(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】撮像装置
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20241206BHJP
H04N 25/70 20230101ALI20241206BHJP
【FI】
H01L27/146 E
H04N25/70
(21)【出願番号】P 2020078451
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 竜典
(72)【発明者】
【氏名】飯島 浩章
(72)【発明者】
【氏名】井土 眞澄
(72)【発明者】
【氏名】高木 誠司
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093191(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194630(WO,A1)
【文献】特開2014-022525(JP,A)
【文献】特開2018-182314(JP,A)
【文献】特開2019-169693(JP,A)
【文献】特開2003-158254(JP,A)
【文献】特開2011-222949(JP,A)
【文献】特開2011-054869(JP,A)
【文献】特開2009-235295(JP,A)
【文献】特開2012-255098(JP,A)
【文献】特開2009-049278(JP,A)
【文献】特開2018-125850(JP,A)
【文献】特開2018-125848(JP,A)
【文献】特開2015-103598(JP,A)
【文献】特開2012-004578(JP,A)
【文献】特開2010-103457(JP,A)
【文献】特開2011-097079(JP,A)
【文献】特開2011-119745(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017350(WO,A1)
【文献】特開2009-200482(JP,A)
【文献】特開2010-183060(JP,A)
【文献】特開2012-094660(JP,A)
【文献】特開2015-070060(JP,A)
【文献】特開2015-092546(JP,A)
【文献】特開2011-243945(JP,A)
【文献】特開2011-216853(JP,A)
【文献】特開2011-071482(JP,A)
【文献】特開2011-071481(JP,A)
【文献】特開2011-071483(JP,A)
【文献】特開2011-216728(JP,A)
【文献】特開2015-220395(JP,A)
【文献】特開2012-227364(JP,A)
【文献】特開2014-017374(JP,A)
【文献】特開2014-204102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
H04N 25/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、を備える光電変換素子を備え、
前記光電変換層は、第1材料と第2材料と第3材料とを含み、
前記第1材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、
前記第2材料は、ドナー性の有機半導体材料であり、
前記第3材料の可視光平均吸光係数は、前記第1材料の可視光平均吸光係数より小さく、
前記光電変換素子は、前記第1電極と前記光電変換層との間に電荷ブロッキング層を備え
、
前記電荷ブロッキング層は、前記第3材料を含む、
撮像装置。
【請求項2】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、を備える光電変換素子を備え、
前記光電変換層は、第1材料と第2材料と第3材料とを含み、
前記第1材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、
前記第2材料は、ドナー性の有機半導体材料であり、
前記第3材料の可視光平均吸光係数は、前記第1材料の可視光平均吸光係数より小さく、
前記光電変換素子は、前記光電変換層と前記第2電極との間に位置し、前記第2電極を透過して前記光電変換層に入射する可視光の一部を吸収する可視光吸収層を備え
、
前記可視光吸収層は、前記第2材料を含む、
撮像装置。
【請求項3】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、を備える光電変換素子を備え、
前記光電変換層は、第1材料と第2材料と第3材料とを含み、
前記第1材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、
前記第2材料は、ドナー性の有機半導体材料であり、
前記第3材料の可視光平均吸光係数は、前記第1材料の可視光平均吸光係数より小さく、
前記光電変換素子は、前記光電変換層と前記第2電極との間に位置し、前記第2電極を透過して前記光電変換層に入射する可視光の一部を吸収する可視光吸収層を備え、
前記可視光吸収層は、前記第3材料を含む、
撮像装置。
【請求項4】
前記可視光吸収層の可視光平均吸光係数は、2μm
-1以上16μm
-1以下である、
請求項
2または3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記光電変換層は、前記第1材料と前記第2材料と前記第3材料とを含むバルクヘテロ構造の混合膜である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項6】
前記第3材料の可視光平均吸光係数は、前記第2材料の可視光平均吸光係数より小さい、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項7】
前記第3材料の可視光平均吸光係数は、4μm
-1以下である、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項8】
前記第3材料のイオン化ポテンシャルは、前記第2材料のイオン化ポテンシャルより大きい、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項9】
前記第3材料の電子親和力は、前記第1材料の電子親和力より小さい、
請求項1から
8のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項10】
前記光電変換層における前記第3材料の含有量は、0.1wt%以上10wt%以下である、
請求項1から
9のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項11】
前記第3材料のバンドギャップは、3.0eV以上である、
請求項1から
10のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項12】
前記第3材料は、有機半導体材料である、
請求項1から
11のいずれか1項に記載の撮像装置。
【請求項13】
前記光電変換層における前記第2材料の含有量は、10wt%以上25wt%以下である、
請求項1から
12のいずれか1項に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料は、シリコンなどの従来の無機半導体材料にはない物性および機能等を備える。このため、新しい半導体デバイスおよび電子機器を実現し得る半導体材料として、近年、有機半導体材料が活発に研究されている。
【0003】
例えば、有機半導体材料を薄膜化し、光電変換材料として用いることにより、光電変換素子を実現することが研究されている。例えば、特許文献1に開示されているように、有機材料薄膜を用いた光電変換素子は、光によって発生する電荷を電気信号として取り出すことにより、固体撮像素子などの光センサとして利用することができる。
【0004】
一方、非特許文献1で開示されているように、有機半導体材料を使用した光電変換素子に、アクセプター材料として広く用いられているフラーレンおよびフラーレン誘導体は、光などのエネルギーによって結合が生じる重合反応を起こすことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】P.C.Eklund et. al., “Photochemical transformation of C60 and C70 films”,Thin Solid Films, Elsevier B.V., 1995年, Vol.257, pp.185-203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
撮像装置等に利用する光電変換素子として有機半導体材料を用いる場合、光および熱に対する光電変換素子の信頼性を向上させることが望まれる。
【0008】
本開示では、信頼性の向上した光電変換素子を備える撮像装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る撮像装置は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、を備える光電変換素子を備え、前記光電変換層は、第1材料と第2材料と第3材料とを含み、前記第1材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、前記第2材料は、ドナー性の有機半導体材料であり、前記第3材料の可視光平均吸光係数は、前記第1材料の可視光平均吸光係数より小さい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、信頼性の向上した光電変換素子を備える撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る光電変換素子を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る光電変換素子における例示的なエネルギーバンド図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る撮像装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る撮像装置における画素のデバイス構造の一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る光電変換層の模式的な電流-電圧特性の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る画素の模式的な回路構成の一部を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る光電変換部の第2電極に印加する電圧と撮像装置の画素アレイの各行における動作のタイミングの例を示すタイミングチャートである。
【
図8A】
図8Aは、実施例1から実施例7における光電変換素子の概略構成を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、実施例8における光電変換素子の概略構成を示す図である。
【
図8C】
図8Cは、比較例1から比較例3における光電変換素子の概略構成を示す図である。
【
図8D】
図8Dは、比較例4における光電変換素子の概略構成を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、実施例1から実施例7における光電変換素子のエネルギーバンド図である。
【
図9B】
図9Bは、実施例8における光電変換素子のエネルギーバンド図である。
【
図9C】
図9Cは、比較例1から比較例3における光電変換素子のエネルギーバンド図である。
【
図9D】
図9Dは、比較例4における光電変換素子のエネルギーバンド図である。
【
図10】
図10は、実施例1から5および比較例1における光電変換素子の、外部量子効率の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本開示の一態様を得るに至った知見)
有機半導体材料では、使用する有機化合物の分子構造を変えると、エネルギー準位が変化し得る。このため、例えば、有機半導体材料を光電変換材料として用いる場合、吸収波長の制御が可能であり、例えば、無機半導体材料であるシリコン(Si)が分光感度を有さない近赤外光領域においても分光感度を持たせることができる。つまり、有機半導体材料を用いれば、従来、光電変換に用いられることのなかった波長領域の光を活用することが可能であり、太陽電池の高効率化および近赤外光領域での光センサ等を実現することが可能となる。このため、近年、有機半導体材料を用いた光電変換素子および撮像装置が活発に検討されている。以下、有機半導体を用いた光電変換素子を「有機光電変換素子」と称する場合がある。
【0013】
しかし、有機半導体材料は、無機物のSiと比べると光および熱に対する耐久性に劣り、何らかのエネルギーによって反応および分解を起こしやすい。有機光電変換素子のアクセプター材料として、広く検討されているフラーレンおよびフラーレン誘導体も光によって重合することが知られている。フラーレンおよびフラーレン誘導体は、重合すると、分子軌道のエネルギー準位が変化する。そのため、フラーレンおよびフラーレン誘導体を用いた光電変換素子としても電荷の移動状態が変化し、光電変換素子の特性も変化してしまう。そのため、フラーレンおよびフラーレン誘導体を用いた光電変換素子を備える撮像装置の特性も初期状態から変化する。
【0014】
したがって、光および熱によって生じる有機光電変換素子の特性の変化を抑制することで、撮像装置に備えられる有機光電変換素子の信頼性を向上させるためには、フラーレンおよびフラーレン誘導体の重合を起こりにくくすることが必要である。
【0015】
このように、本発明者らは、フラーレンまたはフラーレン誘導体を光電変換層に用いた光電変換素子を備える撮像装置において、フラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を起こりにくくすることで、光電変換素子の特性変化を抑制し、光電変換素子の信頼性を向上させることができることを見出した。
【0016】
そこで、本開示では、特性の変化を少なくすることで、信頼性の向上した、フラーレンまたはフラーレン誘導体を光電変換層に用いた光電変換素子を備える撮像装置を提供する。
【0017】
本開示の一態様の概要は以下の通りである。
【0018】
本開示の一態様に係る撮像装置は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置する光電変換層と、を備える光電変換素子を備え、前記光電変換層は、第1材料と第2材料と第3材料とを含み、前記第1材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体であり、前記第2材料は、ドナー性の有機半導体材料であり、前記第3材料の可視光平均吸光係数は、前記第1材料の可視光平均吸光係数より小さい。
【0019】
このように、光電変換層に第3材料が含まれることにより、第3材料によってフラーレンまたはフラーレン誘導体である第1材料同士の接近を抑制し、重合を起こりにくくできる。よって、光電変換素子の特性変化が抑制されるため、光電変換素子の信頼性を向上させることができる。よって、信頼性の向上した光電変換素子を備える撮像装置が実現される。また、第3材料の可視光吸光係数が、第1材料の可視光吸光係数より小さいことにより、第3材料によって、ドナー性の有機半導体材料である第2材料が光を吸収して電子と正孔との対を生成することが阻害されにくくなり、光電変換素子の光電変換効率の低下を抑制できる。
【0020】
また、例えば、前記第3材料の可視光平均吸光係数は、前記第2材料の可視光平均吸光係数より小さくてもよい。
【0021】
これにより、第3材料によって、第2材料が光を吸収して電子と正孔との対を生成することがさらに阻害されにくくなり、光電変換素子の光電変換効率の低下をさらに抑制できる。
【0022】
また、例えば、前記第3材料の可視光平均吸光係数は、4μm-1以下であってもよい。
【0023】
これにより、第3材料によって、第2材料が光を吸収して電子と正孔との対を生成することが阻害されにくくなり、光電変換素子の光電変換効率の低下をさらに抑制できる。
【0024】
また、例えば、前記第3材料のイオン化ポテンシャルは、前記第2材料のイオン化ポテンシャルより大きくてもよい。
【0025】
これにより、第2材料で生成した正孔が第3材料に移動することが抑制され、光電変換層における電荷の輸送がスムーズになる。
【0026】
また、例えば、前記第3材料の電子親和力は、前記第1材料の電子親和力より小さくてもよい。
【0027】
これにより、第1材料が受容した電子が、第3材料に移動することが抑制され、光電変換層における電荷の輸送がスムーズになる。
【0028】
また、例えば、前記光電変換層における前記第3材料の含有量は、0.1wt%以上10wt%以下であってもよい。
【0029】
これにより、第1材料であるフラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を効果的に抑制でき、光電変換素子の特性変化をさらに抑制することができる。
【0030】
また、例えば、前記第3材料のバンドギャップは、3.0eV以上である。
【0031】
これにより、第3材料が可視光に対して透明になるため、第2材料による可視光の吸収を妨げず、第2材料による電子と正孔との対の生成を阻害しにくくなる。
【0032】
また、例えば、前記第3材料は、有機半導体材料であってもよい。
【0033】
これにより、有機半導体材料である第3材料は、光電変換層が光を吸収して発生させた電荷の輸送も担うことが可能である。そのため、撮像装置は、発生した電荷の光電変換層内への残留に起因する暗電流の発生を抑制できる。
【0034】
また、例えば、前記撮像装置は、前記第1電極と前記光電変換層との間に電荷ブロッキング層を備えてもよい。
【0035】
これにより、電荷ブロッキング層が、第1電極2からの電荷の注入を抑制することができ、暗電流の発生を抑制できる。
【0036】
また、例えば、前記電荷ブロッキング層は、前記第3材料を含んでもよい。
【0037】
このように、電荷ブロッキング層が、光電変換層に含まれる第3材料を含むことで、製造方法の簡素化が可能になる。
【0038】
また、例えば、前記光電変換層における前記第2材料の含有量は、10wt%以上25wt%以下であってもよい。
【0039】
これにより、高い光電変換効率を実現しやすくなる。
【0040】
また、例えば、前記撮像装置は、前記光電変換層と前記第2電極との間に可視光吸収層を備えてもよい。
【0041】
これにより、光電変換層4に含まれる第1材料であるフラーレンまたはフラーレン誘導体の可視光の吸収が抑制されることで、フラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を抑制できる。
【0042】
また、例えば、前記可視光吸収層の可視光平均吸光係数は、2μm-1以上16μm-1以下であってもよい。
【0043】
これにより、可視光吸収層が、適度に可視光を吸収するため、光電変換層に含まれる第1材料であるフラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を抑制しつつ、光電変換素子の光電変換効率の低下を抑制できる。
【0044】
また、例えば、前記可視光吸収層は、前記第2材料を含んでもよい。
【0045】
このように、可視光吸収層が光電変換層に含まれる第2材料を含むことで、製造方法の簡素化が可能になる。
【0046】
また、例えば、前記可視光吸収層は、前記第3材料を含んでもよい。
【0047】
これにより、可視光吸収層が光電変換層に含まれる第3材料を含むことで、製造方法の簡素化が可能になる。
【0048】
また、例えば、前記光電変換層は、前記第1材料と前記第2材料と前記第3材料とを含むバルクヘテロ構造の混合膜であってもよい。
【0049】
これにより、光電変換層に含まれる各材料の接触面積が増加するため、光電変換層における各材料間の電荷の授受がスムーズになる。
【0050】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0051】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップ順序などは、一例であり、本開示を限定する趣旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される、また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0052】
(実施の形態)
[光電変換素子]
まず、本実施の形態に係る撮像装置が備える光電変換素子について
図1を用いて説明する。本実施の形態に係る光電変換素子は、電荷読み出し方式の光電変換素子である。
図1は、本実施の形態に係る光電変換素子10を示す概略断面図である。
【0053】
図1に示されるように、光電変換素子10は、支持基板1に支持されており、一対の電極である第1電極2および第2電極6と、第1電極2と第2電極6との間に位置する光電変換層4と、第2電極6と光電変換層4との間に位置する可視光吸収層5と、第1電極2と光電変換層4との間に位置する電子ブロッキング層3とを備える。電子ブロッキング層3は、電荷ブロッキング層の一例である。なお、光電変換素子10は、電子ブロッキング層3および可視光吸収層5を備えず、第1電極2および第2電極6と光電変換層4とが、積層された構造であってもよい。
【0054】
以下、本実施の形態に係る光電変換素子10の各構成要素について説明する。
【0055】
支持基板1は、一般的な光電変換素子の支持に使用される基板であればよく、例えば、ガラス基板、石英基板、半導体基板またはプラスチック基板等であってもよい。
【0056】
第1電極2は、金属、金属窒化物、金属酸化物または導電性が付与されたポリシリコンなどから形成される。金属の例としては、アルミニウム、銅、チタンおよびタングステンなどが挙げられる。ポリシリコンに導電性を付与する方法の例としては、不純物をドープすることが挙げられる。
【0057】
第2電極6は、例えば、透明な導電性材料から形成される透明電極である。第2電極6の材料としては、例えば、透明導電性酸化物(TCO:Transparent Conducting Oxide)、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(Aluminum-doped Zinc Oxide)、FTO(Florine-doped Tin Oxide)、SnO2およびTiO2等が挙げられる。なお、第2電極6は、所望の透過率に応じて、適宜、TCOならびにアルミニウム(Al)および金(Au)などの金属材料を単独または複数組み合わせて作製してもよい。
【0058】
なお、第1電極2および第2電極6の材料は、上述した導電性材料に限られず、他の材料を用いてもよい。例えば、第1電極2は、透明電極であってもよい。
【0059】
第1電極2および第2電極6の作製には、使用する材料によって種々の方法が用いられる。例えば、ITOを使用する場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、ゾル-ゲル法などの化学反応法、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法を用いてもよい。この場合、第1電極2および第2電極6の作製には、ITO膜を成膜した後に、さらにUV-オゾン処理、プラズマ処理などを施してもよい。
【0060】
光電変換層4は、第1材料と第2材料と第3材料とを含む。光電変換層4の作製には、例えば、スピンコートなどによる塗布法などの湿式の方法、または、真空蒸着法などの乾式の方法などを用いることができる。真空蒸着法とは、真空下で加熱することにより層の材料を気化し、基板上に堆積させる方法である。また、光電変換層4は、第1材料と第2材料と第3材料とを含むバルクヘテロ構造の混合膜であってもよい。光電変換層4がバルクヘテロ構造の混合膜であることにより、各材料の接触面積が増加するため、光電変換層4における各材料間の電荷の授受がスムーズになる。バルクヘテロ構造の混合膜は、例えば、第1材料と第2材料と第3材料とを共蒸着で成膜することにより形成される。共蒸着で成膜することにより、分子レベルで各分子が均一に分散した光電変換層4を得ることができる。なお、光電変換層4は、第1材料と第2材料とが、別の層として形成された2層構造であってもよい。この場合、第3材料は、少なくとも第1材料が含まれる層に含まれる。
【0061】
以下、第1材料、第2材料および第3材料を具体的に例示する。
【0062】
第1材料は、アクセプター性の有機半導体材料であり、具体的には、フラーレンまたはフラーレン誘導体である。フラーレンとしては、例えば、C60フラーレンおよびC70フラーレン等が挙げられる。フラーレン誘導体としては、例えば、PCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル)およびICBA(インデンC60ビス付加体)等が挙げられる。また、光電変換層4には、第1材料以外のアクセプター性の有機半導体材料が含まれていてもよい。第1材料以外のアクセプター性の有機半導体材料として、例えば、縮合芳香族炭素環化合物(例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体およびフルオランテン誘導体等)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えば、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾドリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピロリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピンおよびトリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物および含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等が挙げられる。
【0063】
第2材料は、ドナー性の有機半導体材料である。第2材料は、光を吸収して電子と正孔との対を生成する。第2材料は、生成した電子を第1材料に供与する。ドナー性の有機半導体材料としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、サブフタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体およびフルオランテン誘導体等)および含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等が挙げられる。
【0064】
なお、第2材料は、上記例に限らず、乾式および湿式のいずれかの方法で光電変換層4として成膜できるドナー性の有機半導体材料であれば、低分子の有機化合物および高分子の有機化合物を、光電変換層4を構成する第2材料として用いてよい。
【0065】
また、第2材料は、その他の材料であってもよく、例えば、シリコン半導体、化合物半導体、量子ドット、ペロブスカイト材料またはカーボンナノチューブ等であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0066】
光電変換層4における第2材料の含有量は、例えば、10wt%以上25wt%以下である。第2材料の含有量が10wt%以上25wt%以下であることにより、高い光電変換効率を実現しやすくなる。
【0067】
第3材料は、第3材料の可視光吸光係数が、第1材料の可視光吸光係数より小さい材料である。光電変換層4に第3材料が含まれることにより、第1材料であるフラーレンまたはフラーレン誘導体同士の接触が抑制され、フラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を抑制できる。また、第3材料の可視光吸光係数が、第1材料の可視光吸光係数より小さいことにより、第2材料が光を吸収して電子と正孔との対を生成することが阻害されにくくなり、光電変換素子10の光電変換効率の低下を抑制できる。本明細書において、可視光平均吸光係数は、400nm以上700nm以下の波長範囲における平均の吸光係数である。また、吸光係数は、例えば、分光光度計で測定された吸光度を膜厚で割った数値である。
【0068】
また、第3材料の可視光吸光係数は、第2材料の可視光吸光係数より小さくてもよい。これにより、第2材料が光を吸収して電子と正孔との対を生成することがさらに阻害されにくくなり、光電変換素子10の光電変換効率の低下をさらに抑制できる。
【0069】
第3材料の可視光平均吸光係数は、例えば、4μm-1以下である。これにより、第2材料が光を吸収して電子と正孔との対を生成することが阻害されにくくなり、光電変換素子10の光電変換効率の低下をさらに抑制できる。第3材料の可視光平均吸光係数は、3μm-1以下であってもよい。
【0070】
第3材料は、例えば、第1材料と第2材料とを用いて光電変換層4を作製する際に、同じ方法で混合できる材料であればよい。第3材料としては、例えば、低分子有機化合物、高分子有機化合物、ならびに、ガラス、セラミックおよび金属化合物などの無機物を、光電変換層4の製造方法に合わせて単独あるいは組み合わせたものを用いることができる。
【0071】
また、第3材料は、光電変換層4内の電荷輸送を行うことができる有機半導体材料等の半導体材料であってもよい。これにより、有機半導体材料等の半導体材料である第3材料が光電変換層4内の電荷輸送を妨げないため、光電変換素子10の光電変換効率の低下を抑制できる。
【0072】
第3材料として有機半導体材料を用いる場合、有機半導体材料としては、例えば、9,9’-[1,1’-Biphenyl]-4,4’-diylbis[3,6-bis(1,1-dimethyl ethyl)]-9H-carbazole、N,N’-Di(1-naphthyl)-N,N’-diphenyl-(1,1’-biphenyl)-4,4’-diamine(NPD)、2,2’-Dimethyl-N,N’-di-[(1-naphthyl)-N,N’-diphenyl]-1,1’-biphenyl-4,4’-diamine(α-NPD)、9,9-Dimethyl-N,N’-di(1-naphthyl)-N,N‘-diphenyl-9H-fluorene-2,7-diamine(DMFL―NPB)、Poly-TPD、4,4’,4”-Tris[phenyl(m-tolyl)amino]triphenylamine(m-MTDATA)およびTris[4-(5-dicyanomethylidenemethyl-2-thienyl)phenyl]amine(TDCV-TPA)などが挙げられる。なお、有機半導体材料には、ここに挙げた以外の材料を用いてもよい。
【0073】
また、第3材料が半導体材料である場合、第3材料のバンドギャップは、3.0eV以上であってもよい。これにより、第3材料が可視光に対して透明になるため、第2材料による可視光の吸収を妨げず、第2材料による電子と正孔との対の生成を阻害しにくくなる。
【0074】
光電変換層4における第3材料の含有量は、例えば、0.1wt%以上10wt%以下である。第3材料の含有量が0.1wt%以上10wt%以下であることにより、第1材料であるフラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を効果的に抑制でき、光電変換素子10の特性変化を抑制することで、撮像装置100の信頼性をさらに向上できる。光電変換素子10の光電変換効率への影響を小さくできる観点からは、第3材料の含有量は、1wt%以上5wt%以下であってもよい。また、より長期にわたって光電変換素子10の特性変化を抑制する観点からは、第3材料の含有量は、1wt%以上3wt%以下であってもよい。
【0075】
本実施の形態に係る光電変換素子10は、第1電極2と光電変換層4との間に位置する電子ブロッキング層3と、第2電極6と光電変換層4との間に位置する可視光吸収層5とを備える。
【0076】
電子ブロッキング層3は、光電変換層4から第1電極2へ正孔を輸送する機能を有すると共に、第1電極2から光電変換層4への電子の移動をブロックする。光電変換素子10が電子ブロッキング層3を備えることにより、第1電極2からの電荷の注入を抑制することができ、電荷の注入によって流れる暗電流に起因したSN(シグナルノイズ)比へ悪影響を与える雑信号を低減できる。
【0077】
また、可視光吸収層5は、光電変換層4に入射する可視光の一部を吸収する。これにより、光電変換層4に含まれる第1材料であるフラーレンまたはフラーレン誘導体の可視光の吸収が抑制されることで、フラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を抑制できる。
【0078】
可視光吸収層5の可視光平均吸光係数は、例えば、2μm-1以上16μm-1以下である。これにより、可視光吸収層5が、適度に可視光を吸収するため、光電変換層4に含まれるフラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を抑制しつつ、光電変換素子10の光電変換効率の低下を抑制できる。可視光吸収層5の可視光平均吸光係数は、2μm-1以上10μm-1以下であってもよく、4μm-1以上8μm-1以下であってもよい。
【0079】
また、可視光吸収層5は、第2電極6から光電変換層4への正孔の移動をブロックする正孔ブロッキング層として機能してもよい。可視光吸収層5が正孔ブロッキング層としても機能する場合、第2電極6からの電荷の注入を抑制することができ、SN(シグナルノイズ)比へ悪影響を与える電荷の注入による雑信号を低減できる。
【0080】
電子ブロッキング層3及び可視光吸収層5に用いられる半導体材料としては、例えば、後述するエネルギーバンドを有する半導体材料が用いられる。電子ブロッキング層3および可視光吸収層5は、例えば、上記で例示した有機半導体材料にて形成される。電子ブロッキング層3および可視光吸収層5を形成する材料は、有機半導体材料に限らず、有機半導体材料以外の半導体材料であってもよい。例えば、電子ブロッキング層3および可視光吸収層5を形成する半導体材料は、酸化物半導体または窒化物半導体などであってもよく、それらの複合材料であってもよい。
【0081】
また、電子ブロッキング層3は、主な材料として光電変換層4に含まれる第3材料を含んでいてもよい。電子ブロッキング層3は、例えば、光電変換層4に含まれる第3材料で構成される。電子ブロッキング層3が、光電変換層4に含まれる第3材料を含むことで、製造方法の簡素化が可能になる。また、図示されているように光電変換層4と電子ブロッキング層3とが接している場合、電子ブロッキング層3が光電変換層4と同じ第3材料を含むことで、光電変換層4と電子ブロッキング層3との界面の密着性が向上する。また、第3材料が半導体材料である場合、電子ブロッキング層3が、光電変換層4と軌道のエネルギー準位が同じ第3材料を含むことで、電子ブロッキング層3と光電変換層4との電荷の輸送がスムーズになる。
【0082】
可視光吸収層5の材料は、可視光を吸収する材料であれば、特に制限されないが、可視光吸収層5は、主な材料として光電変換層4に含まれる第2材料を含んでいてもよい。可視光吸収層5は、例えば、光電変換層4に含まれる第2材料で構成される。可視光吸収層5が、光電変換層4に含まれる第2材料を含むことで、可視光吸収層5が正孔ブロッキング層として機能すると共に、製造方法を簡素化することができる。可視光吸収層5が第2材料を含む場合、第2材料の可視光平均吸光係数は、例えば、2μm-1以上16μm-1以下である。また、図示されているように光電変換層4と可視光吸収層5とが接している場合、可視光吸収層5が光電変換層4と同じ第3材料を含むことで、光電変換層4と可視光吸収層5との界面の密着性が向上する。
【0083】
また、可視光吸収層5は、主な材料として光電変換層4に含まれる第3材料を含んでいてもよい。可視光吸収層5は、例えば、光電変換層4に含まれる第3材料で構成される。可視光吸収層5が、光電変換層4に含まれる第3材料を含むことで、製造方法を簡素化することができる。また、第3材料が半導体材料である場合、可視光吸収層5が、光電変換層4と軌道のエネルギー準位が同じ第3材料を含むことで、可視光吸収層5と光電変換層4との電荷の輸送がスムーズになる。また、第3材料を適切に選択することで、可視光吸収層5の吸光度を調整できる。
【0084】
図2は、
図1に示される光電変換素子10における例示的なエネルギーバンド図である。
図2において、各層のエネルギーバンドが矩形で示されている。また、
図2においては、第3材料が半導体材料である場合が示されている。
【0085】
光電変換層4は、光の照射を受けて内部に電子と正孔との対を生成する。生成した電子と正孔との対は、光電変換層4にかかる電界によって、電子と正孔とに分離される。電子と正孔とは、それぞれ電界に従って第1電極2側または第2電極6側に移動する。ここで、光を吸収して発生した電子と正孔との対のうち、電子を他方の材料へ供与する材料のことをドナー材料と言い、電子を受容する材料のことをアクセプター材料と言う。ドナー性の有機半導体材料はドナー材料であり、アクセプター性の有機材料はアクセプター材料である。光電変換層4が光の照射を受けると、例えば、ドナー材料が電子と正孔との対を生成し、アクセプター材料に電子を供与する。異なる2種類の有機半導体材料を用いる場合、どちらがドナー材料となりどちらがアクセプター材料となるかは、一般に、接触界面における2種類の有機半導体材料それぞれのHOMO(Highest-Occupied-Molecular-Orbital)とLUMO(Lowest-Unoccupied-Molecular-Orbital)のエネルギー準位の相対位置で決まる。
図2に示されるように、2種類の有機半導体材料のうち、真空順位とLUMOのエネルギー準位とのエネルギー差である電子親和力が小さい方がドナー材料である第2材料4Bとなり、大きい方がアクセプター材料である第1材料4Aとなる。このように、光電変換層4がドナー材料である第2材料4Bとアクセプター材料である第1材料4Aを含むことにより、光電変換層4で生成した電子と正孔とが、第1材料4Aと第2材料4Bとに分離するため、電子と正孔とが再結合しにくくなる。よって、光電変換素子10の光電変換効率を高めることができる。
図2においてエネルギーバンドを示す矩形のうち、上端がLUMOのエネルギー準位であり、下端がHOMOのエネルギー準位である。
【0086】
また、
図2に示されるように、本実施の形態に係る光電変換素子10では、例えば、電子ブロッキング層3の、真空順位とHOMOのエネルギー準位とのエネルギー差であるイオン化ポテンシャルは、光電変換層4の第2材料4Bのイオン化ポテンシャルよりも大きい。
【0087】
また、
図2に示されるように、第3材料4Cの、イオン化ポテンシャルは、第2材料4Bのイオン化ポテンシャルより大きい。これにより、第2材料4Bで生成した正孔が第3材料4Cに移動することが抑制され、光電変換層4における電荷の輸送がスムーズになる。
【0088】
また、第3材料4Cの電子親和力は、第1材料4Aの電子親和力より小さい。これにより、第1材料4Aが受容した電子が、第3材料4Cに移動することが抑制され、光電変換層4における電荷の輸送がスムーズになる。
【0089】
また、電子ブロッキング層3の電子親和力は、第1材料4Aおよび第2材料4Bの電子親和力よりも小さい。これにより、電子ブロッキング層3による電子の移動をブロックする効果が高くなる。
【0090】
また、電子ブロッキング層3が、第3材料4Cで構成される場合、
図2に示されるように、電子ブロッキング層3の電子親和力およびイオン化ポテンシャルは、第3材料4Cの電子親和力およびイオン化ポテンシャルと同じになる。
【0091】
なお、
図2に示されるように第1電極2は、後述する電荷蓄積ノード34と電気的に接続されている。
【0092】
[撮像装置]
以下、本実施の形態に係る撮像装置について
図3および
図4を用いて説明する。
図3は、
図2に示される光電変換素子10を用いた光電変換部10Aを実装した撮像装置100の回路構成の一例を示す図である。また、
図4は、本実施の形態に係る撮像装置100における画素24のデバイス構造の一例を示す概略断面図である。
【0093】
図3および
図4に示されるように、本実施の形態に係る撮像装置100は、半導体基板40と、半導体基板40に設けられた電荷検出回路35、半導体基板40上に設けられた光電変換部10A、及び電荷検出回路35と光電変換部10Aとに電気的に接続された電荷蓄積ノード34を含む画素24とを備え、画素24の光電変換部10Aは、上記光電変換素子10を含む。電荷蓄積ノード34は、光電変換部10Aで得られた電荷を蓄積し、電荷検出回路35は、電荷蓄積ノード34に蓄積された電荷を検出する。なお、半導体基板40に設けられた電荷検出回路35は、半導体基板40上に設けられていてもよく、半導体基板40中に直接設けられたものであってもよい。
【0094】
図3に示されるように、撮像装置100は、複数の画素24と周辺回路とを備えている。撮像装置100は、1チップの集積回路で実現される有機イメージセンサであり、2次元に配列された複数の画素24を含む画素アレイPAを有する。
【0095】
複数の画素24は、半導体基板40上に2次元、すなわち行方向および列方向に配列されて、画素領域である感光領域を形成している。
図3では、画素24は、2行2列のマトリクス上に配列される例を示している。なお、
図3では、図示の便宜上、画素24の感度を個別に設定するための回路(例えば、画素電極制御回路)の図示を省略している。また、撮像装置100は、ラインセンサであってもよい。その場合、複数の画素24は、1次元に配列されていてもよい、なお、本明細書において、行方向および列方向とは、行および列がそれぞれ伸びる方向をいう。つまり、
図3において、紙面における縦方向が列方向であり、横方向が行方向である。
【0096】
図3および
図4に示されるように、各画素24は、光電変換部10Aと、電荷検出回路35とに電気的に接続された電荷蓄積ノード34とを含む。電荷検出回路35は、増幅トランジスタ21と、リセットトランジスタ22と、アドレストランジスタ23とを含む。
【0097】
光電変換部10Aは、画素電極として設けられた第1電極2および対向電極として設けられた第2電極6を含む。光電変換部10Aは、上述した光電変換素子10を含む。第2電極6には、対向電極信号線26を介して所定のバイアス電圧が印加される。
【0098】
第1電極2は、増幅トランジスタ21のゲート電極21Gに接続され、第1電極2によって集められた信号電荷は、第1電極2と増幅トランジスタ21のゲート電極21Gとの間に位置する電荷蓄積ノード34に蓄積される。本実施の形態では、信号電荷は正孔である。
【0099】
電荷蓄積ノード34に蓄積された信号電荷は、信号電荷の量に応じた電圧として増幅トランジスタ21のゲート電極21Gに印加される。増幅トランジスタ21は、この電圧を増幅し、信号電圧として、アドレストランジスタ23によって、選択的に読み出される。リセットトランジスタ22は、そのソース/ドレイン電極が、第1電極2に接続されており、電荷蓄積ノード34に蓄積された信号電荷をリセットする。換言すると、リセットトランジスタ22は、増幅トランジスタ21のゲート電極21Gおよび第1電極2の電位をリセットする。
【0100】
複数の画素24において上述した動作を選択的に行うために、撮像装置100は、電源配線31と、垂直信号線27と、アドレス信号線36と、リセット信号線37とを有し、これらの線が各画素24にそれぞれ接続されている。具体的には、電源配線31は、増幅トランジスタ21のソース/ドレイン電極に接続され、垂直信号線27は、アドレストランジスタ23のソース/ドレイン電極に接続される。アドレス信号線36はアドレストランジスタ23のゲート電極23Gに接続される。またリセット信号線37は、リセットトランジスタ22のゲート電極22Gに接続される。
【0101】
周辺回路は、垂直走査回路25と、水平信号読み出し回路20と、複数のカラム信号処理回路29と、複数の負荷回路28と、複数の差動増幅器32とを含む。
【0102】
垂直走査回路25は、アドレス信号線36およびリセット信号線37に接続されており、各行に配置された複数の画素24を行単位で選択し、信号電圧の読み出しおよび第1電極2の電位のリセットを行う。ソースフォロア電源である電源配線31は、各画素24に所定の電源電圧を供給する。水平信号読み出し回路20は、複数のカラム信号処理回路29に電気的に接続されている。カラム信号処理回路29は、各列に対応した垂直信号線27を介して、各列に配置された画素24に電気的に接続されている。負荷回路28は各垂直信号線27に電気的に接続されている。負荷回路28と増幅トランジスタ21は、ソースフォロア回路を形成する。
【0103】
複数の差動増幅器32は、各列に対応して設けられている。差動増幅器32の負側の入力端子は、対応した垂直信号線27に接続されている。また差動増幅器32の出力端子は、各列に対応したフィードバック線33を介して画素24に接続されている。
【0104】
垂直走査回路25は、アドレス信号線36によって、アドレストランジスタ23のオンおよびオフを制御する行選択信号をアドレストランジスタ23のゲート電極23Gに印加する。これより、読み出し対象の行が走査され、選択される。選択された行の画素24から垂直信号線27に信号電圧が読み出される。また、垂直走査回路25は、リセット信号線37を介して、リセットトランジスタ22のオンおよびオフを制御するリセット信号をリセットトランジスタ22のゲート電極22Gに印加する。これにより、リセット動作の対象となる画素24の行が選択される。垂直信号線27は、垂直走査回路25によって選択された画素24から読み出された信号電圧をカラム信号処理回路29へ伝達する。
【0105】
カラム信号処理回路29は、相関二重サンプリングに代表される雑音抑制信号処理およびアナログ-デジタル変換(AD変換)などを行う。
【0106】
水平信号読み出し回路20は、複数のカラム信号処理回路29から水平共通信号線(不図示)に信号を順次読み出す。
【0107】
差動増幅器32は、フィードバック線33を介してリセットトランジスタ22のドレイン電極に接続されている。したがって、差動増幅器32は、アドレストランジスタ23の出力値を負端子に受ける。増幅トランジスタ21のゲート電位が所定のフィードバック電圧となるように、差動増幅器32はフィードバック動作を行う。このとき、差動増幅器32の出力電圧値は、0Vまたは0V近傍の正電圧である。フィードバック電圧とは、差動増幅器32の出力電圧を意味する。
【0108】
図4に示されるように、画素24は、半導体基板40と、電荷検出回路35と、光電変換部10Aと電荷蓄積ノード34(
図3参照)とを含む。
【0109】
半導体基板40は、感光領域が形成される側の表面に半導体層が設けられた絶縁性基板等であってもよく、例えば、p型シリコン基板である。半導体基板40は、不純物領域21D、21S、22D、22Sおよび23Sと、画素24間の電気的な分離のための素子分離領域41とを有する。不純物領域21D、21S、22D、22Sおよび23Sは、例えば、n型領域である。ここでは、素子分離領域41は、不純物領域21Dと不純物領域22Dとの間に設けられている。これにより、電荷蓄積ノード34で蓄積される信号電荷のリークが抑制される。なお、素子分離領域41は、例えば、所定の注入条件下でアクセプターのイオン注入を行うことによって形成される。
【0110】
不純物領域21D、21S、22D、22Sおよび23Sは、例えば、半導体基板40内に形成された拡散領域である。
図4に示されるように、増幅トランジスタ21は、不純物領域21Sおよび不純物領域21Dとゲート電極21Gとを含む。不純物領域21Sおよび不純物領域21Dは、それぞれ増幅トランジスタ21の例えばソース領域およびドレイン領域として機能する。不純物領域21Sおよび不純物領域21Dの間に、増幅トランジスタ21のチャネル領域が形成される。
【0111】
同様に、アドレストランジスタ23は、不純物領域23Sおよび不純物領域21Sと、アドレス信号線36に接続されたゲート電極23Gとを含む。この例では、増幅トランジスタ21およびアドレストランジスタ23は、不純物領域21Sを共有することによって互いに電気的に接続されている。不純物領域23Sは、アドレストランジスタ23の例えばソース領域として機能する。不純物領域23Sは、
図3に示される垂直信号線27との接続を有する。
【0112】
リセットトランジスタ22は、不純物領域22Dおよび22Sと、リセット信号線37に接続されたゲート電極22Gとを含む。不純物領域22Sは、リセットトランジスタ22の例えばソース領域として機能する。不純物領域22Sは、
図3に示されるリセット信号線37との接続を有する。
【0113】
半導体基板40には、増幅トランジスタ21、アドレストランジスタ23およびリセットトランジスタ22を覆うように層間絶縁層50が積層されている。
【0114】
また、層間絶縁層50中には、配線層(不図示)が配置され得る。配線層は、例えば、銅などの金属から形成され、例えば、上述の垂直信号線27などの配線をその一部に含み得る。層間絶縁層50中の絶縁層の層数および層間絶縁層50中に配置される配線層に含まれる層数は、任意に設定可能である。
【0115】
層間絶縁層50中には、リセットトランジスタ22の不純物領域22Dと接続されたコンタクトプラグ53、第1電極2と接続されたコンタクトプラグ51、およびコンタクトプラグ51とコンタクトプラグ54とコンタクトプラグ53とを接続する配線52が配置される。これにより、リセットトランジスタ22の不純物領域22Dが増幅トランジスタ21のゲート電極21Gと電気的に接続されている。
図4に例示される構成において、コンタクトプラグ51、53および54、配線52、増幅トランジスタ21のゲート電極21G、ならびに、リセットトランジスタ22の不純物領域22Dは、電荷蓄積ノード34の少なくとも1部を構成する。
【0116】
電荷検出回路35は、第1電極2によって捕捉された信号電荷を検出し、信号電圧を出力する。電荷検出回路35は、増幅トランジスタ21と、リセットトランジスタ22と、アドレストランジスタ23とを含み、半導体基板40に形成されている。
【0117】
増幅トランジスタ21は、半導体基板40内に形成され、それぞれドレイン電極およびソース電極として機能する不純物領域21Dおよび不純物領域21Sと、半導体基板40上に形成されたゲート絶縁層21Xと、ゲート絶縁層21X上に形成されたゲート電極21Gとを含む。
【0118】
リセットトランジスタ22は、半導体基板40内に形成され、それぞれドレイン電極およびソース電極として機能する不純物領域22Dおよび不純物領域22Sと、半導体基板40上に形成されたゲート絶縁層22Xと、ゲート絶縁層22X上に形成されたゲート電極22Gとを含む。
【0119】
アドレストランジスタ23は、半導体基板40内に形成され、それぞれドレイン電極およびソース電極として機能する不純物領域21Sおよび23Sと、半導体基板40上に形成されたゲート絶縁層23Xと、ゲート絶縁層23X上に形成されたゲート電極23Gとを含む。不純物領域21Sは、増幅トランジスタ21とアドレストランジスタ23とが直列に接続される。
【0120】
層間絶縁層50上には、上述の光電変換部10Aが配置される。換言すれば、本実施の形態では、画素アレイPAを構成する複数の画素24が、半導体基板40上に形成されている。そして、半導体基板40上に2次元に配置された複数の画素24は、感光領域を形成する。接続する2つの画素24間の距離(すなわち、画素ピッチ)は、例えば2μm程度であってもよい。
【0121】
光電変換部10Aは、上述した光電変換素子10の構造を備える。
【0122】
光電変換部10Aの上方には、カラーフィルタ60、その上方にマイクロレンズ61が形成されている。カラーフィルタ60は、例えば、パターニングによるオンチップカラーフィルタとして形成され、染料または顔料が分散された感光性樹脂等が用いられる。マイクロレンズ61は、例えば、オンチップマイクロレンズとして形成され、紫外線感光材料等が用いられる。
【0123】
撮像装置100は、一般的な半導体製造プロセスを用いることができる。特に、半導体基板40としてシリコン基板を用いる場合には、種々のシリコン半導体プロセスを利用することによって製造することができる。
【0124】
また、第1電極2と光電変換層4との間に電荷ブロッキング層の一例である正孔ブロッキング層を設け、第2電極6と光電変換層4との間に電子ブロッキング層または可視光吸収層5を設け、第1電極2が電荷蓄積ノード34に電気的に接続された構成にし、電子を電荷蓄積ノード34に蓄積して読み出す方式を採用してもよい。
【0125】
図5は、光電変換層4の模式的な電流-電圧(I-V)特性の一例を示す図である。
図5中、太い実線のグラフは、光が照射された状態において、第1電極2と第2電極6との間に電圧を印加した際の、光電変換層4の例示的なI-V特性を示している。また、
図5には、光が照射されていない状態において、第1電極2と第2電極6との間に電圧を印加した際の、光電変換層4のI-V特性の一例も、太い破線によって合わせて示されている。本明細書において、第2電極6に正の電圧を印加する場合の電圧が逆方向のバイアス電圧であり、負の電圧を印加する場合の電圧が順方向のバイアス電圧であるとし、以降の説明を行う。
【0126】
図5に示されるように、本実施の形態に係る光電変換層4の光電流特性は、概略的には、第1電圧範囲、第2電圧範囲および第3電圧範囲によって特徴付けられる。第1電圧範囲では、第1電極2と第2電極6との間に印加される電圧、および、光電変換層4への入射光量に対する、光電変換層4の電流変化の依存性が小さい。つまり、第1電圧範囲では、光電変換層4への光入射がある場合に流れる電流値と、光入射がない場合に流れる電流値との差が小さいとみなすことができる。第1電圧範囲では、光電変換層4への光の入射により電子と正孔との対が生成しても、第1電極2と第2電極6との間に印加される電圧の絶対値が大きくないため、電子と正孔とが分離する前にこれらの再結合が生じる。また、電子と正孔とは、分離したとしても、光電変換層4中を輸送される間に、トラップ準位などを介して再結合する。このため、電極まで流れ込む正孔および電子の数も、完全になくすまではいかなくとも小さくなることが期待される。
【0127】
また、
図5中の第2電圧範囲は、逆方向バイアスの電圧範囲であって、逆方向のバイアス電圧の増大に従って出力電流密度の絶対値が増大する領域である。つまり、第2電圧範囲は、光電変換層4への入射光量、および、第1電極2と第2電極6との間に印加されるバイアス電圧の増大に従って電流値が増大する領域である。
【0128】
また、第3電圧範囲は、順方向バイアスの電圧範囲であって、順方向のバイアス電圧の増大に従って出力電流密度が増大する領域である。つまり、第3電圧範囲は、光電変換層4への光入射がなくとも、第1電極2と第2電極6との間に印加されるバイアス電圧の増大に従って電流が増大する領域である。
【0129】
本実施の形態に係る撮像装置100の光電変換部10Aは、このような、光電変換層4への光入射がある場合に流れる電流値と、光入射がない場合に流れる電流値との差が小さい第1電圧範囲を有する光電変換層4を備えることによって、撮像装置100は、寄生感度を低減しつつグローバルシャッタ機能を実現できる。
【0130】
[撮像装置の動作]
次に、
図6および
図7を参照しながら撮像装置100の動作を説明する。ここでは、信号電荷として正孔を用いた場合について説明する。
【0131】
図6は、画素24の模式的な回路構成の一部を示す図である。ここでは説明を簡易にするため、電荷蓄積ノード34の一端は接地されており、電位はゼロである場合を示している。この状態は、例えば、
図3に示されるフィードバック線33が0Vに設定されている場合に相当する。この状態では、電荷蓄積ノード34の電圧をVcとすると、Vcはゼロである。
【0132】
電圧供給回路(図示せず)は、対向電極信号線26を介して露光期間と非露光期間との間で互いに異なる電圧を第2電極6に供給する。本明細書において、「露光期間」とは、光電変換により生成される電子および正孔の一方を、信号電荷として電荷蓄積ノード34に蓄積するための期間を意味する。すなわち、「露光期間」を「電荷蓄積期間」と呼んでもよい。また、本明細書では、撮像装置の動作中であって露光期間以外の期間を「非露光期間」と呼ぶ。「非露光期間」は、光電変換部10Aへの光の入射が遮断されている期間であってもよいし、光電変換部10Aに光が照射されているが、電荷蓄積ノード34に電荷が、実質的に蓄積されない期間であってもよい。
【0133】
初期状態において、光電変換部10Aの第1電極2と第2電極6との電位差、つまり光電変換層4、電子ブロッキング層3および可視光吸収層5に印加されるバイアス電圧が、第1電圧範囲内の値となるように設定する。例えば、電圧供給回路は、対向電極信号線26を用いて第2電極6に第1電極2の電圧と等しい電圧を印加する。ここでは、第2電極6に印加する電圧をV2とすると、V2は、基準電圧Vrefであるとする。この場合、光電変換部10Aに印加されるバイアス電圧をVoとすると、Vo=V2-VcであるからVo=0である。
【0134】
次に、露光期間の動作について説明する。露光期間開始時に、電圧供給回路は、光電変換部10Aに、第2電圧範囲内の電圧、つまり逆方向のバイアス電圧が印加されるように、対向電極信号線26を用いて、第2電極6に電圧V2を印加する。例えば、光電変換層4が有機半導体材料によって構成される場合、V2は、数Vから最大でも10V程度の電圧である。これにより、各画素24の電荷蓄積ノード34に、信号電荷として、光電変換層4への入射光量に応じた量の正孔が蓄積される。
【0135】
次に、非露光期間の動作について説明する。露光期間の終了後、電圧供給回路は、光電変換部10Aに、第1電圧範囲の電圧が印加されるように、対向電極信号線26を用いて、第2電極6に電圧V2を印加する。例えば、第2電極6に印加する電圧V2を基準電圧Vrefに設定する。各画素24の電荷蓄積ノード34には、露光期間に光電変換層4に入射した光量に応じた正孔が蓄積されており、Vcの値は画素24によって異なる。Vo=V2-Vcであるため、露光されずにVcが変化していない画素24では、Voもゼロになる。しかし、Vcが変化した画素24では、Voはゼロとはならない。第1電圧範囲の幅が十分広い電圧範囲で確保される場合、Vcの値が各画素24で異なっていても、画素24において、光電変換部10Aに印加される電圧Voが第1電圧範囲内に収まるように電圧V2を設定し得る。第1電圧範囲内に収まる電圧Vcの値のばらつきは、ダイナミックレンジの広さに相当する。例えば、第1電圧範囲の幅が0.5V以上であれば、変換ゲインが50μV/e-の撮像装置において、ヒトの目に相当する80dB以上のダイナミックレンジを確保し得る。
【0136】
第2電極6に、電圧Voが第1電圧範囲内に収まる電圧V2が印加されている状態では、画素24に光が入射しても、正孔は電荷蓄積ノード34へ移動しにくい。また、電荷蓄積ノード34に蓄積されている正孔が、第1電極2へ排出されたり、第2電極6を介して電圧供給回路から供給される電荷が電荷蓄積ノード34へ流入したりしにくい。
【0137】
従って、各画素24の電荷蓄積ノード34に蓄積された正孔は、光電変換層4への入射光量に応じた量を維持して保持される。つまり、各画素24の電荷蓄積ノード34に蓄積された正孔は、光電変換層4に再び光が入射されても、電荷蓄積ノード34の正孔をリセットしない限り保持することができる。このため、非露光期間において、行ごとに順次読み出し動作が行われる場合でも、その読み出し動作の間に新たな正孔の蓄積が起こりにくい。そのため、例えば、ローリングシャッタのようにローリング歪みが発生しない。よって、例えば、転送トランジスタと追加の蓄積容量を備えることなく、画素24のような簡易な画素回路でグローバルシャッタ機能を実現することができる。画素回路が簡易であるため、撮像装置100では画素24の微細化を有利に行うことができる。
【0138】
図7は、光電変換部10Aの第2電極6に印加する電圧V2と撮像装置100の画素アレイPAの各行における動作のタイミングの例を示すタイミングチャートである。
図7は、分かりやすさのため、電圧V2の変化、ならびに、R0からR7で示される画素アレイPAにおける各行の露光および信号読み出しのタイミングのみを示している。
図7に示されるすように、撮像装置100において、非露光期間Nでは、第2電極6に、電圧Voが第1電圧範囲内に収まる電圧V2として電圧Vbが印加され、露光期間Eには、第2電極6に、Voが第2電圧範囲内に収まる電圧Vaが印加される。
図7に示されるように、非露光期間Nにおいて、R0からR7の各行の信号読み出しRが順次行われる。また、露光期間Eの開始および終了のタイミングは、R0からR7のすべての行において一致している。つまり、撮像装置100は、各行の画素24の信号の読み出しを順次行いつつ、全ての画素アレイPAの行が一括で露光されるグローバルシャッタ機能を実現している。
【0139】
以上のように、本実施の形態に係る撮像装置100は、第1電極2と、第2電極6と、第1電極2と第2電極6との間に位置する光電変換層4と、を備える光電変換素子10を備える。光電変換層4は、第1材料と第2材料と第3材料とを含む。第1材料は、フラーレンまたはフラーレン誘導体である。第2材料は、ドナー性の有機半導体である。第3材料の可視光平均吸光係数は、第1材料の可視光平均吸光係数より小さい。
【0140】
これにより、第3材料によって、第1材料であるフラーレンまたはフラーレン誘導体の重合を抑制することで、光電変換素子10の特性変化を抑制し、信頼性の向上した光電変換素子10を備える撮像装置100が実現される。
【実施例】
【0141】
以下、実施例にて本開示に係る撮像装置に備えられる光電変換素子を具体的に説明するが、本開示は、以下の実施例のみに何ら限定されるものではない。
【0142】
詳細には、本開示の実施の形態に係る撮像装置に備えられる光電変換素子、および、特性比較のための光電変換素子を作製し、分光感度の信頼性試験を行った。
【0143】
(光電変換素子の作製)
実施例および比較例における光電変換素子を作製した。
【0144】
(1)実施例1から実施例7
支持基板として、TiNが成膜された基板を用いた。仕事関数が4.7eVであるTiNを第1電極2とし、第1電極上に、電子ブロッキング層3の材料として9,9’-[1,1’-Biphenyl]-4,4’-diylbis[3,6-bis(1,1-dimethyl ethyl)]-9H-carbazoleを真空蒸着法にて成膜することで、電子ブロッキング層3を形成した。
【0145】
次に、電子ブロッキング層3上に、光電変換層4の、第1材料4AとしてC60フラーレンと、第2材料4Bとしてサブフタロシアニンと、第3材料4Cとして電子ブロッキング層で用いた9,9’-[1,1’-Biphenyl]-4,4’-diylbis[3,6-bis(1,1-dimethyl ethyl)]-9H-carbazoleとを、それぞれが表2に示される含有量になるように真空蒸着法により共蒸着することで、光電変換層4を形成した。なお、このときに得られた光電変換層4の膜厚は、およそ500nmであった。また、サブフタロシアニンとして、中心金属としてホウ素(B)を有し、Bに塩化物イオンが配位子として配位したサブフタロシアニンを用いた。
【0146】
次に、第2電極6としてITO膜を、スパッタリング法により30nmの膜厚で光電変換層4上に形成した後、さらに封止膜としてAl
2O
3膜を原子層堆積法により第2電極6上に形成することで、光電変換素子を得た。実施例1から実施例7における光電変換素子の概略構成を
図8Aに示す。
【0147】
(2)実施例8
電子ブロッキング層3および光電変換層4の形成までは、実施例1から実施例7と同様の工程を行った後、光電変換層4上に、真空蒸着法により金属製シャドウマスクを介して、可視光吸収層5の材料として、サブフタロシアニンを、10nmの膜厚になるように蒸着することで、可視光吸収層5を形成した。
【0148】
次に、第2電極6としてITO膜を、スパッタリング法により30nmの膜厚で可視光吸収層5上に形成した後、さらに封止膜としてAl
2O
3膜を原子層堆積法により第2電極6上に形成することで、光電変換素子を得た。実施例8における光電変換素子の概略構成を
図8Bに示す。
【0149】
(3)比較例1から比較例3
光電変換層4の材料として第3材料4Cを用いず、第1材料4Aと第2材料4Bとを表2に示される含有量になるように光電変換層4を形成したこと以外は、実施例1から実施例7と同様の工程を行い、光電変換素子を得た。比較例1から比較例3における光電変換素子の概略構成を
図8Cに示す。
【0150】
(4)比較例4
光電変換層4の材料として第3材料4Cを用いず、第1材料4Aと第2材料4Bとを表2に示される含有量になるように光電変換層4を形成したこと以外は、実施例8と同様の工程を行い、光電変換素子を得た。比較例4における光電変換素子の概略構成を
図8Dに示す。
【0151】
(イオン化ポテンシャル、電子親和力および可視光平均吸光係数の測定)
実施例および比較例で用いた各材料について、イオン化ポテンシャル、電子親和力および可視光平均吸光係数を測定した。
【0152】
イオン化ポテンシャルの測定では、まず、ITOが成膜されたガラス基板上に、実施例および比較例で用いた各材料を成膜した試料を準備した。次に、準備した試料について、大気中光電子分光装置(AC-3、理研計器製)を用いて、紫外線照射のエネルギーを変化させたときの光電子数を測定し、光電子が検出され始めるエネルギー位置をイオン化ポテンシャルとした。
【0153】
可視光平均吸光係数の測定では、まず、石英基板上に実施例および比較例で用いた各材料を成膜した試料を準備した。次に、準備した試料について、分光光度計(U4100、日立ハイテクノロジー製)を用いて吸収スペクトルを測定した。得られた吸収スペクトルにおける波長400nm以上700nm以下の波長範囲の吸光度の平均値を試料の膜厚で除することにより、可視光平均吸光係数を算出した。
【0154】
電子親和力の測定ではまず、上記可視光平均吸光係数の測定において得られた吸収スペクトルの吸収端の結果から、光学バンドギャップを算出した。上記イオン化ポテンシャルの測定で得られたイオン化ポテンシャルと算出した光学バンドギャップとの引き算によって電子親和力を見積もった。
【0155】
実施例および比較例で用いた各材料のイオン化ポテンシャル、電子親和力および可視光平均吸光係数を表1に示す。また、実施例1から実施例7における光電変換素子のエネルギーバンド図を
図9Aに示す。また、実施例8における光電変換素子のエネルギーバンド図を
図9Bに示す。また、比較例1から比較例3における光電変換素子のエネルギーバンド図を
図9Cに示す。また、比較例4における光電変換素子のエネルギーバンド図を
図9Dに示す。
【0156】
【0157】
なお、本実施例では電子ブロッキング層3の材料として光電変換層4の第3材料4Cと同じ材料を用い、可視光吸収層5の材料として光電変換層4の第2材料4Bと同じ材料を用いたが、それぞれ所望の物性値を有する別の材料を用いてもよい。また、例えば、光電変換層4の第2材料4Bに近赤外光に対する吸収特性を有する材料を用いれば、近赤外光に感度を有する光電変換素子および撮像装置の信頼性を向上させることも可能である。
【0158】
(分光感度の信頼性試験)
実施例および比較例における光電変換素子について、分光感度の信頼性試験を行った。具体的には、実施例および比較例における光電変換素子の分光感度として、波長450nmの光における外部量子効率を測定し、外部量子効率の変化を確認した。分光感度の測定には、分光感度測定装置(CEP-2000、分光計器製)を用いた。また、分光感度の信頼性試験として、ソーラーシミュレーター(HAL-320W、朝日分光製)を用いて100000lxの光を150時間照射し、光の照射開始からの照射150時間までの外部量子効率の変化を測定した。
【0159】
表2および
図10に実施例および比較例における光電変換素子の分光感度の信頼性試験結果を示す。表2は、全ての実施例および比較例における光電変換素子の、光電変換層における各材料の含有量、光の照射開始時および光の照射から150時間経過後の外部量子効率、ならびに、光の照射開始時と光の照射から150時間経過後との外部量子効率の変化量を示している。また、
図10は、実施例1、実施例2および比較例1における光電変換素子の、外部量子効率の経時変化を示している。
【0160】
【0161】
表2に示されるように、実施例1から8と比較例1から4とを比較すると、実施例1から8における光電変換素子はいずれも、比較例1から4における光電変換素子と比べて、光の照射による外部量子効率の低下が小さい。例えば、比較例1における光電変換素子の外部量子効率の変化量が-8%であるのに対して、比較例と同じ第2材料の含有量である実施例1から実施例5における光電変換素子の外部量子効率の変化量は、-2%から-5%である。このように、実施例における光電変換素子は、比較例における光電変換素子と比べて、外部量子効率が低下しにくく、信頼性が向上していることが確認できた。
【0162】
また、第3材料の含有量が5wt%以下である実施例1から実施例4、および、実施例6から実施例7における光電変換素子は、光の照射開始時の外部量子効率が45%以上であり、外部量子効率が低下しにくいことに加え、光電変換素子の外部量子効率が特に高い。
【0163】
また、
図10に示されるように、第3材料の含有量が3wt%以下である実施例1および実施例2における光電変換素子は、光を照射する時間が長くなっても、外部量子効率が低下しにくく、長期での信頼性に特に優れている。
【0164】
また、光電変換層の材料の含有量が同じであり、可視光吸収層を備えているかどうかが異なる実施例2と実施例8とを比較すると、可視光吸収層を備える実施例8における光電変換素子の方が、外部量子効率が低下しにくい。よって、光電変換素子が可視光吸収層を備えることにより、より信頼性を向上できることが確認できた。
【0165】
以上、本開示に係る撮像装置について、実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態および実施例に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態および実施例に施したもの、ならびに、実施の形態および実施例における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本開示に係る撮像装置は、医療用カメラ、監視用カメラ、車載用カメラ、測距カメラ、顕微鏡カメラ、ドローン用カメラ、ロボット用カメラなど、様々なカメラシステムおよびセンサシステムに適用できる。
【符号の説明】
【0167】
1 支持基板
2 第1電極
3 電子ブロッキング層
4 光電変換層
4A 第1材料
4B 第2材料
4C 第3材料
5 可視光吸収層
6 第2電極
10 光電変換素子
10A 光電変換部
20 水平信号読み出し回路
21 増幅トランジスタ
22 リセットトランジスタ
23 アドレストランジスタ
21D、21S、22D、22S、23S 不純物領域
21G、22G、23G ゲート電極
21X、22X、23X ゲート絶縁層
24 画素
25 垂直走査回路
26 対向電極信号線
27 垂直信号線
28 負荷回路
29 カラム信号処理回路
31 電源配線
32 差動増幅器
33 フィードバック線
34 電荷蓄積ノード
35 電荷検出回路
36 アドレス信号線
37 リセット信号線
40 半導体基板
41 素子分離領域
50 層間絶縁層
51、53、54 コンタクトプラグ
52 配線
60 カラーフィルタ
61 マイクロレンズ
100 撮像装置