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特許7599109手振れ補正機構およびこれを備えたレンズ鏡筒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】手振れ補正機構およびこれを備えたレンズ鏡筒
(51)【国際特許分類】
   G03B 5/00 20210101AFI20241206BHJP
   H04N 23/50 20230101ALI20241206BHJP
   H04N 23/68 20230101ALI20241206BHJP
【FI】
G03B5/00 J
H04N23/50
H04N23/68
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024058950
(22)【出願日】2024-04-01
【審査請求日】2024-04-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】宮森 健一
(72)【発明者】
【氏名】梅田 真
(72)【発明者】
【氏名】木元 雄一朗
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-022269(JP,A)
【文献】特開2008-191266(JP,A)
【文献】特開2015-011277(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202778(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00-5/08
H04N 5/222-5/257
H04N 23/00
H04N 23/40-23/76
H04N 23/90-23/959
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズを保持し、前記光学レンズの光軸からオフセットされた位置に重心が配置されたレンズ枠と、
前記レンズ枠の光軸方向に隣接配置されたフレーム部材と、
前記レンズ枠に設けられており、前記レンズ枠を前記フレーム部材に対して相対移動させる際に電流が流れてローレンツ力を生じさせるコイルと、
前記フレーム部材と前記レンズ枠との間において転動可能な状態で設けられ、前記レンズ枠を支承する3つ以上の球状部材と、
前記レンズ枠を前記フレーム部材に押し付ける力を付与するとともに、前記フレーム部材に設けられたマグネットと、前記マグネットに対して吸引され前記レンズ枠における前記マグネットに対向する位置であって前記レンズ枠の各駆動軸上へ前記レンズ枠の重心位置を投影した位置に配置され、前記マグネットよりも前記光軸方向から見て小さい磁性体と、を有している押し付け機構と、
を備えている手振れ補正機構。
【請求項2】
前記磁性体は、その重心位置が前記マグネットの分極線よりも可動側の部材の重心位置の近傍に配置されている、
請求項1に記載の手振れ補正機構。
【請求項3】
前記3つ以上の球状部材は、前記レンズ枠の重心を囲むように配置され、
複数の前記磁性体の少なくとも1つは、前記3つ以上の球状部材を結んだ多角形の辺上、または前記多角形の内部に配置される、
請求項1または2に記載の手振れ補正機構。
【請求項4】
前記マグネットは、前記レンズ枠を駆動するために前記コイルの近傍に設けられている、
請求項1または2に記載の手振れ補正機構。
【請求項5】
前記磁性体は、前記レンズ枠をヨー方向およびピッチ方向にそれぞれ駆動するために設けられた前記マグネットに対向する位置に、それぞれ配置されている、
請求項4に記載の手振れ補正機構。
【請求項6】
前記マグネットは、前記フレーム部材に対する前記レンズ枠の位置を検出するために設けられている、
請求項1または2に記載の手振れ補正機構。
【請求項7】
請求項1または2に記載の手振れ補正機構と、
複数の光学レンズを含む光学系と、
を備えているレンズ鏡筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レンズ鏡筒に搭載される手振れ補正機構およびこれを備えたレンズ鏡筒に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のレンズ群より成りそのうちの一部の振れ補正用のレンズ群を光軸と垂直な平面内を平行移動するようにした光学系に対して平行移動させるレンズ群を保持する可動部材と、該可動部材を光軸方向に規制する固定部材と、可動部材と固定部材との間に挟持され可動部材もしくは固定部材に設けられた制限範囲内で可動部材および固定部材のそれぞれに対して相対移動可能な少なくとも3つのボールと、可動部材を固定部材の方向に付勢する付勢手段と、可動部材を略直交する2つの方向に移動させる力を発生する2つの駆動手段と、可動部材の略直交する2つの方向の位置をそれぞれ独立に検出する2つの位置検出手段と、を有するレンズ鏡筒について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-290184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のレンズ鏡筒では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示されたレンズ鏡筒では、手振れ補正機構においてモーメントが生じやすく効率的に駆動されるとは言い難い。
本開示の課題は、モーメントの発生を抑制して効率的に駆動することが可能な手振れ補正機構およびこれを備えたレンズ鏡筒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る手振れ補正機構は、レンズ枠と、フレーム部材と、コイルと、3つ以上の球状部材と、押し付け機構と、を備えている。レンズ枠は、光学レンズを保持する。フレーム部材は、レンズ枠の光軸方向に隣接配置されている。コイルは、レンズ枠に設けられており、レンズ枠をフレーム部材に対して相対移動させる際に電流が流れてローレンツ力を生じさせる。3つ以上の球状部材は、フレーム部材とレンズ枠との間において転動可能な状態で設けられ、レンズ枠を支承する。押し付け機構は、レンズ枠をフレーム部材に押し付ける力を付与するとともに、フレーム部材に設けられたマグネットと、マグネットに対して吸引されレンズ枠におけるマグネットに対向する位置であってレンズ枠を含む可動側の部材の重心位置の近傍に配置された磁性体と、を有している。
【発明の効果】
【0006】
本開示に係る手振れ補正機構によれば、モーメントの発生を抑制して効率的に駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態に係る手振れ補正機構を含むレンズ鏡筒の構成示す分解斜視図。
図2図1のレンズ鏡筒に含まれる手振れ補正機構を含む構成を示す斜視図。
図3図2の手振れ補正機構のX-X線断面図。
図4図2の手振れ補正機構の被写体側から見た平面図。
図5図4の手振れ補正機構のA-B-C-D-E-F-G-H線断面図。
図6図4の手振れ補正機構の主要な構成の配置を示す平面図。
図7図6の手振れ補正機構の直動(ヨー)方向における推力分布を示すグラフ。
図8図6の手振れ補正機構の回動(ピッチ)方向における推力分布を示すグラフ。
図9図6の手振れ補正機構の磁性板の配置を可動側の部材の重心位置からずれた位置に変えた構成を示す平面図。
図10図9の断面図。
図11】本開示の他の実施形態に係る手振れ補正機構の主要な構成の配置を示す平面図。
図12】本開示のさらに他の実施形態に係る手振れ補正機構の主要な構成の配置を示す平面図。
図13】本開示のさらに他の実施形態に係る手振れ補正機構の主要な構成の配置を示す平面図。
図14図13の断面図。
図15】本開示のさらに他の実施形態に係る手振れ補正機構の主要な構成の配置を示す平面図。
図16図15の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
なお、出願人は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0009】
(実施形態1)
本開示の一実施形態に係る手振れ補正機構20を搭載したレンズ鏡筒10について、図1図10を用いて説明すれば以下の通りである。
(1)レンズ鏡筒10の構成
本実施形態に係るレンズ鏡筒10は、カメラ本体(図示せず)に着脱可能な状態で取り付けられ、図1に示すように、1群ユニット11と、OIS(Optical Image Stabilizer)ユニット12と、カム枠13と、フォーカスユニット14と、外装ユニット15と、を備えている。
【0010】
1群ユニット11は、図1に示すように、レンズ鏡筒10を構成する部品のうち、光軸AX方向において最も被写体側に配置された略円筒状の部材であって、その内周面側において1群レンズを保持している。
OIS(Optical Image Stabilizer)ユニット12は、後述する手振れ補正機構20を含む構成であって、レンズ枠21および固定枠22等を備えている。
【0011】
カム枠13は、図1に示すように、OISユニット12の外周面側に配置され、略円筒状の本体部13aと、本体部13aに形成された複数のカム溝13b,13cとを有している。カム溝13b,13cには、外装ユニット15のカムピン(図示せず)が係合した状態で移動する。
フォーカスユニット14は、図1に示すように、光軸AX方向において、OISユニット12の像面側に配置されており、その内周面側においてフォーカスレンズを保持している。フォーカスユニット14は、内部にフォーカス用レンズおよび光軸AX方向への駆動機構を有しており、光軸AX方向においてフォーカス用レンズを前後に移動させる。
【0012】
外装ユニット15は、図1に示すように、レンズ鏡筒10の外装部分を構成する略円筒形状を有する部材であって、その外周面には、円環状のズームリング15a、フォーカスリング15b等が周方向に沿って回転可能な状態で取り付けられている。
(2)手振れ補正機構20の構成
本実施形態に係る手振れ補正機構20は、所謂、ムービングコイル方式を採用した機構であって、検出された手振れの方向とは反対方向へレンズ枠21を移動させるように制御する。手振れ補正機構20は、図2および図3に示すように、光学レンズL1を保持するレンズ枠21と、固定枠(フレーム部材)22と、コイル23a,23b(図6参照)と、3つのボール(球状部材)24(図6参照)と、押し付け機構25と、回動軸26と、スラストばね27(図4参照)と、抜け止め28(図4参照)と、位置検出素子29a,29b(図5参照)と、を備えている。
【0013】
レンズ枠21は、図2および図3に示すように、中央部分において光学レンズL1を保持する略板状の部材であって、固定枠22に対して相対移動可能な状態で取り付けられている。レンズ枠21は、3つのボール24によって光学レンズL1の光軸方向において3点で支承されている。レンズ枠21は、後述するコイル23a,23bに対して電流を流すことで、ジャイロセンサ(図示せず)等を用いて検出された手振れ方向とは反対の方向へ移動するように駆動される。
【0014】
固定枠(フレーム部材)22は、図4および図5に示すように、略円筒状の部材であって、光軸方向においてレンズ枠21に隣接配置されている。固定枠22には、後述するマグネット25a,25b,25c,25d等が配置されている。
コイル23a,23b(図6参照)は、レンズ枠21に設けられており、レンズ枠21を固定枠22に対して相対移動させるために電流を流すと、隣接配置されたマグネット25a,25bの磁力によって、所望の方向(手振れ方向と反対方向)へローレンツ力を生じさせる。
【0015】
コイル23aは、図5に示すように、レンズ枠21に設けられており、手振れが検出された際に通電され、レンズ枠21を移動させるように制御される。コイル23aは、直動側(ヨー側)へレンズ枠21を駆動する際に通電されることで、固定枠22側に対向配置されたマグネット25aの磁力によってローレンツ力を発生させる。
コイル23bは、図5に示すように、レンズ枠21に設けられており、手振れが検出された際に通電され、レンズ枠21を移動させるように制御される。コイル23bは、回動側(ピッチ側)へレンズ枠21を駆動する際に通電されることで、固定枠22側に対向配置されたマグネット25bの磁力によってローレンツ力を発生させる。
【0016】
3つのボール(球状部材)24(図6参照)は、固定枠22とレンズ枠21との間において転動可能な状態で設けられ、固定枠22に対してレンズ枠21を支承する。
押し付け機構25は、レンズ枠21を固定枠22に押し付ける力を付与するとともに、固定枠22に設けられたマグネット25a,25bと、マグネット25a,25bに対して吸引されレンズ枠21におけるマグネット25a,25bに対向する位置であってレンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gの近傍に配置された磁性板25e,25fと、を有している。
【0017】
ここで、可動側の部材とは、光学レンズL1、レンズ枠21、コイル23a,23bを含む構成であって、ボール24を介して固定枠22に支持され、コイル23a,23bへの通電によって駆動される部分を意味している。
なお、押し付け機構25の詳細な構成については、後段にて詳述する。
回動軸26は、図4および図5に示すように、光軸方向に沿って配置された棒状の部材であって、固定枠22側に第1端が固定され、レンズ枠21側の第2端は、長穴26bと回転・直動可能な様に嵌合している。回動軸26は、固定枠22に対してレンズ枠21がピッチ方向へ回動制御される際の回動中心となる。長穴26bの長辺の側面は、レンズ枠21がヨー方向へ、直動制御される際の摺動面となる。
【0018】
スラストばね27は、図4に示すように、押し付け機構25が設けられていない側のレンズ枠21の端部に設けられている。スラストばね27は、落下・衝撃等、不適な取扱いがされた際に、レンズ枠21の端部が浮き上がり、継続的な大きな振動が発生しないように、レンズ枠21を光軸方向において固定枠22の側へ引っ張る力を付与する。
抜け止め28は、図4に示すように、レンズ枠21の上面に設けられており、レンズ枠21を貫通して固定枠22に固定されている。抜け止め28は、レンズ枠21が光軸方向において固定枠22から所定の距離以上、離間しないように取り付けられている。
【0019】
位置検出素子29a,29bは、図5に示すように、手振れ補正機構20によってレンズ枠21が駆動された際のレンズ枠21の固定枠22に対する相対位置を検出するために、レンズ枠21に配置されている。
位置検出素子29aは、図5に示すように、直動側(ヨー側)の位置検出用のマグネット25cに対向する位置に配置されており、直動側(ヨー側)におけるレンズ枠21の固定枠22に対する相対位置を検出する。
【0020】
位置検出素子29bは、図5に示すように、回動側(ピッチ側)の位置検出用のマグネット25dに対向する位置に配置されており、回動側(ピッチ側)におけるレンズ枠21の固定枠22に対する相対位置を検出する。
(3)押し付け機構25の構成
本実施形態の手振れ補正機構20に設けられた押し付け機構25は、上述したように、固定枠22に対して、光軸方向においてレンズ枠21を押し付ける力を付与する。手振れ補正機構20は、図6に示すように、マグネット25aと磁性板25eを一対とし、マグネット25bと磁性板25fとを一対とする、合計2組が設けられている。
【0021】
すなわち、押し付け機構25は、マグネット25aと磁性板25eとの間に生じる第1吸引力と、マグネット25bと磁性板25fとの間に生じる第2吸引力とによって、レンズ枠21を固定枠22に対して光軸方向において押し付けることができる。
マグネット25aは、直動側(ヨー側)においてレンズ枠21を駆動するために、固定枠22におけるレンズ枠21側のコイル23aに対向する位置に設けられている。また、マグネット25aは、磁性板25eとの間において吸引力を発生させることで、レンズ枠21を固定枠22に対して押し付ける力を付与する。
【0022】
磁性板25eは、直動側(ヨー側)のマグネット25aに対して、光軸方向において互いに対向する位置に配置されており、マグネット25aに対して引き付けられる吸引力が付与される。磁性板25eは、図6に示すように、レンズ枠21の各駆動軸上へレンズ枠21(可動側の部材)の重心Gを投影した位置に配置されている。
すなわち、磁性板25eは、図6に示すように、平面視において、レンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gからマグネット25a上における最短距離の位置に配置されている。
【0023】
マグネット25bは、回動軸26を中心としてレンズ枠21を回動させるために、固定枠22におけるレンズ枠21側のコイル23bに対向する位置に設けられている。また、マグネット25bは、磁性板25fとの間において吸引力を発生させることで、レンズ枠21を固定枠22に対して押し付ける力を付与する。
磁性板25fは、回動側(ピッチ側)のマグネット25bに対して、光軸方向において互いに対向する位置に配置されており、マグネット25bに対して引き付けられる吸引力が付与される。磁性板25fは、磁性板25eと同様に、図6に示すように、レンズ枠21の各駆動軸上へレンズ枠21(可動側の部材)の重心Gを投影した位置に配置されている。
【0024】
すなわち、磁性板25fは、図6に示すように、平面視において、レンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gからマグネット25b上における最短距離の位置に配置されている。
これにより、可動側(レンズ枠21)にコイル23a,23bが取り付けられたムービングコイル方式の手振れ補正機構20において、固定側(固定枠22)に固定されたマグネット25a,25bに対して所定の距離離間した位置に磁性板25e,25fが配置されていることで、磁性板25e,25fとマグネット25a,25bとの間に発生する磁気吸引力によってスラスト方向(光軸方向)に付勢することができる。
【0025】
よって、従来の付勢用の引張コイルばねを、手振れ補正機構20の外周部に配置する必要がないため、従来よりもレンズ鏡筒10を小径化することができる。また、引張コイルばねの部品ばらつき、組み立てばらつき等に起因するスラスト力のばらつきが生じない。
さらに、磁性板25e,25fを、レンズ枠21を駆動するためのマグネット25a,25bに対して駆動用のコイル23a,23b側に対向する位置に配置されていることで、推力を向上させることができる。
【0026】
また、可動側にマグネットが配置されたムービングマグネット方式と比較して、可動側(レンズ枠21等)が軽量になるため、アクチュエータ(耐G)性能を向上させることができる。
さらに、本実施形態の手振れ補正機構20では、レンズ枠21を固定枠22に対して相対移動させるための既存の駆動用マグネット25a,25bに、光軸方向において互いに対向する位置に、磁性板25e,25fが配置されている。
【0027】
これにより、光軸方向においてレンズ枠21を固定枠22に対して押し付けるために、別途、マグネットを配置する必要がないため、部品点数の増加や重量の増大を回避することができる。
また、磁性板25e,25fが、直動(ヨー)方向、回動(ピッチ)方向のそれぞれ駆動用のマグネット25a,25bと対向する位置に配置されているため、駆動用のコイル23a,23bに鎖交する磁束密度が増加して、推力を向上させることができる。
【0028】
具体的には、直動(ヨー)方向における推力分布は、図7に示すように、磁性板25e,25fが配置されていない構成では、約5.00×10-3(N)の推力が発生するのに対し、磁性板25eが配置された構成では、約8.00~11.00×10-3(N)の推力が発生した。特に、図7において、破線で示す磁性板25eが配置された位置において、最大推力が得られた。
【0029】
同様に、回動(ピッチ)方向における推力分布は、図8に示すように、約5.00×10-3(N)の推力が発生するのに対し、磁性板25fが配置された構成では、約8.50~11.00×10-3(N)の推力が発生した。特に、図8において、破線で示す磁性板25fが配置された位置において、最大推力が得られた。
これにより、マグネット25a,25bとコイル23a,23bとを所定の距離を隔てて配置し、コイル23a,23bに通電することによってレンズ枠21を駆動するアクチュエータにおいて、レンズ枠21を光軸(スラスト)方向に付勢するための磁性板25e,25fをマグネット25a,25bの近傍に配置することで、磁性板25e,25fを配置した位置近傍の推力が高くなる。このため、可動側のレンズ枠21等の重心Gにそれぞれのアクチュエータの磁性板25e,25fを配置したことにより、可動側の部材の重心Gの部分を駆動することができるため、モーメントが発生することなく効率的に駆動することができる。
【0030】
本実施形態の手振れ補正機構20では、特に、磁性板25e,25fを、直動(ヨー)方向および回動(ピッチ)方向において、レンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gを投影した位置に配置されている。
これにより、モーメントの発生を抑制して、効率的な駆動を可能とすることができる。
<主要な特徴>
本実施形態の手振れ補正機構20は、図6に示すように、レンズ枠21と、固定枠22と、コイル23a,23bと、3つのボール24と、押し付け機構25と、を備えている。レンズ枠21は、光学レンズL1を保持する。固定枠22は、レンズ枠21の光軸方向に隣接配置されている。コイル23a,23bは、レンズ枠21に設けられており、レンズ枠21を固定枠22に対して相対移動させる際に電流が流れてローレンツ力を生じさせる。3つのボール24は、固定枠22とレンズ枠21との間において転動可能な状態で設けられ、レンズ枠21を支承する。押し付け機構25は、レンズ枠21を固定枠22に押し付ける力を付与するとともに、固定枠22に設けられたマグネット25a,25bと、マグネット25a,25bに対して吸引されレンズ枠21におけるマグネット25a,25bに対向する位置であってレンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gの近傍に配置された磁性板25e,25fと、を有している。
【0031】
これにより、レンズ枠21にコイル23a,23bが取り付けられたムービングコイル方式の手振れ補正機構20において、固定枠22に固定されたマグネット25a,25bに対向する位置へ磁性板25e,25fが配置されているため、磁性板25e,25fとマグネット25a,25bとの間に発生する磁気吸引力によってスラスト方向(光軸方向)に付勢することができる。
【0032】
また、磁性板25e,25fが、マグネット25a,25bに対向する位置であって、レンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gの近傍に配置されているため、レンズ枠21を含む可動側の重心付近に力を付与することができる。
この結果、所謂、ムービングコイル方式を採用した手振れ補正機構20において、モーメントの発生を抑制して効率的に駆動することができる。
【0033】
[他の実施形態]
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(A)
上記実施形態では、本開示の手振れ補正機構20に含まれる押し付け機構25の磁性板25e,25fが、可動側の部材の重心Gから各駆動軸上へ投影した位置(マグネット25a,25b上における最短距離の位置)に配置されている例を挙げて説明した。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。
【0034】
例えば、図9および図10に示すように、一方の磁性板25eのみが可動側の部材の重心Gから各駆動軸上へ投影した位置(マグネット25a上における最短距離の位置)に配置されており、他方の磁性板25fは、可動側の部材の重心Gから各駆動軸上へ投影した位置(マグネット25b上における最短距離の位置)からオフセットされた位置に配置された構成であってもよい。
【0035】
(B)
上記実施形態では、光学レンズL1の光軸中心の位置から図中下向きに移動した位置に、レンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gが配置されており、この重心Gを直動側および回動側のそれぞれの駆動軸に投影した位置に、磁性板25e,25fが配置されている例を挙げて説明した。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。
【0036】
例えば、図11に示すように、光学レンズL1の光軸中心の位置から図中左向きおよび下向きに移動した位置に、レンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gが配置されており、この重心G直動側および回動側のそれぞれの駆動軸に投影した位置に、磁性板25e,125fがそれぞれ配置された押し付け機構125であってもよい。
この場合には、光軸周りの擾乱抑制のために、最大推力が発生する位置を磁性板25e,25fを重心Gの位置に合わせて配置することで、レンズ枠21の光軸周りモーメント力の発生を効果的に抑制することができる。
【0037】
また、図11に示すように、磁気分極線よりも重心G側にずらして、磁性板25fを配置することで、レンズ枠21を重心Gの方向への付勢する力を発生させることができる。
さらに、本実施形態では、磁性板125fの位置は、3つのボール24のうち、磁性板125fの両側を囲む2つのボールを結んだ直線上にかかるところまで、磁性板125fを重心側にズラしている。このため、光軸方向への吸引力(押し付け力)によって発生する、磁性板125fの両側を囲む2つのボールを結んだ軸周りのモーメントは、非常に小さくなり、光軸方向におけるバタツキ振動の一つのモードを抑制することができる。
【0038】
(C)
上記実施形態では、図6等に示すように、平面視において略正三角形になるように、3つのボール24が配置され、図中の三角形の底辺側のみ、磁性板25fが三角形の辺上に配置されている例を挙げて説明した。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。
例えば、図12に示すように、3つのボール(球状部材)124が、レンズ枠21を含む可動側の部材の重心Gを囲むように配置され、2つの磁性板25e,125fがともに、3つのボール124を結んだ三角形(多角形)の辺上に配置された構成であってもよい。
【0039】
この場合には、図12に示すように、磁気付勢力(押し付け力)により発生する、3つのボール124のうち、磁性板25e,25fの両側に配置される2つのボール124を結ぶ2つの軸周りのモーメント力の発生を少なくして、光軸方向におけるバタツキ振動を抑制することができる。
(D)
上記実施形態では、図5および図6に示すように、レンズ枠21を駆動するために固定枠22側に配置されたマグネット25a,25bに対向するレンズ枠21側の位置に、押し付け機構25を構成する磁性板25e,25fをそれぞれ配置した例を挙げて説明した。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。
【0040】
例えば、図13および図14に示すように、レンズ枠21の位置を検出するために固定枠22側に配置されたマグネット25c,25dに対向するレンズ枠21側の位置に、磁性板225e,225fを配置して、押し付け機構225が構成されていてもよい。
この場合でも、駆動用のマグネット25a,25bとこれに対向配置された磁性板25e,25fと同様に、位置検出用のマグネット25c,25dとこれに対向配置された磁性板225e,225fとの間において、光軸方向においてレンズ枠21を固定枠22側へ押し付ける力を付与することができる。
【0041】
(E)
上記実施形態では、図5および図6に示すように、レンズ枠21を駆動するために固定枠22側に配置されたマグネット25a,25bに対向するレンズ枠21側の位置のみに、押し付け機構25を構成する磁性板25e,25fをそれぞれ配置した例を挙げて説明した。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。
【0042】
例えば、図15および図16に示すように、駆動側のマグネット25a,25bに対向する位置に加えて、回動側の位置検出用のマグネット25dに対向する位置に、それぞれ磁性板325e,325fa.325fbが配置された押し付け機構325であってもよい。
なお、回動側の位置検出用のマグネット25dの代わりに、あるいは追加して、直動側の位置検出用のマグネット25cに対向する位置に磁性板を配置して押し付け機構を構成してもよい。
【0043】
(F)
上記実施形態では、固定枠22に対してレンズ枠21を支持する球状部材として、3つのボール24を用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、球状部材の数は、3つに限定されるものではなく、4つ以上であってもよい。
【0044】
(G)
上記実施形態では、押し付け機構25を構成する磁性体として、板状の磁性板25e,25fを用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、磁性体の形状は板状でなく、他の形状であってもよい。
(H)
上記実施形態では、カメラ本体に対して着脱可能な状態で取り付けられるレンズ鏡筒10に、本開示の構成を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
例えば、カメラ本体に着脱不能な状態で固定されたレンズ鏡筒に対して、本開示の構成が適用されてもよい。
<付記>
以上の実施の形態の記載により、下記の技術が開示される。
(技術1)
技術1に係る手振れ補正機構は、
光学レンズを保持するレンズ枠と、
前記レンズ枠の光軸方向に隣接配置されたフレーム部材と、
前記レンズ枠に設けられており、前記レンズ枠を前記フレーム部材に対して相対移動させる際に電流が流れてローレンツ力を生じさせるコイルと、
前記フレーム部材と前記レンズ枠との間において転動可能な状態で設けられ、前記レンズ枠を支承する3つ以上の球状部材と、
前記レンズ枠を前記フレーム部材に押し付ける力を付与するとともに、前記フレーム部材に設けられたマグネットと、前記マグネットに対して吸引され前記レンズ枠における前記マグネットに対向する位置であって前記レンズ枠を含む可動側の部材の重心位置の近傍に配置された磁性体と、を有している押し付け機構と、
を備えている。
【0046】
(技術2)
技術2に係る手振れ補正機構は、技術1に係る手振れ補正機構であって、
前記磁性体は、前記レンズ枠の各駆動軸上へ前記レンズ枠の重心位置を投影した位置に配置されている。
(技術3)
技術3に係る手振れ補正機構は、技術1または2に係る手振れ補正機構であって、
前記3つ以上の球状部材は、前記レンズ枠の重心を囲むように配置され、複数の前記磁性体の少なくとも1つは、前記3つ以上の球状部材を結んだ多角形の辺上、または前記多角形の内部に配置される。
【0047】
(技術4)
技術4に係る手振れ補正機構は、技術1から3のいずれか1つに係る手振れ補正機構であって、
前記マグネットは、前記レンズ枠を駆動するために前記コイルの近傍に設けられている。
【0048】
(技術5)
技術5に係る手振れ補正機構は、技術4に係る手振れ補正機構であって、
前記磁性体は、前記レンズ枠をヨー方向およびピッチ方向にそれぞれ駆動するために設けられた前記マグネットに対向する位置に、それぞれ配置されている。
(技術6)
技術6に係る手振れ補正機構は、技術1から5のいずれか1つに係る手振れ補正機構であって、
前記マグネットは、前記フレーム部材に対する前記レンズ枠の位置を検出するために設けられている。
【0049】
(技術7)
技術7に係るレンズ鏡筒は、
技術1から6のいずれか1つに係る手振れ補正機構と、
複数の光学レンズを含む光学系と、
を備えている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示の手振れ補正機構は、モーメントの発生を抑制して効率的に駆動することができるという効果を奏することから、手振れ補正機構が搭載された各種レンズ鏡筒に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 レンズ鏡筒
11 1群ユニット
12 OISユニット
13 カム枠
13a 本体部
13b,13c カム溝
14 フォーカスユニット
15 外装ユニット
15a ズームリング
15b フォーカスリング
20 手振れ補正機構
21 レンズ枠
22 固定枠(フレーム部材)
23a コイル
23b コイル
24 ボール(球状部材)
25 押し付け機構
25a マグネット
25b マグネット
25c マグネット
25d マグネット
25e 磁性板(磁性体)
25f 磁性板(磁性体)
26 回動軸
27 スラストばね
28 抜け止め
29a,29b 位置検出素子
124 ボール(球状部材)
125 押し付け機構
125f 磁性板(磁性体)
225 押し付け機構
225e 磁性板(磁性体)
225f 磁性板(磁性体)
325 押し付け機構
325e 磁性板(磁性体)
325fa 磁性板(磁性体)
325fb 磁性板(磁性体)
L1 光学レンズ
【要約】
【課題】モーメントの発生を抑制して効率的に駆動することが可能な手振れ補正機構およびこれを備えたレンズ鏡筒を提供する。
【解決手段】手振れ補正機構20は、レンズ枠21、固定枠22、コイル23a,23b、3つのボール24、押し付け機構25を備える。コイル23a,23bは、レンズ枠21に設けられており、レンズ枠21を固定枠22に対して相対移動させる際に電流が流れてローレンツ力を生じさせる。3つのボール24は、固定枠22とレンズ枠21との間において転動可能な状態でレンズ枠21を支承する。押し付け機構25は、レンズ枠21を固定枠22に押し付ける力を付与し、固定枠22側のマグネット25a,25bと、マグネット25a,25bに対して吸引されレンズ枠21におけるマグネット25a,25bに対向するように可動側の部材の重心Gの近傍に配置された磁性体25e,25fと、を有する。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16