(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】血球減少症のモデル動物の製造方法、血球減少症モデル動物、血球機能の評価方法、血球の製造方法、血球減少症の治療薬候補物質のスクリーニング方法、および血球減少症の治療薬の候補物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20240101AFI20241205BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20241205BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20241205BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241205BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20241205BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20241205BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20241205BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20241205BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20241205BHJP
【FI】
A01K67/027
C12Q1/68
A61P7/00
A61K45/00
G01N33/15 Z
G01N33/49 X
G01N33/50 Z
C07K16/28
C12N5/078
(21)【出願番号】P 2021505144
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010961
(87)【国際公開番号】W WO2020184685
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2019046562
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515062289
【氏名又は名称】株式会社メガカリオン
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 善弘
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】伊東 幸敬
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-271294(JP,A)
【文献】特開2006-271376(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123242(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/204256(WO,A1)
【文献】KATSMAN, Y. et al.,Transfusion,2010年,Vol.50,pp.1285-1294
【文献】YANG, J. et al.,Scientific reports,2016年,Vol.6, No.38238,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウスにX線を照射する照射工程と、
前記マウスに抗血小板抗体を投与する投与工程とを含み、
前記X線の照射量は、4~6Gyの範囲であり、
前記照射工程を2~3回実施し、
前記照射工程後、最初のX線照射時を基準として、7~9日に前記投与工程を実施
し、
前記抗血小板抗体は、抗CD41抗体および抗CD42b抗体からなる群から選択された少なくとも一つを含み、
前記マウスは、免疫不全マウスである、
血小板減少症のモデルマウスの製造方法。
【請求項2】
前記抗血小板抗体は、細胞除去機能性抗体である、請求項
1記載の製造方法。
【請求項3】
前記免疫不全マウスは、NOGマウスである、請求項
1または2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の血小板減少症のモデルマウスの製造方法により、血小板減少症のモデルマウスを製造する製造工程と、
前記血小板減少症のモデルマウスに血小板を投与する工程と
、
前記血小板の機能を評価する評価工程とを含む、
血小板機能の評価方法。
【請求項5】
前記評価工程において、前記モデルマウスを出血させて前記血小板の機能を評価する、請求項
4記載の評価方法。
【請求項6】
前記評価工程において、止血時間に基づき、前記血小板の機能を評価する、請求項
4または
5記載の評価方法。
【請求項7】
前記血小板の機能は、止血機能である、請求項
4から
6のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項8】
前記血小板は、血小板製剤または血小板機能模倣剤(Platelet functional mimetics)である、請求項
4から
7のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項9】
前記血小板は、ヒト血小板である、請求項
4から
8のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項10】
被検血小板について、血小板の機能を評価する評価工程と、
前記評価工程において、基準を満たす血小板を機能性の血小板として選抜する選抜工程とを含み、
前記評価工程は、請求項
4から
9のいずれか一項に記載の血小板機能の評価方法により実施される、血小板の製造方法。
【請求項11】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の血小板減少症のモデルマウスの製造方法により、血小板減少症のモデルマウスを製造する製造工程と、
被検物質を前記血小板減少症のモデルマウスに投与する工程と、
前記モデルマウスに
おいて血液中の血小板数が増加する被検物質を、血小板減少症の治療薬の候補物質として選択する選択工程とを含む、
血小板減少症の治療薬
の候補物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記選択工程において、前記被検物質を投与していないコントロールのモデルマウスと比較して、前記血小板数が増加している被検物質を、前記治療
薬の候補物質として選択する、請求項
11記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
前記被検物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質および核酸からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項
11または
12記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
被検物質から血小板減少症の治療薬の候補物質を選抜する選抜工程を含み、
前記選抜工程は、請求項
11から
13のいずれか一項に記載の血小板減少症の治療薬
の候補物質のスクリーニング方法で実施される、血小板減少症の治療薬の候補物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血球減少症のモデル動物の製造方法、血球減少症モデル動物、血球機能の評価方法、血球の製造方法、血球減少症の治療薬候補物質のスクリーニング方法、および血球減少症の治療薬の候補物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板製剤は、手術、傷害等の出血時、その他血小板の減少を伴う患者に対して投与される。血小板製剤は、献血で得られた血液から現在製造されている。しかしながら、人口構成の変化から、献血量が低減し、血小板製剤が不足することが懸念されている。
【0003】
また、献血の提供者が細菌等の感染症に罹患している場合、血液が細菌汚染されている可能性があるため、細菌汚染された血小板製剤の投与による感染症のリスクがある。このため、in vitroで血小板を製造する方法が開発されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Takayama N et.al, “Generation of functional platelets from human embryonic stem cells in vitro via ES-sacs, VEGF-promoted structures that concentrate hematopoietic progenitors.”, 2008, Blood, Vol. 111, No.11, pages 5298-5306
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
in vitroで製造された血小板の中には、血小板の機能である止血作用を十分に有さない血小板も存在するため、製造された血小板の機能を評価できる方法が求められている。そこで、血小板の機能の評価方法として、正常な動物と比較して、血小板の数が減少したモデル動物(以下、「血小板減少症モデル動物」または「モデル動物」という)に血小板を投与し、止血機能が回復するかを指標に評価可能かを検討した。
【0006】
動物において血小板を減少させる方法としては、NOGマウス(NOD/Shi-scid-IL2Rγnullマウス)にX線を全身照射し、前記動物の骨髄を破壊する方法があり、血小板減少症のモデルマウス、または血球数が減少したモデル動物(以下、「血球減少症モデル動物」ともいう)として使用されている。そこで、本発明者らは、前記X線照射による血球減少症モデル動物を用いて、血小板の機能を評価しようとしたところ、前記X線照射による血球減少症モデル動物では、出血時間が短く、一定しないため、血小板の機能評価が困難という問題が生じることを見出した。これは、前記X線照射による血球減少症モデル動物では、血小板数は減少しており、血小板減少症の病態を分析するモデル動物としては使用できるが、血小板の止血機能を評価するには、血小板の減少の程度または個体間のばらつきの抑制が不十分であるためと推定された。また、血小板以外の血球についても、同様の問題を見出した。
【0007】
そこで、本発明は、例えば、X線照射による血球減少症モデル動物と比較して、より血球数が減少した血球減少症のモデル動物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の血球板減少症のモデル動物の製造方法(以下、「モデル動物の製造方法」ともいう)は、非ヒト動物に放射線を照射する照射工程と、
前記非ヒト動物に抗血球抗体を投与する投与工程とを含む。
【0009】
本発明の第1の血球減少症のモデル動物(以下、「第1のモデル動物」ともいう)は、前記本発明の血球減少症のモデル動物の製造方法により得られる。
【0010】
本発明の第2の血球減少症のモデル動物(以下、「第2のモデル動物」ともいう)は、下記条件(1)~(3)のいずれか一つ以上を満たす:
(1)血液中の血小板数が、7.3×104個/μL以下である。
(2)血液中の赤血球数が、500×104個/μL以下である。
(3)血液中の白血球数が、3×102個/μL以下である。
【0011】
本発明の血球機能の評価方法(以下、「評価方法」ともいう)は、血球減少症のモデル動物に血球を投与する工程と
前記血球の機能を評価する評価工程とを含み、
前記血球減少症のモデル動物は、前記本発明の血球減少症のモデル動物である。
【0012】
本発明の血球の製造方法は、被検血球について、血球の機能を評価する評価工程と、
前記評価工程において、基準を満たす血球を機能性の血球として選抜する選抜工程とを含み、
前記評価工程は、前記本発明の血球機能の評価方法により実施される。
【0013】
本発明の血球減少症の治療薬候補物質のスクリーニング方法(以下、「スクリーニング方法」ともいう)は、被検物質を血球減少症のモデル動物に投与する工程と、
前記モデル動物に血液中の血球数が増加する被検物質を、血球減少症の治療薬の候補物質として選択する選択工程とを含み、
前記モデル動物は、本発明の血球減少症のモデル動物である。
【0014】
本発明の血球減少症の治療薬の候補物質の製造方法は、被検物質から血球減少症の治療薬の候補物質を選抜する選抜工程を含み、
前記選抜工程は、前記本発明のスクリーニング方法で実施される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、X線照射による血球減少症モデル動物と比較して、血球数が減少した血球減少症のモデル動物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例1における濃縮システムを示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1における実施例、比較例および参考例のマウスの調製方法を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1におけるマウスの血液中の血小板数を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例2における出血時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<血球減少症のモデル動物の製造方法>
本発明の血球減少症のモデル動物の製造方法は、前述のように、非ヒト動物に放射線を照射する照射工程と、前記非ヒト動物に抗血球抗体を投与する投与工程とを含む。本発明のモデル動物の製造方法は、前記照射工程と前記投与工程とを実施することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明のモデル動物の製造方法によれば、前記X線照射によるモデル動物の製造方法と比較して、得られたモデル動物の血中の血球数を減少させることができる。また、本発明のモデル動物の製造方法によれば、例えば、X線照射による血球減少症モデル動物と比較して、得られたモデル動物の血中の血球数を減少させることができるため、前記血球が血小板の場合、出血時の止血時間(出血時間)が延長できる。このため、本発明のモデル動物の製造方法によれば、例えば、血球機能の評価、血小板減少症を含む血球減少症の治療用候補物質の取得に適した血球減少症のモデル動物を製造できる。また、本発明のモデル動物の製造方法によれば、例えば、得られたモデル動物の血中の血球数を十分に減少させることができるため、血球の減少率の高い再現性および個体間のばらつきが抑制されたモデル動物を製造できる。前記ばらつきは、例えば、標準誤差として、比較できる。
【0018】
本発明において、「血球減少症」は、例えば、前記モデル動物と対応する正常な動物(例えば、未処理の動物)と比較して、血中の血球数が有意に減少していることを意味する。具体例として、対象の動物における血中の血球数が、例えば、前記対象の動物と対応する正常な動物における血中の血球数を基準として、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下の場合、前記対象の動物は、血球減少症であるということができる。前記動物がNOGマウスの場合、対象のマウスにおける血中の血球数が、例えば、550×104個/μL以下、500×104個/μL以下、400×104個/μL以下、300×104個/μL以下、200×104個/μL以下、100×104個/μL以下、または50×104個/μL以下の場合、前記対象のマウスは、血球減少症であるということができる。前記血球の種類は、特に制限されず、例えば、血小板、赤血球、白血球等があげられる。前記白血球は、例えば、単球;好中球、好酸球、好塩基球等の顆粒球;T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞等のリンパ球;等があげられる。前記「血球減少症」において、減少する血球の種類は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上でもよいし、全種類でもよい。
【0019】
前記血球として血小板が減少している場合、前記血球減少症は、「血小板減少症」ということもできる。具体例として、対象の動物における血中の血小板数が、例えば、前記対象の動物と対応する正常な動物における血中の血小板数を基準として、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下の場合、前記対象の動物は、血小板減少症であるということができる。前記対象の動物における血中の血小板数が、例えば、前記対象の動物と対応する正常な動物における血中の血小板数を基準として、約40%(例えば、35~45%)、約20%(例えば、15~25%)、および約10%(例えば、14%以下)の場合、前記対象の動物は、軽度、中度、および重度の血小板減少症であるということができる。前記動物がNOGマウスの場合、対象のマウスにおける血中の血小板数が、例えば、50×104個/μL以下、40×104個/μL以下、30×104個/μL以下、20×104個/μL以下、10×104個/μL以下、5×104個/μL以下、または4×104個/μL以下の場合、前記対象のマウスは、血小板減少症であるということができる。
【0020】
前記血球として赤血球が減少している場合、前記血球減少症は、「赤血球減少症」ということもできる。具体例として、対象の動物における血中の赤血球数が、例えば、前記対象の動物と対応する正常な動物における血中の赤血球数を基準として、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下の場合、前記対象の動物は、赤血球減少症であるということができる。前記動物がNOGマウスの場合、対象のマウスにおける血中の赤血球数が、例えば、500×104個/μL以下、350×104個/μL以下、100×104個/μL以下、または50×104個/μL以下の場合、前記対象のマウスは、赤血球減少症であるということができる。
【0021】
前記血球として白血球が減少している場合、前記血球減少症は、「白血球減少症」ということもできる。具体例として、対象の動物における血中の白血球数が、例えば、前記対象の動物と対応する正常な動物における血中の白血球数を基準として、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下の場合、前記対象の動物は、白血球減少症であるということができる。前記動物がNOGマウスの場合、対象のマウスにおける血中の白血球数が、例えば、3×102個/μL以下、2×102個/μL以下、または1×102個/μL以下の場合、前記対象のマウスは、白血球減少症であるということができる。
【0022】
本発明において、前記血球数は、例えば、血球計算盤を用いて計数してもよいし、血球特異的な抗体により染色し、フローサイトメーターでカウントすることにより計数してもよいし、血球計数装置を用いて計数してもよい。
【0023】
本発明において、モデル動物と正常な動物と比較する場合、前記「有意」は、例えば、統計学的有意差に基づき判断できる。前記統計解析手法は、公知の統計解析手法を選択して使用できる。前記統計解析手法は、特に制限されず、例えば、一元配置ANOVA、一元配置反復測定ANOVA、ダネット検定、スチューデントのt検定およびウィルコクソン検定があげられ、これらを組み合わせることもできる。例えば、前記検定において、P値が0.05未満であった場合に有意差が認められたと判断し、一方、P値が0.05以上であった場合に有意差が認められなかったと判断できる。
【0024】
本発明において、「血小板」は、血液中の細胞成分の一つであり、CD41aおよびCD42bが陽性である細胞成分を意味する。前記血小板は、例えば、細胞核を有さず、また、前記巨核球と比較して、大きさが小さい。このため、前記血小板と前記巨核球とは、例えば、細胞核の有無および/または大きさにより区別できる。前記血小板は、血栓形成と止血において重要な役割を果たすとともに、損傷後の組織再生や炎症の病態生理にも関与することが知られている。また、前記血小板は、出血等により血小板が活性化されると、その膜上にIntegrin αIIBβ3(glycoprotein IIb/IIIa; CD41aとCD61の複合体)等の細胞接着因子の受容体が発現することが知られているまた、前記血小板が活性化されると、血小板同士が凝集し、血小板から放出される各種の血液凝固因子によってフィブリンが凝固することにより、血栓が形成され、止血が進む。
【0025】
本発明において、「赤血球」は、血液中の血液細胞であり、Ter119(glycophorin-A)および/またはCD235a陽性である細胞を意味する。
【0026】
本発明において、「白血球」は、血液中の血液細胞であり、CD2、CD3、CD4、CD8、CD13、CD19、CD21、および/またはCD56が陽性である細胞を意味する。
【0027】
本発明において、モデル動物は、非ヒト動物である。前記非ヒト動物の種類は、特に制限されず、例えば、サル、ゴリラ、チンパンジー、マーモセット等の霊長類;マウス、ラット、モルモット等の齧歯類;イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ウマ等があげられる。前記モデル動物は、例えば、血球が減少した状態を維持し易いことから、免疫不全動物または細網内皮系が破壊された動物が好ましく、免疫不全マウスがより好ましい。前記免疫不全動物は、例えば、重症複合免疫不全症(SCID)のモデル動物があげられる。前記細網内皮系が破壊された動物は、例えば、細胞性免疫不全動物があげられる。前記免疫不全マウスは、例えば、Scidマウス、NOD-Scidマウス、NOGマウス等があげられ、好ましくは、NOGマウスである。
【0028】
前記照射工程は、前記非ヒト動物に放射線を照射する工程である。前記照射工程は、例えば、放射線発生装置で発生した放射線を、前記非ヒト動物に照射することにより実施できる。前記照射工程において、例えば、前記非ヒト動物の全体に均一に放射線を照射できることから、前記非ヒト動物は、麻酔下または固定状態であることが好ましい。
【0029】
前記照射工程において、照射する放射線の種類は、例えば、X線、γ線等の電磁放射線;α線、β線、電子線、陽子線、中性子線、重粒子線等の粒子放射線;等があげられ、血球数の減少を効果的に誘導できることから、好ましくは、X線、γ線等の電磁放射線である。前記照射工程において用いる放射線は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0030】
前記照射工程における放射線照射量(線量)は、特に制限されず、例えば、前記非ヒト動物に応じて、適宜設定できる。具体例として、前記放射線照射量は、例えば、1.5~12Gy、1.5~10Gy、1.5~6Gyであり、好ましくは、2.5~6Gy、4~6Gyである。前記放射線照射量は、例えば、1回の照射あたりの放射線照射量である。
【0031】
前記照射工程において、前記放射線の照射は、例えば、1回行なってもよいし、複数回実施してもよい。前記放射線の照射を複数回行なう場合、前記放射線の照射回数は、例えば、2~5回であり、好ましくは、2~3回である。前記照射工程において、前記放射線の照射を複数回行なう場合、複数回の放射線照射量の合計量は、例えば、3~12Gy、5~12Gyであり、血球数の減少を効果的に誘導でき、かつ非ヒト動物の放射線障害を抑制できることから、好ましくは、8~12Gy、8~11Gy、8~10Gyである。
【0032】
前記照射工程において、前記放射線の照射を複数回実施する場合、各回の実施間隔は、特に制限されないが、例えば、1回の照射後、つぎの照射をすぐに実施してもよいし、次の照射まで間隔をあけて実施してもよい。前記放射線の照射を、間隔を開けて複数回実施する場合、各回の間隔は、例えば、12~48時間、好ましくは、約24時間(例えば、20~28時間)である。
【0033】
前記照射工程では、血球数の減少を効果的に誘導でき、かつ非ヒト動物の放射線障害を抑制できることから、前記非ヒト動物に1回あたり4~6Gyの放射線を2回照射することが好ましい。前記2回の照射は、約1日(例えば、18~30時間)あけて実施されることが好ましい。
【0034】
前記投与工程では、前記非ヒト動物に抗血球抗体を投与する。前記抗血球抗体の投与は、例えば、一般的な抗体の投与方法で実施でき、具体例として、前記抗血球抗体を含む抗体液を、前記非ヒト動物に静脈投与、皮下投与、または腹腔内投与することにより実施できる。
【0035】
前記抗血球抗体は、前記血球に対する抗体、すなわち、前記血球に結合可能な抗体である。前記抗血球抗体は、好ましくは、前記血球の細胞膜表面抗原に対する抗体である。前記抗血球抗体は、特に制限されず、例えば、前記非ヒト動物の種類と、前記血球の種類およびその細胞表面抗原とに応じて、適宜決定できる。前記抗血球抗体は、例えば、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。後者の場合、各抗血球抗体は、例えば、同じ抗原に結合してもよいし、異なる抗原に結合してもよい。前記抗血球抗体は、細胞除去機能性抗体、いわゆるデプリーション(Depletion)抗体であることが好ましい。
【0036】
抗体の細胞除去機能は、例えば、抗体の抗体依存性細胞傷害(Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity:ADCC)活性または補体依存性細胞傷害(Complement Dependent Cytotoxicity:CDC)活性により生じる。また、ADCC活性は、例えば、抗体のFc領域のN-グリコシド結合糖鎖、特に、前記糖鎖におけるフコースの有無より制御されている。前記N-グリコシド結合糖鎖は、例えば、IgG型抗体の297番目のアスパラギンと結合している。このため、前記抗血球抗体の細胞除去機能性は、例えば、前記抗血球抗体のN-グリコシド結合糖鎖の付加または除去および前記糖鎖におけるフコースの付加または除去により制御できる。具体的には、前記抗血球抗体が、N-グリコシド結合糖鎖を付加された場合、または前記抗血球抗体の糖鎖にフコースが付加された場合、前記抗血球抗体は、ADCC活性が低下する。他方、前記抗血球抗体が、N-グリコシド結合糖鎖を除去された場合、または前記抗血球抗体の糖鎖からフコースが除去された場合、前記抗血球抗体は、ADCC活性が向上する。
【0037】
前記抗血球抗体が血小板の細胞膜表面抗原に対する抗体である場合、前記血小板の細胞膜表面抗原に対する抗体は、例えば、抗CD41抗体、抗CD42a抗体、抗CD42b抗体、抗CD42c抗体、抗CD42d抗体、抗CD49b抗体、抗CD61抗体、抗CD109抗体、および抗GPVI抗体等があげられる。前記抗CD41抗体は、例えば、抗CD41a抗体があげられる。抗CD41抗体としては、例えば、MWReg30(クローン名)が使用できる。抗CD42d抗体としては、例えば、1C2(クローン名)が使用できる。
【0038】
前記抗血球抗体が赤血球の細胞膜表面抗原に対する抗体である場合、前記赤血球の細胞膜表面抗原に対する抗体は、例えば、抗Ter119抗体、抗CD235a抗体等があげられる。抗TER-119抗体としては、例えば、TER-119(クローン名)が使用できる。抗CD235a抗体としては、例えば、11E4B-7-6(クローン名)が使用できる。
【0039】
前記抗血球抗体が白血球の細胞膜表面抗原に対する抗体である場合、前記白血球の細胞膜表面抗原に対する抗体は、例えば、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗CD13抗体、抗CD19抗体、抗CD21抗体、抗CD56抗体等があげられる。抗CD2抗体としては、SFCI3Pt2H9(クローン名)が使用できる。抗CD3抗体としては、UCHT1(クローン名)が使用できる。抗CD4抗体としては、SFCI12T4D11(クローン名)が使用できる。抗CD8抗体としては、SFCI21Thy2D3(クローン名)が使用できる。抗CD13抗体としては、SJ1D1(クローン名)が使用できる。抗CD19抗体としては、HD237(クローン名)が使用できる。抗CD21抗体としては、BL13(クローン名)が使用できる。抗CD56抗体としては、N901(クローン名)が使用できる。
【0040】
前記投与工程において、前記非ヒト動物に投与される抗血球抗体の投与量は、特に制限されず、例えば、前記非ヒト動物の種類、その体重、および投与前における血球数等に応じて、適宜設定できる。具体例として、前記投与量は、例えば、1~1000μg/kg体重、10~500μg/kg体重、または20~100μg/kg体重である。前記非ヒト動物がマウスの場合、前記投与量は、例えば、1~1000μg/kg体重、10~100μg/kg体重、または30~70μg/kg体重である。前記投与量は、例えば、前記投与前における血小板の数が相対的に多い場合、多く設定してもよいし、前記投与前における血小板の数が相対的に少ない場合、少なく設定してもよい。
【0041】
前記投与工程において、前記非ヒト動物への抗血球抗体の投与回数は、例えば、1回でもよいし、複数回でもよい、前記抗体の投与を複数回行なう場合、前記抗体の投与回数は、例えば、2~5回であり、好ましくは、2~3回である。前記投与工程において、前記抗体の投与を複数回行なう場合、複数回の抗体投与量の合計量は、例えば、2~2000μg/kg体重、20~1000μg/kg体重、または40~200μg/kg体重であり、血球数の減少を効果的に誘導できることから、好ましくは、40~200μg/kg体重または60~100μg/kg体重である。前記非ヒト動物がマウスの場合、複数回の抗体投与量の合計量は、例えば、2~2000μg/kg体重、20~200μg/kg体重、または40~200μg/kg体重であり、好ましくは、60~140μg/kg体重である。
【0042】
前記投与工程において、前記抗血球抗体の投与を複数回実施する場合、各回の実施間隔は、特に制限されないが、例えば、1回の投与後、つぎの投与をすぐに実施してもよいし、次の投与まで間隔をあけて実施してもよい。前記抗血球抗体の投与を、間隔を開けて複数回実施する場合、各回の間隔は、例えば、12~48時間、好ましくは、約24時間(例えば、20~28時間)である。
【0043】
前記照射工程および前記投与工程の順序は、特に制限されず、例えば、前記照射工程の実施後に、前記投与工程を実施してもよいし、前記投与工程の実施後に、前記照射工程を実施してもよい。また、前記照射工程における照射または前記投与工程における投与を複数回実施する場合、本発明のモデル動物の製造方法は、前記照射工程と前記投与工程とを並行して実施してもよい。この場合、本発明のモデル動物の製造方法は、前記照射工程における照射間に、前記投与工程を実施してもよいし、前記投与工程における投与間に、前記照射工程を実施してもよい。また、本発明のモデル動物の製造方法は、前記照射工程における照射および前記投与工程における投与を複数回実施する場合、前記照射および前記投与の順序は、特に制限されない。
【0044】
本発明のモデル動物の製造方法は、血球数の減少をより効果的に誘導できることから、前記照射工程後に前記投与工程を実施することが好ましい。一般的に、放射線照射による血球細胞の減少は、例えば、時間を要する。他方、抗血球抗体の投与による血球細胞の減少は、例えば、早期に生じると推定される。このため、前記照射工程後に前記投与工程を実施することで、特に、前記照射工程後の血球細胞の減少のピーク時期(照射後約7日)に合わせて、前記投与工程を実施することにより、血球数の減少をさらに効果的に誘導できる。
【0045】
前記照射工程後、前記投与工程までの間隔は、特に制限されず、例えば、前記照射工程後、すぐに前記投与工程を実施してもよいし、一定の間隔を開けて実施してもよい。前記一定の間隔を開けて実施する場合、前記投与工程は、例えば、前記照射工程後、最初の放射線照射時を基準として、4~14日、5~13日であり、血球数の減少をさらに効果的に誘導できることから、好ましくは、6~10日、7~9日である。
【0046】
前記照射工程後に前記投与工程を実施する場合、前記投与工程の実施時期は、例えば、前記照射工程後の非ヒト動物の血球数に基づき、決定してもよい。この場合、前記照射工程後、前記非ヒト動物における血中の血球数が、例えば、前記対象の動物と対応する正常な動物における血中の血球数を基準として、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、または1%以下の場合に、前記非ヒト動物に対して、前記投与工程を実施することが好ましい。前記血球は、例えば、血小板、赤血球、および白血球のうちいずれか一つ以上である。具体例として、前記血球減少症モデル動物として血小板、赤血球、または白血球の減少症モデル動物を製造する場合、前記投与工程の実施時期は、例えば、前記非ヒト動物における血小板数、赤血球数、または白血球数を指標として、決定できる。
【0047】
このようにして、本発明のモデル動物の製造方法は、後述の本発明のモデル動物を製造できる。
【0048】
<第1の血球減少症のモデル動物>
本発明の第1の血球減少症のモデル動物は、前述のように、前記本発明のモデル動物の製造方法により得られる。本発明の第1のモデル動物は、前記本発明のモデル動物の製造方法により得られることが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の第1のモデル動物は、後述の本発明の評価方法、血球の製造方法スクリーニング方法および治療薬候補物質の製造方法に好適に使用できる。本発明の第1のモデル動物は、前記本発明のモデル動物の製造方法の説明を援用できる。
【0049】
前記第1のモデル動物は、例えば、下記条件(1)~(3)のいずれか一つ以上を満たす。前記第1のモデル動物が血小板減少症モデル動物の場合、前記第1のモデル動物は、下記条件(1)を満たすことが好ましい。前記第1のモデル動物が赤血球減少症モデル動物の場合、前記第1のモデル動物は、下記条件(2)を満たすことが好ましい。前記第1のモデル動物が白血球減少症モデル動物の場合、前記第1のモデル動物は、下記条件(3)を満たすことが好ましい。
(1)血液中の血小板数が、7.3×104個/μL以下である。
(2)血液中の赤血球数が、500×104個/μL以下である。
(3)血液中の白血球数が、3×102個/μL以下である。
【0050】
前記条件(1)において、前記血液中の血小板数は、例えば、前記本発明のモデル動物の製造方法における前記照射工程または前記投与工程における最終処理時を基準として、1~13日、好ましくは、1~11日における血小板数である。
【0051】
前記条件(1)において、前記血液中の血小板数は、好ましくは、5×104個/μL以下であり、より好ましくは、4×104個/μL以下である。前記血液中の血小板数は、例えば、血球成分を用いて計数でき、例えば、単離した全血およびその血球画分等に対して、前述の血球数の計数方法を実施することにより、計数できる。前記(1)において、血液中の血小板数は、例えば、1匹の第1のモデル動物の血液中の血小板数または複数の第1のモデル動物の血液中の血小板数の平均値を意味する。
【0052】
前記条件(2)において、前記血液中の赤血球数は、好ましくは、300×104個/μL以下であり、より好ましくは、100×104個/μL以下である。前記血液中の赤血球数は、例えば、血球成分を用いて計数でき、例えば、単離した全血およびその血球画分等に対して、前述の血球数の計数方法を実施することにより、計数できる。前記(2)において、血液中の赤血球数は、例えば、1匹の第1のモデル動物の血液中の赤血球数または複数の第1のモデル動物の血液中の赤血球数の平均値を意味する。
【0053】
前記条件(3)において、前記血液中の白血球数は、好ましくは、2×102個/μL以下であり、より好ましくは、1×102個/μL以下である。前記血液中の白血球数は、例えば、血球成分を用いて計数でき、例えば、単離した全血およびその血球画分等に対して、前述の血球数の計数方法を実施することにより、計数できる。前記(3)において、血液中の白血球数は、例えば、1匹の第1のモデル動物の血液中の白血球数または複数の第1のモデル動物の血液中の白血球数の平均値を意味する。
【0054】
本発明の第1のモデル動物は、前記条件(1)~(3)のうちいずれか一つ以上を満たせばよく、一つを満たしてもよいし、複数を満たしてもよく、全部を満たしてもよい。
【0055】
前記第1のモデル動物は、例えば、下記条件(4)および(5)の少なくとも一方を満たす。前記第1のモデル動物が血小板減少症のモデル動物である場合、前記第1のモデル動物は、例えば、下記条件(4)を満たすことが好ましい。
(4)出血開始から止血までの時間(出血時間または止血時間)が5分を超える
(5)前記モデル動物の血液は、抗血球抗体を含む
【0056】
前記条件(4)において、前記止血時間の測定方法は、例えば、前記モデル動物の血管から出血させた際に、前記出血開始から前記出血が停止するまでの時間である。出血させる血管は、例えば、動脈、静脈があげられ、好ましくは、末梢の動脈である。具体例として、前記モデル動物がマウス等の齧歯類の場合、前記出血させる動脈は、尾動脈があげられ、好ましくは、腹側の尾動脈である。前記止血時間の測定では、前記出血させた後、出血箇所を液体に浸漬することが好ましい。前記液体は、例えば、生理的食塩水等の等張液である。
【0057】
前記条件(4)おいて、前記止血時間は、例えば、5分を超え、好ましくは、6分以上、7分以上、8分以上、または9分以上であり、より好ましくは、10分以上である。前記(4)において、止血時間は、例えば、1匹の第1のモデル動物の止血時間または複数の第1のモデル動物の止血時間の平均値を意味する。
【0058】
前記条件(5)において、前記抗血球抗体は、例えば、本発明の第1のモデル動物の製造方法において投与された抗血球抗体と同じである。前記抗血球抗体は、例えば、特定の抗原に対する抗体の検出方法により実施でき、例えば、ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)、ウエスタンブロッティング法、フローサイトメトリー法等により実施できる。前記血液は、例えば、前記血液の液性成分を含めばよく、具体例として、全血、血漿、血清等があげられる。
【0059】
本発明の第1のモデル動物は、前記条件(4)~(5)のうちいずれか一つ以上を満たせばよく、一つを満たしてもよいし、全部を満たしてもよいが、全部を満たすことが好ましい。
【0060】
<第2の血球減少症のモデル動物>
本発明の第2の血球減少症のモデル動物は、前述のように、下記条件(1)~(3)のいずれか一つ以上を満たす:
(1)血液中の血小板数が、7.3×104個/μL以下である。
(2)血液中の赤血球数が、500×104個/μL以下である。
(3)血液中の白血球数が、3×102個/μL以下である。
【0061】
本発明の第2のモデル動物は、前記条件(1)~(3)のいずれか一つ以上を満たすことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の第2のモデル動物は、後述の本発明の評価方法、血球の製造方法スクリーニング方法および治療薬候補物質の製造方法に好適に使用できる。本発明の第2のモデル動物は、前記本発明のモデル動物の製造方法および第1のモデル動物の説明を援用できる。
【0062】
前記第2のモデル動物は、例えば、下記条件(4)および(5)の少なくとも一方を満たす。前記第2のモデル動物が血小板減少症のモデル動物である場合、前記第2のモデル動物は、例えば、下記条件(4)を満たすことが好ましい。
(4)出血開始から止血までの時間(止血時間)が5分を超える
(5)前記モデル動物の血液は、抗血球抗体を含む
【0063】
<血球機能の評価方法>
本発明の血球機能の評価方法は、前述のように、血球減少症のモデル動物に血球を投与する工程と前記血球の機能を評価する評価工程とを含み、前記血球減少症のモデル動物は、前記本発明の血球減少症のモデル動物である。本発明の評価方法は、前記評価工程で用いる血球減少症のモデル動物が、前記本発明の第1のモデル動物および/または第2のモデル動物であることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の評価方法では、X線照射による血球減少症モデル動物と比較して、血球数が減少した前記本発明の第1のモデル動物および/または第2のモデル動物を用いるため、血球の機能をより感度よく評価できる。本発明の評価方法は、前記本発明のモデル動物の製造方法、第1のモデル動物、および第2のモデル動物の説明を援用できる。
【0064】
本発明において、「血球の機能」は、例えば、前記血球が生体において発揮している機能を意味する。前記血球が血小板の場合、前記血球の機能は、例えば、止血機能である。前記血球が赤血球の場合、前記血球の機能は、酸素および二酸化炭素の運搬機能である。前記血球が白血球の場合、前記血球の機能は、例えば、非自己物質、病原体または異常な細胞を認識して除去するための生物的防御機能である。前記血球が複数の機能を発揮する場合、本発明の評価方法は、例えば、一つの機能を評価してもよいし、複数の機能を評価してもよい。
【0065】
本発明の評価方法において、評価対象の血球は、例えば、動物から単離した血球でもよいし、多能性細胞、幹細胞等の前駆細胞から誘導した血球でもよい。前記多能性細胞は、例えば、胚性幹細胞(ES)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞等があげられる。前記評価対象の血球が単離した血球の場合、本発明の評価方法は、例えば、動物から被検血球を単離する工程を含む。前記血球は、例えば、単離した全血でもよいし、その血球画分でもよい。前記動物は、例えば、ヒトおよび前記非ヒト動物があげられる。前記被検血球が誘導した血球の場合、本発明の血球の製造方法は、例えば、前駆細胞から被検血球を誘導する工程を含む。前記被検細胞が血小板の場合、前記血小板の誘導は、例えば、国際公開第2011/034073号公報および国際公開第2012/157586号公報を参照できる。前記前駆細胞は、例えば、誘導する被検血球への分化能を有する細胞を意味する。また、前記血球は、製剤化された血球でもよく、例えば、血球製剤等の血液製剤;血球機能模倣剤;等があげられる。前記血球製剤は、例えば、血小板製剤、赤血球製剤、白血球製剤等があげられる。前記血球機能模倣剤は、例えば、血球の機能を模倣する代替物を含む製剤であり、具体例として、血小板機能模倣剤(Platelet functional mimetics)、赤血球機能模倣剤(Erythrocyte functional mimetics)、白血球機能模倣剤(Leukocyte functional mimetics)等があげられる。
【0066】
前記血球が、単離された血球、誘導された血球等の多数の血球を含む血球群である場合、本発明の評価方法は、前記血球群全体に対して実施してもよいし、前記血球群の一部に対して実施してもよい。後者の場合、本発明の評価方法は、例えば、抜き取り検査ということもできる。
【0067】
前記血球減少症のモデル動物は、前述のように、本発明の第1のモデル動物および/または第2のモデル動物である。また、本発明の第1のモデル動物および/または第2のモデル動物は、例えば、前記本発明のモデル動物の製造方法により得ることができる。このため、本発明の評価方法は、前記本発明のモデル動物の製造方法により、血球減少症のモデル動物を製造する製造工程を含んでもよい。前記製造工程は、例えば、前記投与工程に先立ち実施する。
【0068】
前記投与工程では、前記血球減少症のモデル動物に血球(評価対象の血球)を投与する。前記血球減少のモデル動物は、例えば、前記投与対象の血球が減少しているモデル動物である。前記投与工程において、前記血球減少症のモデル動物に投与する血球数は、特に制限されず、例えば、前記モデル動物の種類および体重に応じて、適宜設定できる。具体例として、前記血球が血小板の場合、前記投与工程における血小板の投与量は、例えば、1×107~1×109血小板/匹、または1~3×108血小板/匹があげられる。前記血球が赤血球の場合、前記投与工程における赤血球の投与量は、例えば、300×107~500×109赤血球/匹、または300~500×108赤血球/匹があげられる。前記血球が白血球の場合、前記投与工程における白血球の投与量は、例えば、1×101~1×107白血球/匹、2×101~5×103白血球/匹、または2~5×102白血球/匹があげられる。前記投与工程において、前記モデル動物の種類と、前記モデル動物に投与する血球が由来する動物の種類とは、同じもよいし、異なってもよい。具体例として、前記モデル動物がマウス等の齧歯類の場合、前記評価対象の血球は、齧歯類の血球でもよいし、齧歯類以外の血球(例えば、ヒトの血球)でもよい。前記評価対象の血球は、例えば、ヒト血小板である。
【0069】
前記評価工程では、前記血球の機能を評価する。前記血球の機能の評価方法は、例えば、前記血球の種類に応じて適宜決定できる。
【0070】
前記血球が血小板の場合、前記評価工程は、例えば、前記モデル動物を出血させること、または前記モデル動物の止血時間に基づき、前記血小板の機能、より具体的には、止血機能を評価できる。前記モデル動物の出血および止血時間は、前述の説明を援用できる。前記評価工程では、例えば、予め定めた基準に基づき、前記血小板の機能を評価できる。前記基準は、例えば、動物から単離した血小板を用いて得られた止血時間に基づき、設定してもよいし、評価者がその目的に応じて所望の時間に設定してもよい。具体例として、前記基準の止血時間は、例えば、5分以内である、好ましくは、2分以内である。この場合、前記評価工程において、前記血球の止血時間が、5分以内の場合、好ましくは、2分以内の場合、前記血小板は、前記基準を満たすと判断できる。
【0071】
前記血球が赤血球の場合、前記評価工程は、例えば、粘膜または皮膚の蒼白度、活動性の低下、頻呼吸等の貧血症状に基づき、赤血球の機能、より具体的には、酸素運搬機能を評価できる。
【0072】
前記血球が白血球の場合、前記評価工程は、例えば、抗原、細菌またはウイルス等の標的を前記モデル動物に投与し、前記標的に対する免疫応答(例えば、抗体産生、炎症性サイトカインの産生、特異的なB細胞またはT細胞の増殖等)に基づき、白血球の機能、より具体的には、生物的防御機能を評価できる。
【0073】
<血球の製造方法>
本発明の血球の製造方法は、前述のように、被検血球について、血球の機能を評価する評価工程と、前記評価工程において、基準を満たす血球を機能性の血球として選抜する選抜工程とを含み、前記評価工程は、前記本発明の血球機能の評価方法により実施される。本発明の血球の製造方法は、前記評価工程を前記本発明の血球機能の評価方法により実施することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の血球の製造方法によれば、前記本発明の評価方法により血球の機能を評価するため、感度よく血球の機能を評価できる。このため、本発明の血球の製造方法によれば、例えば、より機能性のよい血球を製造できる。本発明の血球の製造方法は、前記本発明のモデル動物の製造方法、第1のモデル動物、第2のモデル動物、および評価方法の説明を援用できる。
【0074】
前記被検血球は、例えば、動物から単離した血球でもよいし、多能性細胞、幹細胞等の前駆細胞から誘導した血球でもよい。前記多能性細胞は、例えば、胚性幹細胞(ES)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞等があげられる。前記被検血球が単離した血球の場合、本発明の血球の製造方法は、例えば、動物から被検血球を単離する工程を含む。前記血球は、例えば、単離した全血でもよいし、その血球画分でもよい。前記動物は、例えば、ヒトおよび前記非ヒト動物があげられる。前記被検血球が誘導した血球の場合、本発明の血球の製造方法は、例えば、前駆細胞から被検血球を誘導する工程を含む。前記被検細胞が血小板の場合、前記血小板の誘導は、例えば、国際公開第2011/034073号公報および国際公開第2012/157586号公報を参照できる。また、前記血球は、製剤化された血球でもよく、例えば、血球製剤等の血液製剤;血球機能模倣剤;等があげられる。前記血球製剤は、例えば、血小板製剤、赤血球製剤、白血球製剤等があげられる。前記血球機能模倣剤は、例えば、血球の機能を模倣する代替物を含む製剤であり、具体例として、血小板機能模倣剤(Platelet functional mimetics)、赤血球機能模倣剤(Erythrocyte functional mimetics)、白血球機能模倣剤(Leukocyte functional mimetics)等があげられる。
【0075】
前記評価工程は、例えば、前記本発明の評価方法と同様にして実施できる。
【0076】
前記選抜工程では、前記評価工程において基準を満たす血球を機能性の血球として選抜する。前記選抜工程では、例えば、前記血小板減少症のモデル動物に投与した血球を前記血小板減少症のモデル動物から回収することにより、機能性の血球を選抜してもよい。また、前記被検血球が前述の血球群である場合、前記選抜工程では、例えば、前記基準を満たす血球を抜き取った血球群を機能性の血球として選抜してもよい。
【0077】
本発明の血球の製造方法は、前記選抜された機能性の血球から血球製剤を製造する製剤工程を含んでもよい。前記製剤工程は、例えば、公知の血液製剤の製造方法と同様にして実施できる。
【0078】
<スクリーニング方法>
本発明の血球減少症の治療薬候補物質のスクリーニング方法は、前述のように、被検物質を血球減少症のモデル動物に投与する工程と、前記モデル動物に血液中の血球数が増加する被検物質を、血球減少症の治療薬の候補物質として選択する選択工程とを含み、前記モデル動物は、本発明の血球減少症のモデル動物である。本発明のスクリーニング方法は、前記血球減少症のモデル動物として、前記本発明の第1のモデル動物および/または第2のモデル動物であることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明のスクリーニング方法では、X線照射による血球減少症モデル動物と比較して、血球数が減少した前記本発明の第1のモデル動物および/または第2のモデル動物を用いるため、血球の機能をより感度よく評価できる。このため、本発明のスクリーニング方法によれば、例えば、より有効性が高い血球減少症の治療薬の候補物質をスクリーニングできる。本発明の血球の製造方法は、前記本発明のモデル動物の製造方法、第1のモデル動物、第2のモデル動物、および評価方法の説明を援用できる。
【0079】
前記血球減少症のモデル動物は、前述のように、本発明の第1のモデル動物および/または第2のモデル動物である。また、本発明の第1のモデル動物および/または第2のモデル動物は、例えば、前記本発明のモデル動物の製造方法により得ることができる。このため、本発明のスクリーニング方法は、前記本発明のモデル動物の製造方法により、血球減少症のモデル動物を製造する製造工程を含んでもよい。前記製造工程は、例えば、前記投与工程に先立ち実施する。
【0080】
前記投与工程では、被検物質を血球減少症のモデル動物に投与する。前記被検物質は、特に制限されず、例えば、低分子化合物;核酸分子;タンパク質;ペプチド;化合物ライブラリー;遺伝子ライブラリーの発現産物;細胞抽出物;細胞培養上清;発酵微生物産生物;海洋生物抽出物;植物抽出物等があげられる。前記ペプチドは、特殊環状ペプチド等の環状ペプチドでもよい。
【0081】
前記投与工程において、前記被検物質を本発明の血球減少症のモデル動物に投与する方法は、特に制限されない。前記投与方法は、例えば、経口投与および非経口投与があげられる。前記非経口投与は、例えば、経静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与、経鼻投与、経肺投与および経皮投与があげられる。前記被検物質がタンパク質およびペプチドである場合、例えば、前記タンパク質等をコードする遺伝子を有するウイルスベクターを構築し、その感染力を利用して、前記遺伝子を本発明の血球減少症のモデル動物に投与し、その体内で発現させてもよい。
【0082】
前記選択工程では、前記モデル動物に血液中の血球数が増加する被検物質を、血球減少症の治療薬の候補物質として選択する。前記血液中の血球数の増加は、例えば、前記血球数に基づき判断してもよいし、比較対象と比較して判断してもよい。前者の場合、前記血球数が、例えば、前記血球減少症の定義の血球数を満たさない場合、前記選択工程では、前記血液中の血球数が増加していると判断できる。後者の場合、前記比較対象は、前記被検物質投与前のモデル動物の血液中の血球数、被検物質を投与していないコントロールのモデル動物の血球数等があげられる。前記比較対象が前記被検物質投与前のモデル動物の血液中の血球数の場合、前記被検物質投与前のモデル動物の血液中の血球数と比較して、前記血球数が有意に増加している場合、前記選択工程では、前記血液中の血球数が増加していると判断できる。また、前記比較対象が被検物質を投与していないコントロールのモデル動物の血球数の場合、前記被検物質を投与していないコントロールのモデル動物と比較して、前記血球数が有意に増加している場合、前記選択工程では、前記血液中の血球数が増加していると判断できる。
【0083】
<治療薬の候補物質の製造方法>
本発明の血球減少症の治療薬の候補物質の製造方法は、前述のように、被検物質から血球減少症の治療薬の候補物質を選抜する選抜工程を含み、前記選抜工程は、前記本発明のスクリーニング方法で実施される。本発明の治療薬の候補物質の製造方法は、前記選抜工程を、前記本発明のスクリーニング方法で実施することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の治療薬の候補物質の製造方法は、前記選抜工程を、前記本発明のスクリーニング方法で実施するため、例えば、より有効性が高い血球減少症の治療薬の候補物質を製造できる。本発明の血球の製造方法は、前記本発明のモデル動物の製造方法、第1のモデル動物、第2のモデル動物、評価方法、およびスクリーニング方法の説明を援用できる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。なお、特に示さない限り、市販の試薬およびキット等は、そのプロトコルに従い使用した。
【0085】
[実施例1]
本発明の血小板減少症のモデル動物の製造方法により、血小板が減少した血小板減少症のモデル動物が作成できることを確認した。
【0086】
(1)不死化巨核球細胞の作製
不死化巨核球は、以下の手順で作製した。
【0087】
(1-1)iPS細胞からの造血前駆細胞の調製
ヒトiPS細胞(TKDN SeV2およびNIH5:センダイウイルスを用いて樹立されたヒト胎児皮膚繊維芽細胞由来iPS細胞)から、下記参考文献1に記載の方法に従って、血球細胞への分化培養を実施した。具体的には、ヒトES/iPS細胞コロニーを20ng/mL VEGF(R&D SYSTEMS社製)存在下でC3H10T1/2フィーダ細胞と14日間共培養して造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells;HPC)を作製した。培養条件は、37℃、20%O2、5%CO2で実施した(特に記載がない限り、以下同条件)。
参考文献1:Takayama N. et al., “Transient activation of c-MYC expression is critical for efficient platelet generation from human induced pluripotent stem cells”, J. Exp. Med., 2010, vo.13, pages 2817-2830
【0088】
(1-2)遺伝子導入システム
遺伝子導入システムは、レンチウイルスベクターシステムを利用した。レンチウイルスベクターは、Tetracycline制御性のTet-on(登録商標)遺伝子発現誘導システムベクターである。LV-TRE-mOKS-Ubc-tTA-I2G(下記参考文献2)のmOKSカセットをc-MYC、BMI1、またはBCL-xLに組み替えることで作製した。c-MYC、BMI1、またはBCL-xLが導入されたベクターを、それぞれ、LV-TRE-c-Myc-Ubc-tTA-I2G、LVTRE-BMI1-Ubc-tTA-I2G、およびLV-TRE-BCL-xL-Ubc-tTA-I2Gとした。c-MYC、BMI1、およびBCL-xLウイルスは、293T細胞へ前記レンチウイルスベクターで遺伝子導入することにより作製した。得られたウイルスを目的の細胞に感染させることによって、c-MYC、BMI1、およびBCL-xL遺伝子が目的の細胞のゲノム配列に導入される。安定的にゲノム配列に導入されたこれらの遺伝子は、培地にドキシサイクリン(clontech#631311)を加えることによって強制発現させることができる。
参考文献2:Kobayashi, T.et al., “Generation of rat pancreas in mouse by interspecific blastocyst injection of pluripotent stem cells.”, Cell, 2010, vol.142, No.5, pages 787-799
【0089】
(1-3)造血前駆細胞へのc-MYCおよびBMI1ウイルスの感染
予めC3H10T1/2フィーダ細胞を播種した6 well plate上に、前記(1-1)の方法で得られたHPCを5×104cells/wellとなるように播種し、BMI1ウイルスおよびc-MYCウイルスを用いたレンチウイルス法にてc-MYCおよびBMI1を強制発現させた。このとき、細胞株1種類につき6 wellずつ使用した。具体的には、それぞれMOI(multiplicity of infection)20となるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃、900rpm、60分間遠心)で感染させた。前記スピンインフェクションは、12時間おきに2回実施した。培地は、基本培地(15% Fetal Bovine Serum (GIBCO)、1% Penicillin-Streptomycin-Glutamine (GIBCO)、1% Insulin, Transferrin, Selenium Solution (ITS-G) (GIBCO)、0.45 mmol/L 1-Thioglycerol (Sigma-Aldrich)、50μg/mL L-Ascorbic Acid (Sigma-Aldrich)を含有するIMDM (Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium) (Sigma-Aldrich))に、50 ng/mL Human thrombopoietin (TPO)(R&D SYSTEMS)、50 ng/mL Human Stem Cell Factor (SCF) (R&D SYSTEMS)および2μg/mL Doxycycline (Dox、clontech #631311)となるようにそれぞれを添加した培地(以下、分化培地)に、さらに、Protamineを最終濃度が10 μg/mLとなるように添加した培地を用いた。
【0090】
(1-4)巨核球自己増殖株の作製および維持培養
前記(1-3)の方法でc-MYCおよびBMI1ウイルスの感染を実施した日を感染0日目として、以下の通り、c-MYC遺伝子およびBMI1遺伝子が導入されたHPCを培養することで、巨核球自己増殖株をそれぞれ作製した。c-MYC遺伝子およびBMI1遺伝子の強制発現は、培地に1μg/mL DoxとなるようにDoxを添加することにより実施した。
【0091】
・感染2日目~感染11日目
感染2日目に、ピペッティングにて上記の方法で得られたウイルス感染済み血球細胞を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行って上清を除去した後、新しい分化培地で懸濁して新しいC3H10T1/2フィーダ細胞上に播種した(6well plate)。感染9日目に同様の操作をすることによって継代を実施した。前記再播種時は、細胞数を計測後、1×105 cells/2mL/wellとなるようにC3H10T1/2フィーダ細胞上に播種した(6well plate)。
【0092】
・感染12日目~感染13日目
感染2日目と同様の操作を実施した。細胞数を計測後3×105 cells/10mL/100mm dishとなるように、C3H10T1/2フィーダ細胞上に播種した(100mm dish)。
【0093】
・感染14日目
ウイルス感染済み血球細胞を回収し、細胞1.0×105個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、および抗ヒトCD235ab-pacific blue(BioLegend)抗体を、それぞれ2μL、1μL、および1μLを用いて、前記血球細胞と抗体とを反応させた。前記反応後、FACS Verse(商標)(BD Biosciences)を用いて解析した。感染14日目において、CD41a陽性率が50%以上である細胞を、巨核球自己増殖株とした。
【0094】
(1-5)巨核球自己増殖株へのBCL-xLウイルス感染
前記感染14日目の巨核球自己増殖株に、BCL-xLウイルスを用いたレンチウイルス法にてBCL-xLを遺伝子導入した。MOI 10になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃、900rpm、60分間遠心)で感染させた。BCL-xL遺伝子の強制発現は、培地に1μg/mL DoxとなるようにDoxを添加することにより実施した。
【0095】
(1-6)巨核球不死化株の作成および維持培養
・感染14日目~感染18日目
前記(1-5)の方法で得られたBCL-xL遺伝子を導入した巨核球自己増殖株を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行った。前記遠心後、沈殿した細胞を新しい分化培地で懸濁した後、新しいC3H10T1/2フィーダ細胞上に2×105cells/2mL/wellとなるように播種した(6well plate)。
【0096】
・感染18日目:継代
BCL-xL遺伝子を導入後の巨核球自己増殖株を回収し、細胞数を計測後、3×105 cells/10mL/100mm dishとなるように播種した。
【0097】
・感染24日目:継代
BCL-xL遺伝子を導入後の巨核球自己増殖株を回収し、細胞数を計測後、1×105 cells/10mL/100mm dishとなるように播種した。以後、4-7日毎に同様にして継代を行い、維持培養を行った。なお、継代時には、新たな分化培地に懸濁の上、播種した。
【0098】
感染24日目にBCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を回収し、細胞1.0×105個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、および抗ヒトCD235ab-Pacific Blue(Anti-CD235ab-PB; BioLegend)抗体を、それぞれ、2μL、1μL、および1μLを用いて、免疫染色した後にFACS Verse(商標)を用いて解析した。そして、感染24日目において、CD41a陽性率が50%以上である株を不死化巨核球細胞株とした。感染後24日以上増殖することができたこれらの細胞を、不死化巨核球細胞株SeV2-MKCLおよびNIH5-MKCLとした。
【0099】
得られたSeV2-MKCLおよびNIH5-MKCLを、10cmディッシュ(10mL/ディッシュ)で静置培養した。培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は終濃度)。培養条件は、27℃、5%CO2とした。
FBS(Sigma#172012 lot.12E261)15%
L-Glutamin (Gibco #25030-081) 2mmol/L
ITS (Gibco #41400-045) 100倍希釈
MTG (monothioglycerol, sigma #M6145-25ML) 450μmol/L
アスコルビン酸(sigma #A4544) 50μg/mL
Puromycin (sigma #P8833-100MG) 2μg/mL
SCF (和光純薬#193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質200ng/mL
【0100】
(2)巨核球の培養物の生産
Doxを含まない培地で培養することで強制発現を解除した。具体的には、前記(1)の方法で得た不死化巨核球細胞株(SeV2-MKCLおよびNIH5-MKCL)を、PBS(-)で2度洗浄し、下記血小板生産培地に懸濁した。細胞の播種密度は、1.0×105 cells/mLとした。
【0101】
前記血小板生産培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は、終濃度)。
human plasma 5%
L-Glutamin (Gibco #25030-081) 4mmol/L
ITS (Gibco #41400-045) 100倍希釈
MTG (monothioglycerol, sigma #M6145-25ML) 450μmol/L
アスコルビン酸 (sigma #A4544) 50μg/mL
SCF (和光純薬#193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質200ng/mL
ADAM阻害剤15μmol/L
GNF351(Calbiochem #182707)500nmol/LY39983(Chemscene LLC #CS-0096)500nmol/L
Urokinase 5U/mL
低分子heparin(SANOFI、クレキサン)1U/mL
【0102】
そして、前記血小板生産培地存在下で6日間培養して、血小板を産生させることにより、巨核球の培養物を生産させた。
【0103】
(3)精製血小板の製造
前記(2)で得られた巨核球の培養物について、以下の手順で、血小板を製造(精製)した。なお、同様の精製を2回実施した。
【0104】
(3-1)巨核球の培養物の濃縮
前記(2)で得られた巨核球の培養物について、培養物バッグに導入した。そして、前記培養物バッグについて、
図1のように、濃縮システムに接続した。
図1において、洗浄保存液バッグ1および2は、洗浄保存液を含む。前記洗浄保存液は、ビカネイト輸液(ビカーボン輸液、大塚製薬社製)に20%(v/v%)ACDおよび2.5%(w/v%)ヒト血清アルブミンを添加し、NaOHでpH7.2に調整したものを使用した。そして、下記表1にしたがって、中空糸膜(プラズマフローOP、旭化成メディカル社製)を用いて、前記巨核球の培養物を濃縮し、得られた巨核球の培養物の濃縮液を貯蔵バッグに回収した。
【0105】
【0106】
(3-2)血小板の遠心分離
まず、無菌接合装置を用いて、ACP215ディスポーザブルセット(ヘモネティックス社製)の廃液バッグを回収用バッグに置換した。前記回収用バッグは、ハイカリックIVHバック(テルモ HC-B3006A)を用いた。つぎに、前記巨核球の培養物の濃縮液に対して10%量のACD-A液(テルモ社製)を添加した。前記添加後、ACD-A液を添加した濃縮液を、細胞バッグに注入した。前記細胞バッグは、ハイカリックIVHバック(テルモ HC-B3006A)を用いた。
【0107】
つぎに、無菌接合装置を用いて、ACD-A液を添加した培養物を含む細胞バッグをACP215ディスポーザブルセットに接合した。そして、ACP215をサービスモードで立ち上げ、回転数を2500rpm(350×g)にセットした。ACP215をスタートさせ、前記細胞バッグ中の培養物を約100mL/minで分離ボウルに導入した。前記分離ボウルより流出する液体成分は、回収バッグに回収した。前記細胞バッグ中の培養物の全量を分離ボウルに導入後、さらに500mLの洗浄保存液を前記分離ボウルに導入した。前記分離ボウルに前記洗浄保存液を導入後、遠心を止めてチューブシーラーを用いて回収液(血小板を含む回収された液体成分)を含む回収バッグを切り離した。
【0108】
新しいACP215ディスポーザブルセットに、前記無菌接合装置を用いて回収液(血小板を含む)を含んだ回収バッグを接合した。ACP215を通常モードで立ち上げた。プログラム設定はWPCを選択し、機器の指示に従い、前記回収バッグを接合したACP215ディスポーザブルセットをセットした。なお、回収液を含んだ回収バッグはスタンドに設置した。
【0109】
つぎに、ACP215の遠心速度を5000rpm(1398.8×g)に変更し、遠心をスタートさせた。前記分離ボウルへ前記回収液が導入され始めたとき、自動注入から手動注入に変更した。具体的には、前記回収液を約100mL/minの導入速度で前記分離ボウルに導入した。前記回収液全量を分離ボウルに添加後、さらに500mLの洗浄保存液を追加した。
【0110】
(3-3)血小板の洗浄
洗浄は、ACP215のプログラムに従って、2000mLの前記洗浄保存液で洗浄した。
【0111】
(3-4)血小板の回収
ACP215のプログラムに従って、200mLの洗浄済み血小板を血小板製剤バッグに回収し、ビカネイト輸液(ビカーボン輸液、大塚製薬社製)に20%(v/v%)ACDおよび2.5%(w/v%)ヒト血清アルブミンを添加した洗浄保存液に懸濁したiPSC由来血小板製剤(製造ロット:ACP161N5)とした。
【0112】
(4)血小板減少症のモデル動物
図2にしたがって、血小板減少モデル動物を作製した。具体的には、実施例のモデル動物として、8週齢の雄のNOGマウス(NOD.Shi-scid,IL-2RγKO Jic(NOG)、公益財団法人 実験動物中央研究所社製)を用い、ケタミン(100mg/kg体重)およびキシラジン(10mg/kg体重)の混合液を腹腔内投与することで、麻酔下においた。つぎに、麻酔下のマウスをX線照射装置(MX-80Labo、メディエックステック株式会社)に入れて、5Gyの線量を照射した(0日目)。1日後に再度同様に麻酔下のマウスに対して、5Gyの線量を照射した(1日目)。
【0113】
つぎに、初回のX線照射日を0日目として、7日目および8日目に、リン酸緩衝液(PBS)で7μg/mLに希釈した抗マウスCD41抗体(clone:MWReg30、カタログ番号:133910、Biolegend,inc.)を、注射針および注射筒を用いて尾静脈より、200μL投与した(n=5)。比較例のモデル動物は、7日目および8日目の抗体投与を行わなかった以外は同様の処理を行った(n=5)。また、参考例のモデル動物として、0日目および1日目のX線照射を行わず、7日目および8日目に抗マウスCD41抗体の投与を行った以外は同様に処理を行った(n=5)。なお、一般状態の著しい悪化(重篤な痩削、自発運動量の低下、横臥位等)が認められる動物を瀕死動物と判断し、安楽死処分することとしたが(以下、同様)、本実施例、比較例および参考例において該当した動物はいなかった。
【0114】
(5)被検物質の投与
9日目に、前記(4)で作成した各マウスの半数に対し、被検物質として、前記(3)で作成した血小板製剤を、マウス1匹あたり200μL、2×108plateletsとなるように、注射針および注射筒を用いて尾静脈内に投与した(血小板製剤投与群、ACP161N5)。残りの半数には、前記血小板製剤に代えて、被検物質として、前記ビカネイト輸液(Vehicle)を200μL投与した(Vehicle投与群)。
【0115】
(6)血小板数の測定
(6-1)採血およびサンプルの固定
前記各マウスについて、0、7、8、および9日目に、尾静脈より採血した。なお、前記血小板製剤またはVehicle投与後は、尾の識別が困難となるため、各マウスの背部に油性フェルトペンにて識別番号を記入した。また、7日目の採血は、抗体投与前に実施した。前記採血前に、血液固定溶液として、ThromboFix Platelet Stabilizer(Cat. No. 6607130,BECKMAN COULTER社製)を用い、予めA液とB液とを等量混合してworking solutionを調製し、6μLずつ必要分のチューブに分注しておいた。前記採血は、キャピラリー(V.ヘマトクリット毛細管EDTA-2K、東京硝子器械株式会社)を用いて、各マウスの尾静脈から血液を約10μL採取し、そのうちの6μLを、前記分注したworking solutionを含むチューブ中に添加し、タッピングによりよく撹拌して固定した血液サンプルを作成した。前記固定した血液サンプルの保存期間は、室温(約25℃、以下、同様)、暗所の条件で7日間とした。
【0116】
(6-2)血液サンプルの調製
前記固定した各血液サンプル10μLに、前記ビカネイト輸液90μLを添加し、ACD-A添加血液を調製した。調製した各ACD-A添加血液20μLに対し、PBS(Cat. No. 10010-023,Thermo Fisher Scientific K.K)を980μL添加し、1000倍希釈濃度サンプルを調製した。前記各1000倍希釈濃度サンプルを、BD Trucount Tubes(染色試料用)またはラウンドボトムチューブ(非染色試料(コントロール)用、染色校正用試料用)に、100μLずつ分注した。前記非染色試料は、測定毎に1本用意し、染色試料は、校正用に1本と各動物分とを用意した。前記各チューブに、PE/Cy7で標識したRat IgG1, κ Isotype Control抗体およびAPC Mouse IgG1,κ Isotype Control抗体(非染色試料用、染色校正用試料:Cat.No. 400416,400120,Biolegend, Inc.)、またはPE-Cy7で標識した anti-mouse CD41抗体およびAPC anti-human CD41抗体(染色試料用:Cat. No. 133916、303710、Biolegend, Inc.)を5μLずつ添加して撹拌し、室温、遮光下にて15分間静置し、反応させた。前記反応後の各チューブに、PBSを400μL/tubeとなるように添加し、測定に使用した。各サンプルは、測定まで室温、暗所で保存した。
【0117】
(6-3)フローサイトメーター測定
前記各サンプルについて、フローサイトメーター(BD FACSLyric、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)およびBD FACSuite(測定ソフトウェア、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用いて、血小板数を測定した。なお、機器の精度管理は、CS&T beads(Cat.No.656505、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を用いて行った。まず、前記非染色試料(コントロール)をフローサイトメーターにセットし、FSCおよびSSCで展開した。測定にあたり、赤血球画分および血小板画分が適切に表示されるように検出器の感度を調整した。前記非染色試料中の血小板画分をゲーティングし、PE-Cy7のヒストグラムで展開した。展開にあたり、陰性のピークが適切に表示されるようにPE-Cy7の感度調整を行った。そして、染色校正用試料をフローサイトメーターにセットし、APCのヒストグラムで展開した。展開にあたり、陰性および陽性のピークが適切な位置にくるように、APCの感度調整を行った。前記染色校正用試料については、APC/PE-Cy7の二次元ヒストグラムで展開し、必要に応じて蛍光補正を行った。上記で設定した条件に基づき、染色試料中の血小板数を測定した。測定は、Trucount Tubesビーズを6,000個計測したところで終了した。なお、感度調整は測定毎に1回実施し、試料間で条件は変更しないものとした。
【0118】
(6-4)データ解析
前記測定データを、FACSuiteまたはFlowJo(FlowJo LLC.)を使用して解析し、Microsoft Excel 2010(日本マイクロソフト株式会社)を使用して、各サンプル中の血小板数を算出した。具体的には、校正用染色試料について上記と同様の方法でPE(Trucount Tubes)およびPE-Cy7(CD41)のヒストグラムを表示し、陽性ピークが陰性側に降り立つところの蛍光強度を求めた。求めた蛍光強度より高い領域に入った細胞を陽性細胞とし、各測定試料における陽性細胞数(血小板測定数:PE-Cy7陽性細胞、Trucount Tubesビーズ測定数:PE陽性細胞)を求めた。前記血小板測定数およびTrucount Tubesビーズ測定数より、下記式(1)に従い、血小板の絶対数を算出した。算出した血小板数を
図3および下記表2に示す。
【数1】
【0119】
【0120】
図3は、各マウスの血液中の血小板数を示すグラフである。
図3において、横軸は、サンプルの種類および日付を示し、縦軸は、血小板数を示す。
図3および前記表2に示すように、0日目においては、いずれの群においても、血小板数は約250×10
4血小板/μLであった。また、8日目において、実施例のマウスの全例が、X線照射および1回目の抗CD41抗体の投与後において、血液中の血小板数が7.3×10
4血小板/μL以下となっており、血小板減少症が生じていることが確認できた。他方、比較例および参考例のマウスでは、0日目と比較して血中の血小板数は減少し、一部は、血液中の血小板数が7.3×10
4血小板/μL以下となっており、血小板減少症が生じているが、大半は、7.3×10
4血小板/μLを超え、血小板減少症が生じておらず、個体差が大きいことがわかった。このため、本発明のモデル動物の製造方法により、血小板減少症のモデル動物を製造できること、ならびに本発明のモデル動物の製造方法により得られるモデル動物は、X線照射で得られるモデル動物と比較して、血小板数が減少していること、その再現性が高いこと、および個体間のばらつきが少ないことがわかった。また、7日目において、約76×10
4血小板/μLであり、0日目の血小板数の約30%であり、前記血中の血小板数において、抗CD41抗体を投与することにより血小板減少症を誘導できている。これらのことから、正常な対象動物の血中の血小板数を基準として、前記マウスの血中の血小板数が、約30%以下の場合、抗血小板抗体の投与により、血小板減少症を誘導できることがわかった。
【0121】
[実施例2]
本発明の製造方法より作成した血小板減少症のモデル動物の出血時間を確認した。
【0122】
前記実施例1(5)の9日目に被検物質を投与したマウスを用い、血小板製剤の投与の有無による各マウスの出血時間(止血時間、Bleeding time)を確認した(実施例、比較例および参考例のいずれもn=4)。前記被検物質の投与から10分後の採血終了後に、マウスをイソフルラン麻酔による麻酔下においた。そして、各個体の腹側の尾動脈について、尾の先端より2cmの部分に対し、23Gの注射針のエッジ部を用いて切創した。前記切創部からの出血を確認した後、50mlファルコンチューブ内で37℃に保温した生理食塩液45mLに、尾先端から4cm程度を浸し、出血箇所からの止血までの時間を測定した。測定時間は最大で10分間(600秒)とし、10分を超えても止血しなかった個体については、出血時間を600秒とした。また、切創は1固体あたり1箇所とした。なお、前記実施例1で用いたマウスのうち、実施例、比較例および参考例から1個体ずつサテライトとしたため、本試験には用いなかった。各マウスの出血時間を、
図4および下記表3に示す。
【0123】
【0124】
図4は、出血時間を示すグラフである。
図4において、横軸は、サンプルの種類および投与した被検物質の種類を示し、縦軸は、出血時間を示す。
図4および前記表3に示すように、比較例のマウスにおいて、Vehicle投与群は、出血時間の平均値が177±23秒(Mean±S.E.(標準誤差)、以下、同様)であり、血小板製剤投与群の出血時間の平均値が97±9秒であり、血小板製剤の投与による出血時間の短縮傾向が認められた。また、参考例のマウスにおいて、Vehicle投与群は、出血時間の平均値が111±10秒であり、血小板製剤投与群の出血時間の平均値は83±17秒であり、血小板製剤の投与による出血時間の短縮傾向は認められなかった。他方、実施例のマウスにおいて、Vehicle投与群は、全個体の出血時間が600秒を超え、顕著な出血時間の延長が認められた。また、実施例のマウスにおける血小板製剤投与群の出血時間の平均値は、213±34秒となり、血小板製剤の投与による出血時間の明らかな短縮が認められた。なお、実施例2と独立して同様の試験を行なったところ、同様の傾向を示す結果が得られた。
【0125】
以上の事から、本発明の製造方法により作成した血小板減少症のモデル動物は、血小板数が減少しており、顕著な出血時間の延長が認められることから、血小板の機能の評価に適していることが分かった。
【0126】
[参考例1]
異なる強度のX線照射による、マウスへの影響(一般状態、体重の変化、血小板数の変化、および出血時間)を確認した。
【0127】
7週齢の雄のNOGマウス(公益財団法人 実験動物中央研究所社製)を用い、0および1日目のX線照射時の線量を、4Gy、5Gyまたは6Gy(4Gy照射群、5Gy照射群、6Gy照射群)とした以外は前記実施例1における比較例のマウスと同様の処理を行った(n=4)。なお、初回のX線照射時を0日目としている。また、本参考例においては、未処理(X線非照射群、Normal)のマウスも試験に加えた。そして、0、5、および9日目に、各マウスの体重を記録した。
【0128】
血小板数の測定のため、5、7、および9日目に、キャピラリー(V.ヘマトクリット毛細管EDTA-2K、東京硝子器械株式会社)を用いて、各マウスの尾静脈より血液を10μL採取した。採取した血液のうち、5μLを、5%のACD-Aを添加したビカーボン輸液95μL中に添加して、ACD-A添加血液サンプルを調製した。なお、ACD-A添加血液サンプルは、必要に応じてPBS(Cat. No. 10010-023,Thermo Fisher Scientific K.K)で希釈した。
【0129】
前記調製した血液サンプルを使用し、サンプルに添加する抗体をPE/Cy7で標識したRat IgG1, κ Isotype Control抗体(非染色試料および染色校正用試料:Cat. No. 400416,Biolegend, Inc.)、またはPE-Cy7で標識したanti-mouse CD41抗体(染色試料:Cat. No. 133916,Biolegend, Inc.)5μLとした以外は、前記実施例1(6-3)および(6-4)と同様にして、血小板数の測定、フローサイトメーター測定、およびデータ解析を行った。また、9日目の前記採血後、各マウスについて、被検物質を投与しなかった以外は前記実施例2と同様にして、出血時間の測定を行った。なお、6Gy照射群のマウスのうち1個体は、止血確認後に再出血したため、出血時間の測定を再開し、再度出血が認められなくなった時点を測定終了とした。
【0130】
血小板数の変化および出血時間を、下記表4~表5に示す。なお、X線非照射群、4、5、および6Gy照射群のマウスにおいて、一般状態に変化は見られなかったため、データの詳細は示していない。
【0131】
【0132】
【0133】
前記表4に示すように、X線照射強度が強くなるに従い、マウスの血小板数が大きく減少する傾向を示した。具体的には、X線非照射群のマウスは、9日目の血小板数の平均値が224.2±4.7(×104 platelets/μL、mean±S.E.、n=4)であったのに対し、4Gy照射群のマウスは、21.1±2.4(×104 platelets/μL、mean±S.E.、n=4)、5Gy照射群のマウスは、12.1±2.3(×104 platelets/μL、mean±S.E.、n=4)、6Gy照射群のマウスは、11.7±1.9(×104 platelets/μL、mean±S.E.、n=2)であった。前記実施例1で示しているように、約76×104血小板/μLに減少していれば、抗血小板抗体の投与により、血小板数が7.3×104血小板/μL以下に減少する。このため、X線を2回照射する場合、1回あたり4~6Gyの照射後、抗血小板抗体を投与することで、血小板減少症のモデル動物が製造できることが示唆された。
【0134】
前記表5に示すように、X線非照射群のマウスは、出血時間が157±23秒(n=4)であった。これに対し、4Gy照射群のマウスは、339±94秒(n=4)、5Gy照射群のマウスは、370±92秒(n=4)、6Gy照射群のマウスは、527秒(n=2)であり、X線を照射したマウスは、X線非照射群のマウスと比較して、X線の照射量に応じて出血時間が延長する傾向が見られるものの、個体間のばらつきが非常に大きかった。
【0135】
以上の事から、放射線照射量を多くするに従い、血小板数を減少させることができることが分かった。また、X線を2回照射する場合、1回あたり4~6Gyの照射後、抗血小板抗体を投与することで、血小板減少症のモデル動物が製造できると推定された。
【0136】
[参考例2]
異なる強度のX線照射による、血小板数の変化を確認した。
【0137】
6週齢の雄のNOGマウス(公益財団法人 実験動物中央研究所社製)を用い、0日目のX線照射時の線量を、1.5Gy、2.0Gyまたは2.5Gy(1.5Gy照射群、2.0Gy照射群、または2.5Gy照射群)とした以外は前記実施例1における比較例のマウスと同様の処理を行った(n=4)。なお、初回のX線照射時を0日目としている。
【0138】
血小板数の測定のため、X線処理前(0日)、7、および9日目に、キャピラリー(V.ヘマトクリット毛細管EDTA-2K、東京硝子器械株式会社)を用いて、各マウスの尾静脈より血液を10μL採取した以外は、前記参考例1と同様にして、血小板数の測定、フローサイトメーター測定、およびデータ解析を行った。これらの結果を下記表6に示す。
【0139】
【0140】
前記表6に示すように、7日目および9日目のいずれにおいても、X線照射強度が強くなるに従い、マウスの血小板数が大きく減少する傾向を示した。具体的には、7日目において、1.5Gy照射群のマウスは、71.1±5.9(×104 platelets/μL、mean±S.E、n=4)、2.0Gy照射群のマウスは、60.2±2.0(×104 platelets/μL、mean±S.E、n=4)、2.5Gy照射群のマウスは、55.7±2.5(×104 platelets/μL、mean±S.E、n=4)であった。また、9日目において、1.5Gy照射群のマウスは、51.7±2.1(×104 platelets/μL、mean±S.E、n=4)、2.0Gy照射群のマウスは、52.9±3.6(×104 platelets/μL、mean±S.E、n=4)、2.5Gy照射群のマウスは、50.6±1.9(×104 platelets/μL、mean±S.E、n=4)であった。前記実施例1で示しているように、約76×104血小板/μLに減少していれば、抗血小板抗体の投与により、血小板数が7.3×104血小板/μL以下に減少する。このため、X線を1回照射する場合、1回あたり1.5Gy以上のX線照射後、抗血小板抗体を投与することで、血小板減少症のモデル動物が製造できることが示唆された。
【0141】
以上のことから、放射線照射量を大きくするに従い、血小板数を減少させることができることが分かった。また、X線を1回照射する場合、1回あたり1.5Gy以上のX線照射後、抗血小板抗体を投与することで、血小板減少症のモデル動物が製造できると推定された。
【0142】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0143】
この出願は、2019年3月13日に出願された日本出願特願2019-046562を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【0144】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
非ヒト動物に放射線を照射する照射工程と、
前記非ヒト動物に抗血球抗体を投与する投与工程とを含む、血球減少症のモデル動物の製造方法。
(付記2)
前記抗血球抗体は、血球の細胞膜表面抗原に対する抗体である、付記1記載の製造方法。
(付記3)
前記抗血球抗体は、血小板の細胞膜表面抗原に対する抗体である、付記1または2記載の製造方法。
(付記4)
前記血小板の細胞膜表面抗原に対する抗体は、抗CD41抗体、抗CD42a抗体、抗CD42b抗体、抗CD42c抗体、抗CD42d抗体、抗CD49b抗体、抗CD61抗体、抗CD109抗体、および抗GPVI抗体からなる群から選択された少なくとも一つを含む、付記3記載の製造方法。
(付記5)
前記抗血球抗体は、細胞除去機能性抗体である、付記1から4のいずれかに記載の製造方法。
(付記6)
前記照射工程における放射線照射量は、1.5~12Gyの範囲である、付記1から5のいずれかに記載の製造方法。
(付記7)
前記照射工程を複数回実施する、付記1から6のいずれかに記載の製造方法。
(付記8)
前記放射線は、X線およびγ線の少なくとも一方である、付記1から7のいずれかに記載の製造方法。
(付記9)
前記照射工程後に前記投与工程を実施する、付記1から8のいずれかに記載の製造方法。
(付記10)
前記照射工程後、最初の放射線照射時を基準として、5~13日に前記投与工程を実施する、付記1から9のいずれかに記載の製造方法。
(付記11)
前記非ヒト動物は、齧歯類である、付記1から10のいずれかに記載の製造方法。
(付記12)
前記非ヒト動物は、マウスである、付記1から11のいずれかに記載の製造方法。
(付記13)
前記マウスは、免疫不全マウスまたは細網内皮系が破壊されたマウスである、付記12記載の製造方法。
(付記14)
前記免疫不全マウスは、NOGマウスである、付記13記載の製造方法。
(付記15)
前記血球は、血小板、赤血球、および白血球からなる群から選択された少なくとも一つである、付記1から14のいずれかに記載の製造方法。
(付記16)
付記1から15のいずれかに記載の血球減少症のモデル動物の製造方法により得られる、血球減少症のモデル動物。
(付記17)
下記条件(1)~(3)のいずれか一つ以上を満たす、付記16記載の血球減少症のモデル動物:
(1)血液中の血小板数が、7.3×104個/μL以下である。
(2)血液中の赤血球数が、500×104個/μL以下である。
(3)血液中の白血球数が、3×102個/μL以下である。
(付記18)
下記条件(1)~(3)のいずれか一つ以上を満たす、血球減少症のモデル動物:
(1)前記モデル動物の血液中の血小板数が、7.3×104個/μL以下である。
(2)血液中の赤血球数が、500×104個/μL以下である。
(3)血液中の白血球数が、3×102個/μL以下である。
(付記19)
下記条件(4)および(5)の少なくとも一方を満たす、付記16から18のいずれかに記載のモデル動物:
(4)出血開始から止血までの時間が5分を超える;
(5)前記モデル動物の血液は、抗血球抗体を含む。
(付記20)
血球減少症のモデル動物に血球を投与する工程と
前記血球の機能を評価する評価工程とを含み、
前記血球減少症のモデル動物は、付記16から19のいずれかに記載の血球減少症のモデル動物である、血球機能の評価方法。
(付記21)
前記血球は、血小板であり、
前記評価工程において、前記モデル動物を出血させて前記血小板の機能を評価する、付記20記載の評価方法。
(付記22)
前記血球は、血小板であり、
前記評価工程において、止血時間に基づき、前記血小板の機能を評価する、付記20または21記載の評価方法。
(付記23)
前記血球は、血小板であり、
前記血小板の機能は、止血機能である、付記20から22のいずれかに記載の評価方法。
(付記24)
前記血球は、血小板であり、
前記血小板は、血小板製剤または血小板機能模倣剤(Platelet functional mimetics)である、付記20から23のいずれかに記載の評価方法。
(付記25)
前記血球は、血小板であり、
前記血小板は、ヒト血小板である、付記20から24のいずれかに記載の評価方法。
(付記26)
付記1から15のいずれかに記載の血球減少症のモデル動物の製造方法により、血球減少症のモデル動物を製造する製造工程を含む、付記20から25のいずれかに記載の評価方法。
(付記27)
被検血球について、血球の機能を評価する評価工程と、
前記評価工程において、基準を満たす血球を機能性の血球として選抜する選抜工程とを含み、
前記評価工程は、付記20から26のいずれかに記載の血球機能の評価方法により実施される、血球の製造方法。
(付記28)
前記血球は、血小板である、付記27記載の製造方法。
(付記29)
被検物質を血球減少症のモデル動物に投与する工程と、
前記モデル動物に血液中の血球数が増加する被検物質を、血球減少症の治療薬の候補物質として選択する選択工程とを含み、
前記モデル動物は、付記16から19のいずれかに記載の血球減少症のモデル動物である、血球減少症の治療薬候補物質のスクリーニング方法。
(付記30)
前記選択工程において、前記被検物質を投与していないコントロールのモデル動物と比較して、前記血球数が増加している被検物質を、前記治療用候補物質として選択する、付記29記載のスクリーニング方法。
(付記31)
前記被検物質が、低分子化合物、ペプチド、タンパク質および核酸からなる群から選択された少なくとも1つである、付記29または30記載のスクリーニング方法。
(付記32)
前記血球は、血小板である、付記29から31のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(付記33)
付記1から15のいずれかに記載の血球減少症のモデル動物の製造方法により、血球減少症のモデル動物を製造する製造工程を含む、付記29から32のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(付記34)
被検物質から血球減少症の治療薬の候補物質を選抜する選抜工程を含み、
前記選抜工程は、付記29から33のいずれかに記載の血球減少症の治療薬候補物質のスクリーニング方法で実施される、血球減少症の治療薬の候補物質の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上のように、本発明によれば、前記X線照射によるモデル動物の製造方法と比較して、得られたモデル動物の血中の血球数を減少させることができる。また、本発明によれば、例えば、X線照射による血球減少症モデル動物と比較して、得られたモデル動物の血中の血球数を減少させることができるため、前記血球が血小板の場合、出血時の止血時間(出血時間)が延長できる。このため、本発明によれば、例えば、血球の機能の評価、血小板減少症を含む血球減少症の治療用候補物質を取得に適した血球減少症のモデル動物を製造できる。したがって、本発明は、例えば、血球を使用する細胞医薬分野、血液製剤分野、医療分野等において極めて有用である。