(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
B23K 9/23 20060101AFI20241206BHJP
B23K 9/007 20060101ALI20241206BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20241206BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
B23K9/23 H
B23K9/007
B23K9/02 M
B23K31/00 A
(21)【出願番号】P 2022546273
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2021031301
(87)【国際公開番号】W WO2022050161
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2024-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2020146949
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 潤司
(72)【発明者】
【氏名】中川 龍幸
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-114446(JP,A)
【文献】特開2006-159253(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030272(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/23
B23K 9/007
B23K 9/02
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材で構成された第1の部材と、該第1の部材に対して溶接が困難な材料で構成された第2の部材と、該第1の部材に溶接された溶加材で構成された第3の部材とが互いに接合された接合構造であって、
前記第2の部材には、前記第1の部材に向かって貫通する貫通部が形成され、
前記第3の部材は、前記貫通部を介して前記第1の部材に溶接されており、
前記第2の部材に対して溶接可能な溶加材で構成され、前記第3の部材の表面を覆うとともに該第2の部材に溶接された第4の部材を備えた接合構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記第3の部材は、前記第2の部材における前記第1の部材とは反対側の面において、該貫通部よりも径方向外方に張り出して該貫通部の周縁部を押さえるフランジ部を有する接合構造。
【請求項3】
請求項1において、
前記貫通部は、前記第1の部材に向かって先細となるテーパー部を有し、
前記第3の部材は、前記テーパー部を押さえている接合構造。
【請求項4】
請求項1において、
前記第2の部材は、前記第1の部材とは反対側の面に開口する段差部と、該段差部の底面に形成された前記貫通部とを有する接合構造。
【請求項5】
請求項4において、
前記段差部の底面は、前記貫通部に向かって傾斜している接合構造。
【請求項6】
請求項1において、
前記第2の部材は、前記第1の部材との重ね合わせ面に開口する段差部と、該段差部の底面に形成された前記貫通部とを有し、
前記第1の部材は、前記段差部に向かって膨出した膨出部を有する接合構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のうち何れか1つにおいて、
前記第3の部材は、前記第1の部材に溶接された第1接合部と、該第1接合部に溶接されて前記貫通部の周縁部を押さえる第2接合部とを有する接合構造。
【請求項8】
請求項1乃至7のうち何れか1つにおいて、
前記第4の部材は、前記第3の部材の表面の中央部分を覆う中央部と、該中央部の外周縁に沿って該中央部と前記第2の部材とに溶接された外周部とを有する接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1の金属材と、第1の金属材に対して溶接が困難な異種材とを重ね合わせた状態にし、異種材の貫通部を介して溶加材(溶接ワイヤ)をアーク溶接するようにした接合構造が開示されている。
【0003】
このとき、溶融した溶加材によって、異種材の貫通部の上面側の外周部に覆い被さるようにつば部分を形成する。これにより、第1の金属材に対する溶加材の凝固収縮によるつば部分と第1の金属材との圧縮固定力によって、異種材と第1の金属材とを固定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の発明では、第3の金属材のつば部分と第2の金属材との重ね合わせ面の隙間を通って、外部から水分が侵入するおそれがある。そして、侵入した水分によって、第3の金属材のつば部分と第2の金属材とが重なり合う部分で電食が発生してしまい、接合強度が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属材と異種材とが重なり合う部分で電食が発生するのを抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の態様は、金属材で構成された第1の部材と、該第1の部材に対して溶接が困難な材料で構成された第2の部材と、該第1の部材に溶接された溶加材で構成された第3の部材とが互いに接合された接合構造を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、第1の態様は、前記第2の部材には、前記第1の部材に向かって貫通する貫通部が形成され、
前記第3の部材は、前記貫通部を介して前記第1の部材に溶接されており、
前記第2の部材に対して溶接可能な溶加材で構成され、前記第3の部材の表面を覆うとともに該第2の部材に溶接された第4の部材を備えている。
【0009】
第1の態様では、第3の部材は、貫通部を介して第1の部材に溶接される。第4の部材は、第2の部材に対して溶接可能な溶加材で構成される。第4の部材は、第3の部材の表面を覆うとともに第2の部材に溶接される。
【0010】
このように、第4の部材で第3の部材の表面を覆うとともに、第4の部材を第2の部材に溶接して、第2の部材と第3の部材との隙間を第4の部材で塞ぐことで、第2の部材及び第3の部材の重ね合わせ部分に、外部から水分が侵入するのを抑えることができる。
【0011】
これにより、第2の部材と第3の部材とが重なり合う部分で電食が発生するのを抑え、接合強度を確保することができる。
【0012】
第2の態様は、第1の態様において、
前記第3の部材は、前記第2の部材における前記第1の部材とは反対側の面において、該貫通部よりも径方向外方に張り出して該貫通部の周縁部を押さえるフランジ部を有する。
【0013】
第2の態様では、フランジ部によって、第2の部材における第1の部材とは反対側の面を押さえ付けることで、フランジ部と第1の部材との間に第2の部材を圧縮固定することができる。
【0014】
これにより、第2の部材及び第3の部材の重ね合わせ部分を密着させて、外部から水分が侵入し難くなる。
【0015】
第3の態様は、第1の態様において、
前記貫通部は、前記第1の部材に向かって先細となるテーパー部を有し、
前記第3の部材は、前記テーパー部を押さえている。
【0016】
第3の態様では、貫通部にテーパー部を設け、テーパー部に沿った形状に第3の部材を凝固させることで、第2の部材から飛び出す第3の部材の厚みを抑えることができる。これにより、第2の部材から飛び出す第4の部材の厚みも抑えることができる。
【0017】
第4の態様は、第1の態様において、
前記第2の部材は、前記第1の部材とは反対側の面に開口する段差部と、該段差部の底面に形成された前記貫通部とを有する。
【0018】
第4の態様では、第2の部材の段差部の底面に貫通部が形成されている。これにより、第3の部材を段差部内に配置して、第2の部材から第3の部材が飛び出すのを抑えることができる。また、第2の部材から飛び出す第4の部材の厚みを抑えることができる。
【0019】
第5の態様は、第4の態様において、
前記段差部の底面は、前記貫通部に向かって傾斜している。
【0020】
第5の態様では、段差部の底面を貫通部に向かって傾斜させることで、溶融した第3の部材の溶加材が貫通部の中央側に向かって流れ易くなる。
【0021】
第6の態様は、第1の態様において、
前記第2の部材は、前記第1の部材との重ね合わせ面に開口する段差部と、該段差部の底面に形成された前記貫通部とを有し、
前記第1の部材は、前記段差部に向かって膨出した膨出部を有する。
【0022】
第6の態様では、第2の部材の段差部に向かって、第1の部材の膨出部が膨出している。これにより、第1の部材に第2の部材を重ね合わせる際に、膨出部に対して段差部を嵌め込むようにすれば、第1の部材及び第2の部材の位置合わせを容易に行うことができる。
【0023】
第7の態様は、第1乃至第6の態様のうち何れか1つにおいて、
前記第3の部材は、前記第1の部材に溶接された第1接合部と、該第1接合部に溶接されて前記貫通部の周縁部を押さえる第2接合部とを有する。
【0024】
第7の態様では、第3の部材を、第1接合部と第2接合部とに分けて形成することで、第2の部材の材料特性を考慮した溶接法又は溶接条件の使い分けをすることができる。
【0025】
例えば、溶融した第3の部材の溶加材を、貫通部を介して第1の部材に溶接する際には、溶け込みに必要な入熱で、アークの広がりが小さい、短絡状態とアーク状態を繰り返す短絡アーク溶接を行い、第1接合部を形成すればよい。その後、第2の部材を溶融しない程度の低入熱で、アークの広がりが大きい正極性や交流によるパルス溶接を行い、第2接合部を形成すればよい。これにより、第2の部材への入熱量を抑えながら、第2接合部を形成することができる。
【0026】
第8の態様は、第1乃至第7の態様のうち何れか1つにおいて、
前記第4の部材は、前記第3の部材の表面の中央部分を覆う中央部と、該中央部の外周縁に沿って該中央部と前記第2の部材とに溶接された外周部とを有する。
【0027】
第8の態様では、第4の部材を、中央部と外周部とに分けて形成するようにしている。例えば、アーク溶接によって中央部を形成して第3の部材の表面の中央部分を覆い、その後、中央部の外周縁に沿ってアーク溶接を行って外周部を形成し、中央部と外周部とをなじませるようにすればよい。
【0028】
また、アーク溶接によって外周部を形成して第3の部材の表面の外周部分を覆い、その後、第3の部材の表面の中央部分にアーク溶接を行って中央部を形成し、中央部と外周部とをなじませるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本開示の態様によれば、金属材と異種材とが重なり合う部分で電食が発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本実施形態1に係る接合構造を説明するための側面断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態2に係る接合構造を説明するための側面断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態3に係る接合構造を説明するための側面断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態4に係る接合構造を説明するための側面断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態5に係る接合構造を説明するための側面断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態6に係る接合構造を説明するための側面断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態7に係る接合構造を説明するための側面断面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態8に係る接合構造を説明するための側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0032】
《実施形態1》
図1は、金属材で構成された第1の部材10と、第1の部材10に対して溶接が困難な材料で構成された第2の部材20と、溶加材としての第1溶加材で構成された第3の部材30とを互いに接合するための接合構造を示している。
【0033】
第1の部材10は、金属材で構成された板状の部材である。
【0034】
第2の部材20は、第1の部材10に対して溶接が困難な材料で構成された板状の部材である。第2の部材20は、第1の部材10の上側に重ね合わされている。第2の部材20は、円形状の貫通部21を有する。
【0035】
なお、本実施形態では、貫通部21を円形状の貫通孔として説明するが、楕円状や長孔状の貫通孔であってもよい。
【0036】
第3の部材30は、第1の部材10と同種系の金属材である溶加材で構成されている。ここで、同種系の金属材とは、互いに溶接可能な金属であり、同じ材質同士だけではなく、鉄系金属材同士、非鉄系金属材同士などの溶接接合性がよい金属材のことである。言い換えると、同種系の金属材とは、溶接の相性がよい同種系の材料のことである。
【0037】
具体的には、溶接時における第1の部材10と第3の部材30との組み合わせとしては、以下のものが挙げられる。例えば、鉄系金属材の組合せとしては、軟鋼と軟鋼、ステンレスとステンレス、軟鋼とハイテン(高張力鋼)、ハイテンとハイテン等がある。また、非鉄系金属材としては、アルミとアルミ、アルミとアルミ合金、アルミ合金とアルミ合金等がある。
【0038】
また、異種材としての第2の部材20は、同種系の金属材としての第1の部材10及び第3の部材30とは、異なる材質の材料であり、第1の部材10及び第3の部材30に対して溶接が困難な材質である。
【0039】
例えば、同種系の金属材としての第1の部材10及び第3の部材30を鉄系金属材にした場合、異種材としての第2の部材20は、銅材やアルミ材等の非鉄系金属材である。
【0040】
第3の部材30は、貫通部21を介して第1の部材10に溶接される。第3の部材30には、貫通部21の周縁部を押さえるフランジ部31が設けられる。そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0041】
ところで、第3の部材30のフランジ部31と第2の部材20とが重なり合う部分では、外部から水分が侵入することで電食が発生するおそれがある。
【0042】
そこで、本実施形態では、第2の部材20及び第3の部材30が重なり合う部分の隙間を第4の部材40で塞ぐようにしている。
【0043】
具体的に、第4の部材40は、第2の部材20と溶接可能な同種系の金属材である溶加材としての第2溶加材で構成されている。第4の部材40は、第3の部材30の表面を覆っている。第4の部材40は、第2の部材20に溶接されている。
【0044】
なお、以下の説明では、第1の部材10として軟鋼材、第2の部材20としてアルミ材、第1の部材10に対する溶加材である第3の部材30として軟鋼材、第2の部材20に対する溶加材である第4の部材40としてアルミ材を用いた場合について説明する。
【0045】
アーク溶接機1は、ノズル2と、チップ3とを備えている。ノズル2は、溶接対象物の溶接箇所にシールドガス等を供給する。チップ3は、第3の部材30に対して溶接電流を供給する。
【0046】
アーク溶接機1は、貫通部21を介して第1の部材10に第3の部材30を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第3の部材30は、第1の部材10に溶融結合されるとともに、貫通部21内に積層されていく。そして、溶融した第3の部材30は、貫通部21内を埋め尽くした後、貫通部21の上面側の周縁部に流れ出し、フランジ状に広がる。
【0047】
溶融した第3の部材30がビードとなる過程で、第3の部材30には、貫通部21の周縁部を押さえるフランジ部31が設けられる。フランジ部31は、第2の部材20における第1の部材10とは反対側の面(
図1では上面)において、貫通部21よりも径方向外方に張り出している。
【0048】
そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0049】
このように、第3の部材30である溶加材としての溶接ワイヤを溶融させ、第2の部材20の貫通部21を介して第1の部材10に対して供給することで、強度を確保するためのフランジ形状のビードを第2の部材20上に形成し、第2の部材20を圧縮固定にて挟み込むことができるようにしている。
【0050】
なお、第2の部材20と第3の部材30とが溶融接合されている必要性はない。仮に、溶融接合することで金属間化合物が形成されても、フランジ形状による圧縮固定を目的としているため、問題はない。
【0051】
アーク溶接機1は、第2の部材20に対して溶接可能な溶加材(第4の部材40)を、第3の部材30の表面を覆うとともに第2の部材20に溶接する。具体的に、アーク溶接機1は、溶加材を第2の部材20に溶接する際に、正極性による直流溶接や極性を切り替える交流溶接において、ピーク電流とベース電流を交互に繰り返すパルス波形よるパルス溶接を行う。パルス溶接では、第2の部材20を溶融しない程度の低入熱で、アーク5の広がりを大きくし、溶接電極としての溶加材側への入熱を多くし溶着量を増やすことができる。
【0052】
パルス溶接では、ピーク電流とベース電流とからなる1パルスに1回の割合で溶加材の先端に生成されている溶滴を溶加材から離脱させ、フランジ部31や第2の部材20側へ離脱移行する。
【0053】
ここで、正極性による直流溶接とは、直流による溶接において、溶接電極としての溶加材をマイナス極側(負極)にし、母材としての第1の部材10及び第2の部材20をプラス極側(正極)にすることで、溶接電極としての溶加材に対する入熱を大きくして溶接を行うものである。これにより、母材の入熱は抑えられ、溶接電極としての溶加材の溶融が促進される。
【0054】
また、極性を切り替える交流による交流溶接では、交流による溶接において、例えばピーク電流の波形をプラス極側となる逆極性にし、ベース電流の波形をマイナス極側となる正極性とする。逆極性のピーク電流時には、母材としての第1の部材10、第2の部材20をマイナス極側、溶接電極としての溶加材をプラス極側にする。正極性のベース電流時には、母材としての第1の部材10、第2の部材20をプラス極側、溶接電極としての溶加材をマイナス極側にする。
【0055】
このように、極性を切り替える交流による交流溶接とは、逆極性のピーク電流時に母材としての第1の部材10、第2の部材20に対する入熱を大きくして溶接を行い、正極性のベース電流時に溶接電極としての溶加材に対する入熱を大きくして溶接を行うものである。これにより、母材の入熱は直流溶接よりも抑えられ、溶接電極としての溶加材の溶融が促進される。
【0056】
なお、正極性によるパルス溶接を行うとしたが、アーク5の広がりは小さいが第2の部材20への入熱を抑える溶接法として、アーク状態と短絡状態を繰り返す短絡アーク溶接を行ってもよい。
【0057】
アーク溶接機1は、第3の部材30の表面に溶加材(第4の部材40)を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第4の部材40は、第2の部材20に溶融結合されるとともに、第3の部材30の表面を覆うように積層されていく。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る接合構造では、第4の部材40で第3の部材30の表面を覆うとともに、第4の部材40を第2の部材20に溶接することで、第2の部材20と第3の部材30との隙間を、外部から水分が侵入するのを防止するように第4の部材40で塞いでいる。このようにすれば、第2の部材20及び第3の部材30の重ね合わせ部分に、外部から水分が侵入するのを抑えることができる。
【0059】
これにより、第2の部材20と第3の部材30とが重なり合う部分で電食が発生するのを抑え、接合強度を確保することができる。
【0060】
このように、第3の部材30とは異なり、第2の部材20と同じ材質の溶加材としての第2溶加材(第4の部材40)により2回目の溶接を行い、第3の部材30で形成したフランジ形状のビード上に溶融金属を覆いかぶさるように溶接し、フランジ形状サイズよりも大きくビードを形成するようにしている。これにより、第2の部材20と同じ材質の第4の部材40による溶融接合を可能としている。
【0061】
また、同じ材質同士で溶融接合させることで、一般的によく使われる接着剤やシール剤、シーリング剤などの異なる工法を使用せずに、外部からの水分などの侵入を抑制し、電食を抑制することができる。
【0062】
なお、基本的には、第1の部材10及び第3の部材30は、第2の部材20及び第4の部材40よりも融点が高い材質を使用するものとする。よって、第3の部材30と第4の部材40との界面は、溶融接合していないか、又は、少しだけ溶融接合している状態となる。
【0063】
これにより、第3の部材30のフランジ形状のビード上に第4の部材40をビード形成しても、第3の部材30のフランジ形状を変形させるなどの影響もなく、第4の部材40のビードを形成することができる。
【0064】
《実施形態2》
以下、前記実施形態1と同じ部分については同じ符号を付し、相違点についてのみ説明する。
【0065】
図2に示すように、第2の部材20は、貫通部21を有する。貫通部21は、第1の部材10に向かって先細となるテーパー部22を有する。
【0066】
第3の部材30は、アーク溶接により溶融する。溶融した第3の部材30は、貫通部21のテーパー部22に沿って、貫通部21の中央側に集まるように流れ、第1の部材10に溶融結合される。
【0067】
そして、溶融した第3の部材30は、貫通部21内を埋め尽くすことで、テーパー部22の上面にフランジ状に広がる。
【0068】
溶融した第3の部材30がビードとなる過程で、第3の部材30には、貫通部21のテーパー部22を押さえるフランジ部31が設けられる。
【0069】
そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0070】
その後、第3の部材30の表面に第4の部材40を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第4の部材40は、第2の部材20に溶融結合されるとともに、第3の部材30の表面を覆うように積層されていく。
【0071】
以上のように、本実施形態に係る接合構造によれば、貫通部21にテーパー部22を設け、テーパー部22に沿った形状にフランジ部31を凝固させることで、第2の部材20から飛び出すフランジ部31の厚みを抑えることができる。これにより、第2の部材20から飛び出す第4の部材40の厚みも抑えることができる。
【0072】
《実施形態3》
図3に示すように、第2の部材20は、第1の部材10とは反対側の面(
図3では上面)に開口する段差部25と、段差部25の底面に形成された貫通部21とを有する。
【0073】
第3の部材30は、アーク溶接により溶融する。溶融した第3の部材30は、第1の部材10に溶融結合される。
【0074】
そして、溶融した第3の部材30は、貫通部21内を埋め尽くした後、貫通部21の上面側の周縁部、つまり、段差部25の底面に流れ出し、フランジ状に広がる。
【0075】
溶融した第3の部材30がビードとなる過程で、第3の部材30には、貫通部21の周縁部を押さえるフランジ部31が設けられる。
【0076】
そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0077】
その後、第3の部材30の表面に第4の部材40を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第4の部材40は、第2の部材20の段差部25に溶融結合されるとともに、第3の部材30の表面を覆うように積層されていく。
【0078】
以上のように、本実施形態に係る接合構造によれば、第3の部材30のフランジ部31を段差部25内に配置して、第2の部材20からフランジ部31が飛び出すのを抑えることができる。また、第2の部材20から飛び出す第4の部材40の厚みを抑えることができる。
【0079】
《実施形態4》
図4に示すように、第2の部材20は、第1の部材10とは反対側の面(
図4では上面)に開口する段差部25と、段差部25の底面に形成された貫通部21とを有する。段差部25の底面は、貫通部21に向かって傾斜している。
【0080】
第3の部材30は、アーク溶接により溶融する。溶融した第3の部材30は、第1の部材10に溶融結合される。また、溶融した第3の部材30が段差部25の傾斜面にかかる場合には、段差部25の傾斜面に沿って貫通部21に向かって流れ、第1の部材10に向かって溶融結合される。
【0081】
そして、溶融した第3の部材30は、貫通部21内を埋め尽くした後、貫通部21の上面側の周縁部、つまり、段差部25の底面に流れ出し、段差部25の傾斜面にフランジ状に広がる。
【0082】
溶融した第3の部材30がビードとなる過程で、第3の部材30には、段差部25の傾斜面を押さえるフランジ部31が設けられる。
【0083】
そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0084】
その後、第3の部材30の表面に第4の部材40を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第4の部材40は、段差部25の傾斜面に沿って流れる。より具体的には、第3の部材30と第2の部材20との外部側からの隙間を塞ぐように効果的に流れる。そして、溶融した第4の部材40は、第2の部材20に溶融結合されるとともに、第3の部材30の表面を覆うように積層されていく。
【0085】
以上のように、本実施形態に係る接合構造によれば、段差部25の底面を貫通部21に向かって傾斜させることで、溶融した第3の部材30が貫通部21に向かって流れ易くなる。
【0086】
また、溶融した第4の部材40が、段差部25の傾斜面に沿って流れることで、第3の部材30と第2の部材20との外部側からの隙間を効果的に塞ぐとともに、第2の部材20に溶融結合することができる。
【0087】
また、第3の部材30のフランジ部31を段差部25内に配置して、第2の部材20からフランジ部31が飛び出すのを抑えることができる。また、第2の部材20から飛び出す第4の部材40の厚みを抑えることができる。
【0088】
《実施形態5》
図5に示すように、第2の部材20は、第1の部材10との重ね合わせ面(
図5では下面)に開口する段差部25と、段差部25の底面に形成された貫通部21とを有する。
【0089】
第1の部材10は、段差部25に向かって膨出した膨出部15を有する。膨出部15は、段差部25に嵌め込まれている。
【0090】
第3の部材30は、アーク溶接により溶融する。溶融した第3の部材30は、第1の部材10に溶融結合される。
【0091】
そして、溶融した第3の部材30は、貫通部21内を埋め尽くした後、貫通部21の上面側の周縁部に流れ出し、フランジ状に広がる。
【0092】
溶融した第3の部材30がビードとなる過程で、第3の部材30には、貫通部21の周縁部を押さえるフランジ部31が設けられる。
【0093】
そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0094】
その後、第3の部材30の表面に第4の部材40を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第4の部材40は、第2の部材20に溶融結合されるとともに、第3の部材30の表面を覆うように積層されていく。
【0095】
以上のように、本実施形態に係る接合構造によれば、第1の部材10に第2の部材20を重ね合わせる際に、膨出部15に対して段差部25を嵌め込むようにすれば、第1の部材10及び第2の部材20の位置合わせを容易に行うことができる。
【0096】
また、第1の部材10に対して第3の部材30をアーク溶接により溶融させる際、第1の部材10における膨出部15の裏側の空いたスペース(空間)部分を利用することで、第2の部材20に対して反対側の面である第1の部材10の裏面に裏波を十分に形成することができる。これにより、第1の部材10の裏側からも溶接したように溶接ビードを形成する、いわゆる裏波溶接によりさらに強度を高めることができる。
【0097】
また、第1の部材10における膨出部15の裏側に空いたスペース部分を設けることにより、第1の部材10の裏面側から溶接ビードが裏波として一部張り出した場合のスペースを確保することができる。
【0098】
《実施形態6》
図6に示すように、第2の部材20は、貫通部21を有する。
【0099】
第3の部材30は、アーク溶接により溶融する。第3の部材30は、第1の部材10に溶接された第1接合部35と、第1接合部35に溶接されてフランジ部31を構成する第2接合部36とを有する。
【0100】
具体的に、溶融した第3の部材30を、貫通部21を介して第1の部材10に溶接する際には、溶け込みに必要な入熱で、アーク5の広がりが小さい、短絡状態とアーク状態を繰り返す短絡アーク溶接を行い、第1接合部35を形成する。その後、第2の部材20を溶融しない程度の低入熱で、アーク5の広がりが大きい正極性や交流によるパルス溶接を行い、第2接合部36を形成する。これにより、第2の部材20への入熱量を抑えながら、フランジ部31を形成することができる。
【0101】
溶融した第3の部材30がビードとなる過程で、第3の部材30には、第1接合部35と、第2接合部36とが設けられる。第1接合部35は、第1の部材10に溶融結合している。第2接合部36は、第1接合部35に溶融結合して、貫通部21の周縁部を押さえるフランジ部31を構成している。
【0102】
第1接合部35の上部は、中央が窪んだ形状になるように溶接することが好ましい。
【0103】
これにより、第1接合部35に対して第2接合部36を溶接する際に、溶接位置が定まり易くなる。また、溶融している第2接合部36が、第1接合部35の窪んだ中央側に集まり易くなり、第2接合部36の形状をより整えることができる。
【0104】
そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0105】
その後、第3の部材30の表面に第4の部材40を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第4の部材40は、第2の部材20に溶融結合されるとともに、第3の部材30の表面を覆うように積層されていく。
【0106】
以上のように、本実施形態に係る接合構造によれば、第3の部材30を、第1接合部35と第2接合部36とに分けて形成することで、第2の部材20の材料特性を考慮した溶接法又は溶接条件の使い分けをすることができる。
【0107】
なお、第1の部材10及び第2の部材20の形状は、あくまでも一例であり、その他の組み合わせであってもよい。
【0108】
《実施形態7》
図7に示すように、第2の部材20は、貫通部21を有する。
【0109】
第3の部材30は、アーク溶接により溶融する。溶融した第3の部材30は、第1の部材10に溶融結合される。溶融した第3の部材30は、貫通部21内を埋め尽くした後、貫通部21の上面側の周縁部に流れ出し、フランジ状に広がる。
【0110】
溶融した第3の部材30がビードとなる過程で、第3の部材30には、貫通部21の周縁部を押さえるフランジ部31が設けられる。
【0111】
そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0112】
第4の部材40は、中央部41と、外周部42とを有する。中央部41は、第3の部材30の表面の中央部分を覆っている。外周部42は、中央部41の外周縁に沿って中央部41と第2の部材20とに溶接される。
【0113】
具体的に、第3の部材30の表面の中央部分に第4の部材40を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第4の部材40は、第3の部材30の表面を覆うように積層されていく。これにより、第4の部材40の中央部41が形成される。
【0114】
そして、中央部41の外周縁に沿ってアーク溶接機1のノズル2を旋回させることで、中央部41の外周縁に対して、溶融した第4の部材40を供給する。溶融した第4の部材40は、中央部41と第2の部材20とに溶接される。これにより、第4の部材40の外周部42が形成される。
【0115】
以上のように、本実施形態に係る接合構造によれば、アーク溶接によって中央部41を形成して第3の部材30の表面の中央部分を覆い、その後、中央部41の外周縁に沿ってアーク溶接を行って外周部42を形成することで、中央部41と外周部42とをなじませることができる。
【0116】
《実施形態8》
図8に示すように、第2の部材20は、貫通部21を有する。
【0117】
第3の部材30は、アーク溶接により溶融する。溶融した第3の部材30は、第1の部材10に溶融結合される。溶融した第3の部材30は、貫通部21内を埋め尽くした後、貫通部21の上面側の周縁部に流れ出し、フランジ状に広がる。
【0118】
溶融した第3の部材30がビードとなる過程で、第3の部材30には、貫通部21の周縁部を押さえるフランジ部31が設けられる。
【0119】
そして、第1の部材10に対して第3の部材30が凝固収縮することで、フランジ部31と第1の部材10との間に、異種材である第2の部材20が圧縮固定される。
【0120】
第4の部材40は、中央部41と、外周部42とを有する。中央部41は、第3の部材30の表面の中央部分を覆っている。外周部42は、中央部41の外周縁に沿って中央部41と第2の部材20とに溶接される。
【0121】
具体的に、フランジ部31の外周縁に沿ってアーク溶接機1のノズル2を旋回させることで、フランジ部31の外周縁に対して、溶融した第4の部材40を供給する。溶融した第4の部材40は、フランジ部31の外周縁に沿って第2の部材20に溶接される。これにより、第4の部材40の外周部42が形成される。
【0122】
そして、第3の部材30の表面の中央部分に第4の部材40を送給しながら溶接電流を供給することで、アーク5を発生させる。アーク溶接により溶融した第4の部材40は、外周部42に溶融結合されるとともに、第3の部材30の表面を覆うように積層されていく。これにより、第4の部材40の中央部41が形成される。
【0123】
以上のように、本実施形態に係る接合構造によれば、アーク溶接によって外周部42を形成して第3の部材30の表面の外周部分を覆い、その後、第3の部材30の表面の中央部分にアーク溶接を行って中央部41を形成することで、中央部41と外周部42とをなじませることができる。
【0124】
《その他の実施形態》
前記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0125】
本実施形態では、第1の部材10に対してアーク溶接を行うようにしたが、この形態に限定するものではない。具体的に、第3の部材30としての溶加材には、溶極式(消耗電極式)と非溶極式(非消耗電極式)がある。そこで、例えば、第3の部材30として使用した溶極式(消耗電極式)の溶加材としての溶接ワイヤの代わりに、非溶極式(非消耗電極式)の溶加材としてのフィラーワイヤを用いて第1の部材10に対してレーザ溶接を行うレーザフィラー溶接を行うようにしてもよい。
【0126】
レーザフィラー溶接では、第1の部材10に対してレーザを照射して第1の部材10の表面の溶込みをしっかりと確保した後、供給されるフィラーワイヤのみにレーザを照射し、第3の部材30であるフィラーワイヤを溶融させることができる。これにより、第2の部材20への入熱を抑えながら、貫通部21内を第3の部材30で埋め尽くすことができる。
【0127】
また、レーザのパワー密度を下げるためにデフォーカスさせてビーム径を大きく確保することで、レーザのビーム径の外周部分を利用して、第2の部材20に予熱を与えることができる。これにより、第3の部材30である溶融したフィラーワイヤを、第2の部材20に対してなじみやすくできる。そして、この効果により、第2の部材20と第3の部材30との隙間を、外部から水分が侵入するのを防止するように塞ぐことで、第2の部材20と第3の部材30との重ね合わせ部分に、外部から水分が侵入するのを抑えることができる。
【0128】
また、アーク溶接とレーザ溶接を用いたハイブリット溶接で、第3の部材30を及び第4の部材40を形成しても良い。具体的に説明すると、第3の部材30をレーザフィラー溶接により形成し、第4の部材40をアーク溶接にて形成するハイブリット溶接で形成してもよい。
【0129】
また、第3の部材30を溶極式の溶加材を用いたアーク溶接にて形成し、第4の部材40を非溶極式の溶加材としてのフィラーワイヤを用いたレーザフィラー溶接により形成するハイブリット溶接で形成してもよい。
【0130】
さらに、これらのレーザ溶接を組み合わせた構成としてもよい。例えば、レーザのパワー密度を下げるためにデフォーカスさせて相対的に出力を下げる、又は、レーザの連続出力をパルス発振出力に変更する、パルス発振出力のONとOFFの比率であるデューティ(Duty)を下げる等の出力を低下させたレーザを、第2の部材20の貫通部21の外周側及び第3の部材30の上部側の少なくとも一つ以上の箇所に予め照射して予熱するようにしてもよい。このようにすれば、第2の部材20、第3の部材30、及び第4の部材40の溶接時のなじみを向上させることができる。これにより、第2の部材20、第3の部材30、及び第4の部材40との重ね合わせ部分に、外部から水分が侵入するのを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
以上説明したように、本発明は、金属材と異種材とが重なり合う部分で電食が発生するのを抑えることができるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0132】
10 第1の部材
15 膨出部
20 第2の部材
21 貫通部
22 テーパー部
25 段差部
30 第3の部材
31 フランジ部
35 第1接合部
36 第2接合部
40 第4の部材
41 中央部
42 外周部