(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】窒化ホウ素焼結体、複合体及びこれらの製造方法、並びに放熱部材
(51)【国際特許分類】
C04B 35/583 20060101AFI20241205BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20241205BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C04B35/583
H01L23/36 M
H05K7/20 F
(21)【出願番号】P 2022512150
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021013053
(87)【国際公開番号】W WO2021200724
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2020064585
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 厚樹
(72)【発明者】
【氏名】武田 真
(72)【発明者】
【氏名】小橋 聖治
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/196496(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/025933(WO,A1)
【文献】特開2014-162697(JP,A)
【文献】特開2019-073409(JP,A)
【文献】特開2007-308360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583-35/5835,38/00,41/83,
H01L 23/36,23/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20μm以上の長さを有する複数の粗大粒子と、前記複数の粗大粒子よりも小さい微細粒子と、を含有し、
気孔の平均細孔径が5μm未満であり、
断面をみたときに、
前記複数の粗大粒子同士が交差して
おり、
前記複数の粗大粒子によって取り囲まれる領域と、前記領域内に前記微細粒子と、を有する、窒化ホウ素焼結体。
【請求項2】
前記断面をみたときに、3つ以上の前記粗大粒子が連なっている、請求項1に記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項3】
熱伝導率が20W/mK以上である、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項4】
気孔率が30~65体積%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項5】
かさ密度が800~1500kg/m
3である、請求項1~4のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項6】
配向性指数が20以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の窒化ホウ素焼結体と、前記窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂と、
を含む複合体。
【請求項8】
前記樹脂は前記窒化ホウ素焼結体の気孔の一部に充填されており、気孔率が5体積%以下である、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
請求項
7又は8に記載の複合体を有する放熱部材。
【請求項10】
塊状の窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って、
気孔の平均細孔径が5μm未満であり、断面における長さが20μm以上である
複数の粗大粒子と前記粗大粒子よりも小さい微細粒子とを含有
し、前記複数の粗大粒子によって取り囲まれる領域と、前記領域内に前記微細粒子と、を有する窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程を有する、窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項11】
炭窒化ホウ素とホウ素化合物とを含む混合物を窒素雰囲気下で焼成し、平均粒径が10~200μmの塊状の窒化ホウ素を得る原料調製工程と、
塊状の前記窒化ホウ素と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って、断面における長さが20μm以上である粗大粒子と前記粗大粒子よりも小さい微細粒子とを含有する窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、を有する、窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記焼結助剤がホウ素化合物及びカルシウム化合物を含有し、
前記配合物は、塊状の前記窒化ホウ素100質量部に対して前記ホウ素化合物及び前記カルシウム化合物を合計で1~40質量部含む、請求項11に記載の窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記配合物は、前記ホウ素化合物を構成するホウ素100原子%に対して、前記カルシウム化合物を構成するカルシウムを5~150原子%含む、請求項12に記載の窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか一項に記載の製造方法で得られた窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する、前記窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素焼結体、複合体及びこれらの製造方法、並びに放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱することが求められる。このような要請から、従来、電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層の高熱伝導化を図ったり、電子部品又はプリント配線板を、電気絶縁性を有する熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付けたりすることが行われてきた。このような絶縁層及び熱インターフェース材には、樹脂と窒化ホウ素等のセラミックスとで構成される複合体(放熱部材)が用いられる。
【0003】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び電気絶縁性等を有していることから、窒化ホウ素を含むセラミックスを放熱部材に用いることが検討されている。特許文献1では、配向度及び黒鉛化指数を所定の範囲にして、熱伝導率に優れつつ熱伝導率の異方性を低減する技術が提案されている。特許文献2では、塊状窒化ホウ素粉末を用いて放熱部材を製造する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-162697号公報
【文献】特開2019-73409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子部品内の回路の高集積化に伴って、従来よりもさらに高い放熱特性を有する放熱部材、及びこれに好適に用いられる複合体が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体及び複合体を提供する。また、本開示では、そのような窒化ホウ素焼結体及び複合体を製造することが可能な製造方法を提供する。また、本開示では、上述の複合体を備えることによって、十分に高い熱伝導率を有する放熱部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一つの側面において、20μm以上の長さを有する複数の粗大粒子と、複数の粗大粒子よりも小さい微細粒子と、を含有し、断面をみたときに、複数の粗大粒子同士が交差している、窒化ホウ素焼結体を提供する。このような窒化ホウ素焼結体は、20μm以上の長さを有する複数の粗大粒子を含むことから、微細粒子のみを含む場合よりも高い熱伝導率を有する。また、複数の粗大粒子同士が交差していることから、複数の粗大粒子による熱の伝導経路が形成され、熱伝導性の異方性を低減して熱伝導率を十分に高くすることができる。なお、本開示における粗大粒子の長さとは、走査型電子顕微鏡による断面の画像において、一つの粗大粒子の長手方向における長さをいう。本開示における「交差する」には、十字状に交わるもののみならず、例えばT字状に交わるものも含まれる。
【0008】
窒化ホウ素焼結体の上記断面をみたときに、3つ以上の粗大粒子が連なっていてもよい。これによって、粗大粒子による熱の伝導経路が長くなり、熱伝導率を一層高くすることができる。本開示において、「粗大粒子が連なる」場合とは、粗大粒子同士が互いに交差する場合のみならず、粒子同士が互いに面で接触する場合、及び端部同士が接触する場合も含む。
【0009】
窒化ホウ素焼結体の上記断面をみたときに、複数の粗大粒子によって取り囲まれる領域と、領域内に微細粒子と、を有していてもよい。微細粒子を含む領域を取り囲むように粗大粒子を含むことから、粗大粒子による熱の伝導経路が網目状に形成されることとなり、熱伝導率を十分に高くすることができる。
【0010】
上記窒化ホウ素焼結体における気孔率は30~65体積%であってよい。また、かさ密度は800~1500kg/m3であってよい。気孔率及びかさ密度の少なくとも一方がこの範囲にあることによって、熱伝導率を十分に高くしつつ、樹脂組成物を十分に含浸させることができる。このような窒化ホウ素焼結体は、優れた熱伝導率と優れた電気絶縁性とを高い水準で両立できる複合体を形成することができる。
【0011】
上記窒化ホウ素焼結体における気孔の平均細孔径は5μm未満であってよい。このような窒化ホウ素焼結体は、気孔のサイズが十分に小さいことから、窒化ホウ素粒子同士の接触面積を十分に大きくすることができる。したがって、熱伝導率を一層高くすることができる。
【0012】
上記窒化ホウ素焼結体の配向性指数は20以下であってよい。これによって、熱伝導性の異方性を十分に低減することができる。
【0013】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂と、含む複合体を提供する。この複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体と樹脂とを含むことから、優れた熱伝導率と優れた電気絶縁性を兼ね備える。
【0014】
本開示は、一つの側面において、上述の複合体を有する放熱部材を提供する。この放熱部材は上述の複合体を有することから、十分に高い熱伝導率を有する。
【0015】
本開示は、一つの側面において、塊状の窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って、断面における長さが20μm以上である粗大粒子と粗大粒子よりも小さい微細粒子とを含有する窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程を有する、窒化ホウ素焼結体の製造方法を提供する。
【0016】
上記製造方法の焼結工程では、塊状の窒化ホウ素粉末と焼結助剤とを含む配合物を用いて窒化ホウ素焼結体を得ている。塊状の窒化ホウ素粉末は基本的に微細粒子で構成されている。焼結工程では、焼結助剤が塊状の窒化ホウ素粉末の主に表面に作用し、粒成長が促進される。一方、塊状の窒化ホウ素粉末の内部は表面ほど粒成長が促進されない。これによって、粗大粒子が交差し易くなり、場合によっては微細粒子を取り囲むように成長する。このようにして焼結工程を経て得られる窒化ホウ素焼結体は、微細粒子を含む領域を取り囲むようにして粗大粒子が形成される。これによって、粗大粒子による熱の伝導経路が交差状又は網目状に形成されることとなり、熱伝導率を十分に高くすることができる。
【0017】
本開示は、一つの側面において、炭窒化ホウ素とホウ素化合物とを含む混合物を窒素雰囲気下で焼成して粉砕し、分級して平均粒径が10~200μmの塊状の窒化ホウ素を得る原料調製工程と、塊状の窒化ホウ素と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って、断面における長さが20μm以上である粗大粒子と粗大粒子よりも小さい微細粒子とを含有する窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、を有する、窒化ホウ素焼結体の製造方法を提供する。
【0018】
上記製造方法の焼結工程では、原料調製工程で得られる所定の平均粒径を有する塊状の窒化ホウ素と焼結助剤とを含む配合物を用いて窒化ホウ素焼結体を得ている。塊状の窒化ホウ素は基本的に微細粒子で構成されている。焼結工程では、焼結助剤が塊状の窒化ホウ素の主に表面に作用し、粒成長が促進される。一方、塊状の窒化ホウ素の内部は表面ほど粒成長が促進されない。これによって、粗大粒子が交差し易くなり、場合によっては微細粒子を取り囲むように成長する。このようにして焼結工程を経て得られる窒化ホウ素焼結体は、微細粒子を含む領域を取り囲むようにして粗大粒子が形成される。これによって、粗大粒子による熱の伝導経路が交差状又は網目状に形成されることとなり、熱伝導率を十分に高くすることができる。
【0019】
上記製造方法において、焼結助剤はホウ素化合物及びカルシウム化合物を含有し、配合物は、塊状の窒化ホウ素100質量部に対してホウ素化合物及びカルシウム化合物を合計で1~40質量部含んでよい。これによって、塊状の窒化ホウ素の表面における粒成長が促進され、一層大きな粗大粒子を含有する窒化ホウ素焼結体を製造することができる。また、窒化ホウ素焼結体における、焼結助剤及びこれに由来する成分の残存量を低減することができる。
【0020】
上記製造方法における配合物は、ホウ素化合物を構成するホウ素100原子%に対して、カルシウム化合物を構成するカルシウムを5~150原子%含んでよい。これによって、塊状の窒化ホウ素の表面における粒成長が一層促進され、一層大きな粗大粒子を含有する窒化ホウ素焼結体を製造することができる。
【0021】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの製造方法で得られた窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する、窒化ホウ素焼結体と、当該窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを備える複合体の製造方法を提供する。このような製造方法によって得られる複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体と樹脂組成物とを用いて得られるものであることから、十分に高い熱伝導率と高い電気絶縁性を兼ね備える。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、十分に高い熱伝導率を有する窒化ホウ素焼結体及び複合体を提供することができる。また、本開示では、そのような窒化ホウ素焼結体及び複合体を製造することが可能な製造方法を提供することができる。また、本開示では、上述の複合体を備えることによって、十分に高い熱伝導率を有する放熱部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】窒化ホウ素焼結体の一例(実施例2)の断面を示すSEM写真である。
【
図2】実施例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【
図3】実施例1の細孔径と積算細孔容積の関係を示すグラフである。
【
図4】実施例2の細孔径と積算細孔容積の関係を示すグラフである。
【
図5】実施例3の細孔径と積算細孔容積の関係を示すグラフである。
【
図6】実施例3の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【
図7】比較例1の細孔径と積算細孔容積の関係を示すグラフである。
【
図8】比較例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0025】
一実施形態に係る窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素粒子と気孔とを含有する。窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素粒子として、粗大粒子と粗大粒子よりも小さい微細粒子とを含有する。粗大粒子は20μm以上の長さを有する。粗大粒子の長さは、熱伝導率向上の観点から、20μm以上であってよく、30μm以上であってもよい。一方、製造の容易性の観点から、粗大粒子の長さは、500μm以下であってよく、400μm以下であってもよい。上記長さは、走査型電子顕微鏡による断面の画像において、一つの粗大粒子の長手方向における長さである。上記断面において、粗大粒子の形状は柱状であってよい。粗大粒子の三次元の形状は鱗片状であってもよい。断面は、例えば、窒化ホウ素焼結体を、イオンミリング装置を用いて切断して得られる切断面であってよい。
【0026】
図1は、走査型電子顕微鏡による窒化ホウ素焼結体の断面画像の一例を示す図である。
図1に示すとおり、窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素粒子として、粗大粒子10と、粗大粒子10よりも小さい微細粒子20と、を含有する。粗大粒子10の一つである粗大粒子10aは長さLを有する。窒化ホウ素焼結体に含まれる複数の粗大粒子10同士は交差している。複数の粗大粒子10a,10b,10c,10dで取り囲まれる領域30内に複数の微細粒子20を有する。
【0027】
上述のような断面において、微細粒子の長さは粗大粒子の長さよりも小さい。微細粒子の長さは15μm未満であってよく、10μm未満であってもよい。窒化ホウ素焼結体がこのような長さの微細粒子を含むことによって、気孔率を小さくして強度を向上することができる。微細粒子の長さは、1μm以上であってよく、3μm以上であってもよい。上記断面において、微細粒子の形状は柱状であってよい。微細粒子の三次元の形状は、鱗片状であってよく、柱状であってもよい。
【0028】
窒化ホウ素焼結体は、上記断面において、3つ以上、4つ以上又は5つ以上の粗大粒子が連なっていてよい。これによって、粗大粒子による熱の伝導経路が長くなり熱伝導率を高くすることができる。窒化ホウ素焼結体は、複数の粗大粒子によって取り囲まれる領域を有してよい。この領域は、粗大粒子同士が互いに交差することによって形成されてよいし、互いに連なって形成されてもよい。領域は4つの粗大粒子によって形成されてよいし、3つ又は5つ以上の粗大粒子で形成されてもよい。窒化ホウ素焼結体は、この領域内に微細粒子を含む。微細粒子が粗大粒子によって形成される領域内に含まれることによって、窒化ホウ素焼結体に応力が加わった場合に、微細粒子が粗大粒子の変形を抑制することができる。このため、高い強度を維持することができる。
【0029】
窒化ホウ素焼結体は、粗大粒子同士が交差していることから、粗大粒子による熱の伝導経路が形成され、熱伝導性の異方性を低減することができる。また、粗大粒子による熱の伝導経路が網目状に形成され易くなる。これらの要因によって、熱伝導率を十分に高くするとともに、熱伝導性の異方性を低減することができる。窒化ホウ素焼結体に含まれる全ての粗大粒子が交差している必要はなく、一部の粗大粒子同士が交差していればよい。また、窒化ホウ素焼結体が複数の粗大粒子によって取り囲まれる領域を有する場合、全ての微細粒子が上記領域に含まれる必要はなく、一部の微細粒子が上記領域に含まれていればよい。また、粗大粒子と微細粒子とは互いに接していてもよい。
【0030】
窒化ホウ素焼結体の圧縮強さは、例えば、0.3MPa以上であってよく、0.4MPa以上であってよく、0.5MPa以上であってよい。高い圧縮強さを有することによって、部材として用いたときの破損を抑制することができる。圧縮強さの測定は、圧縮試験機によって測定することができる。
【0031】
窒化ホウ素焼結体に含まれる気孔の平均細孔径は5μm未満であってよい。気孔のサイズを小さくすることによって、窒化ホウ素粒子同士の接触面積を十分に大きくすることができる。したがって、熱伝導率を一層高くすることができる。熱伝導率を一層高くする観点から、気孔の平均細孔径は、4μm未満であってよい。窒化ホウ素焼結体への樹脂組成物の含浸を円滑にする観点から、気孔の平均細孔径は、0.1μm以上であってよく、0.2μm以上であってもよい。
【0032】
気孔の平均細孔径は、水銀ポロシメーターを用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増やしながら加圧したときの細孔径分布に基づいて求められる。横軸を細孔径、縦軸を積算細孔容積としたときに、積算細孔容積が全細孔容積の50%に達するときの細孔径が平均細孔径である。水銀ポロシメーターとしては、株式会社島津製作所製のものを用いることができる。
【0033】
窒化ホウ素焼結体の気孔率、すなわち、窒化ホウ素焼結体における気孔の体積比率は、30~65体積%であってよい。上記体積比率の上限は、60体積%であってよく、58体積%であってもよい。気孔率が大きくなり過ぎると窒化ホウ素焼結体の強度が低下する傾向にある。上記体積比率の下限は、35体積%であってよく、40体積%であってもよい。気孔率が小さくなり過ぎると複合体を製造したときの樹脂の含有量が減少して電気絶縁性が低下する傾向にある。
【0034】
気孔率は、窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から、かさ密度[B(kg/m3)]を算出し、このかさ密度と窒化ホウ素の理論密度[2280(kg/m3)]とから、以下の計算式(1)によって求めることができる。
気孔率(体積%)=[1-(B/2280)]×100 (1)
【0035】
かさ密度Bは、800~1500kg/m3であってよく、1000~1400kg/m3であってもよい。かさ密度Bが小さくなり過ぎると窒化ホウ素焼結体の強度が低下する傾向にある。一方、かさ密度Bが大きくなり過ぎると樹脂の含浸量が減少して複合体の電気絶縁性が低下する傾向にある。
【0036】
窒化ホウ素焼結体の熱伝導率は、20W/mK以上であってよく、30W/mK以上であってもよい。熱伝導率が高い窒化ホウ素焼結体を用いることによって、放熱性能に十分に優れる放熱部材を得ることができる。熱伝導率(H)は、以下の計算式(2)で求めることができる。
H=A×B×C (2)
【0037】
計算式(2)中、Hは熱伝導率(W/(m・K))、Aは熱拡散率(m2/sec)、Bはかさ密度(kg/m3)、及び、Cは比熱容量(J/(kg・K))を示す。熱拡散率Aは、レーザーフラッシュ法によって測定することができる。かさ密度Bは、窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から求めることができる。比熱容量Cは、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0038】
かさ密度Bは800~1500kg/m3であってよい。かさ密度Bの下限は1000kg/m3であってよい。これによって、熱伝導率及び強度を十分に高くすることができる。かさ密度Bの上限は1400kg/m3であってよく、1300kg/m3であってもよい。これによって、樹脂を十分に充填することが可能となり、一層電気絶縁性に優れる複合体を得ることができる。
【0039】
窒化ホウ素焼結体における窒化ホウ素の含有量は、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよい。
【0040】
窒化ホウ素焼結体の形状は、例えば厚みが10mm以下のシート状(薄板形状)であってもよいし、ブロック状であってもよい。ブロック状の場合は、所定の厚さに切断及び/又は研磨してシート状としてもよい。ただし、切断等の加工を行うと、材料ロスが発生する。このため、シート状の成形体を用いてシート状の窒化ホウ素焼結体を作製すれば材料ロスを低減することができる。これによって、窒化ホウ素焼結体及び複合体の歩留まりを向上することができる。
【0041】
窒化ホウ素焼結体における窒化ホウ素結晶の配向性指数は、20以下であってよく、18以下であってよい。これによって、熱伝導性の異方性を十分に低減することができる。窒化ホウ素焼結体の配向性指数は、2以上であってもよいし、3以上であってもよいし、4以上であってもよい。本開示における配向性指数は、窒化ホウ素結晶の配向度を定量化するための指標である。配向性指数は、X線回折装置で測定される窒化ホウ素の(002)面と(100)面のピーク強度比[I(002)/I(100)]で算出することができる。
【0042】
一実施形態に係る複合体は、窒化ホウ素焼結体と樹脂の複合体であり、上述の窒化ホウ素焼結体と窒化ホウ素焼結体の気孔の少なくとも一部に充填された樹脂とを有する。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド樹脂、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリフタルアミド、ポリアセタール等を用いることができる。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0043】
複合体がプリント配線板の絶縁層に用いられる場合、耐熱性及び回路への接着強度向上の観点から、樹脂はエポキシ樹脂を含んでよい。複合体が熱インターフェース材に用いられる場合、耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性向上の観点から、樹脂はシリコーン樹脂を含んでよい。樹脂は硬化物であってもよいし、半硬化物(Bステージ状態)であってもよい。
【0044】
複合体における窒化ホウ素粒子の含有量は、複合体の全体積を基準として、35~70体積%であってよく、40~65体積%であってもよい。複合体における樹脂の含有量は、複合体の全体積を基準として、30~65体積%であってよく、35~60体積%であってもよい。このような割合で窒化ホウ素粒子及び樹脂を含む複合体は、高い電気絶縁性と高い熱伝導率を高水準で両立することができる。これらの特性を一層向上する観点から、複合体の気孔率は、10体積%以下であってよく、5体積%以下であってよく、3体積%以下であってもよい。この気孔率は、例えば、複合体の体積及び質量から求められるかさ密度B1(kg/m3)と、窒化ホウ素焼結体の全気孔に樹脂組成物が含浸された時の複合体の理論密度B2(kg/m3)から求めることができる。
【0045】
複合体は、窒化ホウ素焼結体及びその気孔中に充填された樹脂に加えて、その他の成分をさらに含有してもよい。その他の成分としては、硬化剤、無機フィラー、シランカップリング剤、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等が挙げられる。無機フィラーは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び水酸化アルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでよい。これによって、複合体の熱伝導率を一層向上することができる。
【0046】
本実施形態の複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体と樹脂とを含むことから、優れた熱伝導率と優れた電気絶縁性を兼ね備える。このため、例えば、放熱部材として好適に用いることができる。放熱部材は、上述の複合体で構成されていてよく、他の部材(例えば、アルミニウム等の金属板)と複合体を組み合わせて構成されていてもよい。
【0047】
窒化ホウ素焼結体、複合体及び放熱部材の製造方法の一例を以下に説明する。本例の窒化ホウ素焼結体の製造方法は、炭窒化ホウ素とホウ素化合物とを含む混合物を窒素雰囲気下で焼成し、平均粒径が10~200μmの塊状の窒化ホウ素を得る原料調製工程と、塊状の窒化ホウ素と焼結助剤とを含む配合物の成形及び加熱を行って、断面における長さが20μm以上である粗大粒子と粗大粒子よりも小さい微細粒子とを含有する窒化ホウ素焼結体を得る焼結工程と、を有する。
【0048】
炭窒化ホウ素は、例えば以下のようにして合成した炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で焼成する窒化工程によって製造することができる。まず、ホウ酸とアセチレンブラックとを混合したのち、不活性ガス雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、塊状の炭化ホウ素を得る。塊状の炭化ホウ素は、粉砕し、洗浄、不純物除去、及び乾燥を行って、粉末状としてもよい。ホウ酸とアセチレンブラックとの混合比は、例えば、ホウ酸100質量部に対して、アセチレンブラックが25~40質量部であってよい。
【0049】
このようにして得られた炭化ホウ素を、窒素雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素(B4CN4)を調製する。窒化工程における焼成温度は、1800℃以上であってよく、1900℃以上であってもよい。また、当該焼成温度は、2400℃以下であってよく、2200℃以下であってもよい。当該焼成温度は、例えば、1800~2400℃であってよい。
【0050】
窒化工程における圧力は、0.6MPa以上であってよく、0.7MPa以上であってもよい。また当該圧力は、1.0MPa以下であってよく、0.9MPa以下であってもよい。当該圧力は、例えば、0.6~1.0MPaであってよい。当該圧力が低すぎると、炭化ホウ素の窒化が進行し難くなる傾向がある。一方、当該圧力が高すぎると、製造コストが上昇する傾向にある。なお、本開示における圧力は絶対圧である。
【0051】
窒化工程における窒素雰囲気の窒素ガス濃度は95体積%以上であってよく、99.9体積%以上であってもよい。窒素の分圧は、上述の圧力範囲であってよい。窒化工程における焼成時間は、窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば6~30時間であってよく、8~20時間であってもよい。
【0052】
原料調製工程では、窒化工程で得られた炭窒化ホウ素とホウ素化合物とを混合する。ホウ素化合物としてホウ酸又は酸化ホウ素を使う場合は、例えば、炭窒化ホウ素100質量部に対してホウ酸又は酸化ホウ素100~300質量部混合する。炭窒化ホウ素とホウ素化合物とを含む混合物を、例えば、大気圧又は加圧下で焼成する。焼成温度は、例えば1800~2200℃であってよい。焼成時間は、例えば、0.5~40時間であってよい。このようにして、鱗片状の窒化ホウ素粒子同士が結合した塊状の窒化ホウ素が得られる。
【0053】
必要に応じて、得られた塊状の窒化ホウ素の解砕、粉砕、分級を行ってよい。これらの操作には、一般的な、粉砕機、解砕機、分級機を使用することができる。例えば、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、篩、サイクロン等が挙げられる。このように、必要に応じて粒度調整を行って、平均粒径が10~200μmの塊状の窒化ホウ素を調製する。なお、本開示における平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定機を用いて測定されるD50(頻度の累積が50%となるときの粒子径)である。
【0054】
焼結工程では、塊状の窒化ホウ素と焼結助剤とを配合して配合物を調製する。窒化ホウ素の粒成長を十分に促進しつつ、窒化ホウ素焼結体における、焼結助剤及びこれに由来する成分の残存量を低減する観点から、配合物は、塊状の窒化ホウ素100質量部に対してホウ素化合物及びカルシウム化合物を合計で、例えば1~40質量部含んでよく、2~38質量部含んでよく、4~36質量部含んでもよい。
【0055】
配合物は、ホウ素化合物を構成するホウ素100原子%に対して、カルシウム化合物を構成するカルシウムを5~150原子%含んでよく、6~149原子%含んでもよい。このような比率でホウ素及びカルシウムを含有することによって、窒化ホウ素の粒成長を一層促進することができる。
【0056】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素、ホウ砂等が挙げられる。カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。焼結助剤は、ホウ酸及び炭酸カルシウム以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩が挙げられる。また、成形性向上のため、配合物にバインダを配合してもよい。バインダとしては、アクリル化合物等が挙げられる。
【0057】
配合物は粉末プレス又は金型成形を行って成形体としてもよいし、ドクターブレード法又は押出法によって、シート状の成形体としてもよい。成形圧力は、例えば50~100MPaであってよい。
【0058】
成形体の形状は特に限定されず、例えば、ブロック状であってもよいし、厚さが2mm未満のシート状であってよい。シート状の成形体を用いて窒化ホウ素焼結体を製造すれば、複合体を製造する際に樹脂組成物の含浸が円滑に進行する。また、ブロック状の窒化ホウ素焼結体及び複合体を切断してシート状とする場合に比べて、成形体の段階からシート状にすることによって、加工による材料ロスを低減することができる。したがって、高い歩留まりでシート状の窒化ホウ素焼結体及び複合体を製造することができる。
【0059】
このようにして得られた成形体を、例えば電気炉中で加熱して焼成する。加熱温度は、例えば1800℃以上であってよく、1900℃以上であってもよい。当該加熱温度は、例えば2200℃以下であってよく、2100℃以下であってもよい。加熱温度が低すぎると、粒成長が十分に進行しない傾向にある。加熱時間は、0.5時間以上であってよく、1時間以上、3時間以上、5時間以上、又は10時間以上であってもよい。当該加熱時間は、40時間以下であってよく、30時間以下、又は20時間以下であってもよい。当該加熱時間は、例えば、0.5~40時間であってよく、1~30時間であってもよい。加熱時間が短すぎると粒成長が十分に進行しない傾向にある。一方、加熱時間が長すぎると工業的に不利になる傾向にある。加熱雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であってよい。
【0060】
以上の工程によって、窒化ホウ素粒子を含む窒化ホウ素焼結体を得ることができる。この窒化ホウ素焼結体における窒化ホウ素粒子は、粗大粒子と粗大粒子よりも小さい微細粒子とを含有する。上述の焼結工程では、焼結助剤が塊状の窒化ホウ素の主に表面に作用し、粒成長が促進される。一方、塊状の窒化ホウ素の内部は表面ほど粒成長が促進されない。これによって、複数の粗大粒子が微細粒子を取り囲むように成長する。このようにして焼結工程を経て得られる窒化ホウ素焼結体は、微細粒子を含む領域を取り囲むようにして複数の粗大粒子が形成される。これによって、複数の粗大粒子による熱の伝導経路が網目状に形成されることとなり、熱伝導性の異方性を低減することができる。したがって、十分に高い熱伝導率を有する。
【0061】
この製造方法で得られる窒化ホウ素焼結体の構造及び性状は、上記実施形態に係る窒化ホウ素焼結体で説明した内容と同様であってよい。例えば、粗大粒子は、窒化ホウ素焼結体の断面をみたときに、20μm以上の長さを有する。粗大粒子の長さは、20μm以上であってよく、30μm以上であってもよい。一方、製造の容易性の観点から、粗大粒子の長さは、500μm以下であってよく、400μm以下であってもよい。上記断面において、粗大粒子の形状は柱状であってよい。粗大粒子の三次元の形状は鱗片状であってもよい。窒化ホウ素焼結体は、上記断面において、粗大粒子によって取り囲まれる領域を有する。窒化ホウ素焼結体は、この領域内に微細粒子を含む。
【0062】
上記断面において、微細粒子の長さは粗大粒子の長さよりも小さい。微細粒子の長さは15μm未満であってよく、10μm未満であってもよい。微細粒子の長さは、1μm以上であってよく、3μm以上であってもよい。窒化ホウ素焼結体のその他の構造及び性状は、上述したとおりである。
【0063】
複合体の製造方法の一例は、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させる含浸工程を有する。窒化ホウ素焼結体は、上述の方法で製造されたものであってよい。樹脂組成物は、流動性及び取り扱い性向上の観点から、樹脂成分、硬化剤及び溶剤を含有してもよい。また、これらの他に、無機フィラー、シランカップリング剤、消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤等を含有してもよい。
【0064】
樹脂成分としては、例えば硬化又は半硬化反応によって上述の複合体の説明で挙げた樹脂となるものを用いることができる。溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール、2-メトキシエタノール、1-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール等のエーテルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン、トルエン、キシレン等の炭化水素が挙げられる。これらのうちの1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0065】
含浸は、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を付着させて行う。例えば、窒化ホウ素焼結体を樹脂組成物に浸漬して行ってよい。浸漬した状態で加圧又は減圧条件として行ってもよい。このようにして、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂を充填することができる。
【0066】
含浸工程は、密閉容器を備える含浸装置内を用いて行ってもよい。一例として、含浸装置内で減圧条件にて含浸を行った後、含浸装置内の圧力を上げて大気圧よりも高くして加圧条件で含浸を行ってもよい。このように減圧条件と加圧条件の両方を行うことによって、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂を十分に充填することができる。減圧条件と加圧条件とを複数回繰り返し行ってもよい。含浸工程は、加温しながら行ってもよい。窒化ホウ素焼結体の気孔に含浸した樹脂組成物は、硬化又は半硬化が進行したり、溶剤が揮発したりした後、樹脂(硬化物又は半硬化物)となる。このようにして、窒化ホウ素焼結体とその気孔に充填された樹脂とを有する複合体が得られる。気孔の全てに樹脂が充填されている必要はなく、一部の気孔には樹脂が充填されていなくてもよい。窒化ホウ素焼結体及び複合体は、閉気孔と開気孔の両方を含んでいてよい。
【0067】
含浸工程の後に、気孔内に充填された樹脂を硬化させる硬化工程を有していてもよい。硬化工程では、例えば、含浸装置から樹脂が充填された複合体を取り出し、樹脂(又は必要に応じて添加される硬化剤)の種類に応じて、加熱、及び/又は光照射により、樹脂を硬化又は半硬化させる。
【0068】
このようにして得られた複合体は、上述の窒化ホウ素焼結体を用いて得られるものであることから、十分に高い熱伝導率を有する。また、窒化ホウ素焼結体の気孔に樹脂が充填されていることから、電気絶縁性にも優れる。複合体は、そのまま放熱部材として用いてもよいし、所定の形状に加工して放熱部材としてもよい。
【0069】
以上、幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、焼結工程では、成形と焼結を同時に行うホットプレスによって窒化ホウ素焼結体を得てもよい。また、焼結工程では、窒化工程及び原料調製工程で得られる塊状の窒化ホウ素に代えて、市販の塊状の窒化ホウ素粉末を用いてもよい。
【実施例】
【0070】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[窒化ホウ素焼結体]
(実施例1)
<窒化ホウ素焼結体の作製>
新日本電工株式会社製のオルトホウ酸100質量部と、デンカ株式会社製のアセチレンブラック(商品名:HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は19.9質量%であった。炭素量は、炭素/硫黄同時分析計にて測定した。
【0072】
調製した炭化ホウ素粉末を、窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得た。
【0073】
合成した炭窒化ホウ素100部と、ホウ酸100部とをヘンシェルミキサーを用いて混合したのち、窒化ホウ素製のルツボに充填し、抵抗加熱炉を用い0.3MPaの圧力条件で、窒素ガスの雰囲気で、室温から1000℃までの昇温速度を10℃/min、1000℃からの昇温速度を2℃/minとして、保持温度2000℃まで昇温した。当該保持温度2000℃にて、保持時間5時間で加熱することにより、一次粒子が凝集して塊状になった窒化ホウ素を合成した。
【0074】
合成した塊状の窒化ホウ素をヘンシェルミキサーで解砕し、篩網を用いて、篩目90μmのナイロン篩にて分級を行い、篩下として塊状の窒化ホウ素粉末を得た。この塊状の窒化ホウ素粉末の粒度分布をレーザー回折式粒度分布測定機(日機装株式会社製、マイクロトラックMT3300)を用いて測定した。D50(頻度の累積が50%となるときの粒子径)は、33μmであった。
【0075】
粉末状のホウ酸と粉末状の炭酸カルシウムを配合して焼結助剤を調製した。調製にあたっては、100質量部のホウ酸に対して、炭酸カルシウムを93質量部配合した。このときのホウ素とカルシウムの原子比率は、ホウ素100原子%に対してカルシウムが57原子%であった。塊状の窒化ホウ素100質量部に対して焼結助剤を16質量部配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して配合物を得た。
【0076】
配合物を、粉末プレス機を用いて、70MPaで30秒間加圧して、円形シート状(直径×厚み=30mm×4.8mm)の成形体を得た。成形体を窒化ホウ素製容器に入れ、バッチ式高周波炉に導入した。バッチ式高周波炉において、常圧、窒素流量5L/分、2000℃の条件で5時間加熱した。その後、窒化ホウ素製容器から窒化ホウ素焼結体を取り出した。このようにして、シート状(平板形状)の窒化ホウ素焼結体を得た。窒化ホウ素焼結体の厚みは5mmであった。
【0077】
<電子顕微鏡による断面観察>
窒化ホウ素焼結体を、イオンミリング装置を用いて厚さ方向に沿って切断して断面を得た。この断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図2は、実施例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
図2に示すとおり、窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素粒子として、粗大粒子10と、粗大粒子10よりも小さい微細粒子20と、を含有していた。20μm以上の長さを有する粗大粒子10が3つ以上連なっていることが確認された。粗大粒子10aの長手方向に沿う長さは35μmであった。
【0078】
<厚みの測定>
窒化ホウ素焼結体の厚みは、マイクロメーターで測定した。
【0079】
<熱伝導率の測定>
窒化ホウ素焼結体の厚さ方向の熱伝導率(H)を、以下の計算式(3)で求めた。
H=A×B×C (3)
【0080】
計算式(3)中、Hは熱伝導率(W/(m・K))、Aは熱拡散率(m2/sec)、Bはかさ密度(kg/m3)、及び、Cは比熱容量(J/(kg・K))を示す。熱拡散率Aは、窒化ホウ素焼結体を、縦×横×厚み=10mm×10mm×2mmのサイズに加工した試料を用い、レーザーフラッシュ法によって測定した。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。
【0081】
かさ密度Bは窒化ホウ素焼結体の体積及び質量から算出した。比熱容量Cは、示差走査熱量計(株式会社リガク製、装置名:ThermoPlusEvo DSC8230)を用いて測定した。熱伝導率H及びかさ密度Bの結果を表1に示す。
【0082】
<平均細孔径の測定>
株式会社島津製作所製の水銀ポロシメーター(装置名:オートポアIV9500)を用い、0.0042MPaから206.8MPaまで圧力を増加しながら、窒化ホウ素焼結体の細孔容積分布を測定した。
図3は、実施例1の細孔径と積算細孔容積の関係を示すグラフである。測定結果に基づき、積算細孔容積が全細孔容積の50%に達する細孔径を、「平均細孔径」とした。結果を表1に示す。
【0083】
<気孔率の測定>
窒化ホウ素焼結体の体積及び質量を測定し、当該体積及び質量からかさ密度B(kg/m3)を算出した。上述のとおり算出したかさ密度Bと窒化ホウ素の理論密度(2280kg/m3)とから、以下の計算式(4)によって気孔率を求めた。結果は、表1に示すとおりであった。
気孔率(体積%)=[1-(B/2280)]×100 (4)
【0084】
<配向性指数の測定>
X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:ULTIMA-IV)を用いて、窒化ホウ素焼結体の配向性指数[I(002)/I(100)]を求めた。X線回折装置の試料ホルダーにセットした試料(窒化ホウ素焼結体)にX線を照射して、ベースライン補正を行った。その後、窒化ホウ素の(002)面と(100)面のピーク強度比を算出した。これを配向性指数[I(002)/I(100)]とした。結果は、表1に示すとおりであった。
【0085】
<圧縮強さの測定>
200℃における圧縮強さを以下の手順で求めた。窒化ホウ素焼結体を加工して角柱形状(10mm×10mm×4mm)の測定試料を作製した。圧縮試験機(株式会社島津製作所製,商品名:オートグラフAG-X)を用いて、圧縮速度1mm/minの条件で圧縮強さの測定を行った。結果は表1に示すとおりであった。
【0086】
(実施例2)
粉末状のホウ酸100質量部に対して粉末状の炭酸カルシウムを49質量部配合して焼結助剤を調製したこと、塊状の窒化ホウ素100質量部に対してこの焼結助剤を15質量部配合したこと以外は、実施例1と同じ手順で、窒化ホウ素焼結体を製造した。
【0087】
実施例1と同様にして各測定及び電子顕微鏡による断面観察を行った。測定結果は表1に示すとおりであった。
図4は、実施例2の細孔径と積算細孔容積の関係を示すグラフである。
図1は、実施例2の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
図1に示すとおり、窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素粒子として、粗大粒子10と、粗大粒子10よりも小さい微細粒子20と、を含有していた。粗大粒子10は20μm以上の長さを有しており、粗大粒子10aの長手方向に沿う長さLは112μmであった。20μm以上の長さを有する粗大粒子10が4つ以上連なっていることが確認された。また、窒化ホウ素焼結体は、4つの粗大粒子10a,10b,10c,10dで取り囲まれる領域30内に多数の微細粒子20を有していた。
【0088】
(実施例3)
粉末状のホウ酸100質量部に対して粉末状の炭酸カルシウムを139質量部配合して焼結助剤を調製したこと、塊状の窒化ホウ素100質量部に対してこの焼結助剤を15質量部配合したこと以外は、実施例1と同じ手順で、窒化ホウ素焼結体を製造した。
【0089】
実施例1と同様にして各測定及び電子顕微鏡による断面観察を行った。測定結果は表1に示すとおりであった。
図5は、実施例3の細孔径と積算細孔容積の関係を示すグラフである。
図6は、実施例3の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
図6に示すとおり、窒化ホウ素焼結体は、窒化ホウ素粒子として、粗大粒子10と、粗大粒子10よりも小さい微細粒子20と、を含有していた。粗大粒子10は20μm以上の長さを有しており、粗大粒子10aの長手方向に沿う長さは41μmであった。20μm以上の長さを有する粗大粒子10が3つ以上連なっていることが確認された。
【0090】
(比較例1)
焼結助剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同じ手順で、窒化ホウ素焼結体を製造した。実施例1と同様にして各測定及び電子顕微鏡による断面観察を行った。測定結果は表1に示すとおりであった。
図7は、比較例1の細孔径と積算細孔容積の関係を示すグラフである。
図8は、比較例1の窒化ホウ素焼結体の断面を示すSEM写真(500倍)である。
図8に示すとおり、比較例1の窒化ホウ素焼結体には粗大粒子が含まれていなかった。
【0091】
【0092】
[複合体]
<複合体の作製>
圧力が0.03kPaに制御された含浸装置内において、エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:エピコート807)と硬化剤(日本合成化学工業株式会社製、商品名:アクメックスH-84B)を含む樹脂組成物中に、実施例1~3及び比較例1の窒化ホウ素焼結体をそれぞれ浸漬し、窒化ホウ素焼結体に樹脂組成物を含浸させた。含浸後、大気圧下、温度150℃で60分間加熱して樹脂を硬化させ、複合体を得た。この複合体は、窒化ホウ素焼結体と同等の厚み及び熱伝導率を有していた。したがって、電子部品の放熱部材として有用である。
【0093】
<厚みの測定>
複合体の厚みを、マイクロメーターで測定した。
【0094】
<熱伝導率の測定>
複合体の厚み方向の熱伝導率(H)を、以下の計算式(4)で求めた。
H1=A1×B1×C1 (4)
【0095】
計算式(4)中、H1は熱伝導率(W/(m・K))、A1は熱拡散率(m2/sec)、B1はかさ密度(kg/m3)、及び、C1は比熱容量(J/(kg・K))を示す。熱拡散率Aは、複合体を、縦×横×厚み=10mm×10mm×2mmのサイズに加工した試料を用い、レーザーフラッシュ法によって測定した。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。かさ密度B1は複合体の体積及び質量から算出した。比熱容量C1は、示差走査熱量計(株式会社リガク製、装置名:ThermoPlusEvo DSC8230)を用いて測定した。
【0096】
<気孔率の測定>
複合体の気孔率は、複合体の体積及び質量から求められるかさ密度B1(kg/m3)と窒化ホウ素焼結体の全気孔に上記樹脂組成物が含浸された時の理論密度B2(kg/m3)から下記計算式(5)に基づいて算出した。
複合体の気孔率(体積%)=[1-(B1/B2)]×100・・・(5)
なお、窒化ホウ素焼結体の全気孔に上記樹脂組成物が含浸された時の理論密度B2(kg/m3)は、窒化ホウ素焼結体のかさ密度B(kg/m3)、窒化ホウ素焼結体の気孔率P(体積%)、及び樹脂組成物の理論密度(1240kg/m3)から、下記計算式(6)に基づいて算出した。
理論密度B2(kg/m3)=B+P/100×1240 (6)
【0097】
<絶縁破壊電圧の測定>
上述のようにして得られた複合体の絶縁破壊電圧の評価を行った。具体的には、上記複合体の両面に2枚の導電性テープを張り付け、測定サンプルを調製した。得られた測定サンプルを対象として、JIS C2110-1:2016にしたがって、耐圧試験器(菊水電子工業株式会社製、装置名:TOS-8700)を用いて絶縁破壊電圧を測定した。複合体の熱伝導率、かさ密度、気孔率、及び絶縁破壊電圧の結果は表2に示すとおりであった。
【0098】
【0099】
各実施例の複合体の絶縁破壊電圧は十分に高かった。これらの結果から、各実施例の複合体は、優れた熱伝導率と優れた電気絶縁性を兼ね備えることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示によれば、薄型であり、電子部品等の部材として好適な窒化ホウ素焼結体及び複合体、並びにこれらの製造方法が提供される。また、電子部品等の部材として好適な放熱部材が提供される。
【符号の説明】
【0101】
10,10a,10b,10c,10d…粗大粒子、20…微細粒子、30…領域。