IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アジュ ユニバーシティ インダストリー−アカデミック コーポレーション ファウンデーションの特許一覧

特許7598938抗原由来T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを細胞表面に提示するための融合抗体、及びこれを含む組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】抗原由来T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを細胞表面に提示するための融合抗体、及びこれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20241205BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 15/38 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 15/34 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 15/44 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20241205BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241205BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241205BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20241205BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20241205BHJP
   C07K 14/045 20060101ALI20241205BHJP
   C07K 14/05 20060101ALI20241205BHJP
   C07K 14/11 20060101ALI20241205BHJP
   C07K 14/165 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241205BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241205BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 39/145 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241205BHJP
   C07K 14/74 20060101ALN20241205BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20241205BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/38
C12N15/34
C12N15/44
C12N15/50
C07K19/00
C07K16/28
C07K7/06
C07K7/08
C07K14/045
C07K14/05
C07K14/11
C07K14/165
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
A61K39/395 N
A61K39/12
A61K39/145
A61K39/215
A61P31/00
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/20
A61P31/14
A61P35/00
A61P37/02
A61K47/68
C07K14/74
C12N5/0783
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022547813
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 KR2021001571
(87)【国際公開番号】W WO2021158073
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0014468
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515131404
【氏名又は名称】アジュ ユニバーシティー インダストリー-アカデミック コーオペレイション ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】AJOU UNIVERSITY INDUSTRY-ACADEMIC COOPERATION FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンスン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョンア
(72)【発明者】
【氏名】チョン,クンオク
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソヨン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ミンジョン
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513072(JP,A)
【文献】Cell. Mol. Life Sci.,2018年,Vol. 75,pp.2887-2896
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun.,2018年,Vol. 503,pp.2510-2516
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体に配列番号13~16、18、19、21~24、26~33、35、及び36からなる群から選択される配列を含むCD8T細胞抗原エ ピトープを含むペプチドが融合した融合抗体であって、前記抗体は、配列番号1の配列を有する重鎖及び配列番号2の配列を有する軽鎖を含む、融合抗体。
【請求項2】
細胞質浸透抗体によってCD8T細胞抗原エピトープを含むペプチドを標的細胞の細胞質に伝達して、標的細胞表面の抗原提示分子MHC-I(Major Histocompatibility ComplexクラスI)にCD8T細胞抗原エピトープペプチドを提示することを特徴とする、請求項1に記載の融合抗体。
【請求項3】
前記細胞質浸透抗体によって細胞内に内在化した後にエンドソームを脱出して細胞質内に局在可能であることを特徴とする、請求項2に記載の融合抗体。
【請求項4】
前記標的細胞は、癌細胞、ウイルス又は病原性微生物感染細胞、肥満細胞(mast cell)、好酸球(eosinophil)、好塩基球(basophil)、好中球(neutrophil)、ヘルパーT細胞(CD4 T cells)、細胞傷害性T細胞(CD8 T cells)、マクロファージ(macrophages)、粘膜細胞(epithelial cells)、筋肉細胞(muscle cells)、皮膚細胞(skin cells)、又は幹細胞(stem cells)であることを特徴とする、請求項2に記載の融合抗体。
【請求項5】
前記CD8T細胞抗原エピトープを含むペプチドは、ヒトに感染を起こすウイルス抗原由来であることを特徴とする、請求項1に記載の融合抗体。
【請求項6】
前記CD8T細胞抗原エピトープを含むペプチドは、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)、ヒト乳頭腫ウイルス(Human papilloma virus,HPV)、エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)、インフルエンザAウイルス(Influenza A virus,IAV)、又はCovid-19(severe acute respiratory syndrome-coronavirus-2,SARS-CoV-2)ウイルス特異的T細胞抗原エピトープを含むペプチドであることを特徴とする、請求項5に記載の融合抗体。
【請求項7】
前記CD8T細胞抗原エピトープを含むペプチドは、細胞質浸透抗体の軽鎖及び重鎖のN末端又はC末端に1個以上が融合したことを特徴とする、請求項1に記載の融合抗体。
【請求項8】
前記CD8T細胞抗原エピトープを含むペプチドは、細胞質浸透抗体の重鎖C末端及び/又は軽鎖C末端に融合したことを特徴とする、請求項7に記載の融合抗体。
【請求項9】
前記CD8T細胞抗原エピトープを含むペプチド1個又は2個以上が細胞質浸透抗体の重鎖C末端に融合したことを特徴とする、請求項に記載の融合抗体。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の融合抗体を含む、標的細胞表面にT細胞抗原エピトープを提示するための組成物。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の融合抗体を含む、癌、自己免疫疾患又は感染疾患の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物を含む、癌の治療又は予防用ワクチン。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に記載の融合抗体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の組換え発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項15に記載の宿主細胞を培養し、生産された融合抗体を回収する段階を含むことを特徴とする融合抗体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ(epitope)又はこれを含むペプチドを標的細胞(target cell)の細胞質に伝達し、標的細胞表面の抗原提示分子MHC-I(Major Histocompatibility Complex class I)にCD8T細胞抗原エピトープを展示(displaying)可能にする融合抗体、これを含む組成物、及びその用途に関する。
【0002】
より具体的に、本発明は、細胞又は組織特異的細胞質浸透能を持つ細胞質浸透抗体(cellular cytosol-penetrating antibody,Cytotransmab)に、抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが遺伝的に連結(genetic fusion)されて融合した融合抗体及びこれを含む組成物に関し、前記融合抗体は標的細胞の細胞質に伝達され、標的細胞表面の抗原提示分子MHC-IにT細胞抗原エピトープを展示可能にする。
【0003】
前記抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ(epitope)は、癌、自己免疫疾患などの疾病源であるタンパク質抗原を含むが、人に感染を起こし得るウイルス抗原由来のものが好ましい。
【0004】
本発明は、抗原由来T細胞抗原エピトープを標的細胞表面に提示させ、ペプチド-MHC-I複合体を特異的に認知する細胞傷害性T細胞(cytotoxic CD8 T cell,CTL)が認知して標的細胞を殺傷可能にする融合抗体及びその組成物に関する。
【0005】
具体的に、前記融合抗体を用いてウイルス抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ(epitope)を癌細胞の細胞質に伝達して癌細胞表面にウイルスペプチド-MHC-I複合体を発現させ、癌細胞をウイルス感染細胞として認識させると、癌患者の体内に循環する抗ウイルス細胞傷害性T細胞が癌細胞をウイルス感染細胞として認識して殺傷し、結局終局には、融合抗体を癌を除去する用途に活用可能にすることに関する。
【背景技術】
【0006】
主組織適合性複合体(Major Histocompatibility complex,MHC)は、脊椎動物において外来分子を認識させるための細胞表面タンパク質をコードする遺伝子セットであり、免疫反応の対象物質をT細胞(T cells)抗原(antigen)として認識させる抗原提示分子の役割を担う。MHCは、大きく、I型MHC(MHC class I molecules,MHC-I)とII型MHC(MHC class II molecules,MHC-II)の2種類に分けられる。ヒトのMHC-IIは、アルファ鎖(alpha-chain,α-chain)、ベータ鎖(beta-chain,β-chain)で構成された異型重合体(heterodimer)構造である。ヒトのMHC-Iは、ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen,HLA)とベータ-2-マイクログロブリン(beta-2-microglobulin,β2m)の異型重合体(heterodimer)構造である。ヒトのMHC-I型は、HLA-A、HLA-B、HLA-Cの3つの型の遺伝子があり、腫瘍細胞を含めて核を持つあらゆる細胞で発現する。MHC-I型が提示する抗原はCD8T細胞と反応する。MHC-II型は、HLA-DP、HLA-DQ、HLA-DRの遺伝子があり、このタンパク質は樹状細胞(Dendritic cells,DCs)、マクロファージ(Macrophage)、B細胞(B cells)のような抗原提示細胞(Antigen presenting cells,APCs)に限って発現する。MHC-II型が提示する抗原はCD4T細胞と反応する。抗原提示細胞は、MHC-IもMHC-IIも発現させるが、抗原提示細胞でない細胞はMHC-Iのみを発現させる。
【0007】
適応免疫反応(Adaptive immune response)において抗原はB細胞上の受容体分子(このミューノーグロブリン)及びT細胞上のT細胞受容体(T cell receptor,TCR)によって認識される。B細胞とは違い、T細胞は、抗原が必ずMHCに結合したペプチド形態、すなわち、ペプチド-MHC複合体に提示されてこそ、抗原エピトープペプチドを認識することができる。このようなT細胞の抗原認識をMHC限定の抗原認識(MHC-restricted antigen recognition,MHC限定(restriction))という。CD4T細胞は、ペプチド-MHC-II複合体を提示する抗原提示細胞と反応し、CD8T細胞は、ペプチド-MHC-I複合体を提示する細胞と反応する。
【0008】
腫瘍及びウイルス-感染細胞は、CD8細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T lymphocytes,CTLs)に対して細胞表面MHC-I分子を用いてT細胞抗原ペプチド(8~11個のアミノ酸残基)を提示できるが、これを、ペプチド-MHC-I複合体という。CD8細胞傷害性T細胞は、ペプチド-MHC-I複合体に特異的なT細胞受容体(T cell receptor;TCR)を用いて認識し結合させて効果器物質を分泌し、標的細胞を死滅させる。ウイルスに感染した細胞や腫瘍細胞は、抗原タンパク質が細胞内で翻訳されて存在する。この抗原は細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を経るが、すなわち、細胞質内のプロテアソーム(Proteasome)において小さなペプチド形態で分解された後、小胞体(ER)表面に存在するTAP(Transporter associated with antigen processing)タンパク質によって、選択的に小胞体に入る。一方、MHC-Iのα鎖mRNAは、小胞体のリボソームで翻訳と同時に小胞体に入り、小胞体の膜に結合する。膜に結合したα鎖タンパク質は、小胞体においてβ-2-マイクログロブリン(Microglobulin)タンパク質と結合し、そこでペプチドエピトープと結合可能になる。その後、ペプチド-MHC-I複合体は、ゴルジ体を通じて細胞膜に輸送されて細胞表面に複合体を提示し、それらの複合体はCD8T細胞のTCRによって認識される。その結果、抗原を持つ細胞は細胞傷害性T細胞によって殺される細胞媒介性免疫反応が誘導される。
【0009】
MHC class II(MHC-II)分子は、炎症などの過程中に、B細胞、マクロファージ、樹状細胞(dendritic cell)、内皮細胞のような抗原提示細胞上で発現する。抗原提示細胞表面のMHC-II分子は、典型的に、細胞内小胞内でCD4T細胞に対する抗原由来ペプチドを提示する。細胞外部の組織や血液に存在する抗原は、MHC-II分子を発現させている細胞によって処理(processing)され、CD4ヘルパー(CD4helper)T細胞によって認知される。抗原は、食細胞作用(phagocytosis)及び細胞内取込み(endocytosis)によって植菌細胞(phagocyte)に入い、取り込まれたタンパク質は、細胞内のエンドソーム(endosome)で小さいペプチド形態で分解される。一方、MHC-IIのα鎖及びβ鎖タンパク質は発現しながらいずれも小胞体の膜に結合した状態で複合体を形成する。小胞体においてさらに、それらの複合体に不変鎖(invariant chain;Ii chain)タンパク質がペプチド結合部位に結合し、その結果、小胞体においてMHC-II分子は、MHC-I分子に結合するペプチドエピトープとは結合しなくなる。ペプチドが結合していないMHC-II分子は、細胞膜に輸送される中に、ペプチド断片が取り込まれているエンドサイトーシス小胞(endocytic vesicle)と融合し、そこで不変鎖が解離し、抗原由来ペプチドと結合する。これは、ペプチド-MHC-II複合体は細胞表面に輸送され、CD4T細胞に抗原を提示し、その結果、抗体生産のような体液性免疫反応が誘導される。このように作られた抗体は、結局、細胞外に存在する抗原と結合して抗原を除去する。
【0010】
抗原提示細胞のうち、樹状細胞は、未成熟状態のときに、食細胞作用及び受容体媒介細胞内取込み(Receptor-mediated endocytosis)によって抗原を捕獲して抗原を処理(processing)後にMHC分子に抗原由来ペプチドを提示し、T細胞の認知を誘導する。抗原処理(processing)過程中に樹状細胞は益々成熟し、周辺リンパ節に移動して無感作(naive)T細胞に抗原を提示する。T細胞の活性には、樹状細胞の抗原提示の他、成熟した樹状細胞表面に発現する補助刺激因子(Costimulatory molecule;CD80、CD86、CD40など)と細胞癒着分子及び炎症促進サイトカインの刺激も必要である。樹状細胞は、このような信号によってCD4T細胞がTヘルパー1(Th1)細胞に分化するように誘導し、CD8T細胞も活性化させる。しかし、抗原提示細胞の補助刺激因子及び炎症促進サイトカイン刺激がないか、免疫抑制サイトカイン刺激を受けると、CD4T細胞はTh2細胞又は調節T細胞(regulatory T cell,Treg)に分化する。
【0011】
また、樹状細胞は、元はMHC-IIと結合してCD4T細胞を活性化させる外因性(exogenous)タンパク質由来のペプチドを細胞表面に提示するが、MHC-Iによっても提示できる能力を有しており、これを交差提示(cross presentation)という。したがって、CD8T細胞も交差刺激(cross priming)させることができる特徴を有する。したがって、樹状細胞は、現在まで知られた最も強力な抗原提示細胞であるといえる。
【0012】
近年、癌を治療するための免疫抗癌療法(Cancer immunotherapy)の一つとして、癌抗原(Cancer antigen)を患者に投与して細胞傷害性T細胞(cytotoxic CD8T cell,CTL)を活性化させることによって癌細胞を除去する試みがあるが、これを治療用抗癌ワクチン(Therapeutic cancer vaccine)という。治療用抗癌ワクチンは、免疫原性の低くなった腫瘍に免疫原性を付与したり、腫瘍特異的なT細胞の活性を誘導したりするための手段である。一般に、抗癌免疫反応(Anti-tumor immune response)が起きるには、免疫システムによって癌細胞を認知する過程が必要である。癌細胞表面の抗原提示分子(Major Histocompatibility Complex class I,MHC-I)に癌抗原由来のペプチドが提示されていると、この複合体に特異的に結合できるT細胞受容体(T cell receptor;TCR)を持つ細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T lymphocytes,CTLs)が癌細胞を認知し、癌細胞の死滅を誘導する。
【0013】
いままで癌ワクチンの開発は一般に、該当の癌細胞を直接使用する方法を用いたが、例えば細胞に基づく癌ワクチン開発初期段階には、免疫補助剤と混合された不活性化させた癌細胞全体又は癌細胞溶解物質が使用された。その後、改良された癌ワクチンが既存のワクチンに取って代わったが、それは、サイトカインと共同刺激分子(co-stimulatory molecules)を暗号化する遺伝子を応用する。最近の癌ワクチンは抗原の種類及び抗原伝達方法によってDNAワクチン、ペプチドワクチン、腫瘍細胞ワクチン、バクテリア或いはウイルス由来ベクターを利用するワクチン及び樹状細胞ワクチンに分類できる。
【0014】
DNAワクチンは、初期には所望の程度の免疫反応が誘導されるが、ワクチンの効力が経時減少する。これは、投与されたワクチンに対する抗体が次第に親和性を有し、結局には免疫反応が誘導され、投与されたDNAワクチンが破壊されるわけである。
【0015】
樹状細胞に抗原を提示する方法として、一般に、ペプチド、タンパク質及び自己由来/同種異系の癌細胞と共に培養する方法が用いられている。短い合成ペプチド(8~15個アミノ酸残基)は樹状細胞表面のMHC分子に直接結合するのに対し、長い合成ペプチド(28~35個アミノ酸残基)、タンパク質及び癌細胞は、MHC分子に結合する前にペプチドで処理(processing)される過程が必要である。短い合成ペプチドは、腫瘍関連抗原(Tumor-associated antigen;TAA)に対するCD8T細胞抗原エピトープを臨床試験に使用しているが、患者のHLAハプロタイプ(haplotype)を知らなければならなく、特定HLAハプロタイプに結合し得るペプチドでなる必要がある。長い合成ペプチドは、樹状細胞内で抗原処理(processing)過程中に交差提示され得るので、CD4T細胞の他にCD8T細胞反応も誘導でき、より長期的にペプチドを提示できる長所がある。
【0016】
全体腫瘍或いは腫瘍細胞株の溶解物を癌ワクチンとして使用することも、様々な癌腫で用いられている。この方法の主要利点は、(1)互いに異なるハプロタイプであるMHC分子に様々なエピトープが提示され得るので、様々な抗原に対するCD4T細胞とCD8T細胞反応が誘導でき、(2)抗原処理過程によって持続して抗原由来エピトープを提示できるという点である。ただし、自己抗原を提示することもあり、患者から分離した癌細胞が必要であるという短所がある。
【0017】
バクテリア又はウイルスのベクターも抗原を搭載する癌ワクチンとして用いられている。このようなベクターを用いてTAAを暗号化する遺伝子を挿入するか、安全性を高めるために毒性と複製関連タンパク質を暗号化する遺伝子を除去するか、或いは樹状細胞成熟を誘導するようにすることができる。しかし、患者遺伝子を組み込ませなければならず、ベクターに対する免疫反応が誘導されることもあるという短所がある。
【0018】
癌細胞が提示できる癌抗原由来ペプチドは、大きく、腫瘍関連抗原(Tumor-associated antigen;TAA)と腫瘍特異的抗原(Tumor-specific antigen;TSA)とに分類できる。TAAは、EGFR、ERBB2、CD19、メソテリンなどのように腫瘍細胞に過発現している抗原であるが、正常細胞や組織においてもある程度発現している抗原であり、また、CEAのような腫瘍胎児抗原(oncofetal antigen)、NY-ESO-1のような癌/精巣抗原(cancer/testis antigen)も含まれる。TSAは、腫瘍細胞の遺伝的突然変異による突然変異タンパク質或いは腫瘍誘発ウイルス由来のタンパク質(oncogenic viral protein)である点から、腫瘍に非常に特異的なタンパク質である(KRAS変異(mutant)、HPV16E6/7など)。したがって、正常細胞には見られないが、患者によっては、癌細胞によって異質性(heterogeneity)が高い特性がある。このような特性から、新抗原(neoantigen)とされる。樹状細胞ワクチンは一般に、このような抗原を標的にしてMHC分子に抗原を提示させようと試みている。TAA特異的T細胞を用いた抗癌免疫治療は、多くの患者に共通する抗原である点で、幅広く適用できる標的であるが、TAAは自己抗原(self-antigen)であるため、それに特異的な(autoreactive)CD4或いはCD8T細胞レパートリー(repertoire)は、中央免疫寛容(central immune tolerance)によって選択的に除去されている状態である。一方、新抗原特異的なT細胞は、TAAに比べて高い腫瘍特異性と高い免疫原性(すなわち、高い親和度を有するT細胞受容体を誘導)を有し、免疫寛容が欠如している。したがって、樹状細胞にTAAと新抗原とを組み合わせて使用すれば、より効果的なT細胞反応が誘導できると予想される。最近では、これを用いた抗癌ワクチン開発がなされている。
【0019】
しかしながら、現在治療用抗癌ワクチン技術の限界は、患者個人別癌特異新抗原の同定(identification)と究明(validation)段階の困難及び低い拡張性にある。すなわち、同種の腫瘍であっても患者個別の遺伝型及びタンパク質突然変異が非常に異なり、また、同一患者の腫瘍であってもそれを構成する癌細胞はそれぞれ突然変異が異なる(tumor heterogeneity)ため、それらのそれぞれの癌特異新抗原を同定し究明するには長時間、高費用がかかり、患者が持つ新抗原に合わせた作製(customized manufacture)をしなければならず、多数の患者に適用し難いという限界がある。
【0020】
ウイルスに感染した細胞を直接除去する効果器細胞はCD8細胞傷害性T細胞であることから、ウイルス感染時にCD8T細胞の活性化は非常に重要である。一般に、ウイルス抗原タンパク質はリンパ節からDCのような抗原提示細胞に伝達され、処理(processing)過程でCD8T細胞抗原エピトープペプチドに分解された後、MHC-Iに交差提示(cross-presentation)によって提示されてよい。樹状細胞が提示しているウイルス由来ペプチド-MHC-I複合体特異的な無感作CD8T細胞は、効果器T細胞として活性化される。ウイルスに感染した細胞のウイルス由来ペプチド-MHC-I複合体は、効果器CD8T細胞TCRによって認知され、その結果として分泌された効果器物質であるインターフェロン-ガンマ(IFN-γ)、グランザイム-B(Granzyme B)及びパーフォリン(Perforin)によって感染した細胞は直ちに除去される。しかし、ウイルス抗原の刺激が持続するヒト免疫欠乏ウイルス(Human immunodeficiency virus;HIV)、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus;HBV)及びC型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus;HCV)のような慢性ウイルス感染(Chronic viral infection)は、ウイルス特異的CD8T細胞の効果器機能が減少しつつ免疫関門受容体(Immune checkpoint receptor)の発現が増加する疲弊したT細胞(exhausted T cell)表現型を示す。また、疲弊したウイルス特異的CD8T細胞は、弱化した増殖能によって細胞死滅してしまう結果を招く。
【0021】
しかしながら、ウイルス種類によって、慢性ウイルス感染であるにも拘わらず、疲弊したT細胞の表現型を示さないサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus;CMV)と単純ヘルペスウイルス-1(Herpes simplex virus-1;HSV-1)も存在する。かかるウイルス特異的CD8T細胞は、ウイルスに感染した細胞が除去された後にも欠如しなく、効果器記憶T細胞(Effector-memory T cell)として血液中に非常に長期間に高い割合で存在し得る。このような特性を“記憶膨脹(memory inflation)”という(O’Hara,Welten et al.2012)。記憶膨張T細胞は、CD62L-CD27-CD28-である効果器-記憶表現型を有し、CCR7マーカーの欠如とCXCR3マーカーの発現のため、リンパ節にホーミング(homing)せずに組織に留まる特性を有する。また、最近の報告によれば、癌患者の血液と腫瘍組織内にサイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス及びインフルエンザAウイルス(Influenza A virus;IAV)に特異的なCD45RO+CCR7-CD8T細胞が存在していたし、ウイルス由来ペプチドの刺激後にIFN-γ、TNF-αなどのようなサイトカインの発現があり、機能的に活性化され得ることを示した(Rosato,Wijeyesinghe et al.2019)。
【0022】
前述したウイルスのうち、ヒトサイトメガロウイルス(human CMV)は、二本鎖DNAゲノムを有するべータ-ヘルペスウイルスで、一般的に腫瘍を誘発するウイルスではない。CMVは全世界の60~80%の人が感染しており、一生持続して感染することもある。健康な感染者には特別な症状がないが、免疫力の弱い(immunocompromised)人には深刻な疾患を誘発することがある。CMV特異的なCD8T細胞による免疫反応は、CMV由来のpp65(65kDa phosphoprotein)基質タンパク質及びIE-1(immediately early protein-1)タンパク質に集中して発生する(Jackson,Mason et al.2014)。特に、健康なCMV感染者の血液内にはMHC-I分子の中でもHLA-A*02:01下位遺伝型とpp65タンパク質由来ペプチド配列495-503番の複合体を特異的に認知するCD8T細胞の頻度が、全体CD8T細胞中の0.5~11%も占めると報告されている(Schmittnaegel,Levitsky et al.2015)。また、CMV感染者が高齢であるほどCMV特異的CD8T細胞の頻度が非常に増加していることが知られている(Staras,Dollard et al.2006)。
【0023】
MHC-I分子は、アルファ鎖1、2、3及びべータ-2-マイクログロブリンからなり、アルファ鎖の種類によるHLA-A 2個、HLA-B 2個、HLA-C 2個と、合計6個の異なる抗原提示分子が生成される。HLA-Aタンパク質のうちHLA-A*02類型は、全世界人口の約25~30%程度であり、中でもHLA-A*02:01下位類型が30~90%も占め、最も一般的なMHC-I分子である(Lai,Choo et al.2017)。
【0024】
上に言及したように、一般に、ウイルスに感染した細胞を除去するためには、適応免疫反応を用いたウイルス由来ペプチドに特異的なCD8細胞傷害性T細胞の活性化が必要である。この過程は、癌が発生した時に、癌由来ペプチド(TAA或いはTSA)がAPCのMHCクラスI及びクラスII分子に提示され、ペプチド-MHC複合体に特異的なCD8T及びCD4T細胞が活性化され、癌細胞死滅を誘導する適応免疫反応と非常に似ている。したがって、ウイルス特異的なT細胞を含め、非自己(non-self)抗原に特異的なT細胞及びTSA特異的なT細胞を用いて癌治療に使用しようとする様々な研究があった。そのために、癌細胞を直接に死滅させるには細胞傷害性T細胞の活性化が必須であり、そのためにはペプチドエピトープをMHC-Iに提示させる過程が必要である。
【0025】
膠芽細胞腫(glioblastoma)の治療にCMV特異的CD8T細胞を利用する試みがあるが、膠芽細胞腫でCMV抗原が発現するという諸報告があるためである。膠芽細胞腫患者の血液から分離したPBMCに存在するCMV特異的なCD8T細胞を、CMVpRNAをトランスフェクションさせた自己樹状細胞(autologous dendritic cell)をAPCとして用いて試験管内で刺激させ、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞を効果的に増幅させたし、自己膠芽細胞腫瘍細胞を試験管内で死滅させることが可能であった(Nair,De Leon et al.2014)。これは、一般のMHC-Iペプチド提示経路にしたがう提示方法であるといえるが、RNAによって細胞質に抗原が発現するように誘導するわけである。しかし、全抗原をコードするRNAを用いて抗原の発現を誘導させる過程が必要であるため、患者の樹状細胞の分離と成熟過程の困難、RNAのトランスフェクションの低い効率性という欠点がある。
【0026】
樹状細胞は、交差提示によってMHC-I分子に外部タンパク質由来のT細胞抗原エピトープの提示が活発になされ得る。このような場合、樹状細胞に特異的に発現している受容体であるCD40、DC-SIGN、MR(Mannose receptor)及びDEC205を標的する抗体に伝達しようとするペプチドを様々な形態で融合させたタンパク質を構築し、ペプチド特異的CD8又はCD4T細胞の活性化を誘導する試みがなされている。CD40を標的する抗体にHPV16E6及びE7タンパク質配列を融合させたタンパク質を用いてT細胞の活性化誘導及びHPV16E6/E7を発現させるマウス腫瘍モデルにおいて腫瘍成長を抑制する事例が報告されている(Yin,Duluc et al.2016)。また、抗DNA scFv(single chain variable fragment)にオボアルブミン(ovalbumin,OVA)タンパク質由来マウスMHC-IであるH-2KbのT細胞抗原エピトープ257-264番配列(SIINFEKL)を含むタンパク質切片である250-264番配列を融合させて樹状細胞に交差提示させた事例もある(Pham,Woo et al.2012)。前記2つの方法は、樹状細胞によってペプチド特異的T細胞が活性化される過程が必要なため、免疫過程(Immunization)がまずなされるべきであり、アジュバント(adjuvant)と共に投与してこそ効果が得られる短所がある。
【0027】
癌細胞特異的受容体を標的して内在化可能な抗体のFcドメインC末端部分とシステイン残基を含むウイルス由来T細胞抗原エピトープペプチドを化学的反応によってチオエーテルリンカーで連結させた抗体(Antibody-targeted pathogen-derived peptides)を用いてT細胞抗原エピトープを癌細胞のMHC-Iに伝達しようとする事例がある(Sefrin,Hillringhaus et al.2019)。癌細胞表面受容体に結合して内在化された後にエンドソームに位置した抗体-ペプチド複合体は、エンドソームの還元性条件によってジスルフィド結合が還元され、ペプチドがエンドソーム内に解離して、エンドソーム内にリサイクルされていたMHC-I分子に結合しながら細胞表面にペプチド-MHC-I複合体が提示されるメカニズムを利用する。文献において、抗体-EBV LMP2426-434番ペプチド(CLGGLLTMV)複合体は癌細胞に処理された後、低い濃度によってもEBV特異的な細胞傷害性T細胞存在下に癌細胞死滅を誘導できたし、マウス生体内移植した腫瘍の成長阻害も可能だった。また、EBV特異的な細胞傷害性T細胞のPD-1発現とマウス生体内移植された腫瘍のPD-L1発現による軽微な腫瘍成長阻害効果は抗PD-1抗体の併用投与によって克服できることを示した。しかし、前記方法は、エンドソームで解離したペプチドとMHC-Iが結合して細胞表面に提示されるものである。すなわち、前記方法は、T細胞抗原エピトープであるペプチドが細胞質には到達しない。したがって、一般のMHC-I提示経路に従わず、エピトープペプチド内にジスルフィド結合が可能なようにシステイン残基が存在しなければならないため、使用するエピトープペプチドの種類が非常に制限的であるという短所がある。また、前記方法は、細胞質に到達せず、細胞質内におけるプロテアソーム(proteasome)又はユビキチンプロテアソーム(Ubiquitin Proteasome)による細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を経ることができないため、抗体に連結するペプチドエピトープは、MHC-Iに直接結合するペプチド、すなわち、アミノ酸残基8~11個で構成されたペプチドに限定される。これよりも長い長さのペプチド(12個以上のアミノ酸残基を含むペプチド)は、エンドソームでMHC-Iに展示できない短所がある。また、この方法ではT細胞抗原エピトープペプチドは切断不可能な(non-cleavable)リンカーを使用すればMHC-Iに提示されない。
【0028】
他の接近方式には、ATPP(antibody-targeted pathogen-derived peptide)技術がある。この技術は、腫瘍表面抗原標的抗体に、CMVウイルス特異的T細胞抗原エピトープペプチドであるCMVp495-503番(NLVPMVATV)ペプチドを細胞内部エンドソーム環境(低いpH、還元環境(reducing environment))によって切断されるリンカー(cleavable linker)で連結して、腫瘍細胞表面にT細胞抗原エピトープペプチド-MHC-I複合体を展示させた事例である(WO2016/126611,Targeting moiety peptide epitope complexes having a plurality of T-cell epitopes)。この方式は、抗体とペプチドを別個に準備し、化学的反応によって切断可能(cleavable)リンカーで連結する。この接近方式は、抗体が癌細胞表面受容体に結合して内在化した後にエンドソームに位置した抗体-ペプチド複合体は、エンドソームの弱酸性又は還元性条件によってジスルフィド結合が還元され、ペプチドがエンドソーム内に解離してエンドソーム内にリサイクルされていたMHC-I分子に結合しながら細胞表面にペプチド-MHC-I複合体が提示されるメカニズムを利用する。しかし、前記方法は、細胞質に到達せず、細胞質内におけるユビキチンプロテアソームによる細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を経ることができないため、抗体に連結するペプチドエピトープは、MHC-Iに直接結合するペプチド、すなわちアミノ酸残基8~11個で構成されたペプチドに限定される。これよりも長い長さのペプチド(12個以上のアミノ酸残基を含むペプチド)は、エンドソームにおいてMHC-Iに展示ができない短所がある。また、この方法ではT細胞抗原エピトープペプチドは切断不可能な(non-cleavable)リンカーを使用すればMHC-Iに提示されない。
【0029】
他の接近方式には、APECs(antibody-peptide epitope conjuates)技術がある。この技術は、腫瘍表面抗原標的抗体にCMVウイルス特異的T細胞抗原エピトープであるCMVp495-503番(NLVPMVATV)ペプチドを、腫瘍細胞表面に存在するか腫瘍細胞が発現させるタンパク質加水分解酵素によって切断可能なリンカー(cleavable linker)で連結して、腫瘍細胞表面にT細胞抗原エピトープ-MHC-I複合体を展示させる事例である(WO2012/123755,Re-Directed Immunotherapy)。この方式は、抗体が細胞内部に内在化することはなく、癌細胞表面に腫瘍表面抗原に結合した状態でタンパク質加水分解酵素(例えは、metalloproteinase,MMP)がリンカーを切ると、ペプチドが細胞表面のMHC-Iと結合することを利用した。しかし、前記方法は、細胞質に到達せず、細胞質内におけるユビキチンプロテアソームによる細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を経ることができないため、抗体に連結するペプチドエピトープは、MHC-Iに直接結合するペプチド、すなわちアミノ酸残基8~11個で構成されたペプチドに限定される。これよりも長い長さのペプチド(12個以上のアミノ酸残基を含むペプチド)は、エンドソームでMHC-Iに展示されない短所がある。また、この方法では、T細胞抗原エピトープペプチドは、切断不可能なリンカーを使用すればMHC-Iに提示されない。また、様々なプロテアーゼを対象に加水分解を誘導することにより、プロテアーゼがエピトープペプチド自体を加水分解させ、T細胞抗原エピトープペプチドの損失を招くことがある。
【0030】
他の接近方式には、腫瘍表面抗原特異的な抗体(IgG及びscFv形態)にウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチド-MHC-I複合体をペプチドリンカーで連結して発現させたpMHC-I-抗体フォーマットを構築した事例である(Schmittnaegel,Levitsky et al.2015)。腫瘍微細環境では免疫逃避(immune escape)機序によってMHC-I損失がおき、これを克服しようとする試みである。pMHC-I-抗体は腫瘍細胞表面に結合しながらペプチド-MHC-I複合体が存在するので、MHC-I分子の損失が発生してもウイルス特異的な細胞傷害性T細胞の認知が誘導できる。In vitro実験においてウイルス特異的な細胞傷害性T細胞の存在下に腫瘍細胞の死滅を誘導でき、マウス生体内で腫瘍成長抑制効果を示した。しかし、癌細胞がない時に、非特異的なTCR交差結合(cross-linking)によるT細胞活性化を防止するために、異種二重体Fc(Heterodimeric Fc)技術を導入し、単一-MHC-I-IgGを構築しなければならず、これを発現させるためには、pMHC-Iが結合した重鎖、pMHC-Iがない重鎖、及び軽鎖の3つの組換えプラスミドが必要であるという短所がある。一般の抗体に比べて発現量も大きく減少し、精製後にもオリゴマー(oligomer)が多量存在することから、治療用抗体としての開発には不向きであった。また、前記方法は、T細胞抗原エピトープであるペプチドが細胞質には到達しない方式である。
【0031】
上述したように、既存の抗癌ワクチンは主に、樹状細胞表面のMHC分子に抗原由来ペプチドエピトープを提示してT細胞免疫反応を誘導する方向へと発展してきており、樹状細胞の抗原提示手段には、DNA或いはRNAワクチン、ペプチドワクチン、腫瘍細胞ワクチン及びウイルス由来ベクターを利用するワクチンなどの、様々な方法を用いてきた。しかし、抗原由来のT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)によって癌細胞表面のMHC-I分子に特異的に伝達した方法は現在まで報告されたことがない。
【0032】
また、既存の抗癌ワクチン技術は、患者によって非常に特異的な新抗原の同定及び究明に長時間、高費用がかかり、患者に合わせた作製(customized manufacture)が必要なため、拡張性が低い限界がある。
【発明の概要】
【0033】
前記限界を克服するために、本発明は、患者別特異的新抗原同定及び究明段階を要求しない上に、患者に汎用し得るように、ウイルス由来抗原を標的細胞(target cell)特異的に細胞質に伝達し、標的細胞表面の抗原提示分子MHC-IにCD8T細胞抗原エピトープが提示され得るようにする融合抗体及びこれを含む癌、自己免疫疾患又は感染性疾患の予防及び/又は治療用組成物を提供する。
【0034】
前記目的を達成するために、本発明は、抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを標的細胞の細胞質に伝達するために、細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体(cellular cytosol-penetrating antibody,Cytotransmab)にT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが融合した融合抗体を提供する。
【0035】
本発明において、前記融合抗体は、細胞又は組織特異的細胞質浸透能を有する細胞質浸透抗体に、CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが遺伝的に連結(genetic fusion)されたものであり、標的細胞の細胞質にCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを伝達して、標的細胞表面の抗原提示分子MHC-IにT細胞抗原エピトープを提示できることを特徴とするが、これに限定されない。
【0036】
特に、本発明に係る融合抗体は、CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを標的細胞の細胞質に伝達して、細胞質に伝達されたT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)によって処理され、究極的にCD8T細胞抗原エピトープを標的細胞表面の抗原提示分子MHC-Iに提示可能にする。
【0037】
すなわち、本発明に係る融合抗体は、イムノグロブリン形態、好ましくは完全なイムノグロブリン形態で、腫瘍組織などの標的細胞表面に過発現する膜タンパク質受容体などに結合して内在化(endocytosis)した後にエンドソーム脱出(endosomal escape)能力によって細胞質に位置し、細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたウイルス特異的エピトープが小胞体(Endoplasmic reticulum)に入ってMHC-Iと結合し、ゴルジ体(Golgi apparatus)を通じて分泌され、標的細胞表面において、T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチド、好ましくはウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドをMHC-Iに提示可能にする。
【0038】
本発明において、“CD8T細胞抗原エピトープ”と“T細胞抗原エピトープ”は実質的に同じ意味で使われ、MHC-Iと結合して標的細胞の表面に展示されるペプチドエピトープを意味する。
【0039】
本発明に係る融合抗体は、例えば、細胞質浸透抗体にCMV pp65などのウイルス抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが融合した形態であって、これを患者に投与すれば、標的細胞の細胞質に浸透し、細胞内抗原処理過程によって生成されたCMV pp65特異的CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞内小胞体(endoplasmic reticulum)に入ってHLA-A*02:01と結合してCMV pp65ペプチド/HLA-A*02:01複合体(pMHC)が形成され、このpMHCがゴルジ体を通じて分泌されながら標的細胞表面に提示され、これによって究極的に患者の体内に循環するCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞(CMV pp65-specific Cytotoxic T-Lymphocyte(CTL))が標的細胞をウイルス感染細胞として認識して殺傷することにより、結果として、標的細胞に起因した癌や自己免疫疾患、感染性疾患などを治療できる効果を奏する。
【0040】
本発明において、前記標的細胞は、癌細胞、ウイルス又は病原性微生物感染細胞などの人体内で除去されるべき正常でない細胞などの異常細胞(abnormal cell)の他、肥満細胞(mast cell)、好酸球(eosinophil)、好塩基球(basophil)、好中球(neutrophil)、ヘルパーT細胞(CD4 T cells)、細胞傷害性T細胞(CD8 T cells)、マクロファージ(macrophages)、粘膜細胞(epithelial cells)、筋肉細胞(muscle cells)、皮膚細胞(skin cells)、幹細胞(stem cells)などの細胞も含む意味で使われる。
【0041】
また、本発明において、抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドはヒトに感染を起こし得るウイルス抗原由来のものが好ましく、ヒトに感染を起こしたが免疫力によって自然治癒されたものの、依然として人体内にはこのような抗原に対するCTL(Cytotoxic T-Lymphocyte)が形成されているウイルス抗原のT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドであることがより好ましい。
【0042】
このような抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)、ヒト乳頭腫ウイルス(Human papilloma virus,HPV)、又はエプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)由来であるT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが好ましい。
【0043】
前記CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)由来T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチド、例えばCMV pp65であってよい。前記CD8T細胞CMV pp65抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、配列番号13の配列を含む、或いは配列番号13のN末端及び/又はC末端に1個~16個のアミノ酸をさらに含むペプチドであってよい。配列番号13のN末端及び/又はC末端に1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個又は16個のアミノ酸をさらに含むことができる。さらに含まれるアミノ酸の数は、N末端又はC末端の一側に含まれるか、N末端及びC末端の両方に含まれてよい。
【0044】
具体的に、前記CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、配列番号13~配列番号36のうちいずれか一つのCMV、HPV又はEBV特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドであることがより好ましく、最も好ましくは、配列番号26の配列を有するCMV特異的エピトープであってよいが、これに限定されない。
【0045】
なお、本発明において、抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、腫瘍関連抗原(Tumor-associated antigen;TAA)と腫瘍特異的抗原(Tumor-specific antigen;TSA)由来であってよい。
【0046】
本発明の一実施例において、前記CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、MHC-Iに直接結合するT細胞抗原エピトープ(8~11個アミノ酸残基で構成)、又はこれよりも長いペプチド(12個以上のアミノ酸残基を含むペプチド)であってよく、例えば、配列番号13~配列番号36のうちいずれか一つの配列を有するペプチドであってよいが、これに限定されない。
【0047】
本発明に係る融合抗体は、前記T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞質浸透抗体(immunoglobulin)の内部、すなわち、重鎖又は軽鎖の中間部分に挿入(insertion又はincorporation)されるか、N末端又はC末端に融合したことを特徴とするが、これに限定されない。
【0048】
また、本発明に係る前記T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、細胞質浸透抗体の内部、N末端又はC末端に1個以上、好ましくは1個~20個、より好ましくは1個~6個、さらに好ましくは1個~4個が挿入又は結合、好ましくは融合したことを特徴とするが、これに限定されない。
【0049】
前記細胞質浸透抗体の内部、N末端又はC末端に1個以上挿入又は結合したT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、互いに同一のものであっても異なるものであってもよい。同一の2個以上のT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞質浸透抗体の内部、N末端又はC末端に1個以上挿入又は結合する場合に、標的細胞表面の抗原提示分子MHC-IにT細胞抗原エピトープを提示する効率を高めることができる。特に、異なった2個以上のT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞質浸透抗体の内部、N末端又はC末端に1個以上挿入又は結合する場合に、多価ワクチン(mulativalent vaccine)と類似に、広い治療スペクトラム(spectrum)を有し得るという長所がある。
【0050】
これによって、一側面において本発明に係る融合抗体は、前記T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞質浸透抗体のヒンジ領域、重鎖可変領域、CH1、CH2、CH3ドメイン、軽鎖可変領域又は軽鎖不変領域ドメイン(CL)の中間部分に挿入された形態であってよいが、本発明に係る融合抗体において使用される前記T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、その大きさが大きくないので、細胞質浸透抗体の固有特性には別に影響を及ぼさない。
【0051】
さらに他の側面において、本発明に係る融合抗体は、前記T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞質浸透抗体の重鎖又は軽鎖C末端に融合した形態であってよく(T-cell epitope-fused cytotransmab)、好ましくは、ウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体(viral peptide epitope-fused cytotransmab)であってよいが、これに限定されない。
【0052】
また、本発明において、前記細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体は、細胞内に内在化が可能なものであればいずれも使用可能であり、細胞内に内在化した後にエンドソームを脱出して細胞質内に位置し得るものがより好ましいが、これに限定されない。
【0053】
本発明において“CD8T細胞抗原エピトープ”又は“T細胞抗原エピトープ”は、8~11個のアミノ酸残基で構成され、MHC-Iに直接結合してペプチド-MHC-I複合体をなすペプチドであって、このペプチド-MHC-I複合体をCD8T-細胞がT細胞受容体を用いて認識可能にするペプチドを意味する。本発明において“CD8T細胞抗原エピトープを含むペプチド”又は“T細胞抗原エピトープを含むペプチド”は前記T細胞抗原エピトープを含み、そのN末端又はC末端に追加にアミノ酸残基を含むペプチドを意味し、20個以上のアミノ酸残基を含む。
【0054】
本発明に係る融合抗体において、前記T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、細胞質浸透抗体の内部又は末端に、1個、2個、又は3個以上、より好ましくは1個が挿入又は融合したことを特徴とするが、これに限定されず、より好ましくは重鎖C末端に1個又は2個、より好ましくは1個が融合しているものが使用されてよい。
【0055】
本発明に係る融合抗体において、細胞質浸透抗体とCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、非切断リンカー、又はエンドソーム内で切断される特性を有するリンカーを介して抗体内部に挿入された又は末端に融合したことを特徴とし、前記リンカーはG4S又はGFLGを含むことが好ましいが、これに限定されない。
【0056】
また、本発明に係る融合抗体は、標的細胞特異的抗原を標的化(targeting)する物質をさらに含むことができる。前記標的細胞特異的抗原を標的化(targeting)する物質は、融合抗体と遺伝的融合(genetic fusion)、リンカー媒介結合、共有結合などの形態で結合してよいが、これに限定されない。
【0057】
本発明において、“標的細胞特異的抗原を標的化(targeting)する物質”は、標的細胞表面に特異的に発現する抗原に特異的に結合することによって、本発明に係る融合抗体を標的細胞に特異的に選択的に内在化(endocytosis)が誘導できる機能を有する物質を意味する。
【0058】
前記標的細胞特異的抗原を標的化する物質は、本発明に係る融合抗体を目標にする標的細胞に特異的に伝達(delivery)する機能を担う物質であって、標的細胞特異的抗原に特異的に結合し得るリガンド(ligand)、オリゴペプチド(oligopeptide)、抗体(antibody)又はその断片(fragment)又はアプタマー(aptamer)などであってよいが、これに限定されない。
【0059】
前記標的細胞特異的抗原は、標的細胞、例えば、腫瘍細胞や病原性ウイルス又は微生物から特異的に発現するか、過剰発現する受容体などであれば特に制限されず、好ましくは、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)、EGFR(epidermal growth factor receptor,Her1)、Her2/Neu、Her3、Her4、EGFRvIII、インテグリンαvβ3、インテグリンαvβ5、インテグリンαvβ6、IGFR(Insulin-like growth factors)、メソテリン、CEA(carcinoembryonic antigen)、MUC1(mucin 1)、CD20(B-lymphocyte antigen CD20)、CD19、CD22、CD25、CD33、CD38、CD123、Lewis Y、PD-1(Programmed cell death protein1)、PD-L1(Programmed death-ligand 1)、CTLA4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)、PSMA(prostate-specific membrane antigen)、Ang2(Angiopoietin-2)、PDGF-R(Platelet-derived growth factor receptor)、VEGF-R(vascular endothelial growth factor receptor)、ニューロピリン、c-Met、病原性ウイルス特異的抗原、病原性微生物特異的抗原、肥満細胞(mast cell)特異的抗原、好酸球(eosinophil)特異的抗原、好塩基球(basophil)特異的抗原、好中球(neutrophil)特異的抗原、ヘルパーT細胞(CD4 T cells)特異的抗原、細胞傷害性T細胞(CD8 T cells)特異的抗原、マクロファージ(macrophages)特異的抗原、粘膜細胞(epithelial cells)特異的抗原、筋肉細胞(muscle cells)特異的抗原、皮膚細胞(skin cells)特異的抗原、又は幹細胞(stem cells)特異的抗原からなる群から選ばれるいずれか一つであってよいが、これに限定されない。
【0060】
一実施例において、本発明では、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域に細胞質浸透能が与えられたinCT99細胞質浸透抗体に基づいて重鎖定常領域のC末端にCD8T細胞抗原エピトープ(MHC-Iに結合する8~11個のアミノ酸残基で構成されたペプチド)とT細胞抗原エピトープのN末端側に追加にアミノ酸残基が含まれたT細胞抗原エピトープ及びT細胞抗原エピトープのN末端とC末端側に追加にアミノ酸残基が含まれたT細胞抗原エピトープを含むペプチドが融合した融合抗体を作製し、このような融合抗体を用いてCD8T細胞抗原エピトープが標的細胞の表面に展示され得ることを確認した。
【0061】
一側面において、本発明は、本発明に係る融合抗体を含み、前記CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを細胞質浸透抗体によって標的細胞の細胞質に位置させることを特徴とする、標的細胞表面にT細胞抗原エピトープを提示するための組成物を提供する。
【0062】
本発明に係る融合抗体を含む組成物は、ウイルス特異的エピトープを標的細胞表面の抗原提示分子MHC-Iに提示可能にし、人体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T-Lymphocyte,CTL)を刺激し、選択的に標的細胞を認識して除去できる。
【0063】
また、本発明は、本発明に係る融合抗体を含む癌又は感染疾患予防及び/又は治療用組成物を提供する。
【0064】
好ましい例として、前記標的細胞は癌細胞であってよく、これにより、本発明は、本発明に係る融合抗体を含む、癌の予防又は治療用組成物、すなわち汎用治療用抗癌ワクチンを提供する。
【0065】
具体的に、本発明に係る汎用治療用抗癌ワクチンは、ウイルス抗原由来ペプチドエピトープ融合抗体(viral peptide epitope-fused cytotransmab)を用いて、癌細胞表面にウイルス特異的CD8T細胞抗原エピトープを標的細胞表面の抗原提示分子MHC-Iに展示させることによって、事前ウイルス露出によって癌患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞(CTL:Cytotoxic T Lymphocyte)を用いて癌細胞を選択的に除去できる。
【0066】
すなわち、人体に発生する癌を除去するものは免疫システムであり、中でも最も強力な癌細胞殺傷能力を示すものはCTLである。それにもかかわらず腫瘍が発生することは、代表的に、癌細胞表面に癌特異新抗原を提示せず、CTLが活性化されないためであって、
これによって、本発明は、1)現抗癌ワクチン技術における最大の難題である癌特異抗原を同定/究明する過程を要求しない汎用可能な抗癌ワクチンを開発し、2)腫瘍患者の体内に既に活性化されたCTLを用いて癌細胞を除去することはできないか、という疑問から始まった。そのために、平素時によく晒されるか、出生後にワクチン注射によって体内にCTLが既に形成されたウイルス(virus)抗原に注目した。例えば、インフルエンザー(influenza)ウイルス又はサイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)に感染しても、あまり問題なく健康を保ちつつ生きていくのは、人体内のウイルス特異的CTLが活性化され、感染した細胞を除去するためである。このようなCTLは、人体内に記憶T細胞として存在するが、患者腫瘍組織の癌細胞がまるでウイルスに感染したように前記ウイルス特異的抗原を提示させることにより、ウイルス特異的CTLをリダイレクション(redirection)し、腫瘍を除去させる。すなわち癌細胞がウイルス感染細胞として認識されるようにする戦略である。
【0067】
本発明は、前記目的を達成するために、一つの例として、CMV由来抗原を癌細胞細胞質に伝達し、細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)によってCMV由来抗原T細胞抗原エピトープペプチドがMHC-Iと結合することで、ペプチド-MHC-I複合体が標的細胞、すなわち癌細胞表面に提示されるようにする。すなわち、CMV由来抗原を汎用ワクチン、例えば、抗癌ワクチンとして開発する方法を提供する。
【0068】
本発明に係る抗癌ワクチンは、世界全体人口の60~90%がCMV感染を示し、感染者の相当数がCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を体内に有しているので、患者カスタマイズ型ではなく、汎用に使用されることが可能であり、波及性が大きいという長所がある。
【0069】
特に、CMV抗原のうち、pp65タンパク質由来ペプチド(495-503番アミノ酸残基)は、ヒト細胞のMHC-I遺伝子のうちHLA-A*02:01と複合体を形成して高い効率で感染細胞表面に提示されるが、HLA-A*02:01 MHC-I遺伝型は全世界人口の約16%が有しており、汎用性が高い。
【0070】
具体的に、一般成人はCMVに頻繁に感染し治癒されるので、常に活性化されたCTLが存在する。CMVに感染した正常成人の血液にあるCTLのうち、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞(CMV pp65-CTL)は約0.5~11%と、非常に高い頻度で存在するが、先行文献において、人の血液からCMV pp65-CTLを分離した後に、合成したCMV pp65ペプチド抗原を癌細胞表面のHLA-A*02:01に結合させて抗原の提示された癌細胞とin vitro培養すると、CMV pp65-CTLが効率的に癌細胞死滅を誘導できることが報告されたことがある。また、CMV pp65抗原が発現する腫瘍をマウスに移植し、ヒト由来CMV pp65-CTLをマウスに注入した時(adoptive transfer)、マウスで腫瘍成長が抑制されることが観察された。これは人体内の癌細胞にCMV pp65抗原を提示すると、CMV pp65-CTLが認知して腫瘍を除去できることを示唆する。
【0071】
しかしながら、前記先行研究のCMV pp65ペプチド研究は、治療用抗癌ワクチンへの可能性を示すだけで、人体内投与時に腫瘍特異性と細胞質侵透性が不在し、短い血液半減期などの問題から、実際臨床に適用し難い。実際患者に適用するには、CMV pp65ペプチドを癌組織に分布させ、癌細胞細胞質内に効率的に伝達して、HLA-A*02:01によって癌細胞表面に提示させ得る技術が必要であり、このような要求に、本発明に係る融合抗体及びこれを含む組成物が完壁に符合する。
【0072】
また、本発明は、イムノグロブリン形態、好ましくは完全なイムノグロブリン形態で腫瘍組織に過発現する細胞表面の膜タンパク質受容体に結合して内在化(endocytosis)した後にエンドソーム脱出(endosomal escape)能力によって細胞質に位置し、細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたウイルス特異的エピトープが小胞体に入ってMHC-Iと結合し、ゴルジ体を通じて分泌されて標的細胞表面においてウイルス特異的エピトープをMHC-Iに提示させるT細胞抗原エピトープ、好ましくはウイルス抗原由来T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を製造する方法を提供する。
【0073】
具体的に、本発明は、細胞質浸透抗体に融合した融合抗体に、ウイルス抗原由来T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチド、好ましくはサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus,CMV)、ヒト乳頭腫ウイルス(Human papilloma virus,HPV16)、エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)特異的エピトープ又はエピトープを含むペプチドが融合した融合抗体を製造する方法を提供する。
【0074】
一側面において本発明は、CMV由来抗原であるpp65及びHPV16由来抗原E7のエピトープ又はこれを含むペプチド領域を様々な形態で断片化(fragmentation)し、このうち、細胞質浸透抗体に融合し得る最適のCD8T細胞抗原エピトープ領域を同定する方法を提供し、
標的細胞表面に発現するウイルス特異的T細胞抗原エピトープの効能を増加させるために、前記融合抗体に結合するウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドの配列及び長さの改良、互いに異なるペプチドの連結方法と、このような改良されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープを含む融合抗体を提供する。
【0075】
また、本発明は、標的細胞表面に発現するウイルス抗原由来T細胞抗原エピトープをMHC-Iに効率的に提示するために、ウイルス抗原由来T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを抗体に融合させる時に使用されるペプチドリンカー及びリンカー改良方法を提供する。
【0076】
他の側面において、本発明は、本発明に係る融合抗体又はこれを含む組成物を用いて、癌又は腫瘍細胞の成長を抑制させる方法及び/又は癌又は腫瘍を予防又は治療する方法を提供する。
【0077】
また、本発明は、本発明に係る融合抗体又はこれを含む組成物を用いて自己免疫疾患又は感染性疾患を予防又は治療する方法を提供する。
【0078】
本発明は、また、本発明に係る融合抗体をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクター、前記融合抗体をコードするポリヌクレオチド又はこれを含む組換え発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0079】
他の側面において、本発明は、前記宿主細胞を培養し、生産された融合抗体を回収する段階を含むことを特徴とする融合抗体の製造方法を提供する。
【0080】
具体的に、本発明に係る融合抗体の製造方法は、例示的に、下記の段階を含むことができるが、これに限定されない。
【0081】
(1)細胞質浸透能を有する抗体の重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH1-hinge-CH2-CH3)が含まれた重鎖と前記重鎖のC末端にT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが融合したアミノ酸をコードする核酸(Nucleic acids)がクローニングされた重鎖発現ベクターを製造する段階;
(2)前記細胞質浸透能を有するヒト抗体の軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖不変領域(CL)が含まれた軽鎖のアミノ酸をコードする核酸がクローニングされたエンドソーム脱出細胞質浸透軽鎖発現ベクターを製造する段階;
(3)前記製造された重鎖及び軽鎖発現ベクターをタンパク質発現用動物細胞に同時形質転換して、完全なイムノグロブリン形態の細胞質浸透抗体とヒトT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが融合した融合抗体を発現させる段階;及び
(4)前記発現した融合抗体を精製及び回収する段階。
本発明は、また、本発明に係る融合抗体を用いてCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを細胞質内部に伝達する方法を提供する。
【0082】
具体的に、本発明に係る融合抗体が前記細胞質浸透抗体によって細胞内に内在化した後にエンドソームを脱出して細胞質内に位置することによって、前記CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを細胞質内部に伝達することを特徴とする方法を提供する。
【0083】
また、本発明は、標的細胞表面にCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを提示する方法を提供する。
【0084】
このような方法は、例えば、細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体にCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが融合した融合抗体の形態で、CD8T細胞抗原エピトープ又はエピトープを含むペプチドを細胞質内部に伝達し、前記融合抗体が細胞質浸透抗体によって細胞内に内在化した後にエンドソームを脱出して細胞質内に位置することによって、前記CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが標的細胞表面に提示されることを特徴とし得るが、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1】inCT99及びinCT99†ウイルスエピトープ(viral epitope)融合抗体の模式図である。
図2】陰性対照群抗体としてinCT99(AAA)†CMVとセツキシマブ†CMV及びネシツムマブ†CMV融合抗体の模式図であり、 図2Aは、inCT99†CMV融合抗体のVL-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである92WYW9492AAA94に突然変異させ、VH-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである95WYW9895AAA98に突然変異させたinCT99(AAA)†CMVの模式図であり、 図2Bは、セツキシマブ抗体の重鎖(heavy chain)領域のC末端にGSリンカーを介してウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させたセツキシマブ†CMVの模式図であり、 図2Cは、ネシツムマブ抗体の重鎖(heavy chain)領域のC末端にGSリンカーを介してウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させたネシツムマブ†CMVの模式図である。
図3】inCT99抗体とinCT99†CMV、inCT99†HPV、inCT99†EBV及びinCT99†OVA、融合抗体を動物細胞(HEK293F)で発現させるためのベクターの模式図であり、 図3Aは、細胞質浸透抗体であるinCT99抗体の重鎖定常部位にウイルス抗原由来エピトープペプチドが融合したinCT99†ウイルスペプチド(viral peptide)融合抗体の重鎖発現ベクターの模式図であり、 図3Bは、inCT99抗体及びinCT99†ウイルスペプチド融合抗体の軽鎖発現ベクターの模式図である。
図4】対照群抗体であるセツキシマブ†CMVとネシツムマブ†CMV融合抗体を動物細胞(HEK293F)で発現させるためのベクターの模式図であり、 図4Aは、セツキシマブ†CMV融合抗体の重鎖発現ベクターの模式図であり、 図4Bは、セツキシマブ†CMV融合抗体の軽鎖発現ベクターの模式図であり、 図4Cは、ネシツムマブ†CMV融合抗体の重鎖発現ベクターの模式図であり、 図4Dは、ネシツムマブ†CMV融合抗体の軽鎖発現ベクターの模式図である。
図5】inCT99†ウイルスペプチド融合抗体を動物細胞(HEK293F)で発現及び精製させた後、3μgのタンパク質を還元性又は非還元性条件のSDS-PAGE上で分離し、クマシ-ブルー染色を用いて大きさ及び組合せ形態で分析した結果であり、 図5Aは、inCT99†CMV融合抗体に対する結果であり、 図5Bは、inCT99†HPV融合抗体に対する結果であり、 図5C及び図5Dは、inCT99†EBV融合抗体に対する結果である。
図6】ヒト癌細胞株4種に対して週組織適合性複合体(MHC)Iの遺伝子型のうちHLA-A2と癌細胞表面抗原のうちインテグリンανβ5/ανβ3の発現を流細胞分析機で分析した実験結果である。
図7】T細胞受容体(TCR)様抗体の発現ベクターの模式図、及び精製後の大きさ及び組合せ形態を分析した結果であり、 図7Aは、T細胞受容体(TCR)様抗体の発現ベクターの模式図であり、 図7Bは、H9、H9#1とH9#38抗体を動物細胞(HEK293F)で発現及び精製させた後、3μgのタンパク質を還元性又は非還元性条件のSDS-PAGE上で分離し、クマシ-ブルー染色を用いて大きさ及び組合せ形態で分析した結果であり、 図7Cは、C1-17抗体を図7Bと同じ方法で分析した結果であり、 図7Dは、7-1とL2抗体を図7Bと同じ方法で分析した結果である。
図8】HLA-A*02:01の発現程度が異なる癌細胞株を用いてT細胞受容体(TCR)様抗体のペプチド/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を流細胞分析機(flow cytometry)で分析した実験結果であり、 図8Aは、CMV495-503ペプチドをバルスした癌細胞から、H9、H9#1及びH9#38抗体のCMV495-503/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を測定した結果であり、 図8Bは、inCT99†CMV融合抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を、H9#1及びH9#38抗体を用いて分析した結果であり、 図8Cは、CMV495-503ペプチドをバルスした癌細胞から、C1-17抗体のCMV495-503/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を測定した結果であり、 図8Dは、HPV E11-19ペプチドをバルスした癌細胞から、7-1抗体のHPV E11-19/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を測定した結果であり、 図8Eは、EBV L2426-434(C426S)ペプチドをバルスした癌細胞から、L2抗体のEBV L2426-434(C426S)/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を測定した結果である。
図9】様々なinCT99†CMV融合抗体の細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能及び細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を流細胞分析機で分析した結果であり、 図9Aは、4℃でinCT99†CMV融合抗体の細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能を分析するための計画表であり、 図9Bは、37℃でinCT99†CMV融合抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を分析するための計画表であり、 図9Cは、様々なinCT99†CMV融合抗体を図7A及び図7Bの方法で処理した後、流細胞分析機で分析した結果であり、 図9Dは、inCT99†CMV480-503融合抗体と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503及びセツキシマブ†CMV480-503抗体を、上述した図9A及び図9Bの方法で処理した後、流細胞分析機で分析した結果であり、 図9Eは、上述した図9Bの方法でinCT99†CMV480-510融合抗体、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-510とセツキシマブ†CMV480-510抗体の37℃で細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を評価した結果であり、 図9Fは、上述した図9Bの方法でinCT99†CMV480-516融合抗体、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-516とネシツムマブ†CMV480-516抗体の37℃で細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を評価した結果である。
図10】健康な血液供与者から採血した血液から分離した末梢血液単核細胞(PBMC)を抗HLA-A2抗体を用いて染色して、HLA-A下位遺伝子型であるHLA-A2の発現、CMV495-503ペプチド刺激前後のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の比率及び表現型を分析した結果であり、 図10Aは、末梢血液単核細胞(PBMC)のHLA-A下位遺伝子型であるHLA-A2の発現を流細胞分析機で分析した結果であり、 図10Bは、HLA-A2遺伝子型を有する健康な血液供与者のPBMCをT細胞抗原エピトープであるCMV495-503ペプチドで刺激して10~14日間増幅させた後、リンパ球又はCD8T細胞中の、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の比率を流細胞分析機で分析した結果であり、 図10Cは、図10Bで増幅させたCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞のT細胞の分化段階及び抗原の表現型を流細胞分析機で分析した結果である。
図11】様々なinCT99†CMV融合抗体を処理した癌細胞のCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による死滅効果をLDH(lactate dehydrogenase)アッセイで分析した結果であり、 図11Aは、LDHアッセイのための抗体及びCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の投与方法を示す計画表であり、 図11Bは、LDHアッセイの結果を分析したグラフである。
図12】inCT99†CMV抗体及び対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMVとセツキシマブ†CMV及びネシツムマブ†CMV抗体を癌細胞に処理した後、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDH(lactate dehydrogenase)アッセイで分析した結果であり、 図12Aは、inCT99†CMV480-503抗体と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体を図11Aと同じ方法で処理後に、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した結果であり、 図12Bは、前記抗体を24時間処理した後、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅誘導能をLDHアッセイで分析するための計画表であり、 図12Cは、図12Bの方法でLDHアッセイを行った後、その結果を分析したグラフであり、 図12Dは、inCT99†CMV480-510と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-510とセツキシマブ†CMV480-510抗体を図11Aと同じ方法で処理後に、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した結果であり、 図12Eは、inCT99†CMV480-516と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-516とネシツムマブ†CMV480-516抗体及びセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体を図11Aと同じ方法で処理後に、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した結果である。
図13】癌細胞にプロテアソーム阻害剤とゴルジ阻害剤を処理した後にinCT99†CMV融合抗体を処理し、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-g分泌量をELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)で定量した結果であり、 図13Aは、前記分析のための計画表であり、 図13Bは、分析に用いられたCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の純度を流細胞分析機で分析した結果であり、 図13Cは、プロテアソーム阻害剤とゴルジ阻害剤がinCT99†CMV480-503と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503及びセツキシマブ†CMV480-503抗体によるCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-g分泌に及ぼす影響をELISAで定量した結果であり、 図13Dは、前記阻害がinCT99†CMV480-516、inCT99(AAA)†CMV480-516及びネシツムマブ†CMV480-516抗体によるCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-g分泌に及ぼす影響をELISAで定量した結果である。
図14】ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB231細胞を乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に異種移植したNSGマウスにおいてinCT99†CMV480-503融合抗体のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞による癌細胞成長抑制誘導効果を、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体と比較して測定した結果であり、 図14Aは、前記実験に対して腫瘍移植後の抗体とIL-15受容体の複合体分子の投与間隔、投与量、投与方法及びCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の投与間隔と方法を示す計画表であり、 図14Bは、上記の図14Aの実験において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を示すグラフであり、 図14Cは、図14Aの実験において抗体最終投与48時間後にマウスを致死して腫瘍の重さを特定したグラフであり、 図14Dは、図14Aの実験において抗体最終投与48時間後にマウスを致死し腫瘍を摘出した後に取った写真であり、 図14Eは、図14Aの実験結果において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を1個体のマウスごとに示すグラフである。
図15】ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB231細胞を乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に異種移植したNSGマウスにおいてinCT99†CMV480-516融合抗体のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞による癌細胞成長抑制誘導効果を、既存APECs技術であるセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体と比較して測定した結果であり、 図15Aは、前記実験に対して腫瘍移植後の抗体とIL-15受容体の複合体分子の投与間隔、投与量、投与方法及びCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の投与間隔と方法を示す計画表であり、 図15Bは、上記の図15Aの実験において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を示すグラフであり、 図15Cは、図15Aの実験において抗体最終投与48時間後にマウスを致死して腫瘍の重さを特定したグラフであり、 図15Dは、図15Aの実験において抗体最終投与48時間後にマウスを致死し腫瘍を摘出した後に取った写真であり、 図15Eは、図15Aの実験結果において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を1個体のマウスごとに示すグラフである。
図16】ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB231細胞を乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に異種移植したNSGマウスにおいてinCT99†CMV480-503融合抗体のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の活性化効果を、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体と比較して測定した結果であり、 図16Aは、前記実験に対して腫瘍移植後の抗体の投与量、投与方法、及びCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の投与方法を示す計画表であり、 図16Bは、NSGマウスに注射するために増幅したCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の比率を流細胞分析機で分析した実験結果であり、 図16Cは、各投与群のマウスを致死して腫瘍浸潤リンパ球を分離し、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のうちCD107の発現量とCD69とIFN-gを発現させるCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の比率を分析した結果である。
図17】inCT99†HPV E11-19及びinCT99†HPV E1-19融合抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を流細胞分析機で分析した結果であり、 図17Aは、37゜Cで前記抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を分析するための計画表であり、 図17Bは、様々な濃度の前記抗体を図17Aの方法で処理した後、流細胞分析機で分析した結果であり、 図17Cは、前記抗体を図17Aの方法で時間別に処理した後、T細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を流細胞分析機で分析した結果である。
図18】様々なinCT99†OVA250-264融合抗体の細胞表面H-2K bに対する結合能及び細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをH-2K bに提示する能力を流細胞分析機で分析し、OVA特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した結果であり、 図18Aは、前記抗体を図9A及び図9Bと同じ方法で処理後に、4℃でinCT99†OVA250-264融合抗体の細胞表面H-2Kに対する結合能と37℃でinCT99†OVA250-264融合抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをH-2Kに提示する能力を流細胞分析機で分析した結果であり、 図18Bは、H-2Kを発現させるMC38細胞にinCT99†OVA250-264抗体を処理し、OVA特異的な細胞傷害性T細胞の比率を別にして処理した後、癌細胞の死滅効果をLDHアッセイで分析した結果である。
図19】マウス大腸癌細胞株であるMC38細胞をC57BL/6免疫担当(immunocompetent)マウスの背部に同種移植した後、inCT99†OVA250-264融合抗体のOVA257-264特異的細胞傷害性T細胞による癌細胞成長抑制誘導効果を測定した結果であり、 図19Aは、前記実験に対して腫瘍移植後の抗体の投与間隔、投与量、投与方法及びOVA257-264特異的細胞傷害性T細胞の投与間隔と方法を示す計画表であり、 図19Bは、上記の図18Aの実験において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を示すグラフであり、 図19Cは、図19Bの実験において各抗体投与群の腫瘍体積変化を1個体のマウスごとに示すグラフである。
図20】ウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を用いて癌細胞表面にウイルス特異的エピトープを発現させ、腫瘍患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞を用いて癌細胞を除去する汎用治療用抗癌ワクチンに対する作用機序を示す全般的な模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0086】
特に断らない限り、本明細書で使われる技術的及び科学的用語はいずれも、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書における命名法は、本技術分野でよく知られており、通常使われるものである。
【0087】
本発明は、抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを標的細胞の細胞質に伝達するために、細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体(cellular cytosol-penetrating antibody,Cytotransmab)にT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが融合した融合抗体、及び前記融合抗体を含み、標的細胞表面にCD8T細胞抗原エピトープを提示するための組成物を提供する。
【0088】
本発明は、細胞質浸透抗体にCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが融合した形態でCD8T細胞抗原エピトープ又はエピトープを含むペプチドを細胞質内部に伝達する方法であって、前記細胞質浸透抗体によって細胞内に内在化した後にエンドソームを脱出して細胞質内に位置することによって、前記CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを細胞質内部に伝達することを特徴とする方法に関する。
【0089】
本発明において“標的細胞”は、癌細胞、ウイルス又は病原性微生物感染細胞などの人体内で除去されるべき正常でない細胞などの異常細胞(abnormal cell)の他、肥満細胞(mast cell)、好酸球(eosinophil)、好塩基球(basophil)、好中球(neutrophil)、ヘルパーT細胞(CD4 T cells)、細胞傷害性T細胞(CD8 T cells)、マクロファージ(macrophages)、粘膜細胞(epithelial cells)、筋肉細胞(muscle cells)、皮膚細胞(skin cells)及び幹細胞(stem cells)からなる群から選ばれてよいが、これに限定されるのではなく、人体内で疾患を誘発する異常に活性化された細胞であって、体内で除去又は治療されるべき細胞であればいずれも含まれる意味で解釈される。
【0090】
前記標的細胞は、好ましくは、癌細胞、ウイルス又は病原菌などであってよいが、これに限定されるのではなく、前記癌細胞は、例えば、膀胱癌、乳癌、胃癌、肺癌、卵巣癌、甲状腺癌、子宮頸癌、中枢神経癌、膠芽腫、肝癌、皮膚癌、膵癌、胃癌、大腸癌、直膓癌、食道癌、腎臓癌、肺癌、上皮癌、血液癌、前立腺癌又は軟組織肉腫細胞などを含むが、これに制限されない。
【0091】
また、前記ウイルス又は病原菌は、それによってウイルス又は病原菌の感染を原因とする病的状態である感染性疾患が誘発され得るものであればいずれも使用可能であり、例えば、B型及びC型肝炎、ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus,HPV)感染、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)感染、ウイルス性呼吸器疾患、インフルエンザーなどが含まれてよいが、これに制限されない。
【0092】
本発明に係る融合抗体は、標的細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを発現させ、患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞毒性CD8T細胞を用いて標的細胞を除去するようにする。
【0093】
すなわち、本発明に係る融合抗体は細胞又は組織特異的細胞質浸透が可能であり、細胞質浸透後に、細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが小胞体に入ってMHC-Iと結合し、ゴルジ体を通じて分泌されて標的細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを発現させ、腫瘍患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞毒性CD8T細胞によって、ウイルス特異的エピトープを発現する標的細胞を除去する汎用治療用抗体として利用されてよい。
【0094】
また、本発明は、前記ウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を含む薬剤学的組成物及びこれを用いた疾病、特に癌の治療のための組成物及び治療方法を提供する。
【0095】
また、前記ウイルス抗原由来CD8T細胞抗原エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を含む癌治療のための薬剤学的組成物は、他の抗癌剤と併用治療のための用途に用いられてよく、前記他の抗癌剤は細胞毒性CD8T細胞であることが好ましいが、これに限定されるのではなく、他の当該技術分野で使用可能ないかなる抗癌剤も併用治療のために使用されてよい。
【0096】
特に、ウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を含む癌治療のための薬剤学的組成物を細胞傷害性T細胞と併用治療のために使用する場合に、
細胞傷害性T細胞を刺激してサイトカイン分泌の増加;
細胞傷害性T細胞数の増加;
腫瘍付近へのリンパ球流入の増加、を誘導することを特徴とし得る。
【0097】
前記目的の細胞質浸透能を有する細胞質浸透抗体は、完全イムノグロブリン形態の抗体及びその切片であってよい(大韓民国特許登録第10-1602870公報(完全なイムノグロブリン形態の抗体を細胞膜を透過して細胞質に位置させる方法及びその利用))。
【0098】
前記目的の細胞質浸透能を有する細胞質浸透抗体は、キメラ、ヒト、又はヒト化した抗体であってよい。
【0099】
前記目的の細胞質浸透能を有する細胞質浸透抗体は、抗体の軽鎖可変領域(VL,Light chain variable domain)及び/又は重鎖可変領域(VH,Heavy chain variable domain)に、エンドソーム脱出能(endosomal escape ability)を有する完全イムノグロブリン(Immunoglobulin)形態の抗体においてて、抗体の軽鎖可変領域(VL)及び/又は重鎖可変領域(VH)のN末端に、標的細胞の表面膜タンパク質に特異的に結合する環状ペプチド(cyclic peptide)が融合し、標的組織細胞の細胞質に浸透能を有する組織特異的細胞浸透抗体であってよい。
【0100】
前記目的の細胞質浸透抗体のエンドソーム脱出能は、抗体の軽鎖可変領域及び/又は重鎖可変領域に含まれた下記構造によってエンドソーム酸性pH条件で抗体の特性変化を発生させることによるものであることを特徴とする組織特異的細胞質浸透抗体であってよい。すなわち、1)軽鎖可変領域(VL)及び/又は重鎖可変領域(VH)の抗原結合領域3(complementarity determining region 3,CDR3)配列にWYWXエンドソーム脱出能配列モチーフを含むが、Wはトリプトファン、Yはチロシン、Xはメチオニン(M)、イソロイシン(I)、及びロイシン(L)からなる群から選ばれ、2)軽鎖可変領域(VL)及び/又は重鎖可変領域(VH)の1番目のアミノ酸は、アスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)であることを特徴とする細胞質浸透抗体であってよい。
【0101】
前記目的の細胞質浸透能を有する細胞質浸透抗体inCT99抗体の重鎖と軽鎖の配列情報は、下記配列番号1の重鎖可変領域及び配列番号2の軽鎖可変領域配列を有するものでよいが、これに限定されず、本発明の目的に符合する細胞質浸透能及び/又はエンドソーム脱出能力を有するものであればいずれも使用可能である。
【0102】
【0103】
本明細書で提供する配列番号に明示された全ての抗体のアミノ酸残基番号は、Kabat番号を使用した。
【0104】
また、本発明の一態様は、前記腫瘍組織特異性を付与するために、標的細胞、例えば、癌細胞に多く発現したインテグリンαvβ3とαvβ5を標的するin4環状ペプチドを軽鎖可変領域のN末端にMGSSSNリンカーを用いて融合させた。
【0105】
前記目的のin4環状ペプチドの配列情報は下記の通りである。
【0106】
【0107】
本発明で提供するCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体に融合した融合抗体は、標的細胞をターゲットとし、標的細胞表面のMHC-IにCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを提示するワクチンとして使用することができる。
【0108】
本発明で提供するCD8T細胞抗原エピトープペプチド又はこのエピトープを含むペプチドが細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体に融合した融合抗体は、癌細胞の他にもMHC-Iを発現するあらゆる核を有する細胞を標的にして開発され、標的細胞表面のMHC-IにCD8T細胞抗原エピトープを提示することができる。すなわち、本発明の細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体が特定細胞又は組織を標的すると、癌細胞の他にも、MHC-Iを発現するあらゆる核を有する細胞の細胞質にCD8T細胞抗原エピトープ抗原を伝達する方法を提供する。この場合、癌細胞の他に、細胞は肥満細胞(mast cell)、好酸球(eosinophil)、好塩基球(basophil)、好中球(neutrophil)、ヘルパーT細胞(CD4 T cells)、細胞傷害性T細胞(CD8 T cells)、マクロファージ(macrophages)、粘膜細胞(epithelial cells)、筋肉細胞(muscle cells)、皮膚細胞(skin cells)、幹細胞(stem cells)などであっもよい。
【0109】
本発明は、細胞又は組織特異的な細胞質浸透能を有するinCT99抗体に、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)、ヒト乳頭腫ウイルス16(Human papilloma virus,HPV16)、エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)特異的エピトープ又はエピトープを含むペプチドを融合させた抗体を製造する方法を提供する。
【0110】
“融合”は、機能又は構造が異なるか同一である2分子を一体化することであって、好ましくはリンカーペプチドによってなり得、このリンカーペプチドは、本発明の抗体各ドメイン、抗体、又はその切片の様々な位置で前記ウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドとの融合を中継できる。
【0111】
前記ウイルス特異的CD8エピトープペプチド又はエピトープを含む長いペプチドは、inCT99重鎖のC末端にGSリンカー又はGFLGリンカーを用いて融合させた。
【0112】
本発明で提供する抗体が、従来の技術であるAPECs(antibody-peptide epitope conjugates)技術に比べて向上した抗癌効果を示すかを評価するために、APECs技術に用いられたリンカーのうち代表的なMMP14特異的リンカーを使用した。APECs技術は、腫瘍表面抗原標的抗体にCMVウイルス特異的T細胞抗原エピトープであるCMVp495-503番(NLVPMVATV)ペプチドを、腫瘍内に存在するか腫瘍細胞が発現するタンパク質加水分解酵素(プロテアーゼ)によって切断されるリンカー(cleavable linker)で連結して、腫瘍細胞表面にT細胞抗原エピトープ-MHC-I複合体を展示させた事例である。
【0113】
前記目的を達成するための例示的なリンカーの配列情報は、下記の通りである。
【0114】
【0115】
前記ウイルス抗原由来CD8エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体に融合するウイルス特異的CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、1)アミノ酸9個のウイルス特異的CD8T細胞抗原エピトープのみをinCT99抗体のC末端に融合させる群、2)CD8T細胞抗原エピトープのN末端側に延長された切片形態を融合させる群、3)CD8T細胞抗原エピトープのC末端側に延長された切片形態を融合させる群、4)CD8T細胞抗原エピトープのN末端とC末端側の両方に延長された切片形態を融合させる群、を含む配列(配列番号12-29)である。このとき、前記CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチド1個が抗体のC末端に直接融合してよい。
【0116】
従来は、抗体とCD8T細胞抗原エピトープペプチド部分、すなわち、MHC-Iに直接結合する8~11個のアミノ酸残基で構成されたペプチドのみを、二硫化結合(S-S bond)による化学的結合(Chemical conjugation)を用いて連結した。すなわち、抗体とペプチドをそれぞれ別に準備し、リンカーペプチドが連結されて、特定環境でペプチドが切断される。ただし、本発明によれば、抗体重鎖C末端にCD8T細胞抗原エピトープペプチドがシステイン(Cys)無しに遺伝的融合によって直接連結されるという相違がある。
【0117】
本発明では、細胞質浸透能のない陰性対照群抗体としてinCT(AAA)†CMV抗体、セツキシマブ†CMV及びネシツムマブ†CMV融合抗体を使用した。
【0118】
inCT(AAA)†CMV抗体は、inCT99抗体のVL-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである92WYW9492AAA94に突然変異しており、VH-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである95WY95Aが95AAA98に突然変異している。したがって、インテグリンαvβ3とαvβ5受容体に結合して内在化(endocytosis)したinCT(AAA)†CMV抗体はエンドソームを脱出できないため細胞質浸透がされず、細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを提示することができない。
【0119】
セツキシマブ†CMV融合抗体は、EGFRを標的するセツキシマブ抗体の重鎖(heavy chain)領域のC末端にGSリンカーを介してウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させて構築した。セツキシマブ†CMV融合抗体はEGFRに結合して内在化した後にリソソームを経て分解されるため、細胞質浸透による細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを提示する機能がない。
【0120】
ネシツムマブ†CMV融合抗体は、EGFRを標的するネシツムマブ抗体の重鎖(heavy chain)領域のC末端にGSリンカーを介してウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させて構築した。ネシツムマブ†CMV融合抗体はEGFRに結合して内在化した後にリソソームを経て分解されるため、細胞質浸透による細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを提示する機能がない。
【0121】
本発明で提供する抗体が、従来の技術であるAPECs(antibody-peptide epitope conjugates)技術に比べて向上した抗癌効果を示すかを評価するために、APECs技術に使用された抗体のうち代表的なセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体を構築した。APECs技術は、腫瘍表面抗原標的抗体に、CMVウイルス特異的T細胞抗原エピトープであるCMV495-503番(NLVPMVATV)ペプチドを、腫瘍内に存在するか腫瘍細胞が発現するタンパク質加水分解酵素(プロテアーゼ)によって切断されるリンカー(cleavable linker)で連結して、腫瘍細胞表面にT細胞抗原エピトープ-MHC-I複合体を展示させた事例である。
【0122】
上述した対照群抗体であるセツキシマブとネシツムマブ抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域の配列情報は、下記の配列番号7~10を用いた。
【0123】
【0124】
上述した対照群抗体であるセツキシマブとネシツムマブ抗体を製造するために使用されたヒトIgG1の重鎖定常領域、軽鎖不変領域の配列情報は、下記の通りである。抗体依存的細胞毒性(Antibody-Dependent Cell Cytotoxicity,ADCC)による癌細胞抑制活性を排除するために、重鎖CH2-CH3領域に234、235番目の残基リジン(Lysine)をアラニン(Alanine)に置換し、329番目のプロリン(Proline)をグリシン(Glycine)に置換してhIgG1(AAG)と命名した重鎖を使用した。
【0125】
【0126】
前記方法で製造されたinCT99†CMV融合抗体及び対照群抗体は、下記のように命名する。
【0127】
【0128】
前記方法で製造されたinCT99†HPV、inCT99†EBV融合抗体は、下記のように命名する。エプスタイン・バーウイルス(EBV)由来のT細胞抗原エピトープEBV L2426-434の配列はCLGGLLTMVであるが、inCT99抗体に融合時に、Cys残基によるオリゴマー形成を防止するために426番残基をSer残基に置換したEBV L2426-434(C426S)の配列であるSLGGLLTMVを使用した。
【0129】
【0130】
本発明においてCMVウイルス抗原由来CD8エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合したinCT†CMV融合抗体を腫瘍細胞に処理した後、実際CMVウイルスエピトープがHLA-A2と複合体を形成して細胞表面にウイルスエピトープを提示するかを分析するTCR様(TCR-like)抗体は、前記表に記述されたH9である。
【0131】
また、本発明の一態様においてCMV495-503とHLA-A2の複合体に対する親和度が向上した抗体は、H9#1、H9#38とC1-17である。
【0132】
HPVウイルスエピトープとHLA-A2の複合体を分析するTCR様(TCR-like)抗体は7-1であり、EBVウイルスエピトープとHLA-A2の複合体を分析するTCR様(TCR-like)抗体はL2である。
【0133】
前記TCR様(TCR-like)抗体を製造するために使用された重鎖可変領域、軽鎖可変領域、マウスIgG2a重鎖定常領域、マウスIgG2a軽鎖不変領域の配列は、下記の通りである。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
従来抗体-T細胞抗原エピトープ融合体でCD8T細胞抗原エピトープが切断されてMHC-Iに展示(display)される機序は、細胞内部又は外部環境(低いpH、還元環境)によって切断可能リンカーが切断されてT細胞エピトープペプチドが露出され、エンドソーム又は細胞表面でMHC-Iに結合する過程、すなわち、細胞表面又はエンドソーム内でペプチド/MHC-Iが結合し、細胞表面に提示される機序による。
【0138】
しかしながら、本発明によれば細胞質内に浸透した後に、抗原処理装置(antigen processing machinery)(元の細胞機序)によって抗体-ペプチドが切断され、T細胞抗原エピトープ又はエピトープを含むペプチドが細胞質からERに入ってMHC-Iと結合して提示される。すなわち、細胞質でT細胞抗原エピトープペプチドが発生し、これがERに入ってMHC-Iと結合して細胞表面に提示される。すなわち、元の細胞で起きるペプチド/MHC-I提示機序に従う。
【0139】
従来機序によれば、切断不可能なリンカーを使用する場合、T細胞抗原エピトープペプチドがMHC-Iに提示されなく、抗体にT細胞エピトープペプチド(MHC-Iに実際に結合する8~11個のアミノ酸残基で構成されたペプチド)よりも長い長さのペプチドを連結すればMHC-Iに提示されない。これは、細胞質の細胞内抗原処理過程を経ないためである。また、抗体に二硫化結合(S-S bond)で結合(conjugation)するには、T細胞抗原エピトープ又はペプチドにシステインを必須に含まなければならないという問題がある。
【0140】
しかしながら、本発明によれば、元来細胞の抗原処理装置(antigen processing machinery)を利用するので、切断不可能/切断可能リンカー2個を使用してもよく、T細胞抗原エピトープペプチド(8~11個アミノ酸残基)よりも長い長さのペプチドを融合させてもMHC-Iに提示され、遺伝的融合によってペプチド部分にシステインが必要でない。
【0141】
本発明の一態様では、前記CD8T細胞抗原エピトープが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を用いて癌又は腫瘍細胞の成長を抑制させる方法及び癌又は腫瘍を治療する方法を提供する。
【0142】
前記癌は、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、腹膜癌、皮膚癌、皮膚又は眼球内黒色腫、直膓癌、肛門付近癌、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、慢性又は急性白血病、リンパ球リンパ腫、肝細胞癌、胃腸癌、膵癌、膠芽腫、頸部癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝腫瘍、乳癌、結腸癌、大腸癌、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝癌、前立腺癌、陰門癌、甲状腺癌、肝癌及び頭頸部癌からなる群から選ばれるものでよい。
【0143】
本発明の一態様では、前記CD8T細胞抗原エピトープが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を用いて感染疾患を治療する方法を提供する。
【0144】
前記感染疾患は、ウイルス又は病原菌によってウイルス又は病原菌の感染を原因とする病的状態であって、例えば、B型及びC型肝炎、ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus,HPV)、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)、エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)の感染及びウイルス性呼吸器疾患、インフルエンザーなどが含まれてよいが、これに制限されない。
【0145】
前記癌又は感染疾患の予防又は治療用薬学的組成物は、経口又は非経口で投与できる。非経口投与である場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与できる。経口投与時に、タンパク質又はペプチドは消化することから、経口用組成物は活性薬剤をコートするか、胃における分解から保護されるように剤形化される必要がある。また、前記組成物は、活性物質を標的細胞に移動させ得る任意の装置によって投与されてよい。
【0146】
前記組成物が癌又は感染疾患の予防又は治療用薬学的組成物として製造される場合に、前記組成物は、薬学的に許容される担体を含むことができる。前記組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、製剤時に一般に使用されるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。前記薬学的組成物は、前記成分の他にも、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0147】
前記癌又は感染疾患の予防又は治療用薬学的組成物は、経口又は非経口で投与できる。非経口投与である場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与などで投与できる。経口投与の際、タンパク質又はペプチドは消化することから、経口用組成物は活性薬剤をコートするか、胃における分解から保護されるように剤形化する必要がある。また、前記組成物は、活性物質を標的細胞に移動させ得る任意の装置によって投与されてよい。
【0148】
前記癌又は感染疾患の予防又は治療用薬学的組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって様々に処方できる。前記組成物の好ましい投与量は、成人基準で0.001~100mg/kgの範囲内である。用語“薬学的有効量”は、癌を予防又は治療するのに或いは血管新生による疾患の予防又は治療するのに十分な量を意味する。
【0149】
本発明は、前記細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体;及び、前記抗体に結合したT細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが融合した融合抗体をコードするポリヌクレオチド又は核酸を提供する。
【0150】
前記“ポリヌクレオチド(Polynucleotide)”又は“核酸”は、一本鎖又は二本鎖形態で存在するデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドの重合体である。RNAゲノム配列、DNA(gDNA及びcDNA)及びこれから転写されるRNA配列を包括し、特に断らない限り、天然のポリヌクレオチドの類似体を含む。
【0151】
前記ポリヌクレオチドは、上述した細胞質浸透抗体とヒトRNA分解酵素が融合した形態の組換え免疫毒素をコードするヌクレオチド配列の他に、その配列に相補的な(Complementary)配列も含む。前記相補的な配列は、完壁に相補的な配列の他、実質的に相補的な配列も含む。
【0152】
本発明に係るヌクレオチドは、変形されたものでよい。前記変形は、ヌクレオチドの追加、欠失を含む。前記アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、前記ヌクレオチド配列に対して実質的な同一性を示すヌクレオチド配列も含むものと解釈される。前記の実質的な同一性は、前記ヌクレオチド配列と任意の他の配列を極力対応するようにアラインし、当業界で通常用いられるアルゴリズムを用いてアラインされた配列を分析した場合に、少なくとも80%の相同性、少なくとも90%の相同性又は少なくとも95%の相同性を示す配列であってよい。
【0153】
本発明の具体例において、腫瘍組織特異的細胞質浸透能を付与したヒト軽鎖可変領域(VL)と細胞質浸透能を付与したヒト重鎖可変領域(VH)領域と重鎖定常領域のC末端にウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させたウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体(viral epitope-fused cytotransmab)を製造する方法の例は、下記の通りである。
【0154】
1)前記細胞質浸透能を付与したヒト重鎖可変領域(VH)及びヒト重鎖定常領域(CH1-hinge-CH2-CH3)が含まれた重鎖のC末端にウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させた核酸(Nucleic acids)をクローニングして、ウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体の重鎖発現ベクターを製造する段階;
2)前記ヒト軽鎖可変領域(VL)及びヒト軽鎖不変領域(CL)を含む軽鎖において軽鎖可変領域(VL)を細胞質に浸透するヒト化軽鎖可変領域(VL)及び腫瘍組織特異的細胞質浸透能を付与したヒト化軽鎖可変領域(VL)に置換された核酸(nucleic acids)をクローニングした細胞質浸透軽鎖発現ベクターを製造する段階;
3)前記製造された重鎖、軽鎖発現ベクターをタンパク質発現用動物細胞に同時形質転換して、腫瘍患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞によって認知され得るように標的細胞でウイルスエピトープを発現させることができる、ウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を発現させる段階;及び
4)前記発現した完全なイムノグロブリン形態の抗体を精製及び回収する段階。
【0155】
前記方法は、重鎖を発現するベクターと軽鎖を発現するベクターを用いて腫瘍組織特異的に細胞内部に浸透し、細胞質浸透後に細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたウイルス特異的エピトープが小胞体に入ってMHC-Iと結合し、ゴルジ体を通じて分泌されて標的細胞表面にウイルス特異的エピトープを発現させ、腫瘍患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞によって、ウイルス特異的エピトープを発現する標的細胞を除去する汎用治療用抗体を発現することができる。ベクターは、軽鎖と重鎖を一つのベクターで同時に発現させるベクターシステムも、それぞれ別のベクターで発現させるシステムも可能である。後者の場合、2つのベクターは同時形質転換(co-transfection)及び標的形質転換(targeted transfection)によって宿主細胞に導入されてよい。
【0156】
前記組換えベクターにおいて、本発明で提供する軽鎖可変領域(VL)、及び軽鎖不変領域(CL)、重鎖可変領域(VH)及び重鎖定常領域(CH1-hinge-CH2-CH3)はプロモーターに作動的に連結されてよい。用語“作動的に連結された(operatively linked)”とは、ヌクレオチド発現調節配列(例えば、プロモーター配列)と他のヌクレオチド配列間の機能的な結合を意味する。したがって、これによって、前記調節配列は前記他のヌクレオチド配列の転写及び/又は解読を調節できる。
【0157】
前記組換えベクターは、典型的に、クローニングのためのベクター又は発現のためのベクターとして構築されてよい。前記発現用ベクターは、当業界で植物、動物又は微生物で外来のタンパク質を発現させるのに使用される通常のものを使用できる。前記組換えベクターは、当業界に公知の様々な方法によって構築されてよい。
【0158】
前記組換えベクターは、原核細胞又は真核細胞を宿主にして構築されてよい。例えば、使用されるベクターが発現ベクターであり、原核細胞を宿主とする場合には、転写を進行させ得る強力なプロモーター(例えば、pLλプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーターなど)、解読の開始のためのリボソーム結合サイト及び転写/解読終結配列を含むことが一般である。真核細胞を宿主とする場合には、ベクターに含まれる真核細胞において作動する複製原点は、f1複製原点、SV40複製原点、pMB1複製原点、アデノ複製原点、AAV複製原点、CMV複製原点及びBBV複製原点などを含むが、これに限定されるものではない。また、哺乳動物細胞のゲノムから由来したプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター)又は哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター及びHSVのtkプロモーター)が用いられてよく、転写終結配列としてポリアデニル化配列を一般に有する。
【0159】
本発明のさらに他の態様は、前記組換えベクターで形質転換された宿主細胞を提供できる。
【0160】
宿主細胞は、当業界に公知のいかなる宿主細胞も利用可能であり、原核細胞としては、例えば、E.coli JM109、E.coli BL21、E.coli RR1、E.coli LE392、E.coli B、E.coli X1776、E.coli W3110、バチルスサブチリス、バチルスチューリンゲンシスのようなバチルス属の菌株、そしてサルモネラティフィムリウム、セラチアマルセッセンス及び様々なシュードモナス種のような腸内菌と菌株などがあり、真核細胞に形質転換させる場合には、宿主細胞として、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、昆虫細胞、植物細胞及び動物細胞、例えば、SP2/0、CHO(Chinese hamster ovary)K1、CHO DG44、PER.C6、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、Huh7、3T3、RIN及びMDCK細胞株などが用いられてよい。
【0161】
本発明のさらに他の態様は、前記宿主細胞を培養する段階を含む、細胞又は組織特異的に細胞内部に浸透し、細胞質浸透後に細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたウイルス特異的エピトープが小胞体に入ってMHC-Iと結合し、ゴルジ体を通じて分泌されて標的細胞表面にウイルス特異的エピトープを発現させ、腫瘍患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞によって、ウイルス特異的エピトープを発現する標的細胞を除去する汎用治療用抗体製造方法を提供することができる。
【0162】
前記組換えベクターの宿主細胞内への挿入は、当業界に広く知られた挿入方法を用いることができる。前記運搬方法は、例えば、宿主細胞が原核細胞である場合、CaCl方法又は電気穿孔方法などを用いることができ、宿主細胞が真核細胞である場合には、微細注入法、カルシウムホスフェート沈殿法、電気穿孔法、リポソーム媒介形質感染法及び遺伝子ボンバードメントなどを用いることができるが、これに限定しない。E.coliなどの微生物を利用する場合、生産性は動物細胞などに比べて高い方であるが、糖化(glycosylation)問題のため、インタクト(intact)なIg形態の抗体生産には適当でないが、Fab及びFvのような抗原結合断片の生産には使用可能である。
【0163】
前記形質転換された宿主細胞を選別する方法は、選択標識によって発現する表現型を用いて、当業界に広く知られた方法によって容易に実施できる。例えば、前記選択標識が特定抗生剤耐性遺伝子である場合には、前記抗生剤が含まれている培地で形質転換体を培養することによって形質転換体を容易に選別できる。
【0164】
本発明は、細胞又は組織特異的な細胞質浸透能を付与した抗体(immunoglobulin)の重鎖(heavy chain)領域のC末端にウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させたウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体(viral epitope-fused cytotransmab)を用いて標的細胞表面にウイルス特異的エピトープを発現させ、患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞を用いて標的細胞を除去する汎用治療用ワクチンを提供する。
【0165】
ウイルス特異的CD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドは、Fc、抗体又は抗体断片とリンカー媒介(linker-mediated)結合、化学的結合、遺伝的融合(genetic fusion)などによって連結されてよい。
【0166】
本発明において、“重鎖定常部位”は、抗体由来のCH2ドメイン、CH3ドメイン及びヒンジ領域(hinge domain)を含む領域を意味する。ただし、IgEではCH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン及びヒンジ領域(hinge domain)を含む領域を意味する。
【0167】
重鎖定常領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)又はエプシロン(ε)のいずれか一つのアイソタイプから選択されてよい。サブクラスとしてガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)及びアルファ2(α2)を有する。軽鎖不変領域はカッパ又はラムダ型であってよい。
【0168】
“重鎖”は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVH及び3個の不変領域ドメインCH1、CH2及びCH3を含む全長重鎖及びその断片を全て意味する。また、“軽鎖”は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVL及び定常領域ドメインCLを含む全長軽鎖及びその断片を全て意味する。
【0169】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0170】
実施例1.細胞質浸透能を有するinCT99及びinCT99†ウイルスエピトープ融合抗体の構築
細胞質浸透抗体であるinCT99に、T細胞抗原エピトープに該当するペプチド及びこれを含むタンパク質切片を融合させたinCT99†ウイルスエピトープ融合抗体が、癌細胞にウイルス由来T細胞エピトープを提示してウイルス特異的細胞傷害性T細胞を活性化させることができるかを確認するために、inCT99†CMV、inCT99†HPV及びinCT99†EBV融合抗体を構築した。
【0171】
図1は、inCT99及びinCT99†ウイルスエピトープ融合抗体の模式図である。
【0172】
具体的に、本発明における“inCT99”は、以前腫瘍特異的な細胞質浸透能を付与するために、インテグリンαvβ3とαvβ5に特異性を有するin4環状ペプチドを細胞質浸透が可能なhT4-5941VL軽鎖可変領域のN末端にMGSSSNリンカーを用いて遺伝工学的に融合させた軽鎖を使用した。また、重鎖は、細胞質浸透が可能なRT22-01VH重鎖可変領域を含み、癌細胞表面のインテグリンに対する結合による抗体依存的細胞毒性(Antibody-Dependent Cell Cytotoxicity,ADCC)による癌細胞抑制活性を排除するために、重鎖CH2-CH3領域に234、235番目の残基リジン(Lysine)をアラニン(Alanine)に置換し、329番目のプロリン(Proline)をグリシン(Glycine)に置換してRT22-01(AAG)と命名した重鎖を使用した。
【0173】
本発明における“inCT99†CMV”は、サイトメガロウイルス(CMV)pp65由来CMV495-503ペプチド又はCMV495-503のN末端、C末端、又はN末端とC末端の両方が延長されたペプチドがinCT99抗体と融合したタンパク質を意味する。“inCT99†HPV”は、ヒト乳頭腫ウイルス下位類型16(HPV16)由来のHPV E11-19ペプチド又はHPV E11-19のN末端が延長されたペプチドがinCT99抗体と融合したタンパク質を意味する。“inCT99†EBV”は、エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)LMP2由来のEBV L2356-364ペプチド、EBV L2426-434(C426S)ペプチド又はEBV L2426-434(C426S)ペプチドのN末端が延長されたペプチドがinCT99抗体と融合したタンパク質を意味する。エプスタイン・バーウイルス(EBV)由来のT細胞抗原エピトープEBV L2426-434の配列は、CLGGLLTMVであるが、inCT99抗体に融合時にCys残基によるオリゴマー形成を防止するために、426番残基をSer残基に置換したEBV L2426-434(C426S)の配列であるSLGGLLTMVを使用した。
【0174】
このとき、前記ウイルス特異的CD8エピトープペプチド又はエピトープを含む長いペプチドは、inCT99重鎖のC末端にGSリンカー(†)又はGFLGリンカー(‡)を用いて融合させた。
【0175】
実施例2.細胞質浸透能のないinCT99(AAA)、セツキシマブ及びネシツムマブにウイルス由来T細胞エピトープペプチド及びこれを含むタンパク質切片を融合させた融合抗体の構築
inCT99†CMV融合抗体の抗原提示機序及びCMV pp65特異的CTLの細胞死滅誘導機序を究明するために、陰性対照群抗体としてinCT(AAA)†CMVとセツキシマブ†CMV及びネシツムマブ†CMV融合抗体をそれぞれ構築した。
【0176】
図2は、陰性対照群抗体としてinCT99(AAA)†CMVとセツキシマブ†CMV及びネシツムマブ†CMV融合抗体の模式図であり、
図2Aは、inCT99†CMV融合抗体のVL-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである92WYW9492AAA94に突然変異させ、VH-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである95WY95Aを95AAA98に突然変異させたinCT99(AAA)†CMVの模式図である。
【0177】
具体的に、本発明におけるinCT(AAA)†CMV抗体は、inCT99抗体のVL-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである92WYW9492AAA94に突然変異しており、VH-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである95WY95Aが95AAA98に突然変異している。したがって、インテグリンαvβ3とαvβ5受容体に結合して内在化(endocytosis)したinCT(AAA)†CMV抗体はエンドソームを脱出できないため細胞質浸透がされず、細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを提示することができない。
【0178】
図2Bは、セツキシマブ抗体の重鎖(heavy chain)領域のC末端にGSリンカーを介してウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させたセツキシマブ†CMVの模式図である。
【0179】
具体的に、本発明におけるセツキシマブ†CMV融合抗体は、EGFRを標的するセツキシマブにCMVを融合させた抗体であって、EGFRに結合して内在化した後にリソソームを経て分解されるため、細胞質浸透による細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを提示する機能がない。
【0180】
図2Cは、ネシツムマブ抗体の重鎖(heavy chain)領域のC末端にGSリンカーを介してウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドを融合させたネシツムマブ†CMVの模式図である。
【0181】
具体的に、本発明におけるネシツムマブ†CMV融合抗体は、EGFRを標的するネシツムマブにCMVを融合させた抗体であって、EGFRに結合して内在化した後にリソソームを経て分解されるため、細胞質浸透による細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを提示する機能がない。
【0182】
実施例3.細胞質浸透能を有するinCT99とinCT99†ウイルスエピトープ融合抗体及び細胞質浸透能のない対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV、セツキシマブ†CMV及びネシツムマブ†CMV融合抗体の発現及び精製
inCT99†ウイルスエピトープ融合抗体が癌細胞にウイルス由来T細胞エピトープを提示してウイルス特異的細胞傷害性T細胞を活性化させることができるかを確認するために、inCT99抗体及びinCT99抗体の重鎖領域のC末端にウイルス由来エピトープペプチド又はこのペプチドのN末端、C末端又はN末端とC末端の両方が延長されたペプチドが融合したinCT99†CMV及びinCT99†HPV融合抗体を構築して発現、精製させた。
【0183】
図3は、inCT99抗体とinCT99†CMV、inCT99†HPV、inCT99†EBV及びinCT99†OVA融合抗体を動物細胞(HEK293F)で発現させるためのベクターの模式図であり、
図3Aは、細胞質浸透抗体であるinCT99抗体の重鎖定常部位にウイルス抗原由来エピトープペプチドが融合したinCT99†ウイルスペプチド融合抗体の重鎖発現ベクターの模式図であり、
図3Bは、inCT99抗体及びinCT99†ウイルスペプチド融合抗体の軽鎖発現ベクターの模式図である。
【0184】
具体的に、inCT99†CMV495-503融合抗体の重鎖発現ベクターを取り上げて説明すれば、5’末端に分泌シグナルペプチドをコードするDNAが融合したRT22-01重鎖に基づいてC末端にGSリンカーを用いて遺伝工学的にCMVpタンパク質の495番~503番アミノ酸配列をコードするDNA配列と融合するように合成オリゴヌクレオチド(Macrogen,Korea)をデザインし、DNA切片をPCR手法で構築して、動物細胞発現ベクターpcDNA3.4にNotIとHindIII制限酵素でクローニングした。また、構築した前記CMV融合重鎖に基づいて、CMVpペプチドを含むタンパク質切片に該当する480番~503番アミノ酸配列を融合させるための合成オリゴヌクレオチドをデザインし、前記のようにクローニングした。
【0185】
図4は、対照群抗体であるセツキシマブ†CMVとネシツムマブ†CMV融合抗体を動物細胞(HEK293F)で発現させるためのベクターの模式図であり、
図4Aは、セツキシマブ†CMV融合抗体の重鎖発現ベクターの模式図であり、
図4Bは、セツキシマブ†CMV融合抗体の軽鎖発現ベクターの模式図である。
【0186】
具体的に、セツキシマブ†CMV480-503融合抗体の重鎖発現ベクターを取り上げて説明すれば、セツキシマブ抗体の重鎖定常領域のC末端にCMVpタンパク質由来のT細胞抗原エピトープペプチド及びこれを含むタンパク質切片を融合させたセツキシマブ†CMV480-503融合抗体を生産するための重鎖発現ベクターを構築するために、5’末端に分泌シグナルペプチドをコードするDNAが融合したセツキシマブ重鎖に基づいてC末端にGSリンカーを用いて遺伝工学的にCMVpタンパク質の480番~503番アミノ酸配列をコードするDNA配列と融合するように合成オリゴヌクレオチド(Macrogen,Korea)をデザインし、DNA切片をPCR手法で構築して動物細胞発現ベクターpcDNA3.4にNotIとHindIII制限酵素でクローニングした。また、構築した前記CMV融合重鎖に基づいて、CMVpペプチドを含むタンパク質切片に該当する480番~503番アミノ酸配列を融合させるための合成オリゴヌクレオチドをデザインし、前記のようにクローニングした。既存APECs技術の代表抗体であるセツキシマブ†MMP14-CMV495-503の構築のために、セツキシマブ重鎖のC末端にGSリンカーをGSMMP14リンカー(GSPRSAKLER)に交替したCMV融合重鎖も合成オリゴヌクレオチドをデザインして前記のように構築した。
【0187】
図4Cは、ネシツムマブ†CMV融合抗体の重鎖発現ベクターの模式図であり、
図4Dは、ネシツムマブ†CMV融合抗体の軽鎖発現ベクターの模式図である。
【0188】
具体的に、ネシツムマブ†CMV480-503融合抗体の重鎖発現ベクターを取り上げて説明すれば、ネシツムマブ抗体の重鎖定常領域のC末端にCMV pp65タンパク質由来のT細胞抗原エピトープペプチド及びこれを含むタンパク質切片を融合させたネシツムマブ†CMV480-503融合抗体を生産するための重鎖発現ベクターを構築するために、5’末端に分泌シグナルペプチドをコードするDNAが融合したネシツムマブ重鎖に基づいてC末端にGSリンカーを用いて遺伝工学的にCMVpタンパク質の480番~503番アミノ酸配列をコードするDNA配列と融合するように合成オリゴヌクレオチド(Macrogen,Korea)をデザインし、DNA切片をPCR手法で構築して動物細胞発現ベクターpcDNA3.4にNotIとHindIII制限酵素でクローニングした。また、構築した前記CMV融合重鎖に基づいて、CMVpペプチドを含むタンパク質切片に該当する480番~503番アミノ酸配列を融合させるための合成オリゴヌクレオチドをデザインし、前記のようにクローニングした。
【0189】
inCT99-ウイルスペプチド抗体及びinCT99(AAA)/セツキシマブ/ネシツムマブ-ウイルスペプチド抗体を一時的トランスフェクション(Transient transfection)を用いてタンパク質を発現及び精製し、収率を比較した。
【0190】
具体的に、振盪フラスコにおいて、無血清FreeStyle293発現培地で浮遊成長するHEK293F細胞をプラスミド及びポリエチレンイミン(Polyethylenimine,PEI)の混合物にトランスフェクションした。振盪フラスコに200mLトランスフェクション時に、HEK293F細胞を2.0×10細胞/mlの密度で培地100mlに播種し、120rpm、8 CO、37℃で培養した。抗体を生産するに適する重鎖と軽鎖プラスミドを10ml FreeStyle293発現培地に重鎖125μg、軽鎖125μgの合計250μg(2.5μg/ml)で希釈及びフィルターしてPEI750μg(7.5μg/ml)を希釈した10mlの培地と混合した後、室温で10分間反応させた。その後、反応させた混合培地を、先に100mlで播種した細胞に入れて4時間、120rpm、8 COで培養後、残り100mlのFreeStyle293発現培地を追加して6日間培養した。標準プロトコルを参照して採取した細胞培養上澄液からタンパク質を精製した。タンパク質Aセファロースカラム(Protein A Sepharose column)に抗体を適用し、PBS(pH7.4)で洗浄した。0.1Mグリシン、0.5M NaCl緩衝液を用いてpH3.0で抗体を溶離した後、1Mトリス(pH9.0)緩衝液を用いてサンプルを直ちに中和した。溶離した抗体分画は、PD-10脱塩カラム(GE healthcare)を用いて25mMヒスチジン、125mM NaCl(pH6.5)緩衝液に交換しつつ30K遠心分離フィルターチューブ(Corning)を用いて濃縮を行った。精製されたタンパク質は、BCAタンパク質アッセイキット(Thermo)内溶液を用いて562nm波長で吸光度を測定し、描かれた標準曲線に従ってその量を定量した。
【0191】
下表のように得られたinCT99†CMV、inCT99†HPV及びinCT99†EBV融合抗体及び対照群抗体の収率は、タンパク質切片の種類とその長さによって異なっている。
【0192】
【0193】
【0194】
図5は、inCT99†ウイルスペプチド融合抗体を動物細胞(HEK293F)で発現及び精製させた後、3μgのタンパク質を還元性又は非還元性条件のSDS-PAGE上で分離し、クマシ-ブルー染色を用いて大きさ及び組合せ形態で分析した結果であり、
図5Aは、inCT99†CMV融合抗体に対する結果であり、
図5Bは、inCT99†HPV融合抗体に対する結果であり、
図5C及び図5Dは、inCT99†EBV融合抗体に対する結果である。
【0195】
具体的には、上記で精製されたinCT99†CMV融合抗体とinCT99†HPV融合抗体及びinCT99†EBV融合抗体3μgを12%非還元性条件でSDS-PAGE上で分離し、クマシ-ブルー染色を用いて大きさ及び組合せ形態を分析した。
【0196】
その結果、非還元性条件で、inCT99は約150kDaの分子量が確認されたし、還元性条件で重鎖50kDaの分子量及び軽鎖25kDaの分子量を示した。SDS-PAGE分析から、発現精製された個別クローンが溶液状態で殆ど単一体として存在し、非還元性条件でinCT99及びinCT99†CMV融合抗体クローンは、インテグリン標的環状ペプチドによる少量のオリゴマーを形成することを確認した。また、融合抗体の場合、還元性条件で重鎖に融合したタンパク質のため、50kDa以上の分子量として観察された。しかし、inCT99†CMV480-506、inCT99†CMV480-507、inCT99†CMV480-508、inCT99†CMV480-509、inCT99†CMV480-511、inCT99†CMV480-512、inCT99†CMV480-513抗体の場合、一部の重鎖に融合したペプチドの切断(cleavage)が観察された。
【0197】
inCT99†HPVとinCT99†EBV融合抗体の場合、発現精製された個別クローンが溶液状態で殆どが単一体として存在することを確認した。
【0198】
実施例4.ペプチド/MHC-I複合体を検出するためのT細胞受容体様抗体の検証
本発明で使用されたinCT99†ウイルスペプチド抗体は、in4環状ペプチドがαvβ3とαvβ5を標的し、HLA-A2に結合するウイルスエピトープが融合しているため、前記抗体がウイルスエピトープを癌細胞の表面に提示するには、癌細胞は様々なMHC-I分子のうちHLA-A2を発現しなければならなく、in4環状ペプチドが標的するαvβ3とαvβ5が発現している必要がある。
【0199】
図6は、ヒト癌細胞株4種に対して週組織適合性複合体(MHC)Iの遺伝子型のうちHLA-A2と癌細胞表面抗原のうちインテグリンανβ5/ανβ3の発現を流細胞分析機で分析した実験結果である。
【0200】
具体的に、各サンプル当たり2×10個のMalme-3M、MDA-MB-231、HCT116、及びLovo細胞を準備した。細胞をFACS緩衝液(PBS緩衝液、2% FBS)に抗HLA-A2抗体(Santa cruz)又は抗インテグリンανβ5抗体又は抗インテグリンανβ3抗体を1:100に希釈して入れ、4℃で1時間反応させた。その後、各サンプルを1mlのFACS緩衝液で洗浄した後、Alexa488(緑色蛍光)が連結されたヒトFcを特異的認知する抗体を1:600に希釈して4℃条件で30分間反応させた。FACS緩衝液で洗浄後に流細胞分析機で各細胞表面のタンパク質発現量を測定した。
【0201】
その結果、前記全ての細胞はインテグリンανβ5を発現し、インテグリンανβ3はMalme-3M以外の3つの細胞株でほとんど発現しなかった。
【0202】
HLA-A2の発現は、Malme-3Mが最も高く、MDA-MB-231、HCT116の順であった。Malme-3Mは、HLA-A2の発現量が最も高かったが、成長速度が遅すぎるため、HLA-A2の発現量が相対的に高いMDA-MB-231細胞を用いて主に実験を行った。HLA-A2遺伝型でないLovoは、HLA-A2の発現が観察されなく、陰性対照群として用いられた。
【0203】
T細胞受容体様抗体(T cell receptor-like antibody)は、細胞傷害性T細胞抗原エピトープペプチドとMHC-I複合体を認知して結合できるT細胞受容体と類似の特異性を有する単一クローン抗体である。一般に、分治療用抗体が細胞表面に発現したタンパク質を標的するか、抗体を細胞内発現して細胞内タンパク質を標的する戦略を取っているため、細胞内タンパク質が標的し難い。細胞内タンパク質は、プロテアソームによって8~11個のアミノ酸からなるペプチドに分解された後に小胞体(Endoplasmic reticulum,ER)内に伝達され、MHC-I、ベータ-2-マイクログロブリン(β2-Microglobulin)と複合体をなしてゴルジ(Golgi)を通じて細胞表面に提示されるため、ペプチド-MHC-I複合体を特異的に認知できる様々なT細胞受容体様抗体が報告された。そこで、inCT99†ウイルスペプチド融合抗体を用いて、T細胞抗原エピトープペプチドを含むウイルス及び癌抗原由来タンパク質を細胞内に伝達した後、細胞表面にペプチド-MHC-I複合体形態で提示されるかを確認するための実験のために、ペプチド-MHC-I複合体を特異的に認知できる様々なT細胞受容体様抗体を構築した。
【0204】
CMVウイルス抗原由来CD8T細胞エピトープペプチドであるCMV495-503とHLA-A2の複合体を検出するTCR様(TCR-like)抗体は、H9である。しかし、H9抗体の親和度は300nMと報告されており、予備実験においてH9抗体は癌細胞においてinCT99†CMV融合抗体処理後に細胞表面に提示されるペプチド-MHC-I複合体を認知できなかった。したがって、CMV495-503ペプチド-ベータ-2-マイクログロブリン(β2-Microglobulin)-HLA-A*02:01をペプチドリンカーを介してSCT(Single chain trimer)の形態で作ったタンパク質(Schmittnaegel,Hoffmann et al.2016)を抗原として使用してH9抗体のVH及びVLのCDR配列にライブラリーを与え、親和度を向上させた。H9抗体を用いた1次親和度向上実験においてH9#1とH9#38を選定し、H9#1を用いた2次親和度向上実験においてC1-17を選定した。最終的に選ばれたC1-17を構築、精製してinCT99†CMV融合抗体処理後に、細胞表面にCMVペプチド-MHC-I複合体を提示する能力を分析するために利用した。
【0205】
HPVウイルスエピトープとHLA-A2の複合体を分析するTCR様(TCR-like)抗体としては7-1を構築、精製して使用し、EBVウイルスエピトープとHLA-A2の複合体を分析するTCR様(TCR-like)抗体としてはL2を構築、精製して使用した。
【0206】
図7は、T細胞受容体(TCR)様抗体の発現ベクターの模式図及び精製後の大きさ及び組合せ形態を分析した結果であり、
図7Aは、T細胞受容体(TCR)様抗体の発現ベクターの模式図であり、
図7Bは、H9、H9#1とH9#38抗体を動物細胞(HEK293F)で発現及び精製させた後、3μgのタンパク質を還元性又は非還元性条件のSDS-PAGE上で分離し、クマシ-ブルー染色を用いて大きさ及び組合せ形態で分析した結果であり、
図7Cは、C1-17抗体を図7Bと同じ方法で分析した結果であり、
図7Dは、7-1とL2抗体を図7Bと同じ方法で分析した結果である。
【0207】
具体的に、CMV pp65由来495-503番ペプチドとHLA-A*02:01分子の複合体であるCMV480-503/HLA-A*02:01複合体を特異的に認知する単一クローン抗体であるH9、H9#1とH9#38及びC1-17クローンのヒト重鎖可変領域(VH)とヒト軽鎖可変領域(VL)の配列は、遺伝子合成(Bioneer,Korea)によって準備した。
【0208】
HPV16のE7タンパク質由来11-19番ペプチドとHLA-A*02:01遺伝型がなす複合体であるHPV E11-19/HLA-A*02:01複合体を特異的に認知する単一クローン抗体である7-1クローン(WO2016/182957,Constructs targeting HPV16-E7 peptide/MHC complexes and uses thereof)のヒト重鎖可変領域(VH)とヒト軽鎖可変領域(VL)の配列を遺伝子合成(Bioneer,Korea)によって準備した。
【0209】
EBVのLMP2タンパク質由来426-434番(CLGGLLTMV)ペプチド又はSLGGLLTMVペプチドとHLA-A*02:01遺伝型がなす複合体を特異的に認知する単一クローン抗体であるL2クローン(WO2015/199618,Epstein-barr virus LMP2specific antibody and uses thereof)は、抗原をマウスに免疫した後、ハイブリドーマ(hybridoma)を作製して得たマウス単一クローン抗体である。L2抗体のヒト重鎖可変領域(VH)とヒト軽鎖可変領域(VL)の配列は、遺伝子合成(Bioneer,Korea)によって準備した。
【0210】
VH遺伝子を、重鎖定常領域がマウスイムノグロブリンG 2aである重鎖にPCR手法を用いてDNA切片を作製し、NotIとHindIII制限酵素を用いて動物細胞発現ベクターpcDNA3.4にNotIとHindIII制限酵素でクローニングし、VL遺伝子を、軽鎖定常領域がマウスカッパ定常領域である軽鎖に前記と同じ方法でクローニングし、キメラ(Chimeric)抗体を構築した。これは、inCT99及びinCT99融合抗体を処理した後、流細胞分析機(Flow cytometry)でペプチド-MHC-I複合体を分析する時、マウスFc領域を認知する蛍光が連結された2次抗体を使用して、inCT99抗体のヒトFc領域に結合することを防止し、T細胞受容体様抗体の結合のみを分析するためである。
【0211】
T細胞受容体(TCR)様抗体はいずれも、動物細胞(HEK293F)で発現及び精製させた。
【0212】
具体的に、振盪フラスコにおいて、無血清FreeStyle293発現培地で浮遊成長するHEK293F細胞をプラスミド及びポリエチレンイミン(Polyethylenimine,PEI)の混合物にトランスフェクションした。振盪フラスコに100mLトランスフェクション時に、HEK293F細胞を2.0×10細胞/mlの密度で培地50mlに播種し、120rpm、8 CO、37℃で培養した。抗体を生産するに適する重鎖と軽鎖プラスミドを10ml FreeStyle293発現培地に重鎖62.5μg、軽鎖62.5μgの合計125μg(2.5μg/ml)で希釈及びフィルターし、PEI 375μg(7.5μg/ml)を希釈した10mlの培地と混合した後、室温で10分間反応させた。その後、反応させた混合培地を、先に50mlに播種した細胞に入れて4時間120rpm、8 COで培養後、残り50mlのFreeStyle293発現培地を追加して6日間培養した。標準プロトコルを参照して採取した細胞培養上澄液からタンパク質を精製した。タンパク質Aセファロースカラム(Protein A Sepharose column)に抗体を適用してPBS(pH7.4)で洗浄した。0.1Mグリシン、0.5M NaCl緩衝液を用いてpH3.0で抗体を溶離した後、1Mトリス(pH9.0)緩衝液を用いてサンプルを直ちに中和した。溶離した抗体分画はPD-10脱塩カラム(GE healthcare)を用いて25mMヒスチジン125mM NaCl(pH6.5)緩衝液に交換し、30K遠心分離フィルターチューブ(Corning)を用いて濃縮を行った。精製されたタンパク質はBCAタンパク質アッセイキット(Thermo)内溶液を用いて562nm波長で吸光度を測定し、描かれた標準曲線に従ってその量を定量した。
【0213】
上記で精製されたT細胞受容体(TCR)様抗体は3μgを12%非還元性条件でSDS-PAGE上で分離し、クマシ-ブルー染色を用いて大きさ及び組合せ形態を分析した。
【0214】
その結果、非還元性条件でH9、H9#1、H9#38、C1-17、7-1とL2抗体はいずれも少量のオリゴマーを形成することを確認したが、殆どが単一体として存在することを確認した。
【0215】
図8は、HLA-A*02:01の発現程度が異なる癌細胞株を用いてT細胞受容体(TCR)様抗体のペプチド/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を流細胞分析機(flow cytometry)で分析した実験結果であり、
図8Aは、CMV495-503ペプチドをバルスした癌細胞から、H9、H9#1及びH9#38抗体のCMV495-503/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を測定した結果である。
【0216】
具体的に、HLA-A*02:01の発現程度が異なるMalme-3M(HLA-A*02:01++)、MDA-MB-231(HLA-A*02:01++)、HCT116(HLA-A*02:01+)、及びLovo(HLA-A*02:01-)、細胞を、3.0×10細胞/mlの密度で10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれたRPMI培地に準備し、CMV495-503ペプチドとHPV11-19ペプチドを含み、HLA-A*02:01と複合体を形成できる様々な合成ペプチド(Anygen,Korea)を50μMの濃度となるように入れ、5% CO、37℃で3時間反応させた。ペプチドを処理していない陰性対照群は、DMSOを入れた。3時間後に1300rpmで3分間遠心分離して、細胞に結合していないペプチドが含まれた上澄液を除去し、FACS緩衝液で洗浄後に1300rpmで3分間遠心分離して上澄液を除去した。各サンプル当たり1.5×10個の細胞となるように準備し、上記で発現及び精製して得たCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を特異的に認知する単一クローン抗体であるH9、H9#1及びH9#38抗体を100μlのFACS緩衝液にそれぞれ10nMの濃度となるように希釈して入れ、4℃で1時間反応させた。その後、各サンプルを1mlのFACS緩衝液で洗浄した後、Alexa647(赤色蛍光)が連結されたマウスFcを特異的認知するF(ab’)抗体を100μlのFACS緩衝液に1:1200に希釈し、4℃組件で30分間反応させた。1mlのFACS緩衝液で洗浄後に流細胞分析機で分析した。
【0217】
その結果、H9の1次親和度向上で得られたH9#1抗体は、5nMの濃度を処理しても、500nMのH9抗体に比してCMV495-503/HLA-A*02:01複合体をよりよく認知した。したがって、H9#1とH9#38抗体がH9抗体に比して、inCT99†CMV融合抗体が処理された癌細胞でCMV495-503/HLA-A*02:01複合体をよく認知できるかを検証しようとした。
【0218】
図8Bは、inCT99†CMV融合抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を、H9#1及びH9#38抗体を用いて分析した結果である。
【0219】
具体的に、24ウェルプレートに、MDA-MB-231細胞株を、ウェル当たり2.0×10細胞/mlの密度で10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれたRPMI培地に希釈して12時間、37℃、5% CO条件で培養した後、培地を除去し、inCT99、inCT99†CMV480-503、inCT99†HPV1-19融合抗体を4μMの濃度となるように500μlの培地に希釈し、18時間、37℃、5% CO条件で培養した。その後、培地を除去してDPBSで洗浄した後、ウェル当たり100μlのトリプシン-EDTA(Trypsin-EDTA)溶液を3分間37℃で処理して細胞をプレートから剥がした。ウェル当たり10% FBSが含まれているRPMI培地を1mlずつ入れてトリプシン-EDTAを中和させ、細胞を回収して1300rpmで3分間遠心分離し、上澄液を除去した。細胞をFACS緩衝液1mlで洗浄し、遠心分離して上澄液を除去した。ウェル当たり細胞ペレットをFACS緩衝液300μlで懸濁して6個のサンプルに分け、一つのサンプルは2次抗体単独対照群として使用した。各サンプルに、100μlのFACS緩衝液にH9#1とH9#38の濃度が50nMとなるようにし、4℃で1時間反応させた。その後、各サンプルを1mlのFACS緩衝液で洗浄した後、Alexa647(赤色蛍光)が連結されたマウスFcを特異的認知するF(ab’)抗体を、100μlのFACS緩衝液に1:600に希釈し、4℃条件で30分間反応させた。1mlのFACS緩衝液で洗浄後に流細胞分析機で分析した。
【0220】
H9抗体は、inCT99†CMV融合抗体が細胞内抗原処理過程によって提示したCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を検出できなかったが、親和度が向上したH9#1とH9#38クローンは、CMV495-503/HLA-A*02:01複合体を検出した。しかし、種々のinCT99†CMV融合抗体のCMV495-503/HLA-A*02:01複合体提示能を比較しながら測定するにはH9#1抗体のCMV495-503/HLA-A*02:01複合体検出能が低いと判断され、2次親和度向上実験を行ったし、その結果、C1-17抗体を得た。
【0221】
図8Cは、CMV495-503ペプチドをバルスした癌細胞から、C1-17抗体のCMV495-503/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を測定した結果である。
【0222】
具体的な方法は、図8Aに記述の通りであるが、inCT99†CMV融合抗体のCMV495-503/HLA-A*02:01複合体提示能を測定しようとするには、少ない量のCMV495-503ペプチドが癌細胞表面にバルスされても検出できなければならず、バルシングに使用するCMV495-503の濃度を50mMの代わりに4mMに下げて実施した。
【0223】
その結果、C1-17抗体は、癌細胞にCMV495-503ペプチドを4mM濃度のみバルスしても、H9抗体やH9#1抗体に比してCMV495-503/HLA-A*02:01複合体をよく検出した。この検出能は、癌細胞表面に発現したHLA-A2:01に特異的であるためHLA-A2:01が発現していないLovo細胞では検出能がないことが確認された。
【0224】
図8Dは、HPV11-19ペプチドをバルスした癌細胞から、7-1抗体のHPV11-19/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を測定した結果であり、
図8Eは、EBVL2426-434(C426S)ペプチドをバルスした癌細胞から、L2抗体のEBVL2426-434(C426S)/HLA-A*02:01複合体に対する結合能を測定した結果である。
【0225】
具体的な方法は、図8Aに記述の通りであるが、7-1とL2抗体のペプチド/HLA-A*02:01に対する特異性は既に文献に報告されたことがあるので、HLA-A*02:01の発現が相対的に高いMDA-MB-231細胞のみを使用したし、7-1抗体の検出能を評価するためにはHPV11-19ペプチドをバルスし、L2抗体の検出能を評価するためにはEBVL2426-434(C426S)ペプチドを使用した。
【0226】
その結果、7-1抗体とL2抗体はそれぞれ、HPV11-19/HLA-A*02:01複合体とEBVL2426-434(C426S)/HLA-A*02:01複合体を特異的に検出することを確認した。
【0227】
実施例5.HLA-A*02:01遺伝型を有する癌細胞株においてinCT99†CMV融合抗体及び対照群抗体のCMVP495-503エピトープ提示能評価
構築されたinCT99†CMV融合抗体が、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合するのか又は細胞内抗原処理過程によってCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を癌細胞表面に提示するのかを評価するために、構築された抗体を癌細胞に添加し、それぞれ4℃と37℃で反応させた後、CMV495-503/HLA-A*02:01複合体をC1-17抗体を用いて検出した
図9は、様々なinCT99†CMV融合抗体の細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能及び細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を流細胞分析機で分析した結果であり、
図9Aは、4℃でinCT99†CMV融合抗体の細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能を分析するための計画表であり、
図9Bは、37℃でinCT99†CMV融合抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を分析するための計画表であり、
図9Cは、様々なinCT99†CMV融合抗体を図7A及び図7Bの方法で処理した後、流細胞分析機で分析した結果である。
【0228】
具体的に、図9Aは、inCT99†CMV融合抗体が、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合するかを測定するための方法であり、MDA-MB-231細胞を、3.0×10細胞/mlの密度で10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に準備し、inCT99†CMV融合抗体を4μMの濃度となるように入れ、5% CO、37℃で3時間反応させた。この時、陽性対照群は、CMV495-503ペプチドを4μM処理し、陰性対照群は、抗体を溶かしたヒスチジン緩衝液を入れた。3時間後に1300rpmで3分間遠心分離し、細胞に結合していない抗体及びペプチドが含まれている上澄液を除去し、FACS緩衝液で洗浄後に1300rpmで3分間遠心分離し、上澄液を除去した。各サンプル当たり1.5×10個の細胞となるように準備し、上記で発現及び精製して得たCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を特異的に認知する単一クローン抗体であるC1-17クローンを100μlのFACS緩衝液に4nMの濃度となるように希釈して入れ、4℃で1時間反応させた。その後、各サンプルを1mlのFACS緩衝液で洗浄した後、Alexa647(赤色蛍光)が連結されたマウスFcを特異的認知するF(ab’)抗体を100μlのFACS緩衝液に1:1200に希釈し、4℃条件で30分間反応させた。1mlのFACS緩衝液で洗浄後に、流細胞分析機及びflow joで分析した。
【0229】
図9Aの方法で実験した結果、CMV495-503T細胞エピトープペプチドのN末端のみが延長された融合抗体であるinCT99†CMV480-503抗体は、陽性対照群であるCMV495-503ペプチドを処理した群と類似に、細胞表面のHLA-A*02:01に直接結合することが確認できた。しかし、CMV495-503T細胞エピトープペプチドを融合させたinCT99†CMV495-503抗体とCMV495-503T細胞エピトープペプチドのC末端が延長されたペプチドを融合させたinCT99†CMV P495-508抗体及びペプチドのN末端とC末端が両方とも延長されたペプチド(490-508、480-504、480-505、480-506、480-507、480-508、480-509、480-511、480-512、480-513、480-516、480-519)が融合抗体の場合にも、細胞表面のHLA-A*02:01に対する結合能が無いことが確認できた。
【0230】
具体的に、図9Bは、inCT99†CMV融合抗体が細胞内抗原処理過程によってCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を癌細胞表面に提示するかを評価するための方法であり、MDA-MB-231細胞を1.5×10細胞/mlの密度で10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に準備し、24ウェルプレートに12時間付着させた後、inCT99†CMV融合抗体を4μMの濃度となるように入れ、5% CO、37℃で18時間反応させた。この時、陽性対照群は、CMV495-503ペプチドを4μM処理し、陰性対照群は、抗体を溶かしたヒスチジン緩衝液を入れた。18時間後に、抗体が処理された培地を回収し、1ml DPBSで洗浄した後、イエローチップ(yellow tip)で掻いて、底についたMDA-MB-231細胞を回収し、1ml DPBSに懸濁させた後、1300rpmで3分間遠心分離した。細胞に結合していない抗体及びペプチドが含まれている上澄液を除去し、FACS緩衝液で洗浄後に1300rpmで3分間遠心分離し、上澄液を除去した。各サンプル当たり1.5×10個の細胞となるように準備し、上記で発現及び精製して得たCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を特異的に認知する単一クローン抗体であるC1-17クローンを、100μlのFACS緩衝液に4nMの濃度となるように希釈して入れ、4℃で1時間反応させた。その後、各サンプルを1mlのFACS緩衝液で洗浄した後、Alexa647(赤色蛍光)が連結されたマウスFcを特異的認知するF(ab’)抗体を100μlのFACS緩衝液に1:1200に希釈し、4℃条件で30分間反応させた。1mlのFACS緩衝液で洗浄後に、流細胞分析機及びflow joで分析した。
【0231】
その結果、陰性対照群抗体であるinCT99抗体は、MDA-MB-231細胞の表面にCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を提示できなかった。しかし、CMV495-503T細胞エピトープペプチドのN末端のみ延長された融合抗体であるinCT99†CMV480-503抗体とCMV495-503T細胞エピトープペプチドのN末端とC末端が両方とも延長されたペプチドが融合した抗体のうちinCT99†CMV480-510、inCT99†CMV480-511、inCT99†CMV480-516、inCT99†CMV480-519抗体は、細胞質浸透後に細胞内抗原処理過程によって生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが細胞表面に提示され、MDA-MB-231細胞の表面にCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を提示することが分かった。
【0232】
CMV495-503T細胞エピトープペプチドのN末端のみ延長された融合抗体であるinCT99†CMV480-503抗体は、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合するか、細胞質浸透後に細胞内抗原処理過程によって生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが細胞表面に提示されることもあった。inCT99†CMV480-503抗体の癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に対する結合能がCMV480-503ペプチドの癌細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能のためであるかを評価するために、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503及びセツキシマブ†CMV480-503抗体の、4℃で細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能と37゜C細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を評価した。
【0233】
図9Dは、inCT99†CMV480-503融合抗体と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503及びセツキシマブ†CMV480-503抗体を、上述した図9A及び図9Bの方法で処理した後、流細胞分析機で分析した結果である。
【0234】
図9Aの方法でinCT99†CMV480-503融合抗体、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体及びCMV480-503ペプチドの、4℃で癌細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能を測定した結果、CMV495-503T細胞エピトープペプチドのN末端のみ延長されたCMV480-503ペプチドは、9mer T細胞エピトープペプチドであるCMV495-503ペプチドに比して高い癌細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能を示した。また、CMV480-503ペプチドが融合したinCT99†CMV480-503融合抗体、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体はいずれも、4℃で癌細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能を示した。したがって、inCT99†CMV480-503抗体の癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に対する結合能は、CMV480-503ペプチドの癌細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能のためであると解釈される。
【0235】
図9Bの方法でinCT99†CMV480-503融合抗体、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体の37℃で細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を評価した結果、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体は、37℃で18時間MDA-MB-231癌細胞に処理する間に内在化(endocytosis)した後に分解(degradation)され、4℃で反応した時に比べて低いレベルのCMV495-503/HLA-A*02:01複合体が癌細胞表面から検出された。しかし、inCT99†CMV480-503融合抗体は、37℃で18時間MDA-MB-231癌細胞に処理する間に内在化した後に細胞内抗原処理過程によってCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を癌細胞表面に提示し、4℃でinCT99†CMV480-503融合抗体を処理した群又は37℃で陽性対照群であるCMV495-503ペプチドを処理した群と類似な程度のCMV495-503/HLA-A*02:01複合体が検出できた。したがって、inCT99†CMV480-503融合抗体は、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合することもあるが、殆どが、融合抗体の細胞質浸透後に、細胞内抗原処理過程に生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが細胞表面に提示されることを確認した。
【0236】
inCT99†CMV融合抗体が癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合しなく、内在化した後に細胞内抗原処理過程によってCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を癌細胞表面に提示することを立証するために、4℃で癌細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能のない抗体であるinCT99†CMV480-510とinCT99†CMV480-516融合抗体に対する陰性対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-510、セツキシマブ†CMV480-510、inCT99(AAA)†CMV480-516、ネシツムマブ†CMV480-516抗体を用いて、37℃で細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を評価した。
【0237】
図9Eは、上述した図9Bの方法でinCT99†CMV480-510融合抗体、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-510とセツキシマブ†CMV480-510抗体の37℃で細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を評価した結果であり、
図9Fは、上述した図9Bの方法でinCT99†CMV480-516融合抗体、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-516とセツキシマブ†CMV480-516抗体の37℃で細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を評価した結果である。
【0238】
その結果、37℃で18時間MDA-MB-231癌細胞に処理する間に内在化(endocytosis)した後に分解(degradation)なる対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-510、セツキシマブ†CMV480-510、inCT99(AAA)†CMV480-516、セツキシマブ†CMV480-516抗体はいずれも、T細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力がなかった。これに対し、inCT99†CMV480-510とinCT99†CMV480-516融合抗体は、37℃で18時間MDA-MB-231癌細胞に処理する間にいずれも内在化した後、細胞内抗原処理過程によってCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を癌細胞表面に提示した。
【0239】
したがって、inCT99†CMV融合抗体は、融合するT細胞抗原エピトープペプチドの種類によって、癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合することもあるが、癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合する能力のないT細胞抗原エピトープペプチドを融合させたinCT99†CMV融合抗体は、内在化した後、細胞内抗原処理過程によってCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を癌細胞表面に提示することを確認した。
【0240】
実施例6.HLA-A*02遺伝子型である血液供与者のPBMCのCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の比率及び表現型の分析
本発明における“CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞”は、CMVpタンパク質由来の495-503番ペプチド-HLA-A*02:01複合体を特異的に認知するT細胞受容体を発現させる細胞傷害性T細胞を意味する。HLA-A*02:01遺伝型であるCMV感染経験がおる人の末梢血液単核細胞中には、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞が記憶T細胞の形態で人ごとに異なる割合で存在していると知られている。記憶T細胞は、表現型マーカーCD45ROを発現し、CD62リガンドの発現によって中心記憶T細胞(Central memory T cell,CD45ROCD62LCD8)及び効果器記憶T細胞(Effector memory T cell,CD45ROCD62LCD8)に分類できる。CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞は、たいてい、効果器記憶T細胞に及び最終分化した効果器記憶T細胞(TEMRA)に分化しているため、2次的抗原露出時に速くグランザイムB、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)などのような効果器物質(Effector molecule)を生産することができる。また、共同刺激分子(Co-stimulatory molecules)であるCD27及びCD28は、CD27CD28である“初期(early)”表現型から、抗原刺激を受けてCD28とCD27の発現を順次に失いながら分化(活性化)が始まり、中間(intermediate)、後期(late)段階へと進行する。またねCD28及びCD27発現の喪失と同時に、溶解の(lytic)サイトカイン(パーフォリン、グランザイムB)の発現が高まる効果器表現型を有する。また、抗原の持続的な刺激の結果として疲弊(exhaustion)マーカーのうちPD-1の発現が誘導され得るが、これは、ウイルス感染細胞及び癌細胞表面で発現するPD-L1分子と結合によって抗原特異的な細胞の活性化を抑制する。また、恒常的増殖(Homeostatic proliferation)マーカーであるCD127の発現によって抗原刺激無しにも持続の分裂能を有するかどうかが分かる。したがって、健康な血液供与者から得たPBMCに含まれたCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の比率及び表現型を実際に確認しようとした。
【0241】
図10は、健康な血液供与者から採血した血液から分離した末梢血液単核細胞(PBMC)を、抗HLA-A2抗体を用いて染色してHLA-A下位遺伝子型であるHLA-A2の発現、CMV495-503ペプチド刺激前後のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の比率及び表現型を分析した結果であり、
図10Aは、末梢血液単核細胞(PBMC)のHLA-A下位遺伝子型であるHLA-A2の発現を流細胞分析機で分析した結果である。
【0242】
具体的に、人体由来物研究同意書に署名した健康な血液供与者から血液を30mlずつ採血し、血清(serum)を分離するために1500rpmで5分間遠心分離した。上層部の血清は、血球が混ざらないように別に取って-20℃に保管しておいた。PBMCを分離するために、50ml試験管にFicoll(GE Healthcare)15mlを満たした。血清を除去した血液は、PBS(pH7.4)と1:1に混ぜて振った後、30mlのみを取って丁寧に、Ficollが入っている試験管にFicollと混ざらないように流し入れ、常温、750xg条件で20分間、中断のない(no break)状態で遠心分離した。その後、Ficoll上に形成されたバッフィーコート(白血球層)を回収し、PBS(pH7.4)で2回洗浄した後、T細胞、B細胞、NK細胞及び単球を含むPBMCを得た。90% FBS、10% DMSO凍結溶液を用いてPBMCをバイアル当たりに5.0×10~1.0×10個に凍結コンテナに入れて凍結させた後、超低温凍結(-196℃液体窒素)させて保管した。PBMCをサンプル当たりに2.0×10個準備し、PEが結合した抗HLA-A2抗体又はPEが結合した抗マウスIgG2bを100μlのFACS緩衝液に1:100に希釈し、4℃条件で30分間反応させた。その後、1mlのFACS緩衝液で洗浄後に流細胞分析機で分析した結果、60人支援者の33人である55%が抗HLA-A2抗体で染色され、HLA-A*02遺伝子型を有することを確認した。
【0243】
図10Bは、HLA-A2遺伝子型を有する健康な血液供与者のPBMCを、T細胞抗原エピトープであるCMV495-503ペプチドで刺激して10~14日間増幅させた後、リンパ球又はCD8T細胞中の、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の比率を流細胞分析機で分析した結果であり、
図10Cは、図10Bで増幅させたCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞のT細胞の分化段階及び抗原の表現型を流細胞分析機で分析した結果である。
【0244】
具体的に、PBMCをT細胞抗原エピトープであるCMV495-503ペプチドで刺激するために、超低温凍結保存されていた供与者のPBMCを37℃水槽で迅速に溶かした後、10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に入れ、1500rpmで3分間遠心分離した後、上澄液を除去し、PBMCを、2%ヒトAB血清(Sigma,USA)が含まれているX-VIVO15培地(Lonza、スイス)で洗浄した後、遠心分離して上澄液を除去した。PBMCを2×10cells/mlとなるように2%ヒト血清が添加されたX vivo培地にCMV495-503ペプチド(5μg/ml)濃度でバルス(pulsing)させて14ml U底チューブ(SPL)で5% CO、37℃条件で培養した。3日後にU底チューブを1500rpmで3分間遠心分離した後、上澄液を除去し、組換えヒトインターロイキン-2(200IU/ml,Peprotech,USA)と%ヒト血清が添加されたX vivo培地を入れて懸濁させた後、24ウェルプレートに2×10cells/2ml/wellとなるようにシード(seeding)した。培養期間6日目から2日に1回ずつIL15/IL15Rα(0.5nM)、IL-2(200IU/ml)と2%ヒト血清が添加されたX vivo培地に交替した。この時、細胞の密度は2.0×10個/ウェルと保ちながら再懸濁してウェルを増やしつつ増幅させた。10~14日目になった時、増幅させた細胞のCMVpp65特異的な細胞傷害性T細胞の比率及び表現型を確認するために、下記の方法でFACS染色を行った。
【0245】
各サンプル当たり5.0~7.0×10個/50μlとなるように準備し、PEが結合したCMV/HLA-A*02:01ペンタマー(Proimmune,UK)を5μl入れ、常温で20分間反応させた。その後、1mlのFACS緩衝液で洗浄後に、1500rpmで3分間遠心分離して上澄液を除去した。サンプル当たりに100μlのFACS緩衝液を入れ、共同刺激分子を染色するために、ヒトCD28を認知するFITCが結合した抗体(e-Bioscience)、ヒトCD27を認知するAPCが結合した抗体(e-Bioscience)及びヒトCD8を認知するPerCP-eFluor710が結合した抗体(e-Bioscience)を使用した。各抗体は、5μlずつ入れて混ぜ、4℃条件で30分間反応させた。その後、1mlのFACS緩衝液で洗浄後に1500rpmで3分間遠心分離し、上澄液を除去した。細胞に200μlの固定溶液(4%パラホルムアルデヒド、PBS緩衝液)を入れてよく混ぜた後、4℃条件で30分間固定させた。その後、2mlのFACS緩衝液で洗浄後に1500rpmで3分間遠心分離し、上澄液を除去した。
【0246】
流細胞分析機で分析した結果、T細胞抗原エピトープであるCMV495-503ペプチドで刺激しなかったPBMC中のCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞(CD8CMV/HLA-A*02:01 pentamer)の比率は、0.04~1.01%であり、細胞傷害性T細胞中の、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の比率は、0.14~5.34%であった。PBMCをT細胞抗原エピトープであるCMV495-503ペプチドで刺激した後、PBMC中のCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞(CD8CMV/HLA-A*02:01ペンタマー+)の比率は1.0~25.6%と増加し、細胞傷害性T細胞中の、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の比率は3.48~90.8%と増加した。
【0247】
CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の細胞表現型を分析した結果、T細胞抗原エピトープであるCMV495-503ペプチドで刺激しなかったCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の記憶細胞表現型は、効果器記憶T細胞(TEM)又は最終分化(terminally differentiated)効果器記憶T細胞(TEMRA)であったが、CMV495-503ペプチドで10~14日間刺激され後には直ちに活性化され、細胞毒性効果を示すTEMRAに分化したことを確認した。リンパ節にホーミングを誘導するCCR7の発現は低く、腫瘍や炎症組織へのホーミングを誘導するCXCR3の発現が高かった。特徴的なことは、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞をCMV495-503ペプチドで10~14日間刺激した後には“疲弊した(exhausted)”表現型のマーカーであるPD-1の発現が減少していることを確認した。したがって、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞は、T細胞抗原エピトープであるCMV495-503ペプチドで刺激する場合、直ちに活性化されて細胞毒性効果を示すTEMRAに分化して腫瘍組織にホーミングできるので、腫瘍細胞においてinCT99†CMV抗体を用いてCMV T細胞抗原エピトープを提示する場合、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞が腫瘍にホーミングして直ちに腫瘍細胞を死滅させることができることが分かる。
【0248】
実施例7.CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞を用いたinCT99†CMV融合抗体が処理された癌細胞株の細胞死滅誘導能評価
腫瘍細胞においてinCT99†CMV抗体を用いてCMV T細胞抗原エピトープを提示する場合、上記の図10で増幅させたCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞によって腫瘍細胞が死滅するかを評価するために、様々なinCT99†CMV融合抗体を処理したMDA-MB231乳癌細胞のCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞の死滅効果を、LDH(lactate dehydrogenase)アッセイで分析した。LDHは細胞内に存在する酵素であって、細胞死滅後培養液で遊離される。
【0249】
図11は、様々なinCT99†CMV融合抗体を処理した癌細胞のCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による死滅効果を、LDH(lactate dehydrogenase)アッセイで分析した結果であり、
図11Aは、LDHアッセイのための抗体及びCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の投与方法を示す計画表であり、
図11Bは、LDHアッセイの結果を分析したグラフである。
【0250】
具体的に、MDA-MB-231細胞(0.5×10細胞/100ml)を、10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に懸濁させ、96ウェルプレートで12時間付着させた後、inCT99†CMV融合抗体を0.2~1μMの濃度となるように入れ、5% CO、37℃で培養した。12時間後に培養上澄液を除去した後、実施例6でCMV495-503ペプチドでCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞を増幅させたPBMC(2.5×10細胞/200ml)を、効果器細胞:標的細胞の比率が5:1となるように、2% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に懸濁させて添加した。17時間後に、細胞の最大LDH放出制御(release control)を100%溶解(lysis)基準値と決めるために、標的細胞のみあるウェルにトリトンX-100が0.1%となるように入れた。CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞を入れて18時間後に、各ウェルの細胞培養液に存在するLDH(Lactate Dehydrogenase)の量で細胞死滅程度を定量するために、50μlの細胞培養液を96ウェル平底プレートに移し、ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(Iodonitro-tetrazolium violet)基質をウェル当たり50μlずつ入れ、37℃条件で30分間反応させた。発色が十分にされると、停止溶液をウェル当たり50μlずつ入れて反応を中止させ、マイクロプレートリーダを用いて490nmでの吸光度を測定した。最大LDH放出制御(release control)を100%細胞溶解として計算した値でグラフを示した。
【0251】
その結果、MDA-MB-231細胞の表面にCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を提示する能力が高かったinCT99†CMV480-503、inCT99†CMV480-510、inCT99†CMV480-511、inCT99†CMV480-516、inCT99†CMV480-519抗体が、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞によるMDA-MB-231細胞の癌細胞死滅誘導効果が高かったし、中でもinCT99†CMV480-503とinCT99†CMV480-516抗体が高いMDA-MB-231細胞の癌細胞死滅効果を誘導した。
【0252】
実施例8.細胞質浸透能のないinCT99(AAA)†CMV、セツキシマブ†CMV及びネシツムマブ†CMV抗体を用いたinCT99†CMV抗体の作用機序研究
inCT99†CMV抗体が細胞質浸透後に細胞内抗原処理過程によってウイルス特異的T細胞抗原エピトープを癌細胞表面に提示し、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞によって癌細胞の死滅を誘導することを証明するために、内在化(endocytosis)した後に分解(degradation)される対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMVとセツキシマブ†CMV又はネシツムマブ†CMV抗体と共にLDHアッセイを行った。
【0253】
図12は、inCT99†CMV抗体及び対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMVとセツキシマブ†CMV及びネシツムマブ†CMV抗体を癌細胞に処理した後、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDH(lactate dehydrogenase)アッセイで分析した結果であり、
図12Aは、inCT99†CMV480-503抗体と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体を図11Aと同じ方法で処理後に、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した結果である。
【0254】
具体的に、CMV495-503T細胞エピトープペプチドのN末端のみ延長された融合抗体であるinCT99†CMV480-503と内在化(endocytosis)した後に分解(degradation)される対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体を前記実施例7の図11Aと同じ方法で処理後に、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した。
【0255】
その結果、inCT99†CMV480-503の他、内在化(endocytosis)した後に分解(degradation)される対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体も、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導した。この実験において、CMV480-503ペプチドも、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導したので、CMV495-503ペプチドの他、CMV480-503ペプチドも癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合してCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導することが分かる。したがって、inCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体のCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導する効果は、inCT99(AAA)とセツキシマブの重鎖末端に融合したCMV480-503ペプチドが癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合してCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導したためと解釈される。
【0256】
対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体は、癌細胞に対する処理時間が長くなるほど内在化による分解が増加するため、培養液内に存在する抗体量の減少によって癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合した抗体の量が減少し、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果が減少することがある。この仮設を証明するために、前記抗体を24時間処理した後、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅誘導能をLDHアッセイで分析した。
【0257】
図12Bは、前記抗体を24時間処理した後、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅誘導能をLDHアッセイで分析するための計画表であり、
図12Cは、図12Bの方法でLDHアッセイを行った後、その結果を分析したグラフである。
【0258】
その結果、inCT99†CMV480-503抗体は、100nMの低い濃度でもCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を40%程度誘導したが、inCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体は、1mMの高い濃度でもCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅誘導を20%程度しか誘導しなかった。したがって、inCT99†CMV480-503融合抗体は、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合することもあるが、殆どが、融合抗体の細胞質浸透後に生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが細胞表面に提示され、CTLによる癌細胞死滅を誘導することが確認された。
【0259】
N末端とC末端が延長されたペプチドが融合したinCT99†CMV抗体のうち、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞によるMDA-MB-231細胞の癌細胞死滅誘導効果が高かったinCT99†CMV480-510とinCT99†CMV480-516抗体が内在化した後、細胞内抗原処理過程によってCMV495-503/HLA-A*02:01複合体を癌細胞表面に提示し、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞によるMDA-MB-231細胞の癌細胞死滅を誘導したことを立証するために、内在化(endocytosis)した後に分解(degradation)される対照群抗体と共にLDHアッセイを行った。
【0260】
図12Dは、inCT99†CMV480-510と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-510とセツキシマブ†CMV480-510抗体を図11Aと同じ方法で処理後に、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した結果である。
【0261】
その結果、inCT99†CMV480-510抗体は、濃度依存的なCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導したが、inCT99(AAA)†CMV480-510とセツキシマブ†CMV480-510抗体は、5%未満のCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導した。対照群抗体のこのような効果は、抗体が内在化(endocytosis)した後に細胞質に位置できず、リソソームを経由して分解(degradation)されたためと解釈される。また、CMV495-503T細胞エピトープペプチドのN末端及びC末端が延長されているたため、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合しないinCT99†CMV480-510融合抗体は、細胞質浸透後に生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが細胞表面に提示され、CTLによる癌細胞死滅を誘導することが確認された。
【0262】
図12Eは、inCT99†CMV480-516と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-516とネシツムマブ†CMV480-516抗体及びセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体を図11Aと同じ方法で処理後に、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した結果である。
【0263】
その結果、inCT99†CMV480-516抗体は、inCT99(AAA)†CMV480-510抗体のような傾向で濃度依存的なCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導したが、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-516とネシツムマブ†CMV480-516抗体は、100nMの濃度でも5%未満のCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導した。これに対し、既存APECs技術で使用した抗体であるセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体は、inCT99†CMV480-516抗体に比べて高いCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導した。これは、試験管内でMDA-MB-231癌細胞によって分泌されたMMP14酵素がセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体のCMV495-503ペプチドの前部を切ってCMV495-503ペプチドを流離させ、T細胞エピトープペプチドがMDA-MB-231癌細胞の表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合することで、前記の効果を示したものと見なされる。
【0264】
前記結果をまとめると、inCT99†CMV融合抗体は、細胞質浸透後に生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが癌細胞表面に提示され、CD8細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導することが確認された。
【0265】
実施例9.細胞レベルで先導inCT99†CMV融合抗体の作用機序究明
inCT99†CMV融合抗体の抗原提示に対する予想作用機序は、癌細胞表面に発現したインテグリンに結合して内在化(endocytosis)した後にエンドソーム脱出(endosome escape)能力によって細胞質に位置し、細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたCMVpエピトープが小胞体に入ってHLA-A*02と複合体を形成し、ゴルジ体を通じて分泌されて癌細胞表面にT細胞抗原エピトープであるCMV495-503ペプチドを提示するものである。
【0266】
inCT99†CMV融合抗体の作用機序が前記予想機序によるものであることを究明するために、プロテアソーム阻害剤(proteasome inhibitor)であるMG132とゴルジ阻害剤であるコダゾール(nocodazole)を細胞に処理した後、inCT99†CMV融合抗体を処理し、CMV pp65特異的CTLの活性化程度を、IFN-g分泌量をELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)で測定して定量した。この実験において、MG132とコダゾールの処理によって20%程度の癌細胞死滅が存在したため、癌細胞死滅誘導能は測定しなかった。
【0267】
図13は、癌細胞にプロテアソーム阻害剤とゴルジ阻害剤を細胞に処理した後、inCT99†CMV融合抗体を処理し、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-g分泌量をELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)で定量した結果であり、
図13Aは、前記分析のための計画表であり、
図13Bは、分析に用いられたCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の純度を流細胞分析機で分析した結果であり、
図13Cは、プロテアソーム阻害剤とゴルジ阻害剤がinCT99†CMV480-503と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503及びセツキシマブ†CMV480-503抗体によるCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-g分泌に及ぼす影響を、ELISAで定量した結果である。
【0268】
具体的に、MDA-MB-231細胞(0.5×10細胞/100ml)を、10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に懸濁させ、96ウェルプレートで11時間付着させた後、プロテアソーム阻害剤(proteasome inhibitor)であるMG132(20mM)とゴルジ阻害剤であるコダゾール(6.6mM)を入れ、1時間5% COを含有した37℃培養器で培養した。1時間後、阻害剤が含まれている培地を回収し、新しい培地を入れて洗浄した後に、inCT99†CMV融合抗体を1μMの濃度となるように入れ、5% CO、37℃で培養した。12時間後、培養上澄液を除去した後、実施例6でCMV495-503ペプチドでCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞を増幅させたPBMC(2.5×10細胞/200ml)を、効果器細胞:標的細胞比率が5:1となるように、2% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に懸濁させて添加した。24時間後に、培養液内のIFN-γ濃度を測定するために、100μlの細胞培養液を回収した。
【0269】
培養液内のIFN-γ濃度を測定するために、ELISA用96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific)にヒトIFN-γ捕獲抗体を12時間コートした後、PBST(0.1% Tween-20含有PBS)で洗浄後に、1% BSA(1%ウシ血清アルブミン含有PBS)を入れ、1時間、室温で遮断(blocking)した。PBST(0.1% Tween-20含有PBS)で洗浄後、血清を1% BSAで10倍希釈し、室温で2時間反応させた。PBST(0.1% Tween-20含有PBS)で洗浄後、ビオチンが結合したヒトIFN-γ検出抗体(Thermo Fisher Scientific)を室温で1時間結合させた。PBST(0.1% Tween-20含有PBS)で洗浄後、アビジンが結合したHRP(Thermo Fisher Scientific)を室温で30分間結合させた後、PBST(0.1% Tween-20含有PBS)で洗浄後、TMB(Sigma-Aldrich Korea)基質を入れ、マイクロプレートリーダを用いて450nmでの吸光度を測定した。
【0270】
その結果、MG132又はコダゾール処理したMDA-MB231細胞に、陰性対照群抗体であるinCT(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503を処理した時には、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-γ分泌量に変化がなかった。inCT99†CMV480-503融合抗体を処理した細胞のCMV pp65特異的CTLのIFN-γ分泌誘導能は、MG132よりはコダゾール処理によって大きく減少した。これは、細胞内で形成されたCMV495-503/HLA-A*02:01と複合体がゴルジ体を通じて分泌され、癌細胞表面にCMV495-503抗原が提示されることを立証するものである。N末端のみ延長されたCMV495-503T細胞エピトープペプチドは、プロテアソームで分解されなくても小胞体でプロセシング(processing)が可能なため、N末端のみ延長されたCMVpT細胞エピトープペプチドが融合したinCT99†CMV480-503融合抗体は、プロテアソームではなく小胞体でプロセシングされた後、CMV495-503/HLA-A*02:01と複合体がゴルジ体を通じて分泌され、癌細胞表面にCMV特異的な抗原が提示されるものと見なされる。
【0271】
図13Dは、前記阻害をinCT99†CMV480-516、inCT99(AAA)†CMV480-516及びネシツムマブ†CMV480-516抗体によるCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-g分泌に及ぼす影響をELISAで定量した結果である。
【0272】
具体的に、阻害剤と抗体の処理方法は、上記の図13Aに記述した通りである。
【0273】
その結果、陰性対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-516とネシツムマブ†CMV480-516は、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-g分泌誘導能がなく、MG132又はコダゾール処理した時も同じ傾向を示した。したがって、それらの対照群抗体は、細胞質浸透後に細胞内プロセシングによるウイルス特異的T細胞抗原生成機能がないことが確認できた。
【0274】
これに対し、inCT99†CMV480-516融合抗体のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-g分泌誘導能は、MG132とコダゾール処理によって大きく減少した。これは、細胞質内に位置したinCT99†CMV480-516融合抗体がプロテアソームによって分解され、CMV495-503/HLA-A*02:01複合体がゴルジ体を通じて分泌されてCMV495-503抗原を提示することを示している。
【0275】
実施例10.inCT99†CMV480-503融合抗体の生体内でMDA-MB-231腫瘍成長抑制能評価
前記実施例8でCMV T細胞エピトープであるCMV495-503ペプチドのN末端を延長したCMV480-503ペプチドも癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合し、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導することを証明した。その結果、inCT99†CMV480-503の他、内在化(endocytosis)した後に分解(degradation)される対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体も、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導した。生体内腫瘍においてもそれらの対照群抗体が癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合してCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による腫瘍形成抑制を誘導できるのか又はinCT99†CMV480-503抗体と共に細胞質浸透後に生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが細胞表面に提示されてこそCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による腫瘍形成抑制効果があるのかを評価するために、HLA-A*02:01発現があるMDA-MB231ヒト乳癌細胞株をマウスの乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に移植したモデルを構築し、前記抗体の腫瘍形成抑制効果を評価した。
【0276】
図14は、ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB231細胞を乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に異種移植したNSGマウスにおいてinCT99†CMV480-503融合抗体のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞による癌細胞成長抑制誘導効果を測定した結果であり、
図14Aは、前記実験に対して腫瘍移植後の抗体とIL-15受容体の複合体分子の投与間隔、投与量、投与方法及びCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の投与間隔と方法を示す計画表であり、
図14Bは、上記の図14Aの実験において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を示すグラフであり、
図14Cは、図14Aの実験において抗体最終投与48時間後にマウスを致死して腫瘍の重さを特定したグラフであり、
図14Dは、図14Aの実験において抗体最終投与48時間後にマウスを致死し腫瘍を摘出した後に取った写真であり、
図14Eは、図14Aの実験結果において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を1個体のマウスごとに示すグラフである。
【0277】
具体的に、MDA-MB231ヒト乳癌細胞株(5×10細胞)をDPBS75mlに懸濁した後、マトリゲル(Sigma-Aldrich)75mlと混合してNSGマウスの乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に移植した後、腫瘍の体積が100~120mm(約27日後)になった時、マウスを無作為配分(randomization)した後、上述した抗体を20mg/kg容量で3日に1回ずつ、腹腔注射(intraperitoneal injection)した。腫瘍細胞移植後27日、33日及び39日目に、融合抗体を投与して6時間後にヒト由来CMV pp65特異的なCD8細胞傷害性T細胞(CTLs,1×10/200ml/マウス)を静脈注射(intravenous injection)した。NSGマウス内でCMV pp65特異的なCD8細胞傷害性T細胞の増幅のために腫瘍を投与した日から、3日に1回ずつインターロイキン-15(IL-15)とIL-15受容体の複合体(15mg/200ml)を腹腔注射(intraperitoneal injection)した。
【0278】
inCT99†CMV480-503抗体の生体内腫瘍形成抑制効果を測定するために、陰性対照群抗体であるinCT(AAA)†CMV480-503、セツキシマブ†CMV480-503及びinCT99抗体と共に前記実験で比較した。その結果、CMV480-503ペプチドが、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01にローデングされ、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞によるMDA-MB231癌細胞死滅を誘導した陰性対照群抗体であるinCT(AAA)†CMV480-503、セツキシマブ†CMV480-503抗体は、NSGマウス生体内でMDA-MB231腫瘍成長を抑制する効果がなかった。この結果は、腫瘍内に存在する抗体の量では、CMV480-503ペプチドが、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01にローデングし難いためと解釈される。
【0279】
これに対し、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合することもあるが、殆どが、融合抗体の細胞質浸透後に生成されたウイルス特異的T細胞抗原が癌細胞表面に提示され、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導するinCT99†CMV480-503抗体は、前記対照群抗体に比べてMDA-MB231腫瘍成長を50%程度抑制した。
【0280】
したがって、腫瘍内でウイルス特異的T細胞抗原を癌細胞表面に提示するためには、細胞質にT細胞抗原が融合した抗体を浸透させ、細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を用いて癌細胞の表面にウイルス特異的な抗原を提示することが重要であるといえる。
【0281】
実施例11.inCT99†CMV480-516融合抗体の生体内でMDA-MB-231腫瘍成長抑制能評価
前記実施例8でCMV T細胞エピトープであるCMV495-503ペプチドのN末端とC末端を両方とも延長したCMV480-516ペプチドが融合したinCT99†CMV480-516抗体は、既存APECs技術で使用した抗体であるセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体に比べて低いCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導した。しかし、癌細胞表面HLA-A*02:01に直接ローデングされ、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導した対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体は、実施例10で生体内では腫瘍形成を抑制する効果がなかった。
【0282】
したがって、生体内でinCT99†CMV480-516抗体がセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体に比べてどれくらいの腫瘍形成抑制効果を示すかを比較するために、HLA-A*02:01発現があるMDA-MB231ヒト乳癌細胞株をマウスの乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に移植したモデルを構築し、前記抗体の腫瘍形成抑制効果を評価した。
【0283】
図15は、ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB231細胞を乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に異種移植したNSGマウスにおいて、inCT99†CMV480-516融合抗体のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞による癌細胞成長抑制誘導効果を、既存APECs技術であるセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体と比較して測定した結果であり、
図15Aは、前記実験に対して腫瘍移植後の抗体とIL-15受容体の複合体分子の投与間隔、投与量、投与方法及びCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の投与間隔と方法を示す計画表であり、
図15Bは、上記の図15Aの実験において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を示すグラフであり、
図15Cは、図15Aの実験において抗体最終投与48時間後にマウスを致死して腫瘍の重さを特定したグラフであり、
図15Dは、図15Aの実験において抗体最終投与48時間後にマウスを致死し腫瘍を摘出した後に取った写真であり、
図15Eは、図15Aの実験結果において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を1個体のマウスごとに示すグラフである。
【0284】
具体的に、MDA-MB231ヒト乳癌細胞株(5×10細胞)をDPBS75mlに懸濁した後、マトリゲル(Sigma-Aldrich)75mlと混合してNSGマウスの乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に移植した後、腫瘍の体積が100~120mm(約27日後)になった時、マウスを無作為配分(randomization)した後、上述した抗体を20mg/kg容量で3日に1回ずつ、腹腔注射(intraperitoneal injection)した。腫瘍細胞移植後27日、33日及び39日目に、融合抗体を投与して6時間後に、ヒト由来CMV pp65特異的な細胞毒性CD8Tリンパ球(CTLs,1×10/200ml/マウス)を静脈注射(intravenous injection)した。NSGマウス内でCMV pp65特異的なCTLの増幅のために腫瘍を投与した日から、3日に1回ずつインターロイキン-15(IL-15)とIL-15受容体の複合体(15mg/200ml)を腹腔注射(intraperitoneal injection)した。
【0285】
inCT99†CMV480-516抗体の生体材腫瘍形成抑制効果を測定するために、陰性対照群抗体であるinCT(AAA)†CMV480-516、ネシツムマブ†CMV480-516、inCT99抗体及びセツキシマブ†MMP14-CMVp495-503を共に比較した。
【0286】
その結果、試験管内実験においてMV pp65特異的細胞傷害性T細胞によるMDA-MB231癌細胞死滅を誘導効果がなかったinCT(AAA)†CMV480-516、ネシツムマブ†CMV480-516抗体は、NSGマウスでもMDA-MB-231腫瘍形成を抑制する効果がなかった。しかし、inCT99†CMV480-516抗体は、約60%程度のMDA-MB-231腫瘍形成を抑制する効果を示した。特徴的なことは、試験管内実験においてinCT99†CMV480-516抗体に比べてCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導する効果が高かったセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体は、生体内ではinCT99†CMV480-516抗体に比べて低い腫瘍形成抑制効果を示し、特に3匹のマウスにおいてinCT99対照群抗体処理群と類似な腫瘍の重さを示した。
【0287】
この結果は、前記実施例10と同様、腫瘍内に存在する抗体の量では、CMV480-503ペプチドが癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01にローデングし難いためと解釈される。
【0288】
したがって、腫瘍内でウイルス特異的T細胞抗原を癌細胞表面に提示するためには、細胞質に、T細胞抗原が融合した抗体を浸透させ、細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を用いて癌細胞の表面にウイルス特異的な抗原を提示することが重要であることを確認した。
【0289】
実施例12.生体内でinCT99†CMV480-503融合抗体のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞活性化効果検証
前記実施例10で検証したinCT99†CMV480-503抗体のMDA-MB231腫瘍成長抑制効果が、実際腫瘍内でCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の活性化によるものかを検証した。そのために、腫瘍を移植したマウスに、inCT99†CMV480-503抗体とCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞を1回投与した後、活性化された細胞傷害性T細胞は、癌細胞を死滅させながら生成される脱顆粒マーカーであるCD107、サイトカインであるIFN-g、及び活性化された細胞傷害性T細胞のマーカーであるCD69の発現量を測定した。
【0290】
図16は、ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB231細胞を乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に異種移植したNSGマウスにおいて、inCT99†CMVP P480-503融合抗体のCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の活性化効果を、対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503とセツキシマブ†CMV480-503抗体と比較して測定した結果であり、
図16Aは、前記実験に対して腫瘍移植後の抗体の投与量、投与方法及びCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の投与方法を示す計画表であり、
図16Bは、NSGマウスに注射するために増幅したCMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の比率を流細胞分析機で分析した実験結果であり、
図16Cは、各投与群のマウスを致死して腫瘍浸潤リンパ球を分離し、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のうちCD107の発現量とCD69とIFN-gを発現させるCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の比率を分析した結果である。
【0291】
具体的に、MDA-MB231ヒト乳癌細胞株(5×10細胞)をDPBS75mlに懸濁した後、マトリゲル(Sigma-Aldrich)75mlと混合してNSGマウスの乳房脂肪パッド(mammary fat pad)に同所性(orthotopic)に移植した後、腫瘍の体積が100~120mm(約27日後)になった時、マウスを無作為配分(randomization)した後、上述した抗体を20mg/kg容量で投与した。融合抗体を投与して6時間後に、ヒト由来CMV pp65特異的な細胞毒性CD8Tリンパ球(CTLs,1×10/200ml/マウス)を静脈注射(intravenous injection)した。24時間後にマウスの腫瘍を摘出し、ペトリ皿で金網とコラゲナーゼ(100μg/ml)を用いて粉砕した後、2%のFBSが含まれている培地10mlを入れて50gで5分間遠心分離し、実質組織を除去した。その後、赤血球溶血バッファー(red blood cell lysis buffer)を1ml入れて赤血球を溶血させた後、PBSで洗浄して細胞混濁液を得た。腫瘍から分離した細胞を、PEが結合したCMV495-503/HLA-A*02:01ペンタマーを入れて室温で15分間染色し、冷たいPBS(pH7.4)で洗浄した後、APCが結合したCD8を認知する抗体を入れて4℃で30分間染色し、冷たいPBS(pH7.4)で洗浄した。CD69とCD107の発現量を測定するためには、FITCが結合したCD69とCD107抗体を、APCが結合したCD8を認知する抗体と共に入れて染色した後、冷たいPBS(pH7.4)で洗浄し、流細胞分析機であるFACS Calibur(BD Bioscience)とFlow jo(Thermo Fisher Scientific)で分析した。CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のIFN-gの発現を測定するためには、腫瘍から分離した細胞10個を1ml培地に懸濁させて、Brefeldin A(Thermo,USA)を1Xとなるように培地に処理し、5時間、5% CO、37℃条件で培養した後、細胞内染色を行った。細胞内に存在するIFN-gの発現を測定するために、Foxp3/Transcription Factor Staining Buffer Set(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞を固定(fixation)し透過(permeabilization)させた後、FITCが結合したIFN-gを認知する抗体を入れ、4℃で30分間染色した後、透過バッファー(permeabilization buffer)を入れ、流細胞分析機であるFACS Calibur(BD Bioscience)とFlow jo(Thermo Fisher Scientific)で分析した。
【0292】
脱顆粒マーカーであるCD107、サイトカインであるIFN-g、及び活性化された細胞傷害性T細胞のマーカーであるCD69の発現量を測定した結果、試験管内でCMV495-503ペプチドが癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01にローデングされ、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞によるMDA-MB231癌細胞死滅を誘導していた陰性対照群抗体であるinCT(AAA)†CMV480-503、セツキシマブ†CMV480-503抗体は、NSGマウス生体内でCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のCD107、IFN-g及びCD69の発現を増加させる効果がなかった。しかし、NSGマウスにおいてMDA-MB231腫瘍成長を抑制する効果を示したinCT99†CMV480-503抗体投与後、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞のCD107の発現量が増加したし、IFN-g CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞及びCD69 CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の比率が有意に増加した。
【0293】
したがって、inCT99†CMV480-503抗体のNSGマウスでのMDA-MB231腫瘍成長抑制効果は、CMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の活性化によるMDA-MB231細胞の死滅によるものであるこが確認できた。
【0294】
前記の実施例の結果を整理し、inCT99†CMV抗体の作用機序を対照群抗体と比較すると、下表の通りである。
【0295】
【0296】
本発明において、CMV495-503T細胞エピトープのN末端のみ延長されたCMV480-503ペプチドが融合したinCT99†CMV480-503抗体は、試験管内で癌細胞表面HLA-A*02:01にT細胞エピトープを直接ローデングすることもあるが、細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたCMV495-503T細胞エピトープが癌細胞表面HLA-A*02:01に提示され、CMV特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞の死滅を誘導したし、NSGマウス生体内でMDA-MB231腫瘍成長を抑制する効果を示した。inCT99†CMV480-503抗体の癌細胞表面HLA-A*02:01へのT細胞エピトープの直接ローデングは、CMV480-503ペプチドが、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01にローデングされる特性ためであり、その結果、陰性対照群抗体であるinCT(AAA)†CMV480-503、セツキシマブ†CMV480-503抗体も、試験管内で癌細胞表面HLA-A*02:01にT細胞エピトープを直接ローデングした。しかし、それらの対照群抗体は、NSGマウス生体内でMDA-MB231腫瘍成長を抑制する効果がなかった。この結果は、腫瘍内に存在する抗体の量では、CMV480-503ペプチドが、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01にローデングされ難いためと解釈される。
【0297】
CMV495-503T細胞エピトープのN末端とC末端の両方が延長されたCMV480-510又はCMV480-516ペプチドが融合したinCT99†CMV480-510抗体とinCT99†CMV480-516抗体は、試験管内で癌細胞表面HLA-A*02:01にT細胞エピトープを直接ローデングしなく、細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたCMV495-503T細胞エピトープが癌細胞表面HLA-A*02:01に提示され、CMV特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞の死滅を誘導した。特に、inCT99†CMV480-516抗体は、NSGマウス生体内でも、CMV特異的な細胞傷害性T細胞によるMDA-MB231腫瘍成長を抑制する効果を示した。これに対し、試験管内で陰性対照群抗体であるinCT(AAA)†CMV480-510、セツキシマブ†CMV480-510、inCT(AAA)†CMV480-516、ネシツムマブ†CMV480-516抗体は、癌細胞表面HLA-A*02:01にT細胞エピトープを直接ローデングする能力がなく、その結果、CMV特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞の死滅を誘導できなかった。特徴的なことは、試験管内実験においてinCT99†CMV480-516抗体に比べて、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導する効果が高かったセツキシマブ†MMP14-CMV495-503抗体は、生体内ではinCT99†CMV480-516抗体に比べて低い腫瘍形成抑制効果を示した。この結果は、前記実施例10のように、腫瘍内に存在する抗体の量では、CMV495-503ペプチドが、癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01にローデングされ難いためと解釈される。
【0298】
したがって、腫瘍内でウイルス特異的T細胞抗原を癌細胞表面に提示するためには、細胞質にT細胞抗原が融合した抗体を浸透させ、細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を用いて癌細胞の表面にウイルス特異的な抗原を提示することが重要であることを確認した。
【0299】
実施例13.HLA-A*02:01遺伝型を有する癌細胞株においてinCT99†HPV融合抗体のHPV11-19/HLA-A*02:01複合体提示能検証
前記実施例1~12で、細胞質浸透抗体であるinCT99に、CMV T細胞抗原エピトープに該当するペプチド及びこれを含むタンパク質切片を融合させたinCT99†CMV融合抗体が、癌細胞にCMV pp65由来T細胞エピトープを提示して、CMV特異的細胞傷害性T細胞を活性化させ、腫瘍成長を抑制することを検証した。
【0300】
このようなinCT99†ウイルスエピトープ抗体の効果が、HPV16由来抗原E7のエピトープ又はこれを含むペプチド領域を融合させたinCT99†HPV抗体でも観察されるかを検証するために、inCT99†HPV11-19及びinCT99†HPV1-19融合抗体を、前記実施例1と同一にして構築し、実施例3と同じ方法で精製した。正常供与者のPBMCには、HPV16由来抗原E7のエピトープに特異的な細胞傷害性T細胞が存在しないので、前記抗体が腫瘍細胞内でHPV11-19抗原を癌細胞表面に提示するかを、HPV11-19/HLA-A*02:01複合体を認知するT細胞受容体(TCR)様抗体である7-1を用いて検証した。
【0301】
図17は、inCT99†HPV11-19及びinCT99†HPV1-19融合抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を流細胞分析機で分析した結果であり、
図17Aは、37℃で前記抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を分析するための計画表であり、
図17Bは、様々な濃度の前記抗体を図17Aの方法で処理した後、流細胞分析機で分析した結果であり、
図17Cは、前記抗体を図17Aの方法で時間別に処理した後、T細胞抗原エピトープをHLA-A*02:01に提示する能力を流細胞分析機で分析した結果である。
【0302】
具体的に、12ウェルプレートにMDA-MB-231細胞株を、ウェル当たり1.8×10細胞/mlの密度で10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に希釈して12時間、37℃、5% CO条件で培養した後、培地を除去し、inCT99、inCT99-HPV†1-19、inCT99-HPV†11-19融合抗体を4μM、2μM、1μM、0.5μM及び0.1μMの濃度となるように400μlの培地に希釈して12時間、37℃、5% CO条件で培養した。その後、培地を除去し、DPBSで洗浄した後、ウェル当たり100μlのトリプシン-EDTA(Trypsin-EDTA)溶液を3分間37℃で処理して、細胞をプレートから剥がした。ウェル当たり10% FBSが含まれているRPMI培地を1mlずつ入れてトリプシン-EDTAを中和させ、細胞を回収して1300rpmで3分間遠心分離し、上澄液を除去した。細胞をFACS緩衝液1mlで洗浄し、遠心分離して上澄液を除去した。ウェル当たり細胞ペレットをFACS緩衝液200μlに懸濁して2個のサンプルに分け、一つのサンプルは2次抗体単独対照群として使用した。各サンプルに、HPV11-19/HLA-A*02:01複合体を特異的に認知するT細胞受容体様抗体7-1クローンを100μlで2nMの濃度となるようにFACS緩衝液に希釈して入れ、4℃で1時間反応させた。その後、各サンプルを1mlのFACS緩衝液で洗浄した後、Alexa647(赤色蛍光)が連結されたマウスFcを特異的認知するF(ab’)抗体を、100μlのFACS緩衝液に1:1200に希釈し、4℃条件で30分間反応させた。1mlのFACS緩衝液で洗浄後に流細胞分析機で分析した。
【0303】
その結果、inCT99†HPV11-19及びinCT99†HPV1-19融合抗体の濃度依存的にMDA-MB-231癌細胞の表面にHPV11-19/HLA-A*02:01複合体が形成されたことを、TCR様抗体の結合程度から確認できた。
【0304】
inCT99†HPV融合抗体の処理時間によるペプチド-HLA-A*02:01複合体の形成程度を観察するために、上記の図17Bで融合抗体の濃度とHPV11-19/HLA-A*02:01複合体形成効率が比例する結果を参考して、inCT99-HPV†1-19融合抗体を2μMの濃度でMDA-MB-231癌細胞に処理した後、0.5~48時間後に、癌細胞表面に提示されたHPV11-19/HLA-A*02:01複合体を7-1抗体を用いて検出した。
【0305】
その結果、抗体の処理時間を1時間から18時間まで増加させる場合、癌細胞表面に提示されたHPV11-19/HLA-A*02:01複合体が増加することを確認したし、18時間以後には抗原提示能が減少することを観察した。
【0306】
以上の結果から、細胞質浸透抗体であるinCT99にCMV T細胞抗原を含むペプチドの他、HPVのような他の種類のウイルス由来T細胞抗原を融合させても、inCT99†ウイルスエピトープ抗体が癌細胞表面に発現したインテグリンに結合して内在化(endocytosis)した後にエンドソーム脱出(endosome escape)能力によって細胞質に位置し、細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたウイルス由来エピトープが小胞体に入ってHLA-A*02と複合体を形成し、ゴルジ体を通じて分泌されて癌細胞表面にT細胞抗原エピトープを提示することを立証した。
【0307】
実施例14.inCT99†OVA250-264融合抗体の腫瘍形成抑制効果検証
前記実施例10-12で観察されたinCT99†CMV抗体の腫瘍成長抑制効果及びCMV pp65特異的細胞傷害性T細胞の活性化効果が、実際に免疫細胞を有する免疫担当(immunocompetent)マウスでも腫瘍成長抑制効果を誘導できるかを検証しようとした。そのために、マウス癌細胞MHC-I抗原であるH-2Kに対する結合能を有するオブアルブミン(ovalbumin;OVA)257-264番ペプチドのN末端が延長された250-264番ペプチドが細胞質浸透抗体であるinCT99に融合したinCT99†OVA250-264抗体を構築し、OVA257-264/H-2K複合体を認知するOVA特異的な細胞傷害性T細胞であるCD8OVA1.3細胞による癌細胞死滅効果及び免疫担当マウスでの腫瘍成長抑制効果を検証した。
【0308】
本発明では、陰性対照群抗体として細胞質浸透能のないinCT(AAA)† OVA250-264抗体とMHC-I抗原であるH-2Kに対する結合能のないOVA323-339ペプチドが融合したinCT99†OVA323-339融合抗体を使用した。
【0309】
inCT(AAA)†OVA250-264抗体は、inCT99抗体のVL-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである92WYW9492AAA94に突然変異しており、VH-CDR3に存在するエンドソーム脱出モチーフである95WY95Aが95AAA98に突然変異している。したがって、インテグリンαvβ3とαvβ5受容体に結合して内在化(endocytosis)したinCT(AAA)†OVA250-264抗体はエンドソームを脱出できないため細胞質浸透がされず、細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを提示することができない。
【0310】
inCT99†OVA323-339融合抗体はMHC-I抗原であるH-2Kに対する結合能がないため、インテグリンαvβ3とαvβ5受容体に結合して内在化(endocytosis)した後にエンドソームを脱出して細胞質浸透されても、小胞体に存在するH-2Kに結合できず、OVA257-264/H-2K複合体を癌細胞表面に提示できない。
【0311】
上述した抗体は、実施例1-3に記述の方法と同じ方法で構築した後に精製し、実験に使用した。
【0312】
動物実験をするに先立ち、inCT99†OVA250-264融合抗体が癌細胞にウイルス由来T細胞エピトープを提示し、ウイルス特異的細胞傷害性T細胞を活性化させることができるかを確認した。
【0313】
【0314】
図18は、様々なinCT99†OVA250-264融合抗体の細胞表面H-2Kに対する結合能及び細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをH-2Kに提示する能力を流細胞分析機で分析し、OVA特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果をLDHアッセイで分析した結果であり、
図18Aは、前記抗体を図9A及び図9Bと同じ方法で処理後に、4℃でinCT99†OVA250-264融合抗体の細胞表面H-2Kに対する結合能と、37℃でinCT99†OVA250-264融合抗体が細胞内抗原処理過程によってT細胞抗原エピトープをH-2Kに提示する能力を、流細胞分析機で分析した結果である。
【0315】
4℃でinCT99†OVA250-264融合抗体の細胞表面H-2Kに対する結合能を分析するための具体的な方法には、inCT99†OVA250-264融合抗体が癌細胞表面に発現したHLA-A*02:01に直接結合するかを測定するために、インテグリンαvβ3とαvβ5受容体を発現し、H-2Kを発現させるMC38細胞を3.0×10細胞/mlの密度で10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に準備し、inCT99†OVA250-264融合抗体及び陰性対照群抗体であるinCT(AAA)†OVA250-264抗体とinCT99†OVA323-339融合抗体を4μMの濃度となるように入れ、5% CO、37℃で3時間反応させた。この時、陽性対照群は、OVA257-264ペプチドを4μM処理し、陰性対照群は、抗体を溶かしたヒスチジン緩衝液を入れた。3時間後に、1300rpmで3分間遠心分離し、細胞に結合していない抗体及びペプチドが含まれている上澄液を除去し、FACS緩衝液で洗浄後に1300rpmで3分間遠心分離して上澄液を除去した。各サンプル当たり1.5×10個の細胞となるように準備し、OVA257-264/H-2K複合体を特異的に認知する単一クローン抗体である25-D1.16抗体(Biolegend)を100μlのFACS緩衝液に4nMの濃度となるように希釈して入れ、4℃で1時間反応させた。その後、各サンプルを1mlのFACS緩衝液で洗浄した後、PE蛍光が連結されたマウスFcを特異的認知するF(ab’)抗体を、100μlのFACS緩衝液に1:1200に希釈して4℃条件で30分間反応させた。1mlのFACS緩衝液で洗浄後に流細胞分析機及びflow joで分析した。
【0316】
その結果、OVA257-264T細胞エピトープペプチドのN末端のみ延長されたペプチドを融合させた抗体であるinCT99†OVA250-264抗体と陰性対照群抗体であるinCT99(AAA)†OVA250-264抗体はいずれも、癌細胞表面のH-2Kに直接結合することが確認できた。この結果は、CMV480-503ペプチドの癌細胞表面HLA-A*02:01に対する結合能のため、CMV495-503ペプチドのN末端が延長されたペプチドが融合したinCT99†CMV480-503抗体と対照群抗体であるinCT99(AAA)†CMV480-503抗体とセツキシマブ†CMV480-503抗体が癌細胞表面HLA-A*02:01に直接結合した結果と同じ傾向を示す。したがって、inCT99†OVA250-264抗体と陰性対照群抗体であるinCT99(AAA)†OVA250-264抗体の癌細胞表面のH-2Kに対する直接的な結合能は、OVA250-264ペプチドのH-2Kに対する結合能のためと解釈される。
【0317】
37℃でinCT99†OVA250-264融合抗体が細胞内抗原処理過程によってOVA257-264/H-2K複合体を癌細胞表面に提示するかを評価するために、インテグリンαvβ3とαvβ5受容体を発現し、H-2Kを発現させるMC38細胞を1.5×10細胞/mlの密度で、10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に準備し、24ウェルプレートに12時間付着させた後、inCT99†OVA250-264融合抗体及び対照群抗体であるinCT99(AAA)†OVA250-264とinCT99†OVA323-339抗体を4μMの濃度となるように入れ、5% CO、37℃で18時間反応させた。この時、陽性対照群は、OVA257-264ペプチドを4μM処理し、陰性対照群は、抗体を溶かしたヒスチジン緩衝液を入れた。18時間後に、抗体が処理された培地を回収し、1ml DPBSで洗浄した後、イエローチップで掻いて底についたMC38細胞を回収し、1ml DPBSに懸濁させた後、1300rpmで3分間遠心分離した。細胞に結合していない抗体及びペプチドが含まれている上澄液を除去し、FACS緩衝液で洗浄後に1300rpmで3分間遠心分離して上澄液を除去した。各サンプル当たり1.5×10個の細胞となるように準備し、OVA257-264/H-2K複合体を特異的に認知する単一クローン抗体である25-D1.16抗体(Biolegend)を100μlのFACS緩衝液に4nMの濃度となるように希釈して入れ、4℃で1時間反応させた。その後、各サンプルを1mlのFACS緩衝液で洗浄した後、PE蛍光が連結されたマウスFcを特異的認知するF(ab’)抗体を100μlのFACS緩衝液に1:1200に希釈し、4℃条件で30分間反応させた。1mlのFACS緩衝液で洗浄後に流細胞分析機及びflow joで分析した。
【0318】
その結果、陰性対照群抗体であるinCT99抗体、inCT99(AAA)†OVA250-264とinCT99†OVA323-339抗体は、MC38細胞の表面にOVA257-264/H-2K複合体を提示できなかった。しかし、OVA257-264T細胞エピトープペプチドのN末端のみ延長されたペプチドを融合させた抗体であるinCT99†OVA250-264抗体は、細胞質浸透後に細胞内抗原処理過程によって生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが細胞表面に提示され、MC38細胞の表面にOVA257-264/H-2K複合体を提示することが分かった。
【0319】
したがって、腫瘍細胞でウイルス特異的T細胞抗原を癌細胞表面に提示するためには、細胞質にT細胞抗原が融合した抗体を浸透させて細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を用いて癌細胞の表面にウイルス特異的な抗原を提示することが重要であることを確認した。
【0320】
inCT99†OVA250-264抗体を癌細胞に処理した時、OVA特異的な細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅効果を誘導するかを測定した。
【0321】
図18Bは、H-2Kを発現させるMC38細胞にinCT99†OVA250-264抗体を処理し、OVA特異的な細胞傷害性T細胞の比率を別にして処理した後、癌細胞の死滅効果をLDHアッセイで分析した結果である。
【0322】
具体的な方法には、MC38細胞(0.3×10細胞/100ml)を10% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に懸濁させ、96ウェルプレートで12時間付着させた後、inCT99†OVA250-264融合抗体及び対照群抗体であるinCT99(AAA)†OVA250-264とinCT99†OVA323-339抗体を1μMの濃度となるように入れ、5% CO、37℃で培養した。12時間後に培養上澄液を除去した後、OVA257-264/H-2K複合体を認知するOVA特異的な細胞傷害性T細胞であるCD8OVA1.3細胞を、効果器細胞:標的細胞比率が0.2:1、1:1及び5:1となるように2% FBSと1% ABAM抗生剤が含まれているRPMI培地に懸濁させて添加した。17時間後に、細胞の最大LDH放出制御(release control)を100%溶解(lysis)基準値と定めるために、標的細胞のみあるウェルに、トリトンX-100が0.1%となるように入れた。CD8OVA1.3細胞を入れて18時間後に各ウェルの細胞培養液に存在するLDH(Lactate Dehydrogenase)の量で細胞死滅程度を定量するために、50μlの細胞培養液を96ウェル平底プレートに移し、ヨードニトロテトラゾリウムバイオレット(Iodonitro-tetrazolium violet)基質をウェル当たり50μlずつ入れ、37℃条件で30分間反応させた。発色が十分にされると、STOP溶液をウェル当たり50μlずつ入れて反応を中止させ、マイクロプレートリーダを用いて490nmでの吸光度を測定した。最大LDH放出制御(release control)を100%細胞溶解として計算した値でグラフを示した。
【0323】
その結果、37℃でMC38細胞の表面にOVA257-264/H-2K複合体を提示できなかった対照群抗体であるinCT99(AAA)†OVA250-264とinCT99†OVA323-339抗体は、OVA257-264/H-2K複合体を認知するOVA257-264特異的な細胞傷害性T細胞であるCD8OVA1.3細胞によるMC38癌細胞の死滅を誘導する効果がなかった。しかし、MC38細胞の表面にOVA257-264/H-2K複合体を提示したinCT99†OVA250-264融合抗体は、CMV pp65特異的な細胞傷害性T細胞の数が増加するほどMC38癌細胞に対する死滅誘導効果が高かった。
【0324】
したがって、腫瘍細胞でウイルス特異的T細胞抗原を癌細胞表面に提示して抗原特異的な細胞傷害性T細胞によって癌細胞を死滅させるためには、細胞質にT細胞抗原が融合した抗体を浸透させ、細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を用いて癌細胞の表面にウイルス特異的な抗原を提示することが重要であることを確認した。
【0325】
MC38細胞の表面にOVA257-264/H-2K複合体を提示し、OVA特異的な細胞傷害性T細胞によって癌細胞死滅を誘導するinCT99†OVA250-264融合抗体が、免疫担当(immunocompetent)マウスにおいても腫瘍形成抑制効果を示すかを検証した。
【0326】
図19は、マウス大腸癌細胞株であるMC38細胞をC57BL/6免疫担当(immunocompetent)マウスの背部に同種移植した後、inCT99†OVA250-264融合抗体のOVA257-264特異的細胞傷害性T細胞による癌細胞成長抑制誘導効果を測定した結果であり、
図19Aは、前記実験に対して腫瘍移植後の抗体の投与間隔、投与量、投与方法及びOVA257-264特異的細胞傷害性T細胞の投与間隔と方法を示す計画表であり、
図19Bは、上記の図19Aの実験において日数によって各抗体投与群の腫瘍体積変化を示すグラフであり、
図19Cは、図19Bの実験において各抗体投与群の腫瘍体積変化を1個体のマウスごとに示すグラフである。
【0327】
具体的には、MC38マウス大腸癌細胞株(2×10細胞)をDPBS100mlに懸濁した後、C57BL/6免疫担当(immunocompetent)マウスの背部に同種移植した後、腫瘍の体積が100~120mm(約10日後)になった時、マウスを無作為配分(randomization)した後、inCT99†OVA250-264抗体と陰性対照群抗体であるinCT99(AAA)†OVA250-264及びinCT99†OVA323-339抗体を20mg/kg容量で3日に1回ずつ、腹腔注射(intraperitoneal injection)した。腫瘍細胞移植後10日目、16日目に、融合抗体を投与して6時間後にOVA257-264特異的な細胞傷害性T細胞であるCD8OVA1.3細胞(1×10/200ml/マウス)を静脈注射(intravenous injection)した。
【0328】
inCT99†OVA250-264抗体の生体材腫瘍形成抑制効果を測定するために、陰性対照群抗体であるinCT99(AAA)†OVA250-264及びinCT99†OVA323-339抗体及びinCT99抗体と共に前記実験で比較した。その結果、OVA257-264ペプチドが癌細胞表面に発現したH-2Kにローデングされる陰性対照群抗体であるinCT99(AAA)†OVA250-264抗体は、C57BL/6免疫担当(immunocompetent)マウス内でMC38種陽性場を抑制する効果がなかった。
【0329】
これに対し、癌細胞表面に発現したH-2Kに直接結合することもあるが、殆どが融合抗体の細胞質浸透後に生成されたウイルス特異的T細胞抗原が癌細胞表面に提示されてOVA257-264特異的細胞傷害性T細胞による癌細胞死滅を誘導するinCT99†OVA250-264抗体は、前記対照群抗体に比べてMC38腫瘍成長を50%程度抑制した。
【0330】
したがって、腫瘍内でウイルス特異的T細胞抗原を癌細胞表面に提示するためには、細胞質にT細胞抗原が融合した抗体を浸透させ、細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)を用いて癌細胞の表面にウイルス特異的な抗原を提示することが重要であるといえる。
【0331】
図20は、ウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体を用いて癌細胞表面にウイルス特異的エピトープを発現させ、腫瘍患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞を用いて癌細胞を除去する汎用治療用抗癌ワクチンに対する作用機序を示す全般的な模式図である。
【0332】
結論的に、図20に示すように、ウイルス特異的T細胞抗原エピトープ又はそれを含むペプチドを融合させたウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体(viral epitope-fused cytotransmab)は、腫瘍組織に過発現する細胞表面の膜タンパク質受容体に結合して内在化(endocytosis)した後にエンドソーム脱出(endosomal escape)能力によって細胞質に位置し、細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたウイルス特異的エピトープが小胞体に入ってMHC-Iと結合し、ゴルジ体を通じて分泌されて癌細胞表面にウイルス特異的エピトープを発現させる。腫瘍患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞傷害性T細胞は、ウイルス特異的エピトープを発現させる癌細胞を除去するので、ウイルス抗原由来エピトープペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体(viral epitope-fused cytotransmab)は汎用治療用抗癌ワクチンとして働き得る。
【産業上の利用可能性】
【0333】
本発明に係る融合抗体は、細胞又は組織特異的細胞質浸透が可能なので、細胞質浸透後に細胞質内でタンパク質分解システムによって生成されたウイルス特異的T細胞抗原エピトープが小胞体に入ってMHC-Iと結合してウイルスペプチド/HLA-A*02:01複合体(pMHC)形成され、このpMHCがゴルジ体を通じて分泌されて細胞表面にウイルス特異的T細胞抗原エピトープを提示することができる。
【0334】
これにより、本発明に係る融合抗体又はこれを含む組成物は、標的細胞表面にウイルス特異的エピトープを発現させ、患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞毒性CD8T細胞によってウイルス特異的エピトープを提示する標的細胞、例えば癌細胞を除去できるので、様々な癌腫に対して汎用治療用途に使用可能である。
【0335】
具体的に、本発明に係る融合抗体によってウイルス抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ(epitope)を癌細胞の細胞質に伝達して癌細胞表面にウイルスペプチド-MHC-I複合体(pMHC)を癌細胞表面に発現させ、癌細胞がウイルス感染細胞として認識されると、癌患者の体内に循環する抗ウイルス細胞傷害性T細胞が癌細胞をウイルス感染細胞として認識して殺傷し、究極的には融合抗体は癌を除去する治療用に活用可能である。
【0336】
また、本発明で融合抗体は、腫瘍細胞の細胞質に抗原を伝達し、細胞質に伝達されたペプチドが細胞内抗原処理過程(intracellular antigen processing)によって切断されてMHC-Iに結合するペプチドが生成され、MHC-Iに展示させることができるので、CD8T細胞抗原エピトープ(8~11アミノ酸残基)及びこれを含むペプチド(12個以上のアミノ酸残基含むペプチド)を細胞質に伝達することによって、究極的に標的細胞表面の抗原提示分子MHC-IにT細胞抗原エピトープが展示されるようにできるので、様々な長さの抗原ペプチドを癌ワクチンなどの用途に使用することができる。
【0337】
本発明に係る融合抗体は、様々なウイルス、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)、ヒト乳頭腫ウイルス16(Human papilloma virus,HPV16)、エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)、インフルエンザー(influenza)ウイルス、Covid-19(severe acute respiratory syndrome-coronavirus-2,SARS-CoV-2)ウイルスなどの抗原由来CD8T細胞抗原エピトープ(epitope)を標的細胞表面の抗原提示分子MHC-Iに提示することができる。したがって、前記ウイルスに感染して免疫力を備えた癌患者に、ウイルス抗原を含む融合抗体を投与すると、癌細胞をウイルス感染細胞に変え、癌患者の体内に既に存在するウイルス特異的細胞毒性CD8T細胞を活用して(repurposing)癌細胞を除去できるので、様々な癌腫に対して汎用治療用途に使用可能である。
【0338】
また、本発明で提供されるウイルス抗原由来T細胞抗原エピトープペプチド又はこれを含むペプチドが細胞質浸透抗体に融合した融合抗体は、それに含まれるCD8T細胞エピトープ又はこれを含むペプチドとして、癌患者に多く存在するウイルス特異的細胞毒性CD8T細胞を利用できるように様々なウイルスエピトープが融合可能であり、腫瘍生長抑制能を極大化させることができる。
【0339】
また、本発明で提供されるCD8T細胞抗原エピトープ又はこれを含むペプチドが細胞又は組織特異的細胞質浸透抗体に融合した融合抗体は、癌細胞のような標的細胞の他にも、MHC-Iを発現するあらゆる核を有する細胞を標的にして開発され、標的細胞表面のMHC-IにCD8T細胞抗原エピトープを提示することができる。
【0340】
本発明に係るウイルス抗原由来ペプチドと細胞質浸透抗体が融合した融合抗体は、高い生産収率によって治療薬物としての開発が容易であり、単独薬物又は既存治療剤との併行治療によって効果的な抗癌活性を期待することができる。
【0341】
配列目録フリーテキスト
【0342】
電子ファイルとして添付。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図19A
図19B
図19C
図20
【配列表】
0007598938000001.app