(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241206BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241206BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2021561180
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020035249
(87)【国際公開番号】W WO2021106324
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2019216951
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 良憲
(72)【発明者】
【氏名】東郷 政一
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-032467(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131234(WO,A1)
【文献】特開2000-195514(JP,A)
【文献】特表2011-589849(JP,A)
【文献】特表2010-535699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有する、一般式Li
aNi
xMn
yM
zO
2-b(式中、0.95<a<1.05、0.7≦x≦0.95、0<y≦0.3、0≦z≦0.3、0≦b<0.05、x+y+z=1、Mは、Al、Co、Fe、Ti、Si、Nb、Mo、W及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子の表面又は粒界に存在する、Ca及びSrの少なくとも一方を含有する化合物Aと、を含み、
前記層状構造はLiが可逆的に出入りするLi層を含み、且つ、前記Li層に存在するLi以外の金属元素の割合が前記リチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル量に対して0.7モル%以上3.0モル%以下であり、
X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅nに対する(003)面の回折ピークの半値幅mの比m/nが、0.75≦m/n≦1.0であ
り、
X線回折測定によるX線回折パターンにCaO及びSrOに由来するピークが存在しない、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記化合物A中のCa及びSrの総量は、前記リチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル量に対して、1モル%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅nからシェラーの式により算出される結晶子サイズsが、400Å≦s≦800Åの範囲である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
遷移金属酸化物と、Li化合物と、Ca化合物及びSr化合物の少なくともいずれか一方とを乾式混合した混合物を850℃以下で焼成する工程を含む、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物が、高エネルギー密度の正極活物質として注目されている。例えば、特許文献1には、一般式LixNiyCozMmO2(式中、MはBa、Sr、Bから選択される元素であり、0.9≦x≦1.1、0.5≦y≦0.95、0.05≦z≦0.5、0.0005≦m≦0.02)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物からなり、かつBET比表面積値が0.8m2/g以下である非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、α-NaFeO2構造を有し、遷移金属元素としてMn、Ni、及びCoからなる群から選択される1種又は2種以上を含み、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面にアルカリ土類金属とWが存在する非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-100295号公報
【文献】特開2018-129221号公報
【発明の概要】
【0005】
非水電解質二次電池の正極活物質にNi含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合、充電時のLiの引き抜き量が多いため、充放電を繰り返すことにより層状の結晶構造が壊れ、容量が低下するという課題がある。なお、特許文献1,2に開示された技術は、充放電サイクル特性について未だ改良の余地がある。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、層状構造を有する、一般式LiaNixMnyMzO2-b(式中、0.95<a<1.05、0.7≦x≦0.95、0<y≦0.3、0≦z≦0.3、0≦b<0.05、x+y+z=1、Mは、Al、Co、Fe、Ti、Si、Nb、Mo、W及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子の表面又は粒界に存在する、Ca及びSrの少なくとも一方を含有する化合物Aと、を含む。層状構造はLiが可逆的に出入りするLi層を含み、且つ、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合がリチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル量に対して0.7モル%以上3.0モル%以下であり、X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅nに対する(003)面の回折ピークの半値幅mの比m/nが、0.75≦m/n≦1.0であることを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、遷移金属酸化物と、Li化合物と、Ca化合物及びSr化合物の少なくともいずれか一方とを乾式混合した混合物を850℃以下で焼成する工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備えることを特徴とする。
【0009】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質によれば、充放電に伴う電池容量の低下を抑制した高容量の非水電解質二次電池を提供することができる。非水電解質二次電池用正極活物質はNi含有量が多いリチウム遷移金属複合酸化物を含み、電池の充放電サイクル特性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【
図2】
図2は、実施例2、3とSrO、CaOのX線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物の層状構造には、Ni等を含有する遷移金属層、Li層、酸素層が存在し、Li層に存在するLiイオンが可逆的に出入りすることで、電池の充放電反応が進行する。Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物を用いた場合、電池の充電時にLi層から多くのLiイオンが引き抜かれるため層状構造が崩れて電池容量の低下につながる。また、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物は、粒子表面近傍の活性が高く、構造が不安定になりやすいため、電解液との反応等により、表面劣化層の生成や浸食が起こりやすく、電池容量の低下につながる。
【0012】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、先ず、遷移金属層に充放電中に酸化数変化が生じないMnを所定量含有させつつ、Li層に所定量のLi以外の金属元素を含有させ、さらに、X線回折パターンの(003)面の半値幅m/(104)面の半値幅nの比が所定範囲内になるような、面方向に適度な歪みを持った層状構造にすることで、リチウム遷移金属複合酸化物の構造を維持しつつ電池容量を高くできることを見出した。さらに、本発明者らは、Ca及びSrの少なくとも一方を含む化合物でリチウム遷移金属複合酸化物の表面を保護することで、構造劣化層の侵食を抑制できることを見出した。Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物は層状構造の骨格の強化、及び、表面の保護のいずれか一方では十分な効果が得られず、両方を適用することでその相乗効果により、充放電サイクル特性を特異的に改善することができる。
【0013】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体が円筒形の電池ケースに収容された円筒形電池を例示するが、電極体は、巻回型に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に1枚ずつ積層されてなる積層型であってもよい。また、電池ケースは円筒形に限定されず、例えば角形、コイン形等であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された電池ケースであってもよい。
【0014】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質(図示せず)と、電極体14及び非水電解質を収容する電池ケース15とを備える。電極体14は、正極11と負極12とがセパレータ13を介して巻回された巻回構造を有する。電池ケース15は、有底円筒形状の外装缶16と、外装缶16の開口部を塞ぐ封口体17とで構成されている。
【0015】
電極体14は、長尺状の正極11と、長尺状の負極12と、長尺状の2枚のセパレータ13と、正極11に接合された正極タブ20と、負極12に接合された負極タブ21とで構成される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11より長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。
【0016】
非水電解質二次電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19を備える。
図1に示す例では、正極11に取り付けられた正極タブ20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極タブ21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極タブ20は封口体17の底板23の下面に溶接等で接続され、底板23と電気的に接続された封口体17のキャップ27が正極端子となる。負極タブ21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0017】
外装缶16は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。外装缶16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池ケース15の内部空間が密閉される。外装缶16は、例えば側面部を外部からプレスして形成された、封口体17を支持する溝入部22を有する。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0018】
封口体17は、電極体14側から順に、底板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0019】
以下、非水電解質二次電池10を構成する正極11、負極12、セパレータ13及び非水電解質について、特に正極11を構成する正極合材層31に含まれる正極活物質について詳説する。
【0020】
[正極]
正極11は、正極集電体30と、正極集電体30の両面に形成された正極合材層31とを有する。正極集電体30には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層31は、正極活物質、導電材、及び結着材を含む。正極合材層31の厚みは、例えば正極集電体30の片側で10μm~150μmである。正極11は、正極集電体30の表面に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層31を正極集電体30の両面に形成することにより作製できる。
【0021】
正極合材層31に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層31に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0022】
正極合材層31に含まれる正極活物質は、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物と、リチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子表面を含む一次粒子表面上又は粒界に存在する、Ca及びSrの少なくとも一方を含有する化合物Aと、を含む。
【0023】
リチウム遷移金属複合酸化物の層状構造は、例えば、空間群R-3mに属する層状構造、空間群C2/mに属する層状構造等が挙げられる。これらの中では、高容量化、結晶構造の安定性等の点で、空間群R-3mに属する層状構造であることが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物の層状構造は、遷移金属層、Li層、酸素層を含む。
【0024】
リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式LiaNixMnyMzO2-b(式中、0.95<a<1.05、0.7≦x≦0.95、0<y≦0.3、0≦z≦0.3、0≦b<0.05、x+y+z=1、Mは、Al、Co、Fe、Ti、Si、Nb、Mo、W、及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表すことができる。なお、正極活物質には、本開示の目的を損なわない範囲で、上記の一般式で表される以外のリチウム遷移金属複合酸化物、或いはその他の化合物が含まれてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物に含有される金属元素のモル分率は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)、電子線マイクロアナライザー(EPMA)、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0025】
リチウム遷移金属複合酸化物中のLiの割合を示すaは、0.95≦a<1.05を満たし、0.97≦a≦1.03を満たすことが好ましい。aが0.95未満の場合、aが上記範囲を満たす場合と比較して、電池容量が低下する場合がある。aが1.05以上の場合、aが上記範囲を満たす場合と比較して、充放電サイクル特性の低下につながる場合がある。
【0026】
リチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合を示すxは、0.7≦x≦0.95を満たし、0.8≦x≦0.95を満たすことが好ましい。xを0.7以上とすることで、高容量の電池が得られる。また、xが0.8以上の場合、リチウム遷移金属複合酸化物の構造の安定化によるサイクル特性向上の効果が得やすい。また、xが0.95超の場合は、十分な量のMn、Mを含有することができないので、リチウム遷移金属複合酸化物の層状構造が不安定になる。
【0027】
リチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するMnの含有量を示すyは、0<y≦0.3を満たすことが好ましく、0.01≦y≦0.15を満たすことがより好ましい。Mnは、充放電中にも酸化数変化が生じないため、遷移金属層に含有されることで遷移金属層の構造が安定化すると考えられる。一方、yが0.3超の場合は、Niの含有量が少なくなって電池容量が低下してしまう。Mnは、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物の層状構造内に均一に分散していてもよいし、層状構造内の一部に存在していてもよい。
【0028】
M(Mは、Al、Co、Fe、Ti、Si、Nb、Mo、W、及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)は、任意成分である。リチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル数に対するMの含有量を示すzは、0≦z≦0.3を満たすことが好ましい。
【0029】
リチウム遷移金属複合酸化物は、体積基準のメジアン径(D50)が、例えば3μm~30μm、好ましくは5μm~25μm、特に好ましくは7μm~15μmの粒子である。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。リチウム遷移金属複合酸化物の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0030】
リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子である。二次粒子を構成する一次粒子の粒径は、例えば0.05μm~1μmである。一次粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される粒子画像において外接円の直径として測定される。
【0031】
化合物Aは、リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子の表面又は粒界に存在する。これにより、電解液との反応等によるリチウム遷移金属複合酸化物表面の構造劣化層の生成、侵食を抑制できる。ここで、一次粒子の表面には二次粒子の表面を含む。また、一次粒子の粒界とは、一次粒子同士の界面である。化合物Aが一次粒子の表面又は粒界に存在するとは、一次粒子の表面若しくは粒界に接していている状態、又は、一次粒子の表面若しくは粒界から10nm以下の範囲にある状態をいう。化合物Aは、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物の表面及び界面の全体に均一に分散していてもよいし、一部に存在していてもよい。
【0032】
化合物Aは、Ca及びSrの少なくとも一方を含有する。化合物Aは、Ca化合物、又は、Sr化合物を含んでもよい。Ca化合物は、例えば、CaO、Ca(OH)2、及びCaCO3を例示することができる。Sr化合物は、例えば、SrO、Sr(OH)2、SrCO3を例示することができる。
【0033】
化合物A中のCa及びSrの総量は、リチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル量に対して、1モル%以下であってもよい。これにより、充放電サイクル特性をより向上させることができる。
【0034】
リチウム遷移金属複合酸化物の層状構造は、Liが可逆的に出入りするLi層を含み、且つ、Li層に存在するLi以外の金属元素の割合がリチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル量に対して0.7モル%以上3.0モル%以下である。Li層におけるLi以外の金属元素の割合が、0.7モル%未満の場合、Li層中のLiイオンが引き抜かれた状態での層状構造の安定性が低下し、構造が壊れ、電池容量の低下につながる。また、Li層におけるLi以外の金属元素の割合が3.0モル%を超える場合、Li層中のLiイオンの拡散性が低下し、電池容量の低下と共に電池の反応抵抗が高くなる。Li層に存在する金属元素は、主にNiであるが、他の金属元素を含んでもよい。
【0035】
Li層におけるLi以外の金属元素の割合は、正極活物質のX線回折測定によるX線回折パターンのリートベルト解析結果から得られる。X線回折パターンのリートベルト解析には、例えば、リートベルト解析ソフトであるPDXL2(株式会社リガク)を使用することができる。
【0036】
X線回折パターンは、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名「RINT-TTR」、線源Cu-Kα)を用いて、以下の条件による粉末X線回折法によって得られる。
測定範囲:15-120°
スキャン速度:4°/min
解析範囲:30-120°
バックグラウンド:B-スプライン
プロファイル関数:分割型擬Voigt関数
束縛条件:Li(3a)+Ni(3a)=1
Ni(3a)+Ni(3b)=α(αは各々のNi含有割合)
ICSD No.:98-009-4814
正極活物質は、上記X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅nからシェラーの式(Scherrer equation)により算出される結晶子サイズsが、400Å≦s≦800Åであることが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物の上記結晶子サイズsが400Åより小さい場合、結晶性が低下して、電池容量の低下につながる場合がある。また、リチウム遷移金属複合酸化物の上記結晶子サイズsが800Åを越える場合、Liの拡散性が悪くなり、電池の出力特性が低下する場合がある。シェラーの式は、下式で表される。
【0037】
s=Kλ/Bcosθ
上式において、sは結晶子サイズ、λはX線の波長、Bは(104)面の回折ピークの半値幅、θは回折角(rad)、KはScherrer定数である。本実施形態においてKは0.9とする。
【0038】
正極活物質は、上記X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅nに対する(003)面の回折ピークの半値幅mの比m/nが、0.75≦m/n≦1.0である。この範囲であれば、層状構造を面方向に適度な歪みを持った状態にすることができるので、高容量で充放電サイクル特性が向上した電池を得ることができる。m/nが0.75未満の場合、層状構造の歪みが大きすぎて層状構造が脆くなる。また、m/nが1.0超の場合、電池容量が低下する。
【0039】
正極活物質の上記X線回折測定によるX線回折パターンには、CaO及びSrOに由来するピークが存在しないことが好ましい。CaO及びSrOがX線回折測定で検出される程度含有されている場合、電池容量の低下等が生じる場合がある。
【0040】
次に、リチウム遷移金属複合酸化物及び化合物Aを含む正極活物質の製造方法の一例について説明する。
【0041】
正極活物質の製造方法は、例えば、Ni、Mn及び任意の金属元素を含む遷移金属酸化物を得る第1工程と、第1工程で得られた遷移金属酸化物とLi化合物とを混合して混合物を得る第2工程と、当該混合物を焼成する第3工程と、を備える。
【0042】
第1工程においては、例えば、Ni、Mn及び任意の金属元素(Co、Al、Nb等)を含む金属塩の溶液を撹拌しながら、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を滴下し、pHをアルカリ側(例えば8.5~12.5)に調整することにより、Ni、Mn及び任意の金属元素を含む遷移金属水酸化物を析出(共沈)させ、当該遷移金属水酸化物を焼成することにより、Ni、Mn及び任意の金属元素を含む遷移金属酸化物を得る。焼成温度は、特に制限されるものではないが、例えば、300℃~600℃の範囲である。
【0043】
第2工程においては、第1工程で得られた遷移金属酸化物と、Li化合物とCa化合物及びSr化合物の少なくともいずれか一方とを乾式混合して、混合物を得る。Li化合物としては、例えば、Li2CO3、LiOH、Li2O2、Li2O、LiNO3、LiNO2、Li2SO4、LiOH・H2O、LiH、LiF等が挙げられる。Ca化合物としては、Ca(OH)2、CaO、CaCO3、CaSO4、Ca(NO3)2等が挙げられる。Sr化合物としては、Sr(OH)2、Sr(OH)2・8H2O、SrO、SrCO3、SrSO4、Sr(NO3)2等が挙げられる。第1工程で得られた遷移金属酸化物とLi化合物との混合割合は、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整することを容易とする点で、例えば、Liを除く金属元素:Liのモル比が、1:0.98~1:1.1の範囲となる割合とすることが好ましい。また、第1工程で得られた遷移金属酸化物とCa化合物又はSr化合物との混合割合は、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整することを容易とする点で、例えば、Liを除く金属元素:Ca及びSrのモル比が、1:0.0003~1:0.03の範囲となる割合とすることが好ましい。第2工程では、第1工程で得られた遷移金属酸化物とLi化合物とCa化合物又はSr化合物とを混合する際、必要に応じて他の金属原料を添加してもよい。他の金属原料は、第1工程で得られた遷移金属酸化物を構成する金属元素以外の金属元素を含む酸化物等である。
【0044】
第3工程においては、第2工程で得られた混合物を850℃以下で所定時間焼成し、本実施形態に係る正極活物質を得る。850℃を越える温度で焼成すると、Ca及びSrの少なくとも一方を含有する化合物Aが特定の部分に凝集し、十分な効果が得られない場合がある。第3工程における混合物の焼成は、例えば焼成炉内で、酸素気流下、450℃~680℃の第1設定温度まで第1昇温速度で焼成する第1焼成工程と、第1焼成工程により得られた焼成物を、焼成炉内で、酸素気流下、680℃超850℃以下の第2設定温度まで第2昇温速度で焼成する第2焼成工程とを含む、多段階焼成工程を備える。ここで、第1昇温速度は1.5℃/min~5.5℃/minの範囲であり、第2昇温速度は、第1昇温速度より遅く、0.1℃/min~3.5℃/minの範囲である。なお、第1昇温速度、第2昇温速度は、上記規定した範囲内であれば、温度領域毎に複数設定してもよい。第1焼成工程における第1設定温度の保持時間は、リチウム遷移金属複合酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、5時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。第1設定温度の保持時間とは、第1設定温度に達した後、第1設定温度を維持する時間である。第2焼成工程における第2設定温度の保持時間は、リチウム遷移金属複合酸化物の上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、1時間~10時間が好ましく、1時間~5時間がより好ましい。第2設定温度の保持時間とは、第2設定温度に達した後、第2設定温度を維持する時間である。混合物の焼成の際には、上記各パラメータを上記規定した範囲に調整する点で、例えば、酸素濃度60%以上の酸素気流中で行い、酸素気流の流量を、焼成炉10cm3あたり、0.2mL/min~4mL/minの範囲及び混合物1kgあたり0.3L/min以上とすることができる。
【0045】
上記で得られた正極活物質に含有される金属元素のモル分率は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定され、一般式LiaNixMnyMzCaαSrβO2-b(式中、0.95<a<1.05、0.7≦x≦0.95、0<y≦0.3、0≦z≦0.3、α+β>0、0≦b<0.05、x+y+z=1、Mは、Al、Co、Fe、Ti、Si、Nb、Mo、W、及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素)で表すことができる。なお、Ca及びSrはリチウム遷移金属複合酸化物の表面に存在する化合物Aに含有されている。
【0046】
[負極]
負極12は、負極集電体40と、負極集電体40の両面に形成された負極合材層41とを有する。負極集電体40には、銅、銅合金等の負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルムなどを用いることができる。負極合材層41は、負極活物質、及び結着材を含む。負極合材層41の厚みは、例えば負極集電体40の片側で10μm~150μmである。負極12は、負極集電体40の表面に負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極合材層41を負極集電体40の両面に形成することにより作製できる。
【0047】
負極合材層41に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、一般的には黒鉛等の炭素材料が用いられる。黒鉛は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛のいずれであってもよい。また、負極活物質として、Si、Sn等のLiと合金化する金属、Si、Sn等を含む金属化合物、リチウムチタン複合酸化物などを用いてもよい。また、これらに炭素被膜を設けたものを用いてもよい。例えば、SiOx(0.5≦x≦1.6)で表されるSi含有化合物、又はLi2ySiO(2+y)(0<y<2)で表されるリチウムシリケート相中にSiの微粒子が分散したSi含有化合物などが、黒鉛と併用されてもよい。
【0048】
負極合材層41に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、PTFE、PVdF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)が用いられる。また、負極合材層41には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などが含まれていてもよい。
【0049】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造であってもよく、積層構造を有していてもよい。また、セパレータ13の表面には、アラミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂層、無機化合物のフィラーを含むフィラー層が設けられていてもよい。
【0050】
[非水電解質]
非水電解質は、例えば、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0051】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0052】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテルなどが挙げられる。
【0053】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiMnCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8モル~1.8モルである。また、さらにビニレンカーボネートやプロパンスルトン系添加剤を添加してもよい。
【0054】
<実施例>
以下、実施例及び比較例により本開示をさらに説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[正極活物質の作製]
<実施例1>
一般式Ni0.82Mn0.03Co0.15O2で表される遷移金属酸化物のNi、Mn、及びCoの総量に対して、Sr及びCaの含有量が、各々、1.0モル%及び0.1モル%となるように、遷移金属酸化物とSr(OH)2及びCa(OH)2を混合し、さらにNi、Mn、Co、Sr、及びCaの総量と、Liのモル比が1:1.03となるように水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)を混合した。当該混合物を酸素濃度95%の酸素気流下(混合物1kgあたり5L/minの流量)、昇温速度2℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度1℃/minで、650℃から800℃まで焼成した。この焼成物を水洗により不純物を除去し、実施例1の正極活物質を得た。ICP-AESにより、実施例1の正極活物質の組成を分析した結果、Li0.99Ni0.82Mn0.03Co0.15Sr0.01Ca0.001O2であった。また、実施例1の正極活物質について、X線回折測定を行った。リチウム遷移金属複合酸化物中のLiを除く金属元素の総モル量に対するLi層に存在するLi以外の金属元素の割合は、0.87モル%であった。X線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅nに対する(003)面の回折ピークの半値幅mの比m/nは、0.978であった。
【0056】
[正極の作製]
上記の正極活物質を95質量部、導電材としてアセチレンブラックを3質量部、結着材としてポリフッ化ビニリデンを2質量部の割合で混合し、これをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)と混合して正極スラリーを調製した。次いで、当該スラリーを厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体に塗布し、塗膜を乾燥した後、圧延ローラーにより、塗膜を圧延して、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。なお、正極の一部に正極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0057】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.2モル/リットルの濃度となるように溶解させて、非水電解質を調製した。
【0058】
[試験セルの作製]
上記正極の露出部にアルミニウムリードを、負極としてリチウム金属箔にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリオレフィン製のセパレータを介して正極と負極を渦巻き状に巻回した後、径方向にプレス成形して扁平状の巻回型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネートシートで構成される外装体内に収容し、上記非水電解液を注入した後、外装体の開口部を封止して試験セルを得た。
【0059】
[容量維持率の評価]
上記試験セルについて、下記サイクル試験を行なった。サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、30サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。
【0060】
容量維持率(%)=(30サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
<サイクル試験>
試験セルを、25℃の温度環境下、0.2Itの定電流で電池電圧が4.3Vになるまで定電流充電を行い、4.3Vで電流値が1/100Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.2Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを30サイクル繰り返した。
【0061】
<実施例2、4>
使用する原料、原料配合比、Li以外の金属元素の総量とLiのモル比が1:1.05、及び二段目の焼成温度を750℃に変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例1と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0062】
<実施例3>
原料配合比、及び酸素濃度95%の酸素気流下(混合物1kgあたり10L/minの流量)に変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例4と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0063】
<実施例5>
使用する原料、原料配合比、及び昇温速度5℃/minで、室温から650℃まで焼成した後、昇温速度3℃/minで、650℃から750℃まで焼成して正極活物質を合成したこと以外は実施例2と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0064】
<実施例6~8>
使用する原料、原料配合比、及び二段目の焼成温度を730℃に変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例1と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0065】
<比較例1>
原料配合比を変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例1と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0066】
<比較例2>
使用する原料、原料配合比を変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例2と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0067】
<比較例3>
原料配合比、Li以外の金属元素の総量とLiのモル比が1:0.95、及び二段目の焼成温度を850℃に変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例2と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0068】
<比較例4>
使用する原料、原料配合比、酸素濃度95%の酸素気流下(混合物1kgあたり0.1L/minの流量)に変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例2と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0069】
<比較例5>
使用する原料、原料配合比を変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例6と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0070】
<比較例6>
使用する原料、原料配合比、及び二段目の焼成温度を730℃に変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例1と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0071】
<比較例7>
原料配合比、及びLi以外の金属元素の総量とLiのモル比が1:1.1、に変更して正極活物質を合成したこと以外は実施例7と同様にして試験セルをそれぞれ作製し、その評価を行った。
【0072】
実施例及び比較例の容量維持率を表1~3に示す。表1~3に示した容量維持率の評価結果は、各々、比較例1,2,5の試験セルの容量維持率を100%として、相対的に表したものである。また、表1~3にX線回折によるX線回折パターンの(104)面の回折ピークの半値幅nに対する(003)面の回折ピークの半値幅mの比m/n、及び、Liを除く金属元素の総モル数に対するLi層に存在するLi以外の金属元素の割合、を併せて示す。
【0073】
【0074】
【0075】
【表3】
表1~3に示すように、実施例1~8は、比較例1~7よりも容量維持率が高かった。なお、実施例のいずれについても、X線回折パターンにSrO及びCaOに由来するピークは存在しなかった。一例として
図2に実施例2、3とSrO、CaOのX線回折図形を示した。
【符号の説明】
【0076】
10 非水電解質二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
15 電池ケース
16 外装缶
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極タブ
21 負極タブ
22 溝入部
23 底板
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット
30 正極集電体
31 正極合材層
40 負極集電体
41 負極合材層