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特許7598956マルテンサイトを含まない超微細粒棒鋼のコンパクトコイルの製造プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】マルテンサイトを含まない超微細粒棒鋼のコンパクトコイルの製造プロセス
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/06 20060101AFI20241205BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241205BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20241205BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C21D8/06 A
C22C38/00 301Y
C22C38/04
C22C38/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022580060
(86)(22)【出願日】2021-07-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2021068416
(87)【国際公開番号】W WO2022003194
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】102020000016153
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510152666
【氏名又は名称】ダニエリ アンド シー.オフィス メカニケ エスピーエー
【氏名又は名称原語表記】DANIELI&C.OFFICINE MECCANICHE SPA
【住所又は居所原語表記】Via Nazionale,41-33042 Buttrio(UD),Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】ベネデッティ ジャンピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】ファッブロ クラウディオ
(72)【発明者】
【氏名】チモリーノ マイコル
(72)【発明者】
【氏名】フェッラレセ シモーネ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-023366(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1718770(CN,A)
【文献】特開平02-213416(JP,A)
【文献】特開平09-049020(JP,A)
【文献】特開2000-336456(JP,A)
【文献】特開平02-112813(JP,A)
【文献】特開平07-265947(JP,A)
【文献】特開平10-225742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0135140(US,A1)
【文献】特開2023-034876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/06 - 8/08
C22C 38/00 - 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルテンサイトを含まない超微細粒棒鋼のコンパクトコイルを製造する方法であって、
a)粗圧延機(1)を用いて初期表面温度が850~1200℃の鋼ビレットを圧延して棒鋼を製造する工程であって、鋼ビレットは、重量パーセントで、0.28%以下の炭素、0.80%以下のケイ素、1.60%以下のマンガン、残部の鉄と不可避不純物を含む、低炭素鋼又は中炭素鋼のビレットである工程と、
b)前記棒鋼がマルテンサイト開始温度(Ms)よりも高い表面温度を有するように、少なくとも1つの第1の冷却段階(2)を行い、かつ850~920℃の範囲内にある表面温度に達するまで、前記棒鋼のコアと表面との間の温度差を最小限に抑えるために、少なくとも1つの第1の空気中での均等化段階を行う工程と、
c)少なくとも1つの中間圧延機(3)を用いて前記棒鋼を圧延する工程と、
d)マルテンサイト開始温度(Ms)よりも高い表面温度を常に維持する少なくとも1つの第2の冷却段階(4)を行い、かつ700~900℃の範囲内にある表面温度に達するまで、前記棒鋼のコアと表面との間の温度差を最小限に抑えるために、少なくとも1つの第2の空気中での均等化段階を行う工程と、
e)超微細粒オーステナイトマトリックスを得るために、仕上げ圧延機(5)を用いて未再結晶温度範囲で前記棒鋼を圧延し、前記棒鋼の断面全体を前記未再結晶温度範囲内に維持し、前記仕上げ圧延機の入口で前記棒鋼の断面に対してトータルリダクションを25~50%とする工程と、
f)超微細粒オーステナイトマトリックスがフェライトとパーライトの混合物に変態するように、少なくとも1つのスプール巻き取り装置(7)を用いて、500~800℃の範囲内の巻き取り温度で、前記棒鋼をコンパクトコイルに巻き取る工程と、を含む、マルテンサイトを含まない超微細粒棒鋼のコンパクトコイルを製造する方法
【請求項2】
工程d)では、少なくとも2つの第2の冷却段階(4)が設けられ、少なくとも2つの第2の冷却段階(4)の間及び最後の第2の冷却段階(4)と仕上げ圧延機(5)との間の両方に、1つの第2の空気中での均等化段階が設けられる、請求項1に記載の方法
【請求項3】
工程b)では、少なくとも2つの第1の冷却段階(2)が設けられ、少なくとも2つの第1の冷却段階(2)の間及び最後の第1の冷却段階(2)と少なくとも1つの中間圧延機(3)との間の両方に、1つの第1の空気中での均等化段階が設けられる、請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
工程e)と工程f)との間に、前記巻き取り温度に達するまで、前記棒鋼のコアと表面との温度差を最小限に抑えるように、少なくとも1つの第3の冷却段階(6)と、少なくとも1つの第3の空気中での均等化段階とが設けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法
【請求項5】
少なくとも2つの第3の冷却段階(6)が設けられ、少なくとも2つの第3の冷却段階(6)の間及び最後の第3の冷却段階(6)と少なくとも1つのスプール巻き取り装置(7)との間の両方に、1つの第3の空気中での均等化段階が設けられる、請求項4に記載の方法
【請求項6】
少なくとも1つの第1の冷却段階(2)は、それぞれの第1の冷却装置によって実行され、少なくとも1つの第2の冷却段階(4)は、それぞれの第2の冷却装置によって実行される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法
【請求項7】
前記棒鋼の表面温度は、粗圧延機(1)、中間圧延機(3)及び仕上げ圧延機(5)の各々の入口と出口の両方に設けられたセンサによって監視され、前記少なくとも1つの第1の冷却段階(2)及び前記少なくとも1つの第2の冷却段階(4)の動作パラメータは、センサの読み取り値に基づいて、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の両方で動作する閉ループ自動制御によって管理される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法
【請求項8】
前記少なくとも1つの第3の冷却段階(6)の動作パラメータも前記閉ループ自動制御によって管理される、請求項4に従属するとき、請求項に記載の方法
【請求項9】
工程f)の後、コンパクトコイルは、搬送装置(8)によって保管領域に搬送されながら、自然冷却又は強制冷却又は遅延冷却される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法
【請求項10】
保管領域で室温まで冷却した後、コイルは、巻き戻されて矯正され、その後、前記棒鋼の自然エージングを室温で行う、請求項に記載の方法
【請求項11】
鋼ビレットは、再加熱炉から、又は連続鋳造機から直接、粗圧延機(1)に入る、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法
【請求項12】
前記炭素鋼又は中炭素鋼は、重量パーセントで、0.28%以下の炭素、0.80%以下のケイ素、1.60%以下のマンガン、及び残部の鉄と不可避不純物からなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法
【請求項13】
前記低炭素鋼又は中炭素鋼は、重量パーセントで、0.20~0.25%の範囲の炭素、0.20~0.70%の範囲のケイ素、0.80~1.30%の範囲のマンガン、0.020~0.050%の範囲のバナジウム、及び残部の鉄と不可避不純物を含むか、又はこれらからなる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルテンサイトを含まない超微細粒棒鋼のコンパクトコイルの製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
リブ付き棒鋼をコンパクトコイルにスプールするプロセスは、直棒鋼の製造と比較して、保管、輸送及び取扱において大きな一歩を踏み出している。
【0003】
スプールプロセスは、直径が6~40mm、例えば、6~32mmのリブ付き棒鋼及び滑らかな丸棒に適用することができる。
【0004】
コンパクトコイルは、室温でリブ付き棒を矯正(straighten)するだけでなく、鉄筋のスターラップ(rebar stirrup)を作成することもできる機械によって巻き戻される。
【0005】
スプールプロセスは、図1及び図2に示すように、最後の仕上げ圧延工程を経た製品を冷却することで行われる。
【0006】
この冷却は、2つの異なるソリューションにおいて適用することができる。
【0007】
最も一般的なソリューション(図1図8)は、最後の仕上げ圧延パス後に1回の冷却工程を高い冷却速度で行い、棒の表面領域に焼き入れ(quenching)を施したものである。このプロセスは、一般的には、QTS(スプーラでの焼き入れ焼き戻し(Quenching Tempering in Spooler))と呼ばれ、中高張力グレード(例えば、英国標準グレードB500B、B500C及びアメリカン標準グレードGr60、Gr80、Gr100)の典型的なソリューションを表す。
【0008】
表面焼き入れは、高い冷却速度(high cooling speed)によるオーステナイトの拡散変態の抑制(suppression of the diffusive transformation of the austenite)のために、混合したマルテンサイト-ベイナイト組織(mixed martensitic-bainitic structure)をもたらす。
【0009】
焼き入れ工程の後、棒は、空気中での均等化工程(step of equalization in air)を経て、コアの熱が表面領域に向かって広がり、マルテンサイト-ベイナイト構造(martensitic-bainitic structure)を焼き戻す(tempering)。その後、棒をスプーラに巻き取ってコンパクトコイルを形成する。
【0010】
このプロセスソリューションの最終製品の結果は、機械的強度(mechanical strength)(主に表面領域からの寄与)と靭性(toughness)(主にコアの混合したフェライトとパーライトからの寄与)との両立である。
【0011】
焼き入れと自己焼き戻し(self-tempering)により得られた複合組織(composite structure)は、鉄筋の様々な国内及び国際規格によって定められた機械的特性に準拠することを可能にし、焼き入れされていないリブ付き棒の製造に一般的に使用されるビレットの化学組成よりも劣るビレットの化学組成(billet chemical composition)を有する。
【0012】
一方、このQTSプロセスの一態様では、コイルを巻き戻すときの表面領域の高硬度化により、非焼き入れ材と比較して矯正機設備の摩耗(wear of the straightening machine equipment)が大きくなるため、矯正作業(straightening operation)が荒くなる。
【0013】
別の一般的なプロセス(図2)は、軟質焼き入れ(SQ)と呼ばれ、高延性(high ductility)の溶接可能なグレード(例えば、クラスB450C、B500B及びB500Cのヨーロッパグレード)の理想的なソリューションを表す。
【0014】
SQプロセスの目標は、異なる鋼グレードの微細組織を最適化して、厚いマルテンサイト層をもたらす、望ましくない粒成長(undesirable grain growth)及び急激な冷却(drastic cooling)を回避することである。
【0015】
SQプロセスでは、最後の仕上げ圧延スタンドの後、かつ巻き取り機の前に、材料の冷却が複数の工程に分けられる。冷却工程は、均等化スペースで区切られる。
【0016】
SQプロセスで得られた最終的な微細組織は、QTSの従来処理とは異なる。軟質焼き入れでは、表面における焼戻しマルテンサイトとベイナイトの混合物の存在は、QTSと比較して低減されるが、回避されておらず、棒のコアではフェライトとパーライトの混合物に徐々に遷移(gradual transitioning)することが維持される。
【0017】
しかしながら、国際市場分析は、鉄筋に焼き入れ棒を使用することは全ての市場で受け入れられていないことを示しており、これは、地域の規制法の結果(例えば中国、台湾)であり、また、特定の規制がない場合でも、一部の市場では焼き入れ棒を受け入れていない(例えば、日本)ためである。これは、鋼鉄筋が建築物の土木建設においてコンクリートの補強材として広く使用されているという事実に依存している。中国と日本のような特に地震が多い地域では、焼き入れ処理に特有のマルテンサイトとベイナイトなどの脆弱な相がない微細組織によって与えられた高い延性(high ductility)を有する棒が求めている。
【0018】
特に、新たに改訂された中国国家規格GB/T 1499.2018(コンクリート補強用鋼-第2の部分:熱間圧延リブ付き棒)は、中国におけるコンクリート補強用鋼補強棒(steel reinforcement bars for reinforced concrete)の製造と供給を大幅に変更し、質の悪い鉄筋材で得られた結果に直接対処している。
【0019】
厳しい規格要件を満たすために、或いは何らかの市場要件を満たすために、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、チタン(Ti)などの他の合金元素が必要である。しかしながら、上記の合金元素の添加は、必然的に製造コストの大幅な増加を意味する。
【発明の概要】
【0020】
本発明の目的は、微細合金元素(Nb、V、Ti)を添加することなく(又は最小限にして)、マルテンサイトを含まない超微細粒径かつ高延性グレードのスプールされた棒鋼をより低い製造コストで製造できる、棒鋼のコンパクトコイルの製造プロセスを開発することである。
【0021】
本発明の更なる目的は、規格ASTM E112に準拠した粒径が9以上の微細組織(microstructure)を有する棒鋼のコイルを製造し、棒鋼の表面とコアとの間で測定された硬度(HV、好ましくはHV0.5、即ち4.903Nの荷重で測定されたビッカース硬度)の差が40HV以下、例えば10~40HVの範囲内にあることである。
【0022】
本発明は、請求項1の段階(stage)を含む、マルテンサイトを含まない超微細粒棒鋼のコイルの製造プロセスによって、本明細書を参照して明らかになるこのような目的及びその他の目的を達成する。
【0023】
本発明の更なる態様によれば、マルテンサイトを含まない超微細粒棒鋼のコンパクトコイルを製造するためのプラントが提供され、このプラントは、前記プロセスを実行するのに適しており、
鋼ビレットを圧延して棒鋼を得る粗圧延機と、
棒鋼を冷却する少なくとも1つの第1の冷却装置、及び、少なくとも1つの第1の空気中での均等化(equalization in air)を行う少なくとも1つの第1の均等化スペースと、
棒鋼を圧延する少なくとも1つの中間圧延機と、
棒鋼を冷却する少なくとも1つの第2の冷却装置、及び、少なくとも1つの第2の空気中での均等化(equalization in air)を行う少なくとも1つの第2の均等化スペースと、
棒鋼を圧延する仕上げ圧延機と、
棒鋼をコンパクトコイルに巻き取る少なくとも1つの巻き取り装置と、を含む。
【0024】
有利なことに、本発明のプロセスによって処理された棒鋼は、焼き入れ表面プロセスによって得られた特徴的な微細組織(即ち、フェライトとパーライトのコアを有するマルテンサイトの外輪)を有しておらず、棒の断面全体に均一に分布したフェライトとパーライトの混合物のみからなる微細組織を示す。機械的特性は、熱機械的圧延として合成可能な、交互の冷却-均等化-圧延段階(alternated cooling-equalizing-rolling stages)によるオーステナイト粒の微細化により得られる。小さなオーステナイト粒は、微細粒のフェライト-パーライト組織(ferritic-pearlitic texture)に迅速に変態する。従来の熱間圧延製品と比較して、同じ化学組成を維持する場合、この超微細粒製品は、より優れた機械的特性、特に高い延性(higher ductility)を示す。これらの冷却-均等化-圧延段階は、プラントの処理量に応じて、仕上げ圧延スタンド群の入口で所望の棒の表面温度に達することを可能にする、ウォーターボックスなどの冷却ボックスのような可変数の冷却装置を使用して、複数回繰り返すことができる。
【0025】
本発明に係る熱処理は、低/中炭素鋼の最も一般的な組成範囲の場合、200~1200MPa、例えば、400~1000MPa、又は400~700MPaの範囲の降伏応力(Yield stress)を有する、コンクリート補強用のリブ付き棒鋼のコンパクトコイルを製造するのに特に適している。
【0026】
必要に応じて、機械的特性への更なる寄与は、その後の巻き戻し及び矯正操作(加工硬化)、及び可能な自然エージング(natural ageing)からももたらすことができる。したがって、この特定の実施形態では、最終製品の機械的特性は、熱機械圧延、冷却ラインでの熱処理、矯正、及び可能なエージングの組み合わせによって得られる。
【0027】
以下、技術水準に対する本発明のソリューションの更なる利点をいくつか挙げる。
-全てのグレードのコンクリート補強用リブ付き棒に適用される。
-マルテンサイト及びベイナイトがないため、耐震性(seismic resistance)が向上し、矯正機の摩耗(wear of the straightening machine)が少ない。
-微細粒の微細組織により、微細合金元素の低減又は無添加が可能となり、製造コストを低減することができる。
【0028】
本発明の更なる特徴及び利点は、例示的であるが非排他的な実施形態の詳細な説明を参照して、より明らかになる。
【0029】
従属請求項は、本発明の特定の実施形態を説明する。
【0030】
本発明の説明では、非限定的な例として与えられた添付の図表を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】従来技術に係るスプーラにおける焼き入れ焼き戻しのためのプラントの第1のレイアウト概略図を示す。
図2】従来技術に係る軟質焼き入れのためのプラントの第2のレイアウト概略図を示す。
図3】本発明のプロセスが行われるプラントの第1の実施形態を示す。
図4】本発明のプロセスが行われるプラントの第2の実施形態を示す。
図5】本発明のプロセスが行われるプラントの第3の実施形態を示す。
図6】本発明のプロセスが行われるプラントの第4の実施形態を示す。
図7】熱機械圧延が適用可能な炭素及び温度範囲を強調表示したFe-C概略図を示す。
図8図1のレイアウトに沿って、既知の熱処理を施した棒鋼の冷却曲線(表面温度、平均温度及びコア温度)を示す。
図9図3のレイアウトに沿って、本発明に係る熱処理を施した棒鋼の冷却曲線(表面温度、平均温度及びコア温度)を示す。
図10図4のレイアウトに沿って、本発明に係る熱処理を施した棒鋼の冷却曲線(表面温度、平均温度及びコア温度)を示す。
図11図5のレイアウトに沿って、本発明に係る熱処理を施した棒鋼の冷却曲線(表面温度、平均温度及びコア温度)を示す。
図12図6のレイアウトに沿って、本発明に係る熱処理を施した棒鋼の冷却曲線(表面温度、平均温度及びコア温度)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、微細合金元素を添加しないか、又は最小限にして、マルテンサイトを含まない超微細粒径かつ高延性グレードのスプールされた棒鋼をより低い製造コストで製造することを可能にする、棒鋼のコンパクトコイルの製造プロセスに関する。
【0033】
本明細書では、「コンパクトコイル(compact coil)」という用語は、65%以上、好ましくは65~74%の範囲の充填係数を有するコイルを意味し、上記充填係数は、コイルの体積を考慮して、コイルの密度と鋼の理論密度との比として定義される。
【0034】
代わりに、「超微細粒(ultra-fine grained)」という用語は、微細組織が規格ASTM E112に準拠した9以上の平均粒径を有することを意味する。
【0035】
本発明のプロセスによって製造されたコイルの棒鋼は、好ましくは、8~40mmの範囲内のサイズ(即ち、直径)を有することができる。
【0036】
コイル重量は、1.0~10.0トンの範囲内、好ましくは、2.0~8.0トンの範囲内にある。
【0037】
図3図6は、本発明のプロセスを行うことができるプラントのレイアウトのいくつかの実施形態を示す。
【0038】
本発明の全ての実施形態において、マルテンサイトを含まない超微細粒棒鋼のコンパクトコイルの製造プロセスは、
a)粗圧延機1によって、初期表面温度が850~1200℃、好ましくは900~1100℃の鋼ビレットを圧延して棒鋼を製造する工程と、
b)棒鋼がマルテンサイト開始温度Msよりも高い表面温度を有するように、少なくとも1つの第1の冷却段階2を行い、かつ850~920℃の範囲内にある表面温度に達するまで、棒鋼のコアと表面との間の温度差を最小限に抑えるために、少なくとも1つの第1の空気中での均等化段階を行う工程と、
c)少なくとも1つの中間圧延機3、例えば、1つの中間圧延機のみによって棒鋼を圧延する工程と、
d)上記マルテンサイト開始温度Msよりも高い表面温度を常に維持する少なくとも1つの第2の冷却段階4を行い、かつ700~900℃、好ましくは750~840℃又は750~820℃の範囲内にある表面温度に達するまで、棒鋼のコアと表面との間の温度差を最小限に抑えるために、少なくとも1つの第2の空気中での均等化段階を行う工程と、
e)超微細粒オーステナイトマトリックスを得るために、仕上げ圧延機5を用いて未再結晶温度範囲(non-recrystallization temperature range)で棒鋼を圧延し、棒鋼の断面全体を上記未再結晶温度範囲内に維持し、仕上げ圧延機の入口で棒鋼の断面に対してトータルリダクション(total reduction,総圧下率)を25~50%とする工程と、
f)超微細粒オーステナイトマトリックスがフェライトとパーライトの混合物に変態するように、少なくとも1つのスプール装置(7)によって、500~800℃、好ましくは、500~750℃又は650~730℃の範囲内の巻き取り温度で、棒鋼をコンパクトコイルに巻き取る工程と、を含む。
【0039】
本発明のプロセスは、低/中炭素鋼の具体的な場合では、90~120t/hの処理量を有するプラントにおいて、上述した工程に従って行うことができる。
【0040】
工程a)の鋼ビレットは、再加熱炉、例えば、ガス炉又は誘導加熱器から、又は連続鋳造機(図示せず)から直接、粗圧延機1に入る。第1の圧延スタンド群、即ち粗圧延機1の入口における棒鋼の表面温度は、850~1200℃、好ましくは、900~1100℃の範囲内にある。
【0041】
好ましくは、鋼ビレットは、低炭素鋼又は中炭素鋼のビレットである。
【0042】
上記低/中炭素鋼は、重量パーセントで、0.28%以下の炭素、0.80%以下のケイ素、1.60%以下のマンガン、及び残部の鉄と不可避又は可能な不純物からなる。
【0043】
好ましくは、低/中炭素鋼は、重量パーセントで、0.20~0.25%の範囲の炭素、0.20~0.70%の範囲のケイ素、0.80~1.30%の範囲のマンガン、0.020~0.050%の範囲の可能なバナジウム、及び残部の鉄と不可避又は可能な不純物を含むか、又はこれらからなる。
【0044】
8~40mmのサイズ(直径)を有する棒鋼については、鋼組成の2つの非限定的な例を以下の表に開示する。
【0045】
【表1】
【0046】
このプロセスの一実施形態では、粗圧延機1の後、棒鋼は、その表面が以下の式に従って計算できるマルテンサイト開始温度(Ms)に達しないように、少なくとも1つの第1の冷却段階2によって冷却される。
Ms(℃)=512-453C-16.9Ni+15Cr-9.5Mo+217-71.5(CMn)-67.6(CCr)、
又は単純に、Ms(℃)=512-453C+217-71.5(CMn)。
【0047】
空気中での均等化スペースが上記少なくとも1つの第1の冷却段階2と次の中間圧延機3との間に設けられる。
【0048】
一変形例では、(図3図6に示すように)1つの第1の冷却段階2のみが設けられ、第1の冷却段階2と中間圧延機3との間に1つの第1の空気中での均等化段階のみが設けられる。或いは、少なくとも2つの第1の冷却段階2が設けられ、少なくとも2つの第1の冷却段階2の間及び最後の第1の冷却段階2と中間圧延機3との間の両方に、1つの第1の空気中での均等化段階が設けられる。例えば、2つの第1の冷却段階2が設けられ、2つの後続の第1の冷却段階2の間及び最後の第1の冷却段階2と中間圧延機3との間の両方に、それぞれの第1の空気中での均等化段階が設けられる。
【0049】
中間圧延機3の後に少なくとも2つの第2の冷却段階4が設けられ、棒の表面温度をより高く低下させるが、表面温度を常にMsより高く維持する。1つの第2の空気中での均等化段階は、少なくとも2つの第2の冷却段階4の間及び最後の第2の冷却段階4と仕上げ圧延機5との間の両方に設けられる。上記工程d)では、微細構造の変化は起こらず、棒の表面とコアの両方が完全にオーステナイト相のままである。
【0050】
好ましくは、2つ又は3つの第2の冷却段階4が設けられ、それぞれの第2の空気中での均等化段階は、2つの後続の第2の冷却段階4の間及び最後の第2の冷却段階4と仕上げ圧延機5との間に設けられる。したがって、2つの第2の冷却段階4が設けられる場合には、第2の空気中での均等化段階が2つとなる。代わりに、3つの第2の冷却段階4が設けられる場合には、第2の空気中での均等化段階は、3つとなる。
【0051】
必要に応じて、2つの後続の第2の冷却段階4の間の均等化スペースは、プラントの処理量に応じて8~25mの間で変化することができ、代わりに、最後の第2の冷却段階と次の仕上げ圧延機5との間の均等化スペースは、プラントの処理量に応じて25~50mの間で変化することができる。
【0052】
好ましくは、冷却-均等化-中間圧延段階(cooling-equalizing-intermediate rolling stages)は、複数回繰り返すことができ、プラントの処理量に応じて可変数の第2の冷却段階4を使用して、仕上げ圧延機5の入口で所望の棒の表面温度に達することができる。この場合、1つ以上の中間圧延機3が設けられる。追加の中間圧延機3は、2つのそれぞれの後続の第2の冷却段階4の間、特に、冷却段階4の後に設けられた均等化スペースと後続の冷却段階4との間に設けられる。
【0053】
第2の冷却段階4で施された冷却により、表面温度は、仕上げ圧延機5の入口で、700~900℃、好ましくは、750~840℃又は750~820℃の範囲に達するまで、徐々に低下する。
【0054】
全ての仕上げ圧延パスの間、棒の表面温度は、750~850℃又は750~840℃又は750~820℃などの未再結晶範囲(non-recrystallization range)内に維持される(例えば、図7を参照)。これは、オーステナイト粒径がハイリダクションの適用でリデュースされ(reduced applying a high reduction,高圧下で縮小され)(仕上げスタンド群で25~50%のトータルリダクション(total reduction,全縮小率))、利用可能な熱エネルギーの不足によってオーステナイトの再結晶と成長(recrystallization and growth of austenite)が抑制されることを意味する。特に、図7は、再結晶なしの熱機械圧延が適用可能な炭素及び温度範囲(ゾーンC)を強調表示したFe-C概略図を示す。
【0055】
有利には、仕上げ圧延パスの数は、4以下であるべきである。これ以上の回数の圧延を行うと、圧延された棒の内部の温度が上昇し、微細構造のプロセスを損なう可能性がある。
【0056】
仕上げ圧延機5の出口では、オーステナイト粒径の微細化と後続の可能な制御された冷却の結果として、最終粒径は超微細であり、規格ASTM E112のように9以上の値となる。
【0057】
マルテンサイトとベイナイトなどの脆弱な相がないことは、棒鋼の表面とコアとの間で測定された硬度(HV、好ましくは、HV0.5、即ち4.903Nの荷重で測定されたビッカース硬度)の差が減少することによって証明されている。この差は、有利には、40HV以下であり、好ましくは10~40HVの範囲内にある。
【0058】
好ましくは、仕上げ圧延工程e)と巻き取り工程f)との間に、棒鋼のコアと表面との間の温度差を最小限に抑え、所定の巻き取り温度に到達するまで、マルテンサイトの形成を常に回避するために、少なくとも1つの第3の冷却段階6及び少なくとも1つの第3の空気中での均等化段階が設けられる。
【0059】
一変形例では、少なくとも2つの第3の冷却段階6が設けられ、1つの第3の空気中での均等化段階は、少なくとも2つの第3の冷却装置段階6の間及び最後の第3の冷却段階6と少なくとも1つのスプール装置7との間の両方に設けられる。
【0060】
いずれにしても、1つ以上の第3の冷却段階6は、任意である。これらの冷却段階6は、仕上げ圧延機5から出た棒の表面温度が巻き取り作業に適切である場合、回避することができる。
【0061】
設けられる場合、好ましくは、第3の冷却段階6の数は、2~6である。
【0062】
その数及び後続の2つの冷却段階6の数との距離は、プラントの処理量に依存する。上記距離は、(図3図6に示すように)常に等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
異なるコイル層の冷却プロファイルを均一にし、機械的特性の広がりを可能な限り制限するために、1つ以上の冷却段階6を使用して、同じ棒鋼に沿って異なる巻き取り温度を得ることができる。必要に応じて、巻き取り工程では、最初と最後のコイル層は、他のコイル層よりも20~50℃高い温度で巻き取られる。巻き取り作業の基準温度範囲は、最初と最後のコイル層の温度が高いことを含めて、500~800℃、好ましくは650~730℃である。
【0064】
図3に示す第1の実施形態では、冷却段階6が設けられていない。1つの冷却段階2及び2つの冷却段階4のみが設けられる。
【0065】
図4に示す第2の実施形態では、3つの冷却段階6が設けられる。
【0066】
図5に示す第3の実施形態では、5つの冷却段階6が設けられる。
【0067】
図6に示す第4の実施形態では、6つの冷却段階6が設けられる。
【0068】
図3図6のこれらの実施形態では、1つの冷却段階2及び2つ(或いは3つ)の冷却段階4のみが設けられる。
【0069】
図9図10図11図12は、それぞれ、図3図4図5図6のレイアウトに沿って、本発明に係る熱処理を施した棒鋼の冷却曲線20、21、22(表面温度、平均温度及びコア温度)を示す。
【0070】
水平の点線は、約500℃でのマルテンサイト開始温度Msを示す。
【0071】
本発明のプロセスの全ての工程では、図1のレイアウトに沿ってQTS熱処理を施した棒鋼の冷却曲線(図8を参照)とは異なり、棒鋼の表面温度は、常に上記マルテンサイト開始温度Ms以上に維持される。
【0072】
好ましくは、少なくとも1つの第1の冷却段階2は、それぞれの第1の冷却装置によって実行され、少なくとも1つの第2の冷却段階4は、それぞれの第2の冷却装置によって実行され、少なくとも1つの可能な第3の冷却段階6は、それぞれの第3の冷却装置によって実行される。
【0073】
一例として、第1、第2、第3の冷却段階は、水冷段階であり、第1、第2、第3の冷却装置は、冷却ボックス、例えば、水冷ボックスである。好ましくは、全ての冷却段階2、4、6で使用される作業圧力(work pressure)は、0.2~0.6MPaの範囲内にある。
【0074】
後続の2つの冷却ボックスの間の距離は、プラントの処理量に応じて8~25mの間で変化することができ、一方、最後の冷却ボックスと次の圧延機との間の距離は、プラントの処理量に応じて25~50mの間で変化することができる。
【0075】
冷却ボックスの数とそれらの間の距離、及び、最後の冷却ボックスと次の圧延スタンド群との間の距離は、ラインの処理量と処理する鋼グレードに依存する。プラントの最後の冷却ボックスの下流には、処理された材料を例えばリールに巻き取るための2つ以上のスプール装置7が設けられる。
【0076】
必要に応じて、全ての実施形態では、棒鋼の表面温度は、粗圧延機1、中間圧延機3及び仕上げ圧延機5の各々の入口と出口の両方に設けられたセンサ、例えば、高温計(pyrometer)によって監視することができる。上記少なくとも1つの第1の冷却段階2及び上記少なくとも1つの第2の冷却段階4及び可能な上記少なくとも1つの第3の冷却段階6の動作パラメータは、上記センサの読み取り値に基づいて、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の両方で動作する閉ループ自動制御によって管理することができる。
【0077】
冷却段階の数をライン全体に設けることで、冷却の強さを、棒鋼の化学組成及び最終製品に必要な機械的特性に適合させることができる。同様に、化学組成は、より高い機械的特性を達成する必要性をバランスさせるために用いることができるが、冷却段階内での冷却又は圧延温度(rolling temperature)の低下とは無関係である。この目的には、マイクロ合金鋼ビレット(Micro alloyed steel billet)を用いることができる。
【0078】
巻き取り工程中及び巻き取り工程の直後に、超微細粒オーステナイトマトリックスは、フェライトとパーライトとの微細な混合物中で変態する。その結果、同じ最終製品の降伏強度(yield strength)が与えられた場合、表面が焼き入れされたスプール鉄筋と比較して、材料は、より高い延性を有する。
【0079】
巻き取り作業が完了した後、コンパクトコイルは、ウォーキングビームなどの搬送装置8によって保管領域に搬送されながら、自然冷却又は強制冷却又は遅延冷却される。
【0080】
好ましくは、移送装置8に載置されたときのコイルの表面温度は、600~700℃の範囲内にある。
【0081】
搬送装置8に沿って、コイルは、自然の空気対流によって冷却することができ、或いは、その冷却プロファイルは、適切な装置を使用して変更することができる。冷却プロファイルは、搬送装置8に沿って設けられた、例えば、ファンを使用して空気又は空気ミストを吹き付けることによって加速することができるか、又は、搬送装置を覆う、フード又はアクティブソーク炉などを使用して遅らせることができる。コイルの冷却プロファイルを変更することは、フェライト-パーライト混合物(ferritic-pearlitic mixture)の形態に更に影響を与えることに役立つことができる。
【0082】
必要に応じて、保管領域を室温まで冷却した後に、コイルを巻き戻して矯正することができる。この操作により、降伏強度と引張強度(yield and tensile strength)が(わずかに)向上し、破断伸び(fracture elongation)が低下する。このような矯正パラメータによって、加工硬化の程度を異ならせることができる。いずれにしても、棒鋼の延性は、良好なままである。
【0083】
本発明の本質をよりよく理解するために、GB 1499-2:2018規格-グレードHRBF400Eに準拠して得られるいくつかの典型的な機械的特性を以下に示す。
【0084】
【表2】
ここで、
YS=降伏応力(Yield Stress)
UTS=極限引張応力(Ultimate Tensile Stress)
EL=破断伸び(fracture elongation)
極限引張応力と降伏応力との比から、材料の延性を把握することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12