(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-05
(45)【発行日】2024-12-13
(54)【発明の名称】環境制御システム、環境制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G10K 15/04 20060101AFI20241206BHJP
H05B 47/175 20200101ALI20241206BHJP
H05B 47/155 20200101ALI20241206BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
G10K15/04 302F
H05B47/175
H05B47/155
H04R1/02 103F
(21)【出願番号】P 2021011546
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】奥野 達也
(72)【発明者】
【氏名】上野 早織
(72)【発明者】
【氏名】原田 和樹
【審査官】川▲崎▼ 博章
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093204(JP,A)
【文献】特開2018-088372(JP,A)
【文献】特開2018-142494(JP,A)
【文献】特開2011-153759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/04
H05B 47/175
H05B 47/155
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象空間に割り当てられた1以上の照明器具、及び前記対象空間に割り当てられた1以上の音響装置を制御することにより、前記対象空間の環境を制御する制御部と、
前記1以上の音響装置が再生する特定音楽を生成する音源生成部と、を備え、
前記音源生成部は、前記特定音楽の旋律、和声、及び律動のうちの少なくとも1つを変更することにより、前記特定音楽を更新
し、
前記特定音楽の生成は、既存の音楽をベースとして、当該音楽を構成する1以上のパラメータの一部又は全部を無作為に変更することで新規の特定音楽を生成すること、及び、既存の音楽が無い状態で、音楽を構成する1以上のパラメータの一部又は全部を無作為に決定することで新規の特定音楽を生成することのいずれか一方である、
環境制御システム。
【請求項2】
前記対象空間は複数であって、
前記制御部は、前記複数の対象空間の環境を互いに異ならせるように、前記複数の対象空間の各々に割り当てられた前記1以上の照明器具及び前記1以上の音響装置を制御する、
請求項1に記載の環境制御システム。
【請求項3】
前記音源生成部は、前記対象空間を有する施設に設置されており、外部ネットワークを介さずに前記特定音楽を更新する、
請求項1又は2に記載の環境制御システム。
【請求項4】
前記特定音楽は、ジャズ又はボサノバに分類される音楽であって、
前記制御部は、照明光の色温度が基準色温度よりも低くなるように前記1以上の照明器具を制御する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の環境制御システム。
【請求項5】
前記対象空間におけるユーザに関するユーザ情報を取得する取得部を更に備え、
前記音源生成部は、前記取得部が取得した前記ユーザ情報に基づいて、前記特定音楽を更新する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の環境制御システム。
【請求項6】
前記音源生成部は、前記特定音楽を所定時間ごとに更新する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の環境制御システム。
【請求項7】
対象空間に割り当てられた1以上の照明器具、及び前記対象空間に割り当てられた1以上の音響装置を制御することにより、前記対象空間の環境を制御する制御ステップと、
前記1以上の音響装置が再生する特定音楽を生成する音源生成ステップと、を含み、
前記音源生成ステップでは、前記特定音楽の旋律、和声、及び律動のうちの少なくとも1つを変更することにより、前記特定音楽を更新
し、
前記特定音楽の生成は、既存の音楽をベースとして、当該音楽を構成する1以上のパラメータの一部又は全部を無作為に変更することで新規の特定音楽を生成すること、及び、既存の音楽が無い状態で、音楽を構成する1以上のパラメータの一部又は全部を無作為に決定することで新規の特定音楽を生成することのいずれか一方である、
環境制御方法。
【請求項8】
1以上のプロセッサに、
請求項
7に記載の環境制御方法を実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境制御システム、環境制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、音響照明装置が開示されている。この音響照明装置は、照明部と、音響出力部と、設定部と、制御部と、を備えている。設定部は、周囲に存在する認識されたユーザに応じて、照明部の照明および音響出力部の音響出力の少なくともいずれかのパラメータを設定する。制御部は、設定部により設定されたパラメータに従って、照明部の照明及び音響出力部の音響出力の少なくともいずれかを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、対象空間の環境がユーザに与える影響が持続しやすい環境制御システム、環境制御方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る環境制御システムは、制御部と、音源生成部と、を備える。前記制御部は、対象空間に割り当てられた1以上の照明器具、及び前記対象空間に割り当てられた1以上の音響装置を制御することにより、前記対象空間の環境を制御する。前記音源生成部は、前記1以上の音響装置が再生する特定音楽を生成する。前記音源生成部は、前記特定音楽の旋律、和声、及び律動のうちの少なくとも1つを変更することにより、前記特定音楽を更新する。
【0006】
本発明の一態様に係る環境制御方法は、制御ステップと、音源生成ステップと、を含む。前記制御ステップでは、対象空間に割り当てられた1以上の照明器具、及び前記対象空間に割り当てられた1以上の音響装置を制御することにより、前記対象空間の環境を制御する。前記音源生成ステップでは、前記1以上の音響装置が再生する特定音楽を生成する。前記音源生成ステップでは、前記特定音楽の旋律、和声、及び律動のうちの少なくとも1つを変更することにより、前記特定音楽を更新する。
【0007】
本発明の一態様に係るプログラムは、1以上のプロセッサに、前記環境制御方法を実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の環境制御システム、環境制御方法、及びプログラムは、対象空間の環境がユーザに与える影響が持続しやすい、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る環境制御システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る環境制御システムが使用されるオフィスの概要を示す図である。
【
図3】
図3は、照明制御及び音響制御の評価実験の結果を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る環境制御システムの動作例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施の形態の変形例に係る環境制御システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
【0012】
(実施の形態)
[構成]
まず、実施の形態に係る環境制御システム100の構成について説明する。
図1は、実施の形態に係る環境制御システム100の機能構成を示すブロック図である。
図2は、実施の形態に係る環境制御システム100が使用されるオフィス3の概要を示す平面図である。
【0013】
実施の形態に係る環境制御システム100は、例えばオフィス等のユーザが作業を行う環境で使用され、このような環境を制御するためのシステムである。実施の形態では、環境制御システム100は、例えば自身の行いたい作業に応じて自由に作業場所を選択し得るABW(Activity Based Working)型のオフィス3に使用される、と仮定する。ここで、「ABW」とは、仕事内容に合わせて働く場所又はデスク等をユーザ(従業員等)が選択する働き方をいう。ABW型のオフィスにおいては、ユーザは、集中力を要する作業を行う場合には比較的静音性の高い場所を選択し、打ち合わせを行う場合にはソファ等のリラックス可能な場所を選択することが可能である。
【0014】
なお、環境制御システム100は、ABW型のオフィスに限らず、フリーアドレス型のオフィスで使用されてもよいし、ユーザが行いたい作業に応じて自由に作業場所を選択し得る環境であれば、他の環境で使用されてもよい。例えば、環境制御システム100は、小学校、中学校、高校、又は大学等の教育施設で使用されてもよいし、公民館、又は図書館等の公共施設で使用されてもよいし、店舗又は商業施設で使用されてもよい。
【0015】
また、環境制御システム100は、上述のようにユーザが自由に作業場所を選択し得る環境に限らず、例えばユーザの作業領域が固定されたオフィスで使用されてもよい。つまり、環境制御システム100が使用される環境は、ユーザが作業を行う環境でさえあればよい。
【0016】
環境制御システム100は、
図1に示すように、制御部11と、音源生成部12と、記憶部13と、を備えている。なお、環境制御システム100は、少なくとも制御部11及び音源生成部12を備えていればよく、記憶部13は備えていなくてもよい。
【0017】
また、環境制御システム100が使用される環境(ここでは、ABW型のオフィス3)には、
図2に示すように、複数の照明器具1と、複数の音響装置2と、が設置されている。環境制御システム100は、オフィス3に設置されていてもよいし、オフィス3から離れた遠隔地に設置されていてもよい。実施の形態では、環境制御システム100は、オフィス3に設置されている。
【0018】
各照明器具1は、オフィス3の天井に設置されている。もちろん、各照明器具1は、オフィス3の天井のみならず、壁、床、又はデスクに設置されていてもよい。実施の形態では、各照明器具1は、一例として、対象とする空間を均一に照らすアンビエント照明としてのベースライトであって、LED(Light Emitting Diode)等の固体発光素子を有する光源を備えている。また、各照明器具1の光源は、制御部11に制御されることにより調光、調色、又はその両方が可能に構成されている。
【0019】
各照明器具1は、複数のグループG1に割り当てられている。
図2に示す例では、各照明器具1は、3つのグループG1に割り当てられている。もちろん、グループG1の数は3つに限らず、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。ここで、同じグループG1に割り当てられる1以上の照明器具1は、互いに近傍に位置している。そして、あるグループG1に割り当てられる1以上の照明器具1は、オフィス3において当該グループG1に対応する空間(つまり、対象空間4)を照らす。
【0020】
例えば、3つのグループG1がグループ「A」、「B」、「C」である、と仮定する。この場合、グループ「A」に割り当てられた1以上の照明器具1は、オフィス3においてグループ「A」に対応する空間「α」を照らし、グループ「B」に割り当てられた1以上の照明器具1は、オフィス3においてグループ「B」に対応する空間「β」を照らし、グループ「C」に割り当てられた1以上の照明器具1は、オフィス3においてグループ「C」に対応する空間「γ」を照らす。
【0021】
各照明器具1のグループG1への割り当ては、例えば、環境制御システム100の管理者によって、あらかじめ実行される。管理者は、例えば環境制御システム100のパラメータを設定可能な情報端末を用いて、上記割り当てを実行する。情報端末は、一例として、スマートフォン、タブレット端末、又はパーソナルコンピュータ等を含み得る。もちろん、管理者は、環境制御システム100の動作中において、各照明器具1のグループG1への割り当てを適宜変更してもよい。
【0022】
なお、オフィス3において、隣り合う空間の間は仕切られていてもよいし、仕切られていなくてもよい。実施の形態では、オフィス3は1つの大部屋で構成されており、壁又は什器によって仕切られた他の部屋が存在しない、と仮定する。この場合、オフィス3の見通しが向上したり、意匠性が向上したりする、という効果が期待できる。
【0023】
また、実施の形態では、隣り合う2つの空間において、一方の空間に設置された照明器具1から照射される光は、厳密に一方の空間のみを照らしていなくてもよく、一部の光が他方の空間へと漏れることが許容されている。つまり、任意の空間においては、当該空間に対応する照明器具1から照射される光が主たる照明光となっていればよく、当該空間とは異なる空間からの照明光の一部が漏れてきても、当該空間の照明に殆ど影響を与えなければよい。なぜならば、このとき当該空間を使用するユーザの視認性又はユーザが視る作業環境に対して、当該空間とは異なる空間からの照明光の一部が及ぼす影響は限定的であるためである。
【0024】
各音響装置2は、オフィス3の天井に設置されている。もちろん、各音響装置2は、オフィス3の天井のみならず、壁、床、又はデスクに設置されていてもよい。実施の形態では、各音響装置2は、一例として無指向性のスピーカであって、制御部11から送信されるコンテンツを再生する。なお、各音響装置2は、例えばパラメトリック・スピーカ、超音波を用いたスピーカ、又は筐体をホーン構造にしたスピーカ等の指向性を有するスピーカであってもよい。指向性を有するスピーカを用いた場合、一部の音が他の空間へ漏れ出る割合を小さくしやすい、という効果が期待できる。
【0025】
各音響装置2は、各照明器具1と同様に、複数のグループG1に割り当てられている。
図2に示す例では、各音響装置2は、3つのグループG1に割り当てられている。ここで、同じグループG1に割り当てられる1以上の音響装置2は、互いに近傍に位置している。そして、あるグループG1に割り当てられる1以上の音響装置2は、オフィス3において当該グループG1に対応する空間(つまり、対象空間4)に音を出力する。
【0026】
例えば、3つのグループG1がグループ「A」、「B」、「C」である、と仮定する。この場合、グループ「A」に割り当てられた1以上の音響装置2は、オフィス3においてグループ「A」に対応する空間「α」に音を出力し、グループ「B」に割り当てられた1以上の音響装置2は、オフィス3においてグループ「B」に対応する空間「β」に音を出力し、グループ「C」に割り当てられた1以上の音響装置2は、オフィス3においてグループ「C」に対応する空間「γ」に音を出力する。
【0027】
各音響装置2のグループG1への割り当ては、各照明器具1のグループG1への割り当てと同様に、環境制御システム100の管理者が情報端末を用いることで、あらかじめ実行される。もちろん、管理者は、環境制御システム100の動作中において、各音響装置2のグループG1への割り当てを適宜変更してもよい。
【0028】
なお、実施の形態では、隣り合う2つの空間において、一方の空間に設置された音響装置2から出力される音は、一方の空間のみに出力されなくてもよく、一部の音が他方の空間へと漏れ出ることが許容されている。つまり、任意の空間においては、当該空間に対応する音響装置2から出力される音が主たる音となっていればよく、当該空間とは異なる空間からの音の一部が漏れてきても、当該空間の音響に影響を与えなければよい。
【0029】
制御部11は、各照明器具1と通信可能であって、各照明器具1に照明制御信号を送信することにより、各照明器具1の調光、調色、又はその両方を制御する。言い換えれば、制御部11は、対象空間4(グループG1)に割り当てられた1以上の照明器具1を制御する。実施の形態では、制御部11は、同じグループG1に割り当てられた1以上の照明器具1に対しては、同じ照明制御信号を送信する。つまり、制御部11は、各照明器具1を対象空間4(グループG1)ごとに制御する。制御部11と各照明器具1との通信は、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよいし、通信規格も特に限定されない。また、複数の照明制御信号は厳密に同時に送信される必要はなく、複数の照明制御信号の送信の時差は、好ましくは60分以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは1分以内である。上記時差が60分以内であれば、什器又は家具を人力で移動させて空間の環境を変化させることに比べ、省労力となる、という効果が期待できる。
【0030】
また、制御部11から同じグループG1に割り当てられた1以上の照明器具1に対して送信される照明制御信号は厳密に同一である必要はなく、当該空間の影響が限定的である範囲で制御内容に誤差があることが許容される。例えば、許容範囲は、色温度では±500K、調光率では±20%である。
【0031】
また、制御部11は、各音響装置2と通信可能であって、各音響装置2に音響制御信号(再生させたいコンテンツを含む)を送信することにより、各音響装置2にコンテンツを再生させるように制御する。言い換えれば、制御部11は、対象空間4(グループG1)に割り当てられた1以上の音響装置2を制御する。実施の形態では、制御部11は、同じグループG1に割り当てられた1以上の音響装置2に対しては、同じ音響制御信号を送信する。つまり、制御部11は、各音響装置2を対象空間4(グループG1)ごとに制御する。制御部11と各音響装置2との間の通信は、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよいし、通信規格も特に限定されない。
【0032】
また、コンテンツは、制御部11に保存されていてもよいし、各音響装置2に保存されていてもよいし、記憶部13に保存されていてもよい。コンテンツは、例えば、WAV形式、mp3形式などの電子データ媒体で保存される。実施の形態では、コンテンツは記憶部13に保存されていることとする。
【0033】
このように、制御部11は、対象空間4(グループG1)に割り当てられた1以上の照明器具1、及び対象空間4に割り当てられた1以上の音響装置2を制御することにより、対象空間4の環境を制御する。これにより、対象空間4には、1以上の照明器具1による照明環境と、1以上の音響装置2による音響環境と、の両方が提供されるため、いわゆるゾーニング効果が期待できる。
【0034】
また、実施の形態では、対象空間4(グループG1)は複数である。そして、制御部11は、複数の対象空間4の環境を互いに異ならせるように、複数の対象空間4の各々に割り当てられた1以上の照明器具1及び1以上の音響装置2を制御する。これにより、対象空間4ごとに環境を異ならせることが可能であり、対象空間4ごとに異なるゾーニング効果が期待できる。
【0035】
ここで、ゾーニング効果とは、例えば、空間の認知上の区切れ感を意味し、外観上複数の空間が互いに異なる空間であるとユーザが認知しやすい効果を含み得る。また、ゾーニング効果は、ユーザによる認知をもって、ゾーニングの意図通りにユーザの行動又は動線の変化を促しやすくする効果を含み得る。例えば、任意の空間について、ユーザが集中力を要する作業を行いやすい空間となることを意図してゾーニングをした、と仮定する。この場合、当該空間を見たユーザが、集中力を要する作業を行うことを主目的として当該空間を使用すれば、ゾーニング効果が発揮されたと言える。
【0036】
また、ゾーニング効果は、ユーザが実際にゾーニングされた空間を利用した場合に、ユーザの主観的な効果・実感、又は生理・心理・生体的作用がゾーニングの主旨に応じた傾向を示す効果を含み得る。例えば、任意の空間について、集中力を要する作業を行いやすい空間となることを意図してゾーニングを行い、当該空間をユーザが利用した、と仮定する。この場合、ユーザが当該空間を利用することで集中できたという実感を得たり、心理・生体作用としてユーザが集中をしていたことを示唆する指標・データが得られたりすれば、ゾーニング効果が発揮されたと言える。
【0037】
上述のように照明制御を行うことで、什器又は家具を用いることなく空間をゾーニングすることが可能である。このため、空間の意匠性を高めやすく、かつ、調光・調色等の照明制御により瞬時にオフィス3のレイアウトを変化させる、いわゆるアクティブゾーニングが可能となる。すなわち、上記の照明制御によりゾーニングを行う場合、各空間における調光・調色の制御パラメータの変更は例えば数秒で完了する。この場合、結果としてオフィス3のレイアウトを数秒で変更することが可能である。ここで、什器又は家具を人力で移動させることでオフィス3のレイアウトを変更する場合であれば、60分、数時間、又は一日、場合によっては数日を要する。この点から、上記の照明制御によるゾーニングは、極めて顕著な効果を奏し得る。
【0038】
アクティブゾーニングにより、従来の什器又は家具の配置を変更することによるオフィスのレイアウトの変更と比較して、時間ごと、日ごと、又は月ごと等の短周期でオフィス3のレイアウトを変化させることが可能である。
【0039】
実施の形態では、少なくとも1以上の対象空間4(グループG1)において、制御部11は、照明光の色温度が基準色温度よりも低くなるように(言い換えれば、対象空間4を暖色系の照明で照らすように)1以上の照明器具1を制御する。実施の形態では、基準色温度は、4000Kである。このように制御することにより、対象空間4においては、ユーザが比較的リラックスしやすい空間を提供することができる。
【0040】
また、実施の形態では、上記のゾーニング効果を更に高めるべく、上記1以上の対象空間4(グループG1)において、制御部11は、コンテンツとして特定音楽を再生するように1以上の音響装置2を制御する。すなわち、制御部11は、上記1以上の対象空間4においては、当該空間に滞在するユーザが感知し得る程度の音量で特定音楽を再生するように、1以上の音響装置2を制御する。
【0041】
特定音楽は、楽器により演奏された曲、又は歌等を含み得る。なお、特定音楽は、全体に亘って明確な旋律(メロディ)を有している必要はなく、例えば打楽器等の無音階楽器による演奏で構成されていてもよい。また、特定音楽は、照明光により期待できるゾーニング効果と同様のゾーニング効果が期待できるような音楽であるのが好ましい。なぜならば、そのようにすることで照明光により期待できるゾーニング効果と、音楽により期待できるゾーニング効果を、単純に足し合わせた以上の効果を発現しやすくなり、予期せぬ好適な相乗効果を有しやすくなるからである。この点については、後述する[ゾーニング効果の検証]にて詳細に説明する。
【0042】
実施の形態では、特定音楽は、ユーザにリラックス効果を与える音楽である。例えば、特定音楽は、ユーザの副交感神経が交感神経よりも優位になりやすい音楽である。より具体的には、ユーザにリラックス効果を与える音楽としての特定音楽は、ジャズ又はボサノバに分類される音楽である。特定音楽によるゾーニング効果については、後述する[ゾーニング効果の検証]にて詳細に説明する。
【0043】
このように制御することにより、上記1以上の対象空間4(グループG1)においては、1以上の照明器具1からの照明光のみが提供される場合と比較して、更なるリラックス効果が期待できる空間を提供することができる。
【0044】
音源生成部12は、1以上の音響装置2が再生する特定音楽を生成する。実施の形態では、音源生成部12は、音楽を自動生成するアプリケーションをプロセッサが実行することにより、特定音楽を生成する。つまり、音源生成部12は、CPUのメモリに記録されたプログラムソフトウェアである場合を含み得る。ここで、対象空間4(グループG1)ごとに異なる特定音楽を再生する場合であれば、音源生成部12は、対象空間4ごとに特定音楽を生成する。
【0045】
ここでいう「特定音楽の生成」とは、既存の音楽をベースとして、音楽を構成する種々のパラメータの一部又は全部を無作為に変更することで新規の特定音楽を生成することを含み得る。また、ここでいう「特定音楽の生成」とは、既存の音楽が無い状態で、音楽を構成する種々のパラメータの一部又は全部を無作為に決定することで新規の特定音楽を生成することを含み得る。前者の場合、音源生成部12を用いる際にベースとなる音楽を用意する必要があるが、後者の場合、ベースとなる音楽を用意する必要がない。なお、ここでいう「無作為に変更(又は決定)する」とは、例えば擬似乱数生成アルゴリズムにより生成された擬似乱数に従って変更(又は決定)することを含み得る。
【0046】
音楽を構成するパラメータは、例えば主旋律及び/又は副旋律等のパターン、ジャンル、テンポ、音程、演奏する楽器の種類、又はダイナミックレンジ(再生音量の最大値と最小値との差)等を含み得る。
【0047】
また、音源生成部12は、特定音楽の旋律(メロディ)、和声(ハーモニー)、及び律動(リズム)のうちの少なくとも1つを変更することにより、特定音楽を更新する。具体的には、音源生成部12は、更新前の特定音楽が有する種々のパラメータの一部又は全部を変更して、更新前の特定音楽とは異なる特定音楽を生成することにより、特定音楽を更新する。更新前の特定音楽は、更新前において1以上の音響装置2が再生している音楽であってもよいし、記憶部13に記憶されている音楽であってもよい。
【0048】
ここで、音源生成部12は、対象空間4の環境によるゾーニング効果が損なわれない範囲で、特定音楽を更新する。例えば、特定音楽がジャズ又はボサノバに分類される音楽である場合、音源生成部12は、音楽のジャンルを変更せずに、更新前の特定音楽が有する他のパラメータの一部又は全部を変更することにより、特定音楽を更新する。また、例えば、特定音楽がユーザにリラックス効果を与える音楽である場合、音源生成部12は、当該効果が損なわれない範囲で、更新前の特定音楽が有する種々のパラメータの一部又は全部を変更することにより、特定音楽を更新する。
【0049】
また、既存の音楽が無い状態で、音楽を構成する種々のパラメータの一部又は全部を無作為に決定することで新規の特定音楽を生成する手段としては、楽曲を特徴づけるコード進行を先に定義し、その楽曲のキー(調)に対して適切な旋律を準無作為的に付与する方法も含み得る。ここでいう「準無作為」とは、例えばジャズ又はブルースといったジャンルの音楽において、演奏家が、曲のコード進行に合わせて、楽譜通りではなく、適切な音階を選択しつつアドリブ(即興)演奏を成立させるがごとく、音楽的に破綻のない範囲で無作為に旋律を付与する、ということを意味する。この手段では、楽曲としての違和感を排除しつつ、効率よく特定音楽の生成を実行できるので、結果として音源生成部12の特定音楽を更新する処理の負荷を低減しやすくなるため、好ましい。
【0050】
実施の形態では、音源生成部12は、所定の条件を満たすと、特定音楽を更新する。所定の条件は、例えば所定時間を計時することである。なお、特定音楽が更新されると、所定時間の計時はリセットされる。つまり、この場合、音源生成部12は、所定時間ごとに特定音楽を更新することになる。また、所定の条件は、例えば特定音楽の再生回数が所定回数に達することである。
【0051】
ここで、既に述べたように、実施の形態では、環境制御システム100は、オフィス3に設置されている。そして、音源生成部12は、例えばインターネット等の外部ネットワークを介した情報の送信及び受信を行わずに、ローカルのシステムとして自律的に特定音楽を更新する。つまり、音源生成部12は、対象空間4を有する施設(ここでは、オフィス3)に設置されており、外部ネットワークを介さずに特定音楽を更新する。このため、外部ネットワークを介して特定音楽を更新する場合と比較して、システムの簡易化を図りやすく、結果としてシステムの設定、施工、及び保守に掛かるコストを低減しやすい、という利点がある。ここでいう「外部ネットワーク」とは、例えばインターネットに接続可能なネットワークを含むが、環境制御システム100自体を構成するネットワークは含まれない。
【0052】
記憶部13は、制御部11及び音源生成部12の各々が制御を行うために必要な情報(コンピュータプログラム等)が記憶される記憶装置である。記憶部13は、例えばHDD(Hard Disk Drive)によって実現されるが、半導体メモリによって実現されてもよく、特に限定されることなく公知の電子情報記憶の手段を用いることができる。
【0053】
記憶部13は、各音響装置2により再生される特定音楽のデータを記憶する。対象空間4(グループG1)ごとに再生する特定音楽が異なる場合、記憶部13は、対象空間4ごとに特定音楽のデータを記憶する。
【0054】
記憶部13において、特定音楽のデータは、音源生成部12により特定音楽が更新されるごとに、更新後の特定音楽のデータで上書きされる。なお、更新前の特定音楽のデータは、更新後の特定音楽のデータにより上書きさせることなく、記憶部13に記憶されていてもよい。この場合、記憶部13には、音源生成部12が特定音楽を更新するたびに、更新後の特定音楽のデータが追加的に記憶されることになる。そして、この更新後の特定音楽のデータは、次に音源生成部12が特定音楽を更新する際には、更新前の特定音楽のデータとして参照され得る。
【0055】
制御部11、音源生成部12、及び記憶部13は、いずれも同一の基板に実装されるか、又は同一の筐体に納められていてもよい。上記基板又は筐体は、オフィス3の天井、壁、床、又はデスク等の什器・家具に備え付けられていてもよい。この場合、環境制御システム100が小型化される、という効果が期待できる。
【0056】
[ゾーニング効果の検証]
ここで、本願の発明者は、色温度と特定音楽との組み合わせによるゾーニング効果を検証すべく、以下に示す実験を行った。すなわち、実験対象の空間(ここでは、オフィスの一室)に複数(ここでは、10人)の被験者を集め、実験対象の空間の条件を変えながら各被験者に所定の作業(ここでは、パーソナルコンピュータでの1分間のタイピング作業)を行ってもらった。そして、各被験者に対して、実験対象の空間の条件ごとに、実験対象の空間に対する印象についてアンケートを実施した。
【0057】
実験対象の空間には、複数のデスクが設置されている。そして、各被験者は、いずれかのデスクにてパーソナルコンピュータ(ここでは、ラップトップ型のパーソナルコンピュータ)を用いてタイピング作業を行った。また、実験対象の空間の天井には、実験対象の空間全体を均一に照らすための複数のベースライトが設置されている。さらに、各デスクには、対応するデスクを局所的に照らすためのスポットライトが設置されている。
【0058】
実験対象の空間の条件は、照明に関する4つの照明条件のうちのいずれか1つの条件と、音に関する4つの音条件のうちのいずれか1つの条件との組み合わせである。つまり、実験は、計16通りの条件について行われた。
【0059】
照明条件は、以下の(A1)~(A4)の4つの条件である。(A1)は、照明光の色温度が3000K、実験対象の空間の照度が800lxとなるように各ベースライトを制御することである。(A2)は、照明光の色温度が4000K、実験対象の空間の照度が800lxとなるように各ベースライトを制御することである。(A3)は、照明光の色温度が5000K、実験対象の空間の照度が800lxとなるように各ベースライトを制御することである。(A4)は、照明光の色温度が4000K、各デスクの中央部の照度が1200lxとなるように各スポットライトを制御することである。
【0060】
音条件は、以下の(B1)~(B4)の4つの条件である。(B1)は、実験対象の空間に対して音を流さない、つまり無音とすることである。(B2)は、実験対象の空間に対して小川のせせらぎの音(流水音)を流すことである。(B3)は、実験対象の空間に対してジャズを流すことである。(B4)は、実験対象の空間に対して瞑想用の音楽を流すことである。瞑想用の音楽は、瞑想又はヨガを行う際に流す音楽であって、いわゆるヒーリング系の音楽である。
【0061】
各被験者に対するアンケートでは、実験対象の空間に対する好みの度合い、言い換えれば実験対象の空間に対する依存度について回答を得た。具体的には、実験対象の空間に対する好みの度合いが、(a)非常に好き、(b)かなり好き、(c)やや好き、(d)どちらでもない、(e)やや嫌い、(f)かなり嫌い、(g)非常に嫌い、の7段階評価のうちのいずれであるか、各被験者から回答を得た。
【0062】
そして、本願の発明者は、各被験者に対するアンケートの結果に基づいて、実験対象の空間の条件を定量的に評価した。具体的には、アンケートで得られた7段階評価を等間隔尺度として取り扱い、上記(g)、(f)、…、(a)の評価にそれぞれ「7」、「6」、…、「1」のスカラ値を割り当てた。そして、実験対象の空間を評価するための評価関数を以下の式(1)のように定義し、かつ、評価関数を用いた以下の式(2)により、実験対象の空間の条件ごとにスコアV(m)を求めた。
【0063】
以下の式(1)、(2)においては、「f(n,m)」は評価関数を、「v」は上記のスカラ値を表している。また、以下の式(1)、(2)においては、「n」は被験者に割り当てられた番号を、「N」は被験者の人数、「m」は照明条件と音条件との組み合わせに対して割り当てられた番号を表している。ここでは、被験者が10名であるため、「N」は10であり、「n」は1~10のいずれかの自然数をとり得る。また、ここでは、照明条件と音条件との組み合わせが計16通りであるため、「m」は1~16のいずれかの自然数をとり得る。
【0064】
以下の式(2)においては、実験対象の空間に対して好悪の印象を特段抱かない場合、つまり上記(d)の評価である場合にスコアV(m)が「0」となるように補正するために、「4」を減算している。したがって、スコアV(m)の最大値は「3」、スコアV(m)の最小値は「-3」となる。例えば、スコアV(m)が最大値であれば、全ての被験者が実験対象の空間に対して「非常に好き」という印象を抱いていることを表している。一方、スコアV(m)が最小値であれば、全ての被験者が実験対象の空間に対して「非常に嫌い」という印象を抱いていることを表している。
【0065】
【0066】
上記実験の結果について
図3を用いて説明する。
図3は、照明制御及び音響制御の評価実験の結果の一部を示す図である。
図3において、縦軸は実験対象の空間に対するスコアV(m)を表している。また、
図3において、横軸は実験対象の空間の条件を表している。具体的には、
図3の横軸において、「4000K」は照明条件の(A1)、「3000K」は照明条件の(A2)を表している。また、
図3の横軸において、「無音」は音条件の(B1)、「ジャズ」は音条件の(B3)を表している。
【0067】
図3において、「無音」及び「4000K」の組み合わせでのスコアV(m)が「-0.1」であるのに対して、「無音」及び「3000K」の組み合わせでのスコアV(m)は「+0.3」となっている。つまり、実験対象の空間における照明光の色温度を低くすることで、スコアV(m)の上昇が確認されたが、その変化量は比較的小さい。
【0068】
一方、
図3において、「無音」及び「4000K」の組み合わせでのスコアV(m)が「-0.1」であるのに対して、「ジャズ」及び「3000K」の組み合わせでのスコアV(m)は「+1.2」となっている。つまり、実験対象の空間における照明光の色温度を低くし、かつ、実験対象の空間にてジャズを再生することで、色温度のみを変化させた場合と比較してスコアV(m)の顕著な上昇が確認された。
【0069】
なお、実験対象の空間における照明光の色温度を低くした場合であっても、ジャズ以外の音(ここでは、流水音又は瞑想用の音楽)を再生した場合には、スコアV(m)が上昇するどころか、逆にスコアV(m)の低下が確認された。
【0070】
上記実験の結果により、本願の発明者は、照明光の色温度を基準色温度よりも低くし、かつ、ジャズ等の特定音楽を再生させることで、照明光の色温度のみを変化させる場合と比較して照明光により期待できるゾーニング効果と、音楽により期待できるゾーニング効果と、を単純に足し合わせた以上の効果を発現しやすくなり、予期せぬ好適な相乗効果を奏しやすくなる効果が期待できる、という知見を得た。
【0071】
[動作]
以下、実施の形態に係る環境制御システム100の動作の一例について説明する。
図4は、実施の形態に係る環境制御システム100の動作例を示すフローチャートである。以下では、制御部11は、制御入力を受け付けることにより処理S1を開始することとして説明する。つまり、制御部11は、制御入力を受け付ける以前においては、各対象空間4(グループG1)の1以上の照明器具1及び1以上の音響装置2を制御していない。
【0072】
制御入力は、例えば任意の日における就業時刻から終業時刻までの照明スケジュール及び音響スケジュールである。この場合、各対象空間4の環境が、照明スケジュール及び音響スケジュールに従って制御される。
【0073】
まず、制御部11は、制御入力を受け付けると、受け付けた制御入力に従って、各対象空間4(グループG1)の1以上の照明器具1及び1以上の音響装置2を制御する(S1)。処理S1は、環境制御方法の制御ステップST1に相当する。これにより、各対象空間4の環境が、制御入力に従って制御される。
【0074】
その後、所定の条件を満たすと(S2:Yes)、音源生成部12は、特定音楽を更新する(S3)。処理S3は、環境制御方法の音源生成ステップST2に相当する。一方、所定の条件を満たすまでの間は(S2:No)、音源生成部12は、特定音楽を更新しない(S4)。つまり、所定の条件を満たさない限り、音源生成部12が特定音楽を更新することはない。
【0075】
ここで、制御部11は、音源生成部12で特定音楽が更新された時点以降において、更新後の特定音楽を再生するように1以上の音響装置2を制御してもよい。また、制御部11は、音源生成部12で特定音楽が更新された日の翌日から、更新後の特定音楽を再生するように1以上の音響装置2を制御してもよい。つまり、更新後の特定音楽を再生するタイミングは、必ずしも音源生成部12で特定音楽が更新されたタイミングと一致しなくてもよい。
【0076】
[利点]
以下、実施の形態に係る環境制御システム100の利点について説明する。まず、本願の発明者の着眼点について説明する。近年では、ユーザのワークスタイルが多様化しつつあり、例えばABW型のオフィス3等が台頭している。「ABW」とは、既に述べたように、仕事内容に合わせて働く場所又はデスク等をユーザが選択する働き方である。具体的には、「ABW」は、一人で集中して作業をするソロワーク、又は複数人でアイディアを出し合うグループワーク等、ユーザの活動内容に応じて、それらに適した空間又は環境を複数個所用意することで、ユーザの生産性又はウェルネスを向上させることを狙うワークスタイルである。
【0077】
ここで、対象空間4の照明環境及び音響環境を適宜制御することにより、対象空間4に滞在するユーザにリラックス効果を与える等のゾーニング効果を発揮することが可能である。しかしながら、対象空間4で再生される特定音楽にユーザの耳が慣れてユーザが飽きてしまう可能性があり、仮にユーザが特定音楽に飽きた場合、ゾーニング効果を十分に発揮できなくなる可能性がある。そこで、本願の発明者は、対象空間4の環境がユーザに与えるゾーニング効果を持続しやすいシステムを検討した。
【0078】
実施の形態に係る環境制御システム100では、音源生成部12は、特定音楽の旋律、和声、及び律動のうちの少なくとも1つを変更することにより、特定音楽を更新している。このため、実施の形態に係る環境制御システム100では、対象空間4で再生される特定音楽にユーザが飽きる前に特定音楽を更新することができる。したがって、実施の形態に係る環境制御システム100では、ユーザが特定音楽に飽きにくくなり、ゾーニング効果を持続しやすい、言い換えれば対象空間4の環境がユーザに与える影響が持続しやすい、という利点がある。
【0079】
ところで、音源生成部12で特定音楽を生成する態様の他に、新規の特定音楽のデータを用意して特定音楽を更新する態様が考えられる。しかしながら、この態様では、特定音楽を更新するたびに新規の特定音楽のデータを用意しなければならず、システムの設定、施工、及び保守に掛かるコストが増大しがちである、という問題が生じる。一方、実施の形態に係る環境制御システム100では、音源生成部12が特定音楽を生成して更新するので、新規の特定音楽のデータを用意する必要がなく、システムの設定、施工、及び保守に掛かるコストを低減しやすい、という利点もある。
【0080】
(変形例)
以上、実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。以下、実施の形態の変形例について列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせてもよい。
【0081】
実施の形態の変形例に係る環境制御システム100Aは、
図5に示すように、取得部14を備えている点で、実施の形態に係る環境制御システム100と相違する。
図5は、実施の形態の変形例1に係る環境制御システム100Aの機能構成を示すブロック図である。
【0082】
取得部14は、対象空間4におけるユーザに関するユーザ情報を取得する。そして、音源生成部12は、取得部14が取得したユーザ情報に基づいて、特定音楽を更新する。
【0083】
以下、取得部14が取得するユーザ情報の例、及び取得したユーザ情報に基づく特定音楽の更新の例について列挙する。なお、環境制御システム100Aは、以下に示す第1例及び第2例のうちの少なくともいずれか1つを実行すればよく、両方の例を実行してもよい。
【0084】
第1例では、取得部14は、対象空間4におけるユーザの存否を示す存否情報を、ユーザ情報として取得する。取得部14は、例えば対象空間4に設置された赤外線センサ等の人感センサから送信される検知結果を取得することにより、存否情報を取得することが可能である。また、取得部14は、例えば対象空間4に採用された、BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)等を用いた屋内位置情報検知システムからの検知結果を取得することにより、存否情報を取得することが可能である。
【0085】
また、取得部14は、例えば対象空間4に設置されたカメラから対象空間4を撮像した画像を取得し、この画像に対して適宜の画像解析処理を実行することで、存否情報を取得することが可能である。その他、取得部14は、例えば対象空間4に設置されたタグリーダから、ユーザが所持する無線ICタグの読み取り結果を取得することにより、存否情報を取得することが可能である。
【0086】
そして、第1例では、音源生成部12は、存否情報に基づいて、特定音楽を更新する。具体的には、音源生成部12は、存否情報を参照することにより、対象空間4の利用率を算出する。なお、対象空間4の利用率の算出は、例えば制御部11が実行してもよい。そして、音源生成部12は、対象空間4の利用率が閾値以下であれば、特定音楽を更新する。つまり、第1例では、対象空間4の利用率が閾値以下であれば、所定の条件を満たすことになる。したがって、第1例では、対象空間4の利用率が比較的低い、言い換えればユーザが特定音楽に飽きていると推定したタイミングで、特定音楽を更新することが可能である。
【0087】
第2例では、取得部14は、特定音楽に対するユーザの評価を示す評価情報を、ユーザ情報として取得する。取得部14は、例えばユーザが所持する情報端末で受信可能なアンケート情報をブロードキャストする。アンケート情報は、例えば対象空間4に現在流れている特定音楽に対する評価を問い合わせる質問を含む。情報端末を所持するユーザは、アンケート情報を受信すると、情報端末を操作してアンケート情報に対する回答を行い、回答を取得部14へと送信する。取得部14は、ユーザの情報端末から送信された回答を受信することにより、評価情報を取得することが可能である。
【0088】
そして、第2例では、音源生成部12は、評価情報に基づいて、特定音楽を更新する。具体的には、音源生成部12は、評価情報を参照することにより、特定音楽に対する否定的な評価の数を計数する。なお、否定的な評価の数の計数は、例えば制御部11が実行してもよい。そして、音源生成部12は、否定的な評価の数が閾値以上であれば、特定音楽を更新する。つまり、第2例では、否定的な評価を行ったユーザ数が閾値以上であれば、所定の条件を満たすことになる。したがって、第2例では、否定的な評価を行ったユーザの数が比較的多い、言い換えればユーザが特定音楽に飽きていると推定したタイミングで、特定音楽を更新することが可能である。
【0089】
実施の形態では、環境制御システム100は、複数の対象空間4の環境を制御しているが、これに限られない。例えば、環境制御システム100は、1つの対象空間4の環境のみを制御してもよい。
【0090】
実施の形態では、各照明器具1には、アンビエント照明としてのベースライトが採用されているが、これに限らない。例えば、複数の照明器具1の一部には、タスクライトとしてのスポットライトが採用されていてもよい。
【0091】
実施の形態では、照明器具1と音響装置2とは別体に構成されているが、これに限らない。例えば、照明器具1に音響装置2が内蔵されることにより、照明器具1と音響装置2とが一体に構成されていてもよい。
【0092】
実施の形態では、オフィス3は、他に部屋の存在しない1つの大部屋で構成されているが、これに限らない。例えば、オフィス3は、1以上の部屋を有する大部屋で構成されていてもよいし、複数の階層に跨って構成されていてもよい。
【0093】
実施の形態では、環境制御システム100は、1つのオフィス3を対象としているが、これに限らない。例えば、環境制御システム100は、複数のオフィス3を対象とし、オフィス3ごとに各照明器具1及び各音響装置2を制御してもよい。
【0094】
実施の形態では、照明器具1及び音響装置2は環境制御システム100の構成要素に含まれていないが、照明器具1及び音響装置2の少なくとも一方が環境制御システム100の構成要素に含まれていてもよい。
【0095】
また、例えば、上記実施の形態では、環境制御システム100は、複数の装置によって実現されたが、単一の装置として実現されてもよい。例えば、環境制御システム100は、サーバ装置に相当する単一の装置として実現されてもよい。環境制御システム100が複数の装置によって実現される場合、環境制御システム100が備える構成要素は、複数の装置にどのように振り分けられてもよい。例えば、上記実施の形態でサーバ装置が備える構成要素は、閉空間に設置された情報端末に備えられてもよい。つまり、本発明は、クラウドコンピューティングによって実現されてもよいし、エッジコンピューティングによって実現されてもよい。
【0096】
例えば、上記実施の形態における装置間の通信方法については特に限定されるものではない。また、装置間の通信においては、図示されない中継装置が介在してもよい。
【0097】
また、上記実施の形態において、各構成要素は、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPU又はプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスク又は半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0098】
また、各構成要素は、ハードウェアによって実現されてもよい。例えば、各構成要素は、回路(又は集積回路)でもよい。これらの回路は、全体として1つの回路を構成してもよいし、それぞれ別々の回路でもよい。また、これらの回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0099】
また、本発明の全般的又は具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0100】
例えば、本発明は、環境制御システム100,100A等のコンピュータが実行する環境制御方法として実現されてもよいし、このような環境制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現されてもよいし、このようなプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体として実現されてもよい。
【0101】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、又は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
【0102】
(まとめ)
以上述べたように、環境制御システム100,100Aは、制御部11と、音源生成部12と、を備える。制御部11は、対象空間4に割り当てられた1以上の照明器具1、及び対象空間4に割り当てられた1以上の音響装置2を制御することにより、対象空間4の環境を制御する。音源生成部12は、1以上の音響装置2が再生する特定音楽を生成する。音源生成部12は、特定音楽の旋律、和声、及び律動のうちの少なくとも1つを変更することにより、特定音楽を更新する。
【0103】
このような環境制御システム100,100Aによれば、ユーザが特定音楽に飽きにくくなり、ゾーニング効果を持続しやすい、言い換えれば対象空間4の環境がユーザに与える影響が持続しやすい、という利点がある。
【0104】
また、例えば、環境制御システム100,100Aでは、対象空間4は複数である。制御部11は、複数の対象空間4の環境を互いに異ならせるように、複数の対象空間4の各々に割り当てられた1以上の照明器具1及び1以上の音響装置2を制御する。
【0105】
このような環境制御システム100,100Aによれば、対象空間4ごとに異なる環境を提供することで、ユーザが所望する環境を選択しやすくなり、ユーザの利便性が向上しやすい、という利点がある。
【0106】
また、例えば、環境制御システム100,100Aでは、音源生成部12は、対象空間4を有する施設に設置されており、外部ネットワークを介さずに特定音楽を更新する。
【0107】
このような環境制御システム100,100Aによれば、外部ネットワークを介して特定音楽を更新する場合と比較して、システムの簡易化を図りやすく、結果としてシステムの設定、施工、及び保守に掛かるコストを低減しやすい、という利点がある。
【0108】
また、例えば、環境制御システム100,100Aでは、特定音楽は、ジャズ又はボサノバに分類される音楽である。制御部11は、照明光の色温度が基準色温度よりも低くなるように1以上の照明器具1を制御する。
【0109】
このような環境制御システム100,100Aによれば、対象空間4に滞在するユーザに対してリラックス効果を与えやすい、という利点がある。
【0110】
また、例えば、環境制御システム100Aは、対象空間4におけるユーザに関するユーザ情報を取得する取得部14を更に備える。音源生成部12は、取得部14が取得したユーザ情報に基づいて、特定音楽を更新する。
【0111】
このような環境制御システム100Aによれば、対象空間4を利用するユーザの状況に適したタイミングで特定音楽を更新しやすい、という利点がある。
【0112】
また、環境制御方法は、制御ステップST1と、音源生成ステップST2と、を含む。制御ステップST1では、対象空間4に割り当てられた1以上の照明器具1、及び対象空間4に割り当てられた1以上の音響装置2を制御することにより、対象空間4の環境を制御する。音源生成ステップST2では、1以上の音響装置2が再生する特定音楽を生成する。音源生成ステップST2では、特定音楽の旋律、和声、及び律動のうちの少なくとも1つを変更することにより、特定音楽を更新する。
【0113】
このような環境制御方法によれば、ユーザが特定音楽に飽きにくくなり、ゾーニング効果を持続しやすい、言い換えれば対象空間4の環境がユーザに与える影響が持続しやすい、という利点がある。
【0114】
また、例えば、プログラムは、1以上のプロセッサに、上記の環境制御方法を実行させる。
【0115】
このようなプログラムによれば、ユーザが特定音楽に飽きにくくなり、ゾーニング効果を持続しやすい、言い換えれば対象空間4の環境がユーザに与える影響が持続しやすい、という利点がある。
【0116】
ところで、上記実施の形態において、対象空間4に滞在するユーザにゾーニング効果を与えることを前提としないのであれば、環境制御システム100は、対象空間4の照明環境を制御しなくてもよい。この場合、環境制御システム100は、以下のように構成されていてもよい。すなわち、環境制御システム100は、制御部11と、音源生成部12と、を備える。制御部11は、対象空間4に割り当てられた1以上の音響装置2を制御する。音源生成部12は、1以上の音響装置2が再生する特定音楽を生成する。音源生成部12は、特定音楽の旋律、和声、及び律動のうち少なくとも1つを変更することにより、特定音楽を更新する。また、音源生成部12は、対象空間4を有する施設に設置されており、外部ネットワークを介さずに特定音楽を更新する。
【0117】
この態様では、環境制御システム100は、音響装置2と別に構成されていてもよいし、音響装置2に搭載されていてもよい。後者の場合であって、音響装置2が複数存在する場合であれば、いずれか1台の音響装置2に環境制御システム100が搭載されていてもよいし、各音響装置2に環境制御システム100が搭載されていてもよい。
【符号の説明】
【0118】
100,100A 環境制御システム
11 制御部
12 音源生成部
14 取得部
1 照明器具
2 音響装置
4 対象空間
ST1 制御ステップ
ST2 音源生成ステップ