(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】熱放射シート及びこれを用いた放熱装置
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20241205BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20241205BHJP
D21H 13/10 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H05K7/20 F
H01L23/36 D
D21H13/10
(21)【出願番号】P 2021575585
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004992
(87)【国際公開番号】W WO2021157091
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】豊川 裕也
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-130631(JP,A)
【文献】国際公開第2006/112211(WO,A1)
【文献】特開2006-188670(JP,A)
【文献】特開2012-049407(JP,A)
【文献】特開2016-062989(JP,A)
【文献】特表2008-502816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H01L 23/36
D21H 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体と放熱板との間に介在させるための紙製の熱放射シートであって、
前記熱放射シートは、熱伝導率が50W/m・K以上であり、
前記熱放射シートの密度が0.5~5.0g/cm
3であり、
前記熱放射シートの温度200℃における放射率が、波長λ≦7.5μmの赤外線に対して0.5以上であり、
前記熱放射シートの表面粗さが、算術平均で0.4~0.8μmであり、
圧縮復元試験における復元率が99.6%~99.8%であ
り、
前記発熱体又は前記放熱板が接合界面で熱膨張又は熱収縮を生じても、変形分を前記熱放射シートで吸収して、前記発熱体と前記放熱板との熱結合状態を維持可能とした熱放射シート。
【請求項2】
請求項1に記載の熱放射シートであって、
前記熱放射シートの圧縮弾性率が、
13.3MPa~14.5MPaである熱放射シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱放射シートであって、
前記熱放射シートの耐熱温度が、400℃以上である熱放射シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱放射シートであって、
前記熱放射シートの厚さが、0.05mm~0.5mmである熱放射シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱放射シートであって、
前記熱放射シートが、繊維に熱伝導粉末を添加してなる湿式抄紙の紙シートで構成されてなる熱放射シート。
【請求項6】
請求項5に記載の熱放射シートであって、
前記紙シートの繊維が、熱で溶融されるバインダー繊維の非叩解繊維であり、
前記紙シートが、湿式抄紙された前記バインダー繊維を加熱プレスにより溶融してシート状としてなる熱放射シート。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の熱放射シートであって、
前記紙シートの繊維が、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、ポリビニルアルコール繊維、エチレンビニルアルコール繊維、ポリスルホン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維の少なくともいずれかである熱放射シート。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の熱放射シートであって、さらに、
合成樹脂を含む熱放射シート。
【請求項9】
請求項8に記載の熱放射シートであって、
前記合成樹脂が、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム樹脂、スチレンブタジエンゴム樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素系樹脂のいずれかを含む熱可塑性樹脂、又はフェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン系樹脂のいずれかを含む熱硬化性樹脂のいずれかである熱放射シート。
【請求項10】
請求項5~9のいずれか一項に記載の熱放射シートであって、
前記熱伝導粉末が、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、マグネシア、アルミナシリケート、シリコン、鉄、炭化珪素、炭素、窒化硼素、アルミナ、シリカ、アルミニウム、銅、銀、金、酸化亜鉛、亜鉛の粉末のいずれかである熱放射シート。
【請求項11】
請求項5~10のいずれか一項に記載の熱放射シートであって、
前記熱伝導粉末の平均粒径が、0.1μm~500μmである熱放射シート。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱放射シートであって、
前記熱放射シートは、黒鉛、アラミドパルプ、熱可塑性繊維を含有してなる熱放射シート。
【請求項13】
請求項5に記載の熱放射シートであって、
前記紙シートの繊維が、
叩解して表面に無数の微細繊維を設けてなる叩解パルプと、
叩解されない非叩解繊維とを含む熱放射シート。
【請求項14】
請求項13に記載の熱放射シートであって、
前記叩解パルプが、合成繊維からなる叩解パルプと天然パルプのいずれかを、単独で、あるいは複数種混合して含んでなる熱放射シート。
【請求項15】
請求項14に記載の熱放射シートであって、
前記合成繊維からなる叩解パルプが、アラミドパルプ、アクリル繊維、ポリアクリレート繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、レーヨン繊維、ポリスルホン系繊維のいずれかである熱放射シート。
【請求項16】
請求項14に記載の熱放射シートであって、
前記天然パルプが、木材パルプ、非木材パルプのいずれかである熱放射シート。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか一項に記載の熱放射シートであって、
前記紙シートの非叩解繊維が、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリイミド繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維、炭素繊維、PBO繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、レーヨン繊維、ポリビニルアルコール繊維、エチレンビニルアルコール繊維、ポリアリレート繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、フッ素繊維、ポリスルホン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維のいずれかである熱放射シート。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の熱放射シートと、
前記熱放射シートと熱的に結合された発熱体と、
を備える放熱装置。
【請求項19】
請求項18に記載の放熱装置であって、さらに、
金属製の放熱板を備え、
前記熱放射シートは、前記発熱体と前記放熱板との間で狭持されてなる放熱装置。
【請求項20】
請求項19に記載の放熱装置であって、
前記放熱板が、放熱フィンを備えてなる放熱装置。
【請求項21】
請求項18~20のいずれか一項に記載の放熱装置であって、
前記発熱体が、一以上の二次電池セルである放熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱放射シート及びこれを用いた放熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
角形や円筒型の二次電池セルを複数積層した電源装置が、電気自動車やハイブリッド自動車、電動バス、電車等の電動車両の駆動用電源として、あるいは工場や基地局のバックアップ電源用、さらには家庭用の蓄電池として用いられている。近年は電源装置の軽量化、及び高容量化が求められており、二次電池セルにはリチウムイオン二次電池等の高容量のタイプが用いられている。このような二次電池セルの高容量化に伴い、発熱量も大きくなる傾向にある。
【0003】
またコンピュータのCPU等の電子部品やLED、EL、PDP等の発光素子等を備えるスマートフォンやタブレット、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の電子機器の小型化、高集積化により、各部品からの発熱による電子機器の寿命低下、誤作動が問題となってきており、電子部品の放熱対策への要求も高い。
【0004】
このような二次電池セルや電子部品等の発熱体を備える電源装置や電子機器を保護するため、従来はアルミニウム等の金属製の放熱フィンや放熱板などの放熱部材が用いられてきた(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属製の放熱フィンや放熱板は、重量が嵩むため、燃費向上のため軽量化が求められる車載用の電源装置や、携行性のため軽量化が求められる携帯型電子機器には不適であった。
【0007】
また、金属製の放熱フィン等は硬質のため加工が面倒で圧縮変形し難く、発熱体への密着性に劣るという問題もあった。例えば電子部品の凹凸により、放熱フィン等が発熱体の表面に上手く追従せず、放熱フィンとの間に隙間が生じると、空気層の存在によって熱伝導性が著しく低下する。また、二次電池セルは充放電によって金属製の外装缶が膨張、収縮するため、このような二次電池セルの外装缶の変形によって、放熱板との間の密着性が低下し信頼性が損なわれるという懸念があった。
【0008】
加えて、金属製の放熱フィン等は熱放射性が低いため、熱放射を利用した放熱に不適であった。
【0009】
本発明の目的の一は、より軽量化を図ると共に、変形に対する追随性を高め、さらに熱放射性を高めた熱放射シート及びこれを用いた放熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明の第1の側面に係る熱放射シートによれば、発熱体と放熱板との間に介在させるための紙製の熱放射シートであって、前記熱放射シートは、熱伝導率が50W/m・K以上であり、前記熱放射シートの密度を0.5~5.0g/cm3であり、前記熱放射シートの温度200℃における放射率が、波長λ≦7.5μmの赤外線に対して0.5以上であり、前記熱放射シートの表面粗さを、算術平均で0.4~0.8μmであり、圧縮復元試験における復元率が99.6%~99.8%であり、前記発熱体又は前記放熱板が接合界面で熱膨張又は熱収縮を生じても、変形分を前記熱放射シートで吸収して、前記発熱体と前記放熱板との熱結合状態を維持可能とすることができる。上記構成により、従来の金属製のフィン等と比べ、大幅な軽量化が図られる。この結果、車載用の電源装置や携帯用電子機器等の放熱部材として好適に利用できる利点が得られる。
【0011】
また上記構成により、従来の金属製のフィン等と比べ熱放射性を高めることで、放熱特性を改善できる利点が得られる。
【0012】
さらに上記構成により、熱放射性を高めた熱放射シートを構成できる。
【0013】
また、本発明の第2の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱放射シートの圧縮弾性率を、13.3MPa~14.5MPaとすることができる。上記構成により、発熱体が熱により膨張したり収縮する等変形する場合に、弾性率が低い断熱シートを二次電池セル間に介在させたことで、変形に対して追随性を発揮し、元の形状に復元し易い特長がある。
【0014】
さらにまた、本発明の他の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱放射シートの圧縮復元率を、1.0~5.0%とすることができる。
【0015】
さらに、本発明の第3の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱放射シートの耐熱温度を、400℃以上とすることができる。このように熱放射シートを溶融し難い材質とすることで、発熱体が高温になる場合でも熱伝導性能を継続的に発揮させることが可能となる。
【0016】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱放射シートの厚さを、0.05mm~0.5mmとすることができる。
【0017】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱放射シートを、繊維に熱伝導粉末を添加した湿式抄紙の紙シートで構成することができる。
【0018】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記紙シートの繊維が、熱で溶融されるバインダー繊維の非叩解繊維であり、前記紙シートが、湿式抄紙された前記バインダー繊維を加熱プレスにより溶融してシート状としている。
【0019】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記紙シートの繊維を、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、ポリビニルアルコール繊維、エチレンビニルアルコール繊維、ポリスルホン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維の少なくともいずれかとすることができる。
【0020】
さらにまた、本発明の第8の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、さらに合成樹脂を含むことができる。
【0021】
さらにまた、本発明の第9の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記合成樹脂が、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム樹脂、スチレンブタジエンゴム樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素系樹脂のいずれかを含む熱可塑性樹脂、又はフェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン系樹脂のいずれかを含む熱硬化性樹脂のいずれかとすることができる。
【0022】
さらにまた、本発明の第10の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導粉末を、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、マグネシア、アルミナシリケート、シリコン、鉄、炭化珪素、炭素、窒化硼素、アルミナ、シリカ、アルミニウム、銅、銀、金、酸化亜鉛、亜鉛の粉末のいずれかとすることができる。
【0023】
さらにまた、本発明の第11の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱伝導粉末の平均粒径を、0.1μm~500μmとすることができる。
【0024】
さらにまた、本発明の第12の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱放射シートに、黒鉛、アラミドパルプ、熱可塑性繊維を含有させることができる。
【0025】
さらにまた、本発明の他の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱放射シートに、黒鉛、アラミドパルプ、熱可塑性繊維を90:4:6含有させることができる。
【0026】
さらにまた、本発明の他の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱可塑性繊維が、ポリフェニレンサルファイド系繊維を含むことができる。
【0027】
さらにまた、本発明の他の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記熱可塑性繊維が、ポリフェニレンサルファイド系繊維とポリエチレンテレフタレート系繊維を1:1含むことができる。
【0028】
さらにまた、本発明の第13の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記紙シートの繊維が、叩解して表面に無数の微細繊維を設けてなる叩解パルプと、叩解されない非叩解繊維とを含むことができる。
【0029】
さらにまた、本発明の第14の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記叩解パルプが、合成繊維からなる叩解パルプと天然パルプのいずれかを、単独で、あるいは複数種混合して含むことができる。
【0030】
さらにまた、本発明の第15の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記合成繊維からなる叩解パルプが、アラミドパルプ、アクリル繊維、ポリアクリレート繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、レーヨン繊維、ポリスルホン系繊維のいずれかである。
【0031】
さらにまた、本発明の第16の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記天然パルプが、木材パルプ、非木材パルプのいずれかである。
【0032】
さらにまた、本発明の第17の側面に係る熱放射シートによれば、上記何れかの構成に加えて、前記紙シートの非叩解繊維が、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリイミド繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維、炭素繊維、PBO繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、レーヨン繊維、ポリビニルアルコール繊維、エチレンビニルアルコール繊維、ポリアリレート繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、フッ素繊維、ポリスルホン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維のいずれかである。
【0033】
さらにまた、本発明の第18の側面に係る放熱装置によれば、上記何れかの熱放射シートと、前記熱放射シートと熱的に結合された発熱体とを備える。
【0034】
さらにまた、本発明の第19の側面に係る放熱装置によれば、上記何れかの構成に加えて、さらに金属製の放熱板を備え、前記熱放射シートを、前記発熱体と前記放熱板との間で狭持することができる。
【0035】
さらにまた、本発明の第20の側面に係る放熱装置によれば、上記何れかの構成に加えて、前記放熱板が、放熱フィンを備えることができる。
【0036】
さらにまた、本発明の第21の側面に係る放熱装置によれば、上記何れかの構成に加えて、前記発熱体を、一以上の二次電池セルとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の実施形態1に係る電源装置を示す分解斜視図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る熱放射シートを製造する製造装置の概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る放熱装置を示す垂直断面である。
【
図4】本発明の実施形態3に係る電源装置を示す分解斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態4に係る電源装置を示す平面図である。
【
図6】熱放射シートの片面に表面シートを設けた例を示す模式断面図である。
【
図7】熱放射シートの両面に表面シートを設けた例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
[実施形態1]
【0039】
本発明に係る熱放射シートは、様々な発熱体の放熱部材として利用することができる。放熱体には、例えば二次電池セルやトランジスタ、発光ダイオード(LED)等の半導体素子等が好適に挙げられる。ここでは、実施形態1として放熱シートを電源装置に適用した例を説明する。ここでは、発熱体である二次電池セルに熱放射シートを熱的に結合した放熱装置を構成している。
【0040】
実施形態1に係る電源装置を、
図1の分解斜視図に示す。この図に示す電源装置100は、複数の二次電池セル20と、二次電池セル20同士の間に介在されるスペーサ32と、二次電池セル20を積層した電池積層体25の下面に配置される放熱板40と、電池積層体25と放熱板40の間に介在される熱放射シート10とを備える。
【0041】
二次電池セル20は、外装缶21を有底筒状の角形としており、複数枚を主面同士が対向する姿勢で積層されている。積層は、例えば二次電池セル20を積層した電池積層体25の両端面を、それぞれ端面板30で覆うと共に、端面板30同士を締結部材で締結する。また電池積層体25は、放熱板40上に固定される。放熱板40は、例えば内部に冷媒を循環させて冷却板として機能させることができる。また放熱板40は、放熱フィンを設けてもよい。
(スペーサ32)
【0042】
隣接する二次電池セル20同士の間には、スペーサ32が介在される。スペーサ32は、セパレータ等とも呼ばれ、隣接する二次電池セル20間を離間させる。好ましくはスペーサ32は絶縁性を備える。これにより、隣接する二次電池セル20同士の外装缶21が短絡しないように絶縁できる。絶縁性を備えるスペーサは、樹脂等で構成される。
(熱放射シート10)
【0043】
熱放射シート10は、電池積層体25と放熱板40との間に介在されて、これら電池積層体25と放熱板40とを熱的に接続する。この熱放射シート10は、熱伝導率を50W/m・K以上とすることが好ましい。より好ましくは60W/m・K以上120W/m・K以下、さらにより好ましくは70W/m・K以上110W/m・K以下とする。
【0044】
また熱放射シート10の密度は、0.5~5.0g/cm3とすることが好ましい。より好ましくは、熱放射シート10の密度を2.0~4.0g/cm3とする。これにより、従来の金属製のフィン等と比べ、大幅な軽量化が図られる。この結果、熱放射シートを大型化することが可能となる。特に大面積で放熱を図る用途に好適に利用できる。
(放射率)
【0045】
熱放射シート10の放射率は、0.5以上とする。このように、従来のアルミニウム等の金属の放射率である0.039~0.057と比べて、熱放射性を大幅に高めることで、熱放射による放熱特性を改善できる利点が得られる。
【0046】
放射率を高めるため、熱放射シート10は表面を粗面とすることが好ましい。好適には、熱放射シート10の表面粗さを算術平均で0.4~0.8μmとする。より好ましくは、表面粗さを算術平均で0.45~0.55μm、さらに好ましくは0.52μmとする。特に熱放射シート10を紙シートで構成することで、金属板のような平滑板と比べて粗面化が容易で、放射率を向上できる。
(弾性率)
【0047】
絶縁シートの圧縮弾性率は、4000kPa~100000kPaとしている。また熱放射シート10の圧縮復元率は、1.0~5.0%とすることが好ましい。これにより、二次電池セル20が熱膨張や収縮を生じた際にも、弾性率が低い熱放射シート10を二次電池セル20と放熱板40との間に介在させたことで、変形に対して追随性を発揮し、元の形状に復元し易い特長がある。
【0048】
また熱放射シート10は、耐熱性を備えることが望ましい。本明細書において耐熱温度とは、空気相中で熱分解が始まる温度を意味する。二次電池セル20が高温になっても、変形や溶融し難い材質とすることで、断熱性能を維持することが可能となる。好ましくは、熱放射シート10の溶融温度を400℃以上とする。より好ましくは、600℃以上とする。ここで溶融温度とは、シート全体が溶融する温度を意味するものとする。
【0049】
また熱放射シート10の膜厚は、薄くすることが好ましい。薄膜化することで小型化、軽量化が図られる上、熱伝導性も向上する。ただ、圧縮復元率等は低下する。このため、要求される圧縮復元率等に応じて、膜厚を設定する。実施形態1に係る熱放射シート10では、このような特性や材質の断熱性能を考慮して、その膜厚を0.05mm~5mmとしている。その理由は、0.05mm未満であると、圧縮復元性が不足し、発熱体や放熱板の熱膨張や熱収縮を吸収できず放熱性能が低下するため、5mmを超えるとスペース効率が悪くなり全体のサイズを大きくする必要が生じるため等である。
(紙シート9の繊維)
【0050】
熱放射シート10は、繊維に熱伝導粉末を添加した湿式抄紙の紙シート9で構成される。ここで紙シート9の繊維は、熱で溶融されるバインダー繊維の非叩解繊維を含むことが好ましい。これにより、湿式抄紙されたバインダー繊維を加熱プレスにより溶融してシート状とした紙シート9を得ることができる。具体的な繊維として、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、ポリビニルアルコール繊維、エチレンビニルアルコール繊維、ポリスルホン系繊維、ポリフェニレンサルファイド系繊維の少なくともいずれかを利用できる。
【0051】
また熱放射シート10には、さらに樹脂繊維を含めてもよい。特に合成樹脂等の樹脂バインダを添加することで、結合力を高めることができる。このような合成樹脂には、熱可塑性樹脂が好適に利用できる。熱可塑性樹脂には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリアクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム樹脂、スチレンブタジエンゴム樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素系樹脂等が利用できる。
【0052】
また合成樹脂として、熱硬化性樹脂を利用することもできる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン系樹脂等が利用できる。
(熱伝導粉末)
【0053】
熱伝導粉末には、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、マグネシア、アルミナシリケート、シリコン、鉄、炭化珪素、炭素、窒化硼素、アルミナ、シリカ、アルミニウム、銅、銀、金、酸化亜鉛、亜鉛の粉末が利用できる。特に黒鉛が好ましい。本実施形態においては、膨張黒鉛の粉末を利用している。また熱伝導粉末の平均粒径は、0.1μm~500μmとすることが好ましい。その理由は、バインダー繊維との混合時に最適な密度となりやすいためである。
【0054】
なお
図1の例では、本実施形態に係る熱放射シートを、電池積層体25と放熱板40との間に介在させてこれら熱結合するために用いる例を説明した。ただ本発明はこの構成に限らず、二次電池セル20同士の間に介在されるスペーサ32に適用してもよい。一般に二次電池セル同士の間に介在されるスペーサには万一の熱暴走時を考慮して断熱性能が求められるところ、用途によっては、敢えてスペーサでもって二次電池セル間を熱伝導させる構成とすることもできる。すなわち、二次電池セルの一が何らかの異常で熱暴走した場合の対策としてでなく、平常動作時の動作を重視し、熱によって特定の二次電池セルの劣化が進行することを防ぐために、全体に均等に熱伝導させる。この場合は、発生する熱量を分散させ、二次電池セルの積層体の全体で熱を吸収させる構成とすることで、各二次電池セルに均等に熱が行き渡る構成とすることで、一部の二次電池セルの劣化が進行して電源装置全体の性能が低下する事態を回避できる。
(抄紙用スラリー)
【0055】
紙シート9は、黒鉛とバインダー繊維とを分散液に懸濁して調整された抄紙用スラリーを湿式抄紙して抄造される。黒鉛とバインダー繊維とを懸濁する分散液には、例えば水が使用できる。
【0056】
抄紙用スラリーに混合される黒鉛には、膨張黒鉛の粉末が使用できる、この黒鉛粉末は、例えば、膨張黒鉛を粉砕して、平均粒径が5μm~500μm、好ましくは10μm~400μm、さらに好ましくは50μm~300μmとしたものが使用できる。ただ、黒鉛は、膨張黒鉛の粉末には特定しない。抄紙用スラリーには、黒鉛を繊維状としたものを混合することもできる。
【0057】
抄紙スラリーに混合されるバインダー繊維には、好ましくは耐熱性に優れた繊維が使用される。このような繊維として、アラミド繊維が好適である。アラミド繊維は、耐熱性に優れ、また優れた強度を有する特徴がある。このようなアラミド繊維として、パラ系アラミド繊維またはメタ系アラミド繊維を単独で、あるいはこれ等を混合して使用することができる。これ等のアラミド繊維は、パルプ状に成形されたものが使用される。さらに、バインダー繊維には、アラミド繊維に加えてPET等の樹脂繊維を添加することもできる。
【0058】
以上の抄紙用スラリーは、黒鉛粉末とアラミド繊維を分散液中に均一に分散させて、その後、スクリーン(異物、塊等除去)等の工程を通り、最終の濃度を0.01~0.5質量%に調整する。
(熱放射シート10の製造方法)
【0059】
以上の熱放射シート10は、黒鉛の粉末とアラミド繊維とを分散液に懸濁してなる抄紙用スラリーを湿式抄紙してシート状の紙シート9とする抄紙工程と、この抄紙工程で得られる紙シート9を熱プレスして所定の厚さとするプレス工程とで製造される。ここで、
図2は、熱放射シート10を製造する製造装置1000の概略構成図を示している。
図2に示す製造装置1000は、抄紙用スラリーをシート状に抄造する抄紙機1と、この抄紙機1で抄造された紙シート9を乾燥させる乾燥機3と、乾燥された紙シート9を加熱プレスして所定の厚さとするプレス機2とを備えている。
(抄紙工程)
【0060】
抄紙工程は、黒鉛含有率の異なる複数の抄紙用スラリーを用意する原料調整工程と、原料調整工程で調整された複数の抄紙用スラリーを、黒鉛含有率の低い抄紙用スラリーが下層となり、黒鉛含有率の高い抄紙用スラリーが上層となるようにメッシュコンベア4の抄紙面4Aに分散させるスラリー供給工程とで紙シート9を抄造する。
(原料調整工程)
【0061】
原料調整工程では、黒鉛含有率を調整した抄紙用スラリーを調整する。この抄紙用スラリーをメッシュコンベア4上に順に分散させて、抄紙する。
(スラリー供給工程)
【0062】
スラリー供給工程は、移動するメッシュコンベア4上に抄紙用スラリーを分散させて層を形成し、紙シート9を形成する。これにより、紙シート9が抄造される。
【0063】
以上の抄紙工程において、湿式法による抄紙シート9の製造には、湿式の抄紙機として、繊維の分散が良いこと、配向性の調整が容易であること等の点から、好ましくは傾斜姿勢で配置されるメッシュコンベアを使用する。
(乾燥工程)
【0064】
抄紙工程で抄造された紙シート9は、
図2に示すように乾燥機3に移動されて乾燥される。図に示す乾燥機3は、ドラム型乾燥機で、ドラム7の外周に沿って移送される紙シート9を熱風により乾燥する。図に示す乾燥機3は、複数のドラム7を備えており、各ドラム7の外周面から放出される120~130℃の熱風を紙シート9に供給して、乾燥機3を通過する紙シート9を乾燥する構造としている。ただ、乾燥機は、ドラム型乾燥機には限定せず、紙シートを乾燥できる他の乾燥機も使用できる。
(プレス工程)
【0065】
乾燥工程で乾燥された紙シート9は、プレス機2に移送されて熱プレスされる。図に示すプレス機2は、水平姿勢で上下に配置された一対のローラー8を備えており、紙シート9を一対のローラー8の間に通過させて熱プレスする。一対のローラー8の間を通過する紙シート9は、所定の温度に加熱された状態で加圧されて、所定の厚さにプレスされる。図に示すプレス機2は、直径を30~100cmとする一対のローラー8を平行な姿勢で対向して配置しており、ローラー8間を通過する紙シート9を100~250℃の温度に加温しながら、100~300kg/cm2の圧力でプレスする構造としている。このプレス工程において、紙シート9は、50μm~500μm、好ましくは50μm~300μm、さらに好ましくは70μm~230μmの厚さにプレスされて熱放射シート10となる。連続する長いシート状に製造された熱放射シート10は、ロール状に巻き取られて出荷される。
【0066】
図2に示す製造装置は、抄紙機1と乾燥機3とプレス機2とを直線状に配置しており、一つのラインで熱放射シート10を製造するようにしている。ただ、製造装置は、乾燥機で乾燥された紙シートをロール状に巻き取った後、別ラインに設けたプレス機で熱プレスすることもできる。この方法は、抄紙工程と乾燥工程で製造される紙シートの製造ラインの移動速度と、別ラインのプレス機で熱プレスして製造される熱放射シートの製造ラインの移動速度とを異なる速さにできる。
【実施例1】
【0067】
本発明の実施例1に係る熱放射シート10を以下に示す工程で製造する。
[抄紙工程]
(原料調整工程)
【0068】
黒鉛を粉砕して平均粒径を100μmとする黒鉛粉末と、バインダー繊維としてパルプ状のパラ系アラミド繊維(アラミドパルプ)とPET繊維を所定の比率で混合する。混合された材料と、分散液として水をチェストに供給し、チェスト内において分散液中で懸濁して分散させて所定の濃度の抄紙用スラリーを調製する。この工程では、以下に示す混合比で黒鉛含有率が異なる抄紙用スラリーを調整する。
抄紙用スラリー:黒鉛粉末…………85質量%
アラミド繊維………5質量%
PET繊維………10質量%
スラリー濃度……1.0質量%
【0069】
これにより、黒鉛含有率を85質量%とする抄紙用スラリーが調整される。なお、原料調整工程において調整される抄紙用スラリーは、スラリー濃度を共に1.0質量%としているが、これ等のスラリーは、次工程であるスラリー供給工程において、さらに、濃度調整がされる状態で吐出される。例えば、抄紙用スラリーは、抄紙槽5内において、水中に分散された状態で供給されるので、水を加えて全体の濃度が例えば0.12質量%となるように調整された後、抄紙槽5に供給される。
(スラリー供給工程)
【0070】
抄紙用スラリーを、メッシュコンベア4に供給して湿式抄紙する。この実施例では、メッシュコンベア4上に抄紙用スラリーを分散させて、全体の厚さを200μmとする紙シート9を形成する。
[プレス工程]
【0071】
抄紙工程で抄造された紙シート9を乾燥工程で乾燥した後、プレス機で熱プレスして熱放射シート10とする。乾燥工程では、抄紙工程で抄造された紙シート9を、乾燥機3に通過させて乾燥する。乾燥機は、例えば、9基のドラムによって120~130℃の熱風で紙シート9を乾燥する。プレス工程では、熱プレス装置として、直径を50cmとする一対のローラー8間に紙シート9を通過させて、120℃の温度に加温しながら、150kg/cm2の圧力で熱プレスする。これにより、厚さを約70μmとする熱放射シート10を製造する。このようにして熱放射シート10が得られる。
【0072】
なお
図1の例では、二次電池セル20を複数積層した電池積層体25を、熱放射シート10で底面から放熱する構成について説明した。ただ本発明は、この構成に限らず、例えば電池積層体の側面や端面に熱放射シートを配置してもよい。また電池積層体を構成する二次電池セルのセル数も、3枚に限定せず、4枚以上、あるいは2枚以下としてもよい。
(圧縮復元試験)
【0073】
次に、実施例2~4、6、参考例1に係る熱放射シートを作成し、比較例1に係る熱放射シートと圧縮率、復元率、圧縮弾性率をそれぞれ測定した。この結果を表1に示す。測定には、インストロン ジャパン カンパニィ リミテッド社製の測定機モデル5985型を用いた。なお、測定機器の安全のため、ある程度厚さが必要であったため、複数枚を重ねて測定している。
【0074】
この圧縮復元試験で用いた各サンプルは、実施例2~4、6、参考例1が株式会社阿波製紙製熱拡散シート70~230μm品、比較例1がパナソニック社製200μm厚の焼成グラファイトシートである。表1の結果から、同じ枚数で比較しても、実施例2~4、6、参考例1に係る熱放射シートは、比較例1に係る熱放射シートよりも圧縮弾性が高いためつぶれにくく、また復元率に関しては比較例1より大きい値となった。
【0075】
また、試験条件として、インストロンを使用し、ロードセルは5kN、圧子は50mmΦ、試験速度は1mm/min、サンプルサイズは60mm角、厚さ1.5mm以上になるように積層し、手動で圧子を近づけ荷重0.001kN程度で試験を開始した。また実施例2~4、6、参考例1の熱拡散シートは、厚さがある程度必要であるため、複数枚積層した。この結果、積層枚数が増える程、圧縮弾性が小さくなった。また比較例1に係る熱拡散シートは、実施例2~4、6、参考例1と比べて圧縮弾性が1/10程度と小さく、圧縮率も大きかった。ただし復元率は小さく、つぶれると元に戻らない形状となった。
【0076】
さらに、表面粗さについては、比較例1に係る熱放射シートでは、実施例2~4、6、参考例1の熱放射シートと比べると、かなり粗い結果となった。
【0077】
最後に放射率については、密度が大きく異なるため、密度1以上と1未満で分けて比較した。いずれも放射率は、実施例2~4、6の熱放射シートが比較例1に係る熱放射シートを上回る結果となることが確認された。
【0078】
【0079】
以上の例では、熱放射シート10で放熱する対象物を、電源装置100の二次電池セル20とした例を説明した。ただ本発明は、熱放射シートで放熱する対象物たる発熱体を二次電池セルやその積層体に限定するものでなく、他の発熱体、例えばパワートランジスタやIC等の半導体素子の放熱に用いることもできる。一例として、トランジスタの放熱に適用する例を、実施形態2として
図3に示す。この図に示す放熱装置200は、トランジスタTRと放熱体40Bとの間に、熱放射シート10Bを介在させている。放熱体40Bは、板状の表面から放熱フィン42を複数枚、突出させている。放熱フィン42は、放熱体の上下面にそれぞれ設ける他、片面のみに設けてもよいし、また全面に設ける他、端縁のみに設ける等、任意の位置に任意の数を設けることができる。この放熱体40BとトランジスタTRとの間に、熱放射シート10Bを挟んだ状態でねじなどで螺合している。このような比較的小型の発熱体に対しても、発熱体と放熱体40Bとの接合界面に熱放射シート10Bを介在させることで、これらの熱結合状態を維持することができる。
【0080】
以上の例では、放熱板と発熱体との間に熱放射シートを介在させる構成を説明した。熱放射シートは圧縮復元率を高めることで、発熱体や放熱板が接合界面で熱膨張や熱収縮しても、変形分を熱放射シートで吸収することができ、発熱体と放熱板との熱結合状態を安定的に維持することができ、放熱性能の信頼性を向上できる。特に実施形態1に係る熱放射シート10は、熱伝導率を50W/m・K以上としており、ゴムなどの弾性体では熱伝導性が低いため放熱効果が低いことと比べて高い熱伝導を発揮でき、発熱体の熱がゴムで遮られることなく効率良く放熱板側に伝導される。加えて、特に車載用の電源装置では振動や衝撃に晒されるところ、このような機械的な振動や衝撃に対しても熱放射シートの高い圧縮復元率でもって変形することにより、発熱体と放熱板との接合界面を保護できる。
[実施形態3]
【0081】
ただ本発明は、熱放射シートを放熱板と発熱体との間に介在させ、発熱体の熱を放熱板に熱伝導させて放熱板から放熱させる構成に限定するものでなく、熱放射シート自体で放熱させるように構成してもよい。このような例を実施形態3に係る放熱装置300として、
図4に示す。この図に示す放熱装置300は、実施形態1と同様の電源装置を示しており、実施形態1と同様の部材については同じ符号を付して詳細説明を省略する。
【0082】
図4に示す電源装置は、電池積層体25の下面に熱放射シート10を接合させている。この電源装置は、電池積層体25の下面に熱放射シート10を貼付し、熱放射シート10から放熱させるよう構成している。熱放射シート10は、放射率を0.5以上としており、0.1程度の金属板などと比べて熱放射性に優れている。この結果、熱放射シート10自体が高熱とならずに放熱できるので、閉鎖空間における電池積層体25のような発熱体の放熱に好適である。加えて、金属板の放熱板と比べて大幅に軽量化と薄型化が図られるため、燃費向上にも資する。
[実施形態4]
【0083】
さらに、以上の例では一の電池積層体を熱放射シートで放熱する構成を説明したが、本発明はこれに限らず、複数の電池積層体を放熱する用途に利用することもできる。このような例を実施形態4に係る電源装置400として、
図5の平面図に示す。この図においても、上述した実施形態1等で示した部材と同じ部材については、同じ符号を付して詳細説明を省略する。
【0084】
図5に示す電源装置400は、4つの電池積層体25を備えている。4つの電池積層体25は、2つの電池積層体25を直列に接続した組を、2組並列に接続している。このような複数の電池積層体を放熱するため、従来は各電池積層体にそれぞれ放熱板を個別に設けていたところ、
図5に示すように一枚の大きな熱放射シート10Cに各電池積層体25を貼付することで、熱放射シート10Cを共通化できる。この利点として、放熱部材を共通化でき、仮に一の電池積層体の発熱量が多くなっても、他の電池積層体に伝熱して発熱を負担させることにより、一の電池積層体に発熱が集中して劣化する事態を抑制できる。また、熱放射シート10Cを広い面積としたことで、全体として熱放射の作用を高められる効果も得られる。
【0085】
このように、大面積で放熱を図る用途において、従来の金属板を用いた放熱板では面積に比例して重量が重くなるため、大型化には限界があった。これに対して本実施形態に係る熱放射シートは、金属よりも軽いため、金属板と比べて大型化が容易であり、大面積化が可能である。特に平板状の熱放射シートの大面積化が容易であり、上述した電源装置の他、例えばパソコン用やタブレット用のポリマー電池のような、同一平面上に並べられる二次電池の放熱、あるいは大画面ディスプレイ用の直下型バックライトとして用いられる、マトリックス状に配列されたLEDの放熱などの用途にも好適となる。
[実施形態5]
【0086】
さらに、本実施形態に係る熱放射シートは、リサイクル利用することもできる。例えば、使用済みの熱放射シートを、ミキサにかけるなどして細かく裁断し、水中に分散させることで再度熱放射シートを構成する。このようなリサイクルした熱放射シートも、リサイクル前の熱放射シートと同様に高い導電率を示すことが確認された。この結果を、実施形態5に係る熱放射シートして、表2に示す。この表に示す熱放射シートは、黒鉛の配合比を75%とした。また坪量は300g/m2とした。さらに熱圧加工前の原紙を30%、50%、70%の配合にてリサイクルしたものを、それぞれ実施例7、8、9の熱放射シートとして、測定方向を厚さ方向と面方向とする熱伝導率を測定した。また、加工後の紙を50%の配合にてリサイクルしたものを、実施例10とした。一方で、比較例2として、リサイクルせずに黒鉛を75%配合したブランクを作成した。これらの結果から、原紙を用いた実施例7~9では、リサイクルでも同等の熱伝導率を達成した。一方で、加工紙を用いた場合は、熱伝導率が1割程度低下した。
【0087】
【0088】
軽量化が求められる他の移動体用の電源装置の冷却を行う冷却装置としても利用できる。また電源装置の冷却に限らず、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンのような、携行性が求められるモバイル機器の放熱用途においても、軽量で薄型という熱放射シートの利点が生かされる。
【0089】
なお、熱放射シートは導電性を備えるため、絶縁性が求められる用途においては、適宜絶縁部材を介在させる。例えば上述した
図1において、熱放射シート10としてでなくスペーサ23として本発明を適用する場合が該当する。この場合は、例えば熱放射シートの表面に、絶縁性を有する紙製の表面シートを貼付し、絶縁性を持たせてもよい。絶縁性を有する表面シート12は、
図6に示すように、熱放射シート10Dの片面にのみ貼付してもよいし、あるいは
図7に示すように熱放射シート10Eの両面に貼付してもよい。また、熱放射シートをシート化した後、別途作成した表面シート12を接着材等で貼付する構成とする他、抄紙工程を経て熱プレスによりシート化された紙シートに、表面シートを熱プレス等で積層してもよい。あるいは
図1や
図3等で示した発熱体と放熱部材との間に熱放射シートを介在させる際、別部材の表面シートを熱放射シート10の表面に重ねてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る熱放射シート及びこれを用いた放熱装置は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両用の電源装置を放熱する放熱装置、コンピューターに内蔵されるCPU等の電子部品やLED、液晶、PDP、EL、携帯電話等の発光素子等の電子部品からの発熱を放熱する熱放射シートとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0091】
1000…熱放射シート製造装置
100、400…電源装置
200、300…放熱装置
1…抄紙機
2…プレス機
3…乾燥機
4…メッシュコンベア
4A…抄紙面
5…抄紙槽
6…供給部
7…ドラム
8…ローラー
9…紙シート
10、10B、10C、10D、10E…熱放射シート
12…表面シート
20…二次電池セル
21…外装缶
25…電池積層体
30…端面板
32…スペーサ
40…放熱板;40B…放熱体
42…放熱フィン
TR…トランジスタ