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特許7599059摺動面の封止構造及びギヤボックス並びにモータユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】摺動面の封止構造及びギヤボックス並びにモータユニット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20241205BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20241205BHJP
   F16C 33/22 20060101ALI20241205BHJP
   H02K 7/06 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16J15/18 D
F16C17/04 Z
F16C33/22
H02K7/06 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024527678
(86)(22)【出願日】2023-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2023030716
【審査請求日】2024-06-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100186875
【弁理士】
【氏名又は名称】海老澤 知則
(72)【発明者】
【氏名】山本 和幸
(72)【発明者】
【氏名】田井 貴
【審査官】沖 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-180240(JP,A)
【文献】特開2017-022801(JP,A)
【文献】特開2002-156007(JP,A)
【文献】特開平07-042845(JP,A)
【文献】特開2006-064111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/18
F16C 17/04
F16C 33/22
H02K 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心まわりに回転する回転部材と前記回転部材の周面に対して摺動接触する封止部材との摺動面を封止する構造であって、
前記回転部材の前記周面との間に前記封止部材を挟持する壁面と、
前記封止部材との間に隙間をあけて対向する対向面と、
前記対向面から前記封止部材に向かって突設された凸部と、を備え、
前記対向面は、前記軸心の延びる軸方向の一側から前記封止部材に対向し、
前記凸部は、前記封止部材に僅かに接触し、あるいは前記封止部材との間に微小な隙間があくように形成されるとともに、前記軸心側から視て、互いに離隔して前記対向面から延びる二面のそれぞれと前記封止部材に対向する平面とで形成される二つの辺が丸められた形状をなす
ことを特徴とする、摺動面の封止構造。
【請求項2】
前記封止部材が、円環状であり、
複数の前記凸部が、前記封止部材の円周方向に沿って断続的に配置されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の摺動面の封止構造。
【請求項3】
前記摺動面には、予め潤滑油が塗布され、又は、前記封止部材には、予め潤滑油が含浸されている
ことを特徴とする、請求項2に記載の摺動面の封止構造
【請求項4】
記回転部材は、前記軸方向において前記対向面と前記封止部材との間に位置するとともに前記周面と辺をなす端面を有し、
前記凸部は、前記回転部材の前記端面よりも前記封止部材側まで突設されている
ことを特徴とする、請求項1に記載の摺動面の封止構造。
【請求項5】
記凸部は、前記封止部材に対向する前記平面が前記壁面に近づくほど前記対向面側に傾斜した逆テーパ状をなす
ことを特徴とする、請求項1に記載の摺動面の封止構造。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の摺動面の封止構造と、
前記回転部材としてのギヤを収容する有底筒状の収容部を有するギヤボックス本体と、
前記ギヤボックス本体の前記収容部を封止するカバーと、を備え、
前記カバーが、前記壁面と前記対向面と前記凸部とを有する
ことを特徴とする、ギヤボックス。
【請求項7】
請求項に記載のギヤボックスと、
前記ギヤとしてのヘリカルギヤと、
前記ギヤボックスに内蔵され、前記ヘリカルギヤと噛み合うウォームと、
前記ギヤボックスに取り付けられ、前記ウォームに連結される回転軸を有するモータと、を具備した
ことを特徴とする、モータユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、回転部材と封止部材との摺動面を封止する構造、及び、この構造を備えたギヤボックス、並びに、このギヤボックスを具備したモータユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸心まわりに回転する回転部材の周面にOリングやパッキン等の封止部材を当てて、回転部材と他の部材との隙間を塞ぐ構造が知られている。例えば特許文献1,2には、ギヤ(回転部材)の周面にシール材(封止部材)を当てて、ギヤとケース(ギヤケース,ギヤボックス)のカバーとの隙間を塞ぐようにした構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5563885号公報
【文献】特開2023-92172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転部材の回転時は、封止部材が回転部材の周面に摺動接触するため、回転部材と封止部材との摺動面において力が作用することにより、封止部材が所定の位置からずれてしまうことがある。この結果、封止部材が不適切な箇所に当たると、異音の発生や封止部材の摩耗,劣化を招く虞がある。また、封止部材が回転部材の不適切な部位に当たった際には、回転部材のトルク低下や回転低下を招く虞もある。このような課題は、上記の特許文献1,2のようなモータ製品にかかわらず、回転部材と封止部材とを備える機器や製品等において生じうる。
【0005】
本件は、このような課題に鑑み案出されたものであり、封止部材の位置ずれを抑制することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件は、以下に開示する態様(適用例)として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。態様2以降の各態様は、何れもが付加的に適宜選択されうる態様であって、何れもが省略可能な態様である。態様2以降の各態様は、何れもが本件にとって必要不可欠な態様や構成を開示するものではない。
【0007】
態様1.開示の摺動面の封止構造は、軸心まわりに回転する回転部材と前記回転部材の周面に対して摺動接触する封止部材との摺動面を封止する構造であって、前記回転部材の前記周面との間に前記封止部材を挟持する壁面と、前記封止部材との間に隙間をあけて対向する対向面と、前記対向面から前記封止部材に向かって突設された凸部と、を備えており、前記対向面は、前記軸心の延びる軸方向の一側から前記封止部材に対向し、前記凸部は、前記封止部材に僅かに接触し、あるいは前記封止部材との間に微小な隙間があくように形成されるとともに、前記軸心側から視て、互いに離隔して前記対向面から延びる二面のそれぞれと前記封止部材に対向する平面とで形成される二つの辺が丸められた形状をなすことを特徴とする。
【0008】
態様2.上記の態様1において、前記封止部材が、円環状であり、複数の前記凸部が、前記封止部材の円周方向に沿って断続的に配置されていることが好ましい。
態様3.上記の態様2において、前記摺動面には、予め潤滑油が塗布され、又は、前記封止部材には、予め潤滑油が含浸されていることが好ましい
【0009】
態様.上記の態様1~のいずれかにおいて、前記回転部材は、前記軸方向において前記対向面と前記封止部材との間に位置するとともに前記周面と辺をなす端面を有し、前記凸部は、前記回転部材の前記端面よりも前記封止部材側まで突設されていることが好ましい。
態様.上記の態様1~のいずれかにおいて、前記凸部は、前記封止部材に対向する前記平面が前記壁面に近づくほど前記対向面側に傾斜した逆テーパ状をなすことが好ましい。
【0010】
態様.開示のギヤボックスは、上記の態様1~のいずれかに記載の摺動面の封止構造と、前記回転部材としてのギヤを収容する有底筒状の収容部を有するギヤボックス本体と、前記ギヤボックス本体の前記収容部を封止するカバーと、を備え、前記カバーが、前記壁面と前記対向面と前記凸部とを有することを特徴とする。
【0011】
態様.開示のモータユニットは、上記の態様に記載のギヤボックスと、前記ギヤとしてのヘリカルギヤと、前記ギヤボックスに内蔵され、前記ヘリカルギヤと噛み合うウォームと、前記ギヤボックスに取り付けられ、前記ウォームに連結される回転軸を有するモータと、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本件によれば、封止構造において対向面から封止部材に向かって凸部が突設されるため、封止部材の位置を凸部で規制できる。これにより、回転部材の周面との摺動接触による封止部材の位置ずれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係るモータユニットの平面図である。
図2図1のモータユニットが具備する減速機及びギヤボックスの軸方向断面図(図1のA-A矢視断面図)である。
図3図2のギヤボックスが備える摺動面の封止構造を説明する断面図(図2のIII部拡大図)である。
図4図2のギヤボックスが備えるカバーを内側(図2の下側)から見た斜視図である。
図5図4のカバーが備える凸部の拡大図(図4のV部拡大図)である。
図6】変形例に係る摺動面の封止構造を説明する断面図(図3に対応する図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、実施形態としての摺動面の封止構造及びギヤボックス並びにモータユニットについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0015】
摺動面の封止構造(以下、単に「封止構造」という)は、軸心まわりに回転する回転部材と、この回転部材の周面に対して摺動接触する封止部材との摺動面を封止する構造である。摺動面とは、回転部材の周面とこれに接触する封止部材の面の双方を意味する。回転部材が停止している場合には「摺動」接触はしないが、回転部材の動き(作動,停止)にかかわらず、これらの面のことを摺動面と呼ぶ。この摺動面における「面」という表現は、勿論、平面や曲面等の一般的に面と認識される形状(二次元形状)を含み、段差や凹凸等の部位を有する立体的な形状やその部位を除外する意図は無い。すなわち、摺動面は、段差や凹凸等を有する構造であってもよい。
【0016】
本封止構造は、回転部材の周面との間に封止部材を挟持する壁面と、封止部材との間に隙間をあけて対向する対向面と、対向面から封止部材に向かって突設された凸部と、を備えている。
本実施形態では、回転部材としてのギヤを収容するギヤボックスに適用された封止構造を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、回転部材としてのギヤが減速機のヘリカルギヤであり、封止構造の適用されたギヤボックスが、減速機とモータとをユニット化したモータユニットにおいて減速機を収容するものである場合を例示する。
【0017】
[1.構成]
[1-1.全体構成]
図1は、本実施形態に係るモータユニット1の平面図(減速機3の出力ギヤ6の軸方向から見た図)である。モータユニット1は、例えば、車両のスライドドアのクローザー装置やパワーウィンドウ装置の駆動源として使用される。モータユニット1は、ハウジング2Aに図示しないロータ及びステータが内蔵されたモータ2と、モータ2の回転速度を減速する減速機3と、減速機3を内蔵するギヤボックス4とを具備する。本実施形態のモータ2は、例えば、ブラシ付きの直流モータであり、ギヤボックス4にまで延設される回転軸2Bを有し、ギヤボックス4に取り付けられることで減速機3とユニット化されている。
【0018】
減速機3は、モータ2の回転軸2Bと連結されるウォーム7と、ウォーム7と噛み合う回転部材としてのヘリカルギヤ5(ギヤ)と、出力を外部へ伝達するための出力ギヤ6とを備える。ウォーム7は、モータ2の回転軸2Bと一体回転する歯車である。ウォーム7の回転中心Sは、モータ2の回転軸2Bの中心線と一致する。ウォーム7は、ギヤボックス4に内蔵される。
【0019】
ヘリカルギヤ5は、ウォーム7を介してモータ2の回転が伝達されることにより、ウォーム7の回転中心Sと直交する軸心Cまわりに回転する。ヘリカルギヤ5は、例えば射出成形により形成された樹脂歯車である。図2に示すように、ヘリカルギヤ5は、外歯5aが形成された略円環状のリム5bと、リム5bよりも小径である略円環状のハブ5cと、リム5b及びハブ5cを繋ぐ中間部5dとを有する。リム5b及びハブ5cはいずれも、軸心Cを中心として設けられる。
【0020】
出力ギヤ6は、ヘリカルギヤ5と同軸上(軸心C上)に設けられ、ヘリカルギヤ5と一体で軸心Cまわりに回転する。本実施形態では、一体で設けられたヘリカルギヤ5及び出力ギヤ6を例示する。ただし、ヘリカルギヤ5及び出力ギヤ6は、互いに別体で設けられたうえで一体回転するように互いに固定されていてもよい。
【0021】
ヘリカルギヤ5及び出力ギヤ6は、軸心Cの延びる軸方向D1に並んでいる。軸方向D1と直交する径方向D2(ヘリカルギヤ5及び出力ギヤ6の径方向D2)の寸法は、ヘリカルギヤ5のリム5b,ハブ5c,出力ギヤ6の順で次第に小さくなる。したがって、ヘリカルギヤ5のハブ5cは、リム5bと出力ギヤ6との間で段部をなす。ハブ5cの段部の詳細な構造については後述する。
【0022】
ギヤボックス4は、例えば樹脂製であり、ウォーム7やヘリカルギヤ5等を収容する本体部としてのギヤボックス本体4Aと、ギヤボックス本体4Aに取り付けられる蓋部としてのカバー4Bとを備える。図1に示すように、ギヤボックス本体4Aは、ウォーム7を収容するウォーム収容部41と、ヘリカルギヤ5を収容する有底筒状のヘリカルギヤ収容部42(収容部)とを有する。これら二つの収容部41,42は、ウォーム7及びヘリカルギヤ5が噛み合う箇所で連通している。ウォーム収容部41は、回転軸2B及びウォーム7の回転中心Sに沿って延在しており、モータ2が取り付けられる面に開口(図示略)が形成されている。この開口は、モータ2のハウジング2Aが取り付けられることで閉鎖される。
【0023】
図2に示すように、ヘリカルギヤ収容部42は、ヘリカルギヤ5の軸心Cを中心として径方向D2に広がる底部44と、底部44の外周縁から立設された略円筒状の壁部45とで囲まれた収容空間を持つ。ヘリカルギヤ収容部42は、壁部45の底部44とは逆側(軸方向D1の一側、以下、「上側」という)の端部で囲まれた開口43を有する。開口43は底部44と同一形状であり、ここでは略円形状である場合を例示する。また、ヘリカルギヤ収容部42は、底部44の中央部から軸方向D1に沿って略円筒状に突設された支持軸46を有する。支持軸46は、開口43から上側へ突設されており、ヘリカルギヤ5及び出力ギヤ6を回転自在に支持する。
【0024】
カバー4Bは、ヘリカルギヤ収容部42の開口43を覆うように取り付けられる。カバー4Bは、回転しない固定部材であるため、回転するヘリカルギヤ5及び出力ギヤ6に対して非接触となるように設けられる。カバー4Bは、ヘリカルギヤ収容部42の開口43と同様の外形状を有し、開口43よりも一回り大きく、ヘリカルギヤ収容部42の壁部45に重なる大きさとされる。本実施形態では、カバー4Bの外形状が円形である場合を例示する。カバー4Bの外周部49は、ヘリカルギヤ収容部42の壁部45の上側の端面に対し、不図示のガスケットを介して取り付けられる。これにより、カバー4Bは、ヘリカルギヤ収容部42を封止する。なお、超音波溶着でカバー4Bをヘリカルギヤ収容部42に取り付ける場合にはガスケットが不要となる。
【0025】
カバー4Bは、開口43を覆う面部の中央部に貫設された円形状の出力孔47を有する。出力孔47は、支持軸46及び出力ギヤ6をギヤボックス4の外部へ突出させるための貫通孔である。つまり、本実施形態のカバー4Bは、ヘリカルギヤ収容部42の開口43を完全には覆わず、出力孔47に支持軸46及び出力ギヤ6が挿通された状態で、隙間を形成しうる。カバー4Bは、出力孔47を囲む内周部48において、ヘリカルギヤ5との間にOリング8を挟持する。なお、本実施形態のカバー4Bは、開口43を覆う面部(内周部48と外周部49との間の中間部)がフラットではなく、ヘリカルギヤ収容部42に向けて突設されており、外部から視て凹んでいる。
【0026】
Oリング8は、ヘリカルギヤ5とカバー4B(内周部48)との隙間をシールするための封止部材である。Oリング8により、上記の出力孔47に隙間が形成されていたとしても、ヘリカルギヤ収容部42内への異物の侵入が阻止される。本実施形態のOリング8は、円環状であって、ヘリカルギヤ5と同軸上(軸心C上)に配置される。Oリング8は、例えばゴムで形成されており、弾性を有する。本実施形態では、軸方向断面が円形状のOリング8を例示するが、軸方向に沿ったOリング8の断面形状は、円形状に限定されず、例えば楕円形状や多角形状であってもよい。
【0027】
[1-2.要部構成]
以下、図3図5を参照して、ギヤボックス4に適用された封止構造10について詳述する。以下の説明では、ヘリカルギヤ5の軸方向D1において、ギヤボックス本体4Aに対してカバー4Bが配置される側(軸方向D1の一側、上記の「上側」)に対し、この反対側(カバー4Bに対してギヤボックス本体4Aが配置される側)を「下側」という。すなわち、カバー4Bはギヤボックス本体4Aの上側に配置され、ギヤボックス本体4Aはカバー4Bの下側に配置されているものとする。ただし、封止構造10の上下方向は、ここで例示するものに限定されない。例えば、軸方向D1が水平方向に延びていてもよいし、鉛直方向に対して斜め方向に延びていてもよい。
【0028】
図3に示すように、ヘリカルギヤ5において段部をなすハブ5cには、Oリング8を設置するための溝部が設けられている。溝部は、軸心Cまわりの周方向に延在する周面5eと、上側を向く支持面5fとによって構成されている。本実施形態では、径方向D2の外側を向く円筒面状の周面5eと、軸心Cまわりの周方向且つ径方向D2に沿って延在する平面状の支持面5fとを例示する。
【0029】
このような周面5e及び支持面5fは、軸心Cを含む軸方向D1の断面(図2及び図3に示す断面)において、径方向D2の外側に開いたL字状をなす。周面5e及び支持面5fは、Oリング8が配置される所定の位置を規定する。すなわち、Oリング8は、周面5e及び支持面5fの双方に接する場合に、所定の位置にある(位置ずれが生じていない)といえる。
【0030】
ヘリカルギヤ5は、支持面5fよりも上側(軸方向D1の一側)に位置して周面5eと辺5h(角ばった縁)を形成する端面5gを有する。端面5gは、支持面5fと同様に、上側を向くとともに周方向且つ径方向D2に沿って延在する平面状である。端面5gは、ヘリカルギヤ5の上側の端部に相当し、出力ギヤ6と滑らかに繋がっている。端面5gは、カバー4Bの内周部48よりも下側に配置される。なお、周面5eは、円筒面状に限定されない。また、支持面5f及び端面5gは、径方向D2に対して傾斜した平面状であってもよいし、緩やかな曲面状であってもよい。
【0031】
ギヤボックス4は、ヘリカルギヤ5とOリング8との摺動面を封止する封止構造10を備えている。ここでいう摺動面とは、ヘリカルギヤ5及びOリング8が摺動接触する面であって、ヘリカルギヤ5の周面5eとOリング8の内周面8aとの双方を指す。この摺動面には、予めグリス(潤滑油)が塗布されている。具体的には、ヘリカルギヤ5の周面5e及びOリング8の内周面8aの少なくとも一方にグリスが塗布された状態で、ヘリカルギヤ5にOリング8が組み付けられることで、摺動面にグリスが塗られた状態とされ、この状態のままカバー4Bが取り付けられる。なお、上記のように摺動面に予めグリスが塗布される構成に代えて、Oリング8に予めグリス(潤滑油)が含浸されていてもよい。
【0032】
封止構造10は、ヘリカルギヤ5の周面5eとの間にOリング8を挟持する壁面11と、上側(軸方向D1の一側)からOリング8に対向する対向面12と、対向面12からOリング8に向かって突設された凸部13とを備えている。本実施形態では、カバー4Bがこれらの壁面11,対向面12及び凸部13を有する。換言すれば、封止構造10の要素11~13はいずれも、単一の部品であるカバー4Bに設けられている。
【0033】
壁面11は、径方向D2においてヘリカルギヤ5の周面5eに対向するように、軸心Cまわりの周方向に延在している。本実施形態の壁面11は、径方向D2の内側を向くとともに軸心Cを中心とした円周方向に延びる滑らかな曲面(円筒内周面)であって、ヘリカルギヤ5の周面5eよりも径方向D2の外側に配置される。壁面11は、ヘリカルギヤ5の周面5eと協働して、径方向D2の外側及び内側からOリング8を挟持する。弾性を有するOリング8は、このように壁面11及び周面5eで挟持された状態において、径方向D2に圧縮されることに伴い軸方向D1に変形する。
【0034】
対向面12は、下側(軸方向D1の他側)を向く面であって、Oリング8との間に隙間をあけて配置される。対向面12とOリング8との間の隙間は本来、Oリング8が軸方向D1に変形しても問題ないよう、Oリング8を適切に逃がすための空間であり、各部品の軸方向D1の寸法ばらつきを許容する空間でもある。本実施形態では、対向面12とOリング8との間の隙間が、グリスを溜めるための空間(グリス溜まり)としても機能する。本実施形態の対向面12は、カバー4Bの内周部48において、少なくとも径方向D2に沿って延在する平面状である。
【0035】
一方、凸部13は、対向面12から部分的に下側へ突出した部位であって、Oリング8に僅かに接触し、あるいはOリング8との間に微小な隙間があくように形成される。凸部13は、Oリング8が所定の位置から上側へずれること(浮き上がり)を抑制する機能をもつ。凸部13は、軸方向D1において、ヘリカルギヤ5の端面5gよりも下側(Oリング8側)まで突設される。すなわち、凸部13においてOリング8に対向する頂面14は、ヘリカルギヤ5の端面5gよりも下側に位置する。頂面14は、ヘリカルギヤ5の支持面5fと協働して、Oリング8を軸方向D1の上側及び下側から挟み込んでもよいし、Oリング8に非接触な状態で挟むように配置されてもよい。
【0036】
軸心Cを含む軸方向D1の断面(図2及び図3に示す断面)において、壁面11及び頂面14は、径方向D2の内側に開いたL字状をなす。また、図3に破線で示すように、凸部13のない箇所(互いに隣接する凸部13間)の同様の断面において、壁面11及び対向面12も同様に、径方向D2の内側に開いたL字状をなす。ただし、凸部13が存在する位置では、凸部13の突出量の分だけ軸方向D1の寸法が短いL字状となる。
【0037】
図4は、カバー4Bを下側(ヘリカルギヤ5が配置される側)から視た斜視図である。図4に示すように、本実施形態では、複数(例えば16個)の凸部13がOリング8の円周方向に沿って断続的に配置されている。図4では一つの凸部13に符号を付しているが、複数の凸部13は、例えば、いずれも同様に構成され、Oリング8の円周方向に沿って等間隔に設けられる。Oリング8の円周方向において、隣接する凸部13間の間隔は一つの凸部13の寸法(後述の端側面15,15間の距離に相当する寸法)よりも大きく確保される。
【0038】
図5に示すように、本実施形態の凸部13は、壁面11と繋っており、対向面12から延びる三つの側面15,15,16とこれらの側面15,15,16を接続する頂面14とを有する。三つの側面15,15,16は、互いに離隔した二つの端側面15,15(二面)と、端側面15,15同士を径方向D2の内側で接続する内側面16とに分けられる。端側面15,15はいずれも、軸方向D1及び径方向D2に沿って延在している。これに対し、内側面16は、軸方向D1及び周方向に沿って延在しており、各々の端側面15とで辺(角ばった縁)を形成する。
【0039】
一方、頂面14は、壁面11から径方向D2の内側へ延在する平面であって、内側面16とは辺(角ばった縁)を形成するものの、端側面15,15とは滑らかな曲面で接続されている。したがって、凸部13は、軸心C側から視て、端側面15,15のそれぞれと頂面14(平面)とで形成される二つの辺が丸められた形状(いわばカマボコ形状)をなす。なお、凸部13は、壁面11とは離隔して(壁面11との間に隙間をあけて)設けられていてもよい。この場合、内側面16と対になる外側面が壁面11に対向配置される。
【0040】
[2.作用及び効果]
(1)上記の封止構造10によれば、対向面12から封止部材としてのOリング8に向かって凸部13が突設されるため、Oリング8の位置を凸部13で規制できる。これにより、回転部材としてのヘリカルギヤ5の周面5eとの摺動接触によるOリング8の位置ずれ(対向面12側への浮き上がり)を抑制できる。したがって、不適切な部位(例えばヘリカルギヤ5の周面5eと端面5gとの辺5h)へのOリング8の接触に起因する異音の発生を抑制できるとともに、Oリング8の耐摩耗性,耐久性を高められる。また、回転するヘリカルギヤ5における不適切な箇所へのOリング8の接触が抑制されることで、ヘリカルギヤ5のトルク低下や回転低下を抑えられる。
【0041】
ところで、上記実施形態のように、ヘリカルギヤ5とは別の部材(本実施形態ではカバー4B)の対向面12から凸部13を突設させる構造に代えて、Oリング8の位置ずれを防止するための何らかの構造をヘリカルギヤ5に設けることも考えられる。しかしながら、この場合には、ヘリカルギヤ5に追加の加工が必要となるため、ヘリカルギヤ5の製造が煩雑になるという課題が生じる。
これに対し、上記の封止構造10によれば、ヘリカルギヤ5とは別の部品であるカバー4Bに凸部13を形成することでOリング8の位置ずれを抑制するため、ヘリカルギヤ5に追加の加工を施す必要が無い。よって、ヘリカルギヤ5の製造の煩雑化を回避できる。
【0042】
(2)複数の凸部13が円環状のOリング8の円周方向に沿って断続的に配置されていれば、Oリング8の円周方向の複数箇所においてOリング8の位置を規制できる。このため、円環状であるOリング8の位置ずれをより安定して抑制できる。また、凸部13が円周方向に沿って断続的に配置されていれば、円周方向の全周にわたって形成されて肉厚になる場合と比べて、成形時の変形(ヒケ)を抑制できる。これにより、凸部13の寸法精度が高まることから、封止構造10の信頼性を高めることができる。
【0043】
(3)摺動面に予めグリスが塗布され、又はOリング8に予めグリスが含浸されていれば、断続的に配置された凸部13間(対向面12とOリング8との間の隙間)がグリス溜まりとして機能することで、凸部13間にグリスを溜めることができる。これにより、Oリング8の位置ずれを凸部13で抑制できることに加え、摺動面の潤滑性を高められる。特に、Oリング8の円周方向において、隣接する凸部13間の間隔が一つの凸部13の寸法よりも大きく確保されていれば、凸部13間のスペースをグリス溜まりとして良好に機能させられる。
【0044】
また、Oリング8がヘリカルギヤ5との摺動接触により円周方向に変位した場合に、Oリング8では、凸部13の近傍にある部位と凸部13から離れたところにある部位とが円周方向に沿って交互に繰り返されることになる。このため、凸部13間に溜まっているグリスをポンプ効果(円周方向における隙間の変化)により円周方向に流すことができる。これによっても摺動面の潤滑性が高まるため、ヘリカルギヤ5のトルク低下や回転低下を抑えられる。また、弾性を有するOリング8が凸部13に接して変形した場合には、Oリング8において、凸部13により変形した部位と凸部13に接さず変形しない部位とが円周方向に沿って交互に繰り返されることになる。このため、凸部13間に溜まっているグリスをより強いポンプ効果で円周方向に流すことができる。これにより、摺動面の潤滑性が更に高まるため、ヘリカルギヤ5のトルク低下や回転低下をより抑えられる。
【0045】
(4)軸心C側から視て、対向面12から互いに離隔して延びる端側面15,15のそれぞれとOリング8に対向する頂面14とで形成される二つの辺が丸められた形状である凸部13によれば、Oリング8に当たる際の応力集中を抑制できる。特にOリング8がヘリカルギヤ5との摺動接触により周方向に動く場合に、凸部13からOリング8への応力集中を効果的に抑制できる。したがって、Oリング8の破損防止に寄与する。また、平面である頂面14がOリング8に当たることで、Oリング8への応力集中を抑制しつつOリング8の位置を適切に規制できる。よって、Oリング8の破損を防止しつつ、Oリング8の位置ずれを抑制できる。
【0046】
(5)凸部13がヘリカルギヤ5の端面5gよりもOリング8側まで突設されていれば、この凸部13によりOリング8の位置が規制されることで、ヘリカルギヤ5の辺5hに対するOリング8の接触や、対向面12とヘリカルギヤ5の辺5hとの隙間へのOリング8の噛み込みを防止できる。よって、ヘリカルギヤ5の辺5hとOリング8との接触による異音の発生を防止できるとともに、Oリング8の封止効果(シール性)を適切に発揮させることができる。
【0047】
(6)上述したギヤボックス4は、上記の封止構造10と、ヘリカルギヤ5を収容するためのギヤボックス本体4Aと、ヘリカルギヤ収容部42を封止するカバー4Bとを備えている。このギヤボックス4において、カバー4Bが壁面11と対向面12と凸部13とを有していれば、封止構造10の全要素が単一の部品であるカバー4Bに設けられる。このため、ヘリカルギヤ5やギヤボックス本体4Aには既存の製品を使うことができ、少ない変更でコスト増を抑制しつつ、上記のとおりOリング8の位置ずれを抑制できる。
【0048】
(7)上記のギヤボックス4を具備したモータユニット1によれば、ギヤボックス4に封止構造10が適用されるため、上記のとおり少ない変更でOリング8の位置ずれが抑制されてOリング8の封止効果を適切に発揮させることができる。このため、コスト増を抑制しつつ、カバー4Bの封止性が確保されることで信頼性を高めることができる。
【0049】
[3.その他]
上記の凸部13は一例である。封止構造10は、上記の凸部13に代えて、図6に示す凸部13′を備えてもよい。本変形例に係る凸部13′は、Oリング8に対向する頂面14′が壁面11に近づくほど対向面12側(図6の例では上側)に傾斜した逆テーパ状をなす。言い換えると、凸部13′の突出量が、周面5e側が最も大きく、壁面11に近づくほど小さくなっている。このように、本変形例の頂面14′は、Oリング8を壁面11側に規制するように、径方向D2に対して傾いた平面状に形成されている。なお、図6では、上記の実施形態と同一又は対応する要素に同一の符号を付しており、ここでは重複する説明を省略する。
【0050】
本変形例に係る凸部13′によれば、凸部13′がOリング8に当たった場合に、逆テーパ状の頂面14′によって壁面11側に向かう力をOリング8に作用させることができる。このため、Oリング8がヘリカルギヤ5の周面5e以外の不適切な部位(例えば辺5h)に接触することをより効果的に抑制できる。よって、上記のような異音の発生及びヘリカルギヤ5のトルク低下や回転低下をより確実に抑制できるとともに、Oリング8の耐摩耗性,耐久性をより効果的に高められる。
【0051】
上記の平面状の頂面14,14′は一例である。頂面14,14′は、例えば、端側面15,15との間の丸められた辺をなす曲面を滑らかに延長することで曲面状(軸心C側から視て半月状)に形成されてもよい。また、凸部13,13′は、端側面15,15のそれぞれと頂面14,14′との間に辺を有する直方体形状であってもよいし、軸心C側から視て台形状であってもよい。さらに、凸部13,13′は、円周方向に沿って等間隔に配置されなくてもよいし、対向面12から一つのみが突設されてもよい。いずれの場合であっても、Oリング8に対向する対向面12からOリング8に向かって凸部13が突設されることで、上記のとおりOリング8の位置ずれを抑制できる。
【0052】
壁面11及び対向面12も、上記の構成に限定されない。例えば、壁面11は、軸方向D1に対して傾斜していてもよい。また、対向面12は、軸方向D1の一側(図2及び図3では上側)からOリング8に対向するものに限られず、軸方向の他側(図2及び図3では下側)からOリング8に対向してもよいし、径方向D2に対して僅かに傾斜していてもよいし、曲面であってもよい。また、壁面11の形状や位置関係によっては、対向面12が径方向D2からOリング8に対向してもよい。少なくとも、対向面12は壁面11とは別の面であり、封止部材(例えばOリング8)との間に隙間をあけて対向する面である。
【0053】
上記の封止構造10に適用される回転部材及び封止部材は、上記のようなヘリカルギヤ5及びOリング8にそれぞれ限定されない。回転部材は、軸心まわりに回転するものであればよく、例えば、スパーギヤ(平歯車)であってもよいし、ギヤ以外の部材であってもよい。また、封止部材は、回転部材の周面に対して摺動接触するものであればよく、円環状でなくてもよいし、弾性を有しなくてもよい。
【0054】
上記の実施形態では、封止構造10の要素11~13が単一の部品であるカバー4Bに設けられる例を示したが、封止構造10の要素11~13は、異なる二種類以上の部品に分かれて設けられてもよい。例えば、上記のように対向面12と一体で設けられる凸部13に代えて、対向面12とは別体(別部品)の凸部を用意し、この凸部を対向面12に貼付(固定)することで、対向面12から凸部を突設させてもよい。なお、ヘリカルギヤ5及びギヤボックス4の材質は特に限られず、上記の樹脂製でなくてもよい。
【0055】
上記の実施形態では、モータユニット1が具備する減速機3のギヤボックス4に適用された封止構造10について説明したが、上記の封止構造10は、モータ2とユニット化されない単体の減速機3のギヤボックスに適用されてもよいし、減速機3以外の機器のギヤボックスに適用されてもよい。本封止構造は、回転する部材と回転しない部材との間を封止部材でシールする種々の構造(装置や機器)に適用可能であって、例えば家電に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 モータユニット
2 モータ
2B 回転軸
3 減速機
4 ギヤボックス
4A ギヤボックス本体
4B カバー
5 ヘリカルギヤ(ギヤ,回転部材)
5e 周面
5g 端面
7 ウォーム
8 Oリング
10 封止構造
11 壁面
12 対向面
13 凸部
14 頂面
15 端側面(二面)
42 ヘリカルギヤ収容部(収容部)
C ヘリカルギヤの軸心
D1 軸方向
【要約】
摺動面の封止構造(10)は、軸心まわりに回転する回転部材(5)と回転部材(5)の周面(5e)に対して摺動接触する封止部材(8)との摺動面を封止する構造であって、回転部材(5)の周面(5e)との間に封止部材(8)を挟持する壁面(11)と、封止部材(8)との間に隙間をあけて対向する対向面(12)と、対向面(12)から封止部材(8)に向かって突設された凸部(13)と、を備えている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6