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特許7599018雨天時浸入水率推定装置、雨天時浸入水率推定方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】雨天時浸入水率推定装置、雨天時浸入水率推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   E03F 1/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023528931
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2021023254
(87)【国際公開番号】W WO2022264422
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2024-06-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年6月20日 刊行物「環境浄化技術 2020年7・8月号,第19巻,第4号,通巻156号,第44~48頁」における公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年7月27日 刊行物「第57回下水道研究発表会講演集,第652~654頁」における公開
(73)【特許権者】
【識別番号】501054551
【氏名又は名称】株式会社NJS
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141553
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151987
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 信行
(72)【発明者】
【氏名】大西 明和
(72)【発明者】
【氏名】江口 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】田辺 隆雄
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-019384(JP,A)
【文献】特開2000-257140(JP,A)
【文献】特開2003-147844(JP,A)
【文献】特開平07-305694(JP,A)
【文献】特開2010-054266(JP,A)
【文献】特開2007-146423(JP,A)
【文献】米国特許第10501925(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の区域に分割される対象地域において区域の各々に対して定義される、降雨量に対する雨天時浸入水量の割合に対応する雨天時浸入水率、を推定する雨天時浸入水率推定装置であって、
前記区域の各々に対して定義される変数であって、区域の各々における降水量の関数を含む変数のデータを取得する、変数データ取得部と、
雨天時浸入水率推定部であって、
前記変数データ取得部が取得した、前記区域の各々における前記変数のデータと、
前記雨天時浸入水率と前記変数との過去のデータを教師データとして機械学習を行った、変数から雨天時浸入水率を推定する推定モデルと
を用いて、前記区域の各々における雨天時浸入水率を推定する、雨天時浸入水率推定部と
を備え
前記推定モデルは、前記雨天時浸入水率と前記変数との過去のデータを教師データとして2以上の降雨パターンの各々に対応して各々が別個に機械学習を行った2以上の別個のパターン別推定モデルのうち、対象降雨の降雨パターンに対応するパターン別推定モデルであり、
前記降雨パターンは、局所集中降雨のパターンであり、前方集中パターン及び後方集中パターンを含む、雨天時浸入水率推定装置。
【請求項2】
前記機械学習の学習アルゴリズムは、ランダムフォレスト又はニューラルネットワークである、請求項1に記載の雨天時浸入水率推定装置。
【請求項3】
前記変数データ取得部により取得された前記区域の各々における前記降水量の関数である流入対象雨量のデータと、前記雨天時浸入水率推定部による推定により得られた該区域の各々における雨天時浸入水率の推定値とを用いて、該区域の各々における雨天時浸入水量の推定値を算出する、雨天時浸入水量算出部
を更に備える、請求項1又は2に記載の雨天時浸入水率推定装置。
【請求項4】
前記降水量の関数は、該各々の区域において、降水量と、面積とを用いて算出される流入対象雨量である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の雨天時浸入水率推定装置。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の雨天時浸入水率推定装置において、
前記雨天時浸入水率推定部による推定により得られた前記区域の各々における雨天時浸入水率の推定値を日時と関連付けて時々刻々と記憶する、雨天時浸入水率記憶部と、
雨天時に下水関連施設に流入する流入水の、基準時点よりも一定時間後の将来時点での流入量を推定する、下水関連施設流入量推定部であって、
各々の区域から前記下水関連施設への流達時間に応じて該各々の区域に対して決定される日時における、該各々の区域の予測降水量又は実績降水量と、
前記各々の区域の面積と、
前記各々の区域に対する浸透率と、
前記流達時間に応じて前記各々の区域に対して決定される前記日時における、該各々の区域の前記雨天時浸入水率の推定値と、
前記流達時間に応じて前記各々の区域に対して推定される前記日時における、晴天時流入量と
を用いて前記基準時点よりも一定時間後の将来時点での流入量を推定する、下水関連施設流入量推定部と
を更に備えた、下水関連施設流入量推定装置。
【請求項6】
複数の区域に分割される対象地域において該区域の各々に対して定義される、降雨量に対する雨天時浸入水量の割合に対応する雨天時浸入水率、を推定する雨天時浸入水率推定装置が実行する推定方法であって、
前記区域の各々に対して定義される変数であって、該区域の各々における降水量の関数を含む変数のデータを取得する、変数データ取得工程と、
雨天時浸入水率推定工程であって、
前記変数データ取得工程で取得した、前記区域の各々における前記変数のデータと、
前記雨天時浸入水率と前記変数との過去のデータを教師データとして機械学習を行った、変数から雨天時浸入水率を推定する推定モデルと
を用いて、前記区域の各々における雨天時浸入水率を推定する、雨天時浸入水率推定工程と
を備え
前記推定モデルは、前記雨天時浸入水率と前記変数との過去のデータを教師データとして2以上の降雨パターンの各々に対応して各々が別個に機械学習を行った2以上の別個のパターン別推定モデルのうち、対象降雨の降雨パターンに対応するパターン別推定モデルであり、
前記降雨パターンは、局所集中降雨のパターンであり、前方集中パターン及び後方集中パターンを含む、雨天時浸入水率推定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道管路における雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムに適用することができる、雨天時浸入水率推定装置、雨天時浸入水率推定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
雨水を排除するための雨水管と、汚水を下水(汚水)処理場へと流すための汚水管とが分離された分流式下水道において、雨天時に雨水が汚水管に浸入すると(雨天時浸入水)、下水道施設に流入する水量が増大し、汚水管路からの溢水や処理施設の負担増加等の問題が生じる。これらは、下水処理費用の増大、公共用水域の水質悪化、溢水による公衆衛生の悪化または浸水被害等の原因となることから対策が強く求められている。今後、汚水管の老朽化により、雨天時浸入水が増加することが予想される。効率的に雨天時浸入水を減らすためには、下水道を管理する事業体の対象地域全体から発生領域を絞り込んだ上で対策を実施する必要がある。その一方で発生領域を絞り込むための実地調査は費用が掛かりすぎるため、低コストかつ高精度な発生領域の絞り込み方法が必要となっている。
【0003】
特許文献1においては、対象地域から下水道に流入する不明水の発生分布を推定する不明水発生分布推定装置において、パターンマッチング分析を行うことにより各地区における不明水発生分布を得る装置が記載されている。しかしながら、対象地域を複数の区域(メッシュ)に細分化し機械学習モデルを用いて雨天時の浸入水率を推定するための具体的な手法は従来提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3857670号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上に鑑み、本発明は、複数の区域に分割される対象地域において複数の区域の各々に対して定義される、降雨量に対する雨天時浸入水量の割合に対応する雨天時浸入水率、を推定する雨天時浸入水率推定装置、雨天時浸入水率推定方法、及びプログラムとして、機械学習を行った推定モデルを用いて推定をする装置、方法、及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、本発明は、複数の区域に分割される対象地域において区域の各々に対して定義される、降雨量に対する雨天時浸入水量の割合に対応する雨天時浸入水率、を推定する雨天時浸入水率推定装置であって、区域の各々に対して定義される変数であって、区域の各々における降水量の関数である流入対象雨量を含む変数のデータを取得する、変数データ取得部と、雨天時浸入水率推定部であって、変数データ取得部が取得した、区域の各々における変数のデータと、雨天時浸入水率と変数との過去のデータを教師データとして機械学習を行った、変数から雨天時浸入水率を推定する推定モデルとを用いて、区域の各々における雨天時浸入水率を推定する、雨天時浸入水率推定部とを備える、雨天時浸入水率推定装置を提供する。
【0007】
推定モデルは、雨天時浸入水率と変数との過去のデータを教師データとして2以上の降雨パターンの各々に対応して各々が別個に機械学習を行った2以上の別個のパターン別推定モデルのうち、対象降雨の降雨パターンに対応するパターン別推定モデルであってよい。
【0008】
機械学習の学習アルゴリズムは、ランダムフォレスト又はニューラルネットワークであってよい。
【0009】
雨天時浸入水率推定装置は、変数データ取得部により取得された区域の各々における降水量の関数である流入対象雨量のデータと、雨天時浸入水率推定部による推定により得られた区域の各々における雨天時浸入水率の推定値とを用いて、区域の各々における雨天時浸入水量の推定値を算出する、雨天時浸入水量算出部を更に備えてよい。
【0010】
降水量の関数は、各々の区域において、降水量と、面積とを用いて算出される流入対象雨量であってよい。
【0011】
また本発明は、上述のいずれかの雨天時浸入水率推定装置において、雨天時浸入水率推定部による推定により得られた区域の各々における雨天時浸入水率の推定値を日時と関連付けて時々刻々と記憶する、雨天時浸入水率記憶部と、雨天時に下水関連施設に流入する流入水の、基準時点よりも一定時間後の将来時点での流入量を推定する、下水関連施設流入量推定部であって、各々の区域から下水関連施設への流達時間に応じて各々の区域に対して決定される日時における、各々の区域の予測降水量又は実績降水量と、各々の区域の面積と、各々の区域に対する浸透率と、流達時間に応じて各々の区域に対して決定される日時における、各々の区域の雨天時浸入水率の推定値と、流達時間に応じて各々の区域に対して推定される日時における、晴天時流入量とを用いて後の時点での流入量を推定する、下水関連施設流入量推定部とを更に備えた、下水関連施設流入量推定装置を提供する。
【0012】
また本発明は、複数の区域に分割される対象地域において区域の各々に対して定義される、降雨量に対する雨天時浸入水量の割合に対応する雨天時浸入水率、を推定する雨天時浸入水率推定装置が実行する推定方法であって、区域の各々に対して定義される変数であって、区域の各々における降水量の関数である流入対象雨量を含む変数のデータを取得する、変数データ取得工程と、雨天時浸入水率推定工程であって、変数データ取得工程で取得した、区域の各々における変数のデータと、雨天時浸入水率と変数との過去のデータを教師データとして機械学習を行った、変数から雨天時浸入水率を推定する推定モデルとを用いて、区域の各々における雨天時浸入水率を推定する、雨天時浸入水率推定工程とを備える、雨天時浸入水率推定方法を提供する。
【0013】
また本発明は、複数の区域に分割される対象地域において区域の各々に対して定義される、降雨量に対する雨天時浸入水量の割合に対応する雨天時浸入水率、を推定する雨天時浸入水率推定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、区域の各々に対して定義される変数であって、区域の各々における降水量の関数である流入対象雨量を含む変数のデータを取得する、変数データ取得手順と、雨天時浸入水率推定手順であって、変数データ取得手順で取得した、区域の各々における変数のデータと、雨天時浸入水率と変数との過去のデータを教師データとして機械学習を行った、変数から雨天時浸入水率を推定する推定モデルとを用いて、区域の各々における雨天時浸入水率を推定する、雨天時浸入水率推定手順とを実行させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機械学習モデルを活用して対象地域内の区域ごとに浸入水率を推定することにより雨天時浸入水の発生領域を実地調査なし若しくは最小限の実地調査で絞り込むことが可能となる。これにより、従来はコストがかかりすぎて困難であった、対象地域全体を対象とした対策優先区域の合理的な絞り込みを可能とする。このことで下水管(汚水管)の修理、交換等のメンテナンスを効率化することができる。
また一態様においては、区域ごとの浸入水率とリアルタイムの降水量および予測降水量をもとに下水処理場、雨水ポンプ場を含む下水処理施設の雨天時の流入量予測が可能となる。
流入量の急変を高精度に予測することで、先を見越した運転制御が可能となり運転員の作業負荷とエネルギー消費を軽減できる。また処理しきれない量の流入に対しても、事前に予測することで対応を検討する時間が得られ、浸水や設備の損傷など、発生する損害の軽減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】雨天時浸入水率推定装置の構成を示すブロック図。
図2】雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの構成を示すブロック図。
図3】雨天時浸入水率推定装置によって実行される学習段階の動作フローを示すフローチャート。
図4】雨天時浸入水率推定の対象地域が複数の区域(メッシュ)に分割されることを示す概念図。
図5】複数の区域に分割された対象地域における、下水(汚水)処理場と下水道管路(汚水管)との配置を示す図。
図6】雨天時浸入水率推定装置によって実行される運用段階の動作フローを示すフローチャート。
図7】学習アルゴリズムの一例として、ランダムフォレストの概念(学習段階)を説明する図。
図8】学習アルゴリズムの一例として、ランダムフォレストの概念(運用段階)を説明する図。
図9】学習アルゴリズムの一例として、ニューラルネットワークの概念を説明する図。
図10】現在時刻より一定時間後の将来時点での下水関連施設流入量推定の概念を説明する図。
図11】雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの画面イメージ(降雨)。
図12】雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの画面イメージ(モデル作成・学習実行)。
図13】雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの画面イメージ(学習結果)。
図14】雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの実施例における解析結果を示す図。
図15】解析結果と実測値の浸入水率の比較結果を示すグラフ。
図16】解析結果と実測値の浸入水率の比較結果を示す表。
図17】分流式下水道を説明する概略図。
図18】降雨と雨天時浸入水発生の時間差を説明する図(処理場への流入量、及び領域ごとの雨量)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限られるわけではなく、請求の範囲の記載によって定められることに留意する。例えば以下の実施形態中で用いる式はあくまで例であり、それらの式を用いることは本発明の実施において必須ではない。例えば、雨天時浸入水率推定のために用いる機械学習モデルは、降雨パターンごとに別個に作成するのではなく1つのみのモデルを作成してどのような降雨パターンの降雨であるかにかかわらずその1つのモデルを用いて浸入水率の推定を行うこととしてもよい。機械学習モデルを生成するための機械学習アルゴリズムも、後述のランダムフォレスト、ニューラルネットワークに限らず任意のアルゴリズムであってよい。説明変数等の選択も任意である。各データのデータ形式も、CSV(Comma Separated Value)形式のファイル等、任意の形式であってよい。各々の機能部は、単独のハードウェアによって実現されてもよいし、2以上のハードウェアにより実現されてもよいし、後述のとおり複数の機能部が1つのハードウェアにより実現されてもよい。なお、本明細書中、「水」とは純水であってもよいし、汚水等の下水、或いは雨水等、任意の不純物等を任意に含む水であってもよい。また、水量については1トン=1m3として質量の単位(t)であらわしている。
【0017】
図17は、分流式下水道を説明する図である。分流式下水道においては、下水道管(汚水管)1000と雨水管1100とが分離されている。住宅、ビルディング等から排出された汚水は下水道管1000を通って下水(汚水)処理場1001へと集められ、下水処理場1001において下水処理された後、海や河川へと放出される。他方、雨水は、雨水管1100を通って海や河川などの公共用水域へ直接放流されるかまたは雨水ポンプ場1101へと集められ、雨水ポンプ場1101において砂やごみが取り除かれたうえで海や河川などの公共用水域へと放出される。ここで、下水道管1000に経年劣化等により不良箇所(ひび、破損、孔等)1002が生じていると、不良箇所1002を通って下水道管1000に地中に浸透した雨水が浸入することがあり、これにより下水処理場1001の処理負担が増大したり、公共用水域の水質悪化、溢水による公衆衛生の悪化または浸水被害等の問題が生じたりするがある。
【0018】
図18は、降雨と下水処理場における雨天時浸入水発生の時間差を説明する図である。図17のグラフ中、横軸は時刻を表し、縦軸は下水処理場1001への或る区域からの流入量(t)(晴天時流入量+雨天時浸入水)を示す。グラフ中、「雨量」は該当する時刻の領域ごと降水量の平均(流達時間は考慮していない)であり、「雨天時浸入水量」は、「流入量の実測値-晴天時流入量」の計算で算出する。「晴天時流入量」は、3か月分の流入量の平均とする(曜日別などを考慮)。晴天時流入量は、季節、気象条件、曜日等に応じて推定可能な量であり、以下の実施形態においては既知(推定値が既に得られている)の量として扱う。雨天時浸入水は、後述のとおり機械学習モデルを用いて推定される雨天時浸入水率を用いて算出可能な浸入水(の量)である。図18のグラフに示すとおり、降雨時の降水量がピークとなる時刻と、処理場への雨天時浸入水量がピークとなる時刻との間には時間差が生じるが、これは、下水処理場1001へと繋がる下水道管を通って雨天時浸入水が下水処理場1001に到達するまでにかかる時間(流達時間)と関連する。該当降雨の該当時刻における各領域の浸入水量Aを求め、これを機械学習の正解として学習を実施することができる。
A=(当該領域の雨量)/Σ全領域(領域ごとの雨量)×(雨天時浸入水量)
ただし、上式中、「領域ごとの雨量」においては流達時間を考慮する(図18も参照)。
【0019】
対象地域の複数の区域(メッシュ)への分割
図4は、雨天時浸入水率推定の対象地域が複数の区域(メッシュ)に分割されることを示す概念図であり、図5は、複数の区域に分割された対象地域における、下水(汚水)処理場と下水道管路(汚水管)との配置を示す図である。以下においては1つ1つの区域が50m四方の正方形区域であるとする(図4は、説明のための概念図であり、区域の形状の正確性は考慮していない)が、区域の形状やサイズは任意に定めることができる。「対象地域」とは、雨天時浸入水率の推定を行う対象となる任意の地域であり、対象地域を複数の区域に分割することにより、複数の区域の集合体として対象地域をとらえることができる。図5の例においては、区域49,51のような、8×11=88個の矩形区域(一辺の長さが50mの正方形区域とする)の集合体として対象地域が与えられる。また、図4図5では対象地域を矩形で示しているが、通常は48に示す処理場またはポンプ場に流入する地域全域が対象地域であり、不定形となる。
【0020】
雨天時浸入水率
各区域において個別に定義される「雨天時浸入水率」とは、降雨量に対する雨天時浸入水量の割合に対応する量であり、或る区域における「雨天時浸入水率」とは、以下の(1)式
【数1】
で定義される「雨天時浸入水率」のことである(上記(1)式の雨天時浸入水率に100を乗じることにより百分率で表すこともある)。ただし、既に述べたとおり「t」は重さの単位のトンである(1トン=1000kg)。(1)式中、「雨天時浸入水量」とは、上記或る区域(当該区域)に降った雨水のうち、下水道管に流れ込む雨水の量(重さ。単位はトン)である。(1)式中の「降水量(t)」は、上記或る区域に降った雨水の量(重さ。単位はトン)である。なお、以下において「流入対象雨量」とは、当該区域における降水量(mm)や、当該区域の面積(m2)、そして後述のとおり当該区域の用途(建物、道路、河川・池、その他)に応じて所定のルールで算出される当該区域の浸透率(0以上、1以下の値)を用いて、個別の区域ごとに以下の(2)式
【数2】
で定義される(雨水の密度を、1000kg/m3と仮定した。雨水、或いは下水等の密度が異なる場合は、(2)式で得られた値に適宜密度を乗じる等して補正すればよい。他の式においても同様。)。なお、ここでは流入対象雨量をt(トン)の単位で示しているが、(2)式中、区域の降水量(mm)は現在の例においては1時間あたりの降水量(1時間降った雨水がどこにも流れ出すことなく、その場所にたまった場合の水の深さ)と同じであるから、流入対象雨量(t)も1時間あたりの流入対象雨量を意味することに留意する。同様に、(1)式の浸入水量(t)も、現在の例においては1時間あたりの浸入水量を意味する。後述の各式における(処理場の)流入対象雨量、浸入水量、下水関連施設への流入量等も同様に時間あたりの量を示すことに留意する。また区域の降水量とは、例えば一辺が50mの区域内における1時間あたりの降水量(mm)であるが、降雨データを後述のXRAINから取得する場合は、XRAINの降雨データが250m×250mの区域単位で与えられるため、50m×50mの区域25個において1つの降水量(mm)が対応することとなる(25個の区域に同じ値の降水量を割り当てるか、または隣接するXRAINの区域における降水量との差を考慮して傾斜した降水量を割り付ける)。
【0021】
後述のとおり、雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの運用段階において、雨天時浸入水率推定装置は、各区域に対して個別に定義される変数(流域特性)を入力とし、機械学習済みの推定モデルにより、出力としての浸入水率を各区域に対して個別に推定し、降水量の値を用いて(2)式に従い区域ごとに算出される流入対象雨量を当該区域における浸入水率の推定値に乗じる(上記(1)式参照)ことにより、浸入水量の推定値を区域ごとに算出する。
【0022】
雨天時浸入水率推定装置の構成
図1は、雨天時浸入水率推定装置の構成を示すブロック図である。雨天時浸入水率推定装置1は、制御部2と、記憶部3と、入出力部4と、通信部5とを備える。後述する通信部を介して入力および表示を行う場合は、入出力部は不要としてもよい。
【0023】
制御部2は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)等のプロセッサ6と、RAM(Random Access Memory:ランダム アクセス メモリ)等の一時メモリ7とを備える。プロセッサ6が、記憶部3に記憶された変数データ取得プログラムを実行することにより、制御部2(のプロセッサ6.以下においても同様)は変数データ取得部8として機能する。プロセッサ6が、記憶部3に記憶された機械学習プログラムを実行することにより、制御部2は機械学習部9として機能する。プロセッサ6が、記憶部3に記憶された雨天時浸入水率推定プログラムを実行することにより、制御部2は雨天時浸入水率推定部10として機能する。プロセッサ6が、記憶部3に記憶された雨天時浸入水量算出プログラムを実行することにより、制御部2は雨天時浸入水量算出部11として機能する。プロセッサ6が、記憶部3に記憶された下水関連施設流入量推定プログラムを実行することにより、制御部2は下水関連施設流入量推定部12として機能する。プロセッサ6が、記憶部3に記憶された各種制御、表示プログラム(オペレーティングシステムや、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)用のアプリケーションソフトウェア、各種デバイスのドライバソフトウェア等を含む)を実行することにより、制御部2は各種制御、表示部13として機能する。記憶部3にはその他に任意のプログラムが記憶されていてよく、制御部2のプロセッサ6が任意のプログラムを実行することにより制御部2は任意の機能部として機能することができる。領域数が多い場合、計算を1時間当たりよりも短い時間単位で行う場合は計算量が増大し、計算に要する時間がかかりすぎる場合がある。その場合は、プログラムの一部を演算性能の高いGPU(Graphics Processing Unit)で行う仕様としてもよい。
【0024】
変数データ取得部8は、外部サーバからのデータ取得、記憶部3に記憶された各種データ、データベースからのデータ取得、上記流入対象雨量の算出等の演算処理等を行うことにより変数データを取得する機能部である。変数データ取得部8は取得した変数データを変数データベース22のデータレコードとして記憶部3に記憶(記録)させる。記憶部3に記憶された変数データは(制御部2により読みだされて適宜一時メモリ7に記憶された上で。以下のデータ処理においても同様)、雨天時浸入水率推定部10による雨天時浸入水率推定処理等に用いられる。
【0025】
機械学習部9は、記憶部3に記憶された教師データ17(説明変数である1種類以上の変数の変数データ、及び、目的変数である(雨天時)浸入水率の浸入水率データとしての、それぞれ過去のデータ)を用いて、変数から浸入水率を推定(予測)する推定モデル(予測モデル)を機械学習(教師あり学習)アルゴリズムにより作成、更新する機能部である。ここにおいて、浸入水率の推定モデルとは、後述の雨天時浸入水率推定部10が変数データを入力データとして受け付けて浸入水率の推定値を出力データとして出力するために用いる、具体的な計算式、計算方法、パラメータ値(重み係数の値等)等であるとする。機械学習部9は、作成した浸入水率の推定モデルを表すデータ(プログラム等を含んでもよい)を学習済みモデル16として記憶部3に記憶させる。
【0026】
雨天時浸入水率推定部10は、機械学習部9が生成した学習済みモデル16を用いて、変数データを入力データとして受け付けて浸入水率の推定値を出力データとして出力する機能部である。雨天時浸入水率推定部10は、対象地域を構成する複数の区域の各々1つずつについて、学習済みモデルを用いた計算により変数データから浸入水率の推定値を算出する。雨天時浸入水率推定部10は、算出した浸入水率の推定値のデータを、雨天時浸入水率データベース23のデータレコードとして記憶部3に記憶させる。雨天時浸入水率推定部10は、各区域における浸入水率の推定値の算出を、一例においては所定時間間隔で繰り返し行い、浸入水率の推定値を区域、日時(日付と時刻)と関連付けで、記憶部3(「雨天時浸入水率記憶部」と呼ぶことがある。)の雨天時浸入水率データベース23に時々刻々と繰り返し格納させる。
【0027】
雨天時浸入水量算出部11は、上述の(1)式,(2)式に従い、各区域における浸入水量の推定値を算出する機能部である。雨天時浸入水量算出部11は、対象地域を構成する複数の区域の各々1つずつについて、当該区域における浸入水率の推定値に当該区域における流入対象雨量を乗じることにより、当該区域の浸入水量の推定値を算出する。雨天時浸入水量算出部11は、算出した浸入水量の推定値のデータを、施設流入量、雨天時浸入水量データベース21のデータレコードとして記憶部3に記憶させる。雨天時浸入水量算出部11は、各区域における浸入水量の推定値の算出を、一例においては所定時間間隔で繰り返し行い、浸入水量の推定値を区域、日時と関連付けで、記憶部3(「雨天時浸入水量記憶部」と呼ぶことがある。)の施設流入量、雨天時浸入水量データベース21に時々刻々と繰り返し格納させる。
【0028】
下水関連施設流入量推定部12は、各区域から下水道管(汚水管)を通って下水処理場等の下水関連施設に流入する浸入水の、ある時点(例えば、日時の基準時点からt分後)での流入量を推定する機能部である。下水関連施設流入量推定部12は、算出した流入量の推定値のデータを、施設流入量、雨天時浸入水量データベース21のデータレコードとして記憶部3に記憶させる。各々の区域から下水道管へと浸入した雨天時浸入水が、当該区域から下水関連施設に到達するまでには区域ごとに異なる流達時間を要するため、この流達時間も考慮した計算によって下水関連施設への流入量が推定される。流入量の具体的算出については後に詳しく説明する。
【0029】
記憶部3は、ハードディスクドライブ、SSD(Solid State Drive)等を備えた記憶(記録)装置であり、上述のとおり制御部2をさまざまな機能部として機能させるためにプロセッサ6によって実行されるプログラムとして、機械学習関連プログラム14(変数データ取得プログラム、機械学習プログラム、雨天時浸入水率推定プログラムを含む)、各種プログラム15(雨天時浸入水量算出プログラム、下水関連施設流入量推定プログラム、各種制御、表示プログラム等を含む)を記憶する。また記憶部3は、上述のとおり機械学習部9により生成される学習済みモデル16として、一例においては後に詳しく説明するとおり2以上の降雨パターンの各々に対応して各々が別個に機械学習を行った2以上のパターン別推定モデルとしての、降雨パターン1用モデル、降雨パターン2用モデル、…降雨パターンM用モデルというM個のモデルを記憶する(Mは2以上の任意の整数)。記憶部3は更に、機械学習部9が浸入水率の推定モデルを生成、更新するために用いる教師データ17として、過去の変数データ(説明変数データ)と雨天時浸入水率データ(目的変数データ)とを記憶する。また記憶部3は、浸入水率の推定モデルの性能を評価するためのテストデータ18として、変数データと雨天時浸入水率データとを記憶する。記憶部3は、その他にも晴天時平均流入量データ等の各種データ19を記憶する。さらに記憶部3は、以下の各種データベースを記憶する。
(1)降雨情報データベース20
対象地域に含まれる各々の区域の各日時における降水量を、「区域の識別子」、「日時(時間帯でもよい。以下においても同様)」、「単位時間(例えば1時間だが、これに限らず、より短い時間を単位時間とすることもある)あたりの降水量(mm)(以下、単に「降水量」と呼ぶ)」をデータ項目として含むレコードの形式で格納するデータベース。
(2)施設流入量、雨天時浸入水量データベース21
雨天時浸入水量算出部11によって算出される、各々の区域の各日時における雨天時浸入水量を、「区域の識別子」、「日時」、「浸入水量」をデータ項目として含むレコードの形式で格納するとともに、下水関連施設流入量推定部12によって算出される、各日時における下水関連施設への流入量を、「日時」、「流入量」をデータ項目として含むレコードの形式で格納するデータベース(少なくとも2つのテーブルを含む)。
(3)変数データベース22
変数データ取得部8によって取得される、各々の区域の各日時における変数を、「区域の識別子」、「日時」、「変数1」,「変数2」…「変数L」をデータ項目として含むレコードの形式で含むデータベース。なお、Lは説明変数としての変数の数であり1以上の任意の整数である。また、後述のとおり、変数のうち流入対象雨量のみが時々刻々と変化し、それ以外の変数が(短期的には)時間変化しないとみなせる場合は、第1の変数データベースとして、「区域の識別子」、「日時」、「流入対象雨量(変数L)」をデータ項目として含むレコードの形式で格納するデータベースを用意し、更に第2の変数データベースとして、「区域の識別子」、「変数1」,「変数2」,…「変数L-1」をデータ項目として含むレコードの形式で格納するデータベースを用意してもよい。
(4)雨天時浸入水率データベース23
雨天時浸入水率推定部10によって算出される、各々の区域の各日時における雨天時浸入水率を、「区域の識別子」、「日時」、「浸入水率」をデータ項目として含むレコードの形式で格納するデータベース。
(5)地理情報データベース24
変数データ取得部8により、外部サーバマシン(地理情報サーバ)31等から取得される(後述の図2を参照)各々の区域における地理情報を、「区域の識別子」、「地理情報1」,「地理情報2」,…「地理情報P」をデータ項目として含むレコードの形式で格納するデータベース。なお、Pは、或る区域に対して与えられる地理情報の数であり1以上の任意の整数である。
【0030】
入出力部4は、システム管理者が雨天時浸入水率推定装置1に命令やデータを入力するためのキーボード25、マウス26等の入力デバイス、及び、画像等の情報を表示するためのディスプレイ装置27(液晶ディスプレイ装置、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL:organic electro-luminescence)ディスプレイ装置等)等の出力デバイスを含む。後述する通信部を介して入力および表示を行う場合は入出力部は不要としてもよい。通信部5は、雨天時浸入水率推定装置1と、外部のサーバマシン、クライアントマシン、各種装置等との間で通信を行うための通信インタフェース28、通信回路29を含む。
【0031】
雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの構成
図2は、雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの構成を示すブロック図である。雨天時浸入水率推定装置1、外部サーバマシン(地理情報サーバ)31、下水関連施設32、降水量測定システム33、クライアントマシン34が、インターネット等の通信回線30を介して連携することにより雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムが構成される。
【0032】
外部サーバマシン(地理情報サーバ)31は、一例においては雨天時浸入水率推定装置1の制御部2が地理情報システム(GIS)を利用するときに用いる地理情報を格納するサーバマシンであり、雨天時浸入水率推定装置1と同様に制御部、記憶部、入出力部、通信部を備える。外部サーバマシン31の記憶部には、地図データ35、土地用途データ36、地上雨量計位置データ37、その他の地理的データ38が記憶されており、雨天時浸入水率推定装置1からの要求に応じて、これらデータを雨天時浸入水率推定装置1へと送信する。地理情報サーバ31は独立した複数のサーバから構成されてもよく、例えば地図データ35を第1の地理情報サーバが格納し、土地用途データ36を第2の地理情報サーバが格納する等、各種データが複数サーバに分散して格納されていてもよい。
【0033】
下水関連施設32は、下水(汚水)処理場、ポンプ場等の施設であり、以下においては下水(汚水)処理場であるとする。下水処理場32においては流入流量が随時測定され、下水処理場32に設置されたコンピュータの記憶部には、流入流量の実測値と測定日時とを関連付けた流入流量実測データ39が記憶されている。下水処理場32に設置されたコンピュータは、雨天時浸入水率推定装置1からの要求に応じて、流入流量実測データ39を雨天時浸入水率推定装置1へと送信する。
【0034】
降水量測定システム33は、場所・日時に応じて変化する降水量を測定するための、気象レーダ、雨量計等を含むシステムであり、一例においてはXRAIN(extended radar information network)によって構成される。降水量測定システム33に含まれるコンピュータの記憶部には、各日時における地点ごとの降水量の実測値、予測値を含む降雨情報データ及び予測降雨情報データ40が記憶されている。降水量測定システム33に含まれるコンピュータは、雨天時浸入水率推定装置1に、降雨情報データ及び予測降雨情報データ40を雨天時浸入水率推定装置1に送信する。
【0035】
クライアントマシン34は、コンピュータ、或いはスマートフォン等のデバイスであり、制御部41、記憶部42、入出力部(表示部)43、通信部44を備える。システム管理者、その他のユーザは、クライアントマシン34の入出力部(表示部)43から雨天時浸入水率推定装置1に対して命令を入力することにより、雨天時浸入水率推定装置1に上述の各機能を実行させたり、実行結果として得られる浸入水率、浸入水量の推定値、或いはそれら推定値の分布をマップ上に表示した画像、或いは下水関連施設への流入量の推定値を表示する画像等(時系列表示等も可能)をクライアントマシン34のディスプレイ装置に表示させたりすることができる。
【0036】
雨天時浸入水率推定装置、雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの動作
以下、図3図10も参照しつつ、雨天時浸入水率推定装置、雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの動作を説明する。
【0037】
1.学習段階の動作
図3は、雨天時浸入水率推定装置によって実行される学習段階の動作フローを示すフローチャートである。
【0038】
区域(メッシュ)情報の生成
まずステップS301において、地図読み込み、及び区域(メッシュ)情報生成が行われる。入出力部4を介して、或いは入出力部(表示部)43を介して雨天時浸入水率推定装置1が管理者等のユーザからの命令を受け付けたことに応答して雨天時浸入水率推定装置1のプロセッサ6が変数データ取得プログラムを実行することにより、変数データ取得部8は地理情報サーバ31に対して地図データ35、土地用途データ36、地上雨量計位置データ37、その他の地理的データ38を要求する。要求を受けた地理情報サーバ31は、地図データ35、土地用途データ36、地上雨量計位置データ37、その他の地理的データ38を雨天時浸入水率推定装置1に送信する。変数データ取得部8は、予め管理者等のユーザが入出力部4或いは入出力部(表示部)43を介して入力すること等により指定された、対象地域(地図データ35の示す地域において、どの地域を対象とするか)と、区域(メッシュ)のサイズ(対象地域をどの程度まで細かく分割するか)と、を示す情報に基づき、対象地域内のメッシュ情報を生成する。一例において、メッシュ情報は、メッシュの基準位置(中心点、或いは左上の端等)の座標とメッシュのサイズ(一辺の長さ、或いは縦と横それぞれの長さ等)とからなる情報であり、メッシュ情報のデータは記憶部3の地理情報データベース24内に格納される。なお、降雨情報として対象地域内に設置された雨量計からの情報を用いる場合、変数データ取得部8は解析単位の雨量計を選択して、その情報も地理情報データベース24に格納する。
【0039】
流達時間設定
次にステップS302において、各区域における流達時間の設定が行われる。「流達時間」とは、各々の区域から下水管を流下して目的地(例:下水処理場)まで浸入水等が到達するまでにかかる時間として各々の区域に対して別個に定義される時間であり、1つの区域内での流達時間の平均値として、1つの区域に対して1つの「流達時間」が定められる。各々の区域における上記流達時間は、予め計算、測定調査等により決定されて(一例においては、下水道台帳の管渠諸元からマニング式を用いて流速を管渠毎に算出し、当該管渠から処理場までの流達時間を求め、各々の区域内の平均値を計算して各々の区域に割り当てる。)、各種データ19の一部として記憶部3に記憶される。
【0040】
末端流入量、各種変数を設定
ステップS303において、変数データ取得部8は、各々のメッシュについて、各種変数を設定する。区域ごとに設定される変数の1つには「土地利用(浸透率)情報」がある。土地利用(浸透率)情報とは、1つのメッシュ内の平均浸透率(雨水の土地への浸透のし易さ)を示す情報(0以上、1以下の値とする)であり、当該メッシュの土地のうち、どれだけの面積がどのような用途に利用されているかに応じて、用途ごとに与えられた浸透率の値の加重平均(「或る用途に利用される面積がメッシュの面積において占める割合(0以上1以下)と、当該用途における浸透率との積」を、全ての用途について加算することで得られる)を算出することにより設定される。
【0041】
一例においては、各用途の浸透率として、
建物… 0.0
道路… 0.1
河川・池… 1.0
その他… 0.8
の値が定義される。例えば或るメッシュの面積のうち、40%が建物によって占められており、20%が道路によって占められており、10%が河川又は池によって占められており、30%がその他の用途で用いられている場合、その区域の(平均)浸透率は、
【数3】
となる。変数データ取得部8は、このようなメッシュの浸透率を対象地域内の全てのメッシュについて計算し、各々のメッシュの土地利用(浸透率)情報として記憶部3の変数データベース22に格納させる。なお、各メッシュにおける、「当該メッシュの土地のうち、どれだけの面積がどのような用途に利用されているか」の情報、及び用途ごとの浸透率の値は、管理者等のユーザが入出力部4或いは入出力部(表示部)43を介して入力すること等により地理情報データベース24に予め格納されていることとしてもよいし、地図データ35に含まれる衛星写真を変数データ取得部8が分析することで「当該メッシュの土地のうち、どれだけの面積がどのような用途に利用されているか」を特定して、その情報を地理情報データベース24に格納する等してもよい。その他の例として、各区域の浸透率は、予め設定せずに学習させる方法によって決めてもよい。
【0042】
また、変数データ取得部8は、機械学習の教師データにおける説明変数の値として用いられる流域特性の値を区域ごとに取得、設定して、教師データ17の変数データ(説明変数データ)として記憶部3に格納する。また変数データのうち、流入対象雨量(又は雨量)以外のデータ値は、少なくとも短い時間スケールでは変化しない定数とみなすことができ、運用時の説明変数データとしても用いることができるので、変数データ取得部8は、取得、設定した流域特性の値を示す変数データのうち、少なくとも流入対象雨量(又は雨量)以外のデータを、変数データベース22にも格納する。本実施形態における機械学習の説明変数のリストは以下の表1に示すとおりである。なお、説明変数中、「汚水管布設年度」等の汚水管に関するものについて、例えば区域51のように汚水管が存在しない区域に対しては、当該区域の流入先管路の情報を割り付ける(区域51の「汚水管布設年度」としては、汚水管52の布設年度を用いる)。
【表1】

(表1)
【0043】
住居面積(密度)は、各区域の面積(本実施形態においては、各区域は一辺が50mの正方形であるため面積は2500m2とする)における住居面積の割合であり、例えば或る区域内で住居面積が1000m2であれば、住居面積(密度)の値は1000/2500=0.4となる。変数データ取得部8は、地理情報データベース24に格納されている地理情報(その他の地理的データ38として、地図データ内のどの領域が住居であるかを示す情報を含むとする。一例においては建物を住居とみなしてよい。)を用いて、各区域において住居面積を特定し、説明変数としての住居面積(密度)の値を算出する。
【0044】
土地利用(浸透率)は、既に説明したとおり変数データ取得部8によって各区域に対してステップS302で設定されている。変数データ取得部8は、各区域について設定された土地利用(浸透率)の値(0以上1以下)を、説明変数としての土地利用(浸透率)の値と決定する。
【0045】
汚水管布設年度とは、各区域について、当該区域内(地下)に存在する汚水管の布設された年度であるが、当該区域内に汚水管が存在しない場合には、当該区域の流入先管路の布設された年度であるとしてもよい。一例においては、図5に示すとおり複数の区域(8×11=88の区域)に分割された対象地域において、区域49内(地下)には汚水管50が存在するため、区域49における説明変数としての汚水管布設年度の値は、汚水管50が布設された年度(西暦1980年度であれば、「1980」)となる。区域51内には汚水管が存在しないため、機械学習の対象としなくてよいが、区域51から最も近い流入先管路として汚水管52が存在するため、区域51における説明変数としての汚水管布設年度の値は、汚水管52が布設された年度(西暦2000年度であれば、「2000」)としてもよい。敷設年度の絶対値は重要ではなく、最初の管を敷設した年度を1としてもよいし、現在または将来の時点を0として何年前かを表してもよい。なお、各区域内にどの汚水管が存在するか、或いは各区域にどの汚水管が流入先管路として対応するか、及び、各汚水管の布設年度の値を示す情報は、一例においては下水道管理者の所有するGISデータに記録された地図上の位置、管種、敷設年度などの情報を使用し、予め各種データ19の一部として記憶されているとする(区域と汚水管の対応関係については、地理情報データベース24に格納された地理情報を用いて変数データ取得部8が決定してもよい)。
【0046】
汚水人孔数とは、各区域内に存在する、地下の汚水管と通じる汚水人孔(マンホール)の数である。各区域内にどれだけの数の汚水人孔が存在するかを示す情報は、一例においては下水道管理者の所有するGISデータに記録された地図上の位置、管種、敷設年度などの情報を使用し、予め各種データ19の一部として記憶されているとしてもよいし、或いは地理情報データベース24に格納された地理情報を用いて変数データ取得部8が決定してもよい。或る区域内に汚水人孔が3つ存在するのであれば、当該区域における説明変数としての汚水人孔数の値は「3」となる(区域内に汚水人孔が存在しない場合、汚水人孔数の値は「0」となる)。
【0047】
汚水枡(おすいます)数とは、各区域内に存在する汚水枡の数であり、汚水枡と下水(汚水)道管とを繋ぐ汚水取付管が当該区域内にいくつ存在するかによって特定することができる。一例においては下水道管理者の所有するGISデータに記録された地図上の位置、管種、敷設年度などの情報を使用し、予め各種データ19の一部として記憶されているとしてもよいし、或いは地理情報データベース24に格納された地理情報を用いて変数データ取得部8が決定してもよい。或る区域内に汚水枡が5つ存在するのであれば、当該区域における説明変数としての汚水枡数の値は「5」となる(区域内に汚水枡が存在しない場合、汚水枡数の値は「0」となる)。
【0048】
汚水管延長とは、各区域(地下)内に存在する汚水管の全長(m)である。一例においては下水道管理者の所有するGISデータに記録された地図上の位置、管種、敷設年度などの情報を使用し、予め各種データ19の一部として記憶されているとしてもよいし、或いは地理情報データベース24に格納された地理情報を用いて変数データ取得部8が決定してもよい。或る区域内に汚水管が70m存在するのであれば、当該区域における説明変数としての汚水管延長の値は「70」となる(区域内に汚水管が存在しない場合、汚水管延長の値は「0」となる)。
【0049】
陶管延長とは、各区域(地下)内に存在する陶管の全長(m)である。一例においては下水道管理者の所有するGISデータに記録された地図上の位置、管種、敷設年度などの情報を使用し、予め各種データ19の一部として記憶されているとしてもよいし、或いは地理情報データベース24に格納された地理情報を用いて変数データ取得部8が決定してもよい。或る区域内に陶管が30m存在するのであれば、当該区域における説明変数としての陶管延長の値は「30」となる(区域内に陶管が存在しない場合、陶管延長の値は「0」となる)。なお、説明変数の陶管延長の値として、各区域(地下)内に存在する陶管の全長(m)とヒューム管の全長(m)との合計値を用いてもよい。
【0050】
雨水管延長とは、各区域(地下)内に存在する雨水管の全長(m)である。一例においては下水道管理者の所有するGISデータに記録された地図上の位置、管種、敷設年度などの情報を使用し、予め各種データ19の一部として記憶されているとしてもよいし、或いは地理情報データベース24に格納された地理情報を用いて変数データ取得部8が決定してもよい。或る区域内に雨水管が50m存在するのであれば、当該区域における説明変数としての雨水管延長の値は「50」となる(区域内に雨水管が存在しない場合、雨水管延長の値は「0」となる)。
【0051】
晴天時流入量を算出
次に、ステップS304において、各種制御、表示部13は、晴天時(平均)流入量を算出する。「晴天時平均流入量」とは、季節、気象条件、曜日等に応じて推定可能な下水処理場の晴天時の平均流入量であり、下水関連施設流入量推定部12により推定値が算出されて各種データ19の一部として記憶部3に記憶されるとする。この例においては、晴天時平均流入量は晴天時の曜日ごとの3か月平均流入量であるとする(例えば月曜日の晴天時平均流入量は、3か月間にわたる月曜日の晴天時流入量実測値の平均値とし、他の曜日も同様に、同じ曜日の実測値の3か月平均値を算出する)。
【0052】
(対象降雨パターンの)過去の降雨データの取得
ステップS305において、変数データ取得部8は、過去の降雨データを取得する。具体的には、降水量測定システム33の装置から、降雨データがリアルタイムで配信される。流入量の予測では、この配信データを用いる。なお、雨天時浸入水発生領域の絞り込みで使う過去データの入手は、降水量測定システム33に対する注文を受けて行われる。発注後にダウンロードするか外部記憶メディアを経由してデータを受け取る。変数データ取得部8は、降水量測定システム33のコンピュータから過去の降雨データを取得して降雨情報データベース20に格納する。降水量測定システム33のコンピュータは、対象地域内での各地点における過去のさまざまな日時での降水量の測定値、及び必要に応じて各地点における未来のさまざまな日時での降水量の予測値を示す降雨情報データ及び予測降雨情報データ40を雨天時浸入水率推定装置1に送信する。変数データ取得部8は、取得した降雨情報データ、予測降雨情報データを降雨情報データベース20に格納する。
【0053】
なお、本実施形態においては、降雨パターンに応じて別個に雨天時浸入水率の推定モデルを生成するため、降雨情報データベース20には、予め降雨パターンごとに分類した上で(データ項目に降雨パターンを示す識別子を含ませる等)、降雨情報データを格納してもよい。一例においては、
長時間降雨:降雨が、例えば5時間以上等、所定時間以上かつ所定降雨強度以上続いた場合、
局所集中降雨(前方集中):総降水量(降水量の時間積算値)のうち、例えば70%以上の雨が降雨時間の前半に降った場合、
局所集中降雨(後方集中):総降水量のうち、例えば70%以上の雨が降雨時間の後半に降った場合、
豪雨:例えば総降水量90mm以上、
強雨:例えば総降水量50mm以上90mm未満、
中雨:例えば総降水量10mm以上50mm未満、
弱雨:例えば総降水量5mm以上10mm未満、
小雨:例えば総降水量5mm未満、
その他:上記いずれのパターンにも該当しない場合、
のように降雨パターンを定義し(或る降雨が2以上の降雨パターンに該当する場合は、予め各々の降雨パターンに対して定めた優先順位の最も高い特定の降雨パターンのみに該当するとみなすことができ、または該当する全てのパターンと関連付けることもできる)、降雨パターンを識別する識別子と関連付けて、降雨情報データを降雨情報データベース20に格納することができる。降雨パターンの定義は任意であり(例えば豪雨、強雨、中雨において、最大瞬間降水量が10mm以上か10mm未満かに応じて2パターンに分けてもよい)、一例においては管理者等のユーザが入出力部4或いは入出力部(表示部)43を介してデータ入力することにより予め各種データ19の一部として記憶されている。ただし、降雨パターンごとにモデルを別個に生成することは必須ではない。
【0054】
対象降雨の雨天時浸入水量の算出
ステップS306において、雨天時浸入水量算出部11は、教師データ17の一部としての雨天時浸入水量を算出する。雨天時浸入水量は、図18に示されるとおり、処理場への流入量(t)から晴天時流入量(t)を差し引くことで算出される。ここにおける雨天時浸入水量は、後述の(7)式中、「雨天時流入量-晴天時平均流入量」として用いられる。
【0055】
区域毎の流入対象雨量の算出
ステップS307において、変数データ取得部8は、上述の表1中、「流入対象雨量」を区域ごとに算出して、教師データ17の変数データ(説明変数データ)として記憶部3に格納する。上記表1の説明変数中、流入対象雨量とは、各区域において上記(2)式で定義される流入対象雨量(t)であり、ステップS307において変数データ取得部8によって算出されて、教師データ17の変数データ(説明変数データ)として記憶部3に格納される。他の説明変数とは異なり、流入対象雨量は日時に依存して短い時間スケールで変化する量であり、後述の目的変数としての浸入水率も日時に依存して短い時間スケールで変化する量である。
【0056】
本実施形態における雨天時浸入水率の推定モデルとは、「或る区域における説明変数の値の組」を入力データとして受け付け、「当該区域における目的変数(浸入水率)の推定値」を出力データとして出力するための推定モデルである。
【0057】
変数データ取得部8は、対象地域に含まれる各々の区域について、各々の日時(時間帯)の降水量(mm)データを用いて、各々の区域における各々の日時(時間帯)での流入対象雨量(t)を算出する。一例において、図5に示す対象地域において2021年5月1日の19:00~22:00まで降雨があり、その日の21:00時点で区域51における降水量が1時間あたり2mmであった場合、区域51における2021年5月1日の21:00時点の流入対象雨量は、区域51の浸透率(説明変数中、「土地利用(浸透率)」)を0.36として、以下の(4)式
【数4】
より3.2(t)と算出される。この場合の説明変数としての「流入対象雨量」の値は3.2である。変数データ取得部8は、このようにして、降雨情報データベース20に格納された各区域、各日時の降水量データ、各区域の面積データ(地理情報データベース24に格納されているとする)、教師データ17として格納されている各区域の浸透率を用いて、各区域、各日時における流入対象雨量の値を算出して教師データ17の変数データとして格納する。
【0058】
なお、後述の実証結果が示すとおり、目的変数である浸入水率との関連度が特に高い特徴量は「雨量」(降水量)であるが、上記(2)式に示すとおり、流入対象雨量の算出において「降水量」以外の変数は、少なくとも短い時間スケールでは変化しない定数とみなすことができるので((2)式中、「区域の面積」は定数であり、また「浸透率」は区域によって変化するものの、後述の実証結果が示すとおり浸入水率との関連度は雨量に比べて非常に小さい。)、変数としての流入対象雨量の時間変化は実質的には降水量の時間変化によるものとみなすことができる。したがって、表1に挙げた説明変数のうち、目的変数である浸入水率と特に関連度(ランダムフォレストの例では、特徴量の重要度)が高い説明変数は流入対象雨量であると考えられる。ただし、「流入対象雨量」の代わりに「雨量」として、例えば1時間あたりの降水量(mm)(或いは降水量(mm)の所定時間平均値)を説明変数として用いてもよい。
【0059】
なお、機械学習において、特に降雨パターンごとに別個の推定モデルを生成する場合、教師データ17も降雨パターンごとに別個に記憶部3に記憶させる。上述のとおり、教師データ17において、変数データと雨天時浸入水率データとの組は、区域及び日時(時間帯)を示す情報と関連付けた形式で格納されるが、一例においては、更に降雨パターンを示す情報とも関連付けた形式で変数データと雨天時浸入水率データとの組が格納される。すなわち、教師データ17として格納されるデータは、
降雨パターン1用教師データ
降雨パターン2用教師データ

降雨パターンM用教師データ
のようにパターンごとに分類され(Mは2以上の任意の整数)、且つ、それぞれの降雨パターン用の教師データは、変数データと雨天時浸入水率データとの組として、区域及び日時(時間帯)を示す情報と関連付けた形式で格納される(降雨パターン、区域、日時(時間帯)を指定して、変数データと雨天時浸入水率データとの組を読み出すことが可能)。ただし、降雨パターンごとに別個にモデルを作成することは必須ではなく、1つのモデルのみを作成することとしてよい。
【0060】
区域ごとの浸入水率の仮設定
ステップS308において、変数データ取得部8は、区域ごとの浸入水率を仮設定する。既に述べたとおり、本実施形態の推定モデルにおける目的変数は、雨天時浸入水率である。
【表2】

(表2)
上述の教師データ17における雨天時浸入水率の値は、ステップS306において変数データ取得部8により、以下の(5)~(8)式に従って算出される。
【0061】
【数5】
処理場の流入対象雨量(t)は雨天時浸入水率を推定する単位時間における量であり例えば1時間ごとの推定では1時間積算値である。ただし、(5)式中、kは区域の識別子であり、nは対象地域に含まれる区域の総数である。すなわち(5)式において、Σ記号内の式は各区域について計算される量である。また(5)式中、「流達時間前の降水量(mm)」とは、例えば着目している区域の流達時間が「a分」であった場合、算出すべき教師データの浸入水率に対応する日時(時間帯)よりも「a分」だけ過去の時点での、当該着目している区域の降水量(mm)である。
【0062】
なお、(5)式中の「流達時間」とは、各々の区域から下水道を流下して目的地(下水処理場)まで浸入水等が到達するまでにかかる時間として各々の区域に対して別個に定義される時間であり、1つの区域内での流達時間の平均値として、1つの区域に対して1つの「流達時間」が定められる。各々の区域における上記流達時間は、予め計算、測定調査等により決定されて(一例においては、下水道台帳の管渠諸元からマニング式を用いて満管流速を管渠毎に算出し、当該管渠から処理場までの流達時間を求め、各々の区域内の平均値を計算して各々の区域に割り当てる。)、各種データ19の一部として記憶部3に記憶されているとする。
【0063】
【数6】
(6)式のとおり、区域の浸透率は、対象区域内のすべての面積について用途を決定し、用途ごとの区域の面積に占める割合と浸透率の積を集計したものである。
【数7】
【数8】
ただし、(8)式中、「区域の流入対象雨量」は上記(7)式で算出でき「処理場の流入対象雨量」は、上記(5)式で算出できる。また(8)式中、「雨天時流入量」とは、算出すべき教師データの浸入水率に対応する日時(時間帯)における、下水処理場の流入量の実測値であり、雨天時浸入水率推定装置1の要求に応じて下水処理場32のコンピュータから雨天時浸入水率推定装置1へと送信される水位実測データ39に含まれている(各種データ19の一部として記憶部3に記憶される)。また(8)式中、「晴天時平均流入量」とは、季節、気象条件、曜日等に応じて推定可能な下水処理場の晴天時の平均流入量であり、事前に各種制御、表示部13により推定値が算出されて各種データ19の一部として記憶部3に記憶されているとする。変数データ取得部8は、このように教師データとしての浸入水率を算出して教師データ17として記憶部3に格納する。
【0064】
機械学習アルゴリズムの例
機械学習アルゴリズムとしては、公知の、或いは非公知のあらゆるアルゴリズムを用いてよいが、ここでは例としてランダムフォレスト(random forest)とニューラルネットワーク(neural network)について説明する。
【0065】
図7は、学習アルゴリズムの一例として、ランダムフォレストの概念(学習段階)を説明する図であり、図8はランダムフォレストの概念(運用段階)を説明する図である。ランダムフォレストの概要を次に説明する。ランダムフォレストにより機械学習された最終的なモデルは、運用段階においては、決定木と呼ばれるモデルを複数用いて、各々の決定木による予測(推定)結果の多数決(分類)、平均(回帰)をとることにより最終的な出力を得る。ランダムフォレストの学習段階においては、多数の説明変数をブートストラップ法と呼ばれる手法のランダムな復元抽出によって複数のサブサンプルに分類し、各々のサブサンプルにおける大量の教師データを各々の決定木に与えることにより各々の決定木が別個に独立した学習を行って、複数のモデル(決定木)での学習がなされる。ランダムフォレストの機械学習アルゴリズムにより生成される最終的な機械学習モデルは、複数の決定木の集合体と解釈することができる。
【0066】
図9は、学習アルゴリズムの一例として、ニューラルネットワークの概念を説明する図である。ニューラルネットワークの概要を次に説明する。ニューラルネットワークにおいては、入力層と出力層との間に1以上の隠れ層(中間層)が存在し、入力層中のノード値が隠れ層中のノード値へと変換され、隠れ層中のノード値が出力層のノード値へと変換されることにより、入力データ(説明変数データ)から出力データ(目的変数データ)が得られる。或る層から次の層へのノード値の変換は、線形変換や、活性化関数を用いた非線形変換によって行われる。入力層と隠れ層との間にあるノード間の結合、そして隠れ層と出力層との間にあるノード間の結合は、1つ1つが別個に重みの値を有しており、説明変数と目的変数の教師データを与えて学習させることにより、それぞれの重みの値が更新されていく。学習時に各層の重さは、誤差逆伝播法によって重みを更新している。要求出力と実際の出力の差が小さくなるように計算して、各層に反映する。中間層の層数や、個々の中間層に属するノード数等のハイパーパラーメータを調整することによりモデルを任意に構築することができる。ランダムフォレストやニューラルネットワークは周知の機械学習アルゴリズムであるから、ここではこれ以上詳しく説明しない。
【0067】
機械学習の実行
ステップS309において、機械学習部9は、これまでのステップで生成、記憶された教師データ17を用いて機械学習アルゴリズムにより雨天時浸入水率の推定モデルを生成する。機械学習部9は、教師データとして上述の表1の説明変数データと表2の目的変数データとを用いて機械学習を行うことにより、学習済みモデル16を生成し、記憶部3に記憶させる。降雨パターン別にモデルを生成する場合は、降雨パターン1に従う降雨に関する教師データのみを教師データとして用いて機械学習を行うことにより降雨パターン1用モデルを生成し、同様に、各降雨パターン用のモデルを、当該降雨パターンに従う降雨に関する教師データのみを教師データとして用いて機械学習を行うことにより生成し、記憶部3に記憶させる。
【0068】
2.運用時の動作
図6は、雨天時浸入水率推定装置によって実行される運用段階の動作フローを示すフローチャートである。雨天時浸入水率推定装置1の運用段階においては、降雨が発生し、その降雨により対象地域内の各区域にて雨天時浸入水が発生する際の、当該各区域における各日時での浸入水率が学習済みのモデルを用いて推定される。
【0069】
各種変数の設定
まずステップS601において、変数データ取得部8は、説明変数の運用データとして、土地利用(浸透率)等のデータを変数データベース22から取得する。具体的に変数データ取得部8は、表1の説明変数のうち、流入対象雨量(又は雨量)以外の少なくとも短い時間スケールでは変化しない定数とみなすことができる説明変数のデータとして、各々の区域についてのそれら変数データを変数データベース22から取得する。なお、管種や設置年を変えるなど、検討用に意図的に変数を変える場合もある。
【0070】
降雨データの取得
ステップS602において、変数データ取得部8は、過去の降雨データを取得する。具体的には、降水量測定システム33の装置から、降雨データがリアルタイムで配信される。流入量の予測では、この配信データを用いる。なお、雨天時浸入水発生領域の絞り込みで使う過去データの入手は、降水量測定システム33に対する注文を受けて行われる。発注後にダウンロードするか外部記憶メディアを経由してデータを受け取る。変数データ取得部8は、降水量測定システム33のコンピュータから降雨情報データ及び予測降雨情報データ40を取得して降雨情報データベース20に格納する。なお、実降雨データの他に、仮想の降雨データを用いる場合もある。
【0071】
区域毎の流入対象雨量の算出
引き続き、変数データ取得部8は、ステップS603において、区域ごとの流入対象雨量を算出する。教師データ作成時と同様に、変数データ取得部8は、上記(2)式に従い各々の区域について流入対象雨量を算出するが、(2)式中の「区域の降水量(mm)」としては、教師データの降水量ではなく、推定の対象とする日時の降水量の値を降雨情報データベース20から取得した上で用いる。
【0072】
区域ごとの浸入水率の推定
各々の区域についての、ステップS601で取得した変数データの値、及びステップS603で算出した流入対象雨量の値(流入対象雨量ではなく雨量を用いる場合は、ステップS602で取得した雨量の値)を機械学習済みのモデルへの入力データとして用いることにより、モデル出力値として、各々の区域についての浸入水率の推定値を得ることができる。雨天時浸入水率推定部10は、ステップS604において、そのような入力データを用いて上述の機械学習モデルによる推定を行うことにより、各々の区域における対象とする日時の浸入水率の推定値を決定し、雨天時浸入水率データベース23に格納する。ランダムフォレストを用いる一例においては、最終的な機械学習済みモデルが3つの決定木から構成され、運用時のそれぞれの決定木の出力(浸入水率の推定値)が5%,10%,15%であれば、最終的な出力は3つの値から計算した数値がランダムフォレストから出力される。例えば平均値である10%が浸入水率の推定値として得られる。ニューラルネットワークを用いる一例においては、上記表1の9つの説明変数は入力層に属し(図9においては単純化のため4つのノードx1~x4のみを描いたが、9つの説明変数を用いる場合はx1~x9の9つのノードが入力層に存在し、各々の説明変数に対応する。)、上記表2の目的変数は出力層に属する(ノードy1に対応)。特に降雨パターン別の推定モデルを用いる場合、雨天時浸入水率推定部10は、ステップS602で取得された降雨情報データから予測対象の降雨の降雨パターンが降雨パターン1~降雨パターンMのうちのどれに該当するかを判定し、現在の降雨パターンが該当すると判定された降雨パターン用のモデルを、学習済みモデル16として記憶された降雨パターン1用モデル~降雨パターンM用モデルの中から選択して用いる。
【0073】
浸入水率の推定値の出力
モデル推定により得られた浸入水率の推定値は、ステップS605において、各種制御、表示部13により任意の形式で出力される。例えば図5のように区域に区切られたマップ画像上において各々の区域の浸入水率の推定値に対応する色(半透明とする等、表現は任意)を各々の区域に付けた上で当該マップ画像をディスプレイ装置27に表示するか、或いはそのようなマップ画像のデータをクライアントマシン34に送信してマップ画像をクライアントマシン34のディスプレイ装置に表示すれば、管理者等のユーザは浸入水率の高い区域を容易に認識することができる。
【0074】
或いは、浸入水率の推定値を直接出力するのではなく、浸入水率の推定値を用いて雨天時浸入水量算出部11により各々の区域の雨天時浸入水量の推定値を算出し、算出された浸入水量の推定値を、ステップS605において、各種制御、表示部13により任意の形式で出力してもよい。具体的に、雨天時浸入水量算出部11は、ステップS603で算出された各々の区域における流入対象雨量に、各々の区域についてステップS604で推定された浸入水率を乗じることにより((1)式を参照)、各々の区域における対象とする日時の浸入水量の推定値を算出する。各種制御、表示部13は、例えば図5のように区域に区切られたマップ画像上において各々の区域の浸入水量の推定値に対応する色(半透明とする等、表現は任意)を各々の区域に付けた上で当該マップ画像をディスプレイ装置27に表示するか、或いはそのようなマップ画像のデータをクライアントマシン34に送信してマップ画像をクライアントマシン34のディスプレイ装置に表示すれば、管理者等のユーザは浸入水量の高い区域を容易に認識し、雨天時浸入水の発生領域を絞り込むことができる。
【0075】
3.機械学習モデルの最適化
機械学習部9は、浸入水率の推定値と実測値とを比較して推定モデルを更新(一例においては、運用時の説明変数データと浸入水率の実測値とを新たな教師データ(トレーニングデータ)として用いて再度機械学習を行う)することにより、推定モデルの性能を向上させることができる。特に、下水道管路の上流域の区域(図5の例でいえば、下水処理場48から比較的遠い区域であり、例えば下水処理場48に通じている各々の汚水管を中間点で分断した場合に下水処理場48に遠い方の汚水管部分が通る区域を「上流域の区域」と呼ぶことができる。)における、変数データと浸入水率の実測値(実測方法の一例としては、ここでいう「中間点」に流量計を数か月間設置し、上流域全体の浸入水率を実測によって求めることができる。)とを機械学習部9がトレーニングデータとして記憶部3に蓄積しておき、蓄積されたトレーニングデータを機械学習部9が機械学習モデルに与えて再度モデルの機械学習をすることにより、効率よく機械学習モデルを最適化できると考えられる。
【0076】
なお、トレーニングデータとして、機械学習部9は、変数データとともに、浸入水量の実測値を蓄積してもよい。浸入水量の実測値を蓄積しておけば、(1)式に従って浸入水率の実測値も算出できる。機械学習部9、変数データ取得部8等は、浸入水量の実測値を、上記(8)式と(1)式とから算出してもよいが、以下の(9)式、(10)式
【数9】
【数10】
により算出される区域の浸入水量を実測値として算出して用いてもよい。この場合、各区域の面積と対象地域の区域の面積の合計は、管理者等が予め測定しておくか、変数データ取得部8が地理情報データベース24に格納された地理情報を用いて算出し、記憶部3の地理情報データベース24に格納しておくとする。
【0077】
ここで、(9)式中、処理場の浸入水量は、以下の(11)式により、機械学習部9、変数データ取得部8等が算出してもよい。
【0078】
【数11】
ただし、(11)式中、kは区域の識別子であり、nは対象地域に含まれる区域の総数である。すなわち(11)式において、Σ記号内の式は各区域について計算される量である。また(11)式中、「流達時間前の降水量(mm)※1」とは、例えば着目している区域の流達時間が「a分」であった場合、推定すべき浸入水率に対応する日時(時間帯)よりも「a分」だけ過去の時点での、当該着目している区域の降水量(mm)である(図18中の、流達時間がそれぞれ0分、62分、120分の例を参照)。
【0079】
なお、(11)式中の「流達時間」とは、各々の区域から下水処理場まで雨天時浸入水が到達するまでにかかる時間として各々の区域に対して別個に定義される時間であり、各区域内での流達時間の平均値として、1つの区域に対して1つの「流達時間」が定められる。各々の区域における上記流達時間は、予め測定調査等により決定されて(一例においては、下水道台帳の管渠諸元からマニング式を用いて満管流速を管渠毎に算出し、当該管渠から処理場までの流達時間を求め、各々の区域内の平均値を計算して各々の区域に割り当てる。)、各種データ19の一部として記憶部3に記憶されているとする。
【0080】
4.下水関連施設における浸入水流入量の推定
次に、上述の推定モデルにより推定された浸入水率を用いて、下水処理場48等の下水関連施設に流入する浸入水の流入量をリアルタイムで予測する方法を説明する。前提として、降雨情報データベース20には、既に述べたとおり各々の時刻における各区域に対しする(1時間あたりの)降水量(mm)データが日時と関連付けて格納されているが、これに加えて、当該降雨における将来の降水量の予測値も、各々の時刻における各区域に対しての予測降水量(mm)として日時と関連付けて降雨情報データベース20に格納されているとする(変数データ取得部8が降水量測定システム33のコンピュータに、降水量測定システム33のコンピュータから予測降水量データを受信して、降雨情報データベース20に格納しているとする)。また、或る降雨が発生している最中に、図3図6を用いてこれまでに説明したとおりの各区域における浸入水率の推定が時々刻々と行われ、各々の時刻における各区域に対する浸入水率の推定値が日時と関連付けて雨天時浸入水率データベース23に時々刻々と格納されているとする。さらに、計算開始時刻から予測対象の時刻との差分(例えば60分先予測)よりも流達時間が短くなる区域では、降雨量の計測値では予測できないので注区降雨データを使用する。降雨情報データベース20に格納された降雨量実測値および将来の降水量の予測値を用いて、将来の各々の時刻における各区域に対する浸入水率の推定が、同様に機械学習済みの推定モデルを用いて行われており、そのような将来の各々の時刻における各区域に対する浸入水率の推定値が、日時と関連付けて雨天時浸入水率データベース23に時々刻々と格納されているとする。また各々の時刻の各区域に対する晴天時流入量の推定値は、各種データ19の一部として日時と関連付けて既に記憶部3に記憶されているとするが、各区域に対する晴天時流入量は季節、気象条件、曜日等に応じて推定可能な量であり、既知(推定値が既に得られている)の量として扱うので、将来の各々の時刻における各区域に対する晴天時流入量(「晴天時流入量」は、雨天時浸入水がない状態での流入量である(晴天時も雨天に起因しない流入がありえるが、処理場流入量を元にしているのでこれを含む)。ここでは『各区域に対する~』とすることで対象を示している。)の推定値も、各種データ19の一部として既に記憶部3に記憶されているとする。
【0081】
図10は、基準時間より一定時間後の将来時点の下水関連施設流入量推定の概念を説明する図である。下水処理場48等の下水関連施設に流入する流入量(流入対象雨量や浸入水量と同様に、現在の例においては1時間あたりの流入量(t)とする)は、各区域における雨量に浸入水率を乗じた量に依存するが、各区域から浸入する雨天時浸入水が下水関連施設に到達するまでには、区域ごとに異なる流達時間を要するため、特定の時刻における下水関連施設流入量に寄与するのは、当該特定の時刻ではなく、区域ごとに異なる流達時間だけ当該特定の時刻よりも前の時刻における、各区域での降水量となる(区域ごとに異なる時刻の降水量を計算に入れる必要がある)。なお、ここでいう「時刻」とは、「日」も特定した「時刻」、すなわち「日時」のことである。
【0082】
具体的に、或る基準時点(T=0とする)からT分後の、下水処理場48等の下水関連施設に流入する浸入水の1時間あたりの流入量(t:トン)は、以下の(12)式で推定される。
【数12】
ただし、(12)式中、kは区域の識別子であり、nは対象地域に含まれる区域の総数である。すなわち(12)式において、Σ記号内の式は各区域について計算される量である。また(T(分)-流達時間(分))がマイナスの値となる場合、(12)式中の「予測降水量(mm)」としては実績降雨による降水量(mm)を用いる。また(12)式中の浸入水率は推定モデルによる推定値であるが、推定モデルを降雨パターン別に生成する場合には、流入量の推定の対象とする降雨の降雨パターンに対応するパターン別モデルを用いて浸入水率の推定値を決定すればよい。
【0083】
下水関連施設流入量推定部12は、降雨情報データベース20、雨天時浸入水率データベース23、各種データ19等から適宜必要なデータを読み出し、(13)式に従って、下水関連施設の流入量を推定する。流入量の推定値は、各種制御、表示部13がディスプレイ装置27に表示してもよいし、流入量の推定値と下水関連施設を特定する識別子をクライアントマシン34や下水関連施設32のコンピュータに送って、クライアントマシン34の入出力部(表示部)43や下水関連施設32のコンピュータのディスプレイ装置に表示する等してもよい。このようにして、雨天時浸入水の下水関連施設への流入量を予測すれば、ポンプ場、下水処理場等の安定した効率的な運転に寄与することができる。分流式下水道の流入水は、原則として雨水の流入はなく雨天時でも晴天時と同様の流入となる予定である。しかし、自治体によっては雨天時に大量の雨水が流入し、ポンプ場や下水処理場の運転に支障をきたす場合がある。雨水排除施設、合流式下水道は雨水の排除能力を有するが、能力を超えた流入や流入量の大きな変動があると施設の運転に大きな負荷がかかる。雨天時浸入水発生領域の絞り込みシステムを応用して、雨天時にリアルタイムでポンプ場あるいは下水処理場に流入する流入量を予測することで、大量流入をタイミングよくとらえることが可能となる。また流入量予測のメリットとして、処理しきれない量の流入には、流入ゲートを閉じて対応することが原則であるが、タイミングが遅れると、施設内が浸水することで処理機能が喪失し、周辺地域の浸水につながるほか、処理機能回復に高額な費用と長期間の下水処理制限が生じる。しかし流入ゲートを閉じても周辺地域が浸水するため予防的にゲートを閉じることはできない。上述のとおり流入を正確に予測することで、処理場の安全を確保しつつ周辺地域の浸水を最小限にとどめることが可能となる。近い将来の流入量を予測することで、流入が減少傾向にあるときにポンプの運転を適切に制御することが可能となる。このことで運転員の作業負荷とエネルギー消費を軽減できる。
【0084】
図11図13に、雨天時浸入水の発生領域絞り込みシステムの画面イメージを示す。これら画面は、雨天時浸入水率推定装置1のディスプレイ装置27に表示してもよいし、画面表示データを雨天時浸入水率推定装置1からクライアントマシン34に送信した上で、クライアントマシン34の入出力部(表示部)43のディスプレイ装置に表示してもよい。
【実施例
【0085】
雨天時浸入水率推定モデルの性能評価結果
以下、本発明の実施例として作成した雨天時浸入水率推定モデルの性能評価結果を説明する。2019年1月~11月の雨量情報、及び処理場流入量情報を用いて推定モデル(解析モデル)を構築した。今回の推定モデルの説明変数(各区域の入力項目)は、以下の表3に示すとおりである。ただし、各区域は一辺が250mmの正方形であるとして、XRAINレーダの雨量情報を用いてモデルを構築した。また目的変数は浸入水率とした。
【0086】
【表3】
(表3)
【0087】
解析の手順は以下のとおりである。
(1)晴天時流入量の推定
晴天時の処理場流入量から対象エリア全域の晴天時流入量を求め、各メッシュに晴天時流入量を割り振る。その際、地図の画像解析によりメッシュ内の建物面積を取得して、汚水量原単位設定に利用する。
(2)雨量情報の入力
XRAINの雨量情報を各区域(メッシュ)に割り当てる。
(3)流域特性(変数)の入力
地表の浸透状況、汚水管、雨水管延長など様々な流域特性値を各メッシュに割り当てる。
(4)流達時間の入力
下水道台帳の管渠諸元からマニング式を用いて満管流速を管渠毎に算出し、当該管渠から処理場までの流達時間を求め、メッシュ内の平均値を計算して各メッシュに割り当てる。
(5)処理場流入量の入力
処理場流入量データ(1時間単位またはそれより細分化されたデータ)を取り込む。
(6)雨天時浸入水量、浸入水率の解析
各メッシュからの汚水+雨天時浸入水は、そのメッシュの流達時間経過後に処理場に流入する。各メッシュの降雨量変動と処理場の流入量変動の関係を機械学習で解析することで、各メッシュの浸入水率が求められる。
【0088】
本性能評価における検討フローは以下のとおりである。
1.既存情報の整理
・雨量(XRAIN)
・地理的特性、施設的特性、その他
・処理場流入量
2.モデル構築
・既存情報を用いて学習
3.浸入水率の解析
・構築モデルに流量調査期間の雨量データを入力し、浸入水率算出
4.検証
・実測値との比較
(流量調査計10か所)
【0089】
解析モデル構築には、2019年1月~11月の雨量情報、及び処理場流入量情報を用い、実測値との比較を行うための検証用降雨は、流量調査期間中の2019年10月19日降雨(総雨量75mm、時間最大雨量12mm/h)を選定した。検証用降雨における最大浸入水率の解析結果を図14に示す。
【0090】
また、流域特性の各項目を浸入水率との関連度の大きい順に並べると、以下の表4のとおりとなる。
【表4】
(表4)
【0091】
表4に示すとおり、浸入水率との関連度(ランダムフォレストにおける特徴量の重要度)が最も高い流域特性は「雨量」であり、その関連度は0.453641である。2番目に関連度が高い流域特性は「住居面積」であり、その関連度は0.166464である。3番目に関連度が高い流域特性は「浸透率」であり、その関連度は0.081008である。
【0092】
また、浸入水率の解析結果と流量調査結果から算出した実測値を比較した結果を図15図16に示す。流量調査は、2019年9月から約2か月間、管内に流量計を計10ヶ所(A~J)設置して行われた。図15のグラフ中では、A~Jのそれぞれについて、左の棒グラフが実測値であり右の棒グラフが解析結果(推定モデルによる推定値)である。棒グラフの縦軸のスケールは、左側の「浸入水率(%)」に対応し、縦軸右側の目盛りは実測値と解析結果の棒グラフ間に示している総雨量に対応する。比較は、検証用降雨で降雨量が多い4時から7時までの3時間の平均浸入水率で行った。比較の結果、解析結果の浸入水率が、実測値の±10%以内が6ヶ所、±20%以内が2ヶ所となり概ね実測値と同じ結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、分流式下水道における雨天時浸入水の発生領域の絞り込み、下水管(汚水管)の修理、交換等のメンテナンスの効率化、合流式および雨水排除施設を含む下水関連施設への雨天時の流入量の予測に用いることができるが、これらに限らず広く利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 雨天時浸入水率推定装置
2 制御部
3 記憶部
4 入出力部
5 通信部
6 プロセッサ
7 一時メモリ
8 変数データ取得部
9 機械学習部
10 雨天時浸入水率推定部
11 雨天時浸入水量算出部
12 下水関連施設流入量推定部
13 各種制御、表示プログラム
14 機械学習関連プログラム
15 各種プログラム
16 学習済みモデル
17 教師データ
18 テストデータ
19 各種データ
20 降雨情報データベース
21 施設流入量、雨天時浸入水量データベース
22 変数データベース
23 雨天時浸入水率データベース
24 地理情報データベース
25 キーボード
26 マウス
27 ディスプレイ装置
28 通信インタフェース
29 通信回路
30 通信回線(インターネット等、ネットワーク回線)
31 外部サーバマシン(地理情報サーバ)
32 下水関連施設(下水処理場、ポンプ場等)
33 降水量測定システム(気象レーダ、雨量計等)
34 クライアントマシン(パーソナルコンピュータ、スマートフォン等)
35 地図データ
36 土地用途データ
37 地上雨量計位置データ
38 その他の地理的データ
39 水位実測データ
40 降雨情報データ
41 制御部
42 記憶部
43 入出力部
44 通信部
45 メッシュ構造
46 メッシュ(区域)
47 メッシュ(区域)
48 下水(汚水)処理場
49 メッシュ(区域)
50 汚水管(流入先管路)
51 メッシュ(区域)
52 汚水管(流入先管路)
1000 下水道管(汚水管)
1001 下水(汚水)処理場
1002 不良箇所(ひび、破損、孔等)
1100 雨水管
1101 雨水ポンプ場
1200 建造物(民家)
1300 建造物(オフィスビルディング)
1400 雨雲
図1
図2
図3
図4
図5
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