0.003%(w/v)以下である。
【0022】
例えば色素としてメチレンブルーを用いる場合、粘膜下注入材における添加量は、例えば0.008%(w/v)以下、0.007%(w/v)以下、0.006%(w/v)以下、0.005%(w/v)以下、0.004%(w/v)以下、0.003%(w/v)以下、0.002%(w/v)以下、0.001%(w/v)以下、または0.001%(w/v)未満であり得る。粘膜下注入材におけるメチレンブルーの添加量は、例えば0.0001%(w/v)以上、または0.0002%(w/v)以上であり得る。粘性と視認性とのバランスの観点から、好ましい一実施形態では、粘膜下注入材におけるメチレンブルーの添加量は、0.008%(w/v)以下0.0001%(w/v)以上である。より好ましい一実施形態では、粘膜下注入材におけるメチレンブルーの添加量は、0.0001%(w/v)以上0.005%(w/v)以下である。さらに好ましい一実施形態では、粘膜下注入材におけるメチレンブルーの添加量は、0.0001%(w/v)以上0.002%(w/v)以下である。
【0023】
本発明の一実施形態は、ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の保存性向上方法に関する。当該方法は、前記粘膜下注入材に色素を添加することを含む。粘膜下注入材における保存性の向上は、当該粘膜下注入材に含まれる色素を含まず且つヒアルロン酸を含む比較注入材との品質特性の比較により評価され得る。一実施形態では、品質特性は粘度であり、例えば、比較注入材の粘度に対する粘膜下注入材の高い粘度は、保存性向上の指標となる。別の実施形態では、品質特性は不溶性微粒子の数であり、例えば、比較注入材に含まれる不溶性微粒子数に対する粘膜下注入材に含まれるより少ない不溶性微粒子数は、保存性向上の指標となる。当該比較は、粘膜下注入材および比較注入材を所定の期間保存した後に実施され得る。更なる実施形態では、保存は、40℃、75%相対湿度(RH)の条件で30日間である。
【0024】
本発明の一実施形態は、ヒアルロン酸と色素とを含む粘膜下注入材の当該色素の退色抑制方法、または吸光度残存率向上方法に関する。
【0025】
本明細書において色素の「添加」とは、ヒアルロン酸と色素とを合一させる操作であれば特に制限されない。例えば、ヒアルロン酸に対して色素を添加してもよく、色素に対してヒアルロン酸を添加してもよい。また、色素はそれ自体が添加されてよく、色素溶液(例えば、色素水溶液)として添加されてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態は、ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の有効期間短縮を抑制する方法に関する。当該方法は、前記粘膜下注入材に色素を添加することを含む。粘膜下注入材の有効期間の短縮の抑制は、当該粘膜下注入材に含まれる色素を含まず且つヒアルロン酸を含む比較注入材の製品有効期間と比較して、粘膜下注入材の製品有効期間が同等かそれより長いことを意味する。たとえば、粘膜下注入材の有効期間の短縮の抑制は、当該粘膜下注入材に含まれる色素を含まず且つヒアルロン酸を含む比較注入材を対照として比較した、保存期間における粘度低下速度が小さい場合に、達成されたものと判断してもよい。粘膜下注入材の有効期間(使用期限ともいう)は、保存期間と品質保持性(例えば粘度の低下)との関係性や、EMRやESDにおける技術常識を考慮して、当業者であれば設定できる。粘膜下注入材の有効期間は、例えば製造日から2年以上、2年6月以上、3年以上、3年6月以上であり得る。有効期間の上限は特にされないが、例えば5年以下であってもよい。
【0027】
本発明の一実施形態は、ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の粘度増強方法に関する。当該方法は、ヒアルロン酸に色素を添加することを含む。粘膜下注入材における粘度の増強は、当該粘膜下注入材に含まれる色素を含まず且つヒアルロン酸を含む比較注入材の粘度との比較により評価され得る。例えば、比較注入材以上の粘度を粘膜下注入材が示し、EMRやESDに適切な膨隆性を示す場合は、粘度の増強と判断され得る。あるいは、比較注入材の粘度に対して、粘膜下注入材がより高い粘度を示す場合は、粘度の増強と判断され得る。当該比較は、粘膜下注入材および比較注入材を所定の期間保存した後に実施され得る。更なる実施形態では、保存は、40℃、75%RHの条件で30日間である。
【0028】
粘膜下注入材は、本発明の目的が阻害されない程度において、安定化剤、乳化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤等の添加剤を含有していてもよい。好ましい一実施形態では、粘膜下注入材は、生理的リン酸緩衝液(塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、およびリン酸二水素ナトリウム)を含む。一実施形態では、塩化ナトリウムの含有量が0.5%(w/v)以上2%(w/v)以下であってよい。
【0029】
好ましい一実施形態では、粘膜下注入材は、エピネフリンを含まなくてよい。
粘膜下注入材のpHは特に制限されない。一実施形態では、粘膜下注入材のpHは7以上8以下であってよい。
粘膜下注入材の浸透圧比(生理食塩水に対する比)もまた、特に制限されない。一実施形態では、粘膜下注入材の浸透圧比は0.9以上1.2以下であってよい。
一実施形態では、粘膜下注入材は、液状、またはゲル状であってよい。さらなる一実施形態では、粘膜下注入材は水性溶液(例えば、水溶液)である。
粘膜下注入材は、例えばバイアル、または注射筒に封入された形態で提供され得る。粘膜下注入材は、滅菌されたものであってもよい。
【0030】
本発明の一側面は、上記方法により品質低下が抑制された粘膜下注入材を患者の粘膜下に注入して、粘膜層の隆起を形成することを含む、内視鏡的粘膜切除方法または内視鏡的粘膜下層剥離方法に関する。粘膜としては、消化器粘膜(例えば胃粘膜、大腸粘膜、食道粘膜等)が例示される。更なる実施形態では、粘膜下注入材は腫瘍部位に注入される。
【0031】
以下に本発明の具体的な実施形態を例示するが、本発明はこれらに限定されない。
[1] ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の保存性向上方法であって、前記粘膜下注入材に色素を添加することを含む、方法。
[2] 前記色素が、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材と比較して、前記粘膜下注入材の保存性が向上する量で添加される、[1]に記載の方法。
[3] 前記色素が、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材と比較して、40℃で30日間保存した場合の前記粘膜下注入材の粘度低下が抑制される量で添加される、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記色素が、前記粘膜下注入材を40℃で30日間保存した場合の粘度低下率が3.0%以下となる量で添加される、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記色素がインジゴカルミン、メチレンブルー、コンゴーレッド、エバンスブルーおよびトルイジンブルーからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]から[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記粘膜下注入材がエピネフリンを含まない、[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
[7] [1]から[6]のいずれかに記載の方法により保存性を向上させた粘膜下注入材を、これを必要とする患者の粘膜下に注入して粘膜層の隆起を形成することを含む、内視鏡的粘膜切除方法または内視鏡的粘膜下層剥離方法。
[8] 前記粘膜層が、食道、胃、および大腸からなる群から選択される、[7]に記載の方法。
[9] 前記粘膜下注入材が腫瘍部位に注入される、[7]または[8]に記載の方法。
[10] ヒアルロン酸を含む粘膜下注入材の有効期間短縮を抑制する方法であって、前記粘膜下注入材に色素を添加することを含む、方法。
[11] 前記色素が、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材と比較して、前記粘膜下注入材の有効期間の短縮を抑制する量で添加される、[10]に記載の方法。
[12] 前記色素が、ヒアルロン酸を含み且つ当該色素を含まない比較注入材と比較して、40℃で30日間保存した場合の前記粘膜下注入材の粘度低下が抑制される量で添加される、[10]または[11]に記載の方法。
[13] 前記色素が、前記粘膜下注入材を40℃で30日間保存した場合の粘度低下率が3.0%以下となる量で添加される、[10]から[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 前記色素がインジゴカルミン、メチレンブルー、コンゴーレッド、エバンスブルーおよびトルイジンブルーからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[10]から[13]のいずれかに記載の方法。
[15] 前記粘膜下注入材がエピネフリンを含まない、[10]から[14]のいずれかに記載の方法。
[16] [10]から[15]のいずれかに記載の方法により有効期間短縮が抑制された粘膜下注入材を、これを必要とする患者の粘膜下に注入して粘膜層の隆起を形成することを含む、内視鏡的粘膜切除方法または内視鏡的粘膜下層剥離方法。
[17] 前記粘膜層が、食道、胃、および大腸からなる群から選択される、[16]に記載の方法。
[18] 前記粘膜下注入材が腫瘍部位に注入される、[16]または[17]に記載の方法。
[19] ヒアルロン酸、および色素を含み、40℃で30日間保存した場合の粘度低下率が5%以下である、粘膜下注入材。
[20] 前記色素がインジゴカルミン、メチレンブルー、コンゴーレッド、エバンスブルーおよびトルイジンブルーからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[19]に記載の粘膜下注入材。
[21] 前記色素の含有量が0.02%(w/v)以下である、[19]または[20]に記載の粘膜下注入材。
[22] 0.5%(w/v)以上2%(w/v)以下の塩化ナトリウムを含有する、[19]から[21]のいずれかに記載の粘膜下注入材。
[23] 液状、またはゲル状である、[19]から[22]のいずれかに記載の粘膜下注入材。
[24] エピネフリンを含有しない、[19]から[23]のいずれかに記載の粘膜下注入材。
[25] 前記ヒアルロン酸の含有量が0.1%(w/v)以上0.5%(w/v)以下である、[19]から[24]のいずれかに記載の粘膜下注入材。
[26] 内視鏡的粘膜切除方法または内視鏡的粘膜下層剥離方法であって、[19][25]のいずれかに記載の粘膜下注入材を患者の粘膜下に注入して、粘膜層の隆起を形成することを含む、方法。
[27] 前記粘膜層が、食道、胃、および大腸からなる群から選択される、[26]に記載の方法。
[28] 前記粘膜下注入材が腫瘍部位に注入される、[26]または[27]に記載の方法。
[29] 粘度低下が抑制された粘膜下注入材の製造方法であって、ヒアルロン酸と色素とを含む組成物を調製することを含み、前記粘膜下注入材は、40℃で30日間保存した場合の粘度低下率が5%以下である、方法。
粘膜下注入材等を例に説明しているが、本明細書における「粘膜下注入材」および「比較注入材(対照)」を「組成物」および「組成物(対照)」としたものも本発明思想に含まれる。
【実施例
【0032】
以下、実施例を用いて本発明の好ましい実施形態についてより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例によって限定されるわけではない。
【0033】
(実施例1)
80mgのヒアルロン酸ナトリウム(重量平均分子量:約80万)、180mgの塩化ナトリウム、および表1に示される終濃度となる量の色素を20mLのリン酸緩衝液に溶解させ、粘膜下注入材を得た(pH7.5)。なお、80mgのヒアルロン酸ナトリウムと180mgの塩化ナトリウムを20mLのリン酸緩衝液に溶解させて調製した粘膜下注入材を、比較注入材(対照)とした。
【0034】
得られた粘膜下注入材をガラスバイアルに封入し、40℃、75%RHの恒温恒湿槽内で保存し、経時的に粘度および視認性を評価した。
【0035】
(粘度測定)
以下の手法により、粘膜下注入材の極限粘度(dL/g)を測定した。すなわち、粘膜下注入材を蒸留水にて10%(w/v)に希釈したものを試験液とし、試験液10mLをウベローデ型粘度計に入れ、30℃の恒温槽中、自動粘度測定装置(RIGO社製、型式:VMC-252)を使用し測定した。
なお、表1中の粘度低下率は、以下の式(I)により求めた。
粘度低下率(%)=[(V-V)/V]×100 ・・・ 式(I)
: 保存開始前の極限粘度
: 任意の期間保存後の極限粘度
【0036】
(呈色性の評価)
目視にて呈色性を評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
メチレンブルーを含む粘膜下注入材については、保存期間を通じて呈色性の低下(退色)は認められなかった。インジゴカルミンを含む粘膜下注入材については、保存開始から30日後において、呈色性が軽度に低下した。
【0039】
(実施例2)
コンゴーレッド、エバンスブルーおよびトルイジンブルーをそれぞれ用いて、実施例1と同様の調製方法で粘膜下注入材を得た。色素の濃度はいずれも0.001%(w/v)とした。
得られた粘膜下注入材をガラスバイアルに封入し、40℃、75%RHの恒温恒湿槽内で30日保存し、保存前と30日保存後の粘度低下率を実施例1と同じ測定方法で評価した。
結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
(実施例3)
表3に記載の色素をそれぞれ用いて、実施例1と同様の調製方法で粘膜下注入材を得た。色素の濃度はいずれも0.001%(w/v)とした。得られた粘膜下注入材をガラスバイアルに封入し、40℃、75%RHの恒温恒湿槽内で保存し、保存前と30日保存後の吸光度を評価した。
【0042】
(吸光度測定)
以下の手法により、退色性を評価するために粘膜下注入材の吸光度を測定した。まず蒸留水にて各色素の0.001%(w/v)水溶液を調製し、これを試験液とした。当該試験液のUV-Visスペクトルを測定した。測定する波長は、350nm以上800nm以下とした。測定した範囲で極大吸収を示した波長を測定波長とした。
前記で決定した各色素の測定波長にて粘膜下注入材の吸光度を測定した。
なお、表3中の吸光度残存率は以下の式(II)により求めた。
吸光度残存率(%)=Abs30/Abs×100 ・・・ 式(II)
Abs: 保存開始前の吸光度
Abs30: 30日保存後の吸光度
結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
(実施例4)
実施例1と同様の調製方法で、表4に記載の色素およびその濃度となる粘膜下注入材を得た(pH7.5)。また、実施例1と同様の調製方法で比較注入材(対照)を得た。
得られた粘膜下注入材および比較注入材をそれぞれガラスバイアルに封入し、5℃にて遮光保存し、25日間保存を行った。25日保存後の粘膜下注入材および比較注入材の不溶性微粒子を評価した。
【0045】
(不溶性微粒子測定)
以下の手法により、粘膜下注入材および比較注入材の不溶性微粒子を測定した。すなわち、光遮蔽型自動微粒子測定装置(リオン株式会社製)にて試料20mL当たりの微粒子数(直径が25μm以上のもの)を測定した。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】