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特許7598884リチウム前駆体の分離方法およびリチウム前駆体の分離システム
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  • 特許-リチウム前駆体の分離方法およびリチウム前駆体の分離システム 図1
  • 特許-リチウム前駆体の分離方法およびリチウム前駆体の分離システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】リチウム前駆体の分離方法およびリチウム前駆体の分離システム
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/02 20060101AFI20241205BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20241205BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20241205BHJP
   C22B 3/16 20060101ALI20241205BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20241205BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C01D15/02
C22B26/12
C22B3/04
C22B3/16
C22B7/00 C
H01M10/54
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021569226
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 KR2020004296
(87)【国際公開番号】W WO2020235802
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】10-2019-0058661
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】スン ミン ジ
(72)【発明者】
【氏名】ハ ヒョン ベ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ミン
(72)【発明者】
【氏名】ソン スン レル
(72)【発明者】
【氏名】ソン チュン ファン
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1897134(KR,B1)
【文献】特開平08-188418(JP,A)
【文献】特開2001-023704(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0118405(KR,A)
【文献】特開2004-011010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 15/02
C22B 3/04、3/16、7/00、26/12
H01M 10/54
H01M 4/00-4/62
B01D 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池から収集された陽極活物質を還元反応させ、予備リチウム前駆体および予備遷移金属前駆体を含む予備前駆体混合物を準備するステップと、
前記予備前駆体混合物および浸出液を反応器内で混合してリチウム水酸化物が水和して溶解した前駆体混合物を形成するステップと、
前記リチウム水酸化物が水和して溶解した前駆体混合物を形成するステップの後、前記反応器の下部を介して溶液またはスラリー状態の前記前駆体混合物に非反応性気体を注入するステップと、を含
前記反応器の上部は、直径または幅が拡張された膨張部を含む、リチウム前駆体の分離方法。
【請求項2】
前記反応器は、流動層反応器である、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項3】
前記還元反応は、前記反応器内で前記前駆体混合物を形成するステップの前に行われる、請求項に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項4】
前記予備リチウム前駆体は、リチウム水酸化物を含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項5】
前記予備リチウム前駆体は、リチウム酸化物またはリチウム炭酸化物をさらに含む、請求項に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項6】
前記前駆体混合物を形成するステップは、リチウム水酸化物を選択的に前記浸出液中に溶解させることを含む、請求項に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項7】
前記浸出液は、水を含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項8】
前記浸出液は、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートをさらに含む、請求項に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項9】
前記前駆体混合物中の前記浸出液の質量は、前記予備リチウム前駆体の質量に対して2~20倍である、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項10】
前記非反応性気体を注入するステップは、前記非反応性気体のパルス注入を含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項11】
前記非反応性気体の前記浸出液に対する溶解度は、1.5g/L以下である、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項12】
前記非反応性気体は、窒素、ネオン、アルゴン、クリプトン、およびキセノンからなる群より選択される少なくともいずれか一つを含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項13】
前記非反応性気体を注入するステップは、前記反応器の上部における前記非反応性気体の線速度を減少させるステップを含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項14】
前記非反応性気体の線速度を減少させるステップは、前記非反応性気体の線速度を0.1~3cm/sに減少させることを含む、請求項13に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項15】
前記前駆体混合物を形成するステップおよび前記非反応性気体を注入するステップは、複数のサイクルの繰り返しによって行われる、請求項1に記載のリチウム前駆体の分離方法。
【請求項16】
リチウム二次電池から収集された陽極活物質を還元反応させて形成されたリチウム水酸化物を含むリチウム前駆体が導入される反応器本体と、
前記反応器本体に浸出液を注入する浸出液注入部と、
前記反応器本体の底部に非反応性気体を前記リチウム水酸化物が前記浸出液に水和して溶解した前駆体混合物に注入する気体注入部と、
前記反応器本体の上部から直径または幅が拡張された膨張部と、を含む、リチウム前駆体の分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム前駆体の分離方法及びシステムに関する。より詳細には、予備前駆体混合物からリチウム前駆体を分離する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充電と放電の繰り返しが可能な電池であり、情報通信及びディスプレイ産業の発展につれてカムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器に広く適用されてきた。二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などが挙げられる。中でもリチウム二次電池は、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
リチウム二次電池は、陽極、陰極及び分離膜(セパレーター)を含む電極組立体と、前記電極組立体を含浸させる電解質とを含むことができる。前記リチウム二次電池は、前記電極組立体および電解質を収容する、例えば、パウチ状の外装材をさらに含むことができる。
【0004】
前記リチウム二次電池の陽極活物質としては、リチウム金属酸化物を用いることができる。前記リチウム金属酸化物は、さらに、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属を共に含有することができる。
【0005】
前記陽極活物質としてのリチウム金属酸化物は、リチウム前駆体及びニッケル、コバルト及びマンガンを含有するニッケル-コバルト-マンガン(NCM)前駆体を反応させて製造することができる。
【0006】
前記陽極活物質に前述した高コストの有価金属が用いられることにより、陽極材の製造に過度のコストがかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、陽極活物質のリサイクル方法の研究が進められている。前記陽極活物質のリサイクルのためには、廃陽極から前記リチウム前駆体を高効率、高純度で再生する必要がある。
【0007】
例えば、韓国公開特許第2015-0002963号公報では、湿式方法を用いたリチウムの回収方法を開示しているが、コバルト、ニッケルなどを抽出して残りの廃液から湿式抽出によってリチウムを回収しているので、回収率が過度に低減し、廃液から多くの不純物が発生することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高効率、高収率でリチウム前駆体を分離する方法を提供することである。
【0009】
本発明の課題は、高効率、高収率でリチウム前駆体を分離するシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例示的な実施形態に係るリチウム前駆体の分離方法では、予備リチウム前駆体および予備遷移金属前駆体を含む予備前駆体混合物を準備する。前記予備前駆体混合物および浸出液を反応器内で混合して前駆体混合物を形成することができる。前記前駆体混合物に非反応性気体を注入することができる。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記反応器は、流動層反応器であってもよい。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記予備前駆体混合物は、リチウム二次電池から収集された陽極活物質を還元反応させて準備することができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記還元反応は、前記反応器内で前記前駆体混合物を形成する前に行うことができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記予備リチウム前駆体は、リチウム水酸化物を含むことができる。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記予備リチウム前駆体は、リチウム酸化物またはリチウム炭酸化物をさらに含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態において、リチウム水酸化物を選択的に前記浸出液中で溶解させ、前記前駆体混合物を形成することができる。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記浸出液は、水を含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記浸出液は、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートをさらに含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記前駆体混合物中の前記浸出液の質量は、前記予備リチウム前駆体の質量に対して2~20倍であってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記前駆体混合物は、前記予備前駆体混合物を含むスラリーまたは溶液を含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記前駆体混合物への前記非反応性気体の注入は、前記非反応性気体のパルス注入を含むことができる。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記非反応性気体の前記浸出液に対する溶解度は、1.5g/L以下であってもよい。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記非反応性気体は、窒素、ネオン、アルゴン、クリプトン、およびキセノンからなる群より選択される少なくともいずれか一つを含むことができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記非反応性気体は、前記反応器の下部に注入することができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記非反応性気体を注入することは、前記反応器の上部における前記非反応性気体の線速度を減少させることを含むことができる。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記反応器の上部における前記非反応性気体の線速度を0.1~3cm/sに減少させることができる。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記反応器の前記上部は、直径または幅が拡張された膨張部を含むことができる。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記前駆体混合物の形成及び前記非反応性気体の注入は、複数のサイクルの繰り返しによって行うことができる。
【0029】
例示的な実施形態に係るリチウム前駆体の分離システムは、リチウム前駆体が導入される反応器本体と、前記反応器本体に浸出液を注入する浸出液注入部と、前記反応器本体の底部に非反応性気体を注入する気体注入部と、前記反応器本体の上部から直径または幅が拡張された膨張部とを含むことができる。
【発明の効果】
【0030】
前述の例示的な実施形態によると、予備リチウム前駆体および予備遷移金属前駆体を含む予備前駆体混合物、および浸出液を反応器内で混合して前駆体混合物を形成し、前記前駆体混合物に非反応性気体を注入して、高純度、高効率でリチウム前駆体を分離することができる。
【0031】
前記非反応性気体は、前記予備前駆体混合物を前記浸出液に分散させ、リチウム水酸化物を含むリチウム前駆体を選択的に前記浸出液中に溶解させることができる。また、前記浸出液に溶解されていない予備遷移金属前駆体は析出され得る。
【0032】
これにより、予備前駆体混合物からリチウム前駆体のみを選択的に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、例示的な実施形態に係るリチウム前駆体の分離方法を説明するための工程フローチャートである。
図2図2は、例示的な実施形態に係るリチウム前駆体の再生システムを説明するための概略的な模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態は、予備前駆体混合物および浸出液を反応器内で混合して前駆体混合物を形成し、前記前駆体混合物に非反応性気体を注入して、リチウム前駆体を高効率、高純度で分離するリチウム前駆体の分離方法およびシステムを提供する。
【0035】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態をより具体的に説明する。但し、これらの実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0036】
本明細書で使用される用語「前駆体」は、電極活物質に含まれる特定の金属を提供するために、前記特定の金属を含む化合物を包括的に指すものとして使用される。
【0037】
図1は、例示的な実施形態に係るリチウム前駆体の分離方法を説明するための工程フローチャートである。図2は、例示的な実施形態に係るリチウム前駆体の分離システムを説明するための概略的な模式図である。
【0038】
以下では、図1及び図2を参照して、リチウム前駆体の分離方法およびシステムを説明する。
【0039】
図1を参照すると、予備リチウム前駆体および予備遷移金属前駆体を含む予備前駆体混合物を準備することができる(例えば、ステップS10)。
【0040】
例示的な実施形態によると、リチウム二次電池から収集された陽極活物質混合物から予備リチウム前駆体および予備遷移金属前駆体を含む予備前駆体混合物を準備することができる。例えば、前記陽極活物質混合物は、リチウム二次電池から得られたリチウム含有化合物から得ることができる。
【0041】
前記リチウム二次電池は、陽極と、陰極と、前記陽極と陰極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記陽極および陰極は、それぞれ陽極集電体および陰極集電体上にコーティングされた陽極活物質層および陰極活物質層を含むことができる。
【0042】
例えば、前記陽極活物質層に含まれた陽極活物質は、リチウム及び遷移金属を含有する酸化物を含むことができる。
【0043】
いくつかの実施形態において、前記陽極活物質は、下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0044】
【化1】
【0045】
化学式1中、M1、M2及びM3は、Ni、Co、Mn、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaまたはBから選択される遷移金属であってもよい。化学式1中、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0<a<1、0<b<1、0<c<1、0<a+b+c≦1であってもよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記陽極活物質は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。前記陽極活物質としてのNCM系リチウム酸化物は、リチウム前駆体及びNCM前駆体(例えば、NCM酸化物)を、例えば共沈反応により相互に反応させて製造することができる。
【0047】
しかし、本発明の実施形態は、前記NCM系リチウム酸化物を含む陽極材だけではなく、リチウム含有陽極材に共通して適用することができる。
【0048】
前記リチウム前駆体は、リチウム水酸化物(LiOH)、リチウム酸化物(LiO)またはリチウム炭酸化物(LiCO)を含むことができる。リチウム二次電池の充放電特性、寿命特性、高温安定性などの観点から、リチウム前駆体はリチウム水酸化物を含むことができる。例えば、リチウム炭酸化物の場合は、分離膜上に沈積反応を引き起こして寿命安定性を低下させることがある。
【0049】
そのため、本発明の実施形態によると、リチウム前駆体としてリチウム水酸化物を高選択比で分離する方法を提供することができる。
【0050】
例えば、前記リチウム二次電池から前記陽極を分離して陽極を回収することができる。前記陽極は、前述のように陽極集電体(例えば、アルミニウム(Al))及び陽極活物質層を含み、前記陽極活物質層は、前述した陽極活物質に加えて、導電材及び結合剤を共に含むことができる。
【0051】
前記導電材は、例えば、グラファイト、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記結合剤は、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0052】
回収された前記陽極から陽極活物質混合物を準備することができる。いくつかの実施形態では、前記陽極活物質混合物は、粉砕処理などの物理的方法により粉末状に製造することができる。前記陽極活物質混合物は、リチウム-遷移金属酸化物の粉末を含み、例えばNCM系リチウム酸化物粉末(例えば、Li(NCM)O)を含むことができる。
【0053】
いくつかの実施形態において、前記粉砕処理の前に、回収された前記陽極を熱処理することもできる。この場合には、前記粉砕処理の前に、前記陽極から陽極集電体をより容易に脱着することができ、前記結合剤および導電材を除去することができる。前記熱処理の温度は、例えば約100~500℃であってもよく、好ましくは約350~450℃であってもよい。
【0054】
いくつかの実施形態において、前記陽極活物質混合物は、回収された前記陽極を有機溶媒に浸漬させた後に得ることができる。例えば、回収された前記陽極を有機溶媒に浸漬させて前記陽極集電体を分離除去し、遠心分離などによって前記陽極活物質を選択的に抽出することができる。
【0055】
前述の工程により、実質的にアルミニウムのような陽極集電体の成分が実質的に完全に分離除去され、前記導電材及び結合剤に由来する炭素系成分の含有量が除去または減少された前記陽極活物質混合物を得ることができる。
【0056】
いくつかの実施形態において、前記陽極活物質混合物(例えば、陽極活物質)を還元させて予備前駆体混合物を生成することができる。例えば、前記陽極活物質混合物を水素と還元反応させ、前記予備前駆体混合物を形成することができる。
【0057】
前記水素還元反応は、約350~700℃、好ましくは400~550℃で行うことができる。
【0058】
前記予備前駆体混合物は、前記陽極活物質混合物に含まれたリチウム-遷移金属酸化物の水素還元反応物である予備リチウム前駆体および予備遷移金属前駆体を含むことができる。
【0059】
前記予備リチウム前駆体は、リチウム水酸化物、リチウム酸化物、及び/又はリチウム炭酸化物を含むことができる。例示的な実施形態によると、水素還元反応によって前記予備リチウム前駆体が得られるので、リチウム炭酸化物の混合量を減少させることができる。
【0060】
前記予備遷移金属前駆体は、Ni、Co、NiO、CoO、MnOなどを含むことができる。
【0061】
例えば、前述の還元反応から形成された前記予備前駆体混合物は、後述する反応器100に移送され得る。
【0062】
いくつかの実施形態において、前記還元反応は、後述する予備前駆体混合物50および浸出液80の前駆体混合物の形成反応が行われる反応器100内で行われ得る。この場合には、前記予備前駆体混合物の移送過程なしに、前駆体混合物の形成反応を行うことができる。これにより、前記予備前駆体混合物の移送過程で発生し得る歩留まりの損失を低減することができる。
【0063】
図1及び図2を参照すると、予備前駆体混合物50および浸出液80を反応器100内で混合して前駆体混合物を形成することができる(例えば、ステップS20)。
【0064】
例えば、前記前駆体混合物は、予備リチウム前駆体60が浸出液80と反応して形成されたリチウム前駆体および浸出液80に沈殿された予備遷移金属前駆体70を含む組成物を包括的に意味し得る。
【0065】
いくつかの実施形態において、反応器100は、流動層反応器であってもよい。例えば、前記流動層反応器とは、注入された予備前駆体混合物50に流体(気体または液体)を通過させ、それを流体化(fluidization)させる反応器を意味し得る。例えば、前記流体は、後述する非反応性気体であってもよい。
【0066】
例えば、予備前駆体混合物50は、前記流動層反応器の内部で流体化され、浸出液80との接触面積を増大することができる。これにより、予備リチウム前駆体60と浸出液80との間の反応をより促進することができる。
【0067】
また、浸出液80中に沈殿された予備遷移金属前駆体70をスラリー状態にして、後続の反応器に、より容易に移送させることができる。
【0068】
図2を参照すると、浸出液80は、浸出液注入部120を介して反応器100の内部に注入することができる。浸出液80は、浸出液注入部120を介して反応器本体110の内部に注入することができる。
【0069】
例えば、浸出液注入部120は、反応器本体110の上部に位置することができる。浸出液注入部120は、反応器本体110の下部または中間部に位置することもできる。
【0070】
いくつかの実施形態において、前記予備リチウム前駆体は、リチウム水酸化物を含むことができる。いくつかの実施形態において、前記予備リチウム前駆体は、リチウム酸化物またはリチウム炭酸化物をさらに含むことができる。
【0071】
いくつかの実施形態において、前記前駆体混合物は、予備リチウム前駆体60が浸出液80中で溶解されることによって形成できる。
【0072】
例えば、前記前駆体混合物は、予備リチウム前駆体60に含まれたリチウム水酸化物が選択的に浸出液80中で溶解して形成できる。例えば、リチウム酸化物は、浸出液80と反応してリチウム水酸化物を形成し、リチウム水酸化物は、浸出液80に溶解することができる。例えば、リチウム炭酸化物は浸出液80に対する溶解度が低くてもよい。これにより、リチウム炭酸化物は沈殿されて予備前駆体混合物から除去できる。
【0073】
いくつかの実施形態において、前記浸出液80は水を含むことができる。例えば、予備リチウム前駆体60は、水と水和反応してリチウム水酸化物が溶解された水溶液を含む前駆体混合物を形成することができる。
【0074】
いくつかの例示的な実施形態において、前記浸出液はジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)またはジエチルカーボネート(diethyl carbonate)をさらに含むことができる。
【0075】
例えば、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)またはジエチルカーボネート(diethyl carbonate)は、予備リチウム前駆体60と水の反応を促進することができる。これにより、前記リチウム前駆体の分離効率を向上することができる。
【0076】
いくつかの実施形態において、前記前駆体混合物中の浸出液80の質量は、予備リチウム前駆体60の質量に対して約2~20倍であってもよく、好ましくは約2~10倍であってもよい。
【0077】
例えば、前記範囲では、後述する非反応性気体による予備リチウム前駆体60および浸出液80の混合を容易に行うことができる。これにより、浸出液を過度に使用することなく、高純度、高効率でリチウム前駆体を分離することができる。
【0078】
いくつかの実施形態において、前記前駆体混合物は、予備前駆体混合物50を含むスラリー(slurry)または溶液を含むことができる。
【0079】
例えば、前記スラリー(slurry)は、浸出液80に溶解されない予備遷移金属前駆体70が浸出液80中に分散して形成できる。例えば、前記溶液は、予備リチウム前駆体60に含まれたリチウム水酸化物が浸出液80に溶解して形成できる。これにより、予備遷移金属前駆体70および予備リチウム前駆体60をそれぞれ分離することができる。
【0080】
図1及び図2を参照すると、前記前駆体混合物に非反応性気体を注入することができる(例えば、ステップS30)。例えば、前記非反応性気体は気体注入部130を介して反応器100の内部に位置する前駆体混合物に注入することができる。
【0081】
例えば、前記非反応性気体は、前記前駆体混合物に注入され、予備前駆体混合物50と浸出液80の混合を促進することができる。
【0082】
例えば、前記非反応性気体は、凝集した予備前駆体混合物50に物理的な衝撃を加え、それを浸出液80中に均等に分散させることができる。
【0083】
これにより、浸出液80と予備前駆体混合物50の接触面積が増加し、前記前駆体混合物をより容易に形成することができる。
【0084】
いくつかの実施形態において、前記非反応性気体のパルスを前記前駆体混合物に注入することができる。前記非反応性気体のパルスとは、前記非反応性気体の注入速度または注入量が一定の周期で変化することを意味する。例えば、前記パルスの形態は、反応器100の容量および形態などによって適宜選択することができる。
【0085】
いくつかの例示的な実施形態において、前記非反応性気体の浸出液80に対する溶解度は1.5g/L以下であってもよい。前記非反応性気体の浸出液に対する溶解度は、小さいほど有利であるので、前記溶解度の下限は特に制限されない。
【0086】
いくつかの例示的な実施形態において、前記非反応性気体は、浸出液に対する溶解度および反応性が低い窒素、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノンからなる群より選択される少なくともいずれか一つを含むことができる。
【0087】
この場合には、前記非反応性気体が前記浸出液に溶解されて損失される問題を防止することができる。また、前記非反応性気体が前記前駆体混合物と反応しないので、副反応によるリチウム前駆体の収率の低下を防止することができる。
【0088】
いくつかの実施形態において、前記非反応性気体は、二酸化炭素(CO)を含んでいなくてもよい。これにより、二酸化炭素およびリチウム水酸化物の反応によるリチウム前駆体の収率の低下を防止することができる。
【0089】
いくつかの実施形態において、前記非反応性気体は、反応器100の下部に注入することができる。例えば、前記非反応性気体は、反応器100の下部に位置する気体注入部130を介して前記前駆体混合物に注入することができる。
【0090】
反応器100の下部に注入された前記非反応性気体は、反応器100の上部に上昇し、反応器本体110の内部全体の予備前駆体混合物50と浸出液80の混合を促進することができる。
【0091】
いくつかの実施形態において、前記前駆体混合物に注入される前記非反応性気体の線速度(cm/s)は、約5~30cm/sであってもよい。
【0092】
前記範囲では、前記非反応性気体は、凝集した予備前駆体混合物50に十分に物理的に衝撃して、予備前駆体混合物50と浸出液80の混合をより促進することができる。
【0093】
いくつかの実施形態において、前記非反応性気体は、反応器100の上部において線速度(cm/s)が減少し得る。例えば、線速度とは、単位面積当たりの通る気体の流量を意味し得る。
【0094】
例えば、反応器100の内部に含まれた予備前駆体混合物50の各粒子の質量は、互いに異なってもよい。この場合には、相対的に質量の小さい予備前駆体混合物50の粒子は、前記非反応性気体によって反応器本体110の外部に流出したり、反応器100の上部に沈殿することがある。
【0095】
そのため、反応器100の上部における前記非反応性気体の線速度(cm/s)を減少させることにより、予備前駆体混合物50が反応器本体110の外部に流出したり、反応器100の上部に沈殿することを効果的に防止することができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、反応器100の上部における前記非反応性気体の線速度を約0.1~3cm/sに減少させることができる。例えば、反応器本体110の上部に位置する膨張部140における前記非反応性気体の線速度を約0.1~3cm/sに減少させることができる。
【0097】
前記範囲では、予備前駆体混合物50が反応器本体110の外部に流出することを効果的に防止しながらも、予備前駆体混合物50と浸出液80の混合をより促進することができる。
【0098】
例えば、反応器100は、反応器本体110の上部から延長され、反応器本体110よりも大きい直径を有する膨張部140を含むことができる。
【0099】
例えば、膨張部140は、反応器本体110よりも大きい断面積を有するので、反応器本体110から膨張部140に移動する前記非反応性気体の前記線速度(cm/s)が減少し得る。この場合、反応器本体110の直径に対する膨張部140の直径の比を調整することにより、前記線速度(cm/s)の減少割合を容易に調整することができる。
【0100】
いくつかの実施形態において、反応器本体110の直径に対する膨張部140の直径の比は2~10であってもよい。
【0101】
前記直径比の範囲では、予備前駆体混合物50が反応器本体110の外部に流出することをより効果的に防止することができる。
【0102】
いくつかの例示的な実施形態において、前記前駆体混合物の形成及び前記非反応性気体の注入は、複数のサイクルの繰り返しによって行うことができる。
【0103】
例えば、反復的な前記前駆体混合物の形成及び前記非反応性気体の注入によって、リチウム前駆体の分離効率および収率を向上することができる。
【0104】
例えば、前記前駆体混合物の形成及び前記非反応性気体の注入を繰り返して行うことにより、沈殿液80に溶解せずに残存するリチウム前駆体の含有量を減少できる。これにより、リチウム前駆体の収率をより向上することができる。
【0105】
例えば、前記前駆体混合物の形成及び前記非反応性気体の注入を繰り返して行う過程で注入される浸出液80および非反応性気体の注入量は、前記浸出液に対する予備リチウム前駆体の溶解度および反応器100の容量などによって適宜調整することができる。
【0106】
例えば、浸出液80および非反応性気体の注入量は一定であってもよく、複数のサイクルが繰り返されることにより、一定に増加しても、一定に減少してもよい。
【0107】
一実施形態において、沈殿された予備遷移金属前駆体70は、反応器100から収集されて遷移金属前駆体を形成することができる。例えば、予備遷移金属前駆体70は、酸溶液と反応して遷移金属前駆体を形成することができる。
【0108】
一実施形態において、前記酸溶液としては硫酸を使用することができる。この場合には、前記遷移金属前駆体は、遷移金属硫酸塩を含むことができる。例えば、前記遷移金属硫酸塩は、NiSO、MnSOおよびCoSOなどを含むことができる。
図1
図2