(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電池管理システムおよび電池管理ネットワーク
(51)【国際特許分類】
G01R 31/389 20190101AFI20241205BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241205BHJP
G01R 27/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01R31/389
H01M10/48 P
H01M10/48 301
G01R27/02 A
(21)【出願番号】P 2021527468
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2020019360
(87)【国際公開番号】W WO2020261799
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019119933
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 仁
(72)【発明者】
【氏名】藤井 圭一
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0296403(US,A1)
【文献】国際公開第2020/003841(WO,A1)
【文献】特開2015-161631(JP,A)
【文献】特開2011-047666(JP,A)
【文献】特開2009-244088(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125506(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/125237(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/141752(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0217209(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0093384(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02551688(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02979918(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0054847(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0045544(US,A1)
【文献】特開2020-180949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/396、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
13/00、
H01M 10/42-10/48、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池を管理する電池管理回路であって、第1基準周波数信号と第1基準周波数信号と異なる位相をもつ第2基準周波数信号とを発生する基準信号発生部と、前記第1基準周波数信号の周波数成分を持つ交流電流を前記二次電池に重畳する交流重畳部と、前記第1基準周波数信号よりも高い周波数でサンプリングすることにより、前記二次電池の電圧を計測する電圧計測部と、前記第1基準周波数信号よりも高い周波数でサンプリングすることにより、前記二次電池の電流を計測する電流計測部と、前記電圧計測部および前記電流計測部の計測結果に、前記第1基準周波数信号および前記第2基準周波数信号を乗算することにより、前記計測結果を複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分に変換する変換部とを備える電池管理回路と、
前記第1基準周波数信号の周波数を前記電池管理回路に指定する統合制御部と、を備え、
前記電池管理回路は、前記複素電圧および前記複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分を前記統合制御部に送信し、
前記統合制御部は、送信された前記複素電圧および前記複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分から、指定した周波数の複素インピーダンスを算出し、算出した複素インピーダンス
と、過去に変換した複素インピーダンスおよび前記二次電池の温度を示す情報から、計測時の前記二次電池の温度を推定する
電池管理システム。
【請求項2】
前記統合制御部は、算出した複素インピーダンスを含む計測情報に前記二次電池を識別する識別情報を付加し、前記識別情報が付加された前記計測情報を、ネットワークを介してサーバ装置に送信する
請求項
1に記載の電池管理システム。
【請求項3】
前記統合制御部は、前記計測情報に基づいて前記二次電池の状態を推定した結果を含むバッテリ情報を前記サーバ装置から受信する
請求項
2に記載の電池管理システム。
【請求項4】
前記サーバ装置は、前記ネットワーク上で前記バッテリ情報を共有するサーバ装置群に含まれる
請求項
3に記載の電池管理システム。
【請求項5】
前記統合制御部は、前記計測情報または前記バッテリ情報を含むブロックデータを前記サーバ装置に送信することにより、前記ブロックデータの集合体を前記サーバ装置群に共有させる
請求項
4に記載の電池管理システム。
【請求項6】
請求項
3から
5のいずれか1項に記載の電池管理システムと、
前記サーバ装置と、を備え、
前記サーバ装置は、前記計測情報に基づいて前記バッテリ情報を生成する
電池管理ネットワーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の状態を管理する電池管理システムおよび電池管理ネットワークに関する。
【背景技術】
【0002】
HEV(Hybrid Electric Vehicle)、または、EV(Electric Vehicle)など、二次電池を電源として走行する自動車の開発が行われている。また、二次電池を安全に使用するためにバッテリーマネージメントシステム(BMS:Battery Management System)によって電池残量推定、及び、異常検知などを行う技術が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1は、電池の複素インピーダンスを計測し、電池の容量や劣化量を診断可能な電池状態判定装置を開示している。
【0004】
特許文献2は、バッテリの完全な充放電を行うことなく容量維持率の判定を行うことが可能な容量維持率判定装置を開示している。
【0005】
特許文献3は、バッテリのインピーダンスに対応するRC回路モデルのパラメータを用いてバッテリの充放電をプログラムする車両コントローラを開示している。
【0006】
非特許文献1は、具体的に電池の複素インピーダンスを、交流電流を印加し交流電圧を測定して、複素インピーダンスを交流重畳法により測定する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-94726号公報
【文献】特開2011-38857号公報
【文献】米国特許第10023064号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】“IC for online EIS in automotive batteries and hybrid architecture for high-current perturbation in low-impedance cells” Z. Gong, Z. Liu, Y. Wang 他 2018 IEEE Applied Power Electronics Conference and Exposition (APEC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術によれば、複素インピーダンスの計測に誤差が生じやすいという問題がある。
【0010】
本開示は、二次電池の複素インピーダンスを簡単な回路構成で高精度に計測する電池管理システムおよび電池管理ネットワークを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様に係る電池管理回路は、二次電池を管理する電池管理回路であって、第1基準周波数信号と、第1基準周波数信号と異なる位相をもつ第2基準周波数信号とを発生する基準信号発生部と、前記第1基準周波数信号の周波数成分を持つ交流電流を前記二次電池に重畳する交流重畳部と、前記第1基準周波数信号よりも高い周波数でサンプリングすることにより、前記二次電池の電圧を計測する電圧計測部と、前記第1基準周波数信号よりも高い周波数でサンプリングすることにより、前記二次電池の電流を計測する電流計測部と、 前記電圧計測部および前記電流計測部の計測結果に、前記第1基準周波数信号および前記第2基準周波数信号を乗算することにより、前記計測結果を複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分に変換する変換部と、を備える。
【0012】
本開示の一態様に係る電池管理システムは、上記の電池管理回路と、前記第1基準周波数信号の周波数を前記電池管理回路に指定する統合制御部と、を備え、前記電池管理回路は、前記複素電圧および前記複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分を前記統合制御部に送信し、前記統合制御部は、送信された前記複素電圧および前記複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分から、指定した周波数の複素インピーダンスを算出する。
【0013】
本開示の一態様に係る電池管理ネットワークは、上記の電池管理システムと、前記サーバ装置と、を備え、前記サーバ装置は、前記計測情報に基づいて前記二次電池の状態を推定した結果を含むバッテリ情報を生成する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様における電池管理回路、及び、電池管理システムによれば、二次電池の複素インピーダンスを簡単な回路構成で高精度に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る電池管理システムの構成例および電池管理サーバを示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る統合制御部の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る統合制御部の処理例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る電池セルの構造例と、等価回路モデルの例とを示す説明図である。
【
図5A】
図5Aは、実施の形態に係る電池セルの複素インピーダンスの一例を示すコール・コール・プロット図である。
【
図5B】
図5Bは、実施の形態に係る電池セルの複素インピーダンスの一例を示すボード線図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る電池セルの複素インピーダンスの温度特性例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る電池管理ネットワークの構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る電池管理ネットワークの処理例を示すシーケンス図である。
【
図9】
図9は、変形例に係る電池管理システムの構成例および電池管理サーバを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本開示の基礎となった知見)
本発明者は、「背景技術」の欄において記載した二次電池を管理する装置に関し、以下の問題が生じることを見出した。
【0017】
二次電池の内部複素インピーダンス(交流インピーダンスともいう)を交流重畳法により測定する場合には、印加する交流電流を基準とし、内部複素インピーダンスにより発生する電圧変化の位相遅れを複素数で表現した複素電圧を測定し、測定した複素電圧を印加電流で割り算して算出する方法が一般的である。印加する交流電流は、基準周波数信号を元に増幅された電流が二次電池に印加される。
【0018】
この方法では二次電池と、測定する装置とを接続する電気配線(例えばワイヤーハーネス)の影響や基準周波数信号を増幅する駆動アンプ等により、実際に二次電池に印加される交流電流の位相は、基準周波数信号の位相からの遅れが発生することが多い。
【0019】
一方、電圧測定は、基準周波数信号に同期したサンプリングクロックでサンプリングするADコンバータにより計測される。したがって、実際に二次電池に印加される交流電流と電圧測定タイミングの位相差は、複素インピーダンスの位相誤差となって表れるため、二次電池の複素インピーダンスに誤差が生じやすい。
【0020】
このような位相誤差をなくすには、たとえば、実際に二次電池に印加される交流電流の周波数を、元になる基準周波数信号に一致させるよう、交流電流をフィードバック制御する必要がある。
【0021】
しかしながら、この方法でもフィードバックループ内の周波数特性による位相誤差や、フィードバックポイントから後段で発生する位相誤差の影響を排除することはできない。
【0022】
さらに、フィードバック制御を実施する場合、フィードバックループを線形動作できるように設計する必要がある。実際の二次電池の複素インピーダンスは、数10mから数mΩしかないため、印加する交流電流は数Aから数10A電流値が必要であり、駆動アンプ等がもつ周波数特性をフィードバックループに影響がないように設計することは非常に難しく、消費電流も増大してしまうという別の問題が発生する。
【0023】
そこで、本開示では、印加する交流電流のフィードバック制御することなく、二次電池の複素インピーダンスを簡単な回路構成で高精度に測定する電池管理回路、電池管理システムおよび電池管理ネットワークを提供する。
【0024】
このような問題を解決するために、本開示一態様に係る電池管理回路は、二次電池を管理する電池管理回路であって、第1基準周波数信号と、第1基準周波数信号と異なる位相をもつ第2基準周波数信号とを発生する基準信号発生部と、前記第1基準周波数信号の周波数成分を持つ交流電流を前記二次電池に重畳する交流重畳部と、前記第1基準周波数信号よりも高い周波数でサンプリングすることにより、前記二次電池の電圧を計測する電圧計測部と、前記第1基準周波数信号よりも高い周波数でサンプリングすることにより、前記二次電池の電流を計測する電流計測部と、 前記電圧計測部および前記電流計測部の計測結果に、前記第1基準周波数信号および前記第2基準周波数信号を乗算することにより、前記計測結果を複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分に変換する変換部と、を備える電池管理回路である。
【0025】
これによれば、二次電池の複素インピーダンスを簡単な回路構成で、実部と虚部の直交性に誤差のない高精度な計測を行うことができる。言い換えると、直交するよう生成した第1基準信号と第2基準信号を基準として複素電圧の実部と虚部に分離して測定し、電圧測定と同じ第1基準信号と第2基準信号を基準として複素電流を実部と虚部に分離して測定し、測定した複素電圧を複素電流で割り算することで、計測した複素インピーダンスの実部と虚部の直交性が、第1基準信号と第2基準信号の直交性のみに依存するため、測定電圧と重畳電流の位相誤差による複素インピーダンスの位相誤差を無くした高精度な計測を可能にする。
【0026】
また、重畳電流の位相遅れを補正するため、交流電流をフィードバック制御する必要がないので、回路構成を簡単にすることができる。
【0027】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、本開示の実現形態は、現行の独立請求項に限定されるものではなく、他の独立請求項によっても表現され得る。
【0028】
なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略または簡略化される場合がある。
【0029】
(実施の形態1)
[構成]
まず、実施の形態1に係る電池管理システムの構成について説明する。
【0030】
図1は、実施の形態に係る電池管理システム200の構成例および電池管理サーバ301を示すブロック図である。
【0031】
同図の電池管理システム200は、複数の組電池101と、複数の電池管理装置100と、統合制御部201とを備える。統合制御部201および複数の電池管理装置100は、通信線132によってデイジーチェーン接続されている。
【0032】
組電池101は、二次電池であり、直列接続された複数の電池セルB0~B5を含む。各電池セルは、例えばリチウムイオン電池であるが、ニッケル水素電池などその他の電池であってもよい。また、リチウムイオンキャパシターのような直列接続された蓄電セルであってもよい。組電池101は、負荷および充電回路に接続される。負荷は、例えば、HEVまたはEVのモータであるが、これに限定されない。なお、
図1の組電池101は6つの電池セルを有する例を示しているが、組電池101内の電池セルの個数は6つに限らない。
【0033】
電池管理装置100は、組電池101の状態を管理する装置であり、セルマネージメントユニット(CMU:Cell Management Unit)とも呼ぶ。電池管理装置100は、組電池101の交流インピーダンス 、具体的には電池セルB0~B5それぞれの複素インピーダンス(交流インピーダンスともいう)を算出する。そのため、電池管理装置100は、電池管理回路105および温度センサ107(例えばサーミスタ)を備える。
【0034】
なお、電池管理回路105は、例えば1チップの集積回路(IC)として構成してもよい。また、電池管理装置100は、電池管理回路105のICチップと温度センサとが実装されたプリント回路基板(PCB)として構成してもよい。
【0035】
電池管理回路105は、交流重畳部104と、基準信号発生部109と、電流計測部112と、クロック生成部113と、電圧計測部115と、基準電圧生成部117と、変換部118bと、積分部118cと、保持部118dと、温度計測部120と、通信インターフェース部131とを備える。
【0036】
交流重畳部104は、基準信号発生部109に生成される第1基準周波数信号の周波数成分を持つ交流電流を二次電池に重畳する。
図1の交流重畳部104は、第1基準周波数信号を差動信号として組電池101の正極と負極とに印加する差動バッファを有する。
【0037】
基準信号発生部109は、第1基準周波数信号と、第1基準周波数信号と直交した位相をもつ第2基準周波数信号とを発生する。例えば、第1基準周波数信号はサイン波信号であり、第2基準周波数信号はコサイン波信号である。なお、第1基準周波数信号と第2基準周波数信号は、許容可能な位相誤差の範囲で直交していることが望ましいが、正確に90度である必要性はなく誤差を許容する。更に、複素平面に歪みがでるため計算が非常に複雑になるが、第1基準周波数信号と第2基準周波数信号の位相が90度以外、例えば45度の位相で測定し、測定後に実部と虚部が直交する複素平面に変換することは可能である。
【0038】
また、基準信号発生部109は、統合制御部201から通信インターフェース部131を介して、前記第1基準周波数信号の周波数fの指定を受け、指定に従って第1基準周波数信号を生成する。
【0039】
電流計測部112は、クロック生成部113からのサンプリングクロック信号を用いて組電池101の電流をサンプリングすることにより、組電池101に重畳された交流電流を計測する。組電池101の電流は、交流重畳部104により印加される交流電流が流れる経路に挿入された電流検出用抵抗素子106の電圧降下として計測される。この電圧降下は、交流電流に比例するので交流電流値を意味する。より具体的には、電流計測部112は、二次電池である組電池101の電流を計測するためのアナログデジタル変換器を備える。このアナログデジタル変換器は、クロック生成部113からのサンプリングクロック信号を用いて、電流検出用抵抗素子106の電圧降下をサンプリングし、サンプリングした電圧降下をデジタル信号に変換する。
【0040】
クロック生成部113は、第1基準周波数信号よりも高い周波数で、かつ、第1基準周波数信号に同期したサンプリングクロック信号を生成する。サンプリングクロック信号は電流計測部112と電圧計測部115とに供給される。例えば、5KHz程度の複素インピーダンスを測定する場合、第1基準周波数信号の周波数は5KHz程度となり、サンプリングクロックは必要とする位相分解能を満たせるよう設定する必要がある。したがって、測定周波数が5KHz程度の時に、位相分解能が1度程度とする場合であれば、サンプリングクロックは5KHzの360倍の1.8MHz程度とすればよい。
【0041】
電圧計測部115は、クロック生成部113からのサンプリングクロック信号を用いて組電池101の電圧をサンプリングすることにより、組電池101の電圧を計測する。より具体的には、電圧計測部115は、組電池101内の電池セルB0~B5に対応する同数のアナログデジタル変換器(ADC0~ADC5)を備える。各アナログデジタル変換器は、クロック生成部113からのサンプリングクロック信号を用いて、複数の電池セルB0~B5のうち対応する電池セルの電圧をサンプリングし、サンプリングした電圧をデジタル信号に変換する。電圧計測部115は、電流計測部112と同じサンプリングクロックを用いるので、測定周波数とサンプリングクロックの位相誤差を最小限にて高精度な複素周波数測定を実現することができる。
【0042】
基準電圧生成部117は、電圧計測部115の複数のアナログデジタル変換器(ADC0~ADC5)、電流計測部112のアナログデジタル変換器および温度計測部120のアナログデジタル変換器に、共通の基準電圧を供給する。基準電圧生成部117は、具体的には、温度や電源電圧の変動に対して安定した一定の電圧値を作り出すBGR(BandGap Reference)回路であり、例えば、シリコンのバンドギャップに起因する1.25V程度の電圧を発生する。電圧計測部115の複数のアナログデジタル変換器と、電流計測部112のアナログデジタル変換器とは、同じ基準電圧を使用するので、複素インピーダンス計算時に、参照電圧の絶対誤差が分母/分子の割り算でキャンセルされることになる。そのため複素インピーダンスを高精度に測定することを可能にする。
【0043】
変換部118bは、電圧計測部115および電流計測部112の計測結果に、第1基準周波数信号および第2基準周波数信号を乗算することにより、電圧計測部115および電流計測部112の計測結果を複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分に変換する。そのため、変換部118bは、電圧計測部115のアナログデジタル変換器(ADC0~ADC5)に対応する同数の乗算器ペアと、電流計測部112のアナログデジタル変換器の対応する乗算器ペアとを備える。電圧計測部115に対応する各乗算器ペアは、対応するアナログデジタル変換器の変換結果(つまりサンプリングされたデジタルの電圧値)に第1基準周波数信号を乗算する乗算器と、当該変換結果に第2基準周波数信号を乗算する乗算器とからなる。前者の乗算結果は、サンプリングされた電圧を複素電圧として表現したときの実数部成分を示す。後者の乗算結果は、サンプリングされた電圧を複素電圧として表現したときの実数部成分を示す。電流計測部112に対応する乗算器ペアは、対応するアナログデジタル変換器の変換結果(つまりサンプリングされたデジタルの電流値)に第1基準周波数信号を乗算する乗算器と、当該変換結果に第2基準周波数信号を乗算する乗算器とからなる。前者の乗算結果は、サンプリングされた電流を複素電流として表現したときの実数部成分を示す。後者の乗算結果は、サンプリングされた電流を複素電流として表現したときの実数部成分を示す。
【0044】
なお、アナログデジタル変換器(ADC0~ADC5)のそれぞれは、例えば、デルタシグマ型のアナログデジタル変換器でよい。また、複数のアナログデジタル変換器(ADC0~ADC5)は、同一のアナログデジタル変換特性を有する。アナログデジタル変換特性とは、分解能(ビット数)などの各種パラメータである。複数のアナログデジタル変換器(ADC0~ADC5)には、具体的には、同一のアナログデジタル変換器が用いられる。これにより、電池セルB0~B5の間で生じる、アナログデジタル変換器の方式の違いによる変換時間(latency:レイテンシー)の違いに起因する計測誤差を低減することができる。
【0045】
積分部118cは、電圧計測部115によって繰り返し計測され変換部118bによって変換された複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分を平均化する。この平均化によっても複素電圧および複素電流の計測誤差を少なくし、オーバーサンプリングにより分解能(測定精度)を向上することができる。この平均化によっても計測を高精度化することができる。より具体的には、積分部118cは、変換部118bの乗算器ペアに対応し同数の平均化回路ペアを備える。各平均化回路ペアは、複素電圧または複素電流の実数部成分を平均化する平均化回路と、複素電圧または複素電流の虚数部成分を平均化する平均化回路とからなる。電池セルがリチウムイオン電池である場合、内部複素インピーダンスは例えば数mΩである。重畳する交流電流を1Aと仮定すると出力電圧の変化は数mVでしかない。一方、リチウムイオン電池のDC出力電圧はおおよそ3.4V程度あるため、電池セルに接続したアナログデジタル変換器で電圧を測定するには、ダイナミックレンジが4から5V程度必要になる。この場合に、複素インピーダンス測定精度が8ビット程度必要とする場合、18~20ビット程度の有効ビットをもつアナログデジタル変換器が必要になるが、高分解能のADコンバータは消費電力や面積が大きくなる。一方、リチウムイオン電池を電気化学インピーダンス分析するために測定する内部複素インピーダンスは、ほぼDC付近の0.01Hzから数10KHzの低周波の範囲で測定を行うため、複素電圧の測定をAC接続して行うことはできない。
図1の構成では、交流電流を繰り返し印加して複素電圧や複素電流を実部と虚部に分離して平均化することで、オーバーサンプリングにより分解能を積分により高めることが可能になるため、少ないビット数(例えば16ビット程度)のアナログデジタル変換器であっても、20~24ビット精度の複素インピーダンス測定結果を得ることを可能にする。これにより、複素電圧の測定精度が向上できれば、印加する交流電流の大きさを下げることが可能であり、容量の大きい、内部複素インピーダンスの小さい、二次電池の測定を容易にする。
【0046】
保持部118dは、平均化処理後の複素電圧および複素電流の実数部成分および虚数部成分を保持する。そのため、保持部118dは、複素電圧を保持するために組電池101の複数の電池セルと同数のレジスタペアと、複素電流を保持するためのレジスタペアとを備える。複素電圧を保持するための各レジスタペアは、対応する電池セルの複素電圧の実数部成分を保持するレジスタ(Re(Vi))と、虚数部成分(Im(Vi))を保持するレジスタとからなる。ここで、iは0~5の整数である。また、複素電流を保持するためのレジスタペアは、対応する組電池101の複素電流の実数部成分を保持するレジスタ(Re(I0))と、虚数部成分(Im(I0))を保持するレジスタとからなる。
【0047】
温度計測部120は、組電池101に設けられた温度センサ107を用いて組電池101の温度を計測する。温度センサ107は、例えば、サーミスタでよいが、熱電対などのその他の素子を用いた温度センサであってもよい。温度計測部120は、具体的には、アナログデジタル変換器および温度算出部121と、を備える。このアナログデジタル変換器は、温度センサ107の電圧をサンプリングし、サンプリングした電圧をデジタル値に変換する。温度算出部121は、アナログデジタル変換器からのデジタルの電圧に対応する温度を算出する。
【0048】
通信インターフェース部131は、電池管理回路105が他の電池管理回路100または統合制御部201と通信を行うための通信回路である。通信インターフェース部131は、例えば、保持部118dによって計算された複素インピーダンスなどを統合制御部201に送信するために用いられる。通信インターフェース部131によって行われる通信は、無線通信であってもよいし、有線通信であってもよい。通信インターフェース部131によって行われる通信の通信規格についても特に限定されない。
【0049】
統合制御部201は、第1基準周波数信号の周波数fを電池管理回路100に指定し、また、通信線132を介して複数の電池管理装置100から保持部118dに保持された実数部成分および虚数部成分を収集し、収集した複素電圧および複素電流それぞれの 実数部成分および虚数部成分から、指定した周波数の複素インピーダンスを算出する。インピーダンスの算出では、保持部118dに保持された複素電圧それぞれを複素電流で除算することにより交流インピーダンスを計算する。具体的には、統合制御部201は、除算機能を有し、例えば、電池セルB0の交流インピーダンスとして、(Re(V0)、Im(V0))で示される複素電圧を、(Re(I0)、Im(I0))で示される複素電流で除算することにより算出する。
【0050】
電池管理装置100は、個々の電池セルを計測管理する下位のCMU(Cell Management Unit:セルマネージメントユニット)である。これに対して、統合制御部201は、組電池全体を管理する上位システムのBMU(Battery Management Unit:バッテリーマネージメントユニット)である。統合制御部201は、電池管理装置100よりも高速に大容量の演算が可能なMCU(Micro Control Unit:マイコン)が搭載され、バッテリ制御を行っている。
図1の構成では、CMUである電池管理装置100の機能を、複素電圧および複素電流の測定に留めて、より計算能力の高い上位の統合制御部201が複素インピーダンスを計算する。これにより、複素インピーダンス測定において複数あるCMU側の、複素インピーダンスを計算する演算回路を搭載することを不要とし、CMUの回路を簡単にして、複素インピーダンス測定を低コストに実現することを可能にしている。また、統合制御部201が複素電圧および複素電流を収集することで、測定温度による複素インピーダンスの変動の温度補正や、測定周波数間隔を間引き補間することで測定時間を短縮する等、演算や補正を行うことも容易になる。
【0051】
次に、統合制御部201の構成例について説明する。
【0052】
図2は、実施の形態に係る統合制御部201の構成例を示す図である。
【0053】
同図のように統合制御部201は、CPU31、メモリ32、通信回路33および無線回路34を備える。
【0054】
CPU31は、メモリ32に格納されたプログラムを実行する。
【0055】
メモリ32は、複数の電池管理装置100を管理するための各種プログラムと、組電池101の交流インピーダンスを含む電池状態データ等の各種データとを格納する。
【0056】
通信回路33は、通信線132によりデイジーチェーン接続された複数の電池管理装置100と通信する。
【0057】
無線回路34は、電池管理サーバ301と無線通信する。
【0058】
[動作]
続いて、統合制御部201の具体的な処理例について説明する。
【0059】
図3は、実施の形態に係る統合制御部201の処理例を示すフローチャートである。
【0060】
同図では、複数の電池管理装置100のうちの1つの電池管理装置100に対する処理例を示す。統合制御部201は、他の電池管理装置100に対しても順次同様の処理をする。
【0061】
まず、統合制御部201は、電池管理装置100に対して、第1基準周波数信号の周波数fを指定する(S11)。これにより、電池管理装置100は、指定された周波数の第1基準周波数信号を生成し、二次電池である組電池101の複素電圧、複素電流および温度の計測を行う。これらの計測が完了したとき、統合制御部201は、電池管理装置100から、通信線132を介して、計測された複素電圧、複素電流および組電池101の温度を示すデータを取得する(S12~S14)。なお、組電池101の温度を取得する代わりに、算出した複素インピーダンスを、過去に変換した複素インピーダンスおよび二次電池の温度を示す情報から、計測時の二次電池の温度を推定してもよい。この推定は、温度センサ107を備えない電池管理装置100に有用である。
【0062】
次に、統合制御部201は、取得したデータにおける複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分から、指定した周波数の複素インピーダンスを計算する(S15)。なお、統合制御部201は、第1基準周波数信号の周波数fを変更しながら複数回指定し、指定した周波数の変化に対応する複素インピーダンスの変化を算出してもよい。
【0063】
さらに、統合制御部201は、複素インピーダンスを複素平面上の軌跡にしたコール・コール・プロットを示す描画データを生成する(S16)。なお、統合制御部201は、コール・コール・プロットを示す描画データの代わりに、複素インピーダンスを、大きさと位相に変換したボード線図を示す描画データを生成してもよい。
【0064】
また、統合制御部201は、取得した温度(または推定した温度)によって、複素インピーダンスを正規化する(S17)。具体的には、統合制御部201は、取得した温度に応じて複素インピーダンスを、所定の温度に対応する複素インピーダンスに変換する。なお、ステップS16とステップS17の順を入れ替えてもよい。つまり、統合制御部201は、温度による正規化の後に描画データを生成してもよい。
【0065】
続いて、統合制御部201は、所定の温度に対応する(つまり測定温度とは異なる、標準温度に補正された)複素インピーダンスに基づいて、対応する電池セルを表す等価回路モデルを構成する抵抗Rや容量Cなどの回路素子の素子定数を算出する(S18)。
【0066】
さらに、統合制御部201は、複素インピーダンスおよび上記素子定数を含む計測情報を生成し、計測情報に、対応する電池セルを識別する識別情報を付与し(S19)、さらに、現在時刻および稼働時間を示す情報を付与する(S20)。統合制御部201は、識別情報、現在時刻、稼働時間が付与された計測情報を電池状態データとして、ネットワークを介して電池管理サーバ301に送信する(S21)。
【0067】
次に、電池セルの等価回路モデルおよびその素子定数の例について説明する。
【0068】
図4は、実施の形態に係る電池セルの構造例と、等価回路モデルの例とを示す説明図である。
図4の(a)は電池セルB0のシンボルを示す。
図4の(b)は、電池セルB0がリチウムイオン電池である場合の構造例を模式的に示している。電池セルB0は、等価回路モデルの前提として、負極電極、負極材料、電解液、セパレータ、正極材料、正極電極を有している。
図4の(c)は、電池セルB0の等価回路モデルの一例を示す。この等価回路モデルは、誘導成分L0、抵抗成分R0~R2、容量成分C1、C2およびリチウムイオン拡散抵抗成分Zwを有している。誘導成分L0は、電極ワイヤのインピーダンス成分を示す。抵抗成分R0は電解液のインピーダンス成分を示す。抵抗成分R1と容量成分C1の並列回路は、負極のインピーダンス成分を示す。抵抗成分R2、リチウムイオン拡散抵抗成分Zwおよび容量成分C2からなる回路部分は、正極のインピーダンス成分を示す。リチウムイオン拡散抵抗Zwは、ワールブルグインピーダンスとして知られている。
【0069】
このような等価回路モデルを構成する各回路素子の素子定数を算出すれば、電池セルB0の状態を推定することができる。例えば、経時的な素子定数の変化により電池セルB0の劣化状態を推定することができる。
【0070】
次に電池セルの複素インピーダンスの特性例について説明する。
【0071】
図5Aは、実施の形態に係る電池セルの複素インピーダンスの一例を示すコール・コール・プロット図である。
図5Aの(a)および(b)における太い実線は、位相誤差のない正しい複素インピーダンスの例を示す。
図5Aの(a)における太い破線は、角度固定の位相誤差が発生した場合の複素インピーダンスの例を示す。また、
図5Aの(b)における太い破線は、遅延時間固定の位相誤差が発生した場合の複素インピーダンスの例を示す。
【0072】
コール・コール・プロット図は、複素平面図、ナイキストプロットとも呼ばれる。
図5Aの(a)および(b)における太い実線は、
図4の(c)の等価回路モデルに対応する。交流電流を重畳して電池セルの複素インピーダンスを算出する方法において、電荷移動律速の場合は抵抗と容量が並列に配置された等価回路で表されることが一般的に知られており、複素数平面においては半円状になる。加えて、このワールブルグインピーダンスを含む場合には、半円の途中(右上付近)から、ワールブルグインピーダンス由来の傾きとして斜め45度に立ち上がる直線となることが一般的に知られている。
【0073】
複素インピーダンスの算出において、電圧と電流の計測系に位相誤差があると、複素インピーダンスの位相誤差となって表れる。一般に計測系要因の位相誤差は周波数特性を持つ場合が多く、異なる周波数での複素インピーダンスを測定する場合に課題となる。特に、周波数を可変しながらそれぞれの周波数の複素インピーダンスをコール・コール・プロットに描画する場合、各周波数位相誤差はコール・コール・プロットの複素平面上では実軸(横軸)と虚軸(縦軸)の直交誤差になって表れる。そのため、正確なコール・コール・プロットを描画することが難しくなる。しかしながら、
図1の構成では、複素電圧と複素電流を測定してから複素インピーダンスを計算することで、電圧と電流の測定系の位相誤差を極めて小さくして、正確なコール・コール・プロットを描くことを可能にしている。
図5Aの(a)の太い破線のように、位相誤差の角度が固定の場合は、コール・コール・プロットが原点を中心に回転するという特性がある。また、
図5Aの(b)の太い破線のように、位相誤差の遅延時間が固定の場合は、コール・コール・プロットが高周波側のみ回転し、低周波数側では太い実線と重なるという特性がある。言い換えれば、高周波側のみ位相誤差が発生し、低周波数側では発生しないという特性がある。
【0074】
図5Bは、実施の形態に係る電池セルの複素インピーダンスの一例を示すボード線図である。
図5Bの(a)の上段および(b)の上段における太い実線は、位相誤差のない正しい複素インピーダンスの周波数に対する大きさの例を示す。
図5Bの(a)の下段および(b)の下段における太い実線は、位相誤差のない正しい複素インピーダンスの周波数に対する位相θの例を示す。
【0075】
図5Bの(a)の下段における太い破線は、角度固定の位相誤差が発生した場合の複素インピーダンスの周波数に対する位相θの例を示す。また、
図5Bの(b)の下段における太い破線は、遅延時間固定の位相誤差が発生した場合の複素インピーダンスの周波数に対する位相θの例を示す。
図5Bの(a)および(b)における太い実線は、
図4の(c)の等価回路モデルに対応する。
【0076】
周波数を可変しながら複素インピーダンスを、大きさと位相とで表現したボード線図として描く場合、電圧と電流の測定系に位相誤差があると、ボード線図上の位相誤差になって表れる。そのため、正確な複素インピーダンスをボード線図として描くことは難しくなる。しかしながら、
図1の構成では、複素電圧と複素電流を測定してから複素インピーダンスを計算することで、電圧と電流の測定系の位相誤差を極めて小さくして、正確なボード線図を描くことを可能にする。
図5Bの(a)の下段に示す太い破線のように、位相誤差の角度が固定の場合は、周波数に対する位相を示すボード線図は、平行移動するという特性がある。また、
図5Bの(b)の下段に示す太い破線のように、位相誤差の遅延時間が固定の場合は、周波数に対する位相を示すボード線図は、高周波側のみ影響を受け、低周波数側では太い実線と重なるという特性がある。言い換えれば、高周波側のみ位相誤差が発生し、低周波数側では発生しないという特性がある。
【0077】
また、
図5A、
図5Bは、電池セルの状態を推定するのに有用である。例えば、
図5Aの太い実線は、電池セルが劣化するほど右寄りに大きくなると考えられる。
図5Bの上段の太い実線は、電池セルが劣化するほど上に大きくなると考えられる。
【0078】
次に、電池セルの温度特性について説明する。
【0079】
図6は、実施の形態に係る電池セルの複素インピーダンスの温度特性例を示す図である。同図は、電池セルの温度が20度、25度、30度の場合のコール・コール・プロットを示している。このように、電池セルの複素インピーダンスには温度依存性を有するが、所定の温度に対応する複素インピーダンスに変換する正規化により温度依存性の影響を低減できる。
【0080】
以上のように電池管理回路105は、組電池101の個々の電池セルの複素インピーダンスを簡単な回路構成で高精度に計測することができる。
【0081】
以上説明してきたように、実施の形態1に係る電池管理回路105は、二次電池を管理する電池管理回路であって、第1基準周波数信号と、第1基準周波数信号と90度ずれた位相をもつ第2基準周波数信号とを発生する基準信号発生部109と、第1基準周波数信号の周波数成分を持つ交流電流を二次電池に重畳する交流重畳部104と、第1基準周波数信号よりも高い周波数でサンプリングすることにより、二次電池の電圧を計測する電圧計測部115と、第1基準周波数信号よりも高い周波数でサンプリングすることにより、二次電池の電流を計測する電流計測部112と、電圧計測部115および電流計測部112の計測結果に、第1基準周波数信号および第2基準周波数信号を乗算することにより、計測結果を複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分に変換する変換部118bと、を備える。
【0082】
これによれば、二次電池の複素インピーダンスを簡単な回路構成で高精度に計測することができる。
【0083】
ここで、電池管理回路105は、第1基準周波数信号よりも高い周波数で、同期したサンプリングクロック信号を生成するクロック生成部113を備え、電圧計測部115および電流計測部112は、クロック生成部113により生成されたサンプリングクロック信号を用いてサンプリングしてもよい。
【0084】
なお、クロック生成部113は、1つまたは複数のサンプリングクロック信号を生成してもよい。
【0085】
また、複数のサンプリングクロック信号は、第1基準周波数信号に同期していてもよいし、第1基準周波数信号とは同期していなくてもよい。サンプリングクロック信号が第1基準周波数信号と同期していなくても、周波数が第1基準周波数信号よりも十分に高ければ、電圧計測部115および電流計測部112は電圧および電流を精度よく計測することができる。
【0086】
電圧計測部115および電流計測部112は、同じサンプリングクロック信号を用いてもよいし、異なるサンプリングクロック信号を用いてもよい。つまり、電圧計測と電流計測のサンプリング信号は同一のサンプリングクロック信号であってもよいし、異なるサンプリングクロック信号であってもよい。異なるサンプリングクロック信号であっても、第1基準周波数信号よりも十分に高い周波数であれば、同じサンプリングクロック信号を用いる場合と同等の測定が可能である。
【0087】
ここで、電圧計測部115および電流計測部112は、二次電池の電圧および電流を繰り返し計測し、電池管理回路105は、繰り返し計測に対応する複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分を平均化する積分部118cを備えてもよい。
【0088】
これによれば、電圧計測および電流計測の分解能を平均化により高めることができ、測定精度を向上させることができる。複素電圧の測定精度が向上できれば、印加する交流電流の大きさを下げることが可能であり、容量の大きい、内部複素インピーダンスの小さい、二次電池の測定を容易にする。
【0089】
ここで、電圧計測部115は、二次電池の電圧を計測するための1つ以上のアナログデジタル変換器を備え、電流計測部112は、二次電池の電流を計測するためのアナログデジタル変換器を備え、電池管理回路105は、電圧計測部115の1つ以上のアナログデジタル変換器および電流計測部112のアナログデジタル変換器に共通の基準電圧を供給する基準電圧回路117を備えてもよい。
【0090】
例えば、少ないビット数(例えば16ビット程度)のアナログデジタル変換器であっても、20~24ビット精度の複素インピーダンス測定結果を得ることを可能にする。また、電圧測定と電流測定を同じ基準電圧を使用するので、複素インピーダンスの計算、すなわち、計測電圧を計測電流で割る割り算で、基準電圧の絶対誤差は分母と分子の両方に現れてキャンセルされる。これにより、複素インピーダンスを高精度に測定することを可能にする。
【0091】
ここで、二次電池である組電池101は、直列接続された複数の電池セルを有し、電圧計測部115は、1つ以上のアナログデジタル変換器として、電池セルと同数のアナログデジタル変換器を備え、複数の電池セルそれぞれの電圧を計測してもよい。
【0092】
これによれば、電池セルと同数のアナログデジタル変換器により、複数の電池セルの電圧計測および電流計測を同時に並列に行うことができる。急激な温度変化がある場合でも精度よく計測することができる。
【0093】
ここで、電池管理回路105は、1つの半導体集積回路(BMIC)であってもよい。
【0094】
これによれば、電池管理装置100のIC化により、低コスト化を容易にする。
【0095】
また、実施の形態1に係る電池管理システム200は、上記の電池管理回路105と、第1基準周波数信号の周波数を電池管理回路100に指定する統合制御部201と、を備え、電池管理回路100は、複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分を統合制御部201に送信し、統合制御部201は、送信された複素電圧および複素電流それぞれの実数部成分および虚数部成分から、指定した周波数の複素インピーダンスを算出する。
【0096】
ここで、電池管理システム200は、少なくとも1つの電池管理回路105と、統合制御部201および少なくとも1つの電池管理回路105をデイジーチェーン接続する通信線132と、を備え、統合制御部201は、通信線132を介して少なくとも1つの電池管理回路105から実数部成分および虚数部成分を収集してもよい。
【0097】
これによれば、統合制御部201は、組電池全体を管理する上位システムであって、電池管理回路105に計測された複素電圧および複素電流を用いて、統合制御部201が複素インピーダンスを計算する。これにより、複素インピーダンス測定において電池管理回路105の回路構成を簡単にして、低コストに実現することを可能にしている。また、統合制御部201が複素電圧および複素電流を収集することで、測定誤差や測定温度バラツキ等に対してり高度な補正を行うことも容易になる。
【0098】
ここで、統合制御部201は、第1基準周波数信号の周波数を変更しながら複数回指定し、指定した周波数の変化に対応する複素インピーダンスの変化を算出してもよい。
【0099】
これによれば、統合制御部201の制御の下で周波数の変化に対応する複素インピーダンスの変化を算出することができる。
【0100】
ここで、統合制御部201は、複素インピーダンスを複素平面上の軌跡にしたコール・コール・プロットを示す描画データを生成してもよい。
【0101】
ここで、統合制御部201は、複素インピーダンスを、大きさと位相に変換したボード線図を示す描画データを生成してもよい。
【0102】
これによれば、二次電池のコール・コール・プロット図またはボード線図を用いて、電池セルの(劣化状態等の)状態推定を容易にする。
【0103】
ここで、統合制御部201は、二次電池の温度を取得し、取得した温度に応じて複素インピーダンスを、所定の温度に対応する複素インピーダンスに変換してもよい。
【0104】
これによれば、二次電池の複素インピーダンスの温度依存性により影響を低減することができる。
【0105】
ここで、統合制御部201は、算出した複素インピーダンスを、過去に変換した複素インピーダンスおよび二次電池の温度を示す情報から、計測時の二次電池の温度を推定してもよい。
【0106】
これによれば、温度センサがない電池管理装置であっても二次電池の計測時の温度を推定することができる。
【0107】
ここで、統合制御部201は、所定の温度に対応する複素インピーダンスに基づいて、二次電池を表す等価回路モデルを構成する回路素子の素子定数を算出してもよい。
【0108】
これによれば、二次電池の等価回路モデルを用いた状態推定を可能にする。
【0109】
ここで、統合制御部201は、算出した複素インピーダンスを含む計測情報に二次電池を識別する識別情報を付加し、識別情報が付加された計測情報を、ネットワークを介してサーバ装置に送信してもよい。
【0110】
これによれば、電池管理システム200はサーバ装置(電池管理サーバ301)と協同してバッテリ管理することができる。
【0111】
ここで、統合制御部201は、計測情報に基づいて二次電池の状態を推定した結果を含むバッテリ情報をサーバ装置から受信してもよい。
【0112】
(実施の形態2)
次に、電池管理サーバ301がいわゆるクラウドサーバ装置である場合の電池管理ネットワークの構成例について説明する。
【0113】
図7は、実施の形態に係る電池管理ネットワークの構成例を示すブロック図である。同図の電池管理ネットワークは、自動車400とクラウドシステム300とを含む。
【0114】
自動車400は、電池管理システム200と、モータ401とを備える。
【0115】
電池管理システム200は、実施の形態1と既に説明した。
図7の統合制御部201は、無線回路34を介してクラウドシステム300のサーバ装置と通信する。なお、無線回路34とサーバ装置301との間には、中継装置が介在する場合がある。
【0116】
クラウドシステム300は、サーバ装置301を含むネットワーク上のサーバ装置群である。電池管理サーバ301は、電池管理システム200と離れた場所に配置されたサーバ装置である。サーバ装置301は、いわゆるクラウドサーバである。
【0117】
図8は、実施の形態に係る電池管理ネットワークの処理例を示すシーケンス図である。
【0118】
自動車400の電池管理システム200は、実施の形態1で、算出した複素インピーダンスを含む計測情報に二次電池を識別する識別情報を付加し、識別情報が付加された計測情報を電池状態データとして、ネットワークを介してサーバ装置301に送信する(S21)。
【0119】
電池管理サーバ301は、電池状態データに基づいて二次電池の状態を推定し(S22)、推定した結果を含むバッテリ情報を生成する。二次電池の状態は、例えば、電池の充電状態、劣化状態、稼働履歴等を含む。さらに、サーバ装置301は、状態推定の結果であるバッテリ情報を自動車400に送信する(S23)。
【0120】
また、電池管理システム200は、計測情報またはバッテリ情報を含むブロックデータをサーバ装置301に送信するブロック発行を行う(S24)。
【0121】
電池管理サーバ301は、発行されたブロックデータをクラウドサーバ装置群で共有化する共有化処理を行う(S25)。共有化処理は、例えば、マイニング処理と呼ばれる処理でよい。クラウドサーバ装置群は、ブロックデータの集合体をブロックチェーンとして共有しており、自動車400から発行されたブロックデータをブロックチェーンに繋ぎ合わせる処理(つまりマイニング処理)を行い、状態推定および劣化診断を行う。
【0122】
電池管理サーバ301は、ブロックチェーンに繋ぎ合わせる処理完了後に、ブロック承認を示すデータを自動車400に送信する(S26)。
【0123】
以上説明してきたように、実施の形態2に係るサーバ装置301は、ネットワーク上でバッテリ情報を共有するサーバ装置群に含まれる。
【0124】
これによれば、クラウドバッテリーテレマティクスを実施することができる。ここで、クラウドバッテリーテレマティクスとは、クラウドサーバシステムと、自動車に搭載するネットワーク接続が可能な電池管理システム200とを用いて、さまざまな情報を利用できるようにする情報サービスの一環としてバッテリ管理を行うことをいう。
【0125】
ここで、統合制御部201は、計測情報またはバッテリ情報を含むブロックデータをサーバ装置に送信することにより、ブロックデータの集合体をサーバ装置群に共有させてもよい。
【0126】
これによれば、計測情報またはバッテリ情報を含むブロックデータを、サーバ装置群により共有して管理することができる。例えば、サーバ装置群が、ブロックチェーン技術によりブロックデータを管理すれば、バッテリ情報をセキュアに管理することができる。
【0127】
(変形例)
次に、実施の形態1および2の電池管理システム200の変形例について説明する。
【0128】
図9は、変形例に係る電池管理システムの構成例および電池管理サーバを示すブロック図である。
【0129】
同図は、
図1と比べて、電池管理回路105の代わりに電池管理回路105A(第1の半導体集積回路)および電池管理回路105B(第2の半導体集積回路)を備える点が異なっている。以下、異なる点を中心に説明する。1チップ半導体集積回路である電池管理回路105が、2チップの半導体集積回路に分割された構成になっている。さらに、電流計測部112および電圧計測部115の回路構成が簡素化されている。
【0130】
電池管理回路105Aは、電池管理装置100と比べて、電圧を計測する計測部122と、基準信号発生部109である第1基準信号発生部と、第1信号同期化部119とを有する点が主に異なっている。
【0131】
電池管理回路105Bは、電流計測部112と、第1信号同期化部119と、基準信号発生部109と等価な第2基準信号発生部と、第2同期化部119を有する。
【0132】
第1信号同期化部は、電池管理回路105A内部の第1基準周波数信号と、電池管理回路105B内部の第1基準周波数信号との位相を合わせるように第1基準信号発生部を制御する。
【0133】
第2信号同期化部は、電池管理回路105A内部の第1基準周波数信号と、電池管理回路105B内部の第1基準周波数信号との位相を合わせるように第2基準信号発生部を制御する。
【0134】
計測部122は、複数の電池セルから1つの電池セルを選択するマルチプレクサ(MUX)と、マルチプレクサにより選択された電池セルの電圧を計測する1つのアナログデジタル変換器と、アナログデジタル変換器の変換結果を分配するデマルチプレクサとを備える。計測部122は、複数の電池セルから順に1つの電池セルを選択して、その電圧を計測する。また、計測部122は、温度も計測する。
【0135】
以上のように、変形例に係る電池管理システム200において、二次電池は、直列接続された複数の電池セルを有し、電池管理回路105は、複数の電池セルから1つの電池セルを選択するマルチプレクサを備え、電圧計測部115の1つ以上のアナログデジタル変換器は、1つのアナログデジタル変換器であり、マルチプレクサにより選択された電池セルの電圧を計測する。
【0136】
これによれば、1つのアナログデジタル変換器により、複数の電池セルの電圧計測および電流計測を順次行うことができ、回路構成を簡単にすることできる。
【0137】
ここで、電池管理回路は、第1の半導体集積回路(電池管理回路105A)と第2の半導体集積回路(電池管理回路105B)とから構成され、第1の半導体集積回路は、電圧計測部115と、基準信号発生部109である第1基準信号発生部と、第1信号同期化部119と、を有し、第2の半導体集積回路は、電流計測部112と、第1信号同期化部119と、基準信号発生部109と等価な第2基準信号発生部と、第2信号同期化部119と、を有し、第1信号同期化部は、第1の半導体集積回路内部の第1基準周波数信号と、第2の半導体集積回路内部の第1基準周波数信号との位相を合わせるように第1基準信号発生部を制御し、第2信号同期化部は、第1の半導体集積回路内部の第1基準周波数信号と、第2の半導体集積回路内部の第1基準周波数信号との位相を合わせるように第2基準信号発生部を制御してもよい。
【0138】
これによれば、電池管理システム200全体で、第2の半導体集積回路を1つだけ備えれば、複数の組電池101に共通して電流の計測を1か所で行うことができる。言い換えれば、電流の計測を、複数の組電池101で個別に行う必要がないので回路構成をより簡単にすることができる。しかも、第1、第2信号同期化部により、第1の半導体集積回路内の第1基準周波数信号と、第2の半導体集積回路内の第1基準周波数信号との位相を合わせるので、高精度に計測することができる。
【0139】
(他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0140】
例えば、上記実施の形態では、EVなどの自動車に用いられる電池を管理対象とする電池管理システムについて説明したが、電池管理システムは、どのような用途の電池を管理対象としてもよい。
【0141】
また、上記実施の形態で説明された回路構成は、一例であり、本開示は上記回路構成に限定されない。つまり、上記回路構成と同様に、本開示の特徴的な機能を実現できる回路も本開示に含まれる。例えば、上記回路構成と同様の機能を実現できる範囲で、ある素子に対して、直列又は並列に、スイッチング素子(トランジスタ)、抵抗素子、または容量素子等の素子が接続されたものも本開示に含まれる。
【0142】
また、上記実施の形態において、集積回路に含まれる構成要素は、ハードウェアによって実現された。しかしながら、集積回路に含まれる構成要素の一部は、当該構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。集積回路に含まれる構成要素の一部は、CPU(Central Processing Unit)またはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0143】
また、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、上記実施の形態において説明された動作において、複数の処理の順序が変更されてもよいし、複数の処理が並行して行われてもよい。
【0144】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、または、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本開示は、二次電池を管理する電池管理回路、電池管理システムおよび電池管理ネットワークに利用可能である。
【符号の説明】
【0146】
31 CPU
32 メモリ
33 通信回路
34 無線回路
100、100A、100B 電池管理装置
101 組電池
104 交流重畳部
105、105A、105B 電池管理回路
106 検出抵抗
107 温度センサ
109 基準信号発生部
110 基準周波数発生器
111 移相器
112 電流計測部
113 クロック生成部
115 電圧計測部
117 基準電圧生成部
118b 変換部
118c 積分部
118d 保持部
119 同期化部
120 温度計測部
121 温度算出部
122 計測部
131 通信インターフェース部
132 通信線
200 電池管理システム
201 統合制御部
300 クラウドシステム
301 電池管理サーバ
302 通信線
400 自動車
401 モータ
B0~B5 電池セル