(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】有機電界発光素子および有機電界発光ディスプレイ
(51)【国際特許分類】
H10K 50/858 20230101AFI20241205BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20241205BHJP
H10K 50/828 20230101ALI20241205BHJP
H10K 50/844 20230101ALI20241205BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241205BHJP
【FI】
H10K50/858
G09F9/30 349Z
G09F9/30 365
H10K50/828
H10K50/844 445
H10K59/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022150414
(22)【出願日】2022-09-21
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504161984
【氏名又は名称】ホアウェイ・テクノロジーズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133569
【氏名又は名称】野村 進
(72)【発明者】
【氏名】鬼島 靖典
(72)【発明者】
【氏名】加辺 正章
(72)【発明者】
【氏名】石崎 剛司
(72)【発明者】
【氏名】チ・シュン・チャン
(72)【発明者】
【氏名】森田 真太郎
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-082198(JP,A)
【文献】特開2020-053412(JP,A)
【文献】国際公開第2010/113737(WO,A1)
【文献】特開2015-088418(JP,A)
【文献】特開2011-054526(JP,A)
【文献】特開2019-079725(JP,A)
【文献】特開2008-258086(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161000(WO,A1)
【文献】特許第4981300(JP,B2)
【文献】特開2017-009669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0049866(US,A1)
【文献】特開2022-080507(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-102/20
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズからなるレンズ層と、
前記レンズ層を覆うカバー層と、をカソードを封止する封止層上に備え、
前記複数のレンズが、前記レンズ層の厚み方向と直交する面方向に並んで配置され、
複数の前記レンズのうち隣接する前記レンズ同士は、接触しており、
前記面方向の各位置において、前記レンズのレンズ直径および厚みが不規則に異なり、
前記カバー層が、前記レンズより低い屈折率を有する材料からなる、ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記レンズ直径の平均値をD1とし、前記複数のレンズの厚みのうち最大の厚みをH1としたとき、
前記レンズ直径の平均値D1に対する前記最大の厚みH1の比(H1/D1)が、0.5以上、1.0以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記レンズ層は、前記面方向において、100μm
2当たり1個以上の前記レンズを含む、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記レンズ直径は、1.0μm以上、20.0μm以下である、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
隣接する前記レンズ同士が、隙間なく配置されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
有機電界発光層と前記レンズ層との間に、前記有機電界発光層を封止する封止層が積層され、
前記封止層は、無機材料からなる無機層のみか、あるいは前記無機層と有機材料からなる有機層とを、積層方向に交互に重ねてなる、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
請求項1または2のいずれかに記載のトップエミッション構造を持つ有機電界発光素子を備える、ことを特徴とする有機電界発光ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子および有機電界発光ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示素子に代わる表示デバイスとして、有機電界発光ディスプレイが注目されている。有機電界発光ディスプレイに用いられる有機電界発光素子は、積層される有機材料の合計膜厚が概して1μm以下であり、電流を注入することにより電気エネルギーを光エネルギーに変換して面状に発光するなど、自発光型の表示デバイスとして理想的な特徴を有している。
【0003】
従来の有機電界発光素子の一例としては、基板上に、アノード、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、カソードを、例えば真空蒸着法で順次成膜したものがある。アノードとカソードとの間に直流電圧を選択的に印加することによって、アノードから注入されたキャリアとしての正孔が正孔輸送層を経て、またカソードから注入された電子が電子輸送層を経て、それぞれ発光層に到達して電子-正孔の再結合が生じ、ここから発光層を構成する発光中心となる有機材料の分子骨格に依存した固有の発光が生じ、電流が流れる。
【0004】
デバイス上部から光を取り出すトップエミッション構造では、発光層で生じた光のうち一部が、アノードとカソードのそれぞれの有機層と接する界面で生じているプラズモン損失モード(Plasmon loss mode)となり、他の一部がカソード上の封止層内を例とし、各有機層内に閉じ込められて取り出すことのできない導波光モード(Waveguide mode)となる。有機電界発光素子の外部量子効率を向上させる観点から、これらのモードによる発光ロスを減らすことが求められている。例えば、電子輸送層を、凹凸パターンを有する半結晶化有機物(SCO)の層に置き換えることにより、プラズモン損失モードによる発光ロスを減らす技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、カソード上の封止層における発光ロスを減らし、外部量子効率を向上させた有機電界発光素子と、それを備えた有機電界発光ディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0007】
(1)本発明の一態様に係る有機電界発光素子は、複数のレンズからなるレンズ層と、前記レンズ層を覆うカバー層と、をカソード上に備え、前記複数のレンズが、前記レンズ層の厚み方向と直交する面方向に並んで配置され、前記面方向の各位置において、前記レンズのレンズ直径および厚みが不規則に異なり、前記カバー層が、前記レンズより低い屈折率を有する材料からなる。
レンズ層の各位置において、レンズの形状および大きさが不規則に異なっていることにより、レンズ層に入射した光がランダムな方向に反射され、直下の封止層内での回折パターンの発生が妨げられるため、導波光モードの光が減少する。また、カバー層の材料を、光取り出しを向上する低屈折率材料としたことにより、レンズ内からの光取り出しが向上する。したがって、カソード上の封止層の導波光モードによる発光ロスを減少させるとともに、基板モードとして取り出せる光を増加させることができ、外部量子効率を向上させることができる。
【0008】
(2)上記態様に係る有機電界発光素子において、前記レンズ直径の平均値をD1とし、前記複数のレンズの厚みのうち最大の厚みをHとしたとき、前記レンズ直径の平均値D1に対する前記最大の厚みH1の比(H1/D1)が、0.5以上、1.0以下であることが好ましい。
比(H1/D1)をこの範囲とすることにより、正面方向への集光率を高め、正面における光取り出しを改善する事が出来る。
【0009】
(3)上記態様に係る有機電界発光素子において、前記レンズ層は、前記面方向において、100μm2当たり1個以上の前記レンズを含むことが好ましい。言い換えれば、構成される1ピクセルに少なくとも2つ以上のレンズを配置する事が必要である。
レンズの数密度をこの範囲とすることにより、レンズの不規則性の効果によって回折パターンの発生をより強力に妨げることができ、また、外部からレンズ層を張り付ける際に、位置合わせ(アライメント)が不要となるため、作製プロセスにおける位置合わせ歩留まりが大きく改善し、全体歩留まりが大きく向上できる。
【0010】
(4)上記態様に係る有機電界発光素子において、前記レンズ直径は、1.0μm以上、20.0μm以下であることが好ましい。
レンズ直径をこの範囲とすることにより、発光層に対して上記の様に1ピクセルに少なくとも2つ以上のレンズを配置する事が可能となり、レンズのアライメントが不要となる。
また、配置されたレンズは、隙間なく並べられることが重要であり、従って上面から見たレンズ形状は円形ではなく、多角形の形状を取ることを特徴とする。
【0011】
(5)上記態様に係る有機電界発光素子において、隣接する前記レンズ同士が、隙間なく配置されていることが好ましい。
不規則な直径と厚みのレンズが隙間なく並べられることにより、発光ピクセル内或いは面内における輝度ムラの発生を抑える事が出来る。
【0012】
(6)上記態様に係る有機電界発光素子において、有機電界発光層と前記レンズ層との間に、前記有機電界発光層を封止する封止層が積層され、前記封止層は、無機材料からなる無機層のみか、あるいは前記無機層と有機材料からなる有機層とを、積層方向に交互に重ねてなることが好ましい。
【0013】
(7)本発明の一態様に係る有機電界発光ディスプレイは、上記態様に係るトップエミッション構造を持つ有機電界発光素子を備える。
この構成により、発光ロスを減らし、外部量子効率を向上させた有機電界発光ディスプレイを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カソード上の封止層における発光ロスを減らし、外部量子効率を向上させた有機電界発光素子と、それを備えた有機電界発光ディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る有機電界発光ディスプレイの積層構造を、模式的に説明する図である。
【
図2】
図1の有機電界発光ディスプレイを構成する、トップエミッション構造を持つ有機電界発光素子の断面図である。
【
図3】
図1の有機電界発光ディスプレイのうち、薄膜封止層の構成を変更した図である。
【
図4】
図3の有機電界発光ディスプレイを構成する、トップエミッション構造を持つ有機電界発光素子の断面図である。
【
図5】(a)1ピクセルの平面図である。(b)1レンズの平面図である。(c)レンズ層の平面図である。
【
図6】
図1の有機電界発光ディスプレイの構成での発光強度の角度分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態に係る有機電界発光素子および有機電界発光ディスプレイについて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。また、
図1~4は、基板上部より光を取り出すトップエミッション構造に関しての例示であるが、本発明はトップエミッションに限ったことではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る有機電界発光ディスプレイ100A(100)の積層構造について、説明する図である。
図2は、有機電界発光ディスプレイ100Aを構成する、有機電界発光素子130A(130)の断面図である。有機電界発光ディスプレイ100Aは、主に、バックサイドバリア部110、バックプレーン部120、有機電界発光素子130A、接着層140、カバーガラス(及び/又は柔軟性を有するフィルム(紫外線カットフィルム等))150を、積層方向に沿って順に備える。
【0018】
バックサイドバリア部110は、SiNx/SiOx層、有機物/樹脂層、SiNx/SiOx層を順に備える。バックプレーン部120は、基板、平坦化膜(PLN)/薄膜トランジスタ(TFT)を順に備える。
【0019】
接着層140は、接着剤/タッチパネル(TP)/バリア層(OCA)、接着剤層を順に備える。
【0020】
図2に示すように、有機電界発光素子130Aは、フロントプレーン部131、薄膜封止層132A(132)、レンズ層133、カバー層134を、積層方向に沿って順に備える。フロントプレーン部131は、アノード131A、有機層131E、及びカソード131Cを順に備える。有機層131Eは、アノード側からカソード側に向かって、正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層、正孔阻止層(HBL)、電子輸送層(ETL)を順に備える。
【0021】
薄膜封止層132Aは、フロントプレーン部(有機電界発光層)131とレンズ層133との間に配置され、フロントプレーン部131を封止する封止層である。ここでは、薄膜封止層132Aが、無機材料からなる無機層のみ、具体的には、SiNx/SiOx層のみを備える場合を例示している。
【0022】
図3は、
図1の有機電界発光ディスプレイ100Aのうち、薄膜封止層132の構成を変更した有機電界発光ディスプレイ100Bの積層構造を、模式的に説明する図である。
図4は、
図3の有機電界発光ディスプレイ100Bを構成する、トップエミッション構造を持つ有機電界発光素子130B(130)の断面図である。薄膜封止層132Bは、無機層と有機材料からなる有機層とを、積層方向に交互に重ねてなるものであってもよい。ここでは、薄膜封止層132Bが、SiNx/SiOx層、有機物/樹脂層、SiNx/SiOx層を順に備える場合を例示している。
【0023】
レンズ層133は、フロントプレーン部131上(カソード131C上)に形成された複数のレンズLからなる。複数のレンズLは、レンズ層133の厚み方向(積層方向)Tと直交する面方向Sに、並んで配置される。レンズ層133のうち、カソード131Cと反対側(上側)において、異なる曲率の表面を有する部分同士を、互いに異なるレンズLと見なす。複数のレンズLのうち隣接するレンズL同士は、接触していることが必須である。
【0024】
面方向Sの各位置において、各レンズLのレンズ直径Dおよび厚みHが、不規則に異なっている。レンズ直径Dは、面方向Sにおける各レンズの大きさであり、特に限定されないが、例えば1.0μm以上、20.0μm以下としてもよい。レンズの厚みHは、厚み方向Tにおける各レンズの大きさであり、前記複数のレンズの厚みのうち最大の厚みをH1としたとき、前記レンズ直径の平均値D1に対する前記最大の厚みH1の比(H1/D1)が、0.5以上、1.0以下であることが好ましい。
【0025】
本実施形態において、レンズ直径D、厚みHが不規則に異なる場合とは、厚み方向Tからの平面視において、レンズLのレンズ直径Dおよび厚みHが揃っていない場合を意味している。例えば、同平面視において、面積1mm2の領域に含まれるレンズLのレンズ直径D、厚みHについて、平均値からのばらつきが、それぞれ0%より大きく、50%以下となる場合を、レンズ直径D、厚みHが不規則に異なる場合として定義してもよい。なお、レンズ直径Dと厚みHの分布が不規則であることは、例えば、積層方向からの平面視において得られる画像(SEM画像等)で確認することができる。
【0026】
隣接する前記レンズ同士が、隙間なく配置されている。不規則な直径と厚みのレンズが隙間なく並べられることにより、発光ピクセル内或いは面内における輝度ムラの発生を抑える事が出来る。
【0027】
各レンズLは、屈折率が1.4以上、2.1以下の材料からなる。そのような材料としては、例えば、シロキサン系ポリマー、ZrO、TiO2等を分散させたポリマー、或いはZrO、TiO2を主成分とする無機物の混合等、あるいは、それらの少なくとも一つを主成分として含む化合物等が挙げられる。また、レンズLの原材料は、溶媒を含まないものであることが好ましい。
【0028】
レンズ直径をDとし、複数のレンズの厚みHのうち最大の厚みをH1としたとき、レンズ直径の平均値D1に対する最大の厚みH1の比(H1/D1)が、0.5以上、1.0以下であることが好ましい。これにより、正面方向への集光率を高め、正面における光取り出しを改善する事が出来る。
【0029】
レンズ層133は、面方向Sにおいて、100μm2当たり1個以上、好ましくは1.8個以上50個以下のレンズLを含む。また、レンズ層133のうち、積層方向において発光層と重なる領域に、1つ以上のレンズLが含まれていることが好ましく、4つ以上のレンズLが含まれていればより好ましい。
【0030】
レンズ層133は、例えば、ナノインプリントを含む金型を用いた成形法、あるいはインクジェット法、スパッタリング法等を用いて形成することができる。
【0031】
カバー層134は、レンズ層133の表面を覆う。カバー層134のレンズ層133と反対側(上側)の面は、平坦化されている。レンズ層133とカバー層134の厚みの合計は、10~20μm程度であることが好ましい。カバー層134は、レンズLより低い屈折率を有する材料からなる。そのような材料としては、例えば、シロキサン系ポリマー、メタクリル酸系ポリマー、シリコーン、アクリル系ポリマー等、あるいは、それらの少なくとも一つを主成分として含む化合物等が挙げられる。この充填剤は溶媒を含まないことが好ましい。
【0032】
カバー層134は、例えば、レンズ層133を構成後、スクリーン印刷法やインクジェット法を用いて、レンズ層113の表面に存在する空乏層(空隙)を埋めて形成される。
【0033】
フロントプレーン部131の二つの電極(アノード131A、カソード131C)で、有機層に電圧を印加した場合に、それぞれの電極から有機層に注入される正孔と電子が、発光層で再結合し、励起子を生成して励起状態となり、基底状態に戻るときに放出されるエネルギーとして、光を発生する。(有機エレクトロルミネッセンス(EL)現象)。
【0034】
アノード131Aは、有機層の底面に設けられている。アノード131Aは、反射層の機能を兼ね備えていてもよい。これにより、有機電界発光素子の発光効率が向上する。アノード131Aの材料は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、プラチナ(Pt)、ネオジム(Nd)、又は金(Au)などの単一の金属元素、又はこれらの金属の合金を含むことができる。
【0035】
一例として、アノード131Aは、第1の透明電極、反射電極、及び第2の透明電極を含む。アノードの材料は、例えば、ITO/Ag合金/ITOである。ITOはインジウムスズ酸化物で作られた透明電極である。使用するAg合金は、安定性の観点からAg、Pd、Cu等の合金でもよいが、電極の反射率が高ければ、例えばAl系合金で作られた電極を使用することができる。ITO、Ag合金、及びITOは、それぞれ50nm、150nm、及び10nmの膜厚を有し得るが、デバイス設計に応じて適宜決める事が可能である。必ずしも合金である必要はなく、安定したアノードが構成されるのであれば、金属単体でも構わない。例えば、ITO/Ag/ITOの構造でも可能である。
【0036】
カソード131Cは、有機層の上面に設けられている。カソード131Cは、アノード131Aの反対側に設けられている。トップエミッション構造の場合、一般的にはカソード131C側から光を出射させる必要がある。したがって、カソード131Cは透明あるいは半透過性(semi-transparency)を有する必要が有る。カソード131CがITOやIZOなどの透明電極で形成されている場合、その膜厚は数百ナノメートル程度とすることが可能であるが、面内導電性や等電位面を形成できれば、パネルサイズや解像度に応じて、任意の膜厚を選択することができる。金属電極を用いた場合、膜厚が厚いと透明性が損なわれて好ましくないため、カソード131Cの膜厚は15nm以下が好適である。カソード131Cの材料は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、又はナトリウム(Na)などの単一の金属元素、又はこれらの金属の合金であってよい。より具体的には、カソードの材料は、マグネシウムと銀の合金(MgAg合金)、又はアルミニウム(Al)とリチウム(Li)の合金(AlLi又はその二層を積み重ねたもの)とすることができる。カソード131Cとして、任意のタイプ又は組成の電極を選択することができる。
【0037】
発光層は、アノード131Aとカソード131Cとの間に設けられている。発光層は、アノード131A及びカソード131Cから注入された正孔と電子との再結合により発生した励起子により発光する。発光層は、構成材料に対応する波長を有する光を発光する。例えば、発光層が青色光を放射する場合、発光層は、ホスト材料としてのADN(アントラセンジナフチル)及びゲスト材料として混合された青色発光の4,4’-ビス[2-{4-(N、N-ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)2.0モル%を含む。発光層の厚さは、例えば、30nmである。ただし、発光層の材料及び厚みは特に限定されない。
【0038】
正孔注入層は、発光層への正孔注入の効率を高め、リークを防止するためのバッファ層として機能する。一例として、正孔注入層は、芳香族アミン構造を有する。正孔注入層は、4、4’、4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)及び4、4’、4’’-トリス(2-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(2-TNATA)の何れか1つを含んでよい。一例として、正孔注入層の膜厚は5nm以上である。例えば、正孔注入層の膜厚は10nmである。正孔注入層は、P型ドーパントでドープされてもよい。
【0039】
正孔輸送層は、発光層とアノード131Aとの間に設けられる。正孔輸送層は、発光層への正孔輸送の効率を高める。一例として、正孔輸送層は、芳香族アミン構造を有する。正孔輸送層は、ビス[(N-ナフチル)-N-フェニル]ベンジジン(α-NPD)が代表的な材料として挙げられる。一例として、正孔輸送層の膜厚は、5nm以上130nm以下であってもよい。例えば、正孔輸送層の膜厚は10nmである。正孔輸送層は、P型ドーパントでドープされてもよい。
【0040】
正孔阻止層は、正孔輸送領域から発光層に注入された正孔が電子輸送領域側に移動することを防止する。正孔阻止層は、発光層のキャリア数密度を調整し、キャリア閉じ込め効果により、励起子(エキシトン)生成効率を高めることができる。正孔阻止層の材料は、発光層及び電子輸送層の材料に従って選択することができる。例えば、正孔阻止層は、発光層より低いHOMOレベル(すなわち、より大きなイオン化ポテンシャル)を有する材料である。このように、正孔阻止層は、発光層からの正孔の移動を抑制し、再結合確率を向上させることができる。さらに、正孔阻止層は、LUMO準位が電子輸送層のLUMO準位に近い材料で形成されることが好ましい。これにより、電荷注入障壁が低減される。
【0041】
電子輸送層は、カソード131Cと発光層との間に設けられる。電子輸送層は、発光層への電子輸送の効率を高める。電子輸送層が電子輸送特性を有する材料である限り、電子輸送層の材料は特に限定されない。電子輸送層は、アリールピリジン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体などを含んでもよい。電子輸送層は、N型ドーパントでドープされてもよい。さらに、電子輸送層は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属及びそれらの酸化物、複合酸化物、フッ化物、炭酸塩などを含んでもよい。
【0042】
隣接する有機電界発光素子同士の間は、画素定義膜(PDL)によって区画されている。画素定義膜の材料としては、高い抵抗率を有する黒色材料を用いることにより、偏光板無しでも、表面反射の低下を抑えることができる。また、有機電界発光素子は、薄膜封止層で被覆され、更にこの薄膜封止層上に接着層を介してガラス等の基板が全面にわたって貼り合わされることにより、封止されている。
【0043】
以上のように、本実施形態の有機電界発光素子を備えた有機電界発光ディスプレイでは、レンズ層の各位置において、レンズの形状および大きさが不規則に異なっていることにより、レンズ層に入射した光がランダムな方向に反射され、直下の封止層内での回折パターンの発生が妨げられるため、導波光モードの光が減少する。また、カバー層の材料を、光取り出しを向上する低屈折率材料としたことにより、レンズ内からの光取り出しが向上する。したがって、カソード上の封止層の導波光モードによる発光ロスを減少させるとともに、基板モードとして取り出せる光を増加させることができ、外部量子効率を向上させることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0045】
(実施例1)
上記実施形態の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径の平均値を1.5μmとし、レンズの厚みの最大値を1.0μmとした。100μm2当たりのレンズの数を44.4としたサンプルを作製した。
【0046】
(実施例2)
上記実施形態の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径の平均値を2.0μmとし、レンズの厚みの最大値を1.5μmとした。100μm2当たりのレンズの数を25.0としたサンプルを作製した。
【0047】
(実施例3)
上記実施形態の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径の平均値を3.0μmとし、レンズの厚みの最大値を2.0μmとした。100μm2当たりのレンズの数を11.1としたサンプルを作製した。
【0048】
(実施例4)
上記実施形態の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径の平均値を5.0μmとし、レンズの厚みの最大値を3.3μmとした。100μm2当たりのレンズの数を4.0としたサンプルを作製した。
【0049】
(実施例5)
上記実施形態の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径の平均値を5.0μmとし、レンズの厚みの最大値を2.6μmとした。100μm2当たりのレンズの数を4.0としたサンプルを作製した。
【0050】
(実施例6)
上記実施形態の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径の平均値を7.5μmとし、レンズの厚みの最大値を5.0μmとした。100μm2当たりのレンズの数を0.67としたサンプルを作製した。
【0051】
(実施例7)
上記実施形態の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径の平均値を10.0μmとし、レンズの厚みの最大値を8.0μmとした。100μm2当たりのレンズの数を0.80としたサンプルを作製した。
【0052】
(参考例)
実施例1の有機電界発光ディスプレイにおいて、レンズを備えていないとした構成において、参考例としてサンプルを作製した。
【0053】
(比較例1)
従来技術の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径を22.0μm、厚みを17.0μmに統一したマイクロレンズとした。100μm2当たりのレンズの数を0.2としたサンプルを作製した。その他の条件については、実施例1と同様とした。
【0054】
(比較例2)
従来技術の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径を5.0μm、厚みを2.0μmに統一したマイクロレンズとした。100μm2当たりのレンズの数を4.0としたサンプルを作製した。その他の条件については、実施例1と同様とした。
【0055】
(比較例3)
従来技術の有機電界発光ディスプレイのレンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径を5.0μm、厚みを1.5μmに統一したマイクロレンズとした。100μm2当たりのレンズの数を4.0としたサンプルを作製した。その他の条件については、実施例1と同様とした。
【0056】
参考例、実施例1~7、比較例1~3、参考例の測定結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
実施例1~7では、本発明のH1/D1の比率の範囲(0.5以上、1.0以下)を満足したレンズ効果により、参考例に対して発光照度の向上が見られる。これは、ランダムな直径と高さ(厚み)のレンズを隙間なく並べることにより、回折を防ぐことができているためである。一方、比較例2、3では、レンズの構成に規則性があって回折が生じてしまうため、発光照度が参考例より低くなっている。
【0059】
図5(a)は、発光領域が四角形であるとしたときの1ピクセルの平面図(上面図)である。
図5(b)は、レンズ層を構成するレンズの平面図である。
図5(c)は、レンズ層の平面図である。
【0060】
様々な大きさのレンズ、ピクセルに対し、1ピクセルと重なる領域に含まれるレンズの数、すなわちレンズ密度を測定した。測定結果の平均値を表2に示す。
【0061】
【0062】
レンズ密度は4.0以下であり、レンズ直径Dが、1ピクセルの一辺の長さPより小さくなることが必要である。1ピクセルの面積に、レンズが少なくとも一つ以上含まれることが好ましい。
【0063】
(実施例8)
上記実施形態の有機電界発光ディスプレイの構成において、測定を行った。レンズ層を構成するレンズについて、レンズ直径の平均値を7.5μmとし、レンズの厚みの最大値を7.0μmとした。
【0064】
図6は、実施例8、参考例の有機電界発光ディスプレイの構成で測定を行った、発光強度の角度分布を示すグラフである。グラフの横軸は、有機電界発光ディスプレイの積層方向と、発光層で発生した光の進行方向とのなす角度を示している。グラフの縦軸は発光強度を示している。
【0065】
実施例8は、全角度範囲にわたって、参考例より高い発光強度を示している。角度0度の方向、すなわち発光層の直上の方向においては、実施例8で得られる発光強度が、参考例で得られる発光強度の110~120%になっている。また、角度45度の方向においては、実施例8で得られる発光強度が、参考例で得られる発光強度の約120%になっている。
【符号の説明】
【0066】
100A、100B、100・・・有機電界発光ディスプレイ
110・・・バックサイドバリア部
120・・・バックプレーン部
130A、130B、130・・・有機電界発光素子
131・・・フロントプレーン部
131A・・・アノード
131C・・・カソード
131E・・・有機層
132A、132B、132・・・薄膜封止層
133・・・レンズ層
134・・・カバー層
140・・・接着層
150・・・カバーガラス
L・・・レンズ
D・・・レンズ直径
D1・・・レンズ直径の平均値
H・・・レンズの厚み
H1・・・レンズの厚みの最大値
S・・・面方向
T・・・厚み方向
【要約】
【課題】カソード上の封止層における発光ロスを減らし、外部量子効率を向上させた有機電界発光素子と、それを備えた有機電界発光ディスプレイを提供する。
【解決手段】本発明の有機電界発光素子130は、複数のレンズLからなるレンズ層133と、レンズ層133を覆うカバー層134と、をカソード上に備え、複数のレンズLが、レンズ層133の厚み方向Tと直交する面方向Sに並んで配置され、面方向Sの各位置において、レンズLのレンズ直径Dおよび厚みHが不規則に異なり、カバー層134が、レンズLより低い屈折率を有する材料からなる。
【選択図】
図2