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特許7598936光学構造体およびヘッドアップディスプレイ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】光学構造体およびヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20241205BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20241205BHJP
   F21V 9/04 20180101ALI20241205BHJP
   F21V 9/06 20180101ALI20241205BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B27/01
F21V9/04
F21V9/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022540182
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2021026758
(87)【国際公開番号】W WO2022024806
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2020130480
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 泰三
(72)【発明者】
【氏名】浅田 典明
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-095193(JP,A)
【文献】特開2009-051010(JP,A)
【文献】特開2009-035615(JP,A)
【文献】特開2014-044301(JP,A)
【文献】特表2009-514022(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182745(WO,A1)
【文献】特開2007-079453(JP,A)
【文献】特開2003-315544(JP,A)
【文献】特開2019-164214(JP,A)
【文献】特開2019-070063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
G02B 27/01
F21V 9/04
F21V 9/06
B60K 35/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を抑制する第1の層と、
透過率が極小となる波長が570nm以上605nm以下である透過スペクトルを有する第2の層と、
光透過体と、
を備え、
光源からみて、前記第1の層、前記光透過体、前記第2の層の順に配置されている、
光学構造体。
【請求項2】
前記第1の層は、赤外線を抑制する遮熱フィルムである、
請求項1に記載の光学構造体。
【請求項3】
前記第1の層および前記第2の層を透過した前記光源からの赤色光および緑色光の、所定の色平面又は色空間における色差は、前記第1の層および前記第2の層を透過していない前記光源からの赤色光および緑色光の、前記色平面又は前記色空間における色差よりも大きい、
請求項1または2に記載の光学構造体。
【請求項4】
前記第1の層および前記第2の層を透過した前記光源からの赤色光および緑色光の、所定の色平面又は色空間における色差は、前記第1の層を透過し前記第2の層を透過していない前記光源からの赤色光および緑色光の、前記色平面又は前記色空間における色差よりも大きい、
請求項1に記載の光学構造体。
【請求項5】
前記光透過体は、窓ガラスである、
請求項1に記載の光学構造体。
【請求項6】
前記第1の層は、前記光透過体と前記第2の層を含む少なくとも1つの層とを貼り付ける粘着層である、
請求項1に記載の光学構造体。
【請求項7】
前記第2の層は、前記第1の層を保持する透明基材層である、
請求項6に記載の光学構造体。
【請求項8】
前記第1の層は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含んでいる、
請求項1に記載の光学構造体。
【請求項9】
光学構造体と、
照射口と、
中間スクリーンと、を備え、
前記光学構造体は、
紫外線を抑制する第1の層と、
透過率が極小となる波長が570nm以上605nm以下である透過スペクトルを有する第2の層と、を備え、
前記第1の層は、前記第2の層よりも、前記光学構造体に入射する太陽光に近い位置に配置されている、
ヘッドアップディスプレイ。
【請求項10】
車両に配置されている、
請求項9に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項11】
前記中間スクリーンは、マイクロレンズアレイにより構成される、
請求項9に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項12】
前記光学構造体が、前記照射口に配置されている、
請求項9に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項13】
前記光学構造体が、前記照射口および前記中間スクリーンの間に配置されている、
請求項9に記載のヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学構造体およびヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
入射する光のうち、一部の波長域の透過を選択的に抑制する光学フィルムが普及している。例えば特許文献1には、近紫外領域から青色の光線を抑制できるブルーライトカットフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/021485号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一部の波長域を選択的に抑制するフィルムは、一般に、当該波長域の光を吸収する材料をフィルムに含ませることで製造されている。例えば特許文献1に開示された技術では、フィルムの選択反射層として、低複屈折性液晶化合物を含むコレステリック液晶層が用いられている。
【0005】
例えば、太陽光が照射される場所、例えばビルや家屋の窓ガラス等に当該フィルムが貼り付けられる場合、太陽光に含まれる紫外線によって、フィルム中に含まれている材料が分解されてしまうことがある。このような場合、材料の分解によって、当初フィルムが有していた、一部の波長域を選択的に抑制する機能が十分に働かなくなってしまう。
【0006】
本開示は、一部の波長域を選択的に抑制するフィルムにおいて、紫外線による劣化を防止することができる光学構造体およびヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために、本開示の光学構造体は、紫外線を抑制する第1の層と、透過率が極小となる波長が570nm以上605nm以下である透過スペクトルを有する第2の層と、光透過体と、を備え、前記光源からみて、前記第1の層、前記光透過体、前記第2の層の順に配置されている
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、一部の波長域を選択的に抑制するフィルムにおいて、紫外線による劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施の形態に係る光学構造体の一例を示す図
図2A】第1の実施の形態に係る光学構造体における、光透過体、第1フィルム、および第2フィルムの配置パターンを例示した図
図2B】第1の実施の形態に係る光学構造体における、光透過体、第1フィルム、および第2フィルムの配置パターンを例示した図
図2C】第1の実施の形態に係る光学構造体における、光透過体、第1フィルム、および第2フィルムの配置パターンを例示した図
図2D】第1の実施の形態に係る光学構造体における、光透過体、第1フィルム、および第2フィルムの配置パターンを例示した図
図2E】第1の実施の形態に係る光学構造体における、光透過体、第1フィルム、および第2フィルムの配置パターンを例示した図
図3A】適用例1の第1フィルムの赤外から紫外領域までの分光透過率を示す図
図3B】適用例1の第2フィルムの赤外から紫外領域までの分光透過率を示す図
図4】第1フィルムと第2フィルムとを重ね合わせた第3フィルムの、赤外から紫外領域までの分光透過率を示す図
図5A】CIE標準光源D65の分光放射輝度を示す図
図5B】JISの特殊演色評価用の色票No.9の分光反射率を示す図
図5C】JISの特殊演色評価用の色票No.11の分光反射率を示す図
図5D】JISの特殊演色評価用の色票No.14の分光反射率を示す図
図6】適用例1における、各色票のフィルムを透過した反射光の色度情報を示す図
図7】適用例2における、HUDと、HUDに適用される光学構造体の概略を示す図
図8A】第2の実施の形態に係る実施例1の構造を示す断面図
図8B】第2の実施の形態に係る実施例2の構造を示す断面図
図8C】第2の実施の形態に係る実施例3の構造を示す断面図
図8D】第2の実施の形態に係る比較例1の構造を示す断面図
図8E】第2の実施の形態に係る参考例2の構造を示す断面図
図9A】サンシャインカーボンアーク灯からの光を構造体に対して1000時間照射する前後における、色票No.9からの反射光が参考例1、比較例1、および各実施例の構造体を透過した光の色度情報を示す図
図9B】サンシャインカーボンアーク灯からの光を構造体に対して1000時間照射する前後における、色票No.11からの反射光が参考例1、比較例1、および各実施例の構造体を透過した光の色度情報を示す図
図9C】サンシャインカーボンアーク灯からの光を構造体に対して1000時間照射する前後における、色票No.14からの反射光が参考例1、比較例1、および各実施例の構造体を透過した光の色度情報を示す図
図10】第2の実施の形態に係る光学構造体の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下に示す実施の形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施の形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。
【0011】
[第1の実施の形態]
まず、本開示の第1の実施の形態について説明する。
【0012】
<光学構造体1の構造>
図1は、本開示の第1の実施の形態に係る光学構造体1の一例を示す図である。図1に示す例では、光学構造体1は、光透過体11と、第1フィルム12と、第2フィルム13と、が積層されて構成されている。第1フィルム12は、本開示の第1の層の一例である。第2フィルム13は、本開示の第2の層の一例である。なお、図1では、各構成の厚さは誇張して示されており、実際とは異なる。また、図1に示される光源20、視対象Sb、および観察者Obは概念的なものであり、光学構造体1と視対象Sbとの距離、光学構造体1と光源20との距離、視対象Sbと光源20との距離、光学構造体1と観察者Obとの距離、または各構成の大きさ等は実際とは異なる。
【0013】
光透過体11は、透明な物体である。光透過体11は、例えば、ガラスである。
【0014】
第1フィルム12および第2フィルム13は、図1に示す例では、互いに重ねられた状態で、光透過体11の一方の面に貼り付けられている。第1フィルム12と第2フィルム13との位置関係については、第1フィルム12の方が、第2フィルム13よりも光源20に近くなるように、それぞれが配置されている。
【0015】
第1フィルム12は、熱線(赤外線)の透過を抑制する特性を有するとともに、紫外線の透過を抑制する特性を有する。また、第1フィルム12は、透明である。
【0016】
第1フィルム12は、例えば、紫外線吸収剤を含む基材で形成することにより、紫外線の透過を抑制する特性を有することができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤、および、シアノアクリレート系紫外線吸収剤の中から選択された少なくとも1種の紫外線吸収剤が好ましい。紫外線吸収剤は、1種が単独で含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0017】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,2′-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2′-メチレンビス(4-クミル-6-ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2′-p-フェニレンビス(1,3-ベンゾオキサジン-4-オン)、2-[2-ヒドロキシ-3-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5-メチルフェニル]ベンゾトリアゾ-ル等が挙げられる。
【0018】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホキシトリハイドライドレイトベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2′,4,4′-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4,4′-ジメトキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4,4′-ジメトキシ-5-ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2′-カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0019】
トリアジン系紫外線吸収剤として、例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(n-ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(n-オクチル)オキシ]-フェノール等が挙げられる。
【0020】
環状イミノエステル系紫外線吸収剤として、例えば、2,2′-ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-m-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(4,4′-ジフェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(2,6-ナフタレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(1,5-ナフタレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(2-メチル-p-フェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(2-ニトロ-p-フェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)および2,2′-(2-クロロ-p-フェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)等が挙げられる。
【0021】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤として、例えば、1,3-ビス-[(2′-シアノ-3′,3′-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3-ビス-[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼン等が挙げられる。
【0022】
第1フィルム12における紫外線吸収剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上3.0質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量を0.01質量部以上とすることにより、第1フィルム12は、紫外線を十分に吸収し、紫外線の透過を十分に抑制することができる。よって、特定波長域の光の透過を抑制する色素が含まれる層(第2フィルム13等)よりも第1フィルム12を光源20の近くに配置することで、特定波長域の光の透過を抑制する色素が含まれる層における色素の分解を確実に抑制することができる。ひいては、第2フィルム13の劣化の防止、又は、劣化の低減という効果を確実に得ることができる。一方、紫外線吸収剤の含有量が多くなると、樹脂中で紫外線吸収剤が析出し、その結果、第1フィルム12の透明性が損なわれ、ひいては、第1フィルム12の外観が損なわれてしまう。紫外線吸収剤の含有量を3.0質量部以下とすることにより、紫外線吸収剤の析出を確実に防止することができる。なお、第1フィルム12における紫外線吸収剤の含有量は、より好ましくは0.02質量部以上1.0質量部以下であり、さらに好ましくは0.05質量部以上0.8質量部以下である。
【0023】
紫外線吸収剤そのものの耐光性が高いことが望ましい。そのような観点から、第1フィルム12に含まれる紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が最も好ましい。ここで、紫外線吸収剤そのものの耐光性が高いとは、紫外線を吸収する機能が低下しにくいということである。
【0024】
なお、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、紫外線の吸収による分解が起きにくい。よって、第1フィルム12にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が含まれると、長期間にわたって紫外線を吸収し続けることができる。したがって、特定波長域の光の透過を抑制する色素が含まれる層(第2フィルム13等)よりも第1フィルム12を光源20の近くに配置することで、特定波長域の光の透過を抑制する色素が含まれる層における色素の分解を、長期間にわたって抑制することができる。このように、紫外線吸収剤の分解されにくさという観点からも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が最も好ましい。
【0025】
第2フィルム13は、可視光のうち、一部の波長域を抑制し、他の波長域を透過する特性を有する。本開示では、第2フィルム13の透過スペクトルにおいて、透過率が他の波長域と比較して極小となる波長は570nm以上605nm以下である。第2フィルム13は、例えば波長域570nm以上605nm以下に主吸収ピークを有する有機色素を含むことにより、上記特性を備えている。第2フィルム13が含む色素については、既知の色素を適宜採用することができる。なお、より好ましくは、第2フィルム13の透過スペクトルにおいて、透過率が他の波長域と比較して極小となる波長は、585nm以上600nm以下である。
【0026】
なお、図1に示す例では、光学構造体1は、光源20に近い方から、光透過体11、第1フィルム12、第2フィルム13の順に配置されているが、第2フィルム13よりも第1フィルム12の方が光源に近い限り、これらの構成の順番は互いに入れ替わってもよい。また、さらに、第1フィルム12および第2フィルム13の少なくとも一方が、光透過体11の内部に配置されていてもよい。
【0027】
具体例を挙げて説明する。図2A図2Eは、光学構造体1における、光透過体11、第1フィルム12、および第2フィルム13の配置パターンを例示した図である。図2A図2Eにおいて、図の左側に光源が配置されているものとする。
【0028】
図2Aには、光源に近い方から、第1フィルム12、光透過体11、第2フィルム13の順に配置されている。図2Bでは、光源に近い方から、第1フィルム12、光透過体11、第2フィルム13の順に配置されている。図2Cでは、光透過体11の内部に第1フィルム12が配置されており、光透過体11の光源から遠い側に第2フィルム13が配置されている。図2Dでは、光透過体11の内部に第2フィルム13が配置されており、光透過体11の光源から近い側に第1フィルム12が配置されている。図2Eでは、光透過体11の内部に第1フィルム12と第2フィルム13とがこの順で配置されている。
【0029】
<適用例>
以下では、第1の実施の形態に係る光学構造体1の適用例と、その効果について詳細に説明する。
【0030】
<適用例1>
本適用例1において、光学構造体1は、例えばビルや家屋の窓に使用され、第1フィルム12が室外側、第2フィルム13が室内側となるように配置される(図1参照)。光学構造体1が用いられる窓には、太陽光が照射される。すなわち、以下の説明において、光源20は太陽である。
【0031】
本適用例1では、第1フィルム12として、図3Aに示す光学特性(分光透過率)を有するフィルムが採用される。このような分光透過率を有するフィルムの具体例としては、住友理工株式会社のリフレシャイン(登録商標)TW36が挙げられる。また、本適用例1では、第2フィルム13として、図3Bに示す分光透過率を有するフィルムが採用される。
【0032】
(第1の効果)
上述したように、第1フィルム12は赤外線を抑制する遮熱フィルムである。このため、太陽光による室温の上昇が抑えられる。なお、室温とは、光学構造体1としての窓の内側の部屋の温度である。
【0033】
(第2の効果)
上述したように、第1フィルム12は第2フィルム13よりも光源20に近い位置に配置されており、紫外線を抑制する特性を有する。第1フィルム12として図3Aに示す分光透過率を有するフィルムを採用した場合、第1フィルム12は紫外線を99%以上抑制することができる。このため、光源20から放射される光に紫外線が含まれていたとしても、第1フィルム12により、第2フィルム13に到達する紫外線は大幅に低減される。
【0034】
第2フィルム13が有する、一部の波長域を抑制する特性は、上述したように、第2フィルムに含まれる色素によってもたらされる。このような色素は、紫外線により分解されてしまうことがある。しかしながら、本開示の実施の形態に係る光学構造体1では、上述したように、第1フィルム12により、第2フィルム13に到達する紫外線が大幅に低減される。これにより、第2フィルム13が有する特性が紫外線によって劣化することが、効果的に防止又は軽減される。
【0035】
(第3の効果)
一般に、赤外線を抑制する特性を有する遮熱フィルムでは、可視光線もある程度抑制されてしまう。第1フィルム12として図3Aに示す分光透過率を有するフィルムを採用した場合、可視光線の透過率は約70%である。このため、例えば室内の人間が、第1フィルム12のみが貼られた窓ガラス等を通して外の風景を見た場合、薄暗く見えたり、色あせて見えたり等、色の見えの低下が生じうる。
【0036】
ここで、第2フィルム13は、上述したように、例えば波長域570nm以上605nm以下に主吸収ピークを有する有機色素を含む。つまり、第2フィルム13は、主に黄色の可視光を吸収する特性を有する。本開示の発明者らは、このような第2フィルム13を第1フィルム12に重ねて配置することにより、第1フィルム12および第2フィルム13を通して風景を見たときの方が、第1フィルム12のみを通して風景を見たときよりも、色の見えが向上することを見出した。以下では、その理由について説明する。なお、以下の説明において、第1フィルム12と第2フィルム13とを重ね合わせたフィルムを、第3フィルム14と記載する。
【0037】
図4は、第1フィルム12と第2フィルム13とを重ね合わせた第3フィルム14の、赤外から紫外領域までの分光透過率を示す図である。図4に示す第3フィルム14の分光透過率は、実際に図3Aに示す分光透過率を有するフィルムと図3Bに示す分光透過率を有するフィルムとを重ね合わせたフィルムを用いて実測することで得られた値である。
【0038】
発明者らは、第1フィルム12および第3フィルム14の分光透過率に基づいて、第1フィルム12のみ、又は第3フィルム14を通して種々の色を見た場合の、色の見えのシミュレーションを行った。
【0039】
このシミュレーションは、光源から照射される光が視対象に反射され、反射光がフィルムを透過して観察者の目に入る状況(図1を参照)を想定して行われている。光源としては、CIE(Commission Internationale de l'Eclairage)標準光源D65を用いた。また、視対象として、JIS(Japanese Industrial Standards:日本産業規格)により規定される特殊演色評価用の色票(試験色)を用いた。
【0040】
シミュレーションの手順は、以下の通りである。まず、CIE標準光源D65の分光放射輝度を示す分光放射輝度情報を取得した。また、JISの特殊演色評価用の色票毎の分光反射率を示す分光反射率情報を取得した。次に、光源の分光放射輝度情報と、色票毎の分光反射率情報と、図3Aに示す第1フィルム12の分光透過率または図4に示す第3フィルム14の分光透過率と、を掛け合わせることで、各色票から反射した光が各フィルムを透過した場合の分光放射輝度を算出した。各フィルムを透過した光の分光放射輝度に基づいて、所定の色空間(例えば、L*a*b*色空間)における、各色票からの反射光の色度情報を算出した。そして、色度情報に基づいて、フィルムを通して色票を見た場合の、色票間の色差を算出した。
【0041】
図5Aは、CIE標準光源D65の分光放射輝度を示す図である。また、図5B図5Dは、特殊演色評価用の色票毎の分光反射率を示す図である。なお、図5B図5Dには、15色ある色票の中から、No.9(赤色)、No.11(緑色)、No.14(暗めの緑色)の分光反射率のみを示している。また、図6は、色票No.9、No.11、およびNo.14それぞれのフィルムを透過した反射光の色度情報を示す図である。
【0042】
図6において、「L*」欄、「a*」欄、「b*」欄のそれぞれは、色票からの反射光を第1フィルム12のみ、又は第3フィルム14を通して見たときの色を、L*a*b*色空間における座標として示したものである。言い換えると、「L*」欄、「a*」欄、「b*」欄のそれぞれは、第1フィルム12のみ、又は第3フィルム14を透過した、各色票の反射光の色の、L*a*b*色空間における座標を示したものである。
【0043】
図6に基づいて、第3フィルム14を透過した光における、色票No.9(赤色)と色票No.11(緑色)との色差を算出すると、116.3となる。一方、図6に基づいて、第1フィルム12のみを透過した光における、色票No.9(赤色)と色票No.11(緑色)との色差を算出すると、108.7となる。なお、上記の色差は、a*b*平面における2座標間の二次元距離として算出しているが、色差は、L*a*b*色空間における2座標間の三次元距離として算出してもよい。
【0044】
このように、第3フィルム14を透過した光における、色票No.9(赤色)と色票No.11(緑色)との色差(116.3)は、第1フィルム12のみを透過した光における色差(108.7)よりも大きくなる。
【0045】
同様に、図6に基づいて、第3フィルム14を透過した光における、色票No.9(赤色)と色票No.14(暗い緑色)との色差を算出すると、80.8となる。一方、第1フィルム12のみを透過した光における、色票No.9(赤色)と色票No.14(暗い緑色)との色差を算出すると、73.9となる。
【0046】
このように、第3フィルム14を透過した光における、色票No.9(赤色)と色票No.14(暗い緑色)との色差(80.8)は、第1フィルム12のみを透過した光における色差(73.9)よりも大きくなる。
【0047】
以上説明したように、第1フィルム12および第2フィルム13の両方を透過した赤色光と緑色光との色差は、第1フィルム12のみを透過した赤色光と緑色光との色差よりも大きくなることがわかる。
【0048】
色差は色の違いを表す尺度であるため、一般に、ある2色の色差が大きいほど、見る者はこれらの2色の区別を付けやすくなると言える。従って、見る者が注視する領域と、その視界の周辺領域との色差が大きければ、これらの色差が小さい場合と比較して、見る者には、注視する領域が明瞭に見えることになる。すなわち、第1フィルム12および第2フィルム13の両方を通して風景を見る観察者は、第1フィルム12のみを通して同じ風景を見る場合と比較して、風景の中で赤色の領域又は緑色の領域を明瞭に見ることができる。
【0049】
このため、第1フィルム12および第2フィルム13が互いに積層されている光学構造体1を通して、少なくとも赤および緑を含む風景を見た場合、第1フィルム12のみの場合よりも、色の見えが改善するという効果が得られる。なお、上述の説明では、光学構造体1を通して見る対象を風景としたが、風景に限られず、種々の視対象を光学構造体1を通して見た場合でも、同様の効果が得られる。
【0050】
<適用例2>
本適用例2では、本開示の第1の実施の形態に係る光学構造体1を、HUD(Head Up Display:ヘッドアップディスプレイ)に適用する。図7は、HUD30と、HUD30に適用される光学構造体1の概略を示す図である。HUDは種々の用途に用いられるが、図7では、一例として、自動車のフロントガラス40に画像を投影するHUD30が示されている。
【0051】
図7に示すように、HUD30は、プロジェクタ31と、中間スクリーン32と、凸面鏡33と、凹面鏡34と、を有する。プロジェクタ31は、フロントガラス40に投影させる画像の表示光を投射する。中間スクリーン32は、プロジェクタ31が投射した表示光を拡散させ、所望の角度に配向させる。中間スクリーン32には、例えばマイクロレンズアレイ等が用いられる。凸面鏡33および凹面鏡34は、中間スクリーン32により拡散された表示光をフロントガラス40の所望の位置に投影させる。照射口35は、HUD装置の照射口であって、凹面鏡34とフロントガラス40との間に設けられている。
【0052】
このようなHUD30において、以下のような課題がある。HUD30の中間スクリーン32としてマイクロレンズアレイが用いられる場合、マイクロレンズアレイは温度変化によって画像の品質が劣化することが知られている。太陽光がフロントガラス40に当たると、投影の光路を太陽光が逆行し、当該太陽光が中間スクリーン32に当たることで、中間スクリーン32を構成するレンズの温度が上がってしまうことがある。このような場合、温度上昇により中間スクリーン32のマイクロレンズアレイに歪みが生じ、投影される画像が劣化してしまう。
【0053】
投影の光路を太陽光が逆行することによる温度上昇を防止するためには、例えば遮熱フィルムをフロントガラス40に貼る方法が考えられる。しかしながら、遮熱フィルムは可視光線の透過率も下げてしまうので、運転者の視認性が低下し、安全性に問題が生じる。
【0054】
また、遮熱フィルムをHUD30の照射口35に貼る方法も考えられる。この場合、運転者の視認性の低下は生じないが、フロントガラス40に投影される画像の彩度が低下するため、運転者がHUD30によって提供される情報を見にくくなる。
【0055】
また、HUD30のプロジェクタ31が出力する表示光の輝度を上げる方法も考えられるが、この場合HUD30の消費電力が増大するため、好ましくない。
【0056】
そこで、例えば図7のように、光学構造体1を照射口35に配置することにより、HUD30の装置内部の温度が太陽光によって上昇することを防止できる(適用例1の第1の効果を参照)とともに、フロントガラス40に投影される画像の視認性や色の見えの低下を防止できる(適用例1の第3の効果を参照)。なお、光学構造体1は、第1フィルム12(図1参照)がフロントガラス40に近い側、第2フィルム13が照射口35に近い側となるように、配置される。
【0057】
図7に示す例では、光学構造体1を照射口35に配置したが、光学構造体1は、HUD30の光路上における、中間スクリーン32から照射口35までの間であればどの位置に配置されてもよい。ただし、太陽光によるHUD装置の温度上昇を防止する観点からすると、光学構造体1は照射口35に配置されるのが好ましい。
【0058】
なお変形例として、本適用例2に係る光学構造体1は光透過体11を含まなくても良い。本変形例の光学構造体1は例えば第1フィルム12の方が第2フィルム13よりも光源(太陽)に近接するように構成乃至配置され、第1フィルム12及び第2フィルム13は積層されていても良く、互いに離れていても良い。また、本変形例の光学構造体1は、HUD30の光路上の任意の位置に配置され得る。
【0059】
以上説明したように、適用例2に係るHUD30によれば、消費電力を増大させることなく、投影の光路を太陽光が逆行することを防止できるので、温度上昇によるマイクロレンズアレイの歪みを防止でき、投影される画像の劣化も防止できる。
【0060】
<耐候性の検証>
次に、本開示の第1の実施の形態に係る光学構造体の耐候性に関する検証結果について、実施例1~3と、比較例1とを比較させることにより説明する。図8A図8Cは、実施例1~3の構造を示す断面図である。図8Dは、比較例1の構造を示す断面図である。
【0061】
実施例1~3は、図1に例示した光学構造体1と同様に、光透過体、第1フィルム、第2フィルムの順に重ねて作成した光学構造体である。実施例1~3では、光透過体には、フロート板ガラス(株式会社テストピース製「JIS R 3202」(厚さ3mm、幅30mm、長さ50mm))を採用した。実施例1~3において、第1フィルム、すなわち赤外線および紫外線を抑制するフィルム(遮熱フィルム)には、3M社製「Nano80s」(サイズ20mm×60mm)を採用した。
【0062】
実施例1~3において、第2フィルム、すなわち、可視光のうち、一部の波長域を抑制し、他の波長域を透過する特性を有するフィルムには、それぞれ異なる以下のフィルムを採用した。
【0063】
実施例1では、第1フィルム側の面に厚さ12μmの粘着層を形成したPET(Polyethylene terephthalate)フィルムであって、粘着層に濃度0.24wt%、サイズ20mm×60mmの色素層を含有させたフィルムを採用した。
【0064】
実施例2では、PETフィルムに濃度0.24wt%、サイズ20mm×60mmの色素層を含有させたフィルムを採用した。
【0065】
実施例3では、第1フィルム側とは反対側の面に、濃度0.24wt%、サイズ20mm×60mmの色素層を含有させた、厚さ12μmのアクリル樹脂層を形成したPETフィルムを採用した。アクリル樹脂には、三井化学株式会社製「アルマッテックスL1057M」を採用した。
【0066】
なお、実施例2および3では、第1フィルムと第2フィルムとの間に粘着層が配置されないため、光透過体、第1フィルム、および第2フィルムの積層体の上下をポリイミドテープ等で固定した。
【0067】
また、比較例1として、上記フロート板ガラスに上記実施例1と同様の粘着層を形成したPETフィルムを貼り付け、さらに遮熱フィルムを重ねた構造体を作成した。
【0068】
さらに、参考例1として、上記フロート板ガラスのみを含む構造体とした。また、参考例2として、上記フロート板ガラスに遮熱フィルムのみを重ねた構造体を作成した。図8Eは、参考例2の構造を示す断面図である。
【0069】
これらの構造体を、ガラス側が光源に近くなるように配置し、JIS B 7753 サンシャインカーボンアーク灯式の耐光性試験機及び耐候性試験機を用いて、耐候性試験を行った。なお、JIS B 7753 サンシャインカーボンアーク灯は、約1189時間で、屋外暴露1年間の紫外線量に相当する光を放射する。
【0070】
耐候性試験およびその評価の具体的な方法は、以下の通りである。「JIS-A5759:2016 建築窓ガラス用フィルム」における耐候性試験の試験条件と同様の条件で、上記サンシャインカーボンアーク灯からの光を上記構造体のガラス側の面に対して1000時間照射した。そして、試験前後の各構造体を用いてそれぞれの分光透過率を実測した。さらに、CIE標準光源D65の光を試験前後の各構造体に透過させた場合の、透過光におけるJISの特殊演色評価用の色票No.9(赤色)と色票No.11(緑色)との色差、および色票No.9(赤色)と色票No.14(暗い緑色)との色差を、実測した分光透過率を用いて算出した。最終的に、参考例2(遮熱フィルムのみをガラスに貼付)におけるそれぞれの色差を基準値とし、各実施例および比較例における試験前の色差と上記基準値との差分を100%とした場合の、試験後の色差と上記基準値との差分の割合(以下、保持率と記載する)を検査結果として算出した。
【0071】
言い換えると、検査結果(保持率)は、各実施例および比較例の構造体を通して見た場合の色の見えが、試験後においても保持されている度合いを示している。
【0072】
以下、検査結果について説明する。図9Aは、サンシャインカーボンアーク灯からの光を構造体に対して1000時間照射する前後における、色票No.9からの反射光が参考例1、参考例2、比較例1、および各実施例の構造体を透過した光の色度情報を示す図である。図9Bは、サンシャインカーボンアーク灯からの光を構造体に対して1000時間照射する前後における、色票No.11からの反射光が参考例1、参考例2、比較例1、および各実施例の構造体を透過した光の色度情報を示す図である。図9Cは、サンシャインカーボンアーク灯からの光を構造体に対して1000時間照射する前後における、色票No.14からの反射光が参考例1、参考例2、比較例1、および各実施例の構造体を透過した光の色度情報を示す図である。また、以下の表1は、比較例1、および各実施例における保持率を示す表である。なお、図9A図9Cに示す各色度情報は、上記したように実測した各構造体の分光透過率を用いて数値計算した後、小数点2桁以下を四捨五入した値である。
【0073】
【表1】
【0074】
以下、検査結果について詳細に説明する。CIE標準光源D65の光を参考例2の構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は108.7であった。
【0075】
CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験前の比較例1の構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は119.8であった。一方、CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験後の比較例1の構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は109.3であった。これらの値を用いて算出した比較例1の保持率は、5.4%である。
【0076】
CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験前の実施例1の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は119.9であった。一方、CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験後の実施例1の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は114.2であった。これらの値を用いて算出した実施例1の保持率は、49.1%である。
【0077】
CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験前の実施例2の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は116.3であった。一方、CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験後の実施例2の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は116.1であった。これらの値を用いて算出した実施例2の保持率は、97.4%である。
【0078】
CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験前の実施例3の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は120.0であった。一方、CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験後の実施例3の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.11との色差は118.4であった。これらの値を用いて算出した実施例3の保持率は、85.8%である。
【0079】
また、CIE標準光源D65の光を参考例2の構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.14との色差は73.9であった。
【0080】
CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験前の比較例1の構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.14との色差は83.6であった。一方、CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験後の比較例1の構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.14との色差は74.1であった。これらの値を用いて算出した比較例1の保持率は、2.0%である。
【0081】
CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験前の実施例1の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.14との色差は83.7であった。一方、CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験後の実施例1の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.14との色差は78.6であった。これらの値を用いて算出した実施例1の保持率は、48.0%である。
【0082】
CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験前の実施例2の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.14との色差は80.8であった。一方、CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験後の実施例2の光学構造体に透過させた場合の透過光における上記色差は80.7であった。これらの値を用いて算出した実施例2の保持率は、98.6%である。
【0083】
CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験前の実施例3の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.14との色差は83.4であった。一方、CIE標準光源D65の光を、上記耐候性試験後の実施例3の光学構造体に透過させた場合の透過光における色票No.9と色票No.14との色差は82.0であった。これらの値を用いて算出した実施例3の保持率は、85.6%である。
【0084】
このように、実施例1~3の光学構造体のいずれにおいても、長時間の紫外線の暴露による色の見えの劣化が、比較例1の構造体よりも少ない結果が得られた。また、実施例1の光学構造体のように、光透過体と第1フィルムまたは第2フィルムとの間に粘着層を配置した場合、実施例2、3と比較して保持率が小さいため、粘着層を用いない光学構造体の方がより好適であることがわかる。
【0085】
また、図9A図9Cを参照すると、耐候性試験前の性能に関して言えば、実施例1~3のいずれにおいても、色票No.9と色票No.11との色差、または色票No.9と色票No.14との色差は、ガラス板のみの構造体である参考例1、またはガラス板に遮熱フィルムのみを重ねた参考例2における色差よりも大きいことが分かる。
【0086】
具体的には、色票No.9と色票No.11との色差に関して言えば、実施例1は119.9であり、実施例2は116.3であり、実施例3は120.0であるため、いずれの実施例も107.5である参考例1、または108.7である参考例2より大きい。
【0087】
同様に、色票No.9と色票No.14との色差に関して言えば、実施例1は83.7であり、実施例2は80.9であり、実施例3は83.4であるため、いずれの実施例も73.4である参考例1、または73.9である参考例2より大きい。
【0088】
従って、実施例1~3のように光透過体(ガラス)、第1フィルム(遮熱フィルム)、第2フィルム(一部波長域を抑制するフィルム)の順に重ねて作成した光学構造体を通して見た場合、ガラスのみ、またはガラスに遮熱フィルムのみを重ねた構造体よりも、特定の色同士の色差を大きくすることができる、言い換えると、特定の色の見えを改善できることが分かる。
【0089】
[第2の実施の形態]
上述した第1の実施の形態では、ガラス等の光透過体11に、赤外線および紫外線を抑制する第1フィルム12と、特定波長域の光を抑制する第2フィルム13とを、第1フィルムが光源に近くなるように貼り合わせて作成した光学構造体1について説明した。本第2の実施の形態では、光透過体を含まず、多層構造を有する1枚のフィルムで構成されており、第1の実施の形態の光学構造体1と同様の効果を実現できる光学構造体100について説明する。
【0090】
図10は、第2の実施の形態に係る光学構造体100の構成例を示す図である。図10に示すように、光学構造体100は、粘着層101と、透明基材102と、金属スパッタ層103と、ハードコート層104と、を有する。粘着層101は、光学構造体100を光透過体(ガラス等)に貼り付けるための層(シール材等)である。透明基材102は、例えばPET層である。金属スパッタ層103は、スパッタリング等で形成された金属を含む層であり、赤外線を抑制して遮熱機能を有する層である。ハードコート層104は、光学構造体100に傷が付くことを防止するための層である。なお、光学構造体100がガラス等に貼り付けられて実際に使用される際には、粘着層101側が光源に近くなるように貼り付けられる。
【0091】
図10に示す光学構造体100では、赤外線を抑制する機能を有する金属スパッタ層以外の複数の層の内、少なくとも1つの層が、紫外線を抑制する機能を有している。また、図10に示す光学構造体100では、赤外線を抑制する機能を有する金属スパッタ層以外の複数の層の内、少なくとも1つの層が、特定波長域の光を抑制する機能を有している。
【0092】
紫外線の透過を抑制する機能は、第1の実施の形態における第1フィルム12と同様に、紫外線の透過を抑制する機能を持たせたい所定の層が、紫外線吸収剤を含有することによって得ることができる。
【0093】
第2の実施の形態に係る光学構造体100の第1の構成例として、例えば以下のような構成が挙げられる。すなわち、粘着層101が、紫外線を抑制する機能を有しており、かつ、透明基材102が、特定波長域の光を抑制する機能を有している構成である。また、特定波長域の光を抑制する機能を有する透明基材102を製造する方法としては、例えば、既存の透明基材102に特定波長域の光を抑制する色素を添加して製造する方法がある。
【0094】
一方、第2の構成例として、粘着層101および透明基材102の少なくとも一方が、紫外線を抑制する機能を有しており、かつ、ハードコート層104が、特定波長域の光を抑制する機能を有している構成が挙げられる。紫外線を抑制する機能を有する粘着層101または透明基材102を製造する方法、および、特定波長域の光を抑制する機能を有するハードコート層104については、第1の構成例と同様の製造方法を採用することができる。
【0095】
このように、紫外線を抑制する機能を有する層と、赤外線を抑制する機能を有する層と、特定波長域の光を抑制する機能を有する層とが互いに積層された多層フィルム構造を有する光学構造体100によれば、紫外線を抑制する機能を有する層が光源に近くなるように配置されることで、第1の実施の形態に係る光学構造体1と同様に、特定波長域の光を抑制することで特定の色の見えを改善できるとともに、特定波長域の光を抑制する機能を有する層が紫外線によって劣化してしまう事態を防止することができる。
【0096】
なお、図10に示す例では、粘着層101と、透明基材102と、金属スパッタ層103と、ハードコート層104との4種類の層が積層された光学構造体100について説明したが、異なる他の機能を有する、より多くの層が積層されていてもよい。また、光学構造体100がより多くの層の積層で構成される場合、紫外線を抑制する機能、および、特定波長域の光を抑制する機能は、金属スパッタ層以外のいずれかの層が適宜有していればよい。
【0097】
<作用、効果>
以上説明したように、本開示の第1の実施の形態に係る光学構造体1は、紫外線を抑制する第1フィルム12と、透過率が極小となる波長が586nm以上600nm以下である透過スペクトルを有する第2フィルム13と、光透過体11と、を備え、第1フィルム12は、第2フィルム13よりも光源20に近い位置に配置されている。
【0098】
このような構成により、光源20が紫外線を含む光を放射したとしても、第1フィルムにより、第2フィルム13へ到達する紫外線は大幅に低減される。このため、紫外線による第2フィルム13の劣化を、防止又は軽減することができる。
【0099】
また、本開示の実施の形態に係る光学構造体1において、第1フィルム12は、赤外線を抑制する遮熱フィルムである。このため、光学構造体1を透過した光が到達する空間の温度上昇を抑えることができる。
【0100】
また、本開示の実施の形態に係る光学構造体1において、第1フィルム12および第2フィルム13を透過した赤色光および緑色光の所定の色平面又は色空間における色差は、第1フィルム12を透過し第2フィルム13を透過しない赤色光および緑色光の色平面又は前記色空間における色差よりも大きい。
【0101】
このため、光学構造体1を通して少なくとも赤および緑を含む視対象を見た場合、第1フィルム12のみの場合よりも、色の見えが改善するという効果が得られる。
【0102】
また、本開示の第2の実施の形態に係る光学構造体100は、光透過体を含まず、多層構造を有する1枚のフィルムで構成されている。この多層構造は、紫外線を抑制する機能を有する層と、赤外線を抑制する機能を有する層と、特定波長域の光を抑制する機能を有する層とが互いに積層されて構成される。紫外線を抑制する機能を有する層が光源に近くなるように配置されることで、第1の実施の形態に係る光学構造体1と同様に、特定波長域の光を抑制することで特定の色の見えを改善できるとともに、特定波長域の光を抑制する機能を有する層が紫外線によって劣化してしまう事態を防止することができる。
【0103】
<変形例>
上述した実施の形態では、光学構造体1は、光透過体11のいずれかの面に第1フィルム12および第2フィルム13が、第1フィルム12の方が第2フィルム13よりも光源20に近くなるように、積層されて配置されていた。しかしながら、例えばこれらの構成が積層されず、互いに離れた状態で配置されていてもよい。
【0104】
また、光透過体11としてガラスを例示したが、光透過体11にはプラスチック等の透明な固体や、空気等の透明な気体、又は水等の透明な液体も含まれる。
【0105】
上述した第1の実施の形態において、第1フィルム12は、赤外線の透過を抑制する特性を有さず、紫外線の透過を抑制する特性のみを有していてもよい。また、第2の実施の形態に係る光学構造体100は、紫外線の透過を抑制する機能を有する層を有していれば、赤外線の透過を抑制する機能を有する層を有さなくてもよい。
【0106】
本出願は、2020年7月31日出願の日本国出願番号2020-130480号に基づく優先権を主張する出願であり、当該出願の特許請求の範囲、明細書、要約書及び図面に記載された内容は本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示は、窓ガラス等に用いられる光学構造体として好適である。
【符号の説明】
【0108】
1 光学構造体
11 光透過体
12 第1フィルム
13 第2フィルム
14 第3フィルム
20 光源
30 HUD
31 プロジェクタ
32 中間スクリーン
33 凸面鏡
34 凹面鏡
35 照射口
40 フロントガラス
100 光学構造体
101 粘着層
102 透明基材
103 金属スパッタ層
104 ハードコート層
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図9C
図10