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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】スポット溶接装置及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/25 20060101AFI20241205BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K11/25 513
B23K11/24 338
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024188520
(22)【出願日】2024-10-25
(62)【分割の表示】P 2024070923の分割
【原出願日】2024-04-24
【審査請求日】2024-10-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田土 充弘
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-245210(JP,A)
【文献】特開2023-46247(JP,A)
【文献】特開2021-49559(JP,A)
【文献】特開2023-146170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K11/25
B23K11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ガンを有し、前記溶接ガンは、一対の電極とこれら一対の電極をそれぞれ保持する一対のガンアームとを備え、
前記ガンアームを電極接離手段により開閉させることによって、前記一対の電極を相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材を加圧・通電して溶接する装置であって、
前記ガンアームに設けられた、歪み検出器と、
加圧・通電中の前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定する判定手段とを有し、
前記判定手段は、加圧・通電中に前記極性がプラスからマイナスに変化したとき、溶接良と判定するものである、
スポット溶接装置。
【請求項2】
溶接ガンを有し、前記溶接ガンは、一対の電極とこれら一対の電極をそれぞれ保持する一対のガンアームとを備え、
前記ガンアームを電極接離手段により開閉させることによって、前記一対の電極を相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材を加圧・通電して溶接する装置であって、
前記ガンアームに設けられた、歪み検出器と、
加圧・通電中の前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定する判定手段とを有し、
前記判定手段は、加圧・通電中に前記極性がプラスからマイナスに変化し、該マイナスと、プラスまたはゼロであるときが複数回繰り返されるとき、溶接良と判定するものである、
スポット溶接装置。
【請求項3】
溶接ガンを有し、前記溶接ガンは、一対の電極とこれら一対の電極をそれぞれ保持する一対のガンアームとを備え、
前記ガンアームを電極接離手段により開閉させることによって、前記一対の電極を相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材を加圧・通電して溶接する装置であって、
前記ガンアームに設けられた、歪み検出器と、
加圧・通電中の前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定する判定手段とを有し、
前記判定手段は、加圧・通電中に前記極性がプラスからマイナスに変化し、該マイナスと、プラスまたはゼロであるときが複数回繰り返されるとき、並びに溶接電流が一定であるとき、の両条件が成立した場合に溶接良と判定するものである、
スポット溶接装置。
【請求項4】
溶接ガンを有し、前記溶接ガンは、一対の電極とこれら一対の電極をそれぞれ保持する一対のガンアームとを備え、
前記ガンアームを電極接離手段により開閉させることによって、前記一対の電極を相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材を加圧・通電して溶接する方法であって、
前記ガンアームに歪み検出器を設け、
前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定するとともに、
前記極性が加圧・通電中にプラスからマイナスに変化したとき、および、該マイナス、あるいはゼロであるときが複数回繰り返されるとき、溶接良と判定する、
スポット溶接方法。
【請求項5】
溶接ガンを有し、前記溶接ガンは、一対の電極とこれら一対の電極をそれぞれ保持する一対のガンアームとを備え、
前記ガンアームを電極接離手段により開閉させることによって、前記一対の電極を相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材を加圧・通電して溶接する方法であって、
前記ガンアームに歪み検出器を設け、
前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定するとともに、
被溶接部材の板厚が複数種である場合においても、加圧・通電中にプラスからマイナスに変化したとき、および、該マイナス、あるいはゼロであるときが複数回繰り返されるとき、溶接良と判定する、
スポット溶接方法。
【請求項6】
溶接ガンを有し、前記溶接ガンは、一対の電極とこれら一対の電極をそれぞれ保持する一対のガンアームとを備え、
前記ガンアームを電極接離手段により開閉させることによって、前記一対の電極を相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材を加圧・通電して溶接する方法であって、
前記ガンアームに歪み検出器を設け、
前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定するとともに、
さらに、溶接品質保証判断手段を有し、前記溶接品質保証判断手段は、前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性がプラスのみであるとき、被溶接材の溶融が不十分で膨張過程であると判断する、
スポット溶接方法。
【請求項7】
溶接ガンを有し、前記溶接ガンは、一対の電極とこれら一対の電極をそれぞれ保持する一対のガンアームとを備え、
前記ガンアームを電極接離手段により開閉させることによって、前記一対の電極を相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材を加圧・通電して溶接する方法であって、
前記ガンアームに歪み検出器を設け、
前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定するとともに、
さらに、溶接品質保証判断手段を有し、前記溶接品質保証判断手段は、前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性がマイナスであり、かつ、その歪変位量のマイナス量が所定の閾値を超えるとき、チップドレスまたはチップ交換を要すると判断する、
スポット溶接方法。
【請求項8】
溶接ガンを有し、前記溶接ガンは、一対の電極とこれら一対の電極をそれぞれ保持する一対のガンアームとを備え、
前記ガンアームを電極接離手段により開閉させることによって、前記一対の電極を相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材を加圧・通電して溶接する方法であって、
前記ガンアームに歪み検出器を設け、
前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定するとともに、
さらに、溶接品質保証判断手段を有し、前記溶接品質保証判断手段は、下記(1)~(4)のいずれかを判断するものであり、
(1)前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性がプラスのみであるとき、被溶接材の溶融が不十分で膨張過程であると判断する、
(2)前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性がプラスであり、かつ、その歪変位量のプラス量が所定の閾値を下回るとき、チップドレスまたはチップ交換を要する、またはイレギュラー溶接と判断する、
(3)前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性がプラスであり、かつ、その極性のプラスの継続時間が所定の継続期間より長くなるとき、チップドレスまたはチップ交換を要すると判断する、
(4)前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性がマイナスであり、かつ、その歪変位量のマイナス量が所定の閾値を超えるとき、チップドレスまたはチップ交換を要すると判断する、
かつ、前記溶接品質保証判断手段は、生産ロット単位で歪変位量の極性の時間的変化を記憶装置に記録し、出力する、
スポット溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接における溶着部(ナゲット)の良否を判定し溶着保証を行うことができるスポット溶接を行うスポット溶接装置及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スポット溶接に代表される抵抗溶接の分野では、溶接品質の良否をリアルタイム(溶接中)で判断するための方法として、被溶接部材に形成される溶着部(ナゲット)の性状を判断する方法が知れている。
【0003】
例えば、特許文献1には、溶接中の溶着部(ナゲット)の膨張・収縮による電極の駆動部の電極移動方向についての移動量と、電極から被溶接部材に付加される加圧力による溶接ガンの撓み量と、を加算することによって、溶接電極間移動量を導出する溶接電極間移動量検出方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3593981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、ナゲットの膨張・収縮を電極間移動量と時間の相関に基づき推定するものであるが、このナゲットの膨張・収縮は溶接装置を変形させる分、電極間移動量として検出されない。また、被溶接部材の材質、板厚、溶接条件など変動要因やイレギュラー要因が多く、量産現場では溶接スピードも要求されることから、インラインで溶接の良否を検出するには適していないものと考えられる。
【0006】
具体的に、異なる板厚の被溶接部材を溶接するのには、ナゲットの良否を判定するため、電極間移動量と時間の相関のデータを複数、用意する必要があり、これら複数の相関データの下で、現測定値を比較判定するので、判定時間がかかり、結果として溶接速度が遅くなる原因となる。
【0007】
そこで、本発明の主たる課題は、例えばインラインにおいて、仮に板厚が変化したとしても溶着部(ナゲット)の良否を適確に判断できるスポット溶接装置及び溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した実施の態様は次のとおりである。
(第一の態様)
溶接ガンのガンアームに取り付けられた一対の電極を、一対の電極の少なくとも一方に連結された駆動部を有する電極駆動手段の駆動部を移動させることによって、相互に開閉させ、前記一対の電極により被溶接部材を加圧・通電して溶接する装置であって、
前記ガンアームに設けられた、歪み検出器と、
前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定する判定手段と、
を有する、スポット溶接装置。
【0009】
(第二の態様)
溶接ガンのガンアームに取り付けられた一対の電極を、一対の電極の少なくとも一方に連結された駆動部を有する電極駆動手段の駆動部を移動させることによって、相互に近接する方向に移動させ、前記一対の電極により被溶接部材を加圧し通電して溶接する方法であって、
前記ガンアームに歪み検出器を設け、
前記歪み検出器により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定する、
スポット溶接方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スポット溶接のナゲット部の膨張・収縮において、加圧・通電中のガンアームの歪変位量の極性の時間的変化がプラスからマイナスに変化することに着目し、歪変位量の極性の時間的変化の判定により、例えばインラインであっても、良否を判定可能となる。仮に板厚が変化したとしても溶着部(ナゲット)の良否を適確に判断できるスポット溶接装置及び溶接方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】スポット溶接装置の概要図である。
図2】用語の説明に関する歪み量及び歪変位量の変化グラフである。
図3】溶接良の場合における、歪み検出器により検出した歪み量及び歪変位量、溶接電流の経時変化例を示すグラフである。
図4】溶接不良の場合における、歪み検出器により検出した歪み量及び歪変位量、溶接電流の経時変化例を示すグラフである。
図5】スパッタが発生した場合における、歪み検出器により検出した歪み量及び歪変位量、溶接電流の経時変化例を示すグラフである。
図6】溶接良の場合における、溶接の溶接状態の経時的な推移についての説明図である。
図7】溶接不良の場合における、溶接の溶接状態の経時的な推移についての説明図である。
図8】チップドレスまたはチップ交換を要する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次いで、本発明の実施形態について図面を参照しながら以下に詳述する。
【0013】
(溶接装置の概要)
図1は溶接装置の主要部を示したもので、溶接ガン10は、一対の第1ガンアーム11A,第2ガンアーム11Bを有している。
第1ガンアーム11A,第2ガンアーム11Bは、その先端部においてそれぞれ第1電極12A,第2電極12Bを保持している。
【0014】
第1ガンアーム11A,第2ガンアーム11Bの中間部は、支持軸13により連結されている。これらの第1ガンアーム11A,第2ガンアーム11Bは、その移動手段。例えばロボットのアーム(図示せず)の先端と連結された保持アーム14に連結され、保持アーム14の先端部において、支持軸13周りに揺動可能に、第1ガンアーム11A,第2ガンアーム11Bの両者を保持している。
【0015】
第1ガンアーム11Aの基端部には、電極接離手段の伸縮機構15が設けられ、そのロッド先端は第2ガンアーム11Bの基端部と連結されている。
その結果、伸縮機構15の伸縮に伴って、第1ガンアーム11A,第2ガンアーム11Bが支持軸13周りに回転し、第1ガンアーム11Aの第1電極12Aと、第2ガンアーム11Bの第2電極12Bが、接近及び離間(開閉)するようになる。
第1電極12Aと第2電極12Bとが相互に近接する方向に移動させたとき、対象の被溶接部材(例えば重ね合わされた自動車用鋼板)30に対して、第1電極12A及び第2電極12B先端のチップを介して所定の加圧力が作用する。
【0016】
実施の形態における溶接装置は、制御装置20を備えており、制御装置20は、ロボット及び上記の溶接ガン10を含む溶接装置に関する各種の信号処理を行う中央処理演算装置(CPU)22、補助演算装置24、および記憶装置26などを含むことができる。
【0017】
中央処理演算装置22は、予め記憶装置26に記憶されている溶接プログラムに従って、伸縮機構15に第1電極12Aと第2電極12Bの加圧ないし開放指令を出力し、溶接に必要な加圧力の制御を行う。さらに、中央処理演算装置22は、電極に印加する電流の制御なども行っている。
なお、実施形態における溶接装置は、溶接加圧力および溶接電流の値を一定に保っているが、変化させてもよい。
【0018】
記憶装置26は、溶接プログラムや溶接条件(溶接加圧力、溶接電流、通電時間、通電間隔)などを記憶している。
【0019】
溶接ガン10が多関節ロボットに設けられる場合、制御装置20は、ロボット制御装置(図示せず)に内蔵又は独立して並列に配置することができる。
【0020】
(溶接状態の推移)
溶接の溶接状態の経時的な推移について概要を説明する。
図6は、溶接ガン10において、第1電極12Aと第2電極12Bとを相互に近接する(閉)方向に移動させ、対象の2枚重ねの被溶接部材30に対して所定の加圧力を作用させ完了した時点から、溶接ガン10の開放開始時点までの期間におけるナゲットの生成過程の概略説明図である。
【0021】
通電開始がなされると、被溶接部材30の重なりの界面を中心に抵抗発熱が開始され、母材は加熱され電極方向に膨張し(S1段階)、この膨張に伴って、母材側から第1電極12A及び第2電極12Bに対して相互に離間する開方向の反力(膨張力)が大きくなる(S2段階)。
【0022】
その後、母材は膨張が続くものの、他方で母材は抵抗加熱により温度が上昇し溶融・軟化が開始する結果、第1電極12A及び第2電極12Bが加圧力により相互に近接する方向の力(押し込み力)が膨張力より優先となり(S3段階)、これが最大となったとき、溶着部(ナゲット)Naの十分な生成がなされた時点と判断し、通電が完了される(S4段階)。
最終的に冷却が完了すると、第1電極12Aと第2電極12Bとが相互に離間され、溶接ガン10の開放がなされる(S5段階)。
上記の段階を経れば、溶着部(ナゲット)Naの十分な生成がなされることになり、溶接が良好になされていると判断できる。
【0023】
これに対し、図7の段階を経る場合には、溶着部(ナゲット)Naの十分な生成がなされておらず、溶接が不良であると判断できる。
すなわち、通電開始がなされ、被溶接部材30の抵抗発熱が開始される(S1段階)としても、十分な発熱がなされておらず、母材の溶接対象部分の膨張もわずかである(S2段階)。そのため、母材側から第1電極12A及び第2電極12Bに対して相互に離間する開方向の反力も少しは大きくなるがその程度は小さい(S3段階)。
【0024】
その後、溶着部(ナゲット)Naの膨張が続くものの、他方で十分な母材の溶融・軟化をみることなく、通電が完了される(S4段階)。
最終的に冷却が完了すると、第1電極12Aと第2電極12Bとは相互に離間し、溶接ガン10の開放が行われる(S5段階)。この種の場合には、溶着部(ナゲット)の十分な生成はみられず、溶着部(ナゲット)Naは小さいか、2枚重ねの被溶接部材30の剥がれが生じてしまう結果となる。
【0025】
(溶接の良否判定)
図6に示す経過を示す場合に「溶接良」、図7に示す経過を示す場合に「溶接不良」と判定するために、実施の形態では、溶接ガン10に歪み検出器40を設ける。
歪み検出器40の設置位置は、第1ガンアーム11A,第2ガンアーム11Bのいずれの位置でもよい。
第1ガンアーム11A及び第2ガンアーム11Bの両者に歪み検出器40を設けることも可能であるが、歪み信号の処理が複雑になるので、一方のガンアームに設けることで足りる。実施の形態では第1ガンアーム11Aに設けられている。なお、固定側ガンアームに設けた方が、より安定した波形を取得できる。
【0026】
図2に示すように歪み検出器40は連続するサンプリングの2つの歪み量Lt1,Lt2の差を歪変位量ΔLt2=Lt2-Lt1と定義する。膨張過程のため歪変位量の極性はプラス(+)となる。一方、押し込み過程では、2つの歪み量Lt3,Lt4の差を歪変位量ΔLt4=Lt4-Lt3と定義し、歪変位量の極性はマイナス(-)となる。このように通電・加圧下の歪変位量の極性の時間的変化により溶接品質の良否を判定する。
歪み検出器40により検出した歪み量の時間的変化は、図6及び図7に併記してある。
図6に示す「溶接良」の場合には、通電が開始されると、ガンアームは開くので歪み量はプラスの変位量の変化を示し、比較的短い期間で最高に達した後、その後は母材の溶融が生じガンアームの押し込みにより徐々にマイナスの変位量の変化を示す。
通電が完了し、冷却が開始されると、歪み量のマイナスの変位量の変化の度合いを大きくして冷却完了に至る。
【0027】
図7に示す「溶接不良」の場合には、通電が開始されると通電完了まで、歪み量はプラスの変位量の変化を示すものの、長い時間を経過しても歪み量の変化速度は遅い。
通電が完了し、冷却が開始されると、歪み量のマイナスの変位量の変化の度合いを大きくして、冷却完了に至る。
【0028】
図6図7の対比的な説明から、歪み検出器40により加圧・通電中に検出した歪変位量の時間的変化を捉えることは、スポット溶接の性状、つまりナゲットの生成を判断するために有効であると推測できる。
このナゲット生成の判定、つまり、スポット溶接の良否判定のための判定手段28が図1に示す制御装置20に含まれている。
【0029】
「溶接良」の場合における歪み検出器40の出力例を図3に示す。サンプリングの単位時間(例えば20ミリ秒)毎の歪み検出器40の出力例である。
通電開始がなされると、抵抗発熱に伴う膨張が生じる。歪み量は増大する。重なった被溶接部材30は加熱され、その後歪み量の変化は鈍るものの、ある時点になると、母材(被溶接部材30)の溶融が重なりの界面を中心に開始される。
その後も電流が流れ加熱が続き、母材の溶融・軟化が進行する結果、母材が溶融するナゲットが成長・軟化するため、第1電極12A及び第2電極12Bの加圧力が膨張より優勢となり、第1電極12A及び第2電極12Bが相互に近接する方向の力が生じる期間(図3に「押し込みあり」と記した期間である。)。
なお、「押し込み」なる用語は、母材が溶融・軟化する結果、第1電極12A及び第2電極12Bの加圧力が膨張力より優勢となり、被溶接部材30を押し込むようになることを意味するものである。
この第1電極12A及び第2電極12Bの加圧力が膨張より優勢となり、その期間が所定時間継続した場合には、溶着部(ナゲット)Naの十分な生成がなされたと判断できる。
その後、溶接電流がゼロとされ通電が完了される。冷却が完了したならば、第1電極12Aと第2電極12Bとを相互に離間し、溶接ガン10の開放を行う。
【0030】
上記の溶接の推移において、溶着部(ナゲット)の膨張が続き、他方で母材の溶融・軟化が開始する結果、第1電極12A及び第2電極12Bの加圧力が膨張より優勢となり、第1電極12A及び第2電極12Bが相互に近接する方向の力が生じる期間(「押し込みあり」期間)が、定常的な通電電流による通電期間の途中から生じていることは、溶着部(ナゲット)Naの十分な生成がなされていることを意味している。
図3に歪み検出器40の出力例が示すように、「押し込みあり」期間では、あるサンプリング時点における歪み量が、前回のサンプリング時点における歪み量に対する「変位量」が、プラスであるかマイナスであるかを示す「極性」が、マイナスの期間である。
したがって、定常的な通電電流による通電期間の途中から、「極性」がマイナスであるサンプリングが複数回連続する場合、「溶接良」と判断できるものである。
【0031】
他方で、図4には「溶接不良」の場合における歪み検出器40の出力例を示す。電極が被溶接部材に対し傾いて当接したり、電極チップが摩耗し、電流密度が低かったり、被溶接部材の重なり界面にゴミなど付着したり、ナゲットを生成できる適正な電流密度が得られない場合である。
この場合には、抵抗発熱が小さいため、第1電極12A及び第2電極12Bの加圧力が膨張より優勢となることがない。したがって、定常的な通電電流による通電期間全体に亘って「押し込みなし」の状態が続くことが示されている。
また、定常的な通電電流による通電期間全体に亘って、「極性」はプラスであり、マイナスになることはない。
この膨張・押し込み現象は被溶接部材の板厚に関係なく、この歪変位量による溶接判定は、従来の板厚毎の歪み量による溶接判定より判定速度が早く量産ラインの自動溶接中に溶接検査が可能となる。
【0032】
以上のように、歪変位量の極性の時間的変化がマイナスであるとき、溶接良と判定することができる。
しかし、歪変位量の極性の時間的変化が、例えば一回だけでマイナスの場合に溶接良と判定することができるものの、判定の安定性に欠ける場合がある。例えば、歪変位量の極性の時間的変化が一回だけマイナスになったとしても、溶接ガンの振動や押し込みの反動でその後にプラスに変わる可能性があるからである。
そこで、前記極性がマイナスであるとき又はゼロであるときが複数回繰り返されるとき、溶接良と判定することが望ましい。
例えば、図3に示すように、「溶接良」期間が始まる第1回目のサンプリング、第2回目のサンプリング、第3回目のサンプリングと3回マイナスが続いている。このような場合には、溶接良と安定性をもって判定することができる。
また、極性がマイナスである、ゼロである、ことを繰り返す場合にも、溶接良と判定できる。
【0033】
図5は、スパッタが発生した場合における歪み量の変化、歪変位量の変化を示したものである。
スパッタが発生したときにも、極性がマイナスである時点が複数回生じることがある。
スパッタが発生すると、溶けた金属が飛散する結果、急激な押し込みが生じ、極性が急激にマイナス側に変化し、その後に極性がマイナスである時点が複数回生じることがある。
したがって、極性が急激にマイナス側に変化したとき、その後に極性がマイナスである時点が複数回生じる場合には、スパッタが発生したものと判定できる。スパッタの発生記録は、次回の溶接条件を調整するためのデータとして利用することもできる。
かかるマイナスの極性時があるスパッタが発生した場合との対比に基づけば、前段落0032で説明した基準で溶接良と判定する意味が、一層明らかになるものである。
【0034】
他方で、溶接の良否判定は、突発的な要因が生じる可能性もある観点から、溶接時の一次側電流値の監視装置(図示せず)を組み込み、前記極性がマイナスであるとき、あるいはマイナスであるとき又はゼロであるときが複数回繰り返されるとき、並びに一次側電流値の監視装置からの溶接電流が一定であるとき、の両条件が成立した場合に溶接良と判定するのが望ましい。
【0035】
スポット溶接における溶接の良否判断に際し、例えば図1に示す装置を、被溶接部材の板厚や枚数が複数の組合せで換わる場合においても共用できるのが望ましい。
幸い、上記の実施の形態によれば、前記極性がマイナスであるとき、あるいは前記極性がマイナスであるとき又はゼロであるときが複数回繰り返されるとき、溶接良と判定することができる。
被溶接部材の板厚が変更になったとしても、歪変位量の程度に相違が生じるとしても、極性は変わらないので、同じ判定手法で判断できる。
【0036】
これらの判定は、判定手段28で行うが、溶接の良否判断だけでなく、溶接状態を監視する、あるいは長期的な溶接の安定性を確保するために、付加的に溶接品質保証判断手段を設けることができる。この溶接品質保証判断手段は生産ロット単位で歪変位量の極性の時間的変化を記憶装置26に記録し、出力し、生産品質保証ができる。すなわち、ロット中の1点1点の品質を保証して納入するため、トレーサビリティを確立できる。
【0037】
前記溶接品質保証判断手段の第1の機能は、図3を再掲した図8及び図6が参照されるように、溶接電流を徐々に高めるアップスロープ過程及びその後の期間において、歪変位量の極性がプラスであるときは、膨張過程であり、続いて被溶接材の溶融が始まっていることを監視するものである。
【0038】
一方で、多数回の溶接に伴って電極のチップは損耗するために、一般的には打点回数に応じて定期的に、チップドレスまたはチップ交換は従来から一般的に行われてきた。このためのチップドレッサー又はチップドレッサーの利用に関しは、特開2021-79399号公報、特開2018-103200号公報などに開示がある。
既述の実施の形態はチップドレスまたはチップ交換時期の指標とすることが可能である。
【0039】
このための、溶接品質保証判断手段の第2の機能として、アップスロープ過程において、図3及び図8に示す極性がプラスである期間に、予め使用限度の良品のチップである場合における、極性がプラス領域における歪変位量の上限値を定めておき、例えば歪変位量が「プラス7」に上限の閾値Sを定めておくことができる。
【0040】
実際に打点に積み重ねたある時点において、歪み検出器40により検出した歪変位量の極性の時間的変化がプラスからマイナスに変化し、該プラスの変位量が前記閾値Sを下回る場合(すなわち閾値Sを超えることがない場合)には、チップの劣化が進行し、またはイレギュラー溶接により、被溶接材の対象部位が膨張過程であるものの溶融が不十分となってしまったと判断し、チップドレッサーを使用してチップドレス又はチップ交換をしたり、イレギュラーの解消ができる。
【0041】
また、溶接品質保証判断手段は、歪み検出器40により検出した歪変位量の極性がプラスであり、かつ、その極性のプラスの継続時間が所定の継続期間より長くなるとき(図8のCa1で示す場合)、すなわち良品のチップであれば押し込みが始まっている時期になっているにもかかわらず、押し込みが生じていないとして、チップドレスまたはチップ交換を要すると判断することができる。
【0042】
さらに、歪み検出器40により検出した歪変位量の極性の時間的変化がマイナスに変化したものの、その極性のマイナスの度合いが極端に大きい場合(図8のCa2で示す場合)にも、チップドレスまたはチップ交換を要すると判断することができる。Ca2の場合には溶接が不十分で剥がれが発生する危険性があるからである。
【0043】
また、定期的なチップドレスまたはチップ交換を行うのではなく、電極使用中に摩耗状況を検出し、チップドレスまたはチップ交換時期を判断することで、電極の寿命延長による環境性向上を図ることができる。
【0044】
前記歪み検出器は、20ミリ秒以下の時間間隔をもって歪み検出信号を出力させることができる。過度に長い時間間隔では極性の正否が把握できにくい。過度に短い時間間隔では極性の正否のノイズが混入して判定が不安定になる可能性がある。
【0045】
なお、第1電極12A及び第2電極12Bの先端のチップ間の抵抗及び電圧の監視装置を設けて、上記の、溶接品質保証判断手段と組み合せるのが望ましい。
【符号の説明】
【0046】
10…溶接ガン
11A,11B…ガンアーム
12A,12B…電極
15…伸縮機構(電極接離手段)
20…制御装置
28…判定手段
30…被溶接部材
40…歪み検出器

【要約】
【課題】仮に板厚が変化したとしても溶着部(ナゲット)の良否を適確に判断できるスポット溶接装置及び溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接ガン10を有し、前記溶接ガン10は、一対の電極12A,12Bとこれらをそれぞれ保持する一対のガンアーム11A,11Bとを備え、前記ガンアーム11A,11Bを電極接離手段15により移動させることによって、前記一対の電極12A,12Bを相互に近接する方向に移動させ、被溶接部材30を加圧し通電して溶接する装置であって、前記溶接ガン10に設けられた、歪み検出器40と、前記歪み検出器40により検出した歪み量の時間的変化である歪変位量の極性に基づき溶接の良否を判定する判定手段28と、を有する。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8