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特許7599014グアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストおよび短鎖脂肪酸またはそのプロドラッグの組み合わせを含む医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】グアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストおよび短鎖脂肪酸またはそのプロドラッグの組み合わせを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20241205BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61K31/19
A61K31/215
A61K38/10
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P1/04
A61K45/00
A61K9/48
A61K9/20
A61K9/16
A61K9/14
A61K9/06
A61K9/02
A61P43/00 105
A61P43/00 123
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023523325
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2020068394
(87)【国際公開番号】W WO2022002369
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】523001603
【氏名又は名称】オクヴィルク,ゼレン
【氏名又は名称原語表記】OCVIRK, Soren
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】オクヴィルク,ゼレン
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110935007(CN,A)
【文献】特表2014-524444(JP,A)
【文献】特表2019-512019(JP,A)
【文献】国際公開第2020/089396(WO,A1)
【文献】特表2017-537960(JP,A)
【文献】特表2018-519252(JP,A)
【文献】特表2019-509278(JP,A)
【文献】Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition,2022年10月,Vol.75, Supplement 1,pp. S449-S450, Abstract Number: 617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/327
A61K 38/00-38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のグアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストと短鎖脂肪酸および/またはその塩および/またはエステルとの組み合わせならびに1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物であって、
グアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストがリナクロチドであり、かつ短鎖脂肪酸が、酪酸、酪酸塩、および酪酸エステルからなる群から選択される、
結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状の予防および/または治療における使用のための医薬組成物。
【請求項2】
酪酸塩が、酪酸ナトリウムである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
酪酸エステルが、トリブチリンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
医薬組成物が、1つまたは複数のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストをさらに含む、請求項1から3のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項5】
1つまたは複数のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストが、1つまたは複数の胆汁酸および/または1つまたは複数の胆汁酸誘導体である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
1つまたは複数のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストが、ケノデオキシコール酸(IUPAC: (R)-((3R,5S,7R,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3,7-ジヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、コール酸(IUPAC: R)-4-((3R,5S,7R,8R,9S,10S,12S,13R,14S,17R)-3,7,12-トリヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、デオキシコール酸(IUPAC: (3α,5β,12α,20R)-3,12-ジヒドロキシコラン-24-酸)、リトコール酸(IUPAC: (4R)-4-[(3R,5R,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3-ヒドロキシ-10,13-ジメチル-2,3,4,5,6,7,8,9,11,12,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル]ペンタン酸)、タウロコール酸(IUPAC: 2-{[(3α,5β,7α,12α)-3,7,12-トリヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル]アミノ}エタンスルホン酸)、ウルソデオキシコール酸(IUPAC: (R)-4-((3R,5S,7S,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3,7-ジヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、半合成オベチコール酸(IUPAC: 6α-エチル-ケノデオキシコール酸)、合成GW 4064 (IUPAC: 3-[2-[2-クロロ-4-[[3-(2,6-ジクロロフェニル)-5-(1-メチルエチル)-4-イソキサゾリル]メトキシ]フェニル]エテニル]安息香酸)からなる群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、経口製剤である、請求項1から6のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項8】
医薬組成物が、腸溶性経口製剤である、請求項1から6のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項9】
腸溶性経口製剤が、錠剤、カプセル剤、散剤および顆粒剤からなる群から選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
医薬組成物が、直腸製剤である、請求項1から6のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項11】
直腸製剤が、坐剤、直腸ゲルまたは直腸フォームからなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
結腸直腸腫瘍形成および/または発がんが、陰窩異形成、陰窩過形成、結腸直腸腺腫、結腸直腸腺腫性ポリープ、および結腸直腸がん腫を含む、CRCに先行する早期段階を含む結腸直腸がん(CRC)からなる群から選択されるか;または、慢性腸炎が、クローン病を含む炎症性腸疾患(IBD)、または潰瘍性大腸炎から選択されるか;または、嚢胞性線維症に関連する胃腸症状が、腸粘液濃縮、腸の運動障害、または遠位腸閉塞症候群を含む、請求項1から11のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項13】
組成物が、0.1~1000mg/投与単位の量でGUCY2Cアゴニストであるリナクロチドを含む、請求項1から12のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項14】
組成物が、0.1~5000mg/投与単位の量で短鎖脂肪酸またはその塩もしくはエステルを含む、請求項1から13のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項15】
短鎖脂肪酸またはその塩もしくはエステルが、酪酸塩またはトリブチリンである、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療有効量のグアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグの組み合わせ、および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関し、ならびに治療有効量のGUCY2Cアゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸またはその塩もしくはプロドラッグの組み合わせを、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を発症した、または発症するリスクがある患者に投与することによって、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を予防および/または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸がん(CRC)は、世界中のがんによる死亡原因の第4位であり、ほとんどの国で発生率が上昇している。散発性CRCの大部分は、有害な環境因子、特に食事に反応して蓄積された遺伝子変化に起因する。CRCリスクに対する食事療法の説得力のある寄与と、抗がん治療における多くの未解決の課題(たとえば、化学療法に対する患者の反応が異なること、CRC患者を治すために利用できる唯一の方法は手術であることなど)は、たとえば、有害な食事パターンを特徴とするリスクグループにおけるCRCの早期かつ標的を絞った予防の必要性を強調する。
【0003】
食物繊維は、宿主にとって消化しにくく、嫌気性条件下で結腸内腔内の特定の腸内細菌によって発酵されて、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)になる複合炭水化物の不均一なグループで構成される。いくつかの臨床および実験的研究により、食物繊維がCRCリスクを軽減するという説得力のある証拠が提供された(O’Keefe SJD. Diet、microorganisms and their metabolites、and colon cancer. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2016;13:691-706):たとえば、185件の前向き試験と58件の臨床研究を対象とした最近のメタアナリシスにより、繊維摂取量とCRCリスクの逆相関の証拠が提供された(Reynolds A、Mann J、Cummings J、Winter N、Mete E、Morenga LT. Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses. The Lancet. 2019;0)。メタアナリシスの観察研究に焦点を当てると、最高の繊維摂取量は、最低の摂取量と比較してCRC発生率の有意な減少と関連していた(Reynoldsら、前記の箇所を参照)。食物繊維と結腸直腸がん発生率の線形用量反応関係が確認されたので、著者らは、成人の食物繊維の1日摂取量は25~29g以上であると示唆し、量が多いほど保護効果が高くなると推測した(Reynoldsら、前記の箇所を参照)。
【0004】
繊維由来の酪酸SCFAは、結腸上皮細胞(結腸細胞)の主要なエネルギー源であり、結腸細胞の増殖と分化の主要な調節因子であり、結腸で強力な腫瘍抑制効果がある(O’Keefe 前記の箇所を参照)。酪酸塩(または酪酸、それぞれ)は短鎖モノカルボン脂肪酸であり、揮発性脂肪酸(酢酸およびプロピオン酸とともに)に属する。2つの異性体(n-酪酸、イソ酪酸)があり、そのうちn-酪酸はヒト(およびげっ歯類モデル)の結腸内腔に高濃度で存在する。周囲温度では、n-酪酸は液体であり、特徴的な酸敗したバター臭があり、非常に低濃度であっても、ヒトや多くの動物種によって認識される。実験室の条件下および実験的試験では、酪酸のナトリウム塩または繊維を添加した食事のいずれかを使用して、高レベルの酪酸塩を達成/模倣する。酪酸塩は、腸で効率よく吸収されるため、酪酸ナトリウムの経口投与は結腸での高酪酸濃度を促進しにくい。結腸上皮細胞に酪酸塩を供給する「自然な方法」であるため、食物繊維の添加は酪酸塩を供給するのに効果的でありうるが、食物繊維の種類と腸内微生物叢の組成の違い(たとえば、酪酸産生細菌の数が多いまたは少ない)により、効果が異なる。
【0005】
プロドラッグのトリブチリンは、結腸の遠位部で大量の酪酸を放出する。トリブチリンは、不快な臭いや味がなく、酪酸のナトリウム塩である酪酸ナトリウムよりも腸の腫瘍形成および慢性腸炎を抑制する効果が高いという点で、酪酸よりも優れている可能性がある。トリブチリンは1920年代に最初に合成され、化学薬品の販売代理店を通じて市販されている。トリブチリンは、酪酸のエステル、すなわち、酪酸およびグリセロールから構成されるエステルであり、IUPAC名は、ブタン酸1,3-ジ(ブタノイルオキシ)プロパン-2-イルである。トリブチリンは親油性化合物であり、水にほとんど溶けない。
【0006】
ある実験研究では、Donohoeらは、無菌の野生型マウスと、酪酸産生菌であるブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyvibrio fibrisolvens)を含むか、または含まない腸内細菌の規定の混合物を関連付け、マウスに低繊維食または高繊維食を与え、アゾキシメタン(AOM)とデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いて結腸直腸腫瘍形成を誘導した(Donohoe DR、Holley D、Collins LB、Montgomery SA、Whitmore AC、Hillhouse A、Curry KP、Renner SW、Greenwalt A、Ryan EP、ら、A gnotobiotic mouse model demonstrates that dietary fiber protects against colorectal tumorigenesis in a microbiota- and butyrate-dependent manner. Cancer Discov. 2014;4:1387-97)。高繊維食を与えられ、ブチリビブリオ・フィブリソルベンスが定着したマウスは、ブチリビブリオ・フィブリソルベンスを含まない高繊維食を与えられたマウスと比較して、アゾキシメタン(AOM)およびデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で処理された後、結腸腫瘍が有意に少ないことを示した。ブチリビブリオ・フィブリソルベンスの定着による保護効果は、マウスに低繊維食を与えると消失した(Donohoeら、前記の箇所を参照)。これは、野生型ブチリビブリオ・フィブリソルベンスがより少ない酪酸を生成する同質遺伝子欠失変異体と比較して、繊維依存的に結腸腫瘍形成から保護された2番目の実験によって確認された(Donohoeら、前記の箇所を参照)。重要なことに、トリブチリン(腸での吸収の遅延を示す酪酸塩の安定したプロドラッグ)を添加した食事を与えられたマウスの追加グループは、AOM/DSS処置後に結腸において最低の腫瘍レベルを示した(Donohoeら、前記の箇所を参照)。
【0007】
グアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)は、膜貫通グアニル酸シクラーゼ受容体のメンバーであり、腸全体にわたって腸上皮細胞の先端側に発現している。もともと、GUCY2Cは、毒素原性大腸菌が産生する細菌の熱安定性エンテロトキシンSTaのオーファン受容体として同定された。STa毒素のGUCY2Cへの結合は、腸管内腔への体液の過剰な分泌を媒介し、臨床的に「旅行者下痢」としても知られる大量の下痢を引き起こす。細胞レベルでは、GUCY2Cのアゴニストは、グアノシン三リン酸(GTP)から環状グアノシン一リン酸(cGMP)への細胞内変換を引き起こし、嚢胞性線維症コンダクタンス制御因子(CFTR)を活性化し、ナトリウム水素交換体3(NHE3)を阻害する。これは、腸管内腔への塩化物分泌の増加と腸管内腔からのナトリウムイオンの取り込みの障害を媒介し、腸管内腔内の体液の蓄積を促進する浸透圧勾配につながる。
【0008】
STa毒素に加えて、2つの腸管ホルモンがGUCY2Cのリガンドとして同定された:グアニリンとウログアニリン。これらの内因性ペプチドは、腸上皮細胞によって産生され、オートクリンまたはパラクリンの方法でGUCY2Cシグナル伝達を誘導する。STa毒素と比較して、グアニリン(GUCA2Aによってコードされる)およびウログアニリン(GUCA2Bによってコードされる)は、GUCY2Cに対する親和性が低く、腸管内腔でのタンパク質分解に対する感受性が高い。腸のさまざまな部分(結腸のグアニリン、小腸のウログアニリン)で支配的であるが、両方の腸ペプチドホルモンは、結腸細胞でGUCY2Cシグナル伝達の強力な誘導物質であり、電解質管理を超えて細胞機能を調節する。
【0009】
GUCY2Cシグナル伝達軸は、最近、増殖と分化、陰窩-絨毛軸の組織化、バリアの完全性およびDNA修復メカニズムなどの腸上皮細胞機能の主要なドライバーとして浮上した。GUCY2Cシグナル伝達のサイレンシングは、散発性CRCの病因に関与している重大な結腸細胞の機能不全を引き起こす。GUCY2Cシグナル伝達の腫瘍抑制機能は、そのリガンドであるグアニリンの発現が腸の腫瘍形成およびヒト結腸がん細胞で失われ、腸の腫瘍性形質転換の初期段階を特徴付けるという観察によって裏付けられている。いくつかの研究は、GUCY2Cシグナル伝達の腫瘍抑制機能の実験的証拠を提供する。一貫して、グアニリンの発現は結腸腫瘍で失われるが、隣接する健康な粘膜には依然として存在しており、腸の腫瘍形成の抑制においてグアニリンの発現が回復される可能性が高いことを示唆する。そのリガンドの投与によるGUCY2Cシグナル伝達の刺激は、CRCマウスモデルの腺腫性ポリープ形成を阻害し、ヒト結腸がん細胞の増殖を抑制した。腸上皮細胞の恒常性におけるその基本的な役割は、IBD患者の炎症を起こした粘膜やラットの慢性大腸炎において GUCY2Cシグナル伝達がダウンレギュレートされるという事実によって強調される。
【0010】
結腸細胞に対する広範な効果により、GUCY2Cシグナル伝達軸は、潜在的な治療用途に関してかなりの関心を集めている。グアニリン、ウログアニリンまたはSTa毒素の類似体は、胃腸障害への潜在的適用のために設計およびテストされた。腸の電解質管理におけるその役割を利用して、グアニル酸類似体リナクロチド(商標名:Constella、Linzess)は、慢性便秘を治療し、過敏性腸症候群(IBS)における胃腸通過および内臓過敏症を改善するためのGUCY2Cアゴニストとして承認された。リナクロチドを服用している人々の10%以上に下痢がある。1%~10%の人々に食欲減退、脱水、低カリウム、急に立ち上がったときの目まい、吐き気、嘔吐、切迫した排便、便失禁、および結腸、直腸、肛門における出血がある。商品化されたリナクロチド薬の米国のラベルには、深刻な脱水症のリスクがあるため、6歳未満の子供にはリナクロチドを使用しないこと、6歳~18歳までの人々には使用を避けるようにという警告が含まれている。
【0011】
プレカナチド(商品名:Trulance)は、GUCY2Cのアゴニストである。主な副作用は重度の脱水症状のリスクであり、それが、6歳未満の子供と、6歳~18歳までの人々がこの薬を服用すべきでない理由である。
【0012】
ドルカナチド(CAS番号:1092457-65-2)は、経口投与用の、ヒト内因性ナトリウム利尿ホルモンであるウログアニリンの類似体であり、潜在的な下剤、抗侵害受容および抗炎症作用を有するGUCY2Cアゴニストである。ドルカナチドは、投与すると、ウログアニリンを模倣することにより、体循環に入ることなく、胃腸(GI)管の内皮細胞で局所的にGUCY2Cに結合して活性化する。主な副作用は深刻な脱水症状のリスクである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
先行技術を考慮して、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状の予防および/または治療を改善する必要性、および/または既存の予防薬の副作用を軽減するおよび/または既存の治療法の副作用を軽減する必要性が依然として存在する。
【0014】
したがって、本発明が取り組む問題は、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を発症した、または発症するリスクのある患者の、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を予防すること、および/または治療すること、および/または既存の予防薬の副作用を軽減すること、および/または既存の治療法の副作用を軽減することにおける、改善された効果を有する医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の簡単な説明
前述の目的は、特許請求の範囲に記載の本発明の主題によって少なくとも部分的に解決される。利点(好ましい実施形態)は、以下の詳細な説明および/または添付の図面、ならびに従属請求項に記載されている。
【0016】
したがって、本発明の第1の態様は、治療有効量のグアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸またはその塩もしくはプロドラッグの組み合わせ、および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0017】
本発明の第2の態様は、治療有効量のGUCY2Cアゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸またはその塩もしくはプロドラッグの組み合わせを、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を発症した、または発症するリスクがある患者に投与することによって、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を予防および/または治療する方法に関する。
【0018】
上記に開示された本発明の発明の態様は、結果として得られる特徴の組み合わせが、当業者にとって合理的であるという条件で、従属請求項に記載された、または以下の詳細な説明および/または添付の図面に開示された好ましい発明の実施形態の可能な(部分)組み合わせを含むことができる。
【0019】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、AOM/DSSベースのCRCマウスモデルを使用したマウス試験の図式的研究レイアウトを表す。
図2a-d】図2aからdは、半合成コントロール食、繊維添加食、リナクロチド、またはその二つを摂取したマウスのHE染色全結腸切片の組織病理学的スコアリングと、慢性腸炎症および結腸腫瘍形成の予防に対するそれぞれの効果を示すグラフを表す。
図3a-d】図3aからdは、高繊維条件下での糞便中のSCFAレベルの減少に対するリナクロチドの効果に関するグラフを表す。
図4a-b】図4aおよびbは、腸管内腔へのH2Oの流れを制限する、リナクロチドの浸透圧アンタゴニストとして作用する酪酸塩およびGUCY2Cシグナル伝達の効果に関するグラフを表す。
図5a-d】図5aからdは、無処置コントロールとしてPBS(図5a)とともに、酪酸ナトリウム(図b)、リナクロチド(図5c)またはその両方(図5d)とともに20時間培養したマウス腸オルガノイド(=インビトロ“ミニ腸”、白矢印)の管腔(白い破線)の拡大を示す明視野画像を表す。
図6a-c】図6aからcは、酪酸ナトリウム(図6a)、リナクロチド(図6b)またはその両方(図6c)で20時間培養したマウス腸オルガノイドの腸上皮(実線と白の破線の間の領域)におけるグアニリンの存在(1=緑)を示す免疫蛍光染色画像を表す(左の列=グアニリン、中央の列=細胞核、右の列=マージされた画像)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な記載
以下に詳しく述べるように、異なる発明的態様の発明者は、治療有効量のグアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグの組み合わせ使用が、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を発症した、または発症するリスクがある患者における、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状の予防および/または治療において相乗効果を発揮することを発見した。この相乗効果は、結果と考察の項目1の例のセクション、および図2aから2dに示される。
【0022】
さらに、短鎖C2~C5脂肪酸またはその塩もしくはプロドラッグは、下痢などの、グアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストの1つまたは複数の望ましくない副作用を軽減し、したがって患者の重度の脱水のリスクを軽減する。したがって、本発明の医薬組成物または本発明の治療は、他の方法ではGUCY2Cアゴニストで治療することができなかった子供などの患者にも適している。この効果は、結果と考察の項目1の例のセクションおよび図4aから4bに示される。
【0023】
本発明の文脈において、「患者」という用語は、すでに結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を発症しているか、あるいは結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を発症する一定のリスクを有する、ヒトまたは動物、好ましくはヒトを示す。
【0024】
本発明の文脈において、「疾患」という用語は、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を示し、ここで、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんは、好ましくは陰窩異形成、陰窩過形成、結腸直腸腺腫、結腸直腸腺腫性ポリープなどのCRCに先行する早期段階を含む結腸直腸がん(CRC)または結腸直腸がん腫からなる群から選択されるか;または、慢性腸炎症は、好ましくはクローン病を含む炎症性腸疾患(IBD)、または潰瘍性大腸炎から選択されるか;または、嚢胞性線維症に関連する胃腸症状は、好ましくは腸粘液濃縮、腸の運動障害、または遠位腸閉塞症候群を含む。
【0025】
本発明の文脈において、「グアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニスト」という用語は、1つまたは複数のグアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストを示す。
【0026】
本発明の文脈において、「短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグ」という用語は、1つまたは複数の短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグを示す。
【0027】
上述したように、第1の発明の態様は、治療有効量のグアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグの組み合わせ、ならびに1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。
【0028】
本発明によれば、組成物は、1つまたは複数のGUCY2Cアゴニストを含み得る。
【0029】
本発明の1つの実施形態によれば、任意の適切なGUCY2Cアゴニスト、特に経口投与可能なGUCY2Cアゴニストが、異なる本発明の態様に関連して使用され得る。1つの実施形態によれば、1つまたは複数のGUCY2Cアゴニストは、リナクロチド、プレカナチド、ドルカナチドおよび耐熱性エンテロトキシンSTa(STa毒素)からなる群から選択される。
【0030】
リナクロチド(CAS番号:851199-59-2)は、以下:
【化1】
の化学式を示す。
【0031】
リナクロチドは、内因性のグアニリンとウログアニリンを模倣したテトラデカペプチドである。リナクロチドを経口投与する際の分解を回避するために、リナクロチドは、好ましくは分解を減少させるための適切な製剤を本発明に従って提示し、好ましくは適切な腸溶性コーティングを提示する。
【0032】
プレカナチド(CAS番号:467426-54-6)は、構造的にウログアニリンに近く、3位のアスパラギン酸(Asp)がグルタミン酸(Glu)に置換されている16アミノ酸を含むポリペプチドである。ほとんどの経口摂取ペプチドと同様に、プレカナチドは腸内酵素によって分解される。したがって、プレカナチドは、経口投与される場合、好ましくは本発明に従って分解を減少させるための適切な製剤を示し、好ましくは適切な腸溶性コーティングを示す。
【0033】
ドルカナチド(CAS番号:1092457-65-2)は、ヒト内因性ナトリウム利尿ホルモンであるウログアニリンの類似体であり、GUCY2Cアゴニストである。ほとんどの経口摂取ペプチドと同様に、ドルカナチドは腸内酵素によって分解される。したがって、ドルカナチドは、経口投与される場合、好ましくは本発明に従って分解を減少させるための適切な製剤を示し、好ましくは適切な腸溶性コーティングを示す。
【0034】
耐熱性エンテロキシンSTa(STa毒素)は、グアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストであり、機能的に重要な3つのジスルフィド架橋を含む19残基のペプチドを示すエンテロトキシン原性大腸菌などの細菌株によって産生される分泌ペプチドである。STa には、細胞外毒素放出に関与するPreとProの2つのドメインと、コア腸毒素産生ドメインで構成されるN末端シグナルペプチドが含まれる。STa毒素のGUCY2Cへの結合は、腸内腔への体液の過剰な分泌を媒介し、臨床的に「旅行者下痢」としても知られる大量の下痢を引き起こす。細胞レベルでは、GUCY2Cのアゴニストは、グアノシン三リン酸(GTP)から環状グアノシン一リン酸(cGMP)への細胞内変換を引き起こし、嚢胞性線維症コンダクタンス レギュレーター(CFTR)を活性化し、ナトリウム水素交換体3(NHE3)を阻害する。これは、腸内腔への塩化物分泌の増加と腸管腔からのナトリウムイオンの取り込みの障害を媒介し、腸管腔内の液体の蓄積を促進する浸透圧勾配につながる。
【0035】
本発明の医薬組成物の1つの実施形態によれば、組成物は、GUCY2Cアゴニスト、たとえば、リナクロチド、プレカナチド、ドルカナチドまたはSTa毒素を、用量単位当たり0.1~1,000mgの量で含む。
【0036】
本発明によれば、本発明の組成物は、1つまたは複数の短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグを含み得る。SCFAのプロドラッグは、生理学的条件下でそれぞれのSCFAまたはその塩を放出する化合物である。一例として、SCFAのエステルは、生理学的条件下でSCFAまたはその塩を放出するため、本発明によればプロドラッグと見なされる。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、1つまたは複数の短鎖C2~C5脂肪酸(SCFA)および/またはその塩および/またはプロドラッグは、酢酸、酢酸塩、酢酸エステル、プロピオン酸、プロピオン酸塩、プロピオン酸エステル、酪酸、酪酸ナトリウムなどの酪酸塩、トリブチリンなどの酪酸エステル、吉草酸、吉草酸塩、および吉草酸エステルからなる群から選択される。
【0038】
酪酸、酪酸塩、好ましくは酪酸ナトリウム、および/またはトリブチリンは、上皮炎症反応または上皮形質転換を阻害する効力の観点から好ましい場合がある。このグループの中で、トリブチリンは、不快な臭いまたは味がなく、酪酸のナトリウム塩である酪酸ナトリウムよりも上皮炎症反応のさらに強力な阻害剤であると考えられているという点で、酪酸よりも有利である可能性がある。いくつかの研究では、慢性炎症性腸疾患の治療において、トリブチリンがより効果的で耐容性の高い抗炎症剤であることが示されている。トリブチリンは、1920年代に最初に合成された。それは、多くの化学品販売業者を通じて市販されている。トリブチリンは酪酸のエステル、すなわち、酪酸とグリセロールで構成されるエステルであり、lUPAC名は、ブタン酸1,3-ジ(ブタノイルオキシ)プロパン-2-イルである。トリブチリンは親油性化合物であり、水にほとんど溶解しない。
【0039】
本発明の医薬組成物の1つの実施形態によれば、組成物は、短鎖C2~C5脂肪酸および/または塩および/またはプロドラッグ、たとえば、酪酸または酪酸塩またはトリブチリンを用量単位当たり0.1~5,000mgの量で含む。
【0040】
本発明によれば、1つまたは複数のGUCY2Cアゴニスト、たとえば、リナクロチド、プレカナチド、ドルカナチドおよび/またはSTa毒素は、酢酸、酢酸塩、酢酸エステル、プロピオン酸、プロピオン酸塩、プロピオン酸エステル、酪酸、酪酸ナトリウムなどの酪酸塩、トリブチリンなどの酪酸エステル、吉草酸、吉草酸塩、および吉草酸エステルからなる群から選択される1つまたは複数のSCFAまたはその塩もしくはプロドラッグと組み合わせ得る。本発明の1つの実施形態によれば、リナクロチド、プレカナチド、ドルカナチドおよび/またはSTa毒素を、酪酸、酪酸ナトリウムなどの酪酸塩、および/またはトリブチリンなどの酪酸エステルと組み合わせ、好ましくはリナクロチドを、酪酸、酪酸ナトリウムなどの酪酸塩、および/またはトリブチリンなどの酪酸エステルと組み合わせる。
【0041】
本発明のもう1つの実施形態は、本発明の医薬組成物に関し、ここで、医薬組成物は、GUCY2Cおよび短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグに加えて、好ましくは1つまたは複数の胆汁酸および/または1つまたは複数の胆汁酸誘導体などの1つまたは複数のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストを含み、より好ましくは1つまたは複数のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストは、ケノデオキシコール酸(IUPAC:(R)-((3R,5S,7R,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3,7-ジヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、コール酸(IUPAC:(R)-4-((3R,5S,7R,8R,9S,10S,12S,13R,14S,17R)-3,7,12-トリヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、デオキシコール酸(IUPAC:(3α,5β,12α,20R)-3,12-ジヒドロキシコラン-24-酸)、リトコール酸(IUPAC:(4R)-4-[(3R,5R,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3-ヒドロキシ-10,13-ジメチル-2,3,4,5,6,7,8,9,11,12,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル]ペンタン酸)、タウロコール酸(IUPAC: 2-{[(3α,5β,7α,12α)-3,7,12-トリヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル]アミノ}エタンスルホン酸)、ウルソデオキシコール酸(IUPAC:(R)-4-((3R,5S,7S,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3,7-ジヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、半合成オベチコール酸(IUPAC: 6α-エチル-ケノデオキシコール酸)、合成GW 4064(IUPAC: 3-[2-[2-クロロ-4-[[3-(2,6-ジクロロフェニル)-5-(1-メチルエチル)-4-イソキサゾリル]メトキシ]フェニル]エテニル]安息香酸)からなる群から選択される。
【0042】
ファルネソイドX受容体(FXR)は、腸上皮に発現する核内受容体であり、胆汁酸および胆汁酸誘導体をリガンドとして活性化/阻害される。核内受容体として、FXRは遺伝子発現の調節に関与しており、グアニリン(GUCA2A)およびウログアニリン(GUCA2B)をコードする遺伝子は、腸上皮におけるFXRの潜在的な標的である可能性がある。したがって、胆汁酸または胆汁酸誘導体によってFXRが活性化されると、グアニル酸またはウログアニリンの発現がアップレギュレートされ、次に、GUCY2Cシグナル伝達経路が活性化される。リナクロチドなどのGUCY2Cアゴニストと、酪酸塩またはトリブチリンなどの、短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグとを含む本発明の医薬組成物へのFXRアゴニストリガンドの添加は、本発明の相乗効果を高めると考えられる。
【0043】
本発明によれば、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤は、一般に、経口または直腸投与などのそれぞれの製剤に適した賦形剤から選択される。経口製剤、好ましくは錠剤および顆粒のためのそのような賦形剤は、特に、結合剤、増量剤/希釈剤/充填剤、崩壊剤、滑沢剤、流動促進剤、吸着剤、甘味剤、香味剤、着色剤、界面活性剤、GUCY2Cおよび/またはSCFAの組み合わせの変更放出のためのポリマー、およびGUCY2Cおよび/またはSCFAの保護のためのポリマーからなる群から選択される。直腸製剤(たとえば、座薬、直腸ゲルまたは直腸フォーム)の場合、そのような賦形剤は、特に、溶媒、マトリックスビルダー(matrix builders)、乳化剤、粘膜接着性ポリマー、および両親媒性賦形剤からなる群から選択され得る。
【0044】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明の医薬組成物は、一般に、治療有効量のGUCY2CアゴニストとSCFAの組み合わせを投与するのに適した製剤を示す。GUCY2Cアゴニストの作用機序を考慮すると、本発明の投与経路は、経口または直腸が好ましい。
【0045】
したがって、本発明の医薬組成物は、好ましくは経口製剤であり、より好ましくは錠剤、カプセル剤、散剤および顆粒剤からなる群から選択される。GUCY2Cアゴニストの消化性/消化性模倣構造を考慮して、経口製剤は、好ましくは腸溶コーティングされ得る。
【0046】
あるいは、本発明の医薬組成物は、好ましくは直腸製剤であり、好ましくは坐剤、直腸ゲルまたは直腸フォームからなる群から選択される。
【0047】
前述の本発明の医薬組成物は、好ましくは結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状の予防および/または治療に使用するためのものである。本発明のさらなる実施形態によれば、本発明の医薬組成物は使用されるのが好ましく、ここで、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんは、好ましくは陰窩異形成、陰窩過形成、結腸直腸腺腫、結腸直腸腺腫性ポリープなどのCRCに先行する早期段階を含む結腸直腸がん(CRC)または結腸直腸がん腫からなる群から選択されるか;または、慢性腸炎症は、好ましくはクローン病を含む炎症性腸疾患(IBD)、または潰瘍性大腸炎から選択されるか;または、嚢胞性線維症に関連する胃腸症状は、好ましくは腸粘液濃縮、腸の運動障害、または遠位腸閉塞症候群を含む。
【0048】
前述のように、本発明の第2の態様は、治療有効量のGUCY2Cアゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグの組み合わせを、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を発症した、または発症するリスクがある患者に投与することを含むことを特徴とする、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を予防および/または治療する方法に関する。
【0049】
本発明のさらなる実施形態によれば、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんは、好ましくは陰窩異形成、陰窩過形成、結腸直腸腺腫、結腸直腸腺腫性ポリープなどのCRCに先行する早期段階を含む結腸直腸がん(CRC)または結腸直腸がん腫からなる群から選択されるか;または慢性腸炎は、好ましくはクローン病を含む炎症性腸疾患(IBD)、または潰瘍性大腸炎から選択されるか;または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状は、好ましくは腸粘液濃縮、腸の運動障害、または遠位腸閉塞症候群を含む。
【0050】
本発明のもう1つの実施形態によれば、治療有効量のGUCY2Cアゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグの組み合わせは、好ましくは第1の本発明の態様による本発明医薬組成物である。
【0051】
本発明の第1の態様に関して開示されたすべての特徴および実施形態は、単独で、または結果として得られる機能の組み合わせが、当業者にとって合理的であることを条件として、その好ましい実施形態のそれぞれなどの本発明の第2の態様と(部分的に)組み合わせて、組み合わせることができる。
【0052】
本発明は、例示的な実施形態に基づいて以下に説明されるが、これらは単に例としての役割を果たすものであり、本発明の保護権の範囲を限定するものではない。

本開示は、例えば以下を含む。
[項1]
治療有効量のグアニル酸シクラーゼC(GUCY2C)アゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸および/またはその塩および/またはプロドラッグの組み合わせならびに1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
[項2]
医薬組成物が、リナクロチド、プレカナチド、ドルカナチドおよびSTa毒素からなる群から選択される1つまたは複数のGUCY2Cアゴニストを含む、項1に記載の医薬組成物。
[項3]
医薬組成物が、酢酸、酢酸塩、酢酸エステル、プロピオン酸、プロピオン酸塩、プロピオン酸エステル、酪酸、酪酸ナトリウムなどの酪酸塩、トリブチリンなどの酪酸エステル、吉草酸、吉草酸塩、および吉草酸エステルからなる群から選択される1つまたは複数の短鎖C2~C5脂肪酸(SCFA)および/またはその塩および/またはプロドラッグを含む、項1または2に記載の医薬組成物。
[項4]
医薬組成物が、1つまたは複数のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニスト、好ましくは1つまたは複数の胆汁酸および/または1つまたは複数の胆汁酸誘導体をさらに含み、より好ましくは1つまたは複数のファルネソイドX受容体(FXR)アゴニストが、ケノデオキシコール酸(IUPAC: (R)-((3R,5S,7R,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3,7-ジヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、コール酸(IUPAC: R)-4-((3R,5S,7R,8R,9S,10S,12S,13R,14S,17R)-3,7,12-トリヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、デオキシコール酸(IUPAC: (3α,5β,12α,20R)-3,12-ジヒドロキシコラン-24-酸)、リトコール酸(IUPAC: (4R)-4-[(3R,5R,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3-ヒドロキシ-10,13-ジメチル-2,3,4,5,6,7,8,9,11,12,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル]ペンタン酸)、タウロコール酸(IUPAC: 2-{[(3α,5β,7α,12α)-3,7,12-トリヒドロキシ-24-オキソコラン-24-イル]アミノ}エタンスルホン酸)、ウルソデオキシコール酸(IUPAC: (R)-4-((3R,5S,7S,8R,9S,10S,13R,14S,17R)-3,7-ジヒドロキシ-10,13-ジメチルヘキサデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-イル)ペンタン酸)、半合成オベチコール酸(IUPAC: 6α-エチル-ケノデオキシコール酸)、合成GW 4064 (IUPAC: 3-[2-[2-クロロ-4-[[3-(2,6-ジクロロフェニル)-5-(1-メチルエチル)-4-イソキサゾリル]メトキシ]フェニル]エテニル]安息香酸)からなる群から選択される、前記項のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[項5]
医薬組成物が、経口製剤、好ましくは腸溶性経口製剤、より好ましくは錠剤、カプセル剤、散剤および顆粒剤からなる群から選択される、前記項のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[項6]
医薬組成物が、直腸製剤であり、好ましくは坐剤、直腸ゲルまたは直腸フォームからなる群から選択される、前記項のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[項7]
結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状の予防および/または治療における使用のための、前記項のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[項8]
結腸直腸腫瘍形成および/または発がんが、好ましくは陰窩異形成、陰窩過形成、腺腫、腺腫性ポリープなどのCRCに先行する早期段階を含む結腸直腸がん(CRC)または結腸直腸がん腫からなる群から選択されるか;または、慢性腸炎が、好ましくはクローン病を含む炎症性腸疾患(IBD)、または潰瘍性大腸炎から選択されるか;または、嚢胞性線維症に関連する胃腸症状が、好ましくは腸粘液濃縮、腸の運動障害、または遠位腸閉塞症候群を含む、項7に記載の医薬組成物。
[項9]
組成物が、0.1~1000mg/投与単位の量でGUCY2Cアゴニストであるリナクロチドを含む、前記項のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[項10]
組成物が、0.1~5000mg/投与単位の量で短鎖C2~C5脂肪酸またはその塩もしくはプロドラッグである酪酸塩またはトリブチリンを含む、前記項のいずれか1つに記載の医薬組成物。
[項11]
治療有効量のGUCY2Cアゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸またはその塩もしくはプロドラッグの組み合わせを、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を発症した、または発症するリスクがある患者に投与することを含むことを特徴とする、結腸直腸腫瘍形成および/または発がんおよび/または慢性腸炎および/または嚢胞性線維症に関連する胃腸症状を予防および/または治療する方法。
[項12]
結腸直腸腫瘍形成および/または発がんが、好ましくは陰窩異形成、陰窩過形成、結腸直腸腺腫、結腸直腸腺腫性ポリープなどのCRCに先行する早期段階を含む結腸直腸がん(CRC)または結腸直腸がん腫からなる群から選択されるか;または、慢性腸炎が、好ましくはクローン病を含む炎症性腸疾患(IBD)、または潰瘍性大腸炎から選択されるか;または、嚢胞性線維症に関連する胃腸症状が、好ましくは腸粘液濃縮、腸の運動障害、または遠位腸閉塞症候群を含む、項11に記載の方法。
[項13]
治療有効量のGUCY2Cアゴニストおよび短鎖C2~C5脂肪酸またはその塩もしくはプロドラッグの組み合わせが、項1~10のいずれか1つに記載の医薬組成物の形態で投与される、項11または12に記載の方法。
【実施例
【0053】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して、本発明の態様の例示的な実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【0054】
例示的な実施形態および/または添付の図面に関して以下に開示されるすべての特徴は、単独で、または、結果として得られる機能の組み合わせが当業者にとって合理的であることを条件として、任意の部分的組み合わせで、その好ましい実施形態の特徴を含む本発明の態様の特徴と組み合わせることができる。
【0055】
実験1:AOM/DSSベースのCRCマウスモデルを使用したマウス試験
30匹の野生型マウス(BALB/c)を個別に換気されたケージ(特定の病原体フリーの状態)で維持し、4週齢において、週齢と性別が一致する4つのグループに分けた。AOM/DSSベースのCRCマウスモデルを使用したマウス試験の概略研究セットアップを図1に示す。
【0056】
したがって、グループAは、半合成コントロール食(Hoevenaars FPM、van Schothorst EM、Horakova O、Voigt A、Rossmeisl M、Pico C、Caimari A、Kopecky J、Klaus S、Keijer J. BIOCLAIMS 標準食(BIOsd): a reference diet for nutritional physiology. Genes Nutr. 2012;7:399-404)を与えられ、グループBは、繊維添加半合成食(食事1kgあたり約46.2gの難消化性デンプンタイプ2を含む)を与えられ、グループCは、飲料水中にリナクロチドを添加した半合成コントロール食(0.069 μg/mL;2日おきに交換;リナクロチドの投与量は、経口胃管栄養法で0.207μg/日/マウスを適用した以前の研究(Sharman SK、Islam BN、Hou Y、Singh N、Berger FG、Sridhar S、Yoo W、Browning DD. Cyclic-GMP-Elevating Agents Suppress Polyposis in ApcMin Mice by Targeting the Preneoplastic Epithelium. Cancer Prev Res(Phila Pa). 2018;11:81-92.)およびマウスあたり3mLのH2Oの1日摂取量の想定に基づいて計算された;これは、70kgの健康なヒトの1日摂取量約0.6mgを模倣しており、以前の臨床研究(Weinberg DS、Lin JE、Foster NR、Della’Zanna G、Umar A、Seisler D、Kraft WK、Kastenberg DM、Katz LC、Limburg PJ、ら、Bioactivity of Oral Linaclotide in Human Colorectum for Cancer Chemoprevention. Cancer Prev Res Phila Pa. 2017;10:345-54.)で使用された量に近い値である)を与えられ、グループDは、繊維添加食(1kgあたり約46.2gの難消化性デンプンタイプ2を含む)とリナクロチド(0.069μg/mL)の組み合わせを与えられた。
【0057】
8週齢の時点で、すべてのマウスに、発がん性があり、マウスの結腸で腫瘍形成を誘発するアゾキシメタン(AOM)を3回注射(i.p.)(最終濃度10mg/体重kgで週1回注射)した。最後のAOM注射の5日後、すべてのマウスに3サイクルでデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を飲料水に加えて(5日間は飲料水中の1.5%DSS、その後14日間はDSSなしで)与え、大腸炎を誘発させた。AOM/DSSでの処置によるマウスの結腸腫瘍の化学的誘発は、CRCの病因を調査するための標準モデルとして使用され、結腸の腫瘍形成に寄与する炎症誘発プロセスの影響を反映している。
【0058】
処置の最後に、マウスを屠殺し、組織サンプルを採取して結腸直腸腫瘍形成、炎症、およびCRC関連マーカーをさらに分析した。固定および HE 染色された全結腸切片の、腸の炎症(スコア:0「炎症および潰瘍なし」~6「重度の炎症および潰瘍あり」として)および腫瘍形成(スコア:0「過形成または異形成なし」~3「腫瘍」として)に関する組織学的スコアリングは、獣医師によって盲検法で行われた。盲腸SCFAをガスクロマトグラフィーで分析した。
【0059】
実験2:オルガノイド
オルガノイドは、標準的なプロトコルを使用して、マウスの小腸と結腸から生成された(VanDussen KL、Marinshaw JM、Shaikh N、Miyoshi H、Moon C、Tarr PI、Ciorba MA、Stappenbeck TS. Development of an enhanced human gastrointestinal epithelial culture system to facilitate patient-based assays. Gut. 2015;64:911-20)。オルガノイドは、インビトロで培養された腸上皮細胞から作られた「ミニ腸」に似ており、ヒトがん細胞株と比較してより生理学的な表現型を示す。「正常な結腸細胞」のみが生理学的レベルのグアニリンを発現し、酪酸塩に対する生理学的反応を明らかにするので、このことは、CRCの予防の文脈において重要である。オルガノイドを異なる濃度の酪酸ナトリウム、リナクロチド、またはその両方で24時間培養し、明視野写真を撮影した。さらに、ホルマリン固定オルガノイドを、標準プロトコルに従って、免疫蛍光染色および共焦点レーザー顕微鏡を使用してグアニリン産生について調査した。
【0060】
結果と考察
1.慢性腸炎と結腸腫瘍形成を予防する酪酸塩とGUCY2Cアゴニストの相乗効果
図2aからdは、半合成コントロール食、繊維添加食、リナクロチド、またはその両方を摂取したマウスのHE染色全結腸切片の組織病理学的スコアリングと、慢性腸炎症および結腸腫瘍形成の予防に対するそれぞれの効果を示すグラフを表す。図2aは合わせたスコア、図2bは炎症スコア、図2cは腫瘍形成スコア(0=腫瘍/炎症なし)を示す。図2dは、さまざまな処置を受けたマウスの結腸の長さを示す。単一のドットは単一のマウスを表す:*=p<0.05、**=p<0.01のKruskal-Wallis事後検定を使用したOne-way ANOVAを使用した統計分析。
【0061】
以前の研究では、酪酸塩またはGUCY2Cアゴニストのいずれかの腫瘍抑制活性が実証されたが、併用投与の効果は調査されていない。
【0062】
ここで、CRCマウスモデルにおける単回投与群と比較して、酪酸塩(繊維添加食によって提供される)とGUCY2Cアゴニストとしてのリナクロチドが、実験的結腸炎症および腫瘍形成の予防において相乗効果を有することが初めて示される(図2a)。この相乗効果は、マウス結腸全体の炎症および腫瘍関連の組織病理学的スコアリングで観察され(図2b、c)、炎症に関連する巨視的マーカーとして結腸の長さによって確認された(図2d)(結腸は通常、DSSを介した重度の炎症において、より短い)。常に統計的に有意であるとは限らないが、異なる処置グループの全体的なパターンは研究全体を通して一貫しており、以下の分析で例示されるように酪酸塩とリナクロチドの相乗効果を裏付ける。
【0063】
2.刺激されたGUCY2Cシグナル伝達は糞便中の酪酸塩レベルを低下させ、これにより繊維添加食からの酪酸塩吸収の増強が示唆される
図3aからdは、高繊維条件下での盲腸内容物中のSCFAの減少に対するリナクロチドの効果に関するグラフを表す。図面は、半合成コントロール食、繊維添加食、リナクロチドまたはその両方を与えたマウスの盲腸内容物中の酪酸(図3a)、酢酸(図3b)、プロピオン酸(図3c)および吉草酸(図3d)の定量データを示す。単一のドットは単一のマウスを表す:*=p<0.05、**=p<0.01のKruskal-WallisまたはTukey事後検定を使用したOne-way ANOVAを使用した統計分析。
【0064】
予想通り、繊維の添加は、コントロール食またはリナクロチド群と比較して、盲腸内腔において有意に高い濃度の酪酸塩を促進した(図3a)。以前の研究と一致して、繊維の添加は、酢酸塩およびプロピオン酸塩などの他のSCFAのレベルも高めた(図3b-d)。リナクロチドを単独で投与した場合、検出された盲腸SCFAレベルに有意な変化はなかった。興味深いことに、組み合わせた処置(繊維添加食とリナクロチド)は、繊維食グループに見られる高い盲腸酪酸塩レベルを再現しなかったが、有意に低い酪酸塩濃度をもたらした(図3a)。これは完全に予想外であり、特に高繊維食の場合、管腔酪酸塩レベルに対する薬剤の同様の効果を示す研究は発表されていないようである。これは、繊維添加食によって供給される酪酸塩の高い盲腸レベルが、リナクロチドによって完全に廃止され、コントロール食またはリナクロチドグループと同様のレベルに達することを示唆する(図3a)。これは、他の糞便中のSCFAにも当てはまり、(a)SCFAの産生が増加しない可能性がある(これは繊維添加グループの結果を考えるとありそうにないと思われる)か、または(b)リナクロチドまたはGUCY2Cシグナル伝達、それぞれによって促進されるSCFAの吸収が強化される可能性があること、を示唆している。ほとんどの上皮SCFAトランスポーターは、酪酸塩に特異的ではないため、GUCY2Cシグナル伝達は、酪酸塩、および酢酸塩、プロピオン酸塩または吉草酸塩などの他のSCFAの取り込みを促進する、それらの発現/存在を刺激する可能性がある。
【0065】
3.酪酸塩は、GUCY2Cシグナル伝達によって引き起こされる腸内腔へのH 2 Oの浸透流を制限する
図4aからdは、腸管内腔へのH2Oの流れを制限する、リナクロチドまたはGUCY2Cシグナル伝達の浸透圧アンタゴニストとして作用する酪酸塩の効果に関するグラフを表す。図4a)は盲腸を、図4bは半合成コントロール食、繊維添加食、リナクロチドまたはその両方を与えられたマウスの結腸重量を示す。単一のドットは単一のマウスを表す:*=p<0.05、**=p<0.01のKruskal-Wallis事後検定を使用したOne-way ANOVAを使用した統計分析。
【0066】
図5aからdは、酪酸ナトリウム(2mM)、リナクロチド(10μM)またはその両方とともに20時間培養したマウス腸オルガノイド(=インビトロ“ミニ腸”、白矢印)の管腔(白い破線)の拡大を示す4つの代表的な明視野画像を表し、PBSでの処置は無処置のコントロールを表す。
【0067】
図6aからcは、酪酸ナトリウム(2 mM)、リナクロチド(10μM)またはその両方で20時間培養したマウス腸オルガノイドの腸上皮(実線と白の破線の間の領域)におけるグアニリンの存在(1=緑)を示す免疫蛍光染色画像を表す(左の列=グアニリン、中央の列=細胞核、右の列=マージされた画像)。
【0068】
以前の研究では、酪酸塩が腸組織に向かうH2Oの浸透圧勾配を促進し、結果として、腸管腔内のH2Oレベルが低下することが実証された。同様に、研究では、GUCY2Cシグナル伝達が腸管腔に向かう相互浸透流をサポートし、結果として、腸管腔内に高レベルのH2Oが生じ、下痢を引き起こす可能性があることが示された。しかしながら、浸透圧カウンターレギュレーションに関する酪酸塩とGUCY2Cシグナル伝達の潜在的な関連性は、まだ調査も示唆もされていない。
【0069】
予想通り、リナクロチドを与えられたマウスは、盲腸と結腸の重量が高かった (腸管内腔に多量のH2Oが存在することを示す)(図4a、b)。注目すべきは、以前のデータと一致するように、投与されたリナクロチド濃度でこれらのマウスに副作用による下痢が観察されなかったことである。併用処置グループでは、マウスの盲腸と結腸の重量は、コントロールまたは繊維グループで観察されたレベルと同様であり、これは、腸管腔内のH2Oの量が少なく、高レベルの酪酸塩による浸透効果の制限を示唆する(図4a、b)。このデータは、たとえば、リナクロチドなどのGUCY2Cと、たとえば、酪酸塩またはトリブチリンなどのSCFAとの併用投与が、リナクロチド投与などによるGUCY2C刺激後の副作用である下痢および深刻な脱水のリスクを軽減する。
【0070】
リナクロチドを介した浸透圧勾配に対する酪酸塩の逆調節効果は、腸のオルガノイド培養でも確認され、そこでは、酪酸塩とリナクロチドの組み合わせにより、リナクロチド単独と比較して「オルガノイド内腔」が小さくなった(図5aからd)。
【0071】
概要:
酪酸塩とGUCY2Cアゴニストであるリナクロチドの観察された相乗効果の根底にあるメカニズムは何であるか?
上記のデータは、酪酸塩とリナクロチドの組み合わせが、腸上皮細胞でのグアニリンの産生を促進し、これはGUCY2Cシグナル伝達を引き起こすようであり(図6aからc)、したがって、結腸直腸腫瘍形成、好ましくは結腸直腸癌(CRC)、または慢性腸炎、好ましくは炎症性腸疾患(IBD)の予防および/または治療に対する相乗効果を促進するすることを示す。
【0072】
上記のデータはまた、浸透圧アンタゴニストである酪酸塩とリナクロチドによって促進された、腸上皮での浸透圧バランスの有意な改善を示す(図5aからd)。これは、腸上皮細胞による酪酸塩の吸収を促進し、GUCY2Cシグナル伝達を促進する可能性がある。したがって、たとえば、リナクロチドなどのGUCY2Cアゴニストおよびたとえば、酪酸塩および/またはトリブチリンなどのSCFAの本発明の併用投与は、リナクロチド投与によるGUCY2C刺激後の副作用である下痢および深刻な脱水のリスクを軽減する。
図1
図2a-b】
図2c-d】
図3a-b】
図3c-d】
図4a-b】
図5a-b】
図5c-d】
図6a-c】