(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】両面塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05C 9/04 20060101AFI20241206BHJP
B05C 13/02 20060101ALI20241206BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20241206BHJP
B05C 5/02 20060101ALI20241206BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20241206BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241206BHJP
【FI】
B05C9/04
B05C13/02
B05C9/14
B05C5/02
H01M4/04 A
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2021574613
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2021001013
(87)【国際公開番号】W WO2021153248
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020012848
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】時枝 大佐
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145420(JP,A)
【文献】特開2019-150750(JP,A)
【文献】特開2019-122931(JP,A)
【文献】特開2015-150516(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143511(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/029515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 9/04
B05C 13/02
B05C 9/14
B05C 5/02
H01M 4/04
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面、および前記第1面とは反対側の第2面を有する長尺状の基材を連続搬送する搬送機構と、
前記第1面に第1塗料を塗布する第1ダイと、
前記第1ダイよりも前記基材の搬送方向の下流側に位置して前記第2面に第2塗料を塗布する第2ダイと、を備え、
前記第2ダイは、前記第2塗料の吐出口が上方を向くように姿勢が定められ、
前記搬送機構は、
前記搬送方向における前記第2ダイの上流側に位置し、前記第2面を周面で支持しながら前記基材を搬送し、前記第1塗料の塗布された前記第1面を上向き、前記第2塗料を未塗布の前記第2面を下向きにして前記搬送方向の下流側に送り出すロールであって、前記周面
の上端部から前記基材
を離間
させて前記第2ダイ側に送り出し、前記上端部が前記第2ダイの前記吐出口より上方に位置するロールと、
前記搬送方向における前記ロールと前記第2ダイとの間に位置し、前記基材を
下方に引き込む引き込み部
であって、前記基材の下方に配置されて前記第2面を吸引する吸引部を有し、前記吸引部の上端部が鉛直方向において前記ロールの前記上端部より低く前記吐出口より所定量だけ高い位置である目標塗工高さに位置し、前記ロールから送り出された前記基材を前記目標塗工高さまで引き込む引き込み部と、
を有する、
両面塗工装置。
【請求項2】
前記搬送機構は、前記搬送方向における前記引き込み部と前記第2ダイとの間に位置し、前記基材を前記目標塗工高さに支持する支持部を有する、
請求項1に記載の両面塗工装置。
【請求項3】
前記支持部は、前記基材を浮上させる浮上装置で構成される、
請求項2に記載の両面塗工装置。
【請求項4】
前記引き込み部は、前記搬送方向に並
ぶ複数の
前記吸引部を有し、
複数の
前記吸引部は、前記搬送方向の下流側に向かって設置高さが低くなるように配列さ
れ、
最も下流側の前記吸引部の上端部は、前記目標塗工高さに位置する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の両面塗工装置。
【請求項5】
前記引き込み部は、前記搬送方向に並
ぶ複数の
前記吸引部を有し、
複数の
前記吸引部は、前記搬送方向の下流側に向かって、前記基材の幅方向における中央部から両端部に広がるように配列されるか、
前記搬送方向の下流側に向かって、前記幅方向の一端側から他端側に向かうように配列される、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の両面塗工装置。
【請求項6】
前記引き込み部は、前記基材の幅方向における前記基材の撓み量に応じた引き込み力を有する、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の両面塗工装置。
【請求項7】
前記搬送機構は、前記基材の幅方向で前記基材の両側に配置され、前記基材の端部における前記吸引部および前記第2面の間への雰囲気の進入を規制する一対の整流部材を有する、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の両面塗工装置。
【請求項8】
各整流部材は、前記吸引部上で上方に延びる側板を有する、
請求項7に記載の両面塗工装置。
【請求項9】
前記吸引部は、前記幅方向において前記基材の外側に広がる外縁領域を有し、
各整流部材は、前記外縁領域を覆うとともに前記側板に接続される支持板を有する、
請求項8に記載の両面塗工装置。
【請求項10】
前記搬送機構は、前記第1面と対向するように配置されて一対の前記側板をつなぐ天板を有する、
請求項8または9に記載の両面塗工装置。
【請求項11】
前記搬送方向における前記第2ダイの下流側に位置する乾燥炉と、
前記搬送方向における前記第2ダイと前記乾燥炉との間に位置
して前記基材を浮上させる浮上装置と、を備える、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の両面塗工装置。
【請求項12】
前記基材は、二次電池の集電体であり、
前記第1塗料および前記第2塗料は、二次電池の電極スラリーである、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の両面塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、両面塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばリチウムイオン二次電池等の製造分野では、金属箔等の基材をロールtoロール方式で搬送しながら、基材の両面に電極活物質を含む塗料を塗布して、電極活物質層を形成する両面塗工装置が知られている。このような両面塗工装置としては、まず基材の第1面に第1塗料を塗布して乾燥させ、続いて基材の第2面に第2塗料を塗布して乾燥させる構造が知られている。しかしながら、この構造では、乾燥炉が2台になるため全長が長くなり、設備コストや設置スペースが増大してしまう。
【0003】
これに対し、まず基材の第1面に第1塗料を塗布し、続いて第2面に第2塗料を塗布して、その後に第1塗料と第2塗料とを一度に乾燥させる両面塗工装置が提案されている。このような両面塗工装置では、バックアップロールで第2面を支持した状態で第1面に第1塗料を塗布することはできる。しかしながら、第2塗料を第2面に塗布する際に、未乾燥の第1塗料が塗布された第1面をバックアップロールで支持することができない。したがって、基材が宙に浮いた状態で第2面に第2塗料を塗布する必要がある。
【0004】
基材が宙に浮いた状態では、基材の位置や平面度を保つことが困難である。このため、第2塗料の膜の厚みが不均一になりやすい。これに対し、例えば特許文献1には、塗料を吐出するノズル部の先端を搬送中の基材に接触させ、ノズル部で基材を支持しながら塗料を塗布する薄膜塗工装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の薄膜塗工装置では、ノズル部で基材を支持することで基材の撓みや振動を抑えることができる。これにより、より均一な膜厚の塗膜を形成することができる。しかしながら、搬送中の基材とノズル部とが擦り合うことで、基材やノズル部の摩耗によりパーティクルが発生してしまうおそれがある。パーティクルの発生は、製品の品質低下につながり得るため避けることが望まれる。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、両面塗工装置においてパーティクルの発生を抑制しながら基材の撓みや振動を抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある態様は、両面塗工装置である。この装置は、第1面、および第1面とは反対側の第2面を有する長尺状の基材を連続搬送する搬送機構と、第1面に第1塗料を塗布する第1ダイと、第1ダイよりも基材の搬送方向の下流側に位置して第2面に第2塗料を塗布する第2ダイと、を備える。搬送機構は、搬送方向における第2ダイの上流側に位置し、第2面を周面で支持しながら基材を搬送し、第1塗料の塗布された第1面を上向き、第2塗料を未塗布の第2面を下向きにして搬送方向の下流側に送り出すロールであって、周面から基材が離間する位置が、第2ダイから第2面が所定量だけ離間する基材の目標塗工高さよりも高い位置にあるロールと、搬送方向におけるロールと第2ダイとの間に位置し、基材を目標塗工高さに近づくように引き込む引き込み部と、を有する。
【0009】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、両面塗工装置においてパーティクルの発生を抑制しながら基材の撓みや振動を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る両面塗工装置を模式的に示す側面図である。
【
図2】搬送機構の一部を拡大して示す側面図である。
【
図3】実施の形態2に係る両面塗工装置が備える搬送機構の一部分の斜視図である。
【
図4】変形例1に係る両面塗工装置の引き込み部を模式的に示す平面図である。
【
図5】変形例2に係る両面塗工装置の引き込み部を模式的に示す平面図である。
【
図6】変形例3に係る両面塗工装置が備える搬送機構の一部分の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、本開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る両面塗工装置を模式的に示す側面図である。
図2は、搬送機構2の一部を拡大して示す側面図である。両面塗工装置1は、搬送機構2と、第1ダイ4と、第2ダイ6と、乾燥炉8と、を備える。第1ダイ4、第2ダイ6および乾燥炉8は、搬送機構2による基材10の搬送方向Aの上流側から、列挙した順に配置される。また、第1ダイ4、第2ダイ6および乾燥炉8は、おおよそ水平方向に配列される。
【0014】
搬送機構2は、長尺状で薄膜状の基材10を連続搬送する機構である。基材10は、巻回体の状態をとり、搬送機構2によって巻回体から引き出されて第1ダイ4、第2ダイ6および乾燥炉8を経て、図示しない巻取リールに巻き取られる。搬送機構2は、ロール12と、引き込み部14と、支持部16と、を有する。ロール12は、基材10の搬送方向Aにおける第2ダイ6の上流側に位置し、基材10をその周面で支持しながら搬送する。本実施の形態のロール12は、周面が第1ダイ4の吐出口と所定の隙間(塗工ギャップ)をあけて対向するように配置されて、バックアップロールとして機能する。
【0015】
基材10は、第1面10a、および第1面10aとは反対側の第2面10bを有する。ロール12は、第2面10bを周面で支持しながら基材10を搬送して第1ダイ4とロール12との隙間に通す。第1ダイ4は、第1ダイ4とロール12との隙間を通過する基材10の第1面10aに第1塗料18を塗布する。一例として、第1ダイ4は、吐出口が水平方向を向くように姿勢が定められ、ロール12と水平方向に並ぶ。
【0016】
本実施の形態の両面塗工装置1は、二次電池の電極板を製造するために用いられる。二次電池の電極板は、集電体に電極スラリーを塗布して乾燥させたシート状の電極素材である。したがって本実施の形態において、基材10は、二次電池の集電体であり、第1塗料18は、二次電池の電極スラリーである。また、第2ダイ6から吐出される第2塗料20も、二次電池の電極スラリーである。集電体は、例えば金属箔である。電極スラリーは、例えば正極活物質または負極活物質と、溶媒との混合物である。一般的なリチウムイオン二次電池の場合、正極の電極板は、アルミ箔上に、コバルト酸リチウムやリン酸鉄リチウム等の正極活物質を含むスラリーが塗布されて作製される。また、負極の電極板は、銅箔上に、黒鉛等の負極活物質を含むスラリーが塗布されて作製される。なお、第1塗料18と第2塗料20とは、同一の塗料であっても異なる塗料であってもよい。また、両面塗工装置1は、電極板以外の物品の製造にも用いることができる。
【0017】
ロール12は、第1塗料18の塗布された第1面10aを上向き、第2塗料20を未塗布の第2面10bを下向きにして、基材10を搬送方向Aの下流側に送り出す。基材10は、ロール12から略水平方向に送り出される。ロール12は、基材10の目標塗工高さH1よりも高い位置に周面の上端が位置する。また、ロール12の周面から基材10が離間する位置12aの高さ、つまり送出高さH2は、目標塗工高さH1よりも高い。目標塗工高さH1は、第2ダイ6から第2面10bが所定量だけ離間する高さである。基材10が目標塗工高さH1に位置することで、第2ダイ6の吐出口と第2面10bとの間に所定の塗工ギャップGが形成される。送出高さH2は、おおよそ周面の上端と同じ高さであるが、厳密には引き込み部14によって基材10が下方に引き込まれることで、周面の上端よりも若干下方にずれる。
【0018】
基材10の搬送方向Aにおけるロール12と第2ダイ6との間には、引き込み部14が配置される。ロール12から送り出された基材10は、引き込み部14によって目標塗工高さH1に近づくように引き込まれる。引き込み部14は、空気などの雰囲気ガスを吸引する吸引部22を有する。引き込み部14は、吸引部22によって第2面10bを吸引することで、基材10を下方に引き込むことができる。吸引部22は、公知のサクションローラ、吸着プレート、吸引型エアナイフ等で構成することができる。後述のように引き込み部14が複数の吸引部22を有する場合、複数の吸引部22は同じ吸引機構であってもよいし、異なる吸引機構の組み合わせであってもよい。異なる吸引機構の組み合わせの一例として、搬送方向Aの上流側に配置される吸引部22はサクションローラで構成され、下流側に配置される吸引部22は吸着プレートで構成される。吸引部22の高さは機械的に調整可能であり、基材10の厚みや質量に応じて最適な高さに調整される。
【0019】
本実施の形態の引き込み部14は、基材10の搬送方向Aに並ぶ複数の吸引部22を有する。
図1および
図2には、2つの吸引部22が搬送方向Aに配列されている。そして、複数の吸引部22は、搬送方向Aの下流側に向かって設置高さが低くなるように配列される。つまり、搬送方向Aの上流側に位置する吸引部22よりも、搬送方向Aの下流側に位置する吸引部22の方が低い位置、言い換えれば目標塗工高さH1に近い位置にある。なお、3つ以上の吸引部22が搬送方向Aに配列されてもよいし、吸引部22は1つであってもよい。
【0020】
基材10は、引き込み部14によって目標塗工高さH1まで引き込まれて、基材10の搬送方向Aの下流側に送り出される。搬送方向Aにおける引き込み部14と第2ダイ6との間には、支持部16が配置される。引き込み部14から送り出された基材10は、支持部16によって目標塗工高さH1に支持されて、さらに下流側に搬送される。支持部16の高さは機械的に調整可能である。
【0021】
本実施の形態の支持部16は、基材10を浮上させる浮上装置で構成される。このような浮上装置としては、公知の浮上プレートやエアターンバー等を採用することができる。例えば浮上装置には、空気等のガスを噴出する複数の噴出孔と、ガス(雰囲気ガス)を吸引する複数の吸引孔とが混在して設けられる。基材10は、噴出孔からガスが噴出することで生じる陽圧と、吸引孔からガスが吸引されることで生じる陰圧とのバランスによって、浮上装置上で一定の高さを保って浮上する。支持部16は、複数の浮上装置を有してもよい。この場合、基材10の幅方向、つまり基材10の搬送方向Aと直交する方向において、少なくとも基材10の中央部と両端部とに浮上装置が配置されることが望ましい。
【0022】
なお、支持部16は、ロール12と同様のロールであってもよい。ただし、基材10の幅が広く(例えば700mm以上)、このためロールの幅を広くする必要がある場合、ロールの周面を幅方向において高精度に平坦にするには、ロールの直径を大きくする必要がある。ロールの直径が大きくなると、支持部16が基材10を支持する位置が第2ダイ6から離れていく。基材10の支持位置が第2ダイ6から遠ざかると、支持部16で歪みや振動が抑制された基材10が、第2ダイ6において再び歪んだり振動したりするおそれが高まる。このため、基材10の幅が広い場合には、支持部16は浮上装置で構成されることが好ましい。浮上装置であれば、第2ダイ6の近傍に配置することが容易である。
【0023】
一方、基材10の幅が狭い場合には、ロールの直径を小さくしながら周面の幅方向の平坦度を確保することができる。この場合は、支持部16としてのロールを第2ダイ6の近傍に配置することができる。これにより、両面塗工装置1の低コスト化を図ることができる。なお、ロールの周面に基材10が接触しても、基材10の搬送にともなってロールも回転するため、パーティクルの発生は抑制される。なお、引き込み部14が第2ダイ6に対して十分に近い位置に配置される場合には、支持部16は省略されてもよい。
【0024】
基材10の搬送方向Aにおける支持部16の下流側には、第2ダイ6が配置される。第2ダイ6は、宙に浮いた状態にある基材10の第2面10bに第2塗料20を塗布する。上述のように、本実施の形態の第2塗料20は、二次電池の電極スラリーである。一例として、第2ダイ6は、吐出口が鉛直方向上方を向くように姿勢が定められ、鉛直方向下方を向く第2面10bに第2塗料20を塗布する。
【0025】
基材10の搬送方向Aにおける第2ダイ6と乾燥炉8との間には、浮上装置24が配置される。浮上装置24は、公知の浮上プレート等で構成することができる。第2ダイ6を通過した基材10は、浮上装置24によって非接触支持されて、下流側に搬送される。
【0026】
基材10の搬送方向Aにおける浮上装置24の下流側には、乾燥炉8が配置される。乾燥炉8の内部には、第1塗料18および第2塗料20を乾燥させるための気体(例えば熱風)を噴出する気体噴射ノズル26が上下に設けられている。第1面10aに第1塗料18が塗布され、第2面10bに第2塗料20が塗布された基材10は、気体噴射ノズル26から噴出される気体によって浮遊した状態で、乾燥炉8内を搬送される。乾燥炉8を通過する過程で第1塗料18および第2塗料20が乾燥された基材10は、乾燥炉8を出た後に巻き取りリールに巻き取られる。
【0027】
以上説明したように、本実施の形態に係る両面塗工装置1は、第1面10aおよび第2面10bを有する基材10を連続搬送する搬送機構2と、第1面10aに第1塗料18を塗布する第1ダイ4と、第1ダイ4よりも基材10の搬送方向Aの下流側に位置して第2面10bに第2塗料20を塗布する第2ダイ6と、を備える。搬送機構2は、ロール12と、引き込み部14と、を備える。ロール12は、搬送方向Aにおける第2ダイ6の上流側に位置し、第2面10bを周面で支持しながら基材10を搬送する。また、ロール12は、第1塗料18の塗布された第1面10aを上向き、第2塗料20を未塗布の第2面10bを下向きにして搬送方向Aの下流側に基材10を送り出す。また、ロール12は、周面から基材10が離間する位置12aが、第2ダイ6から所定量だけ第2面10bが離間する基材10の目標塗工高さH1よりも高い位置にある。引き込み部14は、搬送方向Aにおけるロール12と第2ダイ6との間に位置し、基材10を目標塗工高さH1に近づくように引き込む。
【0028】
基材10は、一端側がロール12で支持され、他端側が乾燥炉8よりも下流側で図示しない搬送ロールあるいは巻き取りロールで支持される。これにより、基材10における2つのロールの間の部分を宙に浮かせて、基材10が第2ダイ6に非接触の状態を作り出すことができる。しかしながらこの場合は、基材10におけるこれら2つのロールの間の部分が自重によって少なからず下方に撓む。基材10の撓み量は、2つのロールの距離が離れるほど増える。基材10が撓むと、ロール12の回転や乾燥炉8からの熱風等による基材10の振動が基材10内を伝播しやすくなり、基材10の位置を安定的に保持することが困難になる。また、基材10に歪みが生じて平面度が低下してしまう。特に、基材10の厚さは数10ミクロン、場合によっては数ミクロンと非常に薄いため、浮上プレートのみを用いた一般的な非接触搬送では、撓んだ基材10の位置や平面度を確保することが困難である。
【0029】
これに対し、引き込み部14が基材10を撓み量の分だけ下方に引き込むことで、基材10を所定の張力で張ることができ、基材10の歪みや振動を抑制することができる。よって、本実施の形態の両面塗工装置1によれば、基材10と第2ダイ6との接触によるパーティクルの発生を抑制しながら基材10の撓みや振動を抑えることができる。これにより、パーティクルによる製品の品質低下を避けることができる。また、宙に浮いた基材10の平面度を高めることができるため、より高精度に第2塗料20の塗膜を形成することができる。
【0030】
また、本実施の形態の搬送機構2は、支持部16を有する。支持部16は、搬送方向Aにおける引き込み部14と第2ダイ6との間に位置し、引き込み部14によって目標塗工高さH1まで引き込まれた基材10を目標塗工高さH1に支持する。引き込み部14の下流側に位置する支持部16が基材10を支持することで、基材10の歪みをさらに矯正することができる。一例として、引き込み部14によって基材10の歪みがミリオーダーで矯正され、支持部16によって基材10の歪みがミクロンオーダーで矯正される。また、支持部16によって基材10の振動をより抑制することができる。
【0031】
また、本実施の形態の支持部16は、基材10を浮上させる浮上装置で構成される。これにより、基材10の幅が広い場合であっても、支持部16を第2ダイ6の近傍に配置することができる。このため、第2ダイ6の上方を通過する際の基材10の平面度をより維持しやすくすることができる。
【0032】
また、本実施の形態の引き込み部14は、基材10の搬送方向Aに並び第2面10bを吸引する複数の吸引部22を有する。複数の吸引部22は、搬送方向Aの下流側に向かって設置高さが低くなるように配列される。これにより、送出高さH2にある基材10を段階的に引き込んで目標塗工高さH1まで下げることができる。基材10を段階的に引き込むことで、1つの吸引部22に必要な吸引力を下げることができる。また、吸引によって基材10に過度の負荷がかかることを抑制することができる。
【0033】
また、両面塗工装置1は、基材10の搬送方向Aにおける第2ダイ6の下流側に位置する乾燥炉8と、搬送方向Aにおける第2ダイ6と乾燥炉8との間に位置する浮上装置24と、を備える。第2ダイ6と乾燥炉8との間に浮上装置24を設けることで、乾燥炉8内で熱風にさらされることで生じる基材10の振動が浮上装置24よりも上流側に伝播することを抑制することができる。これにより、第2ダイ6の上方を通過する際の基材10の平面度をより維持しやすくすることができる。
【0034】
(実施の形態2)
実施の形態2は、搬送機構2が整流部材を有する点を除き、実施の形態1と概ね共通の構成を有する。以下、本実施の形態について実施の形態1と異なる構成を中心に説明し、共通する構成については簡単に説明するか、あるいは説明を省略する。
図3は、実施の形態2に係る両面塗工装置1が備える搬送機構2の一部分の斜視図である。
【0035】
図3に示すように、引き込み部14は、空気などの雰囲気ガスを吸引する吸引部22を有する。吸引部22は、基材10の第2面10bと対向して第2面10bを吸引する。これにより、基材10が下方に引き込まれる。本実施の形態の吸引部22は、一例として吸着プレートで構成され、第2面10bに対して平行に広がる吸引面22aを有する。吸引部22は、吸引面22aから雰囲気ガスを吸引することで、基材10を引き寄せることができる。
【0036】
また、本実施の形態の搬送機構2は、一対の整流部材28を有する。一対の整流部材28は、搬送方向Aと直交する基材10の幅方向Bで基材10の両側に配置される。一対の整流部材28は、基材10の端部(幅方向Bの端部)における吸引部22および第2面10bの間への雰囲気の進入を規制する。本実施の形態の各整流部材28は、吸引部22上で上方に延びる側板30を有する。各側板30は、吸引面22a上で且つ幅方向Bにおいて基材10の外側で、吸引面22aと交わる方向に延びる。一例として、側板30は矩形状であり、下辺が吸引部22の吸引面22aに接する。側板30は、基材10の端部の近傍において、幅方向Bから見て吸引面22aおよび第2面10bの隙間を塞ぐ。
【0037】
吸引部22が雰囲気ガスを吸引すると、幅方向Bにおける基材10の端部では、外部の雰囲気が吸引部22と基材10との隙間に流れ込みやすい。したがって、基材10の端部では、吸引部22の吸引力が外部雰囲気の吸引に費やされてしまい、基材10の引き込み量が基材10の中央部に比べて減る傾向にある。これに対し、幅方向Bにおける基材10の両側に整流部材28を配置することで、外部の雰囲気が吸引部22および基材10の隙間に進入することを規制して、基材10の端部の引き込み量を増やすことができる。これにより、幅方向Bでより均一に基材10を引き込むことができる。よって、基材10の撓みをより抑制することができる。
【0038】
また、整流部材28は、吸引部22上に配置される側板30によって吸引部22および基材10の隙間への雰囲気の進入を阻害している。側板30は、吸引部22上に配置されるため、基材10の近傍に配置しやすい。よって、吸引部22および基材10の隙間への雰囲気の進入をより規制することができ、基材10の撓みをより抑制することができる。
【0039】
また、本実施の形態の吸引部22は、幅方向Bにおいて基材10の外側に広がる外縁領域22bを有する。そして、各整流部材28は、支持板32を有する。各支持板32は、外縁領域22bを覆うとともに側板30に接続される。各支持板32は、好ましくは外縁領域22bの全体を覆うが、これに限らず外縁領域22bの少なくとも一部を覆っていればよい。一例として、支持板32は矩形状であり、幅方向Bで基材10の中央側に位置して搬送方向Aに延びる辺が、側板30の下辺に接続される。
【0040】
支持板32が外縁領域22bを覆うことで、吸引部22の吸引力によって整流部材28を固定することができる。したがって、整流部材28の固定機構を別途設ける必要がないため、整流部材28の設置にともなう両面塗工装置1の構造の複雑化を軽減することができる。また、例えば吸引部22が多孔質体と真空ポンプとを有し、真空ポンプの駆動により多孔質体が雰囲気ガスを吸引する構成である場合、支持板32が外縁領域22bを覆うことで、外縁領域22bにおける多孔質体の開口を塞ぐことができる。これにより、吸引部22の吸引力を基材10に集中させることができる。この結果、基材10の撓みや振動をより抑制することができる。
【0041】
また、本実施の形態の搬送機構2は、天板34を有する。天板34は、基材10の第1面10aと対向するように配置される。したがって、天板34と吸引部22との間に基材10が介在する。また、天板34は、幅方向Bに延びて一対の側板30をつなぐ。つまり、天板34は一対の側板30で支持される。一例として、天板34は矩形状であり、幅方向Bの両端で搬送方向Aに延びる辺が各側板30の上辺に接続される。天板34が基材10の上方に延在することで、外部の雰囲気が吸引部22および基材10の隙間に進入することをより規制できる。よって、基材10の撓みをより抑制することができる。また、天板34が基材10の上方に延在することで、第1面10aと天板34との間を通る気流Wが発生しやすくなる。気流Wは、天板34と第1面10aとの間を通る際に、第1面10aに沿って流れていく。これにより、基材10の振動を抑制することができる。なお、気流Wは、搬送方向Aの上流側から下流側に向かって流れる場合もあれば、下流側から上流側に向かって流れる場合もある。
【0042】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本開示を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本開示の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された本開示の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。各実施の形態に含まれる構成要素の任意の組み合わせも、本開示の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0043】
実施の形態1および2には、以下の変形例1および2を挙げることができる。
(変形例1)
図4は、変形例1に係る両面塗工装置1の引き込み部14を模式的に示す平面図である。本変形例に係る両面塗工装置1が備える引き込み部14は、基材10の搬送方向Aに並び第2面10bを吸引する複数の吸引部22を有する。複数の吸引部22は、搬送方向Aの下流側に向かって、基材10の幅方向Bにおける中央部から両端部に広がるように配列される。例えば、搬送方向Aの最上流の吸引部22が幅方向Bの中央部に配置される。また、その一段下流には、最上流の吸引部22よりも幅方向Bの両外側にずれた2つの吸引部22が配置される。さらに、その一段下流には、さらに両外側にずれた2つの吸引部22が配置される。これにより、基材10の吸引される位置が、搬送方向Aの下流側に向かって幅方向Bの中央側から両端側に徐々に広がっていく。
【0044】
このような吸引部22の配列により、基材10の幅方向Bにおける中央部を吸引して中央部に張力をかけた後に、基材10の幅方向Bにおける両端部を吸引して両端部に張力をかけることができる。この結果、基材10の幅方向Bにおける全体を同時に吸着する場合に比べて、基材10に皺が生じることや空気溜まりの発生を抑制でき、基材10の平面度をより高めることができる。なお、下流側において基材10の両端部に加えて中央部も吸引されてもよい。つまり、基材10の吸引幅が搬送方向Aの下流側に向かって中央から徐々に増大してもよい。
【0045】
また、引き込み部14は、基材10の幅方向Bにおける基材10の撓み量に応じた引き込み力を有してもよい。例えば、基材10は、中央部よりも両端部が撓みやすい傾向にある。このため、基材10の両端部を吸引する吸引部22は、基材10の中央部を吸引する吸引部22よりも吸引力が大きく設定される。これにより、基材10をより平坦にすることができる。なお、複数の吸引部22が多孔質体で構成される場合、複数の吸引部22は、1つの多孔質体における複数の領域によって構成されてもよいし、互いに独立した複数の多孔質体によって構成されてもよい。
【0046】
(変形例2)
図5は、変形例2に係る両面塗工装置1の引き込み部14を模式的に示す平面図である。本変形例に係る両面塗工装置1が備える引き込み部14は、基材10の搬送方向Aに並び第2面10bを吸引する複数の吸引部22を有する。複数の吸引部22は、基材10の搬送方向Aの下流側に向かって、基材10の幅方向Bの一端側から他端側に向かうように配列される。つまり、搬送方向Aの上流側の吸引部22よりも下流側の吸引部22の方が、基材10の幅方向Bの他端側に配置される。これにより、基材10の吸引される位置が、搬送方向Aの下流側に向かって幅方向Bの一端側から他端側に向かって徐々に移動していく。
【0047】
このような吸引部22の配列によっても、変形例1と同様に、基材10に皺が生じることや空気溜まりの発生を抑制でき、基材10の平面度をより高めることができる。なお、下流側において基材10の他端側だけでなく一端側も吸引してもよい。つまり、基材10の吸引幅が搬送方向Aの下流側に向かって一端側から徐々に増大してもよい。また、変形例1と同様に、引き込み部14の引き込み力を基材10の撓み量に応じて異ならせてもよい。また、複数の吸引部22は、1つの多孔質体における複数の領域によって構成されてもよいし、互いに独立した複数の多孔質体によって構成されてもよい。
【0048】
また、実施の形態2には、以下の変形例3を挙げることができる。
(変形例3)
図6は、変形例3に係る両面塗工装置1が備える搬送機構2の一部分の斜視図である。本変形例に係る両面塗工装置1が備える各整流部材28は、幅方向Bにおける吸引部22の端部を包む略箱形である。各整流部材28は、少なくとも第1板36、第2板38、第3板40および第4板42を有する。一例として、各板は矩形状である。幅方向Bにおける吸引部22の端部は、基材10の外側に突出している。この端部に対し、第1板36は搬送方向Aの上流側に配置され、第2板38は搬送方向Aの下流側に配置され、第3板40は幅方向Bの外側に配置され、第4板42は間隔をあけて上方に配置される。
【0049】
第1板36および第2板38は、搬送方向Aで吸引部22の端部を挟む。また、第3板40は、吸引部22における幅方向Bを向く面を覆うとともに第1板36および第2板38をつなぐ。また、第1板36、第2板38および第3板40の各上辺は、吸引面22aよりも上方に突出して第4板42に接続される。第4板42は、吸引部22の端部を覆う。また、第4板42は、基材10側に延出して幅方向Bにおける基材10の端部を覆う。つまり、第4板42は、上方から見て吸引面22aおよび第2面10bの隙間を塞ぐ。このような構成によっても、外部の雰囲気が吸引部22および基材10の隙間に進入することを規制でき、幅方向Bでより均一に基材10を引き込むことができる。よって、基材10の撓みをより抑制することができる。なお、一対の第4板42は互いに不連続であるが、これに限らず互いに連結されて天板34を構成してもよい。
【0050】
なお、実施の形態1,2、変形例1~3の各技術思想は、互いに矛盾しない限り、任意のものを組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示は、両面塗工装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 両面塗工装置、 2 搬送機構、 4 第1ダイ、 6 第2ダイ、 8 乾燥炉、 10 基材、 10a 第1面、 10b 第2面、 12 ロール、 14 引き込み部、 16 支持部、 18 第1塗料、 20 第2塗料、 22 吸引部、 24 浮上装置。