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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】摘花方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/06 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A01G7/06 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023077784
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2020572360の分割
【原出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2023106461
(43)【公開日】2023-08-01
【審査請求日】2023-05-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0029967
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520352894
【氏名又は名称】チャン,イン クック
【氏名又は名称原語表記】CHANG,In Kook
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】チャン,イン クック
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-198703(JP,A)
【文献】特開平06-239703(JP,A)
【文献】特開昭48-098019(JP,A)
【文献】特開2006-008515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01N 25/00
A01N 31/00
A01P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撒布時ミツバチに安全な摘花用組成物を撒布する摘花方法であって、前記摘花用組成物の中、アルコール濃度は撒布濃度が0.2%(V/V)超過0.8%(V/V)以下であり、
前記摘花用組成物は、C6乃至C12の脂肪族アルコールの中から選ばれる1種以上を含み、かつ乳化剤を1種以上含み、
前記C6乃至C12の脂肪族アルコールは、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-ウンデカノール、2-エチル-1-ヘキサノール、又はシクロヘキサノールであることを特徴とする、摘花方法。
【請求項2】
撒布時ミツバチに安全な摘花用組成物を撒布する摘花方法であって、前記摘花用組成物の中、アルコール濃度は撒布濃度が0.2%(V/V)超過0.4%(V/V)以下であり、
前記摘花用組成物は、C 6 乃至C 12 の脂肪族アルコールを含み、かつ乳化剤を1種以上含み、
前記C 6 乃至C 12 の脂肪族アルコールは、1-オクタノールと1-デカノールの混合物であることを特徴とする、摘花方法。
【請求項3】
前記摘花用組成物は、前記脂肪族アルコールと1種以上の乳化剤を混合したアルコール乳剤を含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の摘花方法。
【請求項4】
前記乳化剤は、非イオン性乳化剤であることを特徴とする、請求項3に記載の摘花方法。
【請求項5】
前記乳化剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(polyoxyethylene(20) sorbitan monooleate)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(polyoxyethylene (20) sorbitan monolaurate)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(polyoxyethylene (20) sorbitan monostearate)、ソルビタンモノオレエート(sorbitan monooleate)、ソルビタンモノラウレート(sorbitan monolaurate)、脂肪酸エトキシレート、ステアリン酸グリセロールの中から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項3に記載の摘花方法。
【請求項6】
前記乳化剤は、脂肪族アルコールに対して3乃至50重量%を含むことを特徴とする、請求項3に記載の摘花方法。
【請求項7】
前記摘花用組成物の撒布時期は、側花満開時であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の摘花方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度撒布の際、ミツバチ(honeybees)に安全な摘花用組成物及びこれを用
いた摘花方法に関する。
【0002】
りんご、なし、みかん、ももなどの多年生果樹作物は、気候条件の良い年に着果が多くなると、栄養分の消耗により翌年には過少な開花数及び着果数が発生して隔年結実になる。なお、着果が多くなる年の果実は大きさが小さくて品質が劣る。
【0003】
果樹の栽培において、毎年高品質の果実を一定量収穫するためには、摘花及び摘果を行って一定量水準の着果数を維持する。摘花や摘果は、化学物質を使用する以前には手作業で花や若い果実を除去したので、手間がかかった。現在は、化学物質の使用と並行して手作業で摘花や摘花を行っている。
【0004】
摘花用組成物、つまり摘花剤(Flower thinning agent)は、果数の結実量を調節するた
めに花粉の発芽を阻止したり、受精を妨害したりすることにより、花や若い果実が落ちるようにする薬剤をいう。
【背景技術】
【0005】
科学物質を使用する摘花剤は、初期には石灰硫黄合剤や尿素のような肥料を高濃度 (1~6 %)で使用して、花の雌蕊、雄蕊、又は花びら、花托又は花梗などに害を与え、焦が
して受精ができないようにしたり、傷ついた部位でエチレンが生成されたり、花梗の基部の切断層(abscission layer)を活性化したりして花が落ちるようにする。エチレンは、気体形態の植物ホルモンで果実の熟期、植物の老化などの関与し、葉柄や花梗の切断層を活性化して落ち葉や落果を誘発するホルモンとして知られている。最近は、肥料の1種であるチオ硫酸アンモニウム(ammonium thiosulphate、ATS)が石灰硫黄合剤や尿素よりももっと効果的な摘花剤として知られているが、これらの物質は、気候条件、土質、作況に応じて効果が不均一で、高濃度で使用して若葉や花托、花梗、若い果実などに害を与える場合があって、使用上の困難性がある。なお、ATSは、光合成を妨害して果樹植物全体の生育
に害を与えられ、ATS撒布溶液の容積を減らすと、ATSは高濃度(10 %以上)で撒布してこそ効果があるが、果実と新芽に薬害を引き起こす可能性があると知られている。
【0006】
肥料以外にも、多くの化学物質が摘花剤の効果を調べるために試験されており、脂肪酸(fatty acids)と該誘導体らは、1990年初米国特許(US 5242891 A) (Methods for fruit thinning comprising applying fatty acids or derivatives thereof to flowers)と登録されたが、若葉に薬害が発生し、脂肪酸はミツバチに毒性が強よいため、一部のヨーロッパ国家では摘花剤として使用登録されなかった(EFSA jounal、2013;11(1):3023 Conclusion on the peer review of the pesticide risk assessment of the active substance
Fatty acids C7 to C18 (approved under Regulation (EC) No 1107/2009 as Fatty acids C7 to C20))。
【0007】
摘花剤は、ミツバチが花粉を採取して花を受精させる時期に撒布されることにより、ミツバチに安全な物質が要求されてきた。特に、近年、世界的にミツバチの個体数が急激に減少しており、ミツバチへの毒性が高い脂肪酸や油などの使用を自制する雰囲気である。
【0008】
脂肪族アルコールは、高濃度(体積濃度の比率で2 %~8 %)で植物の若葉、芽、腋芽及び頂芽(axillary and terminal bud)などを焦げて殺すことができる。炭素水が他の脂肪
族アルコールを混合する場合、相乗的に(synergistically)焦げる効果を高めることがで
きるということが知られている(US 5424272A: In-Kook Chang、1995)(Fatty alcohol composition and method for controlling axillary and terminal buds of agronomic、horticultural and forestary crops)。
【0009】
乳化されない純粋な脂肪族アルコールなどは、植物に薬害を誘発するが、乳化剤を使用して乳化された脂肪族アルコールを4~6 %で水に希釈して撒布すると、タバコの若い腋芽を焦げて殺せるが、本葉らは薬害がほとんどなくてタバコの腋芽の抑制剤として使用されている(S.L、Steffens、T. C. Tso and D.W. Spaulding、Fatty alcohol inhibition of tobacco axillary and terminal bud growth. J. Agr. Food chem. Vol 15、No 6 : 972-975、1967)。上記した効果を利用してE.D. Coneva and J.A. Clineは、ももの摘花を試験するために3~4 %デシルアルコール(1-decanol)を使用したが、ももの葉に顕著な薬
害が発生した(Hortscience 41(5) : 1253 - 1258、2006)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の化学物質摘花剤は、摘花剤の使用濃度、摘花剤の散布容量、使用方法及び使用時期に十分な摘花効果を示すと同時に、気候、土質、施肥、品種などの生育条件に応じる変移を最小化でき、若葉などの葉と果実の形成部位にユーザが受け入れる程度で薬害がないべきであり、ミツバチなどの花粉の受精媒介昆虫に対する薬剤として登録されることができる程度で害がないべきである。
【0011】
本発明は、摘花効果がある最小限の低濃度でミツバチに毒性が低いか、又はない脂肪族アルコールを含む摘花用組成物を提供することにある。
【0012】
本発明は、薬効を最大化し、薬害を最小化すると同時に、ミツバチに害が少ないか、又はない脂肪族アルコール製剤の使用濃度範囲を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した課題を解決するために、本発明の摘花用組成物は、C6乃至C12の脂肪族アルコ
ールの中から選ばれる1種以上を含んだり、C6乃至C12の脂肪酸メチルエステルの中から
選ばれる1種以上のメチルエステル化物を含んだり、一つ以上の二重結合を有するC10
至C18の脂肪族アルコールの中から選ばれる1種以上を含んだり、C6乃至C8の芳香族アル
コールの中から選ばれる1種以上を含んだりすることを特徴とする。
【0014】
なお、前記脂肪族アルコール又は芳香族アルコールと1種以上の乳化剤を混合するアルコール乳剤を含むことを特徴とする。
【0015】
また、C6乃至C12の脂肪族アルコールは、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタ
ノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール又は2-エチル-1-ヘキサノールであることを特徴とする。
【0016】
なお、C6乃至C12の脂肪酸メチルエステルの中から選ばれる少なくとも1種のメチルエ
ステル化物は、オクタン酸メチル(methyl octanoate)、デカン酸メチル(methyl decanoate)、又はこれらの混合物であることを特徴とする。
【0017】
また、一つ以上の二重結合を有するC10乃至C18の脂肪族アルコールは、オレイルアルコール(Oleyl alcohol)であることを特徴とする。
【0018】
また、C6乃至C8の芳香族アルコールは、シクロヘキサノール(cyclohexanol)であることを特徴とする。
【0019】
また、前記乳化剤は非イオン性乳化剤であることを特徴とする。
【0020】
また、前記乳化剤は、Tween-80(POE(20) sorbitan monooleate)、Tween-20(POE(20) sorbitan monolaurate)、Tween-60(POE(20) sorbitan monostearate)、Span-80(sorbitan monooleate)、Span-20(sorbitan monolaurate)、脂肪酸エトキシレート(fatty acid ethoxylates)又はステアリン酸グリセロール(glycerol stearates)の中から乳化剤のHLB(hydrophyllic-lipophyllic balance)が最適化されるように選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【0021】
また、乳化剤は、脂肪族アルコールに比して3乃至50 重量%を含むことを特徴とする。
【0022】
また、C6乃至C12の脂肪族アルコールの中から選ばれる1種以上で、前記脂肪族アルコ
ールの中から相異なる2種を選び、特に1-オクタノールと1-デカノールの合剤であるこ
とを特徴とする。
【0023】
本発明の摘花方法は、摘花用組成物の撒布時期は側花満開時であることを特徴とする。
【0024】
また、摘花用組成物の中でアルコール濃度は、撒布濃度が0.01 %(V/V)乃至0.8 %(V/V)
であり、より好ましくは0.05 %乃至0.2 %(V/V)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の摘花剤は、十分な摘花効果を示すと同時に、若葉などの葉と果実の形成部位に薬害がなく、ミツバチなどの花粉の受精媒介昆虫に対する害が少ないか、又はない効果がある。なお、気候、土質、施肥、品種などの生育条件に応じる変移を最小化できる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のミツバチに安全な低濃度の脂肪族アルコールを含む摘花剤に関してより詳細に説明する。
【0027】
本発明は、特殊な脂肪族アルコール及びこれらのアルコールを特定比率で混合した組成物であって、薬効が十分な濃度及び薬量の範囲において薬害を誘発させずに、低濃度の撒布時、ミツバチに害がない摘花用組成物を提供し、これを用いた摘花方法を提供することにある。
【0028】
本発明は、C6乃至C12の線形(linear)又は分岐(branched)脂肪族アルコールの中から選
ばれる1種以上を含んだり、C6乃至C12の脂肪酸メチルエステルの中から選ばれる1種以
上のメチルエステルを含んだり、一つ以上の二重結合を有するC10乃至C18の脂肪族アルコールの中から選ばれる1種以上を含んだり、C6乃至C8の芳香族アルコールの中から選ばれる1種以上を含んだりすることを特徴とする、低濃度で散布する場合、ミツバチに安全な摘花用組成物を提供する。
【0029】
なお、本発明は、前記脂肪族アルコール又は芳香族アルコールと1種以上の乳化剤を混合するアルコール乳剤を含むことを特徴とする、低濃度で散布する場合、ミツバチに安全な摘花用組成物を提供する。
【0030】
本発明のC6乃至 C12の脂肪族アルコールは、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール又は2-エチル-1-ヘキサノールであり、このアルコールの中から選ばれる少なくとも1種以上を混合
して使用することができる。
【0031】
なお、本発明は、本発明のC6乃至C12の脂肪族アルコールの中、炭素水が相異なる2種
以上を混合して薬害とミツバチに対する毒性が軽減され、薬効が増加される摘花用組成物を提供する。
【0032】
前記炭素水6個乃至12個の脂肪族アルコールの中から選ばれる各1種以上のアルコールは、前記脂肪族アルコールの中から2種を選ぶ場合、1-オクタノールと1-デカノール、
1-デカノールと1-ドデカノール、又は1-オクタノールと1-ドデカノールであることが
好ましい。
【0033】
本発明のC6乃至C12の脂肪酸メチルエステルの中から選ばれる1種以上のメチルエステ
ル化物は、C8脂肪族アルコールのメチルエステル(methylester)であるオクタン酸メチル(methyl octanoate)、又はデカン酸メチル(methyl decanoate)、又はこれらの混合物であ
ることが好ましい。
【0034】
本発明の一つ以上の二重結合を有するC10乃至C18の脂肪族アルコールは、オレイルアルコールであることが好ましい。
【0035】
本発明のC6乃至C8の芳香族アルコールは、シクロヘキサノールであることが好ましい。
【0036】
本発明の摘花用組成物は、果樹栽培の際、摘花効果を示すために花に処理しなければならず、処理する方法として水に希釈して散布しなければならないが、脂肪族アルコールは水に殆ど溶けずに分離されるため、乳化剤を使用して水に乳化させた後、散布することになる。乳化剤としては、非イオン性(nonionic)、陰イオン性(anionic)、又は陽イオン性(cationic)の乳化剤が使用され得るが、使用される水の電解物質の濃度が多様な可能性が
あるので、非イオン性(nonionic)乳化剤又は界面活性剤が主に使用される。なお、本発明の乳化剤は中性(非イオン性)乳化剤が使用され得る。
【0037】
脂肪族アルコール又は芳香族アルコール乳化に適した乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル(sorbitan fatty acid ester)系統の乳化剤とポリオキシエチレンソルビタン
脂肪酸エステル(polyoxyethylene(POE) sorbitan fatty acid ester)系統の乳化剤があるが、これらの乳化剤のみに限定されて乳化され得るというわけではないことは、当該分野の技術者にとってよく理解できるであろう。
【0038】
より詳細には、本発明において前記乳化剤は、Tween-80(POE(20) sorbitan monooleate)、Tween-20(POE(20) sorbitan monolaurate)、Tween-60(POE(20) sorbitan monostearate)、Span-80(sorbitan monooleate)、Span-20(sorbitan monolaurate)、脂肪酸エトキシ
レート(fatty acid ethoxylates)又はステアリン酸グリセロール(glycerol stearates)の中から乳化剤のHLB(hydrophyllic-lipophyllic balance)が最適化されるように選ばれる
1種以上を使用し得る。
【0039】
これらの乳化剤は、重量比率で脂肪族アルコール製剤の3 重量%(wt%)から50 重量%(wt%)で構成され得る。乳化剤の両が重量割合で製剤量の3 %未満であると、製剤が不安定で乳化がうまくならず、脂肪族アルコールが分離されて薬害を誘発させる恐れがあり、乳化剤が 50 %超過であると、有効成分量が減って薬効が減少することができる。
【0040】
本発明の摘花用組成物の中、アルコール乳剤においてアルコール濃度は、アルコール撒布濃度が体積濃度で0.01 vol%乃至1 vol%、薬害の勘案時、特に、0.01 vol%乃至0.8 vol%の製剤濃度として低濃度であることが好ましく、0.01 vol%未満では薬効が商業的に許容
されない程度で低く、1 vol%超過の高濃度では薬害が発生する。また、より好ましくは、体積濃度で0.05 vol%乃至0.4 vol%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05 vol%乃至0.2 vol%である。乳化剤中の脂肪酸メチルエステルの混合物は撒布濃度が0.05 vol%~0.2 vol%である。Vol%とは、%(v/v)を意味する。
【0041】
本発明のアルコール乳剤は、アセトンに溶解された原剤よりもミツバチに対する毒性が低い効果がある。
【0042】
本発明の摘花剤の撒布時期は側花満開時であることが好ましい。なお、摘花効果を高めたり、ミツバチの毒性や薬害を減らしたりするために、又は乳剤の安定性や、乳化された撒布液の安定性などを高めたりするために、異なる界面活性剤や物質を添加できるということは、当該分野の技術者には周知である。例として、摘花効果を高めるために界面活性剤として脂肪族アルコールエトキシレート(fatty alcohol ethoxylates)や脂肪酸エトキ
シレート(fatty acid ethoxylates)を添加することもできる。
【0043】
以下、具体的な実施例を通じて本発明を詳細に説明し、このような実施例は、単に本発明を例示するためのもので、本発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
【0044】
[実施例1]線形の一つの脂肪族アルコール製剤の薬効と薬害試験
18℃で液体状態である線形脂肪族アルコールである1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノール又はオレイルアルコールのフジりんご品種の摘花効果程度を低濃度で試験した。薬液は、花房(flower cluster)当たり、流れるほどの十分な量で左右両方向でDIA(FURUPLA DIA SPRAY 570、株式会社フルプラ)ハンディスプレーで散布した。
【0045】
試験は、側花満開時(2014年4月25日)に処理され、薬害調査は、処理4日後(4月29日)と11日後(5月6日)達観調査された。摘花効果調査は、処理20日後(5月15日)摘花さ
れず、着果された幼果の数を記録して測定された。無処理に比して摘花能は、(1-処理幼果数/無処理幼果数)の百分率で提示された。本試験は、一つの花房を一度で8回を繰り返した。りんごの花の受精は自然受精されるようにした。花房当たり、側花の数は平均5つであった。本発明の一つのアルコール製剤の摘花効果に対する試験結果は下記表1に示した。
【0046】
【表1】
【0047】
表1中の1)薬害(基準)は以下のとおりである。
1:処理群で新梢(shoots)の10 %以下が焦げたり、新梢の色又は模様が変わったりする場合、商用で使用できる薬害の限界。
2:10~30 %の新梢又は成葉が焦げた場合。
3:30~50 %の新梢又は成葉が焦げた場合。
4: 50 %以上の新梢又は成葉が焦げた場合。
【0048】
表1中の2)側花摘花率は、無処理対比の摘花率に、(1-処理側花着果数/無処理側花着果数)×100を掛けた値である。
【0049】
表1中の全体摘花率は、無処理対比の摘花率に、(1-全体処理着果数/無処理全体着果数)×100を掛けた値である。
【0050】
1-オクタノールは、1 %(V/V)濃度で薬効は充分であるが、商用で使用できない程度の薬害等級2の効果を示した。しかし、低濃度である0.2 %では、薬害は商用で許容できる程
度(等級1)であった。1-オクタノールの無処理対比の側花摘花効果は68 %で石灰硫黄混合物42 %よりも優れていた。側花の自然落果率は50 %程度であった。1-デカノールは、0.01~0.05 %の低濃度で薬害を発見することができなかった。
【0051】
[実験例2] 混合脂肪族アルコール製剤の薬効と薬害試験
【0052】
18 ℃で液体状態である線形脂肪族アルコール1-オクタノール又は1-デカノールと、18 ℃で固体状態である1-ドデカノールを一定の比率で混合する場合、これらの混合物は
、1-ドデカノールの含量によって18 ℃で液体状態を維持することができる。また、1-オクタノールと1-ドデカノールの混合物、1-デカノールと1-ドデカノールの混合物、1-オクタノールと1-デカノールの混合物、n-オクタン酸メチル(methyl n-octanoate)とn-デカン酸メチル(methyl n-decanoate)の混合物(又は、C810 methyl ester mixture)、及び1-
オクタノールと1-デカノール混合物のメチルエステル化物は、それぞれ乳化剤であるプ
ロエム(Proem)(Tween80 85 wt% + Tween20 15 wt% , W/W混合物)を20 %の重量比率で混
合した後、一定の濃度(V/V)で水道水に希釈して実験例1と同じ方法で散布した。他のす
べての試験方法は、実験例1と同じであった。本発明の脂肪族アルコール混合物及び脂肪酸メチルエステル混合物の摘花効果に関し、下記表2に示した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2中の1)薬害基準は、表1と同じであり、2)IAP-4832(C10 + C12 アルコール混
合物乳剤), IAP-812(C8 + C12アルコール混合物乳剤), IAP-108(C8+ C10 アルコール混合物乳剤) 及びIAP-M810は、 Methyl ester of C810 fatty acids(C8 + C10脂肪酸メチルエステル混合物)乳剤を意味する。
【0055】
表2中3)Jeok & BeeはSunnong Chemical Co., Ltd製品、及び4)Koduriは、Apple Co., Ltd製品である。
【0056】
1-オクタノール40 wt%、1-ドデカノール40 wt%とProem 20 wt%の混合物(W/W)脂肪族アルコール製剤(IAP-812)処理群において最も高い側花摘花効果を示し、0.2 %(V/V)撒
布濃度で無処理対比90 %に近い側花摘花効果を示した。
【0057】
1-オクタノールと1-デカノール混合物 IAP-108(C8 32 % + C10 48 % W/W)製剤の摘
花効果はIAP-812よりも低かったが、IAP-4832(C10 32 % + C1248 % w/w)よりは高かった
。C810メチルエステル(IAP-M810)も0.2 %(V/V)濃度で十分な(74 %側花摘花)効果があった。
【0058】
一つのアルコール製剤、つまり、1-オクタノール又は1-デカノールの側花摘花効果
は、同じ撒布濃度で混合製剤よりも低かった。つまり、0.2 %撒布濃度で有効成分として
1-オクタノール又は1-デカノールを一つのアルコール製剤で使用して得られたそれぞれの摘花効果寄与度55.4 %に比して、脂肪族アルコールの混合比率で混合する場合、IAP-108摘花効果を89 %で相乗効果(synergistic effect)があることが立証された。
【0059】
相乗効果(synergism)は次のように得られた。0.2 %の撒布濃度で1-オクタノール摘花
効果(表1)は68 %であり、IAP-108における各有効成分間の含量は40 %で、IAP-108における1-オクタノールの摘花寄与度は68 % X 0.4 = 27.2 %であり、1-デカノール摘花効果(表1)は47 %で、1-デカノールの摘花寄与度は47 % X 0.6 = 28.2 %で、IAP-108摘花効果期待値は27.2 % + 28.2 % = 55.4 %である。しかし、実際、IAP-108の摘花効果は89 %で
示した。
【0060】
本発明の脂肪族アルコール混合物は、撒布濃度0.2 %又はその以下では薬害が微々たる
か、ないものと示した。
【0061】
[実験例3]
使用時期(化学薬剤撒布時期;(Chemical Agent Spray Time))による薬効試験
【0062】
中心花は着果させ、側花の受精を妨害することにより、側花をより効率的に摘花できる薬剤の撒布時期を調べるために、中心花満開50 %の時期から側花満開の三日後までに4等
分して試験した。すべての試験方法は、実験例2と同じ組成で実験例1の方法で散布する。
【0063】
【表3-1】
【0064】
【表3-2】
前記 IAP-4832は、重量比率で1-デカノール32 %、1-ドデカノール48 %、プロエム(Proem)20 %である。また、前記IAP-108は、重量比率で1-オクタノール32 %、1-デカノール48 %、プロエム20 %である。また、前記IAP-2080は、重量比率で1-オクタノール64 %、
1-デカノール16 %、プロエム20 %である。前記表3-1及び3-2において、それぞれ
の薬剤撒布時期毎に6個の薬剤処理に対する平均側花摘花率は、無処理した対照群の場合に比して、最高の薬剤散布時期が側花満開時であることが最も効率的であることを確認することができる。
【0065】
[実験例4]ミツバチに対する毒性評価試験
【0066】
摘花剤を撒布する時期は、ミツバチがりんごの花を受精する時期であるため、撒布薬剤
のミツバチに対する毒性は重要な問題である。特に、過去10余年間、地球上でミツバチの個体数が減少しているため、ミツバチに毒性のある物質は開花時期に使用禁止される趨勢である。脂肪酸などは、ミツバチに毒性が高いため、EUなどでは開花時に使用が制限されている。
【0067】
脂肪族アルコールのミツバチに対する毒性を調べるために、次のように各種脂肪族アルコール原剤(>98 %)をアセトンに溶解して急性接触毒性を致死率で表4に提示した。また
、同じ試験で脂肪酸のミツバチ接触毒性も比較して表4に示した。
【0068】
ミツバチへの接触毒性試験は、野外養蜂団地で飼育された健康なミツバチを飼育ケージで馴化させた後、CO2で麻酔させ、一つの試験用ケージに13個体ずつ入れて麻酔から覚め
なかったか又は無気力な3個体を除去し、健康なミツバチ10匹を1個体当たり、アセトン
に溶解された脂肪族アルコール原剤を1 ul容量でミツバチの胸部に処理した。この試験用ケージ当たり10個体に対して前記処理を3回繰り返して、摂氏25 ℃の暗条件で72時間飼
育した後、致死率を測定した。
【0069】
【表4】
【0070】
表4中1)処理薬量は、ミツバチ1匹当たり処理有効成分の量、2)処理72時間後測定の致死率は3回繰り返した平均値である。
【0071】
1-ヘキサノールは、200 ug有効成分の処理薬の量でも毒性がなかったが、炭素水が増加しながら毒性が強くなり、1-デカノール(C10)で最大致死率を示した。
【0072】
また、1-デカノールを除いた脂肪族アルコールは、同じ炭素水の脂肪酸よりもミツバチに対し毒性が低かったが、1-デカノールは1-デカン酸よりも毒性が高かった。
【0073】
[実験例5]有効成分の原剤と製剤との毒性差評価試験
【0074】
同じ有効成分の量で原剤をアセトンに溶解して処理した場合のミツバチ毒性と、脂肪ア
ルコールをツイン-80(Tween-80, polyoxyethylene(20)sorbitanmonooleate) 17 %(W/W)で製造したアルコール乳剤で処理した場合のミツバチ毒性を比較した。すべての試験方法は、実験例4における方法と同じである。
【0075】
【表5】
【0076】
表5のアルコール乳剤IAP-8060で使用された脂肪族アルコールは1-ヘキサノールであり、IAP-8040で使用された脂肪族アルコールは1-ヘプタノールであり、IAP-8050で使用
された脂肪族アルコールはシクロヘキサノールであり、IAP-8070で使用された脂肪族アルコールは2-エチル-1-ヘキサノールであり、IAP-8000で使用された脂肪族アルコールは1-
オクタノールであり、IAP-8010で使用された脂肪族アルコールは1-デカノールである。同じ原剤で製造されたアルコール乳剤は、アセトンに溶解された原剤よりもミツバチに対する毒性が低いことを確認できる。
【0077】
[実験例6]製剤濃度によるミツバチ撒布毒性の評価
【0078】
各種脂肪族アルコール乳剤で製造された製剤は、摘花効果のある濃度で摘花剤を撒布する方法によりミツバチに撒布し、毒性を試験した。すべての一つの脂肪族アルコール単剤とアルコール混合物合剤は、実験例5の方法により製造した。ミツバチ薬剤の撒布方法を除いたすべての試験方法は実験例4の方法と同じであり、使用された試験薬剤は表6に示したものと同じである。
【0079】
ミツバチは、摘花剤を撒布した改造噴霧器を用いて、ミツバチ10匹を背中が上を向くようにし、同じ高さと圧力で0.35 mlずつ2回撒布して薬液がミツバチの背中の方にほぼ覆われるように噴射した。本発明の製剤のミツバチ撒布毒性テスト結果を下記表6に示した。
【0080】
【表6】
【0081】
1-オクタノール乳剤(IAP-8000)は、撒布濃度0.2 %(V/V)から0.8 %(V/V)まで毒性がなかった。1-オレイルアルコール(1-oleyl alcohol)乳剤(IAP-8080)及びIAP-108(1-オクタノ
ールと1-デカノール混合物製剤)乳剤は0.1 %で毒性がなく、1-ヘキサノール乳剤(IAP-8060)は0.2 %の撒布濃度で毒性がなかった。IAP-812(1-オクタノールと1-ドデカノール混合物製剤)は0.2 %濃度で優れた摘花効果があったが、同じ濃度で高いミツバチ毒性を示し、1-デカノール乳剤(IAP-8010)よりももっと高いミツバチ毒性を示した。
【0082】
実験例6において、IAP-108混合物製剤は、一つのアルコール単剤で処理されたIAP-8000とIAP-8010の摘花効果よりももっと高い摘花相乗効果(synergistic effect)があったが
、ミツバチ96時間の毒性では、却って一つのアルコール単剤で処理されたミツバチ毒性(0.2 %の撒布濃度で1-オクタノール13.3 %の致死率と1-デカノール33.3 %の致死率とで計算された含量比率寄与度は25.3 %で、この期待値に比してIAP-108の0.2 %致死率は20 %)
よりも混合物製剤であるIAP-108のミツバチ毒性が低かった。0.4 %の撒布濃度では、1-
オクタノール毒性13.3 %と1-デカノール毒性43.3 %の致死率とで計算された含量比率寄与度は35.3 %で、IAP-108毒性16.7 %よりも高かった。1-オクタノールと1-デカノールのミツバチ毒性を軽減する相乗作用(synergism)は、0.8 %の撒布濃度では示されなかった。